資
料
経腟触診による骨盤底筋訓練の有用性―褥婦からの評価―
The utility of teaching women pelvic floor muscle training
with vaginal palpation: Evaluation by postpartum women
池 田 真 弓(Mayumi IKEDA)
*1, 2 抄 録 目 的 本研究の目的は,産褥期に経腟触診で指導する骨盤底筋訓練の有用性について,骨盤底筋収縮の指導 前後の変化と,褥婦の反応から評価することである。 方 法 助産所で分娩した経過の順調な褥婦14名を対象に,産褥4日目に助産師が経腟触診で骨盤底筋訓練を 指導した。この指導法の有用性を評価するために,骨盤底筋収縮の指導前後の変化と褥婦の反応を指標 とした。骨盤底筋収縮の指導前後の変化は,Oxford scaleを用いて骨盤底筋収縮力を測定した。併せて, 外陰部の動き・代替収縮の有無・収縮感覚の 3 つを観察した。褥婦の反応は,実施直後のインタ ビューと1か月後の無記名式質問紙による質的データを分析した。 結 果 骨盤底筋収縮力の弱い褥婦の多くは,指導後に代替収縮が消失し,指導前よりも収縮感覚がわかるよ うになった。骨盤底筋の動かし方がわからなかった5名は指導後にOxford scaleの改善がみられ,経腟触 診によって収縮部位や収縮感覚が理解できた為の変化と思われた。ピアソンの相関係数において,Oxford scaleと外陰部の動き・代替収縮・収縮感覚との間に強い正の相関がみられ,骨盤底筋収縮の評価指標に なることがわかった。インタビューと質問紙による記述からは否定的な意見はみられなかった。褥婦か らの評価として,【骨盤底筋収縮の体得】【経腟触診に対するニーズ】の2つのカテゴリが抽出された。 【骨盤底筋収縮の体得】では,〈収縮部位の理解〉〈収縮の実感〉〈自分ができているかの確認〉のサブカ テゴリが抽出され,【経腟触診に対するニーズ】では,〈実施者への信頼〉〈痛くない触診と羞恥心への配 慮〉のサブカテゴリが抽出された。 結 論 産褥期に経腟触診で指導する骨盤底筋訓練は,収縮部位の理解・収縮の実感・自分が正しくできてい るかの確認ができ,有用な指導法である。特に骨盤底筋収縮のわかりにくい褥婦に有用であることが示 唆された。 キーワード:経腟触診,骨盤底筋訓練,Oxford scale,褥婦,有用性 2018年12月20日受付 2019年9月3日採用 2019年12月27日公開*1聖路加国際大学大学院看護学研究科博士後期課程(St. Luke's International University, Graduate School of Nursing Science, Doctoral
Program)
Abstract Purpose
The purpose of this study was to evaluate the utility of pelvic floor muscle training using vaginal palpation in postpartum period from the change of pelvic floor muscle contraction before and after teaching and the postpartum women's reactions.
Methods
14 postpartum women who had vaginal deliveries in a maternity home and had a good postpartum progress participated in the study. Midwives implemented pelvic floor muscle training using vaginal palpation on women's fourth postpartum day. In order to evaluate the utility of teaching muscle contractions using vaginal palpation, the change of pelvic floor muscle contraction before and after teaching and the postpartum women's reactions were used as indices. Pelvic floor muscle contraction force was measured using the Oxford scale to quantify changes before and after teaching of pelvic floor muscle contraction. In addition, three observation indices evaluated: (1) movement of the vaginal and anal muscles; (2) presence or absence of substitute muscle contraction and (3) sensation of muscle con-traction. Interview data from participants' reactions were analyzed qualitatively after practice as well as an anonymous questionnaire one month later.
Results
After the training, the majority of participants' weak pelvic floor muscle contractility disappeared, their use of substitute muscle contractions decreased and participants increased their understanding of the muscle contraction sensation. Five participants who did not understand how to contract the pelvic floor muscles before the training showed improvement on the Oxford scale after training. This change seemed to be due to increased awareness of contraction site and contraction sensation particularly through the midwives' use of vaginal palpation with pelvic floor muscle training.
Pearson's correlation analysis indicated a strong significant correlation between Oxford scale score and the “movement of the vaginal and anal muscles”, “substitute contraction”, and “sensation of contraction”; these three variables proved to be a valid evaluation index of pelvic floor muscle contraction.
Based on the interviews and an anonymous questionnaire, participants had no negative opinions on the pelvic floor muscle training using vaginal palpation. Two categories were extracted as evaluation from the postpartum wom-en: Comprehension of pelvic floor muscle contraction, and Requirements for vaginal palpation. Comprehension of pelvic floor muscle contraction were supported by three subcategories: (1) understanding of the contraction site, (2) direct sensation of contraction, and (3) confirmation of correct muscle group contraction. Requirements for vaginal palpation were supported by three subcategories: (1) trust in providers of practice, (2) painless implementation and (3) consideration for shame.
Conclusion
Vaginal palpation was used as a teaching method for pelvic floor muscle training in the early postpartum period because it helped to confirm the contraction site, the direct sensation and the correct contraction. We suggest that vaginal palpation may have good utility for teaching postpartum women pelvic floor muscle training who have difficulty in understanding and feeling proper pelvic floor muscle contraction.
