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【Z会】古文-沙石集の学習

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Academic year: 2021

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全文

(1)

  ね ず み の、 娘 を ① まうけて、 「天下に並びなき婿 むこ をとらん」と、 ② お ほ け な く 思 ひ 企 くはだ て て、 「 日 につ 天 てん 子 し ③ こ そ 世 を 照 ら し た ま ふ 徳 とく め で た け れ 」 と 思 ひ て、 朝 日 の 出 で 給 ふ に、 「 娘 を 持 ち て ④ 候 さうら ふ。 み め か た ち な だ ら か に候ふ。 ⑤ まゐらせ ん」と申すに、 「我は世間を照らす徳あれども、雲 に 会 ひ ぬ れ ば 光 も な く な る な り。 雲 を 婿 に と れ 」 と お ほ せ ⑥ ら れ け れ ば、 「 ま こ と に 」 と 思 ひ て、 黒 き 雲 の ⑦ 見 ゆ る に 会 ひ て こ の よ し 申 す に、 「 我 は日の光をも隠す徳あれども、風に吹 ふ き立てられぬれば、何にてもなし。 風を婿にせよ」と言ふ。 ね ず み が、 娘 を 授 か っ て、 「 天 下 に 並 ぶ も の が な い( ほ ど に す ばらしい)婿を取ろう」と、 ずうずうしく 思いもくろんで、 「太 陽こそ世の中をお照らしになる能力が すばらしい 」と思って、朝日が お出になるのに(向かって) 、「娘を持っております。姿や 顔立ち はほ ど よ く( 美 し く ) て ご ざ い ま す。 ( 娘 を ) 差 し 上 げ ま し ょ う 」 と 申 し 上 げ る と、 「 私 は 世 の 中 を 照 ら す 能 力 が あ る け れ ど も、 雲 に 会 っ て し まうと光もなくなるのだ。雲を婿に取りなさい」と おっしゃら れたの で、 「ほんとうに(そのとおりだ) 」と思って、黒い雲が見えるのに会 っ て、 こ の い き さ つ を 申 し 上 げ る と、 「 私 は 日 の 光 を も 隠 す 能 力 が あ るけれども、風に吹いてこられてしまうと、どうしようもない。風を 婿にしなさい」と言う。

「沙石集」

  ねずみの婿取り

  ⑴

(2)

⑥ おほせ られ ければ   「られ」は助動詞「らる」の連用形。助動詞「る」 「 ら る 」 は 意 味 の 識 別 に 注 意 す る。 こ こ で の「 ら れ 」 は、 尊 敬 の 意 味 で あ る。 「 言 ふ 」 の 尊 敬 語「 お ほ す 」 と と も に、 主 語 で あ る 日 天 子 へ の敬意を表している。   ○ すぐ上に「 …に 」がある       →  受身 〈…れる・…られる〉   ○ 心情を表す動詞の下 についている   →  自発 〈つい…てしまう〉   ○ 下に 打消 「 ず 」 を伴っている      →  可能 〈…することができる〉   ○ 身分の高い人 が主語         →  尊敬 〈…なさる〉   ⑦ 見 ゆ る  上 一 段 活 用 動 詞「 見 る 」 と 混 同 し な い こ と。 「 見 ゆ る 」 は、 下二段活用動詞「見ゆ」の連体形で、 〈見える〉の意。 「黒き雲 を 見る」 のではなく、 「黒き雲 が 見える」と解釈する。 ① まうけて   歴史的仮名遣いの「 まう けて」は、現代仮名遣いでは「 も う けて」と直す。   ○ ア段の音に「う」 「ふ」 が続いた場合 →「 オ段音+ー 」  (現代仮名遣いの表記は「 □う 」) ② おほけなく   歴史的仮名遣いの「お ほ けなく」は、現代仮名遣いでは 「お お けなく」と直す。   ○ 「 は・ひ・ふ・へ・ほ 」(語頭以外)→「 ワ・イ・ウ・エ・オ 」 ③ 日天子 こそ … めでたけれ   係り結びの法則。   ○ 係助詞「こそ」の意味→ 強調   ○ 結びの語→形容詞「めでたし」の 已然形 「めでたけれ」である。結 びの語を、過去の助動詞「けり」の已然形「けれ」と解釈しないよ う注意すること。 ④ 候ふ   ①と同様、 「さう」は「そう」 、「らふ」は「ろう」となり、 「さ うらふ」は「そうろう」と読む。 「候ふ」は丁寧の補助動詞で、 「…で す」 「…ます」 「…でございます」と訳す。 ⑤ まゐらせん   歴史的仮名遣いの「ま ゐ らせん」は、現代仮名遣いでは 「ま い らせん」と直す。   ○ 「 ゐ・ゑ・を・ぢ・づ 」→「 イ・エ・オ・ジ・ズ 」   「まゐらせ」は、下二段活用動詞「まゐらす」の未然形。 「与ふ ・ 授く」 の謙譲語で、 〈差し上げる〉の意。助動詞「ん(む) 」はここでは意志 の意味ととり、 「差し上げましょう」と訳す。    ▼重要単語チェック▲ □おほけなし=①ずうずうしい   ②おそれ多い □めでたし=①すばらしい   ②立派だ   ③すぐれている □かたち=①姿   ②顔立ち □まゐらす=差し上げる □おほす=①命令する   ②おっしゃる

