【要旨】
小学校の「生活科」においては,「自立への基礎」を養うことが大きな目標とされている。
そして,学校,家庭,地域の生活に関わることを通してその基礎を養う実践が積み上げられ ている。しかし,その指導法については形骸化が指摘されている。そこで本論文では,まず,
「自立への基礎」とは何かについて学習指導要領を中心にした先行研究を整理し,育てたい資 質・能力について明確にする。次に,これまでの実践事例から「自立への基礎」を養う指導 法の問題点を指摘する。そして改善すべき指導法を提示する。さらに,その指導法を取り入 れたカリキュラムを作成する。最後に「自立への基礎」を確実に身につけることのできる生 活科の指導法についての知見をまとめる。
1 はじめに
平成元年度に生活科が成立した時以来,その目標の中には「自立への基礎」を養うことが 掲げられていている。例えば現行の学習指導要領(1)の目標には「具体的な活動や体験を通して,
自分と身近な人々,社会や自然とのかかわりに関心をもち,自分自身や自分の生活について 考えさせるとともに,その過程において生活上必要な習慣や技能を身に付けさせ,自立への 基礎を養う」(傍線筆者)と示されている。また。平成29年告示の次期学習指導要領(2)の目標に も「具体的な活動や体験を通して,身近な生活に関わる見方・考え方を生かし,自立し生活 を豊かにしていくための資質・能力を次の通り育成することを目指す」(傍線筆者)として類 似の表現が示されている。
そして,それを具現化する中心的な単元として教科書で位置付けられているものとして「お 手伝い大作戦」「かぞくにこにこ大さくせん」「じぶんでできるよ」のような,家庭生活を支
*立正大学社会福祉学部子ども教育福祉学科
キーワード:生活科,自立の基礎,資質・能力,指導法
資質・能力の育成を確かなものにする生活科の指導法
―自立への基礎を養う活動を通して―
The Instruction Method of “ Life Studies ” to Assure Upbringing of the Nature and the Ability
―Through Activity to Nurture the Foundation of Independence―
石橋 昌雄
*Masao Ishibashi
〈原著論文〉
える家族の役割について考え,自分の役割を積極的に果たすことをねらいとする単元(いわ ゆる家族単元)があり,主に第 1 学年で実践されている。また,「大きくなったわたし」「あ したへダッシユ」「あしたへジャンプ」のような,自分自身の成長と家族の支えについて考え ることをねらいとする単元(いわゆる成長単元)もあり,主に第 2 学年で実践されている。
これらの実践ではややもすると,前者では「お手伝いをさせること」が中心になってしまっ ている例や,後者では「家族へ感謝すること」や「家族に感謝の手紙を書くこと」が中心に なってしまっている例がある。しかし,生活科の目標である「自立への基礎」を養うという 点から考えたときに,親や家族に言われて仕事としてやらせられる「お手伝い」や,親や家 族に感謝するためのお手紙書きなどで,本当に「自立への基礎」が養われるのか疑問が残る。
先の論文(3)でも述べたように,「生活科は,体験や活動を通して,自分との関わりで人や社 会,自然などに気付き,学び合いや試行錯誤を経て,自分への気付きへと深めていく教科」
ととらえることができる。この視点から見ると,体験や活動を通して,今まで無自覚だった,
自分と家族や社会との関係について気付き自覚するようになる。そして,学び合いや試行錯 誤を経て,自分自身の生活や家族や社会との関連について考え表現することによって新たな 気付きが生まれるなど「気付きの質の高まり」を期待したい。その延長線として,自らお手 伝いをしたり,自ら感謝の気持ちを伝えたりするという活動がでてくることが大切であり,
子どもの気付きがその方向に向かなければ,違う学習の展開もありうるはずである。
なお,平成29年告示の学習指導要領解説(4)によれば,「生活科でいう気付きとは,対象に対す る一人一人の認識であり,児童の主体的な活動によって生まれるものである。そこには知的 な側面だけではなく,情意的な側面も含まれる。自分が『あれっ』『どうして』『なるほど』
などのように何らかの心の動きを伴って気付くものであり,一人一人に生まれた気付きは吟 味されたり一般化されたりしていないものの,確かな認識へとつながるものとして重要な役 割をもつ」と示されている。(傍線筆者)
また,「気付きの質の高まり」と「深い学び」については「例えば,比べたり分類したりす ることによって,ある気付きと別の気付きとの共通点や相違点,それぞれの関係や関連が確 認されたときなどに気付きの質が高まったということができる。自分自身や自分の生活につ いて考え,表現することにより,気付きの質が高まり,対象が意味付けられたり価値付けら れたりするならば,身近な人々,社会及び自然は自分にとって一層大切な存在になってくる。
このような『深い学び』の実現こそが求められるのである(5)」と述べている。
本来「自立」とは子どもが大人になるまでの過程で,様々な知識・技能,能力,意欲・態 度などを獲得し,大人の力を借りなくても自分の力で生きていけるようになることである。
鵜養(1994(6))は「小学校入学から卒業までの六年間は,子どもが初めて親から離れた独立 の世界を持ち始める時期」であるとし,「幼児期までに外で与えられるしつけを中心とした他 律的な道徳律が,児童期に至って内面化し,自らの欲求や意図と社会的な秩序との間の葛藤 を処理する過程として,自律的な道徳律を確立していくプロセスが大切である」と述べてい
る。自律的な道徳律を確立できるようになるのは,小学校高学年の11歳から12歳ごろと言わ れている。また,この時期は具体的操作期と言われ具体的なものには論理的思考ができるよ うになる時期でもある。とはいえ「学齢期の最初の段階では,子どもはまだその時その時の 体験にとらわれ,十分な操作的思考を展開することができない」と述べている。つまり,低 学年の子どもは,具体的な体験や活動を通して思考することができるようになる時期である。
久保(2010(7))は,児童期の特徴として「 7 歳前後から子どもは,具体的な対象に関しては 論理的な思考ができるようになるといわれる(Inhelder&Piaget, 1958)。いわゆる具体的操作 ができるようになるのである」として,「学校では,他者と比較して自己が評価される経験が 増える」「児童期には,子ども自身も他者と比較して自分を評価することが可能となり,その 自己評価は『客観的』になっていく」「子どもは,自分の能力に自信があるなら難しい課題に も挑戦する」「仲間から受容されることによって,子どもは情緒的な安定を得られる」ことな どを指摘している。つまり,他者の存在を感じ,他者からの評価を気にして,受容されると 情緒が安定する時期である。
