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Ⅲ 外国為替市場と為替レート
(テキスト 第2章)
1.外国為替市場の構造
2.為替レートのフロー・アプローチ
3.変動相場制と固定相場制
4.名目為替レートと実質為替レート
5.二国間為替レートと多国間為替レート
(実効為替レート)
6.直物為替レートと先物為替レート
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1.外国為替市場の構造(cont.)
(1)外国為替市場の構成者
①顧客(輸出入業者など)
②銀行(ディーラー=トレーダー)
③為替ブローカー
④中央銀行
(2)外国為替市場の分類
2.外国為替市場の需給均衡
(為替レートの変化とドル需要・供給の変化)
• リンゴの需要曲線は右下がり、供給曲線は右上がり リンゴの価格が下がれば、リンゴの需要は増え(安いときに買い)、 価格が上がれば供給は増える(高いときに売る) 。 • ドルの需要曲線は右下がり、供給曲線は右上がり ドルの価値が下がれば、ドル需要は増え(安いときに買い)、価値 が上がれば供給が増える(高いときに売る) 。 ドル安・円高 (ドル高・円安) 輸出の減少 (輸出の増加) 輸入の増加 (輸入の減少) ドル供給の減少 (ドル供給の増加) ドル需要の増加 (ドル需要の減少)5 2.外国為替市場の需給均衡(cont.) (為替レートの増価と減価) • 為替レート(自国通貨[邦貨]建て) →外国通貨1単位(1ドル)の価値を、自国通貨(円)で表示した値。 →1ドル=100円 (リンゴ1個=100円) →S=100 (p=100) • 自国通貨の増価(appreciation) →自国通貨(円)の価値が上昇すること(=円高) →1ドル=90円 (リンゴ1個=90円) → S=90 (=ドル安)→ S↓ • 自国通貨の減価(depreciation) →自国通貨(円)の価値が下落すること(=円安) →1ドル=110円 (リンゴ1個=110円) → S=110 (=ドル高)→S↑ (注)固定相場制の場合 切り上げ(revaluation) or 切り下げ(devaluation)
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3.固定相場制と変動相場制
固定相場制(数量調整)
外国為替市場における外貨(ドル)の超過供給・超過需要
を、
通貨当局が公定価格($1=¥360)で無制限に売買する
こと(為替平衡操作=為替介入)によって
、需給調整を行う
制度。
⇒
外貨準備の大きさは、受動的に決まる
。
変動相場制度(価格調整)
外国為替市場における外貨(ドル)の超過供給・超過需要
を、
為替レートの変化($1↗↘¥360)によって
、需給調整を行
う制度。
⇒
外貨準備は、原則として、必要としない
。
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4.名目為替レートと実質為替レート
• 名目為替レート(nominal exchange rate) :$1=¥100
日本で100円を支払えば1ドルに両替して、アメリカ旅行をすること
はできる。
• 実質為替レート(real exchange rate):外国財1個=国内財1.5個
・日本で100円を支払えば購入できる財が、アメリカでも1ドルを支 払って購入できるとは限らない。 ・例えば、日本では200円で購入できるハンバーガーが、アメリカ では3ドルで販売されているとしよう。この場合、日本において200 円で購入できるハンバーガーは、アメリカでは300円(100円×3ド ル)も支払わなければならない。 ・アメリカのハンバーガー1個は、日本では1.5個に相当する。 • 円高になれば、外国旅行をするには名目的には(両替だけを考え ると)ありがたいが、日本よりも外国の物価水準の方が高ければ、 外国旅行をしても実質的な(両替したドルで実際にどれだけの買い 物ができるかを考えると)ありがたみは少ない。
名目為替レートと実質為替レート
・名目為替レート(nominal exchange rate):S
「1単位の外国通貨(1ドル)が、何単位の自国通貨(100円)と交換されるか」 を意味する比率(2国間の通貨の相対価格)
