わが国企業 における業績評価指標 の 利用方法 に関す る研究
‑ バ ラ ンス ・ス コ ア カ ー ドとの比 較 に お い て ‑
乙 政 佐 吉
は じ め に
9 0
年代初頭 に提唱 されたバ ランス ・スコアカー ド( Ba l a nc e dSc o r e c a r d
,以下BSC)
は, 当初の 非財務的指標を体系的に取 り入れた業績測定 システムか ら戦略の実行 ・管理 を可能 にす る戦略的マネジメン ト・システムへ と変貌を とげ,今や世界中の実務家か ら大 きな関心を集めて いる。
実際,欧米企業で は積極的に
BSC
の導入が進 め られてい る。 また,欧米企業 に比べ ると導入時期 に差があるとはいえ.近年,わが国において もBSC
を導入す る企業が徐 々に出現 し始 めているO大 方 の見解 として,今後 もBSC
を導入す る日本企業が増加 してい くと予測 されている。一方で, わが国における経営 の実践面か らの批判 と して
,BSC
と同 じよ うな ことをすでに実践 し て いるので, いまさ らBSC
を導入す る必要 はないという指摘がある。 このよ うな指摘が正 しいので あれば,わざわざBSC
を導入す ることによ って得 られ るメ リッ トは少 ないであろ う。日本企業は従来か ら非財務的指標を利用 して きたとはよ くいわれるところである。 しか し,多面的 に業績を測定 しているか どうか,非財務的指標の改善が財務的指標 の改善 につ なが ると意識 している か どうか,あるいは,非財務的指標を計画や戦略を立案 した り修正 した りす るために利用 しているの か どうか,詳細 は必ず しも明 らかではない
。BSC
が今後 日本企業 に受 け入れ られ,浸透 してい くか どうかを論 じるには.その前段階 と して一つの手続 きが どうして も必要であると考 える。 それ は,わ が国企業 の業績評価 システムの実状 を具体的に把握 してお くことである。わが国企業の業績測定 システムにそ もそ も
BSC
に類似 した要素 が認 め られ るのか ど うか, もし認 め られ るとすれ ばどの程度認め られ るのか, この二点 を明 らか にで きれば, わが国企業 に とってのBSC
の新規性を明確 にす ることも可能 にな って くる。以上のような観点 か ら.わがEg企業 における業績評価指標の利用方法 の実態 を明 らかにす ることが 本稿の目的 となる。 この目的を達成す るために次 の手順 で論 を進めてい く。 まず第‑節で は,わが国 の
BSC
導入企業がBS C
に何を求 め, どのよ うに利用 しているのかを事例か ら考察す る。第二節では, わが国企業がBSC
と類似 した経営を実践 しているといわれ る中で, どのよ うに業績評価指標 を利用しているのかを既存文献 を通 じて検討 す る。 そ して
,BSC
を比較対象 とす るな らば, わが国の業績 評価指標の利用方法が必ず しも明 らかにな っていないことを指摘す る。最後に,第三節 において,わ が国 における業績測定 システムの実態 を明 らかにすべ く実施 した質問票調査の分析結果 を提示す る。1.わが国企業 にお ける
B S
C導入事例 の検討BSCが提唱 され て以来 およそ 1
0年 の歳月が流れて い る。 この間 に米 国企業 で はBSCの導入が積
極的 に進 め られて いる。Re nai s s anc eWor l dwi de
社 の調査 によれば, フォーチ ュ ン1 0 0 0
杜 に入 る企 業 の6 0%が BSCを導入 して いる, あ るいは,試行 してい るとい う ( Si l k,1 9 98,p. 3 9)
C 近年.わが 国で もBSCの導入事例 が紹介 され始 めてお り (伊藤他,20 01 ;
柴山他,20 0
1),今後 い っそ う浸透 し てい くと予期 されている (伊藤 ・小林,20 01 ,p
,1)0本節 で は, まず, わが国企業が どのよ うな目的 で
BSCを導入 して いるのか を事例か ら明 らかにす
る。 次 に,BSCが 日本企業 において どのよ うに利用 されているのか につ いて言 及す る(1
)。卜 1 B S
Cを導入 する理由BSCは企業変革 を促進 す るため に利用 す るときに最 も効果 を発揮 す る ( Kapl an & Nor t on,1 9 9 3
,p.1 42 ;1 9 9 6 b,p.1 3)
とされ る。 このよ うな主張が なされ るの は.財務業績の悪化か ら立 ち直 るために新 しい顧客志 向の戦略 を策定 し, その戦略 を確実 に実行す る目的で
BSCを導入 し. その結果大 き
な成果 を得た企業( 2 )
が観察 されたか らで あろ う。加 えて,高 い財務業績 を示 して いた
Uni t e dPe r c e lSe r vi c e( Kapl an & Nor t o n,2 0 01 ,pp.21 ‑2 2)
が将来の環境変化 に対応 しよ うと して,BSCを利用 し.成功 したことか ら.Kapl an&Nor t on( 2 0 0
1) は,次の よ うに述べてい る。「理想 的 には, 積極的 な成長戟 略 に乗 り出そ うと してい る組織 によ って ス コアカー ドは利 用 され るべ きだ。 つ ま り
, ( BSC
は)旅 の指針 と した り.す ばや い成長 に向 けてマネ ジメ ン ト・システ ムを開発 した りす るために,かつ,今後 の採用者 を含 めた従業員 を, ターゲ ッ トとす る顧客 との 関係 を獲得 し維持 し深 め るための戦略 に結 びっ けるよ う活用す るのが よい」(Kapl an & Nor t on
,2 0 01 ,p.22
,カ ッコ内は筆者)Kapl an&Nor t on( 1 9 9 6 b;2 0 0
1)が示す米国企業 は,財務業績 の悪化か ら立 ち直 るため,あ るいは 将来予想 され る環境 の変化 に対応 す るためにBSCを導入 して いるO いずれに して も,新 しい戦略 を
中核 に据 えて組織 を変革 しよ うとす る場合 にBSCを利用す ることが推奨 され る
。表
1 ‑1
は, わが国のBSC導入企業が どの よ うな理 由で BSCを導 入 して い るのか を示 して いるO
わが国で は,財務業績の悪化か ら立 ち直 るため とい うよ りも,中長期 的な観点 か ら自 らを取 り巻 く環 境 に対応 す るためにBSCを導入 して いる企業が 目立 つ。事例 か ら見 るわが国企業の BSC導入理由は
次の四点 にまとめ られ る。第
1
に,経営 の仕組み を改革す るのを支援す るためであ る。 リコーや宝酒造 は,中長期的な企業価(1) Ma l mi( 2 0 0
1)は,BSC
を導入する目的がBSCの内容や利用方法およびに経済的便益に影響を与えるのか どうか,あるいは.どのように影響を与えるのかを研究することは興味深いとしている( Ma l mi ,2 0 0 1 .p.
