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血栓止血誌 (4):171~185, 2011 特集 : 補体系と凝固系 大隈浩一 * 1, 中垣智弘 * 1, 岩永貞昭 * 2 Crosstalk between the two systems,blood coagulation and complement Koichi OHKUMA * 1

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◆特集:補体系と凝固系◆

1. はじめに

自然免疫において主要な役割を果たしている補 体系と血液凝固系とのクロストークについては, 最近,Markiewski ら1)による“Complement and coagulation:strangers or partners in crime? ”と いう総説が書かれており,また,ごく最近の Spei-dl ら2)に よ る“Complement in atherosclerosis: friend or foe?”のレビューも興味深い.本稿では, こうした総説を参考にし,補体系と凝固系の相 互作用が単に in vitro で見られるだけでなく,in vivo でも起きることを,補体因子のノックアウト (KO )マウスの知見も加えつつレビューする. 補体系と凝固系は,どちらも蛋白質分解を伴う カスケード反応という共通性を有しており,重要 な生体防御反応の 1 つである炎症反応における パートナーと見ることができる.補体系と凝固系 のカスケードは,炎症反応を開始させる同じ刺激 によって始まる.それ故,感染の発生や宿主組織 の傷害のような刺激により,両カスケードはほぼ 同時に活性化されると考えられる.ここでは,両 系間にどのようなクロストークがあるかに焦点を しぼり,i )補体の活性化が凝固能を高めるメカ ニズム,ii )凝固因子を介した補体活性化の“新 しい経路”,iii )種々の臨床病態での補体系と凝 固系の相互作用,また,補体系の KO マウスにつ いて述べ,iv )最後に両系の比較生物学的考察を 試みたい.なお,補体系の最新情報については, 本誌,遠藤雄一著のレビューを参照されたい. 2. 補体系の活性化経路 補体系の活性化には 3 経路が知られており,そ れらは古典経路,レクチン経路および代替経路か ら成る.それぞれの経路には初期反応に特徴があ り,それ以降の C3/C5 の活性化,最終産物であ る terminal complement complex(TCC;C5b-9) が形成される点は共通である(図 1). まず,古典経路の初期反応では,免疫複合体 と C1q の結合がトリガーとなり,活性化された C1r/C1s が C4 や C2 を活性化して,C3 conver-tase(C4b2a )を形成する.C3 convertase によっ て生じた C3b は,C5 convertase(C4b2a3b )を 形成し,C5 が活性化されて C5b を生じる.これ 以降に蛋白質分解は起こらず,C5b に C6 ,C7 , C8 が順に結合して C5b-8 複合体となる.最後に, C9 が C5b-8 に結合することにより膜傷害活性 を有する TCC を形成する.レクチン経路の場合 * 1一般財団法人 化学及血清療法研究所蛋白製剤研究部〔〒 860-8568 熊本市大窪 1-6-1〕

Therapeutic Protein Products Research Department, The Chemo-Sero-Therapeutic Research Institute, KAKETSUKEN 〔1-6-1 Okubo, Kumamoto 860-8568, Japan 〕

Tel: 096-344-2183  Fax: 096-344-9234  e-mail: [email protected]

* 2一般財団法人 化学及血清療法研究所顧問

血液凝固系と補体系のクロストーク

大 隈 浩 一* 1, 中 垣 智 弘* 1, 岩 永 貞 昭* 2

Crosstalk between the two systems,blood coagulation and

complement

Koichi OHKUMA* 1,Tomohiro NAKAGAKI* 1,Sadaaki IWANAGA* 2

Key words: Coagulation, Complement, Knockout mice, Cascade, Atherosclerosis

1998 年 熊本大学薬学部 卒業 2000 年 熊本大学大学院薬学研究科修 士課程 修了 同 年 一般財団法人 化学及血清療 法研究所 入所 大隈浩一

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り,トリプシンタイプの触媒基が共通項である. また,プロテアーゼドメインは殆どの場合,分子 の C 末端側に位置する. 一方,プロテアーゼカスケード形成の要素と なる機能ドメインは,補体と凝固両因子の間で 異なる.例えば,EGF ドメインはビタミン K 依存性凝固因子(II,VII,IX,X,プロテイン C,プロテイン S など)はもとより,XII 因子 や MASP-1, -2, -3, C6, C7, C8, C9 など,両因 子に共通して含まれるが,コラーゲン様ドメイ ン(C1q,フィコリン)やチオルエステルドメ イン(C3, C4 など),さらに GPI アンカードメ イン(DAF )は補体因子固有のものである.ま た,CCP(SCR, ス シ ) ド メ イ ン は XIII 因 子 βサブユニットのほか,数多くの補体制御因子 (C4BP,Factor H,DAF,MCP など)に見出さ れる.興味深いことに,Gla ドメインや Kringle3) (II と XII,プラスミノーゲンなど)と Apple ド

メイン(XI と血漿カリクレイン)は凝固因子特 有のものらしく,補体因子にはみつかってない. こうしたドメイン構造の相違は両系因子の分子 集合や局在化,代謝などに反映される要素となろ う.なお,補体と凝固両系の因子に含まれる数多 くの糖鎖も,機能と密接に関連していると想像さ は,mannose binding lectin(MBL )やフィコリ

ンが感染菌外膜の糖鎖と結合することによって開 始され,活性型となった MBL-associated serine protease(MASP,遠藤雄一著のレビューを参照) が C4 および C2 を活性化する.以降は,古典経 路と同様である.一方,代替経路では,C1q や MBL のような異物を認識する分子がなく,C3 分 子内のチオエステル結合が自発的に水解されるこ とにより活性化されて Factor B と結合する.こ こに Factor D が作用して C3(H2O )Bb が生じ, C3 が C3a と C3b に分解される.C3b は,感染 菌の表面上で Factor B と結合し,Factor D の作 用を受けて C3 convertase(C3bBb )を形成し, さらにこれによって生じた C3b と結合して C5 convertase(C3bBb3b )を形成する. 通常,自己の細胞上では,後述する多数の補体 制御因子によって補体系が抑制されるため,病態 を伴わない限り,体内に侵入した感染菌に対して のみ補体反応が起きると考えられよう. 3. 補体因子と凝固因子の構造的類似性 前項で述べた如く,補体系と凝固系はともに蛋 白質分解を介してのカスケード反応を形成してお 免疫複合体 感染菌の外膜糖鎖 C1q (r2s2) C4 MBL/MASP2 古典経路 レクチン経路 代替経路 C2 C4b C3 C3b C3 convertase (C4b2a) C5 convertase (C4b2a3b) C3 C3b C3(H2O)Bb C3(H2O) B C3 convertase (C3bBb) B D C3a C5 C5b C5a C5 convertase (C3bBb3b) C6, C7, C8, C9 TCC (C5b-9) 図1 C1-INH C4BP Factor I DAF カルボキシペ プチダーゼN Factor I MCP Factor H アナフィラトキシン

