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太陽熱による夏季除湿・放熱と冬季集熱が可能な外被システムの実用化に関する研究 [ PDF

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Academic year: 2021

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45-1

太陽熱による夏季除湿・放熱と冬季集熱が可能な外被システムの実用化に関する研究

池田 友哉 1. はじめに 近年、節電等の個人の省エネルギー意識の向上や省 エネルギー技術の普及によって、家庭部門の消費エネ ルギーは減少傾向にある。しかし、住宅用消費エネル ギーのうち 3 割は冷暖房に使用されているという傾向 は2000 年以前から変化していない1)2020 年にはすべ ての新築住宅・建築物を対象とした省エネルギー基準 への適合義務化が控えている中、自然エネルギー利用 含め新たな省エネルギー技術の開発が求められる。 本研究では、太陽熱利用と屋根通気層への空気循環 によって夏季除湿・放熱および冬季集熱を可能とした 外被システムを提案する。本報では、冬季の検討とし て、実証住宅における冬季実測調査を行い、本システ ムの集熱・調湿効果を検証した結果を報告する。 2. 提案する外被システムの冬季集熱・調湿の原理 2.1 水分ポテンシャル理論 図1(a)に水分ポテンシャル線図を示す2)。水分ポテン シャルとは、水蒸気濃度、水蒸気分子の内部エネルギ ー、水蒸気分子に作用する力(毛管吸着力)、場のエネ ルギー(外力等の応力)などを関数とする非平衡熱力 学エネルギーであり、物質平衡の指標となる化学ポテ ンシャルを水分に応用したものである。ある温湿度状 態の水分ポテンシャル𝜇は、飽和水分ポテンシャル𝜇𝑤0 (飽和湿り空気が有する熱力学エネルギー)と不飽和 水分ポテンシャル𝜇𝑤(飽和状態からの乾燥程度を表す 負のエネルギー)の和で表される。 等絶対湿度変化では温度上昇して乾燥状態になると、 水分ポテンシャルは元の状態より小さくなる。これに より乾燥空気は熱力学的なエネルギー量が小さく、高 湿空気からの湿流が生じる。平衡状態(均一状態)から の偏差を湿流の駆動力 3)として考えると,本システム では,室内と壁体内部の水分ポテンシャル差が湿流の 駆動力となり調湿が行われる。 2.2 冬季における集熱・調湿過程 図1(b)、1(c)に冬季における 1 日の集熱・調湿過程を 示す。通気層内の移流を無視して考えると、昼間の日 射受熱時は、屋根内部の温度上昇による繊維系断熱材 からの水蒸気の脱着と拡散により、通気層内の絶対湿 図1 冬季における 1 日の集熱・調湿過程 Room 20℃ 50% 40 kJ/kg 脱着 通気層 45℃ 25%–15% 5~80 kJ/kg ②⇒③ 還気 ①⇒② 温度上昇による 繊維系断熱材 からの脱着 昼間の移流と湿流 ②⇒③ 還気 ①⇒② 温度上昇による 繊維系断熱材 からの脱着 昼間の移流と湿流 -100 -50 0 50 100 150 200 250 300 0 5 10 15 20 25 30 35 40 45 50

Water potential chart

Temperature [℃] W a te r p o te n ti a l [k J/ k g ] A b so lu te h u m id it y [ g /k g '] Relat ive h umid ity [% ] Absolute humidity [g/kg'] 10090 80 70 60 50 40 30 20 10 10 20 30 40 50 60 70 10 20 30 40 50 60 10℃ 80% 45℃ 25% ① ④ ③ ② 10℃ 45% 45℃ 15% 室内 20℃ 50% 繊維系 断熱材 室内 20℃ 50% 40kJ/kg 通気層 45℃ 25%~15% 5~80kJ/kg ③⇒④ 温度低下による 繊維系断熱材 への吸着 繊維系 断熱材 室内 20℃ 50% 40kJ/kg 通気層 10℃ 45%~80% -40~35kJ/kg ④⇒① 室内からの吸湿 夜間の湿流 脱着 集熱空気 吸着

𝜇

𝑤0

𝜇

𝑤

𝜇

室内 20℃ 50% 40 kJ/kg 吸着 通気層 10℃ 45%–80% -40~35 kJ/kg ④⇒① 室内からの吸湿 ③⇒④ 温度低下による 繊維系断熱材へ の吸着 夜間の湿流 (a)水分ポテンシャル線図 (b)昼間の集熱・調湿 (c)夜間の調湿

