原 著 〔書女医蕪,箆62巻平翻継妻〕
超音波検査による直腸癌リンパ節転移診断に関する研究
一特に2群以上の転移リンパ節について一
東京女子医科大学 第二外科学教室(主任:浜野恭一教授) シウ ドウ ヒロ ナリ進 藤 廣 成
(受付平成4年3月19日) Ultrasonograpllic Diagnosis of Metastatic Lympll Nodes in Rectal CancerHironad SHINDO
Department of Surgery H(Director:Prof. Kyoichi HAMANO) Tokyo Women’s Medical College Ultrasonographic study with percutaneous scan was carried out in 130 patients who underwent resection of rectal cancer, from 1988 to 1991。 The objective was to evaluate the metastasis to Group 2 nodes(according to the Japanese Research S㏄iety for Cancer of Colon and Rectum)and further. The lateral lymph nodes, which were most difficult to identify among the abovementioned lymph nodes, were studied with intraoperative ultrasonography in 25 patients with rectal cancer, to suppose their exact 1㏄ation. Also percutaneous scans were pe㎡ormed in 100 patients other than rectal cancer, to confirm the l㏄ation supposed with lntraoperatlve scan. The present study revealed the following on ultrasonographic imaging of lymph node metastasis. In paraaortic lymph nodes and inferior mesenteric nodes, sensitivity was 100%,75%;specificity was 100%,93。3%;positive predictive value(PPV)was 100%,63.2%;negative predictive value(NPV)was 100%,96.1%;respectively. In the lateral nodes(iliopelvic nodes), the diagnostic rates on#262 showed sensitivity of 75%, specificity of 99.2月目 PPV of 7596, and NPV of 97.5%. The rates for#272−282 were sensitivity of 6796, specificity of 99.2%, PPV of 67%, and NPV of 98.4%. Percutaneous ultrasonographic scan seemed quite useful for preoperative evaluation. 緒 言 1902年Milesl)が直腸癌のリンパ節転移形式を 系統的に研究し,リンパ節郭清を主体とした直腸 癌手術法を提唱して以来,直腸癌におけるリンパ 節郭清については,多くの研究が行われてきた. 最近では上方は下腸間膜動脈根部で切離郭清,側 方は中直腸動脈根リンパ節,閉鎖リンパ節,内腸 骨動脈リンパ節を郭清する方法が一般化2)∼8)し, 定着してきたが,一丁目は機能障害を減少する目 的で,進行度が軽度の症例では自律神経温存手 術9)あるいは局所切除10)11)のような縮小手術も行 われるようになった.即ち直腸癌手術の症例の stageの違いにより,それに最も適合した術式や 郭清法が選択されるような時代に入りつつあると いえる.