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081116ヨコ/妹尾江里子 199号

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はじめに

スポーツ選手の競技前、競技中の心理状態は、大きくス ポ ー ツ パ フォーマンスに影響する。今日まで、安定した高いパフォーマンスを発 揮する心理状態の準備として、覚醒や感情を制御する心理的ストラテ ジーが多く試みられてきた。Hardy et al.(1996)は心理的準備ストラテ ジーに関する文献をレビューした上で、イメージを根幹とするストラテ ジーは、パフォーマンスを発揮する最適な覚醒状態を生起させると示唆 した。そして「適切な感情の処方(レシピ)」をすることが、課題遂行 者の認知的、生理的覚醒状態に有益な効果をもたらす鍵であると提言し ている。 スポーツ心理学、運動心理学の研究分野におけるイメージの利用には、 2つの側面が考えられている。1つは、運動技能を獲得するためのもの である。もう1つは自分の持っている技能や実力が発揮できるよう、感 情、覚醒、競技不安をコントロールして、最適な心理状態を形成するた めにイメージを利用するというものである。これは Paivio(1985)の提 唱する2つのイメージが機能していると考えられる。即ち主に前者は、 運動スキルの実行と行動のストラテジーに潜在的に影響するイメージの 認知的機能が、後者は覚醒や感情の変化にみられる動機づけ的機能が作 用している。数多くの研究が2つのイメージの機能の存在を支持し、さ らに Martin et al.(1999)はスポーツ場面におけるイメージの利用を調 査し、概念的モデルとしてイメージを5つの機能に細分化した。その機 能 と は、認 知 的・具 体 的(Cognitive Specific : CS)、認 知 的・一 般 的 (Cognitive General : CG)、動機づけ・具体的(Motivational Specific :

運動遂行時における

感情喚起による動機づけ的イメージの効果について

江里子

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MS)、動機づけ・一般的−覚醒(Motivational General−Arousal : MG−A)、 動機づけ・一般的−統御(Motivational General−Mastery : MG−M)で ある。動機づけ的機能を有する3つのイメージうち MS は、具体的な目 標や結果をイメージすることであり、MG−A はスポーツ競技に伴うリ ラックス、ストレス、覚醒、不安をイメージで感じ、それらを制御する ことに焦点が当てられている。また MG−M は挑戦的場面で対処や統御 をして自信を高めるイメージである。 近年、動機づけ的イメージの研究が、感情、覚醒との関連から進めら れてきた。イメージを利用して感情喚起をする手法は、臨床心理学、社 会心理学の分野で一般に取り扱われている。イメージは「準感覚的ない しは準知覚的経験」(リチャードソン,1973)と定義されるように、外 的刺激がなくても内的に生起したイメージが、外的刺激に匹敵する役割 を果たす。つまりイメージで感情を想起すれば、その感情を体験してい るように感じるということである。 これまでスポーツ場面における感情の研究は、ほとんどパフォーマン スを抑制する不安やあがりのような不快で否定的な感情に焦点が当てら れてきた(Hardy et al. 1996 ; Jones, 1991, 1995 ; Parfitt et al. 1990 ; Raglin et al. 2000)。ところが近年、否定的感情だけでなく肯定的感情が注目さ れ、感情状態を総合的に分析し、スポーツパフォーマンスとのメカニズ ムが概念化されるようになった(Hanin, 2000 ; Botterill et al. 2002 ; Lazarus, 2000 ; Vallerand et al. 2000 ; Skinner et al. 2004)。これらの研究 の蓄積から、個人の感情状態は、動機づけ、身体的覚醒、認知的な機能 に影響することが明らかとなってきた。これは感情もイメージと同じ機 能をもち、それがスポーツパフォーマンスに作用しているものといえよ う。 以上のことから心理状態をコントロールするストラテジーとして、イ メージによって感情を喚起させる手法は、感情とイメージの効力を増幅 させる可能性があり、その研究意義は大きいと考えられる。しかし、運 動・スポーツ場面におけるイメージによる感情誘導の研究は数少ない。 Kavanagh & Hausfeld(1986)は、握力のパフォーマンスに及ぼすイ メージ誘導による幸福と悲しみの感情の効果を調査した。その結果、幸 福の条件は悲しみと統制条件よりも高い幸福的な感情を喚起することが できた。さらに、幸福の条件は悲しみの条件よりも有意に優れた握力パ

