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自己組織化銅アセチリドナノワイヤーの電気伝導特性

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準位に生じた際にsバンドとpバンドの重なりができ, 金属的な電子バンド構造を作ることができるようになる ためである4)。この例のように,クラスターの電気伝導 特性の研究は,原子とバルク固体で基本的な物性がどう 変化するのか見極めるクラスターの重要な研究課題の1 つといえる。 しかしながら,クラスターの立場における電気伝導特 性の研究は基本的にもかかわらず不明な点が多く,今後 の発展が望まれる分野である5)~7)。特にシリコン半導体 の光リソグラフィー技術が回折限界に達している中,ク ラスターやナノ粒子の電気伝導特性,さらに,ナノワイ ヤー・ナノチューブといった1 次元状ナノ物質の電気伝 導特性の解明は,次世代の電子配線技術構築の基礎的な 研究と考えられ重要性が増している。このような中,私 はクラスター研究者として,電気伝導特性を理解するた め,全く新しい視点に立ち,自己組織化などのナノテク ノロジーの基盤技術を利用して研究を展開している8)~13) 1 .はじめに クラスターは,原子・分子の数個から数百個の集合 体として定義され,原子・分子1 個とバルクの固体・液 体を結ぶ中間層として興味が持たれ研究が行われてい る1)~3)。元素の中には,原子1 個や数個程度の集合体の クラスターでは電気を流さず,100個から1000個以上と いったバルクに近い大きな粒子に集合することで初めて 電気を流すようになるものも存在する。例えば,水銀 Hgなどの最外殻s軌道に 2 個の電子を占有する原子の 場合,数個程度の集合体ではs軌道から作るバンド準位 を電子がすべて占有し,絶縁体と同じ電子配置となり, 電気伝導を担うことはできない。しかし,水銀Hgは金 属元素でありバルク状態で電気伝導をもつことは明らか で,これは,電子バンド構造を形成する際に,s軌道以 外にその上のp軌道のバンド準位も考え,十分な数の原 子が集合した際,つまり,十分なエネルギー巾がバンド

十 代   健

**

Self-assembly of copper acetylide molecules and its annealing provide the semiconductive nanowires and the metallic Cu nanowires coated with insulating carbon layers (nanocables). Furthermore, the dimension of produced nanowires is extremely thin, the diameter of 5 nm and the only 8 Cu atoms queuing up for the nanocable. The synthetic way is so sim-ple that the use of self-assembled acetylide molecules can provide the most cost-effective nanowires.

It was also found that copper acetylide nanocables can sense oxygen absorption through Mott 3D variable range hop-ping conduction. This is a contrast to detect with band conduction by normal solid gas sensors. The merit of detection with the hopping conduction is much smaller interaction enough between adsorbed molecules and sensor solid, such as physisorption. The detection of weak interaction enables the operation of the present oxygen sensor at extremely low tem-perature.

Keywords: self-assembly, copper acetylide, nanowire, gas sensor

自己組織化銅アセチリドナノワイヤーの電気伝導特性

Electrical Conductivity of Self-Assembled Copper Acetylide Nanowires

Ken JUDAI

,

**

(Received October 31, 2011)

Institute of Natural Sciences, College of Humanities and Sciences, Nihon

University 3-25-40 Sakurajousui, Setagaya-ku, Tokyo 156-8550, Japan

** Department of Integrated Sciences in Physics and Biology, College of

Humanities and Sciences, Nihon University 3-25-40 Sakurajousui, Setagaya-ku, Tokyo 156-8550, Japan

日本大学文理学部自然科学研究所:

