• 検索結果がありません。

10. The Mellops' Go Spelunking,Harper&Row, 1963.

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "10. The Mellops' Go Spelunking,Harper&Row, 1963. "

Copied!
11
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

- 1 -

氏 名

学 位 の 種 類 学 位 記 の 番 号 学 位 授 与 年 月 日 学 位 授 与 の 条 件 学 位 論 文 題 目 論 文 審 査 委 員

今 田 由 香 博士(学術)

乙第 62 号

2014(平成 26)年 7 月 24 日 学位規則第4条第2項該当

Tomi Ungerer

の物語絵本-表現・生成・存在-

主査 川端有子 (児童学専攻 教授)

副査 坪能由紀子 (児童学専攻 教授)

副査 五関正江 (食物・栄養学専攻 教授)

副査 百々佑利子 (元本学教授)

副査 吉田 新一 (立教大学名誉教授)

※なお本博士論文は、「博士論文のインターネット公表に関するガイドライン」3(2)により、以下の8,000 字の要約及び 可能な限りマスキングをした博士論文を掲載する。

論 文 の 内 容 の 要 旨

本研究では、Tomi Ungerer(1931-2019,以下トミ・ウンゲラー)と、彼が 1957 年から 2013 年までに発表 した物語絵本 25 作を考察の対象とした。執筆当時の絵本研究の状況を顧みると、表現手法に関心をもつ研 究者が多く、伝統的な文学を研究する方法のひとつである作家研究には実りが少なかった。しかし、作家 がなぜ物語絵本を制作するのかを考えること、作品の個性がいかにして生成され、発展したのかをみつめ ることは、物語絵本の特質だけではなく、その存在意義を明らかにするうえでも重要である。そこで、ウ ンゲラーと彼の物語絵本に関して、表現論と作家論を複合した物語絵本の研究を試みた。

ウンゲラーの物語絵本の多くは日本語に翻訳されており、長く読み継がれてきた。2014 年時点で出版部 数 120 万部を超えた絵本もある。しかし、ウンゲラーと彼の絵本に関する総括的な研究の成果は発表され ていない。そのため、本研究がその最初となった。

この研究では次の三つの課題を設定した。

【課題】

1) ウンゲラーの物語絵本の特徴を、作品分析を通じて明らかにする。

2) ウンゲラーの伝記的事実と彼が生きた社会的文脈のなかに彼の物語絵本を置き、作品の独自性がいか に生成されたかを分析し、叙述する。

3) 以上の成果を踏まえて物語絵本とはなにかを再考し、その歴史において、また作家自身にとって、ウ ンゲラーの物語絵本がいかなる存在かを探求する。

(2)

- 2 -

【構成】

論文は2部構成とした。序論で本研究の背景と目的を述べたのち、本論第1部において、ウンゲラーの 物語絵本の「表現」の特徴を四つの視点から分析し叙述した。続く第2部では、ウンゲラーの物語絵本の 独自性がいかに「生成」されたかを、作家の個人史と彼が生きた時代をたどることによって明らかにした。

最後に、物語絵本とはなにかを問い、物語絵本史と作家自身におけるトミ・ウンゲラーの物語絵本の存在 意義を論じた。

【対象】

第 1 部で取り上げたのは、下記の基準によって選定 した 25 作品である。

1)言葉と絵を用いて、トミ・ウンゲラーが全体を デザインした絵本である。

(絵画テクストと文字テクストの両方をウンゲラー が担当した作品)

2)ある物語を、絵本という形式を用いて語ることに 重点をおいた作品である。

3)1957 年から 2013 年までに出版された絵本である。

【作品一覧】

1. The Mellops Go Flying, Harper&Brothers, 1957.

2. The Mellops Go Diving for Treasure, Harper&Brothers, 1957.

3. The Mellops Strike 0il, Harper&Brothers, 1958.

4. Crictor, Harper&Brothers, 1958.

5. Adelaide, Harper&Brothers, 1959.

6. Christmas Eve at the Mellops', Harper&Brothers, 1960.

7.