■文法チェック

LS1061HR101BZ–02

沙石集

(3)

  「 さ も 」 と 思 ひ て、 山 風 の 吹 け ① る に 向 か ひ て こ の よ し 申 す に、 「 我 は 雲をも吹き、木草をも吹きなびかす徳あれども、 ② 築 つい 地 ぢ に会ひぬれば ③ 力 なきなり 。築地を婿に ④ せよ 」と言ふ。   「 げ に 」 と 思 ひ て、 築 地 に こ の よ し を 言 ふ に、 「 我 は 風 に て 動 か ⑤ ぬ 徳 あ れ ど も、 ね ず み に 掘 ほ ら ⑥ る る と き、 耐 た へ が た き な り 」 と 言 ひ け れ ば、 さては ねずみは何にもすぐれたるとて、ねずみを婿にとり ⑦ けり 。 「 ほんとうに (そのとおりだ) 」と思って、山風(=山から吹く 風)が吹いているのに向かって、このいきさつを申し上げると、 「 私 は 雲 を も 吹 き、 木 や 草 を も 吹 き な び か せ る 能 力 が あ る け れ ど も、 土 ど 塀 べい に 会 っ て し ま う と ど う し よ う も な い の だ。 土 塀 を 婿 に し な さ い 」 と言う。   「 まったく (そのとおりだ) 」と思って、土塀にこのいきさつを言う と、 「 私 は 風 で は 動 か な い 能 力 が あ る け れ ど も、 ね ず み に 掘 ら れ る と きは、 こらえがたい (=つらい)のだ」と言ったので、 それならば ね ずみは何においても優れていると思って、ねずみを婿に取ったという ことだ。

「沙石集」

  ねずみの婿取り

  ⑵

(4)

