小学生における身体活動量と体力向上の関係性
著者 林 園子
雑誌名 東京家政大学研究紀要 1 人文社会科学
巻 56
ページ 131‑139
発行年 2016‑03
出版者 東京家政大学
URL http://id.nii.ac.jp/1653/00009369/
Ⅰ.研究の目的
近年,子どもの体力低下問題において,中央審議会答申
(2002)19)「子どもの体力向上のための総合的な方策につい て」,文部科学省(2004)20)「子どもの体力向上実践事業」,
スポーツ振興計画(2006)21)「スポーツの振興に通じた子 どもの体力の向上方策」などを始めとした様々な方策を打 ち出し,全国の小学校では子どもの体力向上及び望ましい スポーツ教育へのあり方を問い直す様々な取組みを継続的 に展開させている.
小澤(2008)1)は,子どもの体力低下の直接的原因は「身 体活動量の低下」にあると指摘しており,東京都教育委員 会(2010)6)は身体活動量と密接な関連があるとされる「歩 数」に着目し,2010 年度7月に策定した「総合的な子ど もの基礎体力向上方策(第1次推進計画)」に基づき,
2011 年度に都内公立学校 135 校,計 16100 人(小学校 62 校 9858 人,中学校 62 校 5120 人,高校 11 校 1122 人)を 対象に全国初となる児童・生徒の広域歩数調査を実施した.
その結果,体力及び運動能力がピークであった昭和 60 年頃から一日平均歩数推定値が全体で約 13000 歩に比べ,
10445 歩(小学生 11382 歩,中学生 9060 歩,高校生 8226 歩)
と約 2500 歩程度大きく減少しており,身体活動量の低下 が依然として続いている状態であることを示した.
しかし,都教委が行った歩数調査の結果は,単年度のも のであり,調査以前及び調査後の推移が分からない.また,
体力低下問題として行われた調査であるにも関わらず,こ の歩数が毎年行われている体力向上の客観的指標である新 体力テスト結果状況とどのような関係性をもっているかは 明らかとなっていない.
そこで本研究では,同学校全校児童という大規模人数で 6年間の長期的継続調査により,歩数測定という身体活動 量を増やすきっかけとなる環境をつくることで子どもの歩 数及び体力向上への意識がどのような変化をもたらすの か,また,歩数調査の有効性と歩数が体力向上にどのよう な影響を及ぼすのか検討することを目的とした.
Ⅱ.研究の方法
本研究の調査は,東京都杉並区に所在する小学校1校の 全 児 童(2009 年 度 642 名,2010 年 度 670 名,2011 年 度 671 名,2012 年 度 677 名,2013 年 度 656 名,2014 年 度 736 名)を対象に6年間の継続調査を実施した.
調査内容について,研究の目的に示した「身体活動量を 増やす意識」の指標となる「歩数測定」は,調査対象者に 1日中万歩計を装着してもらい,毎年4月から翌年3月の 間で1回の測定を7日間1セットとしてクラスごとに最低 2セット行った.この「歩数」は子どもの身体活動量の実 態を把握するために有効な指標となるものである.
また「体力向上への意識」の指標として,調査対象校に よる 2009 年度と 2014 年度に実施した結果である「新体力 テスト総合評価」を使用した.この「新体力テスト総合評 価」の結果は子どもの「体力の現状」を把握するための手 がかりとなるものである.
この2つの指標より身体活動量と体力向上との関係性に ついて考察をおこなった.
研究結果の信頼性や妥当性について検討を行うために,
歩数及び新体力テスト結果で収集されたデータより6年間 の歩数平均推移及び開始年度(2009 年度)と最終年度(2014 年度)の歩数比較について各年度間の平均値の差を明らか にするために t 検定,歩数及び新体力テスト総合評価に関
小学生における身体活動量と体力向上の関係性
林 園子
(平成 28 年1月 14 日査読受理日)
A Study on Relationship Between the Amount of Body Activity and the Improvement of Physical Strength in Schoolchildren
H
AYASHI, Sonoko
(Accepted for publication 14 January 2016)
キーワード:歩数,体力向上,運動意識
Key words:The Number of Steps,Physical Strength,Sport Consciousness
共通教育推進室 非常勤講師
する各発達段階の関連性についてχ2検定を用いた.また,
歩数と新体力テスト総合評価の変数間の関係性について相 関分析(Pearson 累積相関係数),歩数と新体力テストの 因果関係を把握するために単回帰分析をおこなった.有意 水準は 0.1%,1.0%,5.0%水準で示した.統計処理は,統 計ソフト IBM SPSS Statistics20 を使用した.