このためには,当然のことであるが,術 前,あるいは術中のstage診断,特にリンパ節転移 診断が極めて重要となる. このような:時代を背景にCT, MRI,経直腸的超 音波検査などの画像診断による壁深達度やリンパ 節転移の診断も進歩し,直腸癌にも臨床応用され るようになった12)ヴ15). しかしCT, MRI,経直腸的超音波検査によるりンパ節転移に関する報告16)は主として1群の傍直 腸リンパ節についての報告であり,2群以上のリ ンパ節に関しては十分診断ができていないのが現 状である.特に側方リンパ節の転移診断は最近に なり,ようやく経直腸的超音波検:査やMRI, CT で試みられるようになったのみで17)超音波体表走 査を用いた2群以上のリンパ節転移診断に関する 検討は極めて少ない18). この理由は内腸骨動脈系は余りにも走行形態が 多様で,脈管を目印として同定されるリンパ節の 画像上の位置関係が不確実となるからである.本 研究は,直腸癌における2群以上のリンパ節転移 を超音波体表走査で,どこまで診断できるか検討 するもので著者は超音波体表走査法を用い,この 領域のリンパ節転移の診断を試みた. 従来より超音波検査の体表走査による内腸骨動 脈系のリンパ節診断が困難であった理由の最大の ものは,前述のごとく,この動脈が複雑に分枝し て,体表より同定ができなかったことにある.著 者はこの点に着目して術中超音波により内腸骨動 脈分枝を確かめ,これらにテーピングを行い,同 時に体表よりの走査を行って同定を試みた.また 血管系を分析することにより所属リンパ節の存在 部位を推定しえた.この成果をもとにして直腸癌 症例に対し体表走査によりリンパ節転移診断を試 みた.本論文では,直腸癌に対する2群以上のリ ンパ節として特に傍大動脈リンパ節,下腸間膜リ ンパ節,および側方リンパ節をとりあげ体表より の超音波診断率を検討した. 対 象 1988年1月から1991年1月までの東京女子医科 大学第二外科で術前に超音波検査でリンパ節転移 診断を行った直腸癌130例を対象とした.その内訳 はRS:33例, Ra:34例, Rb:63例, Dukes分類 ではDukes A:26例, Dukes B:38例, Dukes C: 66例であった(図1).なお直腸癌130例はいずれ も開腹例であり,全例において病理学的検索が行 われた. また術中超音波検査は手術を施行した直腸癌25 例に対して行った.25例の内訳はRS:6例, Ra: 8例,Rb:11例, Dukes分類はDukes A:.0例, ll 18 11 19 33 占居部位別
腰
34 / 柵 63 豊 遷 垂 70 60 50 40 30 20 10 0 RS Ra Dukes分類 Rb 38 26 欝醒
66 鋳♂
iiこ麟r 12 10 8 6 4 2 0 Dukes響A DukesロB 図1 対象 6 占居部位別 8騨
’驚・ Dukes℃ 韓 講 11 RS Rb 錘 14 12 10 8 6 4 2 0O
Dukes’A Ra Dukes分類 12 13 遭鍵一議
籔
灘難 ’1 Dukes曹B 図2 術中超音波症例 Dukes’C Dukes B:12例, Dukes C:13例であった(図2). 体表よりの内腸骨動脈系脈管の同定および側方 リンパ節存在部位推定にはさらに直腸癌以外の腹 部超音波検査施行100例を対象として検討した.そ の内訳は男性47例,女性53例,年齢は14歳から87 歳であった.方 法 1.下腸間膜リンパ節(#253)および傍大動脈リ ンパ節(#216)転移診断 体表走査は膀胱に尿を充満させた状態に保ち仰 臥位および側臥位にて,下腹部体表より走査した. 1濟上方で大動脈を描出した.これを下方にたどり 下腸間膜動脈を同定し,各脈管の描出率を求めた. 描出,同定された脈管に沿った大きさ3mm以 上で低エコーを示す類円形の超音波像をリンパ節 転移陽性と診断し,肉眼的所見および病理組織学 的所見と対比しその診断率を求めた. 2.側方リンパ節(#262,272,282)のリンパ節 転移診断 1)内腸骨動脈系の脈管の同定と側方リンパ節存 在部位の推定 (1)術中超音波検査 術中超音波検査は開腹後,生理食塩水1,000ml を骨盤腔に充満し施行した.術中骨盤腔より走査 するとともに体表からも走査した.特に側方リン パ節存在部位同定に必要な中直腸動脈,閉鎖動脈, 閉鎖神経にはリンパ節郭清後テーピングを行い, これらを術中超音波画像上に追跡するとともに, 体表からも走査し,超音波画像上に,側方リンパ 節(中直腸動脈根リンパ節:#262,内腸骨リンパ 図3 術中超音波検査 節:#272,閉鎖リンパ節:#282)の存在部位の推 定を行った(図3). (2)直腸癌以外の腹部超音波検査100例におけ る側:方リンパ節存在部位の同定 体表走査は膀胱に尿を充満させた状態に保ち仰 臥位および側臥位にて,下腹部体表より走査した. 