村田(1994(8))は,低学年の時期には自己認識の劇的な変化がおこるとし「自分を他者から 区別するだけではなく,他者との類似性を認識し,自己の社会的性格を知るのである。その 結果として,《現実自己(real self)》と《理想自己(ideal self)》の対立が現れる。子どもは 8 ~ 9 歳ごろになると,望ましい行動と望ましくない行動とを,カテゴリーとして分化させ,
これらについて他者の承認を強く求め,他者はどんな子どもを好み,期待を寄せるかについ ての社会的情報に敏感になり,自分があるべき理想の姿,つまり《理想自己》を形成するよ うになってゆく」と述べている。つまり,個人が他者との関係性において,異なる存在とし て認識され,社会が求める理想自己に自分を合わせようとする時期でもある。
これらのことは筆者の小学校教諭における体験からも裏付けられている。つまり,小学校 低学年の児童は,具体的な体験や活動,操作,対話などをしながら物事を考えることが多い。
そして気付いたことや発見したことに対して「見て,見て」「聞いて,聞いて」と教師や友達 に同調してもらい満足するようになる。一方対象に対しては,自分から見た一対一の関係が 基本であり,友達が周囲にいても,基本的には自分と教師,自分と相手,自分と物などとの 関係しか視野に入っていない。そこで,教師の発問のほとんどに反応し挙手する。しかし,
中学年に近づくにつれて周囲の友達つまり他者を意識するとその関係性の理解のうえに,分 かっていても挙手しなかったりするようになる。例えば,私はこの時間すでに一回指名され たから,挙手しても他の子が指名されるので挙手しないなどの行動をとるようになるのであ る。さらに,学級全体の児童の特性を比較して,それぞれの児童の特性と比べて自分を評価 し,自分も理想自己に近付こうとする。
このように,低学年の子どもは,幼児期の末期において,ピアジェの言う「自己中心性」
を有しながらも,具体物を通して操作的思考を展開し,友達などの関係性の上に,社会が要 求する自己に近付けようとする。言い代えれば,本格的な自立へつながる前の時期(「自立の
基礎」を養う時期)ととらえることができる。
このような時期に学習する生活科で求められる「自立の基礎」について,河野(1990(9))は,
生活科が誕生のころの臨教審答申を端的にまとめて「自ら思考し,判断し,決断し,責任を とることのできる主体的能力,意欲,態度等を総括したもの」としている。
梶田(1990(10))は,「生活科で目指される『自立』は,『自分のことは自分でやれる』,『自分 でやったことの後始末は自分でやれる』といった,単なる身辺自立,生活習慣上の自立,に とどまるものではない」と言う。また,大人に求めるような「自立」でもないとしている。
そして「自分なりの内的必然性を持って追求し,探究していく,という学習上の土台づくり であろう。そして,自分の判断や行動を自分なりの原理に基づいて進めていける。さらには 自分の人生を自分の責任において生きていく。という精神的な自立の基盤づくりであろう」
と述べている。
つまり生活科において,教師に指示されて突然「お手伝いをさせること」や,「家族に感謝 の手紙を書くこと」を行わせる指導だけでは,自立にはつながらない。自分なりに家族の存 在や,自分が家族の一員であることを自覚し,その中で期待されている理想自己に近付きた いという内的必然性を育む必要がある。そして,自分の生活を振り返る体験や活動を重ねた うえで,自分で思考しながら判断し行動できることが自立につながる。
このように,小学校低学年の児童の発達特性を考慮し「自立の基礎」について考えた時に,
現在の多くの小学校では,このような資質・能力をめざした指導が適切に行われているとは 言い切れない。残念ながら生活科の授業の中には,自立への基礎を養うための学習が,自分 なりの内的必然性が十分育たない中で行われている例がある。
第一に,体験や活動の成果が自立の方向に生かされずに,半ば強制的にお手伝いをさせた り,拙速に家族への感謝を求めたりする例がある。
第二に,自立が身辺自立の指導に偏っていて,すべてが教師の指示で動き,きまりやルー ルを守ることが強調されすぎている場合がある。あくまで生活科では,体験や活動の過程に おいて生活上必要な習慣や技能を身に付けさせるのであって,しつけが目的ではない。
第三に,教科書にのっているから,家族の仕事調べやお手伝いが始まる場合が多く,子ど もがそのような活動をしたいと思う内的必然性や,自分なりの気付きを大切にして問題解決 をしたいという「学習上の自立」を求める活動になっていない場合がある。
このような点から,生活科の最終目標でもある「自立への基礎」を養う活動を意図した場 合には,今のままの指導法では課題が多く改善が必要である。
そこで,本研究では,「自立への基礎」を養う学習を,拙速に家事の分担や家族への感謝を 求める学習から,より子どもの内的必然性に基づく動機付けを中心としたものに変え,本来 の意味で「自立への基礎」を養うことのできる指導法に改善するカリキュラムを提案するこ とを目的とする。
初めに,学習指導要領で言う「自立への基礎」とは何かを,学習指導要領を中心にしたこ
れまでの先行研究について整理し,育てたい資質・能力について明確にする。次に,これま での実践事例からその問題点を指摘する。そして改善すべき指導法を提示する。さらに,そ の指導法を取り入れたカリキュラムを作成する。最後に「自立への基礎」として養うべき資 質・能力の育成を確かなものにする生活科の指導法についての知見をまとめる。
2 「自立への基礎」と育てたい資質・能力
「自立への基礎」については,平成20年告示の学習指導要領解説(11)によれば「自分にとって興 味・関心があり,価値があると感じられる学習活動を自ら進んで行うことができるというこ とであり,自分の思いや考えなどを適切な方法で表現できるという『学習上の自立』」,「生活 上必要な習慣や技能を身に付けて,身近な人々,社会及び自然と適切にかかわることができ るようになり,自らよりよい生活を創り出していくことができるという『生活上の自立』」
「自分のよさや可能性に気付き,意欲や自信をもつことによって,現在及び将来における自分 自身の在り方に夢や希望をもち,前向きに生活していくことができるという『精神的な自 立』」であると示されている。これらはどれも自己中心性,直感的思考,現実自己と理想自己 など低学年の児童の発達特性から導かれてきたものである。
この 3 つの自立についての考え方は,平成29年告示の小学校学習指導要領解説(12)にも受け継 がれている。それによれば,「自立しとは,一人一人の児童が幼児期の教育で育まれたことを 基礎にしながら,将来の自立に向けてその度合を高めていくことを指す」としている。以下,
学習指導要領生活科で目指している「自立の基礎」の捉え方についての先行研究を整理する。