(C3a, C5a) S-protein CD59 clusterin CR1 凝固系 組織損傷 TF X VIIa Xa プロトロ ンビン トロンビン フィブリ ノゲン フィブリン IX IXa VIIIa Va 架橋フィブリン フィコリン D XIIIa XIII 図 1  補体系と血液凝固系の活性化経路/制御因子の概略

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ロファージや好中球で,こうした白血球は炎症 性のメディエーターによって活性化されたとき, TF 産生を亢進する.炎症反応における,特に補 体 C5 の活性化は,白血球の TF 発現を顕著に高 める8).加えて,C5a9)や TCC10)は内皮細胞で の TF 発現を誘導するという.また,抗リン脂質 抗体症候群(APS )患者血清を用いた実験から, リン脂質・抗リン脂質抗体複合体によって誘導さ れる補体活性化の結果生じる C5a(C3a にはその 活性はない)は,好中球の細胞表面上に存在する C5a レセプターを介したシグナリングによって, 好中球の TF 発現を誘導することが示された11) 4.3  内皮細胞の活性化における補体の役割 TF の発現亢進だけでなく,血液の凝固活性を 高めるような内皮細胞の変化が,補体の活性化に より起きることが,多数の研究から示されている. 正常な血管では,内皮細胞上に存在するヘパラン 硫酸プロテオグリカンにより抗凝固性が維持され ているが,C5a は抗体との共同作用で内皮細胞表 面からのヘパラン硫酸のシェディングを惹起する ので12),補体活性化により血管内の凝固能が亢進 することになる.また,TCC や C1q は内皮細胞 に作用して多数の接着分子の産生亢進を誘導する が,その結果,内皮細胞への血小板の接着を容易 にする10)13) 4.4  補体による抗凝固機構の阻害 補体は抗凝固機構を阻害することによって,血 液の血栓形成性を高める.補体制御因子の C4 結 合蛋白質(C4BP )は,そのβ鎖を介してプロテ イン S(PS )と複合体を形成する.PS の抗凝固 活性には,活性化プロテイン C(APC )依存性 と非依存性の機構があるが,PS-C4BP 複合体形 成の結果,PS の APC コファクター活性は消失 するので,抗凝固活性は低下する14).C4BP は 急性期相蛋白質で,炎症時にはその血中レベル は 400%程度まで高まるが,この増加は PS と結 合しない C4BPαフォーム※ 1に限られるので, 急性期相応答時でさえ,抗凝固活性を有するフ れるが,凝固因子の糖鎖構造はかなり明らかにさ れているものの,補体因子の糖鎖についての構造 情報は少ない. 4. 補体因子の凝固促進作用 補体は直接的に,また,炎症反応を介して間接 的に凝固能を高める.補体の直接的な凝固活性化 能には,細胞のリン脂質膜の修飾,血小板の活性 化,種々の細胞での組織因子(TF )発現の増強, さらに,凝固・線溶系因子の直接活性化などが含 まれる. 4.1   補体を介した細胞表面の修飾と血小板の 活性化 In vivo での凝固反応は,主に陰性荷電したリ ン脂質表面で起きる.陰性荷電リン脂質としては, ホスファチジルセリンが中心的な役割を果たす. 定常状態で,細胞膜の外側の部分は陰性荷電した リン脂質を含まない.しかし,凝固反応を活性化 する刺激が入れば,細胞の膜リン脂質層の組成は 変化し,カスケード反応のための“場”を提供する. 例えば,C5b-9 からなる TCC が細胞膜内へ組み 込まれると,血小板は活性化し,その結果,酸 性リン脂質が細胞表面に露出し,prothrombinase によるプロトロンビン活性化の“場”を提供した り4),外因系凝固開始因子の TF を含むマイクロ パーティクル(MPs)を遊離したりする5).さらに, C1q が血小板表面上に存在するレセプターを介 して結合すると,インテグリンや P セレクチン の発現を誘導し,その結果,血小板の凝固促進活 性が高まる6).また,アナフィラトキシン活性を 持つ C3a が血小板の活性化や凝集を誘導する7) 4.2  TF 発現の誘導 外因系凝固の開始因子である TF は,肺,腎臓, 胎盤を含む種々の組織で発現する.血管の TF は 内皮細胞内に存在しており,循環血液とは接触し ない.従って,血管が傷害したときのみ TF は血 液に接触する.TF の他のソースは,単球/マク ※ 1C4BPαフォーム:C4BP は,α鎖(分子量:75,000)と β 鎖(分子量:45,000)からなり,健常人血漿中の大部分は α 7β1 オリゴマーとして存在するが,β鎖を含まないαフォームも存在する.PS とはβ鎖を介して結合するので,β鎖を 含まないαフォームは PS と複合体を形成しない.

