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脳波測定によるミス・驚愕及び 疲労状態の検知に関する研究

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法政大学大学院理工学・工学研究科紀要 Vol.55(2014年3月) 法政大学

脳波測定によるミス・驚愕及び 疲労状態の検知に関する研究

STUDY ON DETECTION OF ERROR RESPONSE, STARTLE RESPONSE AND FATIGUE STATE USING ANALYZED EEG SIGNALS

佐藤孝則 Takanori Sato 指導教員 石井千春 教授

法政大学大学院工学研究科機械工学専攻修士課程

In endoscopic surgery, surgeon's operation mistake and fatigue may result in serious malpractice. Motivated by this fact, in this paper, detection of error response, startle response and fatigue state is investigated based on the measurement of electroencephalogram (EEG). The detection of error response and startle response is examined by Wavelet-transform analysis and amplitude variation of waveform of the filtered EEG through Flanker task and Go/No-go task for error response and sudden balloon burst for startle response, respectively.

The detection of fatigue state is examined by Fourier-transform analysis of the EEG through advanced trail making test under lack of sleep and long hours work. As for the startle response and error response by Go/No-go task, detection rate of more than 80% was obtained, and for the error response by Flanker task, detection rate of more than 60% was obtained. On the other hand, as for the detection of fatigue state, although the feature of fatigue was observed under the lack of sleep, the feature of fatigue was not observed under the long hours work.

Key Words : Electroencephalogram (EEG), error response and startle response, fatigue state

1. 緒論

近年,外科手術において従来の開腹手術に代わり,内 視鏡外科手術による症例が臨床で増えてきている.内視 鏡外科手術は,体の数カ所に孔をあけ,そこに内視鏡カ メラと医療鉗子を挿入し,手術を行うものである.体表 を傷つける範囲が狭いため,術後の痛みも小さく,回復 が早いのが特徴である.しかし,患部を内視鏡カメラで 見ながら,細長い鉗子で作業を行うため,医師には高い 技術が要求されることが多く,通常の開腹手術に比べ,

医療事故の発生率も高い.そのため,内視鏡外科手術ト レーニングのためのシミュレーションシステムが各研究 機関にて開発されている.

文献[1]では,内視鏡外科手術における手術糸の結紮操 作に対して,通常操作,特異操作時の生体信号及び器具 の扱い方の変化に着目し,両腕での動作の自動識別を行 い,その中でも縫合不全との関連性が高い糸結び動作に ついて,表面筋電図(SEMG)と鉗子操作量の特徴量の組 み合わせにより,自己組織化マップ(SOM)を用いた特 異操作判別を行った.また,学習させたSOMを用いてオ ンラインで糸結び動作の特異操作判別を行い,特異操作

時に術者に警告を与えることで,医療鉗子による結紮操 作を安全に行うための特異操作提示システムを構築し,

手術支援に対する生体信号の有用性の検証を行った.

内視鏡外科手術は内視鏡カメラによる映像と,術者の みが感じる手術鉗子からの感覚情報を基に手術を行う.

そのため,術者が判断を行う比重が大きく,正確な指示 及び処理を行う高いスキルや経験が求められる.しかし,

術者の疲労や経験不足による判断ミス,ミスの見過ごし や隠蔽などから,重大な医療事故に発展してしまう事案 が報告されている.

生体信号は人間の見た目にはわからない小さな変化を 測定することが可能である.特に人間の疲労や感情変化 を観察することができる生体信号として脳波(EEG)が 挙げられる.Panagiotis ら[2]は感情変化時の脳波につい てHOC手法を用いて解析を行い,その特徴を抽出するこ とで,6種類の感情の変化を約60%の識別率で判別した.

沼野ら[3]は船舶運転シミュレータにおいてヒヤリ・ハッ トが発生した際の生体信号を測定した.脳波は個人差が 大きく一定変化を観測することはできなかったが,ヒヤ リ・ハットの瞬間に脳波の変化が発生したことを報告し

(2)

ている.

また,疲労状態はヒューマンエラーの発生原因となる ことも多く,様々な作業現場にて対策が練られ,事故の 予防を目指している.実際に医療の現場でも Jeffrey ら [4]の統計により,医師が睡眠不足や長時間労働による疲 労状態で手術を行った場合,医療事故発生率が増加する 事が報告されている.

