Ⅰ.はじめに 学校で不適応をきたしている児童は多い。例 えば,不登校,いじめ,友人関係等のトラブル, 学業不振や授業への不参加等である。文部科学 省(2012a)の調査によると,いじめの認知件 数は,小学校で約 3 万件にのぼっており,近年 では毎年数千件ずつ減少しているものの,依然 として多いといえる。不登校に関しては,小学 校では,約 2 万2000人と報告されており,全児 童の約0.3%が該当している。 不適応に関連する要因はさまざまである。丹 羽ら(2004)は小学校 1 年生での不適応の背景 として 「家庭の問題」 「子どもの生活の変化」 「幼保小の段差の問題」 「小学校をめぐる問題」 の 4 つの側面をあげており,その他,学校スト レスの影響(嶋田,1998)や社会的スキルの獲
〈研究資料〉
岡田 香織*,柴田 由己**,能島 頼子***,小島 里美****,福元 理英*****,
野邑 健二*****
教師による児童の適応状況の StrengthsandDifficultiesQuestionnaire
(SDQ)を用いた評価
─臨床評価,保護者による評価との関連─
児童青年精神医学とその近接領域 57( 2 );310─322(2016)Strengths and Difficulties Questionnaire(SDQ)は児童の適応と精神的健康状態を測る尺度で, 世界中で広く利用されている。しかしわが国では,教師版の研究や臨床評価との関連を見た研究は あまりない。
われわれは小学 1 年生307名を対象とし,保護者および教師に SDQ への回答を依頼した。加え て教師に児童についての聞き取り調査を行い,心理的・社会的機能を Children’s Global Assess-ment Scale(CGAS)を用いて評価した。これらを用いて,教師評定 SDQ と保護者評定 SDQ およ び CGAS との関連を検討した。
276名より回答が得られた。その結果,保護者評定 SDQ と教師評定 SDQ では,全般的困難度 (Total Difficulties Score,以下 TDS)と多動・不注意では中程度の相関が認められた。ただ,平
均値や分布が異なるため,保護者と教師で別の基準を設ける必要が認められた。 CGAS による評価の結果,適応困難児は8.0%であった。CGAS と,教師評定 SDQ における TDS,行為面,多動・不注意との間に比較的強い相関が認められ,学校場面で行為面や多動・不 注意の問題が多く認められる児童ほど適応困難に至りやすいことが示唆された。 CGAS の臨床評価をもとに,教師評定 SDQ による適応困難児の判別を検討した結果,12点をカ ットオフ値とすると感度が0.86,特異度が0.87となり,教師評定 SDQ は教師が適応困難を感じて いる児童を抽出する上で有用であると考えられた。
Keywords:CGAS, cut-off value, parent-rated, SDQ, teacher-rated
*****愛知県青い鳥医療福祉センター *****〒452-0822 名古屋市西区中小田井 5 丁目89番地 *****e-mail: [email protected] *****同志社大学こころの科学研究センター *****茨城キリスト教大学 *****愛知県蟹江町保健センター *****名古屋大学心の発達支援研究実践センター 2013年12月27日受稿,2015年 5 月24日受理
師評定版があり,それぞれ 5 分でチェックする ことが可能である。全25項目で, 5 つの下位尺 度(情緒面,行為面,多動・不注意,仲間関係, 向社会性)から構成され,向社会性を除く 4 つ の下位尺度の合計点から,全般的困難度(Total Difficulties Score,以下 TDS)を算出すること ができる。各下位尺度および TDS の合計点は, 向社会性は得点が高いほど適応がよいことを示 し,その他の 4 つの下位尺度および TDS は得 点が高いほど適応が困難であることを示す。各 下位尺度と TDS について,適応がより困難な 方から10%を臨床域(High Need),その次の 10%を境界域(Some Need),概ね80%の子ど もが正常域(Low Need)となるように,保護 者評定と教師評定それぞれにおける得点の基準 を定めている(Goodman, 1997)。 SDQ は世界各国で標準化されており,わが 国においても,保護者版に関して,Matsuishi et al.(2008)や,野田ら(2012)によって標 準データが報告され,Iizuka ら(2010)では構 成概念妥当性の検証が行われている。 Matsuishi ら(2008)は, 4 -12 歳 の 子 ど も 2899名を対象として保護者版の因子構造やカッ トオフ値等を検討した。クロンバッハの α 係数 は,TDS で α=.77,下位尺度は α=.52~ .77 であった。また,カットオフ値は表 3 の通りで あった。内的整合性は一部の下位尺度で若干低 いものの先行研究の結果と大きな違いはなく, 日本語版も評価尺度として十分に有用であると 結論づけている。野田ら(2012)は,幼稚園年 少児から中学 3 年生までの子ども7835名を対象 として,因子構造や学年・性別ごとの標準得点 等を検討した。因子構造は先行研究と同様の 5 因子が抽出され,α 係数は TDS で α=.80,下 位尺度は α=.55~.80であった。