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戦略的情報システムが
産業構造に与える影響
一LANおよびVANの戦略的効果を中心として一
法 雲 俊 邑
1.はじめに
かつてのコンピュータ利用は,増大する事務量を一定の人員でこなすために, 相対的な人件費の削減や事務合理化,社内情報基盤の整備などの目的で使用さ れてきた。そして,販売管理,在庫管理,生産管理などのオンライン・リアル タイムシステムや,意思決定支援システム(DSS)などの構築によって一応の成 果をあげて来た。しかし,最近では社内に限られた利用方法による発想の域を 超えたコンピュータネットワークの利用により,情報伝達・収集の迅速性や広 域性を巧みに活かした情報戦略を展開し,収益をあげる企業が増えている。 このようにコンピュータを経営戦略の武器に使って,他のライバル企業との 間に著しい競争力格差を作り出すSIS(戦略情報システム)が,産業界の基盤を 揺るがすほどの「破壊力」を秘めたシステムとして注目されている。その典型 的な例は,アメリカン航空の座席予約システム(CRS)で,端末機を全米の旅 行代理店に配置することにより,従来の米国における座席予約方法を一変させ, シェアを飛躍的に増加させた。 これによって,イースタン航空,ブラニフ航空,などは決定的な打撃を受け, 経営危機にまで追い込まれた。ブラニフ航空は,この戦略を不公正だとして法 廷闘争にまで持ち込んだが,勝ち目はなさそうである。さらに,アメリカン航 空は,この座席予約のネットワークシステムを利用して,ホテル,レンタカー, レストラン,劇場チケットなどの総合予約システムに発展させ,この収益が航空部門の収益と並ぶほどになり,他のチケット販売業者が打撃を受けはじめて いる。 同様の事例は,米国,ボストンのジョン・バンコック生命保険会社や金融機 関関係のシステムにも見ることができる。わが国でも,ヤマト運輸やトーヨー サッシ,住友銀行などがこの種のネットワークシステムでライバル企業に差を 付けている。しかし,わが国では米国との商習慣の違いのほかに,基幹のデー タベースや運用ソフト,利用技術の面で米国に比し数年の遅れがあり,決定的 な競争力格差を作り出すほどのシステムには至っていない。 このような戦略情報システムに関する研究が,近年の国際学会でも数多く発 表されるようになってきた。しかしながら,それらの多くは現象面での事例発 表に終始し,コンピュータサイドから見たネットワークが,いかなる威力をも っかについて検討している研究は未だ行なわれていないに等しい。 コンピュータは,単独のシステムとして利用するよりも,ネットワーク化し て利用する方が,はるかに大きな効果が期待でき,ネットワークを拡大するに のしたがって,無限の便益性効果が期待できると言っても過言ではない。たとえ ば,一つの構内にある何台かのコンピュータをネットワークで接続すれば, ハードウェア (CPUやディスク,プリンターなど), ソフトウェア (プログラムや データベースなど)の資源の共有化が可能である。 さらには,国内の営業所や支店,支社などのインテリジェントなコンピュー タをネットワークに接続して分散処理を行うことは,前記のコンピュータ資源 の共有化に加えて,大型コンピュータへの処理の集中化にともなうオーバー ヘッドの回避や,危険の分散,レスポンスタイムの向上,即時情報通信などに よる無限の便益性効果,経済性効果など,いくつかの利点があげられる。 これらの企業内情報通信網のほかに近年,特に,ISDN(lntegrated Service Digital Network:統合サービスディジタル網)やVAN(Value Added Network:付 加価値通信網)などの構築に関心が寄せられている。これらの構築にもネット ワークの考え方は,最も基幹になる技術として必要不可欠であるし,既存の情 報通信手段に比べて無限の便益性効果,経済性効果が期待できる。
戦略的情報システムが産業構造に与える影響 63 以下では,これらのコンピュータネットワークを規模または,階層別に分類 してその特性を明らかにするなかで,特に戦略情報システムに結び付く要因を 抽出し,その効用が諸産業にどのような影響を与えるかを究明していく。 H.企業内LANの特性と効用 LANの構築と周辺技術の現状 コンピュータネットワークが成長するためのあるべき姿として,企業内の統 合的な構内通信網(LAN:Local Area Network)やインテリジェント・ビル内 の情報通信網などが基幹ネットワークとして構築され,それに準じて企業外部 へのネットワークが構築されるべきである。しかしながら,現実には話題性に
富むという発想から,ISDNやVANの構築への関心が先行し,企業内部の
