重度重複障害児の排泄指導の効果を高めるために
一表計算ソフトを使った排泄記録の試み一 秋本 公志*
To raise an effect of a toilet training of children with a heavy obstacle −Attempt of the excretion record which used the spreadsheet program.
Kohj i Akimoto
abstract
A toilet training of children who suffered heavy handicap is the activity that is important as the formation of their life rhythm and an opportunity of the communication with them. However, for various enVironmental changes, consciousness that training is important is apt to deteriorate, and it is in a situation that an effect of the training is hard to come to apPear. Therefore a fall of the will came to be watched recently by the teacher who wrestled with training. This article analyzed a record of urination and a bowel movement from various angles by attaching a record of urination and a bowel movement with a spreadsheet and gathered up the practice that was going to improve a thing and the will about the toilet training of the teacher to give an effect of the training to through reading grasp of those rhythm and small changing.
キーワード: 重度重複障害 排泄指導 コンピュータ 集計方法
1 はじめに
肢体不自由児、その中でも重度重複障害児といわれ る児童生徒を初めて指導する教師にとって、何をどう 指導したら良いのかについての戸惑いは大きいものが ある。日常生活上の介助方法等については短期間でも 身につくであろうが、それだけに終っていたのでは彼 らを伸ばすことはできない。日常生活での排泄や食 事・覚醒レベルの維持等においても、児童生徒の状態 を客観的にとらえ、具体的な目標を設定し、適切な支 援とその評価を行ってそれを指導にフィードバックす
るという地道な取り組みが必要となる。
かつて、筆者らは排泄指導を取り上げ、初めて重度 重複障害児の指導に当たる教員が適切な指導を行うこ とができるよう、考え方や指導手順の概要をまとめた
(秋本・小川,1993)。それから10年以上が過ぎたが、
児童生徒らの生活リズムを整えていく上での排泄指導 の重要性は今も変わりないと考える。しかし、重度・
重複障害児を取り巻く環境がかなり変化した現在、も う一度排泄指導の方法にっいて見直すとともに、記録 の集計方法を工夫することで、排泄指導に対する意識 が低下している状況を改善したいと考え、いくっかの 指導事例をまとめてみることにした。
2 テーマ設定の理由
重度・重複障害児を取り巻く環境は、ここ10年間 で大きく変化した。医療的ケアの導入により、経管栄 養や疾の吸引・導尿の補助といった生命維持に関する
* 附属教育実践総合センター
事項を教師が行うことができるようになったことで、
彼らの健康状態の安定を支えることができるように なったことが一番大きな変化である。
しかし、排泄指導という視点から見ると、紙おむつ の低価格化により保護者の経済的負担が減り、学校内 でもおむつを使うのが当たり前になってきたり、おむ つの高機能化により排泄後の不快さを子どもたちが感 じることが少なくなってきたりしたことで、以前より 排泄指導に取り組む教員の意識レベルが低下してきた
ように思われる。