また,情緒面 を除く 4 つの下位尺度と TDS で女子が男子よ りも良い適応を示し,情緒面は女子の方が悪い 適応を示した。学年による違いとしては,TDS とそれを構成する 4 つの下位尺度では概ね学年 が上がるとともに適応状態が改善されるが中学 1 年生でやや適応状態が悪化することが示され 得不足(戸ヶ崎ら,1997),抑うつや不安といっ た情緒的な問題との関連(佐藤・市川,2010; 石川ら,2003他)等があげられている。 不適応の要因の一つとして,発達障害との関 連が近年注目されている。文部科学省の調査に よると,通常の学級に在籍する発達障害の可能 性のある児童生徒の割合は6.5%であったこと, 学年別の集計では,小学校 1 年生は9.8%と推 定されており,学年が上がるにつれてその割合 が小さくなることが示されている(文部科学省, 2012b)。発達障害に関連する児童の問題につ いては,不登校との関連(宮地ら,2010;辻 井・竹嶋,2004;杉山,2007他),心身症との 関連(小枝,2001他),その他気分障害等の精 神疾患との関連(傳田,2012;杉山,2007)等, さまざまな報告がなされている。 児童の行動上の問題の評価のために,これまで Child Behavior Checklist(CBCL)(Achenbach, 1991)などの質問紙が用いられてきたが,それ 以外に標準化されている行動評価尺度は極めて 少ない。CBCL は,子どもの行動,情緒,社会 性に関する118の問題行動があげられた尺度で ある。エビデンスに基づいて作成された尺度で あること,情緒と行動の問題全般について評価 することができること,社会的適応をみる尺度 があること,研究や臨床の場で広く用いられて いることが特徴であるが,項目数が多いことか ら,回答に15分~20分程度の時間がかかる(井 澗,2012)ため,実施が容易ではない。また, 「問題行動」 に焦点を置いているため,回答者 に 「悪いところに目が向く」 と抵抗が見られや すい(岩坂ら,2010)との指摘もある。 Strengths and Difficulties Questionnaire(以 下 SDQ)(Goodman, 1997)は,適用年齢 4 歳 ~16歳の質問紙で,子どもの適応と精神的健康 の状態を包括的に把握するための尺度である。 子どもの行動のポジティブな面とネガティブな 面を評価するための信頼性の高いスクリーニン グ法であり(Matsuishi et al., 2008),CBCL と の十分な相関関係も報告されている(Goodman and Scott, 1999)。保護者評定版,保育者・教
れも 5 因子構造が認められたが,α 係数は下位 項目の .55-.86で先行研究と同様であったこと, 教師と比べて保護者の方が児童の困難度と強み を高く評価すること,女児に比べて男児の困難 度が高いことを述べている。野田ら(2013)は, 小学 1 年生から中学 3 年生7777名の教師版を対 象にして,因子構造,学年・性別ごとの標準得 点とカットオフ値を調べて,先行研究とほぼ同 様の因子構造を示したこと,外在化問題と関連 する 「行為面」 「多動・不注意」 では男児の方 が適応が悪く,女児の方が 「向社会性」 が高い ことなどが述べられた。原田ら(2014)は,野 田ら(2013)と同様の対象をもとに,外在化を 示す 「行為面」 「多動・不注意」 が攻撃性と, 内在化問題を示す 「仲間関係」 「情緒面」 は抑 うつと高い相関を示すことなどを示し,その妥 当性を検討した。 SDQ における保護者評定と教師評定との関 連に関して,Goodman(2001)は,TDS で中 程度の相関(r=.46),各下位尺度では r=.25 ~.48の相関を報告している(情緒面で r=.27, 行為面で r=.37,多動・不注意で r=.48,仲 間関係で r=.37,向社会性で r=.25)。わが国 の報告でも,Shibata ら(2015)では TDS で r=.43,各下位尺度では r=.25~ .48,原田ら (2014)では TDS で r=.33,各下位尺度では .14~.36と,ほぼ同様の相関を認めた。 このように,SDQ についての研究は海外は もとより,わが国でも報告が少しずつなされる ようになってきている。しかし,いずれの研究 も,子どもの行動をスクリーニングする目的で 用いる場合,得点の上から10%を High Need, その次の10%を Some Need とする Goodman (1997)のカットオフ方法を用いているが,こ れ は Goodman 自 身 が 「暫 定 的」(Goodman, 1997)に定めた方法であり,根拠は明らかとさ れていない。SDQ 得点の基準が,日常生活に おける適応状況や心理的・社会的機能と関連す ることを明らかにすることは重要であると考え られる。しかし現在のところ,実際の児童の適 応状況など,臨床的な評価と SDQ のカットオ た。SDQ と疾患との関連では,Goodman ら (2010)によると,SDQ の 5 つの下位尺度得点 と 4 種類の疾患群(情緒障害,行為障害,ADHD, 自閉症)の臨床症状の関連について検討した結 果,「情緒面」 は情緒障害,「行為面」 は行為障 害,「多動・不注意」 は ADHD,「仲間関係」 および 「向社会性」 は自閉症の臨床症状とそれ ぞれ最も強い関連を示し,明確な収束的・弁別 的妥当性が確認されている。