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脳神経系細胞における新規酸化ストレス応答メカニズムの解明 利用統計を見る

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脳神経系細胞における新規酸化ストレス応答メカニ

ズムの解明

著者

佐藤 和典

学位授与大学

東洋大学

取得学位

博士

学位の分野

生命科学

報告番号

32663甲第395号

学位授与年月日

2016-03-25

URL

http://id.nii.ac.jp/1060/00008448/

Creative Commons : 表示 - 非営利 - 改変禁止 http://creativecommons.org/licenses/by-nc-nd/3.0/deed.ja

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2015 年 度

東 洋 大 学 審 査 学 位 論 文

脳 神 経 系 細 胞 に お け る

新 規 酸 化 ス ト レ ス 応 答 メ カ ニ ズ ム の 解 明

生 命 科 学 研 究 科 生 命 科 学 専 攻 博 士 後 期 課 程

4910120001

佐 藤 和 典

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目 次

序 章 1 第 一 章 酸 化 ス ト レ ス の 強 度 に 依 存 し た 細 胞 応 答 機 構 の 解 明 13 緒 言 材 料 と 方 法 結 果 考 察 第 二 章 強 酸 化 ス ト レ ス 依 存 的 な 細 胞 保 護 効 果 の 解 明 46 緒 言 材 料 と 方 法 結 果 考 察 第 三 章 神 経 幹 /前 駆 細 胞 に お け る プ ロ グ ラ ニ ュ リ ン 依 存 的 な 細 胞 保 護 効 果 の 理 解 と 制 御 66 緒 言 材 料 と 方 法 結 果 考 察 総 合 討 論 104 参 考 文 献 115 研 究 成 果 140 謝 辞 143

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序 章

ス ト レ ス と 健 康

現 代 社 会 は ス ト レ ス 社 会 と も 呼 ば れ る 。 厚 生 労 働 省 が 5 年 お き に 実 施 し て い る 労 働 者 健 康 状 況 調 査 に よ る と 、 現 在 の 仕 事 や 職 業 生 活 に 関 し て ス ト レ ス を 感 じ て い る 労 働 者 の 割 合 は 、 近 年 で は 6 割 に の ぼ る 事 が 報 告 さ れ て お り 、 ま た こ の 数 値 は 緩 や か で は あ る が 年 々 増 加 傾 向 に あ る (厚 生 労 働 省 ・ 労 働 者 健 康 状 況 調 査 (平 成 9 年 -平 成 24 年 )よ り )。 ス ト レ ス は 、 Sel ye に よ っ て 「 外 部 環 境 か ら の 刺 激 に よ っ て 生 体 内 で 歪 み が 生 じ る こ と に 対 す る 非 特 異 的 応 答 」 と 定 義 さ れ て お り (S el ye, 1 9 5 5 ) 、こ の ス ト レ ス の 原 因 は ス ト レ ッ サ ー と 呼 ば れ て い る 。ス ト レ ッ サ ー の 範 囲 は 広 く 、 物 理 的 ・ 化 学 的 ・ 生 物 学 的 ・ 心 理 的 ス ト レ ッ サ ー が こ れ ま で に 知 ら れ て い る 。 ス ト レ ス は 生 物 個 体 の み な ら ず 生 体 を 構 成 す る 細 胞 レ ベ ル に お い て も 存 在 し 、 細 胞 レ ベ ル に お け る 過 剰 な ス ト レ ス は 恒 常 性 を 破 壊 す る こ と で 様 々 な 疾 患 の 原 因 と な る 。 こ の よ う な 細 胞 レ ベ ル の ス ト レ ス の 中 で 、 特 に タ ン パ ク 質 、 脂 質 や 核 酸 の 酸 化 の 蓄 積 に よ っ て 生 じ る 「 酸 化 ス ト レ ス 」 は 、 狭 心 症 や 心 筋 梗 塞 、 脳 梗 塞 、 ア ル ツ ハ イ マ ー 症 、 パ ー キ ン ソ ン 病 、 糖 尿 病 や 癌 な ど 、 様 々 な 疾 患 の 原 因 と な る こ と が 指 摘 さ れ て き て お り 、 大 き な 注 目 を 集 め て い る (Utt ara et al ., 2009, Brieger et a l . , 2 0 1 2 ) 。 こ の 酸 化 ス ト レ ス は 、 細 胞 内 外 に お け る 活 性 酸 素 種 が ス ト レ ッ サ ー と な る 。

活 性 酸 素 種 と は

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2 種 の 総 称 で 、 ス ー パ ー オ キ シ ド ア ニ オ ン ラ ジ カ ル ( S u p e r o x i d e A n i o n R a d i c a l : O2 • -) 、 ヒ ド ロ キ シ ル ラ ジ カ ル ( H y d r o x y l r a d i c a l : H O•) 、 過 酸 化 水 素 ( H y d r o g e n p e r o x i d e : H2O2) 、 一 重 項 酸 素 ( S i n g l e t o x y g e n : 1O2) 、 一 酸 化 窒 素 ( N i t r i c o x i d e : N O•) 、 ア ル コ キ シ ル ラ ジ カ ル ( A l k o x yl r a d i c a l : L O•) な ど が 含 ま れ る ( A p r i o k u J S . , 2 0 1 3 ) 。 生 体 内 に お け る ROS は 、主 に ミ ト コ ン ド リ ア か ら 生 成 さ れ る 。細 胞 内 に 取 り 込 ま れ た 酸 素 は 、 ミ ト コ ン ド リ ア で 消 費 さ れ る 際 に 、 一 部 が R O S と し て 放 出 さ れ る ( M u r p h y. , 2 0 0 9 ) 。ま た 、電 子 伝 達 系 に お け る 複 合 体Ⅰ (NADH dehydrogenase) 及 び 複 合 体 Ⅲで の 反 応 時 に ROS が 生 成 さ れ る 事 も 明 ら か と な っ て い る (Hansford et al., 199 7, M urph y., 20 09) 。 一 方 、こ の 反 応 は 積 極 的 な ROS 生 成 で は な く 、あ く ま で 電 子 伝 達 系 か ら の ROS の 漏 出 で あ り 、 そ の 産 生 率 は 非 常 に 低 い 。 脳 、 心 臓 、 腎 臓 、 骨 格 筋 で は 、利 用 さ れ た 酸 素 の 0 .1-0 .2% が ROS と な り 、ROS 産 生 率 の 高 い 部 位 と し て 知 ら れ る 肝 臓 に お い て も 、産 生 率 は 0.5 %程 度 で あ る こ と が 報 告 さ れ て い る (Tah ara et al. , 2 009) 。

ミ ト コ ン ド リ ア 以 外 か ら も R OS は 生 成 さ れ る 。 こ の よ う な ROS の 積 極 的 な 生 成 機 構 に は 、 NADPH ox i das e (NOX) が 深 く 関 与 し て い る 。 N O X は R A S - r e l a t e d C 3 b o t u l i n u s t o x i n s u b s t r a t e 1 ( R a c 1 ) ま た は R a c 2 と gp 9 1 - p h a go c yt i c o x i d a s e ( P H O X ) 、 p 2 2p h o x、 p 40p h o x、 p 47p h o x、 p67p h o xの 6 つ の サ ブ ユ ニ ッ ト よ り 構 成 さ れ 、 活 性 化 す る と 反 応 式 N A D P H + 2 O2

↔ NADP+

+ 2 O2• - + H+に よ り 、 R OS を 生 成 す る 。 こ れ ま で に NOX1 -5

お よ び Du al ox idas e (Duox ) の 6 種 類 が NOX フ ァ ミ リ ー と し て 同 定 さ れ て お り 、 そ れ ぞ れ が 多 様 な 発 現 パ タ ー ン を 示 す 。 例 え ば 、 大 腸 で は N O X 1 が 、内 耳 で は N O X 3 が 、神 経 細 胞 で は N O X 1 、 N O X 2 及 び N O X 4

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が 発 現 し て い る ( Laurent et al. , 20 08, Paffenholz et al., 20 04) 。

活 性 酸 素 種 の 生 理 的 意 義

体 内 で 生 成 さ れ る ROS は 、様 々 な 生 理 作 用 を 有 し て い る 事 が 明 ら か と な っ て い る 。 例 え ば 、 炎 症 応 答 に お い て 、 好 中 球 は 貪 食 し た 細 菌 を N O X 由 来 の R O S で 殺 菌 す る た め 、 N O X 関 連 遺 伝 子 の 欠 損 に よ り 好 中 球 で ROS を 生 産 出 来 な い 慢 性 肉 芽 腫 症 患 者 は 感 染 症 に 罹 患 し や す い こ と が 分 か っ て い る (S egal., 1 996, S oler-Pal acín et al ., 2007 ) 。 ま た 、 好 中 球 自 身 が 細 胞 膜 崩 壊 を 伴 う 自 発 的 な 細 胞 死 を 引 き 起 こ し 、 細 胞 内 部 の DNA や ヒ ス ト ン を 放 出 し て 細 菌 を 捉 え る こ と で 、 好 中 球 や マ ク ロ フ ァ ー ジ に 貪 食 さ れ や す く す る と い う 好 中 球 細 胞 外 ト ラ ッ プ ( N e u t r o p h i l e x t r a c e l l u l a r t r a p s : N E Ts ) と 呼 ば れ る 機 構 が 発 見 さ れ た が 、 こ の NETs の 作 用 機 序 に も NOX の 活 性 化 お よ び 一 重 項 酸 素 が 関 与 し て い る こ と が 明 ら か と な っ て い る (Nis hinak a et al., 20 11) 。

さ ら に 、損 傷 部 位 や 炎 症 部 位 に お け る 白 血 球 遊 走 に も ROS が 重 要 な 役 割 を 果 た し て い る こ と が 明 ら か と な っ て い る 。 こ れ ま で に 、 ROS に よ っ て Int erl euki n - 8 ( IL-8 )が 発 現 誘 導 さ れ 、 炎 症 組 織 へ の 白 血 球 遊 走 を 促 進 す る と 同 時 に 、 In tercellul ar ad hesio n m ol ecul e 1 ( ICAM -1 )の 発 現 誘 導 に よ っ て 白 血 球 の 組 織 へ の 接 着 性 を 高 め る こ と が 報 告 さ れ て お り 、 ゼ ブ ラ フ ィ ッ シ ュ の 尾 部 損 傷 治 癒 モ デ ル に お い て 、 損 傷 部 位 に NOX 依 存 的 な ROS 発 生 を 介 し た 好 中 球 遊 走 が 観 察 さ れ て い る (Ro ebu ck., 1 9 9 9 , N i e t h a m m e r e t a l . , 2 0 0 9 ) 。

こ の よ う に 、生 体 内 で 生 成 さ れ る ROS は 、炎 症 を 起 点 と す る 生 体 防 御 機 構 に 非 常 に 重 要 な 役 割 を 占 め て い る 。