〒156-8550 東京都世田谷区桜上水3-25-40

** 日本大学文理学部物理生命システム科学科:

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まず,自己組織化とクラスター研究の関連性から述べる ことにする。 自己組織化という言葉の定義は曖昧であり,プリコジ ンが提唱した散逸構造論の考え方に基づく,エネルギー (エンタルピー)やエントロピーが出入りできる開放シ ステムにおける自己組織化を意味する場合もあれば,熱 的な平衡状態に近い自己集合と呼ぶのが相応しい自己組 織化もある14)。前者の具体例は,生体物質がその形質を 保っている状態であり,食べ物というエネルギー源を消 費しながら外部 (環境) とのやり取りを通して,生物と しての形質(細胞の単位においても,個体の単位におい ても)が維持されている。一方,後者の具体的な例が, 物質の結晶成長過程である。結晶成長を自己組織化であ ると考えることができるのは,結晶成長が成長核を通し て行われるためである。分子や原子が集合していく際 に,ある程度の大きさまで結晶成長が進まないと,結晶 成長の逆反応の溶解過程が優勢となり結晶成長が進行で きない。しかし,ある程度の結晶サイズに到達すると結 晶成長が優勢となり,さらに大きな結晶へと成長できる ようになる。つまり,結晶成長核ができるか,できない かが重要であり,成長核を自己とした組織化が起きてい るため,自己組織化と呼ぶことができる。生体物質など に代表される散逸構造論的な自己組織化と,この原子・ 分子の結晶成長における自己組織化は,著しく異なる概 念であり,語弊がないように使用を注意する必要があ る。 結晶成長過程における自己組織化過程,自己集合過程 を詳しく考えていくと,結晶の成長核がどのように生成 されるか疑問となる。近年,低温電子顕微鏡を用いて, 飽和溶液の結晶成長過程を観測したところ,原子・分子 が集合し,結晶成長核へと至る中間状態として,クラス ター物質・アモルファス物質が存在していることが証明 されつつある15)。クラスターを原子・分子とバルク固体 を結ぶ中間状態として注目してきたが,結晶成長といっ た原子・分子がバルクへと移行する段階でも,当然,ク ラスターを介していたのである。この研究の重要な点と して,結晶成長核はバルク固体構造の部分構造であり, 原子・分子が付加していくことで,どんどん大きな物質 へと成長していくことが可能であるのに対し,結晶成長 核の手前に存在するクラスター物質・アモルファス物質 はバルク固体とは全く異なる結晶状態であり,クラス ター・アモルファス物質から自己組織化に向けたバルク 結晶構造の成長核へと構造の相転移が必要なことにあ る。 結晶成長においてクラスターが重要であることが判明 しつつあるが,その詳細な研究は全く進んでいない。本 論説では,自己組織化・結晶成長を利用することで,ナ ノ物質・クラスター材料を作成することに取り組んでい る私の研究結果の一部を紹介する。銅アセチリド分子は 自己組織化によりナノワイヤー構造へと結晶成長できる 物質であり,電気伝導特性の評価や電気伝導度を利用し た固体ガスセンサーへの応用例も含めて解説する。 2 .銅アセチリドの合成と評価 自己組織化を用いてナノ物質・クラスター物質を作成 しようと考えた際に,光リソグラフィーによる半導体の 細線技術の限界を見据え,ナノ配線技術の置き換えを目 指し,金属一次元物質を自己組織化で作成することを目 標とした。金属原子を集合させた場合,原子には異方性 がないため,通常の結晶成長では,どうしても球形もし くは球形に近い物質しか得ることができない。アセチリ ドとは,炭素2 原子三重結合を含む物質であり,三重結 合の方向に異方性があり,一次元方向に結晶成長する可 能性のある物質として着目した。様々な金属アセチリド が合成可能であるが,銅のアセチリド物質の結果につい て紹介する。 銅アセチリドは爆発性のある物質として1960年代の 古くから知られている物質である。古くから知られてい るにもかかわらず,爆発性があること,また,アモル ファス物質しか得ることができなかったため,基本的な 性質すら知られていない化合物でもある。報告されてい る合成方法は非常に単純であり,塩化銅のアンモニア水 溶液にアセチレンガスを導入することで沈殿物として銅 アセチリドを得ることができる。通常の合成方法ではア モルファス物質しか得ることができないが,アセチレン ガスをアルゴン等で100倍程度に希釈し,さらに,1分 間あたり5mL程度と非常にゆっくりとガスを反応フラ スコ内に導入することで,銅アセチリド分子の結晶成長 速度を制御することででき,結晶化に成功することがで き た。 図1 に 得 ら れ た 沈 殿 物 を 走 査 型 電 子 顕 微 鏡 (SEM) と透過型電子顕微鏡 (TEM) で直接観測したと きの結果を示した。得られた結晶は,フラスコ内のバル ク量の合成反応にもかかわらず,ナノサイズの針状結晶 となった。ナノサイズの針状結晶が得られたということ は,見方を変えれば,銅アセチリド分子が,水溶液内で 自己組織化によりナノワイヤーへと結晶成長したと捉え ることができる。 銅アセチリド分子が,どのようにパッキングしナノワ イヤー構造へと自己組織化により結晶成長しているのか 調べるために,粉末X 線回折を測定した。その結果を

