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お母さんのための からだのしくみ ターヘルアナトミア お母さんたちへ 今から 230 年も昔の江戸時代, オランダ語で書かれた一冊の解剖学の本 ターヘル アナトミア が, 杉田玄白という人によって翻 かいたいしんしょ 訳され 解体新書 という名で出版されました それは, 当時の医師たちが, 人間の

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Academic year: 2021

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全文

(1)

施設名

Lesson

9

part.

2; 下気道の病気

著 者:とうご小児科(松阪市)院長  

藤後 幸博

監 修:札幌医科大学医学部 小児科学講座 教授 前 三重大学大学院医学系研究科 基礎医学系講座 腫瘍病理学 教授

堤  裕幸

白石 泰三

● Lesson 1~8をご希望の方は,弊社ホームページ内の「お問い合わせ」ページの「製品 に関するお問い合わせ 一般の方」からお申し込みください。 http://www.shionogi.co.jp/information/inquiry_entrance.html 記入フォームの「お問い合わせ内容」に,ご希望の「Lesson 番号」と「住所」,「名 前」,「電話番号」をご記入のうえ,弊社へ送信ください。 FMX-C-0002(V01) 2017 年 12 月作成 PI 禁無断転載 ◯ 2017 SHIONOGIC 審:003348

(2)

 私たちが鼻と口から吸った空気の終着駅は肺なのですが,その肺に至る空気の通り 道のことを「気道」といいます。私たちが息を吸ったり吐いたりする(呼吸をする) とき,空気は,鼻や口と,肺との間を繋ぐ気道の中を行ったり来たりします。鼻と 口が東京とすれば終着駅の博多が肺で,その間を結ぶレールが気道,気道の上を 走りぬける新幹線“のぞみ号”が空気,と言えばおわかりいただけるでしょうか。  ところで,鼻と口に続くのどのことを咽喉と呼びます。耳鼻咽喉科の咽喉です。 咽は正しくは咽頭で食道に続き,喉は正しくは喉頭で咽頭から途中で分れて気管に 続きます。そして,鼻と口から喉頭までを上気道,気管から気管支を経て肺に至る 経路を下気道と呼びます。さしずめ新大阪は喉頭で,そこまでは JR 東海,そこを過 ぎると気管→気管支で JR 西日本,終着駅の肺に続きます(6 ページの図もみてね)。  今回はこの気道の病気についてお話ししましょう。  上気道の病気として多いのは鼻とかのどの入り口の病気(鼻炎や咽頭炎=俗に言 うカゼ)ですが,それらはママたちもよく知っている病気ですので省略して,ここでは, のどの奥(喉頭)の病気,その代表として,急性喉頭炎(クループ)と喉頭蓋炎の 2 つを取りあげてお話しします。下の図の声帯や喉頭蓋にバイ菌がくっつき,その 部分が赤く腫れる(炎症と言います)ことによって起こる病気です。図を見ていた だければわかりますように,いずれの病気も空気の出入り口のところに起こる病気で すので,空気が出入りできなくなり呼吸困難を来すこともある注意が必要な病気です。

■急性喉頭炎(クループ)

※1  ─オットセイの鳴き声咳にご用心─(Lesson 4,P9 ~10 もみてね)  お母さんがカラオケで熱唱するとき,歌っている途中で“息継ぎ”といって瞬間 歌うのを止めて息を吸いますね。では,息継ぎなしで歌い続けることは出来るでしょ うか。答えは「NO」,苦しくなってとても歌い続けられません。なぜでしょうか。  私たちが歌を歌ったりしゃべったり出来るのは,喉頭に「声帯」という装置がある からです。声帯は 2 枚のヒダから出来ていて,声を出さないときはヒダは開いてい ます(普通に呼吸をしている状態です)が,声を出すときはヒダを閉じ肺から出され る空気(吐く息)でそのヒダを震わせて声を出すのです。当り前のことですが,息

お母さんたちへ

今から 230 年も昔の江戸時代,オランダ語で書かれた一冊の解剖 学の本「ターヘル・アナトミア」が,杉田玄白という人によって翻 訳され「解体新書」という名で出版されました。 それは,当時の医師たちが,人間の「からだのしくみ」がよくわ からないことには,人間のからだに起こる様々なできごと(病気も もちろんそのひとつです)についても正しく理解することができな いことに気付いたからなのです。以来今日まで,医学部の学生が医 学を学ぶにあたって,まず最初に勉強するのは解剖学なのです。 病気の子どもを看病するお母さんたちにとってもそれは同じことで, 病気を正しく理解するためには, なによりもまず「からだのしくみ」 について,そのおおよそのことだけでも知っておくことが大切であり 必要なことなのです。この小冊子は,そのような目的をかなえていた だくために書かれた,ちょっぴり本格的な解剖・生理学の本です。 江戸時代の人たちが「ターヘル・アナトミア」という本を,未知 を知る感動と驚きの中で読み解いていったように,お母さんたちに もこの小冊子を読み解いていただくことができたならば,それは, この本の完成にたずさわった人たちみんなの喜びでもあります。 2 0 0 8 . 5~2 0 1 7 . 11 著者 かい たい しんしょ タ ー ヘ ル ア ナ ト ミ ア お 母 さ ん の た め の か ら だ の し く

つな いん こう いん とう こう とう いん とう こう とう がい を吐くことと吸うこととは同時には出来ませんから,声を出す,すなわち息を吐いて いるときは息は吸えません。だから,声を出し続けようとしても息が吸えないため苦 しくなってしまい,とても歌い続けたり,しゃべり続けたりすることは出来ないのです。  この「声帯」があるのどの奥の辺り(喉頭の辺り)は,乳幼児では成人にくらべ 体が小さい分,もともと狭くなっています。そのため,ここにバイ菌(主にウイルス)※2 がくっついてその部分が赤く腫れてしまいますと,当然のことながら空気の通りが 悪くなって苦しくなってしまいます。このような状態になった病気のことを,一般に 「急性喉頭炎」とか「クループ」と呼んでいるのです。  この病気は,今までお話ししてきましたように,のどの奥,声を出す装置(声帯) の辺りが腫れる病気ですから,多くの場合,その最初の症状は,変な声,かすれ声,オッ トセイの鳴き声(あるいは犬の遠ぼえ)のような咳,などなど声と関係のある症状 で始まります。さらに腫れが強くなると,もともと狭い声帯のあるあたりがより狭く なり,その狭くなった空気の通り道を空気が無理やり通ろうとしますので(そうしな いと空気が吸えなくなって窒息してしまいますものね。),隙間風がヒューヒューと音 をたてるように,ゼーゼーとのどが鳴り始めます。どちらかというと,はじめの内は このゼーゼーは息を吸うときに認められますが,症状が進むと息を吐くときにも認め られるようになり,そのままだとやがて空気が通らなくなり呼吸困難を起こしてしま います。そしてなぜか,このような症状は,夕方から夜間に起こってくることが多い ようです。ですから,たとえ昼間,かすれ声で病院に行き「かぜ」などと診断されても, 夜間に上記のような症状が出始めたら今一度必ず医師に連絡して下さいね。  なお,この病気の原因で多いのはウイルスですが,マイコプラズマや細菌※2によっ て起こることもあり,特に後者では気管支炎(後で詳しくお話しします)などを合 併することもあると言われています。

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part.