2 1 8 )
。本稿では,わが国の導入事例がまだ希少なためこの点について触れないが,今後重要となって くる研 究課題であろう。(2)
たとえは Mo bi lOi lCo r p o r a t i o n. SNo r t hAme r i c aMa r ke t i nga n dRe f i ni ngDi v i s i o n
やChem ic a lRe t a i l
Ba n k( Ka pl a n
&No r t o n,2 0 0 1 , pp. 3‑4 )が挙げられる。
わ が 国 企 業 に お け る業 績 評 価 指 標 の 利 用 方 法 に 関 す る研 究
表
1‑1
わが国企業のBSC
導入 目的 とその効果31
gL
入 日 が】 iI人による軌具リコー 変化する環境に戦I入○日本轟営品質7S的に対応する上での経営の仕組みの改革のためCの蕃査基準のもとに取り組んできたCS経営体質作り
B
SからCを導 ①各部門の戦略に対する理解の向上②KPB
SCことの重要性の理解③経営上の開襟.課題の明確化④公正な集Ttの‑耳性を維持する が生み出された○戦略的目標管理と呼机 報酬とのリンクO 頼評価(9部門間一部門長間のコミュニケーションの活性化宝漕進
長期経営構想を策定するプロセスの中で人事制度,評価制度、目標管理制度の ①今までできなかったことが確実にできる②重要でないと思っていモトローラ パフォーマンス.の仕事での達成された成果を測定するために点満点で評価を行うエクセレンス()というツ‑ルによって仕事の仕組みを改善○改善された個々マルコム.ポルドリ
B
Sッジ井を美津評価の標準とCを叫入.報酬とのリンク.し) 0
00①業練評価の適正化②個人レベルの報奨とのリンク③コミュニケ‑日本フィリップス 経営晶質向上プログラムを実施する上でとして
B
SCを斗入BB
SCを利用.方針管甥に代わるシステム①非財務指標を考慮に入れることによって様々な活動の論理的なつながりなった③コミを考えることができた②戦略的な方向性の検討が可能にュニケーションの円滑化 書士ゼロックス 克服するため.日本#.常品質Xに対する取り組みがB
SC導入の弾み.方針管理 二との重要性を謎知②経営晶質改善プログラムの進捗度を継続的(丑従来のやり方では明確に意鼓されなかった部分を管理していく にチェックできる③多元的な補完関係に着目した経営‑の転換 伊青ハム 株価の下落などを契機として経営機構改革の実施o経営機捕改革の過程で業績 ①T評価制度を改革するためにB
SCを斗入○間接部門の業耕評価を見据えたB
SCの 粍③組維間の意思疎通の円滑化④トやるべきこと」が明確に誼知②戦略の重要性が全社的に再謎ップの決めた方向性に応答出所 :伊藤他也(ml)および柴山他C2001)の記述に基づき筆者作成
値 向 上 を 図 る施 策 の一 環 と して , 従 来 か ら実 施 して い た 目標 管 理 制 度 や 業 績 評 価 制 度 を 見 直 し
,BSC
を導 入 して い る。 伊 藤 ‑ ム もま た, 意 思 決 定 権 限 の 委 譲 や組 織 の フ ラ ッ ト化 の よ うな組 織 変 革 を サ ポ ートす る た め に, 業 績 評 価 制 度 を 改 革 して い る。
第
2
に, 日米 欧 で創 設 さ れ て い る品 質 プ ロ グ ラ ム の影 響 が 挙 げ られ る。 リコ ー, モ トロー ラ, 日本 フ ィ リップ ス, 富 士 ゼ ロ ック ス は, 日本 経 営 品 質 賞 や マ ル コム ・ボ ル ドリ ッ ジ賞( Mal c ol m Bal dr i dge Nat i onalQual i t yAwar d)
の よ うな 品 質 プ ロ グ ラ ム とBSC
の 類 似 点(
3)に 着 目 し, これ ら の 品 質 賞 が 設 け て い る審 査 基 準 を も と に 実 践 して き た 取 り組 み を 強 化 す る た め に(4), あ る い は, そ れ らの 取り組 み が 追 い風 と な って
BSC
を導 入 して い る。第
3
に, 業 績 連 動 型 の 報 酬 制 度 を確 立 す る た め で あ る。 こ の よ う な 目 的 でBSC
を 導 入 して い る企 業 と して , リコ ー, 宝 酒 造 , モ トロ ー ラ, 伊 藤 ‑ ム が 挙 げ られ る (5)O 現 在 , 多 くの E]本 企 業 が , 労 働 者 の 価 値 観 の 変 化 を背 景 に して , 人 件 費 の 削 減 あ る い は従 業 員 の 自立 性 の 促 進 や従 業 員 の 努 力 ‑ の 正 当 な 評 価 を 実 現 す る た め に, 年 功 序 列 か ら成 果 主 義 へ と転 換 を 図 って い る。 BSC
で は, 財 務 的 な 成 果 だ け で な く定 量 化 さ れ た非 財 務 的 指 標 も重 視 さ れ る。 そ の た め , 評 価 の 不 透 明 性 や 不 公 平 性 を 解 消 す るの に 有 用 で あ る と受 け止 め られ て い るの で あ ろ う。(3)
品質 プ ログラムとBSC
の類似性 は研究者 によ って も指摘 されて い る。長谷川( 2 0 0 0 )
は, マル コム ・ポル ドリッジ賞 や 日本経営 品質賞 に も, プ ロセ ス ・マ ネ ジメ ン ト,学 習 マネ ジメ ン ト, 顧客 関係 マネ ジメ ン トな どの審査基準 の 「カテ ゴ リー」 が明記 され,BSC
に関わ る論点 と共通 す る部 分 が多 い と述べ て い る (長 谷川,2 0 0 0 ,p. 2 1 3 )
a(4) Whi l t a ke r( 2 0 0
1)によれば,BSC
はマル コム ・ポル ドリッジ賞 を は じめ と した多 くの品質賞 によ って示 さ れて い る結果 を達成す るための フ レーム ワー クや方法論 であ るとされ る( Whi l t a ke r ,2 0 01 ,p. 2 9 )
