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若者言葉にみられる言語変化に関する研究 The study on language variations and changes in Japanese new words and phrases Wakamono 堀尾佳以 Kei Horio 2015 年 3 月

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九州大学学術情報リポジトリ

Kyushu University Institutional Repository

若者言葉にみられる言語変化に関する研究

堀尾, 佳以

https://doi.org/10.15017/1500450

出版情報:九州大学, 2014, 博士(芸術工学), 論文博士 バージョン:published

権利関係:全文ファイル公表済

(2)

若者言葉にみられる言語変化に関する研究

The study on language variations and changes in Japanese new words and phrases Wakamono

堀尾 佳以

Kei Horio

2015 年 3 月

(3)

目次

序章

0.1 研究に至った経緯

1

0.2 学問的意義

1

0.2.1 自然談話における「新しい語彙」「新しい活用」

2

0.2.2 言語変化の比較

2

0.2.3 共時的視点

2

0.2.4 通時的視点

2

0.3 資料

2

0.4 章立ての構成

4

第1章 目的と方法

1.1 目的とその具体的内容

5

1.1.1 変化を捉える

5

1.1.2 自然談話の文字化

5

1.1.3 文法化とその過程

6

1.2 方法論

6

1.2.1 言語学的特徴

6

1.2.2 共時的分析と通時的分析—文法化の可能性

7

第2章 言語変化と若者言葉の定義

2.1 言語変化とは

9

2.2 若者言葉とは

11

第3章 現代日本語に見られる言語変化に関する先行研究

3.1 言語変化に関する先行研究

15

3.1.1 活用変化に関する先行研究

15

3.1.1.1 動詞

15

3.1.1.2 接辞「-さ」

16

3.1.1.3 動詞化接辞「—る」、名詞化接辞「—さ」の定義

18

3.1.1.3.1 動詞化接尾辞「-る」の定義

18

3.1.1.3.2 名詞化接辞「-さ」の定義

18

(4)

3.1.2 新しい語彙に関する先行研究

19

3.1.3 先行研究の問題点

22

3.2 本研究の位置づけ

22

3.2.1本研究における言語学的観点との関わり

23

第4章 1990 年代後半から 2000 年代の若者言葉の語彙変化

4.1 動詞

24

4.1.1 新しい語彙

24

4.1.1.1 形態的特徴

24

4.1.1.2 統語的特徴

25

4.1.1.3 意味的特徴

26

4.1.2 活用の変化

29

4.2 形容詞

31

4.2.1 形容詞とは

32

4.2.1.1 「形容詞」の定義

32

4.2.1.2 「い形容詞」と「な形容詞」

32

4.2.1.2.1 「い形容詞」と「な形容詞」の違い

33

4.2.1.2.2 「い形容詞」と「な形容詞」の曖昧な部分

34

4.2.2 「新しい形容詞」の語彙

34

4.2.2.1 「新しい形容詞」の仮定義

34

4.2.2.2 形態的特徴

35

4.2.2.3 意味的特徴

36

4.2.3 「い形容詞」と「な形容詞」の派生形式

39

4.2.3.1 「~過ぎる」

39

4.2.3.2 「~げ」

40

4.2.3.3 「~くさい」

40

4.2.3.4 「い形容詞」と「な形容詞」の派生形式のまとめ

41

4.2.4 活用の変化

42

4.2.4.1「い形容詞」「な形容詞」活用 従来と新しいものの比較

42

4.2.4.2 「新しい形容詞」の活用

43

4.2.5 「○○ない」の変化

43

4.2.5.1「○○ない」の従来の意味

44

4.2.5.2 「○○ない」の「新しい用法」

44

4.2.5.3 「すごい」の新用法

46

(5)

4.2.6 「新しい形容詞」の特徴

47

4.3 程度の副詞

49

4.3.1 「程度の副詞」の新しい語彙

49

4.3.1.1 形態的特徴

49

4.3.1.2 意味的特徴

51

4.3.2 接尾辞「に」による副詞化

53

4.3.3 「程度」の類型

54

4.3.4 「程度の副詞」の特徴

56

4.4 名詞

57

4.4.1 接辞「〜さ」による新しい語彙

57

4.4.1.1 名詞化とは

57

4.4.1.2 名詞化する種類と方法

58

4.4.1.3 従来の名詞化接尾辞「-さ」

58

4.4.1.4 名詞化接尾辞「-さ」に見られる変化

58

4.4.2 接尾辞「-さ」の言語学的特徴

59

4.4.2.1 形態的特徴

59

4.4.2.2 統語的特徴

59

4.4.2.3 意味的特徴

65

4.4.3 名詞化接辞「〜さ」まとめ

65

4.5 新しい表現

67

4.5.1 ぼかし言葉

67

4.5.1.1 「ぼかし言葉」とは何か

67

4.5.1.2 「ぼかし言葉」の言語学的アプローチ

68

4.5.1.3 「ぼかし言葉」の分析

68

4.5.1.5 ぼかし言葉の特徴

81

4.6 若者言葉の「変化」まとめ

83

第5章 若者言葉の発展性 —「文法化」の可能性の観点から—

5.1 文法化とは

84

5.1.1 「文法化」分析のための基準

85

5.1.2 「再分析」と「類推」

86

5.1.2.1 「再分析」と「類推」の定義

87

5.1.2.2 「再分析」と「類推」の共通点・相違点

88

5.1.2.3 「再分析」および「類推」を「文法化」として扱う理由

90

(6)

5.1.3 文法化のプロセス

90

5.1.4 本研究の立場と指針

91

5.1.5 「文法化」に関する先行研究

92

5.2 若者言葉にあるとされる「文法化」

93

5.2.1 文法化 (再分析+類推)

94

5.2.1.1. 接辞「—っぽい」

94

5.2.1.2. —くさい

97

5.2.1.3 〜ていうか/っていうか/ってゆうか

100

5.2.1.4 な形容詞化接辞 「—げ」

103

5.2.1.5 若者言葉に見られる「文法化」現象と未完了の事例

106

5.2.2 類推

107

5.2.2.1 「-的」の類推

108

5.2.2.2. 名詞化接辞「—さ」

115

5.3 今後の課題

120

終章

6.1 結論

121

6.1.1 「若者言葉」に見られる変化のまとめ

121

6.1.1.1 動詞化接辞「—る」

121

6.1.1.2 新しい形容詞

121

6.1.1.3 程度の副詞

122

6.1.1.4 名詞化接辞「-さ」

124

6.1.1.5 ぼかし言葉

125

6.1.2 文法化

126

6.1.2.1 若者言葉の文法化プロセス

126

6.1.2.2 類推

128

6.2 “variation” か ”change” か

129

6.3 本論文の独創性および学問的意義

130

6.3.1 新しい視点

130

6.3.2 方法論

130

6.3.3 分析法

130

6.3.4 見解

130

6.3.5 知見

131

6.4 今後の課題

131

(7)

