在日ブラジル人の通信制大学について
小町 友樹 エベルチ
This Thesis is the first research about the Distance Learning in Higher Education for Brazilians in Japan. So, the Author also received this education system and as a Brazilian investigates the reality of the Distance Learning in Higher Education for Brazilians in Japan. Besides, the Author collected data from questionnaire and interview with Brazilian students on Distance Learning in Higher Education system in Japan. The result of these data analysis indicates that part of these Brazilian students is returning to hometown. In fact, Brazil is a Diplomaism Society, however discrimination between Attending School program and Distance Learning program do not exist. On the contrary, this discrimination exists in Japan. Therefore, the Author describes in this research the influence of Distance Learning in Higher Education to Brazilian community in Japan, and also how and why the student’s opinion changed after start Distance Learning program.
はじめに
在日ブラジル人は日本でのエスニック・マイノリティであるが、その人数は中国人、韓国人・
朝鮮人に次ぐ3番目である1)。それぞれの在日外国人はそれぞれ相互扶助的を目的とした団体 や共同体を形成し、民族文化の継承や教育に熱心である。こうした在日外国人の動向や実態に ついては、例えば異文化コミュニケーションや教育学、社会学、文化人類学などの分野におけ る研究の研究が少なくない。在日ブラジル人に限っても、これらの分野での研究がそれなりに 存在し、その教育学の見地からは後に述べるような研究がある。しかしながら、在日ブラジル 人の高等教育や通信制大学の研究件数は希少である。その理由として通信制大学の歴史が浅い こと及び在日ブラジル人に関する日本語の情報は僅かであることがあげられる。
現在、日本に約21万人²)のブラジル人が在住しているが、その内の多くが大学を中心とする 高等教育を受けたいと思っている。高橋(2008)³)によるとサン・パウロ州人口の日系人率は
約2.3%だが、サン・パウロ州の日系人大学生の総合率は10.7%であり、「日系社会がいかに子
弟の教育に情熱を注いできたかがうかがわれ」る。小内(2009)⁴)は在日ブラジル人のための ブラジル人学校を研究し「ブラジル人学校の生徒は概して、大学や大学院の学歴を取得し、ブ ラジルで進学したいと考える傾向にある。」と述べている。しかし、実際は経済的理由から日 本の大学に子供を進学させることがとても困難で、その希望を実現できない人々が大半である。
ところが、近年ブラジルから通信教育制の大学が相ついで日本に進出して来た。それらの大学 はいずれも教育上の実績をあげ、経営的にも安定している。
在日ブラジル人の通信制大学に関する先行研究が存在しないことは在日ブラジル人関連の 研究に大きく影響している。たとえば、三田(2009)5)によると、在日ブラジル人が日本で高
校を卒業すると大学への進学の選択は2つある。その1つ目の選択は日本の大学へ進学するこ と、2つ目はブラジルへ帰国し、大学へ進学することである。しかしながら、2005年から日本 国内で在日ブラジル人への通信制の大学教育が開始され、第3の選択が可能になった。その選 択とは、日本の高校卒業後、日本在留を継続し、ブラジルの通信制大学に進学することである。
現在700人余りの在日ブラジル人が、この通信制の大学教育を受けており、その数は増加傾向 にある。
先に述べたように、この在日ブラジル人を対象にした通信制大学に関する研究はない。私は、
日本に進出している7つの大学(うち1つは国立大学)の通信制大学制度について日本におけ る各大学の責任者や大学スタッフへの聞き取りならびに学生に対してインタビューを実施す ることによって、その実態を把握したいと考える。また大学を含む通信制大学を受けている在 日ブラジル人の日本とブラジルに対する考え方やその変化について考察したい。さらに、この ような通信制大学が在日ブラジル人にどのような変化を与えているかについて考察すること も本研究の目的である。その高等通信制のなかでは、4年制の大学コースが一般的だが、近年 には2年制の短期大学コースや専門コースの数が増加している。その増加の理由とは、4年制 の大学コースより短いため、ブラジルへの帰国の予定を早められることである。
1.ブラジル人の通信制大学
(1)在日ブラジル人の通信制大学
いずれの各通信制大学教育を実施する機関(以下、通信制大学機関)の教育制度の基本は同 じである。すなわち、教材はインターネット利用のオンデマンド型で学生に届けられる。その 教材は、動画や文章のファイルに入っている。さらに、必要に応じて、生放送の授業を受ける ことも可能になっている。通信教育制の学年度は前期と後期の2学期制に分かれているが、専 門コースの場合は学年度を4学期(1学期は2ヶ月間)に分かれている。1学期の間に教育セ ンターへのスクーリングは義務され、そのスクーリングで科目の試験が行われる。
