Public Health Nursing Program in Four-Year Basic Nursing Education
朝日大学保健医療学部看護学科 芝田ゆかり
1.はじめに
2009(平成 21)年保健師助産師看護師法(以下,保助看法)の改正により,保健師の修業年限が6ヶ月 から1年に延長し,それと同時に 2011(平成 23)年保健師助産師看護師学校養成所指定規則(以下,指 定規則)も改正された(文部科学省,2011).それまでの大学において保健師教育は,統合カリキュラムを 基本とし,保健師と看護師の詰め込み教育で,学習の余裕がない学生を含むすべての学士課程の学生が履修 してきた.指定規則の改正は,大学における選択制や大学院修士課程における保健師教育を可能にした.ま た地域看護学から公衆衛生看護学に名称も変更になり,保健師には公衆衛生活動が重点的に期待されること になった.
朝日大学では,将来保健師になるモチベーションや学習意欲の高い学生に,公衆衛生看護活動が期待され る保健師に求められている能力の基礎を身につけることを目的として,保健師を選択制として設置し,学内 の学習環境の提供や臨地実習での十分な教育を可能とするために履修する人数も考慮した.また本学看護学 科の教育課程の考え方として,全ての看護師教育の臨地実習を終了後,保健師教育の主要な専門科目を学習 し,4年次前期に臨地実習を終了するように計画している.これは,看護師教育を基盤としてさらに専門性 のある保健師教育を実現するためである.また,本学において保健師国家試験受験資格の選抜試験は2年後 期に予定されているが,2年次前期から開講する 「公衆衛生看護学概論」 「健康管理論」 「保健統計学」 は看 護師のみ履修する学生も必修科目としている.入学時には保健師という職種を具体的に知らない学生が,保 健師への関心が深まり,学習意欲の向上や将来,保健師の道を進むモチベーションとして繋げる時間的な期 間を設けるためである.
この数年,社会が求める保健師の活動への期待が変化し,これに伴い,看護基礎教育,保健師教育のあり 方やカリキュラムについても変化している.しかし,このような現状は,保健師教育を担当する看護教員や 臨地実習に関わる現場の保健師以外にはあまり関心がなく,よく知られていないと考える.
そこで看護基礎教育における保健師教育について,学士課程(大学4年間)の看護基礎教育における保健 師教育の変遷,朝日大学保健医療学部看護学科の保健師教育の考え方,今日の社会に求められる保健師の役 割を概観する.
2.用語について
1)保健師教育
保健師に関わる教育全般を示し,保健師免許の取得に必要な基礎教育のことである.本報告では保健師免 許の取得に必要な教育に関わる内容を広く捉え,保健師教育課程やカリキュラム,地域看護学教育,公衆衛 生看護学教育を含めて示す.
2)保健師
保健師とは,保助看法に 「保健師とは厚生労働大臣の免許を受けて,保健師の名称を用いて,保健指導に
従事する者をいう.」 と定義されている.
保健師が携わる看護活動とは,保健師活動・地域看護活動・地域保健活動・公衆衛生看護活動を含めて示す.
3)保健師の教育課程(保健師教育課程)
保健師の教育課程は,保健師教育課程と同義とし,指定規則で定められている保健師養成に必要な教育内 容のことである.
3.学士課程(大学4年間)の看護基礎教育における保健師教育の変遷
1)保健師国家試験の試験科目の変遷(表1:厚生労働省,2014)
保健師国家試験第1回から第 99 回までの試験科目数をみると,第 38 回【1970(昭和 45)年】までが,
15 科目であるのに対し,第 83 回【1997(平成9)年】から第 98 回【2012(平成 24)年】までは3科 目と減少していた.科目名も公衆衛生及び予防学,公衆衛生看護論,公衆衛生看護学,地域看護学,公衆衛 生看護学と変化していた.保健師教育課程のカリキュラムは,保健師助産師看護師法及び指定規則が改正さ れ,保健師教育の教育内容,教育年限,国家試験受験資格等変更されている.保健師は,当初助産師・看護 師教育の発展として,また公衆衛生の普及向上を担う保健衛生実務者として育成されていた(福本,2008)
が,看護師等人材確保法案制定(1989 年改正,1990 年施行)や看護教育の大学化によって変化したこと が考えられる.