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45-2 度は上昇し図1(a)の①の状態になる。本システムでは、 ここで室内空気を通気層に循環するため、通気層の絶 対湿度は、室内と同程度まで低下し③の状態になる。 その際、室内と通気層との間に水分ポテンシャル差が 生じ、室内から通気層への湿流が生じる。この際、通気 層へ通した空気を室内に循環し、室内から通気層へ貫 流した水蒸気と断熱材から通気層へ脱着した水蒸気を 室内に戻すため室内湿度は一定に維持される。さらに、 昼間は日射受熱で暖められた通気層の暖気が室内に還 気されるため暖房負荷が低減される 一方、夜間においては、外気の温度低下に伴い断熱 材に水分が吸着するため、通気層を含め壁体内部の絶 対湿度が低下して④の状態になり、室内よりも水分ポ テンシャルが低い状態が維持される。このため、室内 から壁体内部へ水蒸気が侵入して、断熱材へ吸着して いく。通気層はやがて①の状態に戻る。1 日をサイクル とする周期的定常状態では、上記の過程を繰り返すこ とで、冬季における集熱・調湿を可能とする。 3. 外被システムを導入した住宅の設計・施工 3.1 提案する外被システムの構成 本システムは、ダクト送風による全館空調システム と、ファン動力によって屋根通気層を介した空気循環 を行い、屋根において夏季は除湿・放射冷却、冬は調 湿・太陽集熱を行うものである。システム導入住宅で は屋根断熱とし、小屋裏空間を設けて機器設置スペー スとして活用する。その小屋裏空間には空気循環を行 うためのファンユニットの他に、全館空調用エアコン を設置しており、小屋裏空気を取り込んで負荷を処理 し、各室に送風する。本システムによる空気循環シス テムと全館空調システムを併用することで、住宅全体 の空気の分布を均一にすることが可能である。 3.1.1 ファンユニット 図 2 にファンユニットの構成を示す。小屋裏に設置 したファンユニットは三つのファンを搭載している。 各ファンは設定した通気層温度の条件に従って運転を 開始し、室内空気を 2 階居室から吸引し、外気へ排気 または室内に還気する経路をとる。 本システムに導入するファンユニットでは、図2 に 示すように、ファンユニット内の屋根通気層側吸い込 み口に温湿度センサーを設置している。このセンサー で通気層を通過した空気の温度を検知し、設定した条 件と照合しながら運転・停止の判断を行う。加えて、運 転制御の1 つとして 10 分おきにファン A を運転し、4 分間通気層空気をファンユニット内部に取り入れる動 作がある。この制御によって、太陽集熱が可能な時間 帯において、通気層空気を取り込むことで、通気層の 温度変動を細かく検知することができるため、通気層 温度を設定条件としたファンの運転・停止の判定が可 能となる。 3.1.2 空気循環経路 図3 に冬季昼間・夜間における集熱・調湿時の空気 循環経路を示す。昼間において、日射受熱によって断 熱材から水蒸気が脱着・拡散し、通気層空気は高温・高 湿になる。屋根通気層の温度が設定温度(例えば30℃) 以上の場合にはファンB が稼働し、室内空気を屋根通 気層に取り込み、ファンユニットを介し室内へ還気さ れる。この空気循環により、壁体内部への水蒸気の滞 留が抑制されることによる壁体内部結露防止と室内の 加湿効果、さらに日射受熱で暖められた通気層の暖気 が室内に還気されるため暖房負荷が低減される。一方、 夜間においては、空気循環を行わない。屋根内部では、 外気の温度低下に伴い断熱材に水分が吸着する。夜間 に室内発湿があれば、その分だけ多く水分が吸着し、 翌日昼間の加湿量が増加する。 3.2 実証住宅の概要 図4 と表 1 に実証住宅の外観と概要を示す。本実証 住宅は福岡県糸島市に2 棟建設し、1 棟は外被システ ムを導入した住宅、もう1 棟は従来の住宅であり、そ れらを比較することで、本システムの効果を検証する。 表2 に屋根構成、図 5 に立面図、図 6 に外被システ 断熱材へ 水分が吸着 浴室換気扇ON 空気循環 行わない 2階LDK壁面 リモコン 制御用 温度センサー 太陽熱 蓄湿水分が 通気層へ脱着 ファンBで 空気を循環 浴室換気扇ON 2階LDK壁面 リモコン 制御用 温度センサー 図2 ファンユニット 図3 冬季集熱・調湿経路 A B C A B C (a)昼間の空気循環経路 (b)夜間の空気循環経路 制御用 温度センサー 制御用 温度センサー

