1
〈論 説 〉
日本 の 産 業 組 織 と企 業 ㈱
戦前 ・戦後 の比較 分 析
伊 藤 修
TheIndustrialOrganizationandtheFirminJapan:
AComparativeAnalysisofPre‑andPostWWIIPeriod
O.正toh
S皿mmary
Thispaperanalysesthecontents,causesandresultso£thechangewhichtookplace duringtheperiodbefore,duringandafterWorldWarIIinJapaneseindustrialorgani‑
zationandfirms.Theconclusionscanbesummarizedasfollows:
Theimportantchangeinthemarketstructurewasnotonlythegeneraldeclineofthe concentrationratiosbuttheequalizationofthescalesofseveralmajorenterprisesin eachindustry.Themainfactorsinvolvedweretherapidgrowthofdemandandthe enforcementofstructuralpolicies.Theresultsofthisbecametheframeworkforthe realizationofHigh‑growth,undercertainotherconditions.4ntheotherhand,many smallbusinessesenteredtheheavyindustriesmarketsandformedthe"thickbottom
layer"oftheindustrialpyramid,andthisalsobecameonefactorincompetetive markets.ThedeclineofpersonalcontrolduetothedissolutionofZaibatsuinthebig
businesssetterandthatofwholesalemerchants'ruleduetothewartimeeconomic controlpolicyinthesmallbusinesssectortransformedoneimportantpartofthe
(*) 本稿は、,岩波書店 『日本経済 史』シ リー一ズ第7巻 『計画 化 と民主 化』(1988年12月 刊行 予定)第4章 「戦時 ・戦後 の産 業 と企業」(宮 崎正康 ・伊藤修)の 筆者担 当部 分の原案に手 を加 えた ものであ る。上記論文 は,テ キス トとして の性格上,叙 述 を包 括 的にす るため原 案を大幅に修 正 してい る。本稿で は対 象を限定 したかわ り に,一 部 に よ り詳 細な検討が加 えられ てい る。
2商 経 論 叢 第24巻 第1号
」apaneseeconomicsystem.Mainfactorswhichformed"borrowingdependentcorporate finance"werethelevel‑upofinvestmentandthereductionandsubdi
visionoffinancial assets.
ResultsofthesechangesstronglyinfluencedthefeaturesofHigh ‑growth
,aftercertain
modificationsduring1950‑1955 .
目 次
は じめに
1市 場構造 の変化
2財 閥 ・企業 系 列の動 向 3企 業金 融の変 化
まとめ
は じ め に
