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(最終講義)生存競争と数学

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(1)

最終講義

生存競争と数学

東京女子医科大学 チ    バ     カヅ

千 葉  克

数学  ヒロ

(受付平成6年5月13日) 〔東女医大誌 第64巻 第9号頁 921∼928平:成6年9月〕  これは魚類の生存競争に微分方程式を応用して 大変に興味深い成果を挙げた,イタリヤの著名な 数学者Vito Volerra(1860−1940)の研究について の話であります.

 Volterraは1931年に《生存競争の数学的理

論》(Legons sur la Theorie Mathematique de la Lutte pour la Vie)という本をパリで出版し ましたが,この本は生態系の生存競争を数学的に 取り扱った最初の本として歴史的にも記念すべき 本となりました.  Volterraは55歳で軍隊に志願するほどの熱烈 な愛国者でしたが,1922年にイタリヤにファシス ト政権ができてからはこれに強く抵抗したため, 晩年にはついにフランスに亡命せざるを得なくな りました.私がこれからお話申し上げたいのは, Volterraがこの本を書く動機となった彼の非常 に面白い研究についてであります.要は,生態系 への微分方程式の応用でありますが,数学にあま り縁のない方々にも数学の面白さを理解していた だければ,私にとってこの上ない幸せであります.  第1次世界大戦が終わって数年経った頃,イタ リヤの若い生物・生態学者Umberto D’Anconaは イタリヤの地中海沿岸のいくつかの漁港で漁獲量 の調査をしていたが,たまたま大戦中から戦後に かけての数年間に限って,サメ類の漁獲量が異常 に増えていることに気が付いた.つぎの表はイタ リヤのFiumeという漁港におけるデータである が,他の漁港においても同様のデータが得られて いた.この表を見れば明らかなように,1915年か ら1919年にかけての5年間にサメ類の水揚げが突 出していることがわかる. 表総漁獲量の中でのサメ類の割合    (年間を通じての平均) (イタリヤの漁港Fiumeにおけるもの) 1914 119% 1915 1916 214% 221% 1917 212% 1918 364% 1919 273% 1920 160% 1921 159% 1922 148% 1923 107%  第1次大戦中はドイツの潜水艦があちらこちら で暴れ廻っていただけでなく,機雷も数多く敷設 されていたために,地中海での漁業の操業率が非 常に低下して,このことがサメ類の異常な増加現 象を引き起したと考えられるが,問題は漁業が行 われなくなると一体何故サメ類が増えるのかとい うことである.  サメという魚は1回に数匹の子供しか産まない そうであるが,サメに較べてサメ以外の魚は圧倒 的に多くの子供(卵)を産むから,常識的に考えれ ば,漁業の操業率がうんと低下すれば,それはむ しろサメ以外の魚の異常な増加現象を引き起しそ うだと思われるが,実際には逆のことが起ってい たわけである.  D〆Anconaはこの不可解な現象の数学的な解明 を当時の著名な数学者Volterraに依頼したので K:atsuhiro CHIBA〔Professor of Mathematics, Tokyo Wonien’s Medical College〕:The struggle for survival and mathematics

(2)

ある.Volterraはこの問題の数学的なモデルとし てきわめて簡明な連立微分方程式を考え,この問 題をみごとに解決することに成功したが,その微 分方程式は次のようなものであった.(以下では, サメ類以外の魚はすべてサメの餌になる魚という 意味で餌魚類とよぶことにする.餌魚類は私たち 人間の食べる魚でもある.)   《Volterraが作った生態系のモデルA》     (漁業が行われていない場合) dx(t)    =一px(t)十qx(t)y(t) れるサメ類の数の平均又(g)を求めて,文(g)〉文ωを 示すことである.  (1)で+qx(t)y(t),一sx(t)y(t)という項が非常 に重要である.なお,ふつう関数記号の括弧() と,その中の時間を表す変数tは省略して書かな いので,これからは特に必要な場合以外はこの記 法に従う.つぎに,方程式(1)と,(1)からxyの項 を取り去った方程式を(2)として,この2つの方程 式を見易いように並べて書いておこう. ・)

