• 検索結果がありません。

エンタテイメント型成功事例と言えば、多くの人は、ディズニーランドが挙げるであろう

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "エンタテイメント型成功事例と言えば、多くの人は、ディズニーランドが挙げるであろう"

Copied!
18
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

継続的に成長するための商品戦略

∼ エンタテイメントビジネスから学ぶ「ストーリー」という付加価値 ∼ 目 次 頁 第1章.はじめに 2 第2章.なぜ今、エンタテイメントビジネスか? 3 第3章.「モーニング娘。」とは 5 3.1.「モーニング娘。」の人材戦略 5 3.2.「モーニング娘。」のブランド戦略 7 3.3.「モーニング娘。」の経営戦略 9 第4章.「東京ディズニーリゾート」とは 11 4.1.「東京ディズニーリゾート」の人材戦略 11 4.2.「東京ディズニーリゾート」のブランド戦略 12 4.3.「東京ディニーリゾート」の経営戦略 12 第5章.「エンタテイメントビジネス」における成功へのエッセンス 14 5.1.「モーニング娘。」と「東京ディズニーリゾート」の共通点 14 5.2.「モーニング娘。」と「東京ディズニーリゾート」の相違点 15 5.3.「エンタテイメント」を取り入れた商品戦略のエッセンス 15 第6章.おわりに 17 〔キーワード〕 エンタテイメントビジネスのモデル化、ストーリーの共感から来るシリーズ化、新陳代謝、 商品戦略、組織心理

(2)

第1章.はじめに モノが売れにくい時代である。正確に言うと、モノだけでは売れない時代にきている。 商品やサービスを売るためには、広告による周知とイメージ提案、新陳代謝、流行を含めたマーケ ティング等により、顧客とのコミュニケーションも必要になってきている。 消費者においては、モノが溢れたことで、購買心理が多様化してきた。そのため、商品やサービス を提供する者は、個々の消費者心理を考慮し、供給していかなければならない。 「商品の本質的な機能に付加価値を組み込むことで、個々の消費者心理と適合させ、その商品が継 続的に成長する」を行うことを、主とする代表的なビジネスがある。 娯楽や音楽などを代表とするエンタテイメントビジネスである。 当論文では、現在勢いが盛んで、国民的人気グループ「モーニング娘。」(以下、「モーニング娘」 という)を取り上げる。この組織を運営するプロデューサーつんく♂氏(以下、「つんく」)の功績 は大きい。デビューから現在までの 6 年間ヒットし続けているモーニング娘を、彼やメンバーの言葉 や動きから、どのようにこの組織(商品)が上手く機能し、継続的に市場に受け入れられているのか を事例検証を行う。更に「東京ディズニーリゾート」を比較対照として取り上げる。 まず、第 2 章では「心の豊かさ」を基軸に消費者行動が変化しているなかで、何故エンタテイメン トビジネスを取り上げるかを述べ、第 3 章、第 4 章では、エンタテイメントビジネスで成功するモー ニング娘と東京ディズニーリゾートから事例検証を行う。第 5 章では、これらの事例から、両者の共 通点や相違点を明らかにしたうえで、成功するエンタテイメントビジネスのエッセンスを導き出し、 「継続的に成長するための商品戦略」をモデル化する。 なお、論題である「継続的に成長するための商品戦略」という表現は、商品も生ものであり、そこ に「ある価値」を付加させたり、徐々に時間軸で商品自身も成長していくためである。

(3)

第2章.なぜ今、エンタテイメントビジネスか? 内閣府が発表した 2002 年 9 月国民生活に関する世論調査によると、「心の豊かさ」を重視する人の 割合が「物の豊かさ」の 2 倍の 60.7%となった1。毎年差は開く傾向にあり、「まだまだ物質的な面で 生活を豊かにすることに重き をおきたい」から、「物質的 にある程度豊かになったので、 これからは心の豊かさやゆと りのある生活をすることに重 きをおきたい」という消費者 が中心になってきた。 「物」より「心」という のは、ダイヤモンド(物)を 買うより海外旅行(心)に行 きたい、ということに当ては まるのだろうか。ただ、ダイヤモ 0 10 20 30 40 50 60 70 S47.1 S49.1 S50.5 S51.5 S52.5 S54.5 S58.5 S60.5 S62.5 H1.5 H3.5 H5.5 H7.5 H9.5 H14.6年月 % 物の豊かさ 心の豊かさ 図1.「心の豊かさ」と「物の豊かさ」 (注)内閣府ホームページより ンド(物)にもなんらかのエ ピソードや思いを添えると、 「心の豊かさ」に当てはまる商品にもなりうる。消費者の欲求に応えるために、企業は商品に「何か」 を被せることに対して動き始めているのである。 例えば、日産自動車はワンボックスカー「セレナ」は、「モノより思い出。走り出そう、セレナと。」 2 というキャッチコピーと共に商品を市場に発信した。消費者の「思い出」を軸に置き、思い出を演出 するモノとして車を捕らえている。日産自動車に限らず、多くの企業は、消費者の商品成熟化により、 商品の本質的機能を消費者に訴えるのではなく、その商品の楽しさや遊びから来る満足感や充実感を 訴えることになる。また、B.J.パイン+J.H.ギルモア(2000)は、「現在の消費社会で商品やサービス に『経験』という価値を組み込むことが、新たな成長を図ることに繋がる」3と指摘している。商品の 付加価値は、「思い出」であり、「経験」を組み込むことも一つの手法であろう。 さらに、新商品の寿命は短命化しており、自動車産業を代表的に、商品の計画的陳腐化を行い、自 らの商品を循環させている。短期的な変化であるマイナーチェンジや長期的な変化であるフルモデル チェンジを繰り返し、「ブランド化された商品」の長期的なライフサイクルを機能させている。 このようなライフサイクルが劇的に早期に動く業界は、音楽産業が代表的であろう。1ヶ月間売上 枚数 1 位を継続させるのは、一般的には不可能に近い。商品の寿命は短く、常に楽曲を提供すること と同時に、新人アーティストの発掘を実施し続けている。ヒット作を生み出し継続できるのは、かな り低い確率である。それは、音楽業界では、一般的なハード型商品と比較し参入の垣根が低いこと、 つまりモノを発売する為の開発や投資コストが低く、供給側が「数打てば当たる」という戦略になり やすいためである。それは、消費者の多彩な「好み」に適合させることにも共通する。 このような環境の中で、ヒット作を生み出すために、リリースし、収益を継続させるための戦略は、

(4)

