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西原俊明

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Academic year: 2021

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(1)

移動に関わる機能的制約の再検討 西原俊明

Functional Constraints on Movement

and

a Syntactic Analysis Toshiaki NISHIHARA

0.序

生成文法理論におけるGB理論の枠組では、移動が適用される場合、移動の対象と なる要素と移動の際に残されると考えられる痕跡はある条件を満たさないといけない と考えられている。その条件とは、空範噂原理であり、下接の条件と呼ばれる制約で ある。統語論の枠組では、この原理と制約を人間言語に普遍的に備わっているもので あるとみなしこれまで研究を行ってきた。このようなアプローチに対して、 Kuno&

Takami (1993)は問題点を指摘し、空範噂原理や下接の条件で説明された言語事実 は機能的制約によってとらえなおされるべきであると主張している。本稿では、 1節 で空範噂原理がどのような働きをするものかthat一痕跡の効果と呼ばれる言語事実 をもとにみる。ここでは、 Chomsky (1986b)とLasnik &Saito (1992)で仮定さ れている空範暗原理をとりあげて考察する。 2節では、 Kuno &Takamiが指摘す る空範噂原理の問題点、並びにその他の言語事実を取り扱った統語的分析の問題点を みる。 3節では、彼らが提案する機能的制約についてふれ、 4節では機能的制約によ る説明の問題点を指摘し、統語的説明による代案を述べたい。

1.移動現象の統語論的説明

ここでは、移動という変形操作を規定する空範噂原理についてみる。先ず、

Chomsky (1986b)で提案されたものを考察し、その後でLasnik & Saitoが提案す る空範噂原理を考察する。 Chomsky (1986b)で仮定されている空範時原理は、 (1) に示す通りである。

(2)

(1)TheEm

bepr。pgtyCategoryPrinciple:Anonpronominalempty rlygoverned.(Ch。ms旨ayt冒gorymust

986b:17)

(1)の定義に含まれる適正統率は、(2)のように定義され、theta一統率と先行詞統 率とはそれぞれ(3)(4)のように定義されている。

(2)Propergovernment:aproperlygovernsβiffatheta‑governsor antecedent‑governsβ(Chomsky1986b:17)

(3)Theta‑government:atheta‑governsβiffaisazero‑levelcategor ts.(Ch。msky1986b溜t

theta‑marksβ,andαandβaresisters.

(4)Antecedentgovernment:αantecedent‑governsβiff(a),(b):

(a)αandβarecoindexed;

(b)αgovernsβ(Chomsky1986b:17)

先行詞統率に必要な統率という概念は、m一統御、阻止範噂、し表示、障壁という概 念によって定義されている。これらを(5)(6)(7)(8)(9)として挙げる。

(5)Government:agovernsβiffam‑commandsβandeverybarrierfor βdominatesa.(Chomsky1986b:8)

(6)m‑command:am‑commandsβiffac‑commandsβandyisrestricted tomaximalprojections,ac‑commandsβiffadoesnotdominateβ andeveryγthatdominatesαdominatesβ(Chomsky1986b:8) (7)Blockingcategory:Amaximalprojectionyisa

BiffyisnotL‑markedandydominatesB.(Blockingcategory h。msky1986b:1左?r

βiffγisnotしmarkedandγdominatesβ.

(8)L‑marking:aL‑marks/3iffaisalexicalcategoryth, B(Ch。m霊theta‑governs

y1986b:15) β

(9)Barrier:Inthestructure‑aγ・・・β蝣],amaximalprojection7isa barrierforβiff(a)or(b)

(a) r喜mmediately dominates

(b) γisaBCforβ, γnotan ♂, ♂ a BCfor β (Chomsky 1986b: 14)IP.

これらの概念をもとに、 (10) (ll)に挙げるthat一痕跡の効果の適格性を説明してみ よう。

(10) a. ※Who; did you believe that e; hit Tom?

b. Who; did you believe ei hitTom?

(ll) a. Who; did you believe that Tom hit e*?

b. Whoi did you believe Tom hite*?

