富 山 医科薬科 大学 医学 部看 護学科早期体験 実 習
に対する学生の反応
塚田 ト キヱ1 , 馬竹美穂2, 落 合 宏1
1富 山医 科 薬 科 大 学 医学 部看護 学 科
2 富 山医 科 薬 科 大 学 大 学 院 医 学 研 究科
要 約
富山 医科薬 科 大 学 医 学 部看護 学科早 期 体 験 実 習(E a rly E xpo s u r e)・ に対 する学 生の受け とめ
方を 知る目 的で, 1 9 9 5 ‑1 9 9 7年の3 年間に わた り看 護 学科1 年生 計1 7 9名を 対象に アンケ ー ト 調 査 を行い , 回答率8 2.6 % を得た. 調 査 結 果は以 下のように要 約できた.
1) 実 習 施 設は 3 群(重 症 心身障 害 者 ・ 慢 性 疾 患, 知的 障 害 者 ・ 自 閉 症お よび 老 人 関 連 施 設 群)
に大 別 され た が, 学 生の分 布は 1 施 設 あたり3 .6人と均 等 な 分 布であっ た.
2) 9 0 % 以上の学 生が E a rly E xpo s u r e の目 的に かなっ た実 習であ り, それ故によい体 験であっ た と受けと めてい た.
3) 記 載 され て いたコ メ ントを 併せ て考慮 すると, 早 期 体 験 実 習は, 入 学 動 機や今 後の進 路 を 考え 直 すの に よい機会になっ た ものと考 えら れた.
4) し か しなが ら,実 習 先へ の交 通手段, 実 習 前の施 設や基 本 的 な 介 護 技 術に関 する情 報 提 供の 点で改善の余地のあることが指摘 された.
これらの結 果 か ら, 本実習は教育効 果の面で充 分機能 しているものと考え ら れ た.
キ ー ワ ー ド
早 期 体 験 実 習, 看 護 学 科 学 生, 学 生の反 応, 教 育 効 果
は じ めに
富 山 医 科 薬 科 大 学 医 学 部 看 護 学科 (以 下本学 科)
にお ける医 学 概論 (19 97 年度か ら医療概論に変更)
は専 門 教 育科目の中で 1 年次 前 期 と 最 も 早 く から 開 講さ れて い る. ま た 講 義の 一 環 と して夏季 休 業 を 利 用し 4 日に わ たって学 外の医療 機 関や福 祉 施 設 を 使 用 し早 期 体 験 実 習(E a rly E xp o s u r e) を 開設 当 初より 行っ て いる. こ の実 習は専門教 育が 開始 され る前に, 心身障 害 者や高 齢 者等に接し,
介 護 等の体 験 を 通じ て入 学 動 機の再 確 認, これ か らの4 年 間に わたる看 護 専 門 教 育 を受ける にあ た り 学 習 意 欲の維 持 ・ 向上およ び将 来の医療 人に ふ
さわしい人 格の養 成と意 識の確立に役立て ること を 目 的としている. そのた め実 習は. 重 症 心 身 障 害 者 ・ 慢 性 疾 患 を 対象と して い る国 立 療 養 所(県 外3 施 設お よ び県内1 施 設), 知 的 障害者 ・ 自 閉 症 関 連 施設お よ び特 別養護 老 人ホ ー ム ・ 老 人 病 院 ・ 老 人 保 健 施 設 を 中心とする老 人 関 連 施 設とい っ た
多様な施 設で行わ れ てい る.
既に 5 回の実 習が経験 され た が, その都 度レポ ー ト に基づく 報 告 会の要 旨や個 人 感 想 文 を 中 心とし
て記 録 集 を発 刊 してき た ト 5). また レポ ー トと共 に アンケ ー ト に より, 学 生の本 実 習の受 け 止め方 を 答 えてもら っ ている. 丁 度ア ンケ ー ト を 開 始し て 3 年を経 過 したことから, 早 期 体 験 実 習の実 施
状 況の把 撞お よ び学 生の反 応 を まと め る よ い機 会 と考え, こ こに調 査 結 果 を報告 したい.
研 究 方 法 1 . 対象
1 9 9 5年度, 1 9 9 6年度 および1 9 9 7年度に本 学 科に 入 学 し, 1 年次で早 期 体 験実習に参加 し た 学 生 1 7 9名 ( 女子学生1 7 5名, 男 子学生4 名) を 調 査対
象と した. 2 . 調 査 方 法
早 期体験 実 習のガ イダン ス に際 し(6 月に開催), 自 記 式質問 紙 を 配布し, 回答は実 習終了 後1 0日 以 内に郵 送 また は持参する方 法に より 回収 した.
