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国際会計基準第 16 号「有形固定資産」第 41 項の規定に関する一考察

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(1)

1.はじめに

 本論は,国際会計基準第16号(IAS16)「有形固 定資産」第41項の規定について考察するものであ る。

 IAS16第29項では原価モデルと再評価モデル の選択適用を認める旨規定され,同第31項では再 評価モデルを適用した場合に帳簿価額が報告期間 末日における公正価値を用いたならば算定された であろう金額と大きく異ならないような頻度で定

期的に行うことを要求している。再評価の結果生 じた再評価剰余金について,同第41項は資産の使 用に応じて利益剰余金に振り替える場合,その振 替額については,振り替えられる再評価剰余金の 額は,資産の再評価後の帳簿価額に基づく減価償 却と当初の取得原価に基づく減価償却との差額で ある旨規定している。

 同項は利益剰余金に振り替えられる金額は,資 産の再評価後の帳簿価額に基づく減価償却と当初 の取得原価に基づく減価償却との差額であると規 定されているのみである。同項の規定は,再評価 が1度だけの場合には特段の問題を生じないもの の,2度以上の再評価が実施された場合には,同

国際会計基準第 16 号「有形固定資産」第 41 項の規定に関する一考察

大塚 良治a

a湘北短期大学総合ビジネス学科

【抄録】

 本論は,国際会計基準第 16 号(IAS16)「有形固定資産」第 41 項の規定について考察するものである。同 41 項の規定は,利益剰余金に振り替えられる金額は,資産の再評価後の帳簿価額に基づく減価償却と当初の 取得原価に基づく減価償却との差額であるとのみ規定している。同項の規定は,再評価が 1 度だけの場合に は特段の問題を生じないものの,2 度以上再評価が実施された場合には,同項の規定は利益測定の基礎の改訂 を反映しない結果を招く。同項は 2 度以上の再評価を想定しておらず,2 度以上の再評価が実施された場合に 対応する規定に組み直す必要性がある。有形固定資産の再評価が当該資産に関する透明性の高い報告を行う ことを重要な目的の一つとしていると考える場合,同項の規定による処理を施せばその目的を達成できない 可能性がある。本論は有形固定資産に関する透明性の高い報告を行うという目的を達成するために,同項の 規定を改めることを提案する。

【キーワード】

第 41 項  再評価剰余金  利益剰余金

- 95 -

――――――――――――――――――――――

<連絡先>

 大塚 良治 [email protected]

(2)

項の規定は利益測定の基礎の改訂を反映しない結 果を招くものと思量する。資産の再評価は利益測 定の基礎を改訂する手続きであるにもかかわら ず,同項はこの点を考慮に入れた規定とはなって いないからである。

 以上の問題意識に立脚して,本論は,IAS16第 41項の規定に係る問題点を明らかにし,利益測定 の基礎の改訂に対応できる規定への組み直しを提 案することを目的とするものである。

 本論は,以下の順序で議論を進める。第2節で,

IAS16の規定を概観し,特に同第41項の規定の問 題点を指摘する。それを受けて,第3節で,同項に 基づく数値例と本論で提案する同項の改訂案に基 づく数値例を設定し,具体的な問題点についてさ らに議論する。第4節でまとめを行い,本論にお ける議論で得られたインプリケーションを述べる こととする。

2.IAS16 の規定

 IAS16第41項について議論するに当たり,本節 では,IAS16および関連する国際会計基準(国際 財務報告基準)の規定を確認しておこう。

 不動産のうち,通常の事業の過程において販売 を目的として保有しているか又は開発中の不動 産は,IAS2「棚卸資産」が適用される1。棚卸資産 は流動資産に区分されるので,棚卸資産に該当し ない不動産は,非流動資産に分類されることとな る2。IAS40「投資不動産」第5項では,非流動資 産に分類された不動産のうち,賃貸収益若しくは 資本増価又はその両方を目的として(所有者又は ファイナンス・リースの借り手が)所有する不動 産は「投資不動産」3 と定義され,IAS40の適用対 象となる4。また,IAS40第7項では,自己使用不 動産にはIAS16が適用されることが明記されてい る5。IAS40第5項において,自己使用不動産とは,