ネットワーク化があまり進んでいない。 このため,VANは構築したが,いざ情報通信を行なってみたら,役立つ情 報が何も得られないと言うのが実情である。この問題解決策の1つとして,こ こでは,企業内部のコンピュ 一一タネットワーク化整備のための基礎技術となる 支線LANの構築と,その周辺技術の現状について論じる。 LANとは,自治体や企業,学校などの限られた構内や地域内に設置された, コンピュータ,端末機,周辺機器などを高速伝送路で結ぶ構内用データ通信 ネットワークである。したがって,LANは,総延長が数十mから,数100 km以 内の一定地域内での通信網のことであり,広大な地域をカバーするパブリック なグローバルネットワークとは区別される。 また,LANは,建物の構内にシステムを構築した者がネットワークを所有し, データ転送速度も数Mbpsから数Gbpsと伝送量が多い。これに対し,後者の グローバルネットワークは,前記したISDNやVANと呼ばれるもので,わが 国の場合,NTT, KDD,第二電電等がネットワークを所有し,直接または第 三者が運用するものであるが,転送速度が1200bpsから9600 bpsと伝送量が 少ない。しかし,通信網に公衆回線,専用回線などを用いることにより,全国 的あるいは国際的な範囲でのネットワークが利用できる点がLANとは異なる。LANは,エンドユーザが使用するレベルの支線LANと,それを束ねる多目 的な(マルチメディア)高速LANに分けることができる。支線に属するパソコ ンLANは,企業内ネットワークの最もベーシックな部分になること,パソコ ンLANだけでの運用に注目した場合,大型コンピュータのTSS処理に比し, はるかに安価な対話型システムが構築できると言う観点から,今後は,さらに その技術開発と運用形態について,論議されてもいい分野である。 LANの技術は,最初, FA分野の制御用のコンピュータと工作機械を接続す わ るME(メカトロニクス)技術の延長として発達して来た。しかしながら,使用 されるマイコンの種類とその組み合わせが,まちまちであることから,わが国 では,未だしAN技術の規格統一化されたものが模索の時期である。つまり, MAP(Manufacturing Automation Protocol:工場自動化用通信プロトコル)やOSI (Open Systems Interconnection:開放型システム間相互接続)仕様の規格制定ない しは,米国が製品化するのを待っている段階である。 また,OAの分野においてもLANに着目する企業が近年 急激に増加して きた。しかしながら,光ファイバーの規格がまだ統一されていないことや,マ ルチメディア対応の技術開発待ちの状態にあり,各社の開発したシステムも機 能的レベル差がまちまちである。 ところで,LANの種類はさまざまな角度から分類できるが,詳細については, 第1表 わが国で販売されているマルチベンダ型LAN 開発者/製品名 規 格 伝送媒体 ソフトウェア ソフト/アダプタ価格
米AT&T IEE8023BASE5 より対線 MS−Networks 王38,000円
AT&TSTARLAN
(StarLAN)コンパックマイクロシステムズ Omnmet皿 より対線 MS−OmnL皿 146,000円
オムニネット皿LANシステム (CSMA込CK)
10一、NET Communlcatlon IEEE802.3 より対線 10−NETソフト 185,000円
10−NET レベル2準拠
米Datap。lnt
ARCNET
RG62−A/U PCNS 187脚円StarbUlider (パソコンネツシステム)
米NQve11 iEEE8023BASE5 同軸ケーブル SFTネットOS 187,000円
SFTネットウェア (Ethernet) shellソフト
アライド・テレシス IEEE8023BASE5 同軸ケーブル CentreNET PCだCP 119,800円
戦略的情報システムが産業構造に与える影響 65 し ラ 別の小論にて記したので, ここでは現在,わが国で販売されているLANの特 徴を以下に示しておこう。 第1表に記したLANは,現在,わが国で販売されているマルチベンダ対応 型のもので,ソースの部分は米国メーカーが所有し,手直しした製品がわが国 の代理店によって販売されている。しかしながら,これらの製品の多くはMS− DOSマシンを前提にしたものであり,メモリー空間が640 Kbであることに機 能が制約されている。 これらが,32ビットマシンを対象とする,OS/2ベースのLANシステムと して改良されれば,マルチ画面,マルチタスクで動作する,効率的なシステム 運営が行なえるようになる。また,IEEE 802規格のLANシステムの場合は, 後述するOSIモデルの下位2層に相当するプロトコルを規定してあるため,基 幹LANに接続するのも容易になる。 また,わが国ではあまり使用例が見当たらないために上記しなかったが, LANを接続する媒体として,無線を用いたシステムも米国では広く使われてい る。以上で述べてきたように,エンドユーザレベルの支線LANは,1990年代 に完全なネットワークとして完成する領域である。 LANの機能と戦略的効果 LANの機能は,前記したようにネットワークの構築方法によっても大きく変 わる部分が多い。ここでは,コンピュータを中心とする,狭義のLANを前提 とした,一般的な機能と,企業の戦略的効果の関係について述べよう。 まず,LANの機能を列挙すれば以下のようである。 電子メール機能:任意の通信相手に,即時にメッセージを送ることが可能 であり,電話やファクシミリとは異なる機能を実現できる。また,共用ファイ ルにメールを書き込む形にすれば,不在者にもメッセージを送っておくことや, 一斉にメッセージを知らせることも可能である。 ファイル転送機能: メールなどの短いものではなく,データやプログラム の入った大量のデータを任意の通信相手に,即時に送ることが可能である。特
