放射線 障害防
止法 改
正( 平 成
1 7年
6月 )
に伴 う
アイ ソ ト ー プ 生
物 資 源 学 部 実 験 施 設
の対 応
につ い て黒 津 俊 人 (三重 大 学 生命科学研 究 支援セ ンタ ー 放 射線化学 ・ 安 全管理学部 門)
1. は じ め に
放射線を 取扱う者、 放 射線施 設、 放 射線源 など放 射線に関 連 する法令は様々 ある が, アイ ソ トー プ 生 物 資 源学部 実 験 施 設 (以 下 当 施 設) 自 体 や 当 施 設 を利 用 する者が規 制 を 受 ける主 な法令は放射 線関 係 だ けでも 以 下のと おりである。
・ 放 射線 障害防止法 ( 原子力 基 本 法)
【目 的】広 く 放 射線 障 害を防止 し, 公共の安 全 を確 保し よう と するもの
・ 作 業 環境測 定 法 (労働基 準 法)
・ 電離放 射線 障 害防止規 則 ( 労働 基 準 法)
【目 的】 もっぱ ら 労働 者の保護とその地位の向上を 図ること を目的とするもの
※そ れ ぞ れの規制 領域に おいて、 それ ぞ れの立場から 放 射線障害を防止 し ようとするものである。
その中で、 今回 取り 上げる放 射線障害防止法は放 射 性 同 位 元 素 及び放 射 性 発 生 装 置の利 用に伴う放 射 性障 害の防止のた めの法令と し て原 子 力 基 本 法 を 中心と する法 体 系の中に位 置づけ ら れて お り、 放 射線 を取扱う 上で根 幹 を なす 重 要 な 法律である【1】。 また、 平 成 16 年6 月2 日 に改正され、 平成1 7 年6 月1 日 に関係 省 令が改正され 施 行 された.
2. 放射線 障 害防止法 改正の主 な 改正点
当 施 設に特に関 係 する改正点 を 挙 げる と以 下の ようになる。 1) 規 制 対象下 限 値 ‑ の国際基 準の取り入 れ
国 際 原子力 機 関 仙1 E A) な どの国 際 機 関が共 同で策定し た 「国 際 基 本安全 基 準 (B S S)」 で提 唱 され ている免除レベルを規 制 対象下 限値 (下 限 数 量) とし て導入。
※免 除レ ベ ルと はある放 射線源につ いて放 射線 防護に か か る規 制の対象としない こと。 また、 免 除の判 断 基 準となる放 射 性 物質の放射 能 及び濃度の こと。
2) 放射線取扱主 任者の定期講習制度の取り入 れ
最 近の事 故 ・ ト ラブルはハ ー ド面 ( 施 設) よ りもソ フ ト面 ( 人 ・ モ ノ) に起 因 するものが多く、 放 射 線取扱主任者の定 期 講習制度を創設【2】。 当 施 設の放 射線取扱主任者は選任後1 年 以 内、 その後は 3 年 以
内に定 期 講 習 を受講しな け れ ば な ら ない。
3. 規制緩和 と規制 強 化
非 密 封線源に関し て言 うと, 改正前は非 密 封 放 射 性 同位元素の物理的 半 減 期 を危 険 度の 一 つ の目安と
し て定義数量 を4 つ の群に区 分 ( 国 際 的 な機 関の勧告 を考慮) し ていたのに対 し、 改正後は線量 基 準と 様々 な被ば く経路 を 設 定 し, 科学的 根 拠に基づ いて核 種ご と に算出し、 下 限 数 量 を 1 0 段階に区分 (国 際 標 準 を 取り 入れた) し た。 これに よ り非 密 封線源は 一 般 的に下 限 数 量が大 き く なる ( 規 制が緩 やか に なった) 一 方で、 密 封 源線は 一 般 的に下 限 数 量が小 さ く なっ た (規 制が厳 しく なった)。 し か し、 密 封
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線源に関し て は新た に設 計 認 証 ・ 特 定 設 計 認 証 制 度 を創設 し、 機 器の利 用 実 態 と 使 用のリ スク に応じ た
合理的 な規 制 を行 うこと と し た。
し た がっ て放 射線の利 用に関し てい え ば 全 体 的に は規 制 緩 和の傾 向にある といえる。
一 方で最 近の事
故 ・ ト ラ ブルは ソ フト面 ( 人 ・ モ ノ) に起 因 するものが多いという 現 状の中、 安全 性の 一 層の向上 が求 めら れる ようになっ た。 具 体 的に は事業所の自 主管理の強 化 や 人 や 放 射線源 な どソ フ ト 面の管理強 化が それである。
4. 放 射線障害予 防 規 程 とは
放 射線障害 予 防 規 程( 以 下 予防規 程という) と は放 射線障害防止法2 1 条及び施 行 規 則2 1 条に基づき、
