1727
80.
617. 53
側 頸 部 血 嚢 腫 ニ 就 テ
岡山醫科大學津 田外科敎室(主 任津 田敎授)
醫學士 岩
藤
良
秋
[昭 和6年12月29日 受 稿]Aus der Chirurgischen Universitatsklinik Okayama, Japan
(Vorstand: Prof. Dr. Seiji Tsuda).
Uber die Blutzyste an der seitlichen Halsgegend.
Von
Dr. Yoshiaki
Iwato.
Eingegangen am 29. Dezember 1931.
Die seitliche Halsgegend ist eine Lieblingsstelle der zystischen Geschwulste versch
iedenen Ursprunges.
Unter den verschiedenen Zysten ist die Blutzyste ausserst selten.
Der Ausdruck "Blutzyste"
ist ein klinischer, aber kein anatomischer Begriff. Man
bezeichnet heute alle Zysten als Blutzyste, die uberhaupt mit frisch flussigem oder ver
altet verandertem venosen Blut gefullt sind, wobei der Blutraum entweder geschlossen
ist oder mit einem grosseren venosen Gefass in offener Verbindung steht. Spannaus hat
die Blutzysten nach ihrem Ursprung folgendermassen eingeteilt:
A) echte Blutzysten
1) fotale Hemmungsbildungen,
2) Erweiterungen einer Vene (Die Blutzyste kommuni
ziert mit der Vene oder hat sich vollstandig abgeschnurt),
B) unechte Blutzysten,
3)
aus einer Kiemengangszyste,
4) aus einem Angiom,
5) aus einem Lymphangiom,
6)
aus Lymphdrusenmissbildungen.
Wir sind neuerdings einem Fall von Blutzyste begegnet.
Es handelte sich um eine 44 jahrige Frau, die seit etwa 9 Monaten uber einen
daumenspitzgrossen Tumor am linken Seitenhals klagte. Sie verspurte aber keine Besch
werden wegen des Tumors und konnte sich nicht erinnern, wann oder wie er angefangen
hatte. Sie besuchte unsere Klinik am 14. Juli 1931, um den Tumor zu beseitigen. Es
fand sich ein weicher, deutlich fluktuierender, langlich ovaler Tumor von der Grosse
eines kleinen Huhnereies an der Mitte des hinteren Randes des Kopfnickers am linken
Seitenhals. Der Tumor lag direkt unter der Haut und war gut beweglich. Er war nicht
druckempfindlich und zeigte weder Pulsation noch Kompressibilitat.
Die Operation am
17. Juli 1931 ergab eine Blutzyste, die als eine varikose Ausbuchtung der Venenwand der
Teilungsstelle der V. jugularis externa sinistra konstatiert wurde. Er wurde total exst
irpiert und die Frau wurde am 24. Juli 1931 als geheilt entlassen.
Die exstirpierte Blutzyste war dunkelrotlich durchschimmernd, weich, so gross wie
ein kleines Huhnerei und fast zylindrisch. An der oberen medilaen Ecke des Tumors trat
eine Vene ein und dicht an seiner Lateralwand entlang lief die V. jugularis ext., die ca 1cm
lang mit der Zyste in offener Verbindung stand. Die Zyste war einkammerig und enth
ielt flussiges, veraltetes, venoses Blut und teilweise organisierten Thrombus. Die Zysten
wand bestand grosstenteils aus Bindegewebe, wahrend Muskelfasern und
elastische
Fasern sehr wenig vorhanden waren. Die Innenwand der Zyste war mit Endothel aus
gekleidet. Am oberen Teil der Zyste fand man noch einige kleine Hohlraume, die als
Missbildung des Gefasses angenommen werden mussen.
Aus obigen Befunden konnte man wohl sagen,
dass es sich
bei dieser
Zyste um eine
echte
Blutzyste
handelt,
die
aus der isolierten Varix
an der Teilungsstelle
der V.
jugularis
externa
sinistra
entstanden
ist, und nach
Spannaus
genetisch
zur zweiten Unterabteilung
der echten Blutzysten
gehort. Als Entstehungsmodus unserer Blutzyste
konnte man
e
ine angeborene Missbildung
der Venenwand und erworbene mechanischen Momente, z.
B. Stauung sowie Mengenmissverhaltnis
des ab- und zufuhrenden Venenblutes an der
Teilungsstelle
der Vene annehmen.
Als Therapie der Blutzyste
ist
heute die Totalexstirpation
des Sackes zu empfehlen.
(Autoreferal).
内
容
目
次
第1章 緒 言 第2章 症 例 第3章 文 獻 及 ビ 考察 第1節 成 因 及 ビ分 類 第2節 臨 牀 的 事項 第4章 總 括 及 ビ結 論 主 要 文 獻第1章 緖
言
人 體 頸 部 ハ發 生學 的 ニ考 察 スル モ,極
メテ相 錯 雜 シ,又 解 剖 學 的 ニ モ甲状 腺,胸 腺 ソ ノ他 多
種 臟 器 ノ存 スル事 及 ビ多數 ノ組 織 小 間隙 ヲ有 ス ル爲,他
ノ人 體諸 器 官 ニ比 シ,先 天 的 及 ビ後 天
的 ニ頗 ル 多 種 多 樣 ナ ル腫 瘍 特 ニ嚢 腫 樣 腫 瘍 ノ發 生 スル事 ハ,周 知 ノ事 實 ナ リ.則 チ頸 部 ニ發 生
スル 嚢 腫 樣腫 瘍 ハ,例 ヘバ 腮 弓嚢 腫,粉 瘤,皮 樣 嚢 腫,各 種 淋 巴 管 腫(單 純 性 及 ビ海 綿樣 淋 巴
管 腫,嚢 状 淋 巴 管 内 被 細 胞 腫Zystenhygrom),單
純 性 及 ビ海綿 樣 血管 腫,頸
部血 嚢 腫,稀
ニ
粘 液 嚢水 腫Schleimbeutelhygrom及
ビ包蟲 嚢 腫 等 ア リ,而 シテ之 等 ノ鑑 別 診 斷 ハ臨 牀 的 ニ モ,
162側頸部血嚢腫 ニ就テ
1729
亦 病 理 組 織 學 的 ニ モ 極 メテ 難 事 ニ 屬 ス. 從 來 血 嚢 腫 ト シ テ 發 表 セ ラ レ タ ル モ ノ ハ頗 ル 多 種 多 樣 ニ シ テ,又 血 嚢 腫 ナ ル モ ノ ノ 定 義 ニ 關 シ テ モ,諸 家 ニ ヨ リ區 々 一 定 セ ズ. Gluck及 ビGurltニ 依 レバ,常 ニ 多 少 トモ 側 頸 部 ノ 大 靜 脉 ト内 腔 交 通 ヲ有 シ,且 被 壓 縮 性 ヲ 有 ス ル 嚢 腫 ヲ血 嚢 腫 ト稱 ヘ タ ル モ,ソ ノ後 靜 脉 トノ交 通 遮 斷 セ ラ レタ ル モ ノ モ 多 數 報 告 セ ラル ル ニ 至 リ,同 氏 等 ノ定 義 ハ 妥 當 ナ ラ ザ ル モ ノ ト セ ラ レタ リ.現 在 一 般 ニ血 嚢 腫 ト稱 セ ラル ル モ ノ ハ,靜 脉 ト關 係 ヲ有 ス ル 新 鮮 ナ ル 流 動 性 靜 脉 血,又 ハ 血 管 トノ 關 係 ヲ 失 ヒ變 化 セル 血 液 ヲ以 テ充 サ レ タ ル 嚢 腫 ノ一 般 的 總 稱 ナ リ.而 シテMichaux,G. B. Gunther等 ノ 報 告 セ ルHaematocele colliナ ル モ ノ モ,コ ノ血 嚢 腫 ニ屬 ス ル モ ノ ノ 如
シ. 血 嚢 腫 ナ ル 疾 患 ハ 極 メ テ稀 有 ナ リ ト セ ラ レ,之 ガ 報 告 例 ハ 今 尚 ホ 僅 少 ニ シ テ, 1785年Will Heyノ 報 告 以 來, 1909年Spannausハ 文 獻 中 ヨ リ43例 及 ビ自 家 例4例 ヲ 總 括 シ.又1930年 Eilersハ 自 家 例 共56例 ヲ總 括 セ リ.爾 後 現 在 ニ至 ル 迄 僅 ニ最 近 ノ北 浦 氏 ノ報 告 ア ル ノ ミ ニ シ テ,文 獻 ニ 表 ハ レタ ル モ ノ漸 ク60例 ヲ算 ス ル ニ過 ギ ザ ル ガ 如 シ.本 邦 ニ於 テ ハ,宇 野,小 島, 近 藤,福 島,河 本,小 柳 及 ビ最 近 前 述 北 浦 氏 ノ 報 告 セ ル 各1例 ア リ.之 等 ノ 血 嚢 腫 ハ 最 モ 多 ク 頸 部 ニ發 生 シ,極 メ テ稀 ニ 他 ノ體 部(後 頭 部,眼 窩,後 腹 膜 組 織,子 宮,大 薔 薇 靜 脉 近 部)ニ 發 生 セ ル ヲ報 告 セ ラ ル.而 シテ 確 實 ニ外 頸 靜 脉 ニ發 生 セ ル 靜 脉 瘤 性 血 嚢 腫 ニ 關 シ テ ハWeber,
Meyer, Kallenberger, Stern, Sussig,北 浦 氏 ノ報 告 ア ル ニ過 ギ ズ.