表 1 保健師国家試験の試験科目の変遷
回 第1回~第 38 回 第 39 回~第 76 回 第 77 回~第 82 回 第 83 回~第 98 回 第 99 回 年 S27 ~ S45 S45 ~ H 2 H 3~ H 8 H 9~ H24 H25 ~
試験科目数 15 科目 5科目 4科目 3科目 4科目
試験科目 公衆衛生及び予防学 厚生行政
社会統計 母性及び小児統計 学校衛生 産業衛生 伝染性疾患予防 慢性疾患予防 公衆衛生看護の原理 及び実際
公衆衛生看護 母性保健指導 乳幼児保健指導 学校保健指導 産業保健指導 伝染性疾患予防指導 慢性疾患保健指導 栄養
公衆衛生看護論 疫学
健康管理論
社会福祉・社会保障論 公衆衛生行政
公衆衛生看護学 疫学
健康管理論 保健福祉行政論
地域看護学 保健福祉行政論 疫学・保健統計
公衆衛生看護学 疫学
保健統計学 保健医療福祉行政論
出典:厚生労働省(2014).保健師助産師看護師国家試験の変遷:資料②表 3-1,
www. mhlw. go . jp/stf/shingi/...att/2r9852000001vbam . pdf
2)保健師助産師看護師法及び保健師助産師看護師学校養成所指定規則の改正:大学における看護系人材養 成の在り方に関する検討会,「大学における看護系人材養成の在り方に関する検討会最終報告」(文部科学 省,2011)
◦ 2009(平成 21)年7月公布,保健師助産師看護師法及び看護師等の人材確保の促進に関する法律の一部 を改正する法律(以下,「改正法」 という.)
趣旨:急激な少子高齢化の進行による医療ニーズの増大と多様化,療養の場の多様化等の変化に的確に 対応することが求められる中,地域医療を守り,国民に良質な医療,看護を提供していくために,看護 師等の看護職員の資質及び能力の一層の向上や,看護職を一層魅力ある専門職とすることを通じた看護 職員の確保が求められている.
修業年限:保健師,助産師の国家試験受験資格に必要とされるが6か月以上から1年以上に延長され,
看護師国家試験受験資格を有する者として,「大学において看護師になるのに必要な学科を修めて卒業し た者」 が追加された.
新人看護職員に対する臨床研修実施の努力義務が,病院等に課された.
◦ 2011(平成 23)年1月,文部科学省においても,厚生労働省の検討内容を大学・短期大学に適用する 際の課題等について検討を行い,指定規則が改正された.この改正により,保健師の教育内容の一部が
「地域看護学」 から 「公衆衛生看護学」 へ変更され,保健師及び助産師の国家試験受験資格取得に必要な 単位数が従来の 23 単位から 28 単位に増加した.
◦ 能力の強化や職業アイデンティティの育成が要請されるなど,資格取得にかかる教育のさらなる充実が 求められることとなった.
3)保健師教育の充実方策について:大学における看護系人材養成の在り方に関する検討会,「大学におけ る看護系人材養成の在り方に関する検討会最終報告」(文部科学省,2011)
◦ 指定規則に定める教育内容の充実が図られた背景:健康危機管理や児童虐待の予防,自殺対策など複雑 な健康課題が顕在化するなかで,こうした課題の予防・解決に一定の役割を果たしてきた家族機能や地 域における人々のつながりが変化・縮小するなど,保健師活動を取り巻く環境は大きく変化している.
さらに,保健所及び市町村の保健センターの業務や組織が再編され,保健師の分散配置が増えているこ とから,保健師には,保健福祉チームの中で自律的に働くことがこれまで以上に求められている.
◦ 目的:公衆衛生看護活動に焦点を当て,保健師に求められている役割に対応できる能力の基礎を身につ けることが必要であるため
◦ 経過:学士課程において看護師等の基礎となる教育内容が確保されることを前提として,今後看護師教 育のみの教育課程とするか,保健師教育を含めた教育課程とするか,あるいは希望する学生が保健師教 育を選択できる教育課程とするかは,各大学が自身の教育理念・目標や社会のニーズに基づき,選択で きるものとするとされた.その上で,大学専攻科における教育の実施,あるいは大学院において高度専 門職業人の養成を目指した教育を実施すること等の方策を通じ,社会のニーズに応え得る保健師教育の 充実を図ることが考慮されるべきであると保健師教育の充実を図ることが提案された.
