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研究の背景ヒトや動物は 外部からの情報に基づいてさまざまな選択を行わなければいけません 例えば 何を食べるか どこに行くか 誰と夫婦になるか などです この 情報に基づいた選択 は 重要な脳機能の1つである 意思決定 のシンプルな形であると考えられています 神経科学における 意思決定 の定義としては

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Academic year: 2021

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平成29年5月22日 分野: 生命科学・医学系 キーワード: 脳機能、行動、神経活動、イメージング 【研究成果のポイント】 ◇ バーチャルな匂い空間での線虫の神経活動と行動を同時に測定するロボット顕微鏡「オーサカベン2」 を開発 ◇ 測定結果を数理モデルなどで解析することで、線虫の神経細胞が匂い濃度の情報を積分注1によって蓄積 して「意思決定」注2を行っていること、およびその遺伝子を発見 ◇ ヒトに近いサルやネズミが必要な情報を蓄積して「意思決定」を行うことが知られていたが、その仕組 みは分かっていなかった ◇ 今回発見した遺伝子に類似した遺伝子はヒトにも存在するため、この遺伝子はヒトの「意思決定」に も重要な役割を果たしている可能性がある

 概要

大阪大学大学院理学研究科の谷本 悠生特任研究員と木村幸太郎准教授 らの共同研究チームは、線虫 C. エレガ ンス注3が嫌いな匂いから遠ざかるために 「意思決定」を行うこと、この意思決定の ために特定の神経細胞が匂い濃度の情 報の積分を計算して濃度情報を蓄積す ること(図1)、さらにこの積分に関わる遺 伝子がヒトにも存在する重要な遺伝子 (L 型電位依存性カルシウムチャネル注 4)であることを発見しました。 これまで、意思決定の脳内メカニズ ムはサルやネズミを中心にして様々な 研究が行われており、神経細胞が情報 を蓄積して意思決定を行うことが明らか になっていますが、そのための遺伝子は 明らかになっていませんでした。 今回、本研究グループにより、線虫がサルやネズミと類似した仕組みで意思決定を行っている可能性が発見された ことから、線虫の「意思決定遺伝子」に似た遺伝子がヒトの意思決定にも関与している可能性が明らかになりました。 本研究の成果は、日本時間 2017 年 5 月 23 日(火)16 時に、英文生命科学誌「eLife」においてオンライン公開さ れます。(報道解禁設定はありません。)

「意思決定」のための遺伝子を線虫から発見

高等動物と共通した「情報の積分」による意思決定

図1 匂い忌避行動中の線虫 C. エレガンスの微分的・積分的な神経活動。嫌いな匂いが 作る勾配を模式的に表している。嫌いな匂いの方向へ向かって移動を始めると、嫌い な匂い濃度が上昇するという「好ましくない刺激変化」が生ずる事になる。この場合、 特定の神経細胞が匂い濃度の微分によく似た神経活動を示し、C. エレガンスは連続 した方向転換を素早く始める。この方向転換の際にたまたま正しい方向に進み始める と、嫌いな匂い濃度が減少するという「好ましい刺激変化」が生ずる事になる。この 時、別の神経細胞が匂い濃度変化の積分によく似た神経活動を示し、この値が一定 に達した時に、方向転換が抑えられ、その方向への直進に切り換わっていた。

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 研究の背景

ヒトや動物は、外部からの情報に基づいてさまざまな選択を行わなければいけません。例えば、何を食べるか、どこ に行くか、誰と夫婦になるか、などです。この「情報に基づいた選択」は、重要な脳機能の1つである「意思決定」のシン プルな形であると考えられています。神経科学における「意思決定」の定義としては、(1) 連続的に変化する刺激情報 に基づいて、何か一つの行動だけを選択する事、(2) 情報がはっきりしていればすぐに選択するが、情報がはっきりして いないと時間が掛かる(すなわち「慎重に考える」)、という2点を満たす事が主に考えられています。これら意思決定の 特徴が、脳内のどのような神経活動に基づいて行われているかという研究は、ヒトに近いサルやネズミを用いてさかん に行われていました。しかし、これら動物の神経細胞は何百億以上もあるために解析が困難であり、詳細な仕組みは 明らかになっていませんでした。