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45-3 ムを導入した住宅(以下、A 棟)の断面図を、図 7 に 平面図を示す。両実証住宅は屋根通気層を用いた空気 循環設備システムを除く、その他の建物の構造や仕様 は同様に設計·施工されている。外被システムが導入さ れる屋根部を赤破線で示している。A 棟には屋根通気 層を用いた空気循環を行う際、ファンにより室内空気 が屋根通気層に導入される。他方の実証住宅(以下、B 棟)の屋根通気層は外気が通るように設計されている。 また、住宅の東西面外壁への日照の違いによる両棟の 温湿度変動の差を減らすため、東西面は断熱を強化し ている。 4. 実証住宅における冬季実測調査 4.1 実測調査の目的 本実測調査は前章3.2 節で示した A 棟と B 棟の 2 棟 を対象に行い、両棟の室内温度・絶対湿度の実測結果 を比較することで、本システムが冬季における室内温 熱環境向上にどの程度寄与しているかを検証する。 4.2 実測内容および条件 表3 に実測条件を、表 4 にファン B 運転条件を、図 7 に居室測定点を示す。本実測では、A・B 両棟共通し て屋根壁体内部、小屋裏、エアコン吸い込み口・吹き出 し口、そして各居室の温湿度を測定する。加えて、集 熱・調湿システムを導入したA 棟のみ、通気層出口、 ファン吸い込み口、ファン吹き出し口の温湿度を測定 している。また、本実測は5 つのケースに分けて行っ たが、本報では、Case3 の実測結果を示す。 4.3 実測結果および考察 図8(a), (b), (c), (d), (e)に太陽熱集熱を行い、空調機を 運転させない条件であるCase3 における通気層温度、 LDK 温度、通気層絶対湿度、LDK 絶対湿度、LDK 相 対湿度の実測結果を示す。日射量の多い1 月 21 日の結 果に着目すると図8(a)では、日射量の増加に伴い、通気 層軒側・棟側ともに温度が上昇し、ファンが運転開始 して屋根通気層を介した空気循環が行われる。ファン の運転時間帯において、屋根通気層軒側温度よりも棟 側温度が約10 ℃高くなっており、空気循環によって太 所在地 福岡県糸島市 延床面積 141.79m2 地域区分 6 地域 日射量地域区分 A4 区分,H2 区分 LDK 洗面室 Room2 小屋裏 室内機 South 6895 785 3 626 8 271 6 268 1 57 1 30 0 2275 3640 980 North Room2 Room1 洗面室 Room2 Room1 Outdoor terrace Outdoor terrace 洗面室 階段室 階段室 外部倉庫 A棟 B棟 LDK Room3 LDK Room3 A棟 B棟 図4 実証住宅外観 表1 実証住宅概要 図5 実証住宅立面図 図6 実証住宅断面図 図7 実証住宅平面図 部屋3 部屋1 部屋2 部屋3 部屋1 部屋2 表2 実証住宅屋根構成 屋根構成 厚み[mm] 透湿シート 0.15 セルロースファイバー 185 透湿防水シート 0.15 通気層 45 テクウッド 9 透湿防水シート 0.15 ガルバリュウム鋼板 0.4 温湿度測定点 通気層入り口 集熱空気吹き出し口 (a)2F 平面図 (b)1F 平面図 条件 実測期間 24h換気 太陽熱集熱 空調機 加湿 Case1 2018年10月25日~29日 ― ― ― ― Case2 2018年10月29日~11月2日 常時運転 ― ― ― Case3 2019年1月19日~22日 常時運転 行う ― ― Case4 2019年1月10日~16日 常時運転 行う 常時運転(設定温度18℃) ― Case5 2019年1月17日~19日 常時運転 行う 常時運転(設定温度18℃) 行う 表3 実測条件 表4 ファン B 運転条件 項目 条件 ファンB流量[㎥/h] 158.4 ファンB運転開始温度[℃] ファン吸い込み口温度 >LDK温度+3 ファンB運転停止温度[℃] ファン吸い込み口温度<LDK温度

