2018 年度「数学学力調査」の結果と入学試験における受験科目及び
大学での学力との関係
村瀬 信之
要旨:2018 年度にある 4 年制大学の 1 年生約 100 名に中学・高校で履修する数学の学力調 査を行った。今回の調査による次の 2 点についての結果を報告する。 (1) 学力調査によって測られた数学の学力,特に中学・高校で履修する内容の定義・定理 とその理解,論理と証明に関する学力と入学試験において数学を受験したか,しなかった かとの間に関連が認められる。 (2) 学力調査によって測られた数学の学力,及び,入学試験において数学を受験したか,し なかったかと,大学での数学のある授業における成績との間には関連は認められるとは言 えない。 キーワード:数学,学力調査,独立性の検定1. はじめに
戸瀬信之は複数の大学の新入生に数学の学力調査を行い,入試において数学を受験した グループと数学を受験しなかったグループの数学の学力差を明らかにし,入試科目の減少 による大学生の数学の学力低下を明らかにした[1]。村瀬は,戸瀬が[1]で学力調査に 用いた問題を用いて,2001 年から 2004 年にある 4 年制大学の新入生に数学の学力調査を 行い,その概要と問題毎の正答率を報告し,入試グループによる学力差を明らかにした [2]。2000-2004 年の調査では,入学時の学力調査で測られた学力と入学後に履修する 数学の学力との関係の調査は行われなかった。2005,2006 年村瀬・岡本は,2001 年から 2004 年までと同様の学力調査を行い,入学時の学力調査で測られた学力と入学後に履修す る数学の学力の関係を調査し,入学時の学力調査で測られた学力,特に,中学校または高 校の問題を解く学力と入学後に履修する数学の学力に関連があることを示した[3][4]。 2007,2009 年村瀬・岡本は,中学・高校の内容に関する学力調査を行い,入学時の学力調 査で測られた中学・高校の内容に関する学力と入学後に履修する数学の学力の関係を調査 し,中学・高校で履修する内容の定義・定理の理解とそれらに基づく代数計算に関する基 本的な問題を解く学力と受験グループ,入学後に履修する数学の学力に関連があることを示した[5][6]。今回 2018 年は,2007,2009 年と同じ学力調査問題を用いた中学・高校で履 修する数学の問題を解く学力調査と入試における受験科目の調査を行った。
2.目的と方法
本論文の目的は,2018 年に行った調査結果により,中学・高校で履修する基礎的な内容 の数学の学力,入学後に履修する数学の学力及び入試における受験科目について,以下の (1)(2)について報告することである。 (1) 今回の学力調査における各問題の得点により,入学後における中学・高校で履修する基 礎的な内容の数学の学力と受験科目との関連を報告する。 (2) 今回の学力調査で測られた入学後における中学・高校で履修する基礎的な内容の数学の 学力及び受験科目とある数学の授業科目における学力との関連を報告する。3.調査結果と考察
(1) 学力調査の成績分布及び受験科目と学力調査の得点との関係 2018 年度後期にある 4 年制大学の 1 年生 104 人に,問題[図 1]を用いて数学の学力調 査を行った。解答時間は約 40 分とした。104 人のうち 51 人は入学試験において当該学部 合格のための数学を受験しなかった学生(以下,A グループという)であり,53 人は数学 を受験した学生(以下,B グループという)である。 学力調査問題[図 1]は,中学校及び高校の数学Ⅰ,数学Ⅱ,数学 A で扱われる各分野 からの15 題からなり,各問題とも正答のみ 1 点とし 15 点満点となっている。最初の 7 題 が計算問題,問題□
8 ~□11が定義・定理とその理解に関する問題, 問題□
12~□15が論理と簡単 な証明問題である。2018 年の調査の総得点の度数分布は次の通りである[図 2]。 入学試験の受験グループごとの度数分布は次のとおりである[図 3]。 0 2 4 6 8 10 12 14 16 18 0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 度数(人 ) 学力調査の得点(点) 図2 学力調査2018 の度数分布グラフ(1) 0 2 4 6 8 10 12 14 0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 度数(人 ) 学力調査の得点(点) 図3 学力調査2018 の度数分布グラフ(2)