本研究に関する人権の保護及び法令等の遵守への対応と して,以下の3つをおこなった.
1.生命倫理に対する取り組み
ヒトを対象とした研究倫理基準に遵守する.
2.インフォームドコンセント
全ての研究実施に関して,研究内容及び研究から脱落が 可能であることを理解していただいた上で,文書によるイ ンフォームドコンセントを得る.また,歩数と新体力テス ト総合評価の関係性を検証する際には,研究へ協力をしな いことによる児童の成績評価への影響は全く無いことを理 解させた上で参加の承諾を得る.
3.結果の説明
調査対象校そして個人の希望に応じて,研究全体の成果 について報告書で開示する.研究遂行における研究協力者
(調査調査校の校長及び担当教員),児童及び保護者の質問 等に対して,随時対応時間を設けて十分な時間を確保する.
Ⅲ.結果と考察
1.6年間における一日歩数平均推移
(1)男女別
図表1は,開始年度(2009 年度)〜最終年度(2014 年度)
の6年間の一日歩数平均推移を男女別に示したものである.
男子における6年間の一日平均歩数は,13161.91 ± 5199.77 歩(N=1971)であった.歩数は開始年度から3年 目(2011 年度)にかけて上昇し,その後下降していく傾 向がみられた.各年度別において,開始年度と2年目(2010 年度)間で一年間で全体的に約 1760 歩増加がみられた
(0.1%水準).また,表2における開始年度と最終年度と の 比 較 か ら, 開 始 年 度 11766.90 ± 5381.48 歩(N=315),
最終年度 12580.36 ± 3522.66 歩(N=347)と6年間で約 820 歩増加した(5.0%水準).
女子における6年間の一日平均歩数は,10725.26 ± 3774.63 歩(N=2081)であった.開始年度から4年目(2012 年度)にかけて緩やかな上昇がみられ,その後下降傾向を たどる状況を示した.各年度別において,開始年度と2年 目(2010 年度)間に約 520 歩(0.1%水準),2年目と3年 目(2011 年度)間で約 250 歩(5.0%水準)と開始年度か ら3年間で 770 歩の増加の伸びがみられた.また,表2に お け る 開 始 年 度 と 最 終 年 度 と の 比 較 か ら, 開 始 年 度 9225.76 ± 327.11 歩(N=327), 最 終 年 度 10674.83 ± 2451.73(N=389)と6年間で約 1500 歩と飛躍的な増加を
示した(0.1%水準).
以上のことから,男子はすべての年度において女子より 歩数が多い状態を示し,身体活動量が女子よりも多い結果 であった.また,開始年度より終了年度で歩数増加がみら れたことは,毎年歩数調査をおこなうことは,日常生活に おいて「体を動かす意識を高めるきっかけ」をつくる場と して生かされているのではないかと考える.