=名目(貨幣)タームで定義された為替レート ・実質為替レート(real exchange rate):Q
「1単位の外国財(ハンバーガー1個)が、何単位の自国財(ハンバーガー1.5 個)と交換できるか」を意味する比率(2国間の財の相対価格) =実質(実物)タームで定義された為替レート Sの値が小さく(大きく)なること=自国通貨の名目増価(名目減価) 1単位の外国通貨を得るために、より少ない自国通貨を交換すればよくなる (より多くの自国通貨を交換しなければなくなる)こと * * P S P Q S P P × = × = =自国通貨で測った外国の物価水準 自国通貨で測った自国の物価水準 100[ /$] 3[$] 1.5 200[ ] × =自国通貨で測った外国財の価格 = ¥ = 実質為替レート 自国通貨で測った自国財の価格 ¥
裁定取引と一物一価
自動車価格 名目為替レート 実質為替レート
日本
200万円
(
↗225万円
) 1ドル=100円
(
↘90円
)
1.5(
↘1
)
アメリカ
3万ドル
(
↘2.5万ドル
)
実質為替レート
(
自国財に対する外国財の相対価格
)
3
100(
/
)
300
=
200
200
1.5
×
=
=
アメリカ製自動車
万㌦
円 ㌦
万円
日本製自動車
万円
万円
=
自国通貨で測った外国財の価格
自国通貨で測った
実質為替レート
自国財の価格
2.5
90(
/
)
225
=
1
225
225
×
=
=
アメリカ製自動車
万㌦
円 ㌦
万円
日本製自動車
万円
万円
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実質為替レートの数値例
ケース1 ケース2 ケース3 ケース4 ケース5 ①名目為替レート (S) 100円 90円(名目増価) 100円 100円 90円(名目増価) ②アメリカ製自動車 (P*) 2万ドル 2万ドル 2万ドル 3万ドル (外国のインフレ) 3万ドル (外国のインフレ) ③アメリカ製自動車 (SP*) 200万円 180万円 200万円 300万円 270万円 ④日本製自動車 (P) 200万円 200万円 (自国のインフレ)250万円 200万円 200万円 ⑤実質為替レート (SP*/P) 1 0.9(実質増価) 0.8(実質増価) 1.5(実質減価) 1.35(実質減価)実質為替レートと交易条件
• 実質為替レートは、次のように定義される交易
条件(terms of trade)の逆数である。
• 自国通貨の
実質増価
(Qの値が小さくなること)
=
交易条件の改善
(ttの値が大きくなること)
• 自国通貨の
実質減価
(Qの値が大きくなること)
1
tt
Q
=
交易条件
=
輸出財物価水準
=
輸入財物価水準
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5.実効為替レート(Effective Exchange Rate)
• 実効為替レートとは、多数の外国通貨に対する自国通貨の価値 を加重平均した指数。自国通貨の外国通貨に対する全般的な変 動を表す値。加重平均する時のウェイトは、貿易量や経済関係 の密接さなどから求められる。 • 一口に「円高」と言っても、ドルに対してのみ上昇している場合と、 他の多くの通貨に対して上昇している「円の独歩高」の場合では、 円高の原因が、円にあるのかドルにあるのかが違うし、また円高 が日本の対外競争力に及ぼす影響も異なってくる。 • 名目実効為替レート:名目為替レートの変化を加重平均した指数 • 実質実効為替レート:実質為替レートの変化を加重平均した指数。 総合的な通貨価値の判断材料としては後者がより正確。 • 当該国の総貿易量に占めるi国への貿易量の割合(ウェイト)をwi とし、当該国通貨の第i国通貨に対する為替レートをeiとすると、 幾何加重平均 ・・・ 実効為替レート 算術加重平均 ・・・ 実効為替レート : ) 1 ( ) ( : ) 1 ( 2 1 2 1 2 2 1 1
∑
∑
∑
= × × × = Π = = + + + = = i w n w w w i i n n i i w e e e e w e w e w e w e w n i実効為替レート(cont.)