術中超音波検査の画像を根拠に内外腸骨動脈, 中直腸動脈,閉鎖動脈,閉鎖神経の超音波描出能 および形態について検討した.これらよりすでに 術中超音波検査で想定した,中直三根リンパ節(# 262),内腸骨リンパ節(#272),閉鎖リンパ節(# 282)の存在部位の描出率を検討した. 2)直腸癌症例における側方リンパ節(#262, 272,282)転移診断 前述の予備研究をふまえ,側方リンパ節存在部 位に超音波上,径3mm以上腫大した類円形の低 エコーを認めた場合リンパ節転移陽性とみなし, 肉眼所見および病理組織学的所見と対比しその診 断率を求めた. 診断率はsensitivity, speci五city, positive pre・ dictive value(以下PPV), negative predictive value(以下NPV)より算出した. 3.使用機種 体表走査はアロカ乙鳥SSD−650,電子リニアス キャナーおよびコンベックススキャナー3.5,5お よび7.5MHzを用い,術中超音波は術中用7.5Hz のリニアスキャナーおよよびコンベックススキャ ナーを用いた. 結 果 1.傍大動脈リンパ節および下腸間膜リンパ節 1)傍大動脈リンパ節(#216) 術前超音波上腹部大動脈の描出能は130例中130 例(100%)であった.#216番の3mm以上のリン パ節を描出し,転移と診断したのは130例中5丁目 病理学的転移陽性は5例であった(表1). sensitivity 100%, specific量ty 100%, PPV 100%,NPV 100%であった(表5).図4は傍大 動脈リンパ節転移陽性例の超音波像である. 2)下腸間膜リンパ節(#253) 下腸間膜動脈の描出率は130例中121例(93%) であった.#253番の腫大リンパ節を描出転移陽性
表1 傍大動脈リンパ節(#216) 病理診断 超音波診断 転移陽性 転移陰性 計 転移(+) ]移(一) 50 0 P25 5例 P25 計 5 125 130 図4 傍大動脈転移リンパ節 表2 下腸間膜リンパ節(#253) 病理診断 超音波診断 転移陽性 転移陰性 計 転移(+) ]移(一) 12 S 798 19例 P02 計 16 105 121 と読翻したのは19例であり,それらのうち病理学 的転移陽性は12例,7例が転移陰性であった.超 音波上転移陰性と診断したものは102例あったが, 病理学的に転移陽性は4例認めた(表2). sensitivity 75%, speci丘city 93.3%, PPV 63.2%,NPV 96.1%であった(表5).図5は下 腸間膜リンパ節転移陽性の超音波像である. 2.側方リンパ節 1)内腸骨動脈系の脈管の同定と側方リンパ節 存在部位の推定 (1)術中超音波検査 骨盤腔内からの走査および体表からの走査いず れにおいても,総腸骨動脈を末梢側に走査すると, 内外腸骨動脈に腸骨静脈が挟まれた像が全例で得 られた(図6). 図5 下腸間膜転移リンパ節 図6 術中超音波検査;内外腸骨動脈分岐部 しかし#262同定に最も重要な中直腸動脈#282同 定の指標となる閉鎖動脈は術中超音波検査でも描 出することができなかった.そこで,これらにテー ピングし,以下の検討を行い,中直腸動脈根リン パ節,閉鎖リンパ節,内腸骨リンパ節の存在部位 を推定した. a)中直腸動脈根リンパ節(#262)存在部位
図7 術中超音波検査;中直腸動脈根リンパ節存在部 位 中直腸動脈にテーピングし,これを可動させる と,内外腸骨動脈分岐部から平均2cm(±1cm)の 内腸骨動脈内側で可動した.即ち,内外腸骨動脈 分岐部から約2cm末梢側の内腸骨動脈内側に# 262が存在することが示唆された(図7). b)閉鎖リンパ節(#282)・内腸骨リンパ節(# 272)存在部位 閉鎖動脈は術中超音波でも判別困難であった. そこで閉鎖リンパ節(#282)のひとつの指標とな りうる閉鎖神経をテーピングし,可動させたとこ ろ,内外腸骨動脈の外側,1∼2mmのところに高 エコーの帯状の直線像として25例中24例に描出さ れた.また体表から閉鎖神経を描出すると内外腸 骨動脈に挟まれる高エコー領域の中心を走行して いた(図8).したがって内外腸骨動脈に挟まれる 高エコー領域で閉鎖神経が走行する部が超音波画 像上の閉鎖リンパ節の存在部位と推定された.し かしこの部位には内腸骨リンパ節(#272)が含ま れる.超音波画像上#282と#272の境界を判別する 指標は他にないので,超音波画像上,あえてこれ を分離して判読するより,一括して,#272・282領 域とする方が事実により即応していると考え,以 下これを一括して論じることにした. (2)直腸癌以外の腹部超音波検査100例におけ る側方リンパ節存在部位の同定 (a)中直腸動脈根リンパ節(#262)