脳波を用いた内視鏡手術支援システムとして,医師の 感情変化や疲労度の変化を観察し,事故が発生しやすい 環境やミスの発生を検知し,周囲に伝達することで,迅 速な対応を可能とし,重大な事故の発生を防ぐシステム の構築が必要とされている.

本研究では,そのための基礎研究として,脳波を用い てミス・驚愕反応及び疲労状態を検知することを目的と している.具体的には,高速フーリエ変換,ウェーブレ ット変換を用いた周波数解析,及び事象関連電位(ERP)

を用いて,脳波特徴や傾向を抽出し,ミス・驚愕反応及 び疲労状態を検出することを試みる.

2. 脳波(EEG)

(1)脳波

脳波(ElectroEncephaloGram:EEG)とは脳内神経細胞 の電気活動を頭皮上あるいは脳深部に設置した電極によ って測定,記録したものである.医療の臨床検査で測定 した波形を直接記録,観察することでてんかんをはじめ とした脳に関連する障害,疾患の診断に用いられている.

また,被験者に刺激を与えた場合に,誘発電位等の脳 波の変化を測定することができ,その特徴から刺激に対 してどのような反応しているか,どの程度感情変化が起 きているか,などを観測することができる.実際に音刺 激に対して発生する誘発電位の有無が,脳死判定の判定 材料の一つとなっている.近年,解析技術の進歩から工 学的分野での開発が著しく,多くの研究機関で BMI

(Brain-Machine Interface)と呼ばれる,脳波の解析結果か ら判断し,動作する機器の開発が進められている.

(2)測定方法

脳波の測定には株式会社デジテックス研究所製生体信 号記録装置 PolymateⅡを用いる.測定時はアクティブ電 極に脳波測定用ペーストを塗り,髪の毛をかき分けるよ うにして,頭皮上に貼り付ける.貼り付け位置はFig.1に 示す脳波測定時に一般的に用いられる国際 10-20 法に準 拠し,より特徴が測定できると考えられる測定点を決定 した.

本研究では測定する頭部電極の基準となるグランド電 極及びリファレンス電極を両耳朶のA1及びA2に設置し,

刺激に対する反応脳波である誘発電位を観測しやすく,

首の運動や瞬き等による筋電にノイズの影響を受けにく い頭頂部測定点Cz,及び脳疲労状態を観察しやすく,頭 頂部との相関を観察できる前頭頂部Fz及び後頭頂部Pz,

脳覚醒度の変化が現れやすい後頭部測定点 O1 の脳波を

測定する.また,脳波電位の測定方法には以下の 2 種類 の方法が存在する.

a)単極誘導電位

グランド電極A1と他電極との電位を測定し,リファレ ンス電極 A2 電位と各頭部電極電位を差分化することで 測定する.頭部電極位置で発生している電位を頭部電極 間で比較することが可能である.

本研究でも,同様に単極誘導電位を測定し,脳波の特 徴を抽出するため解析を行う.測定時においてサンプリ ング周波数は,十分な脳波の変化観測とデータ処理速度 の観点から200Hzとし,外部ノイズの影響を少なくする ため,60Hzまでのローパスフィルタ及び,交流ノイズの 影響を減少させるノッチフィルタを通した脳波を記録す る.

b)双極誘導電位

A1と各電極との電位を測定し,各頭部電極電位同士を 差分化することで測定する.体動ノイズ等の頭部全体で 発生する電位変化の特徴を相殺し,局在的な電位変化を 観察することができる.しかし,頭部全体で発生する体 動ノイズ等の影響を抑えることできる反面,測定できる 脳波特徴も小さくなってしまうため,本研究では測定は 行わない.

Fig.1 International 10-20 Electrode System 3. 脳波の周波数解析

(1)脳波の種類

脳波は被験者の状態や感情に応じて優位となる周波数 帯が異なる.一般的に用いられるものとして,Table 1に 示す脳波及び特徴がある.脳波の周波数解析を行い,各 波形の周波数帯におけるスペクトル量を比較することで,

被験者の状態を推定することができる.

本研究では被験者覚醒時に優位発生するθ,α,β波 周波数帯に注目し,驚愕,ミス反応及び疲労状態におけ る脳波変化の観察を行う.