(ll)の例文が文法的なのは、残された痕跡が動詞によってtheta一統率されており (1)の空範噂原理を満足しているためである。 (10b)が文法的であるのは、先行詞 統率を満たしているからである。痕跡は、補文の主語の位置、主節のVPに付加され た位置に存在する。もとの位置にある痕跡は、主節のVPに付加された中間痕跡に先

(3)

行詞統率されており、中間痕跡は先行詞によって先行詞統率されている。したがって、

空範噂原理を満たしている(10a)も構造的には(10b)と同じであるが、(10a)

が非文であるのは、途中に障壁が介在し、先行詞統率を阻止するためである。ここで の障壁は、先に示した定義に基づく障壁とは異なり、補文のC′が最小条件によって 障壁となると考える。ここで言う最小条件とは、(12)に示す通りである。最小条件 を支える条件として(13)がある。(13)の条件により、構文内に補文標識thatが存 在すると最小条件により障壁が生じることになる。

(12)MinimalityCondition:Inthestructure‑・α‑[γ‑♂‑β]‑,αdoesnot governysif7is

>arrierfor/?ifγa(ni

isa(慧mediate)projectionof6excludi immediate)projection。fd,aze芸ga.7isa

。levelcate‑

gorydistinctformβ(Chomsky1986b:42)

(13)Onlyazero‑levelcategorywithfeaturesis"visible"totheMinimality (Chomsky1986b:47)

Condition.

次にLasnik&Satioが提案する空範噂原理をみてみよう。Chomskyの考えと異な る点は、主に先行詞統率の定義の仕方と障壁の定義の仕方である。l先行詞統率子に なりうるのは、(14)に示すようにⅩ0範噂だけであり、(16)の下接性(Subjacent) という概念が重要な役割を果たしている。2障壁の定義は、(17)に挙げる。

(14)OnlyX‑categoriescanbeantecedentgovernors.

(15) a antecedent‑governs β if a. α and β are coindexed b. α c‑commands β;

C. β issubjacentto α. (Lasnik & Satio 1992 : 94) (16) β is subjacentto a ifforevery y, γ abarrierfor β, themaximal

projection immediately dominating γ dominates α.

(Lasnik & Satio 1992 : 87) γ

b c d

as7r:(

is abarrierfor β if

γ γ γ γ

isamaxim isnotanAチ1projection;

‑binder;

isnotL‑marked;

dominatesβ. (Lasnik&Saito 1992 : 87)

(ll)の例は、痕跡が語嚢統率されているので空範噂原理を満たしている。では、

Lasnik&Saitoの枠組で(10)の適格性を考えてみよう。 (10b)のS一構造は(18) に対応し、 (10a)のS一構造は(19)に対応する。

(18) [cpWho: [adid [ipyou [vpe; [vpbelieve [cpe* [cCi [ipe,

hit Tom ]]]]]]]ユ

(19) [cpWhoi [c‑did [wyou [vpei [vpbelieve [cpei [c‑that [iPe;

hit Tom]]]]]]]]?

(4)

(18)の構造では、補文内のIPが定義上障壁となる。しかしながら、この障壁は

Ⅹo範噂であるCを支配している。したがって、痕跡は、 Ciに下接していることにな る。また、 Cと痕跡は、指定辞一主要部の一致によって同一指標が与えられ、 (15) により先行詞統率が成立し、空範噂原理を満足するので適格な文となる。他方、 (19) においては、構造的には(18)と同じであるが、この場合は下接性ということで問題 はなくても同一指標が与えられないために非文となる。これは、 Cの位置にthatが 存在し、指定辞一主要部の一致が阻止されてしまうためである。

2. Kuno &Takami (1993)が指摘する統語的説明の問題点

移動に関わる諸現象の統語論的説明に対して、 Kuno&Takami (1993)は、いく つかの反例となる言語事実を指摘し、統語論的原理や制約による説明ではなくて機能 的制約による説明のほうが望ましいと主張している。例えば、次に挙げる例の非文法 性を空範噂原理では説明できないとする。

(20) a. ※Who did you murmur that Tom hit e?

b. ※Who did you grumble that Tom hit e?

Lasnik &Saito (1992)では、補文標識のthatは、意味内容(semantic content) がない場合D一構造では存在する必要がないと仮定されている。もしそうであるなら ば、移動の対象となる要素は埋め込み文のCPの指定辞の位置を経由して主節のCP の指定辞へ移動することになり、下接の条件には違反しないことになる。また、痕跡 は、動詞hitに語嚢統率されているので空範噂原理の違反にもならない。したがって、

統語論的説明では、 (20)を誤って適格な文と予測してしまい問題だとするのが Kuno&Takami (1993)の主張である。さらに、付加詞の抜き出しに関わる次の例 の適格性の違いも統語論的説明ではとらえられないと主張している。

(21)a. Who do you think thatMary went to the movies with e?

b. With whom do you think that Mary went to the movies e?

c. Who did John believe that Mary borrowed the money from e?

d. From whom did John believe that Mary borrowed the money e?

