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Microsoft Word - 一弁知的所有権研究部会2017年7月13日「商標登録無効の抗弁」(三村)

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第一東京弁護士会知的所有権部会研究会 2017年7月13日

弁護士 三村量一

商標登録無効の抗弁と除斥期間

 最高裁第三小法廷平成 29 年 2 月 28 日判決(平成 27 年(受)第 1876 号)

「EemaX(エマックス)」事件

第1 事案の概要

上告人(本訴被告・反訴原告、商標権者): 株式会社エマックス東京 被上告人(本訴原告・反訴被告): 株式会社日本建装工業

1 本件本訴は,米国法人であるEemax社(以下「A社」という。)との間で同社の製 造する電気瞬間湯沸器(以下「本件湯沸器」という。)につき日本国内における独占的な 販売代理店契約を締結し,「エマックス」,「EemaX」又は「Eemax」の文字を 横書きして成る各商標(以下「被上告人使用商標」と総称する。)を使用して本件湯沸器 を販売している被上告人が,本件湯沸器を独自に輸入して日本国内で販売している上告人 に対し,被上告人使用商標と同一の商標を使用する上告人の行為が不正競争防止法2条1 項1号所定の不正競争に該当するなどと主張して,その商標の使用の差止め及び損害賠償 等を求める事案である。

本件反訴は,上告人が,被上告人に対し,自己)の各登録商標につき有する各商標権に基 づき,上記各登録商標に類似する商標の使用の差止め等を求める事案である。これに対し,

被上告人は,上記各登録商標は商標法4条1項10号に定める商標登録を受けることがで きない商標に該当し,被上告人に対する上記各商標権の行使は許されないなどと主張して 争っている。

第2 登録商標

1 登録商標1(平成17年登録商標)

商標:

エマックス

登録番号: 第4895484号

商標権者: 株式会社エマックス東京 出願日: 平成17年1月25日 登録日: 平成17年9月16日

指定商品: 第11類 家庭用電気瞬間湯沸器,その他の家庭用電熱用品類

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2 2 登録商標2

商標:

登録番号: 第5366316号

商標権者: 株式会社エマックス東京 出願日: 平成22年3月23日 登録日: 平成22年11月5日

指定商品: 第11類 家庭用電気瞬間湯沸器,その他の家庭用電熱用品類

第3 第一審判決・控訴審判決

1 第一審判決(大分地裁平成26年9月18日判決(平成24年(ワ)第881号外))

・ 本訴: 本訴原告(被上告人)の差止請求・損害賠償請求を一部認容

・ 反訴: 本訴被告(上告人)の請求棄却

2 控訴審判決(福岡高裁平成27年6月17日判決(平成26(ネ)第791号))

・ 本訴: 本訴原告(被上告人)の使用商標を周知表示と認定し、本訴原告の請求 を一部認容

・ 反訴: 本件各登録商標は商標法第 4条 1 項第 10 号に該当するから、商標法第 39条、特許法第104条の3第1項により本訴被告は本件各商標権を行使 できないとして、本訴被告の請求を棄却

第4 本件最高裁判決

1 本訴: 原判決が摘示した事情のみでは被上告人使用商標が周知表示とは認められ ないとして、原判決には法令の適用を誤った違法があると判断

2 反訴:〔判示事項〕

(1)商標法4条1項10号該当を理由とする無効審判が請求されないまま商標権の設定登 録の日から5年を経過した後に、商標権侵害訴訟の相手方が、同号該当による無効理由の 存在をもって、同法39条において準用する特許法104条の3第1項の規定に係る抗弁 を主張することの許否

(2)商標法4条1項10号該当を理由とする無効審判が請求されないまま商標権の設定登 録の日から5年を経過した後に、商標権侵害訴訟の相手方が、その登録商標が自己の業務 に係る商品等を表示するものとして周知である商標との関係で同号に該当することを理由 として、権利濫用の抗弁を主張することの許否

(1)除斥期間が経過した後に商標登録無効の抗弁を主張することの許否

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「 商標法4条1項10号に関する部分について

ア(ア) 前記3のとおり,原審は本件各登録商標のいずれについても商標法4条1項1 0号該当性の判断をしているところ,平成17年登録商標については,商標権の設定登録 の日から,被上告人が本件訴訟において同号該当性の主張をした前記2(5)の弁論準備手続 期日までに,同号該当を理由とする商標登録の無効審判が請求されないまま5年を経過し ている。