(3)

Table1 Characteristic of Each Brain Wave

NAME BAND

[Hz] Characteristic

δ

0.5~3 Slow-wave Sleep NonREM Sleep

θ

4~7 Drowsiness or

Arousal

Slow Wave of α Wave

α

Low α(α1) 8~10 Relaxed Wakeful Relaxation High α(α2) 11~13 Relaxed Centered State

β

Low β(β1) 14~17 Active or Busy Anxious Thinking High β(β2) 18~20 Active or Busy Strong Anxious

Thinking

(2)高速フーリエ変換を用いた周波数解析

フーリエ変換による周波数解析を用いて,各波形の周 波数帯におけるスペクトル平均値の算出を行う.測定し

た脳波EEGch(n)に対して,式(1)を用いて高速フーリエ変換

による周波数解析を行い,式(2)を用いて各波形の周波数 帯におけるスペクトル量の絶対平均値を算出する.

フーリエ変換による周波数解析ではサンプル区間Nを 長くとるほど,精密な解析が可能となるが,区間内の時 間応答性がなくなってしまうため,瞬間的なスペクトル 変化を観察することは難しい.本研究では長期的変化が 予測される疲労状態の検知の周波数解析に用いる.

ここで,nは各波形周波数帯のスペクトルサンプル数,

Fch(kf)は高速フーリエ変換により得た周波数成分kfにおけ

るスペクトル値である.

(3)ウェーブレット変換を用いた周波数解析

ウェーブレット変換はウェーブレット関数を基底とし た周波数解析法の一種であり,マザーウェーブレットの 伸縮と平行移動を行った際の類似性の高さから,その周 波数におけるスペクトル量を算出する方法である.Fig.2 に示すようにフーリエ変換による解析では失われてしま う時間領域情報を残し,高い時間応答性を有した解析が 可能となる.

本研究ではMATLAB/Wavelet toolboxを用い,基底とな るマザーウェーブレットとして,式(3)に示す複素 Molet ウェーブレットφ(t)を作成する.作成したφ(t)を基に式(4) を用いて,時間周波数局在性が良い複素離散ウェーブレ ット変換を行う. その後,Table1に示したθ,α,β波周 波数帯ごとのスペクトル平均値を算出する.

ここで,fb は帯域幅,fc は中心周波数を示し,これら の値を変更することでマザーウェーブレットの周波数と 窓の幅を決定する.また,aはφ(t)の拡大縮小の比率を決 定するスケールパラメータ,bφ(t)の時間方向へのシフ ト量を表すシフトパラメータである.

Fig.2 Analysis of Sine Wave by Wavelet-transform 4. 事象関連電位(ERP)と驚愕反応

(1)事象関連電位(ERP)

ERP(Event-Related Potential)とは,人間が内的・外的 刺激を受けた際の認知や思考の結果として,刺激後数百 ms程度後に,脳が反応する電気的生理反応である.物理 的な刺激に対して発生する,誘発電位と対比されること が多い.

刺激時の脳波を測定により観測することが可能である が,ERP の振幅は非常に小さく,脳波には多くの脳活動 状況や外部ノイズが同時に現れる.そのため,正確な観 測を行うためには,刺激時刻に時間を合わせて, 100回 以上の加算平均をする必要がある.

しかし,刺激の大きさに比例して発生するERPの振幅 が大きくなる特徴があり,既に代表的なERPでは加算平 均すること無く特徴の抽出が行われていることから,ミ ス・驚愕反応に関しても,特徴を抽出することが可能で あると考えられる.

(2)エラー関連陰性電位(ERN)

ERN(Error-Related Negativity)はERPの一種であり,

特に人間が失敗(エラー)を起こした際に観測される陰 性電位である.エラーを犯した瞬間を基準として,加算 平均することで特徴を検出することができる非常に小さ な電位である.

Hajcakら[5]は,実験中のミスを犯した課題成果を周囲

に公開するという前提条件をつけることで,試験への重 要度の高さとERNの特徴に比例関係があることを実証し た.

本研究でもミスに対する反応脳波の特徴を大きくする ため,実験課題に重要度を上昇させる要素を取り入れる.

(3)驚愕反応と脳波

驚愕とは人間が予期していない事象を体験した際に発 生する瞬間的な感情変化である.人間が大きな刺激に対 して驚愕した際,刺激後の短い間,脳波では驚愕反応と 呼ばれる数 Hz 未満の長期誘発電位を観測することがで

(4)

きる.物理現象に対する誘発電位であるため,ERP とは 異なるが,似た特徴を持つ.