Iizuka ら(2010) は,ADHD 児,高機能自閉症スペクトラム児 と一般児童とで比較し,発達障害児では一般児 童と比べて困難度が高く,高機能自閉症スペク トラム児では ADHD 児と比べて 「情緒面」 と 「仲間関係」 で困難が強いことなどを報告して い る。ま た,中 島 ら(2012)は,SDQ の 「情 緒面」,「仲間関係」 と抑うつ,SDQ の 「行為 面」,「多動・不注意」 と攻撃性との関連につい て報告している。 日本語版ではこれまで,保護者評定でのデー タを用いた研究が行われてきた(Matsuishi et al., 2008;野田ら,2012など)。一方,児童の適 応を評価する上では,保育所・幼稚園や学校場 面など,集団場面での適応を評価することも重 要であると考えられる。日本語版では,就学前 の児童を対象にした研究で,保育者による評定 を検討したもの(岩坂ら,2010;西村・小泉, 2010)が報告されてきた。西村・小泉(2010) では,保育士による評定の結果,原版と同様の 因子構造を確認し,保育者評定での High Need, Some Need がそれぞれ約10%になるように, 得点の基準を検討している。岩坂ら(2010)で は, 4 歳児と 5 歳児を対象に保育者による評定 を行い,保育者評定の High Need,Some Need が各々概ね 7 ~10%になるように独自に採点基 準を検討したうえで,発達面の支援ニーズの調 査を行っている。近年,日本語版では小学生以 降の児童・生徒を対象に教師評定を行った研究 (Shibata et al., 2015;野田ら,2013;原田ら, 2014)もいくつか見られるようになってきた。 Shibata ら(2015)は,小学 1 - 6 年生1487 名を対象に親評定および教師評定を行い,いず
としては,保護者にアンケートを依頼すること, 同様のアンケートを担任教師にも実施すること, 担任教師への面接にて聞き取りを行うことを説 明し,同意するかどうかについての書面での回 答を求めた。回答は,担任教師を通じて回収し た。尚,本調査では,児童本人への調査は行っ ておらず,直接的な負担は認められないため, 代諾者である保護者の承諾を得て,実施した。 保護者より同意の得られた児童について,担 任教師にアンケート調査と面接による聞き取り 調査を実施した。なお,保護者による回答,担 任教師による回答ともに,アンケートに欠損値 が認められた場合には,分析から除外した。 調査は,保護者へのアンケートは2012年 6 ~ 7 月,担任教師へのアンケートは同年 7 ~ 8 月,担 任教師への面接は同年の夏休み期間に実施した。 2 .方法 1 )アンケート調査 保護者,担任教師それぞれに対して,日本語 版 SDQ(25項目)への回答を依頼した。日本語 版 SDQ は,SDQ のウェブサイト(http://www. sdqinfo.org/)よりダウンロードして使用した。 各項目について,あてはまらない( 0 ),まあ あてはまる( 1 ),あてはまる( 2 )の 3 段階 での評価を求めた。結果から, 5 つの下位尺度 得点(情緒面,行為面,多動・不注意,仲間関 係,向社会性)と,この中の向社会性を除く 4 つの下位尺度の得点を合計した TDS を算出した。 2 )面接による聞き取り調査 担任教師に対して,各児童の適応状況につい て,面接にて聞き取り調査を行った。面接は, 十分な経験のある児童精神科医または臨床心理 士が 1 対 1 で行い,担当クラス内の対象児童 各々について,全体として 1 ~ 2 時間で行った。 聞き取り調査の内容は,不登校傾向,授業や活 動への不参加,いじめ,身体症状,情緒不安定, 家庭の問題,注意集中や落ち着きの問題,こだ わり,対人関係の問題,学習面の問題等の有無 とその詳細である。 フ値の関連を検討した研究は認められない。 小児・青年期の心理的・社会的機能の全般的 評価を行うための評価尺度として,Children’s Global Assessment Scale(CGAS)(Shaffer et al., 1983)があげられる。CGAS は,成人を対 象 と し た,Global Assessment Scale(GAS) (Endicott et al., 1976)を も と に,Shaffer ら (1983)が 4 歳~16歳までの小児・青年期症例 用に開発したものである。小児・青年期の精神 疾患に関して,特定の精神疾患の重症度を評価 するのではなく,さまざまな精神疾患によって 損なわれた患者の社会的機能を反応した評価尺 度であり,多くの研究で使用され,その有用性 も 認 め ら れ て い る(Bird et al., 1987;Green et al., 1994;Sourander et al., 1996;新井ら, 1997他)。対象児の社会的機能は 1 点~100点で 評価され,得点が高いほど,心理的・社会的機 能が良好に保たれていることを示す。 本研究では,CGAS を用いて児童の適応状況 の臨床的な評価を行い,CGAS での評定と,教 師評定での SDQ 得点との関連を検討する。さ らに,CGAS での評定をもとに適応が困難であ る児童を抽出し,教師評定 SDQ のカットオフ 値を設定することを試みる。これらを通して, 学校現場で支援の必要な処遇困難児を発見する ための簡便な一次スクリーニング方法として, 教師評定 SDQ が利用できる可能性を検討する ことを目的とする。尚,本研究では小学 1 年生 を対象とした。これは,文部科学省(2012b) の調査における通常の学級に在籍する発達障害 の可能性のある児童生徒の割合が小学 1 年生で 最も多いことや,学校側が児童について未だ十 分に把握できていない時期にスクリーニングの 必要性が高いと考えられたからである。 Ⅱ.対象と方法 1 .対象 A 県 B 町の公立小学校に通う小学 1 年生の 全児童307名を対象とした。クラス担任を通じて, 保護者に説明文書とアンケートを配布し,文書 を通じて調査に関する説明を行った。調査内容