予 ハ最 近 津 田 外 科敎 室 ニ於 テ,偶 々 コ ノ 稀 有 ナ リ ト セ ラ レ タ ル 側 頸 部 血 嚢 腫 患 者 ノ1例 ヲ 經 驗 セ リ.而 シテ 之 ハ 外 頸 靜 脉 ニ發 生 シ タ ル 靜 脉 瘤 性 血 嚢 腫 ナ リ シ ヲ以 テ,之 ガ症 例 ヲ 報 告 シ, 大 方諸 彦 ノ御 叱 正 ヲ乞 ハ ン トス.
第2章
症
例
患 者 白○波○惠 女性 44歳 農業
初 診 昭 和6年7月14日 主 訴 左 側頸 部 腫 瘍 家 族 歴 兩 系 祖 父 母 ハ 共 ニ高 年 ニ達 シ,老 衰 ノ爲 死 亡.父 ハ70歳 ノ時腦 溢 血 ニテ,母 ハ33歳 ノ時腸 窒扶 斯 ニ傳 染 シ死 亡 セ リ ト.同 胞4人,患 者 ハ第2 子 ニ シテ,他 ハ皆 健 在 ス.子 供 ナ シ.家 族 的 ニ特 記 ス ベ キ遺 傳 的 疾 患 ヲ認 メズ. 既 往 病歴 患 者 ハ 滿 期.正 規 分 娩 兒 ニ シテ,母 乳 ニ テ 營 養 セ ラ レ タ リ.種 痘 ハ 數 囘 受 ケ,皆 善 感.小 兒 期,兒 童 期 ヲ通 ジ,現 在 ニ 至 ル 迄 著 患 ヲ 知 ラ ズ. 月 經 ハ 初 經16歳,爾 來 正 調 ニ 來 經 ス. 22歳 ニ シ テ 現 在 ノ夫 ト結 婚 ス.花 柳 病 ハ 否定 シ,少 量 飮 酒,喫 煙 ス. 現 病 病 歴 昭 和5年11月 頃 ヨ リ,左 側頸 部 即 チ 左 側 胸 鎖 乳 頭 筋 ノ略 ボ 中央 部 ニ,何 等 認 ム ベキ 誘 引 ナ ク シテ,約 拇指 頭 大 ノ柔 軟 ナ ル腫 瘍 ノ發生,存 在 セ ル ニ氣付 キ タ ル モ,疼 痛,壓 痛 ソノ他 自覺 的 障 碍 ナ キ爲 放置 セ リ.當 時該 腫 瘍 ハ 指 壓 ニ依 リ消 失 又 ハ縮 小 ス ル 事及 ビ咳 嗽,怒 嘖 等 ニ依 リテ ソ ノ容 積 ヲ變 化 ス ル事 等 ハ認 メ ザ リキ.夂 該 腫 瘍 ハ初 メ一 部 強 靱 一 部 柔 軟 ニ シテ,種 々 ノ硬 度 ヲ有 シ タ リシ モ,ソ ノ後 日 ヲ經 ルニ 從 ヒ柔 軟 トナ リ,且 多 少 ソノ容積 ヲ增 大 セ リ ト云 フ.現 在 ニ至 ル モ尚 ホ患 者 ハ 著 シキ 自覺 的障 碍 ヲ訴 ヘザ リシ モ,偶 々某 醫 ノ診 ヲ受 ケ タル ニ, 結 核 性 淋 巴 腺 炎 ト診 斷 セ ラ レ タル爲,ソ ノ根 治 手 術 ヲ希 望 シテ,本 院 ヲ訪 レ タ リ. 食 慾 佳 良,睡 眠 安 靜,便 通1日1囘,咳 嗽,喀 痰 ナ シ. 現 症 全 身 症 状 骨 格 正 常,身 長 中等 大 ニ シテ 營 養 状 態 佳 良 ナ リ.顏 貌 正常,皮 膚 正常 ニ シテ貧 血, 浮 腫,黄 疽,發 疹 ナ シ.眼 瞼 結膜 稍 々蒼 白 ナ リ.瞳 孔 左 右 同 大,圓 形,對 光 及 ビ遠 近 反 射 正常.口 腔 粘 膜,舌 ニ異 常 ヲ認 メズ.呼 吸 ハ胸 腹 式 ニ シ テ安 靜. 脉 搏 ハ橈 骨 動 脉 ニ於 テ 左右 同 大,整 調 ニ シテ1分 間 70-80,緊 張 良.體 温37.0℃ 胸 部 ニ於 テ ハ,心 濁 音 界 正 常 ニ シテ,心 音 純.兩 肺 尖 及 ビ胸 部 右 側 下方 背 面 ハ 打 診 上 輕 度 ハ濁 音 ヲ呈 シ,聽 診 ス ル ニ,兩 肺 尖 部 ノ呼 吸 音 鋭 粗 延 長 ス.肺 肝 境 界 ハ 右 乳 線 ニ於 テ 第6肋 骨 ニ存 ス.腹 部 正 常 ニ シテ,肝,脾,腎 ヲ觸 レズ.下 肢 ニ浮 腫,靜 脉 怒 張 ヲ認 メズ. 血淸 村田 氏 反 應 陰 性. 尿 黄 色 透 明,弱 酸 性,比 重1020,蛋 白,糖 ヲ認 メ ズ. 糞 便.消 化 普 通,蟲 卵,潜 血 ナ シ. 局 所 症 状 視 診 ス ル ニ,頭 位正 常,左 側 頸 部 ニ於 テ,下 顎 隅 角 部 後 下方 即 チ胸 鎖 乳頭 筋 全經 過 ハ略 中 央 部 ニ於 テ,長 卵 圓 形,鷄 卵 大 ハ皮 膚 膨隆 ヲ認 ム ソ ノ長軸 ハ 體 縱軸 ニ一 致 シ,之 ヲ被 フ皮 膚 表 面 ハ 平 滑 ニ シテ 又 着色 ヲ詔 メズ.皮 膚 靜脉 怒 張 ヲモ 認 メ ズ 觸 診 ス ル ニ該 腫 瘍 ハ 小 鷄 卵 大,彈 力性 柔 軟 ニ シテ 著 明 ナ ル 波 動 ヲ證 明 ス ル モ所 々顆 粒 状 ニ觸 レル 部 ア リ,嚢 腫 状 ニ シテ境 界鮮 明,被 壓 縮 性 ヲ證 明 セ ズ. 又 搏 動 ヲ モ證 明 セ ズ.皮 膚 トノ癒 着 ハ 缺 キ,下 層 ト ハ 稍 々移 動 ス.宛 然 腫 瘍 ハ被 膜 ヲ有 ス ル嚢 腫 ニ シ テ, 被 膜 ト共 ニ腫 瘍 ハ移 動 ス ル モ ノ ノ如 シ. 診 斷 側 頸 部 嚢 腫. 昭 和6年7月16日 入 院. 7月17日 手 術 施 行. 手 術 所 見 術 前1%「 モ ル フ イ ン.ア ト ロ ピ ン」 0.8ccm皮 下 注 射,沃 度 丁 幾 消毒 ヲナ シ,0.5%「 ノボ カイ ン」 局 所 麻 醉 ノ下 ニ剔 出手 術 ヲ行 フ.腫 瘍 ヲ被 フ皮 膚 ニ ソ ノ長軸 ニ沿 ヒテ,長 サ約5cmノ 切 開 ヲ加 ヘ,濶 頸 筋 ヲ開 キ タル ニ直 チ ニ腫 癌 表面 ニ達 ス ル ヲ 得 タ リ.腫 瘍 ハ 胸 鎖 乳頭 筋 ノ外 側 ニ位 シ,腫 瘍 長 軸 ハ 之 ト鋭 角 ニ交 叉 シ,菲 薄 ナ ル被 膜 ヲ有 シ,且 コ ノ 被 膜 ヲ通 シ黑 赤色 色 調 ヲ呈 セ リ.コ ノ腫 瘍 ヲ試 驗 穿 刺 セ ル ニ,暗 赤 色 ノ血 液 ヲ得,血 嚢 腫 ナ ル事 ヲ確 メ 得 タル ヲ以 テ,之 ト周 圍 組 織 ト ノ解 剖 的 關 係 ヲ明 瞭 ナ ラ シ ムル 爲,極 メテ菲 薄 ナ ル嚢 腫 壁 ヲ破 損 セザ ル 樣 注意 シテ,周 圍 組 織 ト可 及 的 鈍 的 ニ剥 離 セ リ.該 嚢 腫 ハ約 鷄 卵 大,ソ ノ長徑 ヲ體 縱 軸 ニ一 致 セ ル長 紡 錘 形 ニ シテ,表 面 ニ凹 凸 ヲ表 ハ ス.該 嚢 腫 ノ後 外 側 ヲ上 下 ニ外 頸 靜 脉 ガ 走行 シ,該 腫 瘍 ト固 ク癒 着 シ, 血管 壁 一部 ヲ破 損 ス ル ニ非 ザ レバ剥 離 不能 ナ リ.