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波が生み出す動物の模様と形

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Academic year: 2021

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(1)

近 藤   滋

Shigeru KONDO

 我々の研究グループでは、反応拡散理論という数 理モデルを用いて、動物の体に発生するさまざまな 空間パターンを作り出す原理を解明しようとしてい ます。この理論を説明するのはちょっと面倒なので すが、一言で言ってしまうと、動物の形を決める位 置の情報は 化学反応の波である 、ということに なります。なんだそりゃ?と思われる方がほとんど だと思われますが、以下を読んでいただければ、な るほど、と思っていただけると思います。

 生物の反応は振動するのが普通

 普段あまり意識されないことですが、動物の体に は時間的な周期現象が多くあります。たとえば、全 ての動植物には概日リズムという体内時計が備わっ ており、太陽が出なくても約 24 時間の周期で、活 動状況が変わることは広く知られています。飛行機 で海外に移動したときになど、時差を感じるのは、

体内時計のリセットに時間がかかるからです。また、

性周期なども、人間の体に時間的な振動現象がある ことを身近に感じる例です。もっと小さいレベルで、

たとえば細胞レベルでも、多くの振動現象が見つか っています。細胞にカルシウムをパルス的に与える と、細胞がカルシウムの放出と吸収の振動をするこ とは、よく知られています。これはもちろん振動の 周期的な鼓動と関係しています。また、皆さんが大

学の生物学の講義で習ったグルコースの分解過程(解 糖系)も、簡単に振動が起きる例です。反応系のあ るステップで、大量の中間産物が溜まると反応形の 進行を止めるスイッチがはたらき、無くなると再び 反応が始まるので振動になるのです。(振動は pH の変化で測定できる。)一般に細胞内で起きる反応 系には、ほとんどの場合、過剰な反応をとめる安全 装置がついており、行き過ぎると元に戻そうという 効果が現れます。だから、振動は実はあちこちで起 きています。

 振動が伝われば波になる

 振動が細胞単位で起きるだけなら、特に面白いこ とはそれほどありません。しかし、個々の細胞は、

周囲の多くの細胞との間に、ホルモンや低分子を解 した密接な相互依存関係があります。物理的に言え ば、共役振動子になっているわけです。ですから、

位相の同期や位相の伝播による波が起きることは、

むしろ当然といえるのです。心臓の 4 つの部屋が、

うまく順番に収縮していくのは、カルシウムの波が 心臓を走り、順番に筋細胞の収縮を刺激するからで す。もう 1 つ、面白い例を紹介しましょう。

 上の図は、マウスの皮膚にできた毛形成の縞模様 です。一見非常に奇妙なことに、この縞模様は頭か らお尻に向かって、ゆっくり(30 日で1cm くらい)

移動していきます。ものすごく不思議な現象ですが、

− 38 − 1959年9月生

京都大学大学院 医学研究科 博士課程 修了(1988年)

現在、大阪大学大学院 生命機能研究科 時空生物学講座パターン形成研究室 教授 医科学博士 発生生物学 TEL:06-6879-7975

FAX:06-6879-7977

E-mail:[email protected]

Patterns and shapes made by the reaction-diffusion waves

生 産 と 技 術  第62巻 第2号(2010)

研究室紹介

波が生み出す動物の模様と形

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原理は実に簡単です。哺乳動物の毛根には、実は周 期性があります。毛は「育っては抜ける」を繰り返 して密度を保っているのです。人などでは、その位 相がばらばらなので、特に目立ちません。また、夏 と冬で毛が生え変わる動物は、その位相がそろって いるのです。毛根の細胞は通常休眠状態にあり、外 からのホルモン刺激により活性化し、毛を作り出し ます。面白いことに活性化した毛根は、周囲を活性 化させるホルモンを放出するので、活性化の波が出 現することになります。前頁の写真のマウスは、い ったん生えた毛が直ぐに抜けてしまうので、何周期 もの波が見え続けるという仕掛けになっています。

 動かない波

 化学反応によって起きる波には、もう 1 つ別の種 類の、生物にとっては極めて重要性の高い波、「動 かない波(定在波)」が有ります。そのような波の 存在を理論的に予想したのがアラン・チューリング

(計算機科学の創始者のチューリングと同一人物)

であり、この波のことをチューリング波と呼んでい ます。この動かない波を作るのには、ちょっと複雑 な反応のネットワークが必要になります。

 個々の反応はとりあえず何でも良いのですが、右 上の図のように正のフィードバックと負のフィード バックが同時に存在し(これが振動を生み出すため

の必要条件)、さらに正のフィードバックが伝わる 距離が、負のフィードバックのそれよりも短いよう にするのです。具体的には、反応の活性化を促すホ ルモンと抑制を促すホルモンがあり、抑制ホルモン の拡散の方が早い、ということであれば、チューリ ング波形成の条件を充たします。

 このチューリング波には、驚くべき性質がありま す。ランダムな状態からスタートしても、秩序のあ るパターンが自律的に現れるのです。(波なのです から、当たり前といえばそうなのですが。)しかも、

少し計算のパラメータを変えるだけで、さまざまな 動物のパターンが出現します。

 上の図は、皮膚模様の例ですが、他にもいろいろ な動物の構造が簡単に作れるのです。チューリング

は、この動かない波が動物の体を作る基本原理であ ると考えました。

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生 産 と 技 術  第62巻 第2号(2010)

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 チューリング波が存在する証拠

 このチューリングの画期的なアイデアは、斬新過 ぎてほとんどの生物学者には信じられていなかった のですが、我々の研究室で、実際にこの波が存在す る証拠を見つけています。

 上図は、ゼブラフィッシュの縞の一部を消したと きに起きる模様変化と、それをチューリングの理論 で予想したシミュレーションです。このように、模 様は固定したパターンではなく、シミュレーション

で予測されるとおりの動的な性質を持っていること が証明されます。現在我々の研究室では、ゼブラフ ィッシュを使って模様形成を行っている分子メカニ ズムの完全な同定を目指しており、それもほぼ完成 に近づいてきました。分子が解ると何か良いことが あるのか?と思われる方もおられるかと思いますが、

実際良いことがあるのです。実は模様を変化させる 遺伝子のいくつかは、体の骨のプロポーションを変 化させる遺伝子と同じ種類のものであることがわか っています。ということは、もしかすると体の形を 作っているのは「波」ということになるかも知れま せん。これは、なかなかに刺激的なアイデアです。

古典力学の時代が終わり量子力学が作られたとき、「万 物は波である」という全く新しい真理が存在するこ とがわかりました。それは、生物の体ができる仕組 みにも共通しているかも知れないのです。

(最後の 1 文は、眉につばをつけて読んでください。)

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生 産 と 技 術  第62巻 第2号(2010)

参照

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