有 機 材 料 と して の セル ロー ス
ダイセル化学工業
(株) 石
井
邦
男*
Cellulose
as Organic
Material
Kunio Ishii
Daicel Chemicaal Industries Ltd.
Cellulose and cellulose derivatives as orgnic materials are devloping a variety of their application fields as inconspicuous but indispensable substances in the region of speciality polymers which requires high and particular functions.
Several items selected and reviewed in this paper are as fallows ; that is, as items already commercialized, CMC for drilling mud additive, NC for magnetic tape binder and acryl monomer grafted CAB for mending paints of motorcars, and as items which are still in the step of research and development, microfibrillated cellulose prepared by a high pressure homogenizer and micro-crystalline cellulose triacetate which has the ability that completely resolves racemates, were discussed.
Furthermore, as items under progressing in molecular characterizations which are closely related to functions, some of the recent studies were introduced in conection with the elucidation
of activation point in graftpolymerizations, and the determinations of DS, MS and DS distribution by NMR measurement in cellulose derivatives.
Keywords : Cellulose •E CM •E Drilling mud•ENC•EMagnetic tape, MFC•E Triacetate •E Racemate. resolution•EActivation point•E Graftpolymerization •E DS•E MS•E Distribution•E NMR
1 . は じ め に 1973年 の オ イル シ ョ ック以来 循 環 資 源 と して のセ ル ロ ース の重 要 性 が見 直 され,再 び 注 目を浴 び る よ うに な って 来 た。 しか し,綿 及 び綿 繊 維 を除 くセ ル ロ ー ス 及 び セル ロー ス誘 導 体工 業 の国 内規 模 は1979年 65万 t/年で,こ の うち繊 維,た ば こ フ ィル ター 用 トウ及 び セ ロフ ァンが90%を 占 め,そ の 他 は プ ラス チ ック, 粉 末 セル ロー ス を含 め6.6万t/年 に す ぎ ず,し か もそ の 半量 はCMCな ど を 中心 とす る水 溶性 セ ル ロー ス と な っ て い る。 このCMCに し て も商 品 的 に は数 十 に及 ぶ 品 種 に別 れ る た め,多 品種 少 量 生 産 的 要 素 を含 み,フ ァイ ンポ リマ ー的 様 相 を呈 して お り,前 述 の6.6万t/年 に対 応 す る市 場 も,エ ネル ギ ー関 連,エ レク トロニ クス,自 動 車,製 紙 及 び 繊 維 工 業,医 療,医 農 薬,食 品,化 粧 品,建 材,土 木 か ら分 析 用 カ ラ ム充 填 剤 な どに至 る ま で ほ とん どす べ て の工 業 分 野 に わ た って い るが,比 較 的 そ れ とわ か らぬ と ころ で,な くて は な らな い重 要 な 機 能 を果 して い る例 が多 い 。 さ て,い わ ゆ る材 料 の概 念 を広 義 に と り,セ ル ロー ス の有 機 材 料 とし て の応 用 をセ ル ロ ー ス側 か ら分 類 す れ ば,表1の よ うに要 約 され よ う。 こ こで は到 底 そ の 全 貌 をつ くす こ と は至 難 ゆ え,こ れ 等 の分 野 の 中 で多 彩 な 展 開 が 進 展 しつ つ あ る フ ァイ ン ポ リマ ー の領 域 に つ い て,用 途 を機 能 との 関 連 にお い て と ら え,断 片 的 で は あ るが若 干 の 例 を紹 介 す る こ と に した い 。 なお,昨 今 の セ ル ロ ー ス化 学 及 び 技 術 の動 向,特 に 非 水 系 溶 剤,液 晶 及 び 化 学 反 応 につ い て は,最 近 の総 説1),2)に よ くま と め られ て い るの で 参 照 頂 きた い 。
*研 究開発企画部
昭 和58 年 9月 152 . セ ル ロ ー ス 誘 導 体 の 置 換 度 と 溶 液 特 性 各 種 セ ル ロー ス 誘 導 体 の 様 々 な 機 能 は基 本 的 に導 入 した 官 能 基 の 種 類 と置 換 度 (DS )に 左 右 され る。 現 在 商 業 化 され て い る各 種 セ ル ロー ス 誘 導 体 の DS の 範 囲 をみ る と,エ ス テ ル は2∼3の もの が 多 く,エ ー テル は0.5∼2.0の も の が多 い(表2).ま た,エ ス テ ル は 有 機 溶剤 可 溶性 で あ る が,エ ー テ ル は水 溶性 の もの が 多 く, DS の 増 加 に つ れ アル カ リ可 溶 性 か ら水 溶 性 へ と変 化 し, DS1 前 後 で 水 溶 性 を示 す も のが 多 い(表 3)3)。酢 酸 セ ル ロ ー ス も DSO. 4∼0.9の もの は水 溶 性 で あ る。 これ は バ ル キ ー な 官能 基 の導 入 に よ る,セ ル ロー ス にお け る水 素 結 合 の 切 断 に よる とこ ろが 大 きい。 セル ロー ス誘 導 体 の DS の 変化 と NaOH ,水 に 対 表 1 セル ロー ス の有 機 材料 と して の応 用 表 2 セル ロ ー ス誘 導 体 の 置換 度 表 3 セ ル ロ ー ス エ ー テル 溶 解 性 の置 換 基,置 換 度 依 存 性 16 紙パ技協誌 第 37 巻第 9号