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フォーマンスを示した。しかし、2つの感情条件と統制(感情喚起のな い)条件との間には、有意なパフォーマンスの差異はみられなかった。 Murphy, Woolfolk & Bundney(1988)は、握力のパフォーマンスに 及ぼす効果を、怒り、恐れ、リラックスの感情イメージ条件と感情喚起 しない条件の相互間で比較検討した。怒りと恐れの感情イメージ条件は、 リラックスと感情喚起のない条件よりも、高い不安と怒りの感情状態を 表した。ところが怒りと恐れの条件は、感情喚起しない条件よりも高い 握力パフォーマンスとはならず、リラックス条件は他の条件よりも低い 握力パフォーマンスを示した。Murphy et al.(1988)は、パフォーマン スに感情イメージの効果が表れなかった原因として、感情喚起のイメー ジ想起中、課題(握力)パフォーマンスの成功的で、期待する結果に注 意がむけられなかったことを指摘した。 上記2つの追跡研究として、Lee(1990)は腹筋のパフォーマンスに 及ぼす感情イメージの効果を報告した。課題と関係するイメージ条件、 課題と関係しない幸福と自信の感情イメージ条件、統制条件で検討した 結果、課題と関係しない幸福と自信の感情イメージ条件は他の2条件よ りも活性度が高く、疲労度が低い感情状態を示した。そしてパフォーマ ンスについては、課題と関係するイメージ条件が他の2条件よりも優れ ていたが、課題と関係しない条件は、統制条件と同じレベルであった。 これは、Murphy et al.(1988)の先行研究を支持する結果となった。 ところがその後の研究には、課題パフォーマンスに関与しない感情イ メージが、課題のパフォーマンスを促進するという結果が発表された。 Perkins, Wilson & Kerr(2001)は、瞬間的に最大筋力を発揮する種 目特性の競技選手を対象に、握力パフォーマンスに及ぼす2つの感情条 件の効果を研究した。その為、テリックステート(目的・結果指向状 態)感情条件と、パラテリックステート(活動過程指向状態)感情条件 及び統制条件を設定した。感情喚起するためのイメージの場面(スクリ プト)は、課題(握力)の遂行とは無関係な選手の種目や日常的体験に 関係したものであった。研究の結果、パラテリックステート感情条件は、 高い覚醒でポジティブ(快)な興奮を生起し、一方、テリックステート 感情条件は、高い覚醒でネガティブ(不快)な不安を生起した。パラテ リックステート感情条件のパフォーマンスは、他の2条件よりも高く、 さらにテリックステート感情条件は、統制条件よりも優れたパフォーマ 50 (79)

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ンスを示した。Perkins et al.(2001)は、今までにない感情喚起のイ メージスクリプトの作成が、高い覚醒でポジティブな感情(興奮)を誘 導し、パフォーマンスを促進したと考察した。また、妹尾(2003)は、 ハンドボールパフォーマンスに及ぼす怒りとリラックスの感情イメージ の効果を検討した。怒りとリラックスの感情イメージは、課題(ハンド ボールの遠投)と無関係な参加者個人の体験に基づいた感情誘導のイ メージ場面を想起した。パフォーマンスは、高い覚醒を示した怒りの感 情イメージ条件が最も優れていた。しかし、低い覚醒を示したリラック スの感情イメージ条件と感情誘導のない条件間には、パフォーマンスの 差が認められなかった。瞬間的な力量発揮課題には、動機づけ的に機能 した高い覚醒の怒りのイメージの利用が、有効であることが示唆された。