(所有者又はファイナンス・リースに基づく借り 手によって)物品の製造若しくは販売又はサービ スの提供,又は経営管理目的のために保有される 不動産であると定義されている6

 IAS16は有形固定資産に対して適用される7。た だし,国際財務報告基準第5号(IFRS5)「売却目 的で保有する非流動資産及び非継続事業」に準拠 して売却目的保有に区分された有形固定資産に は適用しない8。ある有形固定資産が再評価され る場合,当該資産の属する種類の有形固定資産全 体を再評価しなければならない9。再評価モデル が採用された場合,再評価は,帳簿価額が報告期 間末日における公正価値を用いたならば算定され たであろう金額と大きく異ならないような頻度で 定期的に行わなければならない10。評価の頻度は,

再評価される有形固定資産項目の公正価値の変動 に依存する11。評価された資産の公正価値がその 帳簿価額と大きく異なる場合には,さらなる再評 価が要求される12。多額かつ著しい公正価値の変 動があるので,毎年評価が必要とされる有形固定 資産項目もある13。公正価値にわずかな変動しか 生じない有形固定資産項目には,このような頻繁 な再評価は必要とされず,3年から5年ごとに有 形固定資産項目を再評価する必要があるかもしれ ない14

 資産の帳簿価額が再評価の結果として増加する 場合には,その増加額はその他の包括利益に認識 し,再評価剰余金の科目名で資本に累積しなけれ ばならない15。なお,2008年修正IAS16より以前 のIAS16では,再評価増加額は株主持分に直接計 上する旨規定されており16,純資産と当期利益と の間にクリーンサープラス関係17 が成立していな かった。

 資産の帳簿価額が再評価の結果として減少す る場合には,その減少額は,純損益に認識しなけ ればならない18。ただし,再評価による減少額は,

(3)

国際会計基準第 16 号「有形固定資産」第 41 項の規定に関する一考察 その資産に関する再評価剰余金の貸方残高の範

囲で,その他の包括利益に認識しなければならな い19。その他の包括利益に認識された減少額は,

再評価剰余金の科目名で資本に累積されている金 額を減額する20

  そ し て,IAS16第41項 で は, 有 形 固 定 資 産 項目に関し資本に含まれている再評価剰余金 は,資産の認識の中止を行った時に,直接,利 益剰余金に振り替えられることが規定されて いる21。しかし,一部の再評価剰余金には,資 産が使用されるにつれて利益剰余金に振り替 え ら れ る も の も あ る22。そ の よ う な 場 合, 振 り替えられる再評価剰余金の額は,資産の再 評価後の帳簿価額に基づく減価償却と当初の 取得原価に基づく減価償却との差額である23

(下線部は大塚)。再評価剰余金から利益剰余金へ の振替は,純損益を通さない旨規定されている24。  問題は,同項で下線部を引いた部分である。同 項では利益剰余金に振り替えられる金額は,資産 の再評価後の帳簿価額に基づく減価償却と当初の 取得原価に基づく減価償却との差額であるとのみ 規定されている。しかしながら,建物については,

同一の有形固定資産を2度以上再評価した場合で も,「当初の取得原価」に基づく減価償却費を用い るのは不合理であると思量する。すでに1回目の 再評価時点で帳簿価額が時価に再評価され,その 再評価額に基づいて減価償却費が計算し直される からである。この点について数値例で確認し,若 干の検討を加えてみよう。

3.数値例

 本節では,営業店舗用建物を例として,会計利 益測定と再評価を数値例によって検討する。以下 では,当該建物について,2度の再評価を実施す るケースを想定した数値例を設定する25