商標法47条1項は,商標登録が同法4条1項10号の規定に違反してされたときは,

不正競争の目的で商標登録を受けた場合を除き,商標権の設定登録の日から5年の除斥期 間を経過した後はその商標登録についての無効審判を請求することができない旨定めてお り,その趣旨は,同号の規定に違反する商標登録は無効とされるべきものであるが,商標 登録の無効審判が請求されることなく除斥期間が経過したときは,商標登録がされたこと により生じた既存の継続的な状態を保護するために,商標登録の有効性を争い得ないもの としたことにあると解される(最高裁平成15年(行ヒ)第353号同17年7月11日 第二小法廷判決・裁判集民事217号317頁参照)。そして,商標法39条において準 用される特許法104条の3第1項の規定(以下「本件規定」という。)によれば,商標 権侵害訴訟において,商標登録が無効審判により無効にされるべきものと認められるとき は,商標権者は相手方に対しその権利を行使することができないとされているところ,上 記のとおり商標権の設定登録の日から5年を経過した後は商標法47条1項の規定により 同法4条1項10号該当を理由とする商標登録の無効審判を請求することができないので あるから,この無効審判が請求されないまま上記の期間を経過した後に商標権侵害訴訟の 相手方が商標登録の無効理由の存在を主張しても,同訴訟において商標登録が無効審判に より無効にされるべきものと認める余地はない。また,上記の期間経過後であっても商標 権侵害訴訟において商標法4条1項10号該当を理由として本件規定に係る抗弁を主張し 得ることとすると,商標権者は,商標権侵害訴訟を提起しても,相手方からそのような抗 弁を主張されることによって自らの権利を行使することができなくなり,商標登録がされ たことによる既存の継続的な状態を保護するものとした同法47条1項の上記趣旨が没却 されることとなる。

そうすると,商標法4条1項10号該当を理由とする商標登録の無効審判が請求されな いまま商標権の設定登録の日から5年を経過した後においては,当該商標登録が不正競争 の目的で受けたものである場合を除き,商標権侵害訴訟の相手方は,その登録商標が同号 に該当することによる商標登録の無効理由の存在をもって,本件規定に係る抗弁を主張す ることが許されないと解するのが相当である。」

(2)権利濫用の抗弁を主張することの許否

「 (イ) 一方,商標法4条1項10号が,商標登録の出願時において他人の業務に係る商 品又は役務(以下「商品等」という。)を表示するものとして需要者の間に広く認識され

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ている商標又はこれに類似する商標につき商標登録を受けることができないものとしてい る(同条3項参照)のは,需要者の間に広く認識されている商標との関係で商品等の出所 の混同の防止を図るとともに,当該商標につき自己の業務に係る商品等を表示するものと して認識されている者の利益と商標登録出願人の利益との調整を図るものであると解され る。そうすると,登録商標が商標法4条1項10号に該当するものであるにもかかわらず 同号の規定に違反して商標登録がされた場合に,当該登録商標と同一又は類似の商標につ き自己の業務に係る商品等を表示するものとして当該商標登録の出願時において需要者の 間に広く認識されている者に対してまでも,商標権者が当該登録商標に係る商標権の侵害 を主張して商標の使用の差止め等を求めることは,特段の事情がない限り,商標法の法目 的の一つである客観的に公正な競争秩序の維持を害するものとして,権利の濫用に当たり 許されないものというべきである(最高裁昭和60年(オ)第1576号平成2年7月2 0日第二小法廷判決・民集44巻5号876頁参照)。そこで,商標権侵害訴訟の相手方 は,自己の業務に係る商品等を表示するものとして認識されている商標との関係で登録商 標が商標法4条1項10号に該当することを理由として,自己に対する商標権の行使が権 利の濫用に当たることを抗弁として主張することができるものと解されるところ,かかる 抗弁については,商標権の設定登録の日から5年を経過したために本件規定に係る抗弁を 主張し得なくなった後においても主張することができるものとしても,同法47条1項の 上記(ア)の趣旨を没却するものとはいえない。