。(5)
ただ し,業績 と報酬 を リンクさせ るためだ けにBSC
を導 入 してい るわ けで はないよ うだ。報酬 との リンク を図 るためだ けにBSC
を導 入 す るとBSC
の運 用 に失敗 す るとされ る( Kap l an & Nor t on.2 0 01 ,pp. 3 6 6‑
3 6 7 )
。 それ は.報酬 との リンクを図 るためだ けに設計 された スコアカー ドで は, 四 つの視点 間 の因 果関係 が 明確 にされず.顧客満足 や財務業績 の改善 を どのよ うに して導 くのか把握で きないか らであ る。第
4
に,新 しい ビジネス ・モデルを構築 す るためで あ る。BSC
は厳密 にいえば戦 略 を実行す るた めの ツールであ る( Ka pl a n & No r t o n,2 0 0 1 ,p. 3 7
2)
。 それゆえ,BSC
を導入 ・実行 す るに際 して戦 略や ビジ ョンを明確 に してお くことが前提 とな る。 それ に もかかわ らず,Ka p l a n & No r t o n( 2 0 0
1) は,BSC
の構築 プ ロセスを利用 す ることによ って戦略 を開発 す る こと も可能 である ことを明 らか にして い る
( Kap l a n & No r t o n,2 0 0 1 ,p p. 3 7 2 ‑3 7 3 )
。 伊藤忠紙パ ルプの事例 は,戦略 を明確化す る機 能 を期待 してBSC
を利用 した ことを示 して いる。1 ‑ 2B S
Cの利用方法BSC
の提唱者 であるKa pl a n & No r t o n
は, 自 らが実務へ理論 を導入 し実践 に移す ことを通 じて,BSC
を発展 させ ている(6)。 当初業績測定 システムであ ったBSC
は戦略的 マネ ジメ ン ト・システムへ と変貌 した0年 を経 るにつれてBSC
が発展 してい るせ い もあ ってか実務家 のBSC
に対す る捉 え方 は 必 ず しも一様 で はない。以下 で は.戦 略的 マネ ジメ ン ト ・システム と してのBSC
の実行 プ ロセスを 概観 した上で, わが国企業 のBSC
の利用方法 を考察す る。1 ‑2 ‑1 BSC
の実行 プ ロセスBSC
のそ もそ もの基本 的性格 は.財務的指標 と非財務 的指標 を体 系 的 にまとめたマネ ジメ ン ト・レポー トであ った。経営者が この マネ ジメ ン ト・レポー トを見 ることによ って,パ イ ロ ッ トが複数の 計器 を眺めなが らフライ トす るの と同様 に,複数 の指標 を介 して問題解決や意思決定 を行 うことがで
きるよ うに図 ったのであ る(7)O
フィードバック
その後. 四つの視点 を準拠枠 とす る マネ ジメ ン ト・レポー トであ った
BSC
に新 たなアイデアが付 け加え られた(良)。 それ は,戦略か ら業績評価指標 を導 き 出す ことと,導 き出 された指標間に因 果関係を想定す ることである
。Ka p l a n
& No r t o n( 1 9 9 6 a;1 9 9 6 b)
は, このよ うな新 しいアイデアが付加 されたBSC
を利 用す ることによ って,四つのマネ ジメ ン ト・プ ロセス(9)が実現 で きる 図
1‑1
戦略的マネジメント・システムとしてのBSC
の実行プロセス ことを明 らか に した。四つのマネ ジメ ント・プロセスとは,
(6) BS C
を発展させる方法論については,Ka p l a n( 1 9 9 8 )
を参照されたい。(7) Ka p l a n
&No r t o n( 1 9 9 2 )
は,マネージャーに対 して財務的な指標ばかりでなくオペレーションの状況を 示す非財務的な指標 も提示されることが必要とされる時代に入ったことを指摘 した上で,「経営 トップが事業 を迅速かつ総合的な視点か ら見ることのできる指槙を案出するに至 った」( Ka p l a n
&No r t o n ,1 9 9 2 , p . 7
1) としている。(8) BS C
の発展過程については,乙政( 2 0 0 2 a )
を参照されたい。わが国企業 にお ける業績評価指標 の利用方法 に関す る研究
3 3
① ビジ ョンや戦 略 をわ か りやす い言葉 に置 き換 え る
( Cl ar i f yi ngandTr ans l at i ngt heVi s i onand St r at e gy)
, ② コ ミュニ ケ ー シ ョンと リンケ ー ジ( Communi c at i ngandLi nkage)
, ③ 経 営 計 画( Pl anni ngandTar ge tSe t t i ng)
,④ フ ィー ドバ ックと学習( St r at e gi cFe e dbac kandLe ar ni ng)
, を指す。① の 「ビジ ョンや戦 略 をわか りやす い言葉 に置 き換 え る」 プ ロセ スで は. トップ ・グル ープが ビ ジ ョンや戦 略 を従業員 に理解 しやす いオペ レー シ ョナルな業績指標 (非財務 的指標) に置 き換 え る。
このプ ロセスを通 じて, ビジ ョンや戟 略 を あいまいに理解 して い る ことが多 か った トップ ・グル ープ のあいだで,戦 略 目標 や それ を達成 す るの に必要 な行動 につ いて明快 な コ ンセ ンサ スが得 られ るとさ れ る。
② の 「コ ミュニケー シ ョンと リンケー ジ」 は,戦 略 を具体 的 に記述 した
BSC
を組織 全体 に普 及 せ しめ ることで,全成員 を戦略 に向 けて統合 す るプ ロセスで あ るO その 目的 を達成す るために用 い られ るコ ミュニケー シ ョンの方法 は.大 き く分 けて三 つ あ る。 i.多様 な コ ミュニケー シ ョン ・メデ ィア の利用(1
0)
お よびに教育 プ ログ ラムの実施. i i.