本研究では重大なミスが,予期しない事象であること から,ミスを発生した際に,被験者も驚愕に近い状態と なるのではないかと考え,ミス反応と驚愕反応の特徴の 比較を行う.

5. ミス・驚愕反応の検出

(1)驚愕反応の検出

驚愕反応は被験者に対し,強い刺激を与えることで観 測する.刺激は個人差が少なく,同様に驚愕するものが 望ましい.本研究では,作業中の被験者に対し,予告せ ずに至近距離での風船破裂を行い,その際の脳波を測定 し,驚愕反応とする.

(2)フランカー課題

ミス反応は 2種類の試験を行い,試験中にミスを犯し た際の脳波を測定し,解析を行う.フランカー課題は選 択式注意課題の一種で,エラーを誘発させる課題として,

ERN等の観測にもよく用いられている.

本研究ではFig.3に示すような矢印の中で中心に現れる 矢印の向きを正確且つ,できるだけ早く回答させ,エラ ーした際の脳波を測定する.

Fig.3 Flanker Task

(3)Go/No-go課題

Go/No-go 課題は,素早く反応しなければならない Go

課題と,Go課題に似ているが反応してはならないNo-go 課題をランダムに提示し,被験者の反応から認知判断力 を測定する課題である.

本 研 究 で は cougnitive.fun[6] に 掲 載 さ れ て い る

Go/No-go課題を用いる.Fig.4に示す課題に対し,Go課

題に対する反応に400ms以上かかった場合,またはNo-go 課題に対し反応をしてしまった場合をエラーとし,その 際の脳波を測定する.

Fig. 4 Go / No-go Task

6. 疲労状態の検出

(1)疲労状態

疲労とは長時間の作業等により発生すると考えられる,

休養への欲求や倦怠感を伴う状態であり,主観的な状態 であるため,正確な定義はなされていないが,作業のパ フォーマンス低下等から定義されることが多い.

本研究では疲労状態に発生すると考えられている脳波 の変化に着目し,疲労時及び健常時の脳波比較,長時間 作業に対する脳波推移の観察を行い,疲労状態を検出す る.

(2)ATMT法

ATMT法(Advanced Trail Making Test)は梶本[7]によ り開発された試験方法で,Fig.5に示すような複数の数字 を,正確に素早く順番通り選んでいく試験であり,数字 を選ぶのにかかる時間から,被験者の疲労状態を推定で きる.この試験は日本疲労学会により,被験者の疲労評 価項目の一つとして認められており,本研究においても,

脳波結果との比較を行う.また,この試験を長時間行う ことでも,疲労状態を誘発することができる.

本研究では,株式会社インターチャネルホルンより市 販されている簡易ATMT法ソフトであるアタマスキャン による試験を複数回連続で行った際の脳波,及びパフォ ーマンス変化の比較を行う.

Fig. 5 Advanced Trail Making Test

(3)疲労試験

本研究では以下の 2種類の疲労状態を対象とし,疲労 状態の検知を行う.

a)睡眠不足による疲労

睡眠不足状態は作業パフォーマンス低下等,疲労状態 に近い症状が現れる.また,睡眠不足の場合,健常時に 比べて作業パフォーマンス低下が早くなり,疲労しやす い状態であると考えられる.

本研究では健常時及び睡眠不足状態における複数回の ATMT法において,疲労の発生の様子を観察する.

b)長時間作業による疲労

疲労は主観的な感覚であり,本人の気分の高揚等に左 右されやすく,一定の疲労状態を作り出すことは難しい.

実験で疲労状態を発生させる場合,個人差が小さく,精 神的負荷の高い,長時間に渡る単純作業が望ましいと考 えられる.

(5)

本研究では単純作業として内田クレペリン精神検査を 行う.この検査は一分間,単純計算問題を可能な限り多 く解かせる試験を,合計30回繰り返し行い,その結果か ら被験者の性格や疲労強度を推察するものである.実験 ではこの検査の計算部分のみを模したものを負荷として 用いる.

(4)疲労とα波

α 波は人間の活動状態が変化する際に最も大きな変化 が現れる脳波である.一般的に α波は人間が安静または 作業等に集中している際に優位に現れる.これは脳がリ ラックスしている状態が最も集中できると言われる所以 でもある.