戦後 日本 の高 度成 長 と,産 業組 織 お よび企 業 経営 のあ り方 とが どの よ うに関 連 して いた かは ・ ひ じ ょ うに興味 深 い テー マで あ る。 また 実際 に内外 の多 くの 論者 が・ この点 につ い て 「過 当競争 体質 」「日本 株 式 会社」「長 期 指 向経 営」「オ ーバ ー ・ボ ロイ ン グ」等 々の特 徴づ け を行 な い
,多 くの議論 が交 わ され た。
高度成 長 の 前段 を なす こ とか ら当然,第2次 大 戦前後 の変動 が産 業 組織 と企 業 に与 えた インパ ク トも注 目された 。 よ く知 られ てい るの は,集 中排 除政 策 に よる産 業 集 中 の低 下 ・ 財 閥解体 ・独 占禁 止 に よる企 業 の 自律化 とい った 戦後 改 革関 連措 置 の 「競 争化効 果」 であ ろ う。 ほ とん どの 著述が この点 に 言及 して い る。 ところが 意外 な こ とに,包 括的 な形 で の 整理 は な され てい ない ので あ る。 本 稿 はtい ま述べ た 問題 す なわ ち戦 前 ・戦後 に か け て 産 業 組織(特 に市
の
場 構造)と 企 業 経 営 の 領 域 に 生 じ た 変 化 の 内 容 ・原 因 ・結 果 一一 に つ い て,ま とま った 事 実 の 定 式 化 とそ の 説 明 を 与 え る こ とを 目的 と し て い る。 具 体 的 に 取 り扱 わ れ る 問 題 群 は 以 下 の とお りで あ る。
1で は ・ ① 市場 構 造(マ ー ケ ッ ト・シ ェア分布)を 類 型 化 し た 場 合,(a)そ こ に 全 体 と し て どの よ うな 変 化 が み られ るかsま た ㈲ 変 化 パ ター ソ に は どの よ うな 種 類 の も のが 見 出 さ れ るか 。 ② そ うし た 変 化 の 要 因 は 何 か 。 ③ 以 上 の 大 企 業 セ
日本 の産 業 組織 と企 業3
ク タ ー に お け る意 義 は 何 か 。 ④ 中 小 企 業 セ ク タ ー に お け る意 義 は 何 か 。
2で は,い ま1つ の 側 面 で あ る企 業 間 結 合 に つ い て,⑤(a)戦 時 お よび(b)戦 後 に お け る財 閥 の動 向 は い か に ま とめ られ る か 。 ⑥ 中 小 企 業 の 系 列 関 係 に お け る 主 要 な 変 化 は 何 か 。 また そ れ ら の⑦ 原 因 お よび ⑧ 結 果 は 何 で あ った か 。
3で は,⑨ 以上 に 対 応 し て(a)企 業 の バ ラ ソ ス ・シ ー トお よび(b}フmの 企 業 金 融 に 生 じた 変 化 は 何 か 。 ⑩ そ の 要 因 は い か に 説 明 され る か 。 ⑪ また そ の こ と
が 日本 の 金 融 シ ス テ ム総 体 に与 え た 影 響 は 何 か 。
これ ら の 問 い に 対 す る 回 答 は,本 稿 の 末 尾 に お い て 要 約 さ れ て い る。
戦 時 経 済 で は,平 常 の 経 済 メ カ ニ ズ ム が 人 為 的 要 素 に よ っ て大 幅1,rYv偏奇 させ られ た り,構 造 変 化 を 受 け る の は 事 実 で あ る。 し か しy通 常 考 え られ る よ り も は るか に 大 き な 部 分 が 市 場 メ カ ニ ズ ム の 作 用 を 介 し て 理 解 さ れ,そ れ に よ っ て 戦 前 経 済 と戦 後 経 済 は 「空 白 」 な し に 論 理 的 に 接 続 す る,と 筆 者 は 考 え て い る。
こ の 観 点 の 一 部 は 以 下 に お い て 立 証 さ れ る は ず で あ る。
1市 場構 造 の変化
1‑1市 場 構 造 の 類 型 と そ の 変 化