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in vitro での凝固活性が in vivo でも発揮されるか を試験するため出血時間を測定し,MASP1/3 欠 損マウスの出血時間が MASP2 欠損マウスに比 べて有意に延長すること,また,MBL 欠損マウ スの出血時間も延長し,その延長した出血時間は rMBL を投与することによって補正されること を明らかにした.なお,MBL 欠損マウスの PT, APTT,血小板凝集能は,正常マウスのそれらと 有意差はなかった.これらの結果を基に,MBL やフィコリンで開始される補体系のレクチン経路 は,MASP2 依存性で MASP1/3 は関与しないが, MASP1/3 は生理的な止血に関与すると考察して いる. 4.6  補体の間接的な凝固促進作用 補体は,自然免疫における生体防御の最前線で 戦略的な位置を占めているので,種々の炎症性メ ディエーターと幅広いネットワークを形成して いる.自然免疫反応の開始後生成する補体アナ フィラトキシンの C3a と C5a は,サイトカイン 応答の制御に関与する.アナフィラトキシンとサ イトカインネットワーク間の多数の相互作用は, TNF-αや IL-6 の産生・分泌に関与すると考え られている.これら炎症性サイトカインは単球上 の TF 発現を誘導したり,トロンボモジュリンの ほか,プロテイン C レセプター(EPCR )など の抗凝固因子を減少させることによって,凝固促 進的に作用するという18) 5. 凝固因子を介した補体活性化の新しい経路 これまで述べてきた“補体を介した凝固促進作 用”とは逆方向の,“凝固因子を介した補体活性 化経路”についても,それを裏付けるエビデンス が蓄積しつつある.ここでは,血小板やトロンビ ン,フィブリノゲン(フィブリン)といった凝固 因子の補体系への関与について述べる. リーフォームの PS の血中レベルは安定してい る.PS は,陰性荷電したホスファチジルセリン との相互作用を介して PS-C4BP 複合体をアポ トーシス細胞に結合させる.そして,この C4BP はアポトーシス細胞上での C3 以降の補体活性化 を阻止するが,食細胞によるアポトーシス細胞の 貪食において役割を担う補体活性化の初期相は阻 害しない. 4.5  補体の凝固因子様活性 Krarup らは,組換え MASP1※ 2を用いた実験 から,MASP1 にはトロンビン様活性があること, すなわち,トロンビンと同じ切断部位でフィブリ ノゲンの Bβ鎖(Aα鎖は異なる)や XIII 因子 を水解し,架橋フィブリンを形成するが,その活 性はトロンビンに比べて著しく低い(XIII 因子 活性化の場合,トロンビンと 650 倍の差がある) という15).また,彼らは,組換え MBL と結合 した MASP2K※ 3には Xa 因子様活性があり,プ ロトロンビンをトロンビンに変換し,生成トロ ンビンはフィブリノゲンおよび XIII 因子に作用 し架橋フィブリンを形成することを示した.な お,MASP2K と相同性の高い C1s はこのような 活性を有していなかった16).一方,血清由来の MASPs を用いた実験でも,MASP1/3 にはトロ ンビン様活性はあるが,MASP2 にはその活性が ないことが示された. 高橋ら17)は,in vitro での再構成系実験,すな わち,マンノースをコートしたプレート上に,組 換え体の MBL(rMBL )と MASPs のソースと して MBL 欠損マウスからの血清を加えインキュ ベーションし,マンノース/rMBL/MASPs 複合 体以外の成分を除去するため十分に洗浄後,こ の複合体のトロンビン様活性を種々の方法で測 定した.その結果,MASP1/3 にはトロンビン に対する合成基質水解活性や天然基質のフィブ リノゲンをフィブリンに変換する活性はあるが, MASP2 にはその活性がないことを示した.この

※ 2活 性 型 の 組 換 え MASP1:MASP1 は,2 個 の CUB ド メ イ ン,EGF ド メ イ ン,2 個 の CCP(Complement Control

Protein )モジュールおよびセリンプロテアーゼ(SP )ドメインからなるが,彼らが用いた MASP1 は,大腸菌で発 現させた CCP と SP からなるトランケート型で,精製の過程で autoactivation により活性型となる.

※ 3MASP2K:活性化で切断を受ける Arg424を Lys に置換した変異体 MASP2 で,宿主細胞として CHO 細胞を用いて発現.

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れること,さらにこのリン酸化は C3 convertase に対する感受性に影響を与えないが,補体制御因 子である Factor I の作用に抵抗性を示すことを 報告した.これはリン酸化により C3b 活性が保 持されることを意味しており,活性化血小板によ るリン酸化が補体制御に関与する可能性を示唆す る. 5.4  凝固因子によるレクチン経路の活性化 最近,遠藤ら24)は,組換え体のマウスフィコリ ンおよび MBL を用いて,それらとフィブリノゲ ンおよびフィブリンがマイクロタイタープレート 上で相互作用することを示した.さらに,フィブリ ノゲンまたはフィブリンの存在は,細菌表面への フィコリンおよび MBL の結合を増加させ,グラ ム陽性菌とマウス血清共存下でのレクチン経路活 性化の系において,細菌表面上の C3b 沈着反応 を促進すると報告した.それ故,レクチン経路の活 性化においても血液凝固系の関与が示唆される. 6. 種々の病態における補体系と 凝固系の相互作用 血栓症を発症しやすい重症敗血症や自己免疫疾 患では,その病態発症に補体系と凝固系の相互作 用が関与すると考えられている.また,補体制御 系因子が欠損すると,血栓性の疾患を発症する. 補体系と凝固系の相互作用について,以下に示す 疾患を例に概説する. 6.1  全身性炎症反応症候群(SIRS) 全身性の炎症反応が制御不能な状態になると, 重症敗血症や多臓器不全となり,死亡する例が 多い.補体系と凝固系のカスケードはどちらも SIRS の過程で活性化されるが,大量に C5a が形 成されると,単球上での TF 発現が亢進し,その 結果,血液の凝血塊・血栓形成が高まる25).敗血 症の in vivo モデル(ラットの盲腸を結紮・穿刺 して作成)に抗 C5a 抗体を投与すると,死亡率 を 63%から 31%に低下させることができる.こ の敗血症モデルでは凝固・線溶系の亢進が誘導さ れるが,抗 C5a 抗体投与により是正されること から,補体のエフェクターは敗血症で観察される 5.1  凝固因子による C5 の活性化 従来からトロンビンは C5 convertase 活性を示 すことが知られている19).Huber-Lang ら20)は, C3KO マウスに免疫複合体を投与して急性肺障害 を誘導し,トロンビンによる C5 の活性化(C5a 生成)が起きることを示した.この KO マウスで は,当然のことながら C3b を構成成分とする C5 convertase は形成されない.興味深いことに,野 生型マウスと比較して,KO マウスの血漿トロン ビン活性は 3 倍程度にまで上昇した.また,アン チトロンビンやヒルジン投与により,C5a 産生は 顕著に抑制された.トロンビンとインキュベート したヒト C5 もまた,生物活性のある C5a を与え るように切断されたことから,補体系が一部不完 全であっても,トロンビンのような非補体因子が 代替機能を発揮することにより,C5a が形成され るのであろう. 5.2  血小板表面分子を介した補体系の活性化 血液凝固反応の過程で血小板は活性化され,血 小板上に発現する分子によって補体活性化が誘導 される.P セレクチンは血小板上の C3b レセプ ターとして働き,最終的に C5b-9 複合体の形成 を促進する.この反応は Factor B の存在によっ て高められることから,P セレクチンは代替経路 を活性化することが示唆された21).一方,古典経 路も血小板上で活性化される.すなわち,血小板 上の gC1qR/p33 は,C1q の球状ドメインと相互 作用することにより,C1q 依存的に C4 を,つま り古典経路を活性化するという.また,血小板を プラスミンで処理すると,gC1qR を分解して C4 活性化の程度を減弱させるので,血小板による古 典経路活性化の制御にプラスミンが関わっている 可能性がある22).以上の点から,血小板は古典経 路と代替経路の両方を活性化して,炎症応答に寄 与すると推察される. 5.3  活性化血小板による C3 のリン酸化 血小板は活性化されることで複数のプロテイン キナーゼを産生し,ATP や Ca2 +共存下で血漿蛋 白質のリン酸化を促進する.Ekdahl ら23)は,in vitro において,活性化血小板より産生されるカ ゼインキナーゼにより C3 のα鎖がリン酸化さ