1; 上気道の病気

JR西日本=下気道 JR東海=上気道

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 私たちが鼻と口から吸った空気の終着駅は肺なのですが,その肺に至る空気の通り 道のことを「気道」といいます。私たちが息を吸ったり吐いたりする(呼吸をする) とき,空気は,鼻や口と,肺との間を繋ぐ気道の中を行ったり来たりします。鼻と 口が東京とすれば終着駅の博多が肺で,その間を結ぶレールが気道,気道の上を 走りぬける新幹線“のぞみ号”が空気,と言えばおわかりいただけるでしょうか。  ところで,鼻と口に続くのどのことを咽喉と呼びます。耳鼻咽喉科の咽喉です。 咽は正しくは咽頭で食道に続き,喉は正しくは喉頭で咽頭から途中で分れて気管に 続きます。そして,鼻と口から喉頭までを上気道,気管から気管支を経て肺に至る 経路を下気道と呼びます。さしずめ新大阪は喉頭で,そこまでは JR 東海,そこを過 ぎると気管→気管支で JR 西日本,終着駅の肺に続きます(6 ページの図もみてね)。  今回はこの気道の病気についてお話ししましょう。  上気道の病気として多いのは鼻とかのどの入り口の病気(鼻炎や咽頭炎=俗に言 うカゼ)ですが,それらはママたちもよく知っている病気ですので省略して,ここでは, のどの奥(喉頭)の病気,その代表として,急性喉頭炎(クループ)と喉頭蓋炎の 2 つを取りあげてお話しします。下の図の声帯や喉頭蓋にバイ菌がくっつき,その 部分が赤く腫れる(炎症と言います)ことによって起こる病気です。図を見ていた だければわかりますように,いずれの病気も空気の出入り口のところに起こる病気で すので,空気が出入りできなくなり呼吸困難を来すこともある注意が必要な病気です。

■急性喉頭炎(クループ)

※1  ─オットセイの鳴き声咳にご用心─(Lesson 4,P9 ~10 もみてね)  お母さんがカラオケで熱唱するとき,歌っている途中で“息継ぎ”といって瞬間 歌うのを止めて息を吸いますね。では,息継ぎなしで歌い続けることは出来るでしょ うか。答えは「NO」,苦しくなってとても歌い続けられません。なぜでしょうか。  私たちが歌を歌ったりしゃべったり出来るのは,喉頭に「声帯」という装置がある からです。声帯は 2 枚のヒダから出来ていて,声を出さないときはヒダは開いてい ます(普通に呼吸をしている状態です)が,声を出すときはヒダを閉じ肺から出され る空気(吐く息)でそのヒダを震わせて声を出すのです。当り前のことですが,息

お母さんたちへ

今から 230 年も昔の江戸時代,オランダ語で書かれた一冊の解剖 学の本「ターヘル・アナトミア」が,杉田玄白という人によって翻 訳され「解体新書」という名で出版されました。 それは,当時の医師たちが,人間の「からだのしくみ」がよくわ からないことには,人間のからだに起こる様々なできごと(病気も もちろんそのひとつです)についても正しく理解することができな いことに気付いたからなのです。以来今日まで,医学部の学生が医 学を学ぶにあたって,まず最初に勉強するのは解剖学なのです。 病気の子どもを看病するお母さんたちにとってもそれは同じことで, 病気を正しく理解するためには, なによりもまず「からだのしくみ」 について,そのおおよそのことだけでも知っておくことが大切であり 必要なことなのです。この小冊子は,そのような目的をかなえていた だくために書かれた,ちょっぴり本格的な解剖・生理学の本です。 江戸時代の人たちが「ターヘル・アナトミア」という本を,未知 を知る感動と驚きの中で読み解いていったように,お母さんたちに もこの小冊子を読み解いていただくことができたならば,それは, この本の完成にたずさわった人たちみんなの喜びでもあります。 2 0 0 8 . 5~2 0 1 7 . 11 著者 かい たい しん しょ タ ー ヘ ル ア ナ ト ミ ア お 母 さ ん の た め の か ら だ の し く

つな いん こう いん とう こう とう いん とう こう とう がい を吐くことと吸うこととは同時には出来ませんから,声を出す,すなわち息を吐いて いるときは息は吸えません。だから,声を出し続けようとしても息が吸えないため苦 しくなってしまい,とても歌い続けたり,しゃべり続けたりすることは出来ないのです。  この「声帯」があるのどの奥の辺り(喉頭の辺り)は,乳幼児では成人にくらべ 体が小さい分,もともと狭くなっています。そのため,ここにバイ菌(主にウイルス)※2 がくっついてその部分が赤く腫れてしまいますと,当然のことながら空気の通りが 悪くなって苦しくなってしまいます。このような状態になった病気のことを,一般に 「急性喉頭炎」とか「クループ」と呼んでいるのです。  この病気は,今までお話ししてきましたように,のどの奥,声を出す装置(声帯) の辺りが腫れる病気ですから,多くの場合,その最初の症状は,変な声,かすれ声,オッ トセイの鳴き声(あるいは犬の遠ぼえ)のような咳,などなど声と関係のある症状 で始まります。さらに腫れが強くなると,もともと狭い声帯のあるあたりがより狭く なり,その狭くなった空気の通り道を空気が無理やり通ろうとしますので(そうしな いと空気が吸えなくなって窒息してしまいますものね。),隙間風がヒューヒューと音 をたてるように,ゼーゼーとのどが鳴り始めます。どちらかというと,はじめの内は このゼーゼーは息を吸うときに認められますが,症状が進むと息を吐くときにも認め られるようになり,そのままだとやがて空気が通らなくなり呼吸困難を起こしてしま います。そしてなぜか,このような症状は,夕方から夜間に起こってくることが多い ようです。ですから,たとえ昼間,かすれ声で病院に行き「かぜ」などと診断されても, 夜間に上記のような症状が出始めたら今一度必ず医師に連絡して下さいね。  なお,この病気の原因で多いのはウイルスですが,マイコプラズマや細菌※2によっ て起こることもあり,特に後者では気管支炎(後で詳しくお話しします)などを合 併することもあると言われています。

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1; 上気道の病気

JR西日本=下気道 JR東海=上気道

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気管 吸う息 吐く息 ■声を出さないとき(呼吸をするとき) ■歌ったりしゃべったりするとき 声帯のヒダは 閉じています。 声帯のヒダは 開いています。 2 つを取りあげてお話しします。下の図の声帯や喉頭蓋にバイ菌がくっつき,その 部分が赤く腫れる(炎症と言います)ことによって起こる病気です。図を見ていた だければわかりますように,いずれの病気も空気の出入り口のところに起こる病気で すので,空気が出入りできなくなり呼吸困難を来すこともある注意が必要な病気です。

■急性喉頭炎(クループ)