しかし,人間が疲労し覚醒度の低下が起きると,頭部 のα波の連続性が乏しくなり,周波数や振幅の低下が 発生する.実際に清水ら[8]は蛍光灯の色による被験者の 精神的疲労を脳波の α 波の中で最も振幅が大きいピーク 周波数帯が低下することで,被験者の精神的疲労を判断 している.また,精神的疲労は認知力の低下を招くとさ れ,認知症患者の脳波では α波のピーク周波数が低いこ とが報告されている.

本研究では,測定した脳波に対し,フーリエ変換によ る周波数解析を行い,α波周波数推移を観察する.

7. 実験

脳波によるミス・驚愕反応及び疲労状態の検知のため,

Table2に示す手法で実験を行い,脳波特徴を観察する.

Table2 Experimental Overview Experiment for Detection of Error and Startle Response Detection Target Experimental Method Analysis Method

Error Response Flanker Task Frequency Analysis

(Wavelet-transform) Amplitude Variation of

Waveform Filtered by Low Pass Filter Go/No-go Task

Startle Response Bursting Balloon

Experiment for Detection of Fatigue State Detection Target Experimental Method Analysis Method Fatigue State by

Lack of Sleep ATMT

Frequency Analysis

(Fast Fourier Transform)

Normal State Fatigue State by

Long Hours Work

Uchida‐Kraepelin Psychodiagnostic Test

ATMT

(1)ミス・驚愕反応の検知

本研究では脳波計を装着している被験者に対し,フラ ンカー課題及び Go/No-go 課題の施行及び風船破裂によ る驚愕反応の測定を行う.20~22歳の8名の健常男性を 実験被験者とする.

a)ミス反応の測定

被験者に対し,フランカー課題 20 問を 1 回とし,10 回の試験を行った.試験中に被験者がミスをした時間を

記録し,脳波の変化を観察した.また,20問の試験を全 て正解した試験に対し,複数の被験者による反応時間の 競争,結果公開,優秀者への報酬を設定し,被験者の試 験に対する重要度の上昇を図った.

同様にGo/No-go課題ついても,1度エラーが発生をす

るまでの連続成功回数を記録とし,合計で 3回の記録を 行った.この課題においても,複数の被験者による記録 の競争,結果公開,優秀者への報酬を設定し,被験者の 試験に対する重要度の上昇を図った.

b)驚愕反応の測定

被験者が課題に取り組んでいる最中に,予告なしで至 近距離の風船破裂を起こし,その際の反応を驚愕反応と して測定した.

c)検知方法

ミス・驚愕反応の検知には事象関連電位等の観察に適 する頭頂部Fz,Cz,Pzの電位を用いた.特徴が小さく,

単極での観測は難しかったため,3ch の電位を足しあわ せた電位を解析した.特徴解析にはウェーブレット変換 による周波数解析とローパスフィルタを通した原波形解 析を用いた.解析はミス・驚愕反応がおきる5s前からの データを対象とし,Table1に示したθ波(4~7Hz),α1 波(8~10Hz),α2波(11~13Hz), β1波(14~17Hz),

β2 波(18~20Hz)の周波数帯域のスペクトル平均及び

0~2Hzのローパスフィルタを通した脳波波形の振幅を算

出した.

(2)疲労状態の検知

本研究では2 種類の疲労による変化を観察し,その特 徴から疲労状態の検知を行う.

a)睡眠不足による疲労検知

本実験は24歳の健常男性1名を被験者とし,30時間 以 上 の 連 続 覚 醒 に よ る 睡 眠 不 足 状 態 と , 健 常 状 態 で ATMT法を30回(70分程度)行い,作業パフォーマン スの低下と脳波変化の比較を行った.また,ATMT法の 成績の中でも反応の速さを示す俊敏度の数値を試験のパ フォーマンスとした.

b)長時間作業による疲労検知

本実験は20~22歳の健常男性3名の被験者とし,内田 クレペリン精神検査を 3回,及び検査の各回の前後に疲 労状態を評価するATMT法を5回ずつ行い,合計約150 分の長時間作業における疲労の様子を観察した.(Fig.6)

Fig.6 Flow of the Fatigue Experiment on Long Hours Work

(6)

c)検知方法

脳波による疲労状態の検知にはフーリエ変換による周 波数解析を用いた.Table1に示したθ波(4~7Hz),α1 波(8~10Hz),α2波(11~13Hz), β1波(14~17Hz),

β2波(18~20Hz)の周波数帯域を 409.6sごとの区間で 解析したスペクトル平均値を算出し,特徴量とした.