LS1061HR101BZ–04

沙石集

⑥ 掘 ら る る  直 前 に、 「 ね ず み に 」 と あ る こ と に 着 目。 こ の よ う に、 す ぐ上に「…に」がある場合、助動詞「る」 「 らる 」 は受身の意味を表す ことが多い。この 「るる」 (助動詞 「る」 の連体形) は受身 〈…れる ・ …られる〉の意で、 「ねずみに掘られる」と訳す。 ⑦ 婿 に と り け り  「 け り 」 は 過 去 の 意 味 の 助 動 詞「 け り 」 の 終 止 形。 同 じ過去の意を表す助動詞「き」との違いに気をつけること。 この文章 は 作 者 の 直 接 体 験 で は な く、 フ ィ ク シ ョ ン の 物 語 な の で、 〈 … た と い うことだ〉の意の「けり」が用いられているのである。   ○ 「き」   →話し手自身の直接体験を回想する場合に用いられる   ○ 「けり」→間接的に知った過去の出来事を述べる場合に用いられる   ① 吹 け る  「 吹 け 」 は 四 段 活 用 動 詞「 吹 く 」 の 命 令( 已 然 ) 形。 四 段 の 命令(已然)形に接続する「る」は、完了・存続の意味を持つ助動詞 「り」の連体形である。ここは存続の意味で、 「吹い ている 」と訳す。 ② 築 地  歴 史 的 仮 名 遣 い の「 つ い ぢ 」 は、 現 代 仮 名 遣 い で は「 つ い じ 」 と直す。   ○ 「 ゐ・ゑ・を・ぢ・づ 」→「 イ・エ・オ・ジ・ズ 」 ③ 力 な き な り  「 力 な き 」 は、 形 容 詞「 力 な し 」 の 連 体 形。 形 容 詞 の 活 用の種類を見分けるには、動詞「なる」を付け、連用形に直して考え る。 「力なし」に動詞「なる」をつけて連用形に直すと「力な く なる」 となり、 「し」の音が消えているのでク活用である。 「なり」は連体形 に接続しているので、断定の助動詞「なり」の終止形である。   ○ 「し」の音が消えている→ ク活用 (例・高し→高 く なる)   ○ 「し」の音が残っている→ シク活用 (例・美し→美 しく なる)   ④ 婿に せよ   「せよ」はサ行変格活用動詞「す」の命令形で、 「婿にしな さ い 」 と 訳 す。 「 せ 」 の 部 分 を サ 変 動 詞「 す 」 の 未 然 形 と 解 釈 し て し まわないよう、気を付けること。 ⑤ 動か ぬ  助動詞「ぬ」を識別する場合は、接続している語の活用形に 着目する。 「動か」 は四段活用動詞 「動く」 の未然形。よって、 この 「ぬ」 は打消の助動詞「ず」の連体形である。   ○ 未然形 に接続   →  打消 の助動詞「ず」の連体形   ○ 連用形 に接続   →  完了 の助動詞「ぬ」の終止形      ▼重要単語チェック▲ □さも=①そのようにも   ②ほんとうに □げに=まったく □耐へがたし=がまんしにくい・こらえがたい □さては=①それならば   ②それからまた   ③そうして

■文法チェック

(5)

  ある山寺の坊主、 慳 けん 貪 どん なりけるが、 飴 あめ を治してただ一人食ひけり。よ く し た た め て、 棚 たな に 置 き 置 き ① し け る を、 一 人 ② あ り け る 小 こ 児 ちご に 食 は せ ずして、 「これは人 ③ の 食 ひ つ れ ④ ば ⑤ 死ぬる 物ぞ」と言ひけるを、 この児、 ⑥ あ は れ 食 は ⑦ ば や 食 は ば や と 思 ひ け る に、 坊 主 他 行 の 隙 ひま に、 棚 よ り 取 りおろしけるほどに、うちこぼして、 小 こ 袖 そで にも髪にも付けたりけり。 日 ご ろ ⑧ 欲 し と 思 ひ け れ ば、 二 三 杯 よ く よ く 食 ひ て、 坊 主 が 秘 蔵 の 水 みづ 瓶 がめ を、 雨だりの石に打ち当てて、打ち 破 わ りておきつ。 ある山寺の僧は、けちであったが、飴を作ってただ一人で食べ た。しっかり 管理し て、棚に置いていたが、一人いた小さい児 に は 食 べ さ せ ず に、 「 こ れ は 人 が 食 べ て し ま う と 必 ず 死 ぬ 物 だ よ 」 と 言ったのを、この児は、ああ食べたいものだ、食べたいものだと思っ て い た が、 僧 が 外 出 し た 間 に、 ( 飴 を ) 棚 か ら 下 ろ し た と き に、 こ ぼ して、小袖にも髪にも付けてしまった。 普段 欲しいと思っていたので、 二三杯たっぷり食べて、僧が大事にしている水瓶を、軒先の雨だりの 石に当てて、割っておいた。