有 機 材 料 と し て の セ ル ロー ス す る溶 解 性 の 問 に は,同 じ系 列 にお い て 一 定 の ル ー ル の成 立 す る こ とが確 か め られ てお り,例 えば 図1に 示 した メチ ル セ ル ロー ス (MC) ,エ チ ル セ ル ロ ー ス (EC) の溶 解 挙 動 か ら4),プ ロ ピル セル ロー ス が水 溶性 とな るDSは0.5と 予 測 され るが, Calkins は イ ソプ ロピ ル セ ル ロー ス で これ を実 証 して い る5)。 MCの 水 溶 液 な どに み られ るゲ ル 形成 性 一 50∼ 60 ℃ で ゲル 化 は セ ル ロー ス 誘 導 体 の 興 味 あ る性 質 の 一 つ で あ るが,こ れ は トリメ チ ル グ ル コー ス シ ー ケ ンス の結 晶化,架 橋 構 造 の 生成 に よ る こ とが高 橋 ら6) に よ り初 め て 明 らか に され た 。他 方 ヒ ドロキ シ プ ロ ピ ル セ ル ロー ス(HPC)の45℃ 以 上 で の 粘度 の急 減 は, ヒ ドロキ シ プ ロピル 基 が 親 水 性 を失 って 相分 離 を起 し, 分 子鎖 が凝 集 す る た め と考 え られ て お り,ヒ ドロキ シ プ ロピル メ ヲル セ ル ロー ス(HPMC)は 両者 の 中間 の 性 質 を もつ(図2)7)。 ゲ ル 形成 と相 分 離 の 問 題 は,生 図 1 各 種 セル ロ ー ス誘 導 体 の 溶解 特性 図 2 加 熱 速 度 1.0℃ /分に お け るセ ル ロー ス エ ー テ ル の 温 度 一粘 度 関 係
表 4 水 溶性 セル ロース誘導体の性状 比較
昭 和58 年 9月 17788 体 高 分 子 膜 な ど とも 関連 して今 後 が注 目 され る。 代 表 的 水 溶 性 セ ル 獄一 ス の性 状 と用 途 の 比較 を表4, 表 5 に示 した 。 3 . セ ル ロ ー ス フ ァ イ ン ポ リ マ ー の 展 開 3 . 1 掘 削 泥 水 用 ポ リマ ー 土 木 工 事 あ るい は 油 井 の ドリ リン グの 際,掘 削 泥 の 排 出 に ベ ン トナ イ トな ど を主 体 とす る泥 水 を送 り込 み, 掘 り くず を地 上 に 搬 出 して い るが,こ れ に カル ボ キ シ メ ヲ ル セ ル ロー ス (CMC) が 添 加 使 用 され てい る。 泥 水 使 用 の 目的 は,(1)掘 り屑 の運 搬 と沈 降 防 止,(2)地 層 圧 力 に対 す る静 水 圧 のバ ラ ン ス,(3)薄 くて弾 性 が あ り 強 靱 な泥 壁 の形 成,(4)ビ ッ トの冷 却,(5)掘 酬壁 か らの 逸 水 に よ る掘 削孔 の崩 壊 防 止 な どに あ る 。 そ の 目的 達 成 の た め た泥 水 に要 求 され る特 性 を 表6に 示 す 。 ベ ン トナ イ トの主 成 分 は モ ン モ リ ロナ イ トで濃 度2 ∼8%で 使 用 され る。 雲 母 型 の層 状 構 造 物 で そ の表 面 は プ ラ ス,端 は マ イ ナ ス に荷 電 して い る 。濃 度2%以 上 で は小 片 が集 合 して3種 の形 態 を とる(図3, )8)。a は低 粘 で う,ぐ に比 し脱 水 量 が小 さ く,6,dは 高 い a b c ゲル ス トレン グ ス(GS)と イ ー ル ドバ リ ュー (YV) を も ち,低 シ ェ ア ー下 で高 粘 度 で,濃 度 に応 じて 組 み合 せ が 異 な る。 ベ ン トナ イ トの 欠 点 は食 塩 水下 で の脱 水 性 が よ くな い こ とで,イ オ ンの 存 在 に よ りベ ン トナ イ トの膨 潤 が 妨 げ られ,且 つ 凝 集 が 起 る ため で あ る。 CMC は粘 土 の 分 散 性,脱 水性 を改 善 し,掘 削 に 好適 な粘 度, GS, Yvを 保 つ べ く添 加 され る も ので, 1944年 Phiilips Petroieum Co. に よ り初 め て用 い られ た 。 真 水 泥 で は 多 少 の DS を もっ CMC が存 在 す る と, 粘 土 に 吸 着 され たCMC中 の Na+は Donnan の膜 理 論 が 示 す よ うに,膜 面 か ら拡 散 の 傾 向 をも ち,囲 む 膜
表 5 水 溶性 セル ロース誘 導体 の用途分野
図 3 水 中での粘度粒子の集合形態
表 6 泥水 に要求 され る性能
18 紙 パ技協諮 第37 巻第 9 号有 機 材 料 と して の セ ル ロー ス 789 と媒 体 間 に ポ テ ン シ ャル 差 が 存 在 す る こ と,及 び ポ リ マ ー 鎖 の 内部 反 発 に よ る膨 張 と有 効 荷 電 半径 の 増 大 に よ り,粒 子 は凝 集 せ ず 脱 水 量 も低 い 。 しか し, NaCi の よ うな塩 が葎 在 す る と対 イ オ ンの拡 散 が へ り,ポ テ ン シ ャル差 が低 下 し,容 積 は減 少 し,粒 子 は凝 集 し, 脱 水 量 は増 大 す る.こ の こ とは CMC を含 む泥 水 の塩 濃 度 に対 す る感 度 は DS の 函数 で あ る こ とを示 唆 して お り, DS が 高 い ほ ど泥 水 は塩 効 果 に対 し鈍 感 で あ る。 これ はDS 0.7 と L2 の CMC を用 い た場 合 の比 較 に よ り明 らか に示 され る(図4)9)。 第2に,泥 水 に対 し CMC を添 加 した場 合,一 部 の
CMCは
泥 に吸着 され,残
りの CMC の大部分 は炉過
時のケーキに捕集 され る。前者 は粒子間 の反発カ の増
大 に より粒子 問の相互作 用 を減 少 し,炉 過 に際 しパ ッ
キ ング待 性 を改 善 し,が 過 性 を減 少 す る。 後 者 は ケ 一 キ の キ ャ ピ ラ リー や 裂 け 目 にデ ポ ジ ッ トし,流 れ に対 す る抵 抗 を高 め,脱 水 を減 少 させ る。 こ の な め に は CMCは 限 度 以 上 の分 子 量 を もつ こ とが望 ま しい(図 5)9) 第3に,泥 水 の 流 動 性 を 示 す Shearrate .と Shearstressの 関 係 は Power Iaw mnodel ま た は Modified
power law model に 従 い,次 式 で 表 わ さ れ る.