Key words: vaginal palpation, pelvic floor muscle training, Oxford scale, postpartum, utility
Ⅰ.諸 言
1.研究の背景 骨盤底は骨盤底筋と呼ばれる複数の筋肉と,靭帯・ 筋膜などの支持組織から成り,骨盤底筋は骨盤隔膜と 尿生殖隔膜の筋肉群から成り立つ。骨盤隔膜の中の肛 門挙筋は骨盤底筋の主要構成筋で,恥骨直腸筋・恥骨 尾骨筋・腸骨尾骨筋の3層の筋肉のプレートから構成 され,骨盤内臓器を支え,排泄をつかさどる働きをし ている(Germain, 1996/2015, pp.24-32;竹内他,2015, pp.50-57)。妊娠・分娩は骨盤底脆弱化のリスク因子 であり(Wesnes, et al. 2013),経腟分娩をした3~5人 に 1人という高率で肛門挙筋の剥離・損傷が生じ(高 岡他,2016),肛門挙筋の損傷のある 71%に尿失禁が みられる(Delancey, et al. 2003)。尿失禁は,尿が不 随意に漏れるという愁訴である(日本排尿機能学会女 性下部尿路症状診療ガイドライン作成委員会,2013, p.7)。経腟分娩を経験した女性は帝王切開のみの女性より約6.1倍多く下部尿路症状を有するとの報告があ り(Timur, et al. 2012),分娩後の尿失禁のシステマ ティックレビューによると(Thom, et al. 2010),分娩 後3か月の有症率は33%であり,その後の縦断研究に おいても分娩後1年の有症率に大きな変化がないとさ れている。本邦においてもほぼ同様の結果であり,産 後4~9か月の尿失禁有症者は34.6%で,その内の8割 が妊娠や出産が症状の契機になっていることを自覚し ており,症状が軽度であっても様々な側面で QOL に 影響をきたしていた(高岡他,2017)。 女性下部尿路症状診療ガイドラインでは,妊婦また は産後の尿失禁予防効果は推奨グレードAとされ骨盤 底筋訓練を推奨している(日本排尿機能学会女性下部 尿路症状診療ガイドライン作成委員会,2013, p.87)。 骨盤底筋訓練を行うことは,筋繊維の肥大による収縮 力の強化,結合組織の強化による骨盤内臓器の持続的 な保持,運動ニューロンの活発化による尿禁制のメカ ニズム回復等の効果をもたらす(Bø, 2004)。骨盤底筋 訓練は筋肉の収縮と弛緩の繰り返しをする単純な動き であるが,体腔内にあり可視化できないため正しく行 われているかの判断が難しい。経腟触診による骨盤底 筋訓練とは,指導者の指 2 本を対象者の腟内に挿入 し,触診により骨盤底筋の動きを確認しつつ収縮と弛 緩を指導する方法である。日本では,泌尿器科におい て尿失禁や骨盤臓器脱の患者に経腟触診による骨盤底 筋訓練の指導がされているものの,産科においては産 後の骨盤底筋訓練の指導方法に確立したものはない。 分娩後の褥婦に骨盤底筋訓練法を指導する際に,助産 師が経腟触診で指導する方法が助産ケアとして臨床で の実践に応用できるかという視点から検討した先行研 究では,助産師が指導法を習得するプロセスから実行 可能性が示唆された(池田,2019)。本研究は,産褥 期に経腟触診で指導する骨盤底筋訓練の有用性を,骨 盤底筋収縮の指導前後の変化と,褥婦の反応から評価 したものである。 2.用語の定義 経腟触診 腟内に指を挿入し骨盤底筋の収縮を確認すること で,通常の産婦人科診療における診察や分娩進行を確 認する内診とは区別し,経腟触診と定義する。 代替収縮 骨盤底筋を収縮させる際に腹筋群,臀筋群,大腿四 頭筋群など骨盤底筋とは別の筋に力を入れて収縮させ ることを代替収縮と定義する。
Ⅱ.研 究 目 的
本研究の目的は,産褥期に経腟触診で指導する骨盤 底筋訓練の有用性について,骨盤底筋収縮の指導前後 の変化と,褥婦の反応から評価することである。Ⅲ.研 究 方 法
1.研究参加者 東京都内の助産所で経腟分娩した母子ともに経過が 順調な褥婦を対象とした。会陰裂傷が大きい,あるい は痛みが強い等の経腟触診による骨盤底筋評価が困難 と予想される場合は除外とした。 2.データ収集方法 1)データ収集期間と方法 データ収集期間は 2017 年 9 月から 11 月である。研 究協力施設に勤務する助産師7名を実施者とし,研究 参加の同意が得られた褥婦に対し,経腟触診による骨 盤底筋訓練を行った。助産師1名につき1~3名の褥婦 に実施した。実施時には研究者が同席した。 実施者の助産師の背景は,平均経験年数 13 年,平 均分娩介助数約300例であった。実施に先立ち,研究 者が先行研究で作成した手順書ならびに Oxford scale の評価指標を示しながら個別か 2~3 人の小集団で 30 分程度の事前レクチャーを行い,経腟触診の手技と指 導方法,評価指標となるOxford scale の理解について 確認をした。介入の均一化と客観性を図るために,助 産師は研究者が作成した手順書(池田,2019)に基づ いて,手順と指導方法を同一にした。 分娩後早期から骨盤底筋訓練を開始することは骨盤 底機能障害を予防するために有効であり(Mathe, et al. 2016),分娩直後に骨盤底筋収縮を行っても痛みや 負担は日常生活動作や排泄中と比較して有意に低く, 大多数の褥婦が分娩直後から骨盤底筋訓練を開始する ことが可能である(Neels, et al. 2016)ことから,実施 の時期は,分娩時に損傷を受けた患部を安静に保った 後,筋の柔軟性と強度を回復させるために少しずつ動 かし始める時期(Jarvinen, et al. 2007)とし,産褥4日 目とした。 経腟触診による骨盤底筋訓練の指導法の有用性を評 価するために,骨盤底筋収縮の指導前後の変化と褥婦の反応を指標とした。 骨盤底筋収縮の指導前後の変化は,Oxford scale を 用いて骨盤底筋収縮力を測定した。Oxford scaleとは, 経腟触診によって骨盤底筋の収縮力の評価法として使 用されるもので(Laycock, et al. 2001),0~5 の 6 段階 で,0~1 は骨盤底筋の機能不全,2 は機能低下,3 以 上は標準以上の強さの収縮が出来ている,とされる (Talasz, et al. 2008)。Oxford scaleの日本語版(一般社 団法人日本創傷・オストミー・失禁管理学会,2017, p.54)では,0:まったく収縮しない,1:わずかに収 縮する,2:弱いが収縮は可能,3:収縮は可能で骨盤 底が拳上する,4:良好に収縮し抵抗を加えても収縮 できる,5:強い収縮,とされている。 Oxford scaleは主観的評価方法であるが,先行研究 (Frawley, et al. 2006;Isherwood, et al. 2000)において 信頼性と妥当性が検討され,近年の研究(Albrich, et al. 2016;Vandelft, et al. 2015)において客観的診断 ツールとして信頼性の高い経会陰超音波とも有意な相 関が示されている。