「沙石集」

  児の知恵

  ⑴

(6)

LS1061HR102BZ–02 ⑥ あはれ   この「あはれ」は、 「ああ」などと訳す感動詞。 〈趣深い・か わいい〉といった意味の形容動詞「あはれなり」とは異なる。 ⑦ 食は ばや   「ばや」は終助詞。 「あはれ食はばや食はばや」は、児の思 った心の内の言葉である。   ○ 未然形+ばや → 自ら実現できる願望 〈…したい〉 ⑧ 欲し   形容詞「欲し」の終止形。形容詞の活用の種類は、 動詞「なる」 を付けて、連用形に直して考える。 「欲 しく なる」なのでシク活用。   ○ 「し」の音が消えている→ク活用(例・高い→高 く なる)   ○ 「し」の音が残っている→シク活用(例・美し→美 しく なる) ① し ける   この「し」は〈置き置き する 〉という意味で用いられている ので、サ行変格活用動詞「す」の連用形である。   ○ サ変動詞の活用→「 せ・し・す・する・すれ・せよ 」 ② あ り け る  「 あ り 」 は ラ 行 変 格 活 用 動 詞。 ラ 変 動 詞 は 連 用 形 と 終 止 形 が 同 形 だ が、 こ こ は、 連 用 形 接 続 の 助 動 詞「 け り 」 の 連 体 形「 け る 」 に上接しているので、連用形である。   ○ ラ変動詞の活用→「 ら・り・り・る・れ・れ 」   ○ ラ変に属する語→ 「 あり 」「 をり 」「 侍り 」「 いまそかり ( いまそがり ・ いますがり )」の四語のみ。 ③ 人 の 食ひつれば   「の」は主格の格助詞。 「人 が 食べてしまうと」と訳 す。冒頭の「山寺の坊主」の「の」は連体修飾 格 の働きをしている。   ○ 主格 〈…が〉     →主語を示す。   ○ 連体修飾格 〈…の〉→下の体言を修飾することを示す。   ○ 同格 〈…であって〉→上下の語が同じものであることを示す。 ④ 食 ひ つ れ ば  「 ば 」 は 接 続 助 詞。 直 前 の「 つ れ 」 は 完 了 の 意 味 を 表 す 助動詞「つ」の 已然形 。したがって、この「ば」は 順接の確定条件 。   ○ 未然形+ば→順接の仮定条件 〈もし…ならば〉   ○ 已然形+ば→順接の確定条件 〈…なので・…すると〉 ⑤ 死ぬる   ナ行変格活用動詞「死ぬ」の連体形。 「死」+「ぬる」 (完了 の助動詞「ぬ」の連体形)ではないので注意すること。   ○ ナ変動詞の活用→「 な・に・ぬ・ぬる・ぬれ・ね 」   ○ ナ 変 に属する語→「 死ぬ 」と「 往 い ぬ(去ぬ) 」の二語のみ。    ▼重要単語チェック▲ □したたむ=①片付ける   ②管理する   ③用意する □隙=①すきま   ②あいま   ③都合のよい機会 □日ごろ=①数日間   ②このところ   ③普段

■文法チェック

沙石集

(7)