6.5 今後の若者言葉の可能性

131

6.6 おわりに

132

謝辞

133

資料

134

付録

167

参考文献

212

参考サイト

218

論文内使用

URL

出順一覧

220

(8)

1

序章

生きている言語は常に変化し続けている。現代日本語ももちろん、「生きている言語」で あるため「変化」を続けていると考えられる。この「変化」とは何であろうか。これまで 現代日本語の「若者言葉」に見られる現象については、語彙など部分的な研究はあっても、

「言語変化」としての研究はされて来なかった。

本論文では 1990 年代後半から 2000 年代1の「若者言葉」について、従来のルールでは説 明がつかない斬新な用例を取り上げ、言語学的に分析する。本論文は社会言語学的視点を 中心に、現代日本語における語彙・意味・文法・用法の「変化」について、考察を行う。

ここでいう「変化」には、世代によるギャップだけでなく、その世代が年を重ねていく 上で残るものと一過性のものがあると考えられるため、この点も考慮しながら研究をすす める。

0.1 研究に至った経緯

日常生活で出会う「新しい言葉」「新しい意味」に新鮮味を感じ、その言語体系を知りた いと考えたのが、この研究を始めたきっかけである。これまでも卒業論文では「る言葉」

を、修士論文では「ぼかし言葉」を取り上げ、「若者言葉」について研究を続けてきた。様々 な新しい用法や語彙を収集し、分析を進めていくうちに、それらの言葉遊び・隠語として の機能のほかに、ある一定のルールが存在することが分かった。その「世代に関わらず使 用されているルールの根底にあるのは何か」を解明したいと考えたのが本研究に至った理 由の一つである。

また「若者言葉」は、これまで一般書籍等で取り上げられることはあったが、言語学的 にはあまり研究されてこなかった分野である。そこで、今後の言語変化研究のためにも、

現在の移行の状況を書き留めておくことで、今後の変化を見る際に、共時的かつ通時的に 変化の過程を見ることができると考えたのも、もう一つの理由である。

0.2 学問的意義

本論文で分析対象とする「現代日本語に見られる変化」は、これまでほとんど研究され てこなかった分野であり、フロンティア的研究となる。もちろん、先行研究はあるが、作 例や出自が不明なものや、ドラマなどの自然ではない言語行動が対象となりやすく、自然 談話を言語学的に分析したものは少ない。そこで、本論文の独自性を以下に示す。

1 1996年以降、2007年頃までをさす。厳密な出自年度は定かでないためである。

(9)

2

0.2.1 自然談話における「新しい語彙」「新しい活用」

自然談話録音資料や文字化資料を使用することで、1990 年代後半から 2000 年代の「日本 語」を記録して分析を行う。そのため「新しい語彙」「新しい用法」の特徴を捉え、体系を 明らかにすることができる。文字化された資料の情報だけでは分からなかった変化、特に、

既存語彙の意味変化について、語用論の視点からも分析することで、変化を明らかにする ことができる。

0.2.2 言語変化の比較

「新しい語彙」や「新しい活用」の収集・分析によって、現在の日本語について記録し、

過去の日本語との比較、および未来の日本語の予測ができる。日本語の言語変化について 研究する際、比較することができる資料となりうる。

0.2.3 共時的視点

現代日本語の、現時点において使用が認められる言語変化と考えられるものについて、

共時的に分析を行う。若者言葉を中心とするため変化が継続するもの、消滅するものなど が考えられるが、本論文では主に新しい活用や語彙について 1990 年代後半から 2000 年代 まで2の資料を基に、現時点で起こっている変化を捉える。

0.2.4 通時的視点

本論文で取り上げるものは、主に 1990 年代後半から 2000 年代にかけて起こった「新し い変化」であるが、通時的に分析できるものは以前の日本語とも比較する。そうすること で、従来のルールから外れているとされるものについて「いつ頃から」・「なぜ」・「どのよ うに」外れたのかその原因を探り、変化の過程を示せると考える。

もちろん、15 年程度で「通時的」と言えるかという問題は出てくるだろう。しかし、従 来は「通時的」分析とされる「文法化」の傾向が見られるものも実際に存在していた。そ こで、何年間といった時間的な幅に捉われること無く、変遷の過程を示したい。

0.3 資料

本論文では、実際に使用されている現代日本語を分析対象とするため、言語学的分析を 行うにあたって、自然談話録音資料・文字化資料・記述資料3を収集した。

2 「共時的」ではあるが、言語の変化について観察する際、1年単位では難しいため、10年程の期間をとる。

3 新聞記事、インターネット記事をさす。

(10)

3

動詞化接辞「—る」:1999 年、2006 年の 2 回にわたる調査により、483 語を収集。

現代用語の基礎知識および文献資料、テレビなどから集め、分析した。

新しい形容詞:2001 年・2004 年に収集した若者の会話録音資料

テレビ番組の中でも「自然談話」であると考えられるバラエティ番組、視聴者参加型番組 で使用されているものも対象とする。これは、出演者が使う言葉はシナリオによって書か れたものではなく、自然に発話している、と考えられるからである。この理由により、前 もって決められた台詞を使用しているドラマは、分析の対象外とする。

程度の副詞:2007 年 9 月、同志社女子大学の女子大生 132 名を対象に記述式アンケート を実施。「程度を表す副詞」56 語を収集

名詞化接辞「−さ」:全国の新聞を網羅した検索エンジン「検索デスク4」を主に利用。

1739 件中、従来の用法に合致しない 415 の使用例を収集し分析した。

ぼかし言葉:九州大学大学院生、東京女子大学大学生、大学卒業後の20代社会人(東京・

京都・滋賀・福井・大阪)の、合計 20 名による自然談話録音資料をそれぞれ収集、文字化 したものを使用した。「ぼかし言葉」は「若者言葉」と関連があり、若者の間で活発に使用 されている、ということから、21 歳~26 歳の年代に絞り、自然な会話を MD に録音し、文 字化するという方法を取った。

その他、抽出語彙の例文引用については、インターネット上の新聞・雑誌内の検索がで きる「検索デスク」5や「グーグル検索」6を参考に行う。

新しい語彙や用法と考えられるものは、従来のいわゆる国語教育で指導される文法等と 異なると思われる表現である。それらが実生活の中でどのように使用されているのか、出 来るだけ自然談話から集めるよう努めた。ただし限界があり、特に会話の場面や使用者に よっては収集しようとした新しい表現や用法、使用される語彙が出て来ないことも多かっ た。そこで、メディアから収集できる語彙も分析対象とした。新聞や雑誌などで使用され ている語彙にも変化が認められるため、新聞や雑誌から文単位の引用により収集した資料 も分析対象とする。ただし、先行研究で紹介された語彙、つまり作例や出自の明らかでな いものに関しては参考程度にとどめる。

4 http://www.searchdesk.com/news.htm

5 http://www.searchdesk.com/news.htm

6 http://news.google.co.jp/nwshp?hl=ja&ned=jp

(11)