個人 目標 や チ ーム 目標 の開発,ii.Ej標達成度 と報 酬 システム との リンケー ジ, で あ る。③ の 「経 営計 画」 プ ロセスにお いて
,BSC
と計画 や予算 が統 合 され る。 具体 的 に は. まず各視点 に記載 され る指標 に対 して意欲的 な ターゲ ッ トが設定 され る。 そ うす る ことによ って トップ は組織変 革が必須 で あ ることを従業員 に伝達す る。次 に,設定 され た ターゲ ッ トを達成 す るための手段 と してTQM ( Tot alQual i t yManage me nt )
や リエ ンジニア リング( r e e ngi ne e r i ng)
の よ うな戦 略 的実施 項 目( s t r at e gi ci ni t i at i ve s )
を決定 す る。 同時 に, それ らの実 施項 目に必要 とされ る財務 的 ・人 的資 源が明確 に され る。 さ らに. 各視点 の指標 に関 して特定 の短 期 的 ターゲ ット ( mi l e s t one)
が確 立 さ れ, この短 期的 ターゲ ッ トのため に当該年度 の資源配分 と予算 が計上 され るO④ の 「フ ィー ドバ ック と学習」 プ ロセ スで は, 戦 略 の有効 性 が検討 され る。 この プ ロセス にお い て, トップ ・マネ ジメ ン トは従来 あま り意思決定 に利用 す る ことが なか ったオペ レー シ ョナルな業績 指標 に注 目す る
。BSC
が もた らす この よ うな フ ィー ドバ ック情報 を もとに, 月次 あ るい は4
半 期 ごとの会議 にお いて,戦 略 の基礎 とな る仮説 を検証,評価 し,必要 に応 じて修正 す る。 そ して,修正 さ れ た内容 は,① の 「ビジ ョンをわか りやす い言 葉 に置 き換 え る」 プ ロセスに還元 され る。 こ う して 四つのマネ ジメ ン ト・プ ロセスは循環 的 に繰 り返 され る。
(9)
四つのマネジメント・プロセスは.Ka pl an
&No r t o n( 2 0 0
1)において,戦略志向組織( St r at e gy‑Foc us e d Or gani z a t i o n)
になるための五っの原則に姿を変えている。五つの原則は,四つのマネジメント・プロセス をベースにした ① 戦略を現場の言葉に置 き換えること( Tr a ns l a t et heSt r at e gyt oOpe r at i o nalTe r ms )
,② 戦略を従業且の日常業務にすること
( MakeSt r a t e gyEv e r yo ne ' sEv e r ydayJo b)
,③ 戦略を継続的なプ ロセスにすること( Ma keSt r at e gyaCo nt i nualPr o c e s s )
と, シナジー効果を生み出すためのBSC
の利用 方法を提示する④ 組織を戦略に統合すること( Al i gnt heOr ga ni z at i o nt ot heSt r at e gy)
,およびに トップ の リーダーシップの重要性を指摘する ⑤ トップの リーダーシップを通 じて変革を促進すること( Mo bi l i z e Cha nget hr o ughExe c ut i v eLe a de r s hi p)
,からなる。(10) コミュニケーション・メディアには,より正確に内容を伝達できる1対1の対話や小 グル‑プでの会議か ら,一度に多数の人々に伝達できるニュースレターや レポー トまであるO詳 しくは
Ka pl a n
&No r t o n( 2 0 0
1,p. 21 9 )
を参照されたい。図
1 ‑1
で は.① の ビジ ョンをわか りやす い言葉 に置 き換 え ると ④ の フ ィー ドバ ックと学習 を 「多 面 的業績測定 システム」 に,(参 の コ ミュニケー ションと リンケー ジを 「コ ミュニケー ション」
,③ の経営計画 を 「予算 ・計画 との統合」 に分類 し
,BSC
の実行 プ ロセスを示 している(ll
)。「多面的業績測 定 システ ム」 は,BSC
が提唱 され た当初か ら保有 して いた側面 であ り,戦 略的 マネ ジメ ン ト・シス テムと してのBSC
において も中核 とな る。なお,図
卜 1
にはそれぞれの側面 に対応す る組織階層 を表記 している。「多面的業績測定 システム」で は,上 に記 したよ うに, トップ ・マネ ジメ ン トが戦略 をオペ レー ショナルな業績指標 に置 き換え, 定期 的 に それ らの指標 に対 す るフィー ドバ ック情報 を得 る ことによ って戦略 を検証 す るO さ らに,
BSC
と 「予算 ・計画 との統合」 が な され ることを通 じて, ミドル ・マ ネ ジメ ン トは戦略 を継続的 に 管理す る。 また,現場 に近 い ローワ一 ・マネ ジメ ン トが 「オペ レー シ ョナル ・コン トロール」 を行 い, 課業 を管理 す る。 「コ ミュニケー シ ョン」 において は. トップ ・マネ ジメ ン トが全成員 に向 けてメ ッ セー ジの伝達 を行 う。卜 2‑2
実例 にみ る日本企業 のBSC
の利用方法衰 ト 2
は,伊藤他( 2 00
1) および柴山他( 2 0 0
1) を参照 しなが ら. わが国 でBSC
が どのよ うに利 用 されているのかをまとめている( 1 2 )