設 問は, 実 習の実 施 状 況 (図1 . 設 問A ‑ E) と実習 内 容とその関 連事項に対 する学 生の受け止 め方(図2 . 設 問F ‑ M ) か らなる が, 回答以 外 に意 見 を自由に記 しても らっ た. なお実 習内容は 施 設に より多少 異 なるが, 食事 ・ 入 浴 ・ 排壮に際 しての介助 ・ 誘 導が 中 心であ り, そ れに清掃や入 所 者 送 迎等が加わって いる.
質問紙の回 収 率は, 1 9 9 5年度8 1.4 % , 1 9 9 6年度 8 3.1 % お よ び1 9 9 7年度は8 3.3 % であ り 平 均 する と 8 2.6 % であっ た. 無 回答者 数は毎年1 0名であっ た.
これ らの学 生は 1 ‑ 2 施 設に集 中しており (1 9 9 5
年国 立療養 所1 施 設, 1 9 9 6 ・ 19 9 7年老 人施設各2 施設), その代表者に無回答の理 由 を 問 うたとこ
ろ, 特に本 実 習に対 して懐 疑 ・ 拒 否 的 な理 由はな く, レポー ト内容 と重 複 すること が主 な理 由であっ
た. 従っ て, 以 下の記 載は無 回答者の意 見が本 調 査の結果 ・ 結論に影響を 与 え ない こと を前提にし
ている.
結 果. 1 . 実 習 施 設と学 生の参加 状 況
入 院 ・ 入 所 ( 一 部は利 用) 対象者 を 指 標にし実 習 施 設 を 次の3 群に分 類し た.
・ A 群 : 重 症 心身障 害 者 ・ 慢 性 疾 患 関 連 施 設( 県 内 外の国 立療養所)
・ B 群 : 知 的 障 害 者 ・ 自 閉症 関 連 施 設(S 苑, M 囲 およびY ・ Y 園
・ C 群 : 老人 関 連 施 設 (特 別 養 護 老 人ホ ー ム ・ 老 人 病 院 ・ 老人 保 健 施 設)
上記の3 群の異 なる施 設に おける実 習 参 加 学 生 数 を 表1 に示 した. 3 年間での ベ4 9施 設で実 習が 行わ れ た が, そのう ちお よそ2 / 3 にあた る3 1施 諺(6 3 .3 %) は C 群であ り, 残 りは A 群が 10 施 設
表1 . 施 設 種 別に み た実 習参加 学 生の数
A 群 B 群
重 症 心 身 障 害 者 ・ 知 的 障 害 者 ・
年 度 慢 性 疾 患 関 連 施 設 自 閉 症 関 連 施 設 老 人 関 連 施 設 合 計
1 9 95 年 1 4 / 4 * 8 / 2 ( 3.5) ( 4.0 )
1 9 9 6 年 9 / 3 1 0 / 3 ( 3.0) 一 (3.3)
1 9 9 7 年 1 2 / 3 1 I / 3 ( 4.0) (3.7 )
3 年 間 3 5 / 1 0 2 9 / 8 平 均 ( 3.5 ) (3 .6)
3 7 / 1 0 ( 3 .7 )
4 1 / 1 2 ( 3 .4)
3 7 / 9 ( 4.1)
1 1 5 / 3 1 ( 3.7)
5 9 / 1 6 ( 3.7)
6 0 / 1 8
( 3 .3 ) 6 0 / 1 5
( 4.0)
1 7 9 / 4 9 ( 3.6 )
実 習 参 加 学 生 数 / 施 設 数 (下段 括 弧は1 施 設 あた り の学 生 数)
お よびB 群が 8 施 設であっ た. これ ら施 設へ の学 生の分布も, 各群の施 設数に ほ ぼ比 例 してお り,
A 群が3 5名, B 群 が2 9名およびC 群が1 1 5名であっ た. その結 果1 施 設 あたりの学 生 数は3 .5 ‑3 .7 人 (平 均3 .6 人) と近 接 してい た.
2 . 早 期 体 験 実 習の実 施 状 況
実 習の実 施 状 況 を 早 期 体 験 実 習の ハ ー ドウェ ア と して捉 え,選 択 理 由 ・ 交 通手段お よび 宿 泊 実 習
の有 無につ いて調べ た. また関連 する問 題 と して 実 習 設 定 時 期と 日数に対 する学 生の反 応 を 調 査 し た(図1).