(22)a. Who do you regret thatMary went to the movies with e?

b.??With whom do you regret that Mary went to the movies e?

c. Who did John regret that Mary borrowed the money from e?

d.??From whom did John regret that Mary borrowed the money e?

(5)

Lasnik&Saito (1992)では、付加詞の抜き出しに関しては次のような説明を与え ている。付加詞は、項とは異なりS一構造までは痕跡が存在しない。これは、付加詞 が下位範噂化されていない要素であるからである。しかし、操作詞一変項 (operator‑variable)の関係を成立させるためにLFでは存在しないといけない。そ

こでこれを満たすためにLF移動が適用される。このLF移動を(21b)を例にみて みると次のようになる。

(23) 「

‑ー ̄ ̄‑‑lIP ̄ ̄「

With whom do you movie]]]]]? ⑤

[vp[vpthink [cp[cCi [ ip Mary went to the

(23)において補文標識が存在しないのは、 thatを省略できると考えているためで ある。 (23)における最初の痕跡は、 Cによって先行詞統率されるのでこの文は適格 になる。補文のIPが障壁であるが、これを支配するすぐ上のCPがCを支配してお

り、 Cと痕跡は下接性を満たしている。また、このCは中間痕跡との間で指定辞‑

主要部の一致から同じ指標が与えられ(15)を満たすことになる。 Kuno&

Takamiによれば、今見た統語論的説明は(21)と(22)の適格性をうまく説明でき ない。なぜなら、 (21)と(22)の付加詞の抜き出しの際にできると考えられる派生 構造は同じであり、 Lasnik &Saitoの枠組ではどちらとも適格であると予測してし まうからである。

Kuno &Takamiの指摘によると凍結(Freezing)現象もまた統語的説明による のではなくて、械能的制約による説明が望ましいとされている。凍結現象とは、

Wexler & Culicoverの観察に基づくもので、動詞句が凍結されて抜き出しが阻止さ れる現象のことを言う。つまり、動詞の目的語が重い名詞句移動で移動された場合、

動詞句内部にある要素をさらに抜き出すことができないという現象である。

(24)がこの例である。

(24) a. John [ vp gave e, to Bill ][ Np the picture that was hanging on the wall]i.

b.※Whoj did John [ vp give e; to ej ][ np the picture that was hanging

on the wall ]蝣,? (Kuno &Takami 1993 : 134)

Kuno&Takamiは、凍結現象を説明しようと試みたLarson (1988b)を取り上げ 問題点を指摘している。 Larson (1988b)では、重い名詞句移動が適用されたと従

(6)

来みなされてきた言語事実をLight Predicate Raisingという新しい考え方で説明 している。例えば、 (24a)のD一構造は(25)に示す構造であり、これに(27)のⅤ′一 再分析が適用されⅤとなる。このⅤとなった要素が空のⅤの位置へ移動し、 (26) が派生されると考える。

(25).VP\

盟/V′\

JohnVyp NP:v\

thepicturethatwa;ヲV

hanging on the wall

/vp\

NP

∠:二::ゝ

John Vi /v\

∠二二二ゝ

givetoBill ^jp (26)

give

vp、

一=三:二二二=ゝ the picture that was hanging on the wall

PP

∠二ゝ

to Bill

/vp\

NP

∠二ゝ John V

Ⅴ′ ‑RENALYSIS

/v\/!\

IMS

一=二:==さ。̲

thepicturethatwas¥T hangingonthewall,I give

/v\PP

∠二ゝ

to Bill

(27) V′Reanalysis (Optional): If α is a V′with thematic grid containing one undischarged internal theta‑role, then α may be reanalyzed as V.

(24b)の派生が阻止されるのは、再分析されて新しくⅤとなった要素の一部をそ れから独立した要素とみなして移動を適用できないためであるとLarsonは分析する。

このLarsonの考えに対して、 Kuno&Takamiは、同じ派生が適用されたと考える (28)の例が適格であることから問題であると指摘している。

(28) a. John talked about Sue to Mary e.

b. Who did John talk about e to Mary e?