(1 )
(2
)
T: Shear stress, D: Shear rate,n: Flow behavior index K: Flow consistency facter,
G0 : Yield stress (FAN VG METER co 3 rpm の 時 の ダ イ アル の 読 み) n値 は泥 水 の 非 ニ ュー トニ ア ン度 を示 し, G0= 0, n =1で あれ ば ニ ュー トン流 体 ,K値 は Plastic viscosity (PV ) に類 似 したパ ラ メ ー タ で,こ れ 等 は Tと Pを 両 対 数 で プ 資 ッ トして求 め られ,掘 進 率,掘 り くず の 運 搬 能 力,ア ニ ュラ ス部 圧 力 損 失 な どに大 き な影 響 を 与 え る.n値 とア ニ ュ ラス 部 の泥 水 の流 れ の状 態 の 関 係 は 図6粉 の 通 りでnが 小 さい ほ ど Plug f1ow とな る。n=1で は 中央 の掘 り くず は流 速 の 小 さい 孔壁 や パ イ プ側 へ押 しつ け られ 掘 り くず の上 昇 が 悪 く, nが
図 4 高 NaCl 含量 の掘 削泥 に対す る CMC 添加
濃度 と API 脱水量 の関係
図 5 CMC の粘度 と脱水量 の関係
図 6 n 値 と velocity profile と の 関 係 (121/4 in × 41/ 2 in DP の 場 合) 昭 和 58 年 9 月 19小 さ くな るに つ れ均 一 に 上 昇 す る。 ま た,K値 の増 大 は 泥 水 中の ソ リ ッ ド分 の増 加,細 分 化 と関 連 が あ り, 所 要 動 力 を増 大 せ し め る。 さて,低 Shearrate の ア ニ ュ ラス 部 で は高 粘 の方 が 掘 り くず は よ く運 搬 され,高 Sheaf rate 下 の ビ ッ ト 部 で は低 粘 ほ ど望 ま し く掘 削速 度 が大 とな る 。 n値 と YV/PVの 間 には 図7の 関 係 が あ り10),且 つ Shear rateと 粘 度 の 間 に は, YV/ PV をパ ラ メ ー タ と し て 図8の 関 係 が あ る1')。従 っ て, YV/ PV が 大 きい ほ ど 掘 削 に は理 想 的 で あ る. 泥 水 用 ポ リマ ー と して はDS及 び 分子 量 が 高 く, n, Kの 小 さい もの が 望 ま しい が,適 度 の YV, GS を も つ こ と も必 要 で,実 際 は トー タル 的 な効 率 を勘 案 して 選 定 使 用 され てい る。 表7にCMCに 関 し沖 野 の ま と め た 結 果 の 一 部 を示 した鋤 。海 水 ベ ン トナ イ トに お い て 脱 水 量 WL は CMC の添 加 に よ り激 減 す るが,n 値 は増 加 の傾 向 が あ り,そ の 対 策 が 進 め られ て い る。 近 年 増 加 しつ つ あ る海 洋 掘 削 で は 海 水 中 の多 価 イオ ン に よ るCMCの 架 橋 の 問 題 もあ り,ノ ニ オ ン性 セル ロ ー ス誘 導体 の使 用 も提 案 され て い る13)。ま た深 部 掘 酬 で は耐 熱性 も要 求 され る。 これ ら の ニ ー ズ に応 え る こ とが 今 後 の 課 題 で あ ろ う。 3 . 2 磁 気 テ ー プ バ イ ン ダ ー 磁 気 テー プ にお け る高 密 度 化,高 性 能 化 の傾 向 は著 し く,磁 性 粉 につ い ては 従 来 の γ- Fe203 か ら Co 含 有 酸 化 鉄,更 に は Co- Fe, Co- Ni な どの金 属 粉 へ と進 展 して き た 。 これ らの磁 性 粉 を基 材 に コー トす るバ イ ンダ ー は 磁気 テ ー プ の製 造 にお い て 重 要 な 役 割 を果 し て い るが,こ の分 野 で硝 酸 セル ロ ー ス は素 材 の 一 つ と して 注 目 され て い る。 磁 性 バ イ ンダ ー は 単 に 磁性 粉 を基 材 に よ く接 着 させ る だ け で な く,磁 性 粉 の分 散,充 填,配 向性,平 滑 性, 耐 摩 耗 性,非 カ ール 性 な ど多 数 の機 能 が 要 求 され る。 な か で も分 散 性 は特 性 を 向上 させ る重 要 な基 本 の一 っ で 主 に バ イ ン ダ ーの 種 類 に よ り左 右 され る。 そ の評 価 法 は ま だ確 立 され て い な い が,途 膜 と して の 磁気 ヒス テ リ シ ス 曲線 の最 大 磁 束 密 度 Ms と残 留 磁 西密 度M7 図 7 n 値 と YV/ 1) V と の 関係
図 8 舅断 速度 と粘度の関係
表 7 海 水 ベ ン トナ イ ト懸 濁 液 に 対 す るCMCの 添加効果
(注) 海 水+ Te1 - Gel8%: n, K は power law
model 600, 300rpm に お け る 計 算 値: K (lb.