最近、Jones, Mace, Bray, MacRae & Stockbridge(2002)は、ウォー ルクライミングに及ぼす動機づけイメージの効果を研究した。ウォール クライミングの初心者を対象に、実験群(課題に関与した MG−A と MG −M タイプの動機づけ的イメージ想起)、統制群で検討した。その結果、 実験群は統制群よりもクライミング中と前のストレスレベルが低く、ま た正しくクライミングを遂行できるという確信(自己効力感)が高かっ た。しかし、パフォーマンスには両群間に差異は認められなかった。こ の研究では、実験群の参加者が MG−A と MG−M から構成される動機 づけ的イメージの想起中、実際にどんな感情を喚起したかは調査されて いなかった。 以上の研究では、主に握力などの強さ、瞬発力という高い覚醒水準を 必 要 と す る 課 題 が 多 く 用 い ら れ て き た。そ の 背 景 に は、Oxendine (1970)の提唱する覚醒水準と課題のパフォーマンスとの関係仮説に基 づくものがあった。すなわち、強さ、スピード、耐久力を必要とする課 題パフォーマンスでは、高い覚醒水準が、一方、協応性、規則性、集中 力を必要とするものには、低い覚醒水準が最適であるというものである。 しかし、高い覚醒水準を要する課題が高い覚醒を生起した時、優れたパ フォーマンスを示すという一致した研究成果は得られていない。従って、 動機づけ的感情イメージの研究には、イメージで喚起される感情の種類、 性質、イメージの内容(課題に関与したイメージの有無)やイメージ喚 起に必要なスクリプト条件、課題に最適な覚醒レベルなどを条件設定し て探求することが求められる。 49 (80)

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本研究の目的は、課題遂行時における動機づけ的機能を果たすと仮定 される感情イメージの効果を検討することである。課題には、瞬間的に 力量発揮し、高い覚醒水準を要すると考えられる立ち幅跳びを選んだ。 喚起する感情としては、妹尾(2003)の研究結果で覚醒水準を上昇させ た怒りと、下降させたリラックスの2つの感情を再度採用した。さらに 3つ目の感情として、課題の成功感・達成感を取り入れた。これは、パ フォーマンスの促進には課題の成功的で期待する結果についてのイメー ジが不可欠であるという Murphy et al.(1988)の指摘を検証することに なる。課題の成功感・達成感は、複合的な感情構造と考えられ、本来の 心理的見地からすれば、感情の定義にあてはまらないかもしれないが、 スポーツ選手が実際の現場で体験する重要な感情と考えられるので、1 つの感情として取り扱うことにした。怒りとリラックスの感情イメージ は、課題と無関係な動機づけ的イメージが、成功感・達成感の感情イ メージは、課題と関与した認知的要素を含む動機づけ的イメージが生起 すると仮定された。

Vallerand & Blanchard(2000)は 広 範 囲 な 研 究 を 概 観 し、Deci

(1980)が定義した感情を基にして、感情の形態を3側面に示した。す なわち主観的体験、行動傾向、身体的変化である。そこで本研究は、怒 り、リラックス、成功感・達成感の動機づけ的感情イメージの効果の指 標として、主観的体験の側面は感情とイメージの心理状態の自己評定を、 また行動傾向はパフォーマンス(立ち幅跳びの跳躍距離)を、そして身 体的・生理的変化は脳波、筋電図をとりあげた。

参加者、実験デザイン、課題 本研究の参加者は、立ち幅跳びの経験のある大学女子競技選手(年齢 18∼22歳)であった。実験デザインは、4×15(条件×参加者)の繰り 返しのある被験者内デザインとした。4条件とは、基準試行、怒りの感 情イメージ、リラックスの感情イメージ、成功感・達成感の感情イメー ジであった。遂行順序は、まず基準試行、次に3条件の感情イメージ条 件となり、その3条件の順序は、参加者の疲労や学習効果を統制するた 48 (81)