(2)発達段階別
図2表3は,6年間における一日歩数平均において開始 年度と最終年度の比較を発達段階(男女)別に示した.な お,図2の灰色の折れ線グラフ及び表3の「M 東京都
(2011)」欄の数値は 2011 年度東京都の平均歩数を表した
表2 開始年度(2009)−最終年度(2014)歩数比較【男女別】
12,733 12,878 12,804 12,736 12,242 10,539 10,775 10,699 10,549 10,121 9,670 9,134
年度 N M SD T値 P
2009 315 11766.90 5381.48 2014 347 12580.36 3522.66 2009 327 9225.76 3270.11 2014 389 10674.83 2451.73 男子
女子
-2.28 *
-6.60 ***
図1表1 6年間の歩数平均推移【男女別】
12,733 12,878 12,804 12,736 12,242 10,539 10,775 10,699 10,549 10,121 9,670 9,134
11766.90 13528.73
14122.03
13985.31 12945.04 12580.36
9225.76
10448.30 11136.02 11416.07 11371.64
10674.83
6000 8000 10000 12000 14000 16000
2009 2010 2011 2012 2013 2014
男子 女子
(歩)
(年度)
*
***
***P>0.001 *P>0.05
12,733 12,878 12,804 12,736 12,242 10,539 10,775 10,699 10,549 10,121 9,670 9,134
年度 N M SD T値 P
2009 315 11766.90 5381.48 2010 336 13528.73 6392.87
1.30 n.s 2011 333 14122.03 5329.13
0.34 n.s 2012 324 13985.31 5027.70
0.17 n.s 2013 316 12945.04 4805.90
1.11 n.s 2014 347 12580.36 3522.66
1971 13161.91 5199.77
年度 N M SD T値 P
2009 327 9225.76 3270.11
4.44 ***
2010 334 10448.30 3791.98
2.28 * 2011 338 11136.02 4040.43
0.94 n.s 2012 353 11416.07 3811.41
0.14 n.s 2013 340 11371.64 4635.52
2.49 * 2014 389 10674.83 2451.73
2081 10725.26 3774.63 男子
女子 全平均
全平均
3.81 ***
林 園子
ものである7).
全体を通して歩数は年度や性別に関係なく,中学年が最 も多く,次いで低学年,高学年と少なくなっていく傾向を たどった.これは 2011 年度に行われた東京都の発達段階 推移と類似する傾向を示していた.
男子は,高学年において開始年度 11186.31 ± 3755.22 歩
(N=94),最終年度 12232.76 ± 3363.75 歩(N=115)と6 年間で約 1500 歩増加した(1.0%水準).女子は,低学年 8991.73 ± 3581.51 歩(N=138)から 10805.08 ± 2232.49 歩
(N=128)と約 1810 歩(0.1%水準),中学年は 9464.86 ± 3002.98 歩(N=90) か ら 11259.98 ± 2268.07 歩(N=145)
と約 1800 歩(0.1%水準),高学年は 9334.62 ± 3051.31 歩
(N=99)から 9799.66 ± 2666.81 歩(N=116)と約 460 歩(5.0%
水準)とすべての発達段階において最終年度の歩数が上回 る結果となった.
以上のことから,都教委調査結果にもあるように,高学 年は他学年に比べ歩数が少ないことがこの結果からも明ら かになったが,開始年度からの推移をみると,5〜6年生 を示す高学年において性差なく開始年度より最終年度にお いて歩数が増加している結果となった.このことから,5 年間ないし6年間毎年継続的に行ってきた歩数を測定する という活動を通して,歩くという活動は日常生活における 身体活動量を増やすひとつの手段として効果があらわれて きているのではないかと推察する.
2.新体力テスト総合評価
図3表4及び図4表5は,文部科学省が作成したテスト 項目と得点の判定基準により毎年全国の小中高等学校で4 月から6月に行われている新体力テストの結果の総合評価 について,発達段階(男女)別に開始年度と最終年度を比 較したものである.文部科学省の調査では,新体力テスト 総合評価は A 〜 E の5段階となっているが,本研究では 体力が全国標準以上を示す「AB 評価」,標準程度を示す「C 評価」,標準以下を示す「DE 評価」の3段階に分けて分 析を行った.
