Ⅰ.緒言
無酸素運動において発揮されるパワーの測定は,
「垂直跳び」や「階段駆け上り」のように自重を負荷と した測定から,自転車エルゴメータのような労作計を 用いた測定など多種多用である(深代ら
1993
,生田 ら1972
・1973
,金久1994
,金子1979
,中村ら1984
・1987
・1988
,高松ら1989
,若山ら1996
,山本1994
).その自転車エルゴメータを用いた最大無酸素パワー の測定では,いくつかの異なる負荷と回転速度との関 係を一次回帰式に表すことで,実際には測定されて
いない負荷での回転速度を補間し,最大パワーを推 定する方法(中村ら
1984
)が一般化されている.また, 等速性筋力測定器の普及にともない,単関節特に膝 関節における伸展・屈曲筋力の測定も多く行われて いる.この等速性筋力測定装置は,運動角速度を多 段階に変えることができるため,Fenn
(1935
),Hill
(
1938
)らの示した生体筋の力−速度関係(実際には 関節というテコを介したみかけの力)を観察でき,さら には角速度と発揮筋力を乗ずることにより発揮パワー の指標としても利用できる(Johansson et al. 1978, Perrine et al. 1978, Prietto et al. 1989, Taylor et al.
自転車エルゴメータを用いた無酸素性パワー測定値を どう評価するか
Considerations for Evaluate the Anaerobic Power by Bicycle Ergometer
Key Words:Pedaling power , Isokinetic knee extension , Blood lactate , Wingate test
若山 章信
ABSTRACT
In recent years, maximal anaerobic power of athletes has been usually evaluated by using a bicycle ergometer. Several loads and those of pedaling rate (force-velocity relationship) are usually used to presume the maximal power. The purpose of this study was to consider the anaerobic power evaluation by bicycle ergometer from the isokinetic knee extension torque and power, blood lactate concentration and V
4O
2max. Subjects were 13 elite male sprinters (A), 23 professional male cyclists (B) and 9 elite middle distance female runners (C). Results were as follows.
(A) Maximal anaerobic power measured by using a bicycle ergometer was more advantageous to a “force type” who exceeds in pedaling in heavy loading than a “speed type”.
(B) In the 10 seconds of a maximal pedaling by the bicycle ergometer, it was suggested that it is concerned with a lactic energy supply mechanism despite of the load or output power. Moreover, the maximal anaerobic power presumed from three loads showed the low value about 10% in rest 2 minutes compared with in rest 10 minutes. This is because, re-synthesis of Creatine phosphate does not enough in 2 minutes and muscle contraction inhibitory factors such as lactic acid accumulate.
(C) In 60 seconds of supramaximal power output, every 5 seconds instance power were
significantly correlated with the maximal anaerobic power and blood lactate accumulations for 5 to
30 seconds. After 35 seconds that were significantly correlated with V
4O
2max. Those were suggested
that the contribution of aerobic energy supply becomes high after 30 seconds.
1991
,若山ら1996
,Wickiewicz et al. 1984
).上述の最大無酸素パワーが,主に非乳酸性エ ネルギー供給系に依存すると考えられるのに対し,
Wingate test
(Coleman et al. 1985, Jacobs et al.
1983
)に代表される30
秒間のペダリングパワーは, 乳酸性エネルギー供給系のパワー(以下,乳酸性 パワー)の測定として用いられている.本研究では以下の観点から実験を行い,自転車エ ルゴメータを用いた無酸素性パワー測定について, その留意点を検討した.
1
)最大無酸素パワーについて① 最大無酸素パワーと最大膝伸展筋力・最 大膝伸展パワーの関係
② 最大無酸素パワー測定における休息時間 の影響
2
)乳酸性パワーについて①
10
秒から40
秒までのパワー発揮での血中 乳酸値の比較②
60
秒間ペダリングにおける5
秒ごとの発揮 パワーと,最大無酸素パワー・血中乳酸値・最大酸素摂取量との関係
なお,本論文は,筆者らがこれまでに学会で発表し た内容(文末参照)をまとめた総説である.