戦 後 に お け る産 業 集 中度 の低 下 につ い て 述 べ る場 合,表1に ま とめ られ た デ ー タ の 一 部(数 産業 のケース)を 例 示 す る も の が ほ と ん ど で あ る1)。 あ らた め て 同 表 を み る と,戦 前 か ら戦 後 に か け て 各 段 階 累 積 集 中 度 の 低 下 した 産 業 が 多 数 を 占め,た し か に産 業 集 中 は 全 般 的 に低 下 した とい っ て よい 。 そ の ほ か,α 上 位1社 集 中 度 で 最 も低 下 が 顕 著 で あ り,以 下 は し だ い に低 下 産 業 数 が 減 少 し, か わ っ て 不 変 ・不 明 が 増 加 す る こ と,12戦 後 の1949年 か ら1955年 に か け て 集 中 度 低 下 が さ ら に 進 展 す る(特 に上 位10社 集 中度 で 低下 傾向が 明瞭 になる のは1955年 に 至 ってか らで あ る)こ と,な どが 知 られ る 。
し か し こ の 表 か ら は,よ り詳 し く,産 業 別 の 変 化 パ タ ー ン に み ら れ る 規 則 性 や,そ の 要 因 を 把 握 す る こ とは で き な い 。 そ こで,以 下 で は 市 場 構造 を 類 型 区 分 し,そ の 変 化 パ タ ー ソ を 抽 出 す る こ とを 試 み よ う2)。
そ の場 合,通 常 の よ うに 上 位 数 社 の 累 積 集 中 度 に 注 目す る の で は な く,こ の
4商 経 論 叢i第24巻 第1号
表1累 積 集 中 度 の 戦 前 ・戦 後 変 化(変 化 方 向 別 産 業 数)=1937→1949 (カ ッ コ 内1937→1955)
一
CRユCR3 CRSCR1。
12{11) 12(11) 11(8) 11(7)
32(33) 27(32) 2330) 17(26)
3{3) 4(2) sC5) g(io)
o(o) 4(2) 7(4) 10(4)
47(47) 47{47) 47(47) 47{47)
(注)
1.CR,は 上 位1..累 積 集 中 度(原 則 と して 生 産 数 量 べ 一 ス)。
2.「 不 変 」 は 変 化 の 絶 対 値 が1%ポ ィ γ ト未 満 の も の 。 3.r不 明 」 は 主 と し て 零 細 企 業 が 多 く デ ー タの な い 場 合 。 4.サ ン プ ル 産 業 は 表3の 注 を 参 照 。
(資 料)公 正 取 引 委 員 会 『厨本 産 業 集 中 の 実 態 』 東 洋 経 済 新 報 社,工957年,よ り作 成 。
表2市 場構造の類型化
単 独 大企業 ド輝
リーダー モデ ル図 小分類 大 分類 定 義
A型 Qxx '//独 占 型
/独 占 型
S,"90%
B型 oxo
囮 き:二1部分 独 占型' S1;1⊇40%,S2<10%
C型 OOx
鵬 描2鞠 不塒 分
s≧10%$一&≧15刎 燈 撒S… く10%1 D型 QOO
謄}3層 型隙 占型 蝋&一&≧1劃 鰹 翫 1く 祠
E型 XOX
晶 寡 占 型瞬 分布 鵬 糊 馴 纒 撒 ,1<10%己
F型 xoO 晶 三ミ:三寡 占 ・ ドト℃Ft'fi71型r寡占型
鵬 隅 く1叫艇 撒踊o%1
G型 xOO 囹 斎 大企 業1社 型 一 ‑
H型1
1
XxO ・睾 ・ 原 子 型 一 S,x:10
1注1
1,モ デ ル図 の國 は単 独 リー ダ ー,臼 は寡 占的 大 企 業,…:…は 中 小 企 業 層 を示 す。
2.定 義 のStは シ ェ ア1位 企 業 の シェ ア,CRiは 上 位i社 累 積 集 中度 を示 す 。