「多動・不注意」 で α=.81,「情緒面」 で α= .65,「仲間関係」 で α=.62,「向社会性」 で α =.75,TDS で α=.82であった。教師評定では, 「行為面」 で α=.62,「多動・不注意」 で α= .89,「情緒面」 で α=.75,「仲間関係」 で α= .57,「向社会性」 で α=.83,TDS で α=.86で あった。 保護者評定 SDQ と教師評定 SDQ との相関 (表 1)をみると,TDS では中程度の相関が認 められた。下位尺度ごとの相関をみると,それ ぞれの下位尺度同士で有意な相関がみられた。 「多動・不注意」 では中程度の相関となり,そ れ以外の 4 つの下位尺度では弱い相関が認めら れた。 SDQ の保護者評定,教師評定それぞれにお ける平均値と標準偏差を表 2 に示す。保護者評 定については,Matsuishi ら(2008)の 7 - 9 歳における結果とほぼ同様であった。各下位尺 度と TDS に関して,保護者評定と教師評定の 面接での聞き取りの結果をもとに,調査を担 当した児童精神科医と臨床心理士が合議し,各 児童の適応状況について,CGAS を用いて臨床 評定を行った。 CGAS のカットオフ値については,Bird ら (1990)が61点を推奨していることから,本研 究においてはそれに従い,CGAS の得点が61点 に満たない児童を 「適応困難児」 とすることと した。 3 )統計解析 す べ て の 統 計 分 析 に は PASW statistics 18.0.0(SPSS 社)を使用した。 3 .倫理的配慮 本研究は,名古屋大学大学院教育発達科学研 究科倫理委員会により承認されている(承認番 号141)。 Ⅲ.結果 1 .SDQ の教師評定と保護者評定の関連 307名中,289名(94.1%)の保護者から同意 の有無についての回答があり,調査への同意・ 協力が得られたのは276名(90.2%)(男児128名, 女児148名)であった。保護者評定 SDQ は欠 損値等の見られた無効アンケートを除いた262 名を分析対象とした。 本研究での SDQ の各下位尺度と TDS の α 係数は,保護者評定では,「行為面」 で α=.52, ***p<.001,**p<.01 表2 SDQ 平均値・標準偏差の比較 本研究 (n=262) Matsuishi ら(2008) ( 7 - 9 歳,n=1086) 保護者評定 担任評定 保護者評定 平均値 SD 平均値 SD t 値 平均値 SD 行為面 1.94 (1.52) 1.10 (1.53) 8.49*** 2.04 (1.60) 多動・不注意 3.52 (2.42) 2.87 (2.94) 4.06*** 3.51 (2.45) 情緒面 1.72 (1.85) 1.15 (1.79) 4.19*** 1.76 (1.85) 仲間関係 1.59 (1.56) 1.25 (1.54) 3.44** 1.53 (1.49) 向社会性 6.38 (2.18) 6.10 (2.48) 1.81 6.70 (2.06) TDS 8.75 (5.28) 6.37 (5.77) 7.03*** 8.84 (5.17) **p<.01 表1 教師評定と保護者評定の SDQ の相関(Spearman) 行為面 .27** 多動・不注意 .48** 情緒面 .21** 仲間関係 .33** 向社会性 .29** TDS .40**
Need であるのに対して教師評定では 4 ~10点 が High Need に該当した。
ま た,TDS に 関 し て は,保 護 者 評 定 で は High Need は16~40点,Some Need が13~15 点であるのに対して,教師評定では High Need は16~40点,Some Need が12~15点が妥当で あると考えられた。以下の分析において,教師 評定の TDS で Need の区分を用いる際には, この基準を用いることとする。 2 .臨床評価(CGAS)と教師評定 SDQ の評 価との関連 1 )CGAS の結果概要 CGAS による児童の評価の分布を表 4 に示す。 差について t 検定を行った。その結果,向社会 性を除く 4 つの下位尺度と TDS において,保 護者評定と教師評定に有意差が認められ,いず れも保護者評定の方が平均値が高いことが示さ れた。