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めて再現することが判明した(図2b)。粉末X線回折の 実験とDFTの計算の比較から,アセチリドの炭素三重 結合軸の異方性を利用し,自己組織化により,その方向 にナノワイヤー構造を得ることができたといえる。 銅アセチリドの爆発性の性質を利用することで,自己 組織化で得られたナノワイヤーを,さらに,金属ナノワ イヤーへと変換することも可能である。得られた銅アセ チリドを爆発しないように,ゆっくりと100℃程度まで 真空中で加熱を行うと,反応活性な性質により,銅元素 と炭素元素の分離反応が進行した。透過型電子顕微鏡 TEMの観測では,加熱前の銅アセチリドは銅元素と炭 素元素が均一に存在するため均一な濃淡のないTEM像 図2aに示した。ナノワイヤーの直径は5nm程度と非常 に細いため,回折ピークは本質的に幅広くなってしま い,実験的なX線回折のみから結晶の構造決定を行うこ とができなかった。そこで,密度汎関数法DFTによる

理論計算の結果と比較することにした。VASPやABI-VASPやABI-やABI- ABI-NITといったバンド構造を計算するプログラムパッケー ジを使用し,様々なアセチリド化合物の構造を初期構造 として,構造最適化計算を行った。エネルギー最安定 は,リチウムアセチリドの構造を初期構造として出発し た 斜 方 晶 系(Immm No.71, Z = 2, a = 339 pm, b = 458 pm, c=557 pm)の構造であり,図 2cに示した。銅 1 価正イオンと炭素三重結合の二原子分子の2 価負イオン が,逆ホタル石型のイオン結合的な性質でパッキングし た構造である8)。この最安定構造を基に粉末X線回折 ピークを再現してみると,不純物だと判明したピークも 存在するが,炭素三重結合の軸方向,つまり,結晶のb 軸方向に長い結晶を仮定すると,実験値のピーク幅も含 図1  自己組織化銅アセチリドナノワイヤー。(a)走査型電 子顕微鏡写真(SEM)。フラスコ内の反応沈殿物をメ タノールで超音波分散させ,シリコン基板上に滴下・ 乾燥させ測定した。(b)透過型電子顕微鏡写真(TEM)。 直径5nm程度のナノワイヤーが集合し,バンドル状 となり観測されている。 図2  銅アセチリドナノワイヤーの結晶構造。 (a)銅アセチ リドナノワイヤーの粉末X線回折実験ピーク。ナノワ イヤーは直径5nm程度と細くピークが本質的に幅広く なってしまう。(b)密度汎関数法 (DFT) による構造計 算結果を基にしたシミュレーション結果。(c)DFT計 算による最適化結晶構造。