表 1 正答率(%) 問題 正答率(%) 全体 A B
□
1 79.8 64.7 94.3□
2 69.2 56.9 81.1□
3 68.3 60.8 75.7□
4 32.7 23.5 41.5□
5 85.6 78.4 92.5□
6 39.4 21.6 56.6□
7 37.5 19.6 54.7□
8 1.0 0.0 1.9□
9 2.9 0.0 5.7□
10 16.3 5.9 26.4□
11 15.4 5.9 24.5□
12 51.0 39.2 62.3□
13 32.7 15.7 49.1□
14 28.8 7.8 49.1□
15 19.2 13.7 24.5□
1-
□
7 58.9 46.5 70.9□
8-
□
11 8.9 2.9 14.6□
12-
□
15 32.9 19.1 46.2□
1-
□
15 38.7 27.6 49.3 概ね計算問題□
1 ~□7 の正答率より,定義・定理とその理解に関する問題□
8 ~□11と論理 と証明問題□
12~□15の正答率が低いことは,2007,2009 年の調査と同様である。さらに, 問題□
1 ~□7 の A グループの正答率が B グループの約 65/100 であるのに対し,□8 ~□11と□
12 ~□15の A グループの正答率が B グループの約 45/100 以下であることを読み取ることができ る。 次に,大学において数学の授業についてこられない学生の入学後の学力調査で測られた 数学の学力と受験グループとの関係を調べるために,受験グループ A,B の各グループの学 生を,学力調査において 15 題中正答数が 5 以下のグループと正答数が 6 以上のグループに 分けて度数分布表を作り,独立性の検定を行った結果が次の表 2 である。表 2 受験グループと学力調査問題の正答数 受験グループ 学力調査問題(15 題) A B 0-5 題正答 36 8 6-15 題正答 15 45 検定統計量
χ
2値 32.79 棄却値χ
12(0.05) 3.84 これによると,χ
2値>棄却値,となっているので独立性は否定され,受験グループと学 力調査における正答数が5 以下であることとに強い関連が認められると言える。 (2) 受験グループ及び学力調査で測られた数学の学力と入学後の授業における数学の学 力との関連 2018 年度 1 年生後期のある 8 回の数学の授業(以下,数学 C という)の受講者 104 人 に対して,受験グループと数学 C の成績との関連及び学力調査結果と数学 C の成績との関 連を調べる。数学 C の内容は, 1.古代ギリシャで発見された数学の方法 2.ギリシャの作図問題 である。成績評価は 100 点満点で,平均点は 59.8,標準偏差は 26.3 であった。その度数 分布を次のグラフに示す[図4]。 0 5 10 15 20 25 度数(人 ) 成績(点) 図4 数学Cの成績の度数分布グラフ(ⅰ) 受験グループと数学 C の成績との関連 入学試験の受験グループごとの度数分布は次のとおりである[図5]。 大学において数学の授業についてこられない学生と受験グループとの関連を調べるため に,受験グループA,B の各グループの学生を,数学 C の成績の下位約 25%である 40 点 以下のグループと41 点以上のグループに分けて度数分布表を作り,独立性の検定を行った 結果が次の表3 である。 表 3 受験グループと数学 C の成績 受験グループ 数学Cの成績 A B 0-40 11 12 41-100 40 41 検定統計量
χ
2値 0.01 棄却値χ
12(0.05) 3.84 これによると,χ
2値<棄却値,となっているので独立性は否定されず,受験グループ と数学 C の成績が 40 点以下であることとに関連は認められるとは言えない。これを,受 験グループと学力調査問題の正答数[表 2]と比較すると,数学 C の成績と受験グループ との関連は認められない。 0 2 4 6 8 10 12 14 度数(人 ) 成績(点) 図5 受験グループ毎の成績の度数分布グラフ Aグループ Bグループ(ⅱ) 学力調査の得点と数学 C の成績との関連 学力調査の得点と数学C の成績の相関係数は 0.20 であり,相関は認められない。学力調 査の得点と数学C の成績の散布図を図 6 に示す。 また,学力調査において15 題中正答数が 5 以下のグループと正答数が 6 以上のグループ に分け,さらに各グループの学生を数学 C の成績が40 点以下のグループと 41 点以上のグ ループに分けて度数分布表を作り,独立性の検定を行った結果が次の表4 である。 表 4 学力調査問題の正答数と数学 C の成績 学力調査問題(15 題) 数学 C の成績 0-5 題正答 6-15 題正答 0-40 12 11 41-100 32 49 検定統計量