3.機能的制約による分析

ここでは、前節で取り上げた言語事実に対してKuno&Takamiがどのような機能 的制約をたてて説明を試みているかみてみよう。4先ず、付加詞の抜き出しの例から みてみよう。 Kuno&Takamiは、 (21)と(22)の許容性の違いは、 (29)に挙げる

(7)

機能的制約から説明できるとする。

(29) Constraint on Extraction from Embedded Clauses; Extraction of a constituent from an embedded clause is allowable only when a. the main clause is semantically transparent (involving bridge

verbs), or

b. the main clause implicitly says something about the extracted argument.

この制約のふたっめの条件を満たしているかどうかで(21)と(22)の差が生じると するのが、 Kuno&Takamiの主張である(21)と(22)の違いを、主節の動詞の 意味的特徴に着目して(29)によって説明するものである。 (21)と(22)の適格性 の説明に入る前に、関連する事実とその説明から考えることとする。

(30) a. Mary, Bill thinks everyone adores e.

b. With Mary, Bill thinks John went to the movies e.

(31) a. Mary, Bill regrets that everyone dislikes e.

b.?? With Mary, Bill regrets that John committed the crime e.

(30)に含まれる動詞は、断定述語(assertivepredicate )であり、 Erteschik‑Shir

& Lappin (1979)によれば、この断定述語の補文は文全体の中で中心となる命題を 表すとされている。このことをもとに、 (30)の文をKuno&Takamiは、 Maryも

しくはWithMaryについての叙述文(predication)であるとみなす。つまり、 (30) においての主節は、意味の中心部分ではなく、中心となっている補文の命題内容が誰 に帰するかということを述べた部分である。この意味において(29) (ii)の条件を 満足していると言える。一方、 (31)の場合、主節の動詞は、非断定述語であり、断 定述語とは違って、主節がその文の中心命題を表す。 (31a)の場合、 Bill regrets that everyone dislikes Maryという命題は、 Maryについての叙述文であり、 (29) (ii)を満足している。しかしながら、 (31b)の場合、 Billregrets that John com‑

mitted thecrimewithMaryという命題は、 with Maryということについての叙 述文ではない。したがって、 (29) (ii)の条件を満足してはいないので適格な文とは 判断されないことになる。以上のことと同様のことが(21)と(22)にもあてはまり、

適格性の差が生じるとKuno&Takamiは考えている。つまり、 (22b)の場合、動 詞は非断定的述語であるから、主節が意味の中心をなし、 you regret that Mary went to the movies with someoneという命題は、 with someoneの叙述文とはなっ

ていない。したがって、 (29) (ii)に違反することになる。

次に、凍結現象に関するKuno&Takamiの分析をみることにする。彼らの分析 によれば、凍結現象は次の機能的制約の違反としてとらえられている05

(8)

(32)Clause‑NonfinalIncompleteConstituentConstraint:Itisnotpossibleto moveanyelementofphrase/clauseAintheclause‑nonfinalposition

outofAifwhatisleftovermAconstitutesanimcomplete phrase/clause.

(24b)における[pptoei]は、節の最後の位置を占めていない不完全な句である。

したがって、制約(32)から不適格ということになる。

最後に1節でみたthat一痕跡の効果の例に関するKuno&Takamiの説明をみる。こ れらの言語事実は、制約(34)にしたがうとKuno&Takamiは考えている。

(33)a.兼Who;didyoubelievethate;hitTom?

b.Who;didyoubelieveeihitTom?

c.Who;didyoubelievethatTomhite;?

d.WhoididyoubelieveTomhite,?

(34)Constraintagains

inthec。nstructi。ま冒SubjectlessSwithanOvertComplementizer:

s'CS]thatimmediatelydominatesanTmust告ns ave

anovertsubjectifCisovert.

(33b)(33d)は、補文標識が存在しないので許される。(33c)は、表層に表れた 主語をもつので(34)の違反とはならない。しかしながら、(33a)は、構文標識 thatがあるにもかかわらず主語が存在しないために(34)の違反となり、不適格な 文となる。これが、Kuno&Takamiの主張である。この節では、機能的制約による

言語事実の説明を概観したが、かれらの分析にもいくつかの問題点が存在する。問題 点と代案を次節で述べることにする。

4.代案

前節では、機能的制約による説明を概観したが、これよりKuno&Takamiの分 析の問題点をいろいろな言語事実をもとに指摘する。また、 Kuno&Takamiが機能 的制約による説明が望ましいと考えた言語現象もさらにその特徴を考察すると統語論 的、意味論的に処理できることを指摘したい。先ず、 (29)の制約ではとらえられな

い例を見てみよう。

(35) To whom do you regret that he could not speak e?

