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平成25年 7 月20日
HIV 急性感染期の診断における 第 4 世代 HIV 迅速検査試薬の性能評価
1)大阪府立公衆衛生研究所感染症部ウイルス課,2)東京都健康安全研究センター微生物部ウイルス研究科,3)同 微生物部
川畑 拓也
1)長島 真美
2)貞升 健志
3)小島 洋子
1)森 治代
1)(平成 25 年 4 月 4 日受付)
(平成 25 年 5 月 9 日受理)
Key words : HIV, rapid diagnosis, acute HIV infection, immunochromatography
要 旨
Human immunodeficiency virus(HIV)の早期診断は効果的な治療提供と感染拡大阻止のために重要で ある.HIV の p24 抗原を抗体と同時に検出する第 4 世代検査法は,HIV 急性感染で問題となる抗体陽転化 までのウインドウ期を短縮するために有用と考えられる.2008 年 11 月にイムノクロマトグラフィーの原理 を応用し迅速性にすぐれた第 4 世代の体外診断用医薬品としてエスプライン HIV Ag ! Ab(富士レビオ)が 本邦で承認された.我々はエスプライン HIV Ag! Ab の HIV 急性感染期における検査性能を評価するため,
第 4 世代 ELISA 法,第 3 世代 PA 法,WB 法および核酸増幅法と比較した.25 例の急性感染期患者検体を 検査したところ,エスプライン HIV Ag! Ab は 18 例(72%)を陽性と判定し,他の検査は第 4 世代 ELISA 法 25 例(100%),第 3 世代 PA 法 17 例(68%),核酸増幅法 25 例(100%)であった.WB 法では 7 例が 陰性,18 例が判定保留であった.エスプライン HIV Ag ! Ab で陽性となった 18 例のうち,16 例(64%)は 抗体のみに反応した.抗原に反応したものは 2 例(8%)で,それらのウイルスコピー数は共に 10
7コピー!
mL 以上であった.これは非常に高いレベルのウイルス血症を呈した場合にのみエスプライン HIV Ag! Ab で抗原が検出可能であることを示唆する.以上をまとめると,エスプライン HIV Ag! Ab の急性感染期にお ける検出感度は第 4 世代 ELISA 法よりも低く,第 3 世代 PA 法と同程度であり,急性 HIV 感染診断への応 用には十分な検討が必要と思われた.
〔感染症誌 87:431〜434,2013〕
序 文
適切な治療を感染者に提供し,Human immunodefi- ciency virus(HIV)感染の拡大を阻止するためには,
より早期の診断が重要である.HIV 感染初期には抗 体が陰性の時期,いわゆるウインドウ期があり,早期 診断の観点からウインドウ期を短縮できる HIV 検査 薬が常に求められてきた.HIV 検査法は改良が重ね ら れ,現 在 は 第 4 世 代 と 呼 ば れ る HIV-1 の 抗 原 と HIV-1 と HIV-2 両方の抗体を検出する試薬が主流と なっており,検査感度の向上によるウインドウ期の短 縮が期待されている.複数の第 4 世代検査試薬が市場 に流通している中,本邦で初めて 2008 年 11 月に迅
速・簡便性をうたった体外診断用医薬品が承認され た.これはイムノクロマトグラフィーを原理とする「エ スプライン HIV Ag! Ab(富士レビオ)」である.本 試薬の性能評価に関する報告はいくつかあるが
1)〜4),急 性感染期の性能に関してはいずれも少数のパネル血清 や患者血清を用いて検討したものであり,急性感染期 の診断性能に関してはいまだ十分に評価されていな い.我々は独自に収集した HIV-1 急性感染期の臨床 検体を用い本試薬の性能評価を試みた.
材料と方法
2012 年に東京都立健康安全研究センターと大阪府 立公衆衛生研究所の 2 施設に搬入された検体のうち,
急性感染期と推測される 25 検体を対象とした.本稿 における急性感染の定義は,WB 法を原理とする確認 検査試薬ラブブロット 1(バイオ・ラッド・ジャパン)
原 著
別刷請求先:(〒537―0025)大阪市東成区中道 1―3―69 大阪府立公衆衛生研究所感染症部ウイルス課
川畑 拓也
川畑 拓也 他 432
感染症学雑誌 第87巻 第 4 号 Table 1 Comparison of HIV testing kits for acute HIV infection
Sample No Espline HIV
4thG ELISA 3rdG PA WB Real-time PCR (copies/mL)
Ab Ag
1 + − +a + − 2.8×107*
2 + − +a + − 9.5×105*
3 + − +a + ± 4.4×105*
4 + − +a + ± 2.0×105*
5 + − +a + ± 2.6×104*
6 + − +a + ± 1.3×104*
7 + − +a + ± 6.0×103*
8 + − +a + ± 3.0×103*
9 + − +a + ± 2.1×103*
10 +w − +d + ± 2.0×107#
11 +w − +d + ± 1.7×105#
12 +w − +c + ± 1.4×105#
13 +w − +b + ± 9.8×104*
14 +w − +a + ± 7.8×104*
15 +w − +a + ± 4.3×104*
16 +w − +c + ± 7.4×103#
17 − +w +d − ± 2.2×107#
18 − +w +d − ± 1.0×107#
19 − − +d + − 1.2×106#
20 − − +b ± − 5.6×105*
21 − − +c − ± 1.2×106*
22 − − +d − ± 3.1×105#
23 − − +c − − 2.3×105*
24 − − +b − − 1.9×105*
25 − − +a − − 1.2×105*
4thG, fourth generation; 3rdG, third generation.