  坊主帰りたりければ、 この児さめほろと泣く 。「何事に泣くぞ」と問へ ば、 「 大 事 の 御 水 瓶 を、 あ や ま ち に 打 ち 破 り て ① さ う ら ふ と き に、 い か な る 御 勘 当 ② か あ ら ん ず ら ん と、 口 惜 し く お ぼ え て、 命 生 き て も よ し な し と思ひて、 『人の食へば死ぬ』と仰せられさうらふ物を、一杯食へども死 な ず、 二 三 杯 ま で 食 べ て さ う ら へ ど も ③ お ほ か た 死 な ず 。 は て は 小 袖 に 付け、 髪に付けてはべれ ④ ども 、 いまだ死にさうらはず」と ⑤ ぞ 言 ひ け る 。 飴 は 食 は れ て、 水 瓶 は ⑥ 破 ら れ ぬ 。 慳 貪 の 坊 主 ⑦ 得 る と こ ろ な し。 児 の 知恵 ゆゆしく ⑧ こそ 。学問の器量も、 無 む 下 げ に は ⑨ あらじかし 。 僧 が 帰 っ て き た と こ ろ、 こ の 児 が さ め ざ め と 泣 い て い る。 「 ど う し て 泣 く の か 」 と 尋 ね る と、 「 大 事 な 御 水 瓶 を、 あ や ま っ て 割りましたときに、どんなおしかりがあるのだろうかと、 情けなく思 わ れ て、 生 き て い て も 仕 方 が な い と 思 っ て、 『 人 が 食 べ る と 死 ぬ 』 と おっしゃっています物を、一杯食べても死なず、二三杯も食べました がさっぱり死なない。最後には小袖に付け、髪に付けましたが、まだ 死にません」と言った。飴は食べられ、水瓶は割られた。けちな僧に は何もよいことがない。児の賢さは 相当なものだ 。学問の才能も、 は なはだ劣って はいないだろうよ。

「沙石集」

  児の知恵

  ⑵

(8)

LS1061HR102BZ–04 ⑦ 得 る  ア 行 下 二 段 動 詞「 得 う 」 の 連 体 形。 「 得 る 」 は 現 代 語 の よ う に 終 止 形 で な く、 連 体 形 で あ る。 読 み も「 え る 」 で は な く「 う る 」。 な お、 古語において、ア行で活用する動詞は「得」 「 心 こころ 得 う 」の二語のみ。 ⑧ ゆ ゆ し く こ そ  「 こ そ 」 は 係 助 詞。 本 来 な ら 文 末 を 已 然 形 で 結 ぶ が、 ここでは結びの語( 「あれ」 「あらめ」など)が省略されている。 ⑨ あらじかし   「あら」はラ変動詞「あり」の未然形。 「じ」は打消推量 〈…ないだろう〉の助動詞の終止形。 「かし」は念押し ・ 強調〈…だぞ〉 の終助詞。助動詞「じ」が推量の意味を含んでいる点に注意する。 ① さうらふ   歴史的仮名遣いの 「さう らふ 」 は、 「そう ろう 」 と読む。 「さ う ら ふ 」 は 丁 寧 の 補 助 動 詞 で、 〈 … で ご ざ い ま す 〉 の 意。 こ こ は 会 話 文なので、話し手である児から、聞き手である坊主への敬意を表す。   ○ ア段の音に「う」 「ふ」 が続いた場合   →「 オ段音+ー 」  (現代仮名遣いの表記は「 □う 」) ② いかなる御勘当 か あらんず らん   係り結びの法則。   ○ 係助詞「か」の意味→ 疑問 ・ 反語 。ここでは疑問の意味。   ○ 結びの語→現在推量の助動詞「らん(らむ) 」の 連体形 「らん」 。 ③ お ほ か た 死 な ず  「 お ほ か た 」 は、 呼 応( 叙 述 ) の 副 詞。 こ こ で は 打 消の助動詞「ず」の終止形と呼応している。   ○ おほかた…打消語 → 完全否定 〈まったく(決して ・ 少しも)…ない〉 ④ はべれ ども   「ども」 は接続助詞。活用語の已然形に接続し (ここでは、 四段活用動詞「はべる」の已然形) 、逆接の確定条件を表す。   ○ 已然形+ども → 逆接の確定条件 〈…だが・…けれども〉 ⑤ ぞ 言ひ ける   係り結びの法則。   ○ 係助詞「ぞ」の意味→ 強調   ○ 結びの語→文末にある過去の助動詞「けり」の 連体形 「ける」 。 ⑥ 破られぬ   「破ら」は四段活用動詞「破る」の未然形。 「れ」は受身の 助動詞 「る」 の連用形。 「ぬ」 は完了の助動詞の終止形である。この 「ぬ」 は打消の意味ではないので、 「割られない」と訳さないように。    ▼重要単語チェック▲ □口惜し=①残念だ   ②物足りない   ③情けない   ④つまらない □おぼゆ=①自然に思われてくる   ②思い出される   ③似る □よしなし=①理由がない   ②方法や手段がない   ③無駄である □ゆゆし=①おそれ多い   ②不吉だ   ③並々ではない   ④気味が悪い □無下なり=①劣っている   ②身分が低い   ③程度がはなはだしい。