3.1. IAS16第41項の規定に基づく場合

[設例1]

① A 社は現在保有している土地の上に営業店舗 用の建物を建設した。

② 建物の取得原価は¥10,000 である。

③ この建物から稼得されるキャッシュ・インフ ローは次の通りである:第 1 年度末¥5,000,

第 2 年度末¥4,000,第 3 年度末¥3,000,第 4 年度末¥3,000,第 5 年度末¥3,000。

④ 期末時価26は次の通りである:第 1 年度末

¥8,000,第 2 年度末¥5,000,第 3 年度末¥4,000,

第 4 年度末¥1,500,第 5 年度末ゼロ。

⑤ A 社では,第 1 年度末と第 3 年度末に再評価 を実施した。

⑥ 定率法で減価償却する。第 1 年度末の償却率 は 0.369(ただし,第 1 年度末に再評価が実施 されるため,第 2 年度末および第 3 年度末の 償却率は 0.438 とする。また,第 3 年度末に再 評価が実施されるため,第 4 年度末以降の償 却率は 0.536 とする。なお,再評価前減価償却 費は,再評価を実施しない前提で計算するた め,取得原価および償却率 0.369 を計算の基礎 として用いる。この建物の耐用年数は 5 年で,

残存価額はゼロとする。

[設例1]では,5年間の当期純利益の合計額は

¥4,837,5年間の包括利益の合計額は¥8,000で ある。再評価剰余金から利益剰余金への振替額は,

再評価後の減価償却費と取得原価に基づく減価償 却費の差額分である。再評価剰余金から利益剰余 金への振替額(以下,利益剰余金振替額)は第2年 度末¥1,176,第3年度末¥500,第4年度末¥1,217,

第5年度末¥270である。計算結果は表1の通りで ある。

 ところで,グリンヤー(Grinyer, J. R.)[1987]は,

経営者は期間毎に資産または事業全体の売却の機

- 97 -

(4)

会を検討しなければならず,資産の評価は事業へ の再投資を意味する売却価額によって行われるべ きであると主張した27。また,グリンヤー[1987]

は,経営者は投資を引き揚げる機会を有し,期間 毎に現在所有している資産を売却することの望ま しさを検証しなければならないが,既存資産の保 有を継続するとの決定は,事実上それらが売却さ れるならば生じるであろう見込現金収入の投資で あるとも述べている28。つまり,売却価値での再 評価は,一旦資産を売却し直ちに同一資産に再投 資したことと同じであり,資産の取得時期が再評 価時点から再スタートしたと考えるのが妥当であ ることになる。この考え方に照らして考えると,

IAS16第41項の「一部の再評価剰余金には,資産

が使用されるにつれて利益剰余金に振り替えられ るものもある。そのような場合,振り替えられる 再評価剰余金の額は,資産の再評価後の帳簿価額 に基づく減価償却と当初の取得原価に基づく減価 償却との差額である。」との規定は,この考え方と 整合がとれないと思量する。[設例1]を図解する と,図1のようになる。

 次に,本論で提案する同項の改訂案に基づく[設 例2]を設定し,検討してみよう。

3.2. 「一部の再評価剰余金には,資産が使用され るにつれて利益剰余金に振り替えられるものもあ る。そのような場合,振り替えられる再評価剰余 表 1 [設例 1]の下での会計利益計算(ケース 1)

  第1年度末 第2年度末 第3年度末 第4年度末 第5年度末★ 合計

キャッシュ・インフロー 5,000 4,000 3,000 3,000 3,000 18,000

再評価前期首帳簿価額 10,000 6,310 3,982 2,513 1,586  

再評価前減価償却費*1 3,690 2,328 1,469 927 1,586 10,000

再評価前期末帳簿価額 6,310 3,982 2,513 1,586 0  

(再評価1回目)            