外腸骨動脈が描出されたのは100例中98例
〆
^1漂灘 図8 術中写真;閉鎖神経 図9 体表操作による超音波検査;閉鎖神経 (98%)であった.内腸骨動脈は2cm以上描出でき たものは26例(26%)にすぎなかったが,2cmま で描出されたのは72例(72箇日であった.術中超 音波検査で#262番は内腸骨動脈本幹より2cm末 梢の内側下方にあることが既にわかっているの で,内腸骨動脈が末梢まで追跡できなくとも2cm 描出されれぽ,その内下方の#262は判読できる. この意味で98%(72%+26%)の症例に#262が同 定でき,同部のリンパ節転移の有無を診断できる ことがわかった. b)閉鎖リンパ節・内腸骨リンパ節(#282・272) 閉鎖神経は内外腸骨動脈の外側,1∼2mmのと ころに高エコーの帯状の直線像として描出された が,その描出率は100例中39例(39%)であった(図 9).したがって39%の症例では閉鎖神経を指標として(#282・272)のリンパ節転移診断の可能性が 示唆された.さらに(洋282。272)は術中超音波で 外腸骨動脈と内腸骨動脈に挟まれた高エコー領域 と推測されているのでこの指標となる外腸骨動脈 および内腸骨動脈の分枝の描出率をみると98%で あり,閉鎖神経が描出されない症例でも(#282・ 272)の転移診断は可能と考えられた. 2)直腸癌側方リンパ節転移診断 (1)中直腸動脈根リンパ節(#262) #262が3mm以上腫大し超音波診断上転移陽性 と診断したのは4例であり,それらのうち病理学 的転移陽性は3例,1例が陰性であった.超音波 上転移陰性は122例であったが,このうち病理学的 に転移陽性は1例に認めた(表3). sensitivity 75%, specificity 99。2%, PPV 75%, NPV 97.5%であった(表5).図10は中直腸動脈 根リンパ節転移陽性例の超音波像である. 表3 中直腸動脈根リンパ節(#262) 病理診断 超音波診断 転移陽性 転移陰性 計 転移(+) ]移(一) 31 1 P21 4例 P22 計 4 122 126 表4 閉鎖リンパ節・内腸骨動脈リンパ節 (#282●272) 病理診断 超音波診断 転移陽性 転移陰性 計 転移(+) ]移(一) 21 1 P22 3例 P23 計 3 123 126 (2)閉鎖リンパ節・内腸骨リンパ節(#282・272) の転移診断 #282・272腫大リンパ節を描出し,転移陽性とし たのは3例である.これらのうち病理学的転移陽 性は2例に認め,1例が陰性であった.超音波上 転移陰性と診断した症例は123例であったが,この うち病理学的に転移陽性は1例のみであった(表 4). sensitivity 67%, specificity 99.2%, PPV 67%, 図10 中直細動脈根転移リンパ節 目11 閉鎖・内腸骨動脈転移リンパ日 表5 術前超音波診断率(%) Sensitivity Speci丘city PPV
NPV
傍大動脈リンパ節(#216) コ腸間膜リンパ節(#253) ?シ腸動脈根リンパ節(#262) ツ鎖・内腸骨動脈リンパ節(#282・272) 100 V5 V5 U7 100 X3.3 X9.2 X9.2 100 U3.2 V5 U7 100 X6.1 X7.5 X8.4 PPV:positive predictive value, NPV=negative predictive valueNPV 98.4%であった(表5).図11は閉鎖リンパ 節転移陽性の超音波像である. 考 察 近年,直腸癌手術術式および郭清の多様化に伴 い,リンパ節転移の術前診断は非常に重要となっ てきた.1984年頃より,直腸癌に対しても超音波 検査,CT, MRIなどの画像診断が応用されるよう になり,壁深達度診断やリンパ節転移診断の精度 は向上してきている.特に超音波内視鏡による壁
深達度診断は病理組織診断に迫るものがあ