スクーリングの回数は各通信制大学機関の規定によって異なる。その試験の点数にレポート や発表の点数を加えて、総合点が与えられ、その総合点が7.0点以上であれば、その科目の単 位を取得できる。不合格の場合は科目の単位は保留になり、再履修しなければならない。学士 の学位取得には、企業でのインターン、所属学部外の単位取得、論文提出が要件である。
在日ブラジルの通信制大学の学年度の始まりと終わりは、各本校があるブラジルの高等教育 機関と同じ日程である。ところが、その各本校の高等教育機関の学年度の始まりと終了に関す る規定は存在するが、各高等教育機関の総会で、それを自由に変えられることになっている。
一般的には国公立の高等教育機関は、1月下旬から4月上旬までの期間に始まり、その終わり は同じ年の11月から翌年の3月になる。日本やアメリカの高等教育機関と異なって、ブラジ ルの高等教育機関は社会状況や総会の決断などを理由に、同じ高等教育機関でありながら、そ の学年度の日程が毎年異なることは普通である。
私立の高等教育機関の学年度の始まりと終わりは、国公立の日程の後になることが一般的で ある。その理由とは、国公立の高等教育機関への入学倍率が高いため、入学試験の合格はとて も困難である。したがって、国公立の入学試験で不合格の受験者は私立大学への入学が可能に
なるからである。
さて、在日ブラジルへの通信制の通信制大学は、私立の高等教育機関によって2005年2月 に始められた。在日ブラジル人のなかには、日本で通信制大学を受けることは不可能であると 考える人が多かった。それにもかかわらず、ブラジルの通信制大学機関は困難を克服し、現在 の通信制大学制度を導入した。その困難とは、教育センターの施設、日本とブラジルの時間差、
学費の設定、日本の大学との提携などであるが、後途するように、その何れも克服された。し かし、通信制大学の卒業生は、日本の社会では大卒として認知されているとは言いがたい。一 方、ブラジルでは通信制と通学制を差別することは法律で禁じられているため 6)7)、大学の卒 業証書には「通信課程」とは記入されない。日本の場合はその区別を卒業証書に記入する。従 って、その卒業生の一部はブラジルへ帰国することになる。
各通信制大学機関には特徴があり、コースの違いだけではなく、スクーリングの仕組み、教 材の精度、学年度の時期などであり、在日ブラジル人は個人にあった教育機関の選択ができる。
しかし、日本に設置されている教育センターは在日ブラジル人の人口の多い市町にあり、離れ ている場合はスクーリングのための通学の距離が長くなる。
近年の各通信制大学機関では、学士の学位取得に加え、卒業後の専門コースを増加させてい る。それは、学士課程を卒業した学生のためである。そのなかにはMBA取得(Master of Business Administration、以下MBA)の希望者の増加がある。MBAやその他の専門コー スの増加に加えて短期コースの導入で、在日ブラジル人向けの通信教育制大学(日本での表現)
の選択が多様になり、各機関の呼称も「通信教育制大学」から2年制の短期大学を含む「高等 通信教育」へと変わった。この変更は、在日ブラジル人の学生のニーズがあるため可能になっ た。
さらに、在日ブラジル人向けの通信制大学についてのもう一つの注目するところは、ブラジ ルの文部省が(以下はMEC8))通信制大学の教育品質を高いレベルを維持するために、実地 するENADE9)(Exame Nacional de Desempenho de Estudantes、以下ENADE)とい 高等教育卒業者向け学力試験である。ENADEの点数は0点から最高5点の評価である。
MECの高等教育機関の評価の基準は、ENADEの点数に加えて、高等教育機関の設備と 講師の学歴を合わせた総合評価である。その評価が低ければ、高等教育機関の認可剥奪や学生 数の削減が請求される。たとえばMECは、2011 年にブラジル全国の医療学部の入学枠に 6 千人以上の削減を命じた10)11)12)。さらに、法学部では1万人以上が削減された13)。そのうえ、
2012年3月にサン・パウロ市のUniversidade São Marcos-Ipiranga(サンマルコス大学―イ ピランガキャンパス)の認可を剥奪し、在籍していた約1,800人の学生は90日間のうちに他 の高等教育機関に転校させられたのである14)。
(2)在日ブラジル人の通信制大学機関
2012年現在に、在日ブラジル人向けの通信制大学機関は7校であり、以下に紹介する。そ の順番は、日本への進出順による。それぞれの紹介にその通信制大学機関としての特徴が明記 されている。
(2)-1 AIEC
AIECとはAssociação Internacional de Educação Continuada(以下AIEC)のこと である。著者はAIECのブラジル本校には数回に亘ってメールで連絡をとって、研究への協 力を入れたが、拒否された。そのうえ、インターネットホ-ムページの情報の共有も禁じられ た。すなわち、本稿の情報はALTERNATIVA15)、MEC16)、卒業生や現学生の協力に基づい て取得した。ブラジルではAIECは1999年9月に設立された。MECは2002年にAIE Cの通信制大学を許可し、2005 年前期からAIECは初めて在日ブラジル人に通信高等教育 を運営している。2012年に登録されている教育センターは2ヶ所で、愛知県の刈谷市と群馬 県の太田市である。在日ブラジル人の学生数は約80人である17)。
在日ブラジル人の高等教育機関のなかでは、AIECだけが単科大学である。研究への協力 がなかったため、高等教育機関としての情報が少ないことで、調査はできない状況である。
(2)-2 UCB
UCBとはUniversidade Católica de Brasília(ブラジリアカトリック大学、以下はUCB)
である。1972年にブラジルの首都、ブラジリア連邦地区にて設立された。日本の進出は、2005 年後期から運営を開始した。歴史のある大学で、ブラジルの中西地方の名門大学でもある。多 くの情報はUCBのホームページ18)から取得した。カトリック宗教を利用して、2006年から アンゴラのルアンダ市に進出し、さらに、2009 年からアメリカのボストン市に教育センター を設置した。
UCBは同じカトリックのサレジオ系である東京都の上智大学 19)と、愛知県の南山大学 20) に施設の使用許可を得たことであり、教育センターはその2ヶ所である。UCBの通信制大学 のグループ全体には6,500人以上の在学生、ブラジル国内の27州と世界の11カ国で31ヶ 所の教育センターである。17の学部と19の大学院生コースが存在している。在学生の情報や スクーリングの参加の様子からは、在日ブラジル人の在学生は約110人と予想している。
在日ブラジル人の通信制大学機関のなかでは、大学や専門コースの数が一番多い高等教育機 関である。さらに、7つの通信制大学のなかでは知名度の高い教育機関であり、学生の平均年 齢が低いことである。
(2)-3 UniSEB
UniSEBとは Centro Universitario UniSEB21)で、SEB とは Sistema Educacional Brasileiro(以下UniSEB)である。2006年に大学として設立され、2011年に大学センター になったことであり、以前の名義はCOC(Curso Osvaldo Cruz)であった。UniSEBは在 日ブラジル人の高等教育期間のなかでは、唯一自己の校舎を所有している。校舎は愛知県豊橋 市の豊橋駅の近くにある。2012年5月22日(水曜日)に著者はUniSEBを訪問し、校舎を 見学した。在日ブラジル人の学生の情報によると、全体の在学生数は約90人である。現在は、
UniSEBの全体の規模は146ヶ所の教育センターを登録していて、在学生は3万人以上であ る。
在日ブラジル人の学生のため、校舎には小さい規模の図書館や研究室を設置してある。学生
と講師との間のコミュニケーションを積極的に改善に取り組んでいる。
(2)-4 UFMT
UFMTとはマトグロソ連邦大学(Universidade Federal do Mato Grosso、以下UFMT)
のことである。多くの情報はUFMTの日本でのホームページ22)から取得した。2009年の後 期にMECと日本の文部科学省の教育プロジェクトが始まった。それは、在日ブラジル人向け の学校教師の養成のための教育学の学士コースである。ブラジル政府が在日ブラジル人でブラ ジル学校の高校教師不足対策のためである。
それは規模の大きい計画であり、ブラジルと日本の各政府はそれぞれ2億ドルの投資をした。
ブラジル側ではブラジル銀行23)(Banco do Brasil)が経済支援し、UFMTが教育を支援し た。日本側は東海大学24)や大手企業数社が参加した。
しかし、今回の教師育成コースは1回限りで、日本でのスクーリングは2013年9月をもっ て終了することになっている。そのスクーリングには、東海大学の教授が頻繁に参加する。さ らに、受講者によれば通信教育制の講師のレベルは高いとの評価であった。
(2)-5 UNIP
UNIPとはUniversidade Paulista(パウリスタ大学、以下UNIP)。UNIP25)は2007 年前期に日本に進出した。ブラジル国内では教育センターの数を一番多く設置している通信制 大学機関である。ブラジルと日本を含め、500以上の教育センターが設置され、学生等はどこ の教育センターでも試験は受けられる。教材はすべてオン・ラインで見られる。
UNIPの大きな問題はMECからの注意報告である。2010年8月19日から4回の注意を 受け、2012年7月25日に5回目の注意を受けたが、この時厳重注意報告に変わった。それに 対し、UNIPは第三者による調査を依頼した。2012 年末に調査の結果が報告される、不合 格であれば、UNIP全体の閉鎖に追い込まれる可能性もある。
インターネット経由の教材には、音声障害を持つ学生のために手話が含まれている。これが 本学の大きな特徴でもある。
(2)-6 UNIGRAN
UNIGRANとはCentro Universitario da Grande Dourados(以下UNIGRAN)、
教育センターの運営は在日ブラジル人が多く住んでいる群馬県の会社 Conquest(ウェブデザ インの会社)である。これについても多くの情報をUNIGRANのホームページ26)から取得 した。また、UNIGRANに2012年5月20日から6月29日までの間にスクーリングへの 参加や責任者とのインタビューの連絡をメールにて交換した。UNIGRANは40 ヶ所の教 育センターをブラジルの16州、世界の6ヶ国に設置している。その6ヶ国とは、日本、ポル トガル、ドイツ、スペイン、イングランド、スイスである。UNIGRANの在学籍の人数は 約60人と推測される。
(2)-7 AMBRA
AMBRA27)はアメリカのフロリダで 2008 年に設立された高等教育機関である。当初は Brazilian Law International College‐BLIC だったが、2010 年に American College of Brazilian Studies‐AMBRA(以下AMBRA)と名称を変更した。しかし、ブラジルの教 育法では法学部は通信制大学で設置が禁じられているため、MECはAMBRAの教育機関を 容認しない方針である。2011年9月では約300人の生徒が在籍しているが、9割はアメリカ 在住である。その他に約1,000 人の在学生が学費の未納入で授業受信を一時停止されている。
