後流特性に基づくリングファンの空力騒音の予測
佐々木壮一*・福田雅治**・林秀千人*
Prediction on the Aerodynamic Noise of a Ring Fan Based on the Wake Characteristics
by
Soichi SASAKI*, Masaharu FUKUDA** and Hidechito HAYASHI*
The ring fan is a propeller fan by an axial-flow impeller that has a ring shape shroud on the blade tip side. In this study, the whole flow field of the ring fan is simulated by a CFD code; the aerodynamic noise generated by the fan is predicted based on the wake characteristics. Moreover, the accuracy of the CFD code has been verified by comparing with the aerodynamic characteristics of the propeller fan of a current model. The aerodynamic characteristics of the ring fan by the CFD can represent the tendency of the measurement value qualitatively, however, the flow rate in the CFD becomes 30% lower than the actual measurement value. The main flow domain of the ring fan is formed at the tip side of the blade since the blade tip vortex is not formed at the blade tip side.
Therefore, the relative velocity of the ring fan becomes fast due to the circumferential velocity. The sound pressure levels of the ring fan in the frequency band less than 200 Hz become larger than the propeller fan. According to the analysis on the wake characteristics, it clarified that (1) Karman vortex at the main flow domain is shedding in the frequency domain lower than 200 Hz, (2) the aerodynamic sound of the ring fan on the vortex shedding frequency becomes large because of an increase in the relative velocity and the velocity fluctuations.
Key words : Blower, Vortex, Aerodynamic Noise, Wake, Internal Flow
1,はじめに
建設機械などに搭載されるエンジン冷却用のプロペ ラファンでは自動車のような走行風が期待できないた め,熱冷却用の大量の人工風を発生させる必要がある
(1).ファンの風量を増加させることは、そのままファ ン騒音の増加につながる.また,エンジン冷却用ファ ンの場合、ラジエーターや熱源となるエンジンそのも のが流路抵抗となるために,ファンは必ずしも最高効 率点近傍で運転されないことも多く,翼先端近傍の流 れは翼端渦の形成に伴ってはく離した状態になる.従 って,このような用途で利用されるファン騒音を議論 する上では,はく離した流れと空力騒音の関係を議論 する必要がある.著者らは,NACA翼周りのはく離流
れと空力騒音を風洞実験と数値シミュレーションによ って解析し,迎え角の大きな翼の後流特性と空力騒音 の関係について,いくつかの実験的な見解を示してい る(2).また,翼の後流特性に基づくファン騒音の予測 理論を提案し,多翼ファンの後流特性に基づいてその 空力騒音を予測している(3).従来,この理論に基づい てファン騒音を予測する場合には,実際の流れを計測 する必要があった.しかし,近年,汎用の計算機によ る数値シミュレーションによって,ファン全体の流れ を解析することが可能になっている.そこで本研究で は,数値シミュレーションによってプロペラファン全 体の流れ場を解析し,その後流特性に基づいてファン から発生する空力騒音の予測を試みる.二種類のプロ
平成22年6月24日受理
* 機械システム工学講座(Department of Mechanical Systems Engineering)
** 生産科学研究科博士前期課程(Graduate School Student, Graduate School of Science and Technology)
ペラファンの流れ場を解析し,その空力特性の計算精 度を検証した.また,これらのファンから発生する空 力騒音に及ぼす後流の影響が議論されている.
2,実験装置および測定方法 2.1 計算モデルおよび計算方法
図1は供試羽根車の外観図を示したものである.表 1にその主要寸法が示されている.図(a)がプロペラフ ァンの羽根車であり,図(b)がリングファンの羽根車で ある.両者の羽根車は翼端側のシュラウドに相違があ るだけで,その他の翼の設計寸法は同じである.羽根 車の大きさを代表する外径には,プロペラファンの直 径が採用されている.ハブ比( ν = D hub / D )は,いずれ も0.424となる.
