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建築契約に関するドイツ民法典改正について : 改正法の概要と試訳

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研 究 ノ ー ト

建築契約 に関するドイツ民法典改正 について

改正 法の概要と試訳

目 次 I  は じ め に H  ド イ ツ に お け る 改 正 議 論 の 展 開 と そ の 背 景 Ⅲ  請 負 契 約 及 び 請 負 に 類 似 す る 契 約 規 定 の 内 容 Ⅳ  お わ り に I は じ め に

永  岩  慧  子

ド イ ツ で は,[ ̄建 築 契 約 の 改 正 , 売 買 法 上 の 瑕 疵 責 任 の 変 更 , 民 事 訴訟 法 の 権利 保 護 の強 化並 び に 土地 登記 簿及 び 船 籍 登 録簿 手 続 き に お け る 機 械 的 公 印 に つ い て の 法 律 」( 以 下 ,[ ̄改 正 法 ] とい う 。) が , 2017 年 3月 9日 に ド イ ツ 連 邦 議 会 で 議 決 さ れ, 同 年 5 月 4 日 に公 布 さ れ た1。 こ の 法 律 は, 2018 年 1月 1 日 に 施 行 が予 定 さ れ て い る。 本 稿 は , 請 負 契 約 法 の 改 正 を 検 討 の 対 象 と す る が2, そ こ で は , 請 負 契 1 2 Gesetz zur Reform des Bauvertragsrechts, zur Anderung der kaufrechtlichen Mangelhaftung, zur Starkung des zivilprozessualen Rechtsschutzes und zum maschinellen Siegel im Grundbuch- und

Schiffsregisterverfahren, Bundesgesetzblatt Tei囗2017, S.969ff. こ の 法 律 は,民 事訴 訟 法 や土 地 登 記 法 の改 正 も 含 む が, 本 稿 で は, ド イ ツ 民 法 と, 関 連 す る ド イ ツ 民 法 施 行 法 を 検 討 の 対 象 と す る。 な お , 売 買 法 の 改 正 箇 所 に つ い て 政 府 草 案 を 紹 介 す る も の と し て , 古 谷 貴 之 匚ド イ ツ 売 買 法 に お け る 瑕 疵 責 任 の改 正 一2016 年 5月18 囗ド イ ツ 連 邦 政府 改 正 草 案 の 紹 介 −」 産 大 法 学50 巻 3・4 号(2017 年) 269 頁 が あ る。 (65 ) 92

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約 法 の 構 造 的 部 分 に変 更 が 加え ら れ てい る。 な お, 改 正 の 中心 は 建 築 契約 に 関 す る 新 た な 規 定 の 取 り 入 れ であ る が, 現 行 の 請 負 契約 一 般 に 関 す る規 定 に お い て も, 報 酬 の 部 分 払3に 関 す る 規 定 , 引 取 に 関 す る 規 定 , 解 約 告 知(Kundigung) に 関 す る 規 定 につ い て , い く つ か の 重 要 な変 更 が な さ れ て い る。 そ し て, こ れ ら の 規 定 に お け る 改 正 も ま た, 主 に 建築 契約 の よ う に 一定 程 度 長 期 に及 ぶ契 約 に 対 応 す る こ と を 念 頭 に 置 い た もの であ る。 以 下 で は, そ れ ら も含 め, 建築 契約 に 関 す る ド イ ツ 請 負 契約 に お け る 改正 法 に つい て, 改正 議論 の 展 開 と そ の 背 景, さ ら に 改 正 法 の 内 容 に つい て 概 観 す る。 な お, 以 下 に お い て, 今 回 の 改正 に よ っ て 変更 が 加 え ら れ た 条 文 に つ い て は, 現 行 法 を[ ̄現 行 ○ 条 ] と 表 記 し, 2017 年 改 正 法 に つ い て は[ ̄改 正 法 ○ 条 ] と 表 記 す る4。 ま た, 請 負契 約 法 に お け る 構 造 的 な 変化 に 伴 い, 条 文 の 位 置 の 変更 が な さ れ てい る も の も 多い が, 本 稿 で は 内 容上 変更 のあ る 規 定及 び 新 設 さ れ た 規定 を 検 討 の 対 象 と す る。 請 負 規 定 に お け る 改 正 部 分 の 体系 上 の 位 置 付 け と, 請 負 規定 全 体 に お け る 現 行 法 の 修 正 の 有無 につ い て は, 末尾 の一 覧 表 を 参 照 さ れ た い。 H  ド イ ツ に お け る 改 正 議 論 の 展 開 と そ の 背 景 1。 改正議論の展開 1900 年のドイ ツ民 法典(以 下, BGB とする。 なお,以下特 に断 り 3 「’部 分 払 」 と い う 用 語 に つ い て, こ れ は, 現 行 ド イ ツ 民 法 第632a 条 の 規 定 上 ,“Abschlagszahlungen ” と さ れ て お り , 直 訳 す る と 匚一 部 払 」, 「’分 割 払 」 な ど と な るが , そ の 意 味 は , 建 築 給 付 の 進 捗 に 応 じ た , 既 履 行 部 分 に 対 応 す る 支 払 い で あ り, ド イ ツ 民 法 第641 条 に よ り 引 取 と 同 時 に 履 行 期 が到 来 す る最 終 的 な 報 酬 支 払 と は 境 界 づ け ら れ る。 ま た , 報 酬 の 前 払( V orauszahlung) と も 区 別 さ れ る。 一 定 額 に よ る 分 割 払 や 前 払 な ど と は 異 な る こ とを 示 す た め, 本 稿 で は 匚部 分 払 」 と訳 出 す る こ と と し た。 4  特 に 断 り の な い も の は, 今 回 の 改 正 に よ る 影 響 が な い 規 定 と す る。 97 (66)

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の な い場 合 は, BGB の条 文 と す る 。) 起 草 時 にお い て , 請 負 は広 範 な 契約 類型 を有 し, 建築 契約 もま た こ れ に 包含 さ れ る も の と し て 構 想 さ れ た5。 建築 契 約 に関 し て は, 瑕 疵 担 保 責 任 の 時 効 に 関 す る 規 定6及 び 建築 請 負 人 の 報 酬 債 権 の た め の 保 全 抵 当 権 の 設定 請 求 権 に つ い て の 規 定7の中 で 考 慮 さ れ て い た に す ぎ な い 。 そ の 後 の 改 正 で 2 ヶ条 が加 え ら れ, 現 行 の BGB に は,4 ヶ条 に 建築 契約 に 関 す る規 定 が存 在 す る8。 一方 , 建 築 契 約 に 関 す る 特 別 な 規 定 を BGB に 置 く べ き か は, こ れ ま で に 長 く議 論 さ れ て き た 問 題 で あ る9。 2002年 の 債 務 法 現 代 化 の 際 に も, 建築 法 に 関 す る 補 足 草 案(Erganzungsentwurf)10 が作 成 さ れ た が, 消 費 用動 産 売 買 指 令 を 含 む EU 指令 の 国 内 法 化 の 要 請 と い う 債 務 法 現 代化 の 事 情 の もと, 請 負契 約 法 に 関 し て は, 売買 と の 均質 化 が 優 先 す べ き 課 題 と さ れ た こ と な ど か ら, 建 築契 約 を め ぐ る 改 正 は 持 ち 越 さ れ る こ と と な っ た。 そ の後 , 建 築 契 約 に 関 す る 改正 は,2009 年 の 連 立 協 定(Koalition-svereinbarung) に 基 づ い て 政 府 に よ って 本 格 的 に 取 り 組 ま れ,2010 年 に は当 時 の 連 邦 司 法 省11に 作 業 グ ル ー プ が 設 置 さ れ た。 こ の 作業 グ

5 Vgl. Jochen Glockner, BGB-Novelle zur Reform des Bauvertragsrechts als Grundlage effektiven Verbraucherschutzes- Teil 1, VuR 2016, S.123-132. 6  債 務 法 現 代化 前 の 旧 BGB 第638 条 。 現 行 BGB で は 第634a 条 に 規 定 さ れ て い る。 7  現 行 第648 条。 本 規 定 は 債 務 法 現 代 化 の 際 に も 変 更 さ れ て い な い。 8  現 行 第632a 条[ 部 分払], 同 第634a 条[ 瑕疵 請 求 権 の 消滅 時 効], 同 第648 条[ 建 築 請 負 人 の 保 全 抵 当 権] , 同 第648a 条[ 建 築 職 人 の 担 保] に関 す る 規 定。

9 1984 年 の ド イ ツ法 律 家 会 議(55.Deutscher Juristentag Hamburg 1984) に お け る 議 論 な ど を 参 照。 Vgl. ZIP 1984, S. 1415.

10 Baurechtlicher Erganzungsentwurf zum Schuldrechtsmodernisie-rungsgesetz. Der Arbeitskreis Schuldrechtsmodernisierungsgesetz des Instituts fiir Baurecht Freiburg e.V. (IfBF), くhttp://www.ifbf.de/do wnloads / arbeitskreis・pdf〉。

11 BMJ, な お, 2013 年12 月 の 改 組 に よ り 現 在 は 連 邦 司 法 ・ 消 費 者 保 護 省 (Bundesministerium der Justiz und fiir Verbraucherschutz : BMJV) と な っ て い る。

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ル ー プ は, 2013 年 に 最 終 報 告 を と り ま と め た12。 2015年 9 月 に は, 連 邦司 法・ 消 費 者 保 護 省 に よ り, 参事 官 草 案(Referentenentwu 汀 ) が 公 表 さ れ, 2016 年 3 月 に 連 邦 参 議 院 に 提 出 さ れ, 修 正 を 経 て 承認 さ れ た13. 同 年 5 月18 日 に , 連 邦 議 会 に 政 府 草 案(Regierungsent-wurf, 以 下 , 政 府 草 案 と す る。) が 付 さ れ14, 審 議 が 行 わ れ た。 そ の 後, 司 法 ・ 消 費 者 保 護 委 員 会 (Ausschuss filr Recht und Verbrau-cherschutz) に よ る 修 正 案 ( 以 下 , 修 正 案 とす る。) に つ い て の 決 議 勧 告 が2017 年 3月 8 日 に示 さ れ15, こ の 修正 案 の 内容 が 連 邦 議 会 に よ り 改 正 法 と し て 議 決 さ れ, 成立 に至 っ た。 2。 改 正 の背 景 上 述 の よ う に, 現 行 法上 , 建 築契 約 は 請 負 契約 の一 つ と し て 把 握 さ れ, BGB 上 に 統 一 的 な 規 定 は 存 在 し な い 。 そ の 一 方 で ,「 ̄建 築 法 (Baurecht) 」 は, ド イ ツ に お い て は , 学 問 上 一 つ の 法 領 域 と し て 確 立 し てい る と いえ , こ れ は, ド イ ツ に お け る 建築 契約 の重 要 性 と, こ の 領 域 が 有 す る 特 殊 性 を 表 し て い る よ う に思 わ れ る。 こ こ で, 建築 契 約 の 特 徴 と し て, 契 約 内容 の 複 雑 性 (komple x) と, 長 期 に渡 る履 行 期 間 が 挙げ ら れ る16。 そ のよ う な 契 約 に 対し て, BGB 上 の 請負 契 約 法 は, 一 般 的・ 包 括 的 な 規 定 であ り, 十 分 で は な い と 指 摘 さ れ る17。 実 際 上 , 現 在 の 建 築 契 約 に お け る 問 題 の 解 決 は, BGB に お け る 請 負 規

12 Abschlussbericht der Arbeitsgruppe Bauvertragsrecht beim Bundes-ministerium der Justiz, くhttps://www.bmjv.de/SharedDocs / Gesetzge bungsverf ahren/Dokumente / Abschlussberich廴AGBauvertragsrecht・ pdf).