そのひとつに排泄の記録が指導に生かされていない という実態がある。従来の排泄記録表は、1週間なり 1月を1枚として、それに排泄した時間をプロットし ていくという方法だった。しかし、これだけではその 日その日の成功や失敗の回数や1ヶ月の傾向をおおま かに読み取ることが主で、詳細な分析はされていな かったのが現状である。
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図1 各月の排泄回数の合計及び成功率変化
筆者らは、以前の研究(秋本・小川,1993)において 成功率に注目し、各月ごとの変化を追うことで児童生 徒らの変化をとらえてきた(図1)。当時は児童生徒 に排泄があったことを自覚させるために基本的に紙お むつを使わない方針だったため、トイレ以外で排泄が あるとかなり活動に影響していた。そのため成功率を 高めることが活動を円滑に行うのに重要な要素となっ ていて、教員が排泄指導に対してのモチベー一一・ションを 高く持つ理由のひとっとなっていた。
しかし、現在のように紙おむつが主流になるとトイ レ以外で排泄があっても教師にも児童生徒たち自身に も困り感が少ないために、単に成功率の変化を追うだ けでは教師の意欲を高めることはできない状況になり、
排泄記録の重要性があまり認識されなくなってきたと 考えられる。
そこで、
①排泄記録を様々な角度から細かく分析すること で、その児童生徒の実態を正しくとらえる。
②細かい変化に着目して指導の評価を行うことで、
教師が指導の効果を実感することを通して、排泄 指導に対する意欲を高める。
ことを目的として、実践を行った。
3 表計算ソフトによる排泄記録用シートの設計 排泄記録を集計分析することを目的に以下のように 排泄記録シートを設計した。
使用ソフト:Microsoft Excel(汎用性を考慮)
記録シートと集計シートを作成する
記録シート:エリアを分け以下のように記述 日付エリア 授業日の日付を表示
プロットエリア 活動時間帯を15分1単位とし てセルを作成
排泄記録の方法:その時間帯に排泄があったら、
下記の記号でプロットする。
トイレで排尿:○ トイレ以外で排尿:×、
トイレで排便:う○ トイレ以外で排便:う×
出なかった :△
※15分を1単位とした理由
①あまり細かいと、大まかな傾向をつかみにく いため
②セル数が多くなると入力の際のスクロールが 煩雑になり、データ入力がしにくいため ③おむつをした状態では、排泄した時間を正確 に把握することが難しく、単位を細かくして もあまり意味がないため
集計エリア countif関数を使って、排尿回数、
排便回数、そのうちトイレで排泄し た回数を日ごとに集計
集計シート:時間帯毎トイレで排尿した回数、トイ レ以外で排尿した回数をH、期、年間、
または任意の期間で集計してグラフ化。
排尿回数、トイレで排尿した回数、成 功率(排尿回数/トイレで排尿した回 数)を月、期、年間または任意の期間 で算出
4 記録および分析する際の基本的な考え方
(1)記録時
従来は、おむつが濡れていないかどうかのチェッ クを定時排泄でトイレに連れて行った時にしか行っ ておらず、いつ排泄したのかが不明確であったので、
確認を活動の合間にも行うようにした。
また排泄した時間については、濡れたおむつの温 かさの状態で排泄した時間を推定してプロットする ようにした(かなり温かかったら直前と見て確認し た時間帯のセルに、かなり冷たかったら時間が経っ ていると見てひとつ前の時間帯のセルにプロット)。
(2)分析時
まず、集計シートの数値データおよびグラフ化し たデータを使って、どの時間帯にどのように排泄し ているかを分析することで、排尿から排尿までの大 まかな時間間隔をとらえるようにした。
また、プロットした時間と日々の活動の記録を突 き合わせて、
①排尿時の姿勢はどのような姿勢だったか。
寝た状態か、身体を起こした状態か、寝た状態 なら仰臥位、腹臥位、側臥位のいずれだったか。
また、その時の緊張の状態はどうだったか。
②どんな活動中だったか
授業中で教師が関わっている時だったか、一人 でいる時だったか。また、周囲で大きな音がする などの急激な変化がなかったか
等、子どもを取り巻く環境の情報も併せて分析す るようにした。
5 具体的な指導での活用
指導は体幹をある程度保持でき、椅子型便器を使う ことが可能な生徒3名に対して行った。
(1)基本的な指導の心構え
指導の効果を上げるための基本的な心構えとして、
以下の3点を考え、指導の際に常に心がけるように
した。
・トイレでの成功は賞賛し、おむっでの排泄には特 に反応しないようにメリハリをつけ、生徒に意識 付けを図る。
・成功率にとらわれず、その背後にある原因を常に 考える。
・生徒の変化には時間がかかるので、最低2週間 (できれば1ヶ月以上)継続して指導を行うこと を基本とする。