図3表4において男子は,開始年度の全体では「AB 評 価」34.1%(N=99),「C 評価」36.9%(N=107),「DE 評価」
29.0%(N=84)と7割の子どもが標準から標準以上の体 力を持っている結果となった.この年度における各発達段 階間における差はみられなかった.最終年度の全体では
「AB 評価」36.9%(N=116),「C 評価」31.9%(N=100),「DE 評価」31.2%(N=98)と「AB 評価」「DE 評価」とも開 始年度より増加した.発達段階別では,低学年では「AB 評価」38.8%(N=45),「C 評価」41.0%(N=41),「DE 評 価」22.4%(N=22)と標準以上の者が標準以下の者より 多く,中学年では「AB 評価」28.4%(N=33),「C 評価」
26.0%(N=26),「DE 評価」44.9%(N=44)と標準以下の 者 が 最 も 多 い 結 果 と な っ た. 高 学 年 で は「AB 評 価 」 32.8 %(N=38),「C 評 価 」33.0 %(N=33),「DE 評 価 」 図2表3 開始年度(2009)− 最終年度(2014)歩数平均比較【発達段階別】
開始年度(2009) 最終年度(2014)
8000 9000 10000 11000 12000 13000 14000 15000 16000
低学年 中学年 高学年
2009 2014 東京都(2011)
*
*P<0.05 (歩)
(発達段階)
8000 9000 10000 11000 12000 13000 14000 15000 16000
低学年 中学年 高学年
2009 2014 東京都(2011)
(歩)
(発達段階)
***
*
***
***P<0.001 *P<0.05
男子 東京都M (2011)
年度 N 平均値 SD T値 P 女子 東京都M
(2011)
年度 N 平均値 SD T値 P
2009 117 11879.51 4288.52 2009 138 8991.73 3581.51
2014 123 12249.74 3361.73 2014 128 10805.08 2232.49
2009 104 12164.98 7372.89 2009 90 9464.86 3002.98
2014 109 13320.16 3773.59 2014 145 11259.98 2268.07
2009 94 11186.31 3755.22 2009 99 9334.62 3051.13
2014 115 12232.76 3363.75 2014 116 9799.66 2666.81
2009 315 11766.90 5381.48 2009 327 9225.76 3270.11
2014 347 12580.36 3522.66 2014 389 10674.83 2451.73
開始年度(2009) 最終年度(2014)
*
***
***
* n.s n.s
2.123
4.993
1.449 0.746 低学年
中学年
高学年
低学年
中学年 12770
12295 2.193
4.874
10164 6.60 ***
10737
10335
9420 高学年
全学年 12623 2.276 * 全学年
12806
32.7%(N=32)と各評価は概ね均等に分布していた.
開始年度と最終年度との比較において,標準以上の体力 をもつ者は発達段階間で中学年が最も多かった開始年度で あったが,最終年度では低学年に次いで高学年の割合が中 学年を上回る結果であった.
図 4 表 5 女 子 は, 開 始 年 度 の 全 体 で は「AB 評 価 」 30.0%(N=105),「C 評価」37.1%(N=130),「DE 評価」
32.9%(N=115)と標準以上より標準以下の者がやや多い 傾向を示したが,この年度における各段階別での割合に大 きな差はみられなかった.最終年度の全体では「AB 評価」
29.9 %(N=92),「C 評 価 」36.4 %(N=112),「DE 評 価 」 33.8%(N=104)と開始年度と類似した割合となった.発
達段階別では,低学年は「AB 評価」29.3%(N=27),「C 評価」48.2%(N=54),「DE 評価」47.1%(N=49)と標準 以下が最も多い割合を示し約半数近い人数となった.中学 年は「AB 評価」33.7%(N=31),「C 評価」21.4%(N=24),
「DE 評価」26.9%(N=28),高学年は「AB 評価」37.0%
(N=34),「C 評価」30.4%(N=34),「DE 評価」26.0%(N=27)
と標準以上の者が最も多い割合を示した.
開始年度と最終年度の比較において, 開始年度は男子の 結果と同様に,標準以上の体力をもつ発達段階は中学年が 最も多く,低学年及び高学年は中学年と同等または少ない 値を示したが,最終年度では高学年の標準以上の割合が大 きく伸びた.