即 チ嚢 腫 ト外 頸 靜脉 ハ 直接 交 通 シ,靜 脉 壁 一 部 ガ膨 隆 シ嚢 腫 ヲ形 成 セル 事 ヲ推 定 セ リ.尚 ホ嚢 腫 ハ内 側 上 隅 ニ モ,斜 上 方 ヨ リ1靜 脉 ガ之 ニ走 入 セ リ.故 ニ之 等 ハ嚢 腫 ニ出 入 ス ル靜 脉 ヲ,嚢 腫 ヨ リ各 々2cm距 リタ ル部 ニ於 テ2重 結 紮 ニ依 リ離 斷 シ,嚢 腫 ヲ完 全 ニ剔 出 セ リ.カ ク シテ 濶 頸 筋 ヲ腸 線 ニテ,夂 皮膚 ハ 絹 糸 ニテ第 一次 縫 合 ヲ ナセ リ. 手 術後 經 過 手 術 後 經 過 良 好,感 染 ノ徴 ナ ク,創 縁 第 一 期 癒 合. 7月24日 拔 絲 退 院 セ リ. 剔 出 標 本 肉 眼 的 所 見 嚢 腫 ハ暗 赤 色 ニ シテ 圓筒 ニ 近 キ長 紡 錘 形 ヲ呈 シ,長 徑5cm,短 徑2.3cm,前 後 ハ稍 々壓 平 セ ラ レ約1cm,ソ ノ前 面 ハ稍 々平 滑 ニ シ テ平 等 ニ膨隆 セ ル モ,後 面 ハ 凹 凸 ヲ示 シ,共 ニ ソ ノ 壁 ハ 菲 薄 纎 弱 ナ リ.硬 度 ハ 彈 力性 柔 軟 ニ シテ 波 動 著 明 ナル モ,所 々粗 顆 粒 状 ノ稍 々固 キ凝 塊 ヲ觸 ル.嚢 腫 ノ後外 壁 ニハ1條 ノ中 等 大 ノ靜 脉(外 頸 靜 脉)ガ 走 行 シ,尚 ホ 嚢腫 上 内角 ニ モ1條 ハ靜 脉 走 入 ス ル ヲ 見 ル.外 頸 靜脉 ハ嚢 腫 壁 ト固 ク癒 着 シ,ソ ノ約1cm ノ部 ニ於 テ ハ靜 脉 ト嚢 腫 内 腔 ハ 互 ニ 直 接 相 交 通 ス (第1圖 參 照).
側頸部血嚢腫 ニ就テ
1731
第1圖
剔出標本前面
a. 外 頸 靜 脉, b. 内 上 方 ヨ リ嚢 腫 中 ニ 侵 入 セ ル 靜 脉, c. ニ於 テ 外 頸 靜 尿 ト血 嚢 腫 ハ約 1cmノ 間 ソ ノ 内 腔 交 通 ス. 之 ヲ「フ オ ル マ リン」固 定 ノ後,嚢 腫 各 部 ヲ橫 斷 シ テ檢 ス ル ニ, 1箇 ノ大 ナ ル空 洞 ヲ有 シ,コ ノ空 洞 内 ニ ハ暗 赤 色 流 動 血 液 及 ビ一 部器 質 化 セ ル 血 栓 ニ依 リ 充 タサ ル.而 シテ 前 述 ノ如 ク,中 央 部約1cmノ 間 ハ 嚢 腫 外 壁 ヲ走 行 ス ル 外頸 靜 脉 ト,ソ ノ内 腔 ハ 互 ニ交 通 ス.尚 ホ該 嚢 腫 内側 壁 ニ モ一 小 空 洞 ア リテ,同 樣 ニ血 栓 ニ依 リ充 サ ル.ソ ノ間 ノ障 壁 ハ狹 小 ナ ル結 締 織 ヨ リナ ル.之 ト隣 レル部 ニ於 テ,前 述 セ ル大 空 洞 壁 ノ上 方 一 部 ハ極 メ テ狹 小 ナ ル 多房 室 ニ分 レ,血 液 ヲ充 滿 セ リ. 剔 出 標 本 組 織 學 的 所 見 剔 出 標 本 ハ 「フオ ル マ リ ン」 固 定 ノ 後,嚢 腫 中 央 部 ノ外 頸 靜 脉 内 腔 ト交 通 セ リ ト思 惟 セ ラ ル ル 部 及 ビ嚢 腫 上 下 兩 端 ニ 於 テ 同 靜 脉 ガ 嚢 腫 壁 ヲ 獨 立 ニ 走 行 セ ル 部 ヲ橫 斷 シ,「 チ エ ロ イ ヂ ン」 包 埋 ノ 後,「 ヘ マ トキ シ リ ン.エ オ ジ ン」, Van Gjeson氏 染 色 及 ビWeigert氏 染 色 ヲ施 シ テ 檢 査 セ リ. 嚢 腫 ハ 肉 眼 的 所 見 ニ 依 ル モ 明 瞭 ナ ル 如 ク, 1箇 ノ 大 ナ ル 空 洞 ヨ リ ナ リ,一 見 單 房 性 嚢 腫 ト認 メ ラ ル ル モ,精 査 ス ル ニ 嚢 腫 上 方 一 部 ニ 於 テ ハ,ソ ノ内 側 壁 ニ 面 シ テ 一 小 房 ア リ(第2圖 參 照).コ ノ 境 界 ヲ ナ ス第2圖
血 嚢 腫 ノ上 極 ニ近 キ部 ノ橫斷 圖
嚢 腫ハ2房 ヨ リナ リ,外 頸靜 脉 トノ内腔 交 通 ヲ有 セ ズ,同 靜 尿 ハ 嚢 腫 壁 中 ヲ走 行 ス.嚢 腫 内 ニハ 血 液凝 塊 及 ビ器 質化 セ ル血栓 ヲ充 ス.障 壁 ハ極 メテ狹 小 ナ ル 結 締 織 纎維 束 ヨ リナ リ,之 ヲ 下 方 ニ追 及 ス ル ニ,コ ノ境 界壁 障 ハ漸 次 ソ ノ影 ヲ沒 シ嚢 腫 ハ 全 ク一 大 空 洞 ヨ リナ ル(第3圖 參 照).嚢 腫 被 膜 ハ一 般 ニ菲 薄 ニ シテ,主 ト シテ膠 質 状纎 維 ヨ リ ナ リ,彈 力纎 維 及 ビ筋纎 維 ハ 之 ヲ認 ム ル モ,普 通 ノ 靜 脉 壁 ニ比 シ極 メテ 僅 少 ナ リ.且 嚢 腫 中 央 部 ニ近 ク, 前 述 大房 及 ビ小 房 境 界 障 壁 ノ消 失 シ タル高 サ ヨ リ下 方 ニ於 テ ハ,嚢 腫 ノ 内側 壁 ハ 極 メテ 細 小,不 規 則 ナ ル多 房 ヲ形 成 シ,之 等 ノ各 障 壁 ハ完 成 セ ル結 締 織 ヨ リナ リ,又 ハ完 全 ナ ル多 房 ヲ嚢 腫 壁 中 ニ形 成 セ ズ シ テ,結 締 織 ハ 嚢 腫 壁 ヨ リ内方 ニ向 ヒ息 肉 状,乳 嘴 状 又 ハ疣 状 ニ分 岐增 殖 セ リ(第3,第4圖 參 照).之 等
第3圖
血 嚢 腫 中 央 部橫
斷 圖
外 頸靜 脉 ハ 嚢 腫 内 腔 ト全 ク交 通 シ,之 ニ相 對 ス ル嚢 腫 壁 一 部 ニ於 テ ハ嚢 腫 壁 中 ニ小 房 ヲ有 シ, 又 ハ 嚢 腫 壁 ハ 息 肉 状 ニ 内 方 ニ增 殖 ス.嚢 腫 内 腔 ニ ハ血 塊 及 ビ器 質化 血栓 ヲ充 ス.第4圖
嚢 腫 内 側 壁 一 部 擴 大
嚢 腫 内 側 壁 一 部 ハ 多 房 ヲ 形 成 ス ル カ 又 ハ 嚢 腫 壁 ハ 息 肉 状 ニ 内 方 ニ 向 ヒ增 殖 ス. (「 ヘ マ トキ シ リ ン.エ オ ジ ン」 染 色,擴 大Zeiss 接 眼3.5,接 物 平 面,蛇 腹 距 離27cm)側 頸部血嚢腫 ニ就テ
1733
