Vol.41 , No.2(1993)017井上 英正「善珠の戒について」

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全文

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印 度 學 佛 教 學 研 究 第 四 十 一 巻 第 二 號 卒 成 五 年 三 月 八 〇

善 珠 (七 一 三 二-七 九 七 ) は、 奈 良 時 代 末 期 か ら 平 安 時 代 初 期 に 活 躍 し た 法 相 の 学 匠 で あ る。 慈 恩 大 師 基 (六 三 三-六 八 二 ) の 再 身 と も い わ れ る が、 善 珠 の 評 価 を め ぐ っ て 今 日 で は、 一 ( 1) ( 2) ( 3) つ は 日 本 唯 識 学 の 建 設 者 ・ 大 成 者 と い う 評 価 と、 他 は 中 国 仏 教 の 継 承 者 に す ぎ な い と い う 評 価 に 二 分 さ れ る。 日 本 に 唯 識 が 伝 わ っ た の は、 従 来 四 伝 で あ る と い わ れ て い る が、 善 珠 は 第 四 伝 の 玄 肪 の 弟 子 で あ る。 従 っ て 日 本 に 唯 識 が 伝 わ っ て 間 も な い 頃 の 人 物 で あ る。 ま た、 善 珠 の 時 代 は 鑑 真 (六 八 八-七 六 三 ) が 日 本 に 戒 律 を も た ら し た 時 代 で あ る。 そ の 戒 は 南 山 律 宗 を 中 心 と し て 伝 え ら れ た も の で あ る。 善 珠 の 研 究 に つ い て は、 伝 記 や 著 作 目 録 及 び 唯 識 の 四 分 義 に つ い て の 研 究 は 進 ん で い る が、 そ れ 以 外 の 研 究 は か な ら ず し も 進 ん で い な い の が 現 状 で あ る。 よ っ て 今 回 は 善 珠 の 戒 に つ い て 論 じ た い と 思 う。 戒 に つ い て の 善 珠 注 釈 書 は ﹃ 法 苑 義 鏡 ﹄ と ﹃ 梵 網 経 略 疏 ﹄ の 二 著 作 で あ る。 尚、 奈 良 時 代 ・ 平 安 時 代 に あ っ て は、 ﹃ 法 苑 義 林 章 ﹄ と ﹃ 梵 網 経 ﹄ の 注 釈 書 に つ い て は、 先 の 二 著 作 以 外 は 目 録 で し か 確 認 で き て い な い。 よ っ て、 今 回 は ﹃ 法 苑 義 鏡 ﹄ の ﹁ 表 無 表 章 ﹂ を 中 心 に 唯 識 の 立 場 か ら、 善 珠 の 戒 に つ い て 論 じ た い と 思 う。 戒 は、 一 般 に は、 三 学 の 修 行 の 第 一 歩 で あ り、 規 則 正 し い 生 活 を 送 り、 自 分 の 環 境 を 整 え、 善 行 す る こ と に よ っ て、 心 を 静 め 煩 悩 を 押 さ え て い き、 禅 定 の 前 段 階 と し て 意 義 が あ る。 唯 識 に い う 三 阿 僧 紙 劫 の 修 行 に お い て、 戒 は 最 も 実 践 行 と し て 入 り や す く、 そ の こ と は 重 要 で あ る。 戒 を 律 儀 と 称 す る。 ﹃ 大 乗 法 苑 義 林 章 ﹄ 巻 三 に、 律 者 類 也。 儀 者 式 也。 種 類 法 式 名 為 二 律 儀 相 皆 通 二 善 悪 鴨 故 説 二 悪 (4) 戒 一名 二 不 律 儀 殉 今 解 唯 彼 善 戒 得 レ 名。 と あ る よ う に、 本 来、 律 儀 は 種 類 や 法 式 の 名 称 で あ り、 善 悪 両 方 通 じ て い た が、 今 は 善 だ け に 通 じ る 戒 を 律 と 規 定 し、 悪 戒 を 不 律 儀 と し た の が 唯 識 の 特 徴 で あ る。