したがって,商標法4条1項10号該当を理由とする商標登録の無効審判が請求されな いまま商標権の設定登録の日から5年を経過した後であっても,当該商標登録が不正競争 の目的で受けたものであるか否かにかかわらず,商標権侵害訴訟の相手方は,その登録商 標が自己の業務に係る商品等を表示するものとして当該商標登録の出願時において需要者 の間に広く認識されている商標又はこれに類似する商標であるために同号に該当すること を理由として,自己に対する商標権の行使が権利の濫用に当たることを抗弁として主張す ることが許されると解するのが相当である。」

第5 従前の裁判例の状況 1 概説

特許権侵害訴訟において、特許無効の問題は、まず裁判例の分野においてキルビー特許 事件最高裁判決として決着を見た後に、平成16年法律第120号による特許法改正によ り特許法104条の3として成文法の規定が設けられるに至った。特許の分野での上記の ような状況に対応して、商標の分野でも、まず、裁判例の分野で、キルビー特許事件最高 裁判決の判例法理を商標法に準用して商標権侵害訴訟における商標登録無効事由を権利濫 用の抗弁として構成する裁判例が現れ、その後、平成16年法律第120号による商標法 改正により商標法39条において特許法104条の3を準用することが規定されるに至っ た。

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このような裁判例の出現とそれを踏まえての法改正という流れに対応して、裁判例及び 学説には、当該法改正の前後を通じて、商標権侵害訴訟において商標権に商標登録無効事 由が存在する場合の問題を、

①キルビー事件最高裁判決の判示する判例法理の商標法への準用として、商標登録無 効事由の存在を理由とする権利濫用の抗弁として構成する、

②商標法39条における特許法104条の3の準用に関する解釈として構成する、

③権利濫用理論一般の解釈のなかで構成する、

という3つの考え方が示されていた。そして、平成16年改正により商標法39条におい て特許法104条の3を準用するという形で、商標登録無効の抗弁についての規定が設け られた後においても、上記の①~③の構成による解釈は存続しているように見受けられる。

しかしながら、平成16年の特許法・商標法改正の趣旨に照らせば、同改正により特許法 に104条の3の規定が設けられ、商標法39条において特許法104条の3が準用され た後においては、従来キルビー特許事件最高裁判決の判例法理の準用として位置づけられ ていた解釈は、商標法39条において準用される特許法104条の3の解釈という形で収 れんされたと理解するのが、同改正後の商標法の解釈としては正しいものと解される。し たがって、現在においては、商標権侵害訴訟において商標権に商標登録無効事由が存在す る場合の問題は、商標法39条において準用される特許法104条の3の解釈の問題とし て論ずべきものである 。もっとも、商標権に商標登録無効事由が存在することに加えて、

他の事情が存在することがあいまって権利濫用理論一般の問題を生ずることは、別の問題 である。

2 裁判例の状況

裁判例としては、除斥期間経過後の商標登録無効事由の存在を商標法39条において準 用する特許法104条の3の問題ではなく、キルビー事件最高裁判決の判示する判例法理 の商標法への準用として構成した上で、権利濫用該当性を判断しているものが多い。

東京地判平成17・10・11(平成15年(ワ)16505号・平成16年(ワ)1 0154号)判時1923号92頁[ジェロヴィタール化粧品事件]は、被告が除斥期間経過 後に商標登録無効事由を抗弁として主張した事案において、原告(商標権者)が不正競争 の目的で商標登録を受けたかどうかにかかわらず、当該商標権に基づく権利行使が権利濫 用となるとして、原告の差止め及び損害賠償の請求を棄却している。

他方、東京地判平成17・4・17(平成16年(ワ)17735号)[LEGACY事 件]は、無効事由があるとしても、除籍期間経過後においては差止請求権の行使が権利濫用 に当たるものではないと解している。

なお、東京地判平成13・9・28判時1781号150頁及びその控訴審である東京 高判平成14・4・25(平成年(ネ)5748号)[モズライト事件]は、除斥期間経過後の 事案において、権利濫用の抗弁を認めて商標権者の請求を棄却している。一審判決及び控