・指導の際はできるだけ同一の教員がかかわること で、観察や指導の一貫性を確保するように心がけ る。
(2)シートを活用する際の留意点
最初の1か月は記録を取ることを中心に行い、ま ずどの時間帯に排尿があるのかを把握することをこ
ころがけた。
その結果を分類して、以前の研究(秋本・小川,
1993)で考察した尿が出やすい条件、出にくい条件 と照合した上で、以下のような対応方法をとるよう
にした。
①排尿の間隔が短い場合
まず、おむつに出ていてもいったん椅子型便器に 座らせて様子を見る。
排尿があった場合は、尿を出し切れずに膀胱に 残っているために次の排尿までの間隔が短い可能性 が考えられる。その後の排尿間隔の変化に注意し、
間隔が伸びる傾向が見られたら指導を継続する。
排尿がなかった場合は、覚醒レベルが低かったり、
活動への興味関心が薄かったりすることが考えられ るので、意識して対象児に関わるようにし、排尿間 隔に変化が見られるかどうかを調べ、間隔が伸びる 傾向が見られたら、指導を継続する。
②特定の時間帯に集中している場合
まず、椅子型便器に座らせる時間帯を前に動かし て様子を見る。
排尿があった場合は、その時間帯を中心にトイレ に連れて行き、その後の成功率に注意し、高いよう
なら指導を継続する。その時間が活動時間と重なっ ている場合は、最初は他の教員の理解を得て、活動 よりもトイレを優先させてもらい、それが安定して きたら、その時間帯の前後に意識して関わりを強く することで時間をずらすことができるかどうかを試 行する。
③排尿の間隔はある程度開いているが、日によって 時間帯が変化する場合
まず、家庭での朝の最終排尿時間(おむつを最後 に替えた時間でも可)をしっかり把握する。その上 で、登校時におむっに排尿があったかないかを調べ、
排尿があった場合は、最初に設定した時間で排泄指 導を行う。排尿がなかった場合は生徒の様子を細か く観察し、登校後の1回目の排尿時刻をできるだけ 正確にとらえ、以後にトイレに連れていく時間を、
予想した時刻と実際に出た時刻との差の分ずらして 様子を見る。また、記録を整理し排尿の間隔をでき るだけ正確にとらえるように心がける。
(3)シートを使った実践の記録
ア 排泄指導を続ける中で、排泄リズムの形成が できてきた事例
〈事例1>高2男子 脳性まひ、てんかん
〈指導経過〉
筆者が指導を引き継いだ時点では、排泄記録が 残っておらず、前年度の記録の分析ができなかっ
た。
前担任と保護者から口頭で情報を得たところ、
以下のことが分かった。
・紙おむつを使わずに指導を行っていた。
・トイレでの排泄もあったが、ほぼ毎日トイレ以 外での排尿があるので、大量の着替えをおいて あること。
・排尿回数はほぼ5〜6回/日であったこと 指導開始当初の排尿の傾向は図2のようであっ
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図2 時間帯ごとの排尿回数の累積値(4〜7月)
本生徒は、紙おむつを使用していなかったため、
排尿の時間をかなり正確に把握することができた。
そのため、ほぼ1週間である程度の排尿間隔のパ ターンをつかむことができ、成功率は4月の段階 で8割を超えた。
しかし、時間帯ごとの排尿した回数をグラフに してみると、登校直後の排尿時刻にぶれがあり、
その影響のためか全体的にみると特定の時間に排 尿が集中しているのはほとんど見られなかった。
また、1日あたりの排尿回数は4.37回と排尿 から排尿までの時間がほぼ1時間〜1時間半未満 であった。この間隔だと、活動時間中に定時排泄 のためにトイレに行かなければいけないため、排 尿から排尿までの間隔を延ばすことを第一に考え
て指導を行った。
観察したところ、本生徒は排尿する前に動きが 止まったり、ボーっとしたりする様子が多く見ら れた。また、発作がない限り1時間未満で排尿す
ることはほとんどなかった。
これらをもとに、登校後最初に排尿があった時 間を基準にして、1時間くらい過ぎた時点からで きるだけ本生徒にかかわるようにして、覚醒レベ ルをあげるとともに、意識を身体感覚から活動へ の興味関心に移そうと考えて指導を行った。
1年間指導を行い、1〜3月の排尿回数を時間 帯ごとにまとめたのが図3である。
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図3 時間帯ごとの排尿回数の累積値(1〜3月)
図2と比較すると、排尿している時間帯がまと まってきているのが分かる。特に、9時前に排尿 があった後はほぼ1時間確実に間隔が開いている。