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めに相殺法により変えられた。運動遂行課題は、4条件直後にそれぞれ 2回、できるだけ遠くへ立ち幅跳びで跳躍することであった。パフォー マンスは、跳躍前の両足の前足のつま先から着地後の後ろ足の踵までの 跳躍距離を、メジャーによってセンチメートル単位で測定した。参加者 には、立ち幅跳びの測定距離に関する結果の知識が与えられなかった。 手続き 実験は研究室内に設定された静寂な場所で、個別に実施された。参加 者は実験者から実験の流れの説明を受けた後、大きく腕を振り、脚と上 体を協応させて跳躍する立ち幅跳びの要領が教示され、実験者による実 演を観察した。その後、ウォーミングアップを行い立ち幅跳びの練習を 1,2回遂行した。 1)基準試行 参加者は、ウォーミングアップと立ち幅跳びの練習後、1分間椅子に 座って自然の風景(奥入瀬川)のタペストリーを眺めながら安静にする ことが求められた。そして、その直後に立ち幅跳びで2回跳躍した。そ の後、感情状態の自己評定に答えた。 2)感情イメージ条件 実験者は、イメージ想起上の3つのポイントとして、五感(視覚、聴 覚、触覚、嗅覚、味覚)と運動感覚を駆使してイメージすること、鮮明 にリアルに描くこと、思い通りにイメージをコントロールすることを参 加者に教示した。イメージ想起中は閉眼で椅子に座り、故意に身体を動 かさないよう注意を促した。 3種類の感情喚起のためのイメージのシナリオづくりは、参加者の実 体験、仮想・類似場面を含めて自発的に創造することが求められた。怒 りとリラックスの感情イメージは、直接課題に関与しないシーンで、成 功感・達成感の感情イメージは、課題(立ち幅跳び)の遂行において成 功的で達成感溢れるシーンであることが指定された。また、怒りの感情 の性質には、内的に向かうエネルギーとして自責、悔しさのような自分 に対する怒りと、外的に向かうエネルギーとして敵意、復讐のような他 者、外的要因への怒りの要素を含み、最終的には外的要因の怒りとなる よう求められた。実験者はシナリオづくりを促す為、参加者から想起し ようとする感情イメージのシーンの説明を受けながら、そこでの登場人 47 (82)

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物、光景、五感、表情、会話やつぶやき、動作などについて質問した。 参加者が選定した怒りのシーンのほとんどが、彼女らの競技場面で起 こったこと、起こりがちなものであり(15名中10名)、他のものは一般 的な日常生活場面の実体験(5名)であった。リラックスのシーンは、 自宅や公園、自然環境の中でのんびりとくつろいでいるものであった。 基準試行の後、参加者は3つの感情イメージ条件として、シナリオづ くりで準備した個人のオリジナルなシーンを1分間、イメージ想起して 感情喚起した。その直後、2回立ち幅跳びを遂行し、次に感情状態とイ メージ想起の自己評定に答えた。 感情状態の指標として、二次元気分尺度(坂入2003年)を使用し、4 条件の立ち幅跳び遂行直後に自己評定させた。この評定は、8項目の質 問からなり、ポジティブ覚醒、ネガティブ覚醒、快適度、覚醒度が測定 可能であり、一定の信頼性、妥当性が確認されている。評定尺度は、「全 くそうでない」から「非常にそう」までの6段階尺度である。また、ど の程度イメージを想起できたかは、イメージ自己評定を作成して用いた。 それはイメージの鮮明性、統御可能性(コントロール)、持続性の3項 目について「全くできなかった」から「非常にできた」までの5段階尺 度 で あ っ た(資 料1,2)。身 体 的・生 理 的 な 指 標 と し て、脳 波

(EEG)と額の筋電図(EMG)が Mind Sensor Ⅱ(トーヨーフィジカ

ル)のパーソナル脳波分析プログラムによりイメージ想起中、1分間収 録された。

自己評価によるイメージ想起 自己評価で得られた感情イメージ条件におけるイメージ想起の平均値 と標準偏差は、表1に示す通りである。3×15(条件×参加者)の繰り 返しのある被験者内分散分析法により統計解析した結果、イメージの鮮 明性のみに主効果が認められた F(2,28)=4.20,P<.05。そこで、 どの条件間に有意差があるかを検討するため、Scheffe’法による多重比 較で検討した。その結果、リラックスの感情イメージと怒りの感情イ メージとの間に5%水準で有意差が認められ、リラックスの感情イメー 46 (83)

