地域間競争と今後の地域のあり方
宮 野 俊 明
1 .はじめに 2 .地域の人口増減
3 .今日の地域間競争の枠組み 4 .道府県庁所在地の人口と財政力 5 .おわりに
1 .はじめに
日本は人口 1 億人を超す市場規模を背景に,世界有数の経済大国の地位を築いてきたが,今日,
人口減少社会を迎えている.2019年 1 月 1 日現在の住民基本台帳にもとづく人口は, 1 億2
,744万 3,563人 (うち日本人: 1 億2 , 477万6 , 364人) であり,所得水準を考えれば,依然として巨大な市場を 形成していると考えられる.しかしながら,日本人の住民は,2006年に1968年の現行調査開始以降 初めて減少し,2008年,2009年には増加したものの,2010年以降は10年連続で減少している.
それに対して,日本在住の外国人の数は増加傾向にある.ただし,外国人住民の居住地域は,雇 用の有無に大きく左右されることから,特定地域に集中することになる.したがって,日本人のみ ならず外国人による人口規模の維持を図る場合であっても,企業誘致をはじめとする地域振興策な どがよりいっそう重要となるものと思われる.地域経済の低迷は,一部地域を除き,全国に共通す る課題である.それだけに,企業誘致等を含む地域間の競争は,今後も激しくなるだろう.
地域社会の維持と発展のため,国・地方自治体は様々な取り組みを行ってきたが,地方自治体の 多くは,従来から財政面等で国に大きく依存してきた.しかし,国の財政状況を鑑みると,従来通 り地方を支え続けることは困難である.また,地域の多様性をも考慮し,分権型社会への移行が進 められているが,その受け皿としての地方自治体の行財政基盤の強化は喫緊の課題とされてきた.
そのような中,1999年度から大規模な市町村合併が推進された.「平成の合併」が一段落した今 日,中心・中核的な役割を担う都市と周辺市町村の連携による地域社会の維持が図られるように なっている.
本稿では,今日の地域間競争の枠組みの全体像を示すとともに,地方圏において中心・中核的な
役割を担う都市として道府県庁所在地となっている都市を取り上げ,人口と財政力の変化について
の考察を行う.次節において都道府県および県庁所在地の人口の現状を概観した上で,都市圏の連 携と地域間競争の構図を示す.その後,地方都市圏の中核をなすと期待される都市としての道府県 庁所在地の都市についての検討を行い,今後の地域のあり方を考察する.
2 .地域の人口増減
国立社会保障・人口問題研究所による「日本の将来推計人口 (平成29年推計) 」の出生推移・死 亡推移ともに中位の推計では,日本の総人口は長期の減少過程に入り,2053年には 1 億人を割り込 み,さらに2065年には8
,808万人まで減少するものとされている
1).ただし, 5 年前の推計に比べて 人口減少傾向は緩和されていることから,今後の国や地域の取り組み等により,状況は変わりうる ものと考えられる.したがって,市場規模の観点から経済力の維持を考えた場合,いかにして人口 の維持,増加を図るかが重要な課題となる.東京等の大都市であれば,グローバルな視点での企業 や人口の移動が考えられるが,地方都市や,中小規模の地方自治体においても,地域社会の維持の 観点から,人口維持・増加のための取り組みが期待される.
現状を鑑みると,ほぼ全国的に人口減少が進行しているものと考えられる.2019年の住民基本台 帳にもとづく人口を見ると,東京圏,名古屋圏,関西圏の 3 大都市圏への人口集中が著しく,総人 口の52%を占めている.しかしながら, 3 大都市圏でも名古屋圏,関西圏においては,すでに人口 減少局面に入っており,特に関西圏では全国を上回る減少率となっている.これらの地域では,日 本人住民の人口減少傾向が強く,外国人が増加しているものの,人口規模の維持に歯止めがかかっ ていない.東京圏の人口は外国人のみならず日本人も増加しているが, 3 大都市圏在住の日本人は 初めて減少することとなった.
こうした状況からすれば,東京一局集中がますます加速しているかのように見える.そこで,各 地域の人口推移を詳しく見ていくことにしよう.
表 1 は,2000年以降の都道府県別の国勢調査人口の増減の推移をまとめたものである
2).すでに 人口減少局面に入っているものの,2015年の時点では,2000年調査に比べて,全国では人口がわず かに増加している.しかし,この15年間に人口が増加しているのは,埼玉県,千葉県,東京都,神 奈川県,愛知県,滋賀県,大阪府,福岡県,沖縄県の 9 都府県だけであり,そのうち大阪府は,
2010年の調査に比べて2015年調査では約2
.6万人減少している.
ただし,人口減少傾向が見られる地方でも,それぞれの地方の中核的な都市をもつ府県では,人
1 ) 国立社会保障・人口問題研究所(2017),2頁.
2 ) 住民基本台帳人口については,2012年以前の調査では外国人が含まれていない.今日,グローバル化
が進み,東京都のように外国人住民の占める割合が 4 %にものぼる地域も見られることから,外国人を
も含めた長期的な推移を見るため,ここでは国勢調査にもとづく人口を用いた.