ノ嚢 腫 内面 及 ビ障壁 ハ何 レ モ 内被 細 胞 ニ被 ハル.嚢 腫 内腔 ニハ 多 量 ノ器 質 化 セ ル 白色 血 栓 ヲ認 メ,「 エ オ ジ ン」 染 色 色 調淡 キ 稍 々均 一 構 造 ノ凝 塊 ヨ リナ リ,多 少 ノ小 圓 形 細 胞 浸 潤 及 ビ少 量 ノ結 締 織 細 胞 及 ビ同 母細 胞 浸 潤 ヲ認 ム.尚 ホ カ カ ル 血栓 ノ周圍 ニハ 崩 壞 セ ル 赤 血 球 ヨ リナ ル 血塊 存 在 シ,所 々血 色 素(「 ヘ モ ジ デ リ ン」) ノ沈 着 ヲ見 ル部 ア リ.又 新 鮮 ナル 不 變 血 液 ヲ モ認 ムル 部 ア リ.即 チ嚢 腫 内血 液 ハ漸 次 中 心 ヨ リ血栓 ヲ形 成 シ 器 質 化 セ ル像 ヲ呈 セ リ(第2,第3圖 參 照). コ ノ嚢 腫 ト外 頸 靜 脉 トノ關 係 ニ就 キテ ハ,嚢 腫 中 央 部 ニ於 テ ハ 外 頸 靜 脉 管腔 ハ嚢 腫 内腔 ト全 ク相 交 通 シ, 宛 モ外 頸 靜脉 ノ外 壁 ハ嚢 腫 壁 ノ一 部 ヲ作 ル ガ如 キ所 見 ヲ呈 ス.即 チ同 靜 脉 外 側 血 管壁 ハ 正常 ノ靜脉 構 造 ヲ呈 シ,ソ ノ幅 廣 ク シテ 彈 力 纎 維 及 ビ筋 層 發 育 充分 ナ ル モ,ソ ノ内 側 壁 ハ 證 明 セ ズ シテ嚢 腫 壁 ニ移 行 ス.唯 ダ僅 ニ コ ノ境 界 ニ於 テ,極 メテ 菲 薄 纎 弱 ナ ル 靜脉 壁 ノ内層 斷 裂 痕 跡 ヲ認 ム ル ニ過 ギ ズ,即 チ コ ノ部 ニ於 テ ハ 彈 力 纎 維 及 ビ筋纎 維 ハ 全 ク缺 如 シ, Van Gieson氏 染 色 ニテ赤 染 ス ル 膠 質 状 纎 維 ノ ミ ヨ リナ ル(第3,第5圖 參 照). 嚢 腫 ノ上 下 極 ニ近 キ兩 部 ニ於 ケ ル 横 斷 組 織 標 本 ニ於 テ ハ,外 頸 靜脉 ハ 全 ク正 常 所 見 ヲ呈 シ,嚢 腫 内腔 ト ノ 交 通 ヲ證 明 セ ズ シ テ嚢 腫 壁 上 ヲ走 行 セ リ(第2,第6圖 參 照).第5圖
嚢腫 中央部橫斷嚢腫壁 一部組織標本
外 頸 靜 脉 ハ 嚢 腫 内 腔 ト全 ク 相 交 通 シ, 外 頸 靜 脉外 壁 ハ 嚢 腫 壁 ノ一 部 ヲ 作 ル. (Weigert氏 染 色,擴 大Zeiss接 眼K5, 接 物 ×10,蛇 腹 距 離20cm)第6圖
嚢腫 上極 ニ近 キ部 ノ橫斷 嚢 腫 壁 一 部組 織 標 本
コ ノ部 ニ 於 テ ハ 外 頸 靜 脉 ハ 嚢 腫 内 腔 ト 交 通 セ ズ.嚢 腫 壁 中 ヲ 走 行 ス. (「 ヘ マ トキ シ リ ン.エ オ ジ ン」染 色,擴 大Zeiss 接 眼K5,接 物 ×10,蛇 腹 距 離20cm)以 上 所 見 ヨ リ考 察 スル ニ,該 嚢 腫 ハ 外 頸 靜 脉 ノ分 岐 點 ニ 發生 セ ル血 嚢 腫 ニ シ テ,コ ノ外 頸 靜脉 幹 トハ 稍 々廣 汎 ナ ル 内腔 交 通 ヲ有 シ,夂 ソ ノ嚢 腫壁 中 ニモ 少量 ノ彈 力纎 維 ヲ有 ス ル 事 及 ビ嚢 腫 内 ニ ハ毫 モ 彈 力 纎 維 ヲ認 メザ ル ヲ以 テ,カ カ ル嚢 腫 ハ外 頸 靜脉 分 岐 點 ニ於 テ,靜 脉壁 ノ一 部 ガ 膨隆 シ發 生 セ ル靜 脉 瘤 ノ 一 種 ニ シテ,尚 ホ又 嚢 腫 上 方 一 部 ノ2房 ヨ リナレ ル 所 以 ニ就 キ テ ハ,小 房 ハ 内上 方 ヨ リ浸 入 セ ル靜 脉 擴 張 ニ依 リ,大 房 ハ外 頸 靜脉 幹 擴 張 ニ依 リタル モ ノ ニ シテ,コ ノ隔 壁 ハ下 方 ニ行 ク ニ從 ツテ 消 夫 シ相 合 シ 一 大 空 洞 ヲ作 レ ル モ ノナ リ.而 モ嚢 腫 中央 部 内側 ニ 於 テ ハ 嚢 腫 壁 中2, 3ノ 小 房 ヲ認 メ,恐 ラ ク靜 脉 壁 一 部 ニ畸 形 ノ存 セ シモ ノナ ル事 ヲ推 定 セ シ ム.
第3章
文 獻 及 ビ 考 察
第1節
成 因 及 ビ分 類
本 患 者 ニ於 テ ハ 上 述 所 見 ニ據 ル ニ,ソ ノ左 頸 部 腫 瘍 ハ 極 メテ 稀有 ナ リ トセ ラ レ タル血 嚢 腫 ノ一 種 ニ シ テ,左 側 外 頸 靜脉 分 岐 點 ニ 發生 セ ル モ ノナ ル事 ハ 明 カ ナ リ.然 ラバ コ ノ血嚢 腫 ハ如 何 ナ ル成 因 ニ基 ク モ ノ ナ ル ヤ.ソ ノ本 態 ニ關 シ次 ニ考 察 セ ン トス. 前 述 セ ル如 ク,血 嚢 腫 ナ ル名 稱 ハ,靜 脉 内腔 ト直 接 交 通 シ,又 ハ 之 トノ連 絡遮 斷 セ ラ ル ル モ之 ト關 係 ヲ有 ス ル嚢 腫 ニ シテ,且 ソ ノ内容 物 ト シテ比 較 的 新 鮮 ナ ル 靜脉 血 又 ハ 血液 凝 塊 ヲ有 ス ル モ ノ ノ總 稱 ニ シ テ,既 ニSpannausノ 唱 ヘ タル 如 ク,病 理 學 的,組 織 學 的 根 據 ヲ有 セ ザ ル1ノ 臨 牀 名 ナ リ.故 ニ該 疾 患 ハ 病 理學 的 及 ビ組 織 學 的 ニ獨 立 セ ル1箇 ノ疾 患 ナ ラ ズ シテ,種 々 ナ ル 成 因,種 々 ナ ル 病變 ニ隨 伴 シテ 發 生 スル 事 モ明 カ ナ リ,サ レバ 古 來 血 嚢腫 ナ ル 名稱 ノ 下 ニ記 載 セ ラ レ タル モ ノ ノ分 類 ニ至 リテ ハGluck, Gurltソ ノ他 幾 多 ノ諸 大 家 ニ依 リ試 ミラ レタル モ, ソ ノ症 例 僅 少 ナ ル事 及 ビ ソ ノ成 因 ノ單 一 ナ ラザ ル事 ヨ リ,今 尚 ホ完 全 セ リ ト云 フ ヲ得 ズ. Lexerハ 之 ニ 眞 性 及 ビ假 性 血 嚢 腫 ヲ分 チ,又1909年Spannausハ 更 ニ之 ヲ成 因 的 ニ細 別 シ,次 ノ如 ク分 類 セ リ. 1) 眞 性 血 嚢 腫 a) 胎 生 期 發育 防遏 ニ因 ル畸 形:主 トシテ 頸 部 ノ比 較 的 大 靜脉 例 ヘバ 鎖 骨 下 靜 脉,内 頸 靜 脉,總 顏 面 靜 脉 等 ヲ缺 如 シ,ソ ノ代 償 トシテ 該 位置 ニ近 ク血 嚢 腫 ガ存 在 シ,多 數 例 ニ 於 テ 附 近 靜 脉 ト密 接 ナル 關 係 ヲ 有 ス.例 ヘ バ 内 頸 靜 脉(Volkmann,Hucter-Gunther, Baiardi, Baruch, Bormanノ 第2例),外
頸 靜 脉(Deschin),鎖 骨 下 靜 脉(Koch),總 顏 面 靜 脉
(Bormanノ 第1例)ノ 如 シ.