企業運営や商品戦略を考える上で、大いに参考になるところが多いだろう。このように心の豊かさを 追求させるために、現在もっとも参考にできるビジネスの一つがエンタテイメントビジネスである。 エンタテイメントとは、「娯楽。(気晴らしになる)演芸。(気楽に楽しめる)小説。」4と定義す る。気晴らしになることや気楽に楽しめるものは、まさに今後注目するべき「心の豊かさ」の原点と なる。ただし、エンタテイメントビジネスは、「特殊な業界」というイメージがあり、他の領域には 適用されにくいと一般的には考えられる。しかし、山根(2001)は、「産業的に大きくなったのは最 近の話なので、古い部分もたくさん残っている。しかし一方で、われわれに教えてくれるものも多い」 5と示している。 付加価値により収益性が高くなるビジネスの一つである、エンタテイメントビジネスを取り上げる ことで、心の豊かさに配慮をおいた企業や商品戦略に適応できるであろう。 さて、エンタテイメントビジネスは、従来型のハードウェアの経営とは大きく異なるのであろうか。 エンタテイメントビジネスは、一般的に生活必需品ではなく、実需がない。半額にすれば売れると言 うものではない。逆に必需品は、価格設定を性能設計さえ外さなければ販売予想を大きく外れない。 更に定量的に測定が可能なため、競合他社との差別化も数値として顧客側も理解できる。 エンタテイメントビジネスの国内での成功事例と言えば、多くの人は、オリエンタルランド社の経 営するテーマパーク「東京ディズニーランド」が挙げるであろう。言うまでもなく世界中で、現在ま でもディズニー関連の研究や出版、雑誌にも数多く述べられている。もっともディズニーランドは、 「永遠に完成することのないもの、常に発展させ、プラスアルファを加えつづけているもの、要する に生き物なのだ。生きて呼吸するものだから、常に変化が必要だ」6とボブ・トマス(1995)が述べる ように、東京ディズニーリゾートでは、年間平均 100 億円程度の設備投資を行い、アトラクションや 関連施設を増設している。また、顧客満足という点で徹底した人材育成を行うことで、リピータを生 む仕組みを完成させている。この東京ディズニーランドと同様に、エンタテイメントビジネスでの成 功を収めている組織がある。 「モーニング娘。」である。モーニング娘と言えば、主に若い・大人数・オーディション・多くのユ ニット有する人気グループと、まずは想像するだろう。 両者の共通点である、人気を継続している理由は、単純に「変化しつづけていること」と言える。 東京ディズニーランドは、毎年の設備投資・更新から変化を見出し、更に 2001 年に東京ディズニーシ ーを併設することで、現在「東京ディズニーリゾート」として変化している。モーニング娘は、凡そ 1 から 2 年に一度の頻度で、オーディションによるメンバーの追加を行う。それにより、ユニット再 編やソロ活動等へと展開させていき、現在はモーニング娘を含め、つんく氏によりプロデュースされ た集団組織「Hello!Project」という組織体へ変化させている。 両者とも既存の枠にとらわれない構想が、エンタテイメントの常である「消費者は必ず飽きる」と いうテーゼを克服していると言える。次章より、成功している 2 つの組織について、各々の運営体系 の特徴を把握する。

(5)

第3章.「モーニング娘。」とは 1997 年 9 月、テレビ東京系「ASAYAN」でのオーディション企画「シャ乱Qロックヴォーカリスト オーディション」に落選した 5 名は、インディーズのオリジナルCDシングルを 5 日間で 5 万枚売り切 ることを条件にメジャーデビューが約束され、1998 年 1 月に、念願のデビューを果たす7 。 2003 年 8 月現在では、デビュー当初のメンバー2 名を含め、2003 年 1 月に第 6 期メンバー4 名を加 えた 15 名で構成する、現在国内最も活躍する「エンタテイナー」である。 つんく氏のプロデュースすることによって、モーニング娘などの多くのユニット、アーティストが 上手く機能し、市場に受け入れられているのである。 3.1.「モーニング娘。」の人材育成 【「Hello!Project」と小ユニットによる組織戦略】 モーニング娘は、2003 年 6 月 1 日現在 15 名のメンバー構成である。多くのメンバーと多くのユニ ットが存在し、モーニング娘は、Hello!Project の一組織として存在していることになる。この Hello!Project の中心にモーニング娘は、位置している組織である。 この組織は、図 2 のとおりで ① モーニング娘 ② モーニング娘内、小ユニット ③ モーニング娘外、小ユニット ④ ソロメンバー(元モーニング娘) ⑤ ソロメンバー ⑥ 組織内メンバー内、小ユニット から成る。 この組織の特徴は、⑥の組織間の ユニットであろう。そのメンバー間は、 ROMANS Hello! Project モーニング娘。 「さくら組」「おとめ組」 タンポポ ミニモニ。 カントリー娘。に○○ プッチモニ。 メロン記念日 松浦亜弥 後藤真希 中澤裕子 ココナッツ娘。 前田有紀 ZYX (注)中原作成、2003年6月時点 図2. Hello!Project組織構成とユニット ① ② ③ ④ ⑤ ⑥ ROMANS Hello! Project モーニング娘。 「さくら組」「おとめ組」 タンポポ ミニモニ。 カントリー娘。に○○ プッチモニ。 メロン記念日 松浦亜弥 後藤真希 中澤裕子 ココナッツ娘。 前田有紀 ZYX (注)中原作成、2003年6月時点 図2. Hello!Project組織構成とユニット ① ② ③ ④ ⑤ ⑥ 異業種交流に近い体系をとる。人と人 の組み合わせを変えることで、異質 同士を掛け合わせる機会が増える。 異質同士を掛け合わせることにより 組織が活性化するケミカリゼーション (化学反応)を上手く利用している。例えば、図 2 のなかに、「カントリー娘。に○○(モーニング 娘。)」というユニットがある。このユニットは、モーニング娘とは別のユニット「カントリー娘。」 を軸となり、更にモーニング娘から助っ人として1∼2名追加され、1つの組織となる。「○○」は、 その助っ人メンバーの名前が登録される。旧助っ人メンバーであった第 4 期メンバー石川梨華(18) は、オーディションでモーニング娘に合格し、モーニング娘の一員となった 11 ヶ月後に、その助っ人 として投与された。石川の例のとおり、アーティスト名として個人名が入ること、更にモーニング娘 の看板を背負い、助っ人ととしての参加意識がモーニング娘ブランドを横断的に形成している。さら

(6)