4

0.4 章立ての構成

本論文は以下の6章からなるが、その概略を述べておく。

第 1 章で本論文の目的と方法について述べ、第2章で「言語変化」と「若者言葉」を定 義する。

第3章では、現代日本語に見られる「言語変化」及び「若者言葉」に関する先行研究を まとめ、問題点を指摘するとともに、社会言語学・認知言語学・言語類型論のそれぞれの 視点から本論文の位置づけを述べる。

第4章では、「語彙変化」を中心に、品詞ごとの形態的・統語的・意味的特徴を示す。本 論文では、動詞・形容詞・副詞・名詞・新しい表現を取り上げる。

第5章では、「文法化とその過程」と題し、現代日本語に見られる文法化と、文法化の過 程について考察する。

終章では、論文の独自性、新発見、新視点なども確認しながら、結論をのべる。また今 後の課題についても述べる。

(12)

5

第1章

目的と方法

1.1 目的とその具体的内容

本論文の目的は、以下の2点である。

①自然談話(話し言葉)を録音・文字化して残すことで、これまで気付かれず、研究対象 とならなかった語彙や用法を抽出する。

②分析にあたっては、2010 年頃までに確認できた若者言葉の「変化7」を捉え、記録し、そ の法則性を明らかにする。

「新しい語彙」や「新しい活用」だけでなく従来の表現であっても、その意味や使用に変 化が見られるものについて、その特徴を明らかにする。

1.1.1 変化を捉える

現段階で確認できる「変化」を捉え、その法則性を記録する。

新しい語彙は数多く生まれている。ただし、それらの語彙は無秩序に造られるのではな く、従来のルールによるものと、新たなルールに則ったものの、大きく2つに分けられる。

本論文では、現代日本語の中でも特に若者言葉を中心に、その語彙変化を見ていくが、

品詞ごとに、それぞれの形態的・統語的・意味的特徴をまとめる。どのような「変化」が 起こっているかを明らかにする。また、新たなルールが存在するか否かの検討も含め、新 しく造られた語彙や活用に見られる変化についても分析を行う。

1.1.2 自然談話の文字化

自然談話(話し言葉)を文字化して残すことで、これまで気付かれず、研究対象となら なかった語彙や用法についても分析する。

これまでの談話録音資料は、国立国語研究所のまとめたコーパス8以外には殆どない。し かも、その内容は自由対話とは言え、その収集方法は初対面の人が会話をするものであっ た。これでは使用語彙が限られてしまう可能性もあるため、「自然談話」であっても「若者 言葉」を収集するための資料としては適切ではない。

7 ここでいう「変化」とは、従来のルールとは異なる形態や語彙や活用だけでなく、新たに造られた語彙も 含め、これまでの日本語には無かったとされるものをさす。

8 http://www.ninjal.ac.jp/products-k/katsudo/seika/corpus/public/index_j.html

(13)

6

そこで本論文の自然談話録音資料9は、「若者言葉」が出やすいと考えられる 20 代の友人 同士の会話に限った。また二人だけの会話ではなく、グループ会話も採用した。このよう にして収集した自然談話を文字化すると、コンテクストを示すことができる為、語彙だけ の変化にとどまらず、語用論的特徴も捉えることが出来る。

また、現在の資料を残すことで、通時的研究の際にも資料として役立つと考える。

1.1.3 文法化10とその過程

本研究では「文法化」についても言及する。ここで言う「文法化」とは、内容語から機 能語へといったオーソドックスな機能変化だけでなく、機能語から他の機能語へと変化し たものも、大きく「文法化」と捉える。

これまでの若者言葉に関する研究においては、その特異な語彙の形態や意味に焦点をあ てたものはあったものの、「若者言葉」における規則性や文法については、殆ど研究されて こなかった。そこで本研究では「文法化」についても取り上げることとした。

なぜ本研究で「文法化」について言及するかというと、「若者言葉」にルールや規則があ る、ということを証明した上で、それらが実際にどの程度「文法化」し、実用化されてい るのか、その変化の過程について 10 年から 15 年といった短いスパンではあるものの、追 跡することができるからである。

1.2 方法論

ここでは、分析を進める方法論について述べる。

本論文は現代日本語における言語変化を見るため、

① 言語学的特徴

② 共時的分析と通時的分析—文法化の可能性 以上2点を中心に分析を行う。

1.2.1 言語学的特徴

言語学的特徴について、それぞれ項目ごとに見ていく。

音声・音韻・アクセントの特徴

音声・音韻・アクセントの特徴について、実例を挙げながらまとめる。

従来の表現と、新しい語彙・表現と考えられるものが同じ表記であった場合、音声・音 韻・アクセントにおいてどのような違いが見られるのか、検討する。

9 0.3資料に概要を掲載。また、品詞ごとの節でより詳しい情報を記す。

10 文法化の先行研究や定義については第5章で詳しく述べる。

(14)

7

形態的特徴

新しい語彙・活用と考えられるもの自体の構造がどうなっているのかを調べる。特に、

それぞれの新しい語彙・活用の形態に見られる特徴について分析を行う。

統語的特徴

新しい語彙・活用と考えられるものの、前後に来る語彙・品詞についてどのような特徴が あるのかを調べる。何らかの特徴が存在しているはずであり、それらの傾向をまとめ、解 明する。

意味的特徴

従来のものと形態が同じであっても、異なった意味を持たせた使用が見られる語彙があ る。そこで、それらの語彙の意味的特徴における変化について探る。

語用論的特徴

新しい語彙・活用・意味を、コンテクストとの関わりから分析する。コンテクストによ って働きが異なる場合、その使用法や意味に差があるのかどうか、といったことにも注目 する。

以上のように、それぞれの言語学的特徴をとらえる。

1.2.2 共時的分析と通時的分析—文法化の可能性

本研究では、1990 年代後半から 2000 年代の「若者言葉」について分析を進める。つま り、その時期に使用されていた、その当時においては「新しい」語彙や用法を「共時」と して取り扱う。一方で、15 年程度という短いスパンではあるものの、「新しい」用法が定 着してゆく過程を捉えることを目的として「通時的」観点から分析を試みる。新しい用法 がどのように文法的な変化を経て、内容語や機能語からその他の機能語へと変化していく のか。いわゆる「文法化」が起こっているのか否か、先行研究で「文法化」したとされる ものの中でも若者言葉である「っぽい」や「っていうか」などの表現について検証を行う。

ここで、「通時的」について補足する。本来の言語変化研究においては「通時」とは 50 年、100 年といった長い期間を対象とするものが多い。ただし、本研究で対象とした言語 表現は短い期間(つまり、共時的)であっても変化が起こり、文法化しつつある。その意 味で「通時的」な分析と位置づけ、その特徴を示す。

(15)

8

これは、今までの「通時的研究」とは異なるものであるが、短い期間でも変化が捉えら れる、ということを示す。これは今までにない視点で、今までにない題材を取り扱い、短 い期間であっても「通時」として捉えようとしている点において、新たな挑戦でもある。

(16)