図2はファン性能の試験装置の概略図を示したもの である.測定胴の断面は 1m×1m の正方形であり,装 置の全長は約4mである.羽根車の取り付け基準位置
から 600mm 上流側の動圧がピトー管によって測定さ
れ,送風機の流量はその動圧によって決定されている.
流量は測定胴の出口側に設けられたダンパーによって 調 整 さ れ る . 送 風 機 の 静 圧 は 測 定 胴 の 出 口 側 か ら
400mm 上流側に設けられた静圧管によって測定され
る.電動機の軸動力がトルク計(小野測器;SS-500)
によって計測され,送風機の効率を算出することがで きる.送風機の流量係数 φ,静圧係数ψs,動力係数 λおよび効率ηは式(1)によって整理されている.
φ = 4 Q / π (1-ν2) D2 U ψs = 2 Ps / ρ U2
λ = 8 L / ρ π ( 1-ν2 ) D2 U3 (1) η = φtψ/ λ
羽根車の非定常の流動様相は熱線プローブによって測 定されている.熱線プローブの挿入孔は羽根車の回転 軸に対して垂直に羽根の後縁から後方に50mm間隔で
450mm後方まで設けられている
図3は数値シミュレーションに用いられた計算モデ ルの全体図である.CFDコードにはCradleのSCRYU /
Tetraが用いられている.プロペラファンの下流に設置
されるモーター,軸受けなどの機構はモデルから省略 されている.ダクトの断面および装置の全長は実機と (a) Propeller fan (b) Ring fan
Fig. 1 Test impeller
Table 1 Main dimensions of the impeller Propeller Fan Ring Fan
D (mm) 613
Dhub(mm) 260
ν = D hub/ D 0.424
C(mm) 122
θ(deg.) 32
t(mm) 3
Shroud without shroud with shroud
1000
1000 500 300 700 1050 500
3990
400
Static Pressure Tube
Damper Torque
Meter Impeller
Motor Strut
5-hole Pitot Tube Hot-wire Pitot Tube
(a) Measurement of the aerodynamic characteristics
1000
Damper Torque
Meter Impeller
Motor Strut
Noise Level Meter
(b) Measurement of the fan noise
Fig. 2 Experimental apparatus
同じ寸法で設計されている.主軸の回転数は1200 rpm である.翼表面の最小格子幅はy+ = 100程度であり,
このy+の大きさは汎用の計算機の現実的な計算時間に 基づいて決定されている.このとき,一つの流れを解 くための格子の要素数は約400万である.この計算モ デルの入口境界には全圧0Paの境界条件が与えられ,
出口側には静圧0Paの条件が与えられている.
2.2 後流特性に基づく空力騒音の予測
文献(3)に基づけば,羽根車の翼素から発生する空力 騒音は式(2)のように与えられる.
r a
C d S
p w t L
0 3
4 (2)
このとき
w CL w
'
2
ここで,κは後流渦放出の間欠率であり,κ = 0.2806 d / Dとして与えられる.このとき,ファン騒音の音圧レ ベルは式(3)となる.
2 0
2
log10
10 p
Lp p (3)
ここで,p0は最小可聴音圧(20μPa)である.文献(2) の NACA 翼の後流特性に関する風洞実験の結果に基 づけば,はく離した流れの翼の後流の幅D*と渦スケー ルdの関係は実験的におよそd = 0.8 D*の関係になっ た.以上の関係から,後流渦によって発生する空力騒 音の音圧レベルは相対速度w,無次元速度変動w’ / w および後流の幅D*によって見積もることができる.