(35)の例は非断定的叙述型述語を含んでおり、 (22b)と同じ要素が埋め込み文か ら抜き出されている。したがって、 (29)の制約の(ii)の条件からは不適格な文と 判断される文であるが、実際は適格な文である。このタイプの例は、次に示すように 英語だけでなくスペイン語にも見られる。

(9)

(36)? A quien pro lamentas que Juan haya llamado e

また、 Kuno&Takamiでは、 (22)の前置詞残留の場合と前置詞がWh一句とともに 前置された場合とでなぜ適格性の違いが生じるのか説明がなされていない。主節の動 詞の意味という点では、同じ動詞が用いられており差は生じないはずである。

次に、凍結現象を(32)の制約で扱うことに関する問題点を考えてみたい。 Kuno

& Takamiでは、凍結現象に関わる言語事実のうち‑種類の言語事実しかみていない。

(37) ※Who did John give to Mary a picture of e?

(37)に示すように、動詞の目的語に重い名詞句移動が通用された場合、さらに移動 された要素の内部から別の要素を取り出すことはできないが、制約(32)では、この 例を説明することはできない。 (37)の場合、痕跡は句の最後の位置を占めているた めに(32)には抵触しないからである。

これまでの例からKuno&Takamiが提案する機能的制約は、うまく言語事実をと らえているとは言えないと思われる。そこで、統語論のなかで仮定されている移動と その痕跡に課せられる原理原則、すなわち、空範噂原理や下接の条件を保持しながら、

問題となった例を説明する手だてが可能かを次に考えてみたい。先ず、 (21 b) (22b) の適格性の差について考える前につぎの事実をみてみよう。

(38) a. ※I think with Nancy that Mary went to the movie.

b. I regret with Nancy that Mary went to the movie.

(38)の例から、動詞thinkの場合は主節にwith一句が生じないのに対して、動詞 regretの場合はwith一句が生じることが可能であることがわかる。 (21b)と(22b) の適格性の差はこの点に求められると思われる。 (21b)は、 with一句が占める位置は、

補文内に限定され、解釈上あいまいでないので適格になる。他方、 (22b)では、

with一句が生じる位置は、主節内、もしくは構文内の位置である。したがって、 with一 句の解釈が唆味になり、その許容性が下がるものと思われる。 Kuno&Takamiが提 案する制約(29)では、不適格なものと許容性が低いものとを区別することは不可能 である。しかしながら、空範噂原理や下接の条件を認める方法では、 (22b)は、こ れらの原理原則に違反していないので不適格とはみなされないが、解釈上境味な点が あるためにその適格性が下がるという説明が可能になる。

次に凍結現象を考えてみよう、ここでは、右方移動が通用された場合は付加構造が 生じるものと仮定する。具体的には、動詞の目的語に右方移動が通用された場合は、

移動の対象となる名詞句は動詞句に付加されると考える。6付加された位置は、付加

(10)

詞が占めると考えられている位置である。付加詞はL‑表示されないので、ここで同 じ位置を占めるNPはL‑表示されないとすると、このNPが固有障壁となる。7この 考えが正しいならば、右方移動適用後に移動が通用された場合、先行詞と痕跡の間に

は障壁が介在し、空範噂原理の違反を引き起こしてしまうことになる。この例が (24b)と(37)であると考えられる。

次に、 that痕跡の効果に関してみよう。 Kuno&Takamiがthat一痕跡の効果を説 明できるとした制約に対しては、 (39)がその反例となる。

(39) ※Who do you regret e punished the children?

(33b)と(39)は平行的であり、制約(34)を満足している。構文標識thatが存 在しないので、表層に表われた主語は存在しなくてもよい。それゆえに、制約(34)

は、誤って(39)を適格な文と予測してしまい問題である。 that一痕跡の効果に関し て、 1節でみた空範噂原理などによる説明を正しいものと認め、なおかつ(39)を統 語的に非文とみなすことが可能であるように思われる。ここで仮定する空範噂原理と 下接の条件は、 Chomsky (1986b)にしたがうものとする。 (39)における動詞は、

叙実型述語であり、その補文は(40) (41)に示すように島の効果がみられることで 知られている。また、補文がitで代用されることから名詞的であることも知られて いる。

(40) a.? What did Mary wonder whether John bought?

b.?Who did Fred confess that he fired?