また、ほぼ平均的だった午後の排尿も多い時間帯 と少ない時間帯の違いがはっきりと表れてきてい
る。
表1 1日当たりの平均排尿回数の変化
月 4〜7 9〜12 1〜3
排尿回数 4.37 3.51 2.83
また上記の表1にまとめたように、1日の排尿 回数の平均も減ってきていて、1〜3月は2.8
3回/日と4〜7月の3/4以下になっていて、
当初の「排尿から排尿までの間隔を延ばす」とい う目標はある程度達成できたと考える。
〈考察〉
この事例においては、それまでおむつを使わず に生活をしてきたということがリズムを整える上 で有効に働いたと考えられる。
本生徒はトイレ以外で排尿があった時には、表 情がはっきりと変わっていたため、最初から「濡 れて気持ちが悪い」という感覚があったと考えら れる。そのため、素早く着替えをすることで、
「乾いていて気持ちがいい」という感覚の違いを 感じさせることで、トイレでの排尿の動機付けを
しやすかったのではないだろうか。
また、トイレ以外での排尿の時間を正確に知る ことができたことは、排尿から排尿までの間隔を 延ばす上で、非常に役に立った。排尿する時間の 予測がかなり正確にできたことで、本生徒の意識 を外界に向ける関わりが効果的にできたことが排 尿の回数の減少につながったと思われる。
学年末の面接で、保護者から「濡れた着替えの 持ち帰りが少なくなったので、洗濯の負担が減っ てとてもうれしい」との言葉をもらうことができ、
改めて家庭の負担を軽くすることの大切さを感じ
た。
イ 排泄リズムの変化を読み取り、成功率を高め ることができた事例
く事例2>高2男子 脳血管障害後遺症、てんかん
〈指導経過〉
この事例も、筆者が指導を引き継いだ時点では 排泄記録が残っていなかったので、前担任と保護 者から口頭で情報を得たところ、
・定時にトイレに連れて行って、紙おむつを確認 した時に濡れていた場合は便器に座らせずすぐ に交換していた。 (前担任)
・保護者は排泄指導にあまり熱心ではなかった。
(前担任)
・中学3年の時には椅子型便器を使っての排泄指 導を行っていたが、成功は少なかった。 (保護 者)
等がわかった。
しかし、自力で座位がとれるだけの体幹保持機 能があること、刺激に対する快・不快の表情の変 化がはっきり読み取れるためおむつの濡れに対し ても何らかの表れが見られる可能性があることな
どから、排泄指導の効果が期待できると判断して 指導に取り組んだ。
4月当初はまずトイレで椅子型便器に座ること に慣れることを目的として、おむつの濡れにかか わらず、確実に便器に座らせるようにこころがけ
た。
図4に示すように、4月は1日当たりの排尿回
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図4 1日当たりトイレでの排尿平均回数の変化 数が少なかったが、それでも4月中には7回トイ
レで排尿することができた。
指導中観察した結果、おむつに出る尿の量は多 いが排尿回数そのものは少ないこと、腹部の緊張 がかなり強いということが分かった。そこで、排 尿回数が少ないのは腹部の緊張が強いために思う ように尿が出せないのではないかと考え、自立活 動の時間に、静的弛緩誘導法の「はら」のモデル パターン①(図5)を使って腹直筋部、腹斜筋部 の緊張を緩める指導を併せて行った。
指導を継続する中で、腹部の緊張がゆるむにつ れて徐々に排尿回数が増えていき、それとともに 便器に座っている時に意識的に腹部に力を入れよ
うとする表れが見られるようになった。
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図5 静的弛緩誘導法「はら」のモデルパターン① (立川,1987)
図6 トイレでの排尿成功率の変化
それにつれて成功率も上がり、図6に見られる とおり、指導開始は30%を切っていたが、7月 には成功率が80%を超えるまでになり、この月 はおむつを持ち帰らない日が14日の授業日数の うち11日もあった。この状態は長期休業明けの 9月も続き、7Aと同じくらいの成功率を記録し た。しかし、10月にはトイレに連れて行った時 にすでにおむつに出てしまっていることが多くな
り、成功率も70%近くに落ち込んでしまった
(図6)。
データを洗いなおしてみると、この時期から1 日当たりの排尿回数が多くなってきているのが分 かった(図4)。
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ロ成功 ■失敗
図8 時間帯ごとの排尿回数の累積値(10月)
これは、季節が変わり気温が低下したことで、