8. 実験結果

(1)ミス驚愕反応の検知 a)驚愕反応の特徴

Fig.7は被験者Aの驚愕反応に対し,ウェーブレット変

換による周波数解析したものである.

下図の色が赤いほど強いスペクトルが検出できている.

風船破裂に対して刺激直後にα,β周波数帯域に強い脳波 が発生し,その後低周波の脳波が発生している事がわか る.刺激直後に発生する急激なスペクトル増加は,強い 衝撃を受けた際に発生する身体硬直による体動ノイズで ある可能性も考えられるが,見た目では体動がほとんど 発生していなかった被験者に関しても,個人差はあるも のの,大凡同じ結果が得られていることから,この脳波 変化が驚愕反応における特徴であると考えられる.

Fig.7 Wavelet Analysis of Startle Response for Testee A b)ミス反応の特徴

Fig.8 は被験者 Aのフランカー課題におけるミス反応

に対し,ウェーブレット変換による周波数解析を行った ものである.

驚愕反応に比べ特徴は小さく,波形形状が一定ではな かったが,ミスが発生した直後にα 波周波数帯のスペク トル増加及び,その後の低周波脳波の発生は共通してい る.特にミス反応においては驚愕による体動は見られな かったことから,体動による影響である可能性は低く,

脳波としての特徴であると考えられる.

また,9s 付近に発生している脳波変化は体動によるノ イズであると考えられる.ミス反応と似た周波数特徴を 持つため,今回用いた解析方法では除去することが難し いと考えられる.

Fig.8 Wavelet Analysis of Error Response for Testee A c)ミス・驚愕反応の検知

以上の特徴からミス驚愕反応の検知が可能であるか実 験を行った.検知の特徴量は,ウェーブレット変換によ る周波数解析により算出したα(α1,α2),β(β1,β2)

波周波数帯域におけるスペクトル平均及び,ローパスフ ィルタによる低周波振幅を用いる.各特徴量について式

(5)を用いて0.2s区間(N=40)における絶対平均値を算出

する.その後,式(6)を用いて各特徴量の均質化を行い,

特徴量とする.

Table 3 Characteristics for Detection of Startle and Error Response

Wave Name BAND [Hz] Characteristics

α Low α (α1) 8~10 V1

High α (α2) 11~13 V2

β Low β (β1) 14~17 V3

High β (β2) 18~20 V4

Amplitude Variation 0~2 V5

ここで,featurexは各特徴量とし,MAVxはミス及び驚愕 反応が発生する前後5sにおける各特徴量の平均値を示す.

本実験ではTable 3に示す各特徴量Vxに対し,THx=2 の閾値を設定し,式(7)に示すように閾値を超えた場合,

その特徴量が増大したとする.ミス・驚愕反応は,α,β 波周波数帯スペクトル特徴量(V1V4)の増大が見られ た後,1s以内に低周波振幅特徴量(V5)の増大が見られ た場合に検知するものとした.

また,検知率の算出はミス・驚愕反応が発生する5s前 から解析したものとする.これは,試験開始から測定を 行うと体動ノイズ等が混入し,誤検知が非常に多くなっ てしまうためである.8 名の被験者における検知率を算 出したものをTable 4に示す.

(7)

Table4 Detection Rate of Startle Response and Error Response

Testee

Startle Response Error Response Balloon Burst Flanker Task Go/No-go Task Count Rate

[%] Count Rate

[%] Count Rate [%]

A 1/1 100 5/8 62.5 3/3 100

B 1/1 100 2/3 66.7 1/2 50

C 1/1 100 2/2 100 3/3 100

D 1/1 100 2/3 66.7 3/3 100

E 1/1 100 3/4 75 3/3 100

F 0/1 0 1/2 50 2/3 66.7

G 1/1 100 3/7 42.9 3/3 100

H 1/1 100 1/3 33.3 2/3 66.7

ALL 7/8 87.5 19/31 61.3 20/23 87

被験者によって検出率に差が発生しているが,驚愕反

応及びGo/No-go課題によるミス反応で80%以上,フラン

カー課題でのミス反応で60%以上の検出率を記録した.

(2)疲労状態の検知 a)睡眠不足による疲労検知

Fig.9に健常及び睡眠不足状態においてATMT法を行っ

た時のフーリエ変換による各周波数帯域特徴量を示す.