3,実験結果および考察
図 4 は実機試験(EFD)と数値シミュレーション (CFD)によって解析されたファンの空力特性を比較し たものである.○がプロペラファンの特性であり,●
がリングファンである.EFDのリングファンの静圧係 数は,広い流領域に渡ってプロペラファンよりも高く なった.これに応じて,実測値の最高効率点近傍( φ = 0.4 )でのリングファンの効率は,プロペラファンより
も約12%高くなった.CFDによるリングファンの空力
3.5 m
1.0 m
1.0 m
Impeller Main Flow
(a) 3D model of the fan
Boundary layer y+ = 100
Blade
(b) Boundary layer
Fig. 3 CFD model of the propeller fan
0 0.2 0.4 0.6 0.8 1
0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6
ηψs
Propeller fan (EFD) Ring fan (EFD) N = 1200 rpm
Z = 14
ψs
η
φ=0.4
0 0.2 0.4 0.6 0.8
0 0.2 0.4 0.6
PropellerFan(CFD) RingFan(CFD)
φ ψs
φ=0.3
Fig. 4 Comparison on the aerodynamic characteristics by the experimental fluid dynamics (EFD) and the computational fluid dynamics (CFD)
特性は実測値の傾向を再現することができているが,
いずれも CFD によるファンの流量は実測値の流量よ
りも約30%程度低く見積もられた.これらのことを勘
案すると,CFDにおけるリングファンの最高効率点近 傍の流量係数はφ = 0.3近傍になると考えられる.
図5は二種類のプロペラファンの羽根車周りの流動 様相示したものである.このとき,ファンの作動点は
φ = 0.3に設定されている.いずれも,垂直断面が速度
分布であり,水平断面が圧力分布である.速度分布で は,プロペラファンの主流部が翼スパン中央付近に形 成されるのに対して,リングファンの主流部は翼先端 近傍に形成されている.一方,圧力分布からは,リン グファンの後流の静圧がプロペラファンよりも高いこ とがわかる.また,プロペラファンの翼先端近傍に形
成されている低圧の領域が,リングファンには形成さ れてない.これは,リングファンの翼端側ではシュラ ウドによって翼端側の漏れ流れが抑制され,翼端渦の 形成に伴う低圧の領域が形成されないためであると考 えられる.
図6は二種類のファンの音圧レベルを比較したもの である.細線がプロペラファンの音圧レベルであり,
太線がリングファンである.翼通過周波数に同期して,
280Hz に離散周波数騒音(DFN)が発生している.こ
のDFNは動翼の回転,または動翼の後流がモーター支 柱に干渉して発生する騒音である.リングファンの音 圧レベルは200Hz以下の広い周波数の帯域でプロペラ ファンよりも大きくなった.
図7は羽根車後流のスパン方向の相対速度の分布を 示したものである.後流の測定位置は羽根車の翼後縁 から50mm後方の位置である.プロペラファンの速度
はr = 250mm近傍で最大になるのに対して,リングフ
Tip Vortex
Vertical Plane;
Velocity distribution
Horizontal plane;
Pressure distribution N=1200rpm φ=0.3
(a) Propeller fan Vertical Plane;
Velocity distribution
Horizontal plane;
Pressure distribution N=1200rpm φ=0.3
(b) Ring Fan
Fig.5 Flow pattern in the wake of the each fan (CFD)
101 102 103 104
0 50 100
f , Hz Lp , dB
Propeller Fan (87.4 dB) Ring Fan (89.7 dB)
N = 1200 rpm Z = 14 φ = 0.43
Background Noise (61.4 dB)
DFN ( n = 1 )
Fig. 6 Spectra of the sound pressure level (EFD)
1000 200 300
10 20 30 40 50
Propeller Fan Ring Fan
r,mm
w,m/s
Hub side Tip side
N = 1200 rpm φ = 0.3
Fig. 7 Span-wise distribution of the relative velocity (CFD)
ァンの相対速度は翼先端近傍で最大になった.また,
リングファンの相対速度の最大値はプロペラファンよ りも大きい.リングファンの翼先端側には翼端渦が形 成されないため,より翼の先端側にその主流部が形成 される.これに応じて,リングファンの相対速度はよ り高速な翼先端側の周速度の影響で,プロペラファン よりも高速になると考えられる.
図8には,プロペラファンの相対速度の周方向分布 が示されている.スパン方向の半径位置は 250mm の 位置である.図の横軸は羽根車円周方向の距離である.