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-620-こ の 説 は、 ﹃ 法 苑 義 鏡 ﹄ 巻 六 に も、 (5) 古 人 意 説。 通 二 於 善 悪 一皆 名 二律 儀 幻 今 新 義 意 唯 其 善 戒 得 二 律 儀 名 殉 と あ り、 善 戒 だ け を 律 儀 と す る 慈 恩 大 師 基 の 系 統 を 継 承 し て い る こ と が 認 め ら れ る。 ま た、 ﹃ 喩 伽 師 地 論 ﹄ 巻 五 十 三 に、 律 儀 に つ い て は、 復 次 律 儀 当 レ 知 略 有 二 八 種一。 一 能 起 律 儀。 二 擾 受 律 儀。 三 防 護 律 儀。 四 還 引 律 儀。 五 下 品 律 儀。 六 中 品 律 儀。 七 上 品 律 儀。 八 清 浄 (6) 律 儀。 と あ り、 そ れ が 八 種 に 分 類 さ れ て い る 点 は 注 目 に 値 す る。 ( 7) ﹃ 大 乗 法 苑 義 林 章 ﹄ 巻 三 も、 こ の 分 類 を 継 承 し て い る。 ま た、 ﹃ 法 苑 義 鏡 ﹄ 巻 六 で は、 一 能 起 者 受 戒 方 便 也。 二 擾 受 者 正 受 戒 也。 此 二 明 レ 受 也。 三 防 護 者 専 精 不 犯。 四 還 引 者 犯 巳 能 悔。 此 二 明 レ 持 也、 下 中 上 三 通 二 受 及 持 一也。 清 浄 一 種 通 釈 二 定 道 戒 一也。 八 中 前 七 通 明 二 七 衆 別 脱 律 儀 刃 ( 8) 此 中 第 五 第 六 下 中 律 儀 唯 約 二 在 家 殉 第 七 上 品 並 通 二 七 衆 幻 と あ り、 戒 に は 在 家 や 僧 侶 の 受 戒 や 持 戒 が あ る こ と を 示 し、 鑑 真 が 戒 律 を も た ら し て た の で、 善 珠 も そ の 影 響 受 け た か ら こ そ 具 体 的 に 明 記 し た の で は な か ろ う か と 推 測 さ れ る。 右 に あ げ た、 定 道 戒 と 七 衆 の 別 解 脱 律 儀 の 説 明 は、 ﹃ 大 乗 法 苑 義 林 章 ﹄ 巻 三 に、 律 儀 有 レ 三。 一 別 解 脱 律 儀。 二 静 慮 律 儀。 先 云 二 定 共 戒 一。 亦 名 二 禅 (9) 律 儀 殉 三 無 漏 律 儀。 亦 名 二 聖 所 愛 戒 幻 先 名 二 道 共 戒 刃 と あ っ て、 律 儀 は 三 種 に 分 類 さ れ て い る。 定 道 戒 と は、 定 共 戒 と 道 共 戒 の こ と で あ る。 別 解 脱 律 儀 と は 別 々 に 非 を 防 ぎ、 悪 を 解 脱 さ せ る 戒 で あ る か ら、 そ の 方 法 と し て 分 類 が 七 つ あ り、 衆 生 は 機 根 に 応 じ て 受 戒 し 持 す る 必 要 が あ る の で あ る。 し か し、 こ の 三 種 も 先 の 八 種 の 律 儀 と 内 容 的 に 同 義 で、 右 に 引 用 し た 三 種 の 第 一 の 別 解 脱 律 儀 は 八 種 の 中 の 第 一 能 起 律 儀 か ら 第 七 上 品 律 儀 ま で の こ と に 相 当 し、 同 じ よ う に 三 種 の 第 二 の 静 慮 律 儀 と 同 じ く 第 三 の 無 漏 律 儀 は 八 種 の 第 八 清 浄 律 儀 の こ と に 相 当 し て い る の で あ る。 次 に 清 浄 律 儀 で あ る 静 慮 律 儀 と 無 漏 律 儀 は、 ﹃ 法 苑 義 鏡 ﹄ 巻 六 に、 損 二 伏 一 切 犯 戒 種 子 刃 是 名 二 静 慮 律 儀 刃 ( 中 略 ) 悪 戒 種 子 皆 悉 永 害。 (10) 此 即 名 為 二 聖 所 愛 戒 殉 即 此 亦 名 二 無 漏 律 儀 幻 と あ る。 す な わ ち、 こ こ で い う 静 慮 律 儀 と は 一 切 の 種 子 を 善 の 種 子 を 損 な わ な い よ う に し、 悪 の 種 子 を 伏 せ さ せ る 戒 で あ る。 ま た、 無 漏 律 儀 と は 悪 戒 種 子 を 皆 悉 く 根 絶 さ せ る 戒 で あ る。 更 に、 同 じ く ﹃ 法 苑 義 鏡 ﹄ 巻 六 に、 先 云 二 定 共 戒 等 一者。 慎 法 師 云。 禅 定 心 中 自 有 二 二 行 幻 一 能 止 二 乱 覚 一名 為 二 戒 行 弔 二 能 静 凝 掻 名 為 二 定 (行 殉 夫 定 心 中 必 與 二 戒 行 一共 倶 故 名 二 定 共 戒 刃 言 二 道 共 戒 一者。 入 空 之 行 則 有 二 二 種 相 一 能 遮 二 煩 悩 一 令 二 惑 不 フ 起。 能 亡 レ 執 離 レ 著。 並 是 道 中 戒 行 之 力。 一 一解 空 之 心 虚 明 善 珠 の 戒 に つ い て (井 上 ) 八 一