期 間 の 実 際 の 変 化 の 特 徴 を で き る だ け 明 示 し う る よ う 考 慮 し て,各 企 業 の シ ェ ア格 差 に 注 目す る。 す なわ ち,(a)単 独 で 相 当 の 市 場 支 配 力 を もち うる と考 え ら れ る 単 独 リ ー ダ ー(い わ ゆ る 支 配 的 企 業d。m{nant丘rmに 近 い 〉,(b)寡 占 的 大 企 業,
日本 の産 業 組 織 と企 業5
表3各 類型帰属産業の推移
[
1937年 1949年 1955年
産 業 番 号
膿業
産 業 番 号勝 産 業 番 号 壁
副
(0)2 (1)21(1)
B型4,27,28,36,40,45 (6)38,40,45 (3)40,45 (2)
C型 D型
E型 F型
G型
H型
十一ヨロ
2,3,6,9,15,23,25,34{S}7,9,23,25
(4)17,23
(2)7,10,12,13,22 (5)3,4,6,12,15,21,22,
36
24 (1}34
1,5,S,11,14,16,17, 18,19,20,21,29,31, 33,39,41,44,46,47
(19)1,5,S,10,11,13,14, 16,17,18,19,24,26, 27,28,29,3i,33,41, 43,44,46
2◎3q3職3&42‑(7) 43
zo,30,35,37
32 (1)32,39,42,47
(47)
(8)9,13,22,36 (4)
(・)1・ ・,25,31,34
i(4)
(22)
(4)
(4)
(47)
1,3,4,5,6,8,10,2,1(23) 14,17,18,19,20,21, 24,26,27,28,33,38, 43,44,46
1.5,16,30,35 (4)
29,32,37,39,41,42,(7}
47
k47)
(注)
1.各 産 業 の 番 号 は 以 下 の とお り。
1石 炭2原 油(採 掘)3銑 鉄4普 通 鋼 材5フ ェ ロ ア ロ イ6電 気 銅7ア ル ミニ ウ ム 8亜 鉛 鍍 鉄 板9鋳 …鉄 管10造 船11機 関 車12客 車13貨 市14電 動 機15ベ ア リソ グ16
ミシ ソ17苛 性 ソ ー ダ18硫 安19石 灰 窒 素20過 燐 酸 石 灰21合 成 染 料22セ ル ロ イ ド生 地 23フ ィル ム24自 動 市 タ イ ヤ ・チ ュー ブ25板 ガ ラ ス26セ メソ ト27パ ル プ28洋 紙29綿 紡 績30製 糸31人 絹32綿 織 物33製 粉34ピ ー ル35し ょ うゆ36バ タ ー37マ ッチ38 電 力39海 運40通 運41倉 庫42銀 行43損 害 保 険44生 命 保 険45グ ル タ ミ ン 酸 ソ … ダ
46精 糖47貿 易
2.1937,1949年 の 項 に は 一 部 年 次 の 若 干 異 な る デ ー タ を 含 む 。
(資 料)公 正 取 引 委 員 会 『日本 に お け る 経 済 力 集 中 の 実 態 』 実 業 之 日本 社,1951年,同 『日 本 産 業 集 中 の 実 態 』 東 洋 経 済 新 報 社,1957年,よ り作 成 。
(C)中小 企 業 層 な い し 下 位 層(い わゆ る競争的 周辺部competitivefringeに 近 し・),が そ れ ぞ れ 存 在 す る か 否 か とい う3つ の 基 準 を 設 定 し,そ の組 み 合 わ せ に よ って 表2の よ うにA型 〜H型 の8類 型 に 区 分 し た 。 も ち ろ ん,各 産 業 の もつ 個 性 の
6商 経 論 叢 第24巻 第1号
表4単 独 リーダー の存否別分 類
類 型 1937
194911955
単 独 リー一ダ ー が 存 在 単 独 リー ダ ー が 存 在 せ ず
二噌爵
ABCD EFGH
QμΩU‑晶9臼 ハ0■←‑み3 9∩63
47 47 47
(注)表3カ 、らf乍∫戎 。
表5下 位層の存否別分類
r位 層が存在 下位層が存在せず
計
類 型 193?