加藤(1991(13))は,「自立にはいろいろなものが考えられる。社会的自立,精神的自立,身辺 自立,学習上の自立等々である。これらのなかで生活科が目標とする自立は,身辺自立を含0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 めての学習上の自立であるべきである0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0と考えられる」と述べ,身辺自立も含めた「学習上の 自立」を強調している。そして,「学習上の自立」の基礎づくりの 3 条件として「①子供自身 が興味と関心をもって取り組む活動を設定すること。つまり活動に対する目的が子供の内に ある活動を設定すること。②活動を,子供が自分なりのアプローチのしかたで取り組むよう に奨励すること。③活動の成果を自分なりにまとめ,表現することを奨励すること」を挙げ ている。
同様に,藤崎(1994(14))も「人がたっせいしなくてはならない自立には身辺自立,学習の自 立,社会的自立そして精神的自立がある。学校生活の基礎として自分の健康を保つための生 活習慣の確立をめざす身辺自立は幼児の段階で確立されなくてはならない。そして小学校段 階で求められる自立は学習の自立である。それは,自分なりの内的必然性にもとづいて追求 し,探究していこうとする学習態度である」と述べている。
今野(1989(15))は,自立への基礎として「①集団や社会の一員として,集団生活ができるよ うになること。②自分のことは,自分でできるようになること。③学習や集団生活において,
自分の考えや意見が,はっきりと述べられること。④身近な社会や自然の事柄に関心をもち,
環境に積極的に働きかけることができること」をあげている。そして,
“
自立への基礎”
の内 容は「低学年段階の児童の“
発達特性”
をどのようにとらえ,また現実の児童の実態をふま えて,どのような“
子供像”
を掲げるのか,ということと同義のことなのである」と述べて いる。佐々木(1992(16))は,自立への基礎の内容を当時の文部省視学官の中野重人氏の考えをまと めて「①集団や社会の一員として,集団生活ができる。②自分のことが自分でできる。③自 分の考えや意見をはっきりと述べ,自分の意思を人に伝達できる。④身近な社会や自然に関 心をもち,環境に積極的に働きかける」という 4 つをあげている。
嶋野(1993(17))は,自立への基礎として「①学校や学級の仲間とよく遊び,よく学んで,よ りよい生活ができるようになること。②一人で起きる。顔を洗うことなど,自分のことは自 分でできるようになること。③自分の考えや意見をはっきり伝えたり,人の話を聞いたりす ることができるようになること。④身近なことに関心をもち,積極的にかかわっていけるよ うになること」を挙げている。
川上(1992(18))は,生活科でめざす自立への基礎とは「親や教師の指示に依存するのではな く,児童自ら考え,実行し,行動していくことを目指している。指導書では,低学年なりの 自立した状態を,集団生活ができるようになること,自分のことは自分でできるようになる こと,自分の考えや意見がはっきり言えること,積極的な姿勢などを挙げている」と述べて いる。また「生活科では,友達,先生,家族,身近な社会の人々,更に自然環境などとのか かわりを通して自分を高めていくこと,すなわち自立の基礎を培うことが目指される」と述 べている。このように多くの先行研究では「自立の基礎」を現在の文部科学省が示す「学習 上の自立」「生活上の自立」につながるものとしてとらえている。
一方,桂川(2011(19))は,実践を通して,自立した子どもの姿として「自分なりの願いや方 法を持って,主体的に活動できる子。願いの実現に向けて,対象に繰り返し粘り強くかかわ ることができる子,活動を通して自分自身を振り返り,良さを自覚できる子」をあげ「精神 的な自立」にも触れている。
堤(1989(20))は,「自立の基礎を養う」活動となるための基本として「①自主的に取り組む力
(自主性) ②継続的に取り組む力(忍耐力) ③協力しながら取り組む力(協調性) ④自己 を表現しながら取り組む力(表現力) ⑤見直しながら取り組む力(見直し力)」の 5 つを提 言している。
佐々木(1998(21))は「自立というのは,独り立ちのことであり,親や教師の援助を必要とし ないで自分で生活できることである。そのことは,一教科や小学校教育だけの課題ではなく,
教育全体で担当すべきことであり,元来,教育活動は自立へと導いていくための営みといえ る。そこでここでは,自立させるということではなく,『自立への基礎を養う』ということを 求めているのである。」と述べている。
なお,宮本(1996(22))は,低学年の子どものもつ「自己中心性を前向きに踏まえて,自分と
いうものをもたせ,自己確立の基礎を培っておこうということである。生活科では,この目 標を『自立の基礎』として捉えている」と述べている。
このように「自立の基礎」をとらえた時に,果たして教師は何をねらいとして,どのよう な資質・能力の定着をめざして指導・支援をすればよいのだろうか。ここでは,生活科にお いて学習指導要領で求められている「学習上の自立」「生活上の自立」「精神的な自立」とい う 3 つの自立について具現化するために必要な,資質・能力について以下のように明確にし たい。
① 自分のことは自分でできるようにすることが大切なことに気付く(主に「生活上の自 立」)
自分のことは自分でできるという体験や活動をさせ,親や教師など他律的な指示によっ てだけ行動するのではなく,自らの意図や必要性と社会的な秩序との間の葛藤を処理 する過程として物事を行えるようになる。
② 自分は,家族との生活や,他人との会話を通して成長していることに気付く(主に「学 習上の自立」「精神的な自立」)
自分と他人は異なる存在であり,その違いや葛藤を乗り越えるためには,自分の思い や考えを会話など適切な方法で表現しなければならない。また,自分が仲間から受容 されることによって,精神的な安定を得られる。
③ 自分は家族や社会という集団の中で支え合いながら生きていることに気付く(主に「生 活上の自立」)
自分とは異なる家族の様子を比較し葛藤することを通して,その違いに気付くととも に,自分を支えている家族や社会という集団との関係性を改めて自覚するようになる。
④ 自分も家族や社会の一員として,まわりの環境に働きかけながら成長していることに 気付く(主に「生活上の自立」)
具体的な体験や活動を通して自ら環境に働きかけ刺激を受け,環境を自分の行動の中 に取り込みながら,自己の成長につなげて考えられるようになる。
⑤ 自分の過去を思い出したり,自分より年齢が低い子どもの姿から自分を振り返ったり して,自分は体位や体力,知識や技能だけではなく,精神的にも向上していることに 気付き,難しい課題にも挑戦したいと思うようになる(主に「学習上の自立」「精神的 な自立」)
今の自分について振り返り考えるだけではなく,自分自身の成長に興味や関心をもち 心も体も変化の過程にあることを具体的に気付くことができるようになる。そして,
よりよい自分になりたいと思い表現できるようになる。
これらを「自立した子どもの姿」としてまとめると,低学年の子どもに特有の自己中心性 を生かして「①自分のことは自分でできるようになり,②他人の考えを聞き自分の考えを言 えるようになり,③集団生活が適切にできるようになり,④身近な環境に積極的に関われる
ようになり ⑤自らを振り返りよりよい生活を創り出していける子ども」となる。(【図 1 】 参照)