13 BR-Drucks. 123/16・

14 Entwurf eines Gesetzes zur Reform des Bauvertragsrechts und zur Anderung der kaufrechtlichen Mangelhaftung, BT-Drucks. 18/8486・ 15 Beschlussempfehlung und Bericht des Ausschusses fiir Recht und

Verbraucherschutz, BT-Drucks. 18/11437. 16 BT-Drucks. 18/8486, S.l・

1 7 BT-Drucks. 18/8486, S.l.

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定 に 求 め ら れ る の で は な く, 当 事 者 の合 意 な い し 裁判 例 に 委 ね ら れ て い る 状況 が あ る18。

こ こ で, 建 築契 約 に つ い て は, ド イ ツ の 建 築 請 負契 約 で 一 般 に 使 用 さ れ て い る建 設 工 事 請 負 規 則(Vergabe- und V ertragsordnung flir Bauleistungen ; VOB19) の 一 般 契 約 条 件 規 定 で あ る B 部 ( 以 下 , VOB/B と す る 。) の 機 能 が 重 要 で あ る。 ド イ ツ に お け る 建 築 契 約 法 の学 説 上 の 議 論 も ま た, BGB よ り む し ろ , VOB/B を 中 心 と す る 独 自 の 法 領 域 と し て 発 展 し た と の 指 摘 が あ る20。 な お , VOB/B は当 事 者 の 合 意 に よ っ て 適 用 さ れ, ド イ ツ に お け る 建 築 契 約 は, VOB 契 約 と BGB 契 約 に 区 別 し て 論 じ ら れ る が, VOB/B の合 意 が な い 建 築 契 約 の場 合 に も, BGB の 規 定 の 解 釈 上, そ の 影 響 は 少 な く な い21。 以 上 の よ う な 点 か ら , 建 築 契 約 に お い て, VOB/B は, BGB の 規 定 を 補 充 す る も の と し て 機 能 し て い る と い え る 。 VOB/B は, 実 際 の 建築 契 約 に お い て約 款 と し て 位 置 付 け ら れ る が, BGB 第310 条 1 項 3 文 に Q ︰ ︶   Q び I   I 20 21 BT-Drucks. 18/8486, S.l・ こ れ は , 法 律 で も 政 令 で もな く, 建 築 請 負 契 約 委 員 会 (DVA) によ り , 本 来 は 公 共 工 事 を 目 的 と し て作 成 さ れ た 建 築 規 定 で あ り , A 部 が 建 設 工 事 の 発 注 に 関 す る 一 般 規 定 , B 部 が 施 工 に 関 す る 一 般 契 約 条 件 規 定 ,C 部 が 一 般 技 術 規 定 で あ る 。 VOB の B 部 は , 建 築 請 負契 約 の 当 事 者 間 に お い て そ の 適 用 が 合 意 さ れ る 限 り で , 契 約 条 件 と し て 効 力 が 認 め ら れ , ド イ ツで は 民 間 工 事 で もし ば し ば 用 い ら れ て お り, 日 本 で い う 建 設 工 事 請 負 契 約 約 款 と 同 様 の 機 能 を 果 た し て い る。 Vgl. Busche, in : Miinchener Kommentar zum BGB, 7 AufL, 2016, §631 Rn.151. ( 以 下 , MunchKommBGB で 引 用 す る。 )

Voit, Brauchen wie ein Bauvertragsrecht im BGB?, iM 2015, 402(403)。 例 え ば , 注 文 者 の 指 図 , 供 給 さ れ た 材 料 及 び 他 の 請 負 人 の 給 付 に 対 す る 請 負 人 の 調 査 ・ 指 摘 義 務 を BGB 上 も 肯 定 す る (BGHZ 174,110=NJW 2008,511. VOB/B 第13 条 第 3 項 , 第 4 条 第 3 項 に 規 定 が あ る 。) ほ か , 引 取 り 前 に 現 れ た 瑕 疵 に つ い て, VOB/B 4 条 7 項 は, 引 取 り 前 に 存 在 す る 瑕 疵 に 対 す る 請 負 人 の 除 去 義 務 を 規 定 し てい る が ,VOB /B の 合 意 が な い 場 合 で も 同 様 に 解 す る べ き で あ る と す る 見 解 な ど が あ る 。 Vgl. Peters/Jacoby, in : J. von Staudinger, Kommentar zum Biirgerlichen Gesetzbuch: Staudinger BGB − Buch 2: Recht der Schuldverhaltnisse §§631-651 (Werkvertragsrecht) ,Neubearbeitung, 2014,§633 Rn.89。

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よ り , 契 約 締 結 時 に 通 用 し て い る 版 の VOB/B が , す べ て 変 更 な く 契 約 で 取 り入 れ ら れ た場 合 に は, BGB 第307 条 に よ る 個 別 規 定 に 関 す る 内 容 規 制 の 適 用 が 排 除 さ れ る22。 な お , 以 上 の 内 容 規 制 に 関 す る 特 権 は, 事業 者 間 の 取 引 の 場 合 に の み妥 当 す る23。 し た が っ て , 消 費 者 が 関 与 す る 契 約 に お い て VOB/B が 変 更 な く 合 意 さ れ た場 合 で も, BGB 第310 条 1 項 3 文 に 従い , 内 容 規 制 に 服 す る24。 以 上 のよ う な 約 款 規 制 に よ る VOB/B の 機 能 を め ぐ る 変 化 は , 今 回 の 改 正 の 背 景 に お け る重 要 な 契 機 の一 つ と し て 指 摘 さ れ てい る25。 ま た, 今 回 の 改 正 で は, 以 前 か ら 議論 さ れ て き た よ う な, 複 雑 か つ 長 期 に 渡 る 建 築 契 約 に 対 す る BGB 上 の規 定 の 空 白 に 加 え , 消 費 者 保 護 の観 点 が 強 調 さ れて い る。 家屋 の建 築 や 改築 とい った 契 約 は, 通常 , 消 費 者 に と っ て 経 済上 大 き な 負 担を 伴 う もの であ り, 建築 物 の 完成 の 遅 れ に よ る 予 想 外 の追 加 費 用 の 発生 や, 建築 請 負 人 の 破 産 リ ス クは 深 刻 な 影 響 を 与 え う る26。 さ ら に , 消 費 者 が 建 築 につ い て の 専 門 知 識 を 有 し ない こ と に 対 す る 配 慮 も必 要 と さ れ る。 22 BGB 第310 条 1 項 3文 は, 2009 年 1月 1 囗の 債権 担 保 法(Forderung-ssicherungsgesetz) 施行 の 際 に挿 入さ れ た。 23  こ の 点, か つ て の ド イ ツ 連 邦 通 常 裁 判 所 ( 以 下, BGH と す る。 本文 中 も 同 様 と す る。) 判 決 (NJW-RR 1990, 156) は ,VOB/B が , 一 部 に お い て は 発 注 者 の 利 益 を , ま た一 部 で は受 注 者 の 利 益 を 考 慮 す る もの で あ る こ と か ら, そ れ が 全 体 と し て 包 括 的 に 合 意 さ れ る 限 り で は, 関 係 す る 利 益 に つ い て 均 衡 の と れ た 調 整を 保 証 す る も の で あ る と の 見 方 を 示 し て い た。 し か し, 2007 年 の BGH (NZBau 2008,640) は , か つ て の 判 例を 一 部 変 更 し , こ の 例 外 が 事 業 者 間 の 取 引 の 場 合 に の み 妥 当 し , 消 費 者 契 約 に つ い て は 内 容 規 制 に 服 す る と の 判 断 を 示 し た。 Vgl. MunchKommBGB /Busche, §631 Rn.152・ 24 MunchKommBGB /Busche, §631 Rn.152・ 25 VOB/B は , そ の条 項 の有 効 性 の問 題 が重 要 で は な い 場 合 に の み 機 能 す る こ と か ら, 無 効 な 取 引 条 件 に対 す る重 大 な リ ス クを 前 に , も は や 十 分 な 役 割 を 有 し な い と の 見 方 が示 さ れ る 。 Vgl. Glockner, a.a.O., VuR 2016, 123. ま た, VOB/B が 本 来 的 に 公 共 工 事 を 想定 す る 規 定 で あ るこ と か ら, 消 費 者 建 築 契 約 に つ い て は 十 分 に 機 能 し な い と の 指 摘 も あ る。 Vgl. Voit, a.a.O., jM 2015, 402.

