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久留米市におけるコンパクトシティ政策

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研究ノート

久留米市におけるコンパクトシティ政策

世 利 洋 介

《要 約》

 久留米市におけるコンパクトシティ政策を諸計画間の整合性という視点から,その現状の問題点と 今後の在り方について検討し,次の諸点を明らかにした。OECDレポートによるコンパクトシティ概 念と「包括的アプローチ」という視点から検討すると,現在の総合計画と都市計画マスタープランにあっ てコンパクトシティの主要な特徴がすべて網羅されており,また「都市の持続可能性への貢献」とし て経済・社会・経済各面での広い範囲に渡って効果を発揮する施策を確認できる。ただし,いずれの コンパクトシティ関連計画においても「包括的アプローチ」としての特徴は十分には発揮されてはい ない。コンパクトシティ政策の「結節点」としての機能に注目すると,今後は次の視点が必要である。

-地域特性を活かした比較優位の発揮,近隣自治体との政策間連携,地域発展・経済的側面での施策 の展開,合意形成への配慮,時間軸を配慮したロードマップの明示等。

       目  次 はじめに

Ⅰ.コンパクトシティの視点

 1.「コンパクトシティ」概念 ― OECDレポートから ―  2.我が国におけるコンパクトシティ政策

Ⅱ.久留米市のコンパクトシティ関連計画  1.包括化に向けたコンパクトシティ関連計画  2.コンパクトシティ関連の個別計画

Ⅲ.課題と問題点

 1.包括的アプローチの視点から

 2.結節点としてのコンパクト政策の視点から おわりに

付録

(2)

はじめに

 本稿の目的は,久留米市におけるコンパクトシティの取り組みについて取り上げ,その現状の問題点 と今後の在り方について,特にコンパクトシティ関連諸計画の整合性という視点から検討することにあ る。

 コンパクトシティの取り組みは国際的に主要な政策課題とみなされており,このことは我が国におい ても例外ではない。OECDは加盟諸国で実践されているコンパクトシティ政策に関する情報を収集する ため,2010年12月に調査を行い,そのレポート(以下,OECDレポート)を発表している。ここでは,

コンパクトシティ政策を「都市空間の利用方法に影響を与えることによってコンパクトシティを実現す るための包括的アプローチ」と定義し,その目的は「統合化された都市政策の目標,すなわち都市の持 続可能性目標(経済活力,環境の質,社会的公正など)に取り組むこと」とした上で,次の事項を明 らかにしている。-「ほとんどのOECD諸国において,コンパクトシティの概念が主要な都市政策文書 の要素になっていること」「現在多くの国の政府が,国レベルの政策文書だけでなくコンパクトシティ 政策を実施する手段を規制面,財政面を問わず,整えているということ」

 こうした中で日本においても,「京都議定書目標達成計画」において,コンパクトシティを低炭素都 市および地域づくりの手段として推進してきたという経緯がある。また,例えば2010年8月に発表され た「低炭素都市づくりガイドライン」において,コンパクトシティの取り組みを今後の政策上の最優 先課題に掲げている。

 本稿はこうした動向を受けて,久留米市のコンパクトシティの取り組みを事例として取り上げ,どの ような課題と問題を有しているのかという点を検討する。またコンパクトシティ政策を有効に実施して いくためには,どのような視点が必要なのか,という点を検討する。以下,次の手順で論を展開する。

 Ⅰでは,ⅡとⅢの準備段階として,OECDレポートに沿って「コンパクトシティ」概念について検討 する。OECDレポートでは,コンパクトシティの特徴,コンパクトシティ政策の定義,都市の持続可能 性に係わる効果,政策上の戦略,更に,比較評価の観点(すなわち,地域の実情への配慮,政策目標と 政策手段の適切性,コンパクトシティ政策の悪影響に対する配慮),等が提示されている。ここで挙げ

1 OECD『 グ リ ー ン 成 長 ス タ デ ィ  コ ン パ ク ト シ テ ィ 政 策(Compact City Policies: A Comparative Assessment

(Japanese version)

(2013年)

2 OECD(2013) , 29-30頁。また次のようにも定義されている。-「都市スプロールを防止し,高密度化・混

合土地利用・公共交通機関を推進することを目的とした政策」(118頁)

3 OECD(2013) , 199頁。

4

「低炭素都市づくりガイドライン」(2010年 8 月)

(3)

られているコンパクトシティの特徴とコンパクトシティ政策の政策戦略は,Ⅱにおいて久留米市の個別 計画を点検するにあたって,また比較評価の観点は現状の課題を抽出するにあたって有効である。

 ⅡとⅢでは久留米市のコンパクトシティ政策の取り組みを点検する。まずⅡでは,Ⅰの視点を踏まえ て,久留米市のコンパクトシティ関連計画について検討する。その主要な計画として,総合計画,都市 計画マスタープラン,立地適正化計画,都市交通マスタープラン,地域公共交通網形成計画,環境基本 計画,そして中心市街地活性化計画を取り上げ,各計画においてコンパクトシティ政策の視点がどのよ うに取り入れられているのかという点について明らかにする。

 Ⅲでは,OECDレポートでいう「包括的アプローチ」という視点から,久留米市の現状におけるコン パクトシティ政策の課題と問題点を明らかにする。また,現状にあってもコンパクトシティ政策の効果 を広く踏まえた諸計画が実際に展開されていることを踏まえて,「結節点」としてのコンパクトシティ 政策に注目し,今後の在り方 (地域特性を踏まえた上での比較優位の発揮,広域連携,地域発展・経済 的側面の重視,利害調整メカニズムの確立または合意形成,ロードマップの明示等)について提言する。

Ⅰ.コンパクトシティの視点

1 .

