九州大学学術情報リポジトリ
Kyushu University Institutional Repository
量子強誘電体を温度計とするマイクロカロリーメー タに関する研究
善本, 翔大
https://doi.org/10.15017/1931900
出版情報:Kyushu University, 2017, 博士(工学), 課程博士 バージョン:
権利関係:
氏 名 論 文 名 区 分
(様式 2)
善本期大
量 子 強 誘 電 体 を 温 度 計 と す る マ イ ク ロ カ ロ リ ー メ ー タ に 関 す る 研 究
甲
論 文 内 容 の 要 旨
マイクロカロリ←メータは,100m K領域の極低温に保持された熱容量が非常に小さな物質に入射 した放射線を,エネルギー吸収に伴う温度上昇として計測する高エネルギー分解能放射線検出器で、
ある.超伝導転移端センサー型マイクロカロリーメータは,汎用的な半導体検出器より l桁以上優 れたエネルギ一分解能で、の X線検出を実証しているが,超伝導量子干渉素子増幅器で検出信号を読 み出すため厳密な磁気遮蔽が不可欠であり,その動作に必要な電流通電に伴うノイズが性能限界の 要因となっている.一方,極低温において静電容量が温度とともに変化する量子強誘電体を温度計 として利用すると,温度上昇に伴う静電容量変化により誘起きれる電荷量を市販の電荷有感型前置 増幅器で読み出すことで,放射線エネルギーの測定が可能で、ある.このような誘電体温度計型マイ
クロカロリーメータ(DMC)は,磁気遮蔽を必要とせず電流通電に伴うノイズ発生がないため,取 り扱いが簡便な新しいマイクロカロリーメータとして期待される.しかしながら, DMCによる放射 線検出信号は確認されているが,放射線検出器の安定動作を裏付ける検出信号パルス波高分布の計 測例はない.
そこで本研究では, DMCが放射線検出器として安定に動作することを実証するために, lk以下 の極低温領域における誘電体試料の静電容量を詳細に測定して探索した量子強誘電体で DMCを組 み立て, DMCのアルファ線に対する検出信号パルス波高分布を計測した.本論文は,これらの研究 成果をまとめたものであり,次の7章から構成される.
第l章では,本研究の背景と目的について述べた.
第2章では,まず', DMCの動作原理と電荷有感型前置増幅器による検出信号読み出し方法につい て説明するとともに,一般的な放射線検出器と比較した DMCの優位性を示した.次に,電荷有感 型前置増幅器から出力される検出信号に含まれる代表的なノイズをモデ、ル化し,エネルギーが数 回VのX線検出に適した形状を有する DMCの到達可能なエネルギー分解能と誘電体温度計感度と の関係を調べた.
第3章では,まず,強誘電体,量子常誘電体および量子強誘電体の誘電特性について説明した.
次に量子強誘電体について調査し,ペロプスカイト構造を有する KTact‑xJNbx03 (KTN)はxの値を 調整することで, lk以下の極低温領域における誘電率の温度変化を制御できると予測し,X= 0.0065
および X= 0.01のKTN温度計を試作した.
第4章では,DMCの動作温度を安定に保持するために必要な3He‑4He希釈冷凍機について述べた.
まず, DMCの単体動作試験を行うために無冷媒希釈冷凍機を整備した.次に,多ピクセルイじされた DMCの同時動作試験を想定し,希釈冷凍機に 384本の信号線を導入し,循環カ、、ス調整等を行い 100 m K以下の温度を安定に保持するこ とに成功した.
第5章では,試作したKTN温度計の静電容量測定について述べた.冷凍機内部に取り付けたKTN
温度計誌料と冷凍機外部の測定回路を接続する長さ 2mの信号配線には 100pF程度の浮遊容量が付 随する.本研究では, 100m Kから室温までの温度範囲での静電容量測定手法を確立した.確立した 手法でX= 0.0065とX= 0.01のKTN温度計について静電容量を測定した結果, x=0.01のKTN温度 計が量子強誘電体への相転移を示し,さらに I K以下の温度領域で DMCの温度計として十分に使 用可能で、ある平均3pF/Kの温度感度を有することを確認した.
第6章では, X
=
0.01のKTN温度計を使用して組み立てた DMCのアルファ線検出信号パルス波 高分布測定について述べた.KTN温度計の温度感度と熱容量の関係から予測した最適動作温度の 400 mKに保持した DMCを直流電圧で、バイアスしてアルファ線を照射した場合は,検出信号パルス 波高分布を計測することができなかった. しかし,アルファ線検出信号の立ち上がり時定数の周波 数帯域に対して 5桁低い 0.01Hzの周波数を有する正弦波電圧でDMCをバイアスし,検出信号を最 適なフィルタ回路系で波形整形処理することで,アルファ線エネルギーに対応するピーク構造を有 する検出信号パルス波高分布を初めて計測した.これにより DMCが放射線検出器として安定に動 作することが実証された.第7章では,本論文をまとめ,今後の課題と展望を示した.