変化を観察しやすくするため,スペクトル値は最初の区 間の特徴量を100%として割合を算出している.

Fig.9 Spectrum Ratio of EEG on Lack of Sleep 睡眠不足状態では開始時から,全体のスペクトルが大 きく低下しており,終盤に回復する変化が見られる.ま た,α波周波数帯において,低周波数帯であるα1波のス ペクトル減少に比べ,高周波数帯であるα2の減少が大き い事がわかる.このことから,α波の低周波数化が発生し ていることが予測できる.また,健常時には全体のスペ クトル増加が見られ,疲労に関する特徴は見られなかっ た

各状態で30回行ったATMT法の試験に対して,10回 毎の測定周波数帯全体のスペクトル割合及び,α1,α2周 波数帯スペクトル割合,ATMT 法ソフトに付属している 選択速度の評価の成績の推移をTable 5に示す.

Table 5 Spectrum Ratio and Performance of ATMT on Lack of Sleep

State Lack of Sleep Normal

Times of

ATMT 0~10 10~20 20~30 0~10 10~20 20~30 ALL[%] 86.6 74.7 86.9 104.2 108.3 114.7

α1[%] 91.7 85.6 95.5 100.9 101.1 110.6 α2[%] 80.2 73.1 88.8 106.4 116 119.1 ATMT

Performance [%]

64.2 60.8 61.1 64.8 66.8 64.5

睡眠不足状態では全体スペクトル量の減少及び,α波 周波数帯の低周波化の発生に合わせて,ATMT 法の選択 速度が低下している事がわかる.このことから,脳波を 用いて睡眠不足での作業における疲労を検知することが 可能であると考えられる.また,健常状態ではATMTの 反応速後もほとんど変化せず,脳波にも疲労に関する変 化がないことから,健常状態と睡眠不足状態では同じ作 業量で発生する疲労が大きく異なることがわかる.

b)長時間作業による疲労検知

Fig.10 に 各 被 験 者 の 内 田 ク レ ペ リ ン 精 神 検 査 及 び ATMT 法における,長時間作業による脳波測定周波数帯 全体のスペクトル値変化を示す.変化を観察しやすくす るため,スペクトル値は最初の区間の特徴量を100%とし て割合を算出している.

Fig.10 Spectrum Ratio of EEG on Long Hours Work 本実験では合計150 分程度の作業を行ったが,実験を 通して,脳波において疲労に関する特徴を示す明確な特 徴は見られなかった.また,ATMT 法の選択速度の成績 に関しても同様に測定したが,個人差はあるものの疲労 による作業パフォーマンスの低下は見られなかった.

9. 考察

(1)ミス・驚愕反応の検知

ミス・驚愕反応共に反応直後にα,β波周波数帯域にス ペクトルが発生し,その後,低周波の発生が見られた.

しかし,波形の形状には個人差や状況の差による違いが

(8)

あり,共通の特徴は見られなかった.これはミスや風船 破裂の刺激に対して,各被験者の心情や重要度の違いが 見られたためであると考えられる.

また,ミス反応に関してGo/No-go課題の方が高い検知 率を記録したのは,ミスが発生しても試験が続くフラン カー課題と,ミスが発生したら試験が終了するGo/No-go 課題では,ミスの重要度が異なるためであると考えられ る.個人差に関しては,主観的な意見ではあるものの,

被験者に対して行った,ミスの重要性及び驚愕の度合い を問うアンケートにより,ミス・驚愕の捉え方に大きく 違いが現れることが分かった.よって,個人差の少ない 脳波反応を取得するには,実験方法の改善が必要になる と考えられる.

本実験においては,ミス・驚愕反応ともにα,β波周 波数帯スペクトル増大の後,低周波振幅が増大するとい う脳波の共通点から,ミス・驚愕反応の検知を行うこと ができた.しかし,体動やノイズとの明確な区別はでき ず,現時点において,本手法を実用することは難しいと 考えられる.解決案としては,体動ノイズの特徴を抽出 し除去する,または,体動を検知する他センサと組み合 わせることで,体動を考慮した検知に対応できると考え られる.