図3表4 発達段階別における新体力テスト総合評価【男子】
開始年度(2009) 最終年度(2014)
0% 20% 40% 60% 80% 100%
低学年
中学年
高学年
AB C DE
n.s
0% 20% 40% 60% 80% 100%
低学年
中学年
高学年
AB C DE P<0.05
総合評価 総合評価
学年 N % N % N % N % 学年 N % N % N % N %
低学年 31 31.3 41 38.4 37 44.0 109 37.6 χ2=4.265 低学年 45 38.8 41 41.0 22 22.4 108 37.6 χ2=12.441 中学年 39 39.4 33 30.8 23 27.4 95 32.8 DF=4 中学年 33 28.4 26 26.0 44 44.9 103 32.8 DF=4 高学年 29 29.3 33 30.8 24 28.6 86 29.7 n.s 高学年 38 32.8 33 33.0 32 32.7 103 29.7 *
全体 99 34.1 107 36.9 84 29.0 290 100.0 全体 116 36.9 100 31.9 98 31.2 314 100.0
AB C DE 全体 AB C DE 全体
P P
開始年度(2009) 最終年度(2014)
図4表5 発達段階別における新体力テスト総合評価【女子】
開始年度(2009) 最終年度(2014)
0% 20% 40% 60% 80% 100%
低学年
中学年
高学年
AB C DE P<0.05 0% 20% 40% 60% 80% 100%
低学年
中学年
高学年
AB C DE
n.s
総合評価 総合評価
学年 N % N % N % N % 学年 N % N % N % N %
低学年 30 28.6 41 31.5 46 40.0 117 33.4 χ2=4.481 低学年 27 29.3 54 48.2 49 47.1 130 42.2 χ2=9.903 中学年 45 42.8 49 37.7 36 31.3 130 37.1 DF=4 中学年 31 33.7 24 21.4 28 26.9 83 26.9 DF=4 高学年 30 28.6 40 30.8 33 28.7 103 29.4 n.s 高学年 34 37.0 34 30.4 27 26.0 95 30.8 *
全体 105 30.0 130 37.1 115 32.9 350 100.0 全体 92 29.9 112 36.4 104 33.8 308 100.0
開始年度(2009) 最終年度(2014)
AB C DE 全体 P AB C DE 全体 P
林 園子
以上のことから,性差に関係なく「高学年」は6年間の 推移の中で徐々に標準以上の体力をもつ者が増加してきた ことから,遊びやお稽古事などの日常生活及び体育授業や 休み時間における外での活動などの学校生活において,新 学習指導要領でも示されている「生きていくために必要な 身体を動かす技能」を身につけながら日常生活を送ってい るのではないかと伺える.
3.歩数と新体力テスト総合評価の関係性
(1)歩数と新体力テスト総合評価比較
先に挙げた図2表3において,開始年度と最終年度の比 較から性差に関係なく歩数増加がみられた(有意差が認め られた)発達段階は唯一「高学年のみ」であり,図3表4 及び図4表5の新体力テストの総合評価の割合においても 評価向上の伸びがみられた発達段階は「高学年」であった.
このことから「高学年」に着目し,歩数増加と新体力テス トの総合評価との関係性についてクロス集計を行った.
図5表6及び図6表8は,高学年における新体力テスト の総合評価の評価ごとに歩数平均をまとめたものである.
図5表6において,男子は「AB 評価」を得た者の歩数全 平均は,14778.20 ± 4862.32 歩(N=212),「C 評価」の全 平均は 12580.71 ± 4258.09 歩(N=220),「DE 評価」の全 平均は 11860.0 ± 3935.76 歩(N=167)であり,3評価の 割合から総合評価が良い者すなわち標準以上の体力をもつ 者ほど一日の歩数も多い傾向を示した.AB 評価と DE 評 価間に差がみられた年度は2年目(2010 年度),3年目
(2011 年度)そして最終年度であった.
各評価別にみると,「AB 評価」における6年間の推移 傾向は,各年度の歩数増減に大きな振り幅があり,歩数量 に安定性がみられなかったものの,表7において開始年度 と最終年度の比較では歩数の増加がみられ,図3表4の結 果からも高学年における「AB 評価」の人数も最終年度の 方が増えていることから,歩数増加と総合評価の向上との 関係性は高い結果を示したと言える.