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訴審判決は、商標権者が不正競争の目的で商標登録を受けた事実を認定しており、当該事 実関係の下では除籍期間経過後も商標登録無効審判の請求が可能な事案であるが、これら の判決が、不正競争目的が認定されない場合には権利濫用の抗弁を認めないことを前提と する立場なのかどうかは、必ずしも明らかでない。

第6 従前の学説

1 学説においては、除斥期間満了後における商標登録無効の抗弁(商標法39条にお いて準用される特許法104条の3)の可否の問題として議論されている。

2 除斥期間経過後は商標登録無効の抗弁は許されないとする説(制限説)1 制限説は、下記のような点を理由として挙げている。

①商標法39条において準用されている特許法104条の3の条文が、「当該特許が特許 無効審判により‥‥‥無効にされるべきものと認められるときは、特許権者又は専用実施 権者は、相手方に対しその権利を行使することができない。」と規定されているところ、除 斥期間を経過した商標は商標登録無効審判により無効とされる可能性がないのであるから、

文言上、当該規定に該当しない。

②商標法47条の趣旨は、一定の無効事由については、無効審判の請求のないまま除斥 期間を経過した登録商標は、既存の法律関係を尊重し権利の安定化を図るために無効理由 である瑕疵が治癒したと理解することができるから、無効審判に限らず侵害訴訟において も無効主張を許さないと解するのが相当である。

③除斥期間後も侵害訴訟における無効主張が許されると解すると、当該登録商標に係る 商標権は形式的には存在するとしても形骸化してしまい、商標法が除斥期間を設けた趣旨 が没却される。

④無効審判と侵害訴訟の間の食違いをできるだけ避けることが必要である。

3 除斥期間経過後であっても商標登録無効の抗弁は許されるとする説(非制限説)2

(1)髙部眞規子判事の説3

1 制限説を採るものとして、渋谷達紀『知的財産法講義Ⅲ』275頁、小野昌延編『注解商 標法〔新版〕下』978頁[松村信夫]、小野昌延編『注解商標法〔新版〕下』1114頁[村 林隆一]、工藤莞司・判例評論569号(判時1928号)16頁、中山信弘外3名編『商 標・意匠・不正競争判例百選』(別冊ジュリスト188号)66頁[森義之]、茶園成樹「無 効理由を有する商標権の行使」L&T43号53頁、茶園成樹編『商標法』222頁[山田威 一郎]等がある。

2 髙部説・三村説以外に、この立場を採る余地を肯定する見解として、三山峻司・松村信夫『実 務解説 知的財産権訴訟〔第2版〕』315頁。

3 髙部眞規子「特許法104条の3を考える」知的財産法政策学研究11号123頁、髙部眞規子『実 務詳説 商標関係訴訟』71頁。

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・ 商標法は47条において商標登録無効審判の請求をすることができないとする 一方で、39条において侵害訴訟について特許法104条の3を引用している。

・ 無効審判手続と侵害訴訟手続は別ルートであって、その判断結果が異なる事態 もあり得る。

・ 除斥期間経過後においても、キルビー特許事件最高裁判決特許事件最高裁判決 の権利濫用の抗弁を主張することは許されることとの対比。

・ 商標法26条が、誤って同法3条1項1号ないし4号、4条1項8号の規定に違 反して登録された商標について、特に除斥期間経過後に実益があるものとして、

商標権の効力が及ばない場合を規定していることとの対比。

(2)拙稿(三村)の立場4

・ 特許法104条の3第3項は、冒認出願・共同出願違反の場合に、無効審判を請 求することができる者以外の者が無効の抗弁を主張することを認めている。

・ キルビー最高裁判決および特許法104条の3の趣旨は、侵害訴訟の提起された 後においては権利の有効性についての争いを侵害訴訟における権利無効の抗弁 の成否に集約させて、紛争の早期かつ一回的解決を目指したものであり、非制 限説はこの趣旨に沿う。除斥期間経過前に被告が無効審判を請求をすることを 要するとすると、被告はダブルトラックを強いられることになり、紛争の一回 的解決の趣旨に反する。

