Title
Olive polyphenol reduces the collagen-elicited release of
phosphorylated HSP27 from human platelets( 内容と審査の要旨
(Summary) )
Author(s)
水谷, 大佑
Report No.(Doctoral
Degree)
博士(医学) 甲第1161号
Issue Date
2021-03-25
Type
博士論文
Version
none
URL
http://hdl.handle.net/20.500.12099/81570
※この資料の著作権は、各資料の著者・学協会・出版社等に帰属します。氏 名 ( 本 籍 ) 水 谷 大 佑 (滋賀県) 学 位 の 種 類 博 士(医学)
学 位 授 与 番 号 甲第 1161 号 学 位 授 与 日 付 令和 3 年 3 月 25 日
学 位 授 与 要 件 学位規則第4条第1項該当
学 位 論 文 題 目 Olive polyphenol reduces the collagen-elicited release of phosphorylated HSP27 from human platelets
審 査 委 員 (主査)教授 矢部 大介 (副査)教授 藤崎 和彦 教授 古家 琢也 論 文 内 容 の 要 旨 オリーブオイルは様々なフェノール化合物を含有している. オリーブオイル摂取により脳梗塞等 の動脈硬化性疾患の発症を抑制することはよく知られている. オリーブポリフェノールの中で主要 な産物である hydroxytyrosol(HT)及び oleuropein(OLE)は抗酸化作用や抗炎症作用といった細胞 保護作用を有していることが知られている. しかし, 動脈硬化性疾患の発症に対する HT 及び OLE の 作用の詳細は未だ明らかにされていない. 血小板は止血において重要な役割を果たしているが, その一方で, 血小板機能の亢進は脳梗塞等 の脳血管障害のトリガーとなる. 血管内皮の障害により露出したコラーゲンは, Glycoprotein VI 及 びα2β1 インテグリン等のコラーゲン受容体を介して血小板の凝集を促進させる. 血小板の凝集に 伴って, 細胞増殖因子である platelet-derived growth factor (PDGF)-AB の分泌及び炎症性物質で ある soluble CD40 ligand(sCD40L)の遊離が惹起される. ヒト血小板において, HT 及び OLE はコラ ーゲン刺激による血小板凝集を抑制することは報告されているが, その作用機序の詳細は未だ十分 に解明されていない.
ストレス蛋白質(heat shock protein:HSP)はストレス応答の際に誘導されるタンパク質の総称 であり, 細胞内で分子シャペロンとして機能すると考えられている. HSP27 は低分子量 HSP の一つで あり, 血小板を含む様々な細胞に恒常的に発現している. また, HSP27 はリン酸化による翻訳後修飾 により, その機能が調節されることが知られている. 近年, HSP27 の細胞外での炎症反応制御因子と しての役割も明らかとなっている. 私が所属する研究室では先行研究にて, コラーゲン刺激による 血小板の活性化において HSP27 のリン酸化が PDGF-AB 分泌及び sCD40L の遊離に伴っていることを明 らかにしている. また, 糖尿病患者において, コラーゲン刺激によりリン酸化された HSP27 が細胞 外へ遊離されることを明らかにしている. 本研究では, コラーゲン刺激による血小板活性化におけ る HT 及び OLE の作用の詳細を明らかとすることを目的とし, 解析を行った. 【対象と方法】 実験は書面での同意を得た健常成人の血液を対象とした. 静脈血を採取し 1 時間静置した後, 遠 心分離法により多血小板血漿(platelet-rich plasma:PRP)を調整した. PRP を HT 及び OLE で前処 置したのちに, コラーゲンで刺激し, 光透過法及びレーザー光散乱システムを用いて血小板凝集能 を測定した. 血小板からの PDGF-AB の分泌, sCD40L の遊離及びリン酸化 HSP27 の遊離は ELISA 法に よって測定した. 細胞内の HSP27 のリン酸化は Western blot 法によって解析した.
【結果】 1)ヒト血小板において, HT は用量依存的(30, 70, 100 µM)にコラーゲン刺激による血小板凝集を 抑制した. また, OLE(500 µM)も HT と同様にコラーゲン刺激による血小板凝集を抑制した. これら の結果は先行研究と矛盾しないものであった. 2)ヒト血小板において, HT(100-150 µM)及び OLE(500 µM)は各々単独では何ら影響を及ぼさなか ったが, コラーゲン刺激による血小板からの PDGF-AB の分泌及び sCD40L の遊離を有意に抑制し, さ らに細胞内の HSP27 のリン酸化及び血小板からのリン酸化 HSP27 の遊離も有意に抑制した. 【考察】 細胞外の HSP27 は, 炎症反応の制御因子の一つとして機能することが明らかとされている. また, 細胞外の HSP27 はマクロファージにおいて炎症性サイトカインである interleukin-1βや tumor necrosis factor-α等の分泌を促進することが報告されており, HSP27 の血管炎症への関与が示唆 されている. 血管炎症はアテローム性動脈硬化症の進行と密接に関連しており, 慢性炎症性アテロ ーム性動脈硬化症病変による血管損傷部位では, 露出した内皮下コラーゲンが血小板の活性化を惹 起すると考えられている. 本研究では, ヒト血小板において HT 及び OLE はコラーゲン刺激による 血小板凝集を抑制するのみならず, HSP27 のリン酸化及びリン酸化 HSP27 の遊離を抑制すること, さらに PDGF-AB の分泌,sCD40L の遊離を抑制することが明らかとなった. 本研究で示されたように, HT 及び OLE はコラーゲン刺激による血小板活性化においてリン酸化 HSP27 の遊離を抑制的に制御し ており, オリーブオイル摂取による脳梗塞等の動脈硬化性疾患の発症を抑制する機序の一端である ことが示唆された. 【結論】 ヒト血小板において, HT 及び OLE はコラーゲン刺激による細胞内 HSP27 のリン酸化を抑制し, 血 小板からのリン酸化 HSP27 の遊離を抑制することが示唆された. 論 文 審 査 の 結 果 の 要 旨 申請者 水谷大佑は, オリーブオイルの主要なポリフェノール化合物である hydroxytyrosol 及び oleuropein が, コラーゲン刺激によるヒト血小板活性化凝集を抑制し, 細胞増殖や炎症に関与する platelet-derived growth factor-AB や soluble CD40 ligand, リン酸化 HSP27 の分泌や遊離を抑制 することを示した. 本研究の成果は, 脳梗
塞等の動脈硬化性疾患に対するオリーブオイルの発症抑制機序の一部を明らかにしたことから, 脳 神経外科学の進歩と発展に少なからず寄与するものと認められる.
[主論文公表誌]
Daisuke Mizutani, Takashi Onuma, Kumiko Tanabe, Akiko Kojima, Kodai Uematsu, Daiki Nakashima, Tomoaki Doi, Yukiko Enomoto, Rie Matsushima-Nishiwaki, Haruhiko Tokuda, Shinji Ogura, Hiroki Iida, Osamu Kozawa, Toru Iwama: Olive polyphenol reduces the collagen-elicited release of phosphorylated HSP27 from human platelets.
Bioscience, Biotechnology, and Biochemistry 84, 536-543 (2020). doi:10.1080/09168451.2019.1697196.