b) 靜 脉 壁 ノ 部 分 的 擴 張:嚢 腫 ハ 母 血 管 ト直 接
ノ交 通 ヲ 有 ス ル カ,又 ハ ソ ノ 移 行 部 ガ 狹 窄 又 ハ 遮 斷
セ ラ ル ル モ 之 ト 密 接 ナ ル 關 係 ヲ 有 ス.例 ヘ バWill
Hey, Wolff-Baggerd, Kaller, Meyer-Alsberg, Gruber,
Volker u. Franke, Bennet, Kallenberger, Spannaus,
近 藤, Forst, Stern, Sussig, Zukschwerdt,北 浦 氏 等
ノ例 ハ 之 ニ 屬 シ主 ト シ テ 内,外 頸 靜 脉,總 顏 面 靜 脉, 鎖 骨 下 靜 脉 ニ 發 生 セ リ. 2) 非 眞 性 血 嚢 腫 a) 腮 弓 嚢 腫 ヨ リ發 生 ス ル モ ノ: Gluckハ 同 氏 ノ 例 ニ 於 テ,腮 弓 後 部 閉 鎖 不 完 全 ニ シ テ,頸 靜 脉 ノ缺 損 部 ヲ 通 ジ テ 交 通 シ,靜 脉 血 ヲ 充 セ ル モ ノ トナ セ リ. b) 血 管 腫 ヨ リ發 生 ス ル モ ノ:海 綿 状 血 管 腫 ノ 障 壁 ガ 消 失 シ テ 嚢 腫 ヲ 作 ル.例 ヘ バVirchow, Bell,
Broca, Linke, Stenderer, Cramer, Webster, Sauer
(子 宮 底), Kronlein, Volkmann, Volker u. Franke, Spannaus, Eilers等 ノ報 告 ア リ.
c) 淋 巴 管 腫 ヨ リ愛 化 發 生 ス ル モ ノ: 嚢 状 淋 巴
管 腫 ガ 附 近 靜 脉 ト交 通 シ,二 次 的 ニ 血 嚢 腫 ヲ 作 ル.
例 ヘ バNasse, Weil, Spannaus, Finsteberノ 例 ハ 之
側頸部 血嚢腫 ニ就テ
1735
d) 先 天 性 淋 巴 腺 畸 形: Buyerノ1例. 上 述 セ ルSpannausノ 分 類 ハ,血 嚢腫 ナ ル 總稱 的 疾 患 ヲ,稍 々 學 術 的 ニ又 發 生 學 的 ニ ソノ本 態 ヲ關 明 シ タルモ ノ ニ シテ,現 今 尚 ホ引 用 セ ラル ル分 類 ナ リ トス. 予 ノ症 例 ハ上 述 分 類 ノ何 レニ屬 ス ベ キ カ.予 ノ症 例 ニ於 テハ 血嚢 腫 ハ外 頸 靜脉 壁 ニ密 接 附 着 シ,而 モ 之 ニ接 セ ル 面 ニ於 テ ハ 内腔 ハ互 ニ廣 汎 ナル 交 通 ヲ有 シ,交 通 部 ニ於 テ ハ 靜脉 壁 ハ缺 損 シテ 外 頸 靜 脉壁 一 部 ガ膨隆 シテ 血 嚢腫 ヲ作 レル モ ノナ ラ ン事 ハ 肉 眼 的 所 見 ヨ リモ推定 セ ラル.更 ニ嚢 腫 ヲ組 織 學 的 ニ檢 索 ス ル ニ,嚢 腫 壁 ハ極 メテ少 許 ノ彈 力纎 維 ヲ有 シ,靜 脉 壁 一部 ノ擴 張 シテ 發生 セ ル モ ノナ ル事 ヲ思 ハ シム. 而 モ嚢 腫 内容 ノ血液 ハ 大 部分 凝 固 シテ血 栓 ヲ作 リ, ソ ノ一 部 ハ 器質 化 シ結 締 織 化 ス ル ニ至 レ リ.尚 ホ本 例 ニ於 テ ハ嚢 腫 壁 内上 方 ハ數 多 ノ小 房 ニ分 レ,嚢 腫 壁 ノ畸 形 ヲ示 セ リ.之 ヨ リ考 祭 ス ル ニ,本 症 例 ハ 先 天 的 血 管壁 畸形 ヲ有 ス ル外 頸 靜脉 分 岐 點 ニ於 テ,外 頸 靜 脉 壁 ノ一 部 長 サ 約1cmガ 靜脉 瘤 状 ニ膨隆 シテ 發 生 セ ル血 嚢 腫 ニ シテ, Spannausノ 分 類 ニ從 ヘバ 眞 性 血嚢 腫 ノ中 ソ ノ第2類 即 チ靜脉 壁 ノ部 分 的 擴 張 ニ屬 シ,且 ソ ノ母 血管 トハ 直接 ノ交 通 ヲ有 ス ル モ ノ ナ リ. カ カ ル靜 脉 瘤 性 擴 張 ハ 如 何 ナ ル原 因 又ハ 動 機 ニ ヨ リ發 生 ス ル カ,ソ ノ發 生 原 因 ヲ探 究 セ ン トス. 抑 々靜 脉 瘤 ナ ル 疾 患 ハ,特 ニ下 肢 ヲ使用 スル勞 働 者 即 チ本 邦 ニ於 テ ハ 車 夫 下肢 ノ大 薔 薇 靜脉 ニ最 モ 多 ク見 ラル ル外,痔 核,精 系 靜 脉 等 ニ發 生 スル 事 ハ周 知 ノ事實 ナ リ.然 レ ドモ上半 身 ニ於 テ,靜 脉 血 ハ 主 ト シ テ 瓣 膜 裝 置 ニ依 ラズ,血 液 自箇 重 量 ニ依 リテ 還 流 シ, 鬱 血 ヲ起 ス ベキ誘 因 ノ殆 ド認 メ ラレザ ル頸 部 靜 脉 ニ 於 テ,靜 脉 瘤 ノ發生 ス ル 事 ハ極 メテ稀 有 ナ リ トス. 一 般 ニ靜 脉 瘤 ノ發生 原 因 ニ關 シテ ハ,從 來 多 數 諸 家 ニ依 リ研 究 サ レ タル モ,區 々 ソ ノ説 ヲ異 ニ シ,未 ダ 信賴 ス ベ キ定 説 ヲ見 ズ.古 來 ヨ リノ説 ハハ 靜 脉 瓣膜 不 全 説(Trendelenburg, Lowenstein etc.)ニ シ
テ,之 ニ 對 シ靜 脉 壁 ノ先 天 性 器 實 的 變 化(即 チ 彈 力
纎 維 減 少,筋 層 薄 弱)ヲ 有 シ,又 ハ カ カ ル 靜 脉 壁
變 化 ヲ 伴 ハ ズ シ テ,靜 脉 壁 構 造 ノ 先 天 的 纎 弱 ナ ル タ
メ 發 生 ス トナ セ ル 先 天 性 素 質 説(Orth, Rokitunsky,
Kramer, Kirchenberger, Sommer etc.)ア リ.尚 ホ
他 方 ニ 於 テ ハ 血 壓 説 ヲ 唱 フ ル モ ノ ア リ テSlavinski 等 ハ 靜 水 壓 説 ヲ, Hasebroekハ 動 水 壓 説 ヲ 主 張 セ リ. 又Kashimuraハ 血 管神 經 緊 張 度 ヨ リ 靜 脉 瘤 發 生 ヲ 説 明 セ ン トセ リ. 今 カ カ ル 説 ノ個 々 ニ 就 キ 紹 介 セ ン ト ス. Virchow ハ 血 管 壁 ノ 永 續 的 擴 張 ハ 病 的 變 化 ヲ 來 セ ル 血 管 壁 ニ 加 ハ ル 血 壓 作 用 ニ 基 因 ス ル 事 ヲ唱 ヘ,又Cornil,
Lesser, Epstein, Quenu等 モ 靜 脉 瘤 ハ 靜 脉 壁 ニ 何 等
カ ノ解 剖 學 的 病 變 ヲ有 シ,又 普 遍 的 靜 脉 擴 張 バ カ カ
ル 病 變 ヲ 有 セ ザ ル 事 ヲ 主 張 セ リ.又Billroth, Roki
tansky, Weber, Birch-Hirschfeld, Ziegler等 ハ 靜 脉 瘤
成 因 ニ ハ 血 管 壁 ノ 病 的 變 化 ガ 主 ニ シ テ,血 壓 亢 進 ハ 從 ナ ル 事 ヲ 唱 ヘ タ リ.カ カ ル 血 管 壁 ノ病 變 ニ 關 シ テ ハFischer, Kullenberger等 ハ 炎 症 説 ヲ 唱 ヘ,大 薔 薇 靜 脉 瘤 ニ 於 テ ハ,靜 脉 血 管 壁 炎 症 ニ依 リテ,小 圓 形 細 胞 浸 潤 ト共 ニ 筋 纎 維 及 ビ 彈 力 纎 維 ヲ 失 ヒ,代 償 ト シ テ 結 締 織增 殖 ヲ起 シ,コ ノ 部 ニ 靜 脉 瘤 ヲ 作 ル ト ナ シ,又 後 ニFischerハ 炎 症 ノ ミナ ラ ズ 肉 腫 ノ如 キ 血 管 壁 病 變 ニ依 リ テ モ 之 ヲ起 ス ト結 論 セ リ. Gruberハ 内 頸 靜 脉 ヨ リ後 方 ニ 向 ヒ,脊 椎 前 面 ニ 扁 平 索 状 物 ノ 存 在 セ ル ヲ見 テ,之 ガ 血 嚢 腫 發 生 ニ 關 係 セ ル 事 ヲ 推 定 シ,又Kallenbergerハ 外 頸 靜 脉 ニ 發 生 セ ル 靜 脉 瘤 ニ於 テ,靜 脉 瘤 上 極 ヨ リハ 外 頸 靜 脉,下 極 ヨ リハ4 小 靜 脉 ヲ 出 セ ル 所 謂Varix anastomomicumノ 成 因 ニ 關 シ テ,先 天 的 畸 形 ニ 因 ス ル 靜 脉 壁 纎 弱 ニ ソ ノ 因 ヲ 求 メ タ リ. Epsteinハ 靜 脉 瘤 成 因 ハ 血 壓 上 昇 ニ 基 キ 起 レ ル 筋 層 萎 縮 ニ 因 ル 抵 抗 減 少 ナ リ トナ シ, Orth ハ 單 ニ 機 械 的 原 因 ニ 因 リ 靜 脉 瘤 ヲ 作 リ,血 管 壁 炎 症 ハ 寧 ロ 副 産 物 ナ リ ト云 ヒ, Slaviuskyハ 各 個 人,各 年