表 1
都道府県別国勢調査人口の増減
2000年→2005年 2005年→2010年 2010年→2015年 2000年→2015年
(人) (%) (人) (%) (人) (%) (人) (%)
北海道 -55,325 -1.0 -121,318 -2.2 -124,686 -2.3 -301,329 -5.3 青森県 -39,071 -2.6 -63,318 -4.4 -65,074 -4.7 -167,463 -11.3 岩手県 -31,139 -2.2 -54,894 -4.0 -50,553 -3.8 -136,586 -9.6 宮城県 -5,102 -0.2 -12,053 -0.5 -14,266 -0.6 -31,421 -1.3 秋田県 -43,778 -3.7 -59,504 -5.2 -62,878 -5.8 -166,160 -14.0 山形県 -27,966 -2.2 -47,257 -3.9 -45,033 -3.9 -120,256 -9.7 福島県 -35,616 -1.7 -62,255 -3.0 -115,025 -5.7 -212,896 -10.0 茨城県 -10,509 -0.4 -5,397 -0.2 -52,794 -1.8 -68,700 -2.3 栃木県 11,814 0.6 -8,948 -0.4 -33,428 -1.7 -30,562 -1.5
群馬県 -856 0.0 -15,928 -0.8 -34,953 -1.7 -51,737 -2.6
埼玉県 116,376 1.7 140,174 2.0 71,978 1.0 328,528 4.7
千葉県 130,177 2.2 159,827 2.6 6,377 0.1 296,381 5.0
東京都 512,510 4.2 582,777 4.6 355,884 2.7 1,451,171 12.0
神奈川県 301,613 3.6 256,744 2.9 77,882 0.9 636,239 7.5
新潟県 -44,274 -1.8 -57,009 -2.3 -70,186 -3.0 -171,469 -6.9 富山県 -9,122 -0.8 -18,482 -1.7 -26,919 -2.5 -54,523 -4.9 石川県 -6,951 -0.6 -4,238 -0.4 -15,780 -1.3 -26,969 -2.3 福井県 -7,352 -0.9 -15,278 -1.9 -19,574 -2.4 -42,204 -5.1 山梨県 -3,657 -0.4 -21,440 -2.4 -28,145 -3.3 -53,242 -6.0 長野県 -19,054 -0.9 -43,665 -2.0 -53,645 -2.5 -116,364 -5.3
岐阜県 -474 0.0 -26,453 -1.3 -48,870 -2.3 -75,797 -3.6
静岡県 24,984 0.7 -27,370 -0.7 -64,702 -1.7 -67,088 -1.8
愛知県 211,404 3.0 156,015 2.2 72,409 1.0 439,828 6.2
三重県 9,624 0.5 -12,239 -0.7 -38,859 -2.1 -41,474 -2.2
滋賀県 37,529 2.8 30,416 2.2 2,139 0.2 70,084 5.2
京都府 3,269 0.1 -11,568 -0.4 -25,739 -1.0 -34,038 -1.3 大阪府 12,085 0.1 48,079 0.5 -25,776 -0.3 34,388 0.4 兵庫県 40,027 0.7 -2,468 0.0 -53,333 -1.0 -15,774 -0.3 奈良県 -21,485 -1.5 -20,582 -1.4 -36,412 -2.6 -78,479 -5.4 和歌山県 -33,943 -3.2 -33,771 -3.3 -38,619 -3.9 -106,333 -9.9 鳥取県 -6,277 -1.0 -18,345 -3.0 -15,226 -2.6 -39,848 -6.5 島根県 -19,280 -2.5 -24,826 -3.3 -23,045 -3.2 -67,151 -8.8 岡山県 6,436 0.3 -11,988 -0.6 -23,751 -1.2 -29,303 -1.5 広島県 -2,273 -0.1 -15,892 -0.6 -16,760 -0.6 -34,925 -1.2 山口県 -35,358 -2.3 -41,268 -2.8 -46,609 -3.2 -123,235 -8.1 徳島県 -14,158 -1.7 -24,459 -3.0 -29,758 -3.8 -68,375 -8.3 香川県 -10,490 -1.0 -16,558 -1.6 -19,579 -2.0 -46,627 -4.6 愛媛県 -25,277 -1.7 -36,322 -2.5 -46,231 -3.2 -107,830 -7.2 高知県 -17,657 -2.2 -31,836 -4.0 -36,180 -4.7 -85,673 -10.5
福岡県 34,209 0.7 22,060 0.4 29,588 0.6 85,857 1.7
佐賀県 -10,285 -1.2 -16,581 -1.9 -16,956 -2.0 -43,822 -5.0 長崎県 -37,891 -2.5 -51,853 -3.5 -49,592 -3.5 -139,336 -9.2 熊本県 -17,111 -0.9 -24,807 -1.3 -31,256 -1.7 -73,174 -3.9 大分県 -11,569 -0.9 -13,042 -1.1 -30,191 -2.5 -54,802 -4.5 宮崎県 -16,965 -1.4 -17,809 -1.5 -31,164 -2.7 -65,938 -5.6 鹿児島県 -33,015 -1.8 -46,937 -2.7 -58,065 -3.4 -138,017 -7.7
沖縄県 43,374 3.3 31,224 2.3 40,748 2.9 115,346 8.8
全国 842,151 0.7 289,358 0.2 -962,607 -0.8 168,902 0.1
(出所)東洋経済新報社編「地域経済データ2015」および総務省編「市町村別決算状況調」(平成29年度)にもとづき作成.