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6.3  補体制御蛋白質の異常に起因する疾患 健常者では,補体の活性化は可溶性および膜結 合型蛋白質の共同的な作用によって効果的に制御 されている.すなわち,C1 インヒビターのほか 血清カルボキシペプチダーセ N(アナフィラトキ シンインヒビター),C4BP,Factor H,Factor I や S-protein(ビトロネクチン)のような可溶性抑 制因子は,補体カスケードの色々な段階で補体活 性化を制御する.また,最近,ヘムが古典経路の 制御因子として機能することが報告された30).す なわち,ヘムは C1q に結合することにより,C1q の主要なターゲット分子である CRP や IgG への C1q の結合を濃度依存的に抑制する.これらの 制御因子は,血漿および体液中の両方に存在する. 加えて,細胞上には complement receptor 1(CD35 として知られる CR1),membrane cofactor protein (CD46) や GPI-anchored proteins decay-accel-erating factor(CD55 として知られる DAF )の ような種々の膜蛋白質性補体制御因子があり,細 胞はそれによって自己の補体による攻撃から防御 されている.しかし,こうした補体インヒビター の発現の変化は,これらの制御機構を乱し,過剰 な補体活性化および組織損傷を招く.広く知ら れている非定型の溶血性尿毒症症候群(aHUS ), 発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH ),遺伝性血 管浮腫(HAE )などは,補体の制御因子の低下 によって起きる代表的な疾患である. 6.3.1  非定型溶血性尿毒症(aHUS) aHUS は,溶血性貧血,血小板減少症および急 性腎障害を特徴とする血栓性微小血管症(TMA ) の 1 つである.多数の研究から aHUS は,補体 の制御因子の 1 つである Factor H(FH )遺伝子 の変異と関係しており,その結果,C3 conver-tase 活性の制御が損なわれることによって起き るという31).FH は,20 の相同性を有するドメ イン(CCP )からなる.その中で CCP ドメイン 1-4 は,種々の制御活性の発現に不可欠である. 一方,CCP ドメイン 19-20(FH19-20)は,自己・ 非自己の識別に不可欠で,C3d,glycosaminogly-凝固・線溶系亢進の発症機序に関与していること が示唆された26).また,大腸菌惹起敗血症性多臓 器不全のヒヒモデルを用いて,重症敗血症におけ る補体系と止血系のクロストークの役割が示され た.このヒヒモデルに,強力な補体インヒビター の compstatin※ 4を投与すると,補体の活性化が阻 害されるとともに,TF および PAI-1 が低下す ることによって凝固反応も抑えられ,かつ DIC マーカー(フィブリノゲン,FDP,APTT )の 上昇が軽減され,内皮細胞の抗凝固活性が維持さ れるという.また,心筋,腎,肝障害も改善され た.24 時間後に安楽死させたヒヒから採取した 臓器の組織学的な観察結果から,微小血管内の凝 血塊・血栓形成が減少していること,また血管の バリア機能が改善していること,白血球浸潤や細 胞死が低下していることなどが示された.それ故, 補体系と凝固系の相互作用が重症敗血症の進展に 寄与すると推察される27) 6.2  抗リン脂質抗体症候群(APS) APS は,リン脂質膜やリポ蛋白質に対する抗 体の存在と関係する血栓性疾患で,静脈や動脈の 血栓塞栓症,胎盤循環での血栓症に起因する流産 が,この疾患の主要な臨床上の特徴である.抗リ ン脂質(aPL )抗体陽性の血清から精製されたヒ ト IgG を妊娠マウスに投与すると,流産や胎児 成長の遅延が誘導されることから,aPL 抗体が 直接その病原性に関わるという28).C3 や C5 の KO マウスは,aPL 抗体によって誘導される血栓 症や内皮細胞の活性化を受けにくいこと,また, 抗 C5 モノクローナル抗体で C5 の活性化を抑制 すると,aPL 抗体によって誘導される血小板減 少症が防止されることから,aPL 抗体によって 誘導される補体の活性化が APS における血栓症 の出現に関与していることが明らかになった.さ らに,C3KO マウス,あるいは補体活性化のインヒ ビター,例えば,Crry-Ig※ 5を投与することによっ て,胎児喪失を防止することができるという29) ※ 4Compstatin:C3 に結合することにより,その活性化を抑制する強力な C3 阻害剤.ファージディスプレーペプチドラ イブラリーから単離された環状ペプチドを基に,種々の誘導体が合成されている.