齡 ニ因 ル 素 質 ニ加 フル ニ機 械 的 作 用 ニ ヨ ツテ之 ヲ起 ス ト主張 セ リ.又Schambaoherハ 血 管 壁 ノ筋 層,彈 力纎 維 ノ不規 則 ナ ル 發 育,配 列 ニ ヨル先 天 性 靜脉 壁 發 育 障 碍 ニ加 フル ニ,偶 發 セ ル異 常 血壓 亢進 ニ 因 リ 靜脉 瘤 ヲ起 スモ ノ トナ セ リ.特 ニBennetハ 外 頸 靜 脉 瘤 ニ就 テ ハ3型 ヲ分 チ,ソ ノ第2型 ハ 靜脉 分 岐 點 ニ血 嚢腫 ヲ作 ル事 ヲ記 述 シ,同 氏 ハ ソノ成 因 ハ血 管 壁 ノ先 天 的 畸 形 ニ基 ク モ ノ トナ セ リ. G. Backmann ハ 血 壓 ニ對 抗 ス ル血 管 壁 ハ之 ニ接 ス ル周 圍 組 織 ノ反 撥 作 用 ヲ受 クル ガ爲 ニ ソノ部 ノ靜 脉 壁 ハ(例 ヘ バ胸 鎖 乳 頭 筋,斜 角 筋 ニ接 ス ル頸 靜 脉 ノ如 シ)筋 層 菲 薄 ト ナ リ,之 ガ靜 脉 瘤 發 生 ノ原 因 トナル ベ キ事 ヲ主 張 シ, 又Lowensteinハ 靜 脉 瘤 ハ靜 脉 瓣 膜 ニ一 致 シテ 發 生 セル ヲ認 メ,次 ノ如 ク説 明 セ リ.即 チ通 常 若年 者 ニ ア リテ ハ, 2種 ノ靜 脉 型 ヲ有 ス ル モ ノ トナ シ,ソ ノ 1ハ 纎 弱 ナ ル筋 層 ヲ有 スル 靜 脉 竇 壁 膨隆 ニ シ テ,ソ ノ2ハ 靜脉 瓣膜 末 梢 部 ニ於 テ 筋 層 纎 弱 部 ア リ トナセ リ.而 シテ 第1型 ヲ有 ス ル モ ノハ 竇 部 擴 張(Sinus ektasie)ヲ,第2型 ヲ有 スル モ ノハ 瓣 膜 下 方 眞 性 靜 脉 瘤 ヲ起 ス ベ キ素 質 ヲ有 ス ル モ ノ ト説 明 セ リ. Forstハ 同 氏 ノ例 ニ ヨ リ,先 天 性 靜 脉 瘤 ハ靜 脉 壁 ノ先 天性 筋 層 發 育 不 全 性 畸 形 ニ因 リテ起 リ,又 頸 靜 脉 瘤 成 因 ハ 血 壓 上 昇 ニ基 キ 起 レ ル 筋 層 ノ萎 縮,抵 抗 減 少 ナ リ ト セ リ. Sussigハ 自 家例 ニ於 ケル靜 脉 瘤 ハ炎 症 ニ基 因 ス ル モ ノ ニ非 ズ シテ,寧 ロ外 傷 ニ因 リ圓形 細 胞 浸 潤 ヲ起 セ ル モ ノニ シテ,同 氏 ノ例 ニテ ハ先 天 性 素 質 ト シテ ノ靜 脉 壁 構 造 纎 弱 ニ起 因 ス ト唱 ヘ タ リ. Kashi muraハ 大 薔 薇 靜 脉 瘤 成 因 ニ關 シ神經 説 ヲ主 張 シ, 靜脉 ハ 管 壁 ノ血 管 網 ニ血 液 ヲ充 滿 シ,以 テ 他 臟 器 ト 同 樣 ノ緊 張 度(Tonus)ヲ 有 ス ル モ ノ ニ シテ,血 管 神 經 刺 戟 ニ因 ス ル 自 家 靜脉 壁 血 管網 ノ永 續 性 鬱 血 ニ因 リテ 靜 脉 壁 筋 層 ノ萎 縮 消 失 ヲ起 シ,血 壓 ニ對 ス ル 抵 抗 ヲ失 ツテ 擴 張 ス ル モ ノ ト唱 ヘ,コ ノ際 彈 力纎 維 減 少 ヨ リ モ寧 ロ神 經 筋 性 緊 張 力失 墜 ヲ主 因 トナ セ リ. 又Hasebroekハ 同 氏 ノ實 驗 的研 究 ヨ リ,先 天 性 靜 脉 瘤 ノ成 因 ニ關 シテ ハ 靜 水 壓 又 ハ 瓣膜 不全 説 ヲ排 シ, 動脉 搏 動作 用(Arteriopulsatorische Wirkung)ニ 依 リ強 メ ラ レ タル流 出 入 血 液 量 失 調 ニ因 ル失 調 循 環 (Circulus vitiosus)ニ 因 ル モ ノ トナ シ,次 ノ如 ク主 張 セ リ. 即 チ1)流 出 及 ビ流 入 靜 脉 血 液 量失 調 ニ依 リ,強 カ ナル 動 水 性 作用(hydraulische Stromstosswirkung) ヲ有 ス ル中 樞 堰 止 ヲ起 ス. 2)カ カ ル 作用 ノ反 覆 ハ 解 剖 的,生 理 的 好 發 部 位(比 較 的 狹 隘 ナル 瓣膜 附着 部)ノ 局 所 性 靜脉 擴 張 ヲ起 ス. 3)一 定 大 ノ靜脉 瘤 ニ達 セ バ,四 壁 ニ對 ス ル壓 迫 緊 張 ニ依 リ,原 形 ニ復 ス ル事 ハ 不能 トナ ル. 4)カ ク シテ 靜脉 瘤 ガ發 生 シ, 鬱 血 ガ恒 久 性 トナ ル トキ ハ 循 環障 碍 ハ益 々 ソノ度 ヲ 高 ム. 以 上 靜 脉 瘤 發生 ノ成 因 ニ關 シテ ハ,諸 説 紛 々 トシ テ枚 擧 ニ遑 ナ シ.之 ガ 確定 ハ未 ダ將 來 ノ實 驗 ニ俟 ツ ベキ モ ノ多 シ.サ レ ド予 ハ 思 フニ,靜 脉 瘤 成 因 ハ單 一 ノモ ノニ非 ズ.上 述 ノ如 キ諸 種 ノ原 因 ノ組 合 セ ニ 依 リテ 發 生 ス ル モ ノナ ラ ン ト信 ズ.予 ノ例 ニ於 ケル 外 頸 靜 脉 ノ靜 脉瘤 性 血嚢 腫 ノ成 因 ニ關 シ考 案 セ ン ニ 本 例 ニ於 テハ 未 ダ頸 部 ニ認 ム ベキ外 傷 ヲ受 ケ タル事 ナ シ.即 チ外 傷 ニ因 ル 靜脉 壁 損傷 ニ原 因 ヲ求 ムル ヲ 得 ズ.然 レ ドモ勿 論 血 嚢腫 ヲ發 生 セ ル母 血 管 ト認 ム ベ キ外 頸 靜脉 ハ解 剖 的 ニ極 メテ 表 在 性 ニ シテ,外 傷 ヲ受 クベ キ機 會 ノ多 キ ヲ以 テ,衣 服 ノ襟 等 ニ依 ル摩 擦,壓 迫 ノ如 キ輕 度 ナ ル慢 性 外傷 性 影響 ハ 除外 シ得 ラ レザ ル ヲ以 テ,之 ニ依 リ血嚢 腫 發 生 ノ助 長 セ ラ レ タル 事 ハ 全 然 否 定 シ得 ラ レザ ル モ,尚 ホ之 ノ ミニ ソ ノ原 因 ヲ求 ム ル 事 ヲ得 ズ.又 瓣 膜 障 碍 ニ モ ソノ因 ヲ 求 ム ル ヲ得 ズ.唯 僅 ニ嚢 腫 壁 一 部 ニ 血 管 壁 畸 形 ト思 ハ ル ベ キ小 房 存 在 セ リ.故 ニ本 例 ニ於 ケ ル 靜脉 瘤 性 血 嚢 腫 ノ發 生 ハ,靜 脉 壁 構造 ガ 先天 的 ニ病 的 ナ ル事 即 チ血 管壁 構 造 ノ纎 弱 ニ シテ 畸 形 的 發 育 ヲ ナ セル 事 ガ 主 因 タル事 ガ推 定 セ ラ ル.尚 ホ肉 眼 的 所 見 ニ明 瞭 ナ ル如 ク,血 嚢 腫 部 ハBennetノ 第2型 ニ合 致 シ,
側頸 部血嚢 腫 ニ就テ
1737