Emile, Harper&Brothers, 1960.

8. Rufus, Harper&Brothers, 1961.

9. Die drei Räuber, Georg Lenz verlag, 1961.

10. The Mellops' Go Spelunking,Harper&Row, 1963.

11. Orlando, the Brave Vulture,Harper&Row, 1966.

12. Der Mondmann, Diogenes Verlag, 1966.

13. Basil Ratzki. Eine Fabel, Diogenes Verlag, 1967.

14. Zeralda’s Ogre, Harper&Row, 1967.

Tomi Ungererの物語絵本 —表現・生成・存在—』

<論文の構成>

序論

第1部 第1章 登場者 第2章 表現様式 第3章 主題 第4章 絵と言葉 第2部 生成と存在

第1章 アルザス人、ウンゲラーの物語 第2章 絵本作家、トミ・ウンゲラーの物語 第3章 物語絵本考

(3)

- 3 - 15. The Hat, Parent's magazine Press, 1970.

16. The Beast of Monsieur Racine, Straus and Giroux, 1971.

17. No Kiss For Mother, Harper&Row, 1973.

18. Allumette, Diogenes Verlag, 1974.

19. Flix, Diogenes Verlag, 1997.

20. Tremolo, Diogenes Verlag, 1998.

21. Otto, Diogenes Verlag, 1999.

22. Die Blaue Wolke, Diogenes Verlag, 2000.

23. Neue Freunde, Diogenes Verlag, 2007.

24. Zloty, Diogenes Verlag, 2009.

25. Der Nebelmann, Diogenes Verlag, 2012.

(以上全て、Tomi Ungerer 作)

【本論】次に、本論の概要を述べる。

○第1部 表現 第1章:登場者

第 1 部ではウンゲラーの物語絵本に焦点をあてた。第 1 章では、25 冊の物語絵本を精読し、主たる登場 者の属性ごとに作品を整理し、登場者の選択の傾向と主題やプロットとの関係について考察した。

動物を主役にした7作の物語絵本(a-1)では、経済的に恵まれた家庭で暮らす主役の動物たちが、生来の 能力や性質、境遇を受け入れながらも自らの望む人生を懸命に模索する姿が描かれていることがわかった。

ウンゲラーは人間らしく創意工夫して楽しんだり、親子関係に悩んだり、アンデンティティを模索したり する姿を、読者が親しみを感じられて感情移入しやすい動物種を主役に選び、彼らを擬人化することでユ ーモラスに描いていた。

一方、動物が動物そのものとして描かれ、人間と関わりをもちながら展開する物語(a-2)には、読者に 馴染みの薄い動物ばかりが登場した。大蛇、カンガルー、大蛸、コウモリ、ハゲワシ、ネズミなどは、犬

登場者の属性に注目した分類 動物 a-1 動物が活躍する物語 a-2 動物と人間が交流する物語

人間 b-1 人間の子どもと大人が交流する物語 b-2 人間の子どもが活躍する物語 b-3 人間の大人が活躍する物語

架空の動物 c 架空の生き物と人間が交流する物語 無生物

d 無生物が活躍する物語

(4)

- 4 -

や猫のように人間の暮らしに寄り添う動物とは言いがたい。現代社会では敬遠されがちな動物種を選び、

彼らが身体的な特徴や性質を生かして人間を助けたり、物事を良い方向に導いたりする姿が繰り返し語ら れていた。

人間が主役の物語においても、盗賊、孤児、移民など、社会の周縁に追いやられることが多い人々をウ ンゲラーは選んでいた。大人と子どもが出会う物語(b-1)では、凝り性で利己的であったために社会参加 していなかった大人たちが、子どもと出会うことで個性を失うことなく社会で活躍するようになる。また、