3)保健師に求められる実践能力と卒業時の到達度の変遷
看護系大学卒業時に習得するべき到達目標に関する検討は,以下である.
◦ 2001(平成 13)年に文部科学省に設置された 「看護学教育の在り方検討会」(文部科学省,2003)
◦ 2004(平成 16)年 「看護実践能力育成の充実に向けた大学卒業時の到達目標」(文部科学省,2006)が 示され,議論された(荒賀ら,2007).この到達目標は,学士課程における看護基礎教育に重点がおか れた目標であり,保健師や助産師の専門性を十分に考慮したものではないという意見もあった(林ら,
2014).
◦ 2007(平成 19)年4月 「看護基礎教育の充実に関する検討会報告書」(厚生労働省,2007)では,保健 師教育における現状と課題について,学生が卒業時に修得するべき実践能力について大学側と実習施設 側の期待する到達レベルに違いがあること,新卒保健師が現場で行うことが多い健康教育や家庭訪問等 の能力・技術については修得できるように実習を充実させる必要があること,さらに臨地実習では行政 に加えて学校,産業など幅広い分野での実習を行うことが必要であることが示された.同時に,基礎教 育において修得すべき保健師としての必須の技術項目と卒業時の到達度について検討され,「保健師教育 の技術項目の卒業時の到達度」(厚生労働省,2008)として明示されることとなった.
◦ 2007(平成 19)年 「指定規則」 の一部改正において:在宅療養者に焦点を当てた継続看護は既に看護教 育における 「在宅看護論」 で十分に教授されているとして,「地域看護学」 は,地域及び学校保健,産業 保健を含んだ公衆衛生看護活動に焦点を当てることとされた(文部科学省,厚生労働省,2007).
◦ 2009(平成 21)年 「看護の質の向上と確保に関する検討会」 の中間とりまとめにおいて:免許取得前 の基礎教育段階で学ぶべき点の整理や,現在の教育年限を必ずしも前提とせず,すべての看護師養成機 関について教育内容・教育方法などの見直し,充実を図るべきであるとの提言がなされた(厚生労働省,
2009).さらに保健師助産師看護師法の一部改正により,保健師及び助産師の国家試験受験資格が6か 月以上から1年以上に延長となったことに鑑み,保健師教育についても具体的な検討が行われた.
◦ 2010(平成 22)年 11 月 「看護教育の内容と方法に関する検討会第一次報告(厚生労働省,2010)では,
「保健師に求められる実践能力と卒業時の到達目標」(表2)が示された.これを用いて各大学において 自己評価表を作成し,それぞれの評価の工夫がなされている.
◦保健師教育検討委員会において,「保健師教育におけるミニマム・リクワイアメンツ全国保健師教育機関 協議会版」が検討されている.
このように学士課程(大学4年間)の看護基礎教育における保健師教育の変遷は,保健師国家試験の試験 科目の変遷であり,社会の変化やそのニーズ,大学全入時代の学生の状況,看護実践能力の達成における課 題が明らかになった.そのため保助看法及び指定規則を改正し,保健師教育の充実を図られた.また保健師 に求められる実践能力と卒業時の到達目標を策定し評価することは,今後の大学における看護系人材養成の 質を保証するための専門職養成を考えるうえで不可欠であることが明らかになった.
4.朝日大学保健医療学部看護学科の保健師教育の考え方
1)保健師選択制
本学の設置認可申請書より一部抜粋し,保健師選択制について紹介する.