※ 5 Crry-Ig:C3 convertase インヒビター.complement receptor 1-related gene/ protein y(Crry)の細胞質外ドメインの

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ノーゲンから遊離されるブラディキニンあるいは カリジンによって誘導されること,この系の接触 相活性化は部分的に C1-INH によって制御され ることから,HAE 患者の C1-INH のレベル低下 がキニン形成を導くのであろう. 7.補体系因子のノックアウト(KO) マウスからの知見 凝固系因子の KO マウスの多くが胎性致死,あ るいは出生しても致死性の重篤な出血症状を示す のに対して,補体系因子の KO マウスでは致死性 の重篤なフェノタイプを示す例は少ない.免疫や 炎症にどのように補体系が関わっているのかの詳 細なメカニズムや,従来は免疫や炎症とは無関係 と考えられていた生命現象に補体系が関与してい ることが,KO マウスを用いた実験から明らかに なりつつある.また,動脈硬化と補体活性化の関 連についても多くの知見が得られているが,それ らについて以下に述べる. 7.1   アテローム性動脈硬化症への補体活性化 の関与 動脈硬化は慢性の炎症反応を伴う疾患で,補体 系が動脈硬化性プラーク内で活性化されるという 幾つかの報告はあるが,動脈硬化症における補体 の役割は十分に理解されてない.補体系は動脈硬 化に対して防御的,もしくは増悪させるとの相反 する報告が見られる.古典経路の開始因子である C1q の KO(C1q- / -)マウスを LDL レセプター (LDLR )欠損(Ldlr- / -)マウスと交配して作 成した C1q- / -/Ldlr - / -マウスは,Ldlr- / -マウ スに比べて動脈硬化病変サイズが増大した35).同 様に,レクチン経路の開始因子である MBL-A と MBL-C のダブル KO マウスと LDLR 欠損マウ スと交配した Mbl-a,c- / -/Ldlr- / -マウスもまた, 動脈硬化を増悪させる36).この補体の防御効果は, アポトーシス細胞や壊死組織片の除去に補体系が 関与していることによるという. 一方,代替経路の開始因子である Factor B 欠 cans およびシアル酸に結合する.FH19-20 が変 異すると,重篤な aHUS となる.aHUS 患者で 報告されている変異体 FH 蛋白(fh- / -,FHΔ 16-20)を一過性に発現する FH 欠損マウスは, TMA を自然発症する.この aHUS モデルでの補 体 C5 活性化の役割を明らかにするため,C5 欠 損の fh- / -,FHΔ16-20 マウスを作成した.C5 欠損および C5 を産生する fh- / -マウスは,どち らも腎臓内に異常な C3 沈着を認めたが,C5 欠 損 fh- / -マウスでは,aHUS の自然発症は起きな かった.さらに,fh- / -マウスは,実験的に起こ させた腎障害に対して著しく高い感受性を示した が,同時に C5 を欠損したマウスでは,そのよう な高い感受性を示さない.それ故,FH の機能を 消失したマウスでみられる aHUS の自然発症や 実験的に作成された腎障害では,C5 の活性化が 極めて重要な役割を果たしていることが判明し た32) 6.3.2  発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH) PNH は,GPI アンカーの PIG-A※ 6をコードす る遺伝子のクローン性の体細胞変異によって引き 起こされる後天性の血液疾患である.この変異は, 補体制御因子の DAF や CD59 を含む GPI アン カー型膜蛋白質の発現低下に関係する.この減少 した発現の結果として,PNH 患者の赤血球や白 血球は補体を介した溶解反応を受け易い.血栓塞 栓症もまた,よく見られるこの疾患の合併症で, そのことが PNH 患者の発症率や死亡率を有意に 高めている.この患者の血栓症は,補体によって 傷害された白血球に由来する TF レベルの上昇に も関係する33).また,ヒト化した抗 C5 抗体で治療 することによって,症状が著しく改善される34) 6.3.3  遺伝性血管浮腫(HAE) HAE は,C1-インヒビター(C1-INH )の欠損 により,体のいたるところに再発性の浮腫を起こ すことで特徴づけられる.HAE の病態生理学は 複雑で,未だ不明な点が多いものの,限局された 浮腫へと導く一過性で可逆的な血管透過性の亢 進と考えられている.すなわち,血漿カリクレ イン- キニン系の活性化の結果として高分子キニ

※ 6 PIG-A:phosphatidylinositol glycan anchor, class A の略.この蛋白質は,GPI アンカー産生に関与しており,特に,

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た38).また,C3 レベルでの膜結合型補体制御因 子である DAF の欠損マウスを用いた同様な実験 においても,制御因子の動脈硬化症防御効果が認 められた39).アナフィラトキシンや TCC の形成 にリンクする C3 convertase 以降の補体活性化は, 動脈硬化に促進的に作用しているのかもしれな い2).補体系因子の KO マウスを用いた動脈硬化 に関する研究の結果を表 1 にまとめて示す. 7.2  補体系と種々の疾患との関連 ここでは補体系因子の KO マウスを用いた実験 により得られた動脈硬化以外の疾患との関連につ いて述べる. 7.2.1  C1q C1q が欠損すると,自己抗体や糸球体腎炎を自 然発症し,腎臓内のアポトーシス細胞クリアラン スの明らかな異常を示す.それ故,C1q を介し たアポトーシス細胞への補体系因子の結合は,潜 在的に免疫原性を有する物質のクリアランスに重 要であることが示唆される40).また,C1q 欠損 マウスでは,中枢神経系の適切なシナプス除去が なされないため,シナプス形成が過剰となり,て んかんを起こしやすくなる.これは,C1q の星 損マウスを LDLR 欠損マウスと交配して作成し た Bf- / -/Ldlr- / -マウスを用いた実験から,代 替経路を介した補体の活性化は,動脈硬化を増悪 することが示された.すなわち,低脂肪食を与 えた Bf- / -/Ldlr- / -マウスと Ldlr- / -マウス間 で,脂質プロファイルや動脈硬化病変の進展に関 して有意な差異はなかったが,LPS を投与する と Ldlr- / -マウスだけで動脈硬化の有意な進展が 見られた.Bf- / -/Ldlr- / -マウスではこれが見ら れなかったことから,エンドトキシンを介した動 脈硬化の進展には,代替経路の活性化が関与して いると推定される.また,Bf- / -/Ldlr- / -マウス に高脂肪食を与えたとき,Ldlr- / -マウスに比べ て,大動脈基部病変部断面積の有意な減少が見ら れた.このような病態変化と一致して全身性(循 環血中)および局所(プラーク内)での補体活性 化の著しい低下があったことから,代替経路の増 幅ループが病態の進展に重要な役割を果たすと考 えられた37).さらに,LDLR 欠損マウスと CD59 (TCC に対する膜型制御因子)欠損マウスを交配 した Cd59- / -/Ldlr- / -マウスを用いた実験では, CD59 が TCC 形成を抑制することにより動脈硬 化の進展に防御的に機能している可能性が示され 表 1  補体因子とアテローム性動脈硬化症との関連 動物モデル 食 餌 アテローム性プラークサイズへの影響 Clq- / -LDLr- / -mice 普通食 大動脈基底部プラークサイズの増大 fB- / -LDLr- / -mice 高脂肪食 大動脈基底部プラークサイズの減少 fB- / -ApoE- / -LDLr- / -mice 普通食 大動脈表面と基底部のプラークサイズに差はなし C3- / -ApoE- / -LDLr- / -mice 普通食 大動脈表面プラークサイズの増大 C3- / -LDLr- / -mice 高脂肪食 大動脈表面と大動脈弓のプラークサイズの増大

