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日本産トビハゼのミトコンドリアDNA多型に基づく遺伝的集団構造の解析

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ビハゼ・ムツゴロウ類(スズキ目ハゼ亜目 ハゼ科オクスデルクス亜科)は,干潟に適 応した特異な半陸生魚類である( 道津・的場, 1977; Murdy, 1989).特に,トビハゼ属 Perioph-tahlmusと Periophthalmodon の半陸生適応は顕著 で,空気呼吸に適した皮膚構造を持つことや(田 村,1977; Zhang et al., 2003),泥干潟に掘った巣 穴に親魚が空気を運び込み,卵が空気に触れた状 態で発生することなどの,他魚種に見られない特 徴を持っている (Ishimatsu et al., 1998).こうした 生態は潮の干満によって形成される干潟環境と結 びついており,干潟の人為的改変,特に埋立・干 拓によって生息地が失われやすいと考えられる. 日本に分布するトビハゼ Periophthalmus modes-tusは,トビハゼ・ムツゴロウ類の中でも世界最北 に分布する種であり,都市化の著しい東京湾に残 されたわずかな干潟にも生息している.また,東 京湾は本種の分布東限にあたるという点でも地理 的に重要な生息地である(環境省,2003).国外 では中国大陸沿岸の亜熱帯域まで分布しているが, 日本国内では琉球列島の沖縄島を南限としている (明仁ほか,2000).日本−琉球列島の東限(東京 湾)や南限(沖縄島)の個体群は,都市化による 干潟の環境悪化が進行しており,環境省のレッド リストにおける「絶滅のおそれのある地域個体群 (LP)」とされている(環境省,2003).こうした地 域個体群の保全のためには,種内の遺伝的集団構 造を明らかにし,各地域個体群成立の歴史や,他 地域との遺伝的交流の有無を明らかにすることが, 保全単位の設定および絶滅リスク評価のために重

日本産トビハゼのミトコンドリア DNA 多型に基づく

遺伝的集団構造の解析

向井貴彦・杉本真奈美

〒 501–1193 岐阜市柳戸 1–1 岐阜大学地域科学部 (2006 年 5 月 1 日受付; 2006 年 9 月 11 日改訂; 2006 年 9 月 12 日受理) キーワード:トビハゼ,AMOVA,NCPA,地理的分化,絶滅のおそれのある地域個体群

Takahiko Mukai* and Manami Sugimoto. 2006. Genetic population structure of the mudskipper, Periophthalmus modestus, in Japan inferred from mitochondrial DNA sequence variations. Japan. J. Ichthyol., 53(2): 151–158.

Abstract The geographical distribution of mitochondrial DNA (mtDNA) haplo-types in the Japanese mudskipper, Periophthalmus modestus, were investigated. Twenty-one mtDNA haplotypes were obtained from 48 individuals representing 7 populations (5 from major Japanese Islands and 2 from the Ryukyu Islands), some haplotypes being shared among the 5 Japanese populations. Each Ryukyu popula-tion (Tanegashima and Okinawajima Islands) had endemic haplotypes. The analy-sis of molecular variance (AMOVA) and nested clade parsimony analyanaly-sis (NCPA) indicated that the Ryukyu and Japanese populations were isolated from each other, whereas the mtDNA phylogeny indicated that the Ryukyu population haplotypes were included within the clades of the Japanese haplotypes. These results sug-gested that the duration of isolation of the Ryukyu populations from those of the major Japanese Islands was insufficient for the establishment of reciprocal mono-phyly of the mtDNA phylogeny.

*Corresponding author: Faculty of Regional Studies, Gifu University, Yanagido, Gifu 501–1193, Japan (e-mail: [email protected])