に,プログラムモジュールの結合時や,ファイルスキーマの取り出し時には, 効果的である。 ハードウェアの共用: シリアルプリンターやフレキシブルディスクのよう な低価格なものはともかくとして,レーザプリンターやイメージスキャナ,大 型プロッタのように高額な周辺装置を共用できるメリットは大きい。また,処 理がパソコンレベルで間に合わない時は,ホストのコンピュータ資源がその場 から利用できる。 プログラムの共用:一つの応用プログラムをノードの数だけ共用でき,む だなソフトへの投資と,保管費用の節約につながる。 データベースの共用:ホストのコンピュータが持つ,データベースをノー ドの数だけ共用でき,重複したデータの保管と,更新されたりされなかったり するデータの誤用をなくすることも可能である。また,必要に応じて社外の外 部データベースの利用も可能である。 (a)東芝㈱の青梅工場では,技術者用のEWS(エンジニアリング・ワークス テーシ・ン)ばかりではなく,オフィスのすべての机にラップトップパソコン, ワープロを配置し, これを支線LANで接続し, さらに基幹LANでホストコ ンピュータに接続し,LSIの設計図面作成から,事務作業のデータ処理まで, 一貫してLANを基盤としたデータ処理を行なっている。 (b) 建築設計事務所バス㈱(本社東京)では,超高層ビル設計のために CADシステムを使用したが,図面の検索,照合,保存には, LANを必要とし た。18台のパソコン,40Mbのハードディスク2台,レーザーショットなどを ユアラ リコー㈱社製のSTARLANで接続し, CADデータベースを構築した。主な 業務の内容は,各自がイメージ・スケッチをもとに,データベースから部品図 を検索し,合成,作図を繰返して設計図面を完成する。70階の超高層ビルの設 計のために,6人の設計技師が約2年間かかる作業を大幅に短縮した。 (c)三井金属FPC㈱(埼玉県上尾市)では, PC−9800シリーズ7台と,40
Mbのハードディスクを,リコー㈱社製のSTARLANで接続し,工程設計の
しの 業務に使っている。主な業務の内容は,ハードディスクに登録された,約1400戦略的情報システムが産業構造に与える影響 67 製品(1製品あたり20∼50工程)別の,部品マスター,工順マスターなどを用い て,作業順序,作業条件,工程別の使用部品などを割り出す。さらに,これら のデータを用いて,ロット別,工程別の作業指図書を発行する。このシステム により,半ば自動的に工程設計の業務が行なえるようになり,経費の節減と納 期の短縮効果は大きいと言える。 上記の例は,大規模なシステムから,ごく小規模なシステムまであるが,い ずれもコンピュータを単体としてではなく,LANで接続して相互のコンピュー タとハード・ソフトの資源を有効的に利用したシステムであるといえる。 企業内部において,これらのネットワークシステムが構築され,運用される ことは,社内の情報とその伝達系統が整備されるのはもちろんである。そして, 人事,財務購買,生産,販売,などの各業務自体の合理的改善とともに,意 思決定の迅速化と経済環境変化への機敏な対応に対する情報的支援が行なえる 効果は大きい。 また,工業経営的企業にとっては,OA, FA, LAなどの社内情報システム を統合して,製造と販売を一本化したシステムを構築することにより,フレキ シブルな経営体制がとれるようになり,企業戦略的には大きな意味をもつ。 このように,戦略情報システムとしてLANをみた場合の効果は,社内の基 盤情報ないしは,情報インフラ(基盤)となるネットワークであるという点で非 常に重要である。 皿.VANの成立過程とネットワークサービスの特性
国内VANの成立過程
先に,企業などの組織内部における構内通信網の特性について述べてきたが, ネットワークを組織外部へ広げる手段として,今日,注目され構築されつつあ るのがVANである。ここでは, VANの成立過程と,そのネットワークを戦略 の 的手段として用いた場合の,情報システムとしての特性について述べる。 わが国の企業では,1960年のなかば頃から定型的な業務をバッチで処理する 時代が始まり,1970年代からリアルタイム処理やオンライン処理によって本社と営業所などの間を,企業内専用回線を結んで情報通信を行なうことにコン ピュータの活用方法の重点が移った。 1980年代になると消費者のニーズが多様化し始め,商取引の迅速化を余儀な くされ,通信技術やエレクトロニクス技術の発達,OA化の進展にともなって, 個々の企業内の情報化だけではなく,関連企業との合理的な取引方法がライバ ル企業との優劣を左右する時代になり,商取引業務のための情報ネットワーク 化に着目するようになる。 しかしながら,各企業のコンピュータは機種がさまざまで,相互に接続して 高度な情報通信を行なうことができない。そこで,異機種のコンピュータや端 末機を接続するためのプロトコル,速度,コードなどの変換を行なうVANが 必要になってきた。さらには,音声をディジタル信号に変換したり,ファクシ ミリーの信号をディジタル信号に変換するメディア変換や,通信者の相互の メールをファイルに一度蓄積してから交換するメールボックスサービスなどが できる,高度なコンピュータネットワークが要求されだした。 