事業所ご と に そ れぞ れの実情に合わ せ て管理内 容 を 作 成し大 臣に届 け 出ること が義務付 け ら れている 事 業 所 内部の管理基 準である。
放 射線取扱者は、 放 射線 障 害防止法 令の詳 細につ いて は 必ずしも 知っ ている 必要はないが、 予防 規 程
の放 射線取扱 者が守 ら な け れ ば な ら ない事 項につ いて は熟 知し ていな け れ ば な ら ない内 部 基 準である。
し た がって当 施 設の対 応と し て は予防規 程 を 変 更し, 当 施 設の利 用 者に周 知 ・ 徹底 すること で改正され た放 射線 障害防止法 を 遵 守 すること になる。
5 . 予 防規 程 変 更の背 景
予防規 程の変更は今回の法 改正だ けでな く 以 下の よう な理由に よっても 変 更 を行 った。
・ 平 成1 5 年4 月の学 部 組 織 改 組に伴い、 本学で放 射線を扱っていた ア イ ソト ー プ三施 設 ( 医 学 部、
遺 伝子実 験 施 設、 生 物 資 源学部) が生命科 学 研 究 支援セ ン タ ー となり同じ部 局 と なる
・ 平成1 7 年4 月の国立大 学 法 人 化
・ 平 成 1 7 年6 月の放 射線障 害 防止法の改正
6. 予防規 程の整理 と充 実
設立 し た背 景の違いから, 共 同 利 用 施 設となり生命科学研 究 支援セ ンタ ー と なっ て から も 各 施 設の予
防規 定 を継 続し ていた。 し か し、 様々 な 問 題 点が浮か び 上 がっ てきたので、 これ を機に 三施 設で整理 で きる ところを整理 し以 下のように予 防 規 程の充 実 をは か っ た。
ア. 放 射線取扱主任者の職務の明確 化
改正前 (第4 条) 改正後 (第3 条)
主 任者は, 放射線 障 害防止 に関し, セ ンタ ー 長,
生命 科 学 研 究 支 援セ ンタ ー 総 合アイ ソト ー プ分 野 長 及び本 実 験 施 設 統 括 責 任 者に意見 を 具 申 するも
のとする。
主 任 者は, 本 実 験 施 設に お ける放 射線 障害の発 生
の防止 に係る監督に関し, 次の業 務を行 う。
(1) 放 射線障害予 防 規 程の制 定 及び改廃 ‑ の参 画 (2) 放 射線 障害 防止 上重 要 な 計 画 作 成 ‑ の参 画 (3) 法令に基づく 申 請, 届 出, 報 告の審査 (4) 立 入検 査 等の立合い
(5) 異 常 及び事 故の原 因 調 査‑ の参 画
(6) 学長, セ ンタ ー 長, 生命 科 学研 究 支援セ ンタ
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‑ 総 合アイソト ー プ分野 長 及び本実験 施設 統括 責 任者に対 する意見の具 申
(7) 使 用状況 等 及び施 設, 帳 簿, 書類 等の監 査 (8) 関 係者に対 する助言, 勧告 及び指示 (9) 委 員 会の開 催の要 求
(10) その他 放 射線 障害 防止 に関する 必要 事 項
イ. 放 射線取扱主任者の地位 ・ 権限の強 化
改正前 ( 第1 2 条) 改正後 ( 第1 1 条)
取扱者が防止法 及び本 予防 規定等に著しく違反し 取扱等業 務に従 事 する者が著しく 法令等, 本 予 防 た場 合は, 当 該 講 座 等 責 任者に連 絡の上, 委 員 会 規 程 等 及び主 任 者の指示に違反 し た場 合は, 当 該 に諮り, 登 録 を取 消 すことが できるo 講 座 等責任者に連 絡の上, 委員会に諮り, 登 録 を
取 消 すこと が できるo
ウ. 放 射線取扱主 任 者の定 期 講 習 制 度の創設
改正前は主任者の能 力の維 持 向上 は自 発 的 な研 修にのみ委ねられて いた が、 改正後は事業 者が主 任 者 に定 期 講 習 を受 講 させ ること が義務付 け ら れた. ( 当 施 設の場 合、 3 年に 1 度の受 講が 必要)
エ
. 放 射線業務従 事者の責 任の明 確 化
改正前 ( 第5 条) 改正後 ( 第4 条)
放射 線業務従 事者が所 属 する講 座 等ご と に, 講 座 等責任 者 を 置 く。
講 座 等責任 者は, 放 射 性 同位元素の安 全 な 取扱い
につ いて十 分 な 知 識 及び経 験 を有する者のう ちか ら部局 等の長が任命する。
放 射線業務従 事 者が所 属 する講 座 等ご と に, 講 座 等 責 任者を置 く。
講 座 等責任 者は, 放 射 性 同 位 元 素の安全 な 取扱い
に つ いて十 分 な 知 識 及び経 験 を有する者のう ちか ら選 任 する。