上 方2靜 脉 ノ合 致 點(外 頸 靜脉 分 岐 點)ナ ル ヲ以 テ, 末 梢 部 ヨ リ合 流 ス ル流 入 靜脉 血液 ト總 頸 靜脉 ニ通 ズ ル外 頸 靜 脉 ノ流 出 靜脉 血 液 トニ於 テ量 的 不均 衡 ヲ來 シ,即 チ鬱 血 ニ依 リテ 先 天的 素質 的 ニ纎 弱 ニ シテ 病 的 ナ ル 靜脉 壁 ハ,過 剩 靜脉 血 ノ壓迫 ニ堪 ヘ ズ シテ 擴 張 シ,後 天 的 ニ 靜脉 瘤 ヲ作 レル モ ノ ト云 フ ヲ得 ベ シ. 而 シテ嚢 腫 ハ靜 脉 側 方 ニ生 ジ,血 液 ノ流 出 入 甚 ダ シ カラ ザ ル 爲,内 部 ニ血栓 ヲ形 成 セ ル モ ノナ ラ ン. 要 ス ル ニ予 ノ症 例 ニ於 ケル 靜 脉 瘤 性 血 嚢 腫 發 生 原 因 ニ關 シテ ハ,先 天 的 靜 脉 壁 畸 形 的 發 育 ニ因 ル抵 抗 減 弱 ガ一 因 トナ リ,之 ニ加 フル ニ解 剖 學 的 關 係 ヨ リ 考 察 セ ラル ル 靜脉 分 岐 點 ニ於 ケル 鬱 血 等 ノ機 械 的 原 因 ノ參 加 ニ依 リテ,後 天 的 ニ靜 脉 壁 一 部 ガ 膨隆 シテ 發 生 セ ル眞 性 血 嚢腫 ナ ラ ン ト信 ズ.第2節
臨 牀 的 事 項
症 状 及 ビ豫後 頸 部 血嚢 腫 ノ豫 後 ハ一 般 ニ佳良 ナ リ ト セ ラ ル.而 シ テ 自 覺 的 症 状 モ ー 般 ニ 僅 少 ニ シ テ, 多 ク ハ 何 等 ノ訴 ヲ モ 有 セ ザ ル ヲ 以 テ,患 者 ノ醫 ヲ 訪フ者 僅 少 ナ リ.僅 ニLusena, Finsterer, Gluck, Vol
kmann, Zukschwerdt,北 浦 氏 等 ノ 例 ニ於 テ ハ 局 部 ニ 疼 痛 ヲ 訴 ヘ,又Volkmannノ 例 ニ 於 テ ハ 頸 部 運 動 障 碍 ヲ 訴 ヘ タ リ ト云 フ.又Hueter, v. Langenbeck, Eilers等 ノ例 ニ 於 テ ハ 上 膊神 經 叢 ヲ 壓 シ テ 上 肢 ノ異 常 感 ヲ 訴 ヘ タ リ ト云 ヒ,又 頸 部 血 管 ヲ 壓 迫 シ テ 顏 面 鬱 血,浮 腫 等 ヲ 起 ス 事 ア リ ト云 フ モ,何 レ モ カ カ ル 障 碍 ハ 僅 少 ニ シ テ 重 篤 ナ ル モ ノ ニ非 ズ. Eilersニ 依 レバ 自 覺 的 障 碍 ノ 著 シ カ ラ ザ ル 事 ハ 嚢 腫 ノ柔 軟 性 及 ビ 屈 曲 性(Nachgiebigkeit)ニ 因 ル ト云 フ.唯Kramer ノ 例 ニ 於 テ ハ 白 血 球 自 家 融 解 ニ 因 リ,發 熟,食 慾 減 退,惡 心,嘔 吐 等 ノ全 身 症 状 ヲ呈 セ シ モ,血 嚢 腫 剔 出 ニ ヨ リカ カ ル 症 状 ヲ 治 癒 セ シ メ タ リ ト云 フ.サ レ ド カ カ ル 全 身 障 碍 ヲ有 セ シ例 ハ 極 メ テ 稀 有 ナ リ トセ ラ レ,一 般 ニ血 嚢 腫 ノ豫 後 ハ 佳 良 ニ シ テ,數 年 間 放 置 ス ル モ增 惡 セ ザ ル モ ノ ト ス.故 ニ 患 者 ノ多 ク ハ 唯 外 觀 上 之 ヲ顧 慮 シ テ カ カ ル 醜 塊 ヲ整 形 的 ニ 除 去 セ ン 事 ヲ 乞 ヒ テ 醫 ヲ 訪 ル ル モ ノ ナ リ ト ス.予 ノ 例 ニ 於 テ モ,何 等 自 覺 的 障 碍 ハ 訴 ヘ ザ リ シモ,外 觀 上 之 ニ 關 心 シ,且 結 核 性 膿 瘍 ナ ラ ズ ヤ ヲ 疑 ヒ テ 之 ガ 根 治 手 術 ヲ 求 メ タ ル モ ノ ナ リ. 診 斷 血 嚢 腫 ハ ソ ノ稀 有 ナ ル 事 及 ビ 發 生 原 因 ノ種 種 ナ ル事 ヨ リ,ソ ノ診 斷 モ比 較 的 難 事 ナ リ.大 靜 脉 管 腔 ト直 接 交 通 ヲ有 ス ル モ ノニ於 テ ハ,下 肢 靜 脉 瘤 ニ見 ル ガ如 ク腫 瘍 ノ被 壓縮 性 ヲ有 シ,之 ヲ壓 ス ル 時 ハ 腫 瘍 ハ ソ ノ容 積 ヲ減 ジ,又 ソ ノ中樞 側 ヲ壓 ス ル ト キハ再 ビ膨隆 ス ル所 謂Trendelenburg氏 徴 候 ヲ有 ス ル ヲ以 テ,ソ ノ診 斷 ハ比 較 的 容 易 ナ ル モ,カ カ ル症 候 ノ明 瞭 ナ ラザ ル モ ノ,或 ハ靜 脉 管 腔 トノ交 通 遮 斷 サ レ タル モ ノニ於 テ ハ,腫 瘍 ノ限 局 性,波 動 ソノ他 ニ依 リテ,嚢 腫 ナ ル 事ハ 診 斷 シ得 ル モ既 ニ緖 言 ニ 述 ベ タル如 ク,頸 部 ニハ 多 種 ナ ル 嚢 腫 發生 ス ル ヲ以 テ, ソノ鑑 別 ハ通 常 診 斷 法 ノ ミニ依 リテ ハ 至 難 ナ リ.之 ガ鑑 別診 斷 ニ ハ穿 刺 ニ依 リテ ソノ内容 ヲ 吸 引 シ,陳 舊 性又 ハ比 較 的 新 鮮 ナ ル血 液 ヲ得 タル 時ハ 最 モ確 實 ナ リ.又 動脉 瘤 トハ 腫 瘍 搏 動 ノ有 無 ニ依 リテ容 易 ニ 區 別 シ得 ベ シ.而 シテ 血 嚢 腫 ノ本 態 診 斷 ヲナ ス ニ當 リテ ハ,之 ヲ手 術 ニ依 リ剔 出 シ,以 テ 顯 微 鏡 的檢 査 ヲ行 ハザ ル ベ カ ラズ. 療 法 療 法 トシテ 現 令 迄 擧 ゲ ラ レ タル モ ノ次 ノ如 シ. 1) 穿 刺 2) 穿 刺 後 藥 劑 注 射 3) 壓 迫 4) 切 開,「 タ ンポ ン」.又 ハ 燒 灼 5) 剔 出 上 述諸 療 法 中 穿 刺,注 射 等 ニ 依 リテ ハ 素 ヨ リ根 治 ヲ 望 ム ベ カ ラ ズ.特 ニ穿 刺 ニ依 リテ ハ 全 治 ハ 望 ミ難 ク, Gunther(1877)ノ 統 計 ニ 據 レバ7例 中4例 ハ
再 發 シ,又Warren (1839)ノ 例 ノ如 キ ハ 穿 刺 ニ 依
リ炎 症 ヲ 起 シ 頸 部 瘻 孔 ヲ 作 レ リ ト云 フ.又 穿 刺 後 沃
度 劑(Michaux, Holmes Coote),「 カ ル ボ ー ル 」,又 ハ 硝 酸 銀 又 ハ 一 半 「ク ロ ー ル 」鐵 液 ノ 如 キ 止 血 劑(v . Langenbeck)等 ノ 藥 劑 注 入 ノ 如 キ ハ,血 嚢 腫 ガ 大 靜 脉 ト ノ交 通 ヲ 有 ス ル 時 ハ 血 栓 形 成 ノ恐 レ ア リテ,極 メ テ 危 險 ナ ル 方 法 ナ リ ト シテ 排 除 セ ザ ル ベ カ ラ ズ. Kaczanowskyハ 生 後4箇 月 ノ小 兒 ノ超 手 拳 大 血 嚢 腫 ニ 壓 迫 療 法 ヲ 試 ミテ, 6年 間 ノ長 年 月 觀 察 ノ後 治 癒 セ シ メ タ リ ト云 フ モ,カ カ ル 療 法 モ ソ ノ效 果 ハ 不 確 ナ リ.切 開,「 タ ン ポ ン」又 ハ 烙 鐵 燒 灼(v. Langenbeck) ノ如 キ モ,後 出 血,血 液 傳 染 又 ハ空 氣栓 塞 ヲ起 ス可 能 性 ア リテ危 險 ナ リ.最 安 全 ニ シテ 根 治 的 效果 ヲ有 ス ル モ ノハ剔 出 手術 ニ シテ,既 ニSiebold (1805)ハ 之 ヲ試 ミテ 好 結果 ヲ得 タ リ.マ シテ 手 術 ニ依 ル危 險 及 ビ傳 染 ノ極 度 ニ減 少 セ ル今 日 ニ於 テ ハ,剔 出 手 術 ヲ以 テ 最理 想 的療 法 ナ リ ト云 フ ヲ得 ベ シ.唯 剔 出 手 術 ニ際 シ最 注 意 ス ベ キハ 空 氣 栓 塞 ノ危險 ニ シテ,之 ガ 發生 ヲ豫 防 ス ル ニ ハ可 及 的 嚢腫 壁 ヲ破 損 セザ ル事 ヲ要 ス ル ヲ以 テ,周 圍 組 織 ヨ リ鈍 的 ニ剥離 シタ ル後, 豫 メ流 出入 ヨル血 管 ヲ結 紮 シ タル後,嚢 腫 ヲ剔 出 ス ル ヲ以 テ良 法 タル ベ シ ト信 ズ.