妊娠中や分娩後を対象とした骨盤 底筋訓練においてこれまで多くの先行研究で使用さ れ,腟圧計(Ahlund, et al. 2013;Riesco, et al. 2010) や, 筋 電 計(Botelho, et al. 2013; 池 田 他, 2016; Marques, et al. 2013)との有意な相関は先行研究の結 果と一致している。中でも分娩後の肛門挙筋の剥離や 過度の伸展が骨盤底筋の収縮に及ぼす影響を検出する のには経腟触診が適しているという研究報告がある (Guzman, et al. 2014)。一方で,評価者間信頼性は低 いという研究結果もあり(Ferreira, et al. 2010),本研 究では同じ評価者が指導前後の評価を行った。その際 に評価の正確性を担保するために,Oxford scale での 評価の際には,助産師は経腟触診を右手で行い,左手 で研究者の右手 2 本(示指と中指)を握り,褥婦の収 縮状態を研究者にリアルタイムに伝える方法でOxford scaleの評価をすり合わせた。Oxford scale と併せて, 骨盤底筋収縮時の外陰部の動きならびに代替収縮の有 無を研究者が観察し,褥婦に骨盤底筋の収縮感覚を確 認した。 褥婦の反応として,実施直後に研究者が感想をイン タビューし,1か月後に無記名式質問紙を研究者宛に 郵送することを依頼した。 退院後は毎日継続して骨盤底筋訓練を行うことを推 奨した。 2)デモグラフィックデータ 助産録より,年齢・分娩回数・非妊時BMI・体重増 加量と分娩時の状況(分娩所要時間・出生児体重・会 陰裂傷)の情報を収集し,実施の際に研究参加の動機 ・骨盤底筋訓練の経験・尿失禁の有無を聞き取りした。 3)Oxford scale による評価と経腟触診による骨盤底 筋訓練指導法の実際 まず,女性生殖器の解剖学的位置を示す模型を用い て骨盤底筋の解剖を示した後に口頭で「腟と肛門を そっとすぼめお腹の方向に引き上げる感じ」などと骨 盤底筋収縮のやり方を説明する。注意点として,「呼 吸を止めずに息を吐きながら」「お腹や太ももなど骨 盤底筋以外の部分には力を入れない」ことを伝える。 褥婦には膝を立てた仰臥位の姿勢をとってもらい, 下半身にバスタオルをかけ羞恥心に配慮する。助産師 は潤滑剤をたっぷり塗布した医療用グローブを装着す る。骨盤底筋の収縮を促し,収縮の際に外陰部の動き と代替収縮の有無を観察し,収縮感覚があるかを確認 する。 経腟触診の手順 ①ゆっくりと息を吐くように声をかけながら外陰部 に触れ,助産師の右手のひらを上にしてゆっくりと腟 内に示指を 2~3cm 挿入する。次いで,中指を添わせ るように優しく挿入する。 ②「指を締めつける感じ」「指を持ち上げお腹の方向 に引き込む感じ」と声かけをし,骨盤底筋の収縮の際 にOxford scaleで評価する。 ③引き続き経腟触診にて骨盤底筋の収縮と弛緩を指 導する。 助産師は右手の 2 本(示指と中指)は腟内,左手は 褥婦の右手の同じ指 2 本(示指と中指)を握り,収縮 ができていれば指を握る,弛緩の際は指を緩める,と いう同じ動作を行い,感覚が掴めるように触覚的信号 としてフィードバックしながら,収縮の感覚と方向を つかんでもらい,骨盤底筋以外の部位に力を入れず に,正しい収縮が出来るように指導する。どこをどう 動かしてよいかわからない場合は,触診の指2本を縦 方向に広げるようにし,これを押しつぶすように締め るようにと説明する。 ④速筋と遅筋の収縮を指導する。 速筋:収縮 1秒,弛緩 1秒の速い収縮の繰り返しを 行う。「速い収縮を繰り返しましょう。しめて,ゆるめ て,しめて,緩めて,のリズムです」と説明をする。 遅筋:骨盤底筋を持続して,6~8 秒収縮させ,10 秒弛緩させる。 収縮が持続できない場合は,「しめて~ゆるめて~」
だけをゆっくり促し,出来る範囲で実施する。 ⑤ゆっくりと指を引き抜いた後で,骨盤底筋の収縮 を促し,外陰部の動きと代替収縮の有無を観察し,収 縮感覚があるかを確認する。 経腟触診による指導時間は 10 分以内とし,全体の 所要時間は15分を超過しないようにする。 3.評価変数 1)骨盤底筋収縮の指導前後の変化の指標 ①Oxford scale 0~5の6段階評価で,最大[5],最小[0]である。 ②骨盤底筋収縮時の外陰部の動き 骨盤底筋収縮時に腟口部分が内向きに閉じ,会陰体 が頭前方に動くかどうかを外陰部から観察した。弱い 動きや動きがない場合は[1:無],腟口部分が内向き に閉じ会陰体が頭前方に動けば[2:有]とした。 ③代替収縮 骨盤底筋を収縮させた際に腹筋群,臀筋群,股関節 内転筋群など他の部位を収縮させていないかを目視と 体表面からの触診により確認した。力が入っている場 合は[1:有],力が入っていなければ[2:無]とし, 収縮させている部位を記録した。 ④収縮感覚 骨盤底筋の随意収縮の感覚があるかを口頭で尋ね, 感覚が弱く明確でない場合は[1:無],明確に収縮感 覚がわかっていれば[2:有]とした。 2)褥婦の反応 ①実施直後のインタビュー 経腟触診による骨盤底筋訓練の指導を受けた感想を 聞き取りした。 ②1か月後の無記名式質問紙 指導の時期,指導に要した時間,経腟触診の指導の わかりやすさ,骨盤底筋の収縮の仕方の理解,の4項 目について「はい」「いいえ」「どちらともいえない」の3 択で選択してもらい,理由について記述で回答を得た。 経腟触診による指導法について,「良かった点」「良 くなかった点,気になった点,苦痛だったこと」につ いて記述で回答を得た。 分娩後 1 か月間の骨盤底筋訓練の実施状況を尋ね, 実施に対しての困難があればその詳細について記述で 回答を得た。 4.分析方法 量的データの分析には統計ソフト SPSS version 24 for Windowsを用い,デモグラフックデータ,評価項 目の基本統計量を算出した。Oxford scale と評価変数 の関係性は Fisher の正確確率検定を行い,Pearson の 相関係数を求めた。 実施直後のインタビュー,無記名式質問紙の質的 データは,統計ソフトNVIVO 12 for Windowsを用い, トランスクリプトから骨盤底筋訓練指導法の評価と なっている記述をコーディングしノードを作成,類似 性によりサブカテゴリ―,カテゴリーを生成した。 5.倫理的配慮 研究協力および中断の自由意思の尊重,プライバ シーの確保,匿名性の保持の厳守,データは研究目的 以外に使用しないこと,安全なデータの保存と破棄, 研究成果の公表等,研究参加者である褥婦の安全の保 障を第一とし,褥婦が不利益を被る事のないよう十分 配慮した。経腟触診による骨盤底筋訓練について,通 常の助産所でのケアに加え研究の一環としての介入で あることを説明し,褥婦がその内容を十分理解できる ように経腟触診のイラストを用いながら説明した。研 究協力に強制力が働かないようにする方策として,ま ず研究参加者の条件を満たす方に研究の概要を説明し た後,研究協力の意思がある場合には「研究参加意向 表明書」を助産所に提出してもらい,提出者のみに研 究者が研究の詳細を説明するようにした。十分考える 時間を確保し,最終的な参加の意向を文書と口頭で確 認後「同意書」に署名を得て実施した。 実施にあたっては,午前中のケアの時間帯に合わせ るか,希望する時間があれば希望に合わせて訪室し, 休息や面会に支障のないよう配慮した。本研究は研究 者の所属施設の研究倫理審査委員会の審査を受け,承 認を得たのちに実施した(承認番号17-A041)。