BDFGH ACE
00Qゾ3
47
1949
‑占ハ04
47
1955
AUワ.4
47 (注)表3か ら作 成 。
た め に ・ この 種 の 作 業(特 に 数値的 な定 義)に は 客 観 的 な 統 一 的 分 類 基 準 の 設 定 が 困 難 だ とい う制 約 が つ き ま と う。 そ の こ とを 十 分 に 自覚 し た うえ で,こ こで は シ ェア.0°'io以上 を 寡 占 的 大 企 業,そ れ 未 満 を 中 小 企 業,中 小 企 業 層 の シxア 10%以 上 で そ れ が 存 在,2位 企 業 との シ ェ ア 格 差15%ポ イ ン ト以 上 で 単 独 リ0
ダ ーが 存 在 ・ とそ れ ぞ れ 認 定 す る とい う基 準 を 定 め て い る。
数 値 的 な 定 義 の説 明 は 表2に ゆず り,8類 型 を簡 単 に性 格 づ け て お く と, A型 … …完 全 なmonopoly(い わゆ る純粋 独 占)に 近 い も の
B型 … …単 独 リー ダー と下 位 層 か らな る もの(い わ ゆ る部分独 占)
C型 … … 単 独 リー ダ ー とそ の ラ イバ ル で あ る寡 占 的 大 企 業 か ら な る も の D型 … …C型 に下 位 層 が 加 わ っ た もの
E型 … … ほ ぼ 同 規 模 の 榎 数 企 業 に よ る 寡 占(い わゆ る全 部 寡 占) F型 … …E型 に下 位 層 が 加 わ った も の
G型 … … 大 企 業(単 独 リー ダ ーで は な い)1社 と下 位 層 か ら な る も の H型 … … 大 企 業 を もた な い 競 争 型
で あ る3)。
こ の 類 型 に ・ 連 続 し て利 用 で き る47産 業 の デ ー タ を あ て は め る と表3の よ う
日本 の産 業組 織 と企 業7
に な る。 これ に よ る と,① 戦 前 か ら戦 後 に か け て減 少 の 目立 つ の はB(部 分独 占)型,C(上 位2層)型,G(大 企業1社)型 で あ る こ と,② 逆 に増 加 す る の がF(寡 占 ・下 位層)型,H(原 子)型 で あ る こ とが わ か る。 た だ し,こ のH型 の 中 に は,シ ェア10%未 満 で は あ るが 通 常 大 企 業 とみ な され る企 業 を 含 む ケ ー
ス が い くつ か 存 在 す る。 またD(3層)型 は1949年 に い っ た ん 増 加 し た の ち再 び 著 減 す る。3時 点 を つ うじ てF(寡 占 ・下位 層)型 が 最 も多 く,し か も戦 後 に 増 加 した 。
表4に よ り,単 独 リー ダー が 存 在 す る グル ー プ と存 在 し な い グ ル ー プ の 比 率 を み る と,戦 後 に は 前 者 が 減 少 し,後 者 が 圧 倒 的 に 主 流 とな って い る 。 仮 にG
(大企業1社)型 を 前 者 に 加},2位 以 下 と相 当 の 格 差 を 有 す る ト ツ プ 企 業 の 存 在 す る グル ー プ とそ うで な い グル ー プ の比 率 で み る と,1937年26:21,1949年
20:27,1955年13:34と な り,戦 前 の 状 況 は 戦 後 に 逆 転 し,そ の 後 も この 変 化 傾 向 は 進 行 し た こ とが 明 らか で あ る。
つ ま り,最 も重 要 で 明 瞭 な の は,広 い 意 味 で の リー ダ ー を 有 す る産 業 が 過 半 で あ っ た 戦 前 の 構 成 が,高 度 成 長 の 入 口 ま で に大 き く変 化 し,完 全 に 逆 転 した こ とで あ る。 い い か え れ ば,市 場 構 造 の 特 徴 は,い わ ゆ る 「不 均 等 分 布 寡 占 」 か ら 「均 等 分 布 寡 占 」4)へ と大 き く変 貌 し た 。
な お,表5で 下 位 層 の 存 否 別 分 類 を 行 な う と,存 在 す る グル ー プが 大 半 を 占 め,戦 前 ・戦 後 で ほ とん ど変 化 は な い 。
そ こで 次 に,表6に よ っ て1937年 →1955年 の 類 型 間 移 動 の パ タ ー ン を 整 理 し て み よ う。