o 砒

夕(・)一撃一・y(・)一・x(・)・(・). ただし,ここでp,q, r, sは正の定数であり, x(t)は時刻tにおけるサメ類の総数(population), y(t)は時刻tにおける餌魚類の総数(population) を表すものとする.  この微分方程式は右辺に独立変数tをexplicit に含んでいない.この種の微分方程式は自律系あ るいは自励系とよばれている.  ある現象を数学的に解析するためには,その現 象に深く関係する本質的な要因だけを適切に抽出 し,これをもとに1つの数学的に研究し易いモデ ルを作る.これをその現象の数学的モデルと呼ん でいる.     《問題のモデル化の際の仮定》  1)サメ類と餌魚類は仲間同士では友喰いをし ない.  2)サメ類は餌魚類のみによって彼等の生存を 維持している.  3)餌魚類にとっての餌は十分にある.  これが,Volterraが問題の数学的モデルとして の微分方程式を立てるときに用いた仮定である. 1)は仲間同士では争いがないこと,2)は餌魚類が いなければサメ類はいずれば死に絶えてしまうこ とを意味し,3)はサメ類がいなければ餌魚類はい くらでも増えつづけることを意味している.  われわれの目的は,漁業が行われていない場合 の数学的モデル(1)から得られるサメ類の数(pop− ulation)の(ある期間にわたる)平均又(、)と漁業が 行われた場合の数学的モデル(9)(後出)から得ら (1) Volterraのモデル  . dx

偉釜1叢∵

 xyの項が無い場合  (2)の第1式の右辺はyを含まず,第2式はx を含まないので,(2)は連立の微分方程式ではな く,単独の微分方程式が2個並んでいるだけのも のである.  (1)においてq=s=0としたものが(2)であり, 方程式(2)の解は,x=ce−Pt, y=de「t(c, dは任意 の定数)で与えられる.題意から,x>0, y>0で あるから,ここでは。>0,d>0であり,t→Ooのと き,x→0, y→○○となる.これは,サメ類はいず れば絶滅し,餌魚類は無限にその数を増やすこと を意味している.このようなことを起らせないの が(1)におけるxyの項の役割である.  もう少しxyの項について説明すると,つぎの ようになる:サメ類にとっては,餌魚類が多いほ どサメ類の仲間が減る勢い(速さ)を鈍らせる   変化率の絶対値を小さくする  ことができ ると同時に,餌魚類にとってはサメ類が多いほど 餌魚類が増える勢い(速さ)が弱められるという ことになる.  そして,サメ類が餌魚類に出会う度合いが大き いほど,サメ類にとっては種の繁殖に有利である. しかも,両者が出合う度合はサメ類が多いほど, また,餌魚類が多いほど大きいと考えられる.す

(3)

O y (X(t、),y(t、)) (t1〈t2<t3〈●。。) (X(t2),y(t2)) (X(t3),y(t3))

X

(1) {

dx

 =一px十qxy=x(一P十qy)dt 警一・y一…一・(・一・x) 図 1 なわち,サメ類と餌魚類が出会う頻度は,単位時 間当り,サメ類の数X(t)と餌魚類の数y(t)の積に 比例するとVolterraは考えたのである. qとsは その際の比例定数で,q, sの値が大きければ大き いほど彼等が接触する機会が多いことを意味す る.こうして,(1)の第1式においては+qxyがサ メ類が減少する傾向を食い止める役割を果たし, 第2式においては一sxyが餌魚類が増加する傾向 を抑えるという役割を果たしているわけである. さて,   x(t),y(t)を方程式(1)の解とすれば:       ↓   xy平面上に点(X(t),y(t))が定まる:       ↓  時刻tの経過に従って,一般に点(X(t),y(t)〉 は刻々その位置を変えて,xy平面上に1つの曲線 を描く(図1参照).  この曲線を連立微分方程式(1)の解曲線(solu− tion curve)あるいは軌道(orbit)とよび,解曲