る12)∼15). 一方,リンパ節転移診断に関しても,超音波内 視鏡CT, MRIにより,高い診断率が報告されて いる14)16)17).しかし,これらはいずれも1群リンパ 節すなわち傍直腸リンパ節で,中直腸動脈根リン パ節や閉鎖リンパ節に関しては,リンパ節の部位 同定すら確立されていなのが現状である. 著者らは直腸癌における,2群以上のリンパ節 すなわち傍大動脈リンパ節,下腸間膜リンパ節, 内腸骨リンパ節,中直腸動脈根リンパ節,閉鎖リ ンパ節を体表走査による超音波検査で診断するこ とを試みた,このうち大動脈,下腸間膜動脈,内 外腸骨動脈は体表走査で容易に描出できるが,中 直腸動脈,閉鎖動脈は同定が困難であった.当初, 側方リンパ節は内腸骨動脈の前枝である,中直腸 動脈や閉鎖動脈が描出可能で,これらの周囲を読 影することにより,側方リンパ節転移の診断がで きると考えていたが,内腸骨動脈は分岐形態が多 様(図12)であり,これを描出することは容易で はなかった.ちなみに佐藤ら19}は実習死体71体125 側を検討し中直腸動脈の多彩な分岐形態を指摘し ており,これを画像診断で同定することは困難か と思われた. そこで,側方リンパ節の存在部位を同定する目 的で25例に対し術中超音波検査を行った.側方リ ンパ節に関連のある脈管にテーピングし,側方リ ンパ節の存在部位の同定の可能性につき検討を 行った.術中超音波検査は開腹後,側方リンパ節 郭清,前,後に施行し,解剖学的関係を確認し, 体表走査によるものと比較検討を行った. この結果,中直腸動脈自体の描出は不可能であ 図12 総腸骨動脈∼内外腸骨動脈分岐部の亜型 るものの,内外腸骨動脈分岐部より末梢晶晶2cm 内下方に中直腸動脈根が存在することが示唆さ れ,さらに閉鎖神経が直線的な2本の高エコー帯 で描出されうる20)こと,また体表縦走査で内外腸 骨動脈に挟まれる高エコー領域が閉鎖リンパ節の 存在部位であることがわかった.なお閉鎖リンパ 節存在部位の頭側は大腸癌取り扱い規約では内腸 骨リンパ節にも相当する.しかし超音波画像上で は閉鎖神経が両部位を貫いており,かつ超音波画 像で両部位の境界の指標がないため,今回はこれ を一括し「#282・272」リンパ節として扱った.著 者は術中超音波検査の結果に基づき,100例のスク ・リーニング症例でこれを確認するとともに,直腸 癌患者130例につき側方リンパ節転移診断の可能 性を検討した. 直腸癌以外の腹部超音波施行100例における検 討では,大動脈,下腸間膜動脈,外腸骨動脈は全 例で描出できることが判明したが,内腸骨動脈は 描出率は98%で,このうち2cm以上追えた症例は 26%であった.しかし内腸骨動脈が分岐して2cm 末梢内下方に中直腸動脈根リンパ節が存在するこ とが既に判明しており,内腸骨動脈が2cm描出さ れた98%の症例で,同部のリンパ節は描出読影で きると考えられた.また,閉鎖神経は39%に描出 された.閉鎖リンパ節は閉鎖神経周囲とも考えら れるので,閉鎖神経が描出可能な39%の症例では, 神経周囲を懇懇することにより同リンパ節は同定 できると思われた.一方閉鎖神経が描出されない 症例でも,内外腸骨動脈分枝は98%の症例で描出された.閉鎖リンパ節および内腸骨リンパ節は内 外腸骨動脈に挟まれた高エコー領域にも相当する ことが,術中超音波検査で既にわかっているが, この領域を二二することにより閉鎖リンパ節・内 腸骨リンパ節の同定は可能であることが判明し た.内腸骨動脈の枝が長く追跡でき,その枝であ る中直腸動脈や閉鎖動脈が同定できる症例は決し て多くないが,内腸骨動脈分枝より2cm末梢の内 下方が中直腸動脈根リンパ節の存在部位,内外腸 骨動脈に挟まれ,閉鎖神経周囲の高エコー領域に あるリンパ節が閉鎖リンパ節・内腸骨リンパ節で あることが確認できた.これらの予備研究に基づ き,直腸癌症例130例につき本検査を施行し,診断 率を求めた. 診断率を求めるにあたりvalidityの指標とし てはsensitivityとspeci五cityを用い,臨床的信頼 性の指標としてpredictive valueの概念を導入 し21),diagnostic processを評価した.この結果, 傍大動脈リンパ節転移診断率はsensitivity, specificity, PPV, NPVいずれも100%であり,下 魚間膜動脈リンパ節は各々75,93.3,63.2,96。1%, 中直腸動脈根リンパ節は各々75,99.2,75,97.5%, 閉鎖リンパ節・内腸骨動脈リンパ節は各々67, 99.2,67,98.4%であった. 脈管が描出率良好で,同定も容易な傍大動脈リ ンパ節,下腸間膜リンパ節は診断率も高かった.』 中直腸動脈根リンパ節および閉鎖リンパ節・内腸 骨動脈リンパ節はsensitivityは各々75,.67%, PPVは各々75,67%と落ちたのは,今回リンパ節 転移診断を3mm以上の類円形の低エコーとした ためで,NPVはそれぞれ97.5,98.4%, specificity はどちらも99.2%と高くリンパ節転移陰性を “rule out”するには臨床的には有意義な検査法と 考えられた. なお本検査の診断的中率は検査医の診断能力に 負うところも多く,熟練した検査医と,初心者で 大きな差があったことも付記しておく. 次に直腸癌の転移リンパ節の大きさについてみ た.Grinnelら22)は郭清した傍直腸周囲リンパ節 および下腸間膜動脈幹リンパ節転移の病理学的検