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活 性 酸 素 種 の 除 去

細 胞 内 で R OS が 過 剰 と な っ た 場 合 、 細 胞 は R OS 除 去 機 構 を 稼 働 さ せ る こ と で R OS 濃 度 を 一 定 に 保 つ 。 こ の よ う な ROS の 除 去 は 、 抗 酸 化 酵 素 に よ っ て 触 媒 さ れ る 。 ま ず 、 代 表 的 な 抗 酸 化 酵 素 と し て ス ー パ ー オ キ シ ド ジ ス ム タ ー ゼ ( S u p e r o x i d e d i s m u t a s e : S O D ) が 挙 げ ら れ る 。S O D は ス ー パ ー オ キ シ ド ア ニ オ ン ラ ジ カ ル を 過 酸 化 水 素 と 酸 素 へ と 変 換 す る 酸 化 還 元 酵 素 で 、 哺 乳 類 は 3 種 類 S OD を 所 持 し て お り 、 SOD1 は 細 胞 質 に 、 SOD2 は ミ ト コ ン ド リ ア 内 に 、 SOD3 は 細 胞 外 に 存 在 す る 。 ま た 、 SOD1 及 び SOD3 は 銅 と 亜 鉛 を 含 み 、 SOD3 は マ ン ガ ン を 活 性 中 心 の 補 因 子 と し て 含 む ( Ze l k o e t a l . , 2 0 0 2 ) 。 ま た 、 カ タ ラ ー ゼ (C atalas e: CAT) は 、 過 酸 化 水 素 を 酸 素 と 水 へ 変 換 す る 酵 素 で あ り 、 鉄 と マ ン ガ ン を 補 因 子 と し て 作 用 す る 。 カ タ ラ ー ゼ 遺 伝 子 の 欠 失 は 無 カ タ ラ ー ゼ 症 と 呼 ば れ 生 体 内 外 で 発 生 す る 過 酸 化 水 素 の 代 謝 が 出 来 ず に 潰 瘍 性 壊 疽 を 生 じ る (Ogat a., 1991 ) 。

グ ル タ チ オ ン ペ ル オ キ シ ダ ー ゼ (Glutat hion e Perox id ase: GPx ) は 、グ ル タ チ オ ン (Glut at hione, Glut athion e -SH: GS H)と グ ル タ チ オ ン ジ ス ル フ ィ ド (Gl utathi on e disul fid e: GSS H) と の 変 換 を 触 媒 す る こ と に よ っ て 過 酸 化 物 の 還 元 と 消 去 を 行 う 酵 素 で あ る (Mi yam oto et al ., 2 003 ) 。ヒ ト で は 8 種 類 の ア イ ソ ザ イ ム が 確 認 さ れ て お り 、Glut at hione perox idas e 1 ( G P x 1 ) が 最 も 豊 富 に 存 在 し 、 ほ ぼ 全 て の 哺 乳 類 細 胞 に お け る 細 胞 質 に 発 現 し て お り 、 H2O2 を 基 質 と す る 。 Glut athio ne perox idas e 4 (GPx 4)

は 特 に 細 胞 膜 に お け る リ ン 脂 質 の 過 酸 化 を 還 元 す る 機 能 が 知 ら れ て い る (Sn edd on et al., 2003 ) 。

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と 変 換 す る 酵 素 で あ る (M aines., 198 8) 。 HO 自 体 は 抗 酸 化 能 力 を 持 つ わ け で は な い が ヘ ム の 分 解 に と も な い 生 成 さ れ る ビ ル ベ リ ジ ン 、 ま た ビ ル ベ リ ジ ン が 還 元 さ れ て 生 じ る ビ リ ル ビ ン に は 強 い 抗 酸 化 能 を 保 持 し て い る こ と が 明 ら か と な っ て い る (J ans en and Dai ber., 201 2) 。 H O に は 現 在 HO -1、HO -2、HO -3 の 3 種 類 の ア イ ソ フ ォ ー ム が 確 認 さ れ て い る 。

活 性 酸 素 種 に よ る 酸 化 ス ト レ ス

一 方 、ROS の 蓄 積 に よ る 細 胞 障 害 と 、抗 酸 化 酵 素 に よ る ROS 除 去 お よ び ROS 依 存 的 な 細 胞 傷 害 回 復 機 構 の 均 衡 が 崩 れ 、細 胞 障 害 が 発 生 す る 状 態 を 酸 化 ス ト レ ス と 呼 ぶ (Fin kel and Holb roo k., 2 0 00) 。 生 体 内 に お け る 酸 化 ス ト レ ス は 、 脂 質 の 過 酸 化 、 タ ン パ ク 質 の 変 性 に 伴 う 酵 素 機 能 障 害 、DNA の 損 傷 や 誤 複 製 を 誘 発 し 、生 体 に 対 し 様 々 な 障 害 を 発 生 さ せ る (Kr ysto n et al., 2011) 。

DNA 損 傷 の 例 と し て 、 8 -h yd rox y-2’-deox ygu an osin e (8 -OHd G)の 生 成 が 挙 げ ら れ る 。 Deox ygu anos ine (d G) は DNA の ATC G4 種 類 の 塩 基 の 中 で 最 も 酸 化 還 元 電 位 が 低 い こ と か ら 、 ROS に よ る 酸 化 を 受 け や す い 。 そ の た め 、 酸 化 ス ト レ ス に よ っ て d G よ り 8 -OHd G が 生 成 さ れ や す く な る が 、 こ の 8 -OHdG は G→ T 変 異 を 誘 発 す る こ と が 知 ら れ て お り 、 こ の 変 異 に よ っ て 発 が ん リ ス ク が 上 昇 す る こ と が 指 摘 さ れ て い る ( Wu e t a l . , 2 0 0 4 ) 。

ま た 、脂 質 の 過 酸 化 の 例 と し て 、低 比 重 リ ポ タ ン パ ク 質 (Lo w-den sit y l i p o p r o t e i n : LD L) の 酸 化 に よ る ア テ ロ ー ム 性 動 脈 硬 化 症 の リ ス ク 上 昇 が 挙 げ ら れ る 。 LDL は リ ポ タ ン パ ク 質 の 中 で も 特 に 低 比 重 で あ り 、 多 く の コ レ ス テ ロ ー ル を 含 ん で い る 。過 剰 に 酸 化 さ れ た LD L が 血 漿 か ら

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6 血 管 壁 の 内 皮 下 (内 膜 )に 取 り 込 ま れ る と 、マ ク ロ フ ァ ー ジ な ど が こ の 酸 化 LD L を 取 り 込 ん で 泡 沫 細 胞 と な っ て 蓄 積 さ れ る (Barter et al. , 2 0 0 4 ) 。 ま た 、 こ の 際 に 酸 化 LD L は M o n o c yt e c h e m o t a c t i c p r o t e i n - 1 ( M C P - 1 ) の 発 現 を 上 昇 さ せ る こ と に よ り 、 血 管 内 皮 に 接 着 し た 単 球 の 内 膜 へ の 侵 入 を 促 進 す る こ と で 炎 症 反 応 を 亢 進 す る (Hwan g et al., 2 0 1 3 ) 。こ の 一 連 の 反 応 が ア テ ロ ー ム 性 動 脈 硬 化 症 の 要 因 と す る 生 体 内 酸 化 LD L 仮 説 が 示 さ れ て い る 。 こ の よ う に 酸 化 ス ト レ ス は 、 生 体 分 子 の 変 性 と 機 能 不 全 を 引 き 起 こ し 、 最 終 的 に 様 々 な 疾 病 の 原 因 と な る こ と が 明 ら か と な っ て い る 。

脳 神 経 系 に お け る 酸 化 ス ト レ ス

脳 神 経 系 は 生 体 組 織 の 中 で も 酸 素 消 費 量 が 特 に 多 く 、ROS の 発 生 量 も 高 い こ と か ら (Uttara et al., 2009 ) 、 酸 化 ス ト レ ス に 関 す る 多 く の 知 見 が 集 積 さ れ て い る 。 特 に 酸 化 ス ト レ ス に よ る 神 経 細 胞 死 や 神 経 変 性 に つ い て は 多 く の 研 究 が な さ れ て き た 。 酸 化 ス ト レ ス が 神 経 細 胞 死 や 神 経 変 性 を 誘 導 す る メ カ ニ ズ ム と し て は 、 B-cell l ymp ho ma 2 (Bcl -2 )フ ァ ミ リ ー タ ン パ ク 質 の 機 能 障 害 と そ れ に 引 き 続 い て お こ る Caspas e の 断 片 化 が 知 ら れ て い る (Tsujim oto., 1 9 9 8 ) 。 B c l - 2 フ ァ ミ リ ー タ ン パ ク 質 は 、 ミ ト コ ン ド リ ア 内 及 び 細 胞 質 内 に 局 在 し 、 ミ ト コ ン ド リ ア の 膜 透 過 性 を 調 節 す る こ と に よ っ て 細 胞 の ア ポ ト ー シ ス を コ ン ト ロ ー ル し て い る 。 Bcl -2 フ ァ ミ リ ー は ア ポ ト ー シ ス を 誘 導 す る グ ル ー プ (Bax 、Bak、Bo k 等 )と 抗 ア ポ ト ー シ ス 作 用 を 持 つ グ ル ー プ (Bcl -2 、 Bcl-X L 、 Mcl-1 、 Bcl -w 等 ) に 分 類 さ れ る ( Le i b o w i t z a n d Yu . , 2 0 1 0 ) 。 細 胞 が 酸 化 ス ト レ ス に 曝 露 さ れ る と 細 胞 質 に 存 在 す る Bax 等 が 活 性 化 、 ミ ト コ ン ド リ ア 内 へ と 移 動 し 、 ミ ト コ ン

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ド リ ア 外 膜 に お け る 透 過 性 を 増 強 さ せ る 事 で 、 内 外 膜 間 に 存 在 す る ア ポ ト ー シ ス 誘 導 タ ン パ ク 質 で あ る C ytoch rom e c (C yt c) な ど を ミ ト コ ン ド リ ア 外 へ と 流 出 さ せ る (Fin ucan e et al. , 1 999 ) 。 細 胞 質 内 へ 流 出 し た C yt c は C a s p a s e - 9 を 活 性 化 、こ れ が C a s p a s e - 3 や C a s p a s e - 7 と い っ た 多 く の C asp as e フ ァ ミ リ ー を 活 性 化 さ せ て い き 、 最 終 的 に ア ポ ト ー シ ス が 誘 導 さ れ る (Brentnall et al., 201 3) 。 Bcl -2 は こ の 一 連 の 反 応 に お い て 、 C yt c の 細 胞 質 へ の 流 出 を 阻 害 す る 働 き が 知 ら れ て い る が 、 こ の B c l - 2 の 発 現 自 体 が 酸 化 ス ト レ ス に よ っ て 抑 制 さ れ る こ と も 報 告 さ れ て い る (Pu gazh ent hi et al., 2003 ) 。こ の よ う に 神 経 細 胞 が 酸 化 ス ト レ ス に 曝 露 さ れ た 結 果 、 神 経 細 胞 死 お よ び 神 経 細 胞 の 変 性 を 引 き 起 こ す た め 、 酸 化 ス ト レ ス に よ る ダ メ ー ジ の 蓄 積 は 神 経 変 性 疾 患 を 引 き 起 こ す 原 因 に な る と 考 え ら れ て い る 。