9

第2章

言語変化と若者言葉の定義

「若者言葉」の変化を探る前に、そもそも「言語変化」とは、どのようなものなのか。

そして「若者言葉」とは、どういった現象の表出をさすのだろうか。分析する前にまず、

先行研究から言語変化と若者言葉についてその特徴や働きをまとめ、定義し、言語学的分 析の際の指針とする。

2.1 言語変化とは

言語学において、「言語変化」とは何をさすのだろうか。本論文では新しい活用・語彙を 対象とするため、新しい現象に関する先行研究についてまとめる。

まず、湯浅(2005)は、言語変化について次のように論じている。

湯浅 英男 (2005:7-21)

言語研究において、言語が変化するということは自明のこととして捉えられて いる。また同時にそれぞれの言語が備える文法カテゴリーもそうした言語変化を 通して豊かになったり、時には衰退あるいは合理化の方向に向かう。

1300

年代の変化は進化的変化、つまりそれを引き起こした言語体系の観点から 完全に説明可能な変化であった。そしてより最近の変化は、適合的変化、つまり 当該の言語体系の外側に位置する要因に言及せずには説明できないような変化 なのである。

前述の適合化規則がいわば伝統的な規範への適合を目指したのに対し、ここで の適合的変化は近隣の方言への適合を目指す。

若い世代による革新的な言語変化が起こったとしても、適合化規則の適用に よって年輩の世代とのコミュニケーションが阻害されず、変化自体も急激なもの とはならないという主張を行なった。ただそうした適合化規則に基づく変化――

つまり「適合的変化」-は、

Andersen

に従うならば言語体系とは直接関わらず、

言語体系に関わる「進化的変化」とは根本的に異なる。

ただ言語変化には、音韻も含めた言語形式の実体的な変化の他に、構文なども 含めた同一言語形式への解釈的つまりは再分析的な変化(ある意味では文法形式 に対する認知的変化と言ってもよい)という新たな次元の類型を付け加えること が可能であろう。

(17)

10

次に、村上(1972:71-92)は、言語変化の中でも特に、その変異要素について社会変化で あると述べている。また、「言語は社会的制度であるから、言語変化を説明する為に依る所 の唯一の変異要素は社会変化であり、言語差異はその結果に他ならない―それは時には直 接的であり、よりしばしば間接的である」と基本的な考えを示している。

言語変化と社会の関係については現在では二つの大きな流れがある。一方は、

純粋に言語構造それ自体に

autonomy

と規則性を見いだし、そこから言語の普遍 性に迫ろうとする行き方であり、他は、現実の言語に内在する多様性から、人間 の言語使用の事実へと進み言語の実体を知ろうとする行き方である。

言語行動の変動即ち言語変化における言語構造の変化のメカニズム、又はその 変化過程と類似する点があることに気づく。

また、井上(2000:180-183)は、「乱れ」と言われる現象が出る原因を「単純化や明晰化」

であると断言している。

最近の日本語の多様な言語変化を考察してみると、様々な相互影響関係が見え てくる。

いつの世にも若い者の風俗やことばは非難されるが、実は「乱れ」とされる 現象の多くは古くから連綿として続いていた言語変化である。長期間変化しつづ けるからには、理由がある。「乱れ」と言われる現象が出る原因を考えると、たい てい見つかる。単純化(簡略化・省エネ)や明晰化である。つまり言語構造自体 に変化理由がある。(略)いずれにしろ、現代の日本語は変化を重ねている。変化 には言語構造に基づく理由と言語外の社会的要因による理由があり、変化の源を たどると百年近く、また数百年におよぶ前史を持つ。しかも地方からの流入もあ る。またある現象が起こるとその影響で別の現象が引き起こされることも或る。

バリエーションと変化や、バリエーションが生じる環境などについては、Chambers ほか

(2002:213,236,267)でも述べられている。

Change presupposes a period of variation although variation need not

produce change.

Variation occurs in environments where the constraints are unable to

distinguish between candidates that are almost equally good in terms of

markedness and faithfulness.

The goal of work on language variation within sociolinguistics has mainly

been concerned with the understanding of how language operates in society.

(18)

11

以上のように、先行研究では「言語変化」そのものの定義は特にされていない。

湯浅(2005)によると、言語変化は進化的変化と適合的変化に大別されている。若者言葉に 限って言えば、「革新的変化」と感じるものも、実は内在している文法規範から大きく逸脱 はしておらず、適合的変化であると考えられる。

本論文は村上(1972)の言う「現実の言語に内在する多様性から、人間の言語使用の事実へ と進み言語の実体を知ろうとする行き方」を対象として分析を進める。

variation

は「派生しうるもの」、

change

は「変わっていくもの」なのだろうか。そして、

本論文で対象とする現象は、規則性を持って造られた造語による語彙拡大であるが、これ は変化ではなく多様化なのであろうか。つまり、

change

ではなく

variation

なのだろうか。

この疑問については、分析を進めた上で最終的に結論を出す11こととする。

「言語変化」については文字通りの意味で使用され、改まって定義している先行研究は ほとんどない。そこで、本論文では「言語変化」を以下のようにまとめる。

「言語変化」とは

誤用から生まれたもの、従来の語彙の活用・形態・意味に変化があるもの、特に、本研究では

「若者言葉」を分析対象としており、従来のいわゆる文法に合致しないものや「非文」となって いたはずのものの変化も「言語変化」の一つとする。言語接触による新造語なども含め、同一 言語の中で時間をかけて変化していくもの、または同時代に見られる変化、全てをまとめた ものをいう。

本論文で分析対象としている若者言葉は、社会言語学の範疇にあるため、主に共時的な 言語変化を扱うが、通時的視点として「文法化」現象の分析も行う。

2.2 若者言葉とは

近年、日本語に対する関心が高まるとともに、若者言葉についても様々な研究がなされ てきた。ここでは、本研究で対象としている「若者言葉」について、先行研究ではどのよ うに定義されているのかを挙げ、本研究での定義を行う。

まず、「若者文化術語集」で中野(1987:6) は、若者の用法について

若者文化圏では、すべてが規範的<用法>である。伝統的・規範的言語習慣に 窮屈さを感ずるのは、いつの時代も前衛的な表現者か、若者である。彼らは、

11 6.2で詳しく述べる。

(19)

12

不断に、逸脱と新しい用法を試みている。そのうちのいくつかが、部分文化の中 で規範として認められ、さらに、そのいくつかが全体文化の中で規範となる。時 には無意識で、時には意識的に使われる新語と新しい用法には、若者の感性・心 情がより多量に含まれているということである。したがって、そのことばたち から若者の感性と心情の現在を、読みとることが可能になる。

としている。

次に、「現代若者コトバ辞典」では、猪野ほか(1988:はじめに)が

流行そのものは若者たちの選択で決まるといってよい。新しいコトバを自分 たちの感性で大胆に創り出していくのも若者たちだ。その旺盛で鮮烈な表現力は とどまるところを知らない。