「コンパクトシティ」概念 ―OECDレポートから―

 本節では,久留米市のコンパクトシティ政策を点検する準備段階として,

OECDレポートに沿って,

「コ ンパクトシティ」の特徴,コンパクトシティ政策の定義と効果,また推進にあたっての政策戦略につい て確認しておく。

 OECDレポートによれば,「コンパクトシティ」の主要な特徴として,表1に示すように次の3点が 挙げられている。すなわち,「1.高密度で近接した開発パターン」「2.公共交通機関で繋がった 市街地」「3.地域のサービスや職場までの到達しやすさ」。換言すれば,

OECD

レポートでは,コン パクトシティについて,都市構造(特徴1),公共交通機関との繋がり(特徴2),地域サービス・職場 へのアクセスビリティ(特徴3)の視点から捉えられており,またいずれの特徴点も相互に補完関係に あるといえる。

5 OECD(2013) , 29-30頁。

(4)

表 1  コンパクトシティの主要な特徴

特 徴 要 素

1.高密度で近接した開発パターン ・市街地は高度利用されている。

・都市集積は連続または隣接している。

・都市的土地利用と農村的土地利用の境界が明確。

・公共空間が確保されている。

2.公共交通機関で繋がった市街地 ・市街地が効果的に利用されている。

・公共交通機関によって市街地のモビリティが高い。

3.地域のサービスや職場までの到達しやすさ ・混合土地利用。

・ほとんどの住民は徒歩または公共交通機関を使って 地域サービスを利用できる。

(出所)OECD『グリーン成長スタディ コンパクトシティ政策』(2013)

, 30頁。

 ここで第一の特徴でいう「密度」は「市街地がいかに高度利用されているか」を,また「近接」性は「開 発の場所」をそれぞれ意味している。住宅に限ってみると,住宅によって覆われている土地がより少な く,かつ住宅の相互の場所がより近接していれば,コンパクトの程度はより高いと判断される。都市の 機能の集積という点でみてみると,居住地と職場が占める土地面積がより少なく,かつ居住地と職場の 分散度がより低い程,コンパクトの程度はより高いと判断される

 またOECDレポートは,「コンパクトシティ政策」を次のように定義している。すなわち,「都市空間 の利用方法に影響を与えることによってコンパクトシティを実現するための包括的アプローチ」。また その目的は「統合化された都市政策の目標,すなわち都市の持続可能性目標(経済活力,環境の質,社 会的公正など)に取り組むこと」にあるとしている

 ここでは,コンパクトシティ政策を「包括的アプローチ」と捉えており,また「統合化された都市政 策の目標」に取り組むことをその目的としている。このことは,我が国においてコンパクトシティ政策 を展開する場合には,都市計画マスタープラン,都市交通マスタープラン,中心市街地活性化基本計画,

環境基本計画,等の多様な分野の計画が関連付けられ,またこれらの計画で示されている諸政策がコン パクトシティの実現に向けて統合される必要があることを示唆している。

 OECDレポートはコンパクトシティの効果として,表2に示すように次の6項目を挙げている。すな わち,1.都市内の移動距離の短縮,2.自動車依存の低減,3.地区単位でのエネルギーの利用と地 域でのエネルギー生産の増進,4.土地資源の最適利用と都市・農村連携の機会の拡大,5.公共サー ビスの提供の効率化,6.地域の多様なサービスや職場への到達しやすさ。更に,「都市の持続可能性

6 OECD(2013) , 32頁。

7 OECD(2013) , 28頁。

(5)

への貢献」として,環境・社会・経済の各方面での利点を挙げている。

 コンパクトシティの効果1~6と都市の持続可能性への貢献との関連については,次のように指摘す ることができる。すなわち,1,2,3,4の各効果が環境面での利点(主にCO排出量の削減)に貢献 する。社会面での利点との関連では,1,2,4,5,6の各効果が主に社会面での利点(生活の質・利便 性の向上)に貢献する。経済面での利点との関連では,1と6の各効果が主に生産性の向上に,2,3,

4の各効果が雇用・技術開発・経済発展に,それぞれ貢献する。ここでみるように,コンパクトシティ の各効果は,都市の持続可能性に係る複数の多様な利点に貢献していることが分かる。

表 2  コンパクトシティの効果 都市の持続可能性への貢献

環境面の利点 社会的な利点 経済的な利点 1.都市内の移動距離の

短縮

・CO排出量の削減

・自動車排ガス汚染の低

・コスト低減による到達 しやすさの増進

・労働者の通勤時間短縮 による生産性の向上 2.自動車依存の低減 ・CO排出量の削減

・自動車排ガス汚染の低

・交通費の低減

・自動車を利用できない 人々のモビリティの向

・自転車利用や徒歩の増 加による健康改善

・グリーン雇用/技術の 開発

3.地区単位でのエネル ギーの利用と地域で のエネルギー生産の 増進

・1人当たりエネルギー 消費量の削減,CO

出量の削減

・グリーン雇用/技術の 開発・エネルギーの自 律増進

4.土地資源の最適利用 と都市・農村連携の 機会の拡大

・農地と自然の生物多様 性の保全

・フードマイレージの短 縮 に よ るCO排 出 量 の削減

・レクリエーション活動 の増進による生活の質 の向上

・農村の経済発展(都市 内農業,再生可能エネ ルギーなど)

5.公共サービスの提供

の効率化

・効率改善による公的な 社会福祉サービス水準 の維持

・インフラ投資と維持費 の低減

6.地域の多様なサービ スや職場への到達し

やすさ

・地域サービス(商店,

病院など)の利用しや すさによる生活の質の 向上

・生活の質が高いことに よる熟練労働者の誘致

・多様性,活力,イノベー ション,創造性による 生産性の向上

(出所)

OECD『グリーン成長スタディ コンパクトシティ政策』

(2013)

, 59頁。 

(6)

 次の指摘は重要である。-「都市政策は統合された都市持続性目標(環境の質,社会的公正,経済活 動)に取り組むが,既存の都市政策の手法はいまだにそれぞれの目標に個別に取り組む傾向があり,時 にはそうした目標は相互排他的とみなして大きな二律背反を生じることもある。これに対し,コンパク トシティ政策は一つの包括的な政策パッケージになっているため,それぞれの政策優先課題を結び付け る」。すなわち,一,目標達成のために政策が統合されないまま展開されるとそれぞれの政策効果が 打ち消し合うことに繋がること,二,コンパクトシティ政策においては「包括的な政策パッケージ」と して政策課題を連結して展開されることが指摘されている。

 OECDレポートは既存のコンパクトシティ政策を比較評価する際に,1.地域の実情への配慮,2.