3 「自立への基礎」を養う指導法の問題点
生活科では,「自分」を中心に,身近な人々,社会や自然と体験や活動を通して関わり「自 分自身や自分の生活との関わり」について考えていくことがポイントとなる。このことは「自 立への基礎」について考える時にも大切にしていくべき視点である。
「自立の基礎」を養う活動や体験は,本来生活科の全ての単元において養っていくべきもの である。しかし,ここではその中心的な単元として主として 1 年生で扱うことの多いの「家 族にこにこ大作戦」「自分でできるよ」などのいわゆる「家族単元」と,1 年生で扱う「もう すぐ 2 ねんせい」,及び 2 年生で扱うことの多い「大きくなったわたし」「あしたへダッシュ」
「あしたへジャンプ」などのいわゆる「成長単元」を中心に,「自立の基礎」を養う指導法の 問題点について指摘したい。ここでは,前章の最後でまとめた 5 つの「自立への基礎」とし て育てたい資質・能力に従い指導上の問題点について考察する。
第一に「自分のことは自分でできるようにする」ためには,自ら進んで自分の成長に興味・
関心をもったり,自分自身の生活や成長を振り返ったりする必要がある。ところが,自分の 成長に興味をもつ内的動機付けが弱い実践例が多い。
岡根(1990(23))は,「もうすぐ 2 ねんせい」の学習で入学直後に子ども一人一人に,好きな一 本の木を「自分となかよしの木」「ともだちの木」と決めさせ,その成長と自分の成長とを比 較させながら観察する実践を行っている。また,入学のころの文字を残したり,絵を残した りして 1 年間の成長を後で振り返ることができるような指導を行っている。低学年の子ども は今の事しか目に入りにくい性質をもっているため,好きな木との比較や,自分が過去に書 いた文字や絵などを振り返ることは子どもが自らの成長に気付くためには効果的である。
澤本(1990(24))は,「大きくなったわたし」の学習で,自分の誕生から 2 年生までの写真や衣 服・くつ・手形足型・家族や友達へのインタビューなどを用いて振り返る活動をしている。
身近な環境 集団生活
自分 他人
※矢印は,社会や人との関わりを示す
【図 1 】自立した子どもの姿
これらは,低学年社会科の時代の活動と基本的には変わりはない。しかし, 1 年生の教室を 訪問するだけではなく, 6 年生の教室も訪問して未来の自分にまで焦点をあててアルバムづ くりをしている点は,自分の過去・現在・未来を時間軸でメタ認知しようとしている点で評 価できる。
生活科が成立してからの指導では,低学年社会科の時と同様に,赤ちゃんの頃から今の自 分までを順番に追って調べる学習が多く行われてきた。しかし,現行の学習指導要領(25)などで は「どの時点から自分の成長を振り返り実感するかは,児童によって異なる。(中略)大切な のは,自分の成長を実感できることであって,一律に過去から順にたどることではない」と されている。つまり,子どもそれそれがもつ独自の時間感覚を大切にし,必ずしも赤ちゃん の頃から今の自分までを,すべての子どもが共通の時間感覚で振り返る活動が期待されてい るわけではない。
そこで,様々な工夫をしながら,自分でできるようになったことが増えたことを実感でき るような指導の工夫がなされている。しかし,せっかく自分の成長に気付いても,「身長が増 えた」「縄跳びが飛べるようになった」「算数の足し算ができるようになった」「漢字が書ける ようになった」など体位や体力,知識や技能と言う目に見える面についての成長への気付き に偏ることが多い。次期学習指導要領(26)では,この点について「優しい気持ち,他者への思い やり,我慢する心など,内面的な成長に気付きの質を高めていくことも大切である」と示さ れている。
筆者が,以前に小学校教諭として生活科で行った実践(1993(27))では,このような体位や体 力,知識や技能だけではなく,「友達にやさしくできるようになった」「まじめになった」な どという精神的な成長へも気付かせるように工夫した。子ども主体の活動や体験だからと言っ て,子どもが気付きやすいものだけではなく,「入学式の時はどんな気もちだったの」「入学 のころの自分と今の自分ではお友達に対しての関わり方はどう違うの」「すぐけんかをしなく なったのはどうしてなのかな」などと,子どもが気付きにくい,精神面での成長に気付かせ 考えさせるような問いかけも大切である。
第二に,「自分は,家族との生活や,他人との会話を通して成長していることに気付かせ る」ためには,家族や他人の気持ちを察したり,自分の気持ちをゆっくりと伝えたりする共 感的な姿勢や,相手の話をしっかりと聞く姿勢を子どもの内面に育てることが必要である。
しかし,多くの場合例えば「Aさんの意見に付けたしですが……」「B君の意見に反対ですが
……」など話し方(話型)の練習になってしまうことが少なくない。
次期学習指導要領(28)では,この点について「自分が発見したことと友達が発見したことを比 べ,似ているところや違うところ見付ける」というような活動が広がっていくことが大切で あると述べている。また,「伝え合いは,観察や製作などの活動や体験の途中でも行われる。
(中略) このような場に出会った教師は,教室に戻ると話が広がりにくいことを念頭に,会 話に参加していくことも考えられる」と指摘し,子どもの気付きの途中でも適切な場での指
導が望まれる。つまり,対話的な学びは教室だけで行われるのではなく,体験や活動をして いるその場所でも行われるべきである。
さらに,教室での対話的な学びについては,低学年の場合。言語の発達が十分でないため に,うまく言語で表現できないことが多々ある。そのような場合は,あらかじめカードなど に文字で書いてそれを読むことや,ノートやメモを手に持って表現させるなどの工夫も必要 である。
第三に,「自分は家族や社会という集団の中で支え合いながら生きていることに気付かせ る」ためには,集団における個人が注意すべきマナーやルールがあることに気付かせたい。
これらは,友達と一緒に活動した時に「こんなことがいやだった。迷惑だった」というよう な自分の気付きをもとにして,他人にもしないなどの体験や活動を通して学び取っていくこ とが望ましい。しかし,体験や活動とは関係なく,教師があらかじめ注意事項として指示す る形のしつけの学習になってしまっている場合もある。また,集団の一員としての家族の支 えについても,自分がしてもらっていることが強調されるあまり,半ば強制的にお手伝をさ せたりや感謝の手紙を書かせたりして終わる活動も少なくない。本来は,家族は支え合って いることについて調べる体験や活動をして家族が自分を支えてくれていることに気付かせた い。一方,自分も家族に喜びを与えていることに気付き,家族に対する愛情や自己肯定感を 高める指導も必要である。