VANとは,付加価値通信網と訳されているように,第一種電気通信事業者 (回線の所有者)である,NTTや第二電電,日本テレコムなどから通信回線を借 用して,自らのコンピュータとユーザーになる各企業などのコンピュータとを 接続し,データのフォーマット変換や情報の処理・蓄積など,なんらかの付加 価値を付けた情報の提供を行なうネットワークサービスのことである。このよ うな,より高度な通信サービスを提供する業者を第二種電気通信事業者とも呼 んでいるQ わが国では,1953年(昭和28年)に制定された公衆電気電信法で,公衆電気 サービス(電話,電報,データ通信,専用契約など)の利用条件を規定し,その利 用者は利用の公平,検閲の禁止,秘密の保護などの,国民の基本的人権の保護 のもとで利用することが定められていた。さらにその法では,通信回線の再販 (回線リースして第三者にサービスを提供する第二者使用)は厳しく規制されていた。 したがって,民間のVANは成立せず,1971年の同珠改正でも,旧称電電公 社のDDX(ディジタルデータ交換網)による回線交換サービスとパケット交換
戦略的情報システムが産業構造に与える影響 69 サービス,ファクシミリー通信網サービス,の三サービスが提供されていたに 過ぎない。もちろん第二者・第三者の使用によるコンピュータ間接続は禁止さ れていた。 しかしながら,ニューメディア技術の進展やコンピュータの高度利用にとも なうネットワーク化など,通信事業に対する需要が増大してきたために,産業 第2表わが国の通信事業者区分 事業区分 事業者数(62年.63年度末) 第一種電気通信事業者 35 45 特別第二種 18 25 第二種電気 ハ信事業者 一般第二種 512 668 郵便事業者 1 1 放送事業者 151 156 有線放送電話事業者 615 615 有線テレビ放送事業者 453 495 第3表 わが国の主な第一種電気通信事業者 社 名 業務区域(資本金) 事業開始 設 備 社員数(人) 日本電信・電話 全 国 V,800億円 60年10月 光ファイバー
コ線
29万1100 日本テレコム iJR系) 新幹線沿線区域 X0億円 61年10月 光ファイバー 530 日本高速通信 i道路公団系) 東京一兵庫間 驪ハ・千葉124.5億円 61年11月 光ファイバー 393 第二電電 i京セラ系) 東京一西日本間 W0億円 61年12月 マイクロ無線 570 日本通信衛星 i伊藤忠,三井物産系) 全 国 63年2月 通信衛星 宇宙通信 i三菱系) 全 国 63年4月 通信衛星 東京通信 i東京電力系) 東京都圏 63年9月 光ファイバー界から回線解放の要望が相次いで出された。この要望に対応する一環として, 1982年(昭和57年10月)に同法が一部改正され,中小企業向けのVANが認め られた。これを受けて,翌年の1983年には,大蔵省の管理下にある銀行の,自 行と他行,または他社間との双方向の情報交換を認可した。これにより, ファームバンキング(FB)やホームバンキング(HB)などの一連のエレクトロ ニックバンキング(EB)が進展し,金融機関の第三次オンライン化が急速に進 む結果となった。 また,1984年1月には,大蔵省がPOS(販売時点管理:Point Of Sales)を認 可したことにより,販売店と購買者間の資金移動が同一銀行の同一店内で行な えるようになった。そして,ネットワーク化にともなう企業間格差が生じると 言う理由で,先に中小企業向けのVANを認可してきたが,通信の自由化への 要望やVANの需要は中小企業よりも大企業に多いという現実論から,1985年 4月に電気通信事業法が施行され,大企業のVANも認可された。 ここにきて,ようやく通信の自由化が実現する。電気通信事業法は,旧称電 電公社が独占的に行なつ℃来た電気通信事業を,民間に解放する通信自由化の 法律である。この法律は,以前の公衆電気通信法に代えて,わが国の電気通信 のあり方を定めた基本的な法律となり,旧称電電公社を民営化するための日本 電信電話会社(NTT)法とともに,電気通信改革三法案として国会で議決された。 この法律の施行により,自由な情報通信時代の開幕を告げるとともに,IBM などの外資系の不特定多数の企業の参加が認められ,広域な大規模VANがわ が国においても展開されっっあり,新たな情報化時代を向えることになった。 VANが注目されている理由は,単にコンピュータの高度利用というだけで はなく,今後の社会に多目的な情報活用の手段を提供するという点で重要な意 味をもっている。その最大の利点は,少ない回線で情報を効率的に低コストで 送ることにある。メーカーから問屋,運輸業,小売業,金融機関などの各段階 ごとの情報交換を,一つのネットワークで一瞬のうちに処理することができ, ライバル企業や各種の企業グループ,ひいては産業の構造自体に大きなインパ クトを与える現象が現われて来た。