本研究で独自に High Need,Some Need が 各々約10%となるように基準を設定し,該当す る児童の割合を算出した(表 3)。保護者評定 に関しては,各 Need に該当する児童の割合は, Matsuishi ら(2008)の報告と大きな違いは認 められなかったが,教師評定に関しては,野田 ら(2013)の報告とは異なる点が認められ,特 に多動・不注意,TDS では大きな違いが認め られた。また,仲間関係以外の下位尺度および TDS において保護者評定と教師評定で,Need の区分に該当する得点に違いが認められた。 「多動・不注意」 は保護者評定では 7 ~10点が High Need であるのに対して教師評定では 8 ~10点が High Need に該当し,「向社会性」 で は保護者評定では 0 ~ 3 点が High Need であ るのに対して教師評定では 0 ~ 2 点が High Need に該当した。一方,「行為面」 「情緒面」 はいずれも,保護者評定は 5 ~10点が High 表4 CGAS 度数分布(n=276) 度数 パーセント ~50 5 1.8 51-60 17 6.2 61-70 26 9.4 71-80 40 14.5 81~ 188 68.1 合計 276 100.0 *本研究の保護者・教師評定は,High Need,Some Need が各々約10%となるように基準を設定し,比率を算出
表3 SDQ の各 Need の採点基準と比率
本研究(保護者:n=262,教師評定:n=276)
上段:Matsuishi ら(2008)n=2899, 4 -12歳 下段: 野田ら(2013)n=7777,小学 1 年生か
ら中学 3 年生
Low Need Some Need High Need Low Need Some Need High Need 得点 比率 得点 比率 得点 比率 得点 比率 得点 比率 得点 比率 行為面 保護者 0-3 (86.3) 4 (6.7) 5-10 (7.0) 0-3 (84.3) 4 (8.6) 5-10 (7.1) 担任 0-2 (86.2) 3 (4.7) 4-10 (9.1) 0-1 (74.3) 2-3 (18.0) 4-10 (7.7) 多動・ 不注意 保護者 0-5 (81.3) 6 (8.1) 7-10 (10.7) 0-5 (83.6) 6 (6.8) 7-10 (9.7) 担任 0-6 (83.0) 7 (7.2) 8-10 (9.8) 0-3 (76.5) 4-5 (13.2) 6-10 (10.3) 情緒面 保護者 0-3 (84.6) 4 (6.6) 5-10 (8.8) 0-3 (84.3) 4 (7.2) 5-10 (8.5) 担任 0-2 (81.5) 3 (7.6) 4-10 (10.8) 0-1 (81.5) 2 (8.3) 3-10 (10.2) 仲間関係 保護者 0-2 (79.0) 3 (10.0) 4-10 (11.1) 0-3 (90.1) 4 (5.5) 5-10 (4.4) 担任 0-2 (82.2) 3 (9.1) 4-10 (8.7) 0-1 (78.7) 2 (10.8) 3-10 (10.5) 向社会性 保護者 5-10 (83.4) 4 (8.5) 0-3 (8.1) 6-10 (71.2) 5 (15.5) 0-4 (13.3) 担任 5-10 (78.6) 3-4 (12.7) 0-2 (8.7) 6-10 (74.9) 4-5 (14.3) 0-3 (10.8) TDS 保護者 0-12 (79.4) 13-15 (9.5) 16-40 (11.1)担任 0-11 (80.8) 12-15 (10.2) 16-40 (9.1) 0-12 (80.6) 13-15 (9.9) 16-40 (9.5)0-7 (78.7) 8-11 (10.4) 12-40 (10.9)
3 .教師評定 SDQ のカットオフ値
受信者操作特性(Receiver Operating Char-acteristics: ROC)分析により,教師評定 SDQ における TDS 得点のカットオフ値を検討した。 ROC 曲線を図 1 に示した。AUC(ROC 曲線下 領域:Area Under the ROC curve)と95%信 頼区間を算出したところ,AUC=0.94(95% CI:0.90-0.97)であり,SDQ は高い判別力 があることが示唆された。 ROC 曲線を用いた最適なカットオフ値の設 定にはいくつかの方法が存在するが,本研究で は,図の左上隅から最も近い点となる,( 1 - 感度)2+( 1 -特異度)2が最小になる点から設 定する方法を用いた。その結果,カットオフ値 は12点となり,感度は0.86,特異度は0.87とな った。 Ⅳ.考察 1 .SDQ の教師評定と保護者評定の関連につ いて 本研究では,同一児童に対して教師評定と保 護者評定にて SDQ を実施した結果,先行研究 と同様,教師評定・保護者評定ともに,内的整 合性が十分でない下位尺度が存在した。今後, 対象児を増やして調査する中で,尺度自体の再 検討も必要であると考えられる。 ま た,先 行 研 究(Goodman, 2001;Shibata et al., 2015)と同様に,保護者評定と教師評定 の SDQ の TDS は,中程度の相関がみられた。 下位尺度同士の相関の中では 「多動・不注意」 は中程度の相関がみられたが,その他の下位尺 度同士では弱い相関であった。多動や不注意と いった日常的な行動上の問題は,家庭でも学校 でも一貫して観察されることが多いため,認識 臨床的に 「適応困難児」 に該当すると考えられ る,CGAS の得点が60点以下の児童は22名であ り,全体の8.0%となった。 2 )CGAS と教師評定 SDQ の関連 CGAS での臨床評価による適応状況と,教師 評定 SDQ による TDS とのクロス集計表を表 5 に示す。CGAS が60点以下に該当した 「適応 困難児」 22名のうち,SDQ の High Need に含 まれた児童は12名(54.5%),Some Need に含 まれた児童は 7 名(31.8%),Low Need に含 まれた児童は 3 名(13.6%)であった。