Espline HIV Ag/Ab (Fujirebio Inc.), + : positive, − : negative, +w: weak positive 4thG ELISA:
aEnzygnost Integral HIV Integral II (Siemens Healthcare Diagnostics), + : positive
bGenscreen ULTRA HIV Ag-AB (Bio-Rad Laboratories), + : positive
cVIDAS HIV Duo II (bioMérieux Clinical Diagnostics), + : positive
dArchitect HIV Ag/Ab Combo (Abbott Diagnostics), + : positive
3rdG PA: Genedia HIV-1/2 mix PA (Fujirebio Inc.), + : positive, − : negative, ± : indeterminate WB: New LAV Blot I (Bio-Rad Laboratories), − : negative, ± : indeterminate
Real-time PCR:
*COBAS TaqMan HIV-I version 2.0 (Roche Diagnostics)
#KK-TaqMan6)
で陰性あるいは判定保留だが,PCR を原理とする核 酸増幅検査試薬コバス TaqMan HIV-1「オート」v2.0
(ロ シ ュ・ダ イ ア グ ノ ス テ ィ ッ ク ス)ま た は KK- TaqMan 法
5)6)で HIV-1 陽性と判定された検体である.
今回用いた 25 例のうち,WB 法では 7 例が陰性,18 例が判定保留であった.
エスプライン HIV Ag! Ab の他には,ELISA 法を 原理とする第 4 世代検査試薬としてエンザイグノスト HIV インテグラル II(シーメンスヘルスケア・ダイ アグノステックス),ジェンスクリーン HIV Ag-Ab ULT(バイオ・ラッド・ジャパン),バイダスアッセ イ キ ッ ト HIV デ ュ オ II(シ ス メ ッ ク ス・ビ オ メ リュー),アーキテクト・HIV Ag! Ab コンボアッセ イ(アボット・ジャパン)のいずれかを用いた.第 3 世代検査試薬としてジェネディア HIV-1 ! 2 ミックス PA(富士レビオ)を用いて検査した.
本研究は,東京都健康安全研究センター倫理委員会 の承認(承認番号:24 健研健 1014 号),および大阪 府立公衆衛生研究所倫理審査委員会の承認(申請番 号:1810―4)を得て行った.
結 果
エスプライン HIV Ag ! Ab で陽性となったものは 25 例中 18 例(72%)であった(Table 1).陽性となっ た 18 例中,抗原と抗体の両方を検出した例は無く,16 例(64%)は抗体を,2 例(8%)は抗原を検出した.
抗体に反応した 7 例と抗原に反応した 2 例は発色の程 度は弱かった.エスプライン HIV Ag ! Ab で陽性と な っ た 18 例 の 平 均 ウ イ ル ス コ ピ ー 数 は 4.5×10
6コ ピー! mL,陰性となった 7 例の平均は 5.4×10
5コピー
! mL であり,これらに有意な差を認めなかった.エ
スプライン HIV Ag ! Ab で抗原が反応した 2 例は共に
ウイルスコピー数が 10
7コピー! mL 以上であった.こ
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れは,他の検体と比較して有意に高かった(p<0.05,
Studentʼs t-test,two-tailed).エスプライン HIV Ag
! Ab で抗体が陽性となった例と WB 法で判定保留と なった例は必ずしも一致しなかった.
ELISA 法を原理とする第 4 世代検査試薬では今回 検討した 25 例すべて(100%)が陽性となり,これと 比較したエスプライン HIV Ag ! Ab の感度は 18 ! 25×
100=72.0% であった.
第 3 世代とされる PA 法では 17 例(68%)が陽性 となり,エスプライン HIV Ag! Ab と PA 法の陽性一 致率は 17 ! 18×100=94.4% であった.エスプライン HIV Ag! Ab で抗原が反応した 2 例は PA 法で陰性で あった.一方,エスプライン HIV Ag! Ab で陰性となっ た検体のうち,PA 法で陽性となったものが 1 例,判 定保留が 1 例あった.