その他の情報が少ないため、在日ブラジルの在学生は確認できないが、AMBRAは2008年 から在日ブラジル人向けのメディアに広告を出している。2012年5月25日に、著者はメール にて研究への協力を依頼したが、拒否された。
7つの在日ブラジル人の通信制大学機関相互の、情報交換や話し合いはない。いわゆる資本 主義下では、ライバルをよく研究し、そのライバルの弱点や利点を理解しながら、自分の成長 のきっかけをさがすことである。しかし、ブラジルの資本主義では、ライバルの存在を無視し、
自分の視点を重視して進むかことなる。例えば、ブラジルの企業が日本に初めて進出しても、
他の企業について参考にすることはほとんどない。
在日ブラジル人向けの高等通信制の日本支部の教育センターには責任者が存在するが、コー スのカリキュラム、学費の費用などの重要事項に関してはブラジルにある本部からの指示で決 定される。したがって、その責任者等は入学試験やスクーリングに関しての準備、学生へのサ ポートなどが主な任務になる。
学生が在日ブラジル人の通信制大学機関を選択するときの条件は学費の費用、高等教育機関 の知名度、スクーリングセンターの位置、教材の品質の順番である。特に学費の費用が学生た ちの関心であり、現在は日本の高等通信制の費用はブラジルで行っている高等通信制費用と同 額である。その額とは、7つの高等通信制のコースによって、毎月26,000円~45,000円の間 であり、年間では310,000円~540,000円である。
(3)スクーリングへの参加
著者はUCBとUFMTのスクーリングに参加し、2つの大学で合計6回のスクーリングで アンケートや聞き取りを実施した。ほとんどの学生や参加していた家族は協力し、通信制大学 の実態を一部把握できた。それぞれのスクーリング会場で、数人の学生と対話ができ、以下、
それを簡単に紹介することになる。そのすべての対話はポルトガル語により著者が訳した。学 問的なポルトガル語ではないため、いくらかの言葉の使い方が荒いことや言葉の使い方が間違 っている場合もあった。しかし、信憑性確保のために修正を避け、実際に使われた言葉をその まま訳した。この方法は学生のインタビューについても採用した。
スクーリングに参加していた学生たちの将来の目標は3つのグループに分けられる。その一 つ目のグループは、現在の職業はブラジル人学校の先生でありながら、正式な資格がないため、
高校の講師資格の取得が目標である。そのつぎは、ブラジル帰国への準備のため、通信制大学 卒業という学歴を目的とする学生である。第3に、ブラジルへの帰国は予定していないが、通 学制大学を中退し、通信制大学に転じた学生である。
以下、著者が参加した2つの大学スクーリングの様子である。
(3)-1 第1回‐2012年5月6日(日曜日)
第1回目に参加したスクーリングはUFMTの名古屋教育センターであった。採用された会 場はJICA28)(独立行政法人国際協力機構、以下 JICA)の中部支部の会議場で、参加した 人数は以下の通りである:
学生は46人、そのうちアンケートへの回答の協力者は38人で、8人は協力してくれなかっ た。スクーリング・スタッフは5人、そのうち1人はJICAの通信係の担当者で、あと1人 はUFMTの通信統括リーダーの Morosov 教授、あとはブラジル人アルバイトの手伝い、あ と1人は東海大学の大学院生の見学者、最後の1人は日本人の手伝いのアルバイトであった。
ほとんどの学生は、在日ブラジル人向けのブラジル学校にて先生を務めている。しかし、高 校課程での資格を取得していない学生が多かった。その資格取得が、主な入学の目的であるこ とを学生たちとの対話で確認できた。そのなか、何人かはその資格取得しているが、10 年以 上前のものであり、情報を更新して、スキルアップしたいとのことであった。平均年齢は他の 高等教育機関のスクーリングと比較すると高い。
スクーリングのスケジュールは Morosov 教授の挨拶から始まり、つづいて卒業に関しての 準備情報である。そのつぎは当日のスクーリングの授業内容で、最後に Morosov 教授は著者 の紹介をし、本稿のアンケートやインタビューの協力を学生たちに依頼した。
スクーリングの始めには、各教育センターとブラジルのUFMT教育本部とのインターネッ ト経由のビデオ接続が確認される。当日はJICAの通信担当者と東海大学院生が接続を行っ ていたが、問題が発生し、スクーリング時間は遅れた。そして、この時間を利用し奈良県出身 の日本人女性の学生、山田さんと短い対話ができた。以下に山田さんは「山田」、著者は「小」
と記し、その対話の省略を紹介する。
山田「私を含めて、5人の日本人学生が在籍している。今日はひとりで出席している。」
小「そうですか。機会があれば、皆様と話したいです。ちなみに、日本人のかたと会うこと は予想していなかった。その入学の理由を教えてもらえますでしょうか?」
山田「私は、天理大学のドイツ学科で卒業した。ポルトガル語を覚え、ブラジルに留学した。
今はブラジル人学校で先生を務めている。このコースでスキルアップしたい。」
在日ブラジル人向けの通信制大学であるが、山田さんを含めブラジル人以外の外国籍の3名 の学生が受講している。
ブラジルUFMTの通信教育本部からインターネットを利用し、地学と化学の生放送の授業 が行われた。その間、Morosov教授と話すことができた、ブラジルの通信制大学制度の歴史や 近年の情報を数多く提供してくれた。
(3)-2 第2回‐2012年6月2日(土曜日)
2回目のスクーリング参加は2012年6月2日(土曜日)、UCBの東京教育センターで行 われた。スクーリングの会場は、サレジオ工業高等専門学校内のSITEC29)(サレジアン文 化技術交流センター)である。UCBのスクーリングは午前、午後と2回に分かれている。午
前のスクーリング前にUCBの日本責任者であるMiguel Yoshio Kamiuntemさん(以下はミ ゲルさん)に施設の案内とスタッフのMilkaさん(以下はミルカさん)に紹介された。UCB のスクーリングのスタッフはミゲルさんとミルカさんの二人である。参加した学生の人数は午 前の部では13人と午後の部では16人であった。
スクーリングに参加していた学生たちの平均年齢は、他の高等通信制教育機関のスクーリン グと比較すると低い。そのなか、在日ブラジル人向けの高校を卒業し、ただちに通信制大学機 関、すなわち通信制大学に進学した6名の学生を確認できた。ちなみに、その低い年齢の学生 たちはグループを作り、集団で行動する。そうした集団行動を多く目撃した。
この日の学生のなかでは、スクーリングの通学について最も遠くから来る学生がいた。学生
はMiriam C.A.Paveさん(以下はミリアンさん)、韓国の巨済市(コジュ市)から東京の教
育センターでのスクーリングに参加している。イタリア国籍の夫と共にスクーリングのため、
学期内では2回来日を繰り返している。ミリアンさんが試験を終わった後、次のような対話が できた。以下ミリアンさんは「ミ」で、著者は「小」で表している:
小「試験の時期に来日することは疲れますか?」
ミ「とても疲れます。それで、旦那さんと昨日に来日して、今日の試験に来た。」
小「夫婦ともに来日すると、スクーリングの費用は高額になりませんでしょうか?」
ミ「はい、なりますね。でも、旦那さんはひとりで寂しいから、毎回一緒に来日しています。
あっちこっちで観光もしている。本日はむずかしかった。ダメだと思うけど。勉強したけど、
足りなかったね。また、つぎがあるから、挽回できる。」
小「調査のなかでは、スクーリングの距離が一番長い学生ですよ。どう思いますか?」
ミ「私が一番遠いだと思いました。毎回、日本の観光ビザを申し込みしていますよ。大変で す。スクーリングの間隔がもうちょっと狭かったら、いいですが。日本に来るのは、全然問題 ない。ビザが大変です。次回の9月も韓国に着いたら、すぐ申し込みする。」
2人は翌日の成田出発の飛行便で韓国へ戻る予定であった。ミリアンさんのスクーリングの 通学は飛行便を含め、地下鉄と電車を合わせての片道を8時間である。調査のなかでは通学の 距離、通学にかかる時間や費用では最も高い数値である。
UCBの卒業生のなかでは、中国に住んでいる学生がいて、スクーリングは東京のスクーリ ングセンターであった。ミリアンさんを含め、海外から来日し、長い時間や高額な費用を使う 学生もいる。それは、ブラジルでは学生生活は大学の卒業までであり、大学の卒業は学生の目 標である。経済的に余裕があれば、通学制の高等教育を受けることは理想であろうが、在日ブ ラジル人やアジアに滞在しているブラジル人は通信制の高等教育が唯一の選択である。
日本以外での通信制の高等教育の進出の情報がないなか、アジアから在日ブラジル人の高等 通信制に参加するブラジル人は存在する。
(4)アンケートの検証
アンケートは2011年10月2日から2012年9月27日の間に216人の学生から回答の協力 を得た。在日ブラジル人の通信制大学在籍者は約720人と予想できるが、この216人は在籍学 生の30.0%である。
アンケートは在日ブラジル人の通信大学制生の将来像や日本・日本人、ブラジル・ブラジル 人などへの意識について調べることを目的とした。アンケートの多くの質問の回答はプリコー ド回答方式30)(単一回答方法や複数回答方法)と自由回答方法を採用している。
(4)-1 アンケートのデータ分析
アンケート依頼のため、接触した学生の人数は約250人であった。アンケートを受け取って、
回答してくれた学生は228人で、そのなかの12人の学生はアンケートデータの使用に同意し ていない。つまり、同意した216人の学生のデータが有効であり、本稿の調査対象である。
データ分析に使用されたプログラムはエクセルとSPSS(Statistical Package for Social Science)である。そのデータ分析の結果をブラジルの 2008 年の通信制大学制のデータ³¹⁾と 比較し、その違いを確認した。
アンケート解答のなかでは、“同意をする”や“同意をしない”の解答欄に7人の学生が書 いていなかったことがデータ分析の入力のときに発見された。著者はその7人の学生に連絡を とって、再び回答を求めた。すなわち、アンケートのなかの回答欄が書いていなかった場合、
著者は同じ手段を利用した。しかし、連絡先を記入してない回答者が存在し、再び回答の確認 ができなくなり、無回答としてデータ分析に表示されている。
回答者の性別内訳は、女性学生(以下は女性)は147人で全体学生(以下は全体)の68.1%
であり、男性学生(以下は男性)は69人で全体の31.9%である。ブラジルの通信教育データ では、高等通信制の女性の割合は53.4%と、在日ブラジル人の女性の割合は高い。UFMTの 高等通信制には、ほとんどの学生は女性で在日ブラジル人のブラジル学校の先生であり、アン ケートにも数多く協力してくれた学生でもある。ちなみに、ブラジルでは高等教育までの先生 の性別割合は女性が86.1%を占める32)。
全体の平均年齢は34.9歳、最年少は17歳で、最年長は59歳である。男性の平均年齢は33.8 歳、最年少は17歳、最年長は58歳である。女性の平均年齢は35.4歳、最年少は17歳、最年 長は59歳である。
全体の年齢データを性別にすると男性と女性の最年少や最年長の学生の数値には大きな差 は見られないが、平均年齢には男性が33.8歳と女性は35.4歳である。すなわち、男性は女性 より平均で1.6歳低い。その平均年齢の差を詳しく調べると全体の年代別に振り分けると以下 の表になる。
表1-学生の年齢の年代別・性別。出所:著者のアンケート調査
全体学生 男性学生 女性学生
年代 人数 割合% 人数 割合% 人数 割合%
無回答 7 3.2 2 2.9 5 3.4
10代 11 5.1 2 2.9 9 6.1
20代 53 24.5 19 27.5 34 23.1 30代 78 36.1 31 44.9 47 32.0 40代 50 23.1 12 17.4 38 25.9
50代 17 7.9 3 4.3 14 9.5
合計 216 100.0 69 99.9 147 100.0
表1では全体の年齢を年代別と性別で振り分けてある。全体には30代が78人で36.1%と、
世代別では一番多い。20代は53人(24.5%)と30代は50人(23.1%)の割合が次いで多く、
双方には大きな差はない。その次は50代の17人(7.9%)で、最後は10代の11人(5.1%)
である。この質問に対して無回答の学生は7人で、無回答の多くは女性であることが分かる。
ブラジルの通信教育の平均年齢代と比較すると、ブラジルと同じであり、多い年齢層は30 代 である。
0 20 40 60 80
全体学 生 1 2 7 11 53 78 50 17
男性学 生 2 2 19 31 12 3
女性学 生 5 9 34 47 38 14
無許 可 無回答 10代 20代 30代 40代 50代 0
10 20 30 40 50
全 体 学 生 5.3 3.1 4.8 23.2 34.2 21.9 7.5
男 性 学 生 2.9 2.9 27.5 44.9 17.4 4.3
女 性 学 生 3.4 6.1 23.1 32.0 25.9 9.5
無 許 可 無 回 答 10 代 20 代 30 代 40 代 5 0代
図1の左図-学生の年齢の年代別・性別の人数 出所:著者のアンケート調査 図1の右図-学生の年齢の年代別・性別の割合 出所:著者のアンケート調査
図1の左図では全体、男性、女性(以下は3つのグループ)のそれぞれのグラフである。グ ラフでは3つのグループが同じ山型のパターンである。そのなか、男性の40代の人数が比較 的に少ないことも確認できる。
図1の右図には男性と女性の数値には大きな差が確認できる。それは女性の数値は全体の数 値とおおよそ同じ割合で現れたが、男性では30代が大半で、男性のなかでの割合は44.9%で ある。さらに、グラフでは男性の30代までの年齢層の割合は75.3%であり、男性の低い年齢 層が確認できる。そのなかでは女性の40代、50代の各世代の割合は全体より高い数値である。
平均年齢の数値だけでは小さい差であるが、年代別の割合で比較すると男性は女性より低い年 齢層が集まることが分かる。
在日ブラジルの出身地の調査では、ブラジルの国籍以外の学生を3人確認できた。そのブラ ジル国籍以外の学生の国籍は、ペルー国籍2人、日本国籍は1人である。日本国籍の学生は合 計5人であるが、現在、あとの4人の学生と会う機会はない。さらに、調査に参加していない ブラジル国籍以外の学生は、ペルー人の2人とウルグアイ人の1人と学生たちからの情報であ る。
在日ブラジル人向けの通信制大学で使われる言語はポルトガル語である。一方、ブラジル以 外の南米諸国の学生の母国の言語はスペイン語である。その共通点とは、ポルトガル語とスペ イン語の言語はラテン語から発展したロマンス語であり、双方の言語の基礎は近い。しかしな がら、ポルトガル語の動詞の使い方がスペイン語より複雑であり、ポルトガル語を母国語とし ているブラジル人にはスペイン語は理解しやすいが、スペイン語を母国語としているその他の 南米諸国のひとにはポルトガル語は若干聞きにくい場合がある。そのなか、ブラジル国籍以外 の学生が入学していることは、動詞の使い方の困難を克服したと考えられる。
調査では 143人で、全体の66.2%がサン・パウロ州の出身であることが確認できた。ブラ ジル国内では日系人の人口が最も多いサン・パウロ州であるため、在日ブラジル人のなかでも
同じ傾向であることが見られた。一方、ブラジル日系人の人口が多いパラ、ゴイアス、マトグ ロソの学生が少ないことが確認できた。その理由とは、ブラジルに位置するゴイアス、マトグ ロソは中西部であり、パラは東北部である。その2つの地域に北部を加えるとブラジルのなか では、不登校や中退比率の数値が極めて高い。
アンケート回答者の出身地を州別に表にすると、以下の表2になる。
表2-学生の出身地 出所:著者のアンケート調査
出身地ー州別 人数 割合% 出身地ー州別 人数 割合%
サン・パウロ 143 66.2 サンタカタリナ 3 1.4
パラナ 27 12.5 ゴイアス 3 1.4
ミナスジェライス 9 4.1 無回答 2 0.9
リオデジャネイロ 8 3.7 ペルー国 2 0.9
マトグロソ 6 2.8 リオグランデドスウ 1 0.5
パラ 6 2.8 ペルナンブコ 1 0.5
ブラジリア 4 1.8 奈良県 1 0.5
合計 216 100
在日ブラジル人は、電子や自動車関連工場が密集している地域を異動する。表 3を見ると、
製造業が多い愛知県、静岡県、群馬県、三重県、岐阜県が175人で全体の 71.1%を占めてい る。特に愛知県には、71人で全体の32.9%を確認できた。東京都の13人で6.0%は高い数値 であるが、都心内には製造の産業は少なく、その他のサービス業関係の仕事をする学生と考え られる。関西地方から来る学生の人数が少ない。しかし、在日ブラジル人は日本全国に広く住 んでいることは表3に確認できる。
さらに、海外在住の学生がひとりいる。韓国在住のミリアンさんである。UCBのミゲルさ んが、以前中国からの学生が在籍していたことを聞いた、学生は試験のために、学年度の1学 期に2回来日していて、1年に4回来日している。
表3-日本における住まいの県別 出所:著者のアンケート調査
住まい 人数 割合% 住まい 人数 割合%
愛知県 71 32.9 茨城県 3 1.4
静岡県 30 13.9 千葉県 2 0.9
群馬県 23 10.6 広島県 2 0.9
三重県 21 9.7 大阪府 1 0.5
岐阜県 17 7.9 奈良県 1 0.5
東京都 13 6.0 京都府 1 0.5
神奈川県 7 3.2 島根県 1 0.5
埼玉県 7 3.2 山梨県 1 0.5
滋賀県 5 2.3 岡山県 1 0.5
長野県 4 1.8 韓国 1 0.5
栃木県 4 1.8 合計 216 100
つぎの項目は滞在歴である。その回答を性別にも表4に表した。アンケートでは学生たちは 自由に年間の数値を書いた。男性のデータでは6年以上~18年未満の滞在暦が78.2%を占め ている。却って、0~6年未満の割合は 11.5%である。すなわち、近年の来日しているブラジ ル人の人数は少ないことが考えられる。また、女性のデータについて在日期間が18 年以上~
21 年未満の割合の数値が他の期間の数値より高い。そのうえ、女性の年齢年代別にも高い数 値が確認できた。その理由とは、女性が子育てを終わって、個人の時間ができ、再び勉強する 機会を得たことである。
表4-学生の滞在年数 出所:著者のアンケート調査
全体 男性 女性
日本滞在 人数 割合% 人数 割合% 人数 割合%
無回答 2 0.9 0 0 2 1.4
0~3 年未満 4 1.9 1 1.4 3 2.0
3 年以上~6 年未満 20 9.3 7 10.1 13 8.8 6 年以上~9 年未満 36 16.7 12 17.4 24 16.3 9 年以上~12 年未満 30 13.9 10 14.5 20 13.6 12 年以上~15 年未満 42 19.4 19 27.5 23 15.6 15 年以上~18 年未満 30 13.9 13 18.8 17 11.6 18 年以上~21 年未満 30 13.9 3 4.3 27 18.4
21 年以上~ 22 10.2 4 5.8 18 12.2
合計 216 100.0 69 100.0 147 100.0
以下の表5は学生たちの1週間の勉強時間である。表5からすれば、13時間以上の勉強時 間を確保している男性がほぼ半数であることに対し、女性の場合は、13 時間未満が55.8%を 占める。しかし、女性の勉強時間が比較的に少ない理由は、家事に勉強時間をとられているた めであると推測できる。63.3%の女性は既婚者であることから、掃除、洗濯物、料理に時間を 使用し、勉強時間が減るのであろう。加えて、男性の52.2%(36人)と女性の57.8%(85人)
の学生が子供持ちであることから、その勉強時間は減少する。
表5-学生の週間勉強時間 出所:著者のアンケート調査
全体 男性 女性
勉強時間 人数 割合% 人数 割合% 人数 割合%
無回答 16 7.4 2 2.9 14 9.5 0~3時間未満 18 8.3 7 10.1 11 7.5 3時間以上~8時間未満 47 21.8 12 17.4 35 23.8 8時間以上~13時間未満 51 23.6 16 23.2 35 23.8 13時間以上~18時間未満 23 10.6 8 11.6 15 10.2 18時間以上~23時間未満 37 17.1 13 18.8 24 16.3 23時間以上~28時間未満 16 7.4 8 11.6 8 5.4
28時間以上~ 8 3.7 3 4.3 5 5.0
合計 216 100 69 99.9 147 100
さて、スクーリングでの通学手段については、どうか。在日ブラジル人の滞在が伸び、経済 的にも余裕ができて、電車、バスなどの公共交通機関にするよりも、車を使うことが多いよう である。ちなみに、109人で50.5%の学生が“車”である。“電車”は76人で35.2%、“車と電 車”は14人で6.5%である。この3つの手段では92.2%を占める。“電車とバス”は6人で2.8%、
“バス”や“地下鉄と電車”は2人で0.9%、“地下鉄”・“バイク”は1人で、全体の0.5%であ る。なお、ミリアンさんひとりは飛行機で韓国から来る。スクーリングへの通学時間は片道8 時間と費用も最高額の片道23,700円である。
この質問から単一選択回答式から複数選択回答式に切り替わる。全問ではなく、その理由を 聞いて、細かい回答が求めるためである。
つぎの質問は日本の大学への入学を検討したこと有るがどうかである。著者の予想と異なっ て、122人で56.5%の学生が検討したことがあると回答した。その理由は、ブラジルは学歴社 会であり、外国の大学の学位に対する評価はとても高いということである。却って、日本の大 学への入学を考えていない在日ブラジル人は93人で43.1%、あと1人(0.5%)は無回答であ った。
さらに、“はい”と回答してくれた122人の学生はなぜ日本の大学に入学しなかったのか。
それは、“日本語能力欠如”のためであると93人、すなわち76.2%がそう回答した。その次 は“学費が高い”の69人で全体の56.6%である。日本の大学の情報欠如を挙げた者は60人 で、49.2%である。
つぎの問題項目は“大学卒業の意味”である。数値の高い回答は“夢や目標”の 163 人で 75.5%を占めている。彼等は、その達成に向かっているということである。通信制の学生の中 退率が通学制より低いのはそのためであろう。残念ながら、“家族の評価”は40人で、18.5%
の数値に終わった。“職場で認められる”が107人で49.5%、“ブラジル帰国の準備”は98人 で45.4%である。“勉強の終了”は97人で44.9%、“収入の増加”は73人で33.8%、“その他”
は20人で全体の9.3%である。
次の分析項目は通信制大学への入学動機についてである。学生たちの回答は、学歴社会であ るブラジル社会の影響を受け、大学そのものの卒業が目標であると75.0%の学生が入学の動機 としている。
しかし、“家族の意見”の選択は、回答の中では最も低い数値の17人で、全体の7.9%であ る。家族の意見は、学生の通信制大学の志望についての影響は小さいと確認できる。ほとんど の学生が独立しており、学生も自分自身の家庭を持おり、この場合家族とは配偶者や子供であ る。
ほとんどの在日ブラジル人は社会人であり、“勉強時間が自由”、“仕事と勉強の両立”は高 い数値になった。日本のインターネット環境は安定していて、とても使いやすいとの評判であ る。そのため、“インターネットを活用”するという回答も多い。