一方, 61点以上に該当した児童254名のうち,SDQ で は High Need に含まれた児童は13名(5.1%), Some Need に含まれた児童は21名(8.3%), Low Need に含まれた児童は220名(86.6%) であった。 教師評定 SDQ と CGAS との関連について, Spearman の相関係数を求めたところ TDS で 中程度の相関が認められた。また,すべての下 位尺度で相関が認められたが,特に 「行為面」 「多動・不注意」 「仲間関係」 とは中程度の相関 がみられた(表 6)。 表5 CGAS と教師評定 SDQ の TDS の各 Need 別のクロス表(n=276) 教師評定 SDQ(TDS)
Low need Some need High need 合計
CGAS 60以下 3 7 12 22 61以上 220 21 13 254 合計 223 28 25 276 **p<.01 表6 CGAS と教師評定 SDQ の相関(Spearman) (n=276) CGAS 教師評定 SDQ 行為面 -.54 ** 多動・不注意 -.63 ** 情緒面 -.36 ** 仲間関係 -.43 ** 向社会性 .37 ** TDS -.69 **
れる。 2 .CGAS と教師評定 SDQ との関連について CGAS による評定で,小学校 1 年生で 「適応 困難児」 に該当すると考えられた児童は,全体 の8.0%となった。文部科学省(2012b)の発 達障害の可能性のある児童に関する調査による と,小学校 1 年生において,担任教師が 「知的 発達に遅れはないものの,学習面または行動面 で著しい困難を示す」 と回答した児童は, 9.8%(95%信頼区間は8.7%~10.9%)であっ たと報告されており,本研究の結果も踏まえる と,小学 1 年生では 1 割程度の適応困難児がい る可能性が示唆される。ただ,本研究における CGAS での評定では,知的発達や学習面に困難 が認められる場合でも,臨床的にその能力に応 じた心理的・社会的機能が保たれていると考え られる児童の場合には 「適応困難児」 には分類 していない。例えば注意欠如多動性障害や広汎 性発達障害の診断・特性を持つ児童であっても, 適応状態が良好であれば,CGAS 得点が61点以 が一致しやすいと考えられる。 保護者評定と教師評定で SDQ の平均値を比 較すると,向社会性以外の 4 つの下位尺度と TDS において,いずれも保護者評定の方が SDQ 得点の平均値が高いことが示された。また, 教師評定に関して,独自に High Need,Some Need に含まれる児童が各々約10%となるよう に基準を設定した結果,ほとんどの下位尺度と TDS において,保護者評定とは異なる基準と なった。これは,保護者の見る児童が家庭など 少人数との対応であるのに対し,教師が児童を 見る状況は集団場面であり,それぞれが一人の 児童の異なる側面を評価していることに加えて, 保護者の方が我が子の問題に気付き,重要視す ることが多いためと考えることができる。 以上のことから,保護者評定と教師評定では SDQ 得点の分布が異なると考えられるため, 保護者と教師でそれぞれ別の基準を設定する必 要があると考えられる。ただ,本研究の対象は 小学校 1 年生に限られたものであるため,今後, 対象を拡大しての検討が必要であると考えら 図1 SDQ の ROC 曲線
図
1 SDQのROC曲線
Need での採点基準と照らし合わせると,Some Need の基準と一致する。つまり,12点以上の 児童は,教師評定の Some Need,High Need に含まれる児童に該当することになる。CGAS による評定で 「適応困難児」 に該当した児童の うち,SDQ の High Need 及び Some Need に 含まれた児童は86.4%であった。また,CGAS で 「適 応 困 難 児」 に 該 当 し な か っ た 児 童 の 86.6%が SDQ の Low Need に該当していた。 臨床的な適応状況に困難がある児童は,概ね SDQ の High Need または Some Need に含ま れ,臨 床 的 に 適 応 良 好 で あ る 児 童 は,概 ね SDQ では Low Need に含まれていたといえる。 これまでの SDQ のカットオフ値に関する研 究では,得点の分布により上から10%を High Need,その次の10%を Some Need として基準 が設けられている。本研究において,児童の実 際の臨床像から適応状況を評価することで,教 師評定の SDQ カットオフ値を定めることがで きた。これにより,一般児童群の適応状況の一 次スクリーニングのために,教師による SDQ 得点を用いることが可能になると考えられる。 ただ,カットオフ値を超えた児童の中でも, 実際の適応は困難な状況ではない児童もみられ るため,カットオフ値を超えた児童に関しては, 集団での様子も含めた児童の臨床像について, 関係者からの聞き取り等による詳細な評価が必 要である。 4 .本研究の意義と限界 本研究では,小学校 1 年生の児童を対象に, 保護者評定と教師評定で SDQ を実施した。ま た,教 師 か ら の 聞 き 取 り に よ る 臨 床 評 価 (CGAS)をもとに,教師評定による SDQ のカ ットオフ値を定めた。