Ⅱ.方法
4
つの実験に共通する事項を,先に概略する.実験 に先立ち,実験1
から3
では被験者に実験の目的・内 容や安全性について口頭で説明し,書面での同意を 得た(未成年者の場合,クラブ顧問の同意を含む).実験
4
では,被験者およびクラブ顧問に実験の目的・内容や安全性について口頭で説明し,口頭での同意 を得た.すべての測定は,十分な準備運動の後に実
施した.
自転車エルゴメータは電磁ブレーキ式(
Combi
社製:PowermaxV
)を用いた.トゥクリップにより足部 をペダルに固定したが,加速期のサドルへの着座 は自由とした.最大無酸素パワーは,3
負荷とペダル最高回転速度との関係(最小自乗法による直線回帰)
から推定されるパワーの最大値とし,その負荷を至適 負荷とした(中村
1984
).20
秒から60
秒の全力ペダ リングにおいては,できるだけ早く最高回転速度に上 げ,ペース配分をせずに最後まで全力で漕ぎきること を指示した.血中乳酸値は,ウォーミングアップ後の安静時およ び運動後の最高値となる測定終了
5
分後(Dodd et al. 1984, Hirvonen et al. 1987
)に指先より40μl
の血 液を採取し,ただちに全血から血中乳酸値を分析した(
YSI
社製:1500sport
).結果は平均値±標準偏差で示した.統計処理は, 対の
T
検定,繰り返しのある一元配置分散分析とFisher
のprotected LSD
法およびPeason
の相関分析 を行った.危険率の有意水準は5
%未満とした.以 下,体 重:
BW
(Body weight
),最 大 無 酸 素 パ ワ ー:ManP
(Maximal anaerobic power
), 最 大 膝 伸 展パワー:MkeP
(Maximal knee extension power
),最大膝伸展トルク:MkeT
(Maximal knee extension torque
),血中乳酸値:BLa
(Blood lactate concentration
)と略す.1
.最大無酸素パワーと最大筋力・最大膝伸展パ ワーの関係1
)被験者被験者は,男子プロ競輪選手
23
名で,被験者の 年 齢,身長および体 重は,27.2
±4.3yrs
,171.8
±6.4cm
,73.2
±8.5kg
であった.なお,競輪選手にオ フはなく,以下の測定はシーズン中の午前と午後に,十分な休憩時間を挟んで行った.
2
)等速性膝伸展筋力および最大膝伸展パワーの測定 膝伸展筋力は等速性筋力測定装置(Lumex
社製:Cybex340
)を用い,30, 60, 180 deg/s
の3
速度におけ る膝伸展筋力(トルク)の最大値(重力補正なし)を,座位にて膝
90
度屈曲位から最大伸展位まで,各速 度について連続3
回,小休止を挟んで2
セット,両脚 について行った.測定順序は,低速度(30 deg/s
)か ら順に行い,各測定速度間の休憩は1
分以上とした. 次に,この3
速度における速度−力(トルク)関係を,2
)10
〜40
秒間パワーと血中乳酸値の測定7.5%BW
(平均4.7kp
)の負荷での10
秒から40
秒ま で(10
秒刻み)の全力駆動を行わせ,総仕事量と平均 パワーを算出した.また,BLa
の測定を行った.なお, 測定はオフシーズン中の2
月に,10
秒,40
秒,20
秒,30
秒の順に,1
週間の間隔をあけた2
日間で行った.4
.60
秒間ペダリングにおける5
秒ごとの発揮パ ワーと各種パラメータとの関係1
)被験者被験者は全日本大学女子駅伝に出場した
8
名を含 む女子中・長距離選手9
名で,被験者の年齢,身長 および体重は,19.8
±1.3yrs
,158.5
±3.9cm
,47.8
±4.0kg
であった.2
)60
秒間パワーと各種生理学的パラメータの測定 以下に示す測定は,トラックレースシーズン中の8
月に,連続する2
日間に十分な休憩を挟んで実施した.(
1
)60
秒間パワーおよび血中乳酸値乳酸性パワーの指標として,