第4章
總 括 及 ビ 結 論
予 ハ約9箇 月 前 ヨ リ左 側 頸 部 ニ拇 指 頭 大 ノ,柔 軟 波 動 性腫 瘍 ノ發 生 セル ヲ主 訴 トシテ來 診 セ
ル44歳
ノ女 性 ニ就 テ檢 索 シ,之
ヲ手 術 ニ依 リ剔 出 セル ニ,該
腫 瘍 ハ比 較 的稀 有 ナ リ トセラ レ
タル 頸 部血 嚢 腫 ナ リシヲ以 テ,之 テ茲 ニ報 告 セ リ.
該 嚢 腫 ハ肉 眼 的 ニ檢 スル ニ,外 頸 靜脉 分 岐點 ニ發 生 シ,外 頸 靜 脉 管 トハ約1cmノ
廣 汎 ナル
内 腔交 通 ヲ有 シ,他 ノ靜 脉 枝 ハ斜 内 上方 ヨ リ直接 嚢腫 内 上隅 ニ侵 入 シ,嚢 腫 中 ニハ陳 舊 性 血液
及 ビ凝 塊 ヲ充 滿 セ リ.
組 織 學 的 ニ檢 ス ル ニ,嚢 腫 ハ1ツ ノ大 ナル 空 洞 ヲ有 シ,内 部 ニ ハ血液 及 ビ新 舊 血 栓 ヲ充 シ,
血栓 ノ一 部 ハ器 質 化 セ リ.嚢 腫 壁 ハ筋 層 及 ビ彈 力纎 維 ニ乏 シキ薄 キ結 締 織 ヨ リナ リ,内 面 ハ 内
被 細 胞 ニ依 リ被 ハ レ,嚢 腫 中 央 部 ニ於 テハ 嚢 腫 ト外 頸 靜 脉 ハ直接 ノ内腔 交 通 ヲ有 ス.尚 ホ 一部
ノ嚢腫 壁 中 ニハ 内 被 細 胞 ニ被 ハ レタル少 數 ノ小房 ヲ有 シ,嚢 腫壁 ノ畸 形 的 發 育 ト見 ラル ル 部 ア
リ.
本 例 ニ於 ケル 血 嚢 腫 ノ本 態 ハ,外 頸 靜脉 ノ分 岐點 ニ於 テ,ソ ノ血 管 壁 一 部 ノ膨隆 シテ發 生 セ
ル 靜 脉 瘤 ノ一種 ニ シテ, Spannausノ
分 類 ニ從 ヘ バ,眞 性 血嚢 腫 ノ第2類
ニ該當 セ リ.
之 ガ發 生原 因 ニ關 シテ ハ,靜 脉 壁 ノ先天 的 素質 的 ニ ソノ構 造 纎 弱 ニ シテ且 血管 壁 畸形 ヲ有 ス
ル 事 ガ素 因 トナ リ,加 之解 剖 的 ニ同 發 生 部 ガ靜脉 分 岐點 ニ一 致 セル爲 流 出 流 入 靜脉 血液 ノ量 的
不均 衡 即 チ鬱 血等 ニ依 ル後 天 的機 械 的要 素 ガ直接 ノ誘 因 トナ リテ,抵 抗 減 弱 セル 血管 壁 一部 ヲ
内 部 ヨ リ壓 迫 膨隆 セ シメ,後 天的 ニ血 嚢 腫 ヲ發 生 セル モ ノナ ラ ン ト信 ズ.
血 嚢腫 ノ豫 後 ハ一 般 ニ良好 ニ シテ,自 覺 症状 モ輕 微 ナ リ.之 ガ診 斷 ハ穿 刺 ヲ最 確 實 トナ シ.
又 療法 ハ剔 出 ヲ以 テ萬 全 ノ策 ナ リ ト信 ズ.
擱筆 ニ臨 ミ,御 懇篤 ナル御指導 ト御校閲 トヲ賜 ハ リシ恩師津田敎授ニ深謝 ス.
側頸部血嚢腫 ニ就テ
1739
主 要 文
獻
1) Baiardi,
Centrailbl. f. Chirurg., Jg. 5, Nr. 44, S. 750, 1878.
2)
Borman, W. L., Centralbl. f.
Chir., Jg. 24, Nr. 49, S. 1274, 1897.
3)
Deschin, A., Centralbl. f. Chir., Jg. 23, Nr. 40, S. 944, 1896.
4)
Eilers,
Dentsche Zeitschr. f. Chir., Bd. 223, S. 270, 1930.
5)
Epstein, S., Virchow's Arobiv f. path.
Anat. u. Physiol., Bd. 108, S. 103, 1887.
6)
Finsterer, H., Med. Klinik., Jg. 21, Nr. 4, S. 124, 1925.
7)
Fischer, B., Ziegler's Beitrage z. path. Anat. u. z. allg. Path. Bd. 27, S. 494, 1900.
8)
Forst, A. W.,
Frankfurter
Zeitschr. f. Path, Bd. 17, S. 137, 1915.
9)
Gluck, Deut. med. Wochenschr., Bd. 12, S. 70,
1886.
10)
Gruber, W., Virchow's Arch. f. path. Anat. u. Physiol., Bd. 65, H. 2, S. 227, 1875.
11)
Gunther, O., Deut. Zeitschr. f. Chir., Bd. 8, S. 451, 1877.
12) Hasebroek, K.,
Frankf. Zeitschr, f. Path.,
Bd. 22. H. 1, S. 102, 1919.
13) Hueter,
Verhandl. d. Deuts. Gesellsob. f. Chir., S. 30, 1877.
14)
Kaczanowsky, P.,
Deut. Zeitschr. f. Chir. Bd. 44, S. 409, 1897.
15) Kallenberger,
W., Virchow's
Arch., Bd. 180, S. 130, 1905.
16)
Kashimura, S., Virchow's Archiv., Bd. 179, S. 373, 1905.
17)
北 浦 保 憲,滿 洲 醫 學 雜 誌,第14卷,第6號, S. 769,昭 和6年. 18) Koch, W., Langenbeck's Arch. f. klin. Chir., Bd. 20, S. 561, 1876. 19) 小 島 浦 三郞,醫 學 中 央 雜 誌,第2卷, S. 1.(抄 録),明 治37年. 20) 近 藤,福 島,宇 野,醫 學 中 央 雜 誌,第10卷, S. 54.(學 會),明 治45年. 21) 河 本 重 次郞,日 本
眼 科 學 會 雜 誌,第15卷, S. 1328,明 治44年. 22) Lowensten, A., Mitteil. u. d. Grenzgeb. d. Med. u.
