強地震記録を用いた表層地盤の増幅特性の簡易評価法
Simple evaluation of amplification in surface layers based on strong motion records
土木工学専攻 14 号 江尻 健太 Kenta Ejiri
1.はじめに:
地盤の地震動増幅率は基盤・地表間の S 波速度比と 密接な関係があることが知られている
1).我々はすで
に KiK-net 鉛直アレー記録を用いて等価な表層の平均
S 波速度 Vs と基盤の Vs との比を使って水平動の増幅 率を精度良く評価できる経験式を提案した.2)3)その成 果に基づき,今回は, (i)鉛直動の表層地盤での増幅 が P 波速度 Vp を使って水平動と類似の手法で評価可 能かの検討. (ii)地盤が強い非線形性を示した兵庫県 南部地震における4地点の鉛直アレー記録を用いて水 平動の増幅率と S 波速度比との関係の検討を行った.
(i)に関しては,大前提として,鉛直動が工学的に は主に P 波の鉛直方向伝播による重複反射理論により 説明できると仮定している.防災科学技術研究所の
KiK-net 記録を用いて,強い揺れを観測した 2003 年十
勝沖地震 (20 地点) , 2004 年新潟県中越地震 (15地点) , 2008 年岩手・宮城内陸地震(17 地点) , 2007 年新潟県 中越沖地震( 10 地点)における多数の地盤での基盤- 表層間のピーク増幅度を分析した.
そのために,地表-基盤間でのスペクトル比のピークを 生起する表層厚とその平均 P 波速度
Vpを各ピークご とに 1/4 波長則によりピーク振動数が一致するように 定義し,基盤 P 波速度に対する
Vpの比(
Vp比
=
Vsb/
Vp) と対応する地表-基盤露頭との間のピーク増 幅率との関係を調べた.
(ii)に関しては,近年発生した強地震の中で最も 非線形性の強く現れた兵庫県南部地震について,地中 の鉛直アレー記録から基盤での仮想露頭時刻歴を計算 し, 地表記録とのスペクトル比のピーク増幅率と, 我々 の定義した平均 S 波速度
Vsとの比の関係が,以前に 我々が提案した評価式とどの程度整合するかを調べる.
そのため,ポートアイランド(PI),総合技術研究所
(SGK),高砂発電所(TKS),海南港変電所 (KNK)の4地
点における本震と余震の加速度記録を用いて,上昇波 成分のみのスペクトル比のピーク増幅率と平均 S 波速 度比(
Vs比)との関係を調べた.
Ⅰ.鉛直動増幅率の検討
Ⅰ-1.用いた観測点の特徴と平均
P波速度算定法:
上記(i)の研究に関して今回用いた KiK-net 観測点 の地震計(EW, NS, UD の 3 成分)は地表と地中に 1 ヶ
所ずつ設置されており,地中地震計の深度 EL-100 〜 300m である.地表層と地中地震計が設置された深度
(基盤と呼ぶ)での Vp をグラフの縦軸と横軸にとって
今回用いた全観測地点についてプロットしたのが図-1 である.これより,地表層の Vp は大半が 600m/s 以下 であるのに対し,基盤での Vp は 1500 〜5500m/s の広
1500 2000 2500 3000 3500 4000 4500 5000 5500 0
200 400 600 800 1000 1200 1400 1600 1800 2000 2200
Vp(Top layer)
Vp(Base layer) 岩手・宮城
十勝 新潟中越 新潟中越沖
図-1 地表層と基盤の Vp の関係
1 10 100 1000
10 100 1000 10000
Y=5.2X
Max Acc(地表鉛直):Y
Max Acc(地中鉛直):X 岩手・宮城
十勝 新潟中越 新潟中越沖
図-2 4 地震本震の鉛直動における地 表と地中の最大加速度の関係
0 2 4 6 8 10 12 14 16 18 20
0 2 4 6 8 10 12 14 16 18 20 22 24 26 28
大樹(TKCH08)
Amplification (Transfer function)
Frequency [Hz]
水平動(S-wave) 2As/(Ab+Bb) 2As/2Ab 鉛直動(P-wave)
2As/(Ab+Bb) 2As/2Ab
図-3 伝達関数
2As Ab Bb,
2As 2Ab( S 波, P 波について)
範な値をとることが分かる. 図-2 はこれらの観測点 で地表と基盤で観測された最大鉛直加速度を縦軸と横 軸にプロットしている.これより最大加速度の増幅率 を最小自乗法で計算すると 5.2 倍となる.