26 BT-Drucks. 18/8486, S.l.

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Ⅲ  請負 契 約 及 び請 負 に類 似 す る契 約 規 定 の 内 容 1。 改 正 法 にお け る 請 負 契 約 法 の構 造 今 回 の 改 正 に よ り, 現 行 BGB の請 負 契 約 法 に 構 造 的 な 変 化 が生 じ る。 現 行 法 で は, 第 2編 債 務 関 係 法 第 8章 個別 的 債務 関 係 の 第 9 節 に, [ ̄請 負 契 約 及 び類 似 す る契 約] とし て , 第 1款 に[  ̄請 負 契 約], 第 2 款 に[  ̄旅 行 契約] が 規定 さ れ て い る。 こ れ に 対 し て 改正 法 は, ま ず, 第 1 款 の 請 負 契約 を, 新 た に目 を 置 く こ と に よ っ て 分 類 す る。 第 1 日 に 総則 と し て 請 負契 約一 般 に つ い て の 規定 を 置 き, 第 2 日 を[  ̄建 築契 約 (Bauvertrag)」 , 第 3日を[  ̄消 費 者建 築 契約(V erbraucherbauvertrag)」 と す る。 こ れ ら の 目 は 段 階 的 関 係 に あ り, 第 1 款 の 請 負契 約 の 第 1 日 は, す べ て の 請 負 契約 につ い て 共 通 し て 適用 さ れ る一 般 規 定 で あ る。 第 2 日 建 築契 約 で は, 現 行 法 の 第 1 款 に お い て 分 散 し て 置 か れ て い た 規定 を含 む, 建築 契約 につ い て 適 用 さ れ る 特 別 な ル ー ル を, 新 た に 一 つ の 目 と し て 規定 す る。 第 3 日 は, 建築 契約 の 中 で も, 消 費 者 に よ る 建築 契約 につ い て の 特 別 な 規定 を有 す る。 し た が っ て, 第 2 日 及 び 第 3 日 は , 第 1 日 の 規定 を 補 充 す る も ので あ り27, 第 3 日 の 消 費 者 建 築 契約 につ い て 第 2 日 の 建築 契約 は一 般 規 定 と し て 位 置 付 け ら れ る。 さ ら に, 現 行 の 第 2 款 旅 行契 約 を 第 4 款 と し, そ の 間 に, 第 2 款[  ̄建 築 家 契 約(Architektenvertrag) 及 び 技 術 者 契 約(Ingenieurvertrag)」 , 第 3款[  ̄建 築 業 者 契 約(Bautragervertrag)28」 を 置 く 。 こ れ ら の 契 約 は, 請 負契 約 に 類 似 す る 契約 と し て, 現 行 法上 の 旅 行契 約 の 位 置 付 27 BT-Drucks. 18/8486, S.52・ 28  建 築 業 者 契 約(Bautragervertrag) の 訳 出 に つ い て , 我 が 国 に 定 訳 と さ れ る も の は 見 当 た ら ず, 匚施工 者 契 約 」, 匚建 築 供 託 業 者 契 約 」 な ど と 訳 出 す る も の も あ る が, 本 稿 で は 匚建 築 業 者 契 約 」 と す る。 こ の 契 約 の 意 味 に つ い て は 後 述 す る。 ( 77 ) 86

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け に 並 ぶ こ と に な る。 改 正 法 で は, 第 1 日 にあ た る, 現 行 の 請 負 の一 般 規 定 に おい て, 内 容上 の変 更を 加え る も の が 3 ヶ 条, 新設 条 文 が 2 ヶ条 , 条 文 の 位 置 的 な変 更 に よ る 修正 が 1 ヶ条 と な っ て い る。 そ し て, 改 正 法 の 中 心 で あ る, 建 築 契 約 を め ぐ る 規 定 の BGB へ の取 り入 れ に よ り , こ れ に 関 す る 規 定 と し て , 改 正 法 第650a 条 か ら650v 条 ま で の22 ヶ条 が 新設 さ れ た。 2。 請 負 契 約 法 の一 般 規 定 にお け る 変 更 今 回 の 改正 で は, 建 築契 約を め ぐ る 新 た な 規定 に 加 え て, 改 正 法 に 第 1 日 と し て 置 か れ る 請 負 の一 般 規 定 で は, 報 酬 の 部 分 払 に 関 す る 規 定 ( 現 行 第632a 条 ), 引 取 に 関 す る 規 定 ( 現 行 第649 条 ), 重 大 な 事 由 に よ る 解 約 告知 に 関 す る 規 定 ( 改 正 法 第648a 条 に 新 設 ) につ い て 重 要 な変 更 が 行 わ れ た。 (1) 部 分 払 に関 す る規 定 の変 更 現 行 第632a 条 は , 部 分 払 に 関 す る 規 定 で あ り ,2000 年 3 月30 日 の 改 正29に よ っ て 新 設 さ れ た 。 ま た ,2008 年10 月23 日 の 改 正30に お い て も修 正 が 加え ら れ て い る。 現 行 第632a 条 1 項 は, 部 分 払 の時 ま で に な さ れ た 給 付 によ って 注 文 者 が 得 た 「 ̄価 値 の 増 大 分(Wertzuwa-chs)」 に よ っ て 部 分 払 が 算 定 さ れ る と 規 定 し てい る。 こ の 規定 につ い て は , 実 際上 , 価 値 の 増大 分 の 算 定 の 困難 性 が 指 摘 さ れ てい た31。 そ

29 Gesetz zur Beschleunigung falliger Zahlungen vom 30. 3. 2000, BGBL I S. 330; dazu BT- Drucks. 14/1246. 2000 年 5 月 1 囗に 施 行 さ れ た。 30 Gesetz zur Sicherung von Werkunternehmeranspriichen und zur

verbesserten Durchsetzung von Forderungen (F orderungssicherungs-gesetz − FoSiG) v. 23. 10. 2008, BGB1. I S. 2022. 2009 年 1月 1 囗に 施 行 さ れ た。

3 1 BT-Drucks. 18/8486, S.47.

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こ で , 今 回 の 改 正 に よ り , 部 分 払 の 対 応 す る 部 分 の 給 付 の 価 値 (Wert) が, 算定 の 根 拠 と さ れ る 。 こ の 修 正 は, 部 分 払 にお け る 算 定 を 単 純化 す る もの で あ る と さ れ る32。 ま た, 今 回 の 改 正 で は, 現 行 第632a 条 1項 2 文 に よ る , 本 質 的 な 瑕 疵 に よ る 部 分 払 の 拒 絶 に 関 す る 規 定 に 変 更 が 加 え ら れ た 。 現 行 第 632a 条 1 項 2文 は, 注 文 者 に 対 し , 本 質 的 で は な い 瑕 疵 を 理 由 に 部 分 払 を 拒 絶 す る こ と は で き な い と す る。 し か し, こ の 規定 を め ぐ っ て は, 本質 的 な 瑕 疵 と 本 質 的 で は な い 瑕 疵 の 境 界 が 実 務 上 問 題 と な っ て い た。 さ ら に, 本 質 的 な 瑕 疵 を 理 由 と す る 部 分 払 の 拒 絶 に 関 し て は, 請 負 契 約 法 の 本 質 的 な 原 理 原 則 に 矛 盾 す る と 指 摘 さ れ る33。 つ ま り, 請負 人 は, 引取 の時 点 に お い て瑕 疵 の な い 仕 事 の製 作 を 義 務 付 け ら れ, 製 作 段 階 に生 じ た 瑕 疵 を い つ 除 去 す る か につ い て は, 原則 と し て 請 負 人 の 自 由 に委 ね ら れ て い る。 そ こ で, 改 正 法 に お い て は, 本質 的 な 瑕 疵 を 理 由 と し て, 部 分 払 を 完 全 に 拒 絶 す る 権 利 を 注 文 者 は 有 す る の で は な い と さ れ る34。 改正 法 は , 契 約 で 取 り 決 め た状 態 か ら の 相 違 が 存 在 す る場 合, 注 文 者 は, こ れ に 相 当 す る 部 分 の 支 払 の み を 渡 さ ず に お く(einbehalten) こ と がで き ると 解 さ れ る35。 し たが っ て, 契約 に従 っ た 給 付 か ら の 相 異 が 本 質 的 で あ る か 否 か に は 依 存 し な い。 な お, 改正 法 に お い て 新 設 さ れ た 3 文 は, 仕 事 の状 態 が 契約 に 従 っ た も の で あ る か に つ い て の 証 明 責 任 が, 引取 前 に お い て は 請 負 人 に 存 在 す る と い う以 前 か ら の 解 釈 を 明 文 化 し た も の で あ る。 こ の ほ か, 現 行 第632a 条 の 2 項及 び 3 項 は, 改正 法 にお け る 構造 的 な変 更 に よ り, 2 項 に つ い て は 第 3 款 の 建 築 業 者契 約 の 箇 所 に,3 項 に つ い て は 注 文 32 BT-Drucks. 18/8486, S.47 33 BT-Drucks. 18/8486, S.47 34 BT-Drucks. 18/8486, S.47 35 BT-Drucks. 18/8486, S.47 ( 刀 ) 討

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者 が 消 費 者 で あ る 場 合 の建 築 契 約 に 関 す る 規 定 で あ る こ と か ら, 第 1 款 第 3 日 の 改 正 法 第650m 条 に 規 定 さ れ て い る。 こ こ で, 報 酬 の 部 分 払 は, 請 負人 の先 履 行 義 務 を 緩 和 す る 意 味を 有 し て い る た め, 一 方 で, 報 酬 の 事実 上 の 前 払 いを 回避 し, 注文 者を 保 護 す る 必 要 性 が 指 摘 さ れ る36。 こ れ に 対 し て は, 改 正 法 で 新 た に取 り 入 れ られ た, 消 費者 建築 契 約 に おけ る 部 分払 に 関す る 特別 な 定 め によ っ て 調 整 さ れ る と 説 明 さ れ て お り, こ の点 につ い て は 後 述 す る。 (2) 引 取 に関 す る規 定 の変 更 今 回 の 改正 で は, 引 取 に 関 す る 規 定 で あ る 現 行 第640 条 につ い て, 引取 の 擬 制(Abnahmefiktion) に 関 す る 変 更 が 加 え ら れ た 。 引 取 擬 制 は , 現 行 第640 条 1 項 3文 に 規 定 さ れて い る が37, 改 正 法 で は こ の 規定 に 修 正を 加え , 新 た な 2 項 と し て取 り 出 し た。 こ れ に よ り, 現 行 の 2 項 が 改正 法 で は 3 項 と な っ た。 な お, 引 取 擬 制 に 関 し て は, 政 府 草案 の の ち に, 修 正案 に お い て 文言 上若 干 の 変更 が 加 え ら れ て い る。 こ こ で , 引 取 は 注 文 者 の主 た る 義 務 で あ る と さ れ38, 請 負 契 約 に お い て 重 要 な 意 義を 有 し てい る。 条文 上 明 ら か な 効 果 と し て は, 報 酬 の 弁 済 期 の 到来 ( 第641 条), こ れ に伴 う 利 息 の発 生 ( 第641 条 4項 ), 対 価 危 険 及 び 給 付 危 険 の移 転 ( 第644 条 , 第645 条 ), 瑕 疵 に 基づ く 権利 の時 効 の 進 行 開始 ( 第634a 条 1項 1 号 及 び 2号 ) が, 引 取 に よ っ て生 じ る。 ま た, 支 配 的 な 見 解 は, 瑕 疵 を 理 由 と す る 権利 に 関 す る 規 36 Vgl. BT-Drucks. 18/8486, S.47・ 37  現 行 第640 条 1 項 匚注 文 者 は, 仕 事 の 性 質 に よ っ て 引 取 が 排 除 さ れ る も の で な い 限 り , 契 約 に 従 っ て 製 作 さ れ た 仕 事 を 引 き 取 る 義 務を 負 う 。 引 取 は , 本 質 的 で な い 瑕 疵 の た め に , こ れ を 拒 絶 す る こ と は で き な い 。 注 文 者 が , 仕 事 を 引 き 取 る 義 務を 負 う に も か か わ ら ず, 請 負 人 が 注 文 者 に 定 め た 相 当 な 期 間 内 に 引 き 取 ら な い と き は, 引 取 が 行 わ れ た も の と 同 様 と す る。」

