世界ジオパークネットワークと日本のジオパーク
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*Global Geoparks Network and Geoparks in Japan Mahito WATANABE*
Abstract
According to the guideline of the Global Geoparks Network (GGN) supported by UNESCO, a geopark must be an area that has geoheritages and other natural and cultural heritages with clearly defined boundaries and a large enough in area to serve local economic and cultural development through geotourism. A geopark must integrate sites of significant geoheritage in a strategy for sustainable regional socio-economic development and must be based on strong local community support and professional management structures.
The GGN was established in 2004 with the support of UNESCO. Since then the concept of the GGN has received global acceptance and it now has 77 members from 25 countries including four geoparks in Japan as of April 2011.
Activities to establish geoparks in Japan started in 2005 and accelerated in 2007 with cooperation from academic societies related to earth sciences and local municipalities. The Japan Geopark Committee (JGC) was established in 2008 to have aspiring geoparks in Japan evaluated by academic societies. The JGC decided the first three candidate areas in Japan to apply for the GGN in October 2008 and endorsed the first seven national (domestic) geoparks including above-mentioned three candidates for the GGN in December 2008. The Japanese Geoparks Network (JGN) was established in February 2009 by the seven national geoparks. Four more geoparks were endorsed by the JGC and joined the JGN in October 2009. As of May 2011 JGN has fourteen geoparks including four global geoparks, namely Itoigawa, Sanin Coast, Toya-Usu, and Unzen.
Geoparks in Japan play important roles in educating people about the earth sciences and disaster mitigation. Support given by scientists and the local people themselves to local communities is crucial for fostering education on the earth sciences in geoparks.