子どもが活躍する物語(b-2)では、養育環境に恵まれない孤児や地域社会から排除されていた移民の子ども たちが、自らの知恵や技能で人生を果敢に切り開いていく姿が描かれた。

架空の動物(c)や無生物(d)も主役を務めた。人喰い鬼や月おとこなどが登場するが、架空の生き物たち も人間社会に足を踏み入れることで異端者、周縁者として扱われ、疎まれる。ぬいぐるみなどの無生物も 登場するが、彼らは動物と同じように擬人化され、人格を与えられており、どれもが献身的な態度で持ち 主や他の人間のために行動していた。無生物たちの無欲さと対比して、人間が幸運に舞い上がって欲深く なる様子や人間の愚かさが読者に印象づけられた。

以上のように、ウンゲラーの物語絵本における主人公の属性は多様であった。また彼が創作活動を続け るなかで変化していた。しかし、変わらない点もあった。ウンゲラーは、登場者に付随する定型的なイメ ージとそれを利用した、あるいはステレオタイプを覆すようなプロットを組み合わせて、意外性のある物 語を絵本で語り続けていた。

第2章:表現様式

第2章では、マックス・リュティらによる先行研究に学びながら、ウンゲラーの代表作、『すてきな 三 にんぐみ』のオリジナルとなるハーパー社版、The Three Robbers (1962)に、ヨーロッパ昔話と同じ表現 様式が踏襲されていることを確認し、その意図や効果を論じた。

はじめに文字テクストを分析した。The Three Robbers は昔話の常套句で始まり、物語全体を通して、三 人の盗賊、三つ武器、三度の繰り返しというように、3という数が支配的に働く。これはリュティが「固 定性」と名付けた、ヨーロッパの昔話にも見られる語りの特徴であることを指摘した。

また、The Three Robbers では、孤児のティファニーが盗賊に「問い」を授けたことから、彼らの人生が 好転する。ヨーロッパ昔話においても、主人公に問いや課題を授ける「援助者」がしばしば登場するが、

「援助者」は 「ほとんどのばあい単独であらわれ、ただひとつだけ贈物をもっている。その贈物は主人公 をたすけるためのものか、主人公に困難な事情を用意してあたえるためのものである。そのあとでは、援 助者は無のなかへもどっていってしまう」(Lüthi,1947.日本版『昔話 その美学と人間像』,1976)とリュテ ィは説明する。 ティファニーもまた、盗賊に問いを授けた後、他の子どもたちに紛れてその姿が判別でき なくなる。このことから、ティファニーは盗賊たちにとっての「援助者」と解釈できると論じた。

次に絵画テクストを分析した。漆黒と鮮やか色を組み合わせた大胆な構成には、リュティがヨーロッパ 昔話の特徴としてあげた「極端性」が、また、盗賊たちのアトリビュートを目立たせ身体を簡略化した人 物表現には「平面性」が、また盗賊は三人だが背景の詳細な描写を廃し、彼らの不可分性を感じさせる三

(5)

- 5 -

人をひとつのユニットとして描く表現には、「孤立性」への指向が確認できる。

第2章における分析から、文字と絵、その両方において、ウンゲラーが昔話の語りの様式を活用してい ることが示された。さらに本章では、その意図や効果についても考察した。ヨーロッパの昔話において聴 き手は、語られる言葉と既得済みの知識や情報を結びつけ、それぞれの像を描きながら物語を味わうこと を求められ、許容される。The Three Robbers の表現様式にも昔話と同じ質の抽象性や曖昧性があり、それ ゆえにこの絵本はどのようにも読める可能性をもち、また同時に決して解読できない不確定さをもつ。