再評価後期首帳簿価額 8,000 4,496 2,527 1,420  

再評価後減価償却費*2 3,504 1,969 1,107 1,420  

再評価後期末帳簿価額 4,496 2,527 1,420 0  

再評価後の各年度減価償却費および減価償却費5年間合計※ 3,690 3,504 1,969 1,107 1,420 11,690

(再評価2回目)            

再評価後期首帳簿価額 4,000 1,856  

再評価後減価償却費*3 2,144 1,856  

再評価後期末帳簿価額 1,856 0  

再評価後の各年度減価償却費および減価償却費5年間合計※ 3,690 3,504 1,969 2,144 1,856 13,163

(再評価1回目)            

期末時価 8,000 5,000        

再評価後期末帳簿価額 8,000 4,476        

再評価剰余金 1,690 514        

利益剰余金振替額(=*2-*1) 1,176        

(再評価2回目)            

期末時価   4,000 1,500 0  

再評価後期末帳簿価額   4,000 1,856 0  

再評価剰余金   1,487 270 0  

利益剰余金振替額   500(=*2-*1)1,217(=*3-*1)270(= 270- 0)  

当期利益(第3年度末以降は再評価後) 1,310 496 1,031 856 1,144 4,837

包括利益(第3年度末以降は再評価後) 3,000 496 2,504 856 1,144 8,000

利益剰余金振替額:減価償却費計上に伴う,再評価剰余金から利益剰余金への振替額。

※網掛けは再評価実施を示す。

★第5年度末の減価償却費は,便宜上前期末帳簿価額-¥0で計算する。

(5)

国際会計基準第 16 号「有形固定資産」第 41 項の規定に関する一考察

- 99 -

図 1 [設例 1]IAS16 第 41 項に基づく場合の包括利益測定構造

FV3=BV’’3 D’’4D4=ǼRE4 D’2D2=ǼRE2 D’3D3=ǼRE3

NI1+OCI1=CI1 NI3+OCI3=CI3 D’’5D5=ǼRE5 FV1=BV’1 OCI1 CF2 NI2=CI2 OCI3

CF1 NI1 D2’ NI3 NI4=CI4 D1 CF4

CF3

ྲྀᚓཎ౯ BV’2 D3’ D4’’

AC0=BV0 BV’3 CF5 NI5=CI5 D2 BV’4

BV1 BV2 D3

D4 D5’’

BV5=BV’5=BV’’5 BV3 BV4 D5

1ᖺᗘᮎ 2ᖺᗘᮎ 3ᖺᗘᮎ 4ᖺᗘᮎ 5ᖺᗘᮎ グྕࡢㄝ᫂㸸

CF1㹼CF5㸸➨1ᖺᗘᮎࡢ࢟ࣕࢵࢩ࣭ࣗ࢖ࣥࣇ࣮ࣟ㹼➨5ᖺᗘᮎࡢ࢟ࣕࢵࢩ࣭ࣗ࢖ࣥࣇ࣮ࣟ

D1㹼D5㸸ྲྀᚓཎ౯࡟ᇶ࡙ࡃ➨1ᖺᗘᮎࡢῶ౯ൾ༷㈝㹼ྲྀᚓཎ౯࡟ᇶ࡙ࡃ➨5ᖺᗘᮎࡢῶ౯ൾ༷㈝

NI1㹼NI5㸸➨1ᖺᗘᮎࡢᙜᮇ฼┈㹼➨5ᖺᗘᮎࡢᙜᮇ฼┈

CI1CI5㸸➨1ᖺᗘᮎࡢໟᣓ฼┈㹼➨5ᖺᗘᮎࡢໟᣓ฼┈

AC0BV0㸸ྲྀᚓཎ౯㸻➨1ᖺᗘᮇ㤳ࡢᖒ⡙౯㢠

BV1BV5㸸ྲྀᚓཎ౯࡟ᇶ࡙ࡃ➨1ᖺᗘᮎࡢᖒ⡙౯㢠㹼ྲྀᚓཎ౯࡟ᇶ࡙ࡃ➨5ᖺᗘᮎࡢᖒ⡙౯㢠 FV1㸸➨1ᖺᗘᮎࡢ᫬౯㸦෌ホ౯㢠㸧 FV3㸸➨3ᖺᗘᮎࡢ᫬౯㸦෌ホ౯㢠㸧