戦略的情報システムが産業構造に与える影響 71 VAN事業のサービス特性 ところで,VANは,そのサービス内容によっていくつかの機能に分類でき るが,大別すると,通信サービス型と情報処理サービス型の二種類になる。 (A)通信サービス型のVANには,基本通信サービスと応用通信サービス がある。 (a)基本通信サービスには,専用線サービス,回線交換サービス,パケット 交換サービスの三つの通信サービスがある。 まず,専用線サービスは,回線の所有者より高速ディジタル回線を借りて, 中低速の複数回線に分割して利用者に専用線を提供するサービスである。 回線交換サービスとは,回線の交換を主体とするサービスを提供するもので, 自動車のごとき移動体への電話接続や,各地に散在する同一企業内の内線電話 をネットワークで結ぶ,電話VANなどがある。電話VANは回線交換サービ スの一種目あり,音声やメールを付加したサービスも行なっている。また,他 社のネットワークやVANに接続するサービスもこれに含まれ,パケット網の 接続にプロトコルX.75を用いた,網間接続サービスがある。 パケット交換サービスとは,プロトコルX.25(CCITT’76および’80)のイン ターフェースに基づいたデータ交換サービスである。たとえば,DDXはその代 表例で,NTT直営の広義のVANである。また,非パケット端末から無手順の プロトコルX.3を用いてパケット交換を行なうPDAサービスなどである。さ らには,プロトコルの異なる通信において,プロトコル変換を行なうサービス もこれに属する。 (b)応用通信サービスは,基本通信サービスをもとにして, さまざまなメ ディアやプロトコルの変換を主体とするサービスを提供するものである。 メディア変換サービスは,電話とFAX(ファクシミリー)のように異なるメ ディア問で通信する場合のサービスである。異なるメディアへの書換えや,複 数メディア間の組換えサービスも行なわれる。 メール交換サービスには,電子メール,FAX,音声,などのサービスがある。 電子メールサービスは,文書をサービス会社のコンピュータ・ファイルに蓄積
吉田貞夫教授追悼号(彦根論叢 第260, 261号) 第4表 VANのサービス機能分類 通信サービス型 基本通信サービス 専用線サービス 回線交換サービス パケット交換サービス 応用通信サービス メディア変換サービス メール交換サービス ビデオテックスサービス パソコン通信サービス 情報処理サービス型 汎用サービス 商用TSSサービスまたはRDS データベースサービス データ集配サービス 自動翻訳サービス 業務・業界特化型サービス 専用業務型VAN 業界サービスVAN 総合サービス
TPOS
大型VANなど して,相手に配信するもので,一度に複数の相手に配信する同報通信,時刻指 定通信,異機種端末通信などがある。また,FAXを利用した蓄積交換サービス, 音声による蓄積交換サービスも行なわれている。 ビデオテックス (VIDEOTEX)サービスは,ユーザーのテレビとVANセン ターを電話回線で結び,文書・画像情報などを送るものである。NTTのキャプ テン・サービスのように双方向の情報交換ができるサービスもある。これを会 議の目的に設置したのが,テレビ会議システムである。それは,遠隔地間の会 議室に設置されているテレビを衛星回線や高速ディジタル回線で結び,テレビ に向って話しかける会議を行なうシステムである。 パソコン通信サービスは,ホスト局とユーザーのパソコンを電話回線で結び, ユーザーが自由に書き込んだり,読み出す電子掲示板,ユーザーが1対1で会 話を行なうチャット,複数のユーザーが会話を行なう電子会議などがある。 (B)情報処理サービス型のVANは,汎用サービスと,業務・業界に特化 したサービス,総合サービス型のものがある。 (a)汎用サービスには,商用TSSサービスまたはRDS(リモートコンピュー戦略的情報システムが産業構造に与える影響 73 ティングサービス),データベースサービス,データ集配サービス,自動翻訳サー ビスなどがあり,特定の業務や業界に特化していないのが特徴である。 商用TSSサービスは,受託計算センターなどがCPUの時間貸しや計算処理 を受託するものである。データベースサービスは,記事情報,経済・金融情報, 企業情報などのデータをユーザーに提供するサービスである。データ集配サー ビスは,支店,支社,分工場,チェン店,などからデータを集収し,計算処理 をした後に再び,本社や本店へ配布するシステムである。自動翻訳サービスは, AI(人工知能)を使って日英,英日のように言葉を翻訳サービスするものである。 (b)業務・業界に磁化したサービスは,専用業務型VANとも呼ばれ,特定 の業務や業種に特化してそれを専門とするVANで,業務処理のためのアプリ ケーションプログラムをVAN業者が保有し,利用者に情報処理を付加した情 報サービスを提供するものである。 業務サービスVANは,たとえば,航空,列車など,各種の座席予約やホテ ルや劇場の予約システムのごときものの他に,在庫,販売,生産などに関する 業務処理システムである。また,業界サービスVANは,銀行間の全銀システ ム,スーパーと卸業の情報処理を一体化して結んだ卸小売業システム,証券業
システムなどがある。最近では,薬局VAN,食品VAN,スポーツVAN,運