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190 180 170 160 150 140 130 120 基準試行 リラックス 成功感・達成感 怒り パフォーマンス (cm) ジのほうが怒りよりも鮮明にイメージできたことを示唆した。一方、イ メージの統御可能性とイメージの持続性には5%水準で、有意差は認め られなかった。 立ち幅跳びのパフォーマンス 各条件における個人の立ち幅跳びのパフォーマンスは、2回の測定結 果を平均したものを代表値とした。図1は、4条件におけるパフォーマ ンスの平均値と標準偏差を表している。4×15(条件×参加者)の繰り 返しのある被験者内分散分析で処理したところ、条件に対するパフォー マンスの主効果が認められた F(3,42)=9.33,P<.01。そこで多重 比較をした結果、5%水準で成功感・達成感の感情条件と怒りの感情条 イメージの鮮明性 イメージの統御可能性 イメージの持続性 M SD M SD M SD リラックスの感情 3.73 1.10 3.00 1.20 3.27 0.80 成功感・達成感 3.06 0.96 2.73 0.88 2.73 0.96 怒りの感情 2.80 0.86 2.40 0.83 2.60 0.91 表1 感情イメージ条件におけるイメージ想起の平均値と標準偏差 図1 4条件におけるパフォーマンスの平均値と標準偏差 45 (84)

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件および成功感・達成感の感情条件とリラックスの感情条件との間にパ フォーマンスの差が認められた。さらには、5%水準で基準試行と怒り の感情条件および基準試行とリラックスの感情条件との間にもパフォー マンスの有意差が認められた。しかし、基準試行と成功感・達成感の感 情条件、リラックスの感情と怒りの感情の条件間には有意差はみられな かった。 自己評価による感情状態 表2は、自己評価による4条件の感情状態(ポジティブ覚醒、ネガ ティブ覚醒、快適度、覚醒度)の平均値と標準偏差を示している。また、 4条件の感情状態の平均値を図2に表した。ポジティブ覚醒の高い値は、 覚醒が高く、快気分を、低い値は覚醒が低く、不快気分であることを表 している。一方ネガティブ覚醒の高い値は、覚醒が高く、不快気分を、 低い値は覚醒が低く、快気分であることを意味している。成功感・達成 感の感情イメージ条件は、ポジティブ覚醒、快適度の値が4条件の中で 最も高く、他方、リラックスの感情イメージ条件は、どの条件よりも感 情状態が低い値にある傾向であった。また、怒りの感情イメージ条件は、 ポジティブとネガティブの覚醒がほぼ同値であった。そこで感情尺度別 に4×15(条件×参加者)の繰り返しのある被験者内分散分析の結果、 どの感情尺度にも主効果がみられた(ポジティブ覚醒:F(3,42)= 12.97,P<.01,ネガティブ覚醒:F(3,42)=63.99,P<.01。快適 度 F(3,42)=11.12,P<.01覚 醒 度:F(3,42)=38.64,P <.01)。さらに多重比較を施したところ、5%水準で次の条件間に有意 な感情状態の差が認められた。ポジティブ覚醒については、成功感・達 成感の感情イメージ条件が、リラックスの感情イメージと基準試行より も有意に高かった。また、怒りの感情イメージ条件はリラックスの感情 イメージ条件よりも高かった。ネガティブ覚醒の側面では、怒りの感情 イメージ条件は4条件で最も高い値であった。また、リラックスの感情 イメージ条件は他の感情条件よりも低く、成功感・達成感の感情イメー ジ条件は基準試行よりも高かった。快適度は、怒りの感情イメージ条件 は3条件よりも低い値であった。覚醒度は、リラックスの感情イメージ 条件が4条件で最も低く、また成功感・達成感及び怒りの感情イメージ は基準試行よりも高い値であった。 44 (85)