。図ト 1
で示 した実行 プ ロセスに別 して作成 した。伊藤他( 2 0 0
1) や柴 山他( 2 00
1) の事例 はBSC
の導入手 順 に焦点 をあてて記述 されて いる こと, また,事例記述時 点 で は各社 とも導入 してか ら間 もない とい うこともあ り,不 明な点 が少 なか らず存在す るo Lか し, 表1 ‑2
を見 ると,各社 独 自にBSC
をア レンジして いることが窺 い知 れ る。 以下 で は,「多面的業績 測定 システム」
,「予算 や計 画 との統合」
,「コ ミュニケー シ ョン」 の各側面 か らわが国企業 のBSC
の 利用方法 を検討 す る。(1)多面的業績測定 システム
BSC
では通常 ① 財務 の視点( Fi na nc i alPe r s pe c t i v e )
,② 顧客 の視点( Cus t ome rPe r s pe c t i v e )
,③ 社内 ビジネス ・プ ロセスの視点
( I nt e r nalBus i ne s sPr oc e s sPe r s pe c t i v e )
,④ 学習 と成長 の視点( Le ar ni ngandGr owt hPe r s pe c t i v e)
とい う四つの視点 の もとで財務 的指標 と非財務的指標が体系 的 にまとめ られ る。 わが国 で は リコーをは じめ と して,環境 に関す る視点 を五番 目に付加 している企 業が 目立っ (13)。 これ はわが国での環境保全活動 に対 す る関心 の高 さを示 しているといえ る。また, モ トロー ラは, 設定 して い る視点 の数 こそ四つ で あ るが, 主 要 な利害 関係者 ごとに視点
(ll) 乙政
( 2 0 0 2 b )
では,本稿と同様に,BS
Cを 「多面的業績測定システム」 ,
「予算 ・計画との統合」 ,
「コミュ ニケーション」の三つの側面に分け,それぞれの側面におけるBS
Cに対する批判を考案 した上で.BS
Cの 理論的妥当性を検証するための更なる研究課題を提示 している。(12) ただし,伊藤忠紙パルプについては,柴山他
( 2 0 0
1)に運用方法を模索中とあるため割愛 している。( 1 3)
リコーでは五っの視点に関連付けられる指標のあいだの因果関係をどの程度明確にするかが今後の課題と なっている (伊藤他,2 0 0 1 ,p p. 9 7‑9 8 ) 0BS
Cに記載される指標は事業単位( b us i ne s suni t )
の戦略を明確 にし,ス トーリーとして語る因果連鎖に十分に統合されるべきだとされる( Ka p l a n & No r t o n.1 9 9 6 b, p. 3 5 )
0 時に新たな視点を設けるにしても,いかに戦略を記述するかという観点から考慮すべきであろう (乙政,2 0 0 2 b
,p. 3 7 )
。わが国企業 にお ける業績 評価指標 の利 用方 法 に関 す る研究
3 5
を設 けて い る。 それ ぞれ の視点 問 に明確 な因果 関係 も想 定 して いな い ことか ら
,Ka pl a n & No r t o n
( 2 0 0
1)のい う利害関係者 ス コアカー ド(14 )( St a ke ho l d e rSc o r e c ar ds )
に相 当す ると考 え られ る。( 2 )
予算 や計画 との統 合3
か ら5
年先 を見据 え た戦 略 はBSC
上 で財務 的指標 と非 財務 的指 標 に置 き換 え られ る。 そ して.戦 略を継続 的 に管理 す るため に
BSC
と予 算 との統 合 が図 られ る。 わ が国 で は財務 の視点 の 目標 に予 算 目標 を置 くことによ ってBSC
と予算 の統合 を図 っているよ うであるが,Ka pl a n & No r t o n( 1 9 9 6 b;
2 00
1)が提示 す る方 法 とは異 な って いるO ただ し.Ka p l a n & Nor t on ( 200
1)は,BSC
と予算 の統合 は ほとん どの場 合 まだ実行 され てい ない( Ka pl a n & No r t o n ,2 001 ,p. 2 80)
と して お り,BSC
と予 算 を統 合 させ る方 法 につ いて はまだ研究 の余地 が あ る といえ る。( 3)
コ ミュニケー シ ョンBSC
の提 唱者 で あ るKa pl a n & No r t o n
はBSC
と報酬制 度 を リンクさせ る ことに慎 重 な姿勢 をみ せ てい る( 1 5) oKa p l a n & No r t o n ( 2 00
1)によれ ば,適切 な指標 が決定 され. その指標 に対 す る完全 な デー タが利用可能 にな るまで, あま りに早 急 にBSC
と リンク した報 酬制 度 を導 入す る とい う危 険 は 避 けな ければ な らな い( Ka pl a n & No r t o n ,2 001 ,p. 2 70)
とされ る。 それ に もかか わ らず わ が国 で表1‑2わが国企業の
BSC
の利用方法IE行プロセス企(租暮*れ溝内)訳
書J L
tIのリンケ‑ジ のガLと多iiiI日Jt定が】+1一■格■対するBElさ書の定■定にシステムれ特的バッフイ ドク‑I 事暮■位の暮dl拝すjL hHJ.JtJlE分市 JE.f 書十面 との良 含 書Tプログラムの*暮 M先 B■tJとのリンクAJLt+tIl宝漕並(事 JE木 鉢 制 ) (客 .商 品(ロセス① 風土 .兵二人財⑤ 社 会 一少財 携Q)碇行動塾プ殖 育 育 育 活 動 方針 書・半期 ごとに