に、カントリー娘にも、モーニング娘の助っ人の加入や新陳代謝により、顧客であるファンから、「注 目」が生まれる。これは、助っ人メンバーへのプロデューサーからのピグマリオン効果と、その組織 のシナジー効果が得られている。11 ヵ月後の投与がプロデューサーからの期待を感じ、モーニング娘 としての責任感と認識から来るポジティブ指向が、所属した組織へ繁栄され、個人そして組織に影響 が与えられ、相乗効果が得られるのである。 ただ実際は、たくさんのユニットが全て成功しているわけではない。成功したものは伸ばし、成功 しなかったものは休止もしくは止める決断をつんく氏は、数多くおこなっている。そこで成功しなか ったメンバーを切り捨てることは行わず、即戦力の人員として、できるだけ別のユニットに所属させ、 新陳代謝させている。 【自律型組織文化をもつ人材育成】 さらに、2003 年 9 月 18 日、モーニング娘は「さくら組」「おとめ組」と二つのユニットに分け、 それぞれをデビュー作としてCDを発売する。これにより通常は、2つそれぞれ別の活動を行うことに なる。モーニング娘さくら組で第 5 期メンバーの紺野麻美(16)は、「一人ひとりの責任感が大きくな るから、頑張ります」8 とコメントしている。メンバー内に、分割の目的や認識が明確であり、モーニ ング娘のトップに立ちたいという個々の期待が高まる。組織のメンバー数が半減するということはチ ャンスが増加する。個々のモチベーション向上に添えて、メンバー相互間の役割が生まれる。「下の コが教えたほうがいい部分では、わたしは見守っていることも大事だなって考え方になったんです。」 9とモーニング娘第 1 期メンバー、現リーダーの飯田圭織(22)がコメントするように、それぞれの役 割に応じて、メンバー自身の教育、育成を行っているのである。 現在メンバーの 15 名は、デビュー時の第 1 期からオーディションを重ね、第 6 期までの階層にな る。メンバーの立場によって、ピラミッド型の組織が自然と出来上がっている。後輩がオーディショ ン等で加入すると、年代の近い元メンバーが指導役に指名される。これにより、リーダー、指導役、 メンバーなどの役割が分業化され、組織として成り立っている。最年少 13 歳、最年長 22 歳、年齢差 9 歳であっても、一つの組織として上手く機能しているのは、その理由からであろう。 強力な競争力となりうるモーニング娘の組織文化は、メンバーの考え方、態度、行動をコントロー ルするよう規範が生まれ、継承され続け、Hello!Project へと発展・拡大していくのである。 更に、メンバーの分業は、楽曲である作品の完成度にも影響している。「これは飯田がうまく歌え たから、もう他に無理に歌わせなくてもいいや(以下略)」10とつんく氏が述べるように、それぞれ の上手なところを自然に集めて、補完し合うことで、ソロシンガーでは為しえない利益も享受してい る。 【個々のモチベーション維持】 モーニング娘の大黒柱は、人気度や歌唱力など総合的に見て、当初のメンバーである安倍なつみ (21)と言われている。ただ安倍を常にダンスや曲パートの中心に置いていない。楽曲毎に全てのメ ンバーにチャンスを与え、センターを変化させる。さらに、各ユニットでのメンバーの変更も同様で

(7)

ある。特に、オーディション合格後の 1 曲目は、新規メンバーを活かす手法をとるケースが多い。安 倍を中心に置かないのは「楽してはダメ」というプロデューサーとしての概念とつんく氏は表現して いる。 3.2.「モーニング娘。」のブランド戦略 モーニング娘というグループ名は「いろいろついてくる、盛り沢山、おトク感、親しみやすい」を 表したものである11。喫茶店での「モーニングコーヒー」の「モーニング」から来ている。この組織 の中には、多種多様なメンバーが存在し、その組織の中で組み合わせることで新しい組織ができ、フ ァン層にはお得に感じることができる。決して、一流な高級レストランのメニューではない、喫茶店 のモーニングセット(コーヒーにトーストやゆで卵やサラダ等が付属されるセット)が原点である。 【新規フォーマットでの展開】 顧客の固定観念がつく前に変化をさせることを行うと言う。つんく氏は、アイドルのほとんどが失 敗しているため、モーニング娘を「アイドルのフォーマット」に置くことはしないと明言している。 つんく氏自身、音楽業界で活躍した人物であり、「アイドル」というテレビなどのメディア業界での プロデュースは、他の者のほうが素晴らしいと認識している。 今までのアイドルは、プライベートを感じさせないのが常であった。出身地や日常生活、プライベ ートでの表情は公開することは少ない。また、一般的に標準語を話し、故郷の言葉を隠す。 前述した最も人気のある安倍でさえ、デビューから 6 年たった現在に至っても故郷である北海道の 方言を使う。安倍だけではなく、オーディションからデビューしたメンバーは、名前と年齢に出身地 を必ず付け加え、デビュー後に至っても言葉の訛りを余り変えてはいない。 また、ダンスや歌唱力をとっても、決して歌手としての域には届いていないメンバーも存在する。 第 5 期メンバーである紺野は、加入時に「赤点の劣等性」とつんく氏が公言する12ように、劣等性と しての努力やキャラクターが固有の特徴を生んだ。それぞれのモーニング娘メンバーは、安倍や紺野 のように、自らの独自性を確保するため、そしてダンスや歌でメイン・センターを確保するために、 自らのポジショニングを考え、そこに達成することを目標にしている。 フォーマットにはめ込まない、比較的自由な行動、飾らない気質が、多くの人の共感を生むのであ る。 【ストーリーの共感化】 モーニング娘は、現在では多くのレギュラー番組を持ち、バラエティから歌、ミュージカルや芝居、 映画など多岐に渡り活動する。特にバラエティ番組では、「ASAYAN」の終了した現在でも、各個人 の個性を活かし、素人っぽさも含めて、一生懸命さを身近に感じさせることを行ってきた。アマチュ アリズムを継続させ、彼女らは「エンタテイナー」として活躍することになる。 だが順調なスタートを迎えていたわけではない。ファーストシングル「モーニングコーヒー」は、 オリコンチャート最高順位 6 位に留まった。この間、毎週「ASAYAN」の中で、メンバー5 名の状態、

(8)