教師評定 SDQ の感度・ 特異度は良好であり,本研究の結果から,教師 評定による SDQ の結果によって,教師が不適 応を感じている児童をかなりの割合で抽出でき ることが示された。担任教師が受け持つ児童は 30-40人おり,その中で発達障害の可能性のあ る児童は6.5%(小 1 では9.8%)にのぼる。そ 上となる児童は多く認められた。このようなこ とにより,文部科学省(2012b)の結果よりも 本研究の結果の方が,「適応困難児」 の割合が 若干低くなったのではないかと考えられる。 CGAS と 教 師 評 定 SDQ と の 相 関 で は, CGAS 得点と SDQ の TDS との間に中程度の 相関がみられたことから,教師評定 SDQ は, 児童の臨床的な適応状況との相関が強く,児童 の適応困難度を測る上で有用であると考えられ る。 下位尺度の中では,CGAS 得点と SDQ の 「行為面」 「多動・不注意」 との間で相関が比較 的強くみられた。東京都教育委員会(2009)の 小学校 1 年生の段階での 「不適応状況の態様」 に関する校長の回答では,不適応状況の内容と して,「授業中,勝手に教室の中を立ち歩いたり, 教室の外へ出て行ったりする」 「担任の指示通 りに行動しない」 「児童同士のけんかやトラブ ルが日常的に起きている」 「教育的な配慮や支 援を要する児童に教諭が個別対応している間に, 他の児童が勝手なことをしている」 の項目で 50%を超える回答が得られている。これらの行 動は,SDQ の 「行為面」 「多動・不注意」 に該 当するものであると考えられる。「行為面」 「多 動・不注意」 の得点と CGAS による適応状況 の評価との間に比較的強い相関が認められたと いう本研究の結果はこれを支持するものである と考えられ,「行為面」 や 「多動・不注意」 の 問題が多く認められる児童ほど,学校場面での 適応が困難になりやすいことが示唆された。 3 .カットオフ値に関して 本研究では,児童の臨床的な適応状況を反映 する CGAS 得点をもとに 「適応困難児」 を抽 出し,教師評定 SDQ のカットオフ値を検討し た。その結果,教師評定 SDQ の TDS 得点の カットオフ値は,12点が妥当であることが示さ れた。また,カットオフ値を12点とすると,感 度は0.86,特異度は0.87となり,良好であるこ とが示された。 教師評定での12点のカットオフ値は,各
平成19年度より実施されている 「発達障害分野にお ける治療教育的支援事業」 の一部として実施されま した。調査にご協力いただきました児童及び保護者 の皆様,小学校の先生方に心より御礼申し上げます。 また調査の実施にあたり,ご協力,ご支援をいただ きました教育委員会の皆様に深く感謝申し上げます。 文 献
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38, 1179-1191. のすべてに外部からの支援を行うことは実際的 ではない。まず,教師版 SDQ を利用することで, 多くの児童の中から,教師が適応困難を感じて いて支援が必要な可能性のあるケースを抽出し, そのうえで,児童の観察や教師への面談などを 通じた直接的な評価を行うことが出来ると,効 果的な支援を行うことが可能となることが期待 できる。 本研究の限界としては,CGAS による臨床評 価が教師からの聞き取りによる情報によって行 われており,保護者からの聞き取りや児童自身 への面接等を実施していないことが挙げられる。 このため,得られた適応困難度の評価には,学 校場面での教師からの評価といった偏りがある ことに留意する必要がある。また,CGAS は, 本来は精神疾患に罹患した子どもを対象とした 尺度であり,学校現場での使用を想定していな いことも限界として考慮するべきである。しか し,CGAS の内容は,疾患の重症度とは関係な く,心理的・社会的機能の全般的評価を目的と しており,評価項目も家,学校,友人との関係 における機能に関する困難を聞いている。教師 の感じる適応困難な児童の抽出および教師が評 定する SDQ の臨床的妥当性を検討する指標と して,子どもと日常的に接している教師からの 聞き取りをもとに評価した CGAS を用いるこ とは,一定の有用性があると考えられる。 また,本研究は小学校 1 年生のみを対象とし ており,対象児もあまり多くない。対象児も特 定の地域に限局している。今後,対象児の学年 や数・地域を増やして検討することが課題とし てあげられる。 COI 開示 なお,本論文においては利益相反に関して報告す べき情報はない。 謝 辞 本研究は,文部科学省特別教育研究経費により,