C3aR- / -ApoE- / -mice 普通食 大動脈基底部プラークサイズの増大(メスのみ)

DAF- / -LDLr- / -mice 普通食/高脂肪食 大動脈表面と基底部のプラークサイズの増大

DAF- / -ApoE- / -mice 高脂肪食 大動脈表面と基底部のプラークサイズに差はなし

DAF- / -C57Bl/6 mice 普通食 大腿動脈ワイヤー損傷後の内膜新生の増大

C6- / -ApoE- / -mice 高脂肪食 腕頭動脈プラークサイズの減少

CD59a- / -ApoE- / -mice 高脂肪食 腕頭動脈プラークサイズの増大

CD59a- / -ApoE- / -mice 高脂肪食 大動脈表面と基底部のプラークサイズの増大

CD59a- / -CD59b- / -ApoE- / -mice 高脂肪食 大動脈表面と基底部のプラークサイズの増大

C5-deficient ApoE- / -mice 高脂肪食 大動脈基底部プラークサイズに差はなし

文献 2 を一部改変.This research was originally published in Journal of Thrombosis and Haemostasis. Speidl WS et al.:Comple-ment in atherosclerosis:friend or foe? J Thromb Haemost 9:428-440, 2011. © the International Society on Thrombosis and Hae-mostasis

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欠損マウスを作成し,虚血再灌流傷害(IRI )モ デルで MASP2 の役割を調べた報告がある.一 過性の心筋 IRI モデルにおいて,MASP2 欠損マ ウスは野生型に比べて有意に梗塞巣形成を抑制す るが,下流の補体成分の C4 欠損マウスはこのよ うな防御効果を示さないことから,今まで認識さ れていなかった C4 に依存しない MASP2 依存性 の補体活性化ルートの存在が示唆された.一方, C4 と MASP1/3 の ダ ブ ル KO マ ウ ス 血 漿 で は C3 の活性化は起きないことから,C4 に依存しな いレクチン経路の活性化には,MASP2 に加えて MASP1/3 および C2 が必要という.MASP1 は, MASP2 を介した補体の活性化を高めるように作 用していると推察される.MASP2 欠損マウスは また,胃腸の IRI に対しても防御的であった46) 7.2.4  C4 多発性硬化症(MS )は中枢神経系の脱髄を 特 徴 と す る が,C3 や Factor B の 欠 損 マ ウ ス は,MS の動物モデルの実験的自己免疫性脳脊髄 炎(EAE )でその発症が低下するのに対して47) C4 欠損マウスは何ら影響を与えない42)48).それ 故,代替経路による補体の活性化が,炎症性の脱 髄発症に関与していることが示唆される. 7.2.5  C5 前述の如く,aHUS は,Factor H の異常によ り C3 convertase 活性の制御が損なわれることに よって起きる.Factor H 欠損マウスは aHUS を 自然発症するが49),Factor H と C5 をダブルノッ クアウトするとその発症が制御されることから, C5 の活性化が病態発現に重要な役割を果たすの であろう32) 7.2.6  C6 従来から,補体も IRI のメディエーターである ことは知られている.この効果を担う補体成分を 調べるため,C3, C4, C5, C6 欠損マウスの腎臓 IRI モデルで試験した.C3, C5, C6 欠損マウスは, 腎臓の IRI を防御したが,C4 欠損マウスは防御 しなかった.また,C5a 生成を阻害する抗体で処 理した C6 欠損マウスの IRI の程度は,抗体処理 によって何ら影響を受けず,C6 欠損マウスでみ 状膠細胞による活性化により補体カスケードが作 動し,C3 が沈着することでシナプスのオプソニ ン化あるいは標識化が起こり,小膠細胞により貪 食除去・整理されるためとされている41).なお, 神経系の炎症と変性疾患における補体系の役割に ついては,古川らのレビューを参照されたい42) 7.2.2  C3 C3 欠損マウスを用いた実験から,筋ジスト ロフィーとの関連が明らかになった.ジストロ フィーは,dysferlin※ 7遺伝子の変異に起因するが, dysferlin 欠損マウスでは,筋肉での補体因子の 発現が高まった.一方,dysferlin を筋肉特異的 に一過性に発現させると,補体因子の発現は正常 化し,dysferlin 欠損マウスで見られるジストロ フィー症状が消失する.さらに,補体の C3 遺伝 子をノックアウトすると,dysferlin 欠損マウス での症状は改善した.それ故,補体を介した筋障 害は,筋萎縮症の病因の中心をなすといえよう. なお,dysferlin とは遺伝的に異なる別の筋ジス トロフィーマウスモデル(mdx マウス)では,有 意な効果を示さなかった43).また,C3 欠損マウ スは,未熟児網膜症モデルにおいて血管新生を促 進したが,マクロファージを除去すると,この効 果は消失した.C3 の下流の C5a で刺激されたマ クロファージは,血管新生を阻害する可溶性血管 内皮成長因子受容体 -1(sVEGFR-1)の分泌を 高めることから,補体の活性化は血管新生抑制作 用を示すことになる44).また,C3 欠損マウスは 出血時間が延長し,血小板凝集能の低下がみら れた.この低下はアゴニスト依存性で,ADP や コラーゲンでは正常に凝集するが,protease ac-tivated receptor-4(PAR-4)ペプチドによる凝 集は低下した.In vivo での血小板凝集能を評価 するため,血管を光化学的な処理で傷害させた血 栓モデルで試したところ,C3 欠損マウスでは血 管の完全閉塞が起きるまでの時間が有意に延長し た.それは形成された血栓の不安定さや脱着のし やすさによるという45) 7.2.3  MASP2 レクチン経路が全く作動しなくなる MASP2 ※ 7 dysferlin:骨格筋修復に関係しており,遺伝子に欠陥があると 2 つのタイプの筋ジストロフィー,三好型遠位型筋ジス トロフィー,肢体型筋ジストロフィータイプ 2B となる.