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と,電子顕微鏡による観測のため,一旦,真空を破り大 気下でサンプルを搬送している。貴金属ではあるが,銅 元素は金や銀に比べて,はるかに酸化されやすく,室温 の空気中では瞬時に数ナノメートル程度の酸化物層がで きることが知られている。しかし,図4で観測されたナ ノケーブル中心部分の原子間隔は,酸化銅の間隔ではな く,酸化されていない金属銅の間隔である。つまり,大 気下を経由しても,酸化されていないことが判る。ナノ ケーブルとしての炭素の被覆層が金属銅の酸化を防いで いたと考えられ,金属ナノワイヤーを作成する材料・前 駆体として金属アセチリドが非常に優れている利点の一 つと考えられる8),10) 3 .原子間力顕微鏡を用いた導電率測定 金属ナノワイヤーの作成に成功すれば,当然,次の課 題は,金属細線の電気伝導度の測定となる。カーボンナ ノチューブの研究の進展により1 次元物質の電気伝導度 の測定は精力的に行われるようになった。カーボンナノ チューブの薄膜を作成しバルク固体としての電気伝導度 の測定をはじめ,ナノギャップに架橋させることによる 1 本のカーボンナノチューブの電導度から,走査型トン ネル顕微鏡STMや原子間力顕微鏡 AFMを用いてナノ物 質をナノサイズの鋭利な点 (チップ) で接触させて,あ たかも,テスターで物質を触って測定するような方法ま である。その際の問題として,STMやAFMのチップと を与えるのに対し(図1b),加熱後のTEM像では,ワ イヤー中心部分が濃く,ワイヤー周辺部分が薄い,濃淡 のある像を与えた(図3)。銅原子と炭素原子では総電 子数の違いにより電子線の散乱効率が異なり,電子数の 多い銅原子は強く電子線を散乱するためTEM像では濃 く観測され,反対に,炭素原子の電子散乱能は弱いた め,薄く観測されたと考えられる。つまり,銅アセチリ ドの中に均一に分散していた銅元素と炭素元素は,加熱 により,ワイヤー中央部分に銅元素が析出し,ワイヤー 外径部に炭素元素が分離したと考えられる。ナノワイ ヤーの中央部分と外径部分で元素の異なるある種のコア =シェル構造であるケーブル状の物質を得ることができ た。自己組織化による簡便な合成反応と真空中での加熱 といった簡便な後処理のみで,銅の金属ナノワイヤーを アモルファス炭素で被覆したナノケーブルを得ることに 成功したといえる8),12) 銅アセチリドを加熱して得られたナノケーブルの高分 解能TEM像を図 4 に示した。ケーブル中央部分のTEM 像における銅元素の濃い部分が原子分解能で観測できて いる。金属の銅ナノワイヤーは単結晶ではなく多結晶で あり,様々な方位の銅ナノ金属が連なっていることがわ かる。しかし,銅ナノワイヤーの直径は,2nm程度と 非常に細く,銅原子が直径方向に数個程度しか並んでお らず,非常に細い。自己組織化による銅アセチリドナノ ワイヤーの生成と加熱による後処理のナノケーブル化に よって,光リソグラフィーの配線技術を凌駕する非常に 細い金属ナノワイヤーを生成することに成功したといえ る。また,このような金属ナノワイヤーを安定的に生成 できた要因として,金属ナノワイヤーを覆っている炭素 層の存在意義も大きい。真空中での加熱処理を行ったあ 図3  加熱後の銅アセチリドナノワイヤー(TEM)。銅と炭素 の分離反応が進行し,ナノケーブルに変換している。 図4  銅アセチリドナノケーブルの超高分解能透過型電子顕 微鏡写真(TEM)。銅アセチリドナノケーブルは非常 に細く,中心の銅原子は数個程度しか存在しない。

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イカ上に蒸着した金の薄膜をアニーリングし原子レベル での平滑面を作り,そこに銅アセチリドのメタノール分 散液を滴下し,試料を作成した。AFMのチップはバネ 定数の小さなものを準備し,チップとナノワイヤー間が 非常に弱い力でも観測できるように,また,下地の金表 面と銅アセチリドナノワイヤーは原子レベルでの接触が あり,しっかりと固定される条件を作り出すことで,接 触モードのAFMでも銅アセチリドナノワイヤーを観測 することができるようになった8)。図5aで観測された ナノワイヤーの高さは5nm程度であり,TEMの測定結 果などと一致する。しかし,水平方向でのナノワイヤー の大きさは,30nm程度もあり,これは,ナノワイヤー の外径5nmではなく,AFMのチップの曲率半径が観測 の限界になっているためである。 接触モードのAFMで銅アセチリドナノワイヤーの観 測が行えることは,電気伝導度の測定に容易に移行でき ることを意味する。AFMのチップを金でコーティング した電気伝導のある材質にすることで,AFM装置によ りナノワイヤーとコンタクトをとり,基板とチップ間の バイアス電圧を掃引し,電流・電圧特性を測定すること ができるようになる。図5bに接触モードのAFMで測 定した電流・電圧特性の結果を示した。参照実験として 行った金基盤に直接チップを接触させたブランク測定で は,電流と電圧が比例するオーミックな特性を示すのに 対し,チップと金基板の間にナノワイヤーまたはナノ ケーブルを挟んだ場合は,非オーミックな電流・電圧特 性を示した。チップの接触抵抗により測定結果にバラつ きが生じてしまうが,図5bは,10回程度の測定の平均 値である。平均をとった結果,明らかに加熱前のナノワ イヤー (nanowire) に対して,加熱変換後のナノケーブ ル (nanocable) は電流が流れないプラトー領域が大きい ことが判明した。つまり,ナノワイヤーの表面の電気伝 導度は,加熱変換により電気が流れにくく絶縁体に近く なったことが判る。 この非オーミックな電流・電圧特性は,バンドギャッ プのある半導体として説明できる。粉末X線回折の解析 のために密度汎関数法DFTで計算した銅アセチリドの 結晶構造は,銅正イオンと炭素二原子負イオンのイオン 結晶的な結合となっていた(図2 c)。DFT法によるバン ド構造計算では,バンドギャップを求めることが可能で あ り,0.5 eVで あ っ た8)。DFT法 の 計 算 は, バ ン ド ギャップを過小評価する傾向があり,また,銅アセチリ ドナノワイヤーの電流・電圧特性におけるプラトー領域 は,実験値からおよそ1V程度であり,理論計算の予測 と矛盾がないといえる。一方,加熱・変換した銅アセチ 呼ばれている原子レベルで尖った接触子では,そこに大 きな接触抵抗を有してしまう場合がある。そこで,接触 抵抗を無視することができる手段,具体的には四端子法 と呼ばれるチップを4本用意し,ナノ物質に接触させ測 定する方法まで開発されている16) STMやAFMを用いて一次元のナノ物質の電気伝導度 を測定する場合には,接触子であるチップを2本・4本 とコンタクトさせるため,空間的な制約からある程度の 長さのワイヤーを必要とする。自己組織化で得られたナ ノワイヤーは長いもので1 μm程度のものもできるが, その多くは100nmから300nm程度である。その程度の 長さではAFMなどを利用して 1 次元方向への電気伝導 度の測定を行うことは困難であり,今回は,通常の AFMのセットアップ,1 本のチップのみで測定できるナ ノケーブルの被覆に関する電気伝導特性を観測した。 図5aに接触モードで測定したAFMの像を示した。マ 図5  接触型原子間力顕微鏡 (AFM) を利用した電流・電圧 特性。(a) AFM像と電流・電圧特性の測定模式図。 (b) 電流・電圧特性。加熱前の銅アセチリドナノワイ ヤー(wire),および,加熱変換した銅アセチリドナ ノケーブル (cable) で,それぞれの特性変化を10箇所 程度測定し平均値を求めた。