(1)保健師教育の考え方
本学看護学科では,朝日大学の建学の精神及び看護学科の人材養成の目的並びに岐阜県民のニーズで ある在宅ケアの推進や保健医療従事者の確保の観点から,看護師の教育課程と保健師の教育課程が必要 と考え,保健師教育を選択履修できる教育課程を設けることとした.しかしながら,「看護教育の内容と 方法に関する検討会第一次報告(厚生労働省,平成 22 年 11 月 10 日)において,保健師教育の現状と 課題として,保健師の臨地実習について指摘があったように,保健師教育機関の急増により,1か所あ たりの学生の受け入れ人数が少ないことや,教員や保健師が学生指導に十分な時間がかけられない状況 にあり,このことは岐阜県の現状でも同じである.このため本看護学科では,保健師教育は学生全員を 対象にするのではなく,将来保健師になるモチベーションの高い学生を選抜し,当該学生に対して十分 な教育をすることが必要であると考え,保健師教育を選択にした.また看護学科の教育課程の考え方と して,全ての看護師教育の臨地実習を終了後,保健師教育の主要な専門科目を学習し,臨地実習を4年 次前期に終了するように計画している.これは4年次後期に開講される看護の統合と発展に関する科目
を自主的に時間的な余裕を持って学習する環境を作るためである.保健師を選択した学生の実習が4年 次前期に終了できるためには,学生受け入れ人数が厳しい実習施設の現状等から,人員定員の2割程度 が理想的であると考え,15 名の定員を設けることとした.
(2)選択制の概要
保健師国家試験受験資格については,保健師課程の履修にあたり,毎年度の入学者に対して 15 名の定 員を設け,選考試験を2年次3月に実施する.この選考試験に合格し,所定の単位を修得した者が,保 健師国家試験受験資格を修得することができる.
(3)選抜方法及び選抜時期
選考試験は,2年次前期に終了する公衆衛生看護学概論,家族看護学,健康管理論の筆記試験と小論文,
面接評価による.さらに,既履修科目の成績を参考とし総合評価で合否を判定する.
2)公衆衛生看護学実習
4年次前期,集中講義の終了後,学生 15 名が5単位・5週間の実習を行う.実習は,保健所・保健センター・
学校で必ず全員が実習し,病院(総合健診センター)または地域包括支援センターのどちらかを選択実習す る予定である.
本学では看護基礎教育に保健師教育課程の科目を看護師教育でも教授し,公衆衛生看護学の内容を含んだ カリキュラムとなっている.そのため保健師教育の考え方として選択制にしたが,これまでの統合カリキュ ラムの利点(高橋ら,2013)も活かしている.統合カリキュラムの利点は,健康の保持増進・疾病の予防,
健康学習支援や健康管理支援,在宅療養支援や地域ケア体制づくり,保健・医療・福祉チームの中での調整 や社会資源の活用能力が看護師教育にとりこまれ,看護師教育の幅や奥行が広くなっていることである(斎 藤ら,2007).このことは,入院期間の短縮や在宅療養が進む中,公衆衛生看護学の学びは,看護基礎教育 に求められていると考える.しかし統合カリキュラムでは卒業後に必ずしも保健師になることを目指してい ない学生が多いため,臨地実習で 「動機」 「姿勢」 「志向性」 に問題が出てきていることも指摘された(斎藤 ら,2007).
保健師選択制をとることは,学生と実習指導の保健師の双方にメリットがあると考える.学生にとっては,
保健師になるモチベーションや学習意欲が高い学生が試験等の総合評価で選抜され,公衆衛生看護学を学ぶ 必要性の理解が学習態度や姿勢に繋がることが期待される.また臨地実習が保健師になる希望の強い選抜さ れた学生であることと,看護師教育の全臨地実習終了後であり,以前の統合カリキュラムにおいて全学生の 実習指導を担当していた実習指導保健師の負担が軽減されることが推測される.今後,看護師教育のすべて 終了した学生がすぐに保健師実習が続くことになり,過密なカリキュラムからの学習負担,保健師教育の質 の担保が課題である.
4.今日の社会に求められる保健師の役割
昔から保健師は,国民の健康を守り,生活状況を改善し,地域全体の人々の生活の質(QOL)向上を支 援する活動を行ってきた.この活動が公衆衛生看護活動である.公衆衛生看護活動の根拠は,日本国憲法 第 25 条 「すべて国民は,健康的で文化的な最低程度の生活を営む権利を有する.国は,すべての生活部 面について,社会福祉,社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない.」 である(播本,
2012).保健師は 「公衆衛生の向上及び増進」 という国民の生活をみることを大切にし,予防的支援を中心 とした看護学と公衆衛生学の立場で組織的に活動することが求められる看護職である.