( BS C)
の改訂 ・述 時点 ではリンクなし(抑 目か ら) ・ケー ス言導入二己捷財務 の視 点 の 目標 に予 算 目操 を示 展 開 予定一・部 レベル まで展開今 後課 レベ ル までモトローラ(事 暮都 制 ) ①株 主② 禰客③ 消 書者④ 従業員 育 書 育 ・四半 期 ごとにレビュー 成 が財 務 の視 点 に影苧・販売 予 算お よび * 用予 算 の編
日本フィリップス
(事 暮木 一冬制 ) ① 財 務② 顧 客③ 業 務プ ロセス④ 学 習成 長 育 育 育 ・・部 レベル まで展 開部 分 的 には祝 レベ
t 士 ゼロックス(カンパ二‑制 ) (③ 業務 プロセス④ 学 習成 長丑財 務② 顧 客 育 無 育 ・月次 で進捗度のチェック移を捕 捉 することが 目的)(目積 憤 の推 下の統 括 グル ー プごとに作成・に属 す る統 括 部 門社 内 カンパ ニーの なし・報酬 との リンク
出所:伊藤他CZ
C O
l)
および柴山他(2( 泊1 )
の記述に基づき筆者作成( 1 4 ) Ka p l a n & No r t o n ( 2 0 0
1)は,自分たちが推奨する戦略的スコアカー ド( S t r a t e g yS c o r e c a r d s )
の他に, 二種類のスコアカー ドが実務でよく用いられていることを明らかに しているO‑つは利害関係者スコアカー ドであり. もう一つは重要成功要因スコアカー ド( KPIS c o r e c a r d s ; 拡e yPe r f o r r n a n c eI n d i c a t o r )
であるO 戦略的スコアカー ドと他の二種類のスコアカー ドとの大 きな違いは,指標が戦略から導かれているかどうか と指標間に因果関係が想定されているかどうかであるO詳 しくはKa p L a n
&No r t o n ( 2 0 01 , p p . l o o‑1 0 4 )杏
参照されたい。( 1 5 ) Ka p l a n
&No r t o n ( 2 0 0
1)は,大部分の企業がこれほどまで早 く報酬制度との連動に踏み切 ったことに注 目している( Ka p l a n & No r t o n. 2 0 01 , p . 2 6 6 )
O ‑は導入段 階 で
BSC
と報酬制 度 を リンクさせて い る企 業 が多 い。 前項 で述 べ た通 り, わが国 で は業績 連動型 の報酬制度 を確立 させ る こともBS C
導 入 の Ej的 と して いるか らで あ る0 日本企業がBS C
の導 入段 階で報酬制度 との リンクを図 るの は,Ka p l a n & No r t o n ( 2 0 0
1)が指摘 す るよ うに.BS C
に基 づ く報酬制度 を早急 に展 開す る ことが望 ま しい と受 け止 め られた とい うよ りも,既存 の報酬制度が うま くい って い/i:か ったため と考 え た方 が よいのであ ろ う( 1 6 ) ( Ka p l a n & No r t o n ,2 0 0 1 , p . 2 6 6 )
aなお
,BS C
が普及 し日常 業務 にな るまでの コ ミュニ ケー シ ョンの方法 と して は, 多様 な コ ミュニ ケー シ ョン ・メデ ィアの利 用 と教育 プ ログ ラムの実施 が基本 とな る(17)。 しか し,伊 藤他( 2 0 0 1
) や 柴 山他( 2 0 0
1) には この点 に関す る記述 が見当 た らない。以上 わが国 で の
BS C
の利用方法 を論 及 した。 わが国で はKa p l a n & No r t o n ( 1 9 9 6 b;2 0 0
1)が提 示 す るBS C
と異 な る利 用方法 も見受 け られ るO それで も,事例 にみ るわが国企業 は, 多面 的 な視点 の もとで戦略 を業績評 価指標 に置 き換 え る こと, それ らの指標 間 に因果関係 を想定す ること,下位部 門 に も多面 的 に解釈 され た戦略 を展 開す ることに新 しい考 え方 を見 出 して い るよ うであ る。特 に,下 位部 門 に も多面 的 に解釈 され た戟 略 を展 開す る ことに
BS C
の有 用性 を見 出 して いると考 え られ る。 ほ とん どの企業 が,BS C
導 入 によ る効 果 と して, コ ミュニ ケー シ ョンの活 性化 を挙 げて い るか らで あ る (蓑 卜1
参照)。 また.BS C
の導 入 に際 して, い くつかの企業 が既 存 の 目標管理( 1 8 )
や方針管理(1 9)
を見直 して い る。 目標管理 や方針管理 と比 べ て も,BS C
の方 が コ ミュニ ケー シ ョンの 質 を高 め る と受 け止 め られてい るので あろ う。しか し
,BS C
にお いて中核 とな るの は多面 的業績 測定 システ ムで あ る。 経営 トップ に財務 的指標 だ けで な く非 財務 的指標 もフ ィー ドバ ック情 報 と して提 供 す る ことがBS C
の要諦 とな る。 わが国企 業 がBS C
を導 入 してか ら問 もない とい うこと もあ るが, フ ィー ドバ ック情報 を どのよ うに利用 して い るのか は定 かで ない。2 .