と記している。

また、加藤 (1999:68-69)は「日本語七変化」において「新しいコトバ」について 「古いコトバは悪い」、「新しいコトバは良い」という風潮が一般的になったの です。(中略)若者にとって『古いコトバを使う人』は『旧製品』のように、価値 の低い人のように見えます。(中略)新しいモノが出ると、新しいコトバが生まれ ます。

と述べた。

それまでの「若者言葉」とは違った視点から分析したのが米川(1999)の「おもしろい現 代語語彙」である。その

41

ページに、

おもしろい現代語語彙の代表と言えば若者語である。なぜなら、若者語は会話 の「ノリ」を第一にしたことばの娯楽だからである。 (中略)若者語は仲間内の 会話に使用するために、その時その場を楽しく過ごそうとするために、おもしろ くなければ会話ではないと考えているところから生まれた。すなわち、会話の「ノ リ」を求めて生まれたことばである。そこで、やたらと語を省略したり、新しい 語形をつくり出したり、また本来の意味・用法を変えたりしてみせる。

と、若者語(=若者言葉)が作られる理由についても言及した。

同様に、若者が話す「若者ことばとどう向き合うか」について、藤原 (2000:21-22) は 若者は「若者ことば」を使うことにより会話を楽しんでいます。また、「若者こ とば」は若者同士の連帯意識を強める働きを持っています。

(中略)若者は暗号に近いことばを発して、相手とコミュニケーションを図り それ自体を楽しむという状況があります。

と指摘し、若者が「若者ことば」を使う理由について考察した。

他にも、今川(2000:5-9)は「若者言葉は未来の鑑!? 」で

(20)

13

若者言葉は移ろいやすく、特に語尾は変化しやすいと考えられる。

若者文化の根元を察するに、やはりテレビや雑誌などのメディアの力が大きく 働いていると思われる。(中略)多感な

10

代をはじめとする「若者」たちは、

敏感にその「流行」をキャッチし、無意識のうちに時代を作ってきた。

(中略)この流れによって「流行」のスピードが加速化し、その世相に乗って 言葉も生まれ、消えていったのではないかと私は考える。かれらはそれぞれ時期 が来れば、きちんと話ができる素養を持っているし、その気持ちも持っている。

とした。つまり「若者言葉」は「流行」と関わりがあり、「言葉が生まれ、そして消えてい った」と分析している。

一方、千葉 (2000:11)は「若者言葉の一特性」で、女性の男言葉、タメ口と人間関係の 親疎について言及している。

若い女性たちが使う男言葉は、タメ口の近縁種、あるいは変種といえるであろ う。大人世代からみれば、タメ口は礼を失した乱暴な物言いだが、若者から言わ せれば、丁寧な言い方は相手に壁をつくった話し方だ。タメ口はむしろ親しみの こもった表現という認識である。

以上のように、これまでの様々な「若者言葉」に関する研究の中で、最も言語学的かつ 学問的な分析を行ったのは米川(1998)の「若者語を科学する」であろう。

俗語は社会・文化・世相をよく反映しており、言葉と社会の関係を見ることが できるからである。流行語や若者語はこれが顕著である12

若者語とは中学生から三十歳前後の男女が、仲間内で、会話促進・娯楽・連帯・

イメージ伝達・隠蔽・緩衝・浄化などのために使う、規範からの自由と遊びを 特徴に持つ特有の語や言い回しである。個々の語について個人の使用、言語意識 にかなり差がある。また時代によっても違う。若者言葉13

単に若い世代に使われている新方言は必ずしも若者語ではない。古い方言が 衰退し、ライフスタイルも変化し、上の世代と若い世代とでは使用する言語変種 に違いが見られるが、そういう意味での若い世代の言葉をさすのではない。右に 書いたような条件がつく若い世代の言葉である14

この著書の中で述べられた「若者語の特徴」について、pp.18-19より抜粋する。

①仲間内の言葉である。これはヨソ者には使わないということであり、仲間内 ゆえに隠語めいた言葉であるということである。このヨソ者には先生、名前も 知らない人は当然のこと、名前を知っていても仲間意識のない人が含まれる。

12 P. 11

13 P.15

14 P.16

(21)

14

若者語をヨソ者が訳のわからない変な言葉と批判⇒的外れの批判

②会話促進・娯楽・連帯・イメージ伝達・隠蔽・緩衝・浄化などのために使う 言葉である。若者語はひとことで言えば、会話の「ノリ」のための言葉である。

そのためにやたらと語を省略したり、新しい語形を造り出したり、本来の意味・

用法を変えたりしてみせる。

③規範からの自由と遊び

若者は最も先鋭的に個人の自由を主張し、どの面を見ても従来の規範から自由で ある。その中で、言葉の規範から自由に、悪く言えば勝手に新たな語を造り出し、

新たな意味と用法で使っているのが若者語と言える。また、自由だからこそ、

言葉に縛られることなく、逆に言葉を遊んでみせる。緊張した社会には言葉に 遊びはないが、平和で緩んだ社会には言葉に遊びがある。若者語はこの平和な 社会で遊んでいる人々の言葉である。

以上の先行研究をふまえ、本論文では「若者言葉」について次のように定義する。

「若者言葉」とは

中学生から20代の男女が、若者世代15である就職前までの時期に、仲間内で使用する。

使用し始めるのが「若者」であり他の世代では使用されていない新しい表現や語彙を指す。

新しい語彙や用法は、規範からの逸脱や遊びであり、そこから生み出された新しい言葉 をさす。特に、規範からの逸脱(例:動詞化「事故る」名詞化「親切さ」)、メディアを利 用して広がった方言(例:「ばり」)などがある。

「若者」世代は年を重ねてもその当時の「若者言葉」を使い続ける可能性がある。また メディア16などで広く認知された表現や語彙などが他の世代でも使用され定着していく可 能性もある。

なお、本研究では 1990 年代後半から 2000 年代の「若者言葉」とされていた表現や語彙を分析 対象としている。論文発表時(2015 年)には様々な年代で使用され定着しているもの、既に聞かれ なくなったものなど含まれていることを付記しておく。

本章では、「言語変化」および「若者言葉」を定義した。この定義に基づき、次の章から本論文の 分析を進める。

15 「他世代では使われていないのか」という疑問があるだろう。本研究では1990年代後半から2000年代に

かけて使用され始めた新しい語彙や用法について分析を進めている。そのため、本論文発表時点(20152 月)では若者世代だけでなく他の世代で広く使用されているものもある。これは1990年代後半は若者言葉 だったものが当時の若者世代の年齢が上がり、2010年代以降は定着したと考えられる。

16 発信し始めた人がはっきりしている、メディア・コピーライター主導とされる表現も存在するが、本研究 では特定の語彙ではなく、機能ごとに分析を行う。

(22)