しかし今日,健康危機管理や児童虐待の予防,自殺対策など複雑な健康課題が顕在化するなかで,こう した課題の予防・解決に一定の役割を果たしてきた家族機能や地域における人々のつながりが変化・縮小 するなど,保健師活動を取り巻く環境は大きく変化している.さらに,保健所及び市町村の保健センター の業務や組織が再編され,保健師の分散配置が増えていることから,保健師には,保健福祉チームの中で 自律的に働くことがこれまで以上に求められている(文部科学省,2011).あらゆる場であらゆる健康レ ベルの対象のニーズに対応し,保健・医療・福祉・学校・産業等に貢献していくことの応用力を持ち,問 題解決できる看護師としても共通な実践力と保健師独自の活動ができることが望まれる.平野らは,保健 師活動について,地域を 「つなぐ」 「みる」 「動かす」 の3つでこれらの活動方法は,仲間 ・ チームづくり レベル,システムづくりレベル,個別的関係レベルとそれぞれあり,保健師としての姿勢・視点・価値に 基づく活動であると提言している(日本公衆衛生協会,2007).それに加えて 「予防的介入の重視」,「地 区活動に立脚した地域特性に応じた活動の展開(施策化)」,「健康危機管理」 が,今日の社会に求められる 保健師の活動である.保健師は,その活動を担う役割を期待されている.そのため,以下に示す 「保健師 に求められる実践能力と卒業時の到達度」(厚生労働省,2008)の5つの実践能力に実践能力Ⅵ「公衆衛 生看護の対象と活動の場に応じた対象別実践能力」(全国保健師教育機関協議会,2014)を加えた6つの 実践能力を養うことが必要となる.
【6つの実践能力】
Ⅰ.地域の健康課題の明確化と計画・立案する能力
Ⅱ. 地域の健康増進能力を高める個人・家族・集団・組織への継続的支援と協働・組織活動及び評価する 能力
Ⅲ.地域の健康危機管理能力
Ⅳ.地域の健康水準を高める社会資源開発・システム化・施策化する能力 Ⅴ.専門的自律と継続的な質の向上能力
Ⅵ.公衆衛生看護の対象と活動の場に応じた対象別実践能力
5.おわりに
看護基礎教育における保健師教育について,学士課程(大学4年間)の看護基礎教育における保健師教育 の変遷,朝日大学保健医療学部看護学科の保健師教育の考え方,今日の社会に求められる保健師の役割を概 観すると,社会や環境に伴う変化,法律や社会に求められる看護基礎教育における保健師教育は高度化し,
より専門的に変化していることが明らかになった.今後は,学士課程で行われる1年という短い期間で,い かに保健師教育の質を担保するかが課題であり,当大学でその一翼を担う者として努力していきたい.