38 Genius, in: juris Praxiskommentar BGB, 8.Aufl・ , 2017,§640 Rn.l. (以 下, jurisPK で引 用 す る。)

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定 ( 第633 条 か ら 第639 条 ) は, 引 取 に よ っ て 適 用 が 開始 す る と 解 し て い る39。 な お , 仕 事 の 性 質 上 , 引取 が 排 除 さ れ る 場 合 に は, 仕 事 の 終了 (Vollendung) が こ れ に代 わ る ( 第646 条 )。 以 上 の よ う に, 引取 に よ る 法 的 効 果 が 生 じ る こ と は, と り わ け, 報 酬 の 支 払 を め ぐ っ て 請 負人 に と っ て 重 要 で あ る こ と か ら, 引取 擬 制 に 関 す る 現 行 第640 条 1 項 2 文及 び 3 文 が ,2000 年 の 改 正40に よ っ て 加 え ら れた41。 こ の規 定 は, 引 取 の 効 果 を 生 じ さ せ る 場 合 を 明 確 とし , こ れ に よ っ て 請 負 人 に よ る 報 酬 請 求 を可 能 と す る こ と を 意 図 し た も の で あ る。 現 行 第640 条 1 項 3 文 は, 注文 者 が 引取 を義 務 付 け ら れ て い る に もか か わ ら ず, 請 負人 に よ っ て 引取 の た め に 設定 さ れ た 相 当 期 間 内 に 注文 者 が 仕 事 を 引 き取 ら な い場 合 に は, 引取 が 行 わ れ た の と 同 様 の 効 果 が 生 じ る と 規 定 す る42。 し か し, こ の引 取 擬 制 に 関 す る 規定 は 必 ず し も 十 分 に機 能 し て い な か っ た こ と が 指 摘 さ れ る43。 現 行 第640 条 1 項 3 文 に よ れ ば, 注文 者 が 引取 を 拒 絶 し た場 合, 結 局 の と こ ろ, こ の と き 「 ̄注 文 者 が 引 取義 務 を 負 う か 否 か」 が 問 題 と な る。 つ ま り, こ の 引取 拒 絶 が 正 当 な 理 由 に基 づ く か ど う か は, 現 行 第640 条 1 項 2 文 に 規定 さ れ る[ ̄本質 的 な 瑕 疵 ] が, 請 負人 に よ る 引 取 の 要 求 の時 点 に 存 在 し た か につ い て の判 断 を 必 要 と し, こ れ は, 通 常 の 場合 , 裁 判 上 の 手 続 き に よ っ て 確 か め ら れ る こ と に な る44。 こ の よ う な 規 定 は, 注文 者 が 瑕 疵 を 特 定 す る こ と な く, さ し あ た り 引 取 を 拒 絶 し て, 報 酬 39 jurisPK / Genius,§640 Rn.l. な お , 学 説 及 び裁 判 上 議 論 さ れ て い る と こ ろ で あ る。

40 Gesetz zur Beschleunigung falliger Zahlungen vom 30. 3. 2000, BGBL 1 S. 330; dazu BT- Drucks. 14/1246. 41 2000 年 の 改 正 前 の 規 定 に つ い て は , 右 近 健 男 編 『 注 釈 ド イ ツ 契 約 法 』 ( 三 省 堂, 1995 年) 426 頁-429 頁 [ 青 野 博之 ] を 参 照。 42  現 行 法 に お け る 引 取 擬 制 に 関 し て は , 藤 田 寿 夫 「’請 負 に お け る 瑕 疵 担 保 と 債 務 不 履 行」 香 川 法 学35 巻 4 号(2016 年) 411, 412 頁 を 参 照。 43 BT-Drucks. 18/8486, S.48・ 44 Vgl. BT-Drucks. 18/8486, S.48。 (75) 82

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の 支 払を 先 に 延 ば す こ と が 可 能 な状 況を 生 じ さ せ る と 指 摘 さ れ る45。 以 上 の よ う な状 況を 背 景 に, 注 文 者 に よ る 不 当 な 引 取 拒 絶 が 排 除 さ れ る べ き であ る と の 理 由 か ら, 改正 法 で は, 引取 擬 制 を生 じ さ せ な い た め に は, 単 に 引 取を 拒 絶 す る こ と で は 足 り ず, 瑕 疵 の主 張を 要 す る と の 変更 を 行 っ た。 今 回 の 改正 に よ り, 現 行 法 と は 異 な り, 本 質 的 な 瑕 疵 が実 際上 存 在 す る 場合 であ っ て も, 瑕 疵 につ い て の 指 摘 の ない 引 取拒 絶 は, 引取 の擬 制 を 妨 げ ない こ と にな る。 つ ま り, 請 負 人 に よ る, 引取 の た め の 相 当 な 期 間 の 設定 と と もに な さ れ る 引取 要 求 に 対 し, 注 文 者 が 何 ら の 意思 も表 示 し な か っ た 場合 , 又 は 注 文 者 が 瑕 疵を 指 摘 す る こ と な く 拒 絶 し た場 合 に も引 取 擬 制 が 生 じ る。 こ の と き, 瑕 疵 の 主 張 に つい て, 詳 細 な 説 明を 注 文 者 に 義 務 付 け る の で は な く, 例 え ば, 仕 事 が合 意 し た 性 状を 有 さ ない こ と を 伝 え る こ と で足 り る と さ れ る46。 な お, 改 正 法 に お い て も瑕 疵 が 本質 的 か 否 か とい う 困 難 な 問 題 は, 多 く の 場合 に 裁 判上 の手 続 き に お い て 確認 さ れ る こ と に な る が, 政 府 草 案 で 述 べ ら れ る と こ ろ に よ れ ば, 明 ら か に 瑕 疵 が 存 在 し な い場 合 や, 明 ら か に 本質 的 で は な い 瑕 疵を 注 文 者 が 主 張 す る 場合 , こ れ は 権利 濫 用 と な る 可 能 性 が あ る47。 こ こで ,以 上 のよ う な 変 更 に 対 して は, 政 府 草案 が示 さ れ た の ち に, 立 法 担 当 者 の 意 図 に反 し て, 請 負人 側 の 視点 か ら 批判 が 加 え ら れ た。 そ れ ら の 批判 は主 に, 政 府 草案 の 規 定 に よ る と, 注 文 者 は 何 ら か の 瑕 疵を 主 張 し て 拒 絶 し さ え す れ ば 容 易 に 引 取 擬 制を 免 れ う る とい う も の であ る48。 こ れ に対 し て , 司 法 ・ 消 費 者 保 護 委 員 会 によ る修 正 案 で は, 45 BT-Drucks. 18/8486, S.48・ 46 BT-Drucks. 18/8486, S.48・ 47 BT-Drucks. 18/8486, S.48・

48 Vgl. Ralph Kimpel, Der Entwurf des gesetzlichen Bauvertragsrechts aus Sicht des gewerblichen Unternehmers, NZBau 2016, 734. Kimpel は ,政 府 草 案 の 理 由 書 が 掲 げ る,「’引 取 の 不 当 な 拒 絶 ( 拒 絶 の 濫 用 ) は 排 除 さ れ な け れ ば な ら な い」と の 目 的 は, 草 案 の 規 定 に よ り 全 く 逆 の 結 果

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単 な る 瑕 疵 の 主 張 に よ っ て 引取 擬 制 が妨 げ ら れ る と い う 誤 解 が 排 除 さ れ る べ き で あ る と し て , 条 文 の 文 言 に 修 正 が 加 え ら れ た49。 こ こで , 引取 拒 絶 の 際 の 瑕 疵 の 表示 は, 引取 が生 じ な い た め に 十 分 な も の で な け れ ばな ら な い と 説 明 さ れ るが5o,改正 法 の 趣 旨 が実 務 上 達 せ ら れ る か, な お 議論 の余 地 が 残 さ れ る。 ま た, 改正 法 で は, 引取 擬 制 の た め の 要 件 と し て, 請 負 人 に よ る 引 取 の た め の 相 当 期 間 の 設 定 は , 仕 事 の 「 ̄完 成(Fertigstellung) 」 の の ち に な さ れ な け れ ば な ら な い こ と が 明 文化 さ れ た。 こ れ は, と り わ け 消 費 者 に 対 す る 関 係 に お い て, 引 取 擬 制 を 生 じ さ せ る 本 規定 の, 請 負 人 に よ る不 当 な 使 用 を 防 ぐ こ と を 目 的 と す る51。 さ ら に , 改 正 法 で 加え ら れ る 2 項 で は, そ の 2 文 に お い て, 注 文 者 が 消 費 者 で あ る場 合 につ い て 特 別 な 規定 を置 く。 注 文 者 が消 費 者 で あ る とき は, 請 負人 が, 引取 を 相 当 期 間 の 設定 と と もに 要 求 す る 際 に, 消 費 者 が そ の 期 間 内 に な ん ら の 意思 表示 を し な い か, 又 は 瑕 疵 の主 張 な し に 引取 を 拒 絶 し た 場合 に生 じ る 法 的 効 果 を 指 摘 し た場 合 に の み 引取 擬 制 の 効 果 が 生 じ る と す る。 な お, こ の 指 摘 は, テ キ ス ト方 式(Textform)02 で な さ れ な を もた ら す と 指 摘 す る。 現 行 の 第640 条 1 項 3文 に よ る 擬 制 は, 仕 事 が 客 観 的 に 引 取 に 値 す る 場 合 に, 注 文 者 が こ れ を 引 き 取 ら な い 場 合 に は 常 に 擬 制 が 生 じ , 注文 者 の 瑕 疵 の 主 張 に 関 す る 意 思 表 示 に 依 存 せ ず , す で に , 注 文 者 に 瑕 疵 に つ い て の 指 摘 を な す 義 務 を 負 わ せ る 意 味 を 果 た し て い る と す る。 ま た, Kimpel は, 政 府 草案 で加 え られ る 匚完 成(Fertigste-Hung) 」 の 概 念 に つ い て も, そ の 意 味 が 不明 確 で あ り, 引 取 擬 制 の 濫 用 や 匚早 す ぎ る 提 供」 を 防 ぐ た め に 有 用 で は な い と の 批 判 も 示 し て い る。 49  政 府 草 案 第640 条 2項 は ,“Als abgenommen gilt ein Werk auch, wenn

der Unterneher dem Besteller nach Fertgistellung des Werkes eine angemessene Frist zur Abnahme gesetzt hat und der Besteller die Abnahme nicht innerhalb dieser Frist unter Angabe von Mangeln verweigert hat. ” で あ っ た が , 改 正 法 で は ,“unter Angabe von Mangeln ” の 箇 所 につ い て,“unter Angabe mindestens eines Mangels ” に 変 更 さ れ た。