15

第3章

現代日本語に見られる言語変化に関する先行研究

本章では、現代日本語において現在起こっていると考えられる「言語変化」に関する先 行研究についてまとめ、それぞれの問題点を指摘するとともに解明すべき点をあげる。

3.1 言語変化に関する先行研究

現代日本語の「言語変化」に関する研究は、大きく2つに分類できる。1つは活用変化 に関するものであり、もう1つは新しい語彙に関するものである。

3.1.1 活用変化に関する先行研究

これまでの研究で、特に「若者言葉」の活用変化に関するものとしては、米川(1998)や 飯野ほか(2003)などがある。ここでは、それぞれの問題点を指摘する。

3.1.1.1 動詞

まず、米川(1998:36)の「若者語を科学する」では

<文法を変える>「する」をつけてサ変動詞化する場合、上の名詞は意味上運動性のもの。

人を表す運動性のない名詞につける。

例:女子大生する

という例を挙げているのが、この例の出自が不明である。これまで「する」によっても動詞が作ら れてきたが、最近ではあまり使用されていないものもある。

また飯野ほか(2003)は「新世代の言語学」社会・文化・人をつなぐもの」のはじめにviiiで、

「日本語を勉強している留学生がこの問題を解こうとすると、まず『コクる』がどの動詞グループ に属しているかを考え、次のその動詞グループの活用ルールに沿って『て形』や『ない形』や『ば 形』を作るといった意識的作業をしなければならない。これに対して、日本語の母語話者なら、たと えそれが『コクる』のように本来のことばを短縮し、限られた人にしか使われていない若者言葉でも、

誰もが同じように、無意識に、しかも瞬時に活用できるのである。なぜならば、そこには私たちが普 段意識しないで使っている共有された『ことば』のルールがあるからである。」とした。ここでは、

動詞化接尾辞「-る」の活用について述べられているが、具体的な例や関連資料などは提示され ていない。「はじめに」の為、言語学的分析は行われていない。「誰もが同じように、無意識に、

瞬時に」活用できる、という根拠は全く示されていない。

(23)

16

同様に、動詞化について北原(2003:356-358)では次のようにまとめられている。

「~する」を付けて動詞化する方法は、新語を生み出す原動力ともなっている。まず、

「カタカナ語+する」という形によって新しい動詞を簡単に作ることができる。「フィットする」

「ヒットする」「アタックする」「ペーストする」「ゴールインする」など、数限りない。カタカナ語に は、とかくの批判もあるが、「~する」の造語力の強さは、「~だ」による形容動詞と並んで、

日本語の語彙を拡大することに貢献している。

最近では「お嫁さんする」「主婦する」「孝行息子する」「受験生する」「OL する」「青春する」

のように、動作と結びつきにくい名詞にも適用されている。これらは、「いかにも~らしく(まる で~のように)振舞う」「典型的な~の振る舞いをする」いったニュアンスで使われる。俗語的 であるので使う場面をわきまえなければならないが共有のイメージに訴えて言いたいことを 簡単かつ的確に表現した巧みな言い方だともいえる。

なお、新しい動詞を作る造語法には、ほかにも「~る」を付けて動詞(五段活用)にする 方法もある。(略)しかし、「~する」に比べると、造語力ははるかに低い。またほぼ例外なく 俗語的なニュアンスを帯びるので注意が必要である。

以上の記述は分析と言うには資料が少なく、「する」を付けて動詞化する造語法は数限りなく 多いとする根拠が明らかではない。「お嫁さんする」「たばこする」といった用法の出自、使用例とも に明らかではない。

「る」による動詞化については、「『~する』に比べると、造語力ははるかに低い。」とあるが、その 数値には触れておらず、どの程度の差があるか、なぜ「造語力ははるかに低い」のか、説明が不 適切である。「-する」による造語が一般的(無標)とされ「-る」は有標であるため使用傾向は限 定的となる。しかし、使用法は年代によって異なるため、「―する」の方が動詞化「る」よりも造語力 が高いという傾向が覆る可能性はないのだろうか。

3.1.1.2 接辞「-さ」

次に、接辞「-さ」について記述のあるものをあげる。まず、新村(1974:991)は「広辞苑」

第四版であるが、

「さ【接尾】 形容詞の語幹、形容詞型助動詞のあるもの及び形状性名詞について、その 程度、状態をあらわす名詞をつくる。源桐壺『あさましううつくしげ‐添ひ給へり』。

とある。「広辞苑」で挙げられた例である「うつくしげさ」は現代日本語ではない。この用例のみで

「名詞を名詞化する」とは言えない。

同様に、「日本語文法大辞典」山口(2001:272)には

①その程度・状態にあることを示す。 「その美人さで恋人がいないなんて」

とあるが、接辞「-さ」の用例は出典が明らかではなく、実際に使用されているかどうか信憑性が 低い。

(24)

17

より言語学的に分析したと考えられる清瀬 (1989:13-14)は、「日本語文法新論」-派生 文法序説―の中で次のように述べた。(注:傍線筆者)

名詞から派生せられた名詞は 名詞由来名詞(Denominal Noun)と呼ばれるが、日本語 の実名詞17には、文法的な性 (gender) も無ければ数 (number) も無いので、実名詞に 由来する派生実名詞というものは存在しない。しかし、実名詞に接辞「-的」が接尾すると、

「学問的」「欧米的」など形状名詞18の語幹を派生する。形状名詞の語幹に接辞「-ソウ」が 接尾すると、「元気ソウ」「気ノ毒ソウ」など様相(evidential)を表す形状名詞を派生する。さら に、形状名詞の語幹に接尾して実名詞を派生する接辞には、「静カサ」「親切サ」「丈夫サ」

などの例に見られる様に「-サ」がある。

この「名詞から派生せられた名詞は名詞由来名詞(Denominal Noun)と呼ばれるが、日本語の実 名詞には、文法的な性(gender)も無ければ数(number)も無いので、実名詞に由来する派生実名 詞というものは存在しない」ので、「名詞+さ→名詞化された語彙」という変化を全面的に否定して いる。独自の分類であるが「―サ」の分析は殆どない。

また、インターネット上で公開されていた「日本語ボランティア<すずめ>の忘れっぽい自 分のための文法ノート」19には次の表があった。

この資料では従来あまり使用されてこなかった「元気さ」「親切さ」「スポーティさ」などが例として 挙げられているが、実際にどのように使用されているのか、といったことについては、全く触れられ ていない。

17 名詞のうち、思想の主題たる事物・概念を指示する「机」「花」「赤」「哲学」のような音は、接尾辞「-ガ」

「-ヲ」等を従えて主格(nominative case)・対格(accusative case)等に立ち得るものであり、この一類 の音を 実名詞(Noun Substantive)と呼ぶ。(P.4)

18 事物の性質や状態を表現する「静カ」「明ラカ」「急」「綺麗」のような音(中略)は、実名詞とは性質を異に し、「-ガ」「-ヲ」等の接尾辞を伴い得ず、したがって、文の主語(subject)に立ったり、客語(object)

として用いられたりする事も無い。 (P.4)

19 http://www.geocities.jp/neko5suzume/gn02.htm#ta#ta (20066月閲覧。現在は閲覧不可能。)