【引用文献】
荒賀直子,今井陸子,奥山則子,後閑容子,鈴木るり子,宮内清子(2007).保健師教育の技術項目と卒業時の到達度(案)
の提案,保健師ジャーナル,63(11),1000-1005
福本 惠(2008).保健師教育の変遷と今日的課題,京都府立医科大学雑誌 117(12),947-955 播本雅津子(2012).地域看護学と保健師教育,看護と情報:看護図書館協議会会誌 19,3-7
林 知里,横山美江,藤村一美,村井智郁子,芝田ゆかり(2014).保健師に求められる実践能力と卒業時の到達 度」 における学生の自己評価:実習形態の違いによる到達度の比較,大阪市立大学看護学雑誌 10,1-10 厚生労働省(2007)「看護基礎教育の充実に関する検討会報告書」,
http : //www. mhlw. go . jp/shingi/2007/04/s0420-13. html , 2014.12. 22
厚生労働省(2008).医政局看護課長通知(平成 20 年 9 月 19 日付け医政看発第 9100010 号)「保健師教育の技術
項目の卒業時の到達度」,http : //www. hospital . or. jp/pdf/15_20080919_01. pdf, 2014.12. 22 厚生労働省(2009).「看護の質の向上と確保に関する検討会の中間とりまとめ」,
http : //www. mhlw. go . jp/shingi/2009/03/s0317- 6 . html, 2014.12. 22 厚生労働省(2010).「看護教育の内容と方法に関する検討会第一次報告」,
http : //www. mhlw. go . jp/stf/houdou/2r98520000013l0q - att/2r98520000013l6e. pdf, 2014.12. 22
厚生労働省(2011).「看護教育の内容と方法に関する検討会報告書」
http : //www. mhlw. go . jp/stf/shingi/2r9852000001vb6s - att/2r9852000001vbiu . pdf, 2014.12. 22
厚生労働省(2014).保健師助産師看護師国家試験の変遷:資料2 表 3-1,
www. mhlw. go . jp/stf/shingi/...att/2r9852000001vbam. pdf, 2014.12. 02
文部科学省(2001).看護学教育の在り方検討会,http : //www. umin . ac . jp/kango/kyouikul, 2014.12. 22 文部科学省(2004).「看護実践能力育成の充実に向けた大学卒業時の到達目標」
http : //www. mext . go . jp/b_menu/shingi/chousa/koutou/018-1 5/toushin/04032601. htm, 2014.12. 02
文部科学省(2011).大学における看護系人材養成の在り方に関する検討会,「大学における看護系人材養成の在り 方に関する検討会最終報告」,
http : //www. mext . go . jp/b_menu/shingi/chousa/koutou/40/toushin/1302921. htm, 2014.12. 02
文部科学省(2011).保健師助産師看護師学校養成所指定規則の一部を改正する省令の公布について(通知),
http : //www. mext . go . jp/a_menu/koutou/kango/1305957. htm , 2014-12-02 文部科学省,厚生労働省(2013):保健師助産師看護師学校養成所指定規則,
http : //law. e-gov. go . jp/htmldata/S26/S26F03502001001. html, 2014.12. 02
村嶋幸代(2009).保健師教育課程修了時の到達度からみた看護系大学統合カリキュラムの問題点,大学における看 護系人材養成の在り方に関する検討会(第3回)全国保健師教育機関協議会「保健師教育の課題と方向性明確化 のための調査」