筆者が生活科で「家族にこにこ大作戦」の実践をした経験上わかることは,家族の役割に ついての学習を行い,いかに家族が自分の生活を支えているかということに気付いた子ども が第一に考えることは「感謝の手紙」ではないということである。子どもは自分が「散らか したら片付ける。熱を出したりけがをしたりしない。あわてて物をこわさない」など,「自分 が家族に迷惑をかけないこと」が大切なことに気付く。第二に,「衣服を着替えたら自分でた たむ。自分のくつは自分でそろえる」など「自分のことは自分でする」など「自分の事を最 後までやり遂げる」ということに気付く子どもが多い。そして第三に「家族を喜ばせたい。
肩たたきをしたい」など「家族を慰労したり感謝したりする」ことに気付くようになるので ある。つまり,「自分を振り返りメタ認知する→家族に迷惑をかけない→自分の事を最後まで やり遂げる→内発的動機に基づき家族を喜ばせたいという心情をもつ」という経緯をとるこ とが多い。そして,自分でできるようになったことや役割が増えたことなどという「生活上 の自立」へとつながっていく。
第四に,「自分も家族や社会の一員として,まわりの環境に働きかけながら成長しているこ とに気付かせる」ためには,本来は,育てるべき資質・能力や子どもの生活体験を考慮して 活動や体験を組むべきである。しかし現実には,教科書で取りあげている教材や活動や体験 をそのまま真似する場合が多い。例えば,教科書で「公園たんけん」の活動を扱っているの で,学校の近くの公園に探検に行くというような活動や体験である。何のために「公園たん けん」にいくのかというねらい(気付かせたい資質・能力)を明確にしなければならない。
例えば,同じ「公園たんけん」をするとしても,自然に気付かせたいのか,公共性か,交通 安全かなど,ねらいによって行く公園は異ならなければならない。例えば,自然や季節によ る変化に気付かせたいのなら,樹木や植物の多い公園。整備する人や公共性に気付かせたい のなら施設や遊具が充実していて管理人のいる公園。交通安全に気付かせたいのなら交通公 園。というように環境設定自体を変えなければならない。
また,「身近な環境に積極的にかかわる」ということは,観察や調査をして客観的に環境を とらえればよいのではない。嶋野(1994(29))は,「子供が自分を取り巻く身近な社会や自然を観 察の対象として,それを単に客観的にとらえ,分かればよいのではない。そこに生活する者 として,社会や自然に主体的にどうかかわっていくかを大切にすることである」と述べてい る。つまり,身近な環境に,自分がどう主体的に関わりながら気付きを深めていくか求めら れている。このような点から,子どもが活動をしたいと思う動機付けを大切にしたい。その ためには,社会や自然の環境に対して積極的に関わり「問い」や疑問を持てるような,教師 の発問や教室の環境設定が大切である。
第五に,「自分の過去を思い出したり,自分より年齢が低い子どもの姿から自分を振り返っ たり,自分は体位や体力,知識や技能だけではなく,精神的にも向上していることに気付き,
難しいことにも挑戦しようとする」ためには,身近な自然や社会でおこっていることを自分 事としてとらえ振り返るようにすることが大切である。
嶋野(1994(30))は,「子供は知らず知らずのうちに親の姿から学んでいる。それが,学校での 活動を契機にして意識化した。そのような姿が教師に認められ,ほめられて。子供はいよい よ生き生きと生活するようになる」と述べている。つまり,子どもは親が普段している無自 覚のことを,自分事として自覚化,意識化した時にその意味や重要性に気付くのである。そ して学んだことを実生活で生かし,よりよい生活を創り出し,日々の生活が充実して楽しい ものにしようとするのである。この資質・能力は,まさに学びに向かう力や人間性にもつな がるものである。そのためには,自分自身や身近な人々,社会や自然との距離感が縮まり,
自己肯定感が増し,自分や身近な環境に対して愛情が深まるような展開の工夫が必要である。
4 「自立への基礎」を養う指導法の改善
ここでは,これまでの研究や前章で指摘した課題を解決するための指導法について提案す る。
① 自分でできることを子どもの立場で考える
例えば「家族にこにこ大作戦」や「じぶんでできるよ」などの家族単元における多くの実 践例では「お手伝い」をすることが,前面に立っている場合が多い。教科書も大部分は「自 分でできること」=「お手伝い」という捉え方をしている。(【図 2 】参照)
親が家族の一員として子どもに望んでいることは,必ずしもお手伝いをしてくれることで はない。自分のことを自分でできるという「生活上の自立」を多くの場合求めている。そこ
で,「自分がどのようにふるまえば,家族は喜んで くれるかな」と問いかけ考えさせたい。子どもは まず「けがをしない」「病気をしない」など健康面 に気付く。また,子どもが本来自分でしなければ ならないことを,大人にお手伝いしてもらってい る場面があるということに気付く。つまり,自分 でできることを手伝ってもらっていることに気付 かせ,「家族の手をわずらわせないようにしよう。
自分でできることを増やそう。自分のことは自分 でできるようにしよう」と気付きを深めさせたい。
また,服を脱ぎっぱなしにする,くつを脱ぎっ ぱなしにするなど家族に迷惑をかけていることが あることに気付かせ「家族になるべく迷惑をかけ ないようにする。最後まで自分のことをやり遂げ る」など,自分が家族の世話にならないための心 構えや工夫について考えさせたい。
② 自分の外に自分と比較できる対象を創る 低学年の子どもの特徴として自己中心性があげ られている。それはよい意味で自立する契機とな る一方,自分ばかり見ていても自分の本当の姿は 見えにくく「孤立」するだけである。子どもは自 分の欠点は,親に日ごろから注意されているので 気付きやすい。しかし,自分のよい点については,
なかなか気付いていないことが多い。そこで,友達や他人に,自分のよさについて指摘して もらい,他人にどう自分が写っているかを聞き取り自覚することを通して,自分をメタ認知 し「精神的な自立」へのきっかけを作りたい。
例えば,友達に自分のよいところを付箋に書いてもらい,自分の写真や絵に貼り付けてみ る。すると,自分では意識していないよさに気付かせられることが多い。また,いくつかの 友達のよい点を挙げて,それをだれの事かあてるクイズ形式の指導法も考えられる。大切な ことは,自分の存在が家族や友達にとって意味があるという自己肯定感を高めることである。
③ 自分の過去を振り返り,自分の未来について考える
「大きくなったわたし」「あしたへダッシュ」「あしたへジャンプ」などのいわゆる「成長単 元」では,小さいころに使っていたものや,写真や記録をもとにして自分の過去を振り返る 活動は,よく実践されている。しかし,自分の未来について考えさせる活動はほとんど行わ れていない。そのためには,自分の過去について振り返る活動の手法を応用したい。
【図 2 】お手伝いをさせる(教科書の例)
例えば,自分の過去である幼稚園・保 育園の幼児を見学に行くなどの活動や体 験の手法を応用して,上級生や中学校の 生徒を見学に行ったりするなどの活動が 考えられる。
成長単元の活動や体験として,自分と 赤ちゃんの頃の衣類や靴の大きさを比較 する活動がある。この手法を応用して,
それとは逆に,お父さんやお母さんの衣 類や靴と比較するのも効果的である。同 様に,赤ちゃんの頃の手形と今の自分の