secn/ 100 ft2)
Telcellose (HP) : pure grade high viscosity CMC DS 0.8•` 0.9 表 8 磁 性 コー トポ リマ ー の角 型 比 に対 す る影 響 ペ イ ン ト組 成 Co- 7- Fe2O3: ポ リマ ー:溶 媒= 16: 4: 35 粉 砕 時 間 8 時 間 磁 場 配 向 1800G 20 紙パ技協誌 第 37巻 第 9号
有 機 材 料 と して の セル ロー ス 791 の比 Mr/ Mr (角型 比)は 最 も重 要 視 され る も の の一 つ で,そ の他,塗 料 段 階 で の粒 子 の 回転 能,希 薄 ポ リマ ー 溶液 中 の粒 子 沈 降 体 積, 磁 性 粉 ドー プ の 炉過 性 な ど多 数 試 み られ てお り,松 本 らが14)詳細 な 検討 を行 っ て い る 。各 種 バ イ ン ダー 及 び市 販 磁気 テ ー プ な どの角 型 比 及 び 低 磁 場 印 加 に よ る初 期 磁 化 の例 を表8, 図9, 図1014)に示 した。 磁 性 粉 の電 磁変 換 特 性 は高 配 向 ほ どす ぐれ て い る。 最 近 の 磁気 テ ー プ の磁 性 粉 は以 前 と 異 な り,X線 的 に繊 維 図 形 の認 め られ る まで に配 向 性 が 向 上 して い る こ とが 明 らか に され た が,そ の 程 度 は60%と い わ れ16)検討 の 余 地 を残 してい る。 な お,配 向磁 場 強 度 を高 め る だ け で は角 型 比 に 限界 の あ る こ とがす で に指 摘 され てい る16)。 ま た,充 填 性 につ い て は,そ の指 標 とな る 空 隙率 が2∼3%に 低下 してお り,他 の添 加 剤 の体 積 含 有 率 の 低減 が必 要 と され て い る14)。 こ うした 分散,配 向,充 填 性 の基 礎 とな る の は,磁 性 粉 の表 面 へ の ポ リマ ー の吸 着 に関 す る界 面 現 象 の 問 題 が 大 き く,こ れ につ い て も松 本 らが 系 統 的 な 研 究 を行 っ て い る。 そ の 結 果 に よれ ば16),優 れ たバ イ ンダ ー は吸 着 量 が 多 い だ けで な く,バ イ ンダ ー分 子 の疎 水 基 と親水 基 が 適 度 にバ ラ ンス し,疎 水 基 を溶 剤 相 に,親水 基 を磁性 粉 表 面 に 向 け た train- loop 型 の配 向 吸 着 が望 ま しい と して い る (図11)14)。 メ ッキ あ るい は 蒸着 法指 向 の 中 でバ イ ン ダ ー 法 の前 途 は厳 しい が ,溶 液 中のポ リマ ーの 吸着,粒 子 の 分散 に 関 す る こ う した研 究 は, ポ リマー の 分 子設 計 と機 能 の解 明 に大 き な指 針 を与 え る もの で今 後 各 種 の応 用 展 開 が 期 待 され る。 なお,硝 酸 セ ル ロー ス のバ イ ン ダー 能 に関 して は,そ の他,透 明導 電 性 形 成 用 ペ ー ス ト に遊 離 酸 処 理 を施 した硝 酸 セ ル ロー ス を用 い, ペ ース ト粘 度 安 定 性 を改 善 す る方 法17),あ ら か じ め Nκ0y で 一部 酸 化 したオ キ シセ ル ロ ー ス を硝 酸 化 し て アル ミ フ ォイル な どへ の接 着 性 を向 上 す る方 法18)な ど の例 もみ られ,硝 酸 セ ル ロー ス 側 か らの高 機 能 化 の 試 み と して 注 目 され る。 3 . 3 グ ラ フ ト重 合 の 応 用 セ ル ロー ス(及 び そ の誘 導 体)へ の グ ラ フ トは,(1) Ce塩 な ど に代 表 され る化 学 的 開 始剤,ま た は γ線, 紫 外 線 照 射 な どの物 理 的 方 法 に よ る ラジ カル 重 合,(2) イ オ ン重 合,(3)縮 合 重 合,(4)無 触 媒 重 合 な ど,そ の主 鎖 に直 接 重 合 す る方 法 と,(5)主 鎖 に あ ら か じめ活 性 基 を導 入 し,こ れ を介 し て行 う方 法 が あ り,こ れ ま で に 多 くの研 究 が な され て き た。 しか し,工 業 化 を試 み た 若 干 の例 は あ る も の の,ソ 連 のMtilon A(ア ク リル 酸 グ ラ フ トア セ テ ー ト), Mtilon B (ア ク リル ニ トリ ル グ ラ フ トビ ス コ ー ス)の 例 を除 き商 業 的 成 功 例 に乏 しい19)。 そ の 理 由 は機 能 的 に も コス ト的 に も合 成 高 分 子 に抗 し難 か っ た た め で あ ろ う。 こ こ で は実 用 化 の可 図 9 市 販 VTR 磁 気 テ ー プ の角 型 比 図 10 500e の 磁 場 を印 加 した と きの 磁 性 塗 料 の1分 後 の 磁 化 の 強 さ 塗料 組成 (重 量 比) Co-7 Fe203: ポ リマ ー:メ ヲ ル エ チ ル ケ トン =8: 2: 15 昭 和58 年 9月 21