「C 評価」の傾向は,毎年平均概ね 13000 歩前後を行き 来しており一定した歩数量を保つ結果であった.開始年度 と最終年度の比較では「AB 評価」と同様に増加をしてい るものの総合評価が標準であることから,歩数の増加が総
表7 開始年度(2009)−最終年度(2014)比較【男子】
N M SD P N M SD P N M SD P
2009 29 12574.05 3658.89 33 10530.65 3545.52 24 11072.27 4040.64 2014 31 14319.90 3298.83 32 12376.54 3562.21 37 10610.44 2597.44
男子 AB C DE
n.s
* *
図5表6 歩数と新体力テスト総合評価比較【男子】
6000 8000 10000 12000 14000 16000 18000
2009 2010 2011 2012 2013 2014
AB C DE
(年度) (歩)
* ***
***
***P<0.001
*P<0.05
*
* (C評価)
AB-DE間
N M SD P N M SD P N M SD P P
2009 29 12574.05 3658.89 33 10530.65 3545.52 24 11072.27 4040.64 n.s
** *
2010 33 16010.38 5914.05 40 12911.62 4957.68 28 12749.69 5763.85 *
n.s n.s n.s
2011 34 17414.46 5245.64 40 13185.60 3666.93 27 12514.21 3504.62 ***
* n.s n.s
2012 49 14679.80 4258.15 29 12791.82 2604.80 23 12867.40 2696.35
n.s n.s n.s
2013 36 13463.07 5051.26 46 13246.62 5418.97 28 11838.73 4068.64
n.s n.s n.s
2014 31 14319.90 3298.83 32 12376.54 3562.21 37 10610.44 2597.44 ***
全平均 212 14778.20 4862.32 220 12580.71 4258.09 167 11860.06 3935.76 n.s
男子 AB C DE
合評価の成績に直接関与するという明確さはない結果と なった.
「DE 評価」の傾向は,歩数量自体に大きな変動はなく,
歩く意識が低いと総合評価も低い状況を示した.開始年度 と最終年度の比較では増減に変化はなく,歩数の増減と総 合評価の関係性は低いことが明らかとなった.
図6表8において,女子は 「AB 評価」を得た者の歩数 全平均は,11049.33 ± 3599.59 歩(N=190),「C 評価」の 全平均は 9971.63 ± 2513.69 歩(N=216),「DE 評価」の全 平均は 9371.14 ± 2947.21 歩(N=180)であり,3評価の 割合から各評価間に男子ほどの歩数量に差はなかったが,
総合評価の良い者ほど歩数も多い結果を示した.AB 評価 と DE 評価間に差がみられた年度は開始年度,2年目(2010 年度),3年目(2011 年度)そして最終年度であった.
各評価別にみると歩数量の移り変わりに大きな特徴もな く,6年間一定の歩数量を保っていた.また,表9におけ る開始年度と最終年度の歩数量に差はみられず,歩数増加 と総合評価の成績が向上し標準以上の者が増えるという関 係性は低い結果となった.
以上のことから,男女に共通して歩数が平均以上に多い 者は総合評価の成績も良い結果であったが,最終年度で
あっても男子の「C 評価」及び「DE 評価」や女子の開始 年度と最終年度の比較などの結果より単に歩数量の増加と 総合評価の結果の2つの関係性だけでは示すことはできな い状況であった.運動意欲やモチベーションなど個人の内 面的問題が生じているのではないかと考える.そのため,
運動への興味関心を高める体育の授業内容の見直しや技が できないから運動が「嫌い」「不得意」など主観的な自分 の思い込みで体力向上の可能性に歯止めをかけてしまって いる者であれば,何気ない学校生活及び日常生活の中で自 分の状況に応じた身体を動かす意識や実際の行動を無理す ることなく積み重ねることができるような環境提供が,体 力向上へ結びつくための大きな鍵になるのではないかと考 える.