50 BT-Drucks. 18/1 1437, S.46,47・ 5 1 BT-Drucks. 18/8486, S.49・

52  テ キ ス ト 方 式 は, BGB 第126b 条 に 規 定 さ れ て い る。 BGB 第126b 条 は。

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け れ ば な ら ず, こ の 規 定 は 消 費 者 建 築契 約 の と き に は 片面 的強 行 規 定 と さ れ る ( 改 正 法 第6500 条)。 (3) 重 大 な 事 由 によ る解 約 告 知 に 関す る 規定 の新 設 一改 正 法 第648a 条 現 行 の 請 負 契 約 法 に は注 文者 の 自 由 な 解 約 告 知 権 につ い て, 第649 条 に 規 定 が あ る53。 こ れ に 加 え て , 新 設 さ れ る改 正 法 第648a 条 は, 当 事 者 双 方 に 対 し て 重 大 な 事 由 に よ る解 約 告知 権 を 認 め る54。 重 大 な 事 由 に 基 づ く 解 約 告 知 権 は, 現 行 法 上 , 継 続 的 債 務 関 係 に つ い て 第 314 条 に規 定 が あ る が, 請 負 は継 続的 債 務 関 係 で は な い こ と か ら, 直 接 に は 適 用 さ れ な い。 し か し, こ れ ま で も学 説及 び判 例 で は, 請 負 契 約 の 注文 者 に は, 自 由 な 解 約 告 知 権 に並 び, 重大 な 事 由 に よ る 解約 告 知 権 が 認 め ら れ て き た55。 こ の よ う な 権 利 が注 文 者 に 認 め ら れ る 根 拠 につ い て は, 学 説 上見 解 が 一致 し て い る わ け で は な い が, 第314 条 の 法 意 か ら, 一 定 の 期 間 に 渡 り 継 続 性 を有 す る 請 負 契約 につ い て も類 似 の 規 定 の 適 用 が 正 当 化 さ れ る と 指 摘 さ れて い る56。 と く に 建 築 請 負 契 約 の よ う に 継 続 性 を有 す る 仕 事 に 瑕 疵 が あ っ た場 合 に お い て は, 解 除 「’法 律 に よ り , テ キ スト 方 式[Textform ] が 規 定 さ れ て い る と き は , 表 意 者 そ の 人 が 明 示 さ れ る 可 読 的 な 表 示 を , 持 続 的 な デ ー タ 記 憶 媒 体 上 で 行 わな け れ ば な らな い。 持 続的 な デ ー タ 記 憶 媒 体 と は , 次 に 掲 げ る 要 件 を 充 足 す る 全 て の 媒 体 と す る。 1. 表 示 の 受 領 者 が , デ ー タ記 憶 媒 体 に存 在 す る, 自 己 に 個 人的 に 向 け ら れ た 表 示 を, そ の 目 的 の た め に 相 当 な 期 間 閲 覧 す る こ と が 可 能 で あ る よ う, 保 存 し 又 は 蓄 積 す る こ と が で き る も の で あ る こ と。 2. そ の 表 示 を 変 更 な く 再 現 す る こ と に 適 し た もの で あ る こ と。」と す る。 53  現 行 第649 条 は, 内 容 上 の 変 更 な く 改 正 法 で は 第648 条 と な る。 54 BT-Drucks. 18/8486, S.26.

55 Raab, in: Dauner-Lieb/Heidel/Ring (Hrsg.), Anwaltkommentar Deutscher Anwalt V erein BGB, Bd. 2, 2005,§649 Rn.32; MunchKomm BGB /Busche, §649 Rn.32. な お , 判 例上 は 債 務 法 現 代 化 に よ り BGB 第 314 条 が BGB に 取 り 入 れ ら れ る以 前 か ら, 請 負 契 約 に お け る 重 大 な 事 由 に よ る 解 約 告 知 を 肯 定 す る も の が みら れ る。 Vgl. BGHZ 45, 372= NJW 1966, 1713 ; BGHZ 31, 224. 二NJW 1960, 43 1 ; NJW-RR 1996, 1108・ 56 MunchKommBGB/Busche, §649 Rn.3 1 ; Looschelders, Schuldrecht

Besonderer Teil, 11・, neu bearbeitete Aufl・, 2016, S.273・

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よ り もむ し ろ, こ の重 大 な 事 由 に よ る 解 約 告 知 権 が重 要 な もの と し て 位 置 付 け ら れ る57。 な お, VOB/B 第 8 条 は注 文 者 に よ る解 約 告知 に つ い て詳 細 な 規定 を 置 い て い る。 以 上 の よ う な状 況 か ら, 改正 法 は, 第314 条 に 類 似 す る 規定 を 請 負 契 約 法 に 新 た に設 け , 実 務 に お け る 法 的 安 定 性 を も た ら す も の で あ る58。 改 正 法 第648a 条 1 項 は, 重 大 な 事 由 に よ る解 約 告 知 に つ い て , VOB/B 第 8 条 の よ う な 詳 細 な 規 定 を 置 く の で は な く , そ の 規 定 は BGB 第314 条 と ほ ぼ 同 様 の 形 を と る59。 改 正 法 第648a 条 に よ れ ば, 個 々 の場 合 に お け る す べ て の 事 情及 び双 方 の 利益 を十 分 に 比 較 衡量 し て, 仕 事 の完 成 ま で の 契約 関 係 の 継 続 が 期 待 さ れ 得 な い場 合 に, 重 大 な 事 由 が 存 在 す る と さ れ る ( 第648a 条 1 項 )。 改 正 法 の 条 文 上 , 何 か重 大 な 事 由 に 当 た る か に つ い て は 具 体 化 さ れ て い な い が, 政 府 草 案 の 理 由 中 で は, 請 負人 の 破 産 が 重大 な 事 由 と し て し ば し ば 生 じ う る こ と が 言及 さ れ て い る60。 こ の特 別 な解 約 告知 権 は, 実 務上 , 建築 契 約 につ い て認 め ら れ るヶ − ス が 多 い が , そ の ほ か に も 長 期 間 に 渡 り 継 続 し て 協 働 関 係 (Zusammenarbeit) に あ る 請 負 契 約 に つ い て , こ れ を 認 め る こ と に 同様 な利 益 状 況 が 存 在す ると し て, 第 2日 の 建築 契 約 の 箇 所 で は な く, 第 1 日 の請 負 契 約 の 一 般 規 定 に 置 か れ る こ と に な っ た61。 な お , 短 い 57  こ の 点 に つ い て , ペ ー タ ー・ シ ュ レ ヒ ト リ ー ム( 岡 孝 訳 ) 匚西 ド イ ツ 債 務 法 改 正 の 現 況 」 下 森 定 ほか 『 法 政 大 学 現 代 法 研 究所 叢 書 9 西 ド イ ツ 債 務 法改 正 鑑 定 意 見 の研 究 』( 法 政 大 学 出 版 局, 1988 年) 684 頁 以 下 にお い て も, 匚重 大 な 理 由 に も とづ く 継 続 的 関 係 の告 知 も, 解 消 に 向 け ら れて い る 給 付 障 害 を 理 由 と す る 一 つ の 法 的 救 済 と し て , こ の 関 係 で は と り 出 す こ と が で き る だ ろ う」 と 指 摘 さ れ て い る。 58 BT-Drucks. 18/8486, S.49・ 59  な お, 改 正 法 第648a 条 3項 に よ り , 第314 条 2項 ,3項 は 準 用 さ れ る 。 60 BT-Drucks. 18/8486, S.50. 6 1 BT-Drucks. 18/8486, S.50, 51. 政 府 草 案 の理 由 書 で は, 例 と し て , 建 築 家契 約, 設 計 に 関 す る契 約, 大 規 模 な 電 子 デ ー タ 処 理 装 置 に 関 す る契 約, コ ン ピ ュ ー タ ー プ ロ グ ラ ム の 製 作 に 関 す る 契 約 が 挙 げ ら れ て い る。 (79) 78

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期 間 に 進 行・ 完成 す る 請 負 契約 につ い て は, こ こ で の 特別 な 解 約 告 知 権 は 適用 さ れ ない と 解 さ れ る62。 ま た, 改 正 法 第648a 条 2項 は, 一 部 解 約 告 知 が 可 能 で あ る こ と を 規 定 す る 。 こ れ は ,「 ̄義 務 付 け ら れ た 仕 事 の区 別 可 能 な 一 部 」 につ い て 適 用 さ れ な け れ ば な ら な い63。 次 に, 改 正 法 第648a 条 4項 1 文 は, 当 事 者 双 方 に 対 し て , 解約 告 知 の の ち に, 給 付 状態 の 確 認 に つい て 相 手方 当 事 者 に 協力 を 求 め る こ と が で き る と す る。 こ の 規 定 は, 解 約 告 知 ま で に な さ れ た 給 付 の評 価 に 資 す る もの であ り, 解約 告知 の時 点 に お け る労 務 の 状態 に 関 す る, の ち の 紛 争 を 回 避 す る こ とを 目 的 と す る64。 同 項 2 文 に よ り , 協力 を 拒 絶 し た 場合 , 又 は正 当 な 理 由 な し に, 合 意 し た, 若 し く は一 方 当 事 者 に よ り 相 当 な 期 間 内 に定 め ら れ た 期 日 を 欠 席 し た場 合 に は, そ の 者 が, 解約 告知 時 に お け る 給 付状 態 に つい て の 証 明 責 任 を 負 わ な け れ ば な ら ない 。 こ れ に よ り, 契 約 当 事 者 は, 解約 告知 の の ち に も協力 を 促 さ れ る こ と に な る65。 な お, こ の 確認 は 引 取 と は 異 な り , 引 取 に よ っ て生 じ る 法 的 効 果 を有 さ な い66。 改 正 法 第648a 条 5 項 は, 報 酬 に 関 し て , こ れ ま で の 裁 判 実 務上 の 判 断 を 明 文 化 す る67。 注 文 者 によ る 自 由 な 解 約 告 知 の 場 合 と 異 な り, 重大 な 事 由 に よ る 解約 告知 の場 合 に は, そ れ ま で に な し た 仕 事 につ い て の 報 酬 に 対 す る 請 求 権 の みを 請 負 人 は 有 す る こ と に な る。 さ ら に , 改 正 法 第648a 条 6項 に よ り, こ の重 大 な 事 由 によ る 解 約 62 BT-Drucks. 18/8486, S.51・ 63 BT-Drucks. 18/8486, S.51・ 64 BT-Drucks. 18/8486, S.51・ 65 BT-Drucks. 18/8486, S.51 で は , こ の よ う な 法 的 効 果 は , 契 約 当 事 者 の 協働 の 「’相 当 な イ ン セ ンテ ィ ブ(angemessener Anreiz)」と し て 作 用 す る と 指 摘 さ れ て い る。 66 BT-Drucks. 18/8486, S.51・ 67 BT-Drucks. 18/8486, S.52. Z7 ( 卻 )