χ
2値 1.18 棄却値χ
12(0.05) 3.84 これによると,χ
2値<棄却値,となっているので独立性は否定されず,学力調査にお ける正答数が5 以下であることと数学 C の成績が 40 点以下であることとに関連が認められ るとは言えない。 さらに,学力調査における正答数が5 以下のグループと正答数が 6 以上のグループのそれ 0 20 40 60 80 100 0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 数学 C の成績 学力調査の得点 図6 学力調査の得点と数学Cの成績の散布図表 5 数学 C の成績が 40 点以下である人数 受験グループ 学力調査問題(15 題) A B 0-5 題正答 10(36) 2(8) 6-15 題正答 1(15) 10(45) ( )内はグループに属する学生の総数 これらの人数の各グループに属する学生の総数中の割合を表6 に示す。 表 6 数学 C の成績が 40 点以下である人数の割合 受験グループ 学力調査問題(15 題) A B 0-5 題正答 28.0% 25.0% 6-15 題正答 6.7% 22.2% これより,受験グループがA であって,学力試験の正答数が 6 以上である学生は,数学 C の成績が比較的40 点以下とならない弱い傾向が認められる。
4.結論と今後の課題
今回の調査をとおして,以下のような傾向を読み取ることが出来る。 (1) 2009 年までの調査結果と同様,入学試験において数学を受験しなかった学生は,数学 を受験した学生に比べ,学力調査で測られた中学・高校で学ぶ基礎的な内容の数学の学力 が低く,特に,数学を受験した学生に比べ,定義・定理とその理解,論理と証明に関する 学力が低い。 (2) 2009 年の調査結果と異なり,学力調査によって測られた中学・高校で学ぶ基礎的な内 容の数学の学力と数学 C の成績および入試グループと数学 C の成績に関連は認められない。 また,さらに大学において数学の授業についてこられるか,授業についてこられないか と学力調査によって測られた中学・高校で学ぶ基礎的な内容の数学の学力との関連,及び, 大学において数学の授業についてこられるか,授業についてこられないと入学試験におい て数学を受験したか,しなかったかとの関連は両者とも認められるとは言えない。 これらの要因については,今回調査に用いた数学 C の内容が,用いられる数学の知識が 初等的であり,数学の歴史的,文化的側面の内容が多く含まれたことの影響があるのでは ないかと推察され,今後授業内容との関連の調査が必要であると考えられる。 今後,入学試験における受験科目及び入学後の中学・高校で学ぶ基礎的な内容の数学の 学力及び入学後に履修する数学の学力の三者間相互の関係を明確にするためにはさらに調 査を重ねる必要があると考えられる。参考文献 [1]戸瀬信之,西村和雄「低落する大学生の数学学力」科学,岩波書店,Vol.70 No.3, 2000,P.216-223 [2]中川邦明,石川正勝,海野くに子,小田切真,村瀬信之,出口憲,鈴木薫「大学教 育の視点から見た初等・中等・科学教育-教科書を手がかりとして-」常葉学園大学紀要 教育学部,No.25,2004,P.375-420 [3]村瀬信之,岡本光司「「数学学力調査」の結果と大学での学力との関係-2005 年新入 生に関する考察-」常葉学園大学紀要教育学部,No.26,2005,P.133-144 [4]村瀬信之,岡本光司「「数学学力調査」の結果と大学での学力との関係(Ⅱ)-2006 年新入生に関する考察-」常葉学園大学紀要教育学部,No.27,2006,P.197 - 212 [5]村瀬信之,岡本光司「「数学学力調査」の結果と大学での学力との関係(Ⅲ)-2007 年新入生に関する考察-」常葉学園大学紀要教育学部,No.28,2007,P.293 – 301 [6]村瀬信之「2009 年度「数学学力調査」の結果と入学試験における受験科目及び大学 での学力との関係」常葉学園大学紀要教育学部,No.30,2010,P.313 – 322