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10 6 2 −2 −6 −10 基準試行 リラックス 成功感・達成感 怒り ポジティブ覚醒 ネガティブ覚醒 快適度 覚醒度 生理的状態/脳波、筋電図 筋電図と脳波の生理的指標により、緊張、覚醒、リラックス状態を分 析した。額の筋電図による緊張度合いは、30以下の値でリラックスした 状態の目安となった。参加者は、1分間の各イメージ想起中、平均して 15∼38の値を示した。各条件の平均値は、リラックスの感情イメージ条 件 M=22.2、成功感・達成感の感情イメージ条件 M=23.0、怒りの感 情イメージ条件 M=23.2であった。条件間に統計的な差はみられず、 3条件ともに額、表情の筋肉は、同じくらいリラックスした緊張レベル であったと考えられた。脳波は、アルファ波の周波数7∼14Hz のうち ポジティブ覚醒 ネガティブ覚醒 快適度 覚醒度 M SD M SD M SD M SD 基準試行 1.33 5.18 ―5.87 2.29 3.60 2.63 ―2.27 3.02 リラックスの 感情 ―2.93 4.77 ―8.27 1.34 2.67 2.58 ―5.60 2.38 成功感・達成感 5.93 2.40 ―2.80 3.08 4.37 1.95 1.57 1.95 怒りの感情 3.13 3.42 3.07 3.06 0.03 2.04 3.10 2.52 表2 4条件における感情状態の平均値と標準偏差 図2 4条件の感情状態 43 (86)

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9∼11Hz(ミッドアルファ波)を、ベータ波は15∼23Hz、シータ波は 4∼6Hz の電圧値を採取し、その脳波が優位に出現した時間(秒)に ついて分析した。しかし、繰り返しのある被験者内分散分析で処理した ところ、どの脳波にも5%水準で有意な条件差は認められなかった。図 3は、参加者 MK の怒りの感情イメージ想起中に優勢に出現した脳波 の変化を示している。3次元グラフの縦軸は、脳波の強さを示す電圧 (μV)、横軸は0∼23Hz の範囲の周波数、奥行きの軸は計測時間(秒) を示している。グラフが山形になっていれば、その脳波が優勢な状態で あることを示している。アルファ波が前半の時間から活動し、ベータ波 の活動が時間と共に低下していることがわかる。参加者 MK の報告に よれば、前半時間に怒りの悔しい思いをイメージし、後半時間に「なに くそ」という前向きなシーンをイメージに描いたという怒りの質の変化 とある程度符号する例といえよう。 図3 感情イメージ想起中の脳波 参加者 MK 42 (87)

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本研究の目的は、課題遂行時の感情喚起による動機づけ的イメージの 効果について、過去の研究結果で課題となった3つの視点から検討する ことであった。まず、怒り、リラックス、成功感・達成感の感情の性質 が動機づけ的イメージとしてどのように表れるかである。次に課題と直 接関与したイメージが存在するか否かの視点である。課題と全く無関係 な条件として怒りとリラックスの感情イメージが、一方課題と関与した 認知的要素を含んだ条件として成功感・達成感の感情イメージが設定さ れた。さらに高い覚醒水準を要すると考えられる立ち幅跳びの課題は、 動機づけ的感情イメージにより高い覚醒水準を生起すれば、立ち幅跳び のパフォーマンスを促進すると仮定された。 感情イメージによって表出された感情の性質は、ポジティブ覚醒、ネ ガティブ覚醒、快適度、覚醒度という4つの側面から捉えられた。成功 感・達成感の感情イメージ条件は、ポジティブ覚醒が高く快気分を示し た。つまり参加者は立ち幅跳びの競技イメージシーンで、躍動的で達成 感溢れる感情を喚起したと考えられる。怒りの感情イメージ条件では、 ポジティブとネガティブの覚醒が共に高く、4条件で最も不快気分を示 した。参加者は日常的な怒りのイメージシーンで、高い興奮状態(覚 醒)で快と不快の感情が強く混在する特徴的な心理状態を形成したと考 えられる。リラックスの感情イメージ条件は、他の感情イメージ条件よ りもポジティブ、ネガティブ共に覚醒が低く、興奮の低い落ち着いた快 気分を喚起したと考えられる。これらの結果は、各条件ともにシナリオ に沿って、3種類の感情が期待通りの特徴を持って喚起されたといえよ う。Paivio(1985)に従えば、このような感情や覚醒にみられる特徴的 な差異は、これらの感情イメージが動機づけ的機能をもつことを裏づけ るものと考えられる。 どの程度イメージをうまく想起できたかというイメージの自己評定の 結果、リラックスの感情は、怒りよりも鮮明にイメージ想起できた。参 加者の内省報告では、リラックス感は日常的に自然な形で体験したり、 積極的に取り入れたりするので、イメージ想起し易いということであっ た。それに対して怒りの感情は、日常的には稀であり、しかも怒ること 41 (88)