Ⅳ.結 果
研究参加者の条件を満たす 23 名に研究の概要を説 明し,14 名(60.9%)から「研究参加意向表明書」が提 出され,その全員から研究参加の同意が得られた。 指導の実施では,助産師が触診する際に,1 名が 『違和感がある』1 名が『少し痛い』と言われたが,挿 入時の一瞬のみでその後の訴えは聞かれず,実施を中 断することはなかった。全員に Oxford scale による測 定および骨盤底筋訓練の介入ができた。介入の所要時 間は約10分で15分を超過することはなかった。1か月健診までの期間において,研究参加をした褥 婦に疼痛や不快症状,感染等の身体的な問題は何ら生 じなかった。 1.研究参加者の属性 研究参加者は,初産1名・1経産4名・2経産9名で あった。平均年齢は 34.9±3.7 歳,平均非妊時 BMI は 19.9±1.3,妊娠中の平均体重増加量は10.4±2.7Kg,平 均分娩所要時間 256.1±141.6 分であった。平均出生児 体重は3330.7±450.2g,会陰裂傷なしが10名,会陰部 擦過傷が3名,I度会陰裂傷が1名で,擦過傷は処置な し,I 度裂傷はクレンメにて処置され,会陰縫合術を 受けた者はいなかった。経腟触診実施時にはクレンメ も抜去されていた。 2.研究参加の動機 研究参加の動機と骨盤底筋訓練の指導を受けた経験 ・実施状況を表1に示す。 尿失禁を参加の動機とする者が大半を占めていた。 産褥 4 日目時点での尿失禁有症者は 6 名(A.B.D.E.K. M)で,全員が妊娠中から持続していた。そのうち 2 名(B.K)は 2 経産であったが,B は第 2 子の分娩後か ら,Kは第1子の妊娠中から長期間尿失禁が持続して いた。5名(F.H.I.J.L)は,現在尿失禁がないが妊娠中 にはあった。1名(C)は,尿失禁はないが子宮下垂の 悩みがあった。2名(G.N)は骨盤底筋訓練に関心を持 ち参加したが,これまでに尿失禁はなく骨盤底筋訓練 の経験もなかった。 表1 研究参加の動機と参加時の状況 参加者 符号 研究参加の動機 骨盤底筋訓練の指導を受けた経験 実施状況 会陰裂傷 産褥4日目の尿失禁の有無 A 妊娠中から尿もれがある 今回の妊娠中の学習会で助産師の口頭での指示を受けながら皆でやった どう締めればよいのかわからず自分は出来なかった 無 有 B 2人目出産後からずっと尿もれが あり,今回の妊娠中は常に漏れて いた 前回の出産後に,お尻を締める体操 をして下さいといわれた トイレに行った時にやっているがうまくいかない 無 有 C 前回の出産後子宮下垂で困った 子宮下垂に良いと勧められた どうやればよいのかわからない のでやれなかった 無 無 D 尿もれがひどくて悩んでいる なし トイレに行くたびに自分なりにやっている I度裂傷 有 E 尿もれが常にあるので何とかした い なし どこにどう力を入れればよいかわからない 無 有 F 妊娠中尿もれがあり,最後のお産 なのでしっかり骨盤底のケアをし たい ダンスをしていた時に後から前にエ レベーターを上るように締めるとい う指導を受けた ダンスの時は常に意識していた が,今はやっていない 無 無 G 以前から関心があった なし 今までやったことがない 無 無 H 妊娠中に尿もれした。以前から興 味があった 妊娠中理学療法士の講座を受講した 気がついた時にやっている 無 無 I 妊娠中に尿もれで大変な思いをした。意識しないで常に漏れていた今回の妊娠中,整体でヒメトレという骨盤底筋トレーニングをやった お尻の穴には力を入れられるがよくわからなかった 無 無 J 妊娠中に尿を我慢できなかった 前回の出産後に話を聞いた 今までやったことがない 無 無 K 1人目の妊娠中から今現在まで ずっと尿もれがある 出産後と今回の妊娠中に話を聞いた これかな~って感じで,お尻の 穴を一日に何回か締めるように している 無 有 L 初めて妊娠中に尿もれを経験。骨盤底筋がダラーっとしている感覚 なし やれているのかはわからないが,自分なりにやっている 擦過傷 無 M 妊娠中から尿もれで悩んでいる。 尿意を感じると間に合わない バレエを習っている時に,骨盤底を締めるようにといつも言われていた どうやるのかわからず出来なかった 擦過傷 有 N 関心があり聞きたいと思っていた タイミングだった 前回の出産後に「やって下さい」とさ らりと言われたがやり方の説明はな かった 言われただけではやれなかった 今まで一度もやったことない 擦過傷 無
3.骨盤底筋訓練の指導を受けた経験と実施状況 研究参加した褥婦の約7割にあたる10名が,これま でに骨盤底筋訓練の指導を受けたことがあると答えた が口頭での指導がほとんどであり,単なる実施の促し のみで指導とはいえないものも含まれていた。 現在骨盤底筋訓練を実施していたのは 5 名(B.D.H. K.L)で,H は妊娠中に理学療法士による講座を受講 し服の上から外陰部に触れる方法で骨盤底筋訓練の指 導を受けていたが,あとの4名は具体的な指導は受け ておらず『自分なりに』『やれているかはわからない が』としながらも尿失禁の対応として自己流で実施し ていた。マタニティクラスでの実技(A)やストレッ チポールを使用した実技(I)があったものの,やり方 がわからないとのことで実施には至っていなかった。 4.骨盤底筋収縮の指導前後の変化 1)Oxford scaleによる評価 [0]は 2 名(14.3%),[1]は 2 名(14.3%),[2]は 3 名 (21.4%),[3]は 5 名(35.7%),[4]は 2 名(14.3%),[5] は0名であり,中央値は2.5であった。 Oxford scaleが[3]以上で標準以上の強さの収縮が 出来ていたのは7名(B.D.F.H.J.L.N),[0-2]で骨盤底筋 の機能不全や機能低下が疑われるのは7名(A.C.E.G.I. K.M)であった。[0-2]の7名の指導前後のOxford scale の変化を図1に示す。5名(C.E.G.I.M)に,骨盤底筋訓 練の指導後に Oxford scale に改善がみられ,この 5 名 はいずれも今回初めて骨盤底筋訓練を行う者,あるい は骨盤底筋をどう収縮させればよいかわからない者で あった(表 1 参照)。Oxford scale[3]以上で標準以上 の強さの収縮ができていた7名には指導前後のOxford scaleに変化はみられなかった。 