KiK-net の地表・基盤間の観測スペクトル比は複数の
ピークを示すが,これらと地盤構造の関係を調べるた めに,まず各層の層厚
Hiと P 波速度
Vpiから式(1)の 1/4 波長則によって近似的に地盤の卓越振動数を計算 し,観測スペクトル比のピーク振動数との一致度を見 る.両者の対応のついたピークについて,層構造から 決まる振動数
fと層厚
s 1
H H
n i i
から, 式(2)により平均 P 波速度 Vp を計算する.これによれば,同一観測点に おいても異なるピーク振動数に対して異なる表層厚 Hsと平均 P 波速度 Vp が定義されることになる.
1
1 4 H Vp
n
i i
i
f
・・・(1)
V p =4Hsf・・・(2)
Ⅰ-2.基盤露頭の地表増幅率と Vp 比の関係:
重複反射理論によれば,地表での上昇波のフーリエ スペクトルを As, 基盤での上昇波と下降波のスペクト ルを
Ab,
Bbとした場合,共通の基盤の上にある地盤 のゾーネイションに用いる増幅率としては,基盤露頭 入射波のスペクトル
Abに対するスペクトル比
s b
2A 2A
が必要となる.一方,鉛直アレーでの観測波 スペクトル比は
2As Ab Bbであるから,これに基 づいてスペクトル比
2A 2As bを以下の手順により算出 する.
①各地点の1次元地盤モデルより,地表と基盤の間の
s b b
2A A B
と
2As 2Abに対応した2種類の理論伝 達関数を計算する.このとき各層の層厚と弾性波速度
は KiK-net ウェブサイトのデータを用い,また減衰定
数は一律 D =2.5%の非粘性減衰を仮定する. 図-3 は十 勝沖地震の観測点「大樹」における P 波・S 波地盤モ デルに基づいて計算した水平動・上下動 2 種類づつの 伝達関数を例示している.水平動のピーク振動数に対 し上下動のピーク振動数は高次に移行する傾向が見ら れる.また,下降波の影響の有無により,2 種類の伝 達関数に大きな違いが表れている.
② 図-4 に例示するように,上記①で計算した理論伝達 関数
2As Ab Bbを観測スペクトル比と比較する.
そして両者のピーク振動数の一致度の良い 1 次ピーク さらに高次ピークについても振動数の対応が認められ るものについては,理論伝達関数ピーク値
Q1が観測ピ ーク値
Q2に一致するように減衰を
D Q Q1 2 2.5(%) により補正する.
③各ピークで補正した減衰定数を用いて,各地点の地 盤モデルにより
2As 2Abの理論伝達関数を計算し,ピ ーク増幅率を読み取る.なお,地盤構造によっては
s b b
2A A B
と
2As 2Abのピーク振動数がまったく
対応が見られない場合があり,その時は
2A 2As bのピ ーク振動数に合うような表層厚とVp 比を地盤構造か ら 1/4 波長則で決め直し,減衰 D を用いて
2A 2As bの ピーク増幅率を計算する.
上述のような方法で求めた増幅率
2A 2As bを
Vp比 (基盤の地震計設置位置の
Vpbを
Vpで割った値)に対 してプロットした.図-5 には今回対象とした岩手・
宮城,十勝沖,新潟中越,中越沖の 4 地震の本震につ
0 2 4 6 8 10 12 14 16 18 20
0 5 10 15 20 25 30
Q2 Q1
大樹(TKCH08)
Amplification (Transfer function)
Frequency [Hz]
Transfer function 2As/(Ab+Bb) 2As/2Ab Spectrum Ratio
UD-direction
図-4 観測スペクトル比と伝達関数の比較
0 2 4 6 8 10 12 14 16 18 20
0 2 4 6 8 10
Amplification (2As/2Ab)
Vp ratio(Base/Surface) Transfer function:2As/2Ab[modified D]
岩手・宮城 十勝 新潟 中越沖 1次ピーク 2次ピーク以降
図-5 4 地震の本震鉛直動の
2As 2Abピーク増幅率と
Vp比との関係
0 2 4 6 8 10 12 14 16 18 20
0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10
2As/2Ab=0.175+0.685(Vsb /Vs)
Amplification (2As/2Ab)
Vs ratio , Vp ratio 1次ピーク 2次ピーク以降 水平動:
鉛直動:
図-6 4 地震本震の
Vs比,
Vp比と 2A 2As b
ピーク増幅率の関係
いての関係を示す.ここに最終的に用いたプロット数 は 3 地震分あわせて 33 観測点での 45 個(1 次ピーク 33 個,高次ピーク 12 個)である.大半のプロットに ついては,4地震の間の一致度やピーク次数間のまと まりも良い.また,今回対象とした観測点の基盤の P 波速度は図-1 のように幅広い値をとっていることか ら,広い P 波速度の範囲で定義される基盤について,
水平動とほぼ同様な関係が成り立っている可能性が明 らかとなった.