討で1∼2mmでも転移を認めると報告している
が,側方リンパ節転移については検討を行ってい ない.また大見ら23)は側方リンパ節の転移と非転 移の大きさを病理学的に検討を行い,側方リンパ 節転移率および転移度は治癒切除例でそれぞれ 15,1.7%,非治癒切除例で40,7.3%,転移は10mm以上のリンパ節に高率にみられ,4mm以下
のものではおずかに0.9%(治癒切除),1.4%(非 治癒切除)であり,このような転移は中直腸およ び閉鎖動脈領域に多かったと述べている.一方 5.0,7.5MHzの振動数の超音波での識別可能な 大きさは,生体内での音速を約1,530m/secとす ると,理論上それぞれ0.3,0。2mmであるが,臨 床的診断装置の分解能は,距離方向が約1mm,横 方向が約2mmといわれている.それゆえ超音波 画像上に2mm以上のリンパ節は描出できると考 えられる.しかし自験例では描出されたリンパ節 のうち最も小さいものは径3mmであり,今回の 検討では便宜上3mm以上のリンパ節描出例を転 移陽性とし,病理所見と対比した. 最後にリンパ節転移の超音波画像による質的診 断につき検討した.リンパ節の大きさ,縦横比, 辺縁の不整,内部エコーで斑状高エコーや内部エ コーの不均一などがリンパ節転移陽性の所見とす る報告14)16)18)20)24)25)カミあるが,今回の著者の検討で はリンパ節が円形および類円形の比較的均一な低 エコー怩ニして得られたものが多く,内部エコー の変化に関する検討はできなかった.しかし将来, 超音波分解能の改善など,超音波機種,探素子の 開発がさらに進めば描出リンパ節の内部エコーの 変化も捕えることが可能になると;期待している. 結 語 ’超音波検査(体表走査)を用い直腸癌における 2群以上のリンパ節転移診断につき検討し以下の 結論を得た. 1.傍大動脈リンパ節,下腸間膜リンパ節 1)傍大動脈リンパ節(#216)転移診断はsensi− tivity:100%, specificity:100%, PPV:100%, NPV:100%であった. 2)下腸間膜動脈リンパ節(#253)転移診断は sensitivity:75%, spec玉ficity:93.3%, PPV: 63.2%,NPV:96,1%であった.2.側方リンパ節 1)術中超音波検査およびスグリーニング100例 における予備研究により以下のことがわかった. (1)中直腸動脈根リンパ節は内腸骨動脈が分岐 したのち約2cm末梢の内下方に存在する. (2)閉鎖リンパ節と内腸骨リンパ節は内外腸骨 リンパ節は内外腸骨動脈に挟まれ,中心に閉鎖神 経が走行している高エコー領域と考えられ,超音 波上,両者を分離して三巴することは困難であっ た. 2)直腸癌症例 (1)中直腸動脈根リンパ節(#262)転移診断は sensitivity:75%, specificity:99.2%, PPV: 75%,NPV:97.5%であった. (2)閉鎖リンパ節・内腸骨リンパ節(#282・272) 転移診断はsensitivity:67%, speci五city: 99.2%,PPV:67%, NPV:98.4%であった. 稿を終えるにあたり,御校閲を賜った浜野恭一教 授,ならびに本研究の遂行にあたり直接三指導いただ いた亀岡信悟助教授に深甚なる謝意を表します.また 本研究の実施にあたり終始御協力をいただいた第二 外科大腸班,超音波室の諸兄姉に御礼申し上げます. なお,本論文の要旨は第58回日本超音波医学総会 (京都),第13回国際結腸直腸外科学会(グラーツ)に おいて発表した. 文 献 1)Miles WE:Amethod of perfo㎜ing aし dominoperitoneal excision for carcinoma of the rectum and of the terminal portion of the pelvic colon. Lancet 19:181−182,1908 2)E腱ker WE:Current Therapy in Colon and Rectal Surgery(Fazio VW ed)p126, Decker, Philadelphia(1990) 3)Goligher JC:Surgery of the Anus, Rectum and Colon。