表 2
県庁所在地等の人口増減
2000年→2005年 2005年→2010年 2010年→2015年 2000年→2015年
(人) (%) (人) (%) (人) (%) (人) (%)
北海道 札幌市 58,495 3.2 32,682 1.7 38,811 2.0 129,988 7.1 青森県 青森市 -7,346 -2.3 -11,866 -3.8 -11,872 -4.0 -31,084 -9.8 岩手県 盛岡市 -2,111 -0.7 -2,398 -0.8 -717 -0.2 -5,226 -1.7
宮城県 仙台市 16,996 1.7 20,860 2.0 36,173 3.5 74,029 7.3
秋田県 秋田市 -3,537 -1.1 -9,509 -2.9 -7,786 -2.4 -20,832 -6.2
山形県 山形市 643 0.3 -1,768 -0.7 -412 -0.2 -1,537 -0.6
福島県 福島市 -537 -0.2 -4,767 -1.6 1,657 0.6 -3,647 -1.2
茨城県 水戸市 1,041 0.4 6,147 2.3 2,033 0.8 9,221 3.5
栃木県 宇都宮市 14,836 3.0 9,343 1.9 6,855 1.3 31,034 6.4
群馬県 前橋市 -834 -0.2 -613 -0.2 -4,137 -1.2 -5,584 -1.6
埼玉県 さいたま市 43,014 3.8 46,120 3.9 41,545 3.4 130,679 11.5
千葉県 千葉市 37,155 4.2 37,430 4.0 10,133 1.1 84,718 9.5
東京都 東京区部 354,965 4.4 456,042 5.4 327,045 3.7 1,138,052 14.0 神奈川県 横浜市 152,977 4.5 109,145 3.0 36,071 1.0 298,193 8.7
新潟県 新潟市 4,878 0.6 -1,946 -0.2 -1,744 -0.2 1,188 0.1
富山県 富山市 435 0.1 714 0.2 -3,267 -0.8 -2,118 -0.5
石川県 金沢市 -1,831 -0.4 7,754 1.7 3,338 0.7 9,261 2.0
福井県 福井市 -413 -0.2 -2,348 -0.9 -892 -0.3 -3,653 -1.4
山梨県 甲府市 -1,614 -0.8 -1,104 -0.6 -5,867 -2.9 -8,585 -4.3 長野県 長野市 -1,339 -0.3 -5,061 -1.3 -3,913 -1.0 -10,313 -2.7 岐阜県 岐阜市 -1,718 -0.4 -231 -0.1 -6,401 -1.5 -8,350 -2.0 静岡県 静岡市 -6,657 -0.9 -7,126 -1.0 -11,208 -1.6 -24,991 -3.4 愛知県 名古屋市 43,505 2.0 48,832 2.2 31,744 1.4 124,081 5.7 三重県 津市 2,017 0.7 -2,792 -1.0 -5,860 -2.1 -6,635 -2.3
滋賀県 大津市 13,926 4.5 13,915 4.3 3,339 1.0 31,180 10.1
京都府 京都市 340 0.0 -796 -0.1 1,168 0.1 712 0.0
大阪府 大阪市 30,037 1.2 36,503 1.4 25,871 1.0 92,411 3.6 兵庫県 神戸市 31,995 2.1 18,807 1.2 -6,928 -0.4 43,874 2.9 奈良県 奈良市 -4,842 -1.3 -3,511 -0.9 -6,281 -1.7 -14,634 -3.9 和歌山県 和歌山市 -10,960 -2.8 -5,227 -1.4 -6,210 -1.7 -22,397 -5.8 鳥取県 鳥取市 996 0.5 -4,291 -2.1 -3,732 -1.9 -7,027 -3.5 島根県 松江市 -768 -0.4 -2,183 -1.0 -2,383 -1.1 -5,334 -2.5
岡山県 岡山市 21,797 3.2 13,412 1.9 9,890 1.4 45,099 6.7
広島県 広島市 20,257 1.8 19,452 1.7 20,191 1.7 59,900 5.3
山口県 山口市 2,182 1.1 -2,669 -1.3 794 0.4 307 0.2
徳島県 徳島市 -385 -0.1 -3,285 -1.2 -5,994 -2.3 -9,664 -3.6
香川県 高松市 1,445 0.3 1,304 0.3 1,319 0.3 4,068 1.0
愛媛県 松山市 6,671 1.3 2,294 0.4 -2,366 -0.5 6,599 1.3
高知県 高知市 11 0.0 -5,597 -1.6 -6,203 -1.8 -11,789 -3.4
福岡県 福岡市 59,809 4.5 62,464 4.5 74,938 5.1 197,211 14.7 佐賀県 佐賀市 -1,715 -0.7 -3,855 -1.6 -1,134 -0.5 -6,704 -2.8 長崎県 長崎市 -14,929 -3.2 -11,440 -2.5 -14,258 -3.2 -40,627 -8.6
熊本県 熊本市 7,162 1.0 6,496 0.9 6,348 0.9 20,006 2.8
大分県 大分市 7,893 1.7 11,777 2.5 4,052 0.9 23,722 5.2
宮崎県 宮崎市 3,415 0.9 4,990 1.3 555 0.1 8,960 2.3
鹿児島県 鹿児島市 2,674 0.4 1,479 0.2 -6,032 -1.0 -1,879 -0.3
沖縄県 那覇市 11,361 3.8 3,561 1.1 3,481 1.1 18,403 6.1
全国計 842,151 0.7 289,358 0.2 -962,607 -0.8 168,902 0.1
(出所)東洋経済新報社編「地域経済データ2015」および総務省編「市町村別決算状況調」(平成29年度)にもとづき作成.
口減少率が他県に比べて低いことは明らかである.全国的に人口減少局面にある中,東京と地方と いう関係で見ると,東京への一極集中と捉えられがちではあるが,実際には,各地方において経済 的に中核をなす地域では,多少,様相が異なるようである.人口の増減率はもちろん,減少に転じ る時期についても,中核都市のある府県やその近隣の府県において他地域よりも遅くなっている.