7.5%BW
(平均3.6kp
) の負荷での60
秒間全力駆動を行わせ,5
秒毎の瞬 時発揮パワーと60
秒間の平均パワーを算出した. 同時に,自動呼気ガス分析器(ミナト医科学社製:Aeromonitor AE 280S
,Breath by Breath
法)により10
秒間毎の酸素摂取量(V
4O
2:1
分値に換算)を測 定した.また,BLa
を分析した.(
2
)最大無酸素パワー体重を考慮し,
50kg
以上では3, 4, 5kp
,50kg
未 満では2, 3, 4kp
の3
負荷からManP
を測定した.駆 動時間は最高回転速度に達するまで(7
秒程度)とし, 休息時間は2
分間とした.(
3
)最大酸素摂取量最 大 酸 素 摂 取 量(
V
4O
2max
)は,トレッドミル(
Woodway
社製:ELG 2
)を用いて漸増速度法に より測定した.走行速度は200m/min
から1
分毎に10m/min
ずつ上昇させ,11
分以降は傾斜を2
度ず つ増加させ,all-out
まで追い込んだ.最大酸素摂取 自然対数e
を底とする指数関数式にあてはめた.なお,筋の粘性抵抗による損失
kv
の項は無視できるほど 小さい(Fenn 1935
)ため除外した.F
=F
0・e
−av (kv
)F
:発揮筋力,F
0:最大筋力,e
:自然対数(2.718
),a
:張力損失係数,v
:角速度(radi/s
),そして,この指数関数式上における等尺性最大膝伸 展筋力(
F
0:MkeT
)と,角速度(v
)と発揮筋力(F
)を 乗じて算出される発揮パワーの最大値(MkeP
)を算 出した(若山1996
).なお,指数関数にあてはめる筋 力値は両脚の平均値を用い,MkeP
はその値を2
倍し て両脚あたりとした.2
. 最大無酸素パワー測定における休息時間の影響1
)被験者被験者は高校総体出場レベ ルの男子陸上短距 離選手
13
名で,被験者の年齢,身長および体重は,17.3
±0.7yrs
,173.8
±4.6cm
,65.9
±6.5kg
であった. なお,以下の測定は,オフシーズン中の1
月に,①か ら④の順に1
週間の間隔をあけた2
日間で行った.2
)最大無酸素パワーの測定ManP
の測定は,1
,4
,7
,10kp
の順に10
秒程度 の全力駆動を,①各測定間の休息2
分,②各測定間 の休息10
分の2
条件で行った.最大無酸素パワー は4
,7
,10kp
の3
負荷より推定した.また,内9
名の 被験者に対し,③7.5%BW
(平均4.8kp
)および④15%BW
(平均9.7kp
)の負荷での10
秒間全力駆動 を行わせ,①の1kp
(約1.5%BW
)とともに血中乳酸値を分析した.
3
.10
秒から40
秒までのパワー発揮での血中乳 酸値の比較1
)被験者被験者は高校総体出場レベ ルの男子陸上短距 離選手
12
名で,被験者の年齢,身長および体重は,16.7
±1.0yrs
,171.5
±3.8cm
,62.6
±6.8kg
であった.量の
criteria
は心 拍 数180bpm
以 上,呼 吸 交 換 率1.15
以上とし(大柿1977
),前述の呼気ガス分析器に より測定した.Ⅲ.結果
1
. 最大無酸素パワーと最大筋力・最大膝伸展パ ワーの関係Tab. 1
に結果を示した.等速性筋力測定器によるMkeP
は939
±139W
,MkeP/BW
は12.8
±1.42W/kg
,MkeT
は275
±38.1Nm
,MkeT/BW
は3.8
±0.5Nm/
kg
であった.また,自転車エルゴメータによるManP
は1201
±149W
,ManP/BW
は16.4
±1.1W/kg
であった.最 大 膝 伸 展パワー が発 揮される至 適 速 度と
MkeP/BW
との間には,有意な相関関係が認められ(
r=0.861
,p<0.001
),最大無酸素パワーが発揮され る至適負荷(体重あたり)とManP/BW
の間にも,有意 な相関関係が認められた(r=0.876
,p<0.001
).Fig.