2)骨盤底筋収縮時の外陰部の動き Oxford scale[3]以上の標準以上の強さの収縮がで きていた 7 名には全員に外陰部の動きがみられた。 Oxford scale[0-2]の骨盤底筋の機能不全や機能低下が 疑われる 7 名中 5 名(C.E.G.I.M)は外陰部の動きが弱 いかまったく動きがみられなかった。指導後外陰部の 動きに変化がみられたのはIであり,指導前のOxford scaleは[2]であったが指導後は標準以上の強さの収 縮とされる[3]に変化し,弱い動きからしっかりと動 くようになった。 3)代替収縮の有無 代替収縮がみられたのは半数の 7 名(C.D.E.G.I.K. M)で,うち 6 名は Oxford scale[0-2]で収縮の弱い者 に代替収縮が多く認められた。部位は腹筋,肩,臀筋 群,大腿四頭筋群であり,C.D.G.K.M の 5 名(35.7%) が腹圧を上昇させ怒責をかけていたが経腟触診にて改 善し,褥婦からも『どこに力を入れればいいか』から, 『どこを締めればよいか』という表現に変化した。 4)収縮感覚 Oxford scale[3]以上の7名は全員収縮感覚が明確で あった。Oxford scale[0-2]の骨盤底筋の機能不全や機 能低下が疑われる7名中3名は収縮感覚が明確であっ たが,4 名(C.E.I.M)は収縮感覚が弱く明確でなかっ た。指導後に E.I の 2 名は明確にわかるようになり, C.Mの 2 名はまったくわからない状態から『なんとな くわかる』ようになり変化がみられた。 図1 指導前にOxford scale[0-2] 7名の指導後の変化
5.Oxford scale3以上と0-2の群に分けた解析 1)評価変数との関係
Fisherの正確確率検定により,Oxford scale[3]以上 と[0-2]の群では,外陰部の動き・代替収縮との間に それぞれ 5% 水準で有意な差がみられた(p=0.021, p=0.029)。収縮感覚との間には有意差は認められな かった(p=0.070)(表2)。 2)産褥 4日目の尿失禁,および会陰裂傷の有無との 関係
Fisherの正確確率検定により,Oxford scale[3]以上 と[0-2]の群では,産褥 4日目の尿失禁との間には有 意差は認められなかった(p=0.592)。また,会陰裂傷 の 有 無 と の 間 に も 有 意 差 は 認 め ら れ な か っ た (p=0.192)(表3)。 6.Oxford scaleと評価変数との相関 骨盤底筋収縮時の外陰部の動き・代替収縮・収縮感 覚を,Oxford scale との相関をみるためにピアソンの 相関係数を算出したところ,すべてに1%水準で正の 相関が認められた(表4)。 7.褥婦の反応 1)無記名式質問紙における4項目の設問の回答 1か月後の無記名式質問紙は,10名(71.4%)から返 送があった。4つの設問の回答について結果を示す。 ①指導の時期が適切であったか 10名全員が「適切だった」と回答した。理由として, 『痛みもなく受け入れやすい時期。その前だとまだ感 覚がわかりづらい』『入院中でないと赤ちゃんの面倒, 上の子の対応などで時間的に厳しい』『退院後にあえ て尿もれで受診しないと思うので入院中で良かった』 『退院後すぐ実施出来るから』等が記載されていた。 ②指導に要した時間は適切であったか 9名が「適切だった」とし,1 名が「適切ではなかっ た」と回答した。適切でなかった理由として『もう少 しささっとやってもらえるといいかな』と記載されて おり手際が良くなかったことが推察された。適切 だった理由として,『方法を理解するうえでちょうど 良い時間だった』『10 分程度だったので特に負担にな らなかった』等であった。『もう少し長ければなおよく わかったと思います』という時間的な物足りなさを推 察される回答も記載されていた。 ③経腟触診の指導はわかりやすかったか 9名が「わかりやすかった」と回答し,1 名は「どち らともいえない」と回答した。どちらともいえない理 由として,『筋肉が収縮するというのがいまいちわか らない』と記載されていた。わかりやすかった理由と して,『直接の指導で筋肉の動かし方がわかった』『骨 盤底筋訓練という言葉は聞いたことがあったが実際の 方法はわからず,触診をしてもらう事で状態を詳しく 判断していただけ,その上での説明がわかりやす かった』『実際に腟を触ってもらってじゃないとよく わからなかったと思います』等,経腟触診による指導 効果と思われる回答が得られた。 他にも,『どの部分に意識して力を入れたらよいか 言ってもらった事でイメージが出来た』『骨盤底筋の 模型を見せてもらいイメージしやすかった』『図を 使っての説明がわかりやすかった』『お腹に手を置い て力が入っていないことを確かめながらやることがポ イントと理解できた』等,口頭での指導においても活 用できる意見が挙げられた。 ④骨盤底筋の収縮の仕方は理解できたか 表2 Oxford scale[3]以上と[0-2]の群と,評価変数との 関係 Oxford scale n (%) χ2 0-2 3 以上 n=7 n=7 外陰部の動き 有 2 7 9 (64.3) 7.778 * 無 5 0 5 (35.7) 代替収縮 無 1 6 7 (50.0) 7.143 * 有 6 1 7 (50.0) 収縮感覚 有 3 7 10 (71.4) 5.600 n.s. 無 4 0 4 (28.6) χ2検定Fisherの直接法(両側検定) *p<0.05 表3 Oxford scale[3]以上と[0-2]の群と,尿失禁・会陰 裂傷との関係 Oxford scale n (%) χ2 0-2 3 以上 n=7 n=7 尿失禁 無 3 5 8 (57.1) 1.167 n.s. 有 4 2 6 (42.9) 会陰裂傷 無有 7 3 10 (71.4) 3.818 n.s. 0 4 4 (28.6) χ2 検定Fisherの直接法(両側検定) 表4 Oxford scaleと評価変数との相関 外陰部の動き 代替収縮 収縮感覚 Oxford scale .834** .735** .733** ピアソンの相関係数(両側) **p<0.01 外陰の動き1:無 2:有,収縮感覚1:無 2:有,代替収 縮1:有 2:無