ま た 、 酸 化 ス ト レ ス は 、 神 経 変 性 の 原 因 の ひ と つ で あ る 異 常 タ ン パ ク 質 の 蓄 積 に も 関 与 し て い る こ と が 明 ら か と な っ て い る 。 例 え ば 、 マ ウ ス 脳 組 織 内 の 細 胞 に 蓄 積 し た Am yloid β (Aβ)が Am yloid β pepti de a l c o h o l d e h yd r o ge n a s e ( A B A D ) と 結 合 し て ミ ト コ ン ド リ ア 障 害 を 引 き 起 こ す こ と で 、 R OS の 発 生 を 促 す こ と が 報 告 さ れ て お り (Yan et al. , 2 0 0 5 ) 、 こ れ が A D 進 行 機 構 の ひ と つ で あ る 可 能 性 も 考 え ら れ る 。 さ ら に 、 Co hen ら は 酸 化 ス ト レ ス が TAR DNA-bindin g prot ein 43 k Da ( T D P - 4 3 ) の ア セ チ ル 化 を 正 に 制 御 す る こ と を 報 告 し て お り ( C o h e n e t a t . , 2 0 1 5 ) 、こ れ が T D P - 4 3 の リ ン 酸 化 お よ び 不 溶 化 を 促 進 す る こ と で 、 前 頭 側 頭 葉 変 性 症 (Fro ntot empo ral lo bar d egen eration: FT LD) や 筋 萎 縮 性 側 索 硬 化 症 (Am yo t ro phic l ateral s cl ero si s: ALS )の 発 症 要 因 と な る こ と を 考 察 し て い る 。ま た 、抗 酸 化 酵 素 SOD1 変 異 マ ウ ス は ALS 様 の 病 理 所 見 を 示 し 、 脊 髄 中 の ア ス ト ロ サ イ ト と ミ ク ロ グ リ ア 内 の リ ン 酸 化

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8 T D P - 4 3 の 増 加 が 見 ら れ る こ と も 示 さ れ て い る ( C a i e t a l . , 2 0 1 5 ) 。 こ の よ う に 、 脳 神 経 系 に お け る 酸 化 ス ト レ ス は 、 細 胞 死 の み な ら ず 異 常 タ ン パ ク 質 の 蓄 積 に も 深 く 関 与 し て い る こ と が 強 く 示 唆 さ れ て い る 。

弱 酸 化 ス ト レ ス の 有 益 な 効 果

こ れ ま で 見 て き た よ う に 、 酸 化 ス ト レ ス の 増 大 は 組 織 や 細 胞 に と っ て 負 に 働 く 場 合 が 多 い 。 一 方 、 近 年 に な っ て 、 細 胞 死 を 誘 導 し な い レ ベ ル の 低 強 度 の 酸 化 ス ト レ ス (以 後 、弱 酸 化 ス ト レ ス と 呼 ぶ )が 、細 胞 死 を 引 き 起 こ す レ ベ ル の 高 強 度 の 酸 化 ス ト レ ス (以 後 、 強 酸 化 ス ト レ ス と 呼 ぶ ) と は 異 な る 細 胞 応 答 を 示 す 例 が 報 告 さ れ て い る (Fi g. In t r o d u c t i o n - 1 ) 。 例 え ば 、 ラ ッ ト 副 腎 髄 質 由 来 褐 色 細 胞 腫 PC12 細 胞 に お い て 、 弱 酸 化 ス ト レ ス 前 処 理 は 、 細 胞 の ス ト レ ス 耐 性 を 上 昇 さ せ 、 そ の 後 の 強 酸 化 ス ト レ ス に 対 す る 抵 抗 性 を 付 与 す る こ と が 明 ら か と な っ て い る ( Ta n g e t a l . , 2 0 0 5 , O gu r a e t a l . , 2 0 1 4 ) 。 こ の よ う な 弱 ス ト レ ス に よ る 前 処 理 の 効 果 は 、 酸 化 ス ト レ ス に 限 ら ず 、 軽 度 の 虚 血 処 理 や 低 酸 素 処 理 に よ っ て も 発 現 す る こ と が 知 ら れ て い る (Wojtovi ch et al., 201 2 , Bruer e t a l . , 1 9 9 7 ) 。 PC12 細 胞 に お け る 弱 酸 化 ス ト レ ス 前 処 理 の 場 合 、そ の 後 の 強 酸 化 ス ト レ ス が 誘 導 す る 細 胞 内 ROS の 上 昇 や ミ ト コ ン ド リ ア 膜 電 位 の 消 失 、 B c l - 2 の 発 現 低 下 を 抑 制 す る こ と に よ っ て ア ポ ト ー シ ス を 防 止 す る こ と が 明 ら か と な っ て い る (Tan g et al. , 2005 ) 。一 方 、弱 酸 化 ス ト レ ス が 、 細 胞 内 に ど の よ う な 変 化 を 引 き 起 こ す こ と で 強 酸 化 ス ト レ ス に よ る 細 胞 死 誘 導 を 抑 制 す る の か 十 分 に は 分 か っ て い な い 。 ま た 、酸 化 ス ト レ ス が 細 胞 機 能 を 正 に 制 御 す る 例 も 報 告 さ れ て い る 。

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例 え ば 、神 経 幹 細 胞 で は ROS が 細 胞 増 殖 と 神 経 新 生 を 促 進 さ せ る こ と が 示 さ れ て お り ( Le et al. , 2 011 ) 、 さ ら に NOX 抑 制 剤 で あ る Ap oc yn in の 添 加 に よ っ て 神 経 幹 細 胞 の ROS 量 が 低 下 す る と 同 時 に 増 殖 が 抑 制 さ れ る こ と も 報 告 さ れ て い る (Yon e yama et al., 2010 ) 。し か し 、こ れ ら の 酸 化 ス ト レ ス 依 存 的 な 細 胞 機 能 亢 進 の メ カ ニ ズ ム に つ い て も 、 こ れ ま で に そ の 全 容 は 明 ら か に な っ て い な い 。

本 研 究 の 目 的

酸 化 ス ト レ ス は 様 々 な 脳 神 経 系 疾 患 の 原 因 と 考 え ら れ て い る が 、 細 胞 に お け る 酸 化 ス ト レ ス の 効 果 は そ の 強 度 に 依 存 的 で あ り 、 弱 酸 化 ス ト レ ス の 場 合 、 細 胞 に と っ て 有 益 な 効 果 を 示 す こ と も 明 ら か に な っ て き て い る 。 本 研 究 で は 、 神 経 系 細 胞 に お け る 酸 化 ス ト レ ス の 強 度 に 依 存 的 な 効 果 を 総 合 的 に 検 討 す る こ と を 目 的 と し た 。

本 論 文 の 構 成

第 一 章 第 一 章 で は 、 マ ウ ス 海 馬 由 来 神 経 細 胞 株 HT22 細 胞 を 用 い て 、 酸 化 ス ト レ ス の 強 度 に 依 存 し た 細 胞 応 答 メ カ ニ ズ ム の 詳 細 な 解 明 を 行 っ た 。 そ の 結 果 、酸 化 ス ト レ ス に よ る 細 胞 応 答 は ス ト レ ス 強 度 依 存 的 で あ り 、 強 酸 化 ス ト レ ス は 細 胞 死 を 誘 導 す る が 、弱 酸 化 ス ト レ ス は E rk1/ 2 の 活 性 化 を 介 し て 細 胞 生 存 を 亢 進 さ せ る 効 果 を 有 し て い る こ と を 明 ら か に し た 。 ま た 、 HT2 2 細 胞 に 酸 化 ス ト レ ス を 引 き 起 こ す グ ル タ ミ ン 酸 ( G l u t a m a t e ) は 、 H T 2 2 細 胞 内 の 二 相 性 の E r k 1 / 2 活 性 化 ( 短 期 的 、 持 続 的 )を 誘 導 す る が 、こ の 活 性 化 パ タ ー ン は 酸 化 ス ト レ ス の 強 度 に 依 存 し て い る こ と を 見 出 し た 。さ ら に 、Glut amat e 依 存 的 な 細 胞 死 に は E rk1/ 2

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の 持 続 的 な 活 性 化 が 重 要 で あ る こ と 、こ の 持 続 的 な Erk 1/2 の 活 性 化 に は 代 謝 型 グ ル タ ミ ン 酸 レ セ プ タ ー (Met aboli c glu tamat e recepto r: m G l u R ) の 一 種 で あ る m G l u R 5 が 関 与 し て い る こ と を 解 明 し た 。 第 二 章 強 酸 化 ス ト レ ス は 細 胞 死 誘 導 機 構 を 活 性 化 す る こ と が 広 く 知 ら れ て い る が 、細 胞 保 護 誘 導 機 構 の 存 在 に つ い て は 不 明 な 点 が 多 い 。そ こ で 、 本 章 で は 強 酸 化 ス ト レ ス に よ っ て 活 性 化 す る 細 胞 保 護 機 構 の 探 索 を 行 っ た 。 そ の 結 果 、 HT22 細 胞 で は 強 酸 化 ス ト レ ス に よ っ て 細 胞 保 護 効 果 を 持 つ こ と が 報 告 さ れ て い る 成 長 因 子 Pro granuli n (PGRN) の 遺 伝 子 発 現 が 上 昇 す る こ と を 明 ら か に し た 。一 方 、 Brain -d eri ved n eu rot rophi c f a c t o r ( B D N F ) や In s u l i n - l i k e g r o w t h f a c t o r - I ( IG F - I) な ど 他 の 成 長 因 子 の 遺 伝 子 発 現 は 増 加 せ ず 、 強 酸 化 ス ト レ ス に よ る PGRN 遺 伝 子 発 現 上 昇 は 特 異 的 現 象 で あ る こ と が わ か っ た 。 さ ら に HT2 2 細 胞 へ の PGR N 外 部 添 加 に よ り 、E rk 1 /2 依 存 的 な 細 胞 保 護 効 果 が 観 察 さ れ た 。す な わ ち 、 細 胞 死 を 引 き 起 こ す 程 度 の 強 酸 化 ス ト レ ス は 、 P GRN 遺 伝 子 発 現 上 昇 を 介 し 、 オ ー ト ク ラ イ ン あ る い は パ ラ ク ラ イ ン 様 式 で 細 胞 を 保 護 し て い る 可 能 性 が 考 え ら れ た 。 第 三 章 脳 神 経 系 に お け る PGRN の 生 理 作 用 に つ い て は 不 明 な 点 が 多 い 。 こ れ ま で 脳 神 経 系 で は 、 主 に ニ ュ ー ロ ン お よ び ミ ク ロ グ リ ア に お け る P G R N の 機 能 解 明 が 進 め ら れ て き た 。 本 章 で は 、 こ れ ま で に P G R N 依 存 的 な 細 胞 応 答 に つ い て 知 見 の 少 な い 神 経 幹 / 前 駆 細 胞 (Neu ral p r o g e n i t o r c e l l s : N P C s ) に 着 目 し 、 P G R N 依 存 的 に 活 性 化 す る 細 胞 内 機