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The Strengths and Difficulties Question-naire (SDQ) is a widely used measure of states of adjustment and mental health in children employed worldwide. However, few studies exist on the application of the SDQ by teachers in Japan, relative to the associa-tion of results with clinical assessments. The subjects of this study were 307 first-graders at an elementary school, whose parents and teachers were asked to respond to the SDQ. The teachers were then inter-viewed by an experienced child psychiatrist or clinical psychologist regarding children for whom parental consent had been obtained re-garding participation in the survey. Data
from the interview were subsequently ap-plied for clinical evaluation of the psychologi-cal and social functioning of the children us-ing the Children’s Global Assessment Scale (CGAS), and the results were used to
inves-tigate the association between results of the CGAS and the teacher- and parent-rated SDQs.
The results from 276 children were in-cluded in the study. The results from the SDQ showed moderate correlation between parent and teacher ratings regarding total difficulties and hyperactivity/inattention. However, variance in the mean and distribu-tion of scores between teachers and parents
ASSESSMENTOFADJUSTMENTSTATESINCHILDRENBYTEACHERS
USINGTHESTRENGTHSANDDIFFICULTIESQUESTIONNAIRE(SDQ):
ASSOCIATIONWITHCLINICALEVALUATIONSANDPARENTAL
ASSESSMENTS
Kaori OKADAAichi Aoitori Medical Welfare Center Yuki SHIBATA
Research Center for Psychological Science, Doshisha University Yoriko NOUJIMA
Ibaraki Christian University Satomi KOJIMA Kanie Health Center Rie FUKUMOTO, Kenji NOMURA
necessitated establishment of a separate set of standards for these groups of raters. The results of the CGAS evaluation re-vealed 8.0% of children as having adjust-ment difficulties. A relatively strong correla-tion was found between CGAS results and those of teacher-rated SDQs regarding total difficulties score, conduct problems, and hy-peractivity/inattention, indicating close associ-ation between the behavioral and hyperactivi-ty/inattention problems exhibited by children in the classroom and adjustment difficulties detected by the CGAS.
The identification of children with
adjust-ment difficulties from teacher-rated SDQ scores was examined in light of clinical evalu-ation using the CGAS. Setting the cutoff at 12 points yielded a sensitivity of 0.86 and specificity of 0.87, suggesting utility of the teacher-rated SDQ to assist teachers in the identification of children with possible adjust-ment difficulties.
Author’s Address K. Okada
Aichi Aoitri Medical Welfare Center 5-89, Nakaotai, Nishi-ku, Nagoya, 452-0822, Japan