10名全員が「理解できた」と回答した。理由として 『実践することで理解が進んだ』『実際にその場で やってみて確認してもらえたので理解できた』『お尻 をしめれば良いと思っていたがそういうことではない とわかった』『自分はお腹に力が入りやすいとわかっ た。お腹に力が入ると子宮が下がって指に当たる感じ があった』等であった。 2)経腟触診で指導する骨盤底筋訓練について 実施直後のインタビューによる感想と,無記名式質 問紙による「良くなかった点,気になった点,苦痛 だったこと」についての記述で,否定的な意見はみら れなかった。 インタビューおよび無記名式質問紙の記載から質的 に分析をした結果,経腟触診で指導する骨盤底筋訓練 について,【骨盤底筋収縮の体得】【経腟触診に対する ニーズ】の 2 つのカテゴリーと 5 つのサブカテゴリが 抽出された(表5)。 【骨盤底筋収縮の体得】 このカテゴリーでは,〈収縮部位の理解〉〈収縮の実 感〉〈自分ができているかの確認〉の3つのサブカテゴ リが抽出された。 〈収縮部位の理解〉 『指でここと教えてもらって締める場所がわかっ た。今まで肛門だけを締めていた』 『今までわからなかったのが,どこを締めればよ いかわかるようになった。この部分だというのが 今までよりわかる。全然違う(立ち上がる時)。今 までは立つだけで漏れていたのに,大丈夫そう』 〈収縮の実感〉 『最初はよくわからなかったが,指を引き上げる 感じと言われてやったらわかった。お尻の穴しか 締められなかったが,今はわかる』 『助産師さんの触診と併せて指導してもらえるの でより実感できた』 『全然わからなかったのが,なんとなくこれでい いのかな,とわかった』 〈自分ができているかの確認〉 『ダンスの時に自分で締めていた筋肉と同じだっ た。ちゃんとやれているというのが確認できた』 『よくわかった。思っていた筋肉だった。自信が 持てた』 『自分で漠然とこのやり方でいいのかなと思って いたものが合っていてよかった』 『実際に助産師さんが触診して評価してくれるの で,本当に出来ているのかわかりづらい私に とってはよかった』 表5 経腟触診で指導する骨盤底筋訓練についての評価 カテゴリ サブカテゴリ コード 骨盤底筋収縮の体得 収縮部位の理解 締める場所がわかった この部分だというのが今までよりわかる この筋肉だというのがわかった どこを動かすかわかって良かった 触診してもらうことで筋肉の使い方がわかった くしゃみの時に締める場所がわかった 指を開いてもらうとわかりやすい 収縮の実感 おしっこを止める時の感覚だというのがやっとわかった 締める感覚がとても分かりやすかった そうなのかぁ,これなのかぁという感じ あ,これかとなんとなくわかった なんとなくこれでいいのかなとわかった 指を引き上げる感じ より実感できた 自分ができているかの確認 ちゃんとやれていると確認できた 思っていた筋肉だった これかな~と思っていたのと一致していた やれていると思っていたのと一致していた 実際に触診して評価してくれる 経腟触診に対するニーズ 実施者への信頼 親しんだ助産師さんだったので気にせず受け入れた助産師さんの内診と併せて指導してもらえる 助産師さんが把握してくれているので安心 痛くない触診と羞恥心への配慮 まったく痛みはなかった丁寧に教えていただいた タオルをかけてくれたのが良かった
【経腟触診に対するニーズ】 このカテゴリーでは,〈実施者への信頼〉〈痛くない 触診と羞恥心への配慮〉の 2つのサブカテゴリが抽出 された。 〈実施者への信頼〉 『親しんだ助産師さんだったので触診も気にせず 受け入れた』 『助産師さんの触診と併せて指導してもらえるの でより実感できた』 『助産師さんが前後の自分の状態を把握してくれ ているので安心できた』 〈痛くない触診と羞恥心への配慮〉 『まったく痛みはなかった』 『痛みなど心配だったがゆっくり確認しながら実 施してもらえたので問題なかった』 『足を開くことは苦痛ではあった。タオルをかけ てくれたのが良かった』 『デリケートな事なので悩む産後のママは実はと ても沢山いると思います。』 3)分娩後 1か月間の骨盤底筋訓練の実施状況と実施 に対しての困難 1か月間の実施状況は,推奨した通り毎日実施した と回答した者が 6名,毎日はしないが週 3回くらい実 施した者が 3 名,途中でやめてしまった者が 1 名で あった。褥婦から表出された困難に関する記述を下記 に記す。 『毎日決めた時間にやるのはつい忘れてしまいまし たが気づいた時に多く行いました。訓練の内容に困 難を感じることはありませんでした』 『日常生活に追われて忘れがちになってしまった』 『育児疲れがあり自分の事は後回しになる』 『意識して横になるタイミングで実施したが日中横 になれない日は実施が難しかった。横になるとすぐ 眠ってしまうこともあった』 『尿もれの症状がなくなったので継続できなかった』 『最初は欠かさず行っていたのですが,(整体の先生 に)やる意味がないと言われてやめてしまいました』
Ⅴ.考 察
1.経腟触診で指導する骨盤底筋訓練の有用性 1)骨盤底筋収縮の指導前後の変化からの評価 ①Oxford scaleの変化 骨盤底筋訓練を行うことで筋繊維の肥大によって収 縮力が強化される(Bø, 2004)。筋肉量を増やし筋力を アップさせるためにはトレーニングの強度と一定期間 の継続が必要であり,骨盤底筋訓練も一般的な筋力ト レーニングの原則に従ったプロトコールが適応され る。1回の収縮において6~8秒間の持続で 8~12 回を 1セットとし1日に3回を週3~4回実施し,最低でも8 週間~12 週間の継続が必要(Mørkved, et al. 2014)と され,類似したプロトコールは妊産褥婦を対象とした 複数の先行研究で統計的に有意な結果が得られている (Dinc, et al. 2009;Dumoulin, et al. 2004;Mørkved, et al. 1997)。骨盤底筋訓練の効果を得るには2~3か月の 地道な継続が必要であるため,本結果で Oxford scale [3]以上の標準以上の強さの収縮が出来ていた者に変 化がみられなかったのは当然といえる。変化がみられ た5名はOxford scale[0-2]で,今回初めて骨盤底筋収 縮を行う者もしくは指導前には骨盤底筋をどう収縮さ せればよいかわからないと言っていた者であったこと から,短時間で骨盤底筋の筋力が増した訳ではなく, 経腟触診によって骨盤底筋の位置を示しながら指導を 受けたことで指導前はわからなかった骨盤底筋を収縮 させる部位や収縮感覚がわかるようになったことによ る変化であると思われる。今回の結果からは指導前後 の変化に影響を及すような要因が他にあったかの検討 には至っていないが,骨盤底筋収縮のわかりにくい対 象にとって,特に経腟触診が有用である可能性が示唆 された。 ②外陰部の動き・代替収縮の有無・収縮感覚の変化 外陰部の動きの変化として,指導前に外陰部の動き が弱いか全く動かなかった 5 名中,指導後に Oxford scaleが[2]から[3]に変化した1名は外陰部の動きも 弱い動きからしっかり動くようになった。 代替収縮の有無では,初めて骨盤底筋訓練を実施し た女性の30%以上が臀筋や腹筋を代替的に収縮させ, いきみをかける等の骨盤底を押し下げる間違った方法 で行うとされている(Kari Bø, et al. 2005)。本結果で も,研究参加者の半数の7名に代替収縮がみられ,5名 (35.7%)が腹圧をかけて押し下げる間違った方法を 行っており先行研究とほぼ一致した。