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告知 は, 損害 賠 償 請 求 を 排 除 し な い。 例 え ば, 契 約 当 事 者 に 帰 責 性 の あ る 事 由 に よ っ て, 重 大 な 事 由 に よ る 特 別 な 解約 告知 が生 じ た 場合 に は, 損害 賠 償 請 求 権 も ま た 生 じ る こ と に な る68。 3。 建 築 契 約 に関 す る 規 定 の新 設 (1) 建 築 契 約 の定 義 一改 正 法 第650a 条 建 築契 約 は, 請 負契 約 の 特 殊 な契 約類 型 と し て 規定 さ れ る。 改正 法 は, 建築 契約 に 関 す る 現 行 の 請 負契 約 法 に 新 た な 規定 を 加 え, 第 2 日 に ま と め て 規 定 し, 改 正 法 第650a 条 に お い て 建築 契 約 に つ い て定 義 す る 。 改 正 法 第650a 条 1 項 は, 建築 契 約 を , 建築 物, そ の屋 外設 備 又 は一 部 の 製 作, 再 製 作 , 除去 又 は改 築 に つい て の契 約 と す る。 ま た, 改正 法 第650a 条 2項 に よ り , 建 築 物 の 維 持 補 修(Instandhaltung) に 関 す る 契 約 も , そ の 仕 事 が , 構 造(Konstruktion) , 存 続 (Bestand) 又 は 建 築 物 の 用 途 に 従 っ た 使 用 の た め に 本 質 的 な 意 味 を もつ 場合 に 限 り, 建築 契約 に含 ま れ る69。 (2) 契 約 の 変 更 を め ぐ る 規定 の 新 設 一改 正 法 第650b 条 , 第650c 条 。 第650d 条 注 文 者 に よ る契 約変 更 に 関 す る 規 定 は, 改 正 法 に お い て 重 要 な 位 置 を 占 め, 立 法 にあ た り 激 し く 議 論 が 行 わ れ た と こ ろ で もあ る。 長い 期 間 に 及 び, 複 雑 な 給 付 内容 を 目 的 と す る 建築 契約 に お い て, 実 務上 , 当 初 の契 約 内 容及 び 建 築 計 画 に 変更 が生 じ な い こ と は ほ と ん ど ない と さ れ て い る 。 現 行 BGB は, 注 文 者 の 契 約 内容 に 対 す る 変 更 の 指示 権 につ い て 規定 を 置 い て い な い が, 改 正 法 は こ れ に 関 す る 規 定を 新設 し た。 な お , VOB/B 第 1 条 3 項 及 び 4 項 は , こ れ ま で す で に 注 文 者 68 BT-Drucks. 18/8486, S.52 69 BT-Drucks. 18/8486, S.53 (8 7 ) 76

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の 指 示 権 につ い て 規 定 し , VOB/B 第 2条 5 項,6 項 が こ の指 示 に よ る契 約 内 容 の 変更 の場 合 の 追 加 の 報 酬 に つい て定 め て い る。 注 文 者 の 指示 によ る 契約 内容 の変 更 は, 建 築 給 付 の 実態 に即 す る もの で あ る が, 法 律 上 の 規定 と し て定 め る こ と の 積 極 的 意義 と し て, 建築 計画 の変 更 に お い て, し ば し ば 当 事 者 間 で 争い が生 じ, そ れ が 建 築 施 工 の 停 滞 を 招い てい る と い う 問 題 を 回 避 す べ き 点 が 強 調 さ れ る。 注 文 者 の 指示 権 を め ぐる 規 定 は, 指 示 権 の 行 使 に つ い て 定 め る 改 正 法 第650b 条 , 契 約 内 容 の 変更 に よ っ て 生 じ る 報 酬 の 増 額 又 は 減 額 につ い て 規定 す る 改 正 法 第650c 条, こ れ に 関 す る 仮 処 分 に つい て定 め る 改正 法 第650d 条 が一 体 と な っ て 機 能 す る。 な お, 以 下 で み る よ う に, 指示 権を め ぐ る 規定 は, 政 府 草案 の の ち に い く つ か の点 て変 更 が 加え ら れ てい る。 O ) 注 文 者 の 指 示 権 一改 正 法 第650b 条 改 正 法 第650b 条 は, 注 文 者 が 合 意 し た 仕 事 の 内 容 ま た は結 果 の 変 更を 求 め る と き, そ の 変更 と, こ の 変更 に よ っ て 生 じ る 報 酬 の 増 減 に つ い て , 当 事 者 は 協 議(Einvernehmen) に 努 め る もの と す る。 つ ま り, 請 負 人 は, 注 文 者 の変 更 の 指示 に よ っ て 生 じ た 増 加 費 用 に つい て 主 張 す る 機 会 を有 し, こ れ に 対 し て 当 事 者 が 合 意 に 向 け た 交 渉 を す べ き で あ る と す る。 政 府 草 案 か ら変 更 さ れ た 点 と し て, 請 負人 が 注 文 者 に よ っ て 提示 さ れ た 設 計 を 行 う の み な ら ず, 設 計 の 作成 自 体 も義 務づ け ら れ て い た よ う な 場合 に, 瑕 疵 の な い 仕 事 の 結 果 を達 成 す る た め に 変更 を 要 す る と き は ( 改 正 法 第650b 条 1 項 1 文 2号 ), 報 酬 に つ い て の 変 更 を 生 じ な い と す る規 定 が, 改 正 法 第650b 条 1 項 5文 に取 り 入 れ ら れ た。 こ れ は , 次 の 第650c 条 1項 2 文 に お い て も 明 確 に さ れ る。 こ れ に よ っ て, 改 正 法 第650b 条 1 項 5文 は, 改 正 法 第650b 条 に よ る 同 意 に 向 け た 協 議 が, そ の 変更 につ い て の み 生 じ, 報 酬 に 関 し て は 当 た ら な い こ と を示 す。 こ の よ う な場 合 の 変更 が, 報 酬 請 求 権 に つい て 効 果を 及 ぼ さ ない こ と の 当 然 の 帰 結 と し て, 報 酬 の 増 額 又 は 減 額 に 関 し て 提 案 75 (82)

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す る 請 負 人 の 義 務 もま た生 じ な い。 そ こ で, 新 た に取 り入 れ ら れ た 改 正 法 第650b 条 1 項 5 文 は, 同条 1 項 2文 が適 用 さ れ な い こ と を 明 確 に す る70。 ま た, 改 正 法 第650b 条 2項 1 文 に つ い て は, 修 正 案 に よ り , 当 事 者 の 交 渉 に 関 す る 期 間 の 規 定 が 新 た に 加 え ら れ, 政 府 草案 か ら 変更 が 行 わ れ た。 こ れ は, 報 酬 に 関 し て 請 負人 に与 え ら れ る 提案 の 機 会 が, 建築 の 進 行 を 不 当 に遅 延 さ せ る こ と を 回 避 す る こ と を 目 的 と し, 注 文 者 に よ る変 更 の 要 求 が 請 負 人 に 到 達 し た後30 日以 内 に, 当 事 者 が 第 1 項 に よ る 同 意 に 至 ら な い と き は, 注 文 者 は, こ の 変 更 を 指 示 す る こ と が で き る と す る。 ま た, こ の 指示 権 に つ い て, そ の 法 的 安定 性 と, 指 示 に 関 す る 証 明 に 資 す る た め , テ キ スト 方 式 (Textform) を必 要 と す るこ と も, 修 正 案 に よ っ て 改 正 法 第650b 条 2 項 1 文 に取 り入 れ ら れ た 。 こ の 方 式 に よ ら な い 指 示 は BGB 第125 条 に よ り 無 効 で あ る71。 な お , 政 府 草 案 か ら変 更 な く, 改 正 法 第650b 条 2 項 2 文 に よ り, こ の 指示 は 請 負人 に 過 大 で な い 場合 に の み義 務 付 け う る。 過大 で あ る か否 か の 判 断 に おい て は, 技術 的 な問 題 や, 請 負 人 の 能力 の ほ か, 取 引 上 の 慣 例 な ど, あ ら ゆ る 事 情 に よ っ て 当 事 者 双方 の利 益 が 考 慮 さ れ な け れ ば な ら な い と さ れ る72。 (ii ) 指 示 権 が 行 使 さ れ た 場合 の 報 酬 の 調整 一改 正 法 第650c 条 次 に, 改正 法 第650c 条 は, 改正 法 第650b 条 2 項 の 場合 に お け る 注 文 者 の 指 示 権 の 行 使 の 際 に, そ れ に よ っ て生 じ る 報 酬 の 増 加 又 は 減 少 の 算 定 基 準 に つ い て 定 め る ( 改 正 法 第650c 条 1 項 1 文,2 項 )。 注 文 者 に よ る 指示 に 関 し て は, そ の 場合 の 報 酬 の 算定 につ い て 争 い と な る こ と が多 く, そ の よ う な紛 争 を 回避 す る こ と を 目 的 と す る73。 70 Vgl. BT-Drucks. 18/11437, S.47 71 Vgl. BT-Drucks. 18/11437, S.47 72 BT-Drucks. 18/8486, S.54・ 73 BT-Drucks. 18/8486, S.56. (83) 74