研究の成果

今回、研究チームは、神経細胞がわず か 302 個しかない線虫が、「意思決定」を 行う事、この意思決定において刺激の「積 分」を行って濃度情報を蓄積している事、 さらにこの「積分」を行うための遺伝子を発 見しました。 まず、研究チームは、2-ノナノンという嫌 いな匂い物質から線虫が逃げる時は、他の 刺激に比べてより正しい方向を選んで逃げ ているように見える事を発見しました。次 に、線虫がどのように匂いを感じて逃げる方 向を選んでいるのかを調べるために、研究 チームは仮想の匂い勾配を作り出しながら 線虫を自動的に追いかけて神経活動を測 定するロボット顕微鏡「オーサカベン 2」(図 2)を作成し、匂いと神経活動と行動の関 係を調べました。特に、匂い濃度の上昇ま たは減少を感ずる神経細胞の活動を、細 胞活動を反映することが知られているカル シウム濃度として測定し、さらにその結果を数理モデルを用いて解析しました。 その結果、嫌いな匂い濃度の上昇を感ずる神経細胞は、わずかな匂い濃度上昇を「微分」によって大きく検出し、 逆走や方向転換をすばやく始めていました。逆に、匂い濃度の減少を感ずる神経細胞は、匂い濃度の減少を一定時 間積み重ねる「積分」を行い、この値が一定に達した時にその方向にまっすぐに逃げる、ということが分かりました。すな わち、嫌いな匂い濃度上昇という好ましくない変化の時はわずかな変化に対して敏感に反応して素早くその方向へ進 むことを中止し、一方、嫌いな匂い濃度減少という好ましい変化の時は時間を掛けて見極めてから慎重にその方向へ 進むことを選択していました。(人間に例えると「危ない話はすぐに拒否する」、「おいしい話にはすぐには飛びつかない」 ということです。) 図2 ロボット顕微鏡「オーサカベン 2」の模式図。昨年5月に発表したロボット顕微鏡「オー サカベン」の改良版。

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研究チームは、さらに「積分」と「微分」がどのように実現されているかを明らかにするために、幾つかの遺伝子を調べ ました。その結果、「積分」の際には、細胞の中と外を隔てる細胞膜上にある、1種類のカルシウム通路タンパク質(L 型 電位依存性カルシウムチャネル)を通して細胞の外からゆっくりとカルシウムが細胞の中に入ってくることで、匂い刺激 の変化が細胞活動として積み重ねられることが分かりました。一方、「微分」の際には上記以外にも様々なカルシウム 通路タンパク質が開くことで、素早くカルシウム濃度が上昇していることを示す実験結果が得られました。これらカルシウ ムチャネルはヒトにも共通しており、神経細胞活動に重要な遺伝子として知られていましたが、意思決定との関連は全 く明らかになっていませんでした。 すなわち、研究チームは線虫が「意思決定」のように匂い勾配において進行方向を選択している事、「意思決定」の ために匂い濃度の「積分」を神経細胞が行っている事、及び「積分」のための遺伝子を発見することができました。

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

サルやネズミを用いた意思決定の研究でも、脳の神経細胞が刺激の積分を行い、一定のレベルに達した時に行動 を選択している事が知られており、この仕組みは我々人間にも共通していると考えられています。この積分の仕組みは、 循環する神経回路の活動によって産み出されると考えられていますが、まだはっきりとは分かっていません。今回の発 見は、1つの神経細胞の中での「意思決定のための刺激情報の積分」という仕組みがヒトから線虫まで共通した遺伝子 によって実現されている可能性を明らかにしました。今後は、ヒトにおいてこの遺伝子と意思決定能力との関連を明ら かにすることなどが期待されます。

 特記事項

本研究成果は、2017 年 5 月 23 日(火)16 時(日本時間)に英文生命科学誌「eLife」(オンライン)に掲載されま す。(報道解禁設定はありません。)

タイトル:“Calcium dynamics regulating the timing of decision-making in C. elegans”(カルシウム動態は、C. エレ ガンスの意思決定のタイミングを制御する)

著者名:Yuki Tanimoto†, Akiko Yamazoe-Umemoto†, Kosuke Fujita, Yuya Kawazoe, Yosuke Miyanishi, Shuhei J. Yamazaki, Xianfeng Fei, Karl Emanuel Busch, Keiko Gengyo-Ando, Junichi Nakai, Yuichi Iino, Yuishi Iwasaki, Koichi Hashimoto, Koutarou D. Kimura*(†共筆頭著者、*責任著者)

DOI: https://doi.org/10.7554/eLife.21629 この研究は、文部科学省博士課程教育リーディングプログラム「生体統御ネットワーク医学教育プログラム」、日本 学術振興会特別研究員制度、科学技術振興機構さきがけプログラム、科学技術振興調整費「生命科学研究独立ア プレンティスプログラム」、科学研究費補助金(基盤研究(A))、新学術領域研究「分子行動学」「生物移動情報学」、 三菱財団、島津科学技術振興財団、武田科学振興財団などの支援の元に行われました。 また、本研究は以下の研究チームによって行われました。 --- 大阪大学大学院理学研究科 特任研究員 谷本悠生 大阪大学大学院理学研究科 特任研究員(*) 山添-梅本萌子 大阪大学大学院理学研究科 特任研究員(*) 藤田幸輔 大阪大学大学院理学研究科 大学院生(*) 川添有哉 大阪大学大学院理学研究科 大学院生(*) 宮西洋輔 大阪大学大学院理学研究科 大学院生 山崎修平