Japanese Journal of Ichthyology

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要と考えられる. 琉球列島に生息する汽水魚や両側回遊魚には, 日本列島および大陸から地理的に隔離されて分化 した種や亜種が含まれている (Sakai et al., 2001). また,両地域に同種が分布する場合でも,遺伝的 分析によって明瞭な地理的分化や隔離が見出され る こ と が あ る . た と え ば , 汽 水 性 の ゴ マ ハ ゼ Pandaka sp. Aは,かつて日本列島からオーストラ リアまで分布する広域分布種と考えられていたが, ミトコンドリア DNA の解析の結果,ゴマハゼは屋 久島・種子島以北にのみ分布し,奄美大島以南の 琉球列島のゴマハゼはミツボシゴマハゼP. trimacu-lataおよびマングローブゴマハゼP. lidwilli であるこ とが示された(Mukai et al., 2004; 向井・鈴木, 2005).汽水性のヒモハゼ Eutaeniichthys gilli の場 合も,日本列島と琉球列島の個体群は遺伝的に大 きく分化していることがミトコンドリア DNA の解 析によって明らかにされている(Mukai et al., 2003). したがって,現在は日本列島から琉球列島まで同 一種が分布するとされるトビハゼも,両地域の個 体群は遺伝的に分化している可能性がある. そこで,本研究では,東京湾や沖縄島のトビハ ゼが地理的に隔離されて遺伝的に分化した特異な 集団なのかどうか,あるいは他の地域個体群との 間で遺伝的交流を維持しているのかどうかを明ら かにすることで,生物地理学的な個体群の歴史推 定をおこない,保全単位としての妥当性を論じる ことを目的とした.そのために,日本各地で採集 したトビハゼのミトコンドリア DNA の部分塩基配 列を決定し,集団間の移住を明らかにするための 分子分散分析 (AMOVA: Analysis of molecular vari-ance) (Excoffier et al., 1992) と,遺伝子系統樹とハ プロタイプの地理分布をもとに個体群の歴史を推 定する階層クレード分析 (NCPA: Nested Clade Par-simony Analysis) (Templeton, 1998) をおこなったの で,ここに報告する. 材 料 と 方 法 DNA解析には東京湾から沖縄島までの 7 地点 (Fig. 1) で採集した48 個体のトビハゼを用いた.な お,環境省のレッドリスト(環境省,2003)にお いて「絶滅のおそれのある地域個体群 (LP)」とさ れる東京湾と沖縄島の個体群からは,現地の干潟 でトビハゼの分布が目視確認できる範囲(500 m2 以上)のごく一部(10 m2 未満)から最小限の個 体のみ採集し,視認できる個体数の 1/50 以下の捕 獲に留めることで個体群への影響が生じないよう に努めた.また,他の個体群においても同様に最 小限の個体の採集に留めた.採集したトビハゼは, ミナミトビハゼ Periophthalmus argentilineatus との 誤同定を避けるとともに,隠蔽種が含まれていた 際に証拠標本を確保できるように 99% エタノール 中に保存した.エタノール保存の際には逃走防止 と供試魚の苦痛軽減のための氷冷麻酔をおこなっ た.各採集地点と個体数は次の通りである.千葉 県市川市江戸川 (35°42.09N, 139°55.30E, n7), 三 重 県 桑 名 市 揖 斐 川 (35°05.12N, 136°41.01E, n12),大分県中津市山国川 (33°36.49N, 131° 11.03E, n6), 佐 賀 県 伊 万 里 市 伊 万 里 川 (33° 17.27N, 129°50.01E, n4),佐賀県小城市六角川 (33°11.39N, 130°12.05E, n9),鹿児島県種子島 (30°26.48N, 130°57.17E, n4), 沖 縄 県 沖 縄 島 (26°39.04N, 127°58.55E, n6).採集地点の緯度 経度は国土地理院発行の 2 万 5 千分の 1 の地図か ら推定し,階層クレード分析(NCPA)における採集 地点間の距離計算に用いた.系統解析のための操 作上の外群として屋久島と西表島で採集した各 1 個体のミナミトビハゼを用いた. DNAの抽出は,99% エタノールで保存した供試

魚の体側筋から Charge Switch gDNA Mini Tissue Kit(インビトロジェン株式会社,東京)を用いて おこなった.PCR 増幅には Ex Taq DNA ポリメ ラーゼ(タカラバイオ株式会社,滋賀)を用いて,

Fig. 1. Location of collection sites of the Japanese mudskipper, Periophthalmus modestus. Solid circles indicate sampling sites.

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95°C 1分,55°C 1 分,72°C 2 分の温度サイクルを

30回繰り返した.遺伝子の増幅には,L12321-Leu

(5-GGT CTT AGG AAC CAA AAA CTC TTG GTG CAA-3) と H13396-ND5M (5-CCT ATT TTK CGG ATG TCY TG -3) (Miya and Nishida, 2000) の2種 類のプライマーを用い, ミトコンドリア DNA の NADH dehydrogenase subunit 5 (ND5) 遺伝子の部 分塩基配列約 1 キロ塩基対を増幅した.PCR 産物 の精製には PCR Product Pre-Sequencing Kit(アマ シャムバイオサイエンス株式会社,東京)を用い た.塩基配列の決定には,PCR 増幅に用いたのと 同じプライマーを使って,BigDye Terminator v3.1 Cycle Sequencing Kit(アプライドバイオシステム ズジャパン株式会社,東京)による反応をおこな い, ABI3100 Genetic Analyzer を使用した.各塩 基配列にはハプロタイプ名を付け,日本 DNA デー タ バ ン ク (http://www.ddbj.nig.ac.jp/) に 登 録 し た

(アクセッションナンバー AB257605-AB257627).