政策目標と政策手段の適切性,3.コンパクトシティ政策の悪影響に対する配慮,という3つの観点を 掲げている。この観点から

OECD

加盟諸国で実践されているコンパクトシティ政策を点検した結果,次 のように総括している。-第一に「人口規模,都市成長傾向(急成長あるいは衰退),産業構造,景観,

文化の違いなどの地域の文脈には未だ適切には取り組んでいないことが認識された。このことは,政策 立案者が地域の実情と政策対応の間の「失われた繋がり」に対処する必要性を裏付けている」。第二に「必 要とされる多次元的アプローチを確保するには,政策手段の一層の多様化が効果的な方法となりうる。

例えばグリーン成長の観点から見れば,市場原理に基づく手段や価格メカニズムを利用し,それを他の 政策手段とも組み合わせることによって,一つの政策パッケージとして環境・経済・社会面での目標間 に相乗効果を生み出すよう促すべきである」。第三に「この分析は起こりうる悪影響に対処するために,

バランスのとれた政策を組み込むことの重要性を示している」

 以上の指摘は,次のように整理することができる。すなわち,OECDレポートによれば,既存のコン パクトシティ政策は,一,地域の実情に対応した政策が必ずしも組み合わされていないこと,二,政策 諸手段は政策パッケージとして多様な目標間で相乗効果を生み出すように展開される必要があること,

三,バランスある政策を組み込むことで起こり得る悪影響に対処する必要があること。

 OECDレポートでは更に,OECD加盟諸国の既存のコンパクトシティ政策の点検を踏まえて,共有す べき5つの主要な政策上の戦略を提言している(表3を参照)。まず1の「コンパクトシティの明確な 目標設定」では,「コンパクトシティ政策を含む国の都市政策の枠組みの確立」と「大都市全域規模の 戦略的計画の促進」の考え方が挙げられている。表2でみたようにコンパクトシティの多様な効果・利 点を考慮すると,明白な目標設定は,関連する政策間での整合を配慮した「包括的アプローチ」となっ ているか,という点を点検するにあたっての前提であるといえる。

8 OECD(2013) , 71頁。

9 OECD(2013) , 165-166頁。

(7)

 政策戦略2の「高密度で接近した開発」はコンパクトシティの主な特徴を意味しており(表1を参照) この促進は都市構造の側面でみたコンパクトシティ政策を図る視点と考えることができる。表中の詳細 項目の中に,「新規開発に対する最低密度要件の設定」が挙げられているが,OECDレポートで具体的 な数値については触れられていない。コンパクトシティ政策を展開する上で,最低密度要件をどのよう に設定するのかという点は,数値目標を掲げる上での主要な論点といえる。

 政策戦略3の既成市街地の「改装」の中では,産業政策とコンパクトシティ政策の調和,ブラウンフィー ルド開発の促進,既存の住宅地域の再生,既存市街地における公共交通志向型開発の促進,既存都市資 産の「利用強化」の促進といった考え方が含まれている。これらの取り組みはいずれも,地域発展やコ ンパクトシティ政策の経済面での効果を引き出すことに直結しているといえる。表2で掲げられていた コンパクトシティの効果の中には,「都市の持続可能性への貢献」として経済的な利点が挙げられてい たが,政策戦略3で挙げられている取り組みは,その経済的な利点を積極的に引き出すことに繋がると いえる。OECDレポートでは,コンパクトシティ政策の展開において,都市構造上の側面(高密度で接 近した開発の促進)に留まらず,地域発展の上の側面 (ここでは既成市街地の「改装」)をも重視して いることに注目したい。後述のⅡとⅢでの久留米市の事例から窺われるように,日本で展開されている コンパクトシティ政策にあっては,経済的な側面や地域発展の視点が弱いことを踏まえると,「コンパ クト化」と地域経済の発展を整合させようとする視点は重要であるといえる。

 政策戦略4の「多様性と生活の質の向上」の中では,混合土地利用の促進,住宅と地域サービス・雇 用とのマッチングの向上,公共空間への集中的投資の促進,徒歩及び自転車環境の促進,等の取り組み が挙げられている。これらの取り組みは,コンパクトシティの効果の内,「2.自動車依存の低減」「5.

公共サービスの提供の効率化」「6.地域の多様なサービスや職場への到達しやすさ」を促すことに繋 がるといえる。また,OECDレポートでは,コンパクトシティ政策は手段であり,暮らしやすさが本来 の目標であることを指摘している。この点を強調すれば,「多様性と生活の質の向上」は政策戦略に留 まらず,コンパクトシティ政策の上位計画での目標に位置する優先目標といえる。

 最後に「悪影響の最小化」が政策戦略に含まれていることから,コンパクトシティによって発揮され るのは必ずしも望ましい効果のみに留まらないことが認識されており,またそれを最小化することが重 視されていることが分かる。ここで,コンパクトシティ政策の骨格とは限らない事項,例えば「体感」

密度を下げる良質の都市デザインの推進や既成市街地の緑化の促進等があげられており,都市構造と いったハード面に留まらず,都市におけるアメニティの側面も重要されていることが窺える。

(8)

表 3  コンパクトシティのための主要な政策戦略

1.コンパクトシティの明確な目標設定 ・コンパクトシティ政策を含む国の都市政策の枠組みの確立

・大都市全域規模の戦略的計画の促進 2.高密度で接近した開発の促進 ・規制手段の有効性の強化

・グリーンフィールドのコンパクトな都市開発

・新規開発に対する最低密度要件の設定

・利害対立の調整メカニズムの確立

・都市・農村連携の強化 3.既成市街地の「改装」 ・ブラウンフィールド開発の促進

・産業政策とコンパクトシティ政策の調和・既存の住宅地域の再生

・既成市街地における公共交通指向型開発の促進

・既存都市資産の「利用強化」の促進 4.多様性と生活の質の向上 ・混合土地利用の促進・住宅と地域のサービス

・雇用とのマッチングの向上

・公共空間への集中的投資の促進と「センス・オブ・プレイス」の育成

・徒歩および自転車環境の促進 5.悪影響の最小化 ・交通渋滞の緩和

・低・中所得者向け住宅の供給の促進

「体感」密度を下げる良質の都市デザインの推進

・既成市街地の緑化の促進

(出所)OECD『グリーン成長スタディ コンパクトシティ政策』(2013)

, 174頁。

 以上,OECDレポートに沿って主要な政策戦略について検討してきたが,更に補足されるべき視点と して次の諸点を挙げることができる。第一に,コンパクトシティ政策を実際に自治体計画の段階で設定・

運営する際には,国の都市政策の中で枠組みが設定されることに留まらず,自治体計画においても明確 な目標設定が必要であり,また実際の運営にあたって自治体間関係の視点も取り入れる必要がある。