い形容詞 優しい→ 優しさ、嬉しい→ 嬉しさ 面白い→ 面白さ、

つらい→ つらさ 暗い→ 暗さ、懐かしい→ 懐かしさ い A 形活用 子供っぽい→子供っぽさ

山田さんらしい→山田さんらしさ

な A 元気な→ 元気さ、 親切な→ 親切さ、便利な→ 便利さ スポーティーな→スポーティーさ

(25)

18

3.1.1.3 動詞化接辞「—る」、名詞化接辞「—さ」の定義

以上のように、活用変化に関する先行研究から動詞化接尾辞「-る」及び名詞化接辞「-さ」を次 のように定義する。

3.1.1.3.1 動詞化接尾辞「-る」の定義

「る」によって動詞語彙を作る際は省略が多用される。これは、動詞化接尾辞「-る」のルールと 関連があると考えられる。つまり「る」を付加するものの拍数との関係があるだろう。特に、外来語の 省略との関係が考えられるため、分析を行う際の参考とする。動詞化する接尾辞「-る」を付けて 作った語彙についての、これまでの研究から次のようにまとめることができる。

① 他の品詞を動詞化する接尾辞である。

② 「若者言葉」である

先行研究に挙げられているものは例が少なく、言語学の各分野に添って分析したものもあまり ないため、本研究ではできる限り多くの語彙を集め分析することとする。また「若者言葉」や「俗語」

の要素が強いとされているが、実際は古くから使用されている語彙も同じように動詞化接尾辞「-

る」によって作られたものも存在しているのである。例えば、「牛耳る」は夏目漱石が使用したのが 始まりとされている。

これまでの「-る」による動詞化語彙は

① 出自がはっきりとわからないもの

② 使用開始年が定かでないもの

③ 現在は使用されていないが、資料には残っているもの20

④ 地域性のある語(特に固有名詞由来のもの)

などがあると考えられる。これらの点に留意し、分析を行いたい。

3.1.1.3.2 名詞化接辞「-さ」の定義

従来の接尾辞「-さ」がどのような品詞を名詞化するのか、また作られた(名詞化された)名詞が どういった意味を含むのかについて、先行研究・関連文献をあげ、問題点を指摘する。先行研究・

関連文献で、接辞「-さ」の用法や役割などについて用例を挙げ言語学的に分析し、まとめたも のは少ない。また接辞「-さ」について挙げられている用例も異なり、言語学的分析も同じように行 われているわけではない。どのような特徴が挙げられているのか、以下にまとめる。

・名詞に付加できる = 2 資料

・「な形容詞21」に接辞「-さ」をつけられる = 5 資料(「な形容詞」に制限がある=1 資料のみ)

20 流行語を含む。

21日本語文法では「形容詞」「形容動詞」とあるが、本研究では活用や名詞との関係から「い形容詞」「な形 容詞」を使用する。

(26)

19

・ 「名詞+さ→名詞化語彙」に言及 = 2 資料

しかし、ここに挙げられた特徴も、文献によっては見解が異なる。

例えば、「日本語文法大辞典」には「美人さ22」など「名詞」に接辞「-さ」を付けるとする資料があ る。しかし、他の先行研究・関連文献では、接辞「-さ」の付加について、殆ど分析されていない。

名詞化「—さ」の問題点

・名詞を名詞化するという、従来には無かった用法が使用され始めている。このような「-さ」に関 する変化は、なぜ起こったのだろうか?

・「状態を表わす名詞」は、「美人」以外にも野心家、紳士、自慢、勉強家など「すごく、とても」

などの程度を示す形容詞の副詞用法や副詞などが直接修飾する名詞がある。しかし、こ のような名詞に「-さ」を付加しても、一般的には認められないものとなるはずである。そうする と「美人さ」という名詞にも疑問が残る。ここは素直に「美しい」+「〜さ」である「美しさ」でいいの ではないだろうか。作例かどうかも分からず、出自が定かではない。この「美人さ」の使用例につ いても調べたい。

・関連資料には、「元気さ」「親切さ」「スポーティさ」といった、これまであまり耳にしなかった語彙が 挙げられているが、これらの語彙は、実際にどの程度使用されているのだろうか。

先行研究では、活用について、動詞化接辞「-る」、名詞化接辞「―さ」について言及さ れてはいるものの、それを「言語変化」であるとは指摘していない。

3.1.2 新しい語彙に関する先行研究

次に、新しい語彙を作る方法に言及した先行研究を挙げ、問題点を指摘する。

「若者語を科学する」 米川明彦(1998:51)

省略による造語

a 上略:元の語形がわかりにくい ○(わ)ざとらしい/(友)達 b 中略:形容詞に多い ○うっと(おし)い/きも(ち悪)い c 下略:三拍語になる例が多い ○アクセ(サリー)/お気に(入り)

d 二か所以上を省略:稀 ○コンサ(ー)バ(ティブ)/(う)るせ(ぇ)

e 複合語の各要素の上部を省略: 稀 ○(自動)車(学)校 f 複合語の各要素の下部を省略: 各要素省略2拍+2 拍⇒4拍 g 複合語前項要素の上部と後項要素下部省略:

22 「日本語文法大辞典」P.272 「その美人さで恋人がいないなんて」という例が挙げてあるが、2012年の現 時点では不自然である。

(27)

20

h 複合語前項要素の下部と後項要素上部省略:

i 複合語の前項要素の下部だけを省略: ○ポケ(ット)ベル

j 複合語の後項要素の下部だけ省略: ○朝一(番)/自己中(心)

k 文や句を短縮:省略の最も進んだ形態 ○きれ(いな)カジ(ュアル) どた(んばで)キャン(セル) l 複合語の三か所を省略: ○セ(ー)ラ(ー服)コン(プレックス)

長い拍数を持つ語彙を省略する場合、3拍または4拍に語彙を省略するのを好む傾向が窺えると している。2000年代には使用されていない語彙も多くある。

新書「口のきき方」 梶原しげる (2003:130) では、調査対象が明示されていない。

「超 MM」:流行っていると言われた二〇〇一年はじめ、都内の若者二〇〇人に調査したと ころ、例外なく全員が、そんな言葉を日常的に使ったことなど一度も無いという答えでした。

以上のように、どのような調査をどのように実施したかも不明である。特に「超」や「MM」「MK」など、

他の語彙との関連を調査するべきだが、「超 MM」という語彙についての調査にとどまっている。

「日本語ウォッチング」 井上史雄 (1998:75)では、新しい表現である「みたく」について言及され ている。(下線および数字は筆者。)

新しい形容詞の誕生といえば、「……のように」にあたる言い方が、形容詞と同じ活用を とろうとしている例がある。「みたい」「みたく」で、「バカみたい」「鳥みたく飛びたい」のように 使われるようになった。

この「みたい23」は最後がイで終わるので、「固い」「冷たい」などの形容詞とそっくりにひび く。形容詞なら「固く」「冷たく」というクの付く形がある。さらに、①「酒を飲みたい」「顔を見た い」などの助動詞タイとも形がそっくりで、「飲みたく(なる)」「見たく(ない)」などという活用形 にならって、「・・・・・みたく」が生まれたと考えられる。