■文法チェック

沙石集

(9)

  唐 もろ 土 こし に いやしき 夫婦あり。 餅 もち を売りて世を渡りけり。夫、道のほとり に し て 餅 を 売 り け る に、 人 の 袋 を 落 と し た り け る を 取 り て 見 れ ① ば 、 銀 しろかね の 軟 なん 挺 てい 六つありけり。 家に持ちて帰りぬ。 妻、 心素直に欲なき者にて、 「 我 ら は ② 商 う て 過 ぐ れ ば、 こ と も 欠 け ず。 こ の 主 ぬし い か ば か り 嘆 き 求 む らむ。 いとほしき ことなり。主をたづねて返し給へ」と言ひければ、 「ま ことに」とて、あまねく触れけるに、主といふ者出で来て、これを得て あ ま り に う れ し く て、 「 三 つ を ば ③ 奉 ら む 」 と 言 ひ て、 す で に ④ 分 か つ べ か り け る と き、 思 ひ 返 し て、 煩 わづら ひ を 出 だ さ む た め に、 「 七 つ ⑤ こ そ あ り しに、 六つあるこそ不審なれ。一つをば隠されたるに ⑥ や 」 と言ふ。 「さ ることなし。もとより六つなり」と論ずるほどに、果ては 国 くにの 守 かみ のもとに して、これを ⑦ ことわら しむ 。 中国に 身分の低い 夫婦がいた。餅を売って生計を立てていた。 夫が、道ばたで餅を売っていたところ、人が袋を落としたのを 取 っ て 見 る と、 銀 の 軟 挺( = 上 質 の 銀 ) が 六 つ あ っ た。 ( そ れ を ) 家 に 持 っ て 帰 っ た。 妻 は、 心 が ま っ す ぐ で 欲 が な い 者 で、 「 私 達 は 商 売 をして 暮らしを立てている ので、足りないものもない。この(銀の軟 挺の)持ち主はどれほど嘆いて探しているだろう。 気の毒な ことだ。 持 ち 主 を 探 し て お 返 し く だ さ い 」 と 言 っ た の で、 「 本 当 に( そ の と お りだ) 」と思って、 (人々)すべてに知らせたところ、持ち主という者 が 出 て き て、 こ れ を 手 に 入 れ て ひ ど く う れ し く て、 ( 持 ち 主 は )「 ( 軟 挺を)三つを差し上げよう」と言って、 まさに (軟挺を)分配しよう と し た と き、 ( や は り ) 思 い 直 し て、 言 い が か り を つ け た い が た め に、 「( 軟 挺 は ) 七 つ あ っ た が、 ( 今 こ こ に ) 六 つ あ る の は 疑 わ し い。 一 つ はお隠しになったのか」 と言う。 「そのようなことはない。 もともと (軟 挺は)六つである」と言い争ううちに、しまいには国守(=国司)の もとで、これを 判断さ せる(こととなった) 。

  いみじき成敗

  ⑴

「沙石集」

(10)