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らかになった止血系および種々の病態との関連に ついての概略を表 2, 3 にまとめた. 8. 比較生物学からの考察 ここでは凝固系と補体系の関係について,進化 の視点から考察を試みる.紙面の制約もあるの で,両系にかかわる各因子の 1 次および 3 次構 造,さらに構造ドメインや翻訳後修飾,γ-Gla 化, 糖化,リン酸化,硫酸化などの分子進化について は省略し,主に機能面での関連に限りたい. 周知の如く,ショウジョウバエや線虫,ホヤ, ザリガニ,カブトガニなど無脊椎動物では,いわ ゆる記憶免疫のようなシステムは無く,種々な血 球細胞が担う異物処理の仕組みはあるが63),一般 に体液性凝固因子や補体因子,メラニン形成因子, レクチン族,さらに抗菌物質群などによる自然免 疫が感染防御の主役である63)‐69).特に無脊椎動 物の感染防御では,ヒト補体系のレクチン経路で 役割を果たす因子の多くが,群体ホヤの遺伝子上 られる IRI に対する防御効果は,C6 を補充する ことによって消失した.尿細管上皮細胞が補体を 介した攻撃により主に傷害されたが,腎臓の血 管系は傷害されなかった.好中球の浸潤や MPO 活性は補体欠損マウスで減少したが,C3 と C6 欠損マウスでは同程度まで減少したことから, C5b-9 がマウス腎 IRI に関する補体の効果を担っ ている可能性があろう50).また,C6 欠損マウス やラットでは出血時間の延長が見られ,その延長 した出血時間は C6 を補充することにより改善さ れた.出血時間が延長する機構は不明であるが, C6 欠損ラットでは,血小板の ADP 凝集能が著 明に低下していた51) 7.2.7  Factor H 膜性増殖性糸球体腎炎(MPGN )タイプⅡは, C3 沈着によって特徴付けられる炎症性腎疾患 で,効果的な治療法はない.Factor H 欠損マウ ス(fh- / -)で自然発症する MPGN モデルでの C5 活性化の役割が調べられ,fh- / -マウスに比 べて C5 を重欠損した fh- / -マウスでは,死亡率, 好中球数および血清クレアチニンレベルで有意な 減少が見られた.再発中の MPGN 患者でしばし ば見られる糸球体内の過剰な好中球数が,抗糸球 体基底膜抗体投与後に fh- / -マウスでも観察され たが,この有害事象が C5 重欠損 fh- / -マウスで は見られずに,C6 重欠損 fh- / -マウスでは見ら れたことから,腎病変の惹起に C5 の活性化が重 要な役割を果たしていることが示唆された.また, 抗マウス C5 抗体で前処理した fh- / -マウスでは, 腎障害は完全に抑制された52) 補体系因子の KO マウスを用いた実験により明 表 2  補体因子欠損マウスからの情報:止血系との関連 表 3  補体因子欠損マウスからの情報:疾患との関連 欠損補体因子 止血系との関連 文献 MASP1/3 出血時間の延長 17 C3 血小板凝集能の低下による出血時間の延長, 45 トロンビンによる C5 の活性化 20 C6 出血時間の延長 51 C1-INH 血漿カリクレインの阻害能の低下 53 CD59 易血小板血栓形成 54 欠損補体因子 (出現する病態など)疾患との関連 文献 C1q SLE 様症状(抗核抗体陽性,糸球体腎炎),てんかん 40, 41 SAP SLE 様症状(抗核抗体陽性,糸球体腎炎) 55 MBL 感染症の悪化 56 MASP2 虚血再灌流傷害の防御 46 Factor B 多発性硬化症様症状(EAE)の防御 47 C3 筋ジストロフィー症状の防御,血管新生促進,IRI の防御 5043, 44, C4 SLE 様症状 57 C5 aHUS の防御,IRI の防御 32, 50 C6 IRI の防御 50 DAF 多発性硬化症様症状(EAE)の悪化,移植片拒絶の悪化 58, 59 Factor H aHUS,膜性増殖性糸球体腎炎様症状 49, 52 CD59 PNH 様症状(易溶血性) 60 C1-INH 腸虚血再灌流傷害の増悪 61 Crry 胎性致死 62

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かは未だ不明だが,レクチン経路の引き金になる MBL,フィコリン,MASP などの因子は,ウニ, ホヤ,イソギンチャクの体液中にも見出される(図 2).従って,レクチン経路は,補体系の 3 つの に見つかっており70),また,ウニ,ナメクジウオ, カブトガニ(節足動物 節口網 剣尾目)の体液 中にも補体因子群が存在する71).これらがヒトの それに相当する補体系カスケードを構築している 図 2  無脊椎動物およびヒトに見出される凝固と補体関連因子群#1 因子 ヒト カブトガニ ホヤ ウニ ショウジョウバエ 分子認識 C1q MBL フィコリン +#2 プロテアーゼ C1r/C1s MASP C2/fB D 因子 I 因子 チオエステル C4 +#4 含有因子 C3 +#4 #5 C5#3 #4 α2M #4 #5 膜結合因子 C6 C7 C8 C9 補体制御因子 H 因子 CR3 CD59 DAF 凝固プロテアーゼ トロンビン IX 因子 VII 因子 X 因子 凝固補助因子 vWF +#6 VIII 因子 +#6 V 因子 +#6 組織因子(TF) 凝固制御因子 セルピン TFPI トロンボスポンジン その他 XIII 因子#7 #8 #8 フィブリノゲン +#2 #2 # 2 C-reactive +#9 protein(CRP)