(略)「みたく」も形容詞のようにふるまっていることをみた。前にふれたように、形容詞は 現代語では生産力を失って、新たなことばを生み出すことがないように見えても、活用体系 を保って、他の語もまきこむ力はまだもっているわけである。

(「うざい」について)流行語とは違う。少しずつ広がっており、②長期的な言語変化の反映 として扱うことができる。現在の日本語はさらに大きな変化、国際化に見舞われている。

③具体的に目立つのは英語の影響であり、雨傘のたとえを拡大すると、上から降る雨に 相当する。

23 筆者注:本来は「〜みたいだ」で、「だ」が脱落しているが井上(1998)ではこのまま記載されている。

(28)

21

この著書で示された分析については、次のような問題点がある。

①助動詞「タイ」、つまり「飲みたい」「見たい」とは活用の仕方が似ているが、「…みたく」を付加し て造る「新しい形容詞」とは異なる。

②「うざい24」の語源である方言が時間をかけて広がって、東京に流入し、全国へ広がった、という 経緯があるため、「長期的な言語変化」だが、「い形容詞」活用へ統一化の可能性もある。

③「新しい形容詞」の造語にも関連することであるが、英語から新しい単語を作る場合「な形容詞」

を造るが、「い形容詞」へと活用が統合されているかどうかについては言及されていない。

以上のように、井上(1998)は新しい使用例を取り上げたという点では斬新であるが、量的・質的研 究分析ではなく、どのように結論を導き出したのか明らかではない。

「現代形容詞用法辞典」 飛田良文・浅田秀子(1991:ⅸ25

日常の会話やテレビドラマなどに頻出し、慣れ親しんでいる俗語(「ヤバイ」「ダサい」

「がめつい」「けったくそわるい」など)や使用者が多いと思われる方言的な語(「あほくさい」

「かったるい」「ぼろい」など)も、記述できる範囲でできるだけとりあげるよう努めた。

さらに、他の語について形容詞を作る造語成分(「-らしい」「-がましい」「-ぽい」「-た らしい」など)も個別にとりあげた。これらは従来の学校文法において、接尾語扱いされたり 助動詞扱いされたりして文法上の位置が定まっていなかったため、まとまった解説があまり ほどこされなかった語群である。

この著書で取り上げられているものは「形容詞の新用法」と関係があるもので、作例を用いて説明 されているが、作例では実態をつかめたとは言えない。

これらも新しく語彙を増やしていく際に使われている。特に、「造語成分」については文法化の章26 で、その「文法上の位置」についても言及する。

「日本語使い方考え方辞典」 北原保雄監修(2003)

形容動詞 (pp.180-183) 白川 博之

造語力の高さでは形容詞をしのぎ、日本語の語彙の拡大に貢献している。(略)いずれに しても、形容詞のほかに形容動詞という品詞があるおかげで、日本語はその文法体系を 少しも損なうことなく簡単に外来の語彙を取り入れることができていることは確かである。

この辞典で白川は、日本語ではない外来語に「~だ」を付けることで、新しい形容動詞を作ること ができると指摘しているが、この造語法は外来語が中心で、日本語の他の品詞を形容詞・形容動 詞にする場合について触れられていない。

24 「うざったい」が短縮したもの

25 「本書の特色と使い方」より。

26 5章「文法化とその過程」で述べる。

(29)

22

更に、「新世代の言語学」飯野他(2003:71)では「若者言葉」について、「若者言葉は常に変化し ているし、若者以外の人でも使う場合もある。それを踏まえたうえで、ここでは最近取りあげられて いる『若者言葉』の特徴を見てみよう。まず、若者言葉は語彙レベルに顕著に現れる。短縮したり2 つのことばを混ぜ合わせたりと様々な方法で新しいことばを創りだす。」としている。

そして、いくつか具体例を挙げている。

次にアクセント・発音にみられる若者言葉の特徴もある。アクセントの平板化では「カレシ」

や「かなり」などがよく取りあげられている。(略)相手の知らないことをまるで知っているかの ように共感・同意を求める用法の「~じゃないですか」もある。この用法では初対面の人に 「私って英語がだめじゃないですか」と言ったりする。さらに、「~ってゆうかぁ」と言って話を 切り出す言い方や「あした、試験とかあるし・・・」の「~とか」、「あの人、かっこいいみたい な・・・」の「~みたいな」といった一連のぼかし表現もある。」というものである。しかし、ここに 挙げてある例は不自然なものが多く、出自も明らかでない上、言語学的な分析は行われて いない。

以上のように、先行研究でも 1990 年代後半から 2000 年代にかけて新しく出て来た語彙や表現に 関する記述はあるものの、分析については問題があると言える。

3.1.3 先行研究の問題点

本章で見てきた先行研究では、全体的に ・分析の使用例の出自が不明。

・分析対象の用法が曖昧。

・分析が断片的で全体が概観出来ない。

といった点に共通した問題があった。「若者言葉」に関する先行研究もある特定の語彙を分 析したものが多く、それぞれの語彙の形態的・統語的・意味的な変化については言及され ていない。つまり、「若者言葉」の側面は見られるものの全体的な把握ができず、言語変化 の一端を担っていることも証明できていない。

以上のことをふまえ、本論文では ・活用について

・語彙について

以上2点を明らかにするために、自然談話を中心に分析を進め、「言語変化」とどのように 関わっているのかを見る。

3.2 本研究の位置づけ

ここでは、本研究が言語学的にどのような位置づけにあるのかを明確にする。

(30)

23

3.2.1

本研究における言語学的観点との関わり

2 章および 3 章であげた先行研究では、現代日本語の中でも「若者言葉」で起こってい る現象の一部について研究がなされていた。しかし、言語学的観点の細かい分析はあまり 行われてこなかったというのが現状である。特に、作例のみを使用したものや、少数の例 のみで分析されたものがあるため、「若者言葉」を学問の一領域として確立できなかったと 言えよう。

そこで本研究では、先行研究で取り上げられた現象について多角的に見るだけでなく、

実際の使用例を用いることで、実証していく。

具体的にどのような言語学的観点で分析を進めるべきかを検討し、本論文では社会言語 学的観点を中心に分析を進める。

これまでの研究からも、コミュニケーションにより言語は多様に変化することが分かっ ている。そこで、現代日本語の中でも「若者27」の年代における言語現象について、その変 化を捉える。また、社会的属性だけでなく、会話やコミュニケーションを分析することに より、その実態を明らかにするという点において、社会言語学的観点との関わりがある。

認知言語学的視点から、若者が使用している語彙や用法について、その言語運用の面を ふまえた分析と説明を試みる。特に、意味については語用論的側面も含め、言語運用によ る実態を把握する。

27 本論文では、2章で示した「若者言葉」の定義にもあるように「中学生から20代の男女」を「若者」とし ている。

Figure 3.2 Schema of the development of auxiliary be going to

参照

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