ハ プ ロ タ イ プ 間 の 系 統 関 係 は PAUP* 4.0b10 (Swofford, 2002) を用いて,木村の 2 変数モデル (Kimura’s two-parameter model) (Kimura, 1980)によ る遺伝的距離で推定した近隣結合樹であらわした. また,最節約ネットワーク構築には TCS ver.1.21 (Clement et al., 2000) を使用し,PAUP* 4.0b10 の発 見的探索法(Heuristic search)による最節約樹と比較 し た . 分 子 分 散 分 析 (AMOVA) (Excoffier et al., 1992) には Arlequin 2.000 (Schneider et al., 2000) を 用 いた. 階 層 クレード分 析 (NCPA) (Templeton, 1998) は,GeoDis ver.2.4 (Posada et al., 2000) を用 いて,前述の採集地点間の直線距離と最節約ネッ トワーク図から推定した階層クレード構造を用い て解析をおこなった.分子分散分析と階層クレー ド分析における有意性の検定はそれぞれ 1 万回と 10万回の permutation test によっておこなった. 結     果 本研究で得られたトビハゼとミナミトビハゼの ミトコンドリア DNA の部分塩基配列から,NADH dehydrogenase subunit 5 (ND5) 遺伝子の 962 塩基対 を相同領域として解析に用いた.この領域におい て挿入または欠失による塩基配列長の多型はな かった.トビハゼ48 個体からは21 種類のハプロタ イプが見出された.それらのハプロタイプは 33 カ 所の塩基置換によって区別され,そのうち 26 カ所 はトランジション型塩基置換 (Ti),7 カ所はトラン スバージョン型塩基置換 (Tv) であった.ハプロタ イプ間の塩基置換数は最大 14 カ所( 塩基配列差 異 1.46%)であった.屋久島産と西表島産のミナ ミトビハゼ 2 個体の塩基配列は 1 カ所の Ti で異な るのみであり(塩基配列差異 0.10%),トビハゼの 各ハプロタイプとは 74–81 カ所の Ti と 21–23 カ所の Tvで異なっていた(塩基配列差異 9.98–10.60%). それぞれのハプロタイプの地理的分布は Table 1 に示した.東京湾から九州までの 5 地点から採集 された17 種類のハプロタイプはJ01 からJ17 として 記し,種子島産は T01 と T02,沖縄島産は O01 と O02とした.東京湾から九州の 5 地点には共通の ハプロタイプ (J01) が分布していたが,種子島と沖 縄島はそれぞれ固有のハプロタイプのみが分布し ていた.これらのハプロタイプの分布をもとに日 本−琉球列島の 7 地点間での固定指数 (FST) を計 算した結果 (Table 2),種子島と沖縄島の個体群は 他のすべての個体群に対して有意に分化していた (FST0.24–0.89).また,揖斐川(採集地点2)と 山国川(採集地点 3)の個体群は,日本列島内の いくつかの地域個体群に対して有意に分化してい た(FST0.34–0.68). 上述のハプロタイプの地域固有性と固定指数に もとづいて, 個体群を日本列島( 東京湾から九 州)・種子島・沖縄島の 3 地域に分けて分子分散 分析をおこなった結果,3 地域間での遺伝的変異 が 日 本 − 琉 球 列 島 産 ト ビ ハ ゼ の 遺 伝 的 変 異 の 21.41%を占めた.しかし,地域内での個体群間の 変異 (23.07%) と地域個体群内の変異 (55.51%) も 有意に 0 より大きかった (P0.05) (Table 3). ハプロタイプ間の系統関係については,遺伝的 距離に基づく近隣結合樹であらわした (Fig. 2).そ の結果,トビハゼとミナミトビハゼの間では大き な遺伝的分化を示したが,琉球列島の種子島およ び沖縄島のトビハゼのハプロタイプは日本列島産 ハプロタイプのクラスター内の異なる位置に含ま れた.さらに,トビハゼのハプロタイプ間の最節 約 ネ ッ ト ワ ー ク の 推 定 も お こ な っ た (Fig. 3). PAUP* 4.0b10の発見的探索法によって見出された 1本 の 最 節 約 樹 ( 樹 長33, CI1.00, HI0.00, R I1.00) は多重置換を含んでおらず, TCS