低い日本語能力しかもとない在日ブラジル人には、ポルトガル語の授業は大いに好まれる。
通信制大学の卒業後に帰国を検討中している学生は49.5%と高い数値を示している。“より高 い収入の取得”、さらに“名門大学への入学”や“学費が安い”などの回答と共に、大学卒業 の資格を得てブラジルに戻ることが入学動機として高い割合を占めることが確認できる。
表6-通信制大学の入学動機 出所:著者のアンケート調査
通信制大学の入学動機 人数 割合%
大学の学歴が欲しい 162 75.0
勉強時間が自由 156 72.2
仕事と勉強の両立 153 70.8
インターネットの活用 110 50.9
授業がポルトガル語 108 50.0
帰国の準備 107 49.5
出席が不要 87 40.3
収入の増加 75 34.7
学費が安い 67 31.0
名門大学への入学 56 25.9
その他 30 13.9
家族の意見 17 7.9
つぎは通信制大学への不満に関する質問である。返ってきた回答は 126人で、その 58.3%
は“問題ない”というものであった。問題のあった学生は89人で41.3%であった。そのなか の58人(26.9%)は“問題未解決”であり、14.4%にあたる31人は“問題解決済み”であっ た。割合の数値を考えると、4人に1人は未解決の問題を抱えているということになる。無回 答は1人で全体の0.5%である。
そのなかの“問題あり”と回答した 89人の学生を対象に、その原因を聞いてみると、つぎ の回答が返ってきた:“労働時間が長い”ことやと私生活の問題を持っている学生が50人、そ れは問題ありの56.2%にあたる。ともに勉強時間に影響する問題である。“専門分野の自己学 習”について問題を抱える学生が51.7%にあたる46名いた。また、“ポルトガル語の参考文献”
が少ないという悩みを抱える学生は17人で19.1%にあたる。学校や勉強から長く離れている 学生であれば、このふたつの回答をしていたと考えられる。特に自己学習に関し、知識が欠如 したり、精神的に弱い学生であれば、ストレスに耐えられない場合も出てくる。“先生と会え ない”(41人で46.1%)という悩みは通信制大学生特有であろう33) 。“その他”は20人で22.5%、
“ブラジルと日本の時差”は13人で全体の14.6%である。教育センターは、在日ブラジル人 が集中して居住いる地域に設置されているため、スクーリングの再際の通学距離は大きな問題 にはなっていない。
自己学習を中心とする通信教育では、在日ブラジル人の学生たちは勉強できる時間を徹底し て管理する必要がある。その理由のひとつは、在日ブラジル人の月間の残業時間が長く、勉強 ができる時間を確保することは困難である。通信制大学の学期内でのスケジュールの管理や勉 強の進度の調節が困難であるという、学生たちが多かった。
しかし、在日ブラジル人の通信制大学では、仕事と勉強を両立させている社会人がほとんど であり、彼等は優秀な人材と考えられる。ちなみに、2011 年にアメリカ教育省やMECが通 信制と通学制の大学生を調査した結果からすると、通信制の卒業生の平均点数が通学制のそれ より高いことが分かった34)。
在日ブラジル人学生の職業について表7に示した。そのなか、職就しないで高校から通信制
大学に進んだ学生は10人で4.6%(日本の大学生にあたる)、“無回答”(同7人で3.2%)、“無 職”(同6人で2.7%)“主婦”(同2人で0.9%)、の合計25人で11.6%の学生が定職に就いて いないことが分かる。その他の197人で全体の88.4%は社会人である。その職業のなかには、
極めて高い数値であったのは“ブラジル学校の先生”の55人で全体の25.4%と“ライン製造 の作業者”の53人で全体の24.5%である。ここで、先生の割合が高い理由は、UFMTの教 師育成コースの多くの学生がアンケートに協力したためである。“ライン製造の作業者”は、
在日ブラジル人が就業する最も一般的な仕事である。
表 7-学生の職業別 出所:著者のアンケート調査
職業 人数 割合% 職業 人数 割合%
ブラジル学校の先生 55 25.4 バーテンダー 2 0.9
製造ライン作業 53 24.5 マーケティング会社の営業 2 0.9
機械オペレーター 16 7.4 主婦 2 0.9
派遣会社(担当者、事務員) 14 6.4 不動産の営業 1 0.5
通訳・翻訳 10 4.6 美容師 1 0.5
高等通信制の学生 10 4.6 マスメディアレポーター 1 0.5
無回答 7 3.2 金融トレーダー 1 0.5 無職 6 2.7 観光代理店の窓口 1 0.5
教育アドバイザー 5 2.3 マッサージ師 1 0.5
エンジニーア 4 1.8 プロダンサー 1 0.5
コールセンター 3 1.4 モデル 1 0.5
福祉ヘルパー 3 1.4 個人タクシー運転士 1 0.5
校長先生 3 1.4 心理学者 1 0.5
自営業 3 1.4 UniSEB 責任者 1 0.5 銀行員 3 1.4 レストランのシェフ 1 0.5
工場メンテナンス 2 0.9 ウェイトレス 1 0.5
合計 216 100
ところで、通信制大学入学後、学生たちの日本への認識に変化が生じただろうか。半数の学 生は“変化なし”と回答した。変化があった学生については、全体的に日本の評価が上がって いる。しかし、一部が“悪く”なりと同時に一部が“よくなった”という回答を望む学生が複 数いた。その結果 “悪くなった”と“よくなった”の双方に回答した学生が24人いて、それ
は全体の11.1%である。評価が上がった学生は70人で32.4%、その内訳は“よくなった”が
51人で23.6%、“すごくよくなった”は19人で全体の8.8%である。その評判が下がった学生
は13人で全体の6.0%であり、無回答は1人、0.5%である。
認識の変化があった107人の学生にさらに詳しく説明を求め、次の質問はその変化の理由に ついてである。そのなかで“日本と世界との関係に対して”が68人で、107人の63.6%であ