わが国企業 にお ける某紙評価指標 の利用方 法前節 で は, わが国 の
BS C
導入企業 の事例 か ら,BS C
の導入 目的 と利 用方法 を考察 した。 わが国 に( 1 6 )
コンサルタントである森沢( 2 0 0
1) は,「 BS
Cは業績の計画〜組織業績の期末評価〜組織長の業績考課〜考課結果の業績連動報酬まで一気通貫 して導入されるのか理想である」(森沢
,2 0 0 1 ,p. 2 4 6 )
としている。 日 本企業がB S C
の導入段階で報酬制度との リンクを図るのは,導入を推進するコンサルタントの影響 もあると いえる。(17) 個人目標の設定や報酬精度 との連動は, コミュニケーション・メディアを通 じて発せ られたメッセージを 補強するのである
( Ka p l a n & No r t o n , 2 0 0 1 , p . 2 3 2 )
0( 1 8 )
奥野( 1 9 9 7 )
によれば, 目標管理には,「組織の末端までに体系的にプレ‑クダウンし組織目標の達成に向 けて成員の貢献を統制する側面 と,目標設定,実行,評価過程における自己統制によって目標達成への主体 的な貢献を引き出すという側面がある」(奥野,1 9 9 7 ,p. 7 9 )
とされる。 さらに奥野( 1 9 9 7 )
は.日本で行われ ている目標管理は人事管理制度として位置付けられており,後者の側面をより重視 し,前者の側面に欠けて いるというoBS
Cは, このような不足を補 うのに有用であると考えられているのであろう。( 1 9 )
方針管理では.基本的に単一の視点に属する目標ない し戦略をベースに して, これを段階的に展開 し,さ らに実現するための方策ないし活動に結びっけられる (伊藤他,2 0 0
1)0B S C
を利用すれば多面的に解釈さ れた戦略を展開できる点にBS
Cの有用性を見出 していると考えられる。わが国企業 における業績評価指標の利用方法 に関す る研究
3 7
おいて も
BS C
を導入す る企業が現 れ始 めている。一方 で.BSC
と同 じよ うなことはすで にわが国で 行 って いるので, いまさ ら新 しい もの を導入 す る必 要 はない とい うBSC
に対す る実践面 か らの批判 がある (長谷川.2 0 0 1 ,p. 6 7 0 )
O た しか にわが国で これ まで実践 されて きた目標管理 や方針管理 にはBS C
との類似性が見 られ る( 2 0 )
。 けれ ど も.BS C
の中核 とな って いるの は多面 的業績測定 システ ムで ある。 日本企業がBSC
と同 じよ うな ことを実践 してい るのか ど うか判定す るには,業績評価 におい て日本企業が どのように業績評価指標 を利 用 して いるのかにつ いて明 らかに しなければな らない。本 節では,既存文献か らわが国企業 の業績評価指標 の利用方法を検討 す る。2 ‑1
非財務的指榛 の利用そ もそ も非財務的指標が米 国で多 くの関心 を集 め るよ うにな ったの は,① 財務的指標 に限界 があ ることが研究者 と実務家 によ って認識 された こと,(塾情報技術が進歩 した こと,③ グロ‑パルな競 争が進展す る中で
1 9 8 0
年代 にTQM
が台頭 し1 9 9 0
年代 に顧客志 向の意識が高 ま って きた こと, もさ ることなが ら,④ ヨーロッパや極東 で成功 してい る企業が いわゆ るア ングロサ クソ ンはど狭義 の財務 的指標 には依存 して いな い( 2
1)とい う観察 が なされ た ことによ る( Ec c l e s ,1 9 9 1 ; Ec c l e s & Pybur n, 1 9 9 2 ; But l e re t a
l. ,1 9 9 7 )
.日本企業 は従来か ら非財務的指標を利用 して きたのである。事実,星野
( 1 9 9 4 )
の質問票調査で は, わが国製造企業が,財務的指標の はかに,市場 シェア伸 び率, 目標達成 (努力)皮,売上高成長率予 刺.製品品質,生産計画の達成度 のよ うな非財務 的指標 を重視 してい るとい う結果が示 されて い るoBSC
が提 唱 され る大 きな動因 とな ったの は,非財務 的指標 で財務的指標 を補強す る必要 の あ るこ とが認識 された ことで ある。 トップが財務 的指標 にのみ依存すれば誤 った意思決定を行 う原因 とな る ためであ る。BSC
は提唱当時,多面 的に業績測定 す ることを狙 い と した業績測定 システムであ った。最 も初期 の
BSC
を前提 に考 え るな らば,指標 を多角的 な視点 に分類 して いたか ど うか は別 に して, わが国企業 はBS C
の提唱 よ り先ん じて非財務的指標 を織 り込んだ経営 を実践 して きたといえ るOただ し,星野
( 1 9 9 4 )
は,非財務的指標が利用 されて いることを示す ものの, どのよ うに利用 され て いるのかにつ いては触れていない。測定結果 を注視 しているだ けか も しれない。 あ るいは, それぞ れの指標 に目標 を設定 して 目標 と実績 の差異 を分析 し, その分析 を通 じて さまざまな意思決定 を行 っ ているか もしれ ない。 日本企業 が従来か ら非財務 的指標 を利用 して きた とい う事実 を以 ってBSC
と の類似点 を判定 す る前 に, まずわが国で非財務的指標 が どのよ うに利用 されてい るのか を詳 らかにす る必要が あるで あろ う。2 ‑2
多面 的な業績評価BSC
は,提唱以来多 くの企業で導入 と実践が繰 り返 され, その コ ンセプ トは絶 えず 発展 し続 けて( 2 0 )BS C
と目標管理および方針管理との異同点については乙政( 2 0 0 2 a )
を参照されたい。( 2
1) 加護野他( 1 9 8 3 )
の調査においても,米国企業が少数の経営目標とくにR
OI目標と株価に集中 しているの に対 し,日本企業においては市場占有率や新製品比率を中JLりこ経営目標が多方面にわたっていることが示さ れている (加護野他1 9 8 3 .p . 2 5 )
oいる。現時点 において
BSC
は戦略的マネ ジメ ン ト・システムと して位置づ け られ るが.中核 となる のは多面的業績測定 システムである。 ただ し,多面的業績測定 システムが戦略的マネジメン ト・シス テムと してのBSC