※1  ─オットセイの鳴き声咳にご用心─(Lesson 4,P9 ~10 もみてね)  お母さんがカラオケで熱唱するとき,歌っている途中で“息継ぎ”といって瞬間 歌うのを止めて息を吸いますね。では,息継ぎなしで歌い続けることは出来るでしょ うか。答えは「NO」,苦しくなってとても歌い続けられません。なぜでしょうか。  私たちが歌を歌ったりしゃべったり出来るのは,喉頭に「声帯」という装置がある からです。声帯は 2 枚のヒダから出来ていて,声を出さないときはヒダは開いてい ます(普通に呼吸をしている状態です)が,声を出すときはヒダを閉じ肺から出され る空気(吐く息)でそのヒダを震わせて声を出すのです。当り前のことですが,息 を吐くことと吸うこととは同時には出来ませんから,声を出す,すなわち息を吐いて いるときは息は吸えません。だから,声を出し続けようとしても息が吸えないため苦 しくなってしまい,とても歌い続けたり,しゃべり続けたりすることは出来ないのです。  この「声帯」があるのどの奥の辺り(喉頭の辺り)は,乳幼児では成人にくらべ 体が小さい分,もともと狭くなっています。そのため,ここにバイ菌(主にウイルス)※2 がくっついてその部分が赤く腫れてしまいますと,当然のことながら空気の通りが 悪くなって苦しくなってしまいます。このような状態になった病気のことを,一般に 「急性喉頭炎」とか「クループ」と呼んでいるのです。  この病気は,今までお話ししてきましたように,のどの奥,声を出す装置(声帯) の辺りが腫れる病気ですから,多くの場合,その最初の症状は,変な声,かすれ声,オッ トセイの鳴き声(あるいは犬の遠ぼえ)のような咳,などなど声と関係のある症状 で始まります。さらに腫れが強くなると,もともと狭い声帯のあるあたりがより狭く なり,その狭くなった空気の通り道を空気が無理やり通ろうとしますので(そうしな いと空気が吸えなくなって窒息してしまいますものね。),隙間風がヒューヒューと音 をたてるように,ゼーゼーとのどが鳴り始めます。どちらかというと,はじめの内は このゼーゼーは息を吸うときに認められますが,症状が進むと息を吐くときにも認め られるようになり,そのままだとやがて空気が通らなくなり呼吸困難を起こしてしま います。そしてなぜか,このような症状は,夕方から夜間に起こってくることが多い ようです。ですから,たとえ昼間,かすれ声で病院に行き「かぜ」などと診断されても, 夜間に上記のような症状が出始めたら今一度必ず医師に連絡して下さいね。  なお,この病気の原因で多いのはウイルスですが,マイコプラズマや細菌※2によっ て起こることもあり,特に後者では気管支炎(後で詳しくお話しします)などを合 併することもあると言われています。 ※1クループは正式には「クループ症候群」といって,のどの奥(喉頭)が狭くなった状態をあらわすさまざま な症状,さまざまな病気の総称です。次のところでお話しする急性喉頭蓋炎も実はこのクループ症候群の 一つなのです。 ※2ウイルス,マイコプラズマ,細菌は,みんなバイ菌の仲間ですが,その大きな違いは大きさで,細菌はほぼ 1/1000mm,ウイルスは細菌のほぼ1/100~1/1000ぐらいの大きさです。マイコプラズマはウイル スと細菌の中間的なバイ菌とも言われてきましたが,最近では,構造は少し違うものの,れっきとした細菌 の仲間であると言われています。ウイルスには有効な抗生物質はありませんが,細菌とマイコプラズマには パーフェクトではないものの各々有効な抗生物質があります。ウイルスについては20ページも見て下さい。

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ぶん すき

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気管 吸う息 吐く息 ■声を出さないとき(呼吸をするとき) ■歌ったりしゃべったりするとき 声帯のヒダは 閉じています。 声帯のヒダは 開いています。 2 つを取りあげてお話しします。下の図の声帯や喉頭蓋にバイ菌がくっつき,その 部分が赤く腫れる(炎症と言います)ことによって起こる病気です。図を見ていた だければわかりますように,いずれの病気も空気の出入り口のところに起こる病気で すので,空気が出入りできなくなり呼吸困難を来すこともある注意が必要な病気です。

■急性喉頭炎(クループ)

※1  ─オットセイの鳴き声咳にご用心─(Lesson 4,P9 ~10 もみてね)  お母さんがカラオケで熱唱するとき,歌っている途中で“息継ぎ”といって瞬間 歌うのを止めて息を吸いますね。では,息継ぎなしで歌い続けることは出来るでしょ うか。答えは「NO」,苦しくなってとても歌い続けられません。なぜでしょうか。  私たちが歌を歌ったりしゃべったり出来るのは,喉頭に「声帯」という装置がある からです。声帯は 2 枚のヒダから出来ていて,声を出さないときはヒダは開いてい ます(普通に呼吸をしている状態です)が,声を出すときはヒダを閉じ肺から出され る空気(吐く息)でそのヒダを震わせて声を出すのです。当り前のことですが,息 を吐くことと吸うこととは同時には出来ませんから,声を出す,すなわち息を吐いて いるときは息は吸えません。だから,声を出し続けようとしても息が吸えないため苦 しくなってしまい,とても歌い続けたり,しゃべり続けたりすることは出来ないのです。  この「声帯」があるのどの奥の辺り(喉頭の辺り)は,乳幼児では成人にくらべ 体が小さい分,もともと狭くなっています。そのため,ここにバイ菌(主にウイルス)※2 がくっついてその部分が赤く腫れてしまいますと,当然のことながら空気の通りが 悪くなって苦しくなってしまいます。このような状態になった病気のことを,一般に 「急性喉頭炎」とか「クループ」と呼んでいるのです。  この病気は,今までお話ししてきましたように,のどの奥,声を出す装置(声帯) の辺りが腫れる病気ですから,多くの場合,その最初の症状は,変な声,かすれ声,オッ トセイの鳴き声(あるいは犬の遠ぼえ)のような咳,などなど声と関係のある症状 で始まります。さらに腫れが強くなると,もともと狭い声帯のあるあたりがより狭く なり,その狭くなった空気の通り道を空気が無理やり通ろうとしますので(そうしな いと空気が吸えなくなって窒息してしまいますものね。),隙間風がヒューヒューと音 をたてるように,ゼーゼーとのどが鳴り始めます。どちらかというと,はじめの内は このゼーゼーは息を吸うときに認められますが,症状が進むと息を吐くときにも認め られるようになり,そのままだとやがて空気が通らなくなり呼吸困難を起こしてしま います。そしてなぜか,このような症状は,夕方から夜間に起こってくることが多い ようです。ですから,たとえ昼間,かすれ声で病院に行き「かぜ」などと診断されても, 夜間に上記のような症状が出始めたら今一度必ず医師に連絡して下さいね。  なお,この病気の原因で多いのはウイルスですが,マイコプラズマや細菌※2によっ て起こることもあり,特に後者では気管支炎(後で詳しくお話しします)などを合 併することもあると言われています。 ※1クループは正式には「クループ症候群」といって,のどの奥(喉頭)が狭くなった状態をあらわすさまざま な症状,さまざまな病気の総称です。次のところでお話しする急性喉頭蓋炎も実はこのクループ症候群の 一つなのです。 ※2ウイルス,マイコプラズマ,細菌は,みんなバイ菌の仲間ですが,その大きな違いは大きさで,細菌はほぼ 1/1000mm,ウイルスは細菌のほぼ1/100~1/1000ぐらいの大きさです。マイコプラズマはウイル スと細菌の中間的なバイ菌とも言われてきましたが,最近では,構造は少し違うものの,れっきとした細菌 の仲間であると言われています。ウイルスには有効な抗生物質はありませんが,細菌とマイコプラズマには パーフェクトではないものの各々有効な抗生物質があります。ウイルスについては20ページも見て下さい。

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ぶん すき

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痛い〟というありふれた症状で始まる,ということです。〝のどが痛い″,このなんでも ない症状の影に,このような怖い病気がかくれているのです。従って,〝のどが痛い″ ときは,必ず医師の診察を受けましょう。その上で,たとえカゼと言われても,のど の痛みが刻刻と強くなる時は,今一度そのことを医師に相談してください。夕方や夜 間の場合でも,夜が明けてから病院に行こうなどと絶対に朝まで待ってはいけません。 特に,のどが痛くてダ液(つば)も飲み込みにくくなり始めたらこれはもう大変,大 至急病院に駆け付けて下さい。なお,この病気の原因で多いのがインフルエンザ菌で, ヒブワクチンはこのバイ菌をターゲットにした予防接種なのです。予防接種をしたから 大丈夫というわけではありませんが,是非受けて下さいね。

■喉頭蓋炎(こうとうがいえん)

 ─のどの痛みに要注意─(Lesson 1,P2~4 も見てね)  私たちは,空気を吸ったり,食べ物を食べたり飲んだりします。言うまでもない ことですが,その後,空気や食べ物はのどを通って,空気は気管に入り気管支を経 て肺(肺胞)に届けられますし,食べ物は食道に入り胃を経て腸に届けられます。 と言うことは,のどの奥には,空気が入る(通る)穴(気管)と食べ物や飲み物が 入る(通る)穴(食道)の 2 つの穴があいているのです(6 ページの図も見てね)。 ではどうして,食べ物や飲み物は,誤って空気の通り道である気管の穴の方に入 ることなく,食道の穴の方に正しく入っていくことができるのでしょうか。もっともこ れ,万一,食べ物や飲み物が空気の通り道(気管)の方に入ってしまったら大変な ことで,空気の通り道である気管がふさがれてしまって空気が入らなくなり窒息して しまいますね。お年寄りがオモチをのどに詰まらせるのは正にこの状態なのです。  でも安心して下さい。私たちののどの奥,気管の入口のところには「喉頭蓋」と いう蓋(ふた)が付いていて,口からものを食べたり飲んだりするときには自動的に パタンと気管の入口に蓋をしてしまうのです。そのため,食べ物は,誤って気管の方 に入ることなく,食道の方へと入っていくのです。空気を吸うときはこの蓋が開いて, 吸った空気は気管の方に入っていくのです。食道の入口にはこのような蓋がありませ んので,吸った空気は食道の方にも入ってしまいますが,この空気はゲップやオナラ となって外に出ていきますので問題にはなりません。  この喉頭蓋にバイ菌がくっついて,そこが赤く腫れる(炎症が起こる)病気が喉 頭蓋炎なのです。この病気には注意しなければならない怖いことが 3 つあります。 その1 つ目は,そもそも喉頭蓋が気管の入り口にあることです。ですから,ここに バイ菌がくっついて喉頭蓋が赤く腫れ上がってしまうと,空気の通り道である気管 の入口がふさがれてしまい,息が出来なくなってしまうことがあるからです。2 つ目 にこの病気が怖いのは,あれよあれよという間(数時間~ 12 時間以内とも言われ ています)に窒息してしまうことです。なぜなら,元々,喉頭蓋と気管の間の隙き 間はそんなに広くないため,喉頭蓋が少し腫れただけで気管の入り口がふさがって しまうからです。3 つ目は,喉頭蓋が少し食道の方にはみ出ているため,この病気 の最初の症状は,ものを飲み込むときに赤くはれた喉頭蓋にものがふれて〝のどが こう とう がい

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ふた

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舌 声帯 喉頭 咽頭 気管 空気が通る穴 (空気の通り道) 食べ物が通る穴 (食べ物の通り道) 食道 喉頭蓋 のどの奥の 2つの穴

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痛い〟というありふれた症状で始まる,ということです。〝のどが痛い″,このなんでも ない症状の影に,このような怖い病気がかくれているのです。従って,〝のどが痛い″ ときは,必ず医師の診察を受けましょう。その上で,たとえカゼと言われても,のど の痛みが刻刻と強くなる時は,今一度そのことを医師に相談してください。夕方や夜 間の場合でも,夜が明けてから病院に行こうなどと絶対に朝まで待ってはいけません。 特に,のどが痛くてダ液(つば)も飲み込みにくくなり始めたらこれはもう大変,大 至急病院に駆け付けて下さい。なお,この病気の原因で多いのがインフルエンザ菌で, ヒブワクチンはこのバイ菌をターゲットにした予防接種なのです。予防接種をしたから 大丈夫というわけではありませんが,是非受けて下さいね。

■喉頭蓋炎(こうとうがいえん)

 ─のどの痛みに要注意─(Lesson 1,P2~4 も見てね)  私たちは,空気を吸ったり,食べ物を食べたり飲んだりします。言うまでもない ことですが,その後,空気や食べ物はのどを通って,空気は気管に入り気管支を経 て肺(肺胞)に届けられますし,食べ物は食道に入り胃を経て腸に届けられます。 と言うことは,のどの奥には,空気が入る(通る)穴(気管)と食べ物や飲み物が 入る(通る)穴(食道)の 2 つの穴があいているのです(6 ページの図も見てね)。 ではどうして,食べ物や飲み物は,誤って空気の通り道である気管の穴の方に入 ることなく,食道の穴の方に正しく入っていくことができるのでしょうか。もっともこ れ,万一,食べ物や飲み物が空気の通り道(気管)の方に入ってしまったら大変な ことで,空気の通り道である気管がふさがれてしまって空気が入らなくなり窒息して しまいますね。お年寄りがオモチをのどに詰まらせるのは正にこの状態なのです。  でも安心して下さい。私たちののどの奥,気管の入口のところには「喉頭蓋」と いう蓋(ふた)が付いていて,口からものを食べたり飲んだりするときには自動的に パタンと気管の入口に蓋をしてしまうのです。そのため,食べ物は,誤って気管の方 に入ることなく,食道の方へと入っていくのです。空気を吸うときはこの蓋が開いて, 吸った空気は気管の方に入っていくのです。食道の入口にはこのような蓋がありませ んので,吸った空気は食道の方にも入ってしまいますが,この空気はゲップやオナラ となって外に出ていきますので問題にはなりません。  この喉頭蓋にバイ菌がくっついて,そこが赤く腫れる(炎症が起こる)病気が喉 頭蓋炎なのです。この病気には注意しなければならない怖いことが 3 つあります。 その1 つ目は,そもそも喉頭蓋が気管の入り口にあることです。ですから,ここに バイ菌がくっついて喉頭蓋が赤く腫れ上がってしまうと,空気の通り道である気管 の入口がふさがれてしまい,息が出来なくなってしまうことがあるからです。2 つ目 にこの病気が怖いのは,あれよあれよという間(数時間~ 12 時間以内とも言われ ています)に窒息してしまうことです。なぜなら,元々,喉頭蓋と気管の間の隙き 間はそんなに広くないため,喉頭蓋が少し腫れただけで気管の入り口がふさがって しまうからです。3 つ目は,喉頭蓋が少し食道の方にはみ出ているため,この病気 の最初の症状は,ものを飲み込むときに赤くはれた喉頭蓋にものがふれて〝のどが こう とう がい

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舌 声帯 喉頭 咽頭 気管 空気が通る穴 (空気の通り道) 食べ物が通る穴 (食べ物の通り道) 食道 喉頭蓋 のどの奥の 2つの穴

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鼻と口 気管 のど(咽頭・喉頭) 気管支 細気管支 細い枝 ● 太い ● 大きい ● 中ぐらい ● 小さい ● 細い 根っこ 幹 枝 ● 太い ● 大きい ● 中ぐらい ● 小さい ● 細い 肺胞がいっぱい 桜の花一輪 桜の花がいっぱい 肺胞一つ 空気 水  下気道とは気管に始まって気管支を経て肺に至る空気の通り道のことを言います。 気管支炎や肺炎などが下気道の主な病気です。ところで,気管支炎の「気管支」, 肺炎の「肺」,共によく耳にする言葉ですね。ですから,気管支や肺という言葉を聞 いたことがない,というお母さんはまずいないでしょうが,でも,あらためて気管支 とは何ですか,肺とは何ですか,と問われるとみんな困ってしまうのではないでしょ うか。そこで,気管支炎や肺炎のお話しをする前に,気管支や肺ってそもそもなん なの…?,ということからお話しを始めましょう。

■気管や気管支や肺の“かたち=形態”について

(Lesson 1 も見てね)

 気管や気管支や肺についてはよく知らないお母さんたちでも,桜の木は知ってい ますね。実は,桜の木をしっかりとイメージしていただくと,気管や気管支や肺のこ とがよくわかるのです。満開の桜の木をイメージしながら次をお読み下さい。  あたりまえのことですが,桜の木は根っこから水を吸いますね。その水はどこに届 けられるのでしょう。そう,それはピンク色をした桜の花の一つ一つに届けられます。 でも,水がいきなり根っこから桜の花に,途中をはしょって,届くことはありませんね。 桜の花に水が届くまでにはそれなりの順路があります。そこで先ず,その順路につ いてお話ししてみましょう。根っこから吸いあげられた水は,最初に「幹」を通ります。 やがて水は,幹から分かれた左右の太い「枝」に達します。そこから枝は,太い枝 から大きい枝,大きい枝から中ぐらいの枝,中ぐらいの枝から小さい枝,小さい枝か ら細い枝と先に行くほど細くなりながら,それぞれにどんどん枝を張っ(出し)てい きます。ですから,木は張りめぐらされた枝で一ぱいになってしまいます。その様子は, 冬になって葉も花も落ちてしまって枝だけになってしまった桜の木をイメージしてくだ さればすぐおわかりいただけるでしょう。そして,その枝の中を水は通り抜けて行き, 最後に細い枝の先に群がって咲く「桜の花」のその一つ一つに届けられるのです。  それでは次に人間の場合ですが,鼻と口で吸った空気は最終的には肺に届けられ ます。でも,やはり桜の木と同じで,いきなり肺には届きません。こちらも,それな ま りの順路を経て肺に届けられるのです。桜の木の根っこにあたるところが人では鼻と 口です。鼻と口はのど(咽頭,喉頭)に続き,そののどに続く太い管,桜の木で言 えば幹に当たるのが「気管」です。やがて桜の木の幹が左右に太い枝を出すように, 気管も,ちょうど私たちの胸の真中あたりで「気管支」という枝を左右に出します。 その後も桜の木の枝と同じで,最初に出た太い気管支からは大きい気管支,大きい 気管支からは中ぐらいの気管支,中ぐらいの気管支からは小さい気管支,小さい気 管支からは細い気管支と先に行くほど段々に細くなる気管支という枝を,木が枝を 出すように,どんどん張りめぐらしていきます。そして,その一番先の細い枝(細気 管支)の先に,桜の木の細い枝の先に桜の花が群がって咲いているように,「肺胞」 という小さな小さな空気を入れる袋が一ぱい群がっているのです。この肺胞が集っ たものが肺で,片方の肺だけで肺胞の数は 3 億個もあるのです。そして,鼻と口 で吸われた空気は,このような順路を経て,その肺胞の一つ一つに届けられるのです。

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くだ

part.

2; 下気道の病気

(9)

鼻と口 気管 のど(咽頭・喉頭) 気管支 細気管支 細い枝 ● 太い ● 大きい ● 中ぐらい ● 小さい ● 細い 根っこ 幹 枝 ● 太い ● 大きい ● 中ぐらい ● 小さい ● 細い 肺胞がいっぱい 桜の花一輪 桜の花がいっぱい 肺胞一つ 空気 水  下気道とは気管に始まって気管支を経て肺に至る空気の通り道のことを言います。 気管支炎や肺炎などが下気道の主な病気です。ところで,気管支炎の「気管支」, 肺炎の「肺」,共によく耳にする言葉ですね。ですから,気管支や肺という言葉を聞 いたことがない,というお母さんはまずいないでしょうが,でも,あらためて気管支 とは何ですか,肺とは何ですか,と問われるとみんな困ってしまうのではないでしょ うか。そこで,気管支炎や肺炎のお話しをする前に,気管支や肺ってそもそもなん なの…?,ということからお話しを始めましょう。

■気管や気管支や肺の“かたち=形態”について

(Lesson 1 も見てね)

 気管や気管支や肺についてはよく知らないお母さんたちでも,桜の木は知ってい ますね。実は,桜の木をしっかりとイメージしていただくと,気管や気管支や肺のこ とがよくわかるのです。満開の桜の木をイメージしながら次をお読み下さい。  あたりまえのことですが,桜の木は根っこから水を吸いますね。その水はどこに届 けられるのでしょう。そう,それはピンク色をした桜の花の一つ一つに届けられます。 でも,水がいきなり根っこから桜の花に,途中をはしょって,届くことはありませんね。 桜の花に水が届くまでにはそれなりの順路があります。そこで先ず,その順路につ いてお話ししてみましょう。根っこから吸いあげられた水は,最初に「幹」を通ります。 やがて水は,幹から分かれた左右の太い「枝」に達します。そこから枝は,太い枝 から大きい枝,大きい枝から中ぐらいの枝,中ぐらいの枝から小さい枝,小さい枝か ら細い枝と先に行くほど細くなりながら,それぞれにどんどん枝を張っ(出し)てい きます。ですから,木は張りめぐらされた枝で一ぱいになってしまいます。その様子は, 冬になって葉も花も落ちてしまって枝だけになってしまった桜の木をイメージしてくだ さればすぐおわかりいただけるでしょう。そして,その枝の中を水は通り抜けて行き, 最後に細い枝の先に群がって咲く「桜の花」のその一つ一つに届けられるのです。  それでは次に人間の場合ですが,鼻と口で吸った空気は最終的には肺に届けられ ます。でも,やはり桜の木と同じで,いきなり肺には届きません。こちらも,それな ま りの順路を経て肺に届けられるのです。桜の木の根っこにあたるところが人では鼻と 口です。鼻と口はのど(咽頭,喉頭)に続き,そののどに続く太い管,桜の木で言 えば幹に当たるのが「気管」です。やがて桜の木の幹が左右に太い枝を出すように, 気管も,ちょうど私たちの胸の真中あたりで「気管支」という枝を左右に出します。 その後も桜の木の枝と同じで,最初に出た太い気管支からは大きい気管支,大きい 気管支からは中ぐらいの気管支,中ぐらいの気管支からは小さい気管支,小さい気 管支からは細い気管支と先に行くほど段々に細くなる気管支という枝を,木が枝を 出すように,どんどん張りめぐらしていきます。そして,その一番先の細い枝(細気 管支)の先に,桜の木の細い枝の先に桜の花が群がって咲いているように,「肺胞」 という小さな小さな空気を入れる袋が一ぱい群がっているのです。この肺胞が集っ たものが肺で,片方の肺だけで肺胞の数は 3 億個もあるのです。そして,鼻と口 で吸われた空気は,このような順路を経て,その肺胞の一つ一つに届けられるのです。

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part.

2; 下気道の病気

(10)

肺胞 球の 一つ一つが 肺胞です。 赤と青が 肺胞壁毛細血管 を示します。 ▲実際はこんな形を  しています 細気管支 酸素と炭酸ガスは肺胞と肺胞壁毛細血管 の中を流れる血液との間を出入りします。 途中から出る枝は はしょって,一本の 気管支だけを描い た図です。 拡大 体内 か ら 体内 へ 拡大 一つの 肺胞を 拡大  満開の桜の木を遠くから眺めると一つの大きなピンクのかたまりに見えますが実は そうではなく,それは,一つ一つの小さなピンクの花が無数に集ったものですね。 私たちの胸の左右にある肺もそれと同じで,肺は左右の胸にそれぞれ一つづつある 空気が入る大きな袋と思われがちですが実はそうではなく,片方の肺だけで 3 億も ある小さな小さな空気を入れる袋(肺胞)が集まって出来たものなのです。  今までお話ししてきましたように,地面から吸われた水を花に届ける通り道が幹や 枝とすれば,口と鼻で吸った空気を肺胞に届けるための通り道が気管であり気管支 なのです。そして,当たり前のことですが,気管や気管支の断面は,その中を空気 が通り抜けていくわけですから,パイプ状(管状)になっているのです。気管支の 病気を考えるとき,この二つ,特に後者はとても大事なポイントなのです。

■肺胞の役割(機能)について 呼吸とは…?

(Lesson 3 も見てね)

 桜の木の場合は,水は花まで届けられて終り(That’s all)ですが,私たち人間は, 空気というよりはその空気の中に含まれている酸素無くしては生きてはいけません (それについての詳しい理由はこの後のところでお話しします。)から,空気が肺胞 に届けられてそれで終りとはいきません。そこから,いかにして体内に酸素を取り込 むかということがとても大事なのです。では,どのようにして肺胞に届けられた空気 の中から酸素を体内に取り込むのか,その仕組みから先ずお話ししてみましょう。  肺胞に届けられた空気,その空気の中に含まれている酸素は,肺胞という袋の壁 を通り抜け,さらに,肺胞の表面に網のようにぴったりと張り付いている細い細い血 管(肺胞壁毛細血管)の壁も通り抜け,その血管の中を流れる血液の中の赤血球に 溶け込むことで体内に取り込まれるのです(10 ページ右下の図)。このようにして血 液中の赤血球に取り込まれた酸素は,心臓のドックン,ドックンという動きに合せて, 体中にくまなく張りめぐらされている血管のネットワークの中を,血液(赤血球)と共 に体中を巡り(循環し),私たちの体を作る 60 兆個とも言われるその全ての細胞に 届けられるのです。さしづめ,赤血球は酸素を運ぶ宅配便屋さんというところですね。  ところで,細胞に届けられた酸素,それはなんのために,そして,どのように使わ れるのでしょうか。言いかえれば,私たちが生きるために,なぜ酸素が必要なのでしょ うか。そのことについて次にお話ししてみましょう。 くだ 気管と 主な気管支

(11)

肺胞 球の 一つ一つが 肺胞です。 赤と青が 肺胞壁毛細血管 を示します。 ▲実際はこんな形を  しています 細気管支 酸素と炭酸ガスは肺胞と肺胞壁毛細血管 の中を流れる血液との間を出入りします。 途中から出る枝は はしょって,一本の 気管支だけを描い た図です。 拡大 体内 か ら 体内 へ 拡大 一つの 肺胞を 拡大  満開の桜の木を遠くから眺めると一つの大きなピンクのかたまりに見えますが実は そうではなく,それは,一つ一つの小さなピンクの花が無数に集ったものですね。 私たちの胸の左右にある肺もそれと同じで,肺は左右の胸にそれぞれ一つづつある 空気が入る大きな袋と思われがちですが実はそうではなく,片方の肺だけで 3 億も ある小さな小さな空気を入れる袋(肺胞)が集まって出来たものなのです。  今までお話ししてきましたように,地面から吸われた水を花に届ける通り道が幹や 枝とすれば,口と鼻で吸った空気を肺胞に届けるための通り道が気管であり気管支 なのです。そして,当たり前のことですが,気管や気管支の断面は,その中を空気 が通り抜けていくわけですから,パイプ状(管状)になっているのです。気管支の 病気を考えるとき,この二つ,特に後者はとても大事なポイントなのです。

■肺胞の役割(機能)について 呼吸とは…?

(Lesson 3 も見てね)

 桜の木の場合は,水は花まで届けられて終り(That’s all)ですが,私たち人間は, 空気というよりはその空気の中に含まれている酸素無くしては生きてはいけません (それについての詳しい理由はこの後のところでお話しします。)から,空気が肺胞 に届けられてそれで終りとはいきません。そこから,いかにして体内に酸素を取り込 むかということがとても大事なのです。では,どのようにして肺胞に届けられた空気 の中から酸素を体内に取り込むのか,その仕組みから先ずお話ししてみましょう。  肺胞に届けられた空気,その空気の中に含まれている酸素は,肺胞という袋の壁 を通り抜け,さらに,肺胞の表面に網のようにぴったりと張り付いている細い細い血 管(肺胞壁毛細血管)の壁も通り抜け,その血管の中を流れる血液の中の赤血球に 溶け込むことで体内に取り込まれるのです(10 ページ右下の図)。このようにして血 液中の赤血球に取り込まれた酸素は,心臓のドックン,ドックンという動きに合せて, 体中にくまなく張りめぐらされている血管のネットワークの中を,血液(赤血球)と共 に体中を巡り(循環し),私たちの体を作る 60 兆個とも言われるその全ての細胞に 届けられるのです。さしづめ,赤血球は酸素を運ぶ宅配便屋さんというところですね。  ところで,細胞に届けられた酸素,それはなんのために,そして,どのように使わ れるのでしょうか。言いかえれば,私たちが生きるために,なぜ酸素が必要なのでしょ うか。そのことについて次にお話ししてみましょう。 くだ 気管と 主な気管支

(12)

気管支上皮細胞 筋肉 (粘膜筋板) 気管支腺(粘膜下腺) 気管支粘膜 粘膜下組織 基底膜 粘膜固有層 軟骨 弾性膜 粘膜筋板(平滑筋の層) 気管支腺 (粘膜下腺) 拡大 線毛細胞  私たちの体は,先ほどもお話ししましたように 60 兆個の細胞で出来ていて,そ の細胞の一つ一つが私たちの生命を維持するために働いてくれています。そして, それらの細胞が元気に働くためには,当然のことながら働くためのエネルギーが必 要になります。そのエネルギーを作り出すものの一つが「栄養素」で,私たちが食 べた食物が胃や腸で消化・分解された後,腸から腸の周りの血管の中を流れる血液 に取り込まれ(吸収され),酸素と同じように血液によってそれぞれの細胞に運ばれ ます。そして,それぞれの細胞はその運ばれてきた栄養素を使ってエネルギーを作 り出すのですが,このとき必要になる今一つが,今までお話ししてきた「酸素」な のです。すなわち,私たちの体を作る 60 兆個の細胞が元気に働いてくれるための エネルギーは─大まかに言えば─「栄養素と酸素」の協働作業によって作り出される のです。ご存知のように,脳も肺も心臓も胃も腸も肝臓も腎臓もみんな細胞が集っ て出来たもの(臓器と言います。)ですから,細胞が元気を維持すればそれら全て の臓器も元気を維持することになり,臓器それぞれの役割,脳は脳としての,心臓 は心臓としての,肝臓は肝臓としての役割をしっかり果してくれることになります。 その結果,私たちは元気一ぱいに生命を輝かせることが出来るのです。酸素が必要 なわけ,ガッテンしていただけましたでしょうか。  ただ,このとき,エネルギーが生じるのと共に産業廃棄物のようなかたちで「炭 酸ガス」※1 が細胞内に生じます。生じた炭酸ガスは私たちの体にとって有害である ため,細胞内から細胞の壁に接する毛細血管の中の血液に排出され,酸素のときと は逆の順路を通って,心臓のドックン,ドックンという動きに合わせて,血液と一緒 に肺胞の周りの肺胞毛細血管に持ち帰られます。持ち帰られた炭酸ガスは,肺胞毛 細血管から肺胞毛細血管の壁を通り抜け,肺胞の壁も通り抜けて肺胞の中に入り (10 ページも見てね),酸素のときとは逆に,肺胞から細気管支→小,中,大,太 い気管支→気管,そしてのどを経て鼻と口から吐く息と一緒に外に出ていくのです。  今までお話ししてきたことを簡単にまとめれば,それは,「酸素を体内に取り込み, 炭酸ガスを体外に出す」ということで,このことを医学の世界では「ガス交換」※2 と言います。そして,肺胞は,このガス交換の場という大変大事な場所なのです。

■気管支の役割について

  ─空気の通り道だけでなくバイ菌もやっつけます─  今までお話ししてきましたように,気管支は空気が行き来する道(気道とも言い ましたね)ですが,それだけではない大事な役割も持っています。前のところで, 気管支の断面はパイプ状になっているとお話ししましたが,この気管支というパイプ の内側の壁(空気が通る側)には「気管支上皮細胞」という名前の細胞がぐるりと 取り巻いています。そして,気管支上皮細胞は役割の違う 2 種類の細胞からできて いるのです。一つが粘液(ネバネバした液)を出す細胞(杯細胞)で,今一つが線 毛というヒゲを持つ細胞(線毛細胞)です。この 2 つの細胞,数の上では線毛細胞 が圧倒的に多いのですが,そのいずれの細胞も私たちが生きていくためになくては ならない大切な働きをしてくれているのです。さらに,ちょっとややこしいのですが, 粘液を出す装置は他にももう一つあり,図の気管支腺(粘膜下腺とも言います) ※1 炭酸ガスのことを医学の世界では二酸化炭素と言いますが,ここではお母さんたちになじみやすい炭酸ガスという言 葉を使用しました。又,炭酸ガスは必ずしも有害でないこともあるのです。 『捨てる神あれば拾う神あり』で,この炭酸ガスを利用して植物は炭水化物を作ります(光合成)。 ※2 ガス交換の詳しいメカニズムは,医学の世界では「拡散」と呼ばれるシステムによって行われますが,とても難しい事で すのでここでは省略させていただきました。 気管支の内側は気管支上 皮細胞という細胞が取り 巻いています。詳しくは, 粘液を出す杯(さかずき) 細胞と,タンを上へ上へと 送り出す線毛(繊毛)上皮 細胞の2種類の細胞が取 り巻いています。 さらに,粘液は,もう一か 所,気管支腺という所でも 造られ,上皮細胞の間にあ る管から出てきます。 さかずき

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気管支上皮細胞 筋肉 (粘膜筋板) 気管支腺(粘膜下腺) 気管支粘膜 粘膜下組織 基底膜 粘膜固有層 軟骨 弾性膜 粘膜筋板(平滑筋の層) 気管支腺 (粘膜下腺) 拡大 線毛細胞  私たちの体は,先ほどもお話ししましたように 60 兆個の細胞で出来ていて,そ の細胞の一つ一つが私たちの生命を維持するために働いてくれています。そして, それらの細胞が元気に働くためには,当然のことながら働くためのエネルギーが必 要になります。そのエネルギーを作り出すものの一つが「栄養素」で,私たちが食 べた食物が胃や腸で消化・分解された後,腸から腸の周りの血管の中を流れる血液 に取り込まれ(吸収され),酸素と同じように血液によってそれぞれの細胞に運ばれ ます。そして,それぞれの細胞はその運ばれてきた栄養素を使ってエネルギーを作 り出すのですが,このとき必要になる今一つが,今までお話ししてきた「酸素」な のです。すなわち,私たちの体を作る 60 兆個の細胞が元気に働いてくれるための エネルギーは─大まかに言えば─「栄養素と酸素」の協働作業によって作り出される のです。ご存知のように,脳も肺も心臓も胃も腸も肝臓も腎臓もみんな細胞が集っ て出来たもの(臓器と言います。)ですから,細胞が元気を維持すればそれら全て の臓器も元気を維持することになり,臓器それぞれの役割,脳は脳としての,心臓 は心臓としての,肝臓は肝臓としての役割をしっかり果してくれることになります。 その結果,私たちは元気一ぱいに生命を輝かせることが出来るのです。酸素が必要 なわけ,ガッテンしていただけましたでしょうか。  ただ,このとき,エネルギーが生じるのと共に産業廃棄物のようなかたちで「炭 酸ガス」※1 が細胞内に生じます。生じた炭酸ガスは私たちの体にとって有害である ため,細胞内から細胞の壁に接する毛細血管の中の血液に排出され,酸素のときと は逆の順路を通って,心臓のドックン,ドックンという動きに合わせて,血液と一緒 に肺胞の周りの肺胞毛細血管に持ち帰られます。持ち帰られた炭酸ガスは,肺胞毛 細血管から肺胞毛細血管の壁を通り抜け,肺胞の壁も通り抜けて肺胞の中に入り (10 ページも見てね),酸素のときとは逆に,肺胞から細気管支→小,中,大,太 い気管支→気管,そしてのどを経て鼻と口から吐く息と一緒に外に出ていくのです。  今までお話ししてきたことを簡単にまとめれば,それは,「酸素を体内に取り込み, 炭酸ガスを体外に出す」ということで,このことを医学の世界では「ガス交換」※2 と言います。そして,肺胞は,このガス交換の場という大変大事な場所なのです。

■気管支の役割について

  ─空気の通り道だけでなくバイ菌もやっつけます─  今までお話ししてきましたように,気管支は空気が行き来する道(気道とも言い ましたね)ですが,それだけではない大事な役割も持っています。前のところで, 気管支の断面はパイプ状になっているとお話ししましたが,この気管支というパイプ の内側の壁(空気が通る側)には「気管支上皮細胞」という名前の細胞がぐるりと 取り巻いています。そして,気管支上皮細胞は役割の違う 2 種類の細胞からできて いるのです。一つが粘液(ネバネバした液)を出す細胞(杯細胞)で,今一つが線 毛というヒゲを持つ細胞(線毛細胞)です。この 2 つの細胞,数の上では線毛細胞 が圧倒的に多いのですが,そのいずれの細胞も私たちが生きていくためになくては ならない大切な働きをしてくれているのです。さらに,ちょっとややこしいのですが, 粘液を出す装置は他にももう一つあり,図の気管支腺(粘膜下腺とも言います) ※1 炭酸ガスのことを医学の世界では二酸化炭素と言いますが,ここではお母さんたちになじみやすい炭酸ガスという言 葉を使用しました。又,炭酸ガスは必ずしも有害でないこともあるのです。 『捨てる神あれば拾う神あり』で,この炭酸ガスを利用して植物は炭水化物を作ります(光合成)。 ※2 ガス交換の詳しいメカニズムは,医学の世界では「拡散」と呼ばれるシステムによって行われますが,とても難しい事で すのでここでは省略させていただきました。 気管支の内側は気管支上 皮細胞という細胞が取り 巻いています。詳しくは, 粘液を出す杯(さかずき) 細胞と,タンを上へ上へと 送り出す線毛(繊毛)上皮 細胞の2種類の細胞が取 り巻いています。 さらに,粘液は,もう一か 所,気管支腺という所でも 造られ,上皮細胞の間にあ る管から出てきます。 さかずき

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(14)

キ ャ ス ト 好中球 マクロファージ (大食細胞) キラーT 細胞 NK(ナチュラル キラー)細胞 樹状細胞 T細胞 (Ⅰ型ヘルパーT細胞) 抗体産生B細胞 (形質細胞) 手裏剣(“抗体”という名の 飛び道具)の名手。バイ菌 をやっつける抗体を出す サイトカインという 物質を出してどんな バイ菌か情報提供する バイ菌を食べて,同時にバイ菌が侵入してきたことを知らせる :抗体 侵入してきたウイルスは仲間を増やすために私たちの体の細胞に潜り込みます。それらの潜り込んだウイルスを やっつけるときに登場するのがキラー細胞です(20ページに詳しく書きました)。 ※樹状細胞以外は全て白血球の仲間で,免疫担当細胞と言います。じゅじょう というところにある粘液細胞と漿液細胞からも粘液が出ているのです(15 ページで 説明)。気管支上皮細胞はこの気管支腺から出る粘液によって覆われているのです が,この粘液にもまた,杯細胞からの粘液と共に,とても重要な働きがあるのです。  それでは次に,杯細胞,気管支腺,線毛細胞について詳しくお話ししてみましょう。  ①杯細胞から出る粘液は気道の加湿器です。私たちは空気を吸いますが,この空 気には,バイ菌を始め花粉症の原因となるスギ花粉や喘息の原因となるパウダー状 になったダニやホコリなど,外来性異物と呼ばれる色々なものが浮遊しています。こ れら異物は息を吸うことによって空気と共に気道に侵入しますが,杯細胞から出る粘 液によって気道は湿度 100%のムンムン状態になっていますので,この湿気に絡ま れて,異物は,主に,大きいもの(花粉)は上気道に,小さいもの(バイ菌)は下気道 に,それぞれ落下(沈着)します。そして,それら気道に沈着した異物と,私たちの 体の間に起こるのが炎症(鼻炎・気管支炎・肺炎)で,後で詳しくお話しします。    ②気管支腺から出る粘液にも大事な役目があります。この粘液の役目の一つは,鼻 と口から吸われた空気と一緒になって気管支に侵入してくる空気中の異物(バイ菌 やホコリなど)をネバネバとからめ取ってしまう役目なのです。それだけではなく, この粘液の中には,「バイ菌に抵抗する物体(抗体,免疫グロブリン)」がたくさん 含まれていて,単に異物をからめ取るだけでなく,異物中に紛れ混んでいるバイ菌 をこの抗体という物質の働きでやっつけてしまうことも出来るのです。  一般に,体外から直接体内に入ってくる空気や食べものと出合うところ─空気の 通り道(気道)や食物の通り道(腸)─の粘膜には,空気や食べものと一緒に侵入 してくるバイ菌をやっつけるための仕組みが他のところよりも発達しています。この 仕組みについては Lesson 7 でもお話ししましたが,復習もかねて少しお話しして みましょう。たとえば,それが気管支の場合ですと,ネバネバ液にからめとられた バイ菌を,先ず大食細胞や樹状細胞などの食いしんぼう細胞が食べ,その後は前 のページのイラストを見ていただくと分かるようなバイ菌をやっつけるための連鎖反 応(免疫反応と言います)がその場で次々と進み,最後は殺し屋細胞の形質細胞(パ ワーアップした B 細胞と言ってよいでしょう)という細胞が抗体(免疫グロブリンン) を作り出し,粘液(ネバネバ液)の中にその抗体を送り出します(“分泌する”と医 学の世界では言います)。分泌されたこの抗体によって,侵入したバイ菌(細胞の 中に潜り込む前のウイルスも含めて。P20 もみてね。)のそのほとんどは,気管支 で悪さをする前に,この抗体を含んだネバネバ液の中でやっつけられてしまうのです。  ③線毛細胞(ヒゲを持つ細胞)がなぜ必要かといいますと,鼻と口から吸い込ま れた空気中の異物をネバネバ液がキャッチした後そのままにしておくと,「チリも積 もれば山となる」のたとえ通り,気管支の中はからめ取られた異物だらけとなってし まいます。そうならないためには,空気の通り道(気道)をきれいにお掃除しない とヤバイですね。そこで登場してくるのが気管支上皮細胞の一つでヒゲを持った細 胞,正しくは線毛細胞なのです。この線毛細胞によるお掃除の仕方はとても上手く 出来ていて(P16 の図を見て下さい。),それを一口でわかりやすく言えばママた ちのする“掃き掃除”にちょっと似ているのです。と言ってもこれではなんのことか よくわかりませんね。そこで次に,このことについてお話ししてみましょう。 花粉の大きさは大体30μm,細菌は大体1μm,ウィルスは細菌の1/100~1/1000です。なお,1μmは1/1000mmです。

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めん えき じゅじょう めん えき おお は バイ菌の やっつけかた 劇 場 から

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キ ャ ス ト 好中球 マクロファージ (大食細胞) キラーT 細胞 NK(ナチュラル キラー)細胞 樹状細胞 T細胞 (Ⅰ型ヘルパーT細胞) 抗体産生B細胞 (形質細胞) 手裏剣(“抗体”という名の 飛び道具)の名手。バイ菌 をやっつける抗体を出す サイトカインという 物質を出してどんな バイ菌か情報提供する バイ菌を食べて,同時にバイ菌が侵入してきたことを知らせる :抗体 侵入してきたウイルスは仲間を増やすために私たちの体の細胞に潜り込みます。それらの潜り込んだウイルスを やっつけるときに登場するのがキラー細胞です(20ページに詳しく書きました)。 ※樹状細胞以外は全て白血球の仲間で,免疫担当細胞と言います。じゅじょう というところにある粘液細胞と漿液細胞からも粘液が出ているのです(15 ページで 説明)。気管支上皮細胞はこの気管支腺から出る粘液によって覆われているのです が,この粘液にもまた,杯細胞からの粘液と共に,とても重要な働きがあるのです。  それでは次に,杯細胞,気管支腺,線毛細胞について詳しくお話ししてみましょう。  ①杯細胞から出る粘液は気道の加湿器です。私たちは空気を吸いますが,この空 気には,バイ菌を始め花粉症の原因となるスギ花粉や喘息の原因となるパウダー状 になったダニやホコリなど,外来性異物と呼ばれる色々なものが浮遊しています。こ れら異物は息を吸うことによって空気と共に気道に侵入しますが,杯細胞から出る粘 液によって気道は湿度 100%のムンムン状態になっていますので,この湿気に絡ま れて,異物は,主に,大きいもの(花粉)は上気道に,小さいもの(バイ菌)は下気道 に,それぞれ落下(沈着)します。そして,それら気道に沈着した異物と,私たちの 体の間に起こるのが炎症(鼻炎・気管支炎・肺炎)で,後で詳しくお話しします。    ②気管支腺から出る粘液にも大事な役目があります。この粘液の役目の一つは,鼻 と口から吸われた空気と一緒になって気管支に侵入してくる空気中の異物(バイ菌 やホコリなど)をネバネバとからめ取ってしまう役目なのです。それだけではなく, この粘液の中には,「バイ菌に抵抗する物体(抗体,免疫グロブリン)」がたくさん 含まれていて,単に異物をからめ取るだけでなく,異物中に紛れ混んでいるバイ菌 をこの抗体という物質の働きでやっつけてしまうことも出来るのです。  一般に,体外から直接体内に入ってくる空気や食べものと出合うところ─空気の 通り道(気道)や食物の通り道(腸)─の粘膜には,空気や食べものと一緒に侵入 してくるバイ菌をやっつけるための仕組みが他のところよりも発達しています。この 仕組みについては Lesson 7 でもお話ししましたが,復習もかねて少しお話しして みましょう。たとえば,それが気管支の場合ですと,ネバネバ液にからめとられた バイ菌を,先ず大食細胞や樹状細胞などの食いしんぼう細胞が食べ,その後は前 のページのイラストを見ていただくと分かるようなバイ菌をやっつけるための連鎖反 応(免疫反応と言います)がその場で次々と進み,最後は殺し屋細胞の形質細胞(パ ワーアップした B 細胞と言ってよいでしょう)という細胞が抗体(免疫グロブリンン) を作り出し,粘液(ネバネバ液)の中にその抗体を送り出します(“分泌する”と医 学の世界では言います)。分泌されたこの抗体によって,侵入したバイ菌(細胞の 中に潜り込む前のウイルスも含めて。P20 もみてね。)のそのほとんどは,気管支 で悪さをする前に,この抗体を含んだネバネバ液の中でやっつけられてしまうのです。  ③線毛細胞(ヒゲを持つ細胞)がなぜ必要かといいますと,鼻と口から吸い込ま れた空気中の異物をネバネバ液がキャッチした後そのままにしておくと,「チリも積 もれば山となる」のたとえ通り,気管支の中はからめ取られた異物だらけとなってし まいます。そうならないためには,空気の通り道(気道)をきれいにお掃除しない とヤバイですね。そこで登場してくるのが気管支上皮細胞の一つでヒゲを持った細 胞,正しくは線毛細胞なのです。この線毛細胞によるお掃除の仕方はとても上手く 出来ていて(P16 の図を見て下さい。),それを一口でわかりやすく言えばママた ちのする“掃き掃除”にちょっと似ているのです。と言ってもこれではなんのことか よくわかりませんね。そこで次に,このことについてお話ししてみましょう。 花粉の大きさは大体30μm,細菌は大体1μm,ウィルスは細菌の1/100~1/1000です。なお,1μmは1/1000mmです。

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めん えき じゅじょう めん えき おお は バイ菌の やっつけかた 劇 場 から

参照

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