(2)歩数量と新体力テスト成績の相関関係
表 10 において,図表1より6年間にわたる全体の一日 歩数平均が男子 13161.91 ± 5199.77 歩,女子は 10725.26 ± 3774.63 歩から,これらの数値を基準に標準偏差を含めて,
男子 18361.69 歩以上及び女子 14499.90 歩以上を歩数が平 均以上の集合体として「上位群」,男子 7962.14 〜 18361.68 歩及び女子 6950.37 〜 14499.89 歩を平均的歩数の集合体と 表9 開始年度(2009)−最終年度(2014)比較【女子】
N M SD P N M SD P N M SD P
2009 34 9827.87 2773.45 34 9395.53 2620.86 27 8350.22 2978.99 2014 30 10516.88 3007.22 39 9304.61 2068.90 32 9112.57 2164.05
男子 AB C DE
n.s n.s n.s
図6表8 歩数と新体力テスト総合評価比較【女子】
6000 8000 10000 12000 14000 16000 18000
2009 2010 2011 2012 2013 2014
AB C DE
(年度) (歩)
*
*
*
*
*P<0.05
AB-DE間
N M SD P N M SD P N M SD P P
34 9827.87 2773.45 34 9395.53 2620.86 27 8350.22 2978.99 *
n.s n.s n.s
2010 31 11283.17 3547.40 41 10684.11 2934.91 29 9302.06 2703.07 *
n.s n.s n.s
2011 26 12378.02 5380.06 35 10274.83 2822.83 26 9436.21 3277.75 *
n.s n.s n.s
2012 36 11389.08 3144.31 30 10085.32 1934.72 33 10082.1 3635.13
n.s n.s n.s
2013 33 11154.71 3419.91 37 10035.57 2309.11 33 9755.68 2685.44
n.s n.s n.s
2014 30 10516.88 3007.22 39 9304.61 2068.90 32 9112.57 2164.05 * 全平均 190 11049.33 3599.59 216 9971.63 2513.69 180 9371.14 2947.21
女子 AB C DE
2009
林 園子
して「中位群」,男子 7962.13 歩以下及び女子 6950.36 歩以 下を平均以下の集合体として「下位群」と3群に分けて示 したものである.この指標を用いて表 11 は歩数平均と新 体力テスト総合評価の変数間の関係を検討するために発達 段階ごとの開始年度と最終年度で相関分析を行った結果で ある.開始年度において,性差及び発達段階ともに歩数と 総合評価の関係性はみられなかった.一方,最終年度にお いて,男子は「全発達段階」,女子は「低学年」及び「高 学年」において歩数量と新体力テスト総合評価間に有意な 関連が認められた.とくに「高学年」は性差に関係なく強 い相関関係が働いており,歩数が多い者は新体力テストの 成績結果においても高い評価を得ることができることが示 された.
以上のことから,この相関関係は先にも述べている「高 学年は毎年,学校で続けている歩数調査の取り組みが身体 活動量の増加への意識づけや実際の日常生活の行動へ関与 しているのでないか」という見解を決定づける結果であり,
日常生活で自ら身体活動量を増やすことができている者 は,ただただ学校側の一方的な調査のために行動を起こし ているのではなく,自分のために活動するという意識づけ が開始年度よりも構築されてきており,その結果が新体力 テストの成績すなわち体力向上へと反映されてきているこ とを意味しているのではないかと推察する.
(3) 高学年における歩数量と新体力テスト総合評価の因 果関係
相関関係の結果から,さらに高学年の「歩数量の違い」
と「新体力テスト総合評価の成績結果」の因果関係を明ら かにするために,表 10 で示した「歩数3段階」を目的変 数とし,「新体力テスト総合評価」を説明変数として開始 年度と最終年度の単回帰分析を行った.その結果が図7及 び図8に示したものである.係数が正の場合,「歩数が増
えれば増えるほど総合評価の成績は良い」という相乗効果 が認められ,負の場合,「歩数が少なければ少ないほど総 合評価の成績は悪い」と解釈できる.
図7の開始年度の結果では,歩数量の違いが総合評価の 成績に影響を及ぼしていないこと示した.一方,図8の最 終年度の結果では,男子において歩数量が増えるほど総合 評価が好評価となる結果を示した.
以上のことから,高学年男子は成長につれ身体活動量を 増やすことが体力向上に直接結びつくような日常生活を過 ごしているのではないかと考える.
(4) 「高学年男子」における歩数量と新体力テスト総合評 価比較
図9表 12 は,表 11 で得られた相関関係の結果及び図8 より得た歩数量と新体力テスト総合評価の因果関係より,
「高学年男子」の歩数と新体力テスト総合評価をクロス集 計し,開始年度と最終年度の実際の状況を比較した結果で ある.