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-621-善 珠 の 戒 に つ い て (井 上 ) 八 二 (11) 之 照 自 是 慧 行。 然 慧 不 二 猫 行 殉 必 與 二 戒 行 一倶 近。 故 名 二 道 共 戒 幻 と あ る よ う に、 静 慮 は 禅 定 の 意 で、 乱 覚 を 止 め る 戒 行 と 心 を 静 か に す る 定 行 と が あ る。 ま た、 空 に 入 る た め に 執 着 か ら 離 れ 煩 悩 を 遮 す 行 と 空 を 解 す た め に 自 分 虚 を 照 ら す 慧 行 と が あ る。 こ の よ う に 戒 に は、 戒 行 以 外 に 定 行 ・ 慧 行 も 含 ま れ て い る。 右 に あ げ た 三 種 の 律 儀 の 中 の 別 解 脱 律 儀 に つ い て ﹃ 法 苑 義 錆 捌﹄ 巻 六 に、 は、 別 解 律 儀 略 有 二 六 名 湘 一 名 二 羅 一っ 二 名 二 妙 行 幻 三 名 レ 業。 四 律 儀。 ( 12) 五 別 解 脱。 六 名 二 根 本 業 道 刃 と あ る。 こ れ に よ っ て 知 ら れ る よ う に、 律 儀 は 戒 ( 羅 ) で あ り、 妙 行 で も あ り、 そ し て、 根 本 業 道 で あ る と 示 し て い る。 故 に 戒 は、 衆 生 の 修 す べ き 最 も 大 事 な 道 で あ る と い え る。 従 っ て、 戒 と は 律 儀 の こ と を さ し て い る の で あ り、 こ の 律 儀 は 三 や 八 に 分 類 さ れ て い る が、 し か し、 こ れ ら は 内 容 的 に い え ば 同 じ も の を 分 類 し た に 過 ぎ ず、 戒 は 悪 行 を し な い 防 止 非 悪 の 面 は も と よ り、 作 善 や 利 他 行 と し て の 意 味 も 含 ま れ て お り、 唯 識 で い う 善 行 に は 無 論 利 他 行 も 含 ま れ る と い う の は い う ま で も な い。 唯 識 で の 行 は、 唯 識 観 な ど が あ る が、 最 も 実 践 行 と し て 入 り や す い 行 が 戒 な の で あ る。 衆 生 は 戒 を 受 け、 戒 を 保 つ こ と に よ っ て、 行 が 始 ま る と い っ て も 過 言 で な い。 従 っ て、 唯 識 観 な ど を 行 じ る 前 に 入 り や す い 実 践 行 の 戒 の 必 要 性 を 説 か ね ぼ な ら な か っ た の で あ る。 す な わ ち、 善 珠 は、 慈 恩 大 師 基 の 唯 識 思 想 を 伝 承 し つ つ、 戒 の 種 類 に つ い て 詳 し く 述 べ、 衆 生 が 実 践 し や す い と い う 配 慮 か ら そ の 戒 を 体 系 化 し、 日 本 に お け る 特 異 な 戒 を 法 相 の 学 僧 と し て、 最 初 に 重 視 し た 人 物 と 考 え る こ と が で き る の で あ る。 ま た、 善 珠 は 日 本 唯 識 教 学 の 特 異 な 面 に お け る 大 成 者 と い う こ と が で き る の で は な か ろ う か。 1 日 下 無 倫 ﹁善 珠 僧 正 の 研 究 ﹂ (﹃ 仏 教 研 究 ﹄ 第 一 巻 第 二 号 大 正 九 年 七 月 ) を 参 照。 2 佐 伯 良 謙 ﹁ 日 本 唯 識 教 の 建 設 者 善 珠 ﹂ (﹃ 仏 書 研 究 ﹄ 二 十 二 大 正 五 年 ) を 参 照。 3 深 浦 正 文 ﹃ 唯 識 學 研 究 ﹄ 上 巻 (永 田 文 昌 堂 昭 和 五 十 七 年 三 月 六 版 ) を 参 照。 4 大 正 45 ・300 ・ b 5 大 正 71 ・264 ・ c 6 大 正 30 ・590 ・ a-b 7 大 正 45 ・299 ・ b 8 大 正 71 ・258 ・ b 9 大 正 45 ・300 ・ b 10 大 正 71 ・259 ・ b 11 大 正 71 ・263 ・ c-264 ・ a 12 大 正 71 ・264 ・ c ︿ キ ー ワ ー ド ﹀ 善 珠、 ﹃ 法 苑 義 鏡 ﹄、 戒、 律 儀 (龍 谷 大 学 大 学 院 )

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