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構 の 探 索 お よ び そ の 生 理 的 意 義 の 検 討 を 行 っ た 。 こ れ ま で 、 P GRN 欠 失 マ ウ ス 由 来 NPC s (PGRN KO NPCs) は 野 生 型 NPCs (W T NPCs )と 比 較 し て 細 胞 の 脆 弱 性 が 高 い こ と が 知 ら れ て い る (Ned achi et al., 20 11) 。 そ こ で 、 こ れ ら の 2 種 類 の NPCs に つ い て 網 羅 的 遺 伝 子 発 現 解 析 に よ る 比 較 を 行 っ た と こ ろ 、 P GRN 欠 失 に よ っ て 様 々 な 抗 酸 化 酵 素 関 連 遺 伝 子 の 発 現 が 変 動 す る こ と や 細 胞 外 マ ト リ ッ ク ス (Ex tracellul ar m a t r i x : E C M ) で あ る C o l 3 a 1 の 発 現 が 誘 導 さ れ る こ と が 明 ら か と な っ た 。 特 に PGR N 依 存 的 な Col3 a1 遺 伝 子 発 現 制 御 は 、 P GRN が NPCs の 細 胞 外 環 境 (ニ ッ チ )を 制 御 す る 新 し い 可 能 性 を 示 唆 し て い た 。ま た 、PGR N が 欠 失 し た NPCs に お い て Col3 a1 産 生 増 加 は 細 胞 保 護 に 貢 献 し て い る こ と が 明 ら か と な っ た 。 す な わ ち 、 PGRN KO NPCs で は 抗 酸 化 酵 素 関 連 遺 伝 子 の 発 現 変 動 に よ る 酸 化 ス ト レ ス 脆 弱 性 の 増 大 に 対 し て 、 代 償 的 に ECM タ ン パ ク 質 C ol3a1 の 産 生 制 御 に よ っ て 細 胞 保 護 機 構 を 稼 働 さ せ て い る 可 能 性 が 示 さ れ た 。 総 合 討 論 総 合 討 論 で は 、 今 回 得 ら れ た 研 究 結 果 を 元 に 、 脳 神 経 系 に お け る 酸 化 ス ト レ ス 応 答 に つ い て 総 合 的 な 考 察 を 行 い 、 最 後 に 今 後 の 課 題 及 び 展 望 に つ い て 述 べ る 。

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12 Fi g . I n t ro d u c t i o n - 1 酸 化 ス ト レ ス 依 存 的 な 細 胞 死 と 弱 酸 化 ス ト レ ス に よ る 細 胞 保 護 効 果 の 概 略 図 強 酸 化 ス ト レ ス は 細 胞 死 を 誘 導 す る が 、 弱 酸 化 ス ト レ ス に よ る 前 処 理 が 強 酸 化 ス ト レ ス 依 存 的 な 細 胞 死 か ら 神 経 細 胞 を 保 護 す る こ と が 明 ら か と な っ て き て い る 。

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第 一 章

酸 化 ス ト レ ス の 強 度 に 依 存 し た

細 胞 応 答 機 構 の 解 明

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緒 言

序 章 で 述 べ た よ う に 、 慢 性 的 な 酸 化 ス ト レ ス は 神 経 変 性 疾 患 を 誘 発 す る 要 因 と な り 得 る こ と が 報 告 さ れ て お り 、 脳 神 経 系 内 に お い て 発 生 す る 酸 化 ス ト レ ス に つ い て 多 く の 研 究 が な さ れ て き た (And ersen et a l . , 2 0 0 4 , S h u k l a e t a l . , 2 0 11 ) 。酸 化 ス ト レ ス は 神 経 細 胞 に 対 し て 広 範 囲 の 影 響 を 及 ぼ す こ と が 理 解 さ れ つ つ あ る 。 例 え ば 酸 化 ス ト レ ス が 誘 導 す る 神 経 細 胞 死 の 誘 導 機 構 の み を 概 観 し て も 、 C asp ase や c-j un N - t e r m i n a l k i n a s e ( J N K ) の 活 性 化 を 介 し た 所 謂 d e a t h シ グ ナ ル へ の 影 響 や 、 SOD や Bcl -2 、 GS H 等 の 抗 酸 化 タ ン パ ク 発 現 の 低 下 な ど 、 酸 化 ス ト レ ス に よ っ て 直 接 的 あ る い は 間 接 的 に 影 響 を 受 け る 細 胞 生 存 シ グ ナ ル は 多 岐 に 渡 り (Turn er et al. , 19 98, Lee et al., 2001 , Tobab en et al. , 2 0 1 0 , F u k u i a n d Zh u . , 2 0 1 0 ) 、 そ の 全 容 は 未 だ 不 明 な 点 が 多 い 。 さ ら に 近 年 、 弱 酸 化 ス ト レ ス が そ の 後 の 強 酸 化 ス ト レ ス に 対 し て 細 胞 保 護 効 果 を 持 つ な ど と い っ た 新 し い 酸 化 ス ト レ ス 応 答 シ ス テ ム が 発 見 さ れ て き て い る が 、 こ の 弱 酸 化 ス ト レ ス 依 存 的 に 稼 働 す る 細 胞 内 メ カ ニ ズ ム に つ い て も 不 明 な 点 が 多 く 残 さ れ て い る 。 そ こ で 本 章 で は 、 神 経 細 胞 が 異 な る 強 度 の 酸 化 ス ト レ ス に ど の よ う に 応 答 し て い る の か 、 そ の 詳 細 を 検 討 す る こ と を 目 的 と し た 。 本 章 で は 酸 化 ス ト レ ッ サ ー と し て 過 酸 化 水 素 (H yd ro gen pero x ide: H2O2) と グ

ル タ ミ ン 酸 (Glut amate) の 2 種 類 を 用 い た 。

Gl utam ate は 神 経 細 胞 に お い て 生 理 的 な 酸 化 ス ト レ ス を 誘 発 す る 代 表 的 物 質 で あ る 。脳 神 経 系 内 に お い て 、Glut am ate は 神 経 伝 達 物 質 と し て 作 用 し て い る が 、 多 量 に 放 出 さ れ る こ と で 細 胞 毒 性 を 発 揮 す る 。 そ の ひ と つ の メ カ ニ ズ ム と し て 、 C ysti ne / Glut amat e 交 換 輸 送 系 の 停 止

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に よ る GSH 合 成 阻 害 等 に よ る 酸 化 ス ト レ ス 増 大 が 挙 げ ら れ る ( P e n u go n d a e t a l . , 2 0 0 5 ) 。 神 経 細 胞 に お い て G l u t a m a t e は 、 酸 化 ス ト レ ス だ け で な く N-meth yl -D-asp art at e ( NMDA )型 グ ル タ ミ ン 酸 受 容 体 を 介 し た 興 奮 毒 性 も 誘 起 す る が 、 本 研 究 で 用 い た マ ウ ス 海 馬 由 来 神 経 細 胞 株 HT2 2 細 胞 は 、 NMDA 型 グ ル タ ミ ン 酸 受 容 体 を 発 現 し て お ら ず 、 G l u t a m a t e 依 存 的 な 酸 化 ス ト レ ス 研 究 に 適 し た 細 胞 で あ る 。 本 章 で は 、 G l u t a m a t e 以 外 に も 酸 化 ス ト レ ス 応 答 の 解 析 に 汎 用 さ れ る H2O2の 効 果 も 同 時 に 観 察 し た 。 一 般 に ROS は 不 安 定 で 分 解 さ れ や す い が 、 H2O2 は 比 較 的 安 定 性 が 高 く 、 酸 化 ス ト レ ッ サ ー と し て 多 用 さ れ て い る 。 本 章 で は 、 マ ウ ス 海 馬 由 来 神 経 細 胞 株 HT 22 細 胞 に 対 し て 、 こ の 二 つ の 酸 化 ス ト レ ッ サ ー を 種 々 の 濃 度 添 加 す る こ と に よ る 細 胞 応 答 、 特 に 細 胞 生 存 に ど の よ う な 影 響 を 与 え る の か を 精 査 す る こ と と し た 。 特 に 比 較 的 低 強 度 の 酸 化 ス ト レ ス が 細 胞 に 良 好 な 影 響 を 与 え る こ と を 鑑 み 、 酸 化 ス ト レ ッ サ ー の 濃 度 に つ い て は 低 濃 度 か ら 高 濃 度 ま で 幅 広 い レ ン ジ を 確 保 し 、 細 胞 応 答 、 細 胞 内 シ グ ナ ル を 詳 細 に 解 析 す る こ と と し た 。

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材 料 と 方 法

実 験 試 薬

細 胞 培 養 試 薬 は 特 に 記 載 が な い 限 り 、 Nacal ai Tes qu e In c. (K yo to, J a p a n ) よ り 購 入 し た 。 一 般 的 な 試 薬 は 、 N a c a l a i Te s q u e In c . 、 Wa k o P u r e C h e m i c a l In d u s t r i e s Lt d . ( O s a k a , J a p a n ) 、 S i gm a - A l d r i c h ( S t . Lo u i s , M O , U S A ) よ り 購 入 し た 。

H T 2 2 細 胞 の 培 養

マ ウ ス 海 馬 由 来 細 胞 株 HT 22 細 胞 は 、 37 ℃、 5% C O2 条 件 下 、 75 cm²

f l a s k ( C o r n i n g, N Y, U S A ) を 用 い て Passagi ng m edi um (Dulbecco’s m o d i f i e d E a g l e m e d i u m ( D M E M ) , 1 0 % F e t a l B o v i n e S e r u m ( F B S ) ( B i o w e s t In c . , N u a i l l e , F r a n c e ) , 1 % P e n i c i l l i n - S t r e p t o m yc i n M i x e d S o l u t i o n ( P / S ) ) 中 で 培 養 を 行 っ た 。 継 代 は 、 培 養 3 日 後 の fl as k 内 の 8 割 程 度 ま で 細 胞 が 増 殖 し た 時 点 で 行 っ た 。

始 め に 、 培 地 を 吸 引 除 去 し 、 Dulbecco ’s Ph osph at e Bu ffer- Salin e ( D - P B S ( - ) ) を 1 0 m l 加 え 細 胞 を 洗 浄 し た 。次 に P B S を 取 り 除 き 、0 . 2 5 % Tr yp s i n - E D TA を 1 m l 加 え 、1 分 間 静 置 、フ ラ ス コ を 軽 く 叩 い て 細 胞 を 剥 が し 、Pass age m edium を 9 ml 加 え て 15 ml チ ュ ー ブ に 回 収 、100 0 rp m で 5 分 間 遠 心 さ せ た 。 遠 心 終 了 後 、 上 清 を 除 去 し て 細 胞 ペ レ ッ ト を タ ッ ピ ン グ し て ほ ぐ し 、 Passage mediu m を 10 ml 加 え て 懸 濁 し た 後 、 細 胞 数 を 血 球 計 算 版 (E rma In c. , Tok yo , J apan) を 用 い て 測 定 し 、細 胞 密 度 が 5 × 1 05

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細 胞 生 存 試 験 (MTT assay)

HT 22 細 胞 を 96 well cell cultu re plate (Co rnin g, MA, USA) に 2.0 -5.0 × 1 03 c e l l s / w e l l で 播 種 し 、2 4 時 間 後 に 0 - 1 0 0 0 µ M の H2O2ま た は 0-1 0 mM

の Glut am ate で 細 胞 を 処 理 し 、 1 5 時 間 後 に MT T as sa y を 用 い て 細 胞 生 存 試 験 を 行 っ た 。

3-(4, 5-Dimeth yl -2-thi azol yl) -2, 5-di p hen ylt et razolium Bromide (MTT ) は 生 細 胞 数 を 測 定 す る 試 薬 と し て 細 胞 毒 性 試 験 や 細 胞 生 存 試 験 に 用 い ら れ る 。M TT は 細 胞 内 の 脱 水 素 酵 素 に よ っ て 還 元 さ れ 、青 色 の 不 溶 性 ホ ル マ ザ ン を 生 成 す る 。 こ の ホ ル マ ザ ン は 生 細 胞 数 に 依 存 し て 増 加 す る た め 、 ホ ル マ ザ ン を 有 機 溶 媒 等 で 溶 解 後 に 57 0 n m の 吸 光 度 を 測 定 す る こ と で 生 細 胞 率 を 検 討 す る こ と が 出 来 る 。 測 定 に は MTT C ell Cou nt K i t ( N a c a l a i t e s q u e ) を 使 用 し 、プ ロ ト コ ー ル に 従 い 行 っ た 。9 6 w e l l p l a t e に て 2 .0 × 103 c e l l s / w e l l で 播 種 し た H T 2 2 細 胞 に 酸 化 ス ト レ ス 処 理 を 行 っ た 後 、各 well に 1 0 µl の MT T solu tio n を 添 加 、3 時 間 後 に Solu bilization S o l u t i o n を 1 0 0 µ l 添 加 し 、 沈 殿 し た ホ ル マ ザ ン を ピ ペ ッ テ ィ ン グ に よ っ て 撹 拌 、そ の 後 プ レ ー ト を テ ー プ で シ ー ル し 、37 ℃・ 5% CO2 条 件 下