1
にMkeT/BW
とManP/BW
の関係を示した.これに は,有意な相関関係(r=0.462
,p<0.05
)が認められ た.Fig. 2
にMkeP/BW
とManP/BW
の関係を示した. これには,有意な負の相関関係(r= 0.722
,p<0.001
)が認められた.
2
.最大無酸素パワー測定における休息時間の影響Tab. 2
に結果を示した.休息2
分に対して休息10
分 でのペダル回転速度は,4kp
から10kp
までのすべてに おいて有意に高く,ManP
で110W
(9.6
%),ManP/BW
では1.8W/kg
(10.1
%)高値を示した(ともにP<0.001
).Tab. 3
にBLa
の測 定 結 果を示した.運 動5
分 後 の最大値は分散分析の結果わずかに有意な差とは ならなかった が(F=3.46
,p=0.056
),安 静 値を引 いたΔBLa
は5%
水準の危険率で有意な差となった(
F=4.38
,p=0.03
).protected LSD
法による比 較 では,7.5%BW
でのΔBLa
は,1kp
および15%BW
で のΔBLa
に対し有意に高い結果となった.また,1kp
における10
秒間平均パワーは219
±8.22W
であり,15%BW
(平均9.7kp
)での1182
±111W
の20
%に満 たないにも関わらず,ΔBLa
に有意差は認められな かった(4.9mM
および4.7mM
).Table 1. Parameters of maximal anaerobic power and maximal knee extension power Maximal knee extension power (W) 939
±139
MkeP/BW (W/kg) 12.8
±1.4
Optimal velocity (deg/s) 271
±53.1 Maximal knee extension torque (Nm) 275
±38.1
MkeT/BW (Nm/kg) 3.8
±0.5
Peak torque 30deg/s (Nm) 244
±30.5 Peak torque 60deg/s (Nm) 217
±26.6 Peak torque 180deg/s (Nm) 137
±15.9 Maximal anaerobic power (W) 1201
±149
ManP/BW (W/kg) 16.4
±1.1
Optimal load (kp) 9.8
±1.4 Maximal pedaling rate 4kp (rpm) 199
±6.9 Maximal pedaling rate 7kp (rpm) 159
±9.9 Maximal pedaling rate 10kp (rpm) 121
±15.7
Means ± SD
y = 1.12x + 12.2 r = 0.462
p < 0.05
0 5 10 15 20
0 1 2 3 4 5
Maximal anaerobic power (W/kg)
Maximal knee extension torque (Nm/kg)
Maximal anaerobic power (W/kg)
Maximal knee extension power (W/kg) y =-0.580x + 23.9
r =-0.722 p < 0.001
5 10 15 20
5 10 15 20
Figure 1. The relationship between MkeT/BW and ManP/BW
Figure 2. The relationship between MkeT/BW and ManP/BW
3
.10
秒から40
秒までのパワー発揮での血中乳 酸値の比較Tab. 4
およびFig. 3
に結果を示した.運動後の血 中乳酸値は10
秒ペ ダリングで7.0
±0.7mM
,40
秒 ペダリングで12.1
±0.8mM
となり,10
秒毎に有意に 上昇した.そして,血中乳酸値の差分からみた各10
秒間での蓄積量には有意な差が認められ(F=59.1
,P<0.001
),最初の10
秒間が5.5
±0.7mM
で最も高く,10
秒から20
秒の間では2.2
±0.8mM
と急激に乳酸蓄 積量が減少していた(P<0.001
).そして,10
秒から40
秒までの30
秒間では5.0
±0.7mM
の蓄積量であっ た.Table 2. Peak pedaling rate, maximal anaerobic power and optimal load of two different protocols
Table 3. Blood lactate concentration in 10 seconds of pedaling at three loads
Table 4. Total work, mean power and blood lactate concentration in 10 to 40 seconds of pedaling at load of 7.5%BW
0 2 4 6 8 10 12 14 16 18
0 50 100 150 200 250 300 350 400 450
10s 20s 30s 40s
Blood lactate (mM)
Work (J/kg)
Time Total work ΔWork Blood lactate Δ Blood lactate
MeansrSD
Figure 3. Work and blood lactate concentration for 10 to 40s of pedaling.