以上をふまえて、The Three Robbers が民族・文化的背景、世代を超えて楽しまれてきた理由のひとつは、

昔話の表現様式を活用した点にあるのではないかと論じた。

第3章:主題

第3章では、主題の描き方に関心を向けた。『ゼラルダと人喰い鬼』(Zeralda’s Ogre,1967)における

「食」と『あたらしい ともだち』(Neue Freunde,2007.日本版 2008)における「希少性」の描き方に注目し、

他の作品と比較しながら、その特徴を明らかした。

Zeralda’s Ogre においては、人喰い鬼と料理上手の少女を主役に、食べ物、飼育、屠殺や料理、捕食の 関係、共食、食文化など、「食」をみつめる多様な視点が共存していることを確認した。架空の物語とい う枠組みのなかで、子どもが料理をする姿や、アルザスの郷土料理なども登場させながら、幼い読者にも 楽しめる物語を紡ぎ、その背景に他の動物の命をいただいて生きる人間という存在を照射する点に、作品 の独自性を見出すことができる。

また、Neue Freunde では、少数派であることの両義性が描かれたことを確認した。社会のマイノリティ は排除や差別の対象になる。しかしその一方で、類い稀な個性をもつものとして、希少であるがゆえに高 い価値を付加され、大切に扱われることもある。このような現実への認識をもとに、ウンゲラーが、評価 が流動する社会と、そのなかにあって自身の感性を信じて個性を育くみ、先入観にとらわれない友人と強 い絆で結ばれた主人公が、「マイノリティ」の両義性を生き抜く姿を描いたことは評価すべきであろう。

主題の表現に注目し他の作家の絵本と比較研究した結果、Zeralda’s Ogre と Neue Freunde という物語 絵本の最奥には人間の根源的な問題が置かれており、その両義的な側面が、物語性を損なうことなく描か れていることが明らかになった。

第4章:絵と言葉

第4章第1節では、マリア・ニコラエヴァとキャロル・スコットによる『絵本の力学』 (How Picturebooks Work, 2001)に学びながら、ウンゲラーの物語絵本において、絵と言葉がいかに存在し、機能するのかを分 析した。

その結果、ウンゲラーの物語絵本においては、絵と言葉が「敷衍・補強」あるいは「対立・矛盾」の関 係で存在することが多く、そのバランスによって、訴求性のある表現、伝達力のある表現が実現している ことを確認した。

第2節では絵本の枠の機能と表現について論じた。『クリクター』(Crictor,1957)を例に、基本的な機

(6)

- 6 -

能を発揮する枠の存在を認めたのち、ジョン・バーニンガム作『なみにきをつけて、シャーリー』(Come Away from the Water, Shirley,1977)、モーリス・センダック作『かいじゅうたちのいるところ』(Where the Wild Things Are,1963)、デイヴィッド・ウィーズナー作『フロッサム』(Flotsam,2006)をとりあげ、

絵本というメディアの表現特性を活かした枠の設け方を、さらに、現実とファンタジーの世界を絵本に描 く際に、枠という装置が効果的に使われた例を確認した。

さらに、ウンゲラー作『ラシーヌおじさんとふしぎな動物』(The Beast of Monsieur Racine,1971)にお ける、文字テクストが語る物語とは別の次元の表現を有する、虚構という枠を自ら壊すことであるメッセ ージを発する、メタフィクショナルな「描かれた枠」の存在を確認した。

第1部「表現」において、四つの観点からウンゲラーの物語絵本における表現の特徴を分析して明らか になったことをまとめると、次のようになる。

1)登場者に付随するステレオタイプなイメージとそれを利用した、あるいは鮮やかに裏切るプロットを 組み合わせて、物語が語られていた

2)昔話の語りの型を活用することで、普遍性を備えた物語絵本が制作された

3)作品の主題は複眼的な思考で取り扱われ、その両義的な側面が物語性を損なうことなく描かれていた 4)絵が言葉より大きな力をもち、ときに言葉が語る物語を超えて、それ自体が豊かな表現性を有する表 象を内在させた作品がある

○第2部:生成と存在

第 2 部では、作家と物語絵本というメディアに注目した。第 1 章と第 2 章で、トミ・ウンゲラーの人生 と創作活動について文献研究とアルザスでのフィールドワークを実施して明らかにし、第 3 章で物語絵本 の特質と存在意義について論じた。

第1章:アルザス人、ウンゲラーの物語

第 1 章では、ウンゲラーの自伝『トミ:ナチス占領下の子ども時代』(Tomi A Childhood under the Nazis,1998)を一次資料とし、またアルザスで実施したフィールドワークをもとに、彼の子ども時代をた どり、作品の個性との関わりを考察した。

ウンゲラーはドイツとフランスの国境を有するアルザス地域圏で育ち、子どもの頃に第2次世界大戦に よるナチスの支配を経験し、戦後はフランス政府による言語同化政策に苦しんだ。当時のことをウンゲラ ーは、「私は見事に自分を切り換えていた。学校にいるときはドイツ人になり、家ではフランス人、そし て友達といるときにはアルザス人になった」(Ungerer,1998) と語ったが、このような一種の擬態行為は、

アルザスに住む人々みなが身につけていた生きるための術であったと思われる。ウンゲラーはこれを「ア ルザス人のミメティスム」 と呼んでいた。

第1部で確認したように、絵本で物語を語るにあたってウンゲラーは、「ステレオタイプ」、「型」、

「枠」などにこだわり、それらを問い直すことで、読者に新しい見方を提示するというスタイルを得意と

(7)

- 7 -

した。これは彼自身の生きかたにも通じている。環境に応じて、求められるものに変身する「ミメティス ム」とは、言い換えれば「型」の利用だからである。ウンゲラーの物語絵本には、主題やキャラクターの 造形だけではなくその表現技巧にも、彼のアルザス人としての人生が反映されていることが示唆された。

第2章:絵本作家、トミ・ウンゲラーの物語

ウンゲラーが 1956 年から 1971 年まで暮らしたニューヨーク市での日々をみつめ、活躍と作品の変遷を 社会の変化をとらえながら叙述した。

トミ・ウンゲラーは 1956 年に渡米し、ハーパー社の児童書編集者、アーシュラ・ノードストロムに才能 を見いだされて、翌年、『メロップス一家、空へ』(The Mellops Go Flying)で絵本作家としてのデビュー を果した。出版後たちまち人気の作家となり、絵本だけではなく訴求力の強いイラストレーションやキャ ッチコピーを次々と発表し、雑誌、広告、カリカチュア、反戦ポスターなど、ジャンルを超えて華々しく 活躍し、当時の作家たちにも一目置かれる存在となった。

しかし活躍するほどに、文化や芸術の世界にも権力や異端者排除の思想が存在することをウンゲラーは 知った。欲望と消費、偽善、階級、貧困と、立場によって受けとるものの違いが大きいアメリカ社会の実 体を目の当たりにし、またさまざまな文化的背景をもつ人々と交流するなかで、ウンゲラー自身の意識も 変化し、また物語絵本の表現も変わった。代表作『すてきな 三にんぐみ』はその転換期に作られた絵本で ある。黒色と鮮やかな色彩を組み合わせた画面が現れ、人主役にした物語が語られるようになり、故郷ア ルザスの風景や文化が絵本に登場し始めた。

ウンゲラーの物語絵本における表現はキャリアを積み重ねるなかでさらに深化していったが、一方で、

アメリカの児童書の選書規準も変わっていく。理想主義的な傾向が強まり、現実の社会を反映した物語絵 本を作るウンゲラーは、子どもを聖域に留めて置きたい大人たちには受け入れ難い作家となった。大人向 けのエロティックな、あるいは政治的な作品を制作していることも問題視され始めると、ウンゲラーの物 語絵本は公立図書館からも書店からも次第に姿を消していった。1971 年にウンゲラーがニューヨークを離 れ、その数年後に出版活動から遠退くと、彼はアメリカでは過去の作家になった。

以上のように第2章では、アメリカに暮らすなかで、ウンゲラーの思想が深まり、自身のルーツ、アル ザス人としての自分を再発見していく様子と、彼の絵本が読まれなくなった経緯を、文献と作品を照らし 合わせながら確認した。

さらに、ウンゲラーがニューヨーク時代に制作した子どもを主役にした三冊の物語絵本を「子ども像」

に注目しながら分析的に読み、そこに描かれた「大人を導く子どもの姿」を中心に再評価を試みた。

第3章:物語絵本考

第3章では、物語ることと絵本の源流をみつめ、「物語絵本とはなにか」「物語絵本は、読者と作者に とって、どのような存在意義をもつメディアであるのか」を探求した。

長く読み継がれる絵本には、とくに幼い子どもたちに向けた絵本には、読者の能動的な関わりを誘う表 現が多くみつかる。言葉や絵、構造による絵本の誘いに応じるなかで読者は、作品に創造的に関わる楽し

(8)

- 8 -

さを知る。そのことが子どもの発達においても意味をもつ。

第 1 部の考察の結果、ウンゲラーの絵本にも読者の能動的な関わりを誘う言葉や絵が多くあることが明 らかになった。ウンゲラーは経験から生み出された哲学を作品に貫き、「ステレオタイプ」や「型」、「枠」

などにこだわり、社会を成立させているそれらの存在に光を当て、許容される枠組みのなかで自由を謳歌 する個性的な主役たちの姿を、簡潔でありながら豊かな表現で、なによりも読者が楽しめるように描き続 けた。そして絵本で語り続けることで、自ら人生に意味を見出していった。ウンゲラーの生き方は、物語 絵本が、読者だけではなく、作家にとっても特別な存在意義をもつことを示唆する。

【結論】

本研究では次のことが明らかになった。

1)人間の根源に関わる主題を扱いながらも、斬新な着想と「ステレオタイプ」、「型」、「枠」などを 用いた語りの技巧と優れた視覚表現によって、読者に驚きと楽しさを届けてきた絵本作家トミ・ウンゲラ ーとその物語絵本の存在は、物語絵本史に記録されるべき独自性を有する。

2)ウンゲラーの物語絵本の個性とそれを創出する表現には、彼が生きた時代、アルザスでの子ども時代 やニューヨークで暮らした日々が影響している。

3)物語絵本は、読者だけではなく、作家にとっても特別な存在意義をもつメディアとなりうる。「子ど ものために絵と言葉で語る」という行為が、作者の過去に意味を加えることがあるからである。

【本研究の意義】

『Tomi Ungerer の物語絵本 -表現・生成・存在- 』で試みたのは、ひとりの絵本作家の表現の豊かさ を例示することで、作家の創作行為と作品の質を再評価し、物語絵本というメディアの特質と存在意義を 明らかにすることであった。

ウンゲラーは、人間の主体的な関わりを期待するメディアである「絵本」を選択し、自らの経験から編 んだ哲学をもとにした技巧で子どもたちのために物語を語り続けてきた。そしてその行為によって、自ら の過去にポジティブな意味を発見していった。物語絵本というメディアを通じてひとりの作家が成したこ との多さを叙述できたことが、本研究の最も大きな意義であると考える。

本研究の特色は、作品論と作家論を複合しながら、物語絵本の個性とその生成に関心を向けた点にある。

作品中心の研究だけでは明らかにすることが難しいと思われる、表現や技巧の選択における作家の思想や 生きた時代の反映を指摘することができた。

主題や技巧における、エポックメイキングな作品を中心とした絵本史は既に複数出版されてきた。しか し、主題や技巧がいかに選択され、誕生したのかに関心を向けた物語絵本の発展の歴史に関する研究に取 り組む研究者はまだ少ない。ストラスブール市トミ・ウンゲラー美術館の全面的な協力によって遂行した トミ・ウンゲラーと彼の物語絵本に関する事例研究ともいえる本研究の成果が、いつか編まれるだろう物 語絵本の発展史にささやかであれ、貢献するものとなることを願う。

(9)

- 9 -

論文審査結果の要旨

本論は、われわれの暮らしに身近な文学、芸術である物語絵本を研究対象に選び、とりわけアルザ ス生まれの絵本作家トミ・ウンゲラーの物語絵本について、表現論と作家論の二つの方向性から、物 語絵本の特質と、その存在意義を明らかにしたものである。

絵本が子どもたちの文化や生活の中で持つ意義の大きさについては、すでに認められてきているが、

絵本についてのアカデミックな研究はまだ始まったばかりである。しかも近年の絵本研究は、個別の 作品の絵と言葉の表現に関するものが中心であり、伝統的な文学研究手法である作家研究は、まだま だ少数の有名作家についてしか行われていない。だが、作家がなぜ物語絵本を製作するのか、作品の 個性がいかに生成され、発展するのかを見つめることは、物語絵本の特質のみならず、その存在意義 をも明らかにするうえで非常に重要である。

本研究はそのような視座に立ち、絵本作家トミ・ウンゲラーと、彼が

1957

年から

2013

年末までに 発表した物語絵本

25

作を対象とし、表現論と作家論との複合から、ウンゲラーの物語絵本研究を試 みた。彼の物語絵本についての包括的な研究はいまだ日本でも海外でもなされたことはなく、本研究 はその最初の試みであるといえる。

本論文の構成は以下のとおりである。

第一部「表現」

第一章 「登場者」

第二章 「表現様式」

第三章 「主題」

第四章 「絵と言葉」

第二部「生成・存在」

第一章 アルザス人、ウンゲラーの物語 第二章 絵本作家ウンゲラーの物語 第三章 物語絵本考

第一部は、絵本の表現に焦点をあてた多角的な作品研究であり、第一章では初期の作品から現在 に至る、彼の物語絵本に登場するキャラクターに注目した。その結果、初期には動物が多く、しだ いに人間の子どもが主役になるなど、変化があることが認められたが、その一方で、登場人物に付 随するステレオタイプ、定型的なイメージを巧みに利用し、またはそれを鮮やかに転覆させること で、ウンゲラーが斬新な物語を作っていることが明らかになった。

(10)

- 10 -

続く表現様式の分析では、ウンゲラーの絵と文によるテクストには、ヨーロッパ昔話の表現様式 が用いられていることを指摘し、昔話の美学を論じたマックス・リュティの様式論を援用して、い っけん平凡で深みがないと批判されたウンゲラーの物語には、昔話的な抽象性が付与されていると 結論付け、そのおかげで普遍性と多義性を持つことになったと結論付けた。

主題については、主に二冊の絵本を取り上げ、その主題が<食>という人間の生の根源的な問題 に触れつつ、社会の中のマイノリティの生き方という非常に今日的でありかつ普遍的な問題を扱っ ていることを示し、その両義的な側面が物語性を損なうことなく語られていることを分析した。

四章目では、ニコラエヴァとスコットの理論に基づき、絵と言葉の力関係に注目し、ウンゲラー の絵本では、この二つが「敷衍・補強」、「対立・矛盾」の関係を取って主題を力強く表現しているこ とを確認。また枠のもつ効果にも注目し、切り取られたり、乗り越えられたりする枠が表現するメタ 的効果についても叙述した。

第二部では、第一部で確認したウンゲラーの物語絵本の特長が、どのように生まれてきたのか、そ れはどんな意味があったのかということを考察した。まず、第一章と第二章ではアルザス地方、スト ラスブールに生まれたウンゲラーの個人史をたどり、ドイツ、フランス、アルザスという三つのアイ デンティティに引き裂かれた幼年時代の経験から、アルザス人特有の「ミメティスム」(擬態)を身に 着けたことが、第一部で述べてきた表現方法に影響を及ぼしていることを例証した。しかし、彼が自 分の「ミメティスム」を自覚したのは、その後のニューヨーク生活を経てのことと思われる。1960 年代のアメリカで、イラストレーター、キャッチコピーライターなど、多彩な活動を通じて、政治や アートの世界の持つ権力志向や異端者排除の思想に気づいたウンゲラーは、絵本の中の「子ども」の 姿に救いを求めたが、過激なポスター作家としても知られる彼の物語絵本は子どもにふさわしいのか、

というアメリカの児童図書館の批判にあって、商業的には失敗を迎えてしまう。ここには、物語絵本 は商品であり、社会の中の一部であり、であるからこそ、作品の評価は時代を超えてなされなければ ならないということが再確認された。

最後に、そもそも物語絵本とは何か、どういう意味を持っているのかを考察し、ウンゲラーにとっ て物語絵本を創作することの意味について分析した。言葉と絵によって連続した物語を描く物語絵本 は、混沌たる現実に意味を与えようとする人間の根源的な行為であり、時間軸に沿って絵が展開して ゆく物語絵本は、幼い子どもからおとなまで、自然に読み取ることのできるメディアである。

ウンゲラーにとっての物語絵本とは、彼が遭遇し、巻き込まれた不条理な出来事を意味つけるため の重要な行為であったに違いない。しかし彼はそれを直接に物語絵本に持ち込むことはなく、経験か ら生み出された哲学を、抽象化し、簡潔でかつ表情豊かな表現で、「楽しく」絵本に書き表したのであ った。彼の物語絵本は、読者に読む楽しさと同時に、さまざまな束縛から解放する力を持っている。

以上のことから、本論文では、トミ・ウンゲラーという絵本作家の表現の豊かさを例示することで、

作家の創作行為と作品の質を評価し、物語絵本というメディアの意義を叙述し、それを通じてウンゲ ラーがなしえたことを確認したといえる。

(11)

- 11 -

本研究は、トミ・ウンゲラーという作家の世界で初めての包括的研究であると同時に、これから蓄 積されてできあがっていくであろう絵本史研究の中の重要な一石となるだろう。

これまでほとんど例のなかった絵本作家の包括的研究であり、作品の詳細な検討と分析に加え、ス トラスブールでのフィールドワークも加味して、はじめてのトミ・ウンゲラーの作家論を書き上げた という点において、大きく評価できる。さらに、その作家論が今後の絵本作家研究にひとつの方法論 的示唆を与え、一つの道筋を与えたという点でも、意義深い。以上の点から審査委員会は、本研究の 課題の意義、研究手法の妥当性、確かな分析力によって新しい知見が得られたことについて高く評価 し、博士(学術)の授与に値すると判断した。

参照

関連したドキュメント

It is suggested by our method that most of the quadratic algebras for all St¨ ackel equivalence classes of 3D second order quantum superintegrable systems on conformally flat

While we will not go into detail concerning how to form functions of several, noncommuting, operators, we will record in Section 2 the essential notation and results concerning

Since the boundary integral equation is Fredholm, the solvability theorem follows from the uniqueness theorem, which is ensured for the Neumann problem in the case of the

We go on to study canonical reductive monoids associated with the canonical compact- ification of semisimple groups,

A characterization of polynomials of degree ≤ 21 that are strict sums of seventh powers is given in Section 3.. In Section 4, using the general descent process described in [1],

The voltage across CP2 drives the output dependent current source, Go, which is connected across the device cathode and anode.. Model component

Under the following conditions a minimum of 10 gals per acre is required: ultra narrow row cotton, narrow row soybeans, broadleaf herbi- cide tank mixes, perennial grasses,

If so, in order to avoid unexpected “drop and retry” sequence of the buck output, the charge state machine allows only three system power−up sequences based on SPM pin level: If SPM