BV’1BV’51ᅇ┠ࡢ෌ホ౯㢠࡟ᇶ࡙ࡃ➨1ᖺᗘᮎࡢᖒ⡙౯㢠㹼1ᅇ┠ࡢ෌ホ౯㢠࡟ᇶ࡙ࡃ➨5ᖺᗘᮎࡢ ᖒ⡙౯㢠

BV’’3㹼BV’’5㸸2ᅇ┠ࡢ෌ホ౯㢠࡟ᇶ࡙ࡃ➨3ᖺᗘᮎࡢᖒ⡙౯㢠㹼2ᅇ┠ࡢ෌ホ౯㢠࡟ᇶ࡙ࡃ➨5ᖺᗘᮎ

ࡢᖒ⡙౯㢠

D’2㹼D’5㸸1ᅇ┠ࡢ෌ホ౯㢠࡟ᇶ࡙ࡃ➨2ᖺᗘᮎࡢῶ౯ൾ༷㈝㹼1ᅇ┠ࡢ෌ホ౯㢠࡟ᇶ࡙ࡃ➨5ᖺᗘᮎࡢ

ῶ౯ൾ༷㈝

D’’4D’’52ᅇ┠ࡢ෌ホ౯㢠࡟ᇶ࡙ࡃ➨4ᖺᗘᮎࡢῶ౯ൾ༷㈝㹼2ᅇ┠ࡢ෌ホ౯㢠࡟ᇶ࡙ࡃ➨5ᖺᗘᮎࡢ ῶ౯ൾ༷㈝

OCI1㸸➨1ᖺᗘᮎࡢ෌ホ౯ቑຍ㢠ࡢࡑࡢ௚ࡢໟᣓ฼┈ィୖ㢠㸦㸻➨1ᖺᗘᮎࡢ෌ホ౯๫వ㔠ィୖ㢠㸧 OCI3㸸➨3ᖺᗘᮎࡢ෌ホ౯ቑຍ㢠ࡢࡑࡢ௚ࡢໟᣓ฼┈ィୖ㢠㸦㸻➨3ᖺᗘᮎࡢ෌ホ౯๫వ㔠ィୖ㢠㸧 ǼRE2㹼ǼRE5㸸➨2ᖺᗘᮎࡢ฼┈๫వ㔠᣺᭰㢠㹼➨5ᖺᗘᮎࡢ฼┈๫వ㔠᣺᭰㢠

(6)

金の額は,資産の再評価後の帳簿価額に基づく減 価償却と当初の取得原価に基づく減価償却との差 額である。ただし,2度以上の再評価が実施され た場合,2度目以降の再評価時点の翌期以降の再 評価剰余金の振替額は,資産に対する最終の再評 価後の帳簿価額に基づく減価償却と最終の再評価 の1回前の再評価後の帳簿価額に基づく減価償却 の差額とする。(下線部は本論で提案する追加規 定)」との規定に基づいて計算する場合。なお,以 下の[設例2]①~⑤は,[設例1]①~⑤と同じと する。

[設例2]

①~⑤ [設例1]①~⑤と同じ。

⑥ 定率法で減価償却する。償却率は0.369(ただ し,第1年度末に再評価が実施されるため,第 2年度末以降の償却率は0.438とする。また,第 3年度末に再評価が実施されるため,第4年度 末以降の償却率は0.536となる。なお,再評価 前減価償却費については,第2年度末は取得原 価および取得時の償却率0.369で,第3年度末 以降は前回の再評価時点の帳簿価額および償 却率0.438で計算する。この建物の耐用年数は 5年で,残存価額はゼロとする。