の中核 となるには,(D戦略を中心 に据え ること,② 四つの視点の下で非財務的指 標 を体系的 に取 り入れ ること,③ それ らの視点 ・指標間に因果関係 を想定す ること,④ 戦略か ら導 き出 した指標 に目標 を設定す ること,⑤ 経営 トップが事業単位の業績 を多面的かつ多元的( 22)
に評価 す ること,が要求 され る。長谷川
( 2 0 0
1) によれば,BSC
の四つの視点について実践面か らの批判 があるとされ る。 それは, すでに日本 も含めた多 くの企業 において,財務の視点のみな らず,顧客,業務プ ロセス.学習 と成長 などの非財務的な視点 につ いて も視野 に入れた経営を行 っているため,BSC
の四つの視点が常識的 だ とい うことである (長谷川, 2 0 01 , p , 7 8 )
. また,小林( 1 9 9 8 )
は,BSC
はマーケテ ィングや経 営学 の分野 などで従来か ら言われていることをまとめているだけであ り,財務的成果を得 るためにパ フォーマ ンス ・ドライバーを重視す ることも日本の経営者 にとっては常識 に属す ることであると主張 してい る (小林.1 9 9 8 ,p. 6 8 )
O わが国企業 にとって. 四つの視点 も因果関係( 2 3)
もいわば常識 に属 す るのである。しか し.鹿本
( 2 0 0
1) によれば, アメ リカ企業が財務的指標 に依存 しす ぎている点を批判 されてい る時 に, 日本の製造業では,現場 の改善活動が果 た して収益性の改善にどれだけ結 びついているのか が明 らかでない点が問題視 されていたことはあまり知 られていないとされる (贋本,2 0 01 ,p. 1 6 3 )
0 田中( 2 0 0 2 )
もまた,「日本企業 の非財務指標 は財務指標 とりわ け株主価値 との関連付 けが ほとんど なされていない。 しか も.非財務指標 は戦略マ ップのよ うに体系化 されてお らず,戦略の実行 とも関 連付 け られていない」 (田中,2 0 0 2 ,p. 1 4 )
と述べているO これ らの陳述 による限 りでは, 日本企業 は財務的な成果を得 るための因果関係を必ず しも明確 に認識 していたわけではなか ったようである。わが国企業が従来か ら財務的指標だけでな く非財務的指標 も重視 して経営を行 ってきたとい う事実 は
,BSC
との類似性を示 しているといえ る。 しか し,非財務的指標 を重視す ることだけがBSC
では ない。BSC
を比較検討 の対象 とす るのであれば, 日本企業 の実務 において業績評価指標 と戦略が リ ンクされているか,指標間 に因果関係 を想定 しているか,非財務的指標 にも目標を設定 しているか, 多面的かつ多元的に事業単位の業績評価 を行 っているかを検討す る必要がある。3 .
わが国 における業績評価指標の利用方法 に関する実態調査前節で見た とお り,わが国企業の業績評価指標の利用方法を
BSC
との比較か ら捉えよ うとす ると, いまだ明 らかにな っていない点が多 い。 また,莱‑節で指摘 したように, わが国のBSC
導入企業 に おいて もBSC
か らもた らされ るフィー ドバ ック情報 をどのよ うに利用 しているのかは定かでない。筆者 は, このような問題意識か ら,わが国 における業績評価指標の利用方法の実態を明 らかにすべ く 郵送質問票調査 を実施 した。
( 2 2 )
四つの視点に因果関係が想定されることによって四つの視点は階層性を有することになる。本稿では,こ のような階層性を多元的としている。( 2 3 )
本項で使用する因果関係という言葉は,
Nbrre
kli
t( 2 0 0 0
)のいうような厳密な意味での因果関係を意味しな
い。わが国企業 にお ける業績評価 指標 の利 用方法 に関す る研究
3 9 BS C
との比較検討 を通 じて, 日本企 業 の業 績評 価指 標 の利 用方法 を解明 して い くこ とが本調査 の 目的 であ る。 具体 的 には,① 事業単位 の業 績測定 にどの よ うな指標 を利用 して い るか,② 戦 略 に応 じて業績 評価指標 を使 い分 けて い るか ど うか, ③ 財務 的指標 と非 財務 的指 標 を関連 付 けて い るか ど うか,④ 各指標 に目標 を設定 して い るか ど うか. ⑤ フ ィー ドバ ック情 報 を どの よ うに利 用 して い る のか, につ いて調査 を行 って い る。まず
,3 ‑1
で実態 調査 の方 法 と概要 につ いて示 す。 続 いて,3 ‑2
において,BSC
との関連 性 を意 識 しなが らわが国企業 の業績評価指標 の利 用方 法 について分析 を行 うC 最後 に,3 ‑3
にて.調 査結 果 のま とめ を行 い, 今後 の研究課 題 につ いて触 れ る。3‑1
実態調査 の方 法 と概要わ が国 企業 の業績評価指標 の利用方法 を探 る目的 で,神戸大学管理会計研究室 を結成 し
,2 0 01
年6
月 に 「業績評価指標 に関す る調 査」 を実施 した。調 査対象 は,東証一部 上場 の建設 を除 く827
社 で ある。 ダイヤモ ン ド社編 によ る
2 0 01
年度 『会社職 員録 (上場 会社版)
』 を参照 し,経営企画部 あ るいは それ に頓す る部署 の担 当役 員宛 に郵送質問票 を発送 した。郵送質 問票 は.
2 0 0
1年6
月 30日を回収期 限 と して6
月7
E]付 で発送 した。 回収期 限後 も多 くの会 社 か ら回答が寄せ られ,最終 的 に1 6 1
杜 か らの回答 を得 た。 回収率 は1 9 . 5 %
であ る( 2 4 )
0表
3 ‑1
に業種別 の分布 とBSC
に対 す る認知 度 を示 して い る。 半数以上 がBS C
を知 って い る と回 答 してい るものの, 実 際 にBS C
を導 入 して い る企 業 は全体 の4 . 3 %
にす ぎな い ことが わか る。 導入 を検討 してい る企業 とあわせ て も, お よそ1 5 %
程 度 で あ る。調 査時点で の 日本企業 のBS C
‑ の関心 は,米Egに比 べて それ ほど高 い とはいえ ないo表
3‑1
回答企業の業種別分布とBS C
に対する認知度暮 知らない 現在中人している 斗人を検討している