表 2 は,各都道府県庁所在地等 (東京区部を含む.以下,県庁所在地等という) の国勢調査人口の 増減の推移を表している.県庁所在地等の場合,過半数 (25の団体等) が2000年と比べて人口が増 加しており,2010年との比較でも半数近い23の団体等で人口増加が見られる.また,人口が減少し ている場合でも,各道府県の人口減少率に比べると低水準となっている団体がほとんどであり,各 道府県内における県庁所在地等への集中の傾向が見られる.表 1 との対比では,2000年から2015年 の人口増減率が都道府県全体の水準よりも下回るのは,静岡市,名古屋市,津市,那覇市のみであ る.このうち,静岡市は浜松市に次ぐ静岡県内 2 番目,津市は四日市市に次ぐ三重県内第 2 の人口 規模の都市である.なお,浜松市,四日市市の人口増減率は,それぞれの県の県庁所在地 (静岡 市,津市) を上回っている.また,福岡市のように,15年間の人口増加が県内の人口増加の人数を 大きく上回る都市もある.人口に関しては,単純に東京のみに集中しているのではなく,各地方,
さらには道府県内でも県庁所在地等の中核的都市・地域に人口が集中するという,階層的な集中の 傾向が見られている.
3 .今日の地域間競争の枠組み
人口減少時代にあって,社会経済および文化の維持が困難になるおそれのある地域が増加してい る.近年,限界集落で生じる様々な問題が,地方自治体のレベルにまで拡がってきた.そして,
2014年にはいわゆる「増田レポート」が大きな話題を呼んだ.そこでは,消滅可能性都市として 896団体がリストアップされ,さらに2040年の推計人口が 1 万人以下となる523団体が消滅する市町 村とされた
3).「増田レポート」に対しては多くの批判もあり,問題点も指摘されてきた.しか し,人口減少が切迫した問題であるとの認識を社会に与え,様々な対応策の検討を促したという点 では高く評価される
4).「増田レポート」以降,地方創生という方向性が打ち出され,国・地方自
3 ) ここでの推計は,国立社会保障・人口問題研究所の(社人研)推計に準拠している.ただし,人口移 動が収束しないという場合の推計であり,社人研の推計と同様,人口移動が将来的に一定程度収束する という前提に従った場合,該当する団体は373自治体となる(増田編(2014),22-29頁参照).
4 ) 嶋田(2016)では,「増田レポート」の概要と,それに対する批判等をまとめた上で,「楽観主義的な
将来展望への戒めとなる明快な議論を提供した点」を高く評価している.ただし,「『警告』として真剣
に受けとめる必要があるが,鵜呑みにしてはならない」と述べ,冷静に現実的な目標に向けて地道な取
り組みを進めて行くべきと論じている.
治体による地域の生き残りをかけた取り組みは加速された.
上述のように,日本の人口分布の問題は,東京圏への一極集中が課題とされながらも,実際に は,各地方,各都道府県等の中核的な地域への偏重が進みつつある.ただし,ある程度の経済力を 有する都市の場合,周辺市町村にもたらす影響も大きく,また,都市の成長を背景にベッドタウン としての周辺市町村の役割も無視することはできない.
企業誘致等を進める際,地方自治体にとって可能な政策手段は限られており,工業用地の整備,
固定資産税の減免や補助金など,類似した政策が実施されることが多い.自治体の政策メニューの 差別化がなされないなら,企業の立地は消費地への距離やその他の要素に依存することになるだろ う.地方自治体の政策以外の要素として,たとえば地域社会と企業の関係強化を図ること等も,企 業誘致や事業所の撤退防止に有効であるものと考えられる
5).また,企業の立地候補となる市町村 だけではなく,その周辺の地方自治体を含めた生活環境等も,たくさんの従業員の転居を伴う大規 模工場の移転等の場合には,重要な要素となるものと考えられる.したがって,今日の日本におけ る地域間競争においては,都市単体ではなく周辺地域をも含めた都市圏間競争と位置付けることが できる.
東京圏のように,巨大な人口規模と経済力を有する地方自治体が集積する地域とは別に,札幌,
仙台,広島,福岡等,地方経済の中核・中枢をなす都市が各地方に存在している.また,都道府県 単位で見ても,県庁所在地等に人口が集中しているが,同時に,経済活動の中核をなすケースが多 い.そうした都市を核として,一定の圏域で都市圏が形成されうる.そして,中核をなす都市の成 長とともに,周辺の市町村でも人口増加や地域経済の発展が見込まれる.
たとえば,表 2 を見ると,福岡市の人口は2000年以降の15年間で20万人近く増加している.2000 年比で14
.7% の伸びを示しており,東京都区部に匹敵している.表 3 は福岡都市圏17市町の国勢調 査人口の推移をまとめたものであるが,福岡市の周辺地域でも,軒並み人口が増加していることが 分かる.特に,福岡市に隣接する新宮町,粕屋町,志免町で福岡市を上回る伸びを示したほか,大 野城市,太宰府市等,福岡市との間の交通アクセスの良い自治体で,人口が堅調に推移している.
福岡市の成長とともに,福岡市の周辺地域においても人口が伸び,同時に,工業用地等やベッドタ ウンとして,福岡市の経済の成長を支える役割をも担っているものと考えられる.