表 2 [設例 2]の下での会計利益計算(ケース 2)

  第1年度末 第2年度末 第3年度末 第4年度末 第5年度末★ 合計

キャッシュ・インフロー 5,000 4,000 3,000 3,000 3,000 18,000

再評価前期首帳簿価額 10,000 6,310 3,982 2,513 1,586  

再評価前減価償却費*1 3,690 2,328 1,469 927 1,586 10,000

再評価前期末帳簿価額 6,310 3,982 2,513 1,586 0  

(再評価1回目)            

再評価後期首帳簿価額 8,000 4,496 2,527 1,420  

再評価後減価償却費*2 3,504 1,969 1,107 1,420  

再評価後期末帳簿価額 4,496 2,527 1,420 0  

再評価後の各年度減価償却費および減価償却費5年間合計 3,690 3,504 1,969 1,107 1,420 11,690

(再評価2回目)            

再評価後期首帳簿価額 4,000 1,856  

再評価後減価償却費*3 2,144 1,856  

再評価後期末帳簿価額 1,856 0  

再評価後の各年度減価償却費および減価償却費5年間合計 3,690 3,504 1,969 2,144 1,856 13,163

(再評価1回目)            

期末時価 8,000 5,000        

再評価後期末帳簿価額 8,000 4,476        

再評価剰余金 1,690 514        

利益剰余金振替額(=*2-*1) 1,176        

(再評価2回目)            

期末時価   4,000 1,500 0  

再評価後期末帳簿価額   4,000 1,856 0  

再評価剰余金   1,487 450 0  

利益剰余金振替額   500(=*2-*1)1,037(=*3-*2) 450(☆)  

当期利益(第3年度末以降は再評価後) 1,310 496 1,031 856 1,144 4,837

包括利益(第3年度末以降は再評価後) 3,000 496 2,504 856 1,144 8,000

利益剰余金振替額:減価償却費計上に伴う,再評価剰余金から利益剰余金への振替額。

※網掛けは再評価実施を示す。

★第5年度末の減価償却費は,便宜上前期末帳簿価額-¥0で計算する。

(☆)*3-*2=436であるが,減価償却が全額実現しているので,再評価剰余金の残額は全て利益剰余金に振り替える。

(7)

国際会計基準第 16 号「有形固定資産」第 41 項の規定に関する一考察

- 101 - 図 2 [設例 2]本論の改訂案に基づく場合の包括利益測定構造

FV3=BV’’3 D’’4D’4=ǼRE4 D’2㸫D2=ǼRE2 D’3㸫D3=ǼRE3

NI1+OCI1=CI1 NI3+OCI3=CI3 D’’5㸫D’5=ǼRE5 FV1=BV’1 OCI1 CF2 NI2=CI2 OCI3

CF1 NI1 D2’ NI3 NI4=CI4 D1 CF4

CF3

ྲྀᚓཎ౯ BV’2 D3’ D4’’

AC0=BV0 BV’3 CF5 NI5=CI5 D2 BV’4

BV1 BV2 D3 D’4

D4 D5’’ D’5 BV5=BV’5=BV’’5 BV3 BV4 D5

1ᖺᗘᮎ 2ᖺᗘᮎ 3ᖺᗘᮎ 4ᖺᗘᮎ 5ᖺᗘᮎ グྕࡢㄝ᫂㸸

CF1CF5㸸➨1ᖺᗘᮎࡢ࢟ࣕࢵࢩ࣭ࣗ࢖ࣥࣇ࣮ࣟ㹼➨5ᖺᗘᮎࡢ࢟ࣕࢵࢩ࣭ࣗ࢖ࣥࣇ࣮ࣟ

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NI1NI5㸸➨1ᖺᗘᮎࡢᙜᮇ฼┈㹼➨5ᖺᗘᮎࡢᙜᮇ฼┈