輸VANのように,かなりの実績をあげてきているシステムもある。 総合サービス型のVANは,特定の業務や業種に片寄らず,前記してきたい くっかのサービスを複合的に備えたシステムである。たとえば,VANによる POSシステムを構築して,製造メーカー,問屋などの流通過程,および小売店, 消費者までをネットワークで結び,商品の受発注から顧客の代金の回収,代金 決済を総合的に行なう大型VANである。現在のわが国では,まだ開発されて いないが,近い将来にさまざまのVANが統合されて,構築されるであろう。 以上のように,現状のVAN事業のサービス特性は,それを運用する形態に おいてさまざまである。 しかしながら,システムはネットワーク化されるのが 常であり,その意味において一時期には収益率の高いサービスに特化するであ ろうが,将来的にはすべてのサービス機能が統合され,大型化したVAN事業が展開されると思われる。
国際VAN事業の展開
国際VANのサービス機能は,基本的には国内VANと同じであるが,それ ほど多様ではない。わが国で,国際VAN事業が解禁されたのは1987年10月 のことである。国際間での商取引が頻繁になり,それにともなう通信量は年々 増加するとともに,情報伝達の迅速化への要望が多くの企業から出された。ま た,ネットワーク化による種々の効果は,国際間の企業競争力に直接に影響す るとして,KDD(国際電信電話)への回線開放が要請されることになった。 国際VAN事業が解禁される以前は,海外から日本にあるホストコンピュー タを利用する場合,KDDから専用回線を借りるか,公衆データ通信サービスの VENUS−Pを使う方法で行なった。しかしながら,専用回線では特定の事業所 間で電話を含め,毎日10万円以上使うことが契約条件であり,これに見合う通 信量がないと引き合わない。また,VENUS−Pは,通信速度が9600 bpsのクラ スで,月間7万円の基本料金プラス通話量が必要になる。大量の情報を伝送す るCADデータなどは,9600 bpsクラスの低速度,低容量では送れない。 このような状況から,回線開放を要請する企業が相次いで,つぎのような理 由をあげた。(a)KDDの独占事業になっているが,料金が従量制でコストが 高い。これを低料金の専用回線を利用することにより,一般VAN業者が大量 のデータを低コストで通信できるようにする。(b)わが国を東南アジアの情報 第5表 国際通信の動向 業務区分 年度 58 59 60 61 62 63(4−9月) 国際電話取扱数(万回) 4,974 6β90 9,563 13,461 18,944 11,958 国際テレックス取扱数(万回) 4,962 5,210 5,017 4β79 3,562 1,438 国際データ転送取扱数(万回) 31 78 179 302 369 199 国際テレビジョン伝送(回数) 4,607 3β12 4,832 5,546 7β54 5,334 国際電報(万通) 215 185 153 120 97 42 国際郵便物数(万通・万個) 23,423 23,934 24,407 24,249 25,775 27,568 国際専用回線数(回線) 874 961 1,067 1,177 1,395 1,452 出典:通信白書1989年版より作成戦略的情報システムが産業構造に与える影響 75 拠点にするには,国際通信料の安い香港やシンガポールに対抗して,専用回線 を一般のVAN業者に開放し,安価に国際データが利用できるようにすること が不可欠である。(c)イギリスやアメリカでは既に国際VAN業務が実施され ており,それに共同歩調をとることにより,通信相手がその2国間だけでも効 果は十分である。 このような理由から国際VAN事業が解禁されることとなった。現在では,
国際VAN業者がKDDから,通常より2割り増しの定額料金で専用回線を借
り,これをユーザーに分割して再販する。したがって,ユーザー数が増えれば 再販価格も安くなり,使用量が少ないユーザーでも専用回線が利用できること になる。このような仕組であることから,VENUS−PよりもVANの再販価格 の方が20%も安くなる。 わが国の国内及び国際向けのVANは,前記のような成立過程と特質のもと 第6表 主な国際VAN事業の登録企業 登 録企 業 名 主 な 出 資 企 業 提 携 先 日本電気GE
ネットワーク情報 丸紅,米タイムネットなど タイムネット サービス 日本イーエヌエス AT&T,日本興業銀行,富士通,AT&T
日立製作所,三井物産など 国際ヴァン インテック,日本航空,東京電力 GTEテレネット 東京銀行,松下電器産業など 三井情報開発 三井物産CSC
日本情報サービス 住友銀行 JAIS・USA(現地法人) 日本情報ネットワーク 日立製作所 タイムネット 野村総合研究所 野村証券 NCCヨーロッパ(現地法人) 日本経済新聞社 日経アメリカ(現地法人) 日本アイ・ピー・エムIBM
IBM
日本国際通信(ITJ) 三菱商事,三井物産,丸紅など 国際ディジタル通信 トヨタ自動車,伊藤忠商事,英国 (C&W) (IDC) ケーブル&ワイヤーレス(C&W)に,事業展開を行なっている。第二電電,新電電および第二KDDと呼ばれる いずれの企業も,NTTやKDDよりも通信料金が安いということを売りものに して,その経営を行なっている。そして,2∼3年をかけて初期投資を吸収し, 黒字に転換する企業がでてきた。 また,現在では,国際VANの相手国が政府間の合意に基づく,英,米の2 力国であるが,今後,拡大していくことは間違いない。そして,無線や衛星を 使ったVANの通信サービスも徐々に普及しっっあり,便利さが一層加わって きた。 IV.