792 能 性 に 富み 市 場 的 に も大 き い 自動 車補 修 用 塗 料 にお け る CAB の Madification の 例 を紹 介 す る。 自動 車 補 修 用 塗 料 市 場 は 400 億 円/年,上 塗 りが そ の70%を 占 め,主 流 は 硝 酸 セ ル ロ ー ス系 か ら CAB 系 に 移 行 し,最 近 は ポ リ ウ レ タ ン系 も台 頭 し てい る。 CABは 耐 候性,塗 膜 硬 度,耐 ガ ソ リン性,速 乾 性 な どに 優 れ,光 沢,付 着 性,耐 湿 性 に特 徴 を もつ ア ク リ ル を配 合 した ス トレー トア ク リル ラ ッカー は 今 後 も主 流 の一 つ をな ず とみ られ て い る (表9)。 しか し,セ ル ロー ス誘 導 体 とア ク リル は一 般 に相 溶 性 が悪 く,屋 外 曝 露 で われ や す く,使 用 す る ア ク リル が 限 定 され る。CABに ア ク リル を グ ラ フ トす る と相 溶 性 が向 上 し,塗 膜 の ひ び われ が 減 り塗 膜性 能 が向 上 す る ので,各 種 の 方 法 が 開 発 され て い る 。表10の A)20),B)鋤 は溶 剤 型,C)22) は無 溶媒 型 の例 で,後 者 に は高 分 子 間 の グ ラ フ ト反 応 が 用 い られ,且 つ ソー プ フ リー型 とな っ て い る。B)の 場 合 の 塗膜 の性 能 につ い て特 許 実 施 例 よ り要 約 して表11に 示 した。 さて セ ル ロー ス へ の グ ラ フ ト反応 に お い て従 来 論 議 の 的 とな っ て 来 た 大 きな 問 題 の 一 つ は,重 合 開 始 点 と 真 の グ ラ フ ト率 及 び 枝 の 数 で あ る。 す な わ ち グ ラ フ ト 化 しや す く重 合 開 始 点 とな るの は セル ロー ス の分 子 末 端 の ヘ ミア セ タ ール で,次 いで Ci- C2 グ リコ ール で あ る こ と23),あ るい は カル ボ ニル 基 で あ る こ と24), UV 照 射 時 は1,4一βグル コシ ド結 合 の 開 裂 で あ る こ と25)な どが 指 摘 され て き た が,副 生 ホ モ ポ リマ ー 及 び 未反 応 セ ル ロー ス の 完 全 除 去 が難 か し く,且 つ 適 確 なキ ャ ラ クタ リゼ ー シ 濁 ンの方 法 に乏 し く,そ の 実 態 が 明 らか で な か っ た。 最 近 多賀 らは,Ce塩 を用 い て ス ヲ レ ン及 び MMA の セ ル ロー ス へ の グ ラ フ ト重 合 を行 い,生 成 物 を酸 加 図 11 バ イ ンダ ー の モ デ ル 分子 と磁性 粉表 面 へ の 吸 着 形 態
表 9 自動車補 修用塗 料の現状 と将来
22 紙パ技埼誌 第37 巻第 9 号有 機 材 料 と し て の セ ル ロ ー ス 793 水 分 解 後,薄 層 ク ロマ ト法 を適 用 し, 40℃ 以 下 の低 温 で はセ ル ロー ス分 子 の末 端 C1- C2 グル コー ス の 開 裂 に よ る ラジ カ ル発 生 が優 先 し,次 い で C2- C3 グ ル コー ス に及 ぶ こ と,特 た ズ ヲ ン ンの 場 合,開 始 点 は 主 と し てC1フ リー ラ ジ カル で あ る こ と を初 めて 明 らか に し た 。 これ は セル ロー ス を用 い て A- B 型 ブ ロ ック 共重 合 体 の得 られ る こ と を示 唆 す る 点 で重 要 で あ るが,従 来 主 鎖 の セ ル ロ-ス1分 子 当 りグ ラ フ トす る枝 の 数 は 一 般 に1以 下 ど され て 来 た 知 見37)28)との 関 連 を考 え て も意 義 深 い。 表 10 CAB グ ラ フ ト反 応 例 表 11 ア ク リル グ ラ フ ト CAB 塗 膜 例 溶 剤 組成 省略 注 1 イ ー ス トマ ン コ ダ ック社 EAB 551- 0.2 注 2 対 ポ リマ ー% 特 開 昭 56- 163159 昭 和 58年 9 月 23
そ の 他,三 酢 酸 セ ル ロ ー ス,あ る い は ト リ メ ヲ ル セ ル ロ ー ス な ど の オ リ ゴ マ ー を 用 い て ブ ロ ッ ク 共 重 合 体 を 得 る 試 み も あ る が,松 崎 ら の 総 説29)に す で に 紹 介 さ れ て い る の で 省1略 す る 。 こ れ 等 の 知 見 を踏 ま え,セ ル ロ ー ス 分 子 の 親 水 性, 剛 直 性,生 分 解 性 な ど の 特 徴 を 生 か し,新 た な 分 子 設 計 に よ る 新 材 料 創 出 へ の 展 開 を期 待 し た い 。 3 . 4 マ イ ク ロ フ ィ ブ リル 化 セ ル ロ ー ス (MFC) セ ル ロ ー ス フ ァ イ バ ー を 酸 加 水 分 解,機 械 粉 砕,ま た は そ れ ら の 複 合 に よ り微 粉 未 化 し た セ ル ロ ー ス は, マ イ ク ロ ク リ ス タ リ ン セ ル ロ ー ス (MCC) ,あ る い は 各 種 の フ ロ ッ ク と し て,医 薬 の 乾 式 打 錠,ノ ン カ ー ボ ン 紙 カ プ セ ル ク ッ シ ョ ン,高 分 子 フ ィ ラ ー,炉 過 助 剤 な ど の 分 野 に 利 用 さ れ て い る 。 