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よりもそれを抑制する傾向にあるのでイメージ化するのが困難であると いう答えが多かった。これは実体験の強度、頻度、快感度が、準知覚的 経験と言われるイメージの鮮明度に影響することを示唆した。 本研究の結果、成功感・達成感の感情イメージ条件は、怒りとリラッ クスの感情イメージ条件よりも高いパフォーマンスを示した。しかし、 怒りとリラックスとの条件間には、有意なパフォーマンスの差が見出さ れなかった。ハンドボール投げを課題とした妹尾(2003)の研究では、 怒りとリラックスの感情イメージ間に有意な差が認められた。その原因 として、前述したように本研究の参加者が怒りの感情の鮮明性に欠けた ことが考えられた。また研究間の課題の相違、求められた怒りの感情の 性質の差異が挙げられた。本研究の怒りの感情についての内省報告では、 自分に対して「悔しい」「むかつく」といった自分の内側に向う怒りが 多く報告された。それに対して妹尾(2003)の研究では、敵意に近い外 側に向う怒り(不当に対する正義への執念)が強化された。今後、怒り の感情の質的要素を統制し、パフォーマンスへの影響を検討する必要が あると考えられる。 課題と関与した成功感・達成感の動機づけ的感情イメージ条件は、基 準試行よりも良いパフォーマンスとはならなかった。しかし、課題と全 く無関係な怒りとリラックスの動機づけ的感情イメージ条件よりも高い パフォーマンスを示した。実験デザイン上、基準試行を最初に実施し、 次に他の3つの感情イメージ条件を入れ替えて行うという順序の影響が 考えられた。つまり瞬発的なパワーを要する立ち幅跳びの課題の特性上、 最初に実施した基準試行は、ウォーミングアップで身体が温まっており、 また疲労が少なかったという利点が推察された。参加者は成功感・達成 感の感情喚起の競技イメージシーンを回想して、次のように報告した。 課題の立ち幅跳び自体が、競技シーンとしても実体験にしても日常性が 低く描きにくい。大きな競技大会を想定し不安と緊張の中、競り合って 勝利を勝ち取った喜びを描き、このサクセスストーリーを描くのに1分 間では短いという者が多かった。そして立ち幅跳びの運動の遂行、技術、 戦術の側面を具体的に報告する者はいなかった。これは課題に関与した イメージ想起が、必ずしも認知的イメージ機能を発揮するとは限らない ことを意味する。あるいは、課題の認知的な影響力よりも課題に対する 内的、外的動機づけの影響力の方が強いのかもしれない。ゆえに成功 40 (89)

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感・達成感の感情イメージ条件は、技術力向上に関する認知的要素は低 く、Martin et al.(1999)の提議する課題場面の MS、MG−A、MG−S タ イプの動機づけ的機能が優勢に働いていたと推察される。今後の研究で は、技術の認知的要素、動機づけ的要素がどれだけイメージ想起できた かの客観的データから考察を深めることが望まれる。その為にも、イ メージの機能から構成される信頼性、妥当性のあるイメージの質問紙の 開発が待たれる。 本研究では感情イメージによる高い覚醒の生起が、立ち幅跳びのパ フォーマンスを促進すると仮定した。4条件の感情状態を観察すると、 ポジティブな覚醒とネガティブな覚醒のどちらかが優勢な条件、両方と も高い(低い)条件などの特徴を示した。ゆえに高い覚醒が生起された としても、覚醒の質が異なるため、パフォーマンスの促進を予測するに は至らなかったといえよう。本研究で明らかな結果がみられなかった生 理的変化との関連から、覚醒の質的分析を検討する必要があると考えら れる。 付記 本研究は、平成17∼18年度成城大学特別研究助成費による成果発 表である。 参考・引用文献