線が描かれるxy平面を(1)の相平面(phase

space)とよんでいる.点(x(t),y(t))は一般に はあちこち動きまわって,解曲線を描くわけであ るが,特別の場合には,全く動かないで1点に留 まり続けることがある.そのようなことが起るの は,X(t),y(t)がともに定数の場合である.たとえ ば,明らかに, の解であるが,この2組の解x≡0,y≡0および ・≡

?E≡÷は・礁鵬であ・から,・れら

2つの解は相平面xy上ではつねに同じ位置にと どまりつづける点として表される.このような特 別な解を自律微分方程式(1)の平衡点(equilib− rium point)あるいは危点(critical point)とよ んでいる.もちろん,x……0, y…0は問題の解とし ては不適である.こ、れらの他に,x=ce㎜pt, y≡0あ るいはx≡0,y=de「t(c, dは任意の定数)という 解もあるが,この2組の解もいま考えている問題 の解としては適当ではない.  tをパラメータ(媒介変数)と考えると,yをX の関数と考えることができて,このときxとyと の関係は,はじめの方程式(1)からtを消去し て,つぎの微分方程式を解くことによって得られ る: (・)曾天一。ぞ与認). これは変数分離形であるから容易に解けて,(3)を

みたすxとyとの関係は次式で与えられること

がわかる:

(・)蓋・蓋一K(Kは臆の正の定数)・

 (4)のグラフすなわち(4)をみたす点(x,y)の全 体がはじめの方程式(1)の相平面上での解曲線を 与えるわけである.したがって,定数Kの値に応 じて,相平面xy上に無数の解曲線、 CKが描かれる ことになる.それらがどのような曲線になるか? 以下,(4)が与える図形についてしらべることにす る. いま,・(・)一蓋・お・・て,・一・(・)のグラフが x≧0の範囲でどのような形になるかをしらべる と,f(x)を微分してみればすぐにわかるように, このグラフは原点(0,0)から出て次第に増加し, ・一宸フとき最大になり・それから減少}・転じて x軸にかぎりなく近づいていく釣鐘型のグラフに なる・とがわかる弾く同様に,・(・)一蓋とお

(4)

けば,v=g(y)のグラフも原点から出て増加し, ・一?ナ鰍となったあとは減少して.y軸を漸近 線とする釣鐘型のグラフになる.このとき,f(x), ・(・)の最大値はそれぞれ園ゑ〔号〕∵・と なるが,簡単のためこれら2つの値をMf, Mg で表すことにする.そうすればu=f(x)および v=g(y)のグラフはそれぞれつぎの図2,図3の ようになる.  微分方程式(1)の解曲線の形を見るには,方程式 (4)によって与えられるグラフが求まればよいが, Mf, Mgがそれぞれ関数f(x), g(y)の最大値であ ることに注意すれば,つぎの(イ),(ロ)が成り 立つことは明らかである:  (イ)K>MfMgならば,(4)をみたす(x, y)は 存在しないから,この場合には(1)の解曲線は存在 しない.  (ロ)K=MfMgならば,(4)をみたす(x, y)は

点(rP

r,q)だけである.・れは(1)の平衡点である.  残るのは,0〈K<MfMgの場合に(4)すなわち f(x)・g(y)=Kをみたす点(x,y)がどのような 図形を描くか? ということである.この問題を 考えるために,ここで0〈ξくMfとして,あえて K=ξMgと書き,方程式(4)を

Mf

f(x) ξ τ 0 u          i/・一f(・) 一…一一一…一一一 x  i       l  l

      } i  〆u=ξ

       @   コげ     セ  リリハ      リロ        

     臼  1  !