(41) a. ※How did Bill reveal wonder whether Anne solved the problem?

b・ ※How did Bill reveal that Anne solved the problem?

c. How did Bill believe that Anne solved the problem? (Non‑factive )

(42) I regretted that Bill had done it, and Mary regretted it/※so.

この事実をもとに叙実型述語の補部は(43)の構造をもつと仮定する。さらに、 DP の主要部DはCPをL‑表示しないとする。

(43) V\

/v′\

V.DPD\p

D

このように考えると、 (39)の場合、空範噂原理の違反のために非文となると考える

(11)

ことができる。痕跡は、 theta統率もされないし、補文のCPが固有障壁となるため に先行詞によって先行詞統率されることもない。したがって、空範噂原理の違反を引 き起こしてしまう。さらに、 (40)における島の効果は、抜き出される要素が国有障 壁である補文のCPをひとっ越えることになるので弓射、違反を引き起こすと考えるこ とができる。

最後に、統語的枠組では説明が不可能とKuno &Takami考えた(20)の例も統語 的に説明が可能であることをみる。 Kuno&Takamiでは、 (20)の例の補文標識 thatを動詞thinkなどに後続する補文標識thatと同じものとみなしている。しかし ながら、次に示すように動詞murmurなどに後続するthatは、ふるまい方が異なる

ことがわかる。

(44) (‑ 20)

a・ ※Who did you murmur thatTom hite?

b. ※Who did you grumble thatTom hite?

(45) a. ※That everyone dislikes Mary, John grumbles.

b.?? That Nancy dislikes Mary is grumbled by everyone.

c.?? It is grumbled that Nancy dislikes Mary by everyone.

(46) a. That snow is white, everyone believes.

b. That snow is white was believed by everyone.

c. It is believed that John is honest.

動詞believeに後続するthat節のように動詞の項であるものは前置が可能である。

(45)からわかるように、動詞grumbleに後続するthat節は、前置が不可能である。

したがって、動詞grumbleに後続するthat節は動詞の項ではないということになる。

つまり、このthat節は、付加詞的な要素ということになる。もしそうであるならば、

付加詞からの抜き出しは一般に阻止されるので、付加詞の条件の違反として空範噂原 理で処理することが可能になる。

5.結語

移動と移動の結果残される空範噂に関わる諸現象に対する統語論的説明とこれらを 機能的に説明しようとしたKuno&Takami (1993)の議論を概観した。また、機 能的説明による分析の問題点を指摘した。さらに、 Kuno&Takamiが、機能的にと

らえようとした言語事実もその特徴を詳しく調べることで、空範噂原理等の原理原則 を保持しながら統語的な枠組のなかで説明可能であることをみた。ここでの議論は機

(12)

能的制約を否定する根拠を示すものではなく、統語的に説明できる言語事実を示すこ とによって、機能的制約が説明すべき範囲を少しでも明らかにしようとしたものであ る。

1. Lasnik & Saitoが言う語嚢統率(lexical govenrment)は、 Chomskyのtheta統率と同 じようにとらえられる。

2. Lasnik&Saitoのこの仮定では、 IPをChomskyのように特別扱いをする必要がなくなる。

付加構造は、新たにできる語嚢がセグメントではなくそれ自身ひとっの最大投射範噂とな ると仮定している点も主な違いのひとっである。

3.中間痕跡がどのようにして先行詞統率されるかは、 Lasnik&Saito (1992)を参照のこと。

4.動詞murmurやgrumbleの補文からの抜き出しが阻止される理由は、 Kuno&Takami (1993)では示されていない。

5. Kuno&Takamiは、主語からの要素の抜き出しが阻止される例もこの制約で説明できる としている。

6.これは、一般に認められた仮定である。詳しくは、 Baltin (1978) Taratsu (1979) Gueron (1980) Johnson (1985)等を参照のこと。

7.ここでの議論と同じように、付加構造によってできた最大投射範噂を固有障壁とみなすの は、 Rochemont & Culicover (1990)にみられる。

参考文献

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(1994年10月26日受理)

参照

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