図-6 は同じ観測点で求めた水平動の増幅率と
Vs比との関係
3)の上に今回の上下動の結果をプロットし たものである.この図から,鉛直動のピーク増幅率と
Vp比の間には水平動増幅率〜
Vs比の関係とほぼ同様 な関係が成り立つことが分かる.これより水平動の増 幅特性を評価することが出来るならば鉛直動にもその 増幅率が適用できる可能性が示された.
Ⅱ.兵庫県南部地震の露頭波時刻歴を用いた 水平動増幅率の検討
Ⅱ-1.上昇波と下降波の分離と増幅率の評価:
前記(ii)の研究に関し,兵庫県南部地震鉛直アレ ー記録の解析手法について説明する.まず重複反射理 論により上昇波と下降波の分離を行った. 解析に用い た4地点の地盤モデルを 図-7 に示す.各地点におい て基盤と中間深度の地震記録を用いて,それぞれの 深度での仮想露頭波
2Abと
2Abを計算した.その際,
各層の Vs と D としては,以前に行われた逆解析
4)か ら求められた本震時の非線形性効果を含んだ値を用い た. 図-8 に PI 本震の G.L.83.4m における時刻歴を例示 する.このように算出された上昇波のフーリエスペク トルを計算し,地表記録のフーリエスペクトルを中間 深度と基盤での仮想露頭波のフーリエスペクトルでそ れぞれ除する事により,各深度のスペクトル比として 算出する.このそれぞれのスペクトル比のピークを読 み取り,ピーク増幅率として評価する. 図-9,10 は地 表観測波
2Asと仮想露頭波
2Ab,または
2Abのフーリ エスペクトルと,2つの間のスペクトル比
2As 2Abま たは
2As 2Abの一例を示している.これより,以下の ことが言える.
・ フーリエスペクトル・スペクトル比ともに EW 方向と NS 方向でほぼ同じ傾向を示す.
・ 中間深度
2As 2Abに比べて基盤でのスペクト ル比
2As 2Abはピーク値が大きくなる傾向が 見られる.
地震計
Ab
Ab Ab Ab
As
As As
A´b A´b A´b A´b As
PI SGK TKS KNK
地表
基盤 中間深度
GL.16.4m GL.32.4m
GL.83.4m
GL.97.0m GL.100.0m GL.100.0m GL.24.9m GL.25.0m GL.25.0m
GL.0m GL.0m GL.0m GL.0m
地震計
Ab
Ab Ab Ab
As
As As
A´b A´b A´b A´b As
PI SGK TKS KNK
地表
基盤 中間深度
GL.16.4m GL.32.4m
GL.83.4m
GL.97.0m GL.100.0m GL.100.0m GL.24.9m GL.25.0m GL.25.0m
GL.0m GL.0m GL.0m GL.0m
図-7 4地点の地盤モデル
0 5 10 15 20 25 30
-4 -3 -2 -1 0 1 2 3
PI G.L.83.4
ACC [m/s2]
time [s]
複合波 上昇波 下降波
図-8 PI 本震の加速度時刻歴
0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10
0 10 20 30 40 50 60 70
KNK[上昇波成分のみ]
Fourier Spectrum
Frequency [Hz]
EW-direction 0m 2As 25.0m 2A'b 100.0m 2Ab
図-9 KNK 本震の上昇波フーリエスペクトル
0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10
0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10
KNK[上昇波成分のみ]
Spectrum ratio
Frequency [Hz]
EW-direction NS-direction 2As/2A'b(G.L.0m/25.0m) 2As/2Ab(G.L.0m/100.0m)
図-10 KNK 本震の観測スペクトル比
次に図-7 の地盤モデルから,既に鉛直動増幅の評価 で P 波について述べたのと同様な方法で,地盤の卓越 振動数を求める.すなわち 図-9 のようなスペクトル比 のピーク振動数と 1/4 波長則との一致度から,表層厚 とその平均 S 波速度
Vsを決め, 地震計のある中間深度 の
Vsbあるいは基盤の
Vsbに対する
Vs比(
Vs / Vsbある いは
Vs / Vsb)を計算する.