• 具体的には、ある通貨と主要な他通貨間の為替
レートを、当該相手国・地域間の貿易量などでウェイ
トづけた加重平均し、基準時を100とした指数として
算出。
• 例えば、日本がアメリカ・ヨーロッパ・中国の3カ国・
地域とだけ経済関係を持ち、各国の占めるウェイト
を50・30・20%、円が基準時(100)からドル・ユーロ・
元に対して30・20・10%増加したとすると、現時点で
の円のEERは、
(130)
0.5(120)
0.3(110)
0.2=123
• 円の実効為替レートは、下記の日銀のHPを参照。
http://www.boj.or.jp/type/exp/stat/exrate.htm
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実質実効為替レートの数値例(算術加重平均)
①日本製自動車(¥) ¥250万 ②対ドル名目為替レート(¥/$) 120 ③米製自動車($) $2.5万 ④米製自動車(②×③=¥) ¥300万 ⑤対ドル購買力平価(①/③=¥/$) 100 ⑥対ドル実質為替レート(④/①=②/⑤) 1.2 ⑦対米輸入額/日本の総輸入額(ウェイト) 70%(0.7) ⑧対ユーロ名目為替レート(¥/€) 80 ⑨ドイツ製自動車(€) €3.4万 ⑩ドイツ製自動車(③×⑧=¥) ¥272万 ⑪対ユーロ購買力平価(①/⑨=¥/€) 73.5 ⑫対ユーロ実質為替レート(⑩/①=⑧/⑪) 1.088 ⑬対独輸入額/日本の総輸入額(ウェイト) 30%(0.3) ⑭外国車の平均価格(④×⑦+⑩×⑬=¥) ¥300万×0.7+¥272万×0.3=¥291.6万 ⑮実質実効為替レート(⑭/①=⑥×⑦+⑫×⑬) 291.6/250=1.2×0.7+1.088×0.3=1.1664実効為替レートの推移(1973年3月=100とした指数) 0 50 100 150 200 250 300 350 400 1970 1971 1973 1975 1977 1978 1980 1982 1984 1985 1987 1989 1991 1992 1994 1996 1998 1999 2001 2003 2005 2006 年 名目実効為替レート (NEER) 0 25 50 75 100 125 150 175 200 225 250 275 300 325 350 375 400 実質実効為替レート (REER)
21 6.直物為替レートと先物為替レート 為替ポジションと為替リスク • 外国為替市場の参加者は、外国通貨建ての債権や債務を保有。この外貨建 て債権と債務の残高(差額)を為替ポジション(為替持高)と言い、この部分は 為替リスクにさらされている。 ①輸出企業が被る為替リスク 1万ドルの商品の輸出 現在の為替レート :$1=¥100・・・¥100万 3カ月後の為替レート:$1=¥ 90・・・¥ 90万 • ドル建て債権を持っている(ロング)と、為替レートが下落(円高)すると為替 差損を被る。→この場合、先物売りをしておけば良い。 ②輸入企業が被る為替リスク $1万ドルの商品の輸入 現在の為替レート :$1=¥100・・・¥100万 3カ月後の為替レート:$1=¥110・・・¥110万 • ドル建て債務を持っている(ショート)と、為替レートが上昇(円安)すると為替 差損を被る。→この場合、先物買いをしておけば良い。
為替ポジションと為替リスク(cont.)
為替リスク回避の基本
③為替リスクを回避するためには、「外貨建て債権」と
「外貨建て債務」を同額にしておけばよい。
$1万ドルの商品の輸出
現在の為替レート :$1=¥100・・・¥100万
3カ月後の為替レート:$1=¥ 90・・・¥ 90万
(10万円の為替差損)
$1万ドルの商品の輸入
現在の為替レート :$1=¥100・・・¥100万
3カ月後の為替レート:$1=¥ 90・・・¥ 90万
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為替ポジション(為替持高)
(1)オープン・ポジション(open position)
→「債権≠債務」のポジション
①買持ち(ロング・ポジション、long position)
→「債権>債務」のポジション
→先物売り(ドル建て債務を負う=先渡しでカバー)
をしておけば良い。
②売持ち(ショート・ポジション、short position)
→「債権<債務」のポジション
→先物買い(ドル建て債権を持つ=先渡しでカバー)
をしておけば良い。
(2)スクェア・ポジション(square position)
→「債権=債務」のポジション
→為替リスクなし
直物為替レートと先物為替レート
•直物為替
(
spot exchange
)
契約も取引も現在行なう外国為替取引
•先物(先渡)為替
(
forward exchange
)
契約は現在行なって、受渡は将来行なう外国
為替取引
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