最 近 こ の 分 野 で ITT Rayonier 社 は,精 製 パ ル プ フ ァ イ バ ー の 希 薄 ス ラ リ ー を 高 圧 ホ モ ジ ナ イ ザ ー に か け(図12),8,000psiの 高 圧 力 差,高 勇 断 力,高 衝 撃 力 の も と に フ ィ ブ リ ル 化 し たMFCを 発 表 し た30)31)。 電 顕 観 察 に よれ ば,L2.5mm× φ23μm の パ ル プ を 用 い φ25∼ φ100nm の ミ ク ロ フ ィ ブ リ ル を 得 て い る (写 真 1, 2)。 MFCの2%懸 濁 液 は 静 止 時 安定 な ゲル 状 を示 し, 沈 降 凝 集 現 象 が み られ ない 点 で これ まで の MCC 及 び 各 種 フ ロ ック とは性 状 を異 に してい る。 そ の 粘度 挙動 は 擬 塑性 を示 し,粘 度 ∼勇 断 速 度 の 関 係 は CMC に類 似 す るが(図13),温 度 似 存 性 が小 さい ほ か,高 重 力 で の 保 水性 はパ ル プ の数 倍 以 上 に達 す る(図14)な ど, 図 12 高 圧 ホ モ ジ ナ イザ ー 写 真 1 未 処 理 パ ル プの 電 顕 図 (1万 倍) 25∼ 100 nm径 の ミ ク ロ フ ィブ リル の ロ ー プ状 の 束 で構 成 され た フ ィ ブ リル 写 真 2 MFC の電 顕 図 (1万 倍) マ イ ク ロ フ ィ ブ リ ル 化 さ れ た 25∼ 100nm 径 の ミ ク ロ フ ィ ブ リル 図 13 粘 度 に 対 す る 勇 断速 度 の影 響 (20℃) 図 14 MFC の 保水 性 24 蔽バ技 協誌 第37 巻 第9 号
有 機 材 料 と し て の セ ル ロー ス 795 勝 れ た物 理 的 特 性 を もっ て い る。 他 方 化 学 的 には MFC は そ の高 度 の フ ィ ブ リル化 に もか か わ らず重 合度 の低 下 は 25% 程 度 で あ る が, 0.125N- Cuene 溶 液 に よ る 可 溶性 セル ロー スの29%か ら94%へ の著 増, トリチル 化 反 応 速 度,過 沃 素 酸酸 化 速 度,セ ル ラー ゼ(T. viride) に よ る酵 素 加 水 分 解 速 度, 酢 化速 度 の増 大 な どは,い ずれ も表 面 積 の増 大 に よる accessibilty の 向上 を意 味 して い る。 これ らの こ とか ら MFC は 懸 濁状 ま た はゲ ル 状食 品 の賦 型,粘 度調 節,エ マル シ ョン あ るい は ス ラ リーの 流 動性 の調 節,ベ トつ き の な い化 粧 品 基 材,各 種 保水 剤 な どへ の応 用 の ほ か,こ のマ イ ク ロ フ ィブ リル 化 法 そ の も の が,セ ル ロー ス糖 化 を含 む 各種 の セル ロ ー ス 反 応 の前 処 理 法 と して も利 用 の可 能 性 が あ る こ とを示 して お り,広 い分 野 にわ た る今 後 の 展 開が 注 目 され る。 3 . 5 ラ セ ミ体 分 割 能 光 学 活 性 を示 す 医薬,農 薬,ア ミノ酸 な ど,生 理 活 性 物 質 の光 学 分 割 は,実 験 室 的 に も工 業 的 に も ます ま す重 要 な もの とな っ て き て い る 。光 学 分 割 法 に は種 々 の方 法 が あ り,優 先 晶 出 法(接 種 法),及 び 酵 素 に よ る動 力 学 的 分 割 法 が,ア ミ ノ酸 に お い て工 業 的 に重 要 な分 割 法 とな っ て い る こ とは 周 知 の 通 りで あ る。 ク ロマ トグ ラフ ィ ー に よ る直 接 分 割 は,数 年 前 ま で は完 全 分 割 が 困難 で余 り注 目 され な か っ た が,最 近 は す ぐれ た キ ラル な 固定 相 が 開発 され応 用 価 値 を高 め つ つ あ る。結 城32),岡 本35)らは キ ラル な ア ニ オ ン 開始 剤 を用 い た トリチル メ タ ア ク リ レー トポ リマ ー が勝 れ た 光 学 分 割能 を有 す る こ と を見 出 し,液 体 ク ロマ ト用 カ ラ ム充 填 剤 へ の応 用 を検 討 して い る 。 マ イ ク ロ ク リ ス タ リン セ ル ロー ス トリ ア セ テ ー ト (Mcc - CTA) が完 全 な光 学 分 割 能 を もつ こ とは, 1973 年Hesse と Hagel に よ る Troger 塩(図15 a) の 完 全 分割 に よ り初 めて 見 出 され た33)。以 後2一 フ ェ ニ ル シ ク ロヘ キサ ノ ン,2-フ ェニ ル シ ク ロヘ プ タ ノ ン, 2-(1一フ ェ ニル エ ヲ ル)一ア ニ ソール(図15b, c) な ど を含 め多 数 の例 が 報 じ られ て い る34)。 