 コンパクトシティ政策の主要な利点として,CO排出量の削減,生活の質・利便性の向上,生産性の 向上,雇用・技術開発・経済発展等が挙げられていたが,これらの効果は一自治体内で完結される訳で はない。このことを考慮すると,政府による都市政策での枠組みの提示に留まらず,自治体レベルにお いても複数の自治体の間の連携によって共通の目標を設定した上で,コンパクト化や既成市街地の改装 に投入される経費負担にあたって規模の経済性を発揮させること,地域サービスの多様性において範囲 の経済性を発揮し得ること,自治体間での政策調整にあって発現しうる悪影響の最小化を図ること,等 の自治体間連携の視点が必要である。

 第二に,合意形成への配慮という視点を加える必要がある。例えば公共空間への集中的投資の促進は,

集積化のメリットが意図されるが,当然に周辺地域への外部不経済も予想される。またコンパクト化の 高度化は「体感」密度を高め,都市のアメニティを損なうことにも繋がる。こうしたコンパクト化によ る悪影響への最小化の配慮と都市・農村連携の強化への配慮は,他のコンパクト化に向けた政策ととも

(9)

に「政策パッケージ」として提示され,また並行して展開されることによって,包括的アプローチとし てのコンパクトシティ政策への合意形成が可能となる。

2 .我が国におけるコンパクトシティ政策

 先にみたように,OECDレポートではコンパクトシティの主要な政策戦略の一つとして「コンパクト シティの明確な目標設定」を挙げられており,その方策に「コンパクトシティ政策を含む国の都市政策 の枠組みの確立」が含まれていた。日本においては,表4にみる通り,政府によってコンパクトな街づ くりに向けた多様な取り組みが自治体に対して要請されてきたという経緯がある。

 ただし,各省が推進する自治体での政策の在り方は当然に力点が異なり,政府レベルにおいて必ずし も整合化された上で取り組まれている訳ではない。国のそれぞれの担当省の政策意向に沿った政策項目 となっているため,取り扱う分野が限定的となる傾向にある。たとえば,環境省の「低炭素地域づくり」

では低炭素化に,農林水産省の「スマートビレッジ事業」では再生可能エネルギーの開発・活用に,そ れぞれ主眼を置いている。こうした事情は,また,自治体で展開されるOECDレポートでいう包括的ア プローチとしてのコンパクトシティ政策の特徴を弱めてしまうことに繋がるといえる。

表 4  コンパクトシティ・低炭素化社会に向けた政府の主要な施策・事業

担当省 施策・事業の概要

環境省

「低炭素地域づくり(地球温暖化対策地方公共団体実行計画)

「地球温暖化対策の推進に関する法律」(1998年10月制定)を根拠法とし,地域に根差し た温室効果ガス排出抑制を推進することで低炭素地域づくりを推進。

内閣府

「環境モデル都市」: 温室効果ガス排出の大幅な削減など低炭素社会の実現に向け,高い 目標を掲げて先駆的な取り組みにチャレンジする都市・地域を指定。

「環境未来都市」:環境モデル都市の中から厳選し,環境・超高齢化対応等に向けて,人 間中心の新たな価値を創造する都市を指定。

国土交通省

「コンパクトなまちづくり」: まちづくりや地球環境に優しい暮らし方や少子高齢におけ る暮らしなどの視点を持って,コンパクトなまちづくりを推進。「都市の低炭素化の促 進に関する法律(エコまち法)(2012年9月制定)を根拠法として,「低炭素まちづく り計画」の策定を推奨。

「国土のグランドデザイン」: コンパクト+ネットワークを一つの柱とし,国土形成計画 として策定(2015年)

農林水産省 「スマートビレッジ事業」: 農林漁村においてスマートグリッド等の新しい技術の導入に より再生可能エネルギーを高度に生産・使用するスマートビレッジを構築。

総務省 公共施設等総合管理策定を自治体に要請 自治体の公共施設の集約・統合を促す。

(注) 筆者作成。

 また自治体における計画の中には,多様なコンパクトシティ関連計画を確認することができる。自治

(10)

体レベルにあっては,Ⅱでも検討するように,総合計画の下で総合的・包括的なまちづくりの方針が掲 げられており,この総合計画にあってもコンパクトシティの考え方を確認することができる。この他に も,自治体計画にあっては,コンパクトシティ政策の特徴を強く持つ主だった計画だけでも,表5に示 すように,都市計画法に基づく都市計画マスタープラン,都市再生特別法と都市計画法改正に基づく立 地適正化計画,交通法とその改正に伴う都市交通マスタープランと地域公共交通網形成計画,地球温暖 化対策推進法に基づく環境基本計画,更に低炭素法に基づくエコまち計画,更に

OECD

レポートでいう 既存市街地の改装を主に扱う中心市街地活性化計画,等と実に多様な計画を挙げることができる。この 他にも国土利用計画,空き家対策計画,公共施設等管理計画等も,コンパクト政策の推進に強く係わる 性質を持っている。本稿での関心事は,これらの自治体計画におけるコンパクトシティ関連計画は,果 たして

OECD

レポートでいう包括的アプローチとしてのコンパクトシティ政策の特徴を有しているのか どうか,という点である。

表 5  自治体での主要なコンパクトシティ関連計画

都市計画マスタープン 都市全体及び地域ごとの将来像を具体的に示し,都市づくりの課題とそれに対応し た整備方針を明らかにするための総合的な方針であり,市民や事業者と行政が協働 によるまちづくりを進めていく上での指針となる計画。

立地適正化計画 「都市再生特別法」改正(2014年 8 月施行)と「都市計画法」改正に基づく。法定手 続きにより公表されたときは,都市計画マスタープランの一部とみなされる。

都市交通マスタープラン 「交通政策基本法」(2013年12月施行)により,交通に関する基本理念,国・自治体・

事業者等の責務が定められる。

地域公共交通網形成計画 「地域公共交通の活性化及び再生に関する法律」改正(2014年11月施行)により,「自 治体が先頭に立ち,関係者との合意のもと,“まちづくり”と一体となった持続可能 な公共交通ネットワークを形成」するための基本計画。

環境基本計画 「地球温暖化対策の推進に関する法律」(1998年施行)により,自治体の責務として 区域内における活動から排出される温室効果ガスの排出抑制のための総合的かつ計 画的な施策を策定。

中心市街地活性化 基本計画

「中心市街地活性化法」等の改正により,コンパクトシティとして「歩いて暮らせる まちづくり」の計画が志向される。(2014年 8 月施行)

国土利用計画 「国土利用計画法」に基づき,自治体区域における国土の利用に関する基本的事項を 定める計画。(1974年12月施行)

空き家対策計画 「空き家対策特別措置法」に基づき,管理不全な空き家である特定空き家の対策を定 める計画。(2015年 5 月施行)

低炭素まちづくり計画

(エコまち計画)

「都市の低炭素化の促進に関する法律」(2012年12月施行)に基づき,総合的・計画 的な都市の低炭素化の取り組みの推進するための取り組みを策定。

まち・ひと・しごと創生 総合戦略

「まち・ひと・しごと創生法」(2014年11月施行)に基づく自治体の総合的な戦略計画。

(注) 筆者作成。

(11)

 以上の自治体計画の中でも,コンパクトシティそのものに焦点を充てている計画としては,特に立地 適正化計画とエコまち計画を挙げることができる。ここで,

OECD

レポートでいう包括的アプローチと してのコンパクトシティ政策とみなすことができるか,という点をみてみる。

 まず,立地適正化計画制度は,「都市再生特別措置法等の一部を改正する法律」(2014年施行)を根拠 として創設された。これと連動して,都市計画法の一部も改正されている。改正都市再生特別措置法で は,初めて「コンパクトなまちづくり」と「公共交通によるネットワーク」の連携を具体的に措置し,

また「都市全体を見渡しながらその誘導を図る」ことに初めて焦点を充てている10。また,当該制度の 大きな柱として,表6のような7つの意義と役割が挙げられている。

表6 立地適正化計画の意義と役割  1.都市全体を見渡したマスタープラン

2.都市計画と公共交通の一体化 3.都市計画と民間施設誘導の融合 4.市町村の主体性と都道府県の広域調整 5.市街地空洞化防止のための選択肢 6.時間軸をもったアクションプラン 7.まちづくりへの公的不動産の活用

(出所)国土交通省「立地適正化計画概要パンフレット」(2014年)

 本計画では,対象区域については,都市計画区域内でなければならず,都市計画区域全体とすること が基本とされている。また区域内に「居住誘導区域」と「都市機能誘導区域」の双方を定め,居住誘導 区域の中に都市機能誘導区域を定めることが必要とされている。更に,将来の都市像について本計画の 総合的な達成状況を的確に把握できるよう,定量的な目標を設定することが望ましいとされる。

 ここで「居住誘導区域」とは,「人口減少の中にあっても一定エリアにおいて人口密度を維持するこ とにより,生活サービスやコミュニティが持続的に確保されるよう,居住を誘導すべき区域」である。

また「都市機能誘導区域」とは,「医療・福祉・商業等の都市機能を都市の中心拠点や生活拠点に誘導 し集約することにより,これらの各種サービスの効率的な提供を図る区域」である。また都市機能誘導 区域では「立地を誘導すべき都市機能増進施設(居住者の共同の福祉や利便性の向上を図るために必要 な施設であって,都市機能の増進に著しく寄与するもの)」を設定している。この他,任意区域として,

「跡地等管理区域」(空き地が増加しつつあるが,相当数の住宅が存在する既存集落や住宅団地等におい

10

「立地適正化計画概要パンフレット」(2014年8月)

(12)

て,跡地等の適正な管理を必要とする区域)と「駐車場適正化区域」(歩行者の移動上の利便性及び安 全性の向上のための駐車場の配置の適正化を図るべき区域)が設定される。

 以上にみるように立地適正化計画は,居住誘導区域と都市機能誘導区域の設定を主な取り組みとして おり,その限りではOECDレポートの視点からみると都市構造上の側面(高密度で接近した開発の促進)

に重点を置く施策であるといえる。しかし,表6の「意義と役割」から窺えるように,立地適正化計画 は「1.都市全体を見渡したマスタープラン」としては都市計画マスタープランと,「2.都市計画と 公共交通の一体化」としては都市交通マスタープランと,「5.市街地空洞化防止のための選択肢」と しては中心市街地活性化計画と,「7.まちづくりへの公的不動産の活用」としては公共施設等管理計 画等と,それぞれ関連してくるものと考えられる。すなわち,立地適正化計画は,他の関連計画と相互 に補強・補完を図ることができるのならば,包括的アプローチとしての機能を発揮することが可能であ るといえる。

 次に,コンパクトシティ政策に焦点をおいたもう一つの自治体計画の例として,エコまち計画を挙げ ることができる。「都市の低炭素化の促進に関する法律」が2012年9月5日に公布,12月4日に施行さ れた。これに基づくエコまち計画の基本方針の策定は,国土交通大臣,環境大臣,経済産業大臣で共同 で作成され,国レベルで調整されることになる。

 またこの基本方針に則って,低炭素まちづくり計画の策定は,市町村が担当し,そこでは,都市機能 の集約,公共交通機関の利用促進,建築物の低炭素化,緑・エネルギーの面的管理・利用の促進,の各 事項について決定される。

 「低炭素まちづくり計画(エコまち計画)」の区域は,「それぞれの地域の実情や講ずる施策に応じ,

市街化区域等の全体をカバーする区域や事業等を実施すると区域の区域など,必要な区域を自由に設定 することが可能」とされ,また「都市機能の集約を図るための拠点となる地域」は「計画区域の内側で 様々な都市機能の集積を図ろうとしている範囲に絞りこんで設定」される。ここで,計画の区域は,「市 街化区域等(市街化区域及び用途地域)のうち都市の低炭素化の促進に関する施策を総合的に推進する ことが効果的である区域で作成」される11

 以上にみるように,エコまち計画にあっては都市の持続可能性への貢献という視点が強い分,立地適 正化計画とは対照的に,その取り扱う分野は広範囲に渡り,包括的アプローチの体裁を整えているとい える。ただし,自治体のレベルでの実際の政策運営にあたっては,地域特性を踏まえた施策となってい るのかどうか,という点は個々の適用で点検される必要がある。

11

「低炭素まちづくり計画概要パンフレット」(2010年),4頁。

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Ⅱ.久留米市のコンパクトシティ関連計画

 本節では,久留米市におけるコンパクトシティ関連計画について検討する。ここでコンパクトシティ 関連計画とは,

OECDレポートでいう「統合化された都市政策の目標,

すなわち都市の持続可能性目標(経 済活力,環境の質,社会的公正など)に取り組むこと」というコンパクトシティ政策の目的に寄与する 計画群を指している。久留米市において現在,実施されている主要なコンパクトシティ関連計画として は,総合計画を含め,都市計画マスタープラン,都市交通マスタープラン,中心市街地活性化基本計画,

環境基本計画,立地適正化計画,等と多様な計画を挙げることができる。以下,これらの計画において,

コンパクトシティ政策の視点と政策戦略(すなわち,1.コンパクトシティの明確な目標設定,2.高 密度で接近した開発の促進,3.既成市街地の「改装」,4.多様性と生活の質の向上,5.悪影響の 最小化)がどのように取り入れられているのかという点について検討する。

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.包括化に向けたコンパクトシティ関連計画

 現在,久留米市で実施されているコンパクトシティ関連計画の内,比較的強く包括的アプローチとし ての性格が確認できる計画として,総合計画,都市計画マスタープラン,そして立地適正化計画につい て検討する。

(総合計画)

 OECDレポートでは「コンパクトシティの明確な目標設定」を戦略上の重要事項として挙げていたが,

このことは政府の段階での政策に留まらず,自治体の段階でも当然に当てはまる重要事項である。その 中でも総合計画での設定は重要である。総合計画それ自体は実施計画には当たらないが,自治体で展開 される諸計画を網羅・関連付ける上位計画であり,自治体レベルでの「包括的アプローチ」を促進する にあたって要となる計画であるといえる。そこで,まず久留米市の総合計画においてコンパクトシティ がどのように位置づけられているのかという点について確認しておく。

 現在,「久留米市新総合計画 第3次基本計画」(計画期間

2015

年度~

2019

年度)においては,基本 構想の大分類(都市の姿)「誇りがもてる美しい都市 久留米」の中で,久留米市のコンパクトシティ に関する基本的な考え方が示されている。当該の大分類は,更に中分類(施策の方向性)として,①「快 適な都市生活を支えるまち」,②「外で働きたくなるまち」,③「環境を育み共生するまち」の3項目を 掲げている(表7を参照)

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表 7  久留米市の基本構想 ―大分類(都市の姿)・誇りがもてる美しい都市久留米―

中分類(施策の方向性) 目指す成果 指標

①快適な都市生活を支え るまち

社会資本の持続性,快適 性を高める

中心拠点,地域生活拠点の人口 公共交通空白地域の面積

景観が向上していると感じる市民の割合

②外で働きたくなるまち 外で活動したい,しやす いと感じる市民を増やす

市民一人当たりの公園・広場等の面積

都市計画道路における歩道及び自転車走行空間整備率 主要路線でのノンステップバス導入率

③環境を育み共生するま

環境への負荷を低減させ る〔温室効果ガスの排出 量〕

再生可能エネルギーの導入率 市民一人一日あたりのごみ排出量

日常で環境に配慮した取り組みをしている市民の割合

(出所)「久留米市新総合計画 第3次基本計画」(2015年),21頁。

 その内①については,次のような基本的な考え方が述べられている。-「都市機能の維持と市域の均 衡ある発展を図っていくため,市街地の拡散的拡大を抑制しながら,中心拠点と地域の生活拠点などが 相互に機能を補完し合う,ネットワーク型のコンパクトな都市づくりを進めるとともに,公共施設全体 の総合的な老朽化対策に取り組みます」

21

頁)すなわち,一,都市機能の維持と市域の均衡ある発展 を上位目標とすること,二,市街地の拡散的拡大の抑制,三,ネットワーク型のコンパクトな都市づく り,四,公共施設全体の総合的な老朽化対策,という4項目が久留米市の総合計画におけるコンパクト シティの基本的要素といえる。

 更に総合計画の中で設定されている基本計画の小分類の中で「1.持続可能な都市構造の形成」「2.

総合的な交通体系の確立」「3.快適な都市基盤・生活基盤の構築」を掲げており,各事項において,

コンパクトシティの具体化が示されている(21-22頁)。すなわち,1では,「社会環境の変化に対応した,

持続可能な都市構造の形成を図るため,広域的な高次都市機能や都市型住宅が集積した,魅力的で賑わ いのある中心拠点を形成するとともに,暮らしに密着した地域の生活拠点の充実を図」ること,また「市 街化を抑制する区域や新たな土地利用を行う区域の整理など,全市的な土地利用のあり方を見直し,市 としての一体的な都市計画制度の適用に向けて取り組み,コンパクトな都市づくりを進め」ること,「市 外からの転入促進の受け皿として,市街化区域内の低・未利用地の宅地化促進など,まちなか居住を推 進するとともに,鉄道の駅周辺においては,居住環境の整備を促進するための取り組みを進め」ること。

 2では,「路線バスの再編や新駅設置の促進など,交通機関の結節機能強化や輸送機能強化,利便性 向上に取り組み,公共交通の利用促進を図」り,また「公共交通空白地域において,地域の実情に応じ た生活支援交通の導入を進め」ること,更に「中心拠点や地域生活拠点などの拠点相互のネットワーク 化,慢性的な交通渋滞の緩和を図るため,国や県と連携し,幹線道路の整備などを推進」すること。

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 3では,「安心して通行できる身近な生活道路の整備を進めるとともに,地域の実情に応じた効率的 で適正な生活排水の処理,一部未整備地域への上水道の普及促進に取り組」むこと,「今後老朽化を迎 える橋梁や上下水道などの公共施設については,財政負担の軽減や平準化を図るため,予防保全型の維 持管理や計画的な更新・統廃合等を行い,公共施設全体の総合的な老朽化対策に取り組」むこと,「高 齢者や障害者に配慮した質の高い居住空間の提供を図るため,民間住宅の誘導・支援や市営住宅の計画 的な建て替えに取り組」むこと,「空き家などの既存住宅の有効活用や,郊外住宅・団地の居住環境の 向上など,人口減少や超高齢社会の進行を踏まえた,良好な居住環境の形成に努め」ること。

 以上にみるように,現在の総合計画の中には,OECDレポートが提示していたコンパクトシティの主 要な特徴がすべて網羅されており,明確な目標として「コンパクトシティ」の取り組みが設定されてい ることが確認できる。すなわち,「1 持続可能な都市構造の形成」は「高密度で近接した開発パターン」

を目指すことを意味し,「2 総合的な交通体系の確立」は「公共交通機関で繋がった市街地」の形成を 含み,更に「3 快適な都市基盤・生活基盤の構築」は「地域のサービスや職場までの到達しやすさ」

の促進を意味している。また,「都市の持続可能性への貢献」の内,社会面と経済面でのコンパクトシティ の効果が網羅されているといえる。

 また中分類「③環境を育み共生するまち」の中で,「環境先進都市を目指し,市民,事業者,行政そ れぞれが,環境に配慮した取り組みを進めるとともに,再生可能エネルギー等を活用した環境負荷の少 ない都市づくりを推進」することが述べられている(25頁)。その施策として「1 低炭素社会の構築」

を掲げ,具体的には,一,低炭素社会を目指すこと,二,地域特性を活かした再生可能エネルギーの普 及促進を図ること,三,エネルギー利用効率が高い居住環境づくりを進めること,等が挙げられている。

これら中分類「③環境を育み共生するまち」で挙げられている施策はいずれも,「都市の持続可能性へ の貢献」の内,環境面での効果を狙ったものであり,コンパクトシティの効果として捉えることができる。

 以上にみるように,総合計画に掲げられた大分類(都市の姿)の中で,コンパクトシティの基本的な 要素を網羅し,また「都市の持続可能性への貢献」を経済面・社会面・経済面の広い範囲に渡って施策 として網羅している。

(都市計画マスタープラン)

 次に,久留米市の都市計画マスタープランについて検討する。久留米市における現在の都市計画マス タープランは,2012年に策定され,目標年次は新総合計画に合わせて2025年度に設定され,その「将来 都市構造」として「コンパクトな拠点市街地の形成と拠点をネットワークする都市構造」を掲げている。

コンパクトシティに関する基本的な考え方は,表8にみるように,当該計画の「都市づくりの目標」の

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中で明示されている。

表 8  久留米市の都市づくりの目標 目標 1 安全・安心な暮らしを支えるコンパクトな都市づくり 目標 2 地域特性を活かした土地利用による魅力あふれる都市づくり 目標 3 水と緑に恵まれた環境と共生する都市づくり

目標 4 人,物,情報が行き交う活力ある都市づくり

(出所)「久留米市都市計画マスタープラン」(2012年),60-63頁。

 目標1では,「効率的な都市経営を行うため,居住,商業,業務,教育,文化などの多様な機能がコ ンパクトにまとまった生活圏の形成を目指し,まちなか居住の推進を図ります。

一方,周辺部においても,鉄道駅などの交通拠点を中心に居住機能と身近な生活機能を融合させ,交通 サービスを享受する沿線居住の推進を図ります。さらに,公共公益施設には,ユニバーサルデザインの 導入や防災機能を充実させることにより,子どもからお年寄り,体の不自由な方が安心して利用できる 居住環境を目指し,平時及び災害発生時に円滑にサポートできる安全・安心な都市基盤の形成を進めま す。併せて,セーフコミュニティの仕組みを活用し,市民や様々な団体との協働のもと事故やケガ,犯 罪などの予防を目指します。」としている。以上を整理すると,1.効率的な都市経営に向けたまちな か居住の推進,2.交通拠点を中心にした沿線居住の推進,3.公共公益施設を活用した安全・安心な 都市基盤とセーフコミュニティの活用,が掲げられている。

 目標2では,「市全域を対象とし,産業や自然環境,居住環境等の各地域の特性が活かされる適切な 土地利用を図るとともに,各地域の生活拠点や集落においても,幅広い世代が多様な生活様式を実現で きるように地区特性に応じた居住環境の創出に努めます。さらに,バランスある都市発展のために,中 心拠点と各地域の生活拠点を結ぶ道路,鉄道やバス等の公共交通による交通ネットワークの形成により,

地域間のみならず市内外の連携・交流の充実を図」るとしている。すなわち,1.市全体を対象とした 地域特性を活かした土地利用,2.地区特性に応じた居住環境の創出,3.交通ネットワーク形成によ る地域間・市内外の連携と交流の充実,が掲げられている。

 目標3では,「環境負荷の少ない移動手段である鉄道,バス等の公共交通機関や自転車,電気自動車 の利用を促進するとともに,筑後川や耳納連山,豊かな田園に代表される水と緑に恵まれた自然的資源 の保全や都市内の緑化に努めるなど,本市の魅力や個性を高める景観づくりに取組みます。としている。

すなわち,1.環境負荷の少ない公共交通機関・自転車・電気自動車の利用促進,2.景観づくり(自 然的資源の保全と都市内の緑化等),が掲げられている。

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 目標4では,「広域交通網をはじめとする本市の強みを活用し,生活・産業・観光などにおいて市内 外の交流の拡大を図ります。また,本市の顔である中心市街地において,商業,業務,行政,交通,文 化などの拠点として活発な交流を牽引し,中核市として人,物,情報が行き交う元気な都市を目指しま す。」としている。すなわち,1.広域交通網等を活用した市内外の交流の拡大,2.中心市街地にお ける活性化,が掲げられている。

 先に見たように,総合計画の大分類(都市の姿)の中の中分類「①快適な都市生活を支えるまち」に おいて,OECDレポートが提示していたコンパクトシティの主要な特徴がすべて網羅されており,また 中分類「③環境を育み共生するまち」も含めると,コンパクトシティ政策による「都市の持続可能性へ の貢献」の経済・社会・環境面で効果を広く網羅した施策が挙げられていた。都市計画マスタープラン にあっても,将来都市構造として「コンパクトな拠点市街地の形成と拠点をネットワークする都市構造」

を掲げ,更に「都市づくりの目標」の中でOECDレポートでいうコンパクトシティの特徴の強化が意図 されているといえる。すなわち,目標1において,効率的な都市経営に向けたまちなか居住の推進は「高 密度で近接した開発パターン」を意味し,交通拠点を中心にした沿線居住の推進は「公共交通機関で繋 がった市街地」の形成と地域のサービスや職場までの到達しやすさ」の促進を意味している。

 コンパクトシティのための政策戦略という視点から検討すれば,「高密度で接近した開発の促進」は 目標1にみられるように,コンパクトシティの特徴を全般的に強化するという考え方が掲げられている。