で overni ght の イ ン キ ュ ベ ー ト に よ っ て ホ ル マ ザ ン の 可 溶 化 を 行 っ た 。 ホ ル マ ザ ン の 可 溶 化 を 確 認 後 、Mi cro plat e reader (Bio -R ad Laborato ries, C A , U S A ) を 用 い て 5 7 0 n m の 波 長 で 吸 光 度 を 測 定 し た 。

タ ン パ ク 質 解 析

タ ン パ ク 質 の 定 量 (BCA assa y)

回 収 し た タ ン パ ク 質 解 析 用 サ ン プ ル は BCA 法 を 用 い て タ ン パ ク 定 量 を 行 い 、 タ ン パ ク 質 濃 度 を 一 定 に し て か ら 実 験 に 使 用 し た 。 実 験 に は Pierce BC A Prot ein Assa y Kit (Therm o Scienti fi c, MA, USA) を 使 用 し 、

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プ ロ ト コ ー ル に 従 っ て 行 っ た 。 キ ッ ト 内 の Alb umin st andard を 用 い て 9 6 w e l l c e l l c u l t u r e p l a t e を 用 い て 検 量 線 を 作 成 し 、 サ ン プ ル を 各 w e l l に 10 µl/well で 添 加 を し た 。 添 加 し た サ ン プ ル に 対 し て Reagent A と R e a g e n t B を 5 0 : 1 の 割 合 で 混 合 し た 溶 液 を 2 0 0 µ l / w e l l 添 加 し 、 室 温 で 10 分 間 反 応 さ せ た 後 、 Mi croplat e read er を 用 い て 5 62 nm の 吸 光 度 を 測 定 し た 。 吸 光 度 を 元 に 作 成 し た 検 量 線 に 従 っ て サ ン プ ル 内 の タ ン パ ク 質 濃 度 が 均 一 に な る よ う 調 製 を 行 っ た 。 S D S - PA G E 及 び We s t e r n B l o t t i n g

HT 22 細 胞 を 6 well cell culture plat e (Corni n g, CA, US A) に 1.0 × 105

c e l l s / w e l l に な る よ う に 播 種 し 、2 4 時 間 培 養 し た 。そ の 後 、H2O2 ( 0 - 1 0 0 0 µ M ) ま た は G l u t a m a t e ( 0 - 1 0 m M ) を 添 加 し 、3 0 分 後 に 培 地 を 除 去 、S a m p l e b u ff e r ( 0 . 0 5 M Tr i s - H C l ( p H 6 . 8 ) , 2 % S o d i u m D o d e c yl S u l f a t e ( S D S ) , 1 0 % G l yc e r o l , 0 . 0 0 3 3 % B r o m o p h e n o l B l u e ( B P B ) , 1 % 2 - M e r c a p t o e t h a n o l ) 2 0 0 µ l で 回 収 し た 。 こ れ を 超 音 波 破 砕 し 、 5 分 間 9 5 ℃ で 煮 沸 し た も の を S D S - PA G E に 供 し た 。 こ れ ら の サ ン プ ル を 1 0% S DS -ポ リ ア ク リ ル ア ミ ド ゲ ル を 用 い て 100 V 固 定 電 圧 で 9 0 分 間 の 電 気 泳 動 を 行 い 、 タ ン パ ク 質 の 分 離 を 行 っ た 。 そ の 後 、分 離 し た タ ン パ ク 質 を P VDF 膜 (P ol yvin yl idin e di fluo ride, po re s i z e = 0 . 4 5 µ m , M E R C K M i l l i p o r e , M A , U S A ) へ Tr a n s B l o t C e l l ( B i o - R a d , C A , U S A ) を 用 い て 4 5 V 固 定 電 圧 条 件 に て O v e r n i g h t で 膜 へ の タ ン パ ク 質 の 転 写 を 行 っ た 。 転 写 終 了 後 、 P VDF 膜 を Blo ckin g b uffer に 浸 し 、 3 0 分 間 室 温 で 振 と う し な が ら ブ ロ ッ キ ン グ を 行 っ た 。ブ ロ ッ キ ン グ 終 了 後 、P VDF 膜 を 各 種 一 次 抗 体 で 室 温 1 時 間 振 と う 後 、4 ℃に て overni ght で 1 次 抗 体 反 応 を 行 っ た 。 1 次 抗 体 反 応 の 終 了 後 、 T BS-T で 1 0 分 間 3

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回 洗 浄 し 、 次 に 2 次 抗 体 と し て Anti-rab bit IgG HRP -1 li nked 抗 体 (1 : 5 , 0 0 0 , C e l l S i gn a l i n g , M A , U S A ) を 用 い て 室 温 で 1 時 間 振 と う し た 。 2 次 抗 体 反 応 後 、T BS -T で 同 様 に P VDF 膜 を 3 回 洗 浄 し 、検 出 は EC L P rime We s t e r n B l o t t i n g D e t e c t i o n R e ge n t ( G E H e a l t h c a r e , C h a l f o n t S a i n t G i l e s , U K ) を 用 い て 、 キ ッ ト の プ ロ ト コ ー ル に 従 っ て 行 い 、 化 学 発 光 検 出 シ ス テ ム (Ch emi Doc XRS+, Bio -Rad, C A, U SA)に て 露 光 し た 。 そ の 後 、 Im a g e J ( N a t i o n a l I n s t i t u t e s o f H e a l t h , B e t h e s d a , M D , U S A ) を 用 い て 検 出 さ れ た バ ン ド 強 度 の 相 対 値 を 算 出 し た 。

統 計 解 析

統 計 解 析 は 基 本 的 に 、 2 群 の 場 合 は Un pai red Student ’s t -tes t を 用 い た 検 定 、 3 群 以 上 の 場 合 に は On e-way ANOVA お よ び Tuke y’s post ho c t e s t を 用 い て 解 析 を 行 っ た 。そ れ ぞ れ 危 険 率 5 % 未 満 を も っ て 統 計 的 に 有 意 な 差 が あ る と し た 。

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実 験 結 果

高 強 度 の 酸 化 ス ト レ ス は 細 胞 死 を 誘 導 す る が 、低 強 度 の 酸 化 ス ト レ ス は 細 胞 生 存 を 亢 進 さ せ る HT 22 細 胞 を 96 well pl ate に 播 種 し 24 時 間 後 に H2O2 ( 0 - 1 0 0 0 µ M ) と G l u t a m a t e ( 0 - 1 0 m M ) を 添 加 し 、 1 5 時 間 後 に M T T a s s a y を 用 い た 細 胞 生 存 率 の 測 定 を 行 っ た 。 そ の 結 果 、 H2O2 を 500 µ M の 濃 度 で 添 加 し た 場

合 に 細 胞 生 存 率 が 約 40 % (Fi g. 1 -1A) 、Glut am ate を 5 m M の 濃 度 で 添 加 し た 場 合 に 細 胞 生 存 率 が 約 4 0% へ と 減 少 し (Fi g. 1 -1 B)、細 胞 生 存 率 の 有 意 な 低 下 が み ら れ た た め 、酸 化 ス ト レ ッ サ ー で あ る H2O2、Glut am ate は ど ち ら も 濃 度 依 存 的 に 細 胞 死 を 誘 導 す る 事 が 明 ら か と な っ た 。 緒 言 で も 述 べ た が 、 こ れ ま で に 弱 酸 化 ス ト レ ス 処 理 は 、 そ の 後 の 強 酸 化 ス ト レ ス に た い し て 抵 抗 性 を 付 与 す る 事 が 明 ら か に な っ て い る 。 そ こ で 、弱 酸 化 ス ト レ ス が 細 胞 生 存 に 与 え る 影 響 を 調 べ る た め 、HT22 細 胞 を 低 濃 度 の H2O2 ま た は Glutam ate (H2O2 1 0 0 µ M 以 下 、 ま た は G l u t a m a t e 1 m M 以 下 ) で 1 5 時 間 処 理 し 、 M T T a s s a y を 用 い て 細 胞 生 存 へ の 影 響 を 検 討 し た 。そ の 結 果 、H2O2 1 0 µ M 添 加 時 に 細 胞 生 存 率 が 約 1 0 5 % ( F i g . 1 - 2 A ) 、 G l u t a m a t e 0 . 5 m M 添 加 時 に お い て 細 胞 生 存 率 が 約 11 5 % ( F i g . 1 - 2 B ) と 有 意 な 細 胞 生 存 率 の 上 昇 が 見 ら れ た 。こ の こ と か ら 、 細 胞 死 を 引 き 起 こ さ な い レ ベ ル の 低 強 度 酸 化 ス ト レ ス 負 荷 は 、 HT2 2 細 胞 の 細 胞 生 存 を 亢 進 す る こ と が 明 ら か に な っ た 。 こ れ ら の 結 果 か ら 、 HT22 細 胞 に お い て H2O2 と Glu tamat e に よ り 誘 導 さ れ る 酸 化 ス ト レ ス は 、 高 強 度 で は 細 胞 死 誘 導 効 果 を 、 低 強 度 で は 細 胞 生 存 亢 進 効 果 を 持 つ と い っ た 、 二 相 性 の 効 果 を 有 し て い る こ と が 明 ら か と な っ た 。