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38 (91)

(16)

全くそうでない 少しはそう や やそう あ る程度そう かなりそう 非 常にそう 1落ち着いた 0 1 2 3 4 5 2イライラした 0 1 2 3 4 5 3無気力な 012345 4活気にあふれた 012345 5リラックスした 012345 6ピリピリした 0 1 2 3 4 5 7だらけた 012345 8イキイキした 0 1 2 3 4 5 氏名 ( ) 測定日 月 日 曜日 下の表は心理的状態(気分)を表す項目を示しています。 あなたは、イメージを描いた(または安静)後、立ち幅跳びする直前にどの程度感じていたか近い数字に○を付けて下さい。 (資料1) 理状態(気分)のチェック 37 (92)

(17)

全くでき なかった 少しは できた ある程度 できた かなり できた 非常に できた 1.リラックスのイメージ場面を、どの程度鮮明に描くことができましたか。 12345 2 . リラックスのイメージ場面を 、 どの程度思い通りに上手くコ ントロールし て描くことができましたか。 12345 3 . イ メ ー ジ 描 出 中 、 リ ラ ッ ク ス の 感 覚 を 、 強 く 持 続 す る こ と が で き ま し た か 。 12345 2)リラックスのイメージで描出した場面、ストーリーの内容と、自分でその感情や感覚を起こさせるのに工夫したことを記入して下 さい。 [内容、ストーリー] [工夫など] 氏名 1)下の文章は、あなたがイメージを描いた時の状態がどの程度であったかを表したものです。該当するものを○で囲んで下さい。 あまり考える必要はありませんが、そのイメージを描いている状態を最も良く表現しているものに反応するよう心掛けて下さい。 (資料2‐1) イメージのチェック 36 (93)

(18)

全くでき なかった 少しは できた ある程度 できた かなり できた 非常に できた 1 . 立幅跳びで達成感あふれる成功的イメージ場面を 、 どの程度 鮮明に描くこ とができましたか。 12345 2 . 立幅跳びで達成感あふれる成功的イメージ場面を 、 どの程度 思い通りに上 手くコントロールして描くことができましたか。 12345 3 . イメージ描出中 、 立幅跳びで達成感あふれる成功的イ メ ー ジ場面を 、 強 く 持続することができましたか。 12345 2)立幅跳びのイメージで描出した場面、ストーリーの内容と、自分でその感情や感覚を起こさせるのに工夫したことを記入して下さ い。 [内容、ストーリー] [工夫など] 氏名 1)下の文章は、あなたがイメージを描いた時の状態がどの程度であったかを表したものです。該当するものを○で囲んで下さい。 あまり考える必要はありませんが、そのイメージを描いている状態を最も良く表現しているものに反応するよう心掛けて下さい。 (資料2‐2) イメージのチェック 35 (94)

(19)

全くでき なかった 少しは できた ある程度 できた かなり できた 非常に できた 1 . 怒 り の イ メ ー ジ 場 面 を 、 ど の 程 度 鮮 明 に 描 く こ と が で き ま し た か 。 12345 2 . 怒りのイメージ場面を 、 ど の程度思い通りに上手くコントロー ル し て 描 く ことができましたか。 12345 3 . イ メ ー ジ 描 出 中 、 怒 り の 感 情 を 、 強 く 持 続 す る こ と が で き ま し た か 。 12345 2)怒りのイメージで描出した場面、ストーリーの内容と、自分でその感情や感覚を起こさせるのに工夫したことを記入して下さい。 [内容、ストーリー] [工夫など] 氏名 1)下の文章は、あなたがイメージを描いた時の状態がどの程度であったかを表したものです。該当するものを○で囲んで下さい。 あまり考える必要はありませんが、そのイメージを描いている状態を最も良く表現しているものに反応するよう心掛けて下さい。 (資料2‐3) イメージのチェック 34 (95)

参照

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