この よ うな分 割 能 は,例 え ば MCC をベ ン ゼ ン 中 で, HC104を 触 媒 と して 結 晶性 を保 つ よ う低 温,長 時 間 不 均 一酢 化 したCTAで 得 られ,こ れ を溶 解 再 生 した もの は分 割 能 が略 々 完 全 に 失 な わ れ る。 ま た DS= 2.5 の 酢酸 セル ロー ス で は 不 充分 な分 割 能 しか 得 られ て い な い36)。 こ うした 分 割 の メ カ ニ ズ ム と して Hesse らは37), a b n= 1 n= z C 少 数 の置 換 基 を も つ フ ェニル 基 が セ ル ロー ス の ピ ラ ン 環 の ギ ャ ップ に適 合 し, Anchoring group と して 働 く た め で(図16),吸 着 の た め の 特 別 の 官能 基 を必 要 とす る こ とな く 分 割 が 可 能 と し,こ れ を Inciusion chroramtography とよ ん だ 。 しか し,そ の後 芳 香 環 を もつ こ とが必 須 の条 件 とは 考 え難 くな って い る。 それ は芳 香 環 を も っ てい て も必 ず し も分 割 能 が 充 分 で な い ケ ー スや,芳 香 環 が な くて も完 全 に 分 割 され る こ とが 判 明 して きた た めで,医 薬 で あ るN一 メ ヲル バ ル ビツ ー ル 類 に つ い て の 近 年 の 分 割例 は これ を示 して い る(表12)38)。
CTA に はI型 と皿型 の結 晶 形 が あ るが, CTA の 光 学 分 割 能 は そ の結 晶構 造 と関連 し,エ ナ ンヲ オ マ ー の空 間 構 造 との関 係 で決 ま る と思 わ れ る が,ま だ解 明 は な され てい ない 。 セ ル ロー ス誘 導 体 の新 た な光 学 分 図 15 MCC- CTA に よ り完 全 分 割 され る ラセ ミ体 図 16 マ イ ク ロ ク リ ス タ リン域 で 極 限 伸 長 した酢 酸 セ ル ロー ス にベ ンゼ ン環 が 包 接 され てい る状 態 図 17 DS 0.8の CMC の 1H- NMR ス ペ ク トル (90MHz) S: 置 換, U: 未 置 換 昭 和58 年 9月 25
(a
)
α=非易動性成分 の保 持容量 一全デ ッド容量
易動性成分 の保持容量 一全 デ ッ ド容量
(b
)
Rs=2× (非易動性成分 の保 持容量 一易動性成 分の保 持容量)
(2個 の ピ ー ク のバ ン ド幅 の合 計) (c ) NCH3 の 代 り に NH 図 18 MS2.5 の HEC の 13C- NMR ス ペ ク トル 表 12 三 酢 酸 セル ロー ス カ ラ ム に よ る キ ラル なバ ル ビツ ール の分 割 結 果 (カ ラ ム: 85× 2.5cm, 溶 媒: 95% エ タ ノ ー ル) 26 紙パ技惨誌 第 37 巻第 9 号有 機 材 料 と し て の セル ロ ー ス 797 割 能 の 探 索 と共 に今 後 に期 待 した い 。 3 . 6 DS, MS 及 び DS 分 布 セ ル ロー ス誘 導 体 にお い て 最 も基 本 とな るキ ャ ラ ク タ リゼ ー シ ョンの一 つ は置 換 度 (DS) 及 び 置換 基 分 布 の 問題 で あ る。置 換 基 分 布 につ い て は,グ ル コー ス環 内,セ ル ロー ス 分子 内,セ ル ロ ー ス分 子 間 の3種 が あ る こ と は周 知 の通 りで あ る が,こ こで は グル コー ス 環 内 の分 布 を中心 に NMR に よ る最 近 の 成 果 に 触 れ て み たい 。
最 近 Hercules のHoら39)は D2O+ D2SO4 (50: 50 v/v)中 で 加水 分 解 したCMCに つ い て, 90MHz の 1H-NMRに よ りDS並 び にDSの 分布 を求 め(図 17),本 法 のDSは 滴 定 法 に対 し, DS= 0.8以 下 で は 若 干 高 い値 を示 す が 全般 的 に は よ く 一 致 してお り, CMCで のOH基 の 反応 性 は C2: C3: C6 = 2: 1: 1.5 で あ る こ とを示 した 。 この反 応 性 の順 序 は1950年 代, Timell40)あ る い はCroon41)ら が C6 を最 大 と した結 果 とは 異 な っ てい るが,近 年 Buytenbuys ら42)が加 水 分 解 物 の完 全 ク ロマ トグ ラ フ ィー か ら,ま た Parfondy ら43)が 13C- NMR か ら得 た 結 論 と一 致 して い る 。 酢酸 セル ロー ス につ い て上 出 ら44)は 100MHz の 1H -MMR 及 び 13C- NMR を用 い,後 者 に よ る DS 及 び DS分 布 の測 定 が可 能 で あ り, HCI を用 い る時 の0一 アセ チル 基 の加 水 分 解 性 が C2> C6> C3 の順 で あ る こ と を示 して い る。 HEC に は HPC な ど と同 じ く MS と DS が あ り, 商業 的取 引 はMS表 示 で 行 わ れ て い る。 