rest 2 min. rest 10min.
Peak pedaling rate 1kp (rpm) 236
±9.6 237
±11.2
Peak pedaling rate 4kp (rpm) 194
±9.8 * 197
±10.0 Peak pedaling rate 7kp (rpm) 158
±14.2 ** 164
±13.9 Peak pedaling rate 10kp (rpm) 114
±17.4 ** 123
±21.8 Maximal anaerobic power (W) 1155
±165.1 *** 1265
±231.7
Manp/BW (W/kg) 17.3
±1.43 *** 19.1
±2.24
Means ± SD *** p<0.001, ** p<0.01, *p<0.05
≒
1.5%BW 7.5%BW 15%BW
Load (kp) 1.0 4.8
±0.4 9.7
±0.9
Peak pedaling rate (rpm) 238
±9.86 197
±7.33 136
±9.65
Mean power (W) 219
±8.22 867
±96.5 1182
±111
Pre-exercise blood lactate (mM) 1.4
±0.3 1.5
±0.3 1.8
±0.3
Post-exercise blood lactate (mM) 6.2
±0.8 7.2
±0.6 6.5
±0.8
ΔBlood lactate concentration (mM) 4.9
±0.7 ** 5.7
±0.6 * 4.7
±0.9
Significant levels were compared 7.5%BW with both sides. Means ± SD *** p<0.001, ** p<0.01, *p<0.05
Time (sec) 10s 20s 30s 40s
Total work (kJ) 8.2
±1.22 15.0
±2.00 20.8
±2.59 25.5
±3.25
Total work/BW (J/kg) 131
±7.9 239
±13.5 332
±18.8 407
±19.4
Mean power (W) 822
±117 748
±96 693
±83 637
±78
Mean power/BW (W/kg) 13.1
±0.72 11.9
±0.56 11.1
±0.49 10.2
±0.42
Pre-exercise blood lactate (mM) 1.5
±0.3
Post-exercise blood lactate (mM) 7.0
±0.7 *** 9.2
±0.9 *** 10.6
±0.8 *** 12.1
±0.8
Δ Blood lactate accumulation (mM) 5.5
±0.7 *** 2.2
±0.8 * 1.4
±0.8 1.5
±0.9
Significant levels were compared with both sides. Means ± SD *** p<0.001, ** p<0.01, *p<0.054
.60
秒間ペダリングにおける5
秒ごとの発揮パ ワーと各種パラメータとの関係Tab.5
に測定結果を示した.Fig.4
には5
秒毎の瞬 時発揮パワーと10
秒間毎のごとのV
4O
2を示した.50
秒から60
秒までの10
秒間のV
4O
2は,43.9
±5.19ml/
min/kg
であり,V
4O
2max
に対して80.5
±7.42%
を示し た.Fig.5
に,5
秒毎のペダル回転速度と,V
4O
2max/
BW
,ManP/BW
,BLa
それぞれとの相関係数を時系 列で示した.30
秒までは,ManP/BW
およびBLa
と有 意な相関を示したのに対し,35
秒以降はV
4O
2max/
BW
と有意な相関を示した.Ⅳ.考察
自転車エルゴメータと等速性筋力測定器による無 酸素性パワーの測定は,前者が両脚複数関節の連 続運動,後者が片脚単関節の単発運動という点で異 なるものの,どちらも脚の無酸素的な筋パワーの測定 である.物理量であるパワーは「力×速度」で決定さ れため,無酸素性パワー発揮を「力」と「スピード」と いう要素でみてみると,至適速度の高い「スピード型」
の選手ほど最大膝伸展パワーが高く,等速性筋力 測定器による無酸素性パワー測定は「スピード型」に 有利な測定といえる.そして,至適負荷がより重負荷 で最大パワーを発揮できる「力型」の選手ほど最大 無酸素パワーが高く,自転車エルゴメータによる無 酸素性パワー測定は「力型」に有利な測定といえる.