戦略情報システムが産業構造に与える影響 企業の戦略情報システムへの取組み 前記してきたコンピュータと通信ネットワークを駆使した,コンピュータ・ コミュニケーション・ネットワーク (以下CCNと略す)は,新たな経営インフ ラ(基盤)として注目されだした。そして,1988年ごろからVANやLANによ るCCNを利用した,新産業と異業種分野への進出が急増してきた。 これは, 従来の業種の垣根を超えて新分野を開拓するとともに,過去の商習慣を打ち破 る経営インフラの確立を意味するものであり,複雑な企業の競合関係が生じつ つあるQ 日本経済新聞が平成元年に,CCNを戦略情報システムとして経営戦略の面で 先進的に利用する企業33社を対象にアンケート調査を実施した。その結果はつ ぎのような状況にある。 CCNを利用して新規事業に進出した比率 複数の新規事業に進出した 33.3% 新規事業に進出した例がある 37.0% 新規事業に進出したがCCNとは無関係 22.2% ここ5年間に新規事業には進出していない 7.5% 出典:日本経済新聞,平成元年5月8日付
戦略的情報システムが産業構造に与える影響 77 この調査結果に基づけば,CCNを利用して新規事業に進出した企業は703% に達し,また,従来まで存在しなかった新市場を創造する新商品(新サービス) を発売したという企業も60.3%に達した。今後もCCN関係の新商品が登場す ると考えている企業も94.4%を占め,各社とも経営インフラの整備に戦略情報 ラ システムが重要な役割を果たすとしている。そして,この調査では,ゼネラル 石油が家庭でのガス漏れ監視業務を開始し,鹿島建設が防災防犯事業を開始し て警備保障業界に参入し始めたことも明らかになった。 各種の産業分野で情報システムを経営戦略的に,どのように使っているか, また,今後,どのように使っていこうとしているのかを述べてみよう。1988年 の通信白書によれば,つぎのような結果が出ている。 企業内情報資源の有効活用を図りたいとする企業が,現状で40%,将来的に は31%であり,合わせて約71%ある。これは,すでに社内事務のコンピュー タ化はされているが,社内のLANが未だ十分に構築されておらず,本稿のll 節で指摘したごとく,LANによって情報を,各部署間で相互利用していこうと する現われである。 第7表 産業分野における情報通信の重点的活用 項 目 0 10 20 30 40% 39.9 企業内情報資源の有効活用 ..㌔㌧㌔∵’ 31.4 23.0 市場ニーズ把握による新商品開発強化 32.4 雌・8 受注システムを強化した取引先の確保 ・24.8
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消費者の利便向上 19.2 88. 消費者ニーズ即応体制の整備 24.5 7.5 市場への商品特性の広告・宣伝 12.6 5・0. ’11.9 新規事業形態への進出 4.7 共同利用型システム構築による競争力強化 D 15.4 ㎜導入済み 3.8 新規事業分野への進出 11.6囮
5年以内に導入 出典:通信臼書1988年版より作成また,市場関係,消費者関係に注目するという項目を合計すれば,現状で 48.4%,将来的には88.7%であり,合わせて約137%ある。これは,情報シス テムを戦略的に,この方面へ最も重点的に活用していこうとする現われである。 さらに,新規事業形態や新事業分野への進出の割合は,現状で8.8%,将来的 には23.5%であり,合わせて約32%ある。この項目が比較的少ないのは,こ れ以外の項目が既に進出的性格をもっていることと,まずは,企業内の情報イ ンフラを整備してから,とする企業が多いからであろう。 戦略情報システムが産業構造に与える影響 ところで,このようなコンピュータ利用の調査に対し,ネットワークの展開 が企業活動にどのような影響を与えるかを調査したデータを見てみよう。 この調査は,コンピュータを有効に利用していると思われる1,500社にアン し ラ ケート形式で調査したものである。この調査結果によれば,業種別のネット ワーク構築状況は卸・商社系,金融・保険業などは90%以上の企業がすでに導 入済みと回答している。さらに,製造業は82.1%,運輸・倉庫業は72.7%, サービス業は70.7%,建設・不動産業は54.5%が導入済みである。 これらのネットワーク構築は,主として親会社と子会社間で,または取引先 との会社間でのVAN利用であり,同業他社間での水平的ネットワークとして, 第8表 ネットワークの展開が企業活動に与える影響 異業種企業間の交流の増加・拡大 ネットワークによる新しいグループの形成 旧来の企業系列をこえた提携の増加 複合的な付加価値サービスの創造 親会社のリーダーシップの強化 企業間競争の激化 分社化の顕在化 ジョイントベンチャーの増加 48.4SO)60 42 .3 906 33.6906 33.3% 32.79 26.7906 25 2% 22 .3 0% 出典:郵政省通信教育政策局の情報と産業構造に関する研究会 「情報化による新たな企業展開」報告書より(1989,3)