# 1 筆者の知る限り,プロテイン C,プロテイン S,トロンボモジュリン,EPCR(endothelial protein C receptor)などは,脊椎動物以外,

それらの存在について詳細に調べられていないと思う. # 2これらはヒトフィブリノゲンのβ鎖とγ鎖のホモローグを含むもので,フィブリノゲンそのものの存在は知られていない79) # 3チオエステルは含まれてないが,構造的にこのファミリーに属する. # 4いずれもヒト C3,C4 が含むチオエステル結合構成残基の存在が知られている72)74) # 5多くの昆虫体液にはチオエステルを含む蛋白質が数種類知られており,通常,Thioester-containing protein(TEP)と呼んでいる. # 6 vWF,VIII 因子,V 因子に存在する構造ドメインが多数見出されている65)

# 7 XIII 因子は,ザリガニ(Crayfish,Pacifastacus leniusculus)体液に見出されており,vitellogenin のゲル化を促す65) # 8 Glu-Lys イソペプチド結合形成を触媒するトランスグルタミナーゼの存在を示す.

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定されよう77)78) さらに,止血に必須なフィブリノゲンは,C 型 レクチンの分子進化を通じて出現したらしく,多 くは遺伝子解析による情報ではあるものの,フィ ブリノゲンのβ鎖とγ鎖のホモローグを含む レクチン群が,昆虫を含め多くの無脊椎動物の 体液・組織液に見出されている(少なくともβ 鎖またはγ鎖を含む 450 種類以上の C 型レクチ ン).いずれも感染防御に関わっており,フィコ リン様の作用を示すという64)79) 9. おわりに 以上述べた如く,補体系の活性化と止血とは強 く結びついている.感染や炎症あるいは出血時 に,両系は活性化され,両系が共同的に作用する ことによって,感染菌の除去や致死的な出血の防 止をより効果的に進めているのであろう.単に炎 症反応という見地からだけでなく,種々の生命現 象において,両系は深く関っていることが今後更 に明らかになると期待される.筆者らは,数年前, 本誌に凝固因子の KO マウスシリーズを書かせて いただいたが,その続きとして補体因子の KO マ ウスシリーズを企画していた.しかし,凝固系と 補体系のリンクが余り明白でなかったこともあっ て,本稿のような内容でまとめた.お役に立てば 幸いである. 謝  辞 稿を終えるにあたり,御校閲いただいた山本哲 郎先生(熊本大学大学院生命科学研究部分子病理 学分野 教授),執筆の機会を与えていただいた武 谷浩之先生(崇城大学生物生命学部応用生命科学 科 教授)に深謝します.また,原稿の整理をし て下さった園田珠美さん(化血研)に感謝します. 略  語

aHUS :atypical hemolytic uremic syndrome APC :activated protein C

APS :anti-phospholipid syndrome C4BP :C4b-binding protein 経路(古典,代替,レクチン経路)の中で進化的 に最も早く形成されたのであろう. それではこうした無脊椎動物においても,補体 系と凝固系とのクロストークはあるのだろうか?  無脊椎動物の血管系は脊椎動物と大きく異なり多 くは開放系であり,従って圧のかかった血流は殆 どないに等しい.それ故,外傷による多少の体液 流出はあるものの,それを凝固という仕組みでた だちに止める必要はないであろう63)72).例えば, カブトガニの頭部を傷つけた時,局所での血球凝 集とソフトゲル形成はあるものの,激しい体液流 出は見られない.それ故,ソフトゲル形成は,む しろ外傷に伴って侵入した感染菌やその他の異物 を認識し,局所に止どめかつ排除する仕組みのひ とつとも考えられる.従って,無脊椎動物の体液 凝固は,単に止血のみならず自然免疫に深く関連 した反応といえる.再びカブトガニを例にとると, その体液中には凝固カスケードに加えて,ヒト補 体因子ホモローグの C2/Bf および C3 が存在し, フィコリン様分子と MASP の共存下,レクチン 様経路を介して活性化され,感染防御に働くと推 定される(図 2)72).また,カブトガニの C3 は, LPS 感受性セリンプロテアーゼ前駆体の C 因子 によっても活性化される73).なお,体液凝固の開 始因子でもある C 因子は,NH2末端側に C 型レ クチンドメインのほか,多数の補体制御因子に見 出される CCP(SCR,スシドメイン)を 5 つ含 んでいる67).カブトガニ体液中の C 因子はまさ に凝固―補体因子の両ドメインを含む機能分子と いえる. こうした例を考えると,ホヤ,ウニ,イソギン チャク,ナメクジウオ,カブトガニなどの補体系 と凝固系は感染防御の過程でクロストークしてお り,自然免疫に重要な役割を果たすと推察され る74).また,進化的に補体因子群の方が凝固因子 群より先に誕生したと考えられよう75)76).なお, ここでは触れないが,図 2 に示す如く,無脊椎 動物の体液中にはプロテアーゼカスケード反応を 阻害―制御する多数の Serpin 群,Kunitz インヒ ビター,α2 マクログロブリンなど,さらに補体 C3 ,C4 などに相当するチオルエステル含有蛋白 質(TEP )群が存在する.こうした機能分子も 補体系と凝固系のクロストークの一端を担うと推

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DIC :disseminated intravascular coagulation EAE : experimental autoimmune

encephalomy-elitis

EPCR :endothelial protein C receptor HAE :hereditary angioedema

IRI :ischemic reperfusion injury LDLR :low density lipoprotein receptor MASP :MBL-associated serine protease MBL :mannose-binding lectin

MCP :membrane cofactor protein

MPGN : membranoproliferative glomerulonephritis MPO :myeloperoxidase

MS :multiple sclerosis

PAI-1 :plasminogen activator inhibitor-1 PNH :paroxysmal nocturnal hemoglobinuria SCR :short consensus repeat

PS :protein S SAP :serum amyloid P

SIRS : systemic inflammatory response syn-drome

SLE :systemic lupus erythematosus TCC :terminal complement complex TF :tissue factor

TMA :thrombotic microangiopathy

Disclosure of Conflict of Interests

The authors indicated no potential conflict of interest.

文  献

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参照

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