この相対速度の分布には,後流と噴流が交互に形成さ れている.図中に示すD*が後流の幅である.一ピッチ の後流の幅は正圧面側と負圧面側の後流の半値幅の和 として評価されている.図9は後流の幅のスパン方向 の分布を比較したものである.二種類のファンの後流 の幅のスパン方向の分布には,大きな違いが生じなか
った.いずれもハブ側の後流の幅が広がり,翼先端側 の後流の幅は小さくなった.これらの後流特性に基づ いてストローハル数の関係から見積もられたプロペラ ファンのカルマン渦の渦放出周波数は161Hzであるの に対して,リングファンは198Hzであった.図10は 熱線流速計によって計測された後流の速度変動のスペ クトル分布を示したものである.この速度変動は,そ れぞれのファンの相対速度が最大となるスパン位置で 計測されたものである.渦放出周波数近傍では,リン グファンの後流の速度変動がプロペラファンよりも大 きくなった.
図 11 には空力音のスペクトル分布と後流特性に基 づくファン騒音の予測値が比較されている.渦放出周 波数近傍でのリングファンの空力騒音はプロペラファ ンよりも大きくなった.後流特性の解析に基づけば,
リングファンの主流部が翼の先端側に形成されるため,
0.5 0.6 0.7 0.8 0.9 1
22 24 26 28 30 32
ξ,m
w,m/s ●
b1/2 L b1/2 R
D*
Wake jet N= 1200 rpm φ= 0.3
Fig. 8 Circumferential-wise distribution on the relative velocity of the propeller fan (CFD)
1000 200 300
20 40 60 80
PropellaerFan RingFan
r,mm
D* ,mm
Hub side Tip side N = 1200 rpm
φ = 0.3
Fig. 9 Span-wise distribution of the relative velocity (CFD)
101 102 103 104
0.005 0.01 0.05
0.1 Propeller Fan
Ring Fan
N = 1200 rpm Z = 14 φ = 0.43
198 Hz 161 Hz
f , Hz
v'/ V
Fig. 10 Spectra of the velocity fluctuation (EFD)
101 102 103 104
0 50 100
f , Hz Lp , dB
Propeller Fan (87.4 dB) Ring Fan (89.7 dB)
N = 1200 rpm Z = 14 φ = 0.43
Background Noise (61.4 dB)
Ring Fan
Propeller Fan
Fig. 11 Comparison with the aerodynamic noise level on the predicted value
その相対速度とその速度変動が増加した.リングファ ンの空力音はこれらの後流特性の影響で増加すること が明らかになった.
4,おわりに
二種類のプロペラファンの流れ場が数値シミュレー ションによって解析された.これらのファンから発生 する空力音に及ぼす後流の影響を議論した結果,以下 の結論が得られた.
(1) CFDによるリングファンの空力特性は実測値の傾 向を再現することができているが,そのファンの 流量は実測値よりも約 30%程度低く見積もられ た.
(2) リングファンの翼先端側には翼端渦が形成されに くいため,より翼の先端側にその主流部が形成さ れる.これに応じて,リングファンの相対速度は 翼先端側の周速度の影響でプロペラファンよりも 高速になる.
(3) リングファンの音圧レベルは200Hz以下の広い周 波数の帯域でプロペラファンよりも大きくなった.
後流特性を解析した結果,二種類のプロペラファ ンからはこの周波数帯域でカルマン渦が放出され ることがわかった.
(4) 後流特性の解析に基づけば,リングファンの空力 音はその相対速度と速度変動の増加によって大き くなることが明らかになった.
参考文献
(1) H. Tsubota, Research and Development of Ring Fan, Komatsu Technical Report, , Vol. 53, No. 159 (2007), pp.
2 - 9
(2) S. Sasaki et al., Influence of Separated Vortex on Aerodynamic Noise of an Airfoil Blade, Journal of Thermal Science, Vol. 19, No. 1 (2010), pp. 60 - 66 (3) S. Sasaki et al., Application of Wake Characteristics to Prediction of Broadband Noise of a Multiblade Fan, Journal of Fluid Science and Technology, Vol. 3, No. 6 (2008), pp. 814 - 825