経腟触診による 指導後に代替収縮が消失したことから,経腟触診での 指導により正しい収縮部位が理解できたと考えられる。 指導前は収縮感覚が明確でなかった4名が,指導後 は収縮感覚がわかるようになり変化がみられたことか ら,経腟触診での指導により収縮感覚を実感できるよ うになったと考えられる。2)褥婦の反応からの評価 ①インタビュー・無記名式質問紙からの評価 経腟触診による骨盤底筋訓練の指導法について,実 施直後のインタビューによる感想と1か月後の無記名 式質問紙の記述から,否定的な意見はみられなかった。 無記名式質問紙に回答のあった 10 名全員が,経腟 触診による指導を受けた時期は産褥 4 日目で適切で あったとし,骨盤底筋の収縮の仕方を理解できたと回 答した。指導に要した時間について手際が良くな かったことが推察される意見が 1 名から聞かれたが, その点を除く他は肯定的に評価された。 経腟触診による指導を受けたことで収縮部位や収縮 感覚がわかるようになり,「収縮部位の理解,収縮の 実感,自分ができているかの確認」により骨盤底筋収 縮の体得ができていた。自分ができているかの確認と は,今までこれだと思ってやっていたことが合ってい るかという自分自身での確認と,本当に正しく骨盤底 筋収縮ができているのかを助産師に確認してもらう, という2つの意味合いがある。いずれも経腟触診によ る直接的な指導でなければ確認できないことであり, 介入の意義があったと考える。 経腟触診による骨盤底筋訓練の指導法は,外陰部を 観察しながらデリケートな産後の腟に指を挿入して行 う方法であるため,実施時に下半身に掛け物をするな どの羞恥心への配慮や声をかけながら,ゆっくりと指 を挿入する等の気遣いを忘れずに実施しなければなら ない。痛みを感じることがないように対象者の反応を 確認しながら丁寧に実施すること,潤滑剤をたっぷり と塗布して触診することが重要である。また,『親しん だ助産師さんだったので触診も気にせず受け入れた』 という言葉の通り,経腟触診の実施者が対象の信頼を 得た者であればより不快感も少なく安心して実施でき る。今回褥婦から良い反応が得られたのは,実施者が 研究協力施設である助産所の助産師であったことも要 因の一つであると思われ,経腟触診で骨盤底筋訓練の 指導を行う実施者は助産師が適任であると考える。 ②分娩後1か月間の骨盤底筋訓練の実施状況からの評価 退院後は毎日骨盤底筋訓練を行うことを推奨した が,強制はしなかった。それにもかかわらず,約1か 月後に返送された無記名式質問紙において10名中9名 が,毎日か週3回の骨盤底筋訓練を実施していた。今 回の研究参加者は,助産所出産を選択していることか らセルフケアに対して比較的意識の高い集団という特 徴があることに加え,尿失禁の有症者が多かったため 骨盤底筋訓練に対する期待感を持って取り組んでいた ためであったと推察される。自己報告の結果であるこ との信頼性の低さは加味しなければならないにせよ, 分娩後1か月間という心身ともに多忙な時期において 高い実施率であった。骨盤底筋訓練を行っていくに は,骨盤底筋訓練の self-efficacy が必要(Chen, et al. 2009)であり,McClurg, et al.(2015)は,骨盤底筋訓 練の分野を対象とした研究において,Bandura(1977/ 2012)の社会的認知理論の中核であるself-efficacyが骨 盤底筋訓練のadherence に関わる重要な因子であると 結論付けている。self-efficacy とは,ある結果を生み 出すために必要な行動をどの程度うまく行えるかとい う個人の自信のことであり(東條他,2003, pp.425-434),経腟触診で骨盤底筋の収縮感覚を掴み,「やれ る」という自信を持てたことが継続につながった可能 性が考えられる。 無記名式質問紙に回答されていた骨盤底筋訓練の実 施にあたり困難だった要因として,内因的な困難と外 因的な困難が表出された。内因的な困難では,尿失禁 の症状消失に伴って継続が出来なくなったことが挙げ られ,困っている状況があるかどうかで継続のモチ ベーションが左右されることが伺えた。外因的な困難 では,他者からの否定的な言葉でモチベーションを維 持できなくなることが挙げられ,いつでも相談できる 体制での継続した関わりが必要であることが示された。 3)経腟触診による骨盤底筋収縮の評価指標 Oxford scaleと評価変数の間には,ピアソンの相関 係数で強い正の相関がみられ,外陰部の動き・代替収 縮の有無・収縮感覚を観察することは骨盤底筋収縮の 指標になる可能性が示唆された。 ①骨盤底筋収縮時の外陰部の動き 本研究と同様に分娩後1週間以内の褥婦を対象にし た先行研究(Vermandel, et al. 2015)において,外陰部 の動きを目視で評価しながらの骨盤底筋訓練が有用で あったと報告されており,本研究においてもFisherの 正確確率検定の結果から,Oxford scale での収縮の強 弱と「外陰部の動き」の有無との間に有意差が認めら れた。外陰部を動かせていても実際に触診ではOxford scaleが[2]が2名いたため,必ずしも外陰部の動きの みで判断できるとは限らないが,指導前に外陰部の動 きが弱いか全く動かなかった 5 名は全員が Oxford scale [0-2]であり,骨盤底筋の収縮が弱かった。Ox-ford scale[3]以上の7名は全員に外陰部の動きがみら れ,指導後にOxford scaleが[2]から[3]に変化した1
名は外陰部の弱い動きからしっかり動くようになった ことから,Oxford scale[3]以上の標準以上の強さの 収縮が出来ていれば外陰部を動かせることが示唆され た。経腟触診の際に「外陰部の動き」を観察すること は骨盤底筋収縮を評価するうえで有用である。 ②代替収縮の有無
Fisherの正確確率検定の結果から,Oxford scale で の収縮の強弱と「代替収縮」の有無との間に有意差が 認められ,代替収縮がある人ほど Oxford scale が低く なる傾向が示唆された。Oxford scaleが[3]以上の7名 中 1 名のみに代替収縮がみられたのに対し,Oxford scale[0-2]の 7 名には 6 名に代替収縮がみられた。正 しい収縮方法を獲得できているかどうかは,骨盤底筋 を収縮させ弛緩させることが出来ているか,怒責をか けずに体内に引き込む方向に筋肉を動かせているかと いう点から判断する(一般社団法人日本創傷・オスト ミー・失禁管理学会,2017, p.98)。「代替収縮の有無」 を観察し,代替収縮がないことを確認することは,骨 盤底筋収縮を評価するうえで有用である。 ③収縮感覚