戦略的情報システムが産業構造に与える影響 79 業界VANを利用する企業は一部である。 しかしながら,金融機関と他業界と のネットワーク事例は多く,今後さらに,POSシステムを中心とする卸・商社 および小売間のVAN利用が広がり,製造業や運輸・倉庫業間などのVAN利 用が広がるとともに,総合物流ネットワークが構築されて決済機能もそれに追 加されていくであろう。 このような状況の中で,異業種企業間の交流の増加・拡大が,48.4%,ネッ トワークによる新しいグループの形成が,42.1%,旧来の企業系列を超えた提 携の増加が,33.6%と,比較的高い割合を示しているのは当然である。つまり, 企業間のネットワークの発展は,親会社と子会社間から,取引先との会社間へ, さらには同業他社間から異業種間へと広がっていく。これにともない情報の内 容も本来の商取引に関する経営情報から,それ以外の異業種の技術情報や業界 情報が交換されることになる。 そして,これらの情報を有効に活用していく企業こそ,情報システムを戦略 的に企業経営に役立てていると言えるであろう。また,複合的な付加価値サー ビスの創造も,ジョイントベンチャーの増加も,このような戦略的情報システ ムの用い方によって生まれてくるものである。企業間競争の激化は,いつの時 代にもあり得るものであり,本質的な情報ネットワーク化の意味での競争は, 戦略的情報システムが有効に機能し出してから始まる,と考えるのが妥当であ る。 さらに,親会社のリーダーシップの強化が32.7%,分社化の顕在化が, 22.3%になっている。この項目は,本来的には情報ネットワーク化によって生 じる現象ではない。しかしながら,本来的な企業の資本力や人材的な力関係が 働く中で,情報ネットワークを通してこのような現象が顕在化してくることに なる。 LANやVANの普及が諸産業に与えるインパクトは,特定の企業が強力な戦 略的情報システムを用いることによって生じる場合と,情報ネットワークによ り各企業,各産業分野が相互に連結されることによって引起こされる現象とが ある。
特定の企業が強力な戦略的情報システムを用いることによって生じるインパ クトは,急激にその効果が現われるのが特徴である。たとえば,前記したアメ リカン・エアーラインのように,従来まで旅行代理店で電話とテレックスで行 なわれていた業務を,自社と直結したコンピュータ端末機を配置して,座席予 約の流れを自社へ振り向けることによって,注文業務が自社に殺到するような 形態にした例である。 あるいは,米JCペニーなどのように, POS端末機とソフトを無償で全店舗 に提供,配置し,機械の使い方,データの集計処理およびその読み方,などを すべて無償で行なうことによって,全米の小売業界の中で有数の企業に伸上 がった例である。 わが国には未だこのような例は見当たらない。たとえば,ヤマト運輸は,大 型荷物の運輸から小型荷物の運輸に変え,荷物の追跡がオンラインで実施でき るシステムを構築し, トーヨーサッシは,受発注をオンライン・システムに変 えたもので,業務のやり方を変えたに過ぎない。換言すれば,情報ネットワー クを積極的に使ったものではなく,補助的な手段に用いたものだと言える。 また,情報ネットワークにより各企業,各産業分野が相互に連結されること によって引起こされる諸産業へのインパクトは,徐々に長い時間をかけて現わ れるのが特徴である。たとえばそれは,特定の企業内で,コンピュータを有効 に活用して,人件費の削減,ジャスト・イン・タイムによる在庫・輸送コスト の削減,などの事務の合理化や,CAD/CAMシステムによる製品の高付加価値 化,ネットワークへの投資の増大などによって生じる,消極的な要因から引起 こされるものではない。 諸産業にまでおよぶインパクトとは,このような現象が多くの企業でなされ る段階を経て顕在化してくる。そして,つぎの段階として,各企業,各産業分 野が相互に情報ネットワークで連結されることによって,さらにこれらの効果 が相乗効果として働き,その後に決定的なインパクトが与えられる。 たとえば,コンピュータ要員の著しい不足からソフトウェアの外注化が増大 し,ソフトウェア価格が高騰し,それで一儲けしょうとする企業が急増し,結
戦略的情報システムが産業構造に与える影響 81 果的に雄蕊部門の経済に占めるウエートが低下して,ソフトウェアの占めるウ エートが高くなるごときである。このような事態になって初めて,各産業分野 で付加価値の変化がみられ,産業の構造的な変化が招来される。もちろん,こ のような変化は急激に一朝にして来るものではなく,徐々に浸透して行き,何 年分かの統計データを比較したときに明確になる。 さらには,情報ネットワーク化が進むことにより,小売業と運輸業,不動産 業とレジャー産業のように,各企業,各産業分野が相互に連結されたネット ワーク型の産業構造を形成するようになる。そして,各産業分野では,多様な 変化を遂げることになるであろう。しかしながら,その変化自体は情報ネット ワークが積極的に使われた例ではなく,強力な戦略的情報システムのインパク トとは言い難いが,産業構造を変化させる大きな要因となる。 さて,以上のような戦略的情報システムが,今後の経営活動に有力な手段で あることが一層広く認識されて,積極的に展開して行ったとき,情報は,資本, 不動産,労働力などと並ぶ重要な生産要素としての役割を果たすようになる。 そして,LANやVANの情報ネットワークは,企業経営の中核としての役割を ますます強めることになるのである。
参考文献
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