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ナノケーブルの環境を酸素ガス1 気圧・窒素ガス 1 気圧 と交互に変化させながら電気伝導度を測定すると室温に もかかわらず,可逆的な電気伝導度の変化が観測され た。図6 では,30分おきに窒素ガスと酸素ガスを交互に 入れ替えたが,酸素ガス100%1 気圧の環境では,伝導 度が大きく(抵抗値としては小さく),逆に,窒素ガス 100%1 気圧では,伝導度が小さく(抵抗値としては大 きく)なる現象が,再現良く何度も観測された。つま り,銅アセチリドナノケーブルは,室温において,その 電気伝導度・電気抵抗値を測定するだけで,酸素ガスの 存在量を決定する固体酸素センサーとして働くことを意 味する。酸素分子の吸脱着が電気伝導度を変化させてい るのだが,室温の条件で,このような変化が観測された ことが非常に興味深い。室温の熱エネルギーで吸脱着で きるのは,物理吸着のような弱いエネルギーであり,そ の弱いエネルギーによる吸着で電気伝導度が1 桁近くも 大きく変化しているためである。一般的な固体酸素セン サーは,数百度の高温において酸素分子を解離吸着さ せ,酸素イオンの固体伝導や表面に酸素イオン不純物準 位を作成し,酸素の化学的な吸着現象を電気伝導へと変 換しセンサーとして利用している。そのような酸素の吸 脱着反応を進行させるには,つまり,センサーとして可 逆性を持たせるためには,室温をはるかに超える高温が 必要となる。しかし,今回見出した銅アセチリドナノ ケーブルの固体酸素センサーは,室温でも動作可能であ り,物理吸着のような弱い相互作用が関与しているとみ られ,そのセンサー機構に興味が持たれる。実際に,室 リドナノケーブルでは,銅ナノワイヤーがケーブル中央 部分に析出し,その周囲をアモルファス炭素が覆った構 造となっている。そのAFMの接触モードで測定した電 流・電圧特性では,加熱前に比べて明らかに非オーミッ クな特性が大きくなっている。つまり,電流が流れない プラトー領域が大きくなっている。幾何構造的には,金 属である銅ナノワイヤーが析出していることと矛盾して いるが,今回の伝導度の測定方法が,表面にかなり依存 した手段であることが原因と思われる。接触モードの AFMによる測定であるが,加熱変換後のナノケーブル の表面アモルファス炭素を剥離し,直接,金属銅ナノワ イヤーへと接触させた実験ではないので,表面アモル ファス炭素層を通して電流・電圧特性を測定したことに なる。その結果,電気が流れにくい非オーミックな特性 になった。つまり,銅ナノケーブルにおいて銅を被覆し ているアモルファス炭素の層は絶縁体の性質があり,そ の層も十分厚く,今回,作成した銅アセチリドのナノ ケーブルが,ナノサイズのケーブル的な構造をもつこと に留まらず,金属である銅のナノワイヤーを絶縁体の性 質をもつアモルファス炭素で覆った,電気回路的にもナ ノサイズのケーブル構造であったことを示すことができ たといえる。 4 .固体酸素センサーへの応用 接触モードのAFMで銅アセチリドナノケーブルの電 流・電圧特性を測定したが,より応用展開可能な形での 電気伝導度の測定も行っている。最も単純な形での電気 伝導の物性を評価する方法は,バルク固体として一般的 なテスター・マルチメーター等で測る方法である。銅ア セチリドナノケーブルを赤外分光用KBr錠剤形成器で ペレット状に加圧形成し,電極を繋ぎ,通常のテスター やマルチメーターで抵抗値を測定した。ナノワイヤー・ ナノケーブルの1 本 1 本はナノサイズであっても,加圧 成形により固形化することでバルク状態として電気伝導 特性を測定することが可能となる。こうして電気抵抗値 を測定したところ,銅アセチリドを加熱することで電気 抵抗の低下,伝導度の向上が見られた。この結果は,1 本のナノワイヤー・ナノケーブルの表面を上からAFM で測定した結果とは,正反対の結果といえる。加熱・変 換することで,半導体 (絶縁体) であった銅アセチリド ナノワイヤーの中央に伝導性の金属の銅ナノワイヤーが 作成されたことにより,バルク固体としてナノケーブル の集合体としては,電気伝導度が向上したと考えること ができる。 興味深い現象として,この加熱変換後の銅アセチリド 図6  銅銅アセチリドナノケーブル固体酸素センサーの電気 伝導度変化。窒素と酸素雰囲気を30分おきに入れか れ,電気抵抗 (伝導度) を測定した。