設 問A の実 習 先 を 選 択 する時 どのようにして選 んだかでは,最 も多か っ たの が 「友 人 と 相 談 して 選ん だ」 で7 1名 (4 8.2 %)であ っ た. 次に 「 交 通
の便 を考えた」 もの3 2名 (2 1.7 %) , 「 得た情 報」
に よ るもの2 5名 (1 7.1 %) であっ た. その他の理 由が1 9名 (1 3.0 %) い た が, 記 載 され て い たコ メ ント をみ る と, その他の理 由のほ と ん ど が ク ラ ブ
図1 . 早 期 体 験 実 習の実 施 状 況に関 する調 査 成績 (1 99 5 ‑1 99 7年3 年間の平 均)
設 問A 実 習 先の選 択 理 由 は?
設 問8 実 習 先への往 復 方 法 は?
二三二
̲̲̲三 三 E f 言一I‑‑i
設 問C 宿・;白 実 習であった か ?
設 問D 実 習の時 期は適 当であった か?
設 問E 実 習の 日数は適 当であったか?
活 動の 日程に帰 因するものであった. 但 し, 1 学 年につ いて数名で はあるが,
・ 老 人ホ ー ムより 得るものが多い と感 じた
・ 普 段 接 する機 会のない自 閉症の方々に接 するこ との 出 来る好 機 会と考 えた
・ 先 輩の記 録 集の感 想に感 動して選 択 した
等と はっ き りと した選 択 理 由 を 記 した学 生 も 認め た.
設 問B の実 習 往 復 時の交 通の手段に関 する質 問
に は, 半 数 以 上の9 3名(6 3 .3 %) のものが自 動車 を 利 用 し たと答 えて いた. その内 訳は, マイカ ー や友人の車利 用4 7名 (3 2.1 %) と 先 輩や家族の車 利 用4 6名 (3 1.2 %) であった. 公 共の交 通 機 関 利 用は約1 / 3 の4 3名(2 9.4 %) であ り, 自 転 車 あ
るい は タ ク シ ー 利 用 も1 1名(7 .3 %) と わずか で
はある が認め ら れ た.
次に宿 泊 実 習の有無につ いては (設 問C ) , 有
と答 えた例 を 施 設 数か ら み る と, 1 9 9 5年 度, 1 9 9 6
年度お よ び1 9 9 7年 度でそれぞれ 5 施 設 (3 1.2 %) ,
7 施 設(3 8.9 %) お よ び 5 施 設 (3 3.3 %) であり,
3 年間 を 通し て み る と, の ベ17 施 設 (3 4.7 %) に のぼ っ た. これを 学 生 数か ら み る と, 1 9 9 5年 度,
19 9 6年 度お よ び1 9 9 7年度でそれ ぞ れ1 7名(2 8.8 %),
2 3名(3 9 .0 %) お よ び1 9名 (3 1.2 %) であ り, 3 年 間で計5 9名 (3 3.2 %) であっ た.
設 問D の実 習の設 定 時 期に関し て は, 1 年次 夏 季休業という時 期が適 当と答えた学 生 は 8 5 名 (5 7.7 %) であっ た. また設 問E の4 日 間に わ た る実 習日数に関しては, 1 1 1 名 (7 6.0 %) の学 生 が適 当と回 答して いる。 こ の質 問に対して短 かっ た と答えた学 生が2 9名(2 4 .3 %) あっ た こと が注
目 さ れ た.
3 . 早 期 体 験 実 習に対 する学 生の受け 止め方
こ の こと に関しては, 上記 参 加 学 生の施 設 分 布 と実 習の実 施 状 況に関 する設 問に対 照さ せ,
い わ ば 実 習の ソ フト ウ ェ アとして捉 え, 図2 に示し た 設 問F ‑ M の7 つで学 生の受 け 止め方 を 問うた.
これ らの設 問は, その 意 図 する とこ ろが 一 部 重 複 し明確に は区 分でき ないが, 実 習の目 的にそっ て 便 宜上, 1) 入 学 動 機の再 確 認 (設 問F ・ G),
2) 学 習 意 欲の維 持 ・ 向上 (設 問H ・ ∫), 3) 医療 人としての意 識の確立(設 問K ‑‑M ) の3 つ
図2 . 早 期 体 験 実 習に対 する学 生の受け 止め方に関 す る調 査 成績 (1 99 5 ‑1 99 7年3 年間の平 均)
設問F 体 牧夫 習の目的にかなって い た か ?