心境、レッスン状況や周りの反応などを伝えられた。「ASAYAN」での彼女らの状況は、トップアイ ドルとして君臨した以降も続けられた。新加入メンバーとその指導役間の教育内容や会話、更には、 自らのダンス等がメンバーの足を引っ張ることになり悔し泣きしたことにおいても公開された。また、 オーディションについては、ゴールデンタイムでの 2 時間特集を行うまでも国民の多くが注目する集 団になった。オーディション前の家族との友人との会話、幼い頃の文集や夢、そしてオーディション 中の会話までも放映される。そこで合格したメンバーについて、舞台裏を見せることで、そのメンバ ー自信の歌声、ダンス、表情だけではなく、そこまでの「ストーリー」が消費者(ファン)に容認さ れ、そのメンバーへの共感が生まれてきたのである。例えば、あるメンバーは、いろいろな過去を経 て現在があり、目標がある。あの先輩に指導され、涙をこらえて、ダンスや歌を覚えたことは、公開 されている。そして、この部隊に立ち、笑顔で踊っている。ほんの一部であるが、その主人公とスト ーリーが共感されることによる親近感が生まれてくるのである。 発信される情報はストーリー化されるため、消費者、ファンは今後の情報や公開される情報に対し て敏感となり、継続していくのであろう。 つまり、個々の情報が時間的・横断的にストーリー化され、さらに「シリーズ化」していくのであ る。シリーズ化とは、その個々のメンバーの過去から将来への「時間軸」と他のメンバーとの「人的 関係軸」を示す。オーディションから加入したメンバーは、既メンバーと比較し極端に能力が劣るが、 1 年も経ち、次期メンバー加入になると、モーニング娘組織文化を吸収し「モーニング娘化」してく るのである。 そのモーニング娘化への成長の軌跡を、多くの番組のコメントや度重なる楽曲の歌唱・ダンスを見 ることで、共感が継続され、シリーズ化される。 このように、シリーズ化されると、消費者は、一定的に受け入れる体制になる。それは、「こちら 葛飾区亀有公園前派出所」や「ゴルゴ 13」は 100 冊を越えるロングセラー漫画であり、テレビゲーム の「ファイナルファンタジー」や「ドラゴンクエスト」は 10 作を越えて発売されている。一旦注目し た消費者は、継続して見ていかなければ、気がすまない。消費者の心理は、「共感から来るシリーズ 化」と言ってよく、一旦シリーズ化すると途中で離れることが困難になる。消費者であるファンは、 離れず継続していくことになると、別の新たな消費者を増加させるために、プロデューサーはいろい ろな仕掛けをし、注目を集めさせるのである。 【話題、注目戦略】 曲の中で「ダイナマイト」を「ザイナマイト」と発音させるのは、新たな消費者を引きつけさせる、 注目させる為の手法であると、つんく氏は述べている13。これは、つんく氏のアマチュアバンド時代 からの経験であり、ストリートミュージシャンであった際に、通りすがりの人の足を止めさせる手法 であった。ストリートミュージシャンにとって、足を止めさせることが全ての始まりである。それを きっかけに、そこに踏みとどまった人を納得させることに注力を注いでいる。 したがって、歌やダンス、商品パッケージやプロモーションビデオ一つ一つ手を抜くことはなく、 製品を納得いくまで完成させている。レコーディングの最中に作業を止めて何十分も精神的な話を一

(9)

人一人に行うなどの徹底振りである。 3.3.「モーニング娘。」の経営戦略 アキレスの山中静哉社長は「ミニモニ。を見習って事業内容の新陳代謝を進めなくては。」14と言 う。コンセプトを受け継ぎ、メンバーは入れ替える。メンバーは、その組織の中で独自性をもち、所 属していくことになるが、年齢や成長によって、その組織での役割やポジショニングが変化していく。 モーニング娘の中で蓄積され、発展した組織文化を継続させ、ヒットを継続させている。 また、「モーニング娘で、いちばん危険なのは、安心すること15」とつんく氏は言う。全てが上手 くいくと馴れ合いが生じ、危機的状況に対応できず、成長が見込めないためであろう。常に、組織を 緊張関係に保持し、数々の改革を実行している。 【持株会社への個人投資】 モーニング娘には、ファンクラブが存在しない。シングル CD、カラオケランキングにも好成績を 収め、現在トップアイドルとして活躍している松浦亜弥(18)においても、ファンクラブがない。正確 にいうと、Hello!Project 内は、全て「Hello!Project ファンクラブ」として一元化されている。ファンク ラブに加入すると通常、コンサートのチケットの優先販売、オリジナルグッズの販売、情報誌の購読 などが与えられる。松浦の「情報」を取りたくても、モーニング娘のあらゆる情報を手にすることに なる。逆も同様である。これは、「企業の持ち株会社への個人投資」や「ブランド志向」の消費者と 同じ手法にも考えられる。つまり、顧客のある一つの注目から、水平的に展開させる行為に動く心理 である。 図 3 は一般企業における持株会社及び事業会社と Hello!Project の組織構造(第 6 期メンバー加入時) をイメージしたものである。2003 年 1 月第 6 期 4 名のメンバーが加入したが、企業の事業統合、M&A のような手法がとられた。 持ち株会社 住宅 酒類 飲料 水 化学 工 業 製 品 Hello!Project 松浦 亜 弥 藤本美貴 モーニン グ娘 ミニ モ ニ 亀井絵里 道重さゆみ 田中れいな 図3.一般企業の持株会社とHello!projectの組織構造

他社事業 オーディション加入 オーディション加入 M&A等 M&A等 加入 加入 戦略的 戦略的 事業統合 事業統合 ユニット ソロアーティスト :第6期メンバー (注)中原作成 持ち株会社 住宅 酒類 飲料 水 化学 工 業 製 品 Hello!Project 松浦 亜 弥 藤本美貴 モーニン グ娘 ミニ モ ニ 亀井絵里 道重さゆみ 田中れいな 図3.一般企業の持株会社とHello!projectの組織構造

他社事業 オーディション加入 オーディション加入 M&A等 M&A等 加入 加入 戦略的 戦略的 事業統合 事業統合 ユニット ソロアーティスト :第6期メンバー 持ち株会社 住宅 酒類 飲料 水 化学 工 業 製 品 Hello!Project 松浦 亜 弥 藤本美貴 モーニン グ娘 ミニ モ ニ 亀井絵里 道重さゆみ 田中れいな 図3.一般企業の持株会社とHello!projectの組織構造

他社事業 オーディション加入 オーディション加入 M&A等 M&A等 加入 加入 戦略的 戦略的 事業統合 事業統合 ユニット ソロアーティスト :第6期メンバー (注)中原作成 ※ 持株会社の構造や事業内容は、仮想の 企業体。 注目すべきところは、ソロで活躍 していた、即戦力となる藤本美貴 (18)の加入である。第 5 期まで は、常に、新人オーディション による外部投与であった。組織 文化を吸収し、独自性を見出し、 一人前となるのは、一般企業に 置いても 1 年以上は必要とする。 10 代の女性にとっては、容易な ことではない。 この手法が結果的に Hello!Project の一体感を更に高めることになった。 モーニング娘を卒業したメンバーの多くも Hello!Project 内でソロ活動を行っている。Hello!Project として年 2 回のコンサート活動も実施し、「Hello!Project2003 夏」ツアーでは、モーニング娘を含め

(10)