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うな強い相互作用ではなく,物理吸着のような弱い相互 作用で電気伝導度を変化できたのは,まず,第1に元々 存在した電子スピンを電気伝導に利用したこと,第2と して,Mottのホッピング伝導であったためホッピング 確率が容易に変化できることが挙げられる。そのため, 物理吸着のような弱い相互作用でも,ホッピング確率を 変化させることができ,センサーとして動作することが 可能となったといえる。 さらに,銅アセチリドナノケーブルとしてのナノ物質 の構造的な側面からセンサーとしての性質も考察してお く。バルク固体として電気伝導度を測定した場合に実際 に測定される抵抗値は,最も電気が流れにくい箇所であ り,電気伝導の律速箇所の抵抗値・電気伝導度を大きく 反映していると考えられる。銅アセチリドナノケーブル は,金属の銅ナノワイヤー部分と,それを取り囲んでい るアモルファス炭素部分に分けることができるが,固体 酸素センサーとして抵抗値として測定されているのは, 主に抵抗値の大きいアモルファス炭素部分である。実際 温より低温の冷凍庫-20℃の中で同様の実験を行って も,吸脱着速度の低下は見られたものの,可逆性は確認 でき,本当に物理吸着のような弱い相互作用で動作して いることを確認している9)。 センサー機構を解明させるために,まず,電気伝導度 の温度変化を測定した。一般的な熱励起の半導体は,電 気伝導度の対数に対して絶対温度の逆数で比例・直線関 係となる。しかし,銅アセチリドナノケーブルでは,電 気伝導度の対数に対して絶対温度のマイナス4 分の 1 乗 で比例関係を示した。つまり,一般的な熱励起半導体と は異なる電気伝導機構であることが判る。絶対温度のマ イナス4 分の 1 乗での比例関係は,Mottによって定式化 されており,Mottの3D variable range hopping 伝導と呼 ばれている9)。ホッピング伝導の1 種であるが,エネル ギー値も異なる局在軌道間をホッピングする際に,熱励 起子 (フォノン) の助けを介し,伝導キャリア (電子また はホール)がホッピングする特殊な電気伝導機構である。 電気伝導度の温度特性からは,局在軌道間のホッピン グによる伝導機構が明らかになったので,酸素センサー としての機構を探るため,局在電子の分光学的な検証を 行った。酸素の吸着・脱離で局在軌道が,どのように変 化するのかを電子スピン共鳴分光法ESRで調べること にした。図7 に酸素分圧を変化させながら測定したESR の結果を示した。酸素分圧が0 kPa,つまり,酸素の無 い条件下で測定したスペクトルは,若干非対称な形状を しているが,概ね,一般的なアモルファス炭素のスペク トルで,g=2.005にピークを観測した。酸素分子の存 在下でのESRの測定は,酸素分子のもつスピンがスピ ン・スピン相互作用を起こしピークが幅広くなる特徴が あ る。 今 回 のESR測定で酸素分圧を上昇させていく と,g=2.005の非対称なピークは幅広くなること以上 に急激に減少し,代わって,g=2.08近傍に新たなピー クを観測した。ESRの測定からは電子スピンが酸素分子 の吸着によりg=2.005からg=2.08へと化学環境が変 化することが観測されたといえる。 ここで,室温のような低温で銅アセチリドナノケーブ ルが固体酸素センサーとして利用できたセンサー機構に 関して考察してみる。ホッピング伝導であることがセン サーとして重要な役割を果たしており,Mottの3D variable range hoppingの定式化より,ホッピング確率が,局在 軌道の軌道エネルギーや軌道の大きさ・広がりに大きく 依存することが導出されている9)。また,ESRの測定か ら酸素が吸着していない状態でも,局在した電子スピン 状態が存在し,酸素分子の吸着により,化学環境が変化 していることも重要である。つまり,電荷移動吸着のよ 図7  銅アセチリドナノケーブルの電子スピン共鳴分光スペ クトルESR。酸素分圧を0 kPaから10 kPaまで変化さ せながら測定した。