LS1061HR103BZ–02 の已然形「不審なれ」で結ばれ、係り結びが成立している。 ⑥ 隠されたるに や  係り結びの法則。   ○ 係助詞「や」の意味→ 疑問   ○ 結びの語→ここでは、 あとに続く語( 「あらむ」など)が省略され、 係助詞 「や」 で文が終止している。これを、 結びの語の省略 という。 ⑦ こ と わ ら し む  「 こ と わ ら 」 は 四 段 活 用 動 詞「 こ と わ る 」 の 未 然 形。 助 動 詞「 し む 」 は、 こ こ で は 使 役 の 意 味 を 表 し て い る。 よ っ て、 「 判 断させる」と訳す。 ① 取 り て 見 れ ば  「 ば 」 は 接 続 助 詞。 「 見 れ 」 は 上 一 段 活 用 動 詞「 見 る 」 の 已然形 。したがって、この「ば」は 順接の確定条件 である。   ○ 未然形+ば → 順接の仮定条件 〈もし…ならば〉   ○ 已然形+ば → 順接の確定条件 〈…なので・…すると〉   ② 商 う て  「 商 う 」 は、 四 段 活 用 動 詞「 商 ふ 」 の 連 用 形「 商 ひ 」 の ウ 音 便形である。現代語の「商う」に引きずられて、 四段活用動詞「商う」 の終止形と解釈しないこと。 ③ 奉らむ   「奉ら」は四段活用動詞「奉る」の未然形。ここでは、 「与ふ」 「 授 く 」 の 謙 譲 語 で、 〈 差 し 上 げ る 〉 の 意。 「 む 」 は 意 志 の 意 味 を 表 す 助動詞の終止形で、 「差し上げ よう 」 と訳す。 「たてまつ」 + 「らむ」 (現 在推量の助動詞)と解釈しないこと。 ④ 分かつべかりける   「分かつ」は四段活用動詞の終止形。 「べかり」は 意 志 の 助 動 詞「 べ し 」 の 連 用 形。 「 け る 」 は 過 去 の 助 動 詞「 け り 」 の 連体形。 「分配しようとした」と訳す。 ⑤ 七つ こそ ありしに   係り結びの法則。   ○ 係助詞「こそ」の意味→ 強調   ○ 結びの語→ここは本来なら、係助詞「こそ」の結びとして、助動詞 「 き 」 が、 已 然 形「 し か 」 に 変 化 し て 文 が 終 止 す る は ず で あ る。 し かし、実際は接続助詞「に」を伴った連体形「し」となり、係り結 びが成立しないまま文が続いている。このように、接続助詞などを 伴って係り結びが成立せずに文が続くことを、 結びの語の消滅 とい う。 な お、 直 後 の「 六 つ あ る こ そ   不 審 な れ 」 は、 文 末 が 形 容 動 詞    ▼重要単語チェック▲ □いやし=① 身 分 が 低 い  ② 粗 野 で あ る  ③ み っ と も な い □過ぐ=①通過する   ②経過する   ③死ぬ   ④暮らしを立てる □いとほし=①気の毒だ   ②嫌だ   ③かわいい □すでに=①すっかり   ②もう   ③まさに   ④まぎれもなく   ⑤実際に □ことわる=①道理に基づき判断する   ②筋道を立てて説明する

■文法チェック

沙石集

(11)

  国 守 、 眼 まなこ さ か し く し て 、 こ の 主 は 不 実 の 者 、 こ の 男 は 正 直 の 者 と 見 ① な が ら 、 な ほ 不 審 な り け れ ば 、 か の 妻 を 召 し て 、 別 の 所 に し て 、 こ と の 子 し 細 さい をたづぬるに、夫が申し状に少しも たがは ず。この妻はきはめたる 正 直 の 者 と 見 て、 か の 主 不 実 の こ と ② 確 か な り け れ ば、 国 守 の 判 に い は く、 「 こ の こ と 確 か の 証 拠 な け れ ば、 判 じ 難 し。 た だ し、 と も に 正 直 の 者 と ③ 見えたり 。 夫妻また言葉たがはず。 主の言葉も正直に ④ 聞 こ ゆ れ ば 、 七 つ あ ら む 軟 挺 を た づ ね て ⑤ 取 る べ し 。 こ れ は 六 つ あ れ ば、 別 の 人 の に ⑥ こ そ 」 と て、 六 つ な が ら 夫 妻 に た び け り。 宋 そう 朝 てう の 人、 い み じ き 成 敗 と ⑦ ぞ 、あまねく ⑧ ほめ ののしり ける 。 国守は、眼力が すぐれて いて、この(軟挺の)持ち主は不実の 者、この(軟挺を拾った)男は正直の者と見たけれども、 やは り 疑わしかったので、その(軟挺を拾った男の)妻をお呼びになって、 別の場所で、ことの詳しい事情を問いただすと、夫の言い分と少しも 違わ ない。この妻はこの上ない正直の者と見て、あの持ち主は不実で あ る こ と が 確 か で あ る の で、 国 守 の 判 決 が 言 う に は、 「 こ の こ と は 確 実 な 証 拠 が な い の で、 判 定 す る の が む ず か し い。 た だ し、 ( 持 ち 主 も 拾った男も) ともに正直の者と思われた。夫妻はやはり言葉 (=証言) に 相 違 が な い。 持 ち 主 の 言 葉 も 正 直 に 聞 こ え る の で、 ( 持 ち 主 は ) 七 つあるという軟挺を探して取る(=取り戻す)のがよい。これは六つ あるので、別の人のものであろう」と言って、六つすべてを夫妻にお 与えになった。宋朝の人は、 すばらしい 裁きと、広く 大声をあげて ほ めた。