手形とを比較するのとは逆に,お父さんやお母さんの手形と今の自分の手形を比較すること も効果的である。
つまり,自分の未来についても,考えさせる指導法を工夫したい。また,同じ学校の 1 年 生と 6 年生の背の高さを比較し,成長を実感させる活動も,身体的な成長を自覚することに 留まらず,自分の過去を振り返り未来を見通した「精神的な自立」についても考える上で効 果的である。(【図 3 】参照)
④ 自らを振り返り自分の成長を継続的に記録できる方法を工夫する
自分の成長の軌跡を,大きなできごとのあった時を中心に,自分の思いや願いを基にして,
絵年表,絵本,物語,カードなど適切と考えられる方法で継続的に表現したい。 1 年たって から過去の自分を振り返るのは子どもにとっては抽象度の高い活動である。このような活動 は,自分の成長の変化をメタ認知することにつながる。以上のような工夫を通して「学習上 の自立」ができるように環境設定する。
⑤ 自分の成長を多面的にとらえる
自らの成長を「頭・体・心」の三面から「できるようになったこと」について考えさせる ようにさせたい。そして,自分のよさや可能性を気付き,意欲や自信をもって,前向きに生 活していくという「精神的な自立」につなげられるようにしたい。
例えば,「もうすぐ 2 ねんせい」「大きくなったわたし」などの成長単元では,子どもがと らえやすい「けんばんハーモニカが上手にひけるようになった」「生き物がかりのしごとをわ すれずにやった」など知識・技能の向上に気付くだけではなく,「やさしくなった」「まじめ になった」など精神的な成長にも気付かせたい。(【図 4 】参照)
⑥ 家庭学習を交えて家族の意識も高める
最近は,家族としての役割を果たしていない家庭もないわけではない。そこで,生活科で行 う活動に,家庭での学習を意図的・計画的に盛り込み,子どもの学習に家族を巻き込み,家 族にも子どもの「生活上の自立」等への意識改革に協力していただけるような工夫もしたい。
【図 3 】 1 年生と 6 年生の背比べ
例えば子どもが家族の仕事について調べる活動を家庭で子どもと一緒に体験的に行っても らったり,子どもの活動の感想を保護者の立場から書いてもらったりするなど家庭にも協力 してもらう工夫である。
筆者が生活科で行った実践では,低学年の家族ほど子どもとの関わりについては面倒がら ずに協力していただけた。もちろん,そのような境遇にない子どももいる点については,あ らかじめ人権上の配慮することは当然である。
5 「自立への基礎」を養う指導法の改善カリキュラム
⑴ 「自立への基礎」を養うために伸ばしたい気付き
以上述べたような指導法の工夫や改善を取り入れて,「自立の基礎」を養うことを意識した カリキュラムを作成する。その際には,学習指導要領で求められている 3 つの自立とそれを 具現化するための資質・能力(自立した子どもの姿)などをもとにして,【表 1 】の「『わた しとみんな』で深めたい気付き」にまとめて展開を考えた。
【表 1 】「わたしとみんな」で深めたい気付き A 自分のことは自分でできるようになる(生活自立)
B 他人の考えを聞き,自分の考えを言えるようになる(自己表現)
C みんなと適切に関わることができるようになる(協働)
D 身近な環境に積極的に関われるようになる(環境)
E 自らの成長を自覚し,自己肯定感を高められる(自覚)
【図 4 】心の成長に気付いたカードの例(31)
⑵ 生活科「わたしとみんな」改善カリキュラム
「『わたしとみんな』で深めたい気付き」(【表 1 】参照)を横軸,時間的な経過を縦軸とし,
クロスした枠内には主な活動を示した「生活科『みんなとわたし』改善カリキュラム」を作 成した。(【表 2 】参照)なお,1 年生の教科書で扱うことの多いいわゆるお手伝い単元を「家 族の中のわたし編」,2 年生で扱うことの多いいわゆる成長単元を「世の中のわたし編」とし て作成した。
【表 2 】生活科「わたしとみんな」改善カリキュラム
Ⅰ 家族の中のわたし編(第 1 学年)(12時間扱い) ※左〇内数字は時数 深めたい気付き A生活自立 B自己表現 C協働 D環境 E自覚 ○指導法の主な改善点
(一般的な指導法との違 自分のこと い)
は自分でで きるように なる
他人の考え を聞き,自 分の考えを 言えるよう になる
みんなと適 切に関わる ことができ るようにな る
身近な環境 に積極的に 関われるよ うになる
自らの成長 を自覚し,
自己肯定感 を高められ る わたしのかぞく
⑵
① 当たり前と思っている ことでも家族が自分の ためにしてくれている ことがあることに気付く
② 自分でできることをふ やす
○ 自分の一日を振り返る だけではなく,自分の ために家族がしてくれ ていることや自分が家 族のためにしているこ とについて考えさせる かぞくとのかかわ
り⑷
③ 自分と家族の一日を調べ,時間の流 れにしたがって表にして比べる
④ 自分が家族のためにしていることを
⑤ 家族が自分のためにしてくれている考える ことを考える
⑥家族みんなの関係について考える
○ 子どもに見えにくい仕 事についても調べさせ
○ ただ仕事を調べるのでる はなく,自分と家族の 一日を,時間的経過の 中で対比させる。
○ 家族相互の関係につい ても考えさせる
※ うちで の挑戦1
○ 家族のためにできることを家族に教わって自分で やってみる
○ やったみた結果をカードに書き,家族の感想も書い てもらう
○ 家族と共に実践してみ て考えさせるようにす る。家族も学習に巻き 込む
よりよくできるこ と⑶
⑦ ⑧家族でやってみたことを,友達に向けて発表し合 う。友達の発表を参考にして自分の家族を振り返る
⑨もっと改善できることについて考える
・自分が迷惑をかけない
・家族の仕事を増やさない
・自分ができることを増やす
・家族の仕事を代わってやってみる
・お手伝いをする
○ 様々な家族があること に気付かせる
○ すぐにお手伝いにいく のではなく,家族の一 員として自分が自立す るための様々な改善策 を考えさせる
※ うちで の挑戦2
○よりよくすることを自分でやってみる
○やったみた結果をカードに書き,家族の感想も書いてもらう ○ 実践してみて考えさせ るようにする。家族も 学習に巻き込む 楽しい家族にする
ために⑶
⑩どのように変わったか発表する
・みんなが喜んでくれた
⑪家族が楽しく生活するためにはどうしたらよいか考える
・トランプなど集まってできることをする
・みんなで行きたいところにでかける
・家族の仕事を分担・協力する
⑫その活動をやってみた感想について話し合う
○ 楽しいだんらんにする めには,仕事の分担だ けではなく,家族で一 緒にできることを計画 するなどという点にも 気付かせる
Ⅱ 世の中のわたし編(第 2 学年)(14時間扱い) ※左〇内数字は時数 深めたい気付き A生活自立 B自己表現 C協働 D環境 E自覚 ○指導法の主な改善点
(一般的な指導法との違 自分のこと い)
は自分でで きるように なる
他人の考え を聞き,自 分の考えを 言えるよう になる
みんなと適 切に関わる ことができ るようにな る