講 座 等責任者は, 主 任者の指示 に よ り, 放射性 同 位元 素の取扱い, 帳簿の記 録 等に関 するすべ てを 掌握し, 所 属 講 座 等の利 用者を直接に指導, 監督 するものと する。
オ. 放 射 性 同位元素の受入及び払 出
今まで以 上 にモ ノ の流れを 明 らか にする た め放 射 性 同 位 元 素 等の受入 ・ 払 出 を 明確に し た。
新設 (第1 4 条)
放 射 性 同位元素 等の受入れ, 払 出し は確 実に行い, その所在が不 明とな ら ないようにする。
放 射 性 同位元 素 等の受入 れを行おうとする者は, あ らか じ め放 射 性 同位元素 等 受入書に 必要 事 項 を記入 し, 主 任者の承 認 を受 け な けれ ば な ら ない。 主 任 者は当 該 受入れが適 当と認め た ときはこれ を承 認 する
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ものと する。
放 射 性 同位元素等の払 出しを行おうとする者は, あ らか じ め放射性 同位元 素 等 払 出書に 必要 事 項 を記 入
し, 主 任 者の承 認 を 受 け な けれ ば な ら ない。 主 任 者は当該払 出し が適 当 と認め たと きはこれ を承 認 する ものとする。
7. 今後の課 題
放 射線 障害 防止法改正 に よ る規制 対象下 限値の変更に より、 管理 区域外でのアイソ ト ー プの使用が可 能になった ことなどを受 けて現在、 研 究 分 野で放 射線の利 用が減少 傾 向にある中で利 用者の拡 大が見込 まれる。 例 え ば微 量の R I 標 識 さ れた検体 を 電 子 顕 微鏡や 放射 線施 設に設 置 し ていない大 型 機 器 等で解 析、 研 究できる ようになった。
し か し当 施 設で は予 防 規 程の 中の 『放 射 性 同位 元 素 を 使 用 する場 合は、 本 実 験 施 設 内で行 うこと。』
の条文 を継続し、 管理区域外での使 用 を 認め ていない ( 見合わせた)。 その理 由 とし て以 下の ことが挙 げ られる。
1) 管理区域外での数 量の管理 が難 しい
管理区域外であっ ても 文部科 学 省の許可を 得た使 用の目的 ・ 方 法 ・ 場 所の範囲 内で行 わ れ な け れ ば な らい。 つ ま り自 由勝手 気 まま に使 用し て良いという もので はない。
2) 管理区 域 外 使 用 者 ‑ の教育 ・ 訓 練の徹底が難しい
管理区域 外で放 射線の取扱いに従 事 する者の健 康 診 断, 放 射線の量の測 定は課 さ れ ないが、 教育 ・ 訓 練 を 受 ける 必要がある。 し か し放 射線取扱者と し て教育・ 訓練を受 けていない者の使 用があるので はな
いか。
3) 非 R I 使 用 者 ‑ の配慮
同じ研 究 室・実 験 室で R Iを 使 用しない者 や 実 験 室に出入 りする者の安全は どのように確 保 す べ きか。
また地域に おける大 学の安 全管理 お よ び環境保 全の立場 を どう 考 えるべ きか。
4) 排 水 ・ 排 気 を含む汚 染 さ れた物の廃棄問 題
液 体 ・ 気体廃 棄物は廃棄の基 準は適 用 さ れ ないが、 固 体廃棄 物 ( ゴ ム手 袋 ・ 白 衣 ・ 針 など) は廃 棄の 基 準は適 用 さ れ管理区域内に持 ち 帰 ら な けれ ば な ら ない。 つ まり使 用者が勝手に廃 棄すること は でき な
い。 R I 使 用 者が法令を遵守し ている確 認 をどのように とれ ばい い の か。
こ のように当 施 設で は安全管理のた め に ク リ ア しな けれ ば な ら ない課 題が山積し て お り、 下 限 数 量 以 下の管理区域外でのア イ ソト ー プの使 用は時 期 尚 早と判 断し見 合 わせ た。
8. おわ りに
放 射 線 利 用 者 を 増 や すた め にも 規 制 緩 和の流れ に逆 らっ て今の状 態を続け る べきではなく 他 大 学、 他 機 関の状 況 を 見 極め、 先般の諸 問 題 を解決し当 施 設 独 自の人 ・ モ ノ (R I) の管理 が 必要と考え てい る。
9 . 参 考 文 献
【1】放 射線取扱 者のた めの法令の話 ( 改 訂版) 社団 法 人日本ア イ ソ トー プ協 会
【2】放 射線障害防止法 及び関係 政 省 令 等の改正の内 容 文 部 科学省 原 子 力 安 全 課 ( 平 成1 7 年5 月)
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