日本公衆衛生協会,保健師のベストプラクティスの明確化とその推進方策に関する検討会(2007),保健師のベスト プラクテイスを生み出す保健師活動のコアの構造,www. jpha . or. jp/jpha/suishin/bset%202007. pdf, 2014.12. 22 齋藤泰子,菅野友紀(2007).大学学士課程教育における保健師教育の現状と課題,武蔵野大学看護学部紀要,1:
89-97
高橋郁子,嶋澤順子,久保善子,笹井靖子(2013).看護系大学における保健師教育に対する学生の認識:A大学の 保健師教育課程選択制に関わる現状と課題,東京慈恵会医科大学雑誌,128(3),99-107
全国保健師教育機関協議会,保健師教育検討委員会(2014).「保健師教育におけるミニマム・リクワイアメンツ全 国保健師教育機関協議会版(2014)」(抜粋),http : //www. zenhokyo. jp/, 2014.12. 22
表 2 保健師に求められる実践能力と卒業時の到達目標と到達度
【用語の説明】
■個人 / 家族:個人や家族を対象とした卒業時の到達度
集団 / 地域: 集団 ( 自治会の住民,要介護高齢者集団,管理職集団,小学校のクラス等)や地域 ( 自治体,事 業所,学校等)の人々を対象とした卒業時の到達度
■卒業時の到達度レベル: Ⅰ: 少しの助言で自立して実施できる
Ⅱ: 指導のもとで実施できる(指導保健師や教員の指導のもとで実施できる)
Ⅲ: 学内演習で実施できる(事例等を用いて模擬的に計画を立てたり実施できる)
Ⅳ: 知識としてわかる
※到達度とは国家試験受験前に到達すべきレベルを表している
実践能力
卒業時の到達目標 到達度
大項目 中項目 小項目 個人 /
家族 集団 / 地域
Ⅰ.地域の健康 課題の明確 化 と 計 画 · 立案する能 力
1.地域の健康 課題の明ら かにし,解 決 · 改善策 を 計 画 · 立 案する
A.地域の人々 の生活と健 康 を 多 角 的・継続的 にアセスメ ントする
1 身体的・精神的・社会文化的側面から客観的・主観的情報を収集し,アセスメントする Ⅰ Ⅰ
2 社会資源について情報収集し,アセスメントする Ⅰ Ⅰ
3 自然及び生活環境(気候・公害等)について情報を収集し,アセスメントする Ⅰ Ⅰ 4 対象者及び対象者の属する集団を全体として捉え,アセスメントする Ⅰ Ⅰ 5 健康問題を持つ当事者の視点を踏まえてアセスメントする Ⅰ Ⅰ 6 系統的・経時的に情報を収集し,継続してアセスメントする Ⅰ Ⅰ 7 収集した情報をアセスメントし,地域特性を見出す Ⅰ Ⅰ B.地域の顕在
的,潜在的 健康課題を 見出す
8 顕在化している健康課題を明確化する Ⅰ Ⅰ
9 健康課題を持ちながらそれを認識していない・表出しない・表出できない人々を見出す Ⅰ Ⅱ 10 潜在化している健康課題を見出し,今後起こり得る健康課題を予測する Ⅰ Ⅱ 11 地域の人々の持つ力(健康課題に気づき,解決・改善,健康増進する能力)を見出す Ⅰ Ⅰ C.地域の健康
課題に対す る支援を計 画 · 立 案 す る
12 健康課題について優先順位を付ける Ⅰ Ⅰ
13 健康課題に対する解決・改善に向けた目的・目標を設定する Ⅰ Ⅰ
14 地域の人々に適した支援方法を選択する Ⅰ Ⅰ
15 目標達成の手段を明確にし,実施計画を立案する Ⅰ Ⅰ
16 評価の項目・方法・時期を設定する Ⅰ Ⅰ
Ⅱ.地域の健康 増進能力を 高める個人・
家族・集団・
組織への継 続的支援と 協働・組織 活動及び評 価する能力
2.地域の人々 と協働して,
健康課題を 解決・改善 し,健康増 進能力を高 める
D.活動を展開 する
17 地域の人々の生命・健康,人間としての尊厳と権利を守る Ⅰ Ⅰ
18 地域の人々の生活と文化に配慮した活動を行う Ⅰ Ⅰ
19 プライバシーに配慮し,個人情報の収集・管理を適切に行う Ⅰ Ⅰ
20 地域の人々の持つ力を引き出すよう支援する Ⅰ Ⅱ
21 地域の人々が意思決定できるよう支援する Ⅱ Ⅱ
22 訪問・相談による支援を行う Ⅰ Ⅱ
23 健康教育による支援を行う Ⅰ Ⅱ
24 地域組織・当事者グループ等を育成する支援を行う Ⅲ
25 活用できる社会資源,協働できる機関・人材について,情報提供をする Ⅰ Ⅰ
26 支援目的に応じて社会資源を活用する Ⅱ Ⅱ
27 当事者と関係職種・機関でチームを組織する Ⅱ Ⅱ
28 個人 / 家族支援,組織的アプローチ等を組み合わせて活用する Ⅱ Ⅱ