MkeT/BW
とManP/BW
の有意な相関関係は,自転 車エルゴメータを用いた最大無酸素パワーの測定 が「力型」に有利であることを裏付ける結果であり,こ のことは「単発的パワーは運動速度が大きくなるほど, 反復的パワーは負荷重量が大きくなるほど高値を示 した」とした山本(1994
)の報告とも一致する.そして,MkeP/BW
とManP/BW
は有意な負の相関関係を示 した.一般的には,最大無酸素パワーと最大膝伸展 パワーは,脚の無酸素性パワーを測定するという点で は共通するため,筋量の多い(体重の重い)選手ほど 絶対値では大きなパワーが発揮できる.しかし,自転 車エルゴメータでは「力型」の選手ほど大きなパワー を発揮できるのに対し,等速性筋力測定器では逆に「スピード型」の選手ほど大きなパワーを発揮できる ため,体重あたりの相対値ではその選手個々の「力 型」か「スピード型」かというパワー発揮特性(高松ら
1989
)によって,測定器間の評価に差が生じたといえ る.最大無酸素パワーの測定では,数種類の負荷を 用い,駆動時間は
5
秒から10
秒以内で,各測定間 の休息は2
分(中村ら1984
)から10
分程度(高松ら1989
,山本1994
)で行われることが多い.今回,2
分 間の休息では,10
分間の休息に比べ,10%
程度最 大パワーが過小評価されることが明らかとなった.中 村ら(1984
)は,今回用いた3
種類の負荷から最大Table 5. Parameters of the anaerobic and aerobic measurements
Maximal anaerobic power (W) 355
±36.0
ManP/BW (W/kg) 7.6
±0.8
7.5%BW load (kp) 3.6
±0.3 60s mean power (W) 282
±15.2 60s mean power/BW (W/kg) 5.9
±0.4 Post-exercise blood lactate (mM) 11.4
±1.73
V
4O
2max (ml/min/kg) 54.5
±3.41
Means ± SD0 10 20 30 40 50 60
0 2 4 6 8 10 12
0 10 20 30 40 50 60
VO2/BW(ml/min/kg)
Every 5s power (W/kg)
Time (s) Power
VO2
MeansrSD
-0.250 0.000 0.250 0.500 0.750 1.000
0 10 20 30 40 50 60
correlation coefficient (r)
Time (s) VO2max/BW ManP/BW Peak blood lactate
p<0.001 p<0.01 p<0.05
Figure 4. Changes of the every 5s of pedaring power and the every 10s of oxgen intake
Figure 5. Correlation coefficients between the every
5s of pedaring power and physiological parameters
無酸素パワーを推定する方法を検討する際,駆動 時間を
10
秒以内,休息時間を2
分以上で行った.こ の2
分という休息時間は,運動後の酸素負債を非乳 酸性酸素負債(ATP
とクレアチン燐酸の再合成)と 乳酸性酸素負債(乳酸の緩衝)に分けて考えた場合(
Margaria 1933
),非乳酸性酸素負債が2
分程度で 完了することから(Green et al. 1993
),最低必要な休 息時間として設定されたものと推察される.そして,こ の時用いられた2
分という休息時間が現在多くの測 定で用いられている.しかし,3
種類(ウォーミングアッ プの1kp
を含めて4
種類)の負荷から最大無酸素パ ワーを推定した場合,2
分の休息時間では10
分の 休息時間と比べ最大無酸素パワーの絶対値,体重 あたりとも10
%程度過小評価されることとなった.駆 動時間は異なるものの筋生検による実験では,4分 程度でexhaust
に至る運動によって消費されたクレア チン燐酸が運動後2
分では84
%程度(Harris et al.