いわゆる「トイレが近くなった」状態となり、排 尿の間隔や排尿の時間帯が変化してきたためでは ないかと考え、9月と10月の時間帯別の排尿数 をグラフにして比較してみた(図7、図8)。
図7と図8を比較すると排尿の時間帯が違うこ と、排尿から排尿までの間隔が短かくなってきて いるのが読み取れる。つまり、全体的に排泄のリ ズムが前にずれてきていたのに、それ以前と同じ 時間で指導を行っていたため、変化に対応できて いなかったことがおむつでの排泄が増えた原因と 考えられる。
朝の保護者への確認では、おむつを替えた時間 帯を訊ねていたため、それまでと同じ時間帯に排 尿していると考えていた。しかし、実際は替える 時間は同じでも、排尿した時間が変わっている可 能性があるが、この場合はその変化が表に現れに
くい。
このように時間帯ごとのグラフを比較すること でその変化を見つけることができ、その後はこの 変化に応じてトイレに連れていく時間を変えたり、
排尿する可能性が高い時間が近づいた時にかかわ りを強くして気をそらしたりするなどの手立てを 打つことができた。
手だてを打った結果、成功率は再び上がりはじ め、12月に90%を記録した。その後も冬期休 業を挟んだにもかかわらず、80%台を保つこと ができた(図4)。
〈考察〉
本生徒のように、高等部段階で排泄指導の効果 が出るのは非常に稀なケースである。自分の実践 を振り返ってみても、小学部低学年のうちはかな り指導の効果が上がりやすいが、学年が進むにつ れて難しくなってくる傾向にある。
この事例は、それまで(前年度は除いて)地道 な排泄指導が行われてきたため、便器に座るとい
う基本的な部分のトレーニングがなされていたこ と、体幹を保持できるだけの筋力がありそれをコ ントロールする力をつけることができたこと、繰 り返しの指導の中で生徒自身にトイレで排泄しよ うとする意識を持たせることができたことなどの 条件が整ったため、指導の効果が上がったと考え
られる。
そして、気付きにくい排尿の間隔の変化をとら えることができ、早めに対応できたのは、この排 泄記録シートによって記録がすぐに数値化やグラ フ化され、素早く分析ができたからだと考える。
分析に時間がかかって手だてを打つのが後手に 回ってしまうと、指導によって整ってきた排泄リ ズムが崩れてしまい、指導以前の状態に戻ってし まう可能性が高い。今回は、その指導の崩れを最 小限に抑えられたため、より指導の効果を上げる
ことができたと考える。
ウ 同僚教員に使ってもらい、教員自身の意識を 高めることができた事例
〈事例3>中1男子コルネリア・ド・ランゲ症候群
〈指導経過〉
本生徒は、筆者の担当する生徒ではなかったが、
担任から5月になってから排泄指導についての相 談を受けたことがきっかけとなり、シートを提供 して、担任が指導と記録を行い、それを二人で分 析・検討を行って日々の指導に還元するという形 で実践を行っていった。
指導開始時の本生徒の実態は、
・っかまり立ち、伝い歩きが可能
・体力がなく、生活リズムが狂いやすい
・働きかけに対して、快・不快や受容・拒否の感 情を表情・動作で表現できる
というもので、身体的・認知的な面から排泄指導 が、可能であると判断した。
前年度の排泄記録が残っていたので、シートの 記録方法に慣れることと、昨年度の傾向の分析を 目的として、前年度の記録を整理することから始
めた。
前年度4月〜2月までの時間帯ごとの排尿回数 をグラフ化してみると、図9のようになった。グ ラフ上では特定時間に排泄が集中しているように
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60
図9 時間帯ごとの排尿回数の累積値(指導開始 前年度4月〜2月)
見えるが、これは定時にトイレ連れて行く指導を 行っていたためで、特にその時間帯に集中してい るわけではないことが、前任者からの情報で分
かった。
グラフで興味を引いたのは、本来なら一番興味 を引く学習を行っている時間帯である11時から 12時の時間帯と食後の時間帯にかなりの排尿が
あることであった。
活動中の排尿に対しては、活動中に効果的に関 わることで気持ちをそらし時間帯を後ろにずらす ことが可能と考えられる。また、食後の排尿の排
尿に対しては、食事が終ってからすぐにトイレに 連れていくことで、おむつに出てしまうのを防ぐ ことができると考え、その2点に先ず絞って指導 を行った。
活動前後に必ず排尿の有無を確認することと活 動中はできるだけ切れ目なく関わりを続けること、
そして本人の様子を細かく観察することを続けた 結果、6月の段階で11時から12時の間にトイ レ以外で排尿することは少なくなり、食事中にお むつに排尿することも少なくなった。(図10)