MS は化 学 的 分 析 法 で 比較 的容 易 に求 め られ るが, DS の決 定 は, 化 学 法 は精 度 に 乏 し く45),ク ロマ トグ ラ フ ィ ー法 は長 時 間 を要 し困 難 で あ った 。 これ に対 し DeMember ら は46) Varian CFT- 20 の13 C -NMR を用 い,図18に 示 した 付 加 EO の C7, C9 の ピー ク面 積 比 P=〔C7〕/ 図 19 硝 化 法 NC と脱 硝 法 NC の DSと d 110 面 間 隔 との関 係,部 分 DS パ ター ンは 13C-NMR に よ り決 定 図 20 統 計的 に算 出 され た 硝 化 法 NC 及 び脱 硝 法 NC の主 鎖 シ ー ケ ン ス モデ ル 昭 和58 年 9月 27
798 〔C9〕よ り, MS 2.7 ∼ 2.8 の HEC の DS を次 式 の関 係 に よ り求 め約1.4を 得 た 。 DS= MS/ { (P/ 2) +1} この 値 は Stratta が 統 計 的 に求 め た MS∼ DS 換 算 理 論 値47),及 び Wirick の求 め た値48)と略 々一 致 して い る。 しか し DS の 分 布 を明 確 にす る に至 らず, C6 位 の反 応 性 が低 い な ど,従 来 反 応 性 を加 水 分 解 物 の ガ ス ク ロマ トグ ラ フ ィー か ら求 め て C2 < C6 と した Samu-elsonら49)そ の他 多 くの知 見 と異 な っ て お り,検 討 の 余 地 を残 して い る。 ま た,NCに つ い てWuは50) 25.2 MHz の 13C- NMR に よ る C1 ア ノ マ ー カ ー ボ ン及 び C6 メ チ レ ンカ ー ボ ン の解 析 よ り,全 DS 及 び C2, C3, C6 の部 分 DS を 求 め,そ れ等 の平 衡 恒数 は C3< C2< C6 の 順 とな る こ とを示 した 。更 にClarkら は51)52) 75.5MHz の 13C-NMR を用 い C2 ∼ C5 の カー ボ ン も含 めて 検 討 し,従 来 指 摘 され て き た硝 化 ま た は脱 硝 に よ り調 製 され た 同 一DSのNCの 鎖 間 間 隔 d (110) の相 違 は,グ ル コー ス環 内及 び主 鎖 シ ー ケ ン ス の置 換 パ タ ー ンの相 違 に基 づ くこ と,硝 化 法 で得 た硝 酸 セ ル ロー ス は DS 2.5で も5%の 未 置 換 基 を含 む が, DS 2.8 の硝 酸 セ ル ロー ス を DS 2.15 まで 脱 硝 した も の は 未置 換 基 を含 まな い こ と(図19)を 明 らか に し,グ ル コー ス 残 基 の 反応 は ラ ン ダ ム で は な く隣接 環 の 置換 パ ター ンの 影 響 を う け,完 全 置 換 残 基 の短 か い ブ ロ ックが 低 DS 残 基 の 短 か い ブ ロ ッ クを 伴 って い る こ と,硝 化 速 度 は 6km> 2km, 3km で 置 換 の進 行 と共 に増 大 し 6km <2, 6kd, 3, 6kd< 2, 3, 6kt (2), 2, 3, 6 kt (3) とな る こ と,脱 硝速 度 は6k-m《2k- m, 3k- m で且 つ 6 k- m 《2,6 k- d, 3, 6 k-d <2, 3, 6 k- t (2), 2, 3, 6k- (3) (m, d, t は そ れ ぞ れ モ ノ,ジ,ト リ)で あ る こ とな ど よ り,主 鎖 シ ー ケ ン ス モデ ル と して 図20を 提 案 して い る。 非 加 水 分 解 主 鎖 の NMR 解 析 に よ り主 鎖 シー ケ ン スの 問 題 まで 論 じ られ る よ うに な っ て きた こ とは, 著 しい 進 歩 とい え よ う。 そ の 他, HPC は 1H- NMR に よ る MS と DS の 決 定 か ら53) 13C- NMR に よ る DS 分 布 の 問 題 まで54) 取 り上 げ られ て い る こ とを 指摘 して お く。 こ こ で は グル コー ス環 内 の 置換 基 の 問 題 を中 心 に, 一 部 は主 鎖 シ ー ケ ン ス ま で解 析 が 及 び つ つ あ る最 近 の 状 況 を と りあ げ た が,こ れ な どが 実 用機 能 と関 連 す る 点 は 極 め て 大 き く,各 種 NMR 関連 機 器 の 進 歩 と共 に今 後 急 速 な進 展 が期 待 され る。 4 . お わ り に 有 機 材 料 と して の 機 能 を用 途 との 関 連 で 基 礎 的 に解 明 す る こ とは,新 た な 機 能 設 計 の夢 を育 み,次 の シ ー
ズ産生 の飛躍へ と導 く。セル ロース高機能化 の今後の
研究成果 に期待 したい。
最 後に本稿執筆 に際 し,種 々助言 を頂 いた弊社宇田
博士,資 料作成 に協力頂 いた社 内各位並びに発表 を許
可 された経営層 に謝意 を表 したい。
文
献
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