・ 除斥期間経過後は無効の抗弁を主張できないとした場合の訴訟法上の問題点

① 差止請求に関する問題点

- 除斥期間の経過を事実審の口頭弁論終結時で判断するとすると、除斥期間 経過前に提起された商標権侵害訴訟において、1審では除斥期間経過前であ ったため差止請求が棄却されたが、控訴審では除斥期間経過後であったた め差止請求が認容される、といった事態が想定される。

- 第一次訴訟の時点では除斥期間が経過していなかったため差止請求が棄却 されたが、第二次訴訟の時点では除斥期間が経過していたため差止請求が 認容される(あるいは、第一次訴訟の確定判決に対して請求異議の訴えが 可能)といった事態が想定される。

② 損害賠償請求に関する問題点

- 除斥期間経過後に提起された訴訟において、除斥期間経過前の被告の行為 に基づく損害賠償請求は棄却されるが、経過後の被告の行為に基づく損害 賠償請求は認容されるか。それとも、事実審の口頭弁論終結時に除斥期間

4 小泉直樹・田村善之編『はばたき-21世紀の知的財産法(中山信弘先生古稀記念論文集)』875 頁〔三村量一〕。

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が経過していれば、経過前の分も含めて全て認容されるか。前者の立場は、

損害賠償請求権が有する実体法上の瑕疵が除斥期間の経過により治癒され ると解するものであるが、疑問がある5。後者の立場に立つと、差止請求と 同様の問題が生じる。

③ 除斥期間経過前に無効の抗弁が主張されれば足り、その後は差止請求、損害 賠償請求とも認められなくなる、という見解について

- 無効の抗弁は、消滅時効の援用や相殺の意思表示のように、訴訟上または 訴訟外でこれを主張することで実体上の効果を生ずる性質のものではなく、

また、同時履行の抗弁のように、当事者がこれを主張することに特別の意 味のある抗弁(いわゆる権利抗弁)でもないから、抗弁を主張したという 事実をどれほど重視できるか疑問である。

第7 最高裁判決の検討 1 最高裁判決の概要

今回の最高裁判決は、商標法4条1項10号の登録無効事由を有する登録商標に基 づく商標権の行使に関して、次のとおりの判断を示している。

(1)商標法4条1項10号該当を理由とする商標登録の無効審判が請求されないま ま商標権の設定登録の日から5年を経過した後においては、当該商標登録が不正 競争の目的で受けたものである場合を除き、商標権侵害訴訟の相手方が、その登 録商標が同号に該当することによる商標登録の無効理由の存在をもって、同法3 9条において準用する特許法104条の3第1項の規定に係る抗弁を主張するこ とは許されない。

(2)商標法4条1項10号該当を理由とする商標登録の無効審判が請求されないま ま商標権の設定登録の日から5年を経過した後であっても、当該商標登録が不正 競争の目的で受けたものであるか否かにかかわらず、商標権侵害訴訟の相手方が、

その登録商標が自己の業務に係る商品又は役務を表示するものとして当該商標登 録の出願時において需要者の間に広く認識されている商標又はこれに類似する商 標であるために同号に該当することを理由として、自己に対する商標権の行使が 権利の濫用に当たることを抗弁として主張することは許される。

2 最高裁判決の検討

(1)本判決の事案は、無効審判請求がされないまま除斥期間が経過した後に、初めて 被告が商標登録無効の抗弁を主張したものである。そのような事案の内容を踏まえて、

5 特許のクレーム訂正の場合には、その効果は出願時に遡及するが、商標の場合、除斥期間 が経過したとしても無効審判の請求が許されないというだけであり、過去に遡って何らか の法的効果を生ずるものではない。

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「無効審判請求がされないまま除斥期間が経過した後に商標登録無効の抗弁を主張す ることは許されない」という判示となっている。