Ⅱ-2.ピーク増幅率と
Vs比の関係について:
このようにして得られたピーク増幅率と
Vs比の関 係を4観測点の本震記録についてプロットしたのが 図 -11 である.かなりばらつきがあるが,以前提案した 評価式のライン付近に分布しているプロットも多く見 られる.一方, PI がこの評価式より増幅率がかなり低 いが,これはこの地点で表層の大規模な液状化が生じ 非線形性が特に強かったためだと考えられる. KNK に 関しては評価式に対し増幅率のばらつきが大きいが,
この理由についてはさらに検討が必要である.次に,
今回のように基盤露頭波の計算を行わずに,Ⅰ -2.で 述べたように減衰定数の調整のみでピーク増幅率を算 出するこれまでの手法
2)で評価した同じ観測点の増幅 率の比較を図-12 に示す.両者共に
Vs比に対してピー ク増幅率が増加する基本的傾向は整合している.しか し,従来手法の結果は非常にまとまりが良く,比較的 良い相関関係を確認できるのに対し,基盤露頭波を計 算する方法はばらつきが大きく,特に非線形性の影響 が大きく表れる傾向が確認できた.
2.まとめ:
水平地震動のピーク増幅率を
Vs比から簡便に評価 する手法
2)3)にならい,鉛直地震動についても等価な表 層の平均 Vp(Vp)を導入し, 基盤 Vp との比 (
Vp比)を用 いて地表波の基盤露頭波に対する増幅率
2A 2As bの評 価を試みた.その結果以下の知見が得られた.
(1) 鉛直動スペクトル比のピーク増幅率は基盤 Vp と 等価表層の平均 Vp の比(Vp比)と良い相関があ る.
(2) この相関関係は水平動のスペクトル比のピーク増 幅率とVs比の関係とほぼ一致するし,鉛直動・水 平動ともに同様な評価法が当てはまる可能性が示 された.
また,兵庫県南部地震での水平動について基盤露頭 波を鉛直アレー記録から実際に計算し,地表波に対す るスペクトル比のピーク増幅率と等価な表層の
Vs比 の関係を求めた.その結果,以下のことが明らかとな った.
(1) ばらつきは大きいが,ピーク増幅率とVs比の間に 既往の評価式にほぼ整合する相関関係が見られる.
(2) しかし,非線形性の影響が強い PI のような観測点 では,評価式より増幅率が下回る傾向がある.
末筆ながら,本研究で防災科学研究所の KIK-net 記録 を全面的に使わせていただいたことを深謝します.
[参考文献] 1)Shima,E.:Seismic Microzoning map of Tokyo, Proc. Second Inter.
Conf. on Microzonation(1), pp.433-443,1978. 2)國生剛治、佐藤克晴、長尾晋 悟:KiK-net地震記録を用いた基盤から地表への震動増幅評価法、日本地 震工学会論文集第8巻、第2号、2008.3)Kokusho,T. and Ejiri,K.:Site Amplification Formula based on KiK-net Strong Motion Records , 3rd Taiwan-Japan Joint Workshop on Geotechnical Natural Hazards pp.495-505 2008, 4)Kokusho,T.,Aoyagi,T.andWakunami,a.:In-situ soil-specific nonlinear properties back calculated from vertical array records during 1995 Kobe Earthquake, Journal of Geotechnical and Geoenvironmental Engineering, ASCE, 131(12), 1509-1521, 2005
0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 0
1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14
2As/2Ab=0.175+0.685(Vsb /Vs)
Peak Amplification
Vs Ratio (Vsb/Vs) 兵庫県南部地震[上昇波成分のみ]
PI SGK TKS KNK G.L.0-32.4m G.L.0-24.9m G.L.0-25.0m G.L.0-25.0m G.L.0-83.4m G.L.0-97.0m G.L.0-100.0m G.L.0-100.0m
図-11 4 観測点の本震の
2As 2Abピーク増幅率と
Vs比との関係
0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 0
1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14
2As/2Ab=0.175+0.685(Vsb /Vs)
Peak Amplification
Vs Ratio (Vsb/Vs) 兵庫県南部地震[上昇波成分のみ]
PI SGK TKS KNK G.L.0-32.4m G.L.0-24.9m G.L.0-25.0m G.L.0-25.0m G.L.0-83.4m G.L.0-97.0m G.L.0-100.0m G.L.0-100.0m 従来手法: