中間構文 における動作主のゆ くえ
熊
1.はじめに
英語 には、(1)でみ られ るように能動態(a)と受動態(b)と い う表現形式 をもっ ている。
(1)a o Mary sells the book wen.
b. rrhe b。
。k is s01d weⅡ by Mary.
(2)a. JOhn cuts this bread easily.
b。 1「 his bread is cut easily by John.
他動詞の 目的語である対象 (theme)を 主語 に もつ受動態表現があるのに もかか わ らず、(3)で示すようにさらに中間構文(activo―
passive,or middle construc‐
tions)と
呼ばれ る表現 もあるも(3)a o The book sells well.
b. This bread cuts easily.
中間構文 は、広告文等で よ く見 られ る表現だが、受動態 とどう違 うのだろうか。
中間構文があるということは、受動態 と全 く同 じ意味 を示す とは考 えに くく、
中間構文固有の意味 をもつ と考 えられ る。
今回は、次の三点 について、動作主 との関わ りで中間構文 をとらえ直 してみ たい。第一 に、動作主の存在 についてである。これ までの様々な研究において、
implicit agentと
呼 ばれ る ものが中間構文 に存在 す る と特徴付 け られ て きた が、その動作主 はあるとすれば、いかなるものかみてみたい。第二に、(3)でも み られ るが、well,easily等
の副詞が共起 していることか らわかるように、中間 構文 を副詞等の修飾関係ぬ きには語れない。 それ らは、動作主の存在 を裏付 け る要素 とする見方 もあるが、果た してそうだ ろうか。中間構文で用いられる動詞のタィプの制限 と関連付けながら、動詞の特性 と修飾関係の密接性を検討し ていきたい。最後に、 日本語には、果たして英語の中間構文に相当するものが あるか という点を考えたい。特に、動作主 との関わ りの中で、英語 と日本語 と
谷 子
の共通部分 を探 ってみたい。
以上の三点 を主な論点 として進 めてい くが、 ここでは、英語の中間構文の定 式化、あるいは、 日本語の相当する構文の定式化 を試みるとい うよりは、私が 今 まで解決 しえずにきた問題点 を整理す ることによって、英語の中間構文の も つ固有の意味 をより明 らかにし、それ らの過程で 日本語 をもとらえ直 していき たい。 これ まで中間構文 についての定式化が行 なわれてきたが、それ らの是非 を問 うことを目的 とはせず、それぞれの定式化の動機付 けになっている証拠の 不十分 さ指摘す ることで、中間構文 を とらえ直す ことがで きれ ば と考 えてい
る急
2.英語の中間構文の特徴
動作主の存在の有無 を考 える前 に、 これ まで指摘 されてきた英語の中間構文 の特徴 をまとめてみたい
:
(1)a.主語位置 に対象 (theme)を とる。
b.動詞 は、他動詞派生である。 しか も、状態動詞ではな く、お もに、達 成動詞
(ac∞
mplittment verbs)か ら派生 した ものである。C。
時制 は、単純現在形である。d.副詞等の修飾語句 を伴 うことが多い
:
e.動作主は、表面 には現われないが、存在 している。
(implicit agent)
以上の五点 を兼ね備 えた中間構文 は、受動態 と違い、 より周辺的な、特殊 な構 文 として存在 している。換言すれば、中間構文 は、制限が多 くあるとい うこと である。(2)a.This poem translates easily.
b.Mary photographs well.
中間構文の特徴 は、主語名詞旬 の特徴 を行為 の しやす さ、 しに くさ(あるいは、
行為 の結果の状態)とい う観点か ら記述するとい うものである。(2)では、詩の 特徴 を訳 しやす さか ら、メア リーの特徴 を写真写 りか らそれぞれ記述 している。
その特徴 は、一時的なこともあるだろうし、永続的な こともあるだろう。(1)の
中間構文 の特徴 をまとめると、状態変化 を示す動詞 によって意味 された動作・
行為 を通 して
(b)、
主語名詞句 (theme)の 特徴 を(a)、
行為の しやすさ、しに くさ、あるいは行為の結果の状態
(d)を
記述す ることで、誰 に とって も(e)、
そ ういう 特徴がみ られ ることを示す構文である。これ らの諸特徴 を概観 してみて、動作主の存在 とい う避 けて通 ることので き
‑86‑
ない問題 にあた る。受動態 で は、動作 主 を示 す
by―句 や動作 主 を強 く修飾 す る副 詞 (intentionally)等 が共起 で きるが、中間構文 で は許 され ない。中間構文 に とっ て、動作 主 は どうい う働 きを してい るのかが大 きな問題 となって くる。
(lb)で示 した よ うに、 中間構文 で現 われ る動詞 は全 て基本 的 に動作主 を必要 とす る も ので ある。 それ らの動詞 が 中間構文 に現 われた ときに動作 主 は どうい う立場 に な るのだ ろ うか。 さ らに、
(ld)との関連 で t修 飾語句 も動作 主 を修 飾 の対 象 と してい るのか どうか もかかわ って くる。次 の ところで、詳 し く検討 したい。
3.動
作主 の役割
中間構 文 は、受動態 と違 って、動作 主 を示 す
by―句 、動作 主 を強 く修飾 す る副 詞等 の表現 と共起 で きない ことは広 く知 られ てい る。
(1)a.
′ rhe b。 。k is sold wen by the students.
b.*The book sells wen by the students.
(2)a. lrhe b。 。k is sold intentiona■ y.
b.*The book sens intentionally.
(3)a. rrhe b。 。k is sold to help the poor countries.
b.*The book sells wen to help the poor countries.
(a)は 、受動態 で、それ ぞれ文法 的 で あ るが、一 方、中間構 文 の (b)は 非文 とな っ てい る。 中間構文 は、主語名詞句 の特徴 を中心 に述 べ る もので あ るので、わ ざ わ ざ (特定 の)動作主や動作 主 を修飾 す る副詞 を示 す ことによって、動作 主中心 の記述 を行 な う と、構文 自体 の意味す る ものの焦点がずれて しまう とい うこと で非文 を意味的 に説明で きるだ ろ う。 この ように、何故動作主が表層上現 われ えないか とい うこ とが、直観 的 に理解 で きて も、動作 主 とい う、動詞 に とって 重 要 な要素 は どうなって しまったのか とい うことにな る と、一筋縄 で は うま く 説 明 が つ か な い。表 層 上 は現 わ れ な い が 存 在 し て い る と して 提 案 さ れ た implicit agentの 実態 はなにか とい うことで ある。
中間構 文 で の動作 主 につ いて、表 層上 は現 われ えないが、統語 的 な役割 は果 た してい る とい う興味深 い提案が、Stroik(1992)に よってな されてい る。
(4)a. ]Books about oneself never read poorly.
b. Potatoes tlsuany peel easily after boiling them。
C. That book reads quickly for Mary.
(Stroik,129‑134)
(4a)で は、再帰代名詞 oneselfの 先行 詞が ない と、 この文 は解釈が で きず、非
文 となるが、実際 は文法的な文 なので、何 らかの先行詞があるはずであるとし ている。同様 に、(4b)で は、after―節の行為主体の主語PROを制御す る要素が
主文 に存在 していなければな らない としている。Stroikの 見解では、再帰代名 詞
oneselfの
先行詞 とPROの制御要素が、いわゆるimplicit agentで
あ り、こ の点か ら、implicit agentは
十分 に統語的役割 を果た しているとしている。さら に、(4c)に み られ るように、表層上、forと
いう前置詞の目的語 として動作主 ら しきものが現われ うるとす ると、中間構文での動作主 は、全 く無 くなって しまっ たわ けではな く、VP付加部 にPROと して存在 し、統語的役割 を果た していると結論付 けている。
中間構文での動作主の統語的役割 を証明 しようと試みた ことは有意義である が、 しか し、 よく考 えてみると、統語的存在 としての動作主の証明 は、それ程 簡単ではない とい うことがわかって くる。Zribi一Hertz(1993)で は、StrOikの 主 張の不備 を指摘 し、中間構文での動作主が、必ず しも統語的役割 を担 っている
とはいえない ことを示 している。
(5)a. BOoks about oneself are often wOrrisorrle.
b。
「Fhat book is expensive for Mary.(Zribi―
Hertz,584‑8) (5a)で は、中間構文 に限 らず、一般の形容詞文で も再帰代名詞が現われている ことを示 し、 このタイプの再帰代名詞 は、必ず しも先行詞 を必要 としない用法(logophoric pronourl)で
あ り、中間構文 (4a)で は、このタイプが現われている ことを指摘 している。Stroik流
に考 えれば、再帰代名詞が常 に先行詞 というも のを必要 とす るな らば、(5a)も
なん らかの先行詞 を設定 しなければ非文 となっ て しまう。 また、(5b)の ように、for―
句 の目的語 として示 され るものは、動作 主 とい うよ りは、む しろ視点 とい う解釈の方が 自然であるので、(4c)に あては めて考 えると、動作主 として現われているとは言いがたい。さらに、Stroikは 、(4b)で 、after―節の制御要素
(controller)が
主文 に存在 し ていなければならず、それが動作主であるとしているが。 しか し、次の例 を考 えることにより、一概 にそうとは結論付 けられない ものがか らんでいることが わか る。(6)a.The glass broke after polring hot water into it.
b. The door opened after oiling it.