このように,都市圏の内部では,中核をなす都市と周辺市町村の間で機能分担や連携体制が構築 されうる.同時に,都市圏の中で,どの自治体が居住地として選択されるか等については,ある程 度の競合関係にある.特に,周辺市町村の間では,利便性の向上や魅力のアピールなど,競争が激 化しうる状況にある.すなわち,周辺市町村にとっては,中核となる都市との間での連携 (機能分
5 ) 宮野(2015)では,田中(2011)のモデルをもとに,企業の生産拠点決定に関連し,地域と企業のつ
ながりを重視した取り組みを進めるべきことを示した.
担) と,他の周辺市町村との間での連携と競争を想定した地域運営が求められるものと考えられ る.都市圏は共存共栄とある程度の競争を抱えつつ,他の都市圏との間の競争状態にさらされう る.また,経済のグローバル化が進む今日では,国内のみならず,外国の都市との国境を超えた立 地競争も展開されるだろう
6).
地域社会の研究を進める上では,地域間の競争はもちろん,都市圏内の自治体の関係について も,理論や実証の観点からの検証が必要となってくる.
田中 (1993) では,Hotelling (1929) で示された空間立地の理論を都市の再開発問題に適用し,
住宅・オフィスにおける需要を高品質なものと低品質なものに分けて分析を行った.ここでもたら された帰結のいくつかは,中核をなす都市とその周辺地域から構成される都市圏内部での関係を考 える上でも,有効なものとなるかもしれない.たとえば,高度な要求を満たす需要の増大が,新規
6 ) 1990年代には,地方都市を中心に工場等生産拠点の海外移転が進む等,国際化の流れの中で地域経済 の低迷が加速された経緯がある.そのため,既存の企業の流出を防ぐという観点から,グローバル競争 は東京,大阪等の一部の大都市に限られることではない.
表 3
福岡都市圏の構成自治体の人口推移
(人)
2000年 2005年 2010年 2015年 増減
(2000年→2015年) (%)
福岡市 1 , 341 , 470 1 , 401 , 279 1 , 463 , 743 1 , 538 , 681 197 , 211 14 . 7 筑紫野市 93,049 97,571 100,172 101,081 8,032 8.6 春日市 105 , 219 108 , 402 106 , 780 110 , 743 5 , 524 5 . 3 大野城市 89 , 414 92 , 748 95 , 087 99 , 525 10 , 111 11 . 3 宗像市 92 , 056 94 , 148 95 , 501 96 , 516 4 , 460 4 . 8 太宰府市 66,099 67,087 70,482 72,168 6,069 9.2 古賀市 55 , 476 55 , 943 57 , 920 57 , 959 2 , 483 4 . 5 福津市 55 , 778 55 , 677 55 , 431 58 , 781 3 , 003 5 . 4 糸島市 95 , 040 97 , 974 98 , 435 96 , 475 1 , 435 1 . 5 那珂川町(現・那珂川市) 45,548 46,972 49,780 50,004 4,456 9.8 宇美町 38 , 126 39 , 136 38 , 592 37 , 927 -199 -0 . 5 篠栗町 29 , 389 30 , 985 31 , 318 31 , 210 1 , 821 6 . 2 志免町 37 , 794 40 , 557 43 , 564 45 , 256 7 , 462 19 . 7 須恵町 25,086 25,601 26,044 27,263 2,177 8.7 新宮町 22 , 431 23 , 447 24 , 679 30 , 344 7 , 913 35 . 3 久山町 7 , 640 7 , 858 8 , 373 8 , 225 585 7 . 7 粕屋町 34 , 811 37 , 685 41 , 997 45 , 360 10 , 549 30 . 3 福岡都市圏 2,234,426 2,323,070 2,407,898 2,507,518 273,092 12.2
(出所)東洋経済新報社編「地域経済データ2015」および総務省編「市町村別決算状況調」(平成29年度)にもとづき作成.
需要に対応した質的向上のみならず,低品質市場における向上を促し,都市全体の建物の質を向上 させうる
7),そして,高品質市場における超過供給が低品質市場を含む都市全体の建物の質的低下 をもたらす
8),という帰結は,中核の都市と周辺市町村に置き換えることで,中核の都市の盛衰が 周辺地域の発展に深く関係していると考えることができよう.中核の都市において,企業誘致等の 産業政策や社会資本整備,各種の公共サービスの拡充により需要の増大を図ることで,周辺市町村 においても公共サービスの質的向上が促され,地域社会の維持・発展に結び付く可能性が考えられ る.
さらに,田中 (2017) では,東京圏の納税者の平均所得と都市再開発プロジェクト件数のデータ を用いた実証的な見地からの都市再開発に関する分析の結果が示された.社会的イノベーションと しての再開発プロジェクトによる効果が都市圏全体に及ぶといった示唆は,都市圏間の競争下に あって,中核をなす都市の強化の重要性を支持するものと捉えることができるだろう.
そのほか,周辺市町村の間では,「足による投票」の考え方が部分的に成立する可能性がある.
中核の都市で勤務することを考えれば,各個人は自らの選好により近い地域を選択することが可能 となる.ただし,理論的な前提条件とは異なる方向の取り組みが,住民福祉の観点と行政効率,さ らには都市圏間の競争の存在により生じうる.他地域との競争に打ち勝つために,都市圏全体の魅 力を高める必要がある点を考慮すると,中核の都市の成長による周辺市町村への波及効果だけでな く,都市圏全体での協力のもと,地域の魅力の向上を図る必要がある.実際,公共施設の共同利用 等,広域行政による住民サービスの向上が進められるケースが散見される.したがって,周辺市町 村の間では,都市圏全体を発展させるための協力と地域間競争の両方が同時に生じることが考えら れる.また,中核となる都市は,周辺自治体を含む地域全体を支える中心的な役割として,連携中 枢都市圏構想,定住自立圏構想等の国の施策の中でも期待されている.