た総勢 15 組のユニットが登場した。さらに、2003 年 11 月には、メンバー総出演の大運動会を予定し ている。 【多様なマーケティング戦略】 メディアや他組織とのタイアップ等、多くのウィンドウで展開するといった「面の展開」を行って いる。「点」から「面」への展開である。 メディア面では、先に取り上げた番組「ASAYAN」とのタイアップがある。 他との連携で代表的なユニットは、モーニング娘内での小ユニットである「ミニモニ。」による「バ カ殿様とミニモニ姫。」が代表的である。ミニモニは、1stシングルを 2001 年 1 月 2 週連続オリコン 1 位、2nd シングル 2001 年 9 月 1 位、3rd シングル 2002 年 2 位と順調に伸ばしていった最中の協働であっ た。バカ殿様は、フジテレビ系シリーズ番組で志村けんが演じるキャラクターである。この組織を超 えたユニットは、オリコン 3 位まで達成した。 また、モーニング娘のリリースする CD 及びコンサートは、ほとんど DVD もしくはビデオにて発 売される。CD を発売するアイドルは多いが、DVD まで発売していたものはなかった。「飽きる商品」 と言われる一つの曲を、多様に価値観を発展させる連結的なマーケティング手法をとる。「聞いて楽 しい」から「見て楽しい」へと発展させるのである。 【顧客志向】 プロデューサーは、コンサートなどではMC一言においても大事にする。「もしキミが今、お客さ んやったとして(中略)」や「今、ファンはこういう気持ちで来ているから、こういう一言がすごく 嬉しいんちゃう?」16 とつんく氏は、度々舞台前に述べる。例えば、「皆さん、元気ですかー?」と 言うより「元気?」と観客に聞くという。 1:N の関係ではなく、顧客と 1:1 の関係を築くと いうことに心がける。13 歳から 22 歳のメンバーには、具体的に細かい指示も欠かさないところが、 常に強いリーダーシップを発揮している。

(11)

第4章.「東京ディズニーリゾート」とは 1983 年 4 月オリエンタルランド社により米国ディズニー社の協力を経て、東京ディズニーランドを 開園した。開園後 17.3 年で、2 億 5000 万人来場者を記録し、米国本場アナハイムの 30 年かかった記 録を超えた。2001 月には、東京ディズニーランド隣接に、世界で初めて海をテーマにした東京ディズ ニーシーを開園したことにより、「東京ディズニーリゾート」として発展していった。 4.1.「東京ディズニーリゾート」の人材戦略 【キャストへの徹底した人材教育】 従業員に対して 400 職種ごとに詳細手引書があり、業務内容や行動規準が記載されている17 運営理念である、SCSE(Safty:安全性、Courtsey:礼儀正しい、Show Efficiency:効率性)を順番に 考え、運営・行動する等、1 万 7,000 人ほどいる準社員(アルバイト)にも徹底教育を行う18 また、身だしなみの規定も厳守であり、女性の場合は、アイシャドー、イアリング、茶髪は禁止、男 性も同様に髪の刈り方まで規定がある19。このように、人材管理は徹底教育を行いことで、キャスト (顧客(ゲスト)をもてなす従業員)は、ディズニーリゾートの組織文化の基本を植え込まれる。 徹底した教育を行うと同時に、従業員の慣れを防ぎ、保守的な体制を打破させるため、期間限定のス ペシャルイベントなど常に変化をあたえ、組織に刺激を与えることで従業員のやる気を引き出す。 東京ディズニーランド 東京ディズニーシー 9月 4/15∼9/19 「ミッキーのギフト・オブ・ドリームス」 7/1∼9/19 「ブレイジング・リズム」 9/20∼10/31 「ディズニー・ハロウィーン」 9/4∼10/15 「東京ディズニーシー2ndアニ バーサリー」 10月 9/20∼10/31 「ディズニー・ハロウィーン」 9/4∼10/15 「東京ディズニーシー2ndアニバーサリー」 11月 11/4∼12/25 「クリスマス・ファンタジー」 11/4∼12/25 「ハーバーサイド・クリスマス」 12月 11/4∼12/25 「クリスマス・ファンタジー」 12/28∼12/30 「カウントダウン・パレード2004」 12/31 「カウントダウン・パーティー2004」 11/4∼12/25 「ハーバーサイド・クリスマス」 12/31 ニューイヤーズ・イヴ・セレブレーション 2004」 1月 1/1∼1/7 「ニューイヤーズ・ホリデー」 1/12∼4/11 「ファイナルプログラム」 1/17∼4/11 「シンデレラブレーション:ライツ・オブ・ロマ 1/1∼1/7 「ニューイヤーズ・フェスタ」 2月 1/12∼4/11 「ファイナルプログラム」 1/17∼4/11 「シンデレラブレーション:ライツ・オブ・ロマ 表 1.東京ディズニーリゾートのイベントカレンダー20 表1は、東京ディズニーリゾート内で行われる 2003 年 9 月から 2004 年 2 月までのスペシャルイベ ントをまとめたものである。このような早い展開でのイベントの変化は、メインのパレードの変化と 同じく、内装・飾りやイベント、キャラクターやキャストの服装にまで及ぶ。消費者に対しては、1 ∼2 ヶ月毎に「新しいテーマパーク」と認識され、リピータ確保にも繋がっている。 常に新しい消費者へのサービスの提供は、従業員の意識の高まりと、顧客の行動意欲の高まりとい う両方を兼ね備えているのである。

(12)