Key words:geopark, Global Geoparks Network, Japanese Geoparks Network, Japan Geopark Committee, geotourism キーワード: ジオパーク,世界ジオパークネットワーク,日本ジオパークネットワーク,日本ジオ パーク委員会,ジオツーリズム I.は じ め に 2011 年 5 月時点で,ユネスコが支援する世界 ジオパークネットワーク(以下 GGN)に加盟す る世界ジオパークは 25 ヶ国 77 ヶ所,そのうち 4ヶ所が日本にある(洞爺湖有珠山ジオパーク, 糸魚川ジオパーク,山陰海岸ジオパーク,島原半 島ジオパーク)。また,日本ジオパーク委員会が * 産業技術総合研究所地質情報研究部門
* Institute of Geoinformation, Geological Survey of Japan, AIST, Tsukuba, 305-8567, Japan
地学雑誌(Chigaku Zasshi)
Journal of Geography 120(5)733–742 2011
認定する,日本ジオパークネットワーク加盟の日 本ジオパークは,世界ジオパーク 4 ヶ所を含め て 14 ヶ所ある(図 1)。さらにジオパークの設立 を目指す地域が国内各地にあり,日本国内のジオ パーク活動は活発になってきている。世界をみて も,Springer 社から Geoparks of the World とい う各地のジオパークを 1 冊で紹介するシリーズ ものの書籍の出版が 2011 年からはじまるなど, ジオパークに対する関心は高まりつつある。日本 のジオパークについては,尾池ほか(2011)に よる一般向けの本が最近出版された。 世界ジオパークネットワークと,その母体と なったヨーロッパジオパークネットワークが設立 された背景とそれらの理念に関しては Eder and Patzak(2004)と Zouros(2004)に解説されて いる。これらとほぼ同様な内容を和訳したものが,
Patzak and Misootten(2007)と Zouros(2007) としてまとめられている。GGN の理念は「ガイ ドライン」という形で,2004 年以降 2 年おきに 改 訂 し な が ら ユ ネ ス コ か ら 発 表 さ れ て お り, 2010年版ガイドラインが最新である。日本を含 む 各 国 の ジ オ パ ー ク の 推 進 状 況 に 関 し て は, 2004年以降偶数年に開催されているジオパーク 国際ユネスコ会議(第 5 回が 2012 年に島原半島 ジオパークで開催される)や,ヨーロッパ,アジ アを中心に開催されてきた地域的なジオパークに 関する会議で報告されている。 本稿では,これらさまざまな文献・資料を参考 に,世界ジオパークネットワークの理念,世界と 日本におけるジオパーク推進のこれまでの経緯と 現状についてまとめる。 図 1 日 本 の ジ オ パー ク.名 前 が 枠 で 囲 ま れ た 地 域 が 世 界 ジ オ パー ク ネッ ト ワー ク 加 盟 の 世 界 ジ オ パー ク. Fig. 1 National Geoparks in Japan. Quadrangles around the names of geoparks indicate the members of the Global
II.世界ジオパークネットワークの理念 ジオパークは,ユネスコが支援する世界ジオ パークネットワーク(GGN)によって推進され ている。GGN は 2004 年にユネスコの支援によ り設立され,世界各国でジオパークの普及を行う とともに,ジオパークの評価・審査を行う団体で ある。GGN のガイドライン(Anonymous, 2010) によれば,ジオパークは,地形・地質遺産の保 全,教育,ジオツーリズムによる持続可能な開発 を一体となって行う,ある地理的範囲をもった領 域のことである。以下,同ガイドラインにした がって,GGN が目指すジオパークの理念を解説 する。 まず,ジオパークの区域は明確に定義されてい なくてはならない。その広さに関して,最小・最 大面積の規定はないが,観光を通じてその区域内 の経済的・文化的な発展が可能なだけの広さをも たなくてはならない。区域内には地形・地質学的 に重要なサイト,さらには生態学的・考古学的・ 歴史的・文化的に価値のあるサイトが,教育,お よび観光を中心とした地域振興を行うのに充分な だけ存在する必要がある。また,ジオパークには 運営組織が必要である。地方自治体,地域社会, 大学・研究機関,観光協会や企業など幅広い協力 を得てボトムアップ的に運営組織を立ち上げ,地 域の実情にあった運営計画に基づいて運営するこ とが重要である。 ジオパークの使命は,地球活動に伴う自然遺産 を保全すると同時に活用することにより,持続可 能な開発を実現することである。持続可能な開発 とは,1987 年に国連の開発と環境に関する世界 委員会によって「将来の世代が必要とするものを 得る能力を損なうことなく,現在の世代が必要と するものを満たす開発」と定義されている。ジオ ツーリズムを振興することで,地域に新たな収入 の道が開け,住民にその土地への誇りが生まれ, それが地質遺産の保全への意識を高める。ジオ ツーリズムの成功のために,その地域の自然・文 化に関する学術的な研究と,地域住民,なかでも 地域の児童・生徒向けの教育が重要である。地域 住民が自ら,ジオパークの理念を理解しそれを運 営するとともに,地域の地形・地質を中心とした 自然遺産や文化遺産の意味を,観光客に伝えるこ とが大事である。こうした普及・教育にあたって は,博物館,自然観察センターなど,遊歩道,ガ イド付きツアー,パンフレットやガイドブックな どが必要である。 ジオパークの運営組織は,その地域の法・規制 に基づき,地形・地質や景観の保全を行わなくて はならない。GGN が国・自治体に新たな法的規 制を課すことはない(その権限がない)。また, ジオパークの運営母体は,ジオパーク内での地質 標本類(岩石・化石・鉱物標本のことで,工業 用・家庭用に採掘されている地下資源や石材を含 まない)の販売に直接関わってはならない。 以上のような考え方に基づき,GGN は加盟を 希望する地域の申請を年に 1 度受け付け,申請 書に基づく書類審査と現地調査を行い,加盟の可 否を判定している。 III.ジオパークと類似の枠組み 世界遺産など,ジオパークと目的・理念が重な る国際的,国内的な枠組みがいくつかある。ジオ パークとそれらの類似点,違いについて解説す る。記述にあたっては,ユネスコ,文化庁,環境 省のそれぞれの枠組みに関する website を参照し た。 世界遺産とジオパークは,どちらもユネスコが 関係するプログラムである。しかし,両者の間に は,枠組みの違い,理念の違いがある。 枠組みとしては,条約のある・なしという違い がある。世界遺産については,1972 年にユネス コ総会で採択された世界遺産条約があり,日本は これを 1992 年に批准している。ジオパークにつ いては,ジオパーク条約といったものはなく,ユ ネスコが支援する(がユネスコとは別の組織であ る)世界ジオパークネットワークが推進してい る。 理念としては次のような違いがある。世界遺産 条約は,顕著な普遍的価値をもつ自然・文化遺産 を,将来に継承するため保全することが目的であ
る。登録された遺産については国として保全する 義務がある。これに対して,ジオパークの場合 は,その理念に保全と両立する活用が盛り込まれ ている。地域の自然遺産を保全しながら教育・普 及とジオツーリズムに活用していくことにより, 地域の遺産を生かした持続的な地域の発展をめざ す。これまで注目されることの少なかった地形・ 地質遺産を保全するためには地域の協力が不可欠 であり,そのためにはその地形・地質遺産が地域 経済の活性化に役立つことが必要である,との考 え方によるものである。保全の主体として国だけ でなく地域社会が重視されている。 したがって,世界遺産の場合は価値の高い順に 登録を進めていくことになる。一方,ジオパーク の場合は地形・地質遺産の価値と保全の状況に加 えて,地域社会がそれらの遺産の価値をどれだけ 理解し,それを保全しながらどううまく観光客に 見せて地域経済の活性化につなげるか,というこ とが加盟認定にあたって重要である。つまり,価 値の高い地形・地質遺産を順番に登録する仕組み ではない。 ユネスコには,ほかにも人間と生物圏計画 (Man and Biosphere, 以 下 MAB) と い う プ ロ ジェクトがある。これは 1971 年にはじまった国 際科学プログラムで,1974 年に保護区を設ける ことが決定された。MAB は人間活動と生物圏の 相互関係を理解し,自然資源の持続可能な利用と 環境保全を促進することが目的である。日本では 2010年から「ユネスコエコパーク」を通称とし ている。自然と人間のよりよい相互関係を構築す るために,生物圏保護区(Biospehere Reserve) を認定しており,2011 年 5 月現在,日本の白山, 屋久島などを含む 110 ヶ国 563 地域が認定を受 けている。保全と活用の両立を重視するなど,ジ オパークと理念においては類似する点が多く,認 定にあたっては地域社会と研究者の共同が重視さ れている。 国内においては,1919 年に史跡名勝天然記念 物保護法が制定されてはじまった天然記念物の枠 組みがある。天然記念物は基本的に保護・保全の ための仕組みである。1931 年に制定された国立 公園法にはじまる国立公園など自然公園制度は, 特別保護地域など保全に重点をおいた地域を設定 しつつ,保全と活用の両立を図る仕組みである。 これらさまざまな枠組みの認定・指定は重なり 合っている例は多い。島原半島ジオパークと霧島 ジオパークは,1934 年に最初に国立公園の指定 を受けた,それぞれ雲仙国立公園と霧島国立公園 を含む地域である。他の日本の多くのジオパーク は国立公園・国定公園と重なり合っている。ま た,特別天然記念物「昭和新山」を含む洞爺湖有 珠山ジオパークのように,ジオパークには多くの 天然記念物がある。