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21 弱 酸 化 ス ト レ ス 依 存 的 な 細 胞 生 存 亢 進 効 果 は Erk1/2 の 活 性 化 を 介 し て 作 用 す る 先 の 実 験 で 得 ら れ た 弱 酸 化 ス ト レ ス 依 存 的 な 細 胞 生 存 亢 進 効 果 の メ カ ニ ズ ム を 解 明 す る た め に 、 弱 酸 化 ス ト レ ス が 細 胞 内 シ グ ナ ル 伝 達 系 に ど の よ う な 影 響 を 及 ぼ す の か 検 討 し た 。 ま ず 、 細 胞 の 生 死 に 関 与 し て い る こ と が 広 く 知 ら れ て い る MAP ki nas e famil y の 一 種 で あ る E x t r a c e l l u l a r s i gn a l - r e gu l a t e d k i n a s e 1 / 2 ( E r k 1 / 2 ) に 着 目 し 、 弱 酸 化 ス ト レ ス 負 荷 が E rk1/ 2 活 性 化 に ど の よ う な 影 響 を 及 ぼ す か ウ ェ ス タ ン ブ ロ ッ テ ィ ン グ を 用 い て 解 析 し た 。 HT 22 細 胞 を 播 種 し て 24 時 間 後 に H2O2 ( 0 - 1 0 µ M ) 、 G l u t a m a t e ( 0 - 1 m M ) を 添 加 、 3 0 分 間 曝 露 さ せ て 細 胞 を 回 収 し 、 こ れ を サ ン プ ル と し て ウ ェ ス タ ン ブ ロ ッ テ ィ ン グ を 行 っ た 。 そ の 結 果 、H2O2 1 0 µ M 添 加 時 に 約 1 . 2 5 倍 ( F i g . 1 - 3 A ) 、G l u t a m a t e 0 . 5 m M 及 び 1 mM 添 加 時 に 約 1 .5 倍 と (Fi g. 1 -4 A) 、 無 添 加 時 と 比 較 し て 有 意 な E rk1/ 2 の リ ン 酸 化 量 の 増 加 が 見 ら れ た 。 す な わ ち 、 HT2 2 細 胞 は 弱 酸 化 ス ト レ ス 負 荷 に よ っ て Erk 1/2 の 活 性 化 が 誘 導 さ れ て い る こ と が 明 ら か と な っ た 。 ま た 、弱 酸 化 ス ト レ ス に よ っ て 誘 導 さ れ た E rk1/ 2 の 活 性 化 の 生 理 的 意 義 を 検 討 す る た め 、 弱 酸 化 ス ト レ ス 負 荷 時 に E rk1/ 2 の 上 流 で あ る M A P K / E R K k i n a s e 1 / 2 ( M E K 1 / 2 ) の 特 異 的 阻 害 剤 で あ る U 0 1 2 6 ( 1 0 µ M ( D i m e t h yl s u l f o x i d e : D M S O に て 希 釈 ) ) を 同 時 添 加 し 、M T T a s s a y を 用 い て 細 胞 生 存 へ の 影 響 を 調 べ た 。 そ の 結 果 、 U01 26 を 同 時 添 加 し E rk1/ 2 の 活 性 化 を 抑 制 し た 状 態 で は 弱 酸 化 ス ト レ ス 依 存 的 な 細 胞 生 存 亢 進 効 果 が 消 失 し た (Fi g. 1 -3 B, Fi g. 1 -4 B)。 こ の こ と か ら 、 低 濃 度 H2O2及 び G l u t a m a t e 添 加 に よ る 細 胞 生 存 亢 進 効 果 に は E r k 1 / 2 の 活 性 化 が 関 与 し

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22 て い る こ と が 明 ら か と な っ た 。 強 酸 化 ス ト レ ス に 応 答 し た 細 胞 死 に も Erk1/2 が 関 与 す る こ れ ま で に HT 2 2 細 胞 の 酸 化 ス ト レ ス 応 答 に 関 し て 、 弱 酸 化 ス ト レ ス が 細 胞 生 存 亢 進 効 果 を 持 つ 事 を 示 し た が 、 次 に 強 酸 化 ス ト レ ス 依 存 的 な 細 胞 死 誘 導 に つ い て 、 そ の メ カ ニ ズ ム の 解 明 を 目 的 と し 、 弱 酸 化 ス ト レ ス 依 存 的 な 細 胞 生 存 亢 進 効 果 の メ カ ニ ズ ム と し て 関 与 が 認 め ら れ た E rk1/ 2 活 性 化 の 役 割 を 調 べ た 。 高 濃 度 H2O2 ( 0 - 1 0 0 0 µ M ) あ る い は G l u t a m a t e ( 0 - 1 0 m M ) 添 加 時 に U 0 1 2 6 ( 1 0 µ M ) を 同 時 添 加 し 、 M T T a s s a y に よ り 細 胞 生 存 率 を 調 べ た 。 そ の 結 果 、H2O2 添 加 時 に は U012 6 を 添 加 し て も 細 胞 生 存 率 は 変 化 せ ず 、

濃 度 依 存 的 に 細 胞 死 が 誘 導 さ れ た が (Fi g. 1 -5 A) 、 一 方 、 Glut am ate 添 加 時 に は U0126 を 添 加 す る こ と に よ っ て 、 Glut amate 濃 度 依 存 的 な 細 胞 死 誘 導 が 阻 害 さ れ た (Fi g. 1-5 B)。 以 上 の 結 果 か ら 、 Glutam ate 依 存 的 な 細 胞 死 は E rk1 /2 を 介 し て 誘 導 さ れ て い る こ と が 明 ら か と な っ た 。 ま た 、 H2O2 添 加 に よ る 濃 度 依 存 的 な 細 胞 死 誘 導 は Erk 1 /2 を 介 し て お

ら ず 、Glut amat e 依 存 的 な ROS 産 生 に Erk1/2 が 関 与 し て い る 可 能 性 が 示 唆 さ れ た 。 高 濃 度 の グ ル タ ミ ン 酸 は 持 続 的 な Erk1/2 の 活 性 化 を 誘 導 す る こ こ ま で の 実 験 結 果 を 概 観 す る と 、 (1 ) 高 濃 度 の H2O2 あ る い は G l u t a m a t e 処 理 は H T 2 2 細 胞 の 細 胞 死 が 誘 導 す る が 、 低 濃 度 の H2O2あ る い は Glut am at e 処 理 は 細 胞 生 存 を 亢 進 す る 、 (2 )高 濃 度 Glut am at e 処 理 に よ る 細 胞 死 誘 導 お よ び 低 濃 度 Gl utam ate 処 理 に よ る 細 胞 生 存 亢 進 は 、 共 に E rk1/ 2 活 性 化 阻 害 に よ っ て 消 失 す る こ と が 明 ら か と な っ た 。

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23

こ の よ う に Glut am ate 依 存 的 な 細 胞 死 誘 導 お よ び 細 胞 生 存 の 両 者 と も に E rk1/ 2 活 性 化 が 関 与 し て い た こ と か ら 、 Glut amat e 依 存 的 な Erk 1/2 の 活 性 化 の 挙 動 を さ ら に 詳 細 に 検 討 す る こ と と し た 。 ま ず 、 細 胞 死 を 誘 導 す る 程 度 の 高 濃 度 H2O2 ( 3 0 0 µ M ) あ る い は 高 濃 度 Glut am ate (5 m M) で 細 胞 を 処 理 し 、 0.5, 1, 2, 4, 8, 16 , 24 時 間 後 に 細 胞 を 回 収 し 、ウ ェ ス タ ン ブ ロ ッ ト を 用 い て 細 胞 内 の Erk1/2 の 活 性 化 の 経 時 変 化 を 検 討 し た 。 そ の 結 果 、 H2O2 添 加 後 30 分 、 Glutam ate 添 加 後 1 時 間 の 時 点 で E r k 1 / 2 が 有 意 に 活 性 化 し て い る こ と が 明 ら か と な っ た ( F i g . 1 - 6 A B ) 。 ま た 、 G l u t a m a t e 添 加 時 に は 、 添 加 後 1 6 時 間 、 2 4 時 間 の 時 点 で も Erk1/2 の 有 意 な 活 性 化 が 見 ら れ 、タ イ ム コ ー ス の 全 体 を 通 し て E rk1/ 2 の 活 性 化 は 基 底 状 態 以 上 を 保 っ て い た (Fi g. 1-6 B)。一 方 で H2O2 添 加 時 に は E rk1/2 の 活 性 化 は 、 時 間 経 過 と 共 に 低 下 し 、 16 時 間 や 24 時 間 で は 基 底 状 態 以 下 と な る こ と が 分 か っ た (Fig. 1 -6A)。 弱 酸 化 ス ト レ ス は 短 期 的 な Erk1/2 の 活 性 化 を 誘 導 す る 細 胞 死 を 誘 導 し な い 弱 酸 化 ス ト レ ス が Erk 1/2 の 活 性 化 に 及 ぼ す 影 響 に つ い て も 同 様 の 解 析 を 行 っ た 。 細 胞 死 を 誘 導 し な い 程 度 の 低 濃 度 H2O2 ( 1 0 0 µ M ) あ る い は 低 濃 度 G l u t a m a t e ( 1 m M ) で 細 胞 を 処 理 し 、 0 . 5 , 1 , 2 , 4 , 8 , 1 6 , 2 4 時 間 後 に 細 胞 を 回 収 し 、ウ ェ ス タ ン ブ ロ ッ ト を 用 い て 細 胞 内 の E rk1 /2 の 活 性 化 を 調 べ た 。 そ の 結 果 、 H2O2、 Glut amat e の ど ち ら に お い て も 、 同 様 に 添 加 後 30 分 で E rk 1/ 2 の 有 意 な 活 性 化 を 誘 導 す る 事 が 分 か っ た (Fi g. 1 - 7 A B ) 。 ま た 、 ど ち ら も 高 濃 度 G l u t a m a t e が 誘 導 し た よ う な 持 続 的 な E r k 1 / 2 の 活 性 化 は 誘 導 せ ず 、短 期 的 な E r k 1 / 2 の 活 性 化 後 に は 基 底 状 態 以 下 ま で 活 性 が 低 下 し て い る こ と が 明 ら か と な っ た (Fig. 1 -7AB)。

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グ ル タ ミ ン 酸 依 存 的 な 持 続 的 な Erk1/2 の 活 性 化 は 、 細 胞 死 誘 導 機 構 に 関 与 す る

次 に 、 高 濃 度 Gl utam at e 添 加 時 に 特 異 的 に 見 ら れ た E rk1/2 の 持 続 的 な 活 性 化 が 、Glut amate 依 存 的 な 細 胞 死 誘 導 に 関 与 し て い る か を 調 べ る た め 、 Glut amate (5 mM) を 添 加 後 0 , 3, 6, 9 , 1 2, 1 5 時 間 後 に U012 6 (10 µ M ) を 添 加 し 、 G l u t a m a t e 添 加 後 1 5 時 間 後 に M T T a s s a y を 用 い て 細 胞 生 存 率 へ の 影 響 を 調 べ た 。 そ の 結 果 、 Gl utamat e 添 加 後 6 時 間 以 内 に U012 6 を 添 加 す る こ と に よ っ て 、Glut am ate 依 存 的 な 細 胞 死 が 抑 制 さ れ 、細 胞 生 存 率 が 有 意 に 改 善 し た 。 こ の こ と か ら 、 持 続 的 な E rk1/2 の 活 性 化 は Gl utam at e 依 存 的 な 細 胞 死 誘 導 機 構 の 少 な く と も 一 部 で あ る こ と が 示 唆 さ れ た (Fi g. 1 - 8 A ) 。 m G l u R 5 は グ ル タ ミ ン 酸 依 存 的 な 細 胞 死 誘 導 機 構 に 関 与 す る 緒 言 で も 述 べ た と お り 、 HT22 細 胞 は NMDA 型 グ ル タ ミ ン 酸 受 容 体 を 保 持 し て い な い 。一 方 、代 謝 型 グ ル タ ミ ン 酸 受 容 体 (mGl uRs) で あ る m G l u R 1 及 び m G l u R 5 を 保 持 し て い る こ と が 報 告 さ れ て い る 。 そ こ で 、 こ れ ら の mGl uRs が Glut amat e 依 存 的 な 持 続 的 な E rk1 /2 活 性 化 お よ び 細 胞 死 に ど の よ う な 役 割 を 果 た し て い る か 検 討 し た 。

ま ず 、Gl utam ate (5 mM) の 添 加 と 同 時 に m GluR1 の An tagoni st で あ る ( ± ) - 1 - A m i n o i n d a n - 1 , 5 - d i c a r b o x yl i c a c i d ( A ID A ) あ る い は m G l u R 5 の A n t a g o n i s t で あ る 2 - M e t h yl - 6 - ( p h e n yl e t h yn yl ) p yr i d i n e h yd r o c h l o r i d e ( M P E P ) に よ る 前 処 理 を 3 0 分 間 行 い 、 A n t a g o n i s t 存 在 下 、 細 胞 を G l u t a m a t e で 0 , 0 . 5 , 1 , 2 , 4 , 8 , 1 6 , 2 4 時 間 処 理 し た 。 処 理 後 、 細 胞 を 回