(2)疲労状態の検知

睡眠不足状態での作業に対して,作業パフォーマンス の低下に従って,疲労状態に発生する脳波特徴を確認で きたが,健常状態での長時間作業では2 種類の実験結果 を通してみても,その特徴は確認できなかった.これは 本実験では被験者が20歳前半のみであったため,長時間 の作業に対する耐性が高く,数時間程度の作業ではパフ ォーマンス低下を引き起こすほどの疲労をしなかったた めであると考えられる.解決案としては,作業時間を増 やし,パフォーマンスの低下が確認できるところまで疲 労させる,または,実験被験者の年齢層を増やすことで,

年代別の疲労出現を観察できると考えられる.

また,睡眠不足時に発生した疲労特徴は,試験が終盤 に近づくにつれて,回復する傾向が見られた.これに関 しては,主観的な意見ではあるが,長時間作業の最後に 近づくと,もう少しで終了するという気持ちから,集中 して作業に取り組めるという被験者からの意見があった.

よって,疲労が原因となるヒューマンエラーは作業の中 盤から終盤にかかる間のところを,最も注意すべきであ ることがわかった.

10.結論

本研究では,脳波を用いた内視鏡外科手術支援システ ム構築の基礎研究として,脳波によるミス・驚愕反応及 び疲労状態の検知を行った.

ミス・驚愕反応に関しては,被験者全員から共通した 特徴的な脳波形を観測することが出来なかったが,周波 数及び振幅の特徴から検知実験を行い,驚愕反応及び

Go/No-go課題によるミス反応に対し80%以上,フランカ

ー課題によるミス反応に対し 60%以上の検知率を記録し た.しかし,体動ノイズ等に対する考慮は出来ず,現時 点では実用的な検知とは言えなかった.

疲労状態の検知については,睡眠不足状態における作 業では,作業パフォーマンスの低下に従って,脳波にお いて疲労時に発生する特徴が見られ,検知が可能であっ た.しかし,健常状態での長時間作業では作業内容に関 わらず,疲労の特徴を抽出することは出来なかった.

本研究の結果から,脳波によるミス・驚愕反応及び疲 労状態の検知について,限定的ではあるが,特徴を抽出 することが出来た.しかし,今後内視鏡手術支援に用い るためには,頑健な検知方法の考案が必要である.

また,脳波を用いてリアルタイムに被験者の様子を観 察するシステムの開発はほとんど行われておらず,特に ミス・驚愕反応の工学的な応用例は少ないため,BMI へ の応用など,様々な発展が期待できる.

謝辞:指導教員として様々なご支援ご指導頂きました石 井千春教授,日常の議論を通した意見提供や,実験への 協力をして頂きました本研究室の学生皆様に感謝致しま す.

参考文献

1)佐藤孝則, 大場慎太郎, 石井千春, 中茎隆 : 結紮手技 に対する自己組織化マップを用いた特異操作判別と内 視鏡手術用特異操作提示システムの構築”, 電気学会研 究会資料, 産業計測制御研究会,pp.1-6, 2012

2)P. C. Petrantonakis, and L. J. Hadjileontiadis : Emotion Recognition From EEG Using Higher Order Crossings, IEEE Transaction on Information Technology in Biomedicine, Vol.14, No. 2, pp.186-197, 2010

3)沼野正義, 宮崎恵子, 丹羽康之, 福戸淳司, 田中邦彦, 岡崎忠胤 : 機関における運転作業時の人間の生理デー タの把握とこれに基づくヒューマンエラーの防止技術 の研究”, 海上技術安全研究所報告, Vo.2, No.6, 2002 4)J. M. Rothschild, et al. : Risks of Complications by

Attending Physicians After Performing Nighttime Procedures, the Journal of the American Medical Association, Vol.302, No.14, 2009

5)G. Hajcak, J.S. Moser, N. Yeung and R. F. Simons : On the ERN and the significance of errors, Psychophysiology, Vo.42, pp.151–160, 2005

6)http://cognitivefun.net

7)梶本修身 : ATMT を用いた疲労定量化法の開発, 疲労 と休養の科学,Vol.18, No.1, pp.13-19, 2003

8)清水規裕, 齋藤友幸, 福本一朗 : 色光環境制御による 精神疲労低減効果の研究”, 長岡技術科学大学, 研究報 告, No.25, pp.87-91, 2003

Fig. 5 Advanced Trail Making Test
Table 3 Characteristics for Detection of Startle and Error  Response
Table 5 Spectrum Ratio and Performance of ATMT on Lack of  Sleep

参照

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