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大阪大学大学院理学研究科 准教授 木村幸太郎

東北文化学園大学知能情報システム学科 准教授 費仙鳳 英国エジンバラ大学 主任研究員 Karl Emanuel Busch

埼玉大学理工学研究科/脳末梢科学研究センター 特任教授 安藤恵子 埼玉大学理工学研究科/脳末梢科学研究センター 教授 中井淳一 東京大学大学院理学系研究科 教授 飯野雄一 茨城大学工学部 講師 岩崎唯史 東北大学大学院情報科学研究科 教授 橋本浩一 株式会社ホークビジョン(神奈川県藤沢市;代表取締役社長 森友一朗)ロボット顕微鏡の作製 エフアイエス株式会社(兵庫県伊丹市;開発戦略室 田中克之) 匂い濃度の測定装置の作製 (*) は、在籍時の最終身分。

 用語説明

注1)積分 時間に連れて変化する値(今回の場合は匂い濃度)の一定の時間の総和量。一方、「微分」とは、わずかな時間 あたりの「値」の変化量。 注2)意思決定 ある目標を達成するために、情報に基づいて複数の選択肢の中から最適なものを選ぶこと。元々は経営や軍事 で注目されていた考え方ですが、高度な脳の機能の1つとして、脳科学/神経科学で近年大きな注目を集めて います。 注3)線虫 C. エレガンス 神経、筋肉、腸、生殖器などを持つ体長1mm程度の糸状の小動物。プログラム細胞死やGFP(緑色蛍光タンパク 質)に関する研究などで、C. エレガンス研究者が3度ノーベル賞を受賞しています。さらに、神経細胞が構成する 神経回路が全て明らかになっている唯一の動物であり、脳研究のための最も単純な動物としても注目されていま す。 注4)L 型電位依存性カルシウムチャネル 神経細胞の活動とは、細胞の外と内との電気状態の差(膜電位)が変化することです。この膜電位の変化によっ て細胞の外から内へカルシウムだけを流入させる「通り道」を電位依存性カルシウムチャネルと呼び、L型、N型、T 型など幾つかのタイプがあることが知られています。これらは神経細胞の活動に重要な役割を果たすと考えられ ていますが、不明な点も多く残されています。

 本件に関する問い合わせ先

大阪大学 大学院理学研究科 准教授 木村幸太郎(きむら こうたろう) TEL:06-6850-6706 FAX: 06-6850-6769 E-mail:kokimura@bio.sci.osaka-u.ac.jp

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【研究者のコメント】 今回の研究では、線虫が匂い刺激をどのように感じ、神経細胞がどのようにその刺激に応答し、そしてその結 果として線虫の行動がどのように変化するのかを、厳密に測定することが極めて重要でしたが、そのような方 法は確立していませんでした。研究チームはこの問題を克服するために、異なる大学および特色を持った国 内中小企業とさまざまな共同研究や研究協力を行いました。 まず、体の大きさが1ミリメートルにも満たない線虫がどのような匂い刺激を感ずるかを測定するために、自然 に揮発し拡散する匂い物質の濃度を正確に測定する技術を開発しました。これには、主に山添-梅本萌子元 特任研究員がエフアイエス社(兵庫県)の協力を得て行いました。 次に、その匂い刺激を感じた線虫の神経活動と行動がどのように変化するかを理解するために、主に谷本特 任研究員と橋本浩一教授とホークビジョン社(神奈川県)らが、ロボット顕微鏡「オーサカベン」(昨年5月に発 表)を改良し、バーチャルな匂い勾配を線虫に示しながら、神経活動と行動の同時計測を行えるようにしまし た。 谷本特任研究員と山添-梅本元特任研究員らは、これらから得られた実験結果を正確に理解するために、 匂い刺激や線虫行動のコンピュータシミュレーションや数理モデル化を、飯野雄一教授や岩崎唯史講師らと 共に行いました。シミュレーションや数理モデル化は、複雑な現象において何が最も重要なポイントであるのか を理解するのに必要でした。そして、ここで重要であると分かった現象(例えば積分機能)に注目して遺伝学的 解析を行う事で、線虫の「意思決定」に関わる遺伝子を明らかにする事ができました。 谷本特任研究員も山添-梅本元特任研究員も、大阪大学理学部生物科学科の4回生として木村准教授の グループに合流し、研究を開始しました。2人は、それぞれ博士号取得を目指して研究を行う過程で、さまざ まな課題を発見し、その課題を解決するために、当初は全く想像もしなかったような上記のさまざまな手法を 学び、身に付けていきました。そして、この2人を中心とした研究活動によって、技術的にも科学的にも独創性 が高い論文となりました。

参照

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