  いみじき成敗

  ⑵

「沙石集」

(12)

LS1061HR103BZ–04 ⑥ 別の人のに こそ   係り結びの法則。   ○ 係助詞「こそ」の意味→ 強調   ○ 結びの語→「こそ」のあとには「あらめ」など結びとなる語が 省略 されていると考えられる。 ⑦ いみじき成敗と ぞ 、……ののしり ける   係り結びの法則。   ○ 係助詞「ぞ」の意味→ 強調   ○ 結びの語→過去の助動詞「けり」の 連体形 「ける」である。 ⑧ ほめののしり   「ののしる(ののしり) 」が動詞の連用形の下につく場 合、 〈大声をあげて…… 〉 という意味になる。 「ほめ」は下二段活用動 詞「ほむ」の連用形。 ① 見 な が ら  「 な が ら 」 は 接 続 助 詞。 こ こ は、 逆 接 の 確 定 条 件 で「 見 た けれども」と訳す。   ○ 同時進行 →〈…しながら〉   ○ 逆接の確定条件 →〈…けれども〉   ② 確かなり   ナリ活用形容動詞 「確かなり」 の連用形である。 「なり (な ら・なる・なれ) 」は、識別に注意が必要。   ○ 物事の変化 を表している→四段活用動詞「なる」   ○ 終止形接続 (ラ変型を除く)→伝聞・推定の助動詞「なり」   ○ 体言・連体形に接続 →断定の助動詞「なり」   ○ 性質や状態を表す語 につく→形容動詞の活用語尾 ③ 見 え た り  「 見 え 」 は 下 二 段 活 用 動 詞「 見 ゆ 」 の 連 用 形。 上 一 段 活 用 動詞「見る」と混同しないこと。ここでは、 〈思われる・感じられる〉 と い う 意 味 で 用 い ら れ て い る。 「 た り 」 は 連 用 形 に 接 続 し て い る の で、 完了の意の助動詞の終止形。 ④ 聞 こ ゆ れ ば  「 聞 こ ゆ れ 」 は 下 二 段 活 用 動 詞「 聞 こ ゆ 」 の 已 然 形。 四 段活用動詞 「聞く」 と混同しないこと。 「ば」 は接続助詞。 已然形 「聞 こゆれ」に接続しているので、 順接の確定条件 〈…なので ・ …すると〉 である。 ⑤ 取るべし   「取る」は四段活用動詞の終止形。 「べし」は終止形に接続 す る 助 動 詞。 こ こ で は、 適 当〈 … す る の が よ い 〉 の 意 に と っ て、 「 取 るのがよい」と訳す。    ▼重要単語チェック▲ □さかし=①頭脳の働きが優れている   ②上手である       ③しっかりしている   ④こざかしい □なほ=①やはり   ②さらに   ③なんといっても □たがふ=①違う   ②そむく □いみじ=①非常に   ②すばらしい   ③ひどい □ののしる=①声高く言い騒ぐ   ②有名である   ③威勢がよくなる

■文法チェック

沙石集

参照

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