ver.1.21 (Clement et al., 2000) によって推定された ネットワークと完全に一致した. 最節約ネット ワークにおいても,沖縄島のハプロタイプは日本 列島(東京湾から九州)のハプロタイプによって 構成されるネットワークの中心付近に位置してお り,系統的に分けることはできなかった. ハプロタイプの系統と地理的分布の両方の情報 を用いた個体群の歴史推定のために階層クレード

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分析(NCPA)をおこなった.Fig. 3 の最節約ネット ワークをもとに階層クレード (nested clade) を推定 し (Fig. 4),地理的構造の検出をおこなったところ, 階層クレード 2-2 と 3-1 で有意な地理的構造が検出 された (P0.05).それらの階層クレードについて 推論の鍵 (inference key) (Templeton, 2004) に基づ く個体群の歴史推定をおこなったが,階層クレー ド 2-2(九州・種子島・沖縄島のクレードを含む) は地理的分断 (Allopatric fragmentation) と推定さ れ,階層クレード 3-1 は歴史が推定できなかった (Inconclusive). 考     察 本研究で明らかになったトビハゼのミトコンド リアDNA ハプロタイプの分布は地理的に偏りがあ り,分子分散分析によって地域個体群間で遺伝子

Table 1. Distribution of haplotypes of Japanese Periophthalmus modestus Sampling site Haplotype N 1 2 3 4 5 6 7 J01 15 4 5 2 1 3 J02 5 1 3 1 J03 4 3 1 J04 1 1 J05 1 1 J06 1 1 J07 1 1 J08 1 1 J09 1 1 J10 1 1 J11 1 1 J12 1 1 J13 1 1 J14 1 1 J15 1 1 J16 1 1 J17 1 1 T01 3 3 T02 1 1 O01 3 3 O02 3 3

Sampling sites refer to numbers in Fig. 1.

Table 2. Pairwise FSTamong local populations of Periophthalmus modestus

1 2 3 4 5 6 7 1 – 2 0.07 – 3 0.01 0.34* – 4 0.31 0.68* 0.44* – 5 0.03 0.34* 0.14 0.06 – 6 0.45* 0.71* 0.55* 0.72* 0.41* – 7 0.36* 0.71* 0.37* 0.62* 0.24* 0.89* –

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流 動 が制 限 されていることが示 された (Tables 1–3).特に,種子島と沖縄島は固有のハプロタイ プに固定しており,他地域から隔離されているこ とが示された.さらに,階層クレード分析におい ても,種子島と沖縄島のハプロタイプを含む階層 クレード 2-2 (Fig. 4) では地理的分断を示したが, それ以外の階層クレードは地理的分布に有意な偏 りがほとんど存在しなかった.したがって,種子 島と沖縄島のトビハゼ個体群については,周辺地 域との遺伝子流動が制限された独自の個体群とし て認識することができる.ただし,種子島と沖縄 島のトビハゼのハプロタイプは,系統的に他地域

Table 3. Results of analysis of molecular variance (AMOVA) of genetic structure among populations of Periophthalmus modestus

d.f. Variance %Total F -statistics P*

Among regions 2 0.653 21.41 FCT0.214 0.05

Among populations

within regions 4 0.704 23.07 FSC0.294 0.01

Within populations 41 1.693 55.51 FST0.445 0.00

d.f., Degrees of freedom; P*, Probability of variance and F -statistics being more extreme than the observed values by chance alone (10,000 permutations). Groups defined according to pairwise FST(Table 2): major Japanese Islands

(Edo, Ibi, Yamaguni, Imari and Rokkaku Rivers), Tanegashima Island and Okinawajima Island.

Fig. 2. Neighbor-joining tree based on genetic dis-tances estimated from the partial mitochondrial ND5 gene sequences (total 962 bp) of 21 haplotypes of Pe-riophthalmus modestus and two haplotypes of an out-group taxon (P. argentilineatus). Distances estimated using Kimura’s two parameter model. Numbers beside internal branches indicate bootstrap probabilities ( 70%) based on 1,000 pseudoreplicates.