国外においても,世界遺産, MAB,ジオパークの認定地域は重なり合ってい る。韓国の済州島はこの 3 つすべての認定を受 けている。 こうしたことは,保全に重点がある枠組みと, 保全と利用との両立を図る枠組みの両方を使っ て,核心的な保護地域,利用にも重点がある自然 と人間の緩衝地域などの位置づけを明確にして, 地域全体の自然の保全と活用を両立させようとす る努力の表れとみることができるであろう。 IV.世界ジオパークネットワーク ―設立の経緯と現状― 1996 年に北京で開かれた万国地質学会におい て今のジオパークにつながる考え方が最初に議論 され,ユネスコ地球科学部で 1997 年からユネス コジオパークプログラムを目指してユネスコ地球 科学部でガイドラインの作成などがはじまった (Zouros, 2004)。 ユネスコにおける,ジオパークに関する議論の 経過は,ユネスコ総会,ユネスコ執行委員会の決 議 等 に 記 録 さ れ て い る(Anonymous, 1997, 1999, 2000, 2001)。はじめて地形・地質遺産の 保全に関してユネスコで議論されたのは,1997 年のユネスコ第 29 回総会である。そこで「特別 な特徴をもつジオサイトの世界的ネットワークを 推進する」ことが承認された。その後 1999 年の 第 156 回執行委員会で「ジオパーク計画を推進 すること」が勧告された。2000 年の第 160 回執 行委員会では,ユネスコのプロジェクトの 1 つ
である MAB のなかでジオパークを推進してはど うか,という提言があったが,その提言は MAB 事務局の承諾を得られなかった。最終的に 2001 年の第 161 回執行委員会で,「ユネスコジオパー ク計画を実行しないが,(ジオパーク設立に向け た)各国の努力を個別に援助する」ことが決定し た。1990 年代中頃から国際地質対比計画(当時, 現在は国際地球科学計画 : International Geosci-ence Program,以下 IGCP)や国際地質科学連 合(International Union of Geological Science, 以下 IUGS),あるいは関連学会でジオパークに ついて行われた議論と提言が上記ユネスコでの提 案の背景にあった(Frey et al., 2006)。 ユネスコでの議論と平行して実際のジオパーク の活動がヨーロッパで進んでおり,2000 年に ヨーロッパの 4 ヶ所のジオパークにより,ヨー ロッパジオパークネットワーク(以下 EGN)が 結成された(Zouros, 2004, 2007)。また,中国 でも 2000 年に国土資源部が国家地質公園審査委 員会を発足させ,国家地質公園の認定がはじまっ た(Zhao and Zhao, 2007)。2001 年には上記の ユネスコ執行委員会の決定を受けて,ユネスコ地 球科学部(当時,現在は生態・地球科学部)が EGNと正式な合意をかわし,EGN を承認した。 2004年にはユネスコの支援のもと GGN が設立 され,その事務局がパリのユネスコ本部と北京に 置かれた。このときに EGN はユネスコ地球科学 部と再度合意を取り交わし,GGN 傘下で,ヨー ロッパのジオパークについて責任を負う組織と なった(Zouros, 2004, 2007)。 2004 年までにこの EGN に加盟して活動して いたジオパークと,中国の国家地質公園の一部を 最初の加盟ジオパークとして,20 のジオパーク で 2004 年に GGN が発足した。当初の加盟ジオ パークはヨーロッパの一部の国と中国のみにあっ たが,まずヨーロッパを中心に GGN 加盟ジオ パークをもつ国が増え,2006 年にイラン,オー ストラリア,ブラジル,2007 年にマレーシア, 2008年に日本,2009 年にベトナム,韓国,カナ ダ, と GGN 加 盟 を 果 た す 国 が 増 え て い き, 2011年 5 月現在 25 ヶ国 77 ヶ所が GGN に加盟 している。アフリカ大陸にはまだ GGN 加盟ジオ パークがないが,現在モロッコで設立を準備中で ある。また,米国地質学会が 2011 年 5 月現在, ジオパークに関する国内委員会と国内ネットワー クの設立を目指す,という内容を含む声明案に対 する会員からのコメントを募集中である。ロシア, インドなどまだ動きのない国もあるが,GGN は 徐々に“Global”と名乗るにふさわしいネット ワークになりつつある。 こうした動きを受けて現在 GGN 関係者や GGN加盟を目指す国のジオパーク関係者により, GGNとユネスコの関係をより密接にしようとい う動きが進行中である。2011 年 5 月に開催され た第 186 回ユネスコ執行理事会において,GGN とユネスコの協力の強化,およびユネスコ加盟国 がジオパークを設立する際の支援の強化に関する 提案を含む状況報告を第 187 回執行理事会に提 出することを要請する決議が採択された。 V.