男子は,左側のグラフより,開始年度において歩数「上 位群」においても総合評価が悪い「DE 評価」28.6%,(N=2),
「下位群」においても総合評価が良いという者「AB 評価」
20.0%(N=3)が2〜3割存在したことから,歩数が多い ことにより総合評価が高くなるという関係は認められな かった.一方,最終年度において「上位群」では 「AB 評価」
表 10 歩数3段階
上位群 (多) 中位群
(普通) 下位群
(少)
男子 女子
13161.91±5199.77 18361.69以上 7962.14~18361.68
7962.13以下
10725.26±3774.63 14499.90以上 6950.37~14499.89
6950.36以下 段階
6年間歩数平均 項目
表 11 歩数と新体力テスト総合評価の相関関係
(開始年度と最終年度比較)
性別 学年
低学年 0.00 0.23 * 0.17 0.30 ***
中学年 0.17 0.24 * 0.13 0.10
高学年 0.04 0.34 *** 0.03 0.30 **
男子 女子
開始年度(2009) 最終年度(2014) 開始年度(2009) 最終年度(2014)
*P<0.001 **P<0.01 ***P<0.05
図7 歩数が及ぼす新体力テスト総合評価への影響力:
開始年度(2009)
‐1 ‐0.5 0 0.5 1
歩数(男子)
歩数(女子)
総合評価 n.s
図8 歩数が及ぼす新体力テスト総合評価への影響力:
最終年度(2014)
‐1 ‐0.5 0 0.5 1
歩数(男子)
歩数(女子)
総合評価
**P>0.01
**
71.4%(N=5),「C 評価」28.6%(N=2),「DE 評価」0.0%
(N=0)であり,上位群の7割以上の者が総合評価「AB 評価」の好成績を占めており,標準以下の成績の者が誰ひ とりいないという顕著な差がみられた.「下位群」では「AB 評価」0.0%(N=0),「C 評価」25.0%(N=2),「DE 評価」
75.0%(N=6)であり,上位群の割合と逆の結果を示した.
以上のことから,開始年度では歩数量と総合評価との関 係性は皆無に等しいものであったが,最終年度では日常生 活における歩数が顕著に多い者は総合評価も良く,歩数が 極端に少ない者は成績も低いという関係が明確となり,歩 数量の違いが体力向上へ影響を及ぼすことが明確になった と言えることができる.
Ⅳ.結論
本研究では小学生の身近な身体活動量の客観的指標のひ とつとなる「歩数」に着目し,6年間の長期的継続歩数調 査より歩数調査における児童の意識の変化や有効性,また 歩数量の違いが体力向上に及ぼす影響について検討を行っ た.結果は以下のように要約される.
1 .歩数調査により,児童一人ひとりが日常生活に身体活 動を増やすための動機づけや行動を起こすための環境づ くりの重要性が示唆された.
2 .6 年間を通して,高学年は成長するにつれて,身体活 動量を増やす意識が向上した.
3 .歩数量と新体力テスト総合評価の相関関係より,男子 は成長過程が進むにつれ歩数増加が体力向上に大きく関 与していることが明らかとなった.
今後は本研究で得られた結果において,男子では,総合 評価の標準から標準以下の者,女子では全体において,子
どもの体力向上に向けて個々の体力に応じた身体活動量を 確保するための具体的な学習内容の立案や環境整備方法の 追究が必要であると考える.
Ⅴ.参考文献
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10)林園子,畑攻,前田佳奈,他(2007)子どもの基礎基 図9表 12 歩数量と新体力テスト総合評価比較(男子・高学年)
z
開始年度(2009) 最終年度(2014)
0% 20% 40% 60% 80% 100%
上位群
中位群
下位群
AB C
n.sDE
0% 20% 40% 60% 80% 100%
上位群
中位群
下位群
AB C DE P<0.05
総合評価 総合評価
歩数 N % N % N % N % 歩数 N % N % N % N %
上位群 2 28.6 3 42.8 2 28.6 7 8.1 χ2=2.352 上位群 5 71.4 2 28.6 0 0.0 7 8.0 χ2=12.066 中位群 24 37.5 22 34.4 18 28.1 64 74.4 DF=4 中位群 26 31.6 28 32.9 31 36.8 85 85.0 DF=4 下位群 3 20.0 8 53.3 4 26.7 15 17.4 n.s 下位群 0 0.0 2 25.0 6 75.0 8 7.0 *
合計 29 33.7 33 38.4 24 27.9 86 100.0 合計 31 31 32 32 37 37 100 100.0
P P
AB C DE 全体 AB C DE 全体
開始年度(2009) 最終年度(2014)
林 園子
本運動の習熟と生活習慣・運動習慣・意欲に関する研 究,日本体育学会第 58 回大会予稿集,p.242.
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運動習慣調査報告書.
Abstract