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45-4 陽熱が集熱されていることが確認できる。集熱した空 気は、ファンユニットを介して2 階居室へと送られる。 図8(b)において、A 棟・B 棟それぞれの 2 階 LDK 温度 を比較すると、空気循環を行っている時間帯において、 システムを導入したA 棟が、システムを導入していな いB 棟よりも室温が最大 2.6 ℃高くなっている。この 結果から、本システムの太陽熱集熱によって室内の暖 房効果を得られたと言える。 また、通気ファンが運転しているとき、集熱と同時 に加湿が行われる。図8(c)では、日射量の増加に伴い通 気層中央絶対湿度が上昇し、断熱材に蓄湿されていた 水分が通気層へ脱着したことが確認できる。図 8(d)の A 棟・B 棟の 2 階 LDK 絶対湿度の比較に着目すると、 ファンが運転して集熱を行っている時間帯において、 A 棟が B 棟よりも絶対湿度が高く保たれており、絶対 湿度の差は最大で1.5 g/kg’である。また、図 8(e)の LDK 相対湿度の比較を見ると、A 棟が B 棟と比較して相対 湿度が最大 10%高くなっている。このことから、太陽 熱を利用した本システムの調湿効果によって、居室の 湿度環境を改善することができたと言える。 5. むすび 本報では、太陽熱による夏季除湿・放熱と冬季集熱 が可能な外被システムの実用化に向けて、実証住宅を 建設し、主に冬季の実測調査を行うことで本システム の基本性能を検証として、冬季集熱・調湿効果の検討 を行った。実測結果から、自然状態の住宅において本 システムを導入することにより、昼間に主要居室温度 を最大2.6 ℃、相対湿度を最大 10%高める効果がある ことを確認した。 今後の課題としては、ファン運転開始・停止温度等 のシステム最適制御の検討をすること、夏季における 実測調査と本システムの除湿・放熱効果の検証するこ と、数値シミュレーションによって本システムの効果 を検討することを挙げる。 【参考文献】 1) 経済産業省 資源エネルギー庁:「平成29 年度エネ ルギーに関する年次報告(エネルギー白書2018)」 第2 部 エネルギー動向 2) 尾崎明仁:熱・水分・空気連成を考慮した建築の温 湿度・ 熱負荷計算,Technical Papers of Annual Meeting of IBPSAJapan,pp.19-26,2005 3) 尾崎明仁,渡邊俊行ほか:水分ポテンシャルによる 湿気 移動解析-湿流の駆動力,日本建築学会計画 系論文集, 第 488 号,pp.17-24, 1996 (a)通気層温度 (b)LDK 温度 (c)通気層・小屋裏絶対湿度 (d)LDK 絶対湿度 (e)LDK 相対湿度 図8 Case3_実測結果 0 200 400 600 800 1000 0 2 4 6 8 10 1/20 1/21 Time 日射量 ファン運転時間 外気_絶対湿度 A棟_屋根通気層中央絶対湿度 A棟_小屋裏絶対湿度 0 200 400 600 800 1000 -10 0 10 20 30 40 50 1/20 1/21 Time 日射量 ファン循環時間 外気_温度 A棟_屋根通気層軒側温度 A棟_屋根通気層棟側温度 0 200 400 600 800 1000 0 5 10 15 20 25 30 1/20 1/21 Time 日射量 ファン運転時間 外気_温度 A棟_LDK温度 B棟_LDK温度 0 200 400 600 800 1000 0 2 4 6 8 10 1/20 1/21 Time 日射量 ファン運転時間 外気_絶対湿度 A棟_LDK絶対湿度 B棟_LDK絶対湿度 0 200 400 600 800 1000 0 20 40 60 80 100 1/20 1/21 Time 日射量 ファン運転時間 外気_相対湿度 A棟_LDK相対湿度 B棟_LDK相対湿度 A b s o lu te h u m id it y [g /k g '] So la r ra d ia ti o n [W /m 2] A b s o lu te h u m id it y [g /k g '] So la r ra d ia ti o n [W /m 2] R e la ti v e h u m id it y [% ] So la r ra d ia ti o n [W /m 2] T e m p e ra tu re [℃ ] So la r ra d ia ti o n [W /m 2] T e m p e ra tu re [℃ ] So la r ra d ia ti o n [W /m 2]

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