     1 】     l        I 一一……一一¥十一一一一ヰー一一…斗…一一一一一

    1臼   l   l  l

    l一   ・ r  I  ・

    i目  レ耳 i l

    ノ/X    Xξ2X。、

    XτlXξ1 図2 f(x)=ξ(0〈ξ<Mf)の解をXξ1, Xξ2とする.   すなわちf(Xξ1)=f(Xξ2)=ξ、

Mg

ξ

璃Mg

0 V 一…『… 一一一’…} u /・一9(y)       ヨ   に               [       l      l

     l  l l

     l        [       I      I         l       l      I        I       I      I         l       l      l         I        I      l        I       l      l      I         I      I        l      I                      l    I P I      ユ               し

     1  〆q

X (4ノ)・(・)一,護)一論rM・ と書き変えることにする.  0〈ξ<Mfであるから,このときには方程式 f(x)=ξは必ず2個の解をもつ.実際,直線u=ξ (・〈ξ<M,)は・一f(・)のグラフと直線・一÷ゐ 左右で丁度1回ずつ交わっていることがわかる (図2参照).ξに依存してきまるこの2個口解を Xξ1,Xξ2(Xξ1〈Xξ2)で表すことにすればう   f(・,1)一f(・,,)一ξ,・ξ1〈÷〈・,、 である(また,0〈τ<ξ<Mfならば, xτ1〈xξ1<   奪くX葬くXτ2となることにも注意).  つぎに,Xξ1<X〈Xξ2をみたすXに対しては,明 らかにf(x)〉ξとなるから(図2参照),(4’)の右 辺の値一

モM・はM・よりも小さくな・・した

がって,このとき方程式(4)も2個の解をもつ(図 3参照).これらはもちろんxだけでなく,ξにも yξ、(X) yξ、(x) 図・Xξ1〈・<…の・きの・(・)一

マrM・の解・

  yξ1(x),yξ2(x)とする. y 依存してきまるから,yξ1(X), yξ2(X)(yξ1(X)< yξ2(x))で表すことにする.このとき,図3からも 明らかなように,これら2つの解のうちの1つは

麺黒瀬姦)講よりも大きゆ

 このようにして,方程式  (5) f(x)g(y)二ξMgすなわち 白 ・(・)一

ZM・

から,つぎの(イ),(ロ),(ハ)が導かれる:  (イ)X<Xξ1またはX>Xξ2のときには,(5)をみ たす点(x,y)は存在しない(なぜなら,この場合に は・(・)<ξ・なり・煮M・>M・とな・から).  (ロ)x=xξ1またはx=xξ2のときには,(5)をみ たす点は( PxξD一可)と(・,・二八ナである(なぜ なら,この場合にはf(x)=ξとなるから(5)は

(5)

yξ、(x)

q yξ1(X)        !       / 一一一一一一一一刀v一一

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X

      Xξ1  x     r      . Xξ2        可 図・・(・)・(・)一ξM・すなわ…(・)一応戦(・・ξ・職)のグ・・C・ ・(・)一M、となり,・の等式をみたす・・ま号だけ であるから).  (ハ)xξ1<x<xξ2のときには,(5)をみたす点は (X,yξ1(X))と点(X,yξ2(X))である(なぜなら, ・の場合・・は・・(・)〉ξ・なり・,長)M・<M・だ から). (ロ),(ハ)で得られた点を相平面xy上にプロッ トすることによって,(5)と同等な方程式(4)の (ξに依存して決まる)グラフすなわち最初の微分 方程式(1)の解曲線Cξが得られるが,図から明 らかなように,これは閉じた曲線(閉軌道)にな る(図4参照).  こうして,不等式0<ξ<Mfをみたす各ξに 対して,方程式(4)で与えられるグラフすなわち (1)の解曲線としての閉軌道Cξが得られたが,こ こでついでに,時刻tの経過にともなって,Cξ 上の点(X(t),y(t))はどちら廻りに動くかを考え てみよう.そのためには,方程式(1)の右辺 x(一p十qy)の符号をしらべればわかる.すなわち,