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(8)

 [設例2]によるケースでの利益剰余金振替額に ついては,第2年度末と第3年度末は[設例1]と 同額であるが,第4年度末以降に違いが生じる。

第4年度末の利益剰余金振替額は¥1,037,第5年 度末のそれは¥450となる。再評価剰余金の利益 剰余金の振替額を,最終の再評価後の減価償却費 と最終の再評価の1回前の再評価に基づく減価償 却費の差額に改めたからである。[設例1]と[設 例2]は当期利益および包括利益ともに違いは生 じないものの,第4年度末以降の再評価剰余金残 高と利益剰余金の振替額に違いをもたらすことと なった。[設例2]を図解すると,図2の通りである。

また,計算結果は表2に示した。

3.3. 小括

 第4節の検討結果をまとめると,[設例1]と[設 例2]では,減価償却費,当期利益,包括利益は同 額であるものの,第4年度末以降の再評価剰余金 残高と利益剰余金の振替額が異なる数値となっ た。再評価は,一旦資産を売却し直ちに同一資産 に再投資したことと同じであるとみなせば,利益 測定の基礎は再評価時点から再スタートしたと考 えるのが妥当である。現行のIAS16第41項の規定 では,仮に企業が有形固定資産を2度以上再評価 した場合に,2度目以降の再評価剰余金の利益剰 余金への振替額と再評価剰余金の残高が利益測定 の基礎の改訂を反映しない数値となってしまう可 能性を内包していると言わざるを得ない。

 有形固定資産の再評価が当該資産に関する透明 性の高い報告を行うことを重要な目的の一つとし ていると考える場合29,現行同項の規定による処 理を施せばその目的を達成できない可能性があ る。

4.おわりに

 本論ではまず,IAS16の規定を概観し,同第41 項の規定の問題点を指摘した。それを受けて,同 項に基づく数値例と本論で提案する改訂案に基づ く数値例をそれぞれ設定し,具体的な問題点につ いてさらに議論した。

 第2節では,IAS16第41項について議論するに 当たり, IAS16の規定を確認した。再評価の結果 生じた再評価剰余金について,同項は資産の使用 に応じて利益剰余金に振り替える場合,その振替 額については,振り替えられる再評価剰余金の額 は,資産の再評価後の帳簿価額に基づく減価償却 と当初の取得原価に基づく減価償却との差額であ る旨規定しているのであった。しかしながら,建 物については,同一の有形固定資産を2度以上再 評価した場合でも,「当初の取得原価」に基づく減 価償却費を用いることは不合理であるとした。す でに1度目の再評価時点で帳簿価額が時価に再評 価され,その再評価額に基づいて減価償却費が計 算し直されるからである。

 そこで第3節では,営業店舗用建物を例として,

2度の再評価を実施するケースを想定した数値例 を設定して検討した。[設例1]はIAS16第41項の 規定に基づく数値例を,[設例2]は本論で提案す る同項の改訂案に基づく数値例をそれぞれ設定 し,議論した。[設例1]と[設例2]では,減価償 却費,当期利益,包括利益は同額であるものの,

第4年度末以降の再評価剰余金残高と利益剰余金 の振替額が異なる数値となった。再評価は,一旦 資産を売却し直ちに同一資産に再投資したことと 同じであるとみなせば,利益測定の基礎は再評価 時点から再スタートしたと考えるのが妥当であ る。現行のIAS16第41項の規定では,仮に企業が 有形固定資産を2度以上再評価した場合に,2度 目以降の再評価剰余金の利益剰余金への振替額と

(9)

国際会計基準第 16 号「有形固定資産」第 41 項の規定に関する一考察 再評価剰余金の残高が利益測定の基礎の改訂を反

映しない数値となってしまう可能性をもたらすと 言わざるを得ない。

 有形固定資産の再評価が当該資産に関する透明 性の高い報告を行うことを重要な目的の一つとし ていると考える場合,同項の規定による処理を施 せばその目的を達成できない可能性がある。同項 を本論で提案する改訂案に改めることで,上記の 目的に適う報告に近づけることができると思量す るものである。

参考文献

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Grinyer, J.R. [1987], “Revaluation of Fixed Assets in Accruals Accounting,” Accounting and Business Research, Vol.18, No.69, 1987, pp.17-24.