また,「既成市街地の「改装」」という点では,目標4「人,物,情報が行き交う活力ある都市づくり」

の中で,中心市街地における活性化が挙げられている。「多様性と生活の質の向上」という点では,目 標1「安心・安全な暮らしを支えるコンパクトな都市づくり」の考え方の中で,公共公益施設を活用し た安全・安心な都市基盤とセーフコミュニティの活用が含まれている。「悪影響の最小化」に係わる項 目としては,目標3「水と緑に恵まれた環境と共生する都市づくり」の中で,公共交通機関・自転車・

電気自動車の利用促進と景観づくり(自然的資源の保全と都市内の緑化等)が挙げられている。

 またコンパクトシティの効果という視点では,目標1において,効率的な都市経営に向けたまちなか 居住の推進は「地域の多様なサービスへの到達しやすさ」を,また公共公益施設の活用は「公共サービ スの提供の効率化」が図られるといえる。また,目標2では「土地資産の最適利用と都市・農村連携の 機会の拡大」が意図されている。目標3で掲げられている環境負荷の少ない公共交通機関・自転車・電 気自動車の利用促進は,「都市内の移動距離の短縮」と「自動車依存の低減」を促す効果が図られている。

更に,目標4では,広域交通網等を活用した市内外の交流と中心市街地の活性化が挙げられており,「都 市の持続可能性への貢献」の経済面での効果を引き出す考え方であるといえる。

 以上にみるように,包括的アプローチとしてのコンパクトシティ政策の特徴が全て網羅されており,

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また「都市の持続可能性への貢献」として環境・社会・経済面での主要な効果の発揮が図られているこ とが判る。総合計画と都市計画マスタープランを比較すると,いずれも基本的な方針としては,コンパ クトシティ政策の包括性を具体化しているが,総合計画にあっては,「高密度で近接した開発パターン」

と環境・経済面での効果が必ずしも連携させて目標化されていないのに対して,都市計画マスタープラ ンにあっては,「高密度で近接した開発パターン」,低炭素社会化,そして公共交通機関の在り方をより 結節させて目標化している,という点で相違がみられる。

(立地適正化計画)

 立地適正化計画にあっては,Ⅰ.2で検討したように,それ自体は都市構造の側面(「高密度で接近 した開発」)に主眼を置く計画ではあるが,その他の包括性については,計画との整合化の視点がどの ように取り入れられているか,という点が重要な検討事項である。本市の『立地適正化計画の策定につ いて』(都市建設部都市計画課 2016年 8 月29日)によれば,都市づくりの基本的な方針について,「久 留米市都市計画マスタープラン」との整合が採られており,「コンパクトな中心市街地の形成と拠点を ネットワークする都市構造」を目指し,「中心拠点」と「地域の生活拠点」が相互に機能を補完し合う,

ネットワーク型の都市づくりを進めるものとしている。

 また「居住誘導区域」を「市街化区域,用途地域のなかで,鉄道駅やバス停,総合支所から徒歩圏内(バ ス停から半径300m,鉄道駅・総合支所から半径800m)にあり,マイカーに頼ることなく,日常生活が 享受できる区域を基本に設定」としている。

 「都市機能誘導区域」については,まず「中心拠点」とは「市民をはじめ,県南地域の住民に対する 高度な生活サービスを提供する拠点」であり,「医療,文化,商業施設などが集積し,鉄道やすいバス などの公共交通機関や自転車で容易にアクセスすることが可能な区域を基本に設定」として,「地域生 活拠点」とは「身近な生活機能の集積を図る拠点」であり,「高齢者が公共交通などによりアクセスし やすい鉄道駅や総合支所周辺(500m)を基本に設定」としている。

 また,立地適正化計画では目標値を掲げることが義務付けられている。「将来都市像の達成を示すこ と」「他計画との連携・整合を図ること」,及び「市全体の暮らしやすさを示すこと」に留意して,本 計画の「進行管理するため」の目標値を次の表9の通り設定している。目標値1は

OECD

レポートでい う最低密度要件を定めたものとみなすことができ,当該計画によれば目標値1の設定によって「コンパ クトな都市構造と都市機能を維持する一定規模の人口を将来にわたって確保する」している。

表 1  コンパクトシティの主要な特徴 特 徴 要 素 1.高密度で近接した開発パターン ・市街地は高度利用されている。 ・都市集積は連続または隣接している。 ・都市的土地利用と農村的土地利用の境界が明確。 ・公共空間が確保されている。 2.公共交通機関で繋がった市街地 ・市街地が効果的に利用されている。 ・公共交通機関によって市街地のモビリティが高い。 3.地域のサービスや職場までの到達しやすさ ・混合土地利用。 ・ほとんどの住民は徒歩または公共交通機関を使って 地域サービスを利用できる。 (出所)OEC
表 3  コンパクトシティのための主要な政策戦略 1.コンパクトシティの明確な目標設定 ・コンパクトシティ政策を含む国の都市政策の枠組みの確立 ・大都市全域規模の戦略的計画の促進 2.高密度で接近した開発の促進 ・規制手段の有効性の強化 ・グリーンフィールドのコンパクトな都市開発 ・新規開発に対する最低密度要件の設定 ・利害対立の調整メカニズムの確立 ・都市・農村連携の強化 3.既成市街地の「改装」 ・ブラウンフィールド開発の促進 ・産業政策とコンパクトシティ政策の調和・既存の住宅地域の再生 ・既成市街地に
表 7  久留米市の基本構想 ―大分類(都市の姿) ・誇りがもてる美しい都市久留米― 中分類(施策の方向性) 目指す成果 指標 ①快適な都市生活を支え るまち 社会資本の持続性,快適性を高める 中心拠点,地域生活拠点の人口公共交通空白地域の面積 景観が向上していると感じる市民の割合 ②外で働きたくなるまち 外で活動したい,しやす いと感じる市民を増やす 市民一人当たりの公園・広場等の面積 都市計画道路における歩道及び自転車走行空間整備率 主要路線でのノンステップバス導入率 ③環境を育み共生するま ち 環境へ
表 9  久留米市立地適正化計画 目標値 指標 基準値(2015年) 目標値(2025年) 目標値設定の狙い 1 居住誘導区域内の人 口密度(人/ha) ※1  54人/ha 54人/ha コンパクトな都市構造と都市機能を維持する一定規模の人口を将来にわたって確保する 2 公 共 交 通 利 用 回 数  (回/人・年)※2 132回/人・年 140回/人・年 公共交通により各拠点へアクセスしやすい環境確保を達成する 3 住民の住みやすさ意 識(%)※3 82% 90% コンパクトな都市構造を形成することで

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