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5 .まとめ 銅アセチリドナノワイヤーの電気伝導特性を中心に紹 介したが,本研究は,かなり特殊な例であり,一般的な クラスターの電気伝導特性の研究とはいえない。クラス ターを材料の観点から評価するには,電気伝導特性の評 価は避けては通れない研究課題であり,カーボンナノ チューブをはじめ1 次元のナノ物質の電気伝導特性が盛 んに研究されており,0 次元物質のクラスターの電気伝 導特性研究が今後発展することに期待したい。本研究の ような自己組織化を利用したクラスターから結晶成長へ の展開は,クラスターの材料化への方向性の1 つである と考えられ,他にも様々な手段でクラスターが材料とし て開拓されるべきだと考える。クラスターの電気伝導度 の研究はそのようなクラスターを材料の観点から捉える ことで,今後も発展していくだろう。 謝辞 本研究を実施するにあたり,分子科学研究所 西信之教授 (現・名誉教授),西條純一助教,沼尾茂悟博士,古屋亜理博 士のご指導・ご協力を仰ぎました。ここに感謝の意を表しま す。 に,熱起電力測定を行っても,キャリアが電子ではなく ホールであることも確認しており9),ESRの測定からア モルファス炭素の電子スピンが重要であることも判って いる。では,銅ナノワイヤーの金属部分が全く不要であ るかといえば,不要ではなく,今回のような特殊な酸素 センサーが見出されたのは,ナノケーブルの特殊な1 次 元構造の要因が大きい。固体酸素センサーとして肝であ る実際の抵抗値が変化していたのは,抵抗値の高いアモ ルファス炭素の電気伝導度の挙動であるが,バルク固体 としてテスターなどの機器で測定できたのは,金属の銅 ナノワイヤー部位が存在するからである。加熱変換する ことで,バルク固体としての電気抵抗値は小さくなって おり,これは,金属である銅ナノワイヤーが,アモル ファス炭素同士を結ぶ伝導パスとして,ベースとなる電 気伝導度の向上の役割を果たしているからであり,その ため,テスターやマルチメーターでその変化が十分観測 可能となっている。銅アセチリドナノケーブルといった 1 次元の特殊なナノ物質の構造が酸素センサーとして実 測可能にしたと考えられる。  1) 茅幸二,西信之;クラスター(産業図書,1994)  2) 編 茅幸二;マイクロクラスター科学の新展開(学会出 版センター,1998)  3) 西信之,佃達哉,斉藤真司,矢ケ崎琢磨;クラスターの 科学(米田出版,2009)

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参照

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