Fisherの正確確率検定の結果からは Oxford scale で の収縮の強弱と「収縮感覚」の有無との間に有意差は 認められなかったものの,Oxford scale[3]以上の標 準以上の強さの収縮が出来ている 7名は全員「収縮感 覚」が明確であったことから,「収縮感覚」を確認する ことは,骨盤底筋収縮を評価するうえで有用である。 2.Oxford scale と会陰裂傷との関係 研究参加者は,会陰裂傷なしが 10 名(71.4%)であ り,裂傷のあった者の程度は擦過傷 3 名,1 度裂傷 1 名といずれも軽症であった。表3のFisherの正確確率 検定の結果から,Oxford scale での収縮の強弱と会陰 裂傷の有無との間に有意差は認められなかったことか ら,今回の研究参加者においては会陰裂傷が骨盤底筋 収縮に及ぼす影響は少なかったといえる。 3.尿失禁と骨盤底筋訓練 尿失禁の有無に関係なく研究参加者をリクルートし たが,尿失禁対策としての研究参加が大多数であり, 骨盤底筋訓練に対するニーズの高さが伺えた。 骨盤底筋訓練は女性の尿失禁全般に効果があり (Dumoulin, et al. 2015),骨盤底筋訓練は分娩後に尿失 禁が続く女性にとって適切な治療法であることがわ かっている(Boyle, et al. 2012)。しかし,妊婦や分娩 の女性に対する骨盤底筋訓練の指導は浸透していると はいえない。本研究の研究参加者の中には,分娩後の 一時的な尿失禁ではなく,今回の第3子の分娩後まで 長期間にわたり尿失禁が持続している者が2名いたが, これまで一度も適切な骨盤底筋訓練の指導を受けてい なかった。尿失禁は訴えを表出しにくいため,意識的 にこちらから質問する等のアプローチが必要である。 産褥4日目の骨盤底筋収縮力と尿失禁には有意差は 認められなかった。早期産褥期は臥位にて過ごすこと の多い時期であり,咳やくしゃみなどの急激な腹圧上 昇の機会がない場合は尿失禁が顕在化しにくく,加え て悪露の排出のため少量の尿失禁はわかりにくいと いったことが考えられる。分娩後3か月で尿失禁のあ る70%は妊娠中から症状が出現しているという先行研 究(Leroy, et al. 2016)からも,妊娠中からの尿失禁の ある対象者に対しては,1か月健診以降の行動拡大に より症状が復活する可能性を踏まえて,骨盤底筋訓練 を実施できるように指導しておくことが必要である。
Ⅵ.研究の限界と今後の課題
研究参加者は 14 名中 13名が経産婦であり,初産婦 は1名のみであった。今回研究協力施設となった助産 所は経産婦の分娩予約が多いためリクルートに偏りが 生じたと考えられるが,初産婦の研究参加者が少な かったのには,会陰裂傷の痛みがあり研究対象から除 外された者がいることも理由として挙げられる。本研 究の参加者は,会陰裂傷が大きい,あるいは痛みが強 い等の経腟触診による骨盤底筋評価が困難と予想され る場合は除外としているため,会陰裂傷が無い,もし くは裂傷の小さい褥婦が対象であったことから,結果 をすべて一般化することはできない。会陰切開や会陰 裂傷の大きい褥婦で経腟触診が困難な場合に,経腟触 診以外の方法や実施時期を遅らせる等の検討をするこ とが今後の課題である。また,正常な収縮が出来てい ない場合は指導の回数を増やす等の個別フォローを継 続して行う必要があるが,分娩後の関わりは通常1か 月健診までとなるため,その後のセルフケアに向けた 体制作りも大切である。産褥期における骨盤底筋訓練 の指導方法は確立しておらず,体系化した骨盤底訓練 プログラムの構築には,医師,泌尿器科領域の看護 師,理学療法士,フィットネス分野の専門家など多職 種との協働が必要である。最近では,骨盤底筋訓練が 閉経関連泌尿生殖器症候群(GSM)の症状に効果的であるという研究結果(Mercier, et al. 2019)もあり,今 後の研究が期待される。分娩後の機会をとらえて正し く骨盤底筋を収縮させる方法を指導しておくことは, 産後の尿失禁だけに限らず更年期以降のウイメンズヘ ルスに寄与するため,助産師が積極的に関わる意義が あると考える。
Ⅶ.結 論
1. Oxford scale[0-2]の骨盤底筋の機能不全や機能 低下が疑われる褥婦の多くは,骨盤底筋収縮時 に代替収縮が認められ,外陰部の動きが弱いか まったく動きがないことが観察され,収縮感覚 は弱く明確でなかったが,経腟触診による指導 後に代替収縮が消失し指導前よりも収縮感覚が 明確になった。 2. 指導前は骨盤底筋をどう動かせばよいかわから なかった5名は指導後にOxford scale の改善がみ られ,経腟触診によって収縮部位や収縮感覚が 明確になったための変化と思われた。産褥期に 経腟触診で骨盤底筋訓練を指導することは,骨 盤底筋収縮のわかりにくい対象に有用である可 能性が示唆された。 3. 実施直後のインタビューと無記名式質問紙に よる記述からは,経腟触診で指導する骨盤底筋 訓練について否定的な意見はみられなかった。 経腟触診でなければわからなかったという意 見 も あ り, 経 腟 触 診 に よ る 指 導 法 は 対 象 者 にとって受け入れられ,有用であることがわ かった。 4. Oxford scalee3以上と0-2の群に分けた解析では, 外陰部の動き・代替収縮との間にそれぞれ5%水 準で有意な差がみられた。外陰部の動き・代替 収縮の有無・収縮感覚は,Oxford scaleとの間に 強い正の相関がみられ,骨盤底筋収縮の評価指 標になることが示唆された。 5. 経腟触診での指導に対する評価として,【骨盤底 筋収縮の体得】【経腟触診に対するニーズ】の2つ のカテゴリーが抽出された。骨盤底筋収縮の体 得は,〈収縮部位の理解〉〈収縮の実感〉〈自分がで きているかの確認〉の3つのサブカテゴリが抽出 され,経腟触診に対するニーズは,〈実施者への 信頼〉〈痛くない触診と羞恥心への配慮〉の2つの サブカテゴリが抽出された。 謝 辞 本研究にご協力いただきました皆さまに心よりお礼 申し上げます。本研究の全過程をご指導いただきまし た聖路加国際大学大学院の森明子教授,研究開始にあ たり貴重なご助言をいただきました山梨大学大学院の 谷口珠実教授に深く感謝申し上げます。 結果の一部は第 33 回日本助産学会学術集会で発表 した。 利益相反 論文内容に関し開示すべき利益相反の事項はない。 文 献Ahlund, S., Nordgren, B., Wilander, E.L., Wiklund, I., & Fridén, C. (2013). Is Home-Based Pelvic Floor Muscle Training Effective in Treatment of Urinary Inconti-nence After Birth in Primiparous Women? A Random-ized Controlled Trial.Acta Obstetricia Et Gynecologica Scandinavica, 92(8), 909-915.
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