ωに:1輩1こご怨∵}

となる(図5参照).  したがって,(イ)より,解曲線Cξ上の点であっ て,・座標碍よりも大きい点は右へ動く・と, (ロ)より,解曲線Cξ上の点であって,y座標が 号よりも小さい点は左に動く・とカ・わかる.

q 0 y

/孫)応\ぐ)碍

図 5

x

の相平面xyの解曲線Cξ上の点(x(t),y(t))に 対して,    dx(t)       〈0.すなわち,x=x(t)は減少関数,から,     dt  ゆえに,閉軌道Cξ上の点(x(t),y(t))は時刻 tの経過とともに時計の針と同じ向きに動いて, ある一定の時間Tが経過すると元の点に戻ると いうことがわかった.この関係を式で表したのが つぎの等式(6)である:

(・){類認(すべての…対して)・

すなわち,x(t), y(t)は周期がTの周期関数であ る(図6参照). ・さて,はじめに挙げたD〆Anconaのデータにあ るパーセンテージは1年を通じての平均であった ことに注意しなければならない.

(6)

q 0 y        /(・(t)・y(t))

    /

(x(t十T),y(t十丁)) 図 6

X

 一般に,時刻tとともに変動する量F(t)に対 して,ある一定時間(たとえば,時刻tlから時刻t2 までのtrt、時間)における平均Fとよぶべき値 をどのように定義したらよいであろうか? たと えば,時刻tの瞬間の速さがv=F(t)の車が,時刻 t1から時刻t2の問に走った距離はS=∫tセF(t)dt (図7の太線で囲まれた図形の面積)であるから, この場合,この車のt2−t1時間における平均の速 さはF一、≒溌・(・)・・である.図・で斜線の 施された長方形(面積をSとする)のタテの長さ がFに他ならない.

F

V S一YF(・)・・ \。二F(t) t 義する:  〈周期Tの周期関数x(t),y(t)の平均値》   ・一十写・(・)d・y一圭∬・(・)・・  Volterraのモデルでは,非常に面白いことに, その解X(t),y(t)の具体的な形がわからなくて も,それらの平均値又,yを求めることができる. すなわち,方程式 一t1

m\一、、一t1/t2層

を ・つ・ と変形してみる.(1ノ)の第1式の左辺から,解 x(t)の周期性k(0)=x(T)に注意して, (・)十』畷摺・・一十[1・9・(・)]ε     一logx(T)示10gx(0)一・ が得られ,他方,(1■)の第1式の右辺から,次式 が得られる: (・)、十が(一・+qy(・))d・    一一十[・・]ε+・十∬・(・)・・ 図 7  当然,この考え方は一般の関数の場合にも適用 される.とくに,時刻tを変数とする周期関数は 一定の時間が経過するとまた同じパターンを繰り 返すから,(1)の解であるような周期Tの関数 X(t),y(t)に対しては,平均値又, yをつぎのよう に(最小の繰り返し時間における平均として)定    =一P十qy. ゆえに,(7)と(・)から一・+・y−qすなわちy署 が得られる.全く同様にして,一(r)の第2式から ・一?ェ得られる.すなわち,方程式(1)の醐T の解X(t),y(t)の平均又,yは次式で与えられる: ・一¥頭身(・)d・一÷y一十∬・(・)d・一号  ここまでは,漁業が行われていない場合の方程 式(1)について考察してきたが,これからは漁業 が行われてそれが魚類に与える影響を考慮した場 合の微分方程式(9)を考えることにしよう:

(7)