4.2.「東京ディズニーリゾート」のブランド戦略 【キャラクタービジネス戦略】 1999 年 2 月 27 付日経流通新聞のキャラクター人気度調査で、1 位ミッキーマウス、4 位くまのプー さんと上位にディズニーキャラクターが登場している21 。人気キャラクターは、商品に付加すること によってブランドとなり、付加価値となる。 白いTシャツに、キャラクターのプリントを添付すると、通常、人気の高い順に付加価値が上がる。 2000 年度におけるゲスト一人あたりの売上高は、¥9,345/人であるが、入場料チケット収入 41%につ いで、商品販売収入 37%、飲食収入 22%であった22。つまり、一人あたり¥3,500 程度の商品を購入し ている計算になる。ちなみに、英サッカーチーム、マンチェスターユナイテッドも同様に、2002 年度 売上高 1.5 億ポンドのうち、凡そ 40%の公式グッズ販売に次いで、スポンサーからの収入、テレビ放 映権、試合関連と続く23 一人当たり¥3,500 の商品購入は、日本的「おみやげ文化」の象徴であるが、他の観光地、テーマパ ークなどと比較すると、大きな差がある。ディズニーには、多くの主役級のキャラクターが存在し、 サッカーチームもスター選手を多く保有する。 ディズニーのメインは、「ミッキーマウス」と言うだろう。ただ、ディズニーランドに登場する「シ ンデレラ」や「くまのプーさん」等、他のキャラクターも、それぞれの映画やアトラクションから見 れば、主役である。もし、「シンデレラ」の映画ファンならば、「シンデレラ」をディズニーの主役 だと言うだろう。一つの主役に偏らない組織は、多くのキャラクターを創出でき、活用できる仕組み にある。 また、ディズニーのアニメに登場したキャラクターは、リゾート内で出会うことができる。ストー リー性やキャラクター性を顧客と共有できる仕組みがディズニーリゾートの強みなのである。 4.3.「東京ディニーリゾート」の経営戦略 【短期間での設備投資循環】 1987 年リゾート法が施行され、宮崎県のシーガイヤを代表に、スキー場などに隣接したリゾートホ テルなどリゾートという箱ものが多く建設された。だが、シーガイヤ(宮崎県)やハウステンボス(長 崎県)、レオマワールド(香川県)等のテーマパークは、会社更生法の適用に至るほど、集客されて いないのが現状である。その中で、ディズニーリゾートを経営するオリエンタルランド社は、2003 年 3 月期決算連結純利益 189 億円と前期比 49%増の過去最高を更新した。コスト削減と新たに連結対象 となったディズニーストアが好調であったことも起因する24。ディズニーストアは 2002 年 4 月にディ ズニーの日本法人から約 80 店舗のディズニーストアを 61 億円で買収し、不採算店の整理や立地条件 などから 47 店舗に削減した。店毎に曜日、時間別に売り場レイアウトを変更した結果、店舗を半数に したにも関わらず、売上高は 90%程度を維持することができた25 また、ディズニーランド初期投資 1,800 億円、スプラッシュマウンテン(1992 年、285 億円)、ト ゥーンタウン(1996 年、112 億円)、プーさんのハニーハント(2000 年、100 億円)、イクスピアリ 670 億円の投資を行ってきた。更に、ディズニーシーでは 2001 年 3,380 億円の投資を行った。

(13)

更に、今後、ディズニーシーでは 2005 年度約 80 億円、2006 年度約 210 億円の増設を予定している26 ディズニーファンは、「夢と魔法の国」への招待と同時に、毎年のように追加されるアトラクショ ンを乗りたいというシリーズ化された心理でリピーターとなっているのである。 【成功の要因、成功は失敗のもと】 オリエンタルランド社加賀美俊夫社長は社内報にて、「今日は昨日見た夢の顛末を熱っぽく語るた めにあるのではなく、明日の夢を正夢にすることに、また新たな野心を燃やすためにある。」27と記 している。更に成功要因は、「素人集団でゼロからのスタートであった。素人集団の一生懸命さが成 功要因」28と言っている。米国ディズニー社のマニュアルを鵜呑みにせず、日本人に適合するようマ ニュアルを書き換え、運営を開始した。決して、テーマパークの知識が豊富でなかったオリエンタル ランド社が、自国に対応できるようゼロベースでテーマパークを構築したことが成功の要因としてい る。実際にオリエンタルランド社設立の 1960 年 7 月から東京ディズニーランド開園まで 23 年の期間 を要している。これは、単純に米国の成功のフォーマットにはめ込むことなく、成功を見据えた戦略 が功を奏したのである。成功は失敗の元なのである。 【「脱ディズニー」戦略の検討】 東京ディズニーリゾートを運営するオリエンタルランド社は、現在「脱ディズニー」するテーマリ ゾートを模索している。組織が保守的になり、守りの姿勢になりかけているためである。大企業の特 徴である動きが鈍ることを懸念していると考えられる。また、既に千葉県浦安市にこれ以上開発する 土地が残されていないこともあり、首都圏以外での大型テーマパークをも模索する。「万が一、ここ で地震が起きたら、うちの収入は止まってしまう」29 と加賀美社長は発言するように、マーケット規 模の面で優れた首都圏エリアである「脱千葉依存」、人気キャラクターである「脱ディズニー依存」 においても推進する方針である。 2000 年 7 月にオリエンタルランド社 100%出資子会社で商業施設「イクスピアリ」を開業した。加 賀美社長は、「デイズに−なしでどこまでいけるか、将来の事業展開を占う試金石だ」と位置付けて いる。30 商業施設ではなく、魅力的な街づくりを行うことで、買い物そのものを楽しんでもらうこ とをコンセプトに掲げる。実際、当施設には、ディズニーのロゴやキャラクターは一切ない。ディズ ニーランドで培った能力や組織文化が、キャラクターなしで、いかに展開させるかが今後の課題であ る。ただ、成功体験に基づいて1つしか結論を出さない傾向にならないよう、いろいろな視点で選択 肢を考慮していくよう実行している。 依存型経営では、新しい創出が生まれないのである。

(14)

第5章.「エンタテイメントビジネス」におけるビジネスモデル 第 3 章、第 4 章にて検証したそれぞれの事例において、いくつかの共通点や相違点が存在すること が見受けられた。それぞれを比較することで、成功へのエッセンスの抽出を行う。 5.1.「モーニング娘。」と「東京ディズニーリゾート」の共通点 モーニング娘。 東京ディズニーリゾート (オリエンタルランド社) ストーリー オーディション、舞台裏の放映、ドキュメント番組、多くのメディアに出現 映画・ヒーロー 多くのメディアに出現 顧客対応 顧客視点を重視したコンサート、部隊 などの実施 「ゲスト」として対応 ブランド 作詞、作曲は同じプロデューサー 米国ディズニーとのロイヤリティ 契約による「ディズニー」 消費者欲求 心の豊かさ(エンタテイナー) 心の豊かさ(リゾート) 危機感 順調であるが故の安心 大企業としての組織の鈍化 センター 楽曲及びユニット毎にメイン(センタ ー)が変化、小ユニット化により個々 が成長 映画での主人公が登場し、スペシャ ルイベントなど主役も変化する 方針 いろいろついてくる、盛り沢山、おト ク感、親しみやすい。 永遠に完成することのないテーマ パーク。常に改良を加え新しいもの に生まれ変わらせなければならな い。 変化 新陳代謝 小ユニット メンバーシャッフル 設備投資 スペシャルイベント 表 2.「モーニング娘」と「東京ディズニーリゾート」の共通点 (注)中原作成 数々の変化を行うが、方針や理念は変化していない。方針は、組織文化を創り、メンバーの意識が 共有化される。よい組織は文化の共有により、継続されるのである。抜本的な方針の変更は、メンバ ーの効率性やモチベーションにも影響するため、両者のように浸透された信念や理念は、変更すべき でなく、表面に現れるもののみを常に変化させるのである。 さらに特徴的なことは、両者とも「顧客志向」で動く組織であることである。東京ディズニーリゾ ートにおけるリピーターを確保するための顧客対応手法は、「毎日が初演」としてキャストは顧客に 接することに注力する。その点は、モーニング娘も同様に徹底している。それは、「1回1回を全て 全力で実行する」「自分が顧客だったら、何を望むかを考えて、発言し行動する」31というプロデュ ーサーの言葉に現れるとおりである。 また、メインのセンターをつとめる事がメンバーをいくつか保有している点が挙げられるであろう。 多くの消費者の「好き」「嫌い」に適応することができ、顧客離れを防ぐことができる。つまり、「ミ ッキーマウス」や「安倍なつみ」というメインや主役は存在するものも、それに集中させないことに よる分散が、消費者の「好み」の分散と、組織総合力の向上に繋がっている。モーニング娘は、それ を意図的に作り上げているのである。

(15)

5.2.「モーニング娘。」と「東京ディズニーリゾート」の相違点 モーニング娘。 東京ディズニーリゾート (オリエンタルランド社) ユーザーからの 見地 素人集団、現実的 夢と魔法の国 個の成長 キャラクタ自信が成長、年齢 キャラクタ自身は成長しない 表 3.「モーニング娘」と「東京ディズニーリゾート」の相違点 (注)中原作成 モーニング娘は、「ディズニー」のキャラクターと異なり、メンバーは人間として成長する。年齢 的成長である。成長においては止めることはできないため、定期的にオーディション形式により、モ ーニング娘の DNA を 1997 年デビューから現在までの 6 年間保ちつづけ、発展している。この組織は、 新陳代謝を上手く利用し、このまま組織文化を含めて継続されていくであろうか。 ミッキーマウスは、誕生して現在 77 年経つ。モーニング娘は、まだ 6 年であり、更に第1期メン バーは、2004 年 1 月には飯田 1 名を残すのみになる。組織文化の根底にあるものは、創業期に形成さ れたものが多く、長期にわたって持続される。また、モーニング娘の「一生懸命さ」が消費者に共感 され、身近に感じられているのは、現在の社会経済不安から来るものであった場合、今後、経済成長 力に変化があった場合、共感は得られるであろうか。 これらの不安材料は、Hello!Project という大きな組織体によって緩和させることになると考える。 万が一、モーニング娘が衰退したとしても、大きな組織体で吸収できる能力である組織文化を保有し ているのである。 5.3.「エンタテイメント」を取り入れた商品戦略のエッセンス 商品やサービスに、イメージや付加価値を持たせることで、その付加価値を高く評価するブランド 志向の消費者が誕生してきた32。デフレや商品の成熟化により、商品やサービスの更なる価格競争の 激化となった現在、求められるのは高付加価値な高収益なものである。つまり、商品やサービスの差 別化は、安い、軽量等の「良い」から、かっこいい、気に入ったという「好き」へと変化していった ため、個々における一定の好みに適合させる必要がある。 前章までに取り上げたエンタテイメントビジネスから、「継続的に付加価値戦略を上手く機能させ るためのエッセンス」を導くことができた。商品戦略において、以下に示す 2 つのエッセンスを考慮 することで、これから訪れる、訪れている多彩な消費者心理に適合できるのである。例えば、第 2 章 で述べたダイヤモンド(物)に、この価値を組み込むのである。 ① 常に変化する。 変化するのは、商品であり、企業なのである。 消費者ニーズは、景気変動、経済状況、季節、時間など外部の環境や、消費者自身の内部環境によ って異なる。長いあいだ、同じニーズに保たれることはない。但し、「適切な時間」も考慮が必要に なり、やたらに新陳代謝を行うことは、消費者の注目からくる購買意欲が、逆効果に生じる恐れがあ

(16)

る。そして、変化を行うことは、180 度変化を行うべきことではない。「白」から「黒」では、即座 に消費者の受け入れられる態勢ができない。これは商品文化の根底から変化させるのではなく、氷山 の一角である、表面上の目に見えるものを変化させることで、顧客の離れを防ぎ、目新しいものを創 出させることができるのである。消費者の心理に対応するため、変化させることで、いかに付加価値 を創出できるかがポイントになる。 どんなに成功している場合も、それに溺れてはならない。危機が迫った際に、対応できる能力を常 に磨いてなければならない。 「成功は失敗のもと」とオリエンタルランド加賀美社長が言うように、事業成功のエッセンスは、 狭い範囲での成功論として語り継ぐことになるため、本質的なエッセンスを理解できるかが、経営者 の役割となるのである。いわゆる「一発屋」ではなく、継続的成長を保つためには、常に、外部市場 にも向き合うと同時に、組織とも向き合い、変化していかなければならない。 ② ストーリー性をもつ。 NHK「プロジェクトX」が高視聴率を獲得し、出版物も好調である。今、何故この時代にこの番組 が受けているのであろうか。商品や会社には、数々のドラマが生まれる。それは、会社を動かすのは 従業員、経営者などの有機的人間であるが故、喜怒哀楽もそこで発生するのである。ただ商品や会社 は、消費者に対しては、この喜怒哀楽ではなく、商品販売のための「広告」にて商品機能やイメージ を伝える。多くの視聴者は、成人や職業人であるため、このノンフィクションのドラマは、登場する 人物の「一生懸命さ」「苦労」の共感が得ることができることが、人気の要因であろう。 モーニング娘は、オーディションや成長軌跡を公開し、東京ディズニーリゾートのキャラクター達 は、映画などで活躍するなどの、ストーリーが展開され、消費者に認識されている。このストーリー が共感されると、商品にエピソードという付加価値がつく。付加価値はブランドを生み、発展してい くという好循環に展開できる。さらに、ストーリー性をもつことにより、シリーズ化される。最終的 にシリーズ化できるよう、ストーリー性を商品やサービスに付け加えることができれば、長期的に消 費者がファンとして形成される。シリーズ化できないとしても、ストーリーが組み込まれると、ブラ ンドが形成される可能性が高い。 先に述べた「心の豊かさ」の追求として、「ストーリー」を価値として組み込むことが、継続的に 成長するための商品戦略になるのである。

(17)

第6章.おわりに モーニング娘を取り上げたのは、この人気グループが市場に多く受け入れられているものの、その 運営手法や、戦略等が述べられている文献や書籍が、ほとんど見当たらないためである。それは、芸 能界は、浮ついたもの、チャラチャラしている等、負の先入観が存在するためであろう。芸能業界や 音楽業界は、決して「俗的なもの」として片付けられるものではなく、学ぶことは多い。新陳代謝の 激しい業界であるが故、企業や社会が考えられないスピード感に対応すべく、大げさに演出している 「表現」であるため、現在に至っても、企業等と比較されにくいのであろう。 ただ、今回モーニング娘と東京ディズニーリゾートを事例とし述べたが、一般企業がとる戦略と何 か特別な手法をとっているということは、見当たらなかった。つんく氏は、「モーニング娘の大ファ ン」と明言するように、自ら顧客の立場にたち、プロデュースする。自社の製品をここまで真剣に考 えることで、よりヒット商品が生まれたのであろう。確かに、モーニング娘のメンバーは「一生懸命」 であり、共感できる。ただ、プロデューサーであるつんく氏は、更に「一生懸命」模索して、行動し ていることに他ならない。 エンタテイメントビジネスにも、ウルトラ C や魔法の杖は存在しない。結局、どんな組織も、「顧 客のためによりよい商品を提供するために、先を見据え、一生懸命、商品に情熱を注ぐ」のである。 今回取り上げた「モーニング娘。」を「企業」として読み替えてみても「継続的に成長するための 企業戦略」として適用できるものと考える。それは、商品文化の根底には組織文化が存在しているか らである。 以 上 参考文献 ・山根節著『エンタテイメント発想の経営学』2001 年 ダイヤモンド社 ・粟田房穂著『ディズニーリゾートの経済学』2001 年 東洋経済新報社 ・トム・コネラン著『ディズニー7つの法則』1997 年 日経 BP 社 ・志澤秀一著『ディズニーランドの人材教育』2000 年 ウィズダムブック社 ・ボブ・トマス著『ウォルト・ディズニー−創造と冒険の生涯−』1995 年 講談社 ・能地祐子著『モーニング娘。×つんく♂』2002 年 ソニーマガジンズ ・小林保彦著『広告ビジネスの構造と展開』1998 年 日経広告研究所 ・坂下昭宣著『経営学への招待(改訂版)』2001 年 白桃書房 ・常盤文克著『「質」の経営論』2000 年 ダイヤモンド社 ・『Hello!Project2003 夏、みんな、ありがと。完全保存版』竹書房 ・『日経ビジネス』 日経 BP 社 ・『日経エンタテイメント』 日経 BP 社

(18)

注釈 1 内閣府ホームページ http://www8.cao.go.jp/survey/h14/h14-life/2-2.html 2003 年 8 月 1 日現在 2 日産自動車ホームページ http://www.nissan.co.jp 2003 年 8 月 1 日現在 3 B.J.パインⅡ+J.H.ギルモア共著『経験経済』流通科学大学出版 2000 年、22 頁 4 『デイリー 新語辞典』三省堂より 5 山根節著『エンタテイメント発想の経営学』ダイヤモンド社 2001 年、17 頁 6 ボブ・トマス著『ウォルト・ディズニー−創造と冒険の生涯−』講談社 1995 年、 7 モーニング娘公式ホームページ http://morningmusume.dream.com/ 2003 年 8 月 31 日現在 8 「ハロー!モーニング」テレビ東京系バラエティ番組 2003 年 9 月 7 日放送分 9 能地祐子著『モーニング娘。×つんく♂』ソニーマガジンズ 2002 年、26 頁 10 能地祐子著『モーニング娘。×つんく♂』ソニーマガジンズ 2002 年、150 頁 11 モーニング娘公式ホームページ http://morningmusume.dream.com/ 2003 年 8 月 31 日現在 12 能地祐子著『モーニング娘。×つんく♂』ソニーマガジンズ 2002 年、162 頁 13 能地祐子著『モーニング娘。×つんく♂』ソニーマガジンズ 2002 年、163 頁 14 「決算トーク」日本経済新聞 2003 年 5 月 23 日朝刊 15 能地祐子著『モーニング娘。×つんく♂』ソニーマガジンズ 2002 年、152 頁 16 能地祐子著『モーニング娘。×つんく♂』ソニーマガジンズ 2002 年、148 頁 17 粟田房穂著『ディズニーリゾートの経済学』東洋経済新報社 2001 年、91∼92 頁 18 「第 3 のパークは地方で」『日経ビジネス』2003 年 6 月 30 日号 日経BP社出版、91 頁 19 「第 3 のパークは地方で」『日経ビジネス』2003 年 6 月 30 日号 日経BP社出版、91 頁 20 東京ディズニーリゾートホームページから抜粋 http://www.tokyodisneyresort.co.jp/tdr/japanese/sche/park.html 2003 年 9 月 28 日現在 21 粟田房穂著『ディズニーリゾートの経済学』東洋経済新報社 2001 年、62 頁 22 粟田房穂著『ディズニーリゾートの経済学』東洋経済新報社 2001 年、60 頁 23 「安定経営が強豪を作る」『日経ビジネス』2003 年 2 月 10 日号 日経BP社出版、100 頁 24 「前期純利益、最高を更新」日本経済新聞 2003 年 5 月 9 日朝刊 25 「第3のパークは地方で」『日経ビジネス』2003 年 6 月 30 日号 日経BP社出版、93 頁 26 「アトラクション2つ新設」『日本経済新聞』2003 年 3 月 13 日朝刊 27 粟田房穂著『ディズニーリゾートの経済学』東洋経済新報社 2001 年、127 頁 28 粟田房穂著『ディズニーリゾートの経済学』東洋経済新報社 2001 年、126 頁 29 「第3のパークは地方で」『日経ビジネス』2003 年 6 月 30 日号 日経BP社出版 30 粟田房穂著『ディズニーリゾートの経済学』東洋経済新報社 2001 年、33 頁 31 能地祐子著『モーニング娘。×つんく♂』ソニーマガジンズ 2002 年、148 頁 32 小林保彦著『広告ビジネスの構造と展開』日経広告研究所 1998 年、12 頁

参照

関連したドキュメント

2012 年度時点では、我が国は年間約 13.6 億トンの天然資源を消費しているが、その

新々・総特策定以降の東電の取組状況を振り返ると、2017 年度から 2020 年度ま での 4 年間において賠償・廃炉に年約 4,000 億円から

日本における社会的インパクト投資市場規模は、約718億円と推計された。2016年度の337億円か

なお、2011 年度のコスト削減額の実績は、緊急特別事業計画で掲げた 434 億円を 12 億円 上回る 446

z 平成20年度経営計画では、平成20-22年度の3年 間平均で投資額6,300億円を見込んでおり、これ は、ピーク時 (平成5年度) と比べ、約3分の1の

2011 年度予算案について、難病の研究予算 100 億円を維持したの

平成 24 年度から平成 26 年度の年平均の原価は、経営合理化の実施により 2,785

就職後の職場定着が最大の使命と考えている。平成 20 年度から現在まで職場 定着率は