1976
),30
秒の超最大運動では4
分弱の休息時間 であっても78
%しかクレアチン燐酸が再合成されな かったことが報告されている(Bogdanis et al. 1996
).さらに,
Hirvonen et al.
(1987
)はスプリントにおいて 加速期のほんの数秒間に多くのクレアチン燐酸が 消費されることを報告している.すなわち,2
分の休 息による最大無酸素パワーが低値を示した理由のひ とつとして,休息時間内にクレアチン燐酸が100
% 再合成されないことがあげられる.ところで,Jacobs et al.
(1983
)は10
秒間の超最大自転車駆動後の血中 乳酸値が30
秒間の駆動に対し50
%程度であったこ とを報告しており,本研究において,10
秒間の血中 乳酸上昇量(5.5mM
)は,その後の30
秒間の上昇量(
5.0mM
)と同程度であった.また,10
秒間の全力 ペダリングであっても血中乳酸値は7mM
程度まで上 昇し,1kp
と15%BW
(平均9.7kp
)の血中乳酸値の比 較からも,超最大運動においては,その負荷や出力パ ワー(仕事量)に関わらず10
秒程度でも乳酸性エネ ルギー供給機構が関与することが示唆された.さら にBalsom et al.
(1992
)は,40
mのスプリント(6
秒未 満)を30
秒から2
分の休息で15
本繰り返す実験を行 い,疾走速度は2
分の休息においても4
本目から低下 傾向を示し(7
本目からは有意な低下),血中乳酸値は
2
分の休息においても蓄積されることを報告してい る.すなわち,2
分間の休息による最大無酸素パワー 測定では,乳酸の蓄積による筋収縮抑制(筋漿pH
の低下)による出力パワーの低下も考えられる(田畑ら1989
).なお,本研究では軽負荷から順に測定を行っ たため,最大無酸素パワー値に最も影響を及ぼす至 適負荷付近の測定が最終負荷となった.この測定順 序では,クレアチン燐酸の低下や乳酸の蓄積によっ て,最大無酸素パワーはより過小評価されたものと考 えられる.以上のように,
10
秒程度の運動であっても,乳酸 性エネルギー供給機構が大きく関与することが明らか となった.そこで,60
秒間のペダリングによる5
秒毎 の瞬時パワーと,各種パラメータとの関係をみると,5
秒時点ですでに最高血中乳酸値と有意な相関関係 が認められている.そして,30
秒までは最大無酸素パ ワーや最高血中乳酸値と高い相関を示し,それ以降 は最大酸素摂取量と有意な相関を示した.すなわち,Wingate test
に代表される30
秒間の全力駆動は,無 酸素性パワーを評価する運動として最適であり,それ 以降は,有酸素性エネルギー供給の貢献が高くなる ことが示唆された.Ⅴ.まとめ
本研究では,男子陸上短距離選手
13
名,男子プ ロ競輪選手23
名および女子中・長距離選手9
名を 被験者として,自転車エルゴメータを用いた10
秒か ら60
秒間の発揮パワーを測定し,最大無酸素パワー,膝伸展筋力,血中乳酸値,最大酸素摂取量などとの 関係を検討し,以下の知見を得た.
1
) 自転車エ ルゴメータを用いた最大無酸素パ ワーは,重負荷でのペダリングに優れた「力型」に有利な,等速性筋力測定器を用いた最大膝 伸展パワーの測定は高速度での筋出力に優れ た「スピード型」に有利な測定であることが明ら かとなった.