設問G 自分にとってよい体 壌であった か?
設何H 捷 会が あれば もう一度実 習へ行って み た い か?
S UE]lJ 後輩に こ の実習 を薦めたいか?
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設問K 実習 前後で施設の イ メージは変 わった か?
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設問L 実習中牲 鼻ならと思った ことがあった か?
設 問M 実 習中施 設利用 者な らと思った ことb(あった かつ
のカ テゴリ ー に区分 し検 討 した.
1) 入 学 動 機の再 確 認
設 問F の 「 早 期 体 験 実 習と して の 目 的に かなっ
てい た か」 で は, 1 3 3名 (9 0 .7 %) の学 生が 「か なっ て いた」 と回答し てい た. 但し, 「 なんと も 云 え ない」 と 回答した学 生 を13 名 (8.6 %) 認め
た. 「 か なっ て いない」 と答 え た ものは 3 年間 を 通し て19 9 7年度の1 名のみ であっ た ( しか し,こ の学 生はその理 由は記 して いな かっ た が, 次の設 問の 「 自 分に と っ てよ い 体 験 だっ た」 かで は,
「よい体 験 だっ た」 と回答し て いた) .
設 問G の 「こ の実 習は自分に とっ て よい体 験だっ
た か」 をみ ると, 否 定 した学 生は 3 年 間 を 通 じて 1 人 も な く, 「 なん とも云え ない」 と回 答し たも
のを2 名 (1 .3 %) 認め たもの の, そ れ 以 外の1 4 5 名 (9 8 .7 %) の学 生は 「よ い体 験 をし た」 と回 答
してい た.
両 設 問に関 するコ メ ントは 「 なん とも云 え ない」 と回答した学 生に は見 当たら ず, 肯 定 的 な 回 答 を 寄せ た学 生に集 中 して い た. 代表的 な ものを 列 挙
すると,
・ 看 護 を 志 す 者としての準備が できた よう な気が する
・ 1 年次の早い時 期に実 習が行わ れ たことで土 台 ができた と思 う
・ 自 分の入 学 動 機や今後の進 路 を 考 え 直 すよい機 会であっ た
・ 看 護の知 識 を身に付 ける前 段 階の こ の素のま ま
の時に, 暗 中模 索で肌と肌, 心と心で触れあ え た意 味は大 きい. こ の体 験は将 来 役に立つ と自 信 を もっ て云 える
等であっ た.
2) 学 習 意 欲の向上 ・ 維 持
設 問H の 「 機 会があれば も う 一 度 実 習へ行 っ て み た いか」 では, 「 行 きたい」 と回 答し た学 生が 1 1 1名(7 5 .7 %), 「 行 きたく ない」 と回 答し た学 生 は 3 名(2 .0 %) であっ た. 「 も う 一 度 行 きたい」 と答えた学 生のコ メ ントとして,
・ 自 分の無 知さを 痛 感し たの で, 是 非 も う 一 度 同 じ施 設に行 っ て何でも 吸 収し たい
・ やり 残し てきたものがあ り も う 一 度 行 きたい
・ 今度は違っ た施 設(病 院や保 健 所) で実 習 して
み たい
等が記 載さ れてい た.
設 問 J の 「 後 輩にこ の実 習 を 薦め たいか」 につ
い ては, 「 薦め たい」 と回 答 し た学 生 は 13 0 名 (8 8.3 %) , 否 定 した学 生が 1 名 (0 .7 %) であっ
た. 数名の学 生は, 「絶 対役立つ の で是 非 継 続 し て や っ てもらいたい」, 「 絶 対に行 っ て損はない.
これ か らの人 生 そのものに役 立つ の で是 非 薦め た
い」 等とコ メントを記し てい た. A 群の施 設で実 習 をし た 1 名の学 生は, 「 得るもの があ り 後 輩に 薦め たい が, 病 棟の雰 囲気等で耐 え 難い面 も あり, 事前に重 症 心 身 障 害 者や施 設の情 報 を 与 えるべき
だ」 と記して いた.
両 設 問に対して 「 何とも云え ない」 と答 えた学 生は前 者3 3名 (2 2.3 %), 後 者1 6名 (l l.0 %) で あ り, 1 名 から 「 後 輩は, 事前に ビ デ オを 見る と よ い」 との意 見が寄せ ら れ た. 「 行 きたく ない」 と回 答し た学 生か らの コ メ ント は無か っ た.
3) 医 療 人として の意 識の確 立
設 問K の 「 実 習先のイメ ー ジ が実 習前 後で変わっ