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収 し て Erk 1/2 の 活 性 化 を 検 討 し た 。 そ の 結 果 、 AIDA を 添 加 し た 条 件 で は Glut amat e 依 存 的 な E rk1/ 2 活 性 化 パ タ ー ン に 変 化 は 見 ら れ な か っ た が 、 MPEP を 添 加 し た 条 件 で は 、 5 mM Gl utam at e 添 加 時 に 観 察 さ れ た Gl utam at e 依 存 的 な 持 続 的 な Erk 1 /2 の 活 性 化 が 消 失 す る こ と が 明 ら か と な っ た (Fi g. 1 -6 B, Fi g. 1 -9 AB) 。 ま た 、 AIDA, MPE P の 単 独 添 加 に お い て は 両 条 件 に お い て 、 E rk1/ 2 の 短 期 的 な 活 性 化 の み を 誘 導 し た こ と か ら 、 A IDA と Glutam at e の 同 時 添 加 時 に お け る 持 続 的 な E rk1/ 2 の 活 性 化 は 、Gl utam at e 依 存 的 な 活 性 化 が 保 持 さ れ た ま ま で あ る こ と も 推 察 さ れ た (Fi g. 1-1 0AB) 。 同 様 に AIDA, M PEP で 3 0 分 間 前 処 理 し た HT2 2 細 胞 に 15 時 間 の G l u t a m a t e 処 理 を 行 い 、 細 胞 生 存 率 へ の 影 響 を 検 討 し た 。 そ の 結 果 、 G l u t a m a t e 依 存 的 な 細 胞 死 誘 導 に 対 す る A ID A 前 処 理 の 効 果 は 観 察 さ れ な か っ た も の の 、MPEP 前 処 理 に よ っ て Glutam at e 依 存 的 細 胞 死 誘 導 が 有 意 に 阻 害 さ れ る こ と が 明 ら か と な っ た (Fi g. 1-11) 。 す な わ ち 、 m G l u R 5 は G l u t a m a t e 依 存 的 な 持 続 的 な E r k 1 / 2 の 活 性 化 を 制 御 し 、 G l u t a m a t e 依 存 的 な 細 胞 死 誘 導 に 関 与 し て い る 可 能 性 が 示 唆 さ れ た 。

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26 Fi g . 1 - 1 強 酸 化 ス ト レ ス 負 荷 が 細 胞 生 存 率 へ 及 ぼ す 影 響 H T 2 2 細 胞 を 様 々 な 濃 度 の H2O2 ( 0 - 1 0 0 0 µ M ) ( A ) 、G l u t a m a t e ( 0 - 1 0 m M ) ( B ) で 処 理 し 、1 5 時 間 後 に M T T A s s a y を 用 い て 細 胞 生 存 率 を 測 定 し た 。 無 添 加 条 件 の 細 胞 生 存 率 を 1 00% と し て 標 準 化 し た 値 の 平 均 と 標 準 誤 差 を 示 し た 。

A

B

(30)

27 Fi g . 1 - 2 弱 酸 化 ス ト レ ス 負 荷 が 細 胞 生 存 率 へ 及 ぼ す 影 響 H T 2 2 細 胞 を 、H2O2 ( 0 - 1 0 0 µ M ) ( A ) 、G l u t a m a t e ( 0 - 2 m M ) ( B ) で 処 理 し 、 1 5 時 間 後 に M T T A s s a y を 用 い て 細 胞 生 存 率 を 測 定 し た 。無 添 加 条 件 の 細 胞 生 存 率 を 1 00 %と し て 標 準 化 し た 値 の 平 均 と 標 準 誤 差 を 示 し た 。

B

A

(31)

28 Fi g . 1 - 3 低 濃 度 H2O2 依 存 的 な Erk1/2 の 活 性 化 と そ の 生 理 的 意 義 H T 2 2 細 胞 を 、 H2O2 ( 0 - 1 0 µ M ) で 処 理 し 、 3 0 分 後 に 細 胞 を 回 収 、 ウ ェ ス タ ン ブ ロ ッ テ ィ ン グ に よ り Erk1/2 の リ ン 酸 化 量 を 調 べ た 。無 添 加 条 件 の E rk1/ 2 の タ ン パ ク 発 現 量 を 1 と し て 標 準 化 し た 値 の 平 均 と 標 準 誤 差 を 示 し た (A) 。 HT22 細 胞 を U0126 (1 0 µM )と H2O2 ( 0 - 1 0 µ M ) で 同 時 に 処 理 し 、 1 5 時 間 後 に MT T Ass a y を 用 い て 細 胞 生 存 率 を 測 定 し た 。 無 添 加 条 件 の 細 胞 生 存 率 を 1 00% と し て 標 準 化 し た 値 の 平 均 と 標 準 誤 差 を 示 し た (B)。

A

B

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29

Fi g . 1 - 4 低 濃 度 G l u t a ma t e 依 存 的 な E r 1 / 2 の 活 性 化 と そ の 生 理 的 意

H T 2 2 細 胞 を G l u t a m a t e ( 0 - 1 m M ) で 処 理 し 、 3 0 分 後 に 細 胞 を 回 収 、 ウ ェ ス タ ン ブ ロ ッ テ ィ ン グ に よ り E rk 1/ の リ ン 酸 化 量 を 調 べ た 。 無 添 加 条 件 の Erk1/2 の タ ン パ ク 発 現 量 を 1 と し て 標 準 化 し た 値 の 平 均 と 標 準 誤 差 を 示 し た (A) 。 HT 22 細 胞 を U01 26 (10 µM )と Glut amate で 同 時 に 処 理 し 、15 時 間 後 に MT T Ass a y を 用 い て 細 胞 生 存 率 を 測 定 し た 。無 添 加 条 件 の 細 胞 生 存 率 を 1 00% と し て 標 準 化 し た 値 の 平 均 と 標 準 誤 差 を 示 し た (B)。

A

(33)

30 Fi g . 1 - 5 強 酸 化 ス ト レ ス 依 存 的 な 細 胞 死 誘 導 に 対 す る E r k 1 / 2 の 影 響 H T 2 2 細 胞 を H2O2 ( 0 - 1 0 0 0 µ M ) ( A ) 、 G l u t a m a t e ( 0 - 1 0 m M ) ( B ) と U 0 1 2 6 ( 1 0 µ M ) で 同 時 に 処 理 し 、 1 5 時 間 後 に M T T a s s a y を 用 い て 細 胞 生 存 率 を 測 定 し た 。 無 添 加 条 件 の 細 胞 生 存 率 を 1 00% と し て 標 準 化 し た 値 の 平 均 と 標 準 誤 差 を 示 し た 。

A

B

(n=4)

*: p<0.05 (n=4)

**: p<0.01 (n=4)

(34)

31 Fi g . 1 - 6 強 酸 化 ス ト レ ス 依 存 的 な E r k 1 / 2 の 時 間 依 存 的 な 変 化 H T 2 2 細 胞 を 3 0 0 µ M H2O2 ( A ) 、 5 m M G l u t a m a t e ( B ) で 処 理 し 、 0 - 2 4 時 間 後 に 細 胞 を 回 収 、ウ ェ ス タ ン ブ ロ ッ テ ィ ン グ に よ り Erk1/ 2 の リ ン 酸 化 量 を 調 べ た 。無 添 加 条 件 の Erk1/2 の タ ン パ ク 発 現 量 を 1 と し て 標 準 化 し た 値 の 平 均 と 標 準 誤 差 を 示 し た 。

A

B

(35)

32 Fi g . 1 - 7 弱 酸 化 ス ト レ ス 依 存 的 な E r k 1 / 2 の 時 間 依 存 的 な 変 化 H T 2 2 細 胞 を H2O2 ( 1 0 0 µ M ) ( A ) 、 G l u t a m a t e ( 1 m M ) ( B ) で 処 理 し 、 0 - 2 4 時 間 後 に 細 胞 を 回 収 、ウ ェ ス タ ン ブ ロ ッ テ ィ ン グ に よ り Erk1/ 2 の リ ン 酸 化 量 を 調 べ た 。無 添 加 条 件 の E rk1 /2 の タ ン パ ク 発 現 量 を 1 と し て 標 準 化 し た 値 の 平 均 と 標 準 誤 差 を 示 し た 。

A

B

(36)

33 Fi g . 1 - 8 持 続 的 な E r k 1 / 2 活 性 化 の 生 理 的 意 義 の 検 討 H T 2 2 細 胞 を G l u t a m a t e ( 5 m M ) で 処 理 後 、 0 - 1 5 時 間 後 に U 0 1 2 6 ( 1 0 µ M ) を 作 用 さ せ 、 Gl utamate 添 加 15 時 間 後 に M TT ass a y を 用 い て 細 胞 生 存 率 を 測 定 し た 。 無 添 加 条 件 の 細 胞 生 存 率 を 100 % と し て 標 準 化 し た 値 の 平 均 と 標 準 誤 差 を 示 し た 。 有 意 差 検 定 は U0126 添 加 時 間 15 時 間 の サ ン プ ル と 行 っ た (A)。 HT 22 細 胞 へ の Glut am ate (5 mM)処 理 後 、0-1 5 時 間 後 に U0126 (1 0 µM) を 作 用 さ せ 、 Gl utam at e 添 加 1 5 時 間 後 に 細 胞 を 回 収 、ウ ェ ス タ ン ブ ロ ッ テ ィ ン グ に よ り Erk1/2 の リ ン 酸 化 量 を 調 べ た (B)。

A

B

*: p<0.05 (n=5 -6)

(37)

34 Fi g . 1 - 9 m G l u R ア ン タ ゴ ニ ス ト が G l u t a ma t e 依 存 的 な E r k 1 / 2 活 性 化 に 及 ぼ す 影 響 H T 2 2 細 胞 を m G l u R 1 ア ン タ ゴ ニ ス ト で あ る A ID A ( 5 0 µ M ) ( A ) 及 び m G l u R 5 ア ン タ ゴ ニ ス ト で あ る M P E P ( 2 0 0 µ M ) ( B ) で 3 0 分 間 前 処 理 し 、 5 m M の グ ル タ ミ ン 酸 を 添 加 し 0 - 2 4 時 間 後 に 細 胞 を 回 収 、 ウ ェ ス タ ン ブ ロ ッ テ ィ ン グ に よ り E rk1/2 の リ ン 酸 化 量 を 調 べ た 。 無 添 加 条 件 ( Ti m e - 0 . 5 h ) の E r k 1 / 2 の タ ン パ ク 発 現 量 を 1 と し て 標 準 化 し た 値 の 平 均 と 標 準 誤 差 を 示 し た 。

A

B

(38)

35 Fi g . 1 - 1 0 m G l u R ア ン タ ゴ ニ ス ト が E r k 1 / 2 活 性 化 に 及 ぼ す 影 響 H T 2 2 細 胞 を m G l u R 1 ア ン タ ゴ ニ ス ト で あ る A ID A ( 5 0 µ M ) ( A ) 及 び m G l u R 5 ア ン タ ゴ ニ ス ト で あ る M P E P ( 2 0 0 µ M ) ( B ) で 処 理 し 、0 - 2 4 時 間 後 に 細 胞 を 回 収 、ウ ェ ス タ ン ブ ロ ッ テ ィ ン グ に よ り Erk1/2 の リ ン 酸 化 量 を 調 べ た 。 無 添 加 条 件 (Tim e 0 h )の Erk1/2 の タ ン パ ク 発 現 量 を 1 と し て 標 準 化 し た 値 の 平 均 と 標 準 誤 差 を 示 し た 。