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ま た , 改正 法 第650c 条 3 項 1 文 は, 部 分 払 の 範 囲 で, 指 示 権 の 行 使 に よ り 増 加 し た 報 酬 の 仮 の 概 算 請 求を 認 め る。 こ れ に よ り, 請 負 人 が 改 正 法 第650b 条 1 項 2文 に よ り 示 し た 申 し 出 に お け る 増 加 報 酬 の 80 パ ー セ ン ト を 見 積 もる こ と が 認 め ら れ る 。 こ の 規 定 は, と き に 長 期 に 及 ぶ 注 文 者 の 指示 権 と 報 酬 額 算 定を め ぐ る紛 争 に おい て, 資 本 流 動 性 の 問 題 に 関 わ る 請 負人 の リ ス クを 軽 減 す る も の で あ り, 他 方 で, 注 文 者 が 指示 の時 点 で, さ しあ た り 給 付 し な け れ ば な ら な い 額 を把 握 し う る と い う 意 味 で も利 点 があ る と さ れ る74。 なお , こ の と き 生 じ う る 問 題 と し て, 請 負人 が 明 ら か に高 く 見 積 っ た 増 加 報 酬 の 額を 提示 す る こ と が 指 摘 さ れ る。 こ れ に 対 し て, 改 正 法 第650c 条 3 項 3 文 前 段 によ り, こ の暫定 的 な 報 酬が , のち に 過分 で あ っ たこ と が明 ら か とな っ た場 合 に つ い て は, 注 文 者 に 返 還 請求 権 が 認 め ら れ る。 政 府 草 案 で は, 返 還 請 求 権を 認 め る 規 定 の み が 置 か れ て い た が, 注 文 者 保 護 の 観点 か ら 出 さ れ た 意 見を 受 け, 修 正案 に よ り, 請 負 人 に よ る 過大 な 増 加 報 酬 の 請 求 を 回 避 す る 規 定 が 追 加 さ れ た 。 修 正 案 で 追 加 さ れ た 改 正 法 第 650c 条 3項 3 文 後 段 及 び 4文 は, 請 負 人 が, 注 文 者 に 超 過 分 を 入 金 す る ま で, 利 息 が 発生 す る と す る。 こ れ に よ っ て, 請 負人 に よ る無 思 慮 か つ 過 大 な 概 算 請 求 を避 け る こ と が で き る と さ れ る75。 こ の ほ か 修 正案 に よ っ て 政 府 草案 に 加 え ら れ た 変更 と し て, 上 述 し た よ う に , 改 正 法 第650b 条 1 項 2 文 と 同 様 に, 請 負 人 が 契 約 上 の 義 務 と し て 設 計 を も 含 む 場合 に は, 結 果達 成 の た め の変 更 に つい て, 増 加 の 報 酬 請 求 権 が生 じ な い こ と を 明 確 に す る 規 定 が , 改 正 法 第650c 条 1 項 2 文 に 取 り 入 れ ら れ た。 な お , 政 府 草 案 第650c 条 4 項 で は, VOB/B が 合 意 さ れ る 契 約 の

74 Schramke/Keilmann, Das Anordnungsrecht des Bestellers und der Streit um die Vergiitung, NZBau 2016, 333 (338).

75 Vgl. BT-Drucks. 18/11437, S.48.

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場合 に, 注 文 者 の 指示 権及 び 報 酬 の 調整 に 関 す る 規定 が, 契約 締 結 当 時 通 用 し て い る VOB/B の 版 か ら 相 違 な く 契 約 に 取 り 入 れ ら れ た 場 合 に は, BGB 第307 条 1項 及 び 2項 に よ る 内 容 規 制 か ら 除 外 す る と し て 特 権 を認 め る 規定 を 置 い て い た。 上 述 し た よ う に, 内 容 規 制 に お け る VOB/B の 特 権 は, BGB 第310 条 1 項 3 文 に よ り, 契 約 時 に 通 用 す る VOB/B の す べ て の 内 容 上 変 更 な く 採 用 さ れ る こ と が 必 要 で あ る と さ れ て お り, こ の点 て 第310 条 1 項 3 文 の 例 外 を認 め る もの で あ っ た。 し か し, こ の よ う な 例 外 を 認 め る こ と の 正 当 性 は 理 由 づ け ら れ な い と し て, 改 正 法 で は こ れ が 削 除 さ れ, 第310 条 1 項 3 文 に 従 う もの と さ れ た。 (iii) 指 示 権 が 行 使 さ れ た 場合 の 仮 処 分 一改 正 法 第650d 条 改 正 法 第650d 条 は, 改 正 法 第650b 条 に よ る 注 文 者 の指 示 権 が 行 使 さ れ, 改 正 法 第650c 条 に よ る 報 酬 の 調 整 が 生 じ た場 合 に , こ れ ら の紛 争 に お け る 仮 処 分 に 関 す る 規定 を 置 く。 こ の 内容 は, 政 府 草案 に お い て は, 第650b 条 3 項 及 び 第650c 条 5 項 に 規 定 さ れ て い た が, 修 正 案 に よ り変 更 さ れ, 改 正 法 第650d 条 と し て 併 せ て 規 定 さ れ る こ と と な っ た。 こ の 規 定 は, 注 文 者 に よ る 指 図 を め ぐ る紛 争 に お い て, 建 築工 事 の 中断 な い し 停 滞 を 可 能 な 限 り 回 避 す る た め に, 迅 速 な 法 的 保 護 の 要 求 を可 能 と す る こ と を そ の 趣 旨 と す る76。 以 上 の よ う に, 改 正 法 第650b 条, 第650c 条 , 第650d 条 は 建築 契 約 に 関 す る 新 設 規 定 の 中 で も重 要 な 位 置 を 占 め る が, 実 務 上, 建築 契 約 に おい て 当 初 の 計画 が な ん ら の変 更 な し に 実 現 す る こ と は ほ と ん ど な い 一 方 で, BGB 上 の 規 定 と し て 注 文 者 の 指 示 権 と, そ れに よ る 報 酬 の 調整 に 関 す る 定 め を 置 く こ と に は, 契約 当 事 者双 方 の 様 々 な利 益 76 BT-Drucks. 18/11437, S.49. (85) 72

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関 係 へ の 考 慮 を 要 す る。 委 員 会 に お け る 議論 の 中 で, 一方 で は, 注 文 者 の 指示 権 と い う, 請 負人 の履 行 に 対 す る 明 確 な 介入 を 明 文化 す る こ と に つい て, 建築 関 係 者 か ら の 激 し い反 対 が あ り, 他 方 で は, 不 当 な 報 酬 の 増 額 請 求 に 対 す る 注 文 者 保 護 の必 要 性 が主 張 さ れ た。 こ の よ う な状 況を 背 景 と し な が ら, 改正 法 で は, 指示 権を め ぐ る紛 争 に よ る 建 築 施 工 の 停 滞 や 建 築工 事完 成 の 遅延 , そ れ に 伴 う 費用 の 増 加 と い っ た 経 済 的 観 点 か ら の 不 都 合を 避 け る べ き こ と が 強 調 さ れ る。 そ し て, 注 文 者 の 指 示 権 につ い て の 規 定 は, 注 文 者 に よ る 適 切 な 範 囲 で の 指示 権 の行 使 を 明 文 と して 示 す と と もに, こ れを め ぐ る紛 争 を 回 避 す る た め, 協 調 的 な 建 築 契 約 の 変 更 と 建 築 実 行 の 存 続 を 目 指 す も の であ る77。 し か し, 上 述 し た よ う な 当 事 者双 方 か ら示 さ れ る 問 題 に 対 し て, 改正 法 の 規 定 が 十 分 な も の で あ る か に つい て は, 今 後 も 引 き 続 き 議論 と な る こ と が 予 想 さ れ る。 (3) 建 築 契 約 における注 文 者 の担 保 提 供一改正 法 第650e 条, 第650f 条 改 正 法 第650e 条 は, こ れ ま で 現 行 第648 条 1項 に お い て 規 定 さ れ て い た 建 築 請 負 人 の保 全 抵 当 権 に つ い て, 改 正 法 第650f 条 は , こ れ ま で 現 行 第648a 条 に 規 定 の あ っ た 建 築 職 人 の 担 保 に つ い て , そ れ ぞ 77 こ れ は,VOB /B にお い て以 前 か ら置 か れて い た 指示 権 と対 比 し た 際 に も, 改 正 法 の 重 要 な 特 徴 で あ る と い え る 。 VOB/B 第 1条 3 項 は, 匚建 築 原 案 (Bauentwurfs) 」 の 変 更 を 指 示 す る 権 利 が 注 文 者 に あ る こ と を 規 定 す る が , こ の 規 定 につ い て は , 契 約 内 容 の 変 更 に 関 し 発 注 者 が受 注 者 に対 し て 優 先 的 な 地 位 に あ る か の よ う な 表 現 か ら, 匚一 方 的 な」 指 示 権 で あ る こ と が し ば し ば 強 調 さ れ る。 ま た, 匚建 築 原 案(Bauentwurfs) 」 の 意 味 や, こ の 指 示 権 の 範 囲 な ど が 明 ら か で はな い こ と によ る 問 題 が 指 摘 さ れ て お り, BGH によ る明 確 な 判 断 もな さ れ て お ら ず, 学 説 上 見 解 が 対 立 し て い る 状 況 が あ る。 し た が って , 改 正 法 に お け る注 文 者 の 指 示 権 は, VOB/B 第 1条 3 項 に お け る 規 定 を 模 範 と す る も の で は な く, VOB/B 第 1 条 3 項 が 問 題 の 多 い 規 定 で あ る こ と を 踏 まえ て 立 法 さ れ た も の で あ る と さ れ るo Vgl. Hans Ganten, Giinther Jansen, Wolfgang Voit, Vergabe- und V ertragsordnung fiir Bauleistungen Teil B: allgemeine Vertragsbedin-gungen fiir die Ausfiihrung von Bauleistungen, 3. Aufl・, 2013, S.110.

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れ の 内容 を ほ ぼ変 更 す る こ と な く規 定 す る も の で あ る78。 現 行 第648 条 1 項 , 第648a 条 は も っぱ ら建 築契 約 に 関 す る 規 定 で あ り , 今 回 の 改 正 に よ っ て 第 2 日 に 置 か れ る こ と に な っ た ( な お , こ れ ま で の 第 648 条 2項 の 船 舶 に 関 す る 保 全 抵 当 権 は, 第 1 日 に , 改 正 法 第647a 条 と し て 残 さ れ て い る。)。 現 行 第648 条 1 項 に お け る 建築 請 負 人 の 保 全 抵 当 権 に 関 し て は, こ れ ま で,[ ̄土 地 の工 作 物 の全 部 ま た は各 部 分 ] に つ い て の請 負 人 が そ の適 用 範 囲 で あ った が, 改 正 法 第650a 条 に お け る建 築契 約 の定義 に基 づき , そ こで の 請負 人 が 対象 と な る。 し たが っ て, 屋 外 設 備 の 建 築 に つ い て 依 頼 さ れ た 請 負 人 も ま た 保 全 抵 当 権 を 請 求 し う る こ と に な り, わ ず か に 適用 の 範 囲 が 拡大 す る こ と と な っ た79。 そ の ほ か, 改 正 法 第650f 条 につ い て は, 文 言 上 の変 更 及 び他 の 規 定 と の 適合 の た め の 変更 が い くつ か 加 え ら れ て い る が, 内容 につ い て 本 質 的 な変 更 は な い。 (4) 引 取 拒 絶 の 際 の状 態 確認 , 報 酬 の 弁 済 期 に 関 す る 特 別 な規 定 一改 正 法 第650g 条 O ) 引 取 拒 絶 の 際 の 状態 確認 一改 正 法 第650g 条 1項 か ら 3項 改 正 法 第650g 条 は, 建 築 契 約 に お け る 引取 拒 絶 に 関 し て 特 別 な 定 めを 置 く。 こ れ に よ り, 注 文 者 は, 請 負 人 に よ る 引取 要 求 の時 点 に お け る 仕 事 の状 態 に つい て, 請 負 人 と 共 同 で 確 認 す る こ と に 協力 す る 義 務(Obliegenheit) を 負 う80。 こ れ は, 上 述 し た 重 大 な 事 由 に よ る 解 約 告 知 が なさ れ た 場 合 の状 態 確 認 ( 改 正 法 第648a 条 4 項 ) と類 似 す る 規 定 で あ る。 こ の 規 定 の 趣 旨 は, 建築 物 又 は 屋 外設 備 の 引取 拒 絶 の 際 に, 請 負人 に よ っ て 引取 が 請 求 さ れ た 時点 に お い て 瑕 疵 が 存 在 し た 78  旧 第648 条 1 項 に つ い て は , 青 野 ・ 前 掲 注(41) 438 頁 以 下 の 記 述 を 参 照 。 79 BT-Drucks. 18/8486, S.52・ 80 BT-Drucks. 18/8486, S.59・ (87) 70