29 法律や条例等を踏まえて活動する Ⅰ Ⅰ
30 目的に基づいて活動を記録する Ⅰ Ⅰ
E.地域の人々・
関係者・機関 と協働する
31 協働するためのコミュニケーションをとりながら信頼関係を築く Ⅰ Ⅱ
32 必要な情報と活動目的を共有する Ⅰ Ⅱ
33 互いの役割を認め合い,ともに活動する Ⅱ Ⅱ
F.活 動 を 評 価・ファロー アップする
34 活動の評価を行う Ⅰ Ⅰ
35 評価結果を活動にフィードバックする Ⅰ Ⅰ
36 継続した活動が必要な対象を判断する Ⅰ Ⅰ
37 必要な対象に継続した活動を行う Ⅱ Ⅱ
実践能力
卒業時の到達目標 到達度
大項目 中項目 小項目 個人 /
家族 集団 / 地域
Ⅲ.地域の健康 危機管理能 力
3.地域の健康 危機管理を 行う
G.健康危機管 理の体制を 整え予防策 を講じる
38 健康危機(感染症・虐待・DV・自殺・災害等)への予防策を講じる Ⅱ Ⅲ
39 生活環境の整備 ・ 改善について提案する Ⅲ Ⅲ
40 広域的な健康危機(災害・感染症等)管理体制を整える Ⅲ Ⅲ
41 健康危機についての予防教育活動を行う Ⅱ Ⅱ
H.健康危機の 発生時に対 応する
42 健康危機(感染症・虐待・DV・自殺・災害等)に迅速に対応する Ⅲ Ⅲ
43 健康危機情報を迅速に把握する体制を整える Ⅳ Ⅳ
44 関係者・機関との連絡調整を行い,役割を明確化する Ⅲ Ⅲ
45 医療情報システムを効果的に活用する Ⅳ Ⅳ
46 健康危機の原因究明を行い,解決・改善策を講じる Ⅳ Ⅳ
47 健康被害の拡大を防止する Ⅳ Ⅳ
I.健康危機発 生後からの 回復期に対 応する
48 健康回復に向けた支援(PTSD 対応・生活環境の復興等)を行う Ⅳ Ⅳ 49 健康危機への対応と管理体制を評価し,再構築する Ⅳ Ⅳ
Ⅳ.地域の健康 水準を高め る社会資源 開 発 · シス テム 化 · 施 策化する能 力
4.地域の人々 の健康を保 障するため に,生活と 健康に関す る社会資源 の公平な利 用と分配を 促進する
J.社会資源を 開発する
50 活用できる社会資源と利用上の問題を見出す Ⅰ
51 地域の人々が組織や社会の変革に主体的に参画できるよう機会と場,方法を提供する Ⅲ 52 地域の人々や関係する部署・機関の間にネットワークを構築する Ⅲ
53 必要な地域組織やサービスを資源として開発する Ⅲ
K.システム化 する
54 健康課題の解決のためにシステム化の必要性をアセスメントする Ⅰ 55 関係機関や地域の人々との協働によるシステム化の方法を見出す Ⅲ
56 仕組みが包括的に機能しているか評価する Ⅲ
L.施策化する
57 組織(行政・企業・学校等)の基本方針・基本計画との整合性を図りながら施策を立案する Ⅲ
58 施策の根拠となる法や条例等を理解する Ⅲ
59 施策化に必要な情報を収集する Ⅰ
60 施策化が必要である根拠について資料化する Ⅰ
61 施策化の必要性を地域の人々や関係する部署・機関に根拠に基づいて説明する Ⅲ 62 施策化のために,関係する部署・機関と協議・交渉する Ⅲ 63 地域の人々の特性・ニーズに基づく施策を立案する Ⅲ
M.社会資源を 管理・活用 する
64 予算の仕組みを理解し,根拠に基づき予算案を作成する Ⅲ 65 施策の実施に向けて関係する部署・機関と協働し,活動内容と人材の調整(配置・確保等)を行う Ⅲ
66 施策や活動,事業の成果を公表し,説明する Ⅲ
67 保健医療福祉サービスが公平・円滑に提供されるよう継続的に評価・改善する Ⅲ
Ⅴ.専門的自律 と継続的な 質の向上能 力
5.保 健 · 医 療
· 福 祉 及び 社会に関す る最新の知 識 · 技 術を 主 体 的 · 継 続的に学び,
実践の質を 向上させる
N.研究の成果 を活用する
68 研究成果を実践に活用し,健康課題の解決・改善の方法を生み出す Ⅲ 69 社会資源と地域の健康課題に応じた保健師活動の研究・開発を行う Ⅲ O.継続的に学
ぶ 70 社会情勢・知識・技術を主体的,継続的に学ぶ Ⅰ
P.保健師とし ての責任を 果たす
71 保健師としての責任を果たしていくための自己の課題を見出す Ⅳ
出典:厚生労働省(2011) 保健師の実践能力と卒業時の到達度 http : //www. phnspace . umin . jp/toutatsudo . html