身近な環境 に積極的に 関われるよ うになる
自らの成長 を自覚し,
自己肯定感 を高められ る 自分のよさ⑵ ① 自分のよさについて考
② 友達に自分のよさにつえる いて聞き,自分のよさ に対する気付きを広め ると共に自信をもてる ようになる
○ 得意とすると限られる ので,よさとし自己肯 定感を高めることから
○ 友達からよさを具体的始める に指摘してもらう
小さいころのわた し⑷
③ 小さい頃の自分の様子,特に記憶の あるころのことについて調べる
④ 小さい頃に使ったものを持ち寄って 友達に説明する
⑤ ⑥小さい頃に行った公園や幼稚園・
保育園など思い出の場所をたんけん する
○ 赤ちゃんから順にでは なく,どの年齢のでき ごとと比較してもよい。
特に記憶のある頃との 比較を大切にしたい
○ ものだけではなく,人 や場所のたんけんも含 めて考えさせる
※ うちで の聞き取り
○ 自分の小さい頃のことについて家の 人の話を聞き取る
○ 自分の小さい頃に使ったものや小さ い頃のビデオや写真を集めてそのこ ろの自分の様子について聞き取る
○ 家の人も学習に巻き込
〇 記録を残してくれていむ る家族の思いにも気付 かせたい
できるようになっ たこと⑷
⑦⑧自分ができるようになったことをカードに書く
・体格が大きくなった
・勉強ができるようになった
・逆上がりができるようになった
・友達にやさしくできるようになった
・じっと友達の話を聞けるようになった
⑨自分の成長の陰にあった,家族や他の人のことについて調べる
⑩できるようになったことが増えたことを友達に説明する
○ 体格や知識や技能の向 上だけではなく,心の 成長にも意図的に気付
○ 自分の成長だけではなかせる く,陰で支えてくれて いる人や,友達の成長 にも気付かせる これからのわたし
⑷
⑪これからの自分について,調べる方法を考える
・年齢が上の人に話を聞く
・年齢が上の人の様子を見学に行く
・年齢が上の人の様子や大人の仕事について調べる
⑫⑬上級生や中学生の様子を調べに行く
・低学年の頃との違いについてインタビューする
・ 上級生や中学生の様子を調べて,何を考えて毎日生活しているの かインタビューする
⑭どんな自分になりたいか,未来の自分人形を作ってみる
・自分でできることをどんどん増やす
・自立して見通しをもって生活していこうとする
○ これからの自分につい て調べるために上級生 や中学生の様子を調べ
○ これからの自分についさせる ても考えさせ,自己肯 定感を高めていけるよ
○ 未来の自分にも焦点をうにする あてられるようにする
Ⅰ 家族の中のわたし編(第 1 学年)(12時間扱い)
①第 1 ~ 2 時 当たり前のことについて振り返る
ここでは普段意識していない家族の役割について考えさせる。子どもたちは,自分は日々 の「生活上の自立」についてはかなり向上していると考えている。しかし,具体的に「朝は どのようにして起きるの」「今日着てきたものは,誰が用意したのかな」「困ったときはどう するの」などと聞くことにより,自分が当たり前にできていると考えている行動の後ろには,
無意識ではあるが家族の支えがあることに気付かせる。また,自分が家族のためにしている こともあることに気付かせる。
②第 3 ~ 6 時 自分と家族の一日を比べる
ここでは,家族の中での自分の位置について表に記録させる活動を通して気付かせる。そ のために,自分と家族の一日について時間の流れにしたがって調べさせ,自分が家族にして いること,家族が自分にしてくれていることなどを表現しながら考えさせるなど「学習上の 自立」を促す。
③(家庭学習) 家庭で実際に体験をしてみる
家庭学習を交えて家族の意識も高めるために,家庭で行う学習もその都度取り入れる。家 族のためにできることを実際にやってみて,感想をカードに書く。家族に教えてもらったり,
家族にもできるだけ子どもと一緒にやってもらったりして,感想を書いてもらう。そして,
できる限り家族との双方向的な関わりや会話が深まるように働きかける。家族にできること については,必ずしもお手伝いとは限らず「家族に起こされなくても自分で朝起きることが できる」「自分で衣服の脱ぎ着ができる」など「生活上の自立」に関する課題でもよい。
④第 7 ~ 9 時 友達の家族を参考にして自分の家族の生活をよりよくするためにしたいこ とについて考える
友達の家族の生活なども参考にしながら,自分の家族の生活をよりよくするためにしたい ことについて考えさせる。「家の人に迷惑をかけない」「自分にできることを増やす」などと いう子どもの内発的動機付けを大切にして「生活上の自立」を促し,お手伝いだけに固定化 しないことが大切である。
⑤(家庭学習) 家庭でさらに工夫してみる
家族の意識を高めるために,家庭での体験活動を繰り返す。そして,家族のだんらんにつ いて考え,感想をカードに書く。前の家庭学習との変化について親にも感想を書いていただ くことを通して「精神的な自立」につなげる。
⑥第10~12時 楽しい家族にするため自分にできることを子どもの立場で考えさせる。
単に仕事の分担だけではなく,楽しい家族にするために家庭で一緒にできることを計画す るなど,子どもにもできる具体的な提案を出せるようにして気付きを深め「精神的な自立」
を促す。
Ⅱ 世の中のわたし編(第 2 学年)(14時間扱い)
①第 1 ~ 2 時 自分のよさを自覚する
子どもたちは自分の欠点については,日常的に親や教師から指摘されており自覚している。
ところが自分のよさについては,意外ととらえられていない。ここでは,自分自身や友達の 指摘も取り入れて自分のよさについてメタ認知させ「精神的な自立」につなげる。
②第 3 ~ 6 時 自分の過去からの成長を振り返る
小さい頃に使ったものを調べたり,自分の小さなころのことを自ら進んで家族に聞いたり させて「学習上の自立」を促す。さらに,ここでは,自分が小さい頃に行った公園や保育園 や幼稚園を訪ねる。そして,自分の記憶を呼び起こして「鉄棒が小さくなった」「園庭はこん なに狭かったかなあ」などと身をもって自分の成長を体感させる。小さい頃に行った思い出 の場所を訪ねることも,過去を体験的に振り返る上では効果的である。
③(家庭学習) 家庭で家族から自分の小さい頃の話を聞き取る
家の人も活動に巻き込み,昔のビデオや写真を見ながら家庭での会話が増えるようにする。
また,自分の記録を残してくれている家族の自分に対する思いも聞き取る。そして,このよ うな活動を通して,自分が「生活上の自立」や「精神的な自立」を遂げるためには家族の支 えがあることに気付かせる。また,親にとっては,子どもを育てることは大変な仕事であり,
自分は自然に成長してきたわけではないことを実感させる。
④第 7 ~10時 自分の成長を具体的,多面的かつ継続的に振り返る
自分は,単に体や頭だけ成長してきたのではなく,「友達にやさしくなった」「じっと話を 聞くことができるようになった」など,自分の心の成長にも気付かせることができるように 視野を広げさせる言葉かけをして「精神的な自立」につなげる。さらに,自分ができるよう になったことが増えたことを友達と伝え合わせる。
⑤第11~14時 未来の自分について考える