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か ど う か が, の ち の 訴 訟 で し ば し ば 争い と な り, そ の 証 明 に は 困難 が 伴 う 場合 があ る こ と か ら, そ の 事実 の 解 明を 容 易 に す る こ と に あ る81。 な お, 改 正 法 第648a 条 4項 と 同 様 に, 引 取 拒 絶 の 正 当 性 い か ん に か か わら ず , こ こ で の 確認 は 引 取 に 置 き 換 わ る もの で は ない82。 あ く ま で, の ち の 紛争 の 防 止 と, 引 取時 に 瑕 疵 の 証 明 責 任 が 移 転 す る と い う 原 則 を 一 定 の 範 囲 で 修 正 す る も の に と ど ま る 。 ま た , 改 正 法 第 650g 条 1 項 2 文 は, こ の 共 同 の 状 態 確 認 につ い て の形 式 と し て , こ れを 行 な っ た 日 付 を記 載 し, 当 事 者 双方 の 署 名を 必 要 と す る。 ま た, 改 正 法 第650g 条 2項 は, 請 負 人 に よ る単 独 で の 状 態 確 認 も可 能 と す る。 こ れ は, 注 文 者 が 状態 確認 の 期 日を 一定 の 要 件 に よ ら ず 欠 席 し た 場合 に生 じ る。 状 態 確 認 の 費用 に 関 す る 規定 は条 文 に 置 か れ て い な い が, 原 則 と し て こ れを 行 う 者 が 自 身 で 負 担 す る と さ れ る83。 た だ し , BGB 第280 条 1 項 に よ り 損 害 賠 償 の 要 件 を 満 た す 場 合 に は別 で あ る ( 例 え ば, 請 負 人 が, 仕 事 が 明 ら か に 本 質 的 な 瑕 疵 を 示 し て い る に も か か わ ら ず, 注 文 者 に 対 し て 引 取を 要 求 し た 場合84。)。 建 築契 約 で は, 仕 事 が そ の 引 取 前 に 注 文 者 に 移 転 す る こ と が し ば し ば 行 わ れ てい る こ と か ら, こ の と き に 仕 事 の 瑕 疵 の原 因 が さ ら に不 明 確 と な る 状況 が生 じ う る。 注 文 者 が す で に 仕 事を 使用 し て い る よ う な 場合 に も, 請 負人 は 引 取 ま で 瑕 疵 の ない 仕 事 の製 作 に つい て義 務を 負 い, 危 険 を 負 担 す る の が原 則 で あ る( 第644 条 1 項)。 こ れ に対 し て , 改 正 法 第650g 条 3 項 は, 一 定 の 要 件 の も とで 原 則 を 修 正 す る 。 改 正 法 第650g 条 3 項 に よ り , 仕 事 が 注 文 者 に 引 き 渡 さ れ て い るヶ − ス に おい て, 本 条 1 項 又 は 2項 に よ る状 態 の 確 認 の時 に指 摘 さ れ な か っ た, 明 ら か な 瑕 疵 につ い て は, そ の 状態 確認 の の ち に 生 じ た も の で あ り, 8 1 BT-Drucks. 18/8486 , S.59 82 BT-Drucks. 18/8486, S.59 83 BT-Drucks. 18/8486, S.60 84 BT-Drucks. 18/8486, S.60 69 (88)

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注 文 者 の 責 め に 帰 す べ き も の で あ る こ と が推 定 さ れ る。 こ れ は, そ の 瑕疵 が,状 態 確認 の 際 に疑 い の余 地 な く 見つ け ら れな け れば な ら なか っ た と き に生 じ る問 題 で あ り, そ れ が 「 ̄明 白(offenkundig) 」 か ど う か の 解 釈 に 際 し て は, 注文 者 の そ の と き の 専 門 性 が 考 慮 さ れ る85。 な お, 瑕 疵 が そ の 性 質 に よ っ て 注 文 者 に 起 因 し え な い場 合 に は, こ の 推 定 は 生 じ ない ( 改 正 法 第650g 条 3項 2文 )86。 (ii ) 報 酬 の 弁 済 期 に 関 す る 特 別 な 定 め 一改 正 法 第650g 条 4項 以 上 の 規 定 に 加 え て , 改 正 法 第650g 条 に は, 4 項 が 修 正 案 で 新 た に取 り入 れ ら れ た。 本 条 4 項 は, 建 築契 約 に お け る 報 酬 の 弁 済 期 に つ い て , 引 取 以 外 の 要 件 を 認 め る 。 こ れ は2013 年 の ド イ ツ 連 邦 司 法 省 建 築 契 約 法 作業 グル ープ 最 終 報 告 に お い て 提案 さ れて い た87。 政 府 草 案 の 際 に は採 用 さ れ な か っ た が, 修 正案 に お い て 再 度 条文 に取 り入 れ ら れ た。 本 規 定 に よ り, 建 築契 約 に おい て は, 請 負人 か ら 最 終 的 な 終 了 計 算 書(Schlussrechnung) が 提 示 さ れ た 場 合 に , 仕 事 の報 酬 の 弁 済 期 が 到 来 す る88。 な お, こ の終 了 計 算 書 は, 注文 者 に 吟 味 可 能 な も の で な け れ ば な ら ない 。 当 事 者 を長 期 に 不安 定 な 状況 に 置 く こ とを 避 け る た め に, 請 負 人 に よ っ て 提 示 さ れ た 終了 計 算 書 の 吟 味 可 能 性 に 関 す る 注 文 者 の 抗 弁 は , 終 了 計 算 書 の到 達 後30 日以 内 に な さ れ なけ れ ばな らない 。 (5) 建 築 契 約 にお け る解 約 告 知 の形 式 一改 正 法 第650h 条 建 築契 約 の 解約 告知 の 際 に は, 賃 貸 借 関 係 及 び 雇用 関 係 の場 合 と 同 85 BT-Drucks. 18/8486, S.60・ 86  例 え ば , そ れ が , 材 料 の 欠 陥 に 関 わ る も の で あ っ た 場 合 , 又 は 瑕 疵 が , 設 計 基 準 に 従 わ ず 製 作 さ れ た こ と に よ っ て 生 じ た 場 合 な ど が 挙 げ ら れ る 。 Vgl. BT-Drucks. 18/8486, S.60・

87 Abschlussbericht der Arbeitsgruppe Bauvertragsrecht beim Bundes-ministerium der Justiz, a.a.O・, S.45f,

88 BT-Drucks. 18/1 1437, S.49。

(26)

様 に , 書 面 の 方 式(Schriftform) を 必 要 と す る こ と が , 改 正 法 第 650h 条 に よ っ て 明 文 化 さ れ た 。 こ の 規 定 は, 法 的 な 確 実 性 及 び証 明 の 確 保 に 資 す る も の で あ り, ま た, 早 計 な 解 約 告 知 を 回避 す る こ と を 狙 い と し , こ の 目 的 を 達 す る た め に テ キ スト 方 式 (Textform) で は 十 分 で は ない と さ れ る89。 こ の 形 式 は, 建 築 契 約 の 場 合 に お い て , 自 由 な 解約 告知 ( 改 正 法 第648 条 ) と, 重 大 な 事 由 に よ る 解 約 告 知 ( 改 正 法 第648a 条) の い ず れ に も 必 要 と さ れ る。 4。 消 費 者 建 築 契 約 に 関 す る 規 定 の 新 設 (1) 消 費 者 建 築 契 約 の定 義 一改正 法 第650i 条 建 築 契 約 に お け る消 費 者 の 保 護 は, 2009 年 の 連 立 協 定 に お い て 合 意 さ れた , 今 回 の 改 正 の重 要 な 目 的 で あ る90。 改正 法 は , 請 負 契 約 の 第 1 款 第 3日 と して , 消 費 者 建築 契 約 に 関 す る 規定 を 新 た に 取 り入 れ, 改 正 法 第650i 条 1 項 に消 費 者 建 築 契 約 の 定 義 を 置 く。 こ こ で , 消 費 者 建 築契 約 と は, 請 負 人 が, 建 築物 の 新 築 又 は 相 当 な 規 模 の 改 築 に つ い て, 消 費 者 に 対 し て 義 務 を 負 う契 約 を い う。 つ ま り, 建 築物 に 付 属 す る 様 々 な設 備 ( 車 庫, エ ク ステ リ ア など ) に 関す る契 約 は 含 ま れ ず, ま た, 建 築物 に 関 す る もの で あ っ て も, 窓 や ド ア の取 り 付 け, 内 装 工 事 と い っ た 個 々 の 給 付 につ い て 契約 が 締 結 さ れ る 場合 に は, 消 費 者 建 築契 約 と さ れ な い。 し た が っ て, そ れ ら の 建 築契 約 に つ い て は, 注 文 者 が 消 費 者 で あ っ て も, 改 正 法 第650i 条 以 下 の 規定 は 適 用 さ れな い 。 そ の 点 て, BGB が 把 握 す る 消 費 者 建 築 契 約 の範 囲 は 限 定 的 で あ る と もい え, こ れ に 対 す る 批判 もみ ら れ る。 な お , 改 正 法 第650i 条 に は , 政 府 草 案 の の ち に , 修 正 案 に よ っ て テ キ スト 方 式 (Textform) を 必 要 と す る 旨 を 規 定 す る 2 項 が 加 え ら 89 BT-Drucks. 18/8486, S.61・ 90 BT-Plenarprotokoll Z 18/221, S.22336 67 (90)

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