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2007』レクシスネクシス・ジャパン,2008 年。)

※ 以下の国際会計基準については,国際会計基準 委員会編・企業会計基準委員会・財団法人財務 会計基準機構監訳『国際会計基準審議会 国 際財務報告基準(IFRSs)2010』中央経済社,

2010 年に収録されている,2009 年 12 月 31 日ま での修正を反映した基準書である。

International Accounting Standards Board (IASB)[2009a], International Accounting Standard (IAS) 1 (amended 2009), Presentation of Financial Statements, 2009.

International Accounting Standards Board (IASB) [2009b], International Accounting Standard (IAS) 2 (amended 2009), Inventories, 2009.

International Accounting Standards Board (IASB) [2009c], International Accounting Standard (IAS)16 (amended

2009), Property, Plant and Equipment, 2009.

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King, A.F.[2006], Fair Value for Financial Reporting:

Meeting the New FASB Requirements, Willy & Sons, 2006.

古賀智敏[2000]『価値創造の会計学』税務経理協会,

2000 年。

1 IASB [2009b], paras.2 and 6, and IASB [2009d], para.9 (a).

2 IASB [2009a], para.66.

3 IASB [2009d], para.5.

4 Ibid.,para.2.

5 Ibid.,para7.

6 Ibid.,para5.

7 IASB [2009c], para.2.

8 Ibid.,para.3 (a).

9 Ibid.,para.36.

10 Ibid.,para.31.

11 Ibid.,para.34.

12 Ibid.,para.34.

13 Ibid.,para.34.

14 Ibid.,para.34.

15 Ibid.,para.39.

16 IASB [2007], para.39.

17 Christensen=Feltham [2003] p.10で は, ク リ ー ン サープラス関係は,配当を除いて,株主持分簿 価の変動は損益計算書に記録されることである と述べられている。

18 IASB [2009c], para.40.

19 Ibid.,para.40.

20 Ibid.,para.40.

21 Ibid.,para.41.

22 Ibid.,para.41.

23 Ibid.,para.41.

- 103 -

(10)

24 Ibid.,para.41.

25 King [2006], p.213では,通常は土地が増価する

と同時に,建物も増価すると指摘されている。

26 本設例における「時価」とは,単純に,市場で 取引されている価格(市場価格)とする。

27 Grinyer [1987], p.22.

28 Ibid.,p.20.

29 古賀[2000], p.157.

(11)

国際会計基準第 16 号「有形固定資産」第 41 項の規定に関する一考察

A Study of a Rule of Paragraph 41 of International Accounting Standard 16

OTSUKA Ryoji

abstract

This paper discusses a rule of paragraph 41 of International Accounting Standard (IAS 16), Property, Plant, and Equipment (PPEs). A rule of paragraph 41 of IAS 16 is appropriate when a procedure of revaluation is implemented once only, but when procedures of revaluation of PPEs are implemented more than once, this rule is inappropriate. A rule of paragraph 41 is not assumed in case revaluations are implemented more than once, so this rule needs to be amended to a rule that is assumed in case revaluations are implemented more than once. If one of purposes of revaluations is to implement transparent report about PPEs, when a procedure based a rule of paragraph 41 is conducted, this purpose is failed to meet. This paper proposes a revision of a rule of paragraph 41 of IAS 16 to meet this purpose.

key words

paragraph 41, revaluation surplus, earned surplus

- 105 -

(12)

図 1 [設例 1]IAS16 第 41 項に基づく場合の包括利益測定構造

参照

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