4 .道府県庁所在地の人口と財政力
第 2 節における人口の推移を見ると,道府県庁所在地の都市は,各道府県内では比較的優位にあ ると考えられる.それでは,道府県庁所在地の都市は,地域の核としての役割を十分に果たしうる のだろうか.
上述の「増田レポート」では,全国の市町村のうち,2010年から2040年の間の若年女性 (20-39 歳) 人口の減少率が 5 割を超えると推計される896団体を「消滅可能性都市」としている.道府県 庁所在地では,青森県青森市 (若年女性人口増減率:-57.4%) と秋田県秋田市 (同:-54.3%) が
7 ) 田中(1993),72頁.
8 ) 田中(1993),73頁.
これに該当する.また,平成の合併以前から政令指定都市であった都市については区別の推計を 行っているが,札幌市,千葉市,大阪市,神戸市,広島市の一部の区で若年女性人口増減率が50%
超となっている
9).しかし,道府県庁所在地の大半は,若年女性人口減少率が比較的低い状況にあ り,消滅可能性都市としての位置付けはなされていない.
国の財政状況が厳しく,地方分権が進められてきている今日,持続可能な地域運営を可能とする ためには,一定以上の財政力が求められる.地域の財政力を表す指標としては,財政力指数があ る.基準財政収入額を基準財政需要額で除したものであり,地域の財政力の強弱の指標として扱う 際には,通常, 3 カ年度の平均値が用いられる.基準財政需要額については,これまで国の財政状 況や様々な政策の影響を受けてきた経緯もあり,また,単位費用の適切さや何をどの程度含めるの かという問題はある.しかし,本来的には,基準財政需要額は各地方自治体が「標準的な行政サー ビス」を提供する場合の必要経費の見込額である.すなわち,財政力指数は現行のサービス水準を 維持できるかということを表し,地域社会の維持と持続的発展を考える際,最も分かりやすい指標 とも言える.財政力の強い地方自治体では,住民のニーズに適切に対応したサービスの供給や,新
図 1
人口の増減と財政力指数の状況
(注)福島第 1 原子力発電所の事故の影響で人口が激減した団体があるため,福島県内の市町村を除いている.
(出所)総務省「市町村別決算状況調」(平成29年度)にもとづき作成.
-40.0 -30.0 -20.0 -10.0 0.0 10.0 20.0 30.0
人口増減率(%)
財政力指数
0.00 0.50 1.00 1.50 2.00 2.50
9 ) 県庁所在地以外の政令指定都市では,北九州市八幡東区が若年女性増減率-51 . 0%と推計された.ま
た,東京都の区部においても,豊島区が-50 . 8%となっている(増田編(2014),208-243頁).
たな企業や住民の呼び込みのための魅力ある取り組みを継続的に行うことが可能と考えられる.
人口規模は地域の経済活動に直結しており,その結果,地域の財政力とも結びつく.実際,電源 立地や大都市周辺の市町村等の一部の自治体を除き,通常,地方自治体の人口規模が大きくなるほ ど財政力指数も高くなる.さらに,図 1 で示すように,財政力指数と人口増減率の間にも,正の相 関があるものと考えられる.財政力の強い地域では,人口が増加するか,もしくは減少率が小さく なる傾向が見られる
10).
道府県庁所在地の都市は,人口規模も一定以上となっている.それだけに,各地域の都市圏の中 核をなす都市として期待される.表 4 は,道府県庁所在地の都市の財政力指数と,地域の中核をな す都市としての連携中枢都市構想の取り組み状況,1999年度以降の周辺市町村との市町村合併の有 無をまとめたものである.連携中枢都市構想は,地方圏において昼夜間人口比率が概ね 1 以上の指 定都市・中核市を中心に,社会・経済的に一体性のある近隣市町村で都市圏を形成することで,人 口減少・少子高齢社会においても一定の圏域人口を有し,活力ある社会経済を維持するための拠点 を形成しようという政策である.2019年 4 月 1 日現在,34市 (32圏域) が連携中枢都市を形成して いる
11).道府県庁所在地では,連携中枢都市の要件を満たす団体が37市あるが,そのうち21市が連 携中枢都市を宣言し,近隣市町村と都市圏を形成している
12).
地方分権を推進する上で,地方自治体の行財政の効率化,財政基盤の強化が重要と考えられてき た.そのため,1999年度以降,国は手厚い財政支援等により市町村合併を推進した.道府県庁所在 地においても,札幌市,仙台市等13市以外の都市が周辺市町村との合併を経験している.平成の合 併における市町村合併は行財政の効率化が大きな目的ではあったが,合併の特例が設けられたこと もあり,政令指定都市等への移行を目指したものもある.また,市町村合併の決定に際して,その 地域の中核をなす都市で,当該地域のけん引役としての意識が働くケースもある.そのため,行政 効率の向上が疑問視されるような合併が各地で見られた.道府県庁所在地の都市においても,こう した合併が行われた可能性は十分考えられるだろう.
また,小泉政権下の三位一体の改革において,国から地方への税源移譲が実施された.しかし,
これまでのところ財政力を十分強化できていない団体が多くなっている.
道府県庁所在地の都市は,財政力指数が各道府県内市町村の平均を上回っている.しかし,道府 県庁所在地といっても,鳥取市や青森市,松江市のように,財政力指数が0
.5から0
.6程度にとどま
10) この点に関しては,宮野(2017)で指摘している(宮野(2017),101頁).
11) 総務省ホームページ参照.
12) 現時点で連携中枢都市圏の取り組みを行っていないとしても,必ずしも近隣市町村との連携が行われ
ていないわけではない.たとえば,福岡市は連携中枢都市の宣言を行っていないが,以前から近隣17市
町で,福岡都市圏における公共施設の共同利用等の取り組みを実施し,住民サービスの向上に努めてき
ている.
表 4
道府県庁所在市の財政力指数と連携中枢都市,市町村合併の状況
都道府県名 団体名 連携中枢都市 市町村合併 財政力指数
(1999年 4 月以降) 2000年度 2017年度 (都道府県平均)
北海道 札幌市 ○ 0.64 0.73 0.27
青森県 青森市 △ ○ 0.62 0.56 0.33
岩手県 盛岡市 ○ ○ 0.72 0.74 0.35
宮城県 仙台市 △ 0.83 0.91 0.53
秋田県 秋田市 △ ○ 0.66 0.67 0.30
山形県 山形市 △ 0.71 0.77 0.35
福島県 福島市 △ ○ 0.70 0.76 0.46
茨城県 水戸市 △ ○ 0.87 0.85 0.70
栃木県 宇都宮市 △ ○ 0.94 0.99 0.73
群馬県 前橋市 △ ○ 0.85 0.81 0.60
埼玉県 さいたま市 ○ 0.97 0.98 0.78
千葉県 千葉市 0.95 0.94 0.72
神奈川県 横浜市 0.89 0.97 0.91
新潟県 新潟市 ○ ○ 0.77 0.73 0.50
富山県 富山市 ○ ○ 0.81 0.82 0.57
石川県 金沢市 ○ 0.76 0.85 0.50
福井県 福井市 ○ ○ 0.88 0.85 0.59
山梨県 甲府市 △ ○ 0.82 0.77 0.55
長野県 長野市 ○ ○ 0.76 0.74 0.40
岐阜県 岐阜市 ○ ○ 0.81 0.86 0.58
静岡県 静岡市 ○ ○ 0.86 0.91 0.80
愛知県 名古屋市 0.91 0.99 0.96
三重県 津市 △ ○ 0.90 0.73 0.59
滋賀県 大津市 ○ 0.86 0.82 0.70
京都府 京都市 ○ 0.67 0.81 0.55
大阪府 大阪市 0.92 0.93 0.73
兵庫県 神戸市 0.71 0.80 0.61
奈良県 奈良市 ○ 0.88 0.77 0.40
和歌山県 和歌山市 △ 0.81 0.82 0.35
鳥取県 鳥取市 ○ ○ 0.67 0.52 0.34
島根県 松江市 △ ○ 0.67 0.58 0.25
岡山県 岡山市 ○ ○ 0.74 0.80 0.43
広島県 広島市 ○ ○ 0.75 0.84 0.54
山口県 山口市 ○ ○ 0.71 0.65 0.52
徳島県 徳島市 △ 0.81 0.82 0.41
香川県 高松市 ○ ○ 0.89 0.83 0.55
愛媛県 松山市 ○ ○ 0.75 0.76 0.44
高知県 高知市 ○ ○ 0.63 0.62 0.25
福岡県 福岡市 △ 0.74 0.89 0.53
佐賀県 佐賀市 △ ○ 0.68 0.64 0.51
長崎県 長崎市 ○ ○ 0.58 0.59 0.39
熊本県 熊本市 ○ ○ 0.63 0.72 0.36
大分県 大分市 ○ ○ 0.83 0.90 0.40
宮崎県 宮崎市 ○ ○ 0.64 0.67 0.37
鹿児島県 鹿児島市 ○ ○ 0.64 0.72 0.28
沖縄県 那覇市 △ 0.61 0.80 0.37
(注)1 ) 連携中枢都市の欄の「○」は宣言した都市,「△」は要件を満たしているが2019年 4 月 1 日現在宣言していない都市.
2 ) さいたま市の2000年度の財政力指数については,当時の県庁所在地である浦和市のものを用いた.他の市町村合 併を経験した都市についても,同様の扱いとした.
(出所)総務省資料(「市町村別決算状況調」(平成12年度),「平成29年度主要財政指標一覧」,「連携中枢都市圏の取組の推 進」,「平成11年度以降の市町村合併の実績」)にもとづき作成.
る団体から,宇都宮市や名古屋市等,比較的財政力の強い団体まで,財政状況は様々である.
2000年度との比較でも,道府県庁所在地の都市全体の平均では,ほとんど変化していない
13).し かし,財政力指数が上昇した都市もあれば,逆に低下している都市もある.道府県庁所在地のう ち,2000年度に比べて財政力指数が上昇した都市は29団体,悪化した団体は全体の 3 分の 1 以上の 17市にのぼっている.京都市,福岡市,那覇市では財政力指数が0.1以上の幅で上昇し,逆に,津 市と鳥取市では0
.1以上の幅で低下している
14).なお,財政力指数の変化と2000年以降の国勢調査 人口の増減率の関係については,図 2 で表される.人口増加率が高い都市で,財政力の伸びがより 大きくなっている状況が窺える.
なお,表 4 の1999年からの平成の合併の時期に市町村合併を行わなかった13市のうち,2000年度 時点ですでに財政力指数がかなり高くなっていた千葉市以外は,いずれも財政力指数の値が上昇し ている.それに対して,市町村合併を経験した33市では半数近くで財政力指数が低下しており,周 辺市町村との合併直後から財政力指数が大きく低下した都市も見受けられる.