(6)での動詞 は、いわゆる非対格動詞
(unaccusative verbs)5と
呼ばれ るもので、動作主は削除 されているということで見解の一致 をみている動詞である。それ
―
‑88‑―
なのに、after―節が あって も文法的であるということは、after―節への制御関係 は、必ず しも主文のみの要素 によって統語的に処理 しうるものではな く、他の 要因がかかわって意味解釈 されていると考 えられ る。
まとめると、統語的役割 を担 う動作主の証拠 は、 まだ不十分であ り、 さらな る検討が求め られ る。従 って、現在の ところ、動作主 は、仮 に存在す るとして も、統語 レベルにおいてではな く、あ くまで意味的なレベルにおいてであると 結論付 けられる。換言すれば、統語的役割 をもつ動作主は受動態構文 までであ り、中間構文 にはそのような動作主 は存在 しない とい うことである3しか し、
動作主が存在 しない とすると、非対格構文 と区別つかな くな り、中間構文の も つ独 自性が失われて しまうので、なん らかの形で、動作主が存在するという方 向で考 えていきたい。中間構文 と非対格構文 との区別 について、賛否両論 ある が、 ここでは、区別す る方向で とらえたい。
Fagan(1992)は
、語彙 ンベルの規則(7)を
仮定 して、動作主の認可 をしようとし ている。(7)Assign α
tt to the external theta―
role.ここでの外項
(external theta― role)は
、動作主 にあたるもので、語彙 レベルで それに任意の解釈(特定せず に、誰 にで も)を
もたせて、統語 レベルでは、何の 役割 も果せない として処理 している。Roberts(1985)の 提案 も、Faganの意見 とそれ程違いはない。動作主 は、外項で も内項で もない としている。 しか し、 も う少 し詳 しく考 えてみると、語彙 レベルで存在す るとい うことは、 どういう意 味があるのだろうか。 まった くの任意 という意味で解釈で きるのだろうか。
(8)a.This shirt washes well.
b oPPPeople,in general,/One can wash this shirt well.
C.P?′ rhis shilt can be washed well by people,in general./one.
(cf.Fellbaum:1986)
中間構文 は、総称的な(generic)な
解釈がなされ る傾向にあることが、これ まで 指摘 されてきた。総称性が、 もし、動作主 に対 しての総称性(誰
に とって も)とい う解釈 な ら、(8b,c)に 明示 された ような動作主が現われて も文法的になる はずであるが、実際はおか しな文 とされている。 この点で、統語 レベルでの動 作主の総称性 の問題ではな く、あ くまで表層 には生 じえない、語彙 レベルでの 総称
̀性
ととらえるのが 自然 なのか もしれないるつ まり、中間構文 において、純粋 に意味的な もの としての動作主の存在 は、
表層 に現われると、容認 しに くい もの となるとい うことである。例 えて言 えば、
動作主 は、能動態では、重要な役割 を担い、舞台の上で活躍 しなければならな いが、受動態では、少 し役割が減 り、いつで も登場で きる状態で舞台のそでに 待機 している。中間構文では、 もはや待機で きる資格 もな く、全 くの裏方 とし て存在 している。
動作主の存在 を支 えて くれ るのは、受動態では、動詞 に付加す る接尾辞enゃ 前置詞
by、
動作主 を強 く修飾する副詞であった りす るが、中間構文の場合、他 動詞 になんの接辞 も付加 しないため、動作主の存在 を支 えて くれ るものがない。副詞等の修飾要素がその役 目をするとい う意見 もあるが、 この点 については後 述する。 ここで、接尾辞 との関わ りで、動詞 に名詞化、形容詞化す る接辞が付 加 した場合 に、動作主の存在 を支 えて くれ るものを考 えてみたい。
(9)a.the destmction of the city to make a point
b. the deliberate destructiOn of the city
C. The problem is observable by anyone.d. ̀「
he island is uninhabited on purpose by man.
何 らかの接辞付加 により、動詞の もともともっている要素の変更・ 保持 を明確 に知 らせ ることができる。(9)では、名詞化で も形容詞化で もね棗辛付加 により、
動詞の もっている要素の一つである動作主 を保持 し、表層上現われ うることを 示 している。 これに対 して、中間構文 は、他動詞派生だが、何の接辞 も付加 さ れずにいるため、動詞の もっている要素の変更・ 保持 について不明瞭 になって いる。ただ し、非対格構文の存在 によって、その変更が予想 もつかない ことで はない とい う見方がある。
他の言語 (例えば、 フランス語やスペイン語)では、中間構文 に相当する構 文 には、接語(clitic)が現われている。 これは、他動詞の もっている要素の一つ である動作主 を吸収する役 目を果たす。従 って、 この構文での項構造の変更が 明示 され る。
Keyser and Roeperは
、 この ことに注 目し、英語 の中間構文 に も 抽象的な目に見 えない形で接語 siが存在 していると提案 している。この提案の 意図 はよ くわか るが、接語 と共 にある中間構文 は、英語の中間構文 と違い、意 味的 にも統語的にも制限が少な く、幅広 く用い られているということか ら、 こ の提案 には無理があるように思われ る。やは り、動詞の もつ項構造の変更・ 保 持 には、なん らかの形態素の付加が必要 になって くる と考 えられ る。まとめると、英語の中間構文 には、統語的役割 を果た しうる動作主の存在 は まだ十分 に証明 されていない。 あ くまで、語彙 レベルで、動詞の もっている要 素の一つ として、削除 され ることな く、純粋 に意味的 に存在 してい る。今後 の
―
‑90‑
課題 として、 この語彙 レベルでの存在 を確かめる手立てを検討 していかなけれ ばな らない。
4.動作主 と修飾関係
動作主 は、統語 レベルではな く、語彙 レベル に存在す ると考 えて きたが、 さ らに考 えてみたい ものに、中間構文で よ く現われている副詞等の修飾要素 との 関連 である。 まず初 めに、共起 している副詞が中間構文 における動作主の存在 を支 えるものであるとの提案 は、必ず しもあてはまらない とい うことを指摘 し たい。中間構文 に現われ うる副詞 は、動作主 を修飾 す る様態 の副詞(mamer
adverbs)と
されているが、下の例でそうではない とい うことがわか る。(1)a o Jolm waShes silk shirts well b. Silk shirts are washed well.
C. Silk shirts wash wen.
(la)の 能動態 において、副詞 wellは 、動作主Johnを修飾 し、Johnが絹のシャ ツを上手 に洗 うとい う意味 をもつが、一方 (lc)の 中間構文 においての wellは 、 洗 いが き く、洗 って も大丈夫 とい う意味で対象
silk shirtsを
修飾 しているので あって、動作主 を修飾 しているわけではない。 この点で、中間構文 に現われ る 副詞 を様態の副詞ではな く、容易 さの副詞(facility adverbs)と
している研究 も ある:
また、中間構文 において、動詞 は状態性 を帯びていると指摘 されてきた。状 態性 をチェックす る方法 として、従来提案 されてきた ものに、命令形や進行形 になれない、特定の時点 を示す もの とは共起で きない等がある。
(2)a.ホ
Know the answer!
b.*I am knowing the answer.
C.*I knew the answer yesterday.
これ らを中間構文 にあてはめてみよう。
(3)a.*Drive easily,car!
b。
「rhe car is driving easily.
C. The car drove easily yesterday.
命令形 については、状態動詞 と同様 に非文 となっているが、進行形や、特定の 過去の時点 を示す もの との共起 も文法的であるとい う点で、完全な状態性 を帯 びているのではな く、元の他動詞の状態変化の意味 をある程度保持 していると 推測で きる
3
‑91‑
まとめると、中間構文での副詞の役割 は、動作主の存在 を支 えるもの とは言 い きれない し、状態性 になじむもので もない。 この点で も、動作主の存在が統 語 レベルの ものではないにせ よ、語彙 ンベルで どのような役割 を担 っているか が、依然 として未解決である。
第二 に中間構文では、非対格構文 と違 い、冨
J詞
等の修飾関係が、何故必要 な のか とい う点があげられる。(4b)示 されているように、修飾語句がな くて も、語用論的に有意義な情報が もりこまれていれば、主語名詞句の特徴 を示 してい る限 りにおいて、文法的 となる。
(4)a.*The meat cuts。
b. The meat slices.
(4)では、肉は切れるのが当然であるとい うことが前提 となっている社会 におい て、
(a)の
文 によってなん ら肉の有意義 な特徴 は述べ られていないが、(b)の
よ うに、薄 く切れるとい うことで肉の特徴 として意味のあることならば、なん ら 修飾語句がな くて も、文法的である。記述 された特徴 として、有意義な ものを 担 っていれば、動詞だけで も十分であろうが、一般的な傾向 として、修飾語句 がない と非文 になることが多い。(5)a. rrhe d。
。r opened.
b.*The book read。
この点 に関連 して、Grimshaw and Vikner(1991)が、達成動詞
(accOmplish‐
ment verbs)の
中の何かを作 り出す動詞の特徴 として、受動態 になると、なん らかの修飾要素が、必須要素 になるということを指摘 している。(6)a。 lrhe house was built *(by a famOus carpenter/in ten days/
only with difficulty).
b. The house was destroyed。
(6a)で
の動 詞
buildが受 動 態 の場 合 、 カ ッコ内 の修 飾 要 素 が な い と非 文 とな る。一方、
(6b)は、その よ うな ものが な くて も、文 法 的 で あ る。 これ は、な に か を生 み出す、作 り出す動詞 の場合 に、修飾語句 が ない場合、例 えば
(6a)で、 家 が建 て られた とい う こ とは当然 の こ とで、前述 した ように、何 ら有意義 な情 報 を述 べ て い ない と思 われ る。この言語事 実 を説 明す るた めに、
Grimshaw and Viknerは、達成動詞 が受動態 にな って も、
(7)のよ うな出来事構造 を保持 してい
る と考 え、
STATEは動詞 で同定
(identify)され て い るが、
PROCESSの方 は修 飾 要素 で同定 され なけれ ばな らない と結論付 けてい る。
(7)[event[PROCESS][STATE]]
―
‑92‑―
達成動詞の場合、達成 された結果の状態 は、修飾要素がな くて も同定 され るが、
達成の過程 (PROCESS)は 、修飾要素 によって しか同定 されえない。
この ことを中間構文 に もあてはめて考 えてみたい。
(8)a.*The boOk reads.
b.*The song sings.
達成動詞の受動態 と同 じように、侶)では、本が読 めることや、歌が歌 えるとい うことは、本や歌の特徴 として何 ら有意義な情報 を述べていない。前述 した よ うに、中間構文での動詞 は達成動詞 に限 られている。
Grimshaw and Viknerの
提案 にそって、中間構文で も動詞 は(7)の出来事構造 を保持 しているとす る。先 の議論で指摘 した ように、動詞が完全 に状態性 を帯びていないこととも合致 し ている。 しか し、 ここで、中間構文の場合 は、受動態 と違 って、PROCESSかSTATE(result)か どち らか一方 を修飾することによって、主語名詞旬の特徴 を記述す ることがで きる。
(9)a.The shirt washes easily.
b。
「Fhe shilt washes well.
副詞 は、
(9a)で
は、洗いやすい、簡単 に洗 えるとい う洗 う過程(PROCESS)を 修飾 し、(9b)で
は、洗いが き く、洗 って も型 くずれ しない という行為の結果の 状態(result STATE)を
修飾 していると考 えられ る。 どち らか一方 を修飾す る ことにより、主語の特徴 を示す構文 として有意義な情報 を述べてお り、その限 りにおいて文法的 となる。動詞の制限について、中間構文で許 され る動詞 は、基本的に状態変化 を意味 す るもの とい うことは、納得で きる。行為の しやすさ、 しに くさや行為の結果 の状態 という観点か らの主語名詞句の特徴 を記述す る構文であるか ら、状態動 詞のように、行為の区切 りのはっきりしない ものは許 されない。 しか し、状態 変化 を伴 うもので も、
win,climbと
いった到達動詞 (achievement verbs)が許されないのは何故だろうか
:
00a.申
The game wins easily.b.*Mt.F両
i dOes nOt climb easily.
この点 について考 えられ るのは、第
=に
、先 にあげた達成動詞の出来事構造 に み られるPROCESSと いう概念が、到達動詞の場合、欠 けているのではないか とい うことである。到達動詞 は、瞬時 にその動詞の意味する行為 を終 える。動 作の行為 自体 の時間的幅があまり感 じられない。α
D a.*How long did Jolm win the gameP
‑93‑
b.How long did John Wash the shirtP
時間的幅 をもたせた質問 (どの くらいの間 していたか)が、到達動詞の場合受 け入れ られない6進行形 について も、意味の差がある。
Oa.John is wiming the game.
b.John is washing the shirt.
(12a)の 場合、試合で勝 ちそうだ とい うことを意味 しているのであ り、試合 に勝 つ動作 をしているわけではない。(12b)の 場合、シャツを洗 うという行為が進行 中であ り、今、洗 う動作 をしているのである。中間構文では、前述 した ように、
進行形 になれるもの もあ り、その際、副詞の修飾 は進行中の動作 に対す るしや す さ、 しに くさを示 している。従 つて、到達動詞の場合、動作の しやす さ、 し に くさを示すある程度の動作の継続性
(瞬
時 にして動作が完結す るので はない とい う意味 において)が
感 じられないので、行為 自体 のPROCESSへの修飾が で きないためであろう。第二 に、中間構文の文法性 は、
affectednessと
い う概念か ら説明がなされて き た。つ まり、主語名詞句が動詞 によって示 され る行為 によって、何 らかの状態 変化 をこうむった場合、中間構文 として容認 され る とい う説明である。確かに、対象は到達動詞
(宙
n,climb)よ りも達成動詞 (cut,cook)の ほうが、動詞の行為 によって変化 をこうむる程度が大 きいか もしれない。 しか し、(13)に
み られ る ように、達成動詞で も影響 をこうむった とは感 じられない もの もあるので、決 定的な概念 とは言いがたい。α
31a. The book reads easily.
b. ′
rhe song sings beautifuny.
(13)に
おいて、主語名詞句のthe bookや
the songが 動作の結果、何 らかの影 響 をこうむった とは考 えに くい。 しか し、 ここで主語名詞旬 に焦点 をあて、そ の特徴 を記述するものが中間構文の独 自性であると考 えると、到達動詞 は、む しろ動作主の方に、 より焦点 をあてた意味 をもつ、動作主指向性の強い動詞で あるとす ると、中間構文 になじまない とい うことが納得で きる。受動態 にして みると、 よ くわかる。・
00a.The game was won *(by John)。
b. Mt.Fuli is Climbed *(even by patients).
文脈 の助 けな しで は、動作 主 に よつて修 飾 され ない と文 として不 完全 にな って い る。
以上 、 中間構文 において到達動詞 が用 い られ ない理 由 をま とめてみ る と、行
‑94‑
為が瞬時 にして完結 して しまうこと、また、対象 (theme)よ りも動作主の方 によ り焦点 をあてた動詞であると考 えられ るので、対象 (theme)に 焦点 をお き、時 間的幅 をもつ継続的な動作 の過程(PROCESS)を 修飾 す るす ることによって、
対象の特徴 を述べ る中間構文 にはなじまない と考 えられ る。
5.日本語 と中間構文
これ までずっ と、英語の中間構文のみを考察 してきたが、 ここでは日本語 に も英語の中間構文 に相当するものがあるか どうかを検討 してみたい。
英語の中間構文 においての ように、他動詞派生の自動詞で、何 ら形態素
(接
辞)が付加 していない とい う条件で相 当するものを探 してみると、 日本語 には 対応す るものがない と結論付 けられ る。 日本語では、 自動詞 と他動詞 は形態上 の区別があ り、全 く同 じとい うものはわずか しか見あた らない。(例えば、ひ らく、 とじる)従って、「 この本 は簡単 に訳す」と言 えないのは自他の形態上の区 別のある日本語の特徴 を反映 していると思われ る。 しか し、ロマ ンス諸語のよ うに、他動詞 になん らかの形態素、あるいはそれに類す るもの (接語
)の
付加 によって、主語 に対象 (theme)を とり、その特徴 を行為の しやすさ、しに くさと い う観点か ら記述 す るものに範囲をひろげ、日本語 において も(自他の区別 はあ た にせ よ)、 他動詞派生の自動詞で主語 に対象 (theme)を とり、その特徴 を述べ る構文 を見てみたい。影山、井上、寺村等の研究成果 をふ まえ、他動詞 に接辞 の付加 によって作 られた自動詞文 を考察の対象 としてい くPい くつか 日本語の一
e/―
ar型自動詞文 をあげてみ ようと1(1)a。 この木 は、簡単 にまが る。
b。
会費 はす ぐに集 まる。(2)a。 この糸 はなかなか切れない。
b。
この高価 な時計 は、簡単 には割れない。(3)a。 今、話題 の本 は、たちまち売れ る。
b.こ の ワインは、飲 める。
日本語の場合、フランス諸語の接語の ように、他動詞 に接尾辞―
e/―
arが付加 し ているため、動詞の項構造の保持や変更が明確なため、英語の中間構文のよう な制限はあまりな く、幅広 く使われる。単純過去時制で、修飾語句 な しで も、十分 に文法的である。
(4)a.*This wine drank。
b。
このフインは飲 めた。(5)a.*This thread cut.
b。
この糸 は切れた。例 えば、 (5b)に おいて、主語名詞句「 この糸」の特徴 とい うよりは、「切れた」
とい う出来事 を記述 している。この点で、日本語の一
e/― ar自
動詞 は、英語の非 対格動詞(urlaccusative)と
の共通点 をももっている。2節(1)でみた、英語の中 間構文の特徴 を日本語 にもあてはめてみよう。)特徴
中 間
a.対象が主語
0
b。
他動詞派生0
C.単純現在時制0
d。
修飾語句0
e.動作主(implicit) 0
寺村 (1982)が 、受動的可能表現 (passive potential)と いう名付けたものが、この 一 e/― ar自 動詞構文にあてはまる :2
さらに、興味深い提案 として、影山 (1991)は 、自動詞化の過程に際 して、一 e 型 と一
ar型は違った操作がなされるとしている。つまり、一
e型は内項の外項化 によって、一
ar型は外項の削除によって形成されるものとしている。概念構造 と して、以下のように、提示 している。
(η
―
e型汚 す
一一一→
―
e/―
ar型非対格
0 0
0 *
0/* *
動 作 主 行 為
11』
使 役
状 ζ ハ
ハ
\変化
対象
汚れている
状態
/ハ
\\ 変化鶴 て い る
対
ン
L
ここで注 目すべ きは、動作主の存在である。影山の提案 した概念構造か らいえ ることは、一
ar型
には、動作主 は存在せず、一e型には、残 っているとい うこと である。 その動機付 けとして、複合語か ら十分な証拠があげられている。 さら に、影山は、「難な く」とい う動作主の存在 を前提 とす る副詞 との共起制限を指汚れ る
出来事
―
‑96‑―
(8)一ar型
集 め る
動 作 主 イ 行為 ↑ \ 使 役
出来事 状態 //へ \
変イ 対象
集 まっている :
ハ出来事
対 象
/メI彗ゝ て 11
一
集 まる
(影山、54) 摘 している。動作主の入 りこむ余地のない自動詞 には生 じえない。
0)a.*難な く地滑 りが起 きた。
b.*難な く雨が降って きた。
一e型、一ar型の両方共、動作主 を前提 とする場合 と自然 に事が進行する場合 を 表現することがで きる。可能 と自発 とい う日本語の表現のカテゴ リーの存在が それ を物語 るF換言すれば、前者 は可能 を、後者 は自発 を意味 し、文脈 によっ て、 どち らかに決定 され る。
00a.難な く会費が集 まった。
b.難な くこの糸が切れた。
この点で、影山の提案 した概念構造 において、一ar型の場合、完全 に動作主 を削 除 してまうので、動作主 を前提 とする表現 との共起関係 をどの ように示すか と い う問題 は残 る。
しか し、英語の中間構文 と同様、動作主のby―句 (日本語で は、「 に
0に
よっ て」)や、動作主 を強 く修飾す る副詞等 は共起で きない。αDa.*子供たちによって会費が集 まった。
b.*工事作業員たちによって この線が切れた。
021a.*注 意深 く会費が集 まった。
b.*注意深 くこの線が切れた。
この ことは、英語の中間構文での動作主が、統語的役割 を果たさず、純粋 に意 味的に存在 しているとい う点 と共通 している。主語名詞旬 に焦点 をあわせ、他 の ものは背景 においや るという中間構文な らではの性質 を、日本語の一
e/― ar型
自動詞文 ももっていると考 えられ る。以上 を、表 にまとめてみよう。l131
受動文 英語
日本語
一rare
共起 可能性
●
by一句
0● intentionally
0● easily
O●修飾語旬 の 義務性
中間
非対格 一
e型― ar型
0 0 0
表
(13)か
らわかるように、日本語の一e/ar型
自動詞文 は、英語 の中間構文 と非対 格構文の特徴 を兼ね備 えている。共通点 として、 もともとの動作主 は完全 には 削除 されず、動詞の概念構造 に残 され、純粋 に意味的役割 を担 うもの として存 在 している。6。
結論
ここでは、英語の中間構文での関心の的の一つである動作主の存在の意味 を 共起関係や修飾関係か ら、問題点 をより明確 にしようとした。少な くとも、そ れが統語的役割 を担 う程 までの動機付 けは与 えられないので、動詞の概念構造 にある純粋 に意味的存在 としての役割 をもつ もの とした。日本語 との関連では、
自動詞化の一
e/―
ar型構文 を動作主 との共起関係や副詞等の修飾関係か ら、共通 部分 を指摘 した。最後 に、依然 として、動作主の役割 を、統語的ではない とし て も、なん らかの役割 を担 っているとして、果た して どうのような ものなのか とい う根本的な問題 は未解決であるので、今後 は、 より広範囲で新 しいデータ を分析 してい く必要があると考 えられ る。注:
1.荒木・宇賀治(1984)よれ ば、歴史的 には、受動態表現 は
15世
紀 に現われ、16世
紀 に確立 し、中間構文 は16世
紀頃か ら現われた と分析 している。や は り、構文的 に も、後者が前者 よ り、 より特殊であることが うかが える。2.主に、Keyser and Roeper(1984)の 名詞句移動 による統語的解決 と、
Fagan(1986)の
語彙 規則 の適用 による語彙的解釈が あげ られ る。3.Keyser and Roeper,Roberts,Fagan,Fellbaum等
の研究 を参照 されたい。―
‑98‑―
4。
ここでは、修飾語句 として、形容詞、否定辞、助動詞 も含めている。
5。 用語上の問題がある。Keyser and Roeper(1984)で は、
ergativeと称 しているものであ るが、適切かどうかについて、見解の一致をみていない。ここでは、英語 という言語を記述 する際に使用される
unaccusativeという方を採用する。
6.こ の関係をわか りやす く表にまとめてみよう。
動作主の役割
7.時
制 と総称性の関係 も指摘 されている。2節 で示 した中間構文の特徴
(lc)は、主語名詞句 の永続的な性質、属性
(prOperty)を担 うもの として重要であるとされている。つまり、総称 性 は、時に関 して、性質が変わ らないもの として記述するもの としている。実際には、この
ことがきれいに当てはまらない。
(i)The guitar used to play well.