Fig. 3. The most parsimonious network of 21 mtDNA haplotypes of Periophthalmus modestus. Ab-breviations for haplotypes as in Table 1. Each line be-tween haplotypes indicates a single nucleotide substi-tution. Open unnamed circles indicate interior nodes that were not in the sample.

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Fig. 4. Nested clade structure of haplotypes obtained from Periophthalmus modestus. Abbrevia-tions for haplotypes as in Table 1. Significant geographic correlaAbbrevia-tions were detected in the nested clades 2-2 and 3-1. Probabilities (P) of the c2-test were from the permutational contingency test

(100,000 resamples). The results of inferences (Templeton, 2004) were ‘allopatric fragmentation’ in nested clade 2-2 and ‘inconclusive’ in nested clade 3-1.

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のハプロタイプグループに内包されるため (Figs. 2, 3),地質年代的なスケールで近年まで本州や九州 の個体群と遺伝的交流があったものと考えられる. トビハゼと同様に日本列島から沖縄島まで分布 する魚類の中では,淡水魚のメダカ Oryzias latipes が,やや類似した系統地理的パターンを示してい る.メダカの野生集団におけるアロザイム分析で は,琉球列島(喜界島・沖縄島)の個体群が固有 の対立遺伝子を持つ地域型として認められるもの の (Sakaizumi et al., 1983),ミトコンドリア DNA の 系統解析では琉球列島のメダカは西九州のハプロ タイプグループの中に含まれており,ほとんど分 化していなかった (Takehana et al., 2003).したがっ て,比較的近い時代において九州から沖縄島に至 る地域で,トビハゼやメダカなどの魚類が移住可 能な状況が存在した可能性がある. 種子島と沖縄島を除く日本列島では,揖斐川と 山国川の個体群が他の地域個体群に対して有意に 分化していた (Table 2).また,調査したトビハゼ の遺伝的変異の中で,( 東京湾から九州)・( 種子 島)・(沖縄島)の各地域内における個体群間の変 異が23.07% 存在することが分子分散分析によって 示されている (Table 3).種子島と沖縄島は各 1 個 体群を解析しているため,「地域内における個体群 間の変異」は東京湾から九州の個体群間の変異で あると見なすことができる.しかし,東京湾から 九州のトビハゼ個体群には共通のハプロタイプが 分布していることから (Table 1),ある程度の遺伝 的交流を維持した状態で,個体群間の移住の程度 に応じた分化が生じているものと考えられる. 本研究の結果,地理的隔離の期間が短くとも, 現在では種子島と沖縄島のトビハゼはそれぞれ遺 伝的に独立した個体群であり,保全単位として認 識できることが示された.また,本州や九州の各 地におけるトビハゼ個体群も地理的な分化が生じ つつある可能性が示された.いずれの個体群も独 立した系統と見なすことはできないが,他地域か ら隔離された個体群は,各々の環境に適応した性 質を持つ可能性があるため,今後は Crandall et al. (2000) に示されるような,生態的特性を加えた広 義の「進化的に重要な単位 (ESUs: Evolutionary significant units)」として,それぞれの地域におけ るトビハゼの生息状況を調査し,保全を検討する 必要があるだろう. 謝     辞 本研究の一部は文部科学省科学研究費補助金 (若手研究 B)(課題番号 17770013)の援助を受け た.また,原稿に貴重な御助言をいただいた北村 武文氏(北海道大学水産学部)に厚く御礼申し上 げる. 引 用 文 献 明仁・坂本勝一・池田祐二・岩田明久.2000.ハゼ亜 目.中坊徹次(編),pp. 1139–1310, 1606–1628.日本 産魚類検索:全種の同定.第 2 版.東海大学出版会, 東京.

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Fig. 1. Location of collection sites of the Japanese mudskipper,  Periophthalmus modestus
Table 1. Distribution of haplotypes of Japanese Periophthalmus modestus Sampling site Haplotype N 1 2 3 4 5 6 7 J01 15 4 5 2 1 3 J02 5 1 3 1 J03 4 3 1 J04 1 1 J05 1 1 J06 1 1 J07 1 1 J08 1 1 J09 1 1 J10 1 1 J11 1 1 J12 1 1 J13 1 1 J14 1 1 J15 1 1 J16 1 1 J
Table 3. Results of analysis of molecular variance (AMOVA) of genetic structure among populations of  Periophthalmus modestus
Fig. 4. Nested clade structure of haplotypes obtained from Periophthalmus modestus. Abbrevia- Abbrevia-tions for haplotypes as in Table 1

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