13) 道府県庁所在地の都市の財政力指数の平均は,2000年度が0 . 77,2017年度は0 . 79となっている.若干の 変動はあるが,概ね大きな変化は見られていない.
14) 2000年度と2017年度を比較すると,分散は0 . 011から0 . 013へとわずかに大きくなっているが,年度ごと に変動があり,道府県庁所在地の都市の間で,財政力の格差が拡大してきているとまでは言い切れない.
図 2
県庁所在地の都市の財政力の変化と人口増減
(出所)東洋経済新報社『地域経済データ2015』および総務省「市町村別決算状況調」(平成12年度,29年度),
「平成29年度主要財政指標一覧」にもとづき作成.
財政力指数の増減
人口増減率(%)
▲0.20
▲0.15
▲0.10
▲0.05 0.00 0.05 0.10 0.15 0.20 0.25
-15.0 -10.0 -5.0 0.0 5.0 10.0 15.0 20.0
現在の財政力指数の値がさほど高くない都市であっても,道府県庁所在地の都市はそれぞれの道 府県内の市町村の平均を大きく上回っている.それだけに,各道府県内でそれぞれの地域の中心的 役割を果たし,地域経済のけん引役となることへの期待は大きくなるだろう.しかし,地方分権化 の流れの中で自治体の財政力強化が目指されてきたにもかかわらず,道府県庁所在地ですら財政力 を十分強化できなかった団体が多い.当然,周辺の市町村ではさらに厳しい状況にあるものと考え られる.地方交付税等,国の財政支援に大きく依存せざるを得ない状況では,近隣市町村を含む都 市圏全域を支えることには困難が伴う.特に,さらなる市町村合併等によって,圏域全体を抱え込 むだけの体力を有する自治体は少なくなるだろう.
市町村合併により財政力が弱まる可能性や,中核をなすことを期待される都市の財政に十分な余 裕がないという状況を踏まえた上で,今後の望ましい地域のあり方を考える必要がある.前節で紹 介した田中 (1993,2017) のモデルが地方圏の都市圏において有効に機能するとすれば,道府県庁 所在地等,都市圏の中核をなす都市は,周辺市町村の合併等による丸抱えで地域を支えるよりも,
自らの地域の社会基盤の強化や都市再開発等に注力する方が,結果的には圏域全体の維持・発展に つながるかもしれない.そうしたことからも,今日,市町村合併から,地方中枢都市圏や定住自立 圏といった地域の連携へと,国が政策の転換を図ったことの意義は大きいと言えよう.
5 .おわりに
地方中枢都市圏構想等の国の政策にもとづく取り組みには,国からの財政支援に対する期待が大 きい.実際,2015年度からは地方交付税を用いた財政支援が実施されている.ただ,本来的には,
国からの支援に頼ることなく,地域経済をけん引する役割が期待されるものであるはずだ.国によ る財政支援を伴う政策は,長年,形を変えて行われてきている.1960年代以降の地域開発政策を例 にとっても,国の財政支援のもとで大規模な地域開発が進められたものの,多くの場合,地域への 効果が限定的で,長期間にわたって継続していない.したがって,長期にわたり財政支援を期待す るのではなく,都市圏内の機能分担・協力体制を早期に実現し,その上で,都市圏間競争に打ち勝 つことのできる地域社会を実現する必要がある.
上述の理論的な見地からは,一定の圏域の中で中核となる都市の魅力をいかに高めるかが,都市
圏全体の維持・発展にきわめて重要と考えられる.大都市圏や一部の都市圏は別として,多くの場
合,企業誘致をはじめ,各種の産業振興にかかわる取り組みにより,雇用機会の増大を図るととも
に地域の経済活動を活性化する必要がある.それにより人口流出を防ぎ,他地域からの人口流入を
もたらしうるだろう.多くの地域・都市圏において,周辺部の市町村はもとより,中核の都市にお
いてさえ利用可能な資源が乏しい現状を踏まえると,都市圏が一体となって機能分担を考え,中核
の都市の有する資源をより有効に活用できるようにすべきかもしれない.
ただし,地方自治体の大半は財政力が乏しく,独力では現在の公共サービスの水準を , これまで 通りのやり方で維持できる状況にはない.今後,分権化がさらに進められる場合を想定すれば,地 域間競争に打ち勝つことで地域の経済力と財政力を強化するとともに,住民と行政の協働により,
自分たちの地域にとって真に必要なサービスを,より低コストで,効率的に供給・維持できる仕組 みを構築する必要があるだろう.
なお,本稿で述べてきた都市圏間での競争とは別の形で,地域の生き残りを図る地方自治体も近 年見られるようになっている.農村地域をはじめ,企業誘致等による産業振興や地域活性化,都市 圏間の競争への参加が困難な地域が,現実には存在している.そうした地域にも,地域固有の資源 やエネルギーの利活用を進めようという自治体があらわれ,独自の取り組みをアピールすること で,都市部における競争とは別の形での生き残り策を模索している.その際,いかにして取り組み の成果の域外流出を抑制し,地元に還元するかという点が,地域経済を支える上での課題と考えら れる.
今日の地域づくりにおいては,多様な形態が考えられる.都市部においては都市圏間の競争の中 で生き残ることができ,住民にとって満足度の高い地域を目指し,また,農村地域等においては固 有の資源等の利活用により,地域の人口減少を食い止める工夫が求められている.いずれのケース においても,住民,行政の双方の協力と努力により,地域の魅力を高めることが強く求められてい る.
参考文献・参照 URL