3rd ed, pp594−596, Bailliere, London (1984) 4) Sauer I, Bacon HE: Influence of lateral spread of cancer of the rectum on radicability of operation and prognosis. Am J Surg 81: 111−120, 1951 5)Koyama Y, Moriyama Y, Hojo K:Effect of extended systematic lymphadenectomy for adenocarcinoma of the rectum−Signi丘cant improvement of survival rate and decrease of local recurrence一. JPn J CIin Oncol 14: 623−632, 1984 6)高橋 孝,小鍛治明照,太田博俊:直腸癌 局所 .再発からみた側方リンパ節郭清の意義。消化器外 科セミナー 22:131−142,1986 7)浜野恭一,亀岡信悟,秋本 伸ほか:直腸癌の括 約筋温存術式.臨床外科 39:1667−1673,1984 8)小平 進:直腸癌手術の側方リンパ節郭清.臨床 外科 43:798−800,1988 9)土屋周二,池 秀之,大木繁夫ほか:大腸癌の手 術,自律神経を温存する直腸癌手術.手術 37: 1367−1373, 1983 10)Morson BC, Bussey HJR, Samoorian S: Policy of local resection for early cancer of the colorectum. Gut 18:1045−1050,1977 11)武藤徹一郎,小西文雄,沢田俊夫ほか:早期直腸 癌に対する局所切除の適応と方法.消化器外科 9:187−197,1986 12)秋本 伸,磯部義憲,亀岡信悟:特集一実地医家 のエコー,CT診断,臓器診断の実際一消化管.癌 と研63:81−89,1986 13)亀岡信悟,浜野恭一,秋本 伸:大腸癌の超音波 診断.大腸肛門誌 37:529−534,1984 14)小木會実,山川雅之,加藤孝一郎:直腸癌の術前 超音波検査一壁深達度およびリンパ節転移につい て一.大腸肛門誌 40:87−88,1987 15)太田代紀子:S状結腸癌,直腸癌に対する走査法 超音波検査の検討.東女医大誌 57:1082−1096, 1987 16)原田博文:直腸内走査による直腸癌の超音波診 断,特に側方リンパ節転移について.大腸肛門誌 40:86−87, 1987 17)板橋道明,亀岡信悟,中島清隆ほか:Magnetic resonance imaging矢状断像による直腸癌側方リ ンパ筋転移の術前診断.日権外会誌 23:2843, 1990 18)亀岡信悟,進藤廣成,朝比奈完:超音波検査によ る下腸間膜動脈領域のリンパ節転移診断.大腸肛 門誌 43:590−594,1990 19)佐藤健次,佐藤達夫:腸骨動脈間リンパ節(Lnn. interiliaci)の重要性について.解剖誌 63:128, 1988 20)進藤摩羅,亀岡信悟,朝比奈完ほか:超音波検査 における側方リンパ筋描出の検討.日超医論文集 55:449−450, 1989 21)Troidl H, Spitzer WO, McPeek B et a1: Principles and Practice of Research, Strategies for Surgical Investigators. pp195−206, SpringerVerlag, New York(1986) .22)Gr量nnel R:The lymphatic and venous spread of carcinoma of the rectum。 Ann Surg 116: 200−216, 1942
23)大見良裕,土屋周二,大木繁男:直腸癌における 側方転移および非転移リンパ筋の大ぎさ.日消外 会誌 16:902−910,1983 24)平 昇,森谷宜皓,小山靖夫:術中超音波によ る直腸癌の診断一深達度,リンパ筋転移について 一.大腸肛門誌 38:677−683,1985 25)村田洋子,秋本 伸,遠藤光夫:食道癌における 超音波診断,ことに腹部リンパ節転移について. 消外 5:1684−1700,1982