(五
)The book was selling well.(面
)The Oyseter killed well.上の文は、時制から考えると、全て過去の一時点を示 している。時制の制限 (単 純現在)を 守 らな くとも、中間構文 として十分通用する文である。
8.Fellbaurn(1985)を 参照されたい。
9。
この疑間は、川崎典子さんの指摘による。
10.奥
津
(1967)等を踏襲 して、日本語の動詞 としては、自動化、他動化、両極化 (そ の他)の 三種類のタイプにまとめられると考える。
11.影
山の例 を参考にした。
12.寺
村
(1982)を参照されたい。
13。
中右
(1991)等を参照されたい。
参 考 文 献
阿 部 泰 明 (1991)「「 この本 は よ く売 れ る」 中 間構 文 に関 す る一 考 察 」『言 語 理 論 と日本 語 教 育 の相 互 活 性 化 』 津 田 日本 語 教 育 セ ンター
76‑89.荒 木 一 雄 0宇 賀 治 正 朋 (1984)『 英 語 史 Ⅱ
IA』大 修 館 書 店
Condoravdi, C。 (1989)
The Middle: where semantics and morphology meet",』″
T陥″グ η g nゅ ι答 物 二′ η多俗厖
as.vol.11.16‑30.Dixon,R。 (1991)4♂
厖"4秒
ηα磁 わEば
なλ GZπ%α
″ο%ルタ,%πJた
Jttπ″夕
JaS.OXfOrd U血versity Press.
Fagan,S。 (1986) The English Middle'',ι
グη多たガθ」物σ%″ン.181‑203.
Fagan,S.(1992)1り
'ι
〔 シ
%彪席 α
%″Sθ
,多απ
ttcs̀/Mtaatt ca%s″%θ ″ο%s.Calm‐
bridge University Press.
Fellbaun,C.(1985)
Adverbs in Agentless Actives and Passives",C力ic図ιグ η
̀ン
な厖cSoσルク。21‑31.
Fellbaurn,C。 (1986)(シ フルο Mtadtt ε。%sttσ κο%グ
%E2望Jた 力.Indinana Uni‐
versity Linguistics Club.
Fellbatlm,C and A.Zribi―
Hertz(1989)att Mぅ配 姥
ca,偲″π σ πθπ
tt F%π(磁
απ″
Eη′ た力Indinana University Linguistics Club.
Grimshaw,J.and s.Vikner(1991) Obligatory AdiuFICtS and the Structure of Events",lns.
Hale,K.and Jo Keyser(1986) Some Transiti宙
ty Altemations in English'',
四%滋
グπノ吻クθ弯.1‑41.
井̲LTE子
(1986)
On the implicit agent in Japanese",N7T Rψ ο4 26‑36.井上和子(1992)「
On Middles」
平成3年度科学研究費補助金成果報告書 。1‑19.
影山太郎(1991)「統語構造 と語彙構造のヴォイス変換」『言語理論 と日本語教育 の相互活性化』津田日本語教育センター
.45‑58.
Keyser,J.and i「
.Roeper.(1984)On the rniddle and ergative constructions in English'',Lル
昭%た
あσ」物σ%グ″フ.381‑416.
松瀬育子
(1992)「
中間構文:Cognitive Approach」
関西言語学会 ワークショッ プ。中右実
(1991)「
中間態 と自発態」『日本語学』明治書院52‑64.
Ohara,J。 (1993) On IFliddle constructions in English and Spanish",『
層蕎語文 化研究』静岡県立大学大学院言語学研究室.奥津敬一郎
(1967)「
自動化、他動化 および両極化転形」『国語学』70.46‑66.
大庭幸男
(1993)「
英語の中間構文 について」『英語青年』20‑22.
Rizzi,R。 (1986)
Nun Object in ltalian and the Theory of pro".ι ′ηン なあσ ルag%グ
リ。501‑57.
Roberts,I。
(1985):刀 り ι
Rの昭 cπ 滋″ο
%a/」物ψ′ ′ θ ″ απグ
Iル滋ι %αι ttι ″
S%1躾夕 ιお
.PhD Dissertation.University of Southern Califorrlla.
Sato,C。 (1982) Some PrOperties of lnanimate Subiect PaSSiVes'',Rψ ′雰 勿
‑100‑
′ψα
%ω
ιι′η彩な誌
cs.Kaitakusha。 177‑91.
Stroik,T。 (1992) Middles and Movements",ニ
グ篠彩なあσ ttπ̀ン
グη
.127‑37.
寺村秀夫(1982).『日本語のシンタクス と意味
I』
くろしお出版梅 田亨
(1989)「
状態性 と中間態形成」『外 国語論集』大阪学院大学外国語学会42‑63.
Van Oosten,J。
(1977)
Suttects and Agenthood in English",Cみ グ6ψ
ι勿‐ク なあ
as Saaθ
夕.459‑71.
Zribi―