日本のジオパーク―経緯と現状― 日本のジオパーク活動の経緯に関して,国際会 議での報告等と著者の見聞をもとに記述する (Tsukuda, 2006; Watanabe, 2009, 2010)。2004 年から,地質学関連の団体・学会等で日本でのジ オパーク実現に向けて議論がはじまり,2005 年 10月には日本地質学会にジオパーク設立推進委 員会が設立された。この年には日本語で書かれた 最初のジオパークに関する論文が出版されている ( 岩 松・ 星 野, 2005)。2006 年 4 月 と 8 月 に は NPO法人地質情報整備・活用機構(以下 GUPI) が 2 度ジオパークに関するシンポジウムを行っ た。 2007 年 5 月には,日本地球惑星科学連合大会 においてジオパークに関するセッションがあり, 同 7 月には産業技術総合研究所地質調査総合セ ンター発行の「地質ニュース」7 月号が,GGN 関係者と日本の関係者の寄稿によりジオパーク特 集号として発行された。2006 年から GUPI を中 心に選定が進められてきた日本地質百選の第一次 選定結果が 2007 年 5 月に発表され,ジオパーク の動きとあわせて新聞で報道されたことをきっか
けに,ジオパークの枠組みが日本各地の自治体に 知られはじめ,GUPI,日本地質学会,産業技術 総合研究所(以下産総研)にジオパークの枠組み と申請の方法に関する問い合わせが来るように なった。日本地質百選は,2009 年 5 月に第二次 選定が行われ,写真と解説で選定地域を紹介する 本が,2007 年 10 月(一次選定分)と 2010 年 5 月( 二次選定分)に出版された(全国地質調査 業協会連合会・ 地質情報整備・活用機構, 2007, 2009)。 日本における申請の仕組みが整っていないな か,2007 年 12 月にジオパークを設立しようと する自治体・団体が「日本ジオパーク連絡協議 会」を設立した。この協議会は,ジオパークに関 する情報交換,国内における明確な申請の仕組み の構築に向けて関係者への働きかけなどを行っ た。 2008 年 1 月にはジオパークに関係すると想定 される省庁が協議を行い,学識経験者を委員と し,関係省庁がオブザーバとして参加し,産総研 を事務局とする日本ジオパーク委員会(以下 JGC)を設立して,そこを日本におけるジオパー クの評価機関として GGN 申請への窓口とするこ ととなった(図 2)。関連学会と産総研の協議に よりメンバーを選び,2008 年 5 月に JGC の第 1 回の委員会が開かれた。JGC はすぐにジオパー ク候補地の申請を公募して書類審査・現地審査を 行い,10 月に島原半島,糸魚川,洞爺湖有珠山 の 3 地域を日本初の GGN 申請地域に決定し, 12月にはそれら 3 地域と室戸,山陰海岸,南ア ルプス(中央構造線エリア),アポイ岳の合計 7 地域を最初の日本ジオパークとして認定した。 2009年 2 月にはこれら 7 地域を正会員とする日 本ジオパークネットワーク(以下 JGN)の設立 が宣言された。JGN は 5 月に総会を行って正式 発足した。2009 年の 7 月から 8 月にかけて,日 本から GGN 加盟申請を行った 3 地域の現地審査 が行われ,同年 8 月に 3 地域の日本初の GGN 加 盟が決定した。同年 12 月には山陰海岸ジオパー クが GGN 加盟申請を行い,2010 年 10 月に 4 地 域目の日本からの GGN 加盟が決定した。 こうしたなか,2008 年 9 月には古今書院の月 刊地理がジオパークの特集を,2009 年 5 月には 財団法人日本地図センターの普及誌「地図中心」 が 7 つの日本ジオパークに関する特集を組んだ。 ジオパークが設立された,あるいは設立準備中の 地域の新聞にはたびたびジオパーク活動に関する 記事が載り,ジオパークが徐々に一般社会のなか で知られるようになっていった。 学界でもジオパークの活動に参加する研究者が 増加した。日本地質学会と日本地理学会は 2008 年にジオパークを支援する委員会を立ち上げ,シ ンポジウムの開催や,ジオパークを設立しようと する地域の支援を行いはじめた。2007 年以降, 地球科学関連のさまざまな学会でシンポジウムな どが開催された。2009 年 5 月には日本地球惑星 科学連合大会でジオパークに関するセッションの 発表者がおこなわれ,多数の発表があった。月刊 地球の同年 7 月号,8 月号にはその発表者が寄稿 し,日本各地のジオパーク,ジオツーリズムの活 動の特集号が組まれた。 2010 年からは,申請地域の日本ジオパーク委 図 2 日 本 に お け る ジ オ パー ク 申 請 に 関 わ る 機 関・ 団 体.
Fig. 2 Organizations related to application and authorization of National and Global Geoparks in Japan.