この学習は,一般的にはやらないが,これからの自分について具体的に考える学習も行う。
例えば,上級生や中学生のようすを探検に行ったり,話をきいたりして,自分の今後の成長 に向けての参考にしたい。そして,どんな自分になりたいか,紙で作成した未来の自分人形 に気付いたことを表現させ,子どもなりに自分の将来を見通して前向きに生きていけるよう にする。このような学習を積み上げていくことを通して「精神的な自立」を図っていく。
6 結 論
本研究では,「生活科」における「自立への基礎」とは何かをこれまでの先行研究を整理 し,育てるべき「資質・能力」を明確にした。次に,これまでの実践事例からその問題点を 指摘した。そして改善すべき指導法を提示した。さらに,その指導法を取り入れたカリキュ ラムを作成した。最後に「自立への基礎」として養うべき資質・能力の育成を確かなものに する生活科の指導法についての知見をまとめる。本来「自立の基礎」を養う指導については,
生活科の全ての単元を通して身に付けていくべきものである。しかし,ここでは,特にその 中心として位置づけられている,「家族の支えと自分にできることについて考える」家族単元 と,「自分の成長を振り返り,自分の未来について考える」成長単元の指導法を中心にまとめ る。
まず前提なるのは,教師が, 3 つの自立の基礎について理解しておくことと,それを具現 化するために必要な資質・能力について明確に把握して指導する必要がある。その上で,以
下の点に留意したい。
①家族にとって子どもの成長を一番感じられるのは,お手伝いではなく,大人が手伝ってや らなくても子どもが自立してできることが増えることである。つまり,自分のことは自分で できるという身辺自立から始まって,家庭生活の中で大人が自分(子ども)のために手伝う ことが少なくなることである。そのためには,普段子どもが目にしないところで家族がして くれている仕事について調べるなど,内発的動機付けを図る体験や活動を設定することが大 切である。この点が,今までの指導では今一つ押さえられていない。しっかりとそのことに 気付かせ「生活上の自立」を図りたい。
②「生活上の自立」と言っても,一人でできるためには,集団の中で自己を見失わないよう にしながらうまく行動できることが必要である。自分だけで考えて,他者に表現しないので は「孤立」であり「自立」にはつながらない。自分の考えをしっかりと集団の中でも表現し て,他人と関わり行動し,柔軟にこれまでの自分の行動や考えを振り返って見直したり,気 付きを広げたり深めたりできる活動を促す指導が大切である。
③子どもの気付きを深めるためには,自分の外に自分と比較できる対象を創る必要がある。
つまり自分の家族だけではなく,様々な家族がいて事情により異なる考え方や生活の仕方が あることに気付かせることである。そうすることにより,内発的動機付けを喚起し同じ家族 と言っても違いのあることに興味・関心をもたせる。そして,そのわけについて考えさせ「生 活上の自立」につなげたい。また,インタビューや友達との双方向的な学び合いなどを通し て,どの家族も団らんなどを通して楽しい毎日にしたいと考えていることなどに気付かせる 指導が必要である。
④子どもが周囲の自然や環境に興味・関心をもち,自分との関わり方について「問い」をも ち考えていけるようにしたい。そのためには,問題発見的な学習や,問題解決的な学習をよ り積極的に取り入れ「学習上の自立」をめざした指導が大切である。
⑤「自立」していくことは,自分で責任をとることにもつながり,子どもにとって必ずしも 楽なことばかりではない。このような点に気付かせながら,友達の指摘も借り,自分の成長 を肯定的にとらえ前向きに生活していくという「精神上の自立」に結びつくようにしたい。
そして,様々な表現方法を使って自立していく自分の変化の様子を自覚し喜びを感じられる ような指導をしたい。
最後に残された指導法の課題について記す。
①自立に関しては,個々の家庭の実態や,保護者の期待値とも関係する。例えば「自分のこ とは自分でできる」という資質・能力についても,どのレベルまで各家庭が期待するかが難 しい。また,すべての子どもに最低限期待するレベルを具体的に評価規準として明確化する 必要がある。
②自立させる点と支援する点が,個々の子どもによって異なるために集団指導の中ではその 個別的対応に関する指導法についても研究する必要がある。
③本カリキュラムに沿った授業実践を行い,有効性について検証する必要がある。
【注,引用・参考文献】
( 1 )文部科学省(2008) 平成20年告示「小学校学習指導要領 生活」文部科学省
( 2 )文部科学省(2017) 平成29年告示「小学校学習指導要領 生活」文部科学省
( 3 )石橋昌雄(2018)「資質・能力の育成を確かなものにする生活科の指導法-『アサガオ を育てよう』の活動を通して-」立正大学社会福祉研究所年報第20号 pp.155-171
( 4 )文部科学省(2017) 平成29年告示「小学校学習指導要領解説 生活編」東洋館出版社 p.12
( 5 )文部科学省(2017) 前掲書(4) p.15
( 6 )鵜養啓子(1994)「学齢期の発達心理」『学齢期の臨床心理学』伊藤隆二,橋口英俊,
春日喬編 駿河台出版社 所収 pp. 3 -17
( 7 )久保ゆかり(2010)「児童期の心の発達」榎本博明編著『発達心理学』株式会社おうふ う所収 pp.32-44
( 8 )村田孝次(1994)『生涯発達心理学入門』培風館 p.35
( 9 )河野重雄(1990「自立の基礎を養う生活科」 武村重和・梶田叡一他『新教科「生活 科」自立の基礎を養う 子供が生き生きと活動する授業づくり』所収 啓林館 p. 1
(10)梶田叡一(1990)「生活科で目指す『自立』とは何か」武村重和・梶田叡一他『新教科
『生活科』自立の基礎を養う子供が生き生きと活動する授業づくり』所収 啓林館 pp.11
-12
(11)文部科学省(2008) 平成20年告示「小学校学習指導要領解説 生活編」日本文教出版 p.13
(12)文部科学省(2017) 前掲書(4) p.11 には「創設以来,生活科では学習上の自立,生 活上の自立,精神的な自立という三つの自立への基礎を養うことを目指してきた,今回 の改訂でも,この理念は受け継いでいる」と述べられている。
(13)加藤明(1991) 『生活科で育つ子供たち』第一法規 pp. 3 - 4
(14)藤崎眞知代(1994)「自己意識を育てる」川島一夫編『生活科の教育法』福村出版所収 p.39
(15)今野喜清(1989)「生活科が育てる児童の能力とは何か」 『生きる力を育てる生活科の 授業』
小学校教育技術全書 6 今野喜清編著 所収 ぎょうせい pp.257-259
(16)佐々木昭(1992)『生活科教育の研究と実践』 教育開発研究所 pp.39-40
(17)嶋野道弘(1993)「自立への基礎を養うこと -大人らしい大人になるために-」『生 活科情報事典』森隆夫・嶋野道弘編 所収 ぎょうせい pp.30-31
(18)川上昭吾(1993)「生活科の目標と内容」『図説生活科選書 1 生活科授業の考え方・