7月もおおむねこの傾向であったが、夏季休業 を挟んだあと、食事の担当が変わったり排尿の間 隔が短くなったりするのをうまくとらえきれず、
対応が後手に回ってしまい、指導の成果が上がり にくくなってしまった。
しかし、担任と一緒に分析や対応方法を協議す
図10 時間帯ごとの排尿回数の累積値(6月)
る中で、食事担当の教員に頼むことを整理したり、
トイレに連れていく時間を前倒ししたりという対 応をとったことで、11月後半から徐々に上向き 始め、12月は80%近くまで成功率を上げるこ とができた(図11)。
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図11 成功率の変化(4〜12月)
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〈考察〉
この事例では、劇的な成功率の変化はみられな かったが、同僚の教員に使ってもらい、一緒に分 析・検討や対応方法の協議をしたことが重要で あった。特に自分が今まで行ってきた技法を正確 に伝えることの重要性とその大変さを感じた。し かし、それに見合った成果は得られたと考える。
この事例の記録は、担任が個人研修としてまと め、校内研修会で発表も行い、他の教員から高い 評価を受けた。そのまとめの文章で、担任が以下 のように述べている(望月,2007)。
「今回、排泄指導をテーマとして研究を行って きたことにより、0君の表情の変化や動作から本 人の尿意の有無を掴むことができ、コミュニケー ションもとりやすいようになってきて、さらに0 君と筆者との対人関係も良くなり、信頼関係も作 ることができたのではないかと思われる。」
この感想を得ることができたことは、なかなか 重要性を理解してもらいにくい排泄指導の心構え や技法を伝えていくことへの自信になった。
6 まとめ
排泄は、重度重複障害児にとっては、生活の中で重 要な位置を占めているはずだが、その重要性について あまり認識されていないのが現状である。
今回、従来から筆者が行ってきた排泄指導の手順に 加え、彼らの変化をより分かりやすくするために表計 算ソフトを使った記録方法を考案し、いくつかのタイ プの生徒に実践したことにっいてのまとめを行った。
もちろん、ここに述べた記録方法のみで彼らがトイ レでの排泄できることが増えたわけではなく、それ以 前にまとめた研究(秋本・小川,1993)をもとに、指導 への心構えや手順についての実践を地道に行ってきた
ことが一番重要であるのはいうまでもない。しかし、
事例を通し、指導方法を効果的に行うために不可欠な
「実態把握」の手段としては、ある程度の成果を上げ ることができたと思う。特に事例3のように、「初め て重度重複障害児を担当した教員に指導の具体的な手 がかりを与える」という面では、かなり有効な手立て
となったのではないかと考える。
排泄指導は、時間のかかる息の長い取り組みであり、
子どもの持っ様々な要因を考えると、確実に伸びが見 られるばかりとも言えない。指導の実際にあたっては、
子どもの姿勢・移動・環境・コミュニケーション能力 などを明確にすること、生活リズムや人との関わりを 大切にすること、年齢による伸びの変化の境目を見き わめることなどが必要である。その上で、子ども一人 ひとりに合わせた課題設定・ステップ・用具などの工 夫をしなければならない。その一つのツールとして今 回の実践が活用できれば幸いである。
また、排泄指導は意思表示による随意排泄のみを目 指すだけに留まるものではなく、一対一で関わること を通して子どもを心身共により成長させることを目指 しており、また子どもの力として身についていったこ とが、子どもの意欲を引き出し、それが他の力をも引 き出していくきっかけとなるであろうことを忘れずに
いたい。
そして、このような具体的な実践を通して、重度・
重複障害のある子どもを担当した場合、それまでの指 導経過や結果をうのみにするのではなく、どこに落ち 込みがあり、どこまで到達しているのかを教師自身の 目で見つめとらえること、場合によっては指導のス テップを逆戻りしてでもやり直すことの大切さについ て改めて考えてもらえることを期待している。
〈引用・参考文献〉
秋本公志・小川晴夫(1993)重度・重複障害児の 排泄指導について一指導の手順の組織化を考える,
平成5年度はごろも教育研究奨励賞受賞論文集 立川博(1987)静的弛緩誘導法,お茶の水書房
望月和也(2007)排泄指導において成功率を上げるた めに,平成18年度静岡県立中央養護学校公開授業と課 題研究発表会資料