員会でのプレゼンテーションと質疑応答を,日本 地球惑星科学連合大会のセッションの 1 つとし て公開で行っている。これにより審査の透明性を 確保することができ,また,これからジオパーク を目指す地域の市民や行政担当者やそれを支援し ようとする研究者にとっては,ジオパーク活動へ のよい入口となっている。 2011 年 5 月現在,日本ジオパークは 14 地域, そのうち上記 4 地域が世界ジオパークとなって おり,室戸ジオパークが GGN 加盟審査中であ る。日本ジオパークの前段階である,JGN の準 会員となっている地域が 15 地域あり,申請を目 指して活動を行っている。そのうち 6 地域が 2011年 4 月に JGN 加盟申請を行い,その公開 プレゼンテーションと質疑応答が 5 月に日本地 球惑星科学連合大会で行われ,9 月には加盟認定 の可否が決定される。 JGN は各地のジオパークに取り組む地域の情 報やノウハウを交換する重要な中心になりつつあ る。JGN は 2010 年に糸魚川で最初の大会を開 き,今後も年 1 度大会を開いてジオパークに関 する研究発表や活動報告を行う予定である。糸魚 川の大会では市民・行政担当者・研究者など各地 のジオパーク関係者が,ジオパークについて議論 するよい機会となった。JGN は今後,website や解説書の出版,イベントの開催などを通じてジ オパークとその理念の普及を行っていく予定であ る。JGN からの最初の出版物として,世界のジ オパーク編集委員会・日本ジオパークネットワー ク JGN(2010)による世界のジオパークの解説 がある。 VI.ジオパークの審査 「ジオパーク」を名乗るには GGN ないし各国 の国内ネットワーク(日本では JGN)に加盟を 認められる必要がある。どのような審査が加盟認 定にあたって行われているか,著者が JGC 事務 局として GGN,JGN 加盟認定の審査に関わっ た経験に基づき現状をまとめる。申請に関する最 新の情報は JGC の website に掲載されている。 JGN加盟申請と GGN 加盟申請はどちらも年に 1度,それぞれ 4 月下旬,12 月 1 日を締切とし て受け付けられている。 JGN への加盟申請にあたっては,申請書(現 状では 30 頁)と資料を提出し,2–3 日の現地審 査を受ける。日本の場合 JGN 既加盟地域のみが GGNへの申請の権利があり,JGC の推薦を受け た上で,GGN に申請書(現状では 50 頁)と所 定の自己評価票を提出し,書類審査を通過した後 3–4 日の現地審査を受ける。 審査は前述のガイドラインに書かれた理念に基 づいて行われる。JGN,GGN どちらも審査のポ イントは共通である。ただし,GGN 加盟申請の 審査にあたっては,今後の計画ではなく,これま での実績のみが評価されるが,JGN 加盟申請の 場合は実績に加えて,組織・体制・予算などの裏 付けが明確な,近い将来の未実行計画についても 評価している。GGN 加盟申請の審査にあたって は,その時点でジオパークとして十分な活動実績 がなくてはならない。 申請書には,地域の地球科学的な背景,地形・ 地質遺産の一覧と説明,地域の地形・地質遺産の 価値の記載,それらの遺産の保全の状況の記載が まず必要である。さらに,ジオパーク内の施設, 運営組織の組織構造・予算,地域の経済活動の現 況,ジオツーリズムを通じた地域の持続可能な発 展に関する計画が求められる。GGN 加盟申請の 場合,書類審査は GGN の審査委員会で行われる が,地形・地質遺産に関する記述は IUGS にお いても審査される。GGN 加盟審査は書類審査と 次に述べる現地審査で行われるが,JGC による JGN加盟審査の場合プレゼンテーションと質疑 応 答 を 現 地 審 査 の 前 に 行 う。 前 述 の よ う に, 2010年からプレゼンテーションと質疑応答は公 開で行われている。 現地審査では,実際に観光客に接する地元のガ イドと一緒にジオパーク内の見どころや拠点とな る博物館・ビジターセンターなどを見てまわる。 観光客がジオパーク内の地形・地質的な見どころ を楽しみながら理解できることが重要である。ガ イドの説明,野外説明板やガイドマップ・ガイド ブックの説明などが,科学的に正確であり,かつ
地球科学の素養のない人でも楽しめるかどうかが 評価される。書類審査で価値が高いと判断された 地形・地質遺産であっても,その価値がわかりや すく伝わらないようであれば,ジオパークのサイ トとしては意味がない。実際に現地で観光客に, 「ここで何がわかりましたか,何が面白かったで すか?」と尋ねることが現地審査では行われる。 GGN では 12 才の子供が理解できるかどうか, をわかりやすさの基準としている。また,運営組 織の担当者と質疑応答をすることにより,ジオ パークの理念を踏まえた上で運営が行われている かを確かめる。これまでの教育活動や,ジオツ アーの実績などについて,それらの教育活動に使 われたテキストやパンフレットなどを見て,教育 活動の質を確認する。 こうした審査を終えて,充分なレベルに達して いると判断された地域が GGN あるいは JGN へ の加盟を認められる。GGN に加盟を認められた 地域は,4 年に 1 度再認定審査を受けなくてはな らない。運営に問題が生じた,活動が不活発であ るなどの理由で,GGN から除名された例がある。 JGNと JGC においても,4 年に 1 度再認定審査 を行うことが決定し,2012 年から実行される。 なお,ジオパークの理念と枠組み,それを日本 の各地でどのように実現していくかに関して,筆 者はすでに解説を書いている(世界のジオパーク 編集委員会・日本ジオパークネットワーク JGN, 2010の III 編)ので,そちらも参照されたい。 また,ジオパークの運営について解説した書籍と して,全国地質調査業協会連合会・地質情報整 備・活用機構(2010)がある。 VII.お わ り に 2011 年 3 月 11 日の東北地方太平洋沖地震と 津波による災害は,地震・火山噴火など自然災害 が多い変動帯である日本列島に住む者にとって, 地球科学は安全に暮らすために必要な科学である ことを,あらためてわれわれに示したと著者は考 える。しかし,田村(2008)によれば,2006 年 の日本の高校在学者総数に対する地学 I 選択者数 は約 3%と推定されている。また,中井・中井 (2008)による教員免許取得希望者への 2006 年 のアンケート調査によると,初等教育系学生の理 数系学力低下が深刻であり,理科を充分に教えら れない小学校教員が増えることが懸念されてい る。このような状況下で,ジオパークは,児童・ 生徒にとって地球科学に触れる新たな場として大 きな役割を果たすことが期待される。 ジオパークとなった地域では,教育に関してさ まざまな活動が進んでいる。例えば,糸魚川ジオ パークは地元糸魚川市の小中学校の野外学習に広 く活用されており,2009 年 11 月に実施された 「糸魚川ジオパーク検定」には小中学生を含めて 500人以上の受験者があった。室戸ジオパークに おいては,地元高校で「ジオパーク学」が開講さ れ,生徒は室戸周辺に関係する地球科学を学んで いる。地元住民向けの学習会はすべてのジオパー クで行われており,地元の地形・地質を学んだ住 民が観光客向けにガイドとなる例が各地で増えて いる。児童・生徒に対する教育,住民向けの生涯 教育としては,ジオパークは成果をあげつつあ る。 2011 年 1 月 26 日にはじまった霧島山新燃岳 の噴火では,2010 年に日本ジオパークに認定さ れた霧島ジオパークの設立前からの地域での教育 普及活動が防災に重要な役割を果たした。霧島ジ オパークの科学面を担当した研究者が,ジオパー ク設立に向けて地域内各地で普及活動を行ってい た。このため市民の火山に対する関心が高まって いた。また,ジオパーク設立に向けて自治体間の 協力が進んでいたことも,広域での防災によい影 響があった。ジオツアーのガイドは,噴火後は研 究者と市民の間のサイエンスコミュニケータとし て機能し,また噴火の状況を観察して研究者に伝 える役割も果たした。 これらの教育活動が長続きするためにも,申請 地域にジオパークによる経済効果がもたらされる ことを期待したい。ジオパークに多くの観光客が 訪れ,地域が活性化することがなければ,上に述 べた地元の地形・地質を学ぼうとする住民の意欲 も減退していく可能性があるからだ。ジオパーク の 3 つの柱である,地形・地質遺産の保全,教
育,ジオツーリズムは,どれもジオパークを続け ていくために不可欠な要素である。 ジオパークよりもはるかに知名度の高い世界遺 産の場合においても,登録後観光客数が伸び続け ている地域(白神山地,屋久島,白川郷)と,登 録されたあとも観光客数の伸びがみられない地域 (広島の原爆ドーム,厳島神社,日光)とがある (内閣府政策統括官室, 2005)。ジオパークに認定 された地域が,地域の地形・地質遺産の価値を損 ねることなく,効果的に観光客にアピールしてい くことによって,持続的な地域社会の発展,持続 的な生涯教育を実現するために,ジオパークを運 営する地域社会に対する学界からの協力が重要で ある。 謝 辞 日本ジオパーク委員会,日本ジオパークネットワー ク,日本地質学会ジオパーク支援委員会,日本地理学 会ジオパーク対応委員会の方々には,日本におけるジ オパークの理念と今後の方向性について日頃より御討 論 い た だ い て い る。 ユ ネ ス コ生 態・ 地 球 科 学 部 の Margarete Patzak博士には,ユネスコ GGN ガイドラ インの基本的考え方についてご教示いただいた。GGN Bureauの Patrick McKeever 博 士,Nickolas Zouros 博士,Ibrahim Komoo 博士には EGN と GGN 立ち上 げの経緯,各国のジオパークの実情についてご教示い ただいた。筑波大学呉羽正昭博士と匿名の査読者の方 の査読により,粗稿は大きく改善された。以上の方々 に心より感謝の意を表する。
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