《Volterraが作った生態系のモデルB》    (漁業が行われている場合)  (p,q, r, s,ε,ηは正の定数).  ここでε,ηはそれぞれ,漁業が行われることに よってサメ類,餌魚類が受ける打撃の程度を表す 定数であり,これは漁業に出る船の数や操業の頻 度,海中に設置された漁網の数,等に依存して決 まるものと考えられる.微分方程式(9)は,漁業が 行われていない場合の方程式(1)の第1式,第2式 に,それぞれ新たに一εx,一ηyという項が付け加 えられたものであり,これらは共にサメ類,餌魚 類の増加を抑える役割を果たすものである.  この方程式(9)は;第1式のxの係数と第2式 のyの係数が方程式(1)と違う他は(1)と全く同 じ形をしているから,いままでのすべての考察は (9)にそのまま適用することができる.すなわち, (9)の2つの解x(g)(t),y(g)(t)の平均文(g), y(g)はそ れぞれ,文(Dのrをr一ηで,y(、)のpをp十εで置 き換えるだけで得られる.見易いように,2つの 方程式(1),(9)とそれらの解の平均を並べて書く と,つぎのようになる:

ω{;‡叢∵

の解X(t),y(t)の平均は    _  r _  P    X(1>=一§一, y(1)=て1一。 これに対して,

⑨嚥二∴:∵

の解X(t),y(t)の平均は・     ・、・、一三⊥,y,・、一Pぎε. 明らかに,青〉㌣であるので・、1、〉・,・、であ り,漁業が行われることによって,サメ類の平均 は低下することがわかった.  一般に,(9)で見られるような漁業の操業率に関 係する定数ε,ηは,この状態よりも一層盛んな操 業が行われれば,εはこれよりも大きいεrで置き 変わり(ε’〉ε),ηはこれよりも大きい〆で置き 変わるから(η■〉η),そのときの解X(t),y(t)の 平均は明らかにつぎのようになる: ・一上

Pく上許〕・y−P吉εノ〔>Pまε〕.

すなわち,操業率を高める程(ただし,0〈η<r) サメ類の平均的な量は減少し,餌魚類の平均的な 量は増加することがわかる.  こうして,VolterraはD/Anconaの提出した問 題をみごとに解決したわけである.このVolterra の理論は殺虫剤が生態系に及ぼす影響などでも実 証され,1つの立派な古典的な理論として確立さ れている.もちろん,2種の生物の生存競争を記 述する微分方程式はVolterraが考えたもの以外 にも,同種のもの同士の競争を考慮に入れた方程 式など,さまざまなものが考察されている. Volterraのモデルの解は周期関数であったが,そ うではない解一一例えば,平衡点に収束する解を もつような生態系のモデルも微分方程式によって 作られ,さまざまな生態系について数学的に多く の研究がなされている.  最後になりましたが,私は昭和50年から専任教 員として数学の授業を担当させていただきました が,それ以前の非常勤講師としての期間を含めま すと足かけ27年間,長い歴史と伝統に輝く東京女 子医科大学で働かせていただいたことになりま す.その間,学生諸君の誰もがいつも大変熱心に 数学を学んでくれたことは,私にとって絶えるこ とのない非常に大きな励みとなり,また大きな喜 びでもありました.また,室内楽団で学生の皆さ んと一緒に,あるいは練習にあるいは定期演奏会 に出させていただいたことも,まことに楽しい忘 れられない思い出となりました.長い間,故名誉 理事長吉岡博人先生,理事長吉岡博光先生,学長 吉岡守正先生をはじめ,看護短大まで含めまして,

(8)

本当に多くの先生がたからつねに温かいご理解と ご指導をいただき,また職員の皆さまにも何かと 大変にお世話になりましたことを深く感謝申し上 げます.これからの東京女子医科大学のますます のご発展とご繁栄と,すべての教職員の皆さまの ご健康とご多幸を心からお祈りして,私の最終講 義を終わらせていただきます.まことに有難うご ざいました.        (1994.3.5,弥生記念講堂)

        文  献

 Braun M:Differential Equations and their Applica− tions. pp.583∼593, Springer (1975)

参照

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