考 察
今回我々は実際の臨床上で診断時に問題となる急性 感染期の HIV-1 陽性検体 25 例を対象に,エスプライ ン HIV Ag! Ab と各種検査試薬の検査結果を比較検討 した.今回の検討では,エスプライン HIV Ag ! Ab の 検出率は第 3 世代とされる PA 法とほぼ同程度の結果 であり,ELISA 法を用いた第 4 世代のスクリーニン グ検査試薬が 100% の検出率であったことを考えると 検出感度は物足りない結果であった.ウイルスコピー 数が 10
7コピー ! mL 以上の 4 例のうち,エスプライン HIV Ag! Ab で抗原が陽性となったのは 2 例であっ た.この原因は,キットに含まれる抗原を検出する抗 体試薬の特異性によるものか,感染者の抗体が抗原と 複合体を形成することにより抗体試薬が認識する抗原 エピトープが被覆された可能性などが考えられる.
エスプライン HIV Ag! Ab で陰性であった検体のウ イ ル ス コ ピ ー 数 の 最 大 値 が 1.2×10
6コ ピ ー! mL で あったことから,概ね 10
6コピー! mL 相当量を超える P24 抗原がなければエスプライン HIV Ag ! Ab では検 出できないと思われた.
今回の我々の検討では,エスプライン HIV Ag! Ab の HIV-1 急性感染期検体の検出率は抗原が 8%,抗体 が 64% であったが,海外で第 4 世代迅速検査試薬と して普及している Alere Determine HIV-1! 2 Ag! Ab Combo(アリーア メディカル,国内未承認)の HIV- 1 急性感染期検体の検出率は抗原が 29.4%,抗体が 58.8% と報告されている
7).我々の結果と比較すると 高い抗原検出率であるが,抗原が検出された検体 5 例 中 4 例でウイルスコピー数が 10
7コピー! mL 以上であ り,抗原検出率の差は使用した検体のウイルスコピー 数の違いによるものと考えられる.一方,HIV-1 急性
感染期検体の抗原検出率が 10%(3! 30)と我々の結 果と同程度の報告もあり
8),両試薬における抗原検出 の性能はほぼ同等と思われる.
エスプライン HIV Ag! Ab で抗体が陰性であるにも かかわらず WB 法で反応があり判定保留となった検 体が 4 例あった.この原因は,感染者の抗 HIV 抗体 がエスプライン HIV Ag! Ab に使用されているリコン ビナント抗原に反応しなかったが WB 法の抗原には 反応したか,WB 法で検出した反応が非特異的なもの である可能性が考えられる.
以上のことから,エスプライン HIV Ag ! Ab を即日 検査に限定して抗体検査スクリーニング試薬として使 用する上では問題は少ないが,HIV 急性感染期検体 の検出をより広くカバー出来る検査試薬と位置づけて HIV スクリーニング検査に使用することについては 慎重に検討した方がよいと思われた.
利益相反自己申告:申告すべきものなし
文 献1)嶋 貴子:新規迅速検査試薬の性能評価.厚生 労働科学 研 究 費 補 助 金 エ イ ズ 対 策 研 究 事 業 HIV 検査相談機会の拡大と質的充実に関する研 究 平成 18 年度研究報告書.2007;p. 228―36.
2)関口 仁,綾部麻香,太田敦美,石橋みどり:HIV 第 4 世代の迅速キット「エスプライン HIV Ag!
Ab」の性能評価.医学と薬学 2010;63:673―
80.
3)吉岡 範,出口松夫,鍵田正智,喜多美文,森 恵子,塚本寛子,他:イムノクロマト法を原理 とする「エスプライン HIV Ag!Ab」の基礎的検 討.日本臨床検査自動化学会会誌 2010;35:
561.
4)桜庭尚哉,戸上陽子:ルミパルス Presto II を用 いた HIV Ag!Ab 同時検出試薬の基礎性能評価.
医学と薬学 2011;65:663―72.
5)近 藤 真 規 子:HIV-1 RNA 定 量 法(KK-TaqMan 法).国立感染症研究所病原体検出マニュアル エイズ!HIV 感染症編.2011;p. 23―6.
6)Kondo M, Sudo K, Tanaka R, Sano T, Sagara H, Iwamuro S,et al.:Quantitation of HIV-1 group M proviral DNA using TaqMan MGB real-time PCR. J Virol Methods 2009;157:141―6.
7)Faraoni S, Rocchetti A, Gotta F, Ruggiero T, Orofino G, Bonora S,et al.:Evaluation of a rapid antigen and antibody combination test in acute HIV infection. J Clin Virol 2013;57:84―
7.
8)Brauer M, De Villiers JC, Mayaphi SH:Evalu- ation of the Determine fourth generation HIV rapid assay. J Virol Methods 2013;189:180―
3.
川畑 拓也 他 434
感染症学雑誌 第87巻 第 4 号
Evaluation of an Immunochromatographic Fourth Generation Test for the
Rapid Diagnosis of Acute HIV Infection
Takuya KAWAHATA
1), Mami NAGASHIMA
2), Kenji SADAMASU
3), Yoko KOJIMA
1)& Haruyo MORI
1)1)Division of virology, Department of Infectious Diseases, Osaka Prefectural Institute of Public Health,
2)Division of virology, Department of Microbiology and3)Department of Microbiology, Tokyo Metropolitan Institute of Public Health