A

B

(39)

36 Fi g . 1 - 11 m G l u R ア ン タ ゴ ニ ス ト が G l u t a ma t e 依 存 的 な 細 胞 死 誘 導 に 及 ぼ す 影 響 H T 2 2 細 胞 を U 0 1 2 6 ( 1 0 µ M ) 、 m G l u R 1 ア ン タ ゴ ニ ス ト で あ る A ID A ( 5 0 µ M ) 及 び m G l u R 5 ア ン タ ゴ ニ ス ト で あ る M P E P ( 2 0 0 µ M ) で 3 0 分 間 前 処 理 し 、 5 mM の グ ル タ ミ ン 酸 を 添 加 し 15 時 間 後 に M T T as sa y を 用 い て 細 胞 生 存 率 を 測 定 し た 。 無 添 加 条 件 の 細 胞 生 存 率 を 1 00% と し て 標 準 化 し た 値 の 平 均 と 標 準 誤 差 を 示 し た 。

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37

考 察

弱 酸 化 ス ト レ ス 依 存 的 な 細 胞 生 存 亢 進 効 果 の 詳 細 に つ い て 本 研 究 で は 、 弱 酸 化 ス ト レ ス は 細 胞 生 存 亢 進 効 果 を 有 し て い る こ と を 明 ら か に し た 。 そ こ で 、 こ の 細 胞 生 存 亢 進 効 果 は 細 胞 の 運 命 決 定 に お い て ど の 部 分 に 作 用 し て い る の か に つ い て 考 察 を 行 い た い 。 細 胞 運 命 は 大 き く 分 け て 細 胞 生 存 又 は 細 胞 死 、 細 胞 増 殖 、 細 胞 分 化 に 大 別 さ れ る 。 こ の う ち 本 研 究 で 用 い た M TT as sa y は 主 に 細 胞 生 存 率 の 測 定 又 は 細 胞 死 率 の 測 定 、 細 胞 増 殖 の 測 定 に 用 い ら れ る 実 験 系 で あ る 。 一 般 的 に 神 経 細 胞 は 増 殖 能 を 持 た な い こ と か ら 、神 経 細 胞 に お い て は MT T a s s a y の 実 験 系 は 細 胞 毒 性 試 験 と し て 細 胞 生 存 率 又 は 細 胞 死 率 を 測 定 す る 手 段 と し て 用 い ら れ る (Xu et al. , 2011) 。し か し 、本 実 験 で 用 い た H T 2 2 細 胞 は マ ウ ス 海 馬 由 来 で あ り 神 経 細 胞 モ デ ル と し て 使 用 さ れ る が 、 不 死 化 さ れ て お り そ れ に 伴 い 増 殖 能 も 備 え て い る 細 胞 系 で あ る 。 そ の た め 、 MTT as sa y の み で は 本 研 究 の 結 果 得 ら れ た 細 胞 生 存 亢 進 効 果 が 「 基 底 状 態 で わ ず か に 起 こ る 細 胞 死 の 抑 制 」 に よ る も の か 「 細 胞 増 殖 の 亢 進 に よ り 引 き 起 こ さ れ た 吸 光 度 の 増 加 」 に よ る も の か を 判 別 す る 事 は 難 し い と 考 え ら れ る 。 ま た 、 神 経 細 胞 に お い て 薬 剤 に よ る 細 胞 保 護 効 果 を M TT ass a y と LDH assay で 比 較 し た 所 、 N ifedi pin e 誘 導 性 の 細 胞 死 に 関 し て 、C ycloh ex imide が LDH ass a y の 結 果 の み で 細 胞 保 護 効 果 を 示 し 、 MT T assa y で は そ の 効 果 を 可 視 化 出 来 な か っ た と い う 報 告 も あ る ( Lobn er. , 200 0) 。 こ の こ と か ら も 、 本 研 究 に お け る 細 胞 生 存 亢 進 効 果 の 作 用 機 序 を 理 解 し て い く に あ た っ て 、 BrdU ass a y を 用 い た 細 胞 増 殖 能 の 検 討 に 特 化 し た 実 験 方 法 や 、 Ho ech st 染 色 を 用 い た 細 胞 死 の 検 出 、 T UNE L ass a y を 用 い た ア ポ ト ー シ ス 特 異 的 な 検 出 等 を 行

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38 う こ と で 細 胞 生 存 亢 進 効 果 の よ り 詳 細 な 理 解 を す る 必 要 が あ る と 考 え ら れ る 。 弱 酸 化 ス ト レ ス 依 存 的 な 細 胞 生 存 亢 進 効 果 の 作 用 機 序 に つ い て 本 研 究 で は 、弱 酸 化 ス ト レ ス は Erk1/2 依 存 的 に 細 胞 生 存 を 亢 進 す る こ と を 示 し た 。 そ こ で 、 弱 酸 化 ス ト レ ス 依 存 的 に 稼 働 す る 既 知 の 細 胞 内 機 構 を 例 示 し 、 Erk1/ 2 活 性 化 と の 関 連 を 考 察 し て み た い 。 PC12 細 胞 に お い て 、 弱 酸 化 ス ト レ ス は 細 胞 死 抑 制 タ ン パ ク 質 Bcl-2 の 発 現 上 昇 を 誘 導 す る こ と で 細 胞 死 を 抑 制 す る こ と が 示 さ れ て お り ( Ta n g e t a l . , 2 0 1 2 ) 、 H T 2 2 細 胞 に お い て も 、 B c l - 2 の 過 剰 発 現 に よ っ て G l u t a m a t e 耐 性 が 増 す こ と が 報 告 さ れ て い る 。こ の B c l - 2 の 活 性 化 の メ カ ニ ズ ム に 関 し て 、 35% と い う 高 酸 素 条 件 下 へ の 短 期 間 曝 露 に よ っ て も 細 胞 内 に ROS が 発 生 し 、 R OS 依 存 的 な Erk1/2 の 活 性 化 を 介 し て B c l - 2 の 発 現 上 昇 が 起 き る 事 が 報 告 さ れ て い る が ( C a o e t a l . , 2 0 0 9 ) 、興 味 深 い こ と に 、Vas oactive intestin al p eptide (V IP) の 処 理 に よ り 、E rk1/2 の 活 性 低 下 お よ び Bcl -2 の 発 現 上 昇 が 観 察 さ れ て い る (S ahin et al ., 2 0 0 6 ) 。こ の よ う に E r k 1 / 2 活 性 化 お よ び B c l - 2 発 現 の 相 関 関 係 に つ い て は 、 一 見 、 細 胞 種 に よ っ て 異 な る よ う に み え る 。 一 方 、 本 研 究 で は 、 H T 2 2 細 胞 に お け る 弱 酸 化 ス ト レ ス 依 存 的 な E r k 1 / 2 活 性 制 御 は 、 短 期 的 な 活 性 化 お よ び 持 続 的 な 不 活 性 化 の 両 側 面 を 持 っ て い る こ と を 初 め て 示 し た 。 今 後 の 更 な る 研 究 が 必 要 で は あ る が 、 本 研 究 結 果 は 弱 酸 化 ス ト レ ス に よ る Erk1/2 依 存 的 な Bcl -2 制 御 に 統 一 的 な 見 解 を も た ら す 可 能 性 が あ る と 考 え ら れ る 。 ま た 、 Zhan g ら は 、 複 数 の メ ラ ノ ー マ 細 胞 に お い て 、 TNF-relat ed a p o p t o s i s - i n d u c i n g l i g a n d ( T R A I L) が 短 期 的 な E r k 1 / 2 活 性 化 を 引 き 起 こ

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し 、 こ の 活 性 化 が ミ ト コ ン ド リ ア か ら の S econd mit ochond ria -d eriv ed a c t i v a t o r o f c a s p a s e s ( S m a c ) / D i r e c t I A P - b i n d i n g p r o t e i n w i t h l o w p I ( D IA B LO ) 複 合 体 漏 出 を 防 止 す る こ と で 細 胞 死 を 抑 制 す る 可 能 性 を 示 し て い る (Zh an g et al., 2003 ) 。HT2 2 細 胞 に お け る 酸 化 ス ト レ ス 依 存 的 な 細 胞 死 は 主 に ミ ト コ ン ド リ ア 機 能 低 下 に よ る も の で あ る と さ れ て い る た め (Pfeiffer et al., 20 14 , Kumari et al., 2012) 、 Erk1/2 依 存 的 な S m a c / D IA B LO 制 御 も 弱 酸 化 ス ト レ ス 依 存 的 な 細 胞 保 護 機 構 の 一 部 を 説 明 す る 有 力 な 仮 説 で あ る 。

そ の 他 の 弱 ス ト レ ス 依 存 的 に 活 性 化 さ れ る 経 路 と し て 、 Heat sh ock p r o t e i n ( H S P ) 系 が 挙 げ ら れ る 。 M c La u g h l i n ら は 、 低 強 度 の 虚 血 処 理 に お い て 、 ROS 生 成 と Caspase -3 の 切 断 が 促 進 さ れ る が 、 こ の 際 に 切 断 さ れ た Cas pas e -3 は 細 胞 死 誘 導 に 直 接 繋 が る の で は な く 、 Heat sh ock c o gn a t e p r o t e i n ( H S C 7 0 ) に よ っ て 捕 捉 さ れ る こ と で f r e e の H S C 7 0 量 が 減 少 し 、こ れ が 引 き 金 と な っ て 新 規 HSP70 が 合 成 誘 導 さ れ る こ と で 神 経 保 護 効 果 を 持 つ と い う 仮 説 を 提 示 し た (M cLau ghli n et al., 2003 ) 。 H S P 7 0 は 、 タ ン パ ク 質 の フ ォ ー ル デ ィ ン グ に 関 与 す る と と も に 、 異 常 タ ン パ ク 質 の 分 解 に 関 与 す る プ ロ テ ア ソ ー ム 活 性 を 上 昇 さ せ る 。 こ れ ら の 弱 ス ト レ ス 依 存 的 な タ ン パ ク 質 品 質 管 理 シ ス テ ム の 亢 進 が 、 細 胞 生 存 効 果 を 増 強 す る 可 能 性 も あ る (Din g et al., 2 003 ) 。ヒ ト 神 経 細 胞 株 S H - S Y 5 Y で は 、 Va l p r o i c a c i d ( V PA ) 依 存 的 な 細 胞 保 護 作 用 に E r k 1 / 2 依 存 的 な HSP70 の 亢 進 が 重 要 で あ る こ と が 報 告 さ れ て お り (Pan et al ., 2 0 0 5 ) 、弱 ス ト レ ス 依 存 的 な 細 胞 保 護 作 用 に 本 経 路 が 作 用 し て い る 可 能 性 も 十 分 に 考 え ら れ る 。 今 後 、 HT2 2 細 胞 に お け る E rk1/ 2 短 期 的 活 性 化 と こ れ ら の 細 胞 保 護 作 用 の 関 連 を 調 べ る こ と で 、 弱 酸 化 ス ト レ ス 依 存 的 な 細 胞 保 護 作 用 の

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