最高裁判決の判示内容は、上記にとどまっており、

① 除斥期間内に無効審判請求がされ、除斥期間が経過した後に商標登録無効の抗弁 が主張された場合

② 除斥期間内に商標登録無効の抗弁が主張されたものの、無効審判請求がされない まま除斥期間が進行している(まだ経過していない)場合

③ 除斥期間内に商標登録無効の抗弁が主張されたが、無効審判請求がされないまま 除斥期間が経過した場合

については、言及されていない。

(2)上記のうち①の場合は、侵害訴訟において商標登録無効の抗弁は許されると解さ れる。

問題は、無効審判請求で主張されている無効事由が侵害訴訟で主張されている無効事 由と同一である必要があるかどうかである。「商標登録がされた既存の継続的な状態を 保護する」という状況は、この場合も存在しないが、最高裁判決は、「商標権侵害訴訟 において、商標登録が無効審判により無効にされるべきものと認められるときは」とい う要件を挙げており、審判において主張されている無効事由が侵害訴訟の抗弁における 無効事由と異なる場合には、商標登録無効の抗弁は許されないという趣旨と解される。

また、無効審判請求を被告自らが行っている必要があるかどうかである。第三者が無 効審判を請求している場合であっても、「登録がされた既存の継続的な状態を保護する」

という状況は存在しないが、「商標権侵害訴訟において、商標登録が無効審判により無 効にされるべきものと認められるときは」という要件を充たすかどうかは疑問がある。

最高裁判決に照らせば、商標登録無効の抗弁は許されないという結論となるように思わ れる。それでは、共同被告のうちの一部が無効審判を請求していた場合はどうだろうか。

この場合は、商標登録無効の抗弁は許されることになろう。では、特定の標章の使用を 伴う事業を営むAが商標登録無効審判を請求した上で当該事業部門をBに譲渡し、そ の後にBに対して侵害訴訟が提起された場合はどうであろうか。この場合は、「商標権 侵害訴訟において、商標登録が無効審判により無効にされるべきものと認められるとき は」という要件を充たさないとして商標登録無効の抗弁は許されないと解されるであろ うが、そのように解することは、社会経済の実態に合わないし、商標権の流通を妨げる ことになり、適当とは思われない。

(3)上記のうち、②の場合も、侵害訴訟において商標登録無効の抗弁は許されると解 される。

「商標登録がされた既存の継続的な状態を保護する」という状況は存在しないし、「商

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標権侵害訴訟において、商標登録が無効審判により無効にされるべきものと認められる ときは」という要件も充足されているからである。すなわち、事実審の口頭弁論終結の 時点においていまだ除斥期間が経過していない場合には、商標登録無効の抗弁は常に許 されるということである。

(4)上記のうち、③の場合は、侵害訴訟において商標登録無効の抗弁は許されない、

すなわち侵害訴訟において商標登録無効の抗弁についての判断はされないと解される。

すなわち、無効審判により無効とされる可能性がないという点は、商標登録無効の抗 弁が主張された後に除斥期間が経過した場合であっても同様である。したがって、「商 標権侵害訴訟において、商標登録が無効審判により無効にされるべきものと認められる ときは」という要件が充たされないとして、商標登録無効の抗弁は許されないこととな ろう。

(5)そうすると、一審(口頭弁論終結時)では②の状態にあったが、控訴審(口頭 弁論終結時においては③の状態にある場合は、一審では商標登録無効の抗弁が認めら れて請求棄却されるが、控訴審では商標登録無効の抗弁が許されないとして請求認容 されるということもあり得るであろう。

また、損害賠償請求については、侵害訴訟において商標登録無効の抗弁が許されな い場合には、除斥期間経過前を含めた侵害の全期間についての損害賠償請求が認めら れることとなろう。

(6)しかし、②の状況の下で商標登録無効の抗弁を認めて差止請求や損害賠償請求を 棄却した判決が確定した後に、その後に除斥期間が経過したとして再訴を提起するこ とが許されるかという問題については、前訴判決の既判力に抵触するものではないが、

訴権の濫用として許されないという判断がされるものと思われる。

参照

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は,本件商標を含む被告の商標を使用する権利と義務があるから,本件商標を使用 する権利を許諾されていることは明らかである。

● 登録結果を確認しましょう。

3 出願人 ○○株式会社 登録番号 特許第 ○○○○○○○号 登録日 20 ○○年○月○日 権利者 ○○株式会社

登録要件 自他商品役務識別力(積極要件) 公益的私益的不登録事由 (消極要件)

登録してもよいとの承認(acceptance)の後、商標の詳細は Intellectual Property Journ al に公告される。

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