これ に よれ ぽ,類 型 間 移 動 の あ った の が27産 業,な か った の が20産 業 で ,移 動 は か な り激 し い。 戦 時 ・戦 後 の産 業 の 激 動 ぶ りが 示 され て い る。 前 者 の うち, な ん らか の 形 で 上 位 の リー ダ ー シ ッ プ が 低 下 し た(ご くおお まか にいえば 「競争 的 」とな った)と み られ る グル ー プが19産 業 と7割(全47産 業 の4割)を 占め,逆
に リー ダー シ ヅプが 強 化 され た(同 じ く 「独 占化」 した)と み ら れ る グル ー プは わ ず か4産 業 にす ぎな い 。 な おG→F型 の移 動(シ ェア10%以 上の大企 業が単数か ら複数化)が3産 業 あ る が,こ れ は リー ダー シ ッ プが 低 下 した とみ られ る一 方,
8商 経 論 叢 第24巻 第1号
表6類 型 間 移 動 の 分 類(1937→1955) 類 型間移動 あ り(27)
リーダーシップ低下
傾 到 内
F↓B E↓C F↓C G↓C FDH↓↓↓DBF HDF↓↓↓GCE
容 騨 帰殿 業
単 独 リー ダー消失 単独 リー ダー消失 単 独 リー ダー消失 下位 層発生
単 独 リー ダー消失 下 位 層 発 生 単独 リー ダー消失 ラ イ バ ル 発 生 大 企 業 消 失 大 企 業 消 失 下 位 層 発 生 下 位 層 発 生
3
2
り臼ーユワ嗣噸⊥49臼‑漏‑1
普 通 鋼 材,パ ル プ,洋 紙 板 ガ ラ ス,ビ
ー ノレ
銑 鉄,電 気 銅 ベ ア リ ン グ
造 船,客 車 パ タ ー
綿 紡 績,海 運 倉
庫,貿 易
"?ッ チ ,銀 行 鋳 鉄 管
タ イ ヤ チ ュ ー一 ブ
類 型間 移動な し(20)
類蟻 業隔 属 産 業
ップ強化
リーダーシ 未確定 ACE
↓↓↓CDF
GAF FAG
失失失
消消消
レノ層層パ
イ位位ラ下下
大 企 業 複 数 化 大 企 数 単 数 化
i1ームワ騨Qり噌■
Gi2 H11 原 油
ア ル ミニ ウ ム 機 関 車,人 絹 セ メ ソ ト,電
力,損 保
ミシ ン
通 運,グ ル タ ミ ソ 酸 ソ ー ダ
フ ィ ル ム
貨 車,セ ル ロ イ ド生 地
石 炭,フxロ ア ロ イ, 亜 鉛 鍍 鉄 楓 電 動 機, 石 灰 窒 素,硫 安,苛 性 ソー一ダ,過 燐 酸 石 灰,合 成 染 料,製 粉, 生 保,精 糖
製 糸,し ょ うゆ 綿 織 物
(資料)表3よ り作成。
集 中 度 は 上 昇 可 能 で,分 類 は む ず か し い 。 逆 のF→G型 移 動(1産 業)も 同 様 で あ る。 他 方,類 型 間 移 動 の な か った グル ー プで は,同 一 類 型 の 枠 内 で,通 運 の よ うに トヅプ(日 本通運)の 巨 大 化 が 進 ん だ り,製 糸 ・綿 織 物 の よ うに 大 規 模 な 退 出 が 生 じ た りし た ケ ー ス も少 数 存 在 す るが,大 多 数 は さ き の 表1の 結 果 に み られ る とお り,上 位 の 格 差 縮 小(均 等化)と 全 般 的 な 集 中 度 低 下 が 生 じ た
ケー ス で あ る。
1‑2変 化 の要 因
前 項 にお い て,戦 前 か ら戦後 にか け て市場 構 造 に生 じた 主要 な変 化 は,集 中
日本 の産 業 組織 と企業9
度 の 低下 傾 向だ けで な く,上 位 にお け る格 差 の縮 小で あ るこ とが示 された 。 ま た,下 位 の 中小 企業 層 にお け る参入 ・退 出,成 長 ・衰 退 の動 き も重要 で あ る こ と,さ らに 少 数で はあ るが一 般 的変 化 方 向 とは逆 の動 きをみせ る産 業 グルー プ もあ る こ とが わ か った 。 この よ うな動 向を もた らした 要 因 につ い て,代 表 的な い くつか の ケー スを と りあ げ て考察 してみ よ う。
まず は じめ に,ご くお お まかな意 味 で の 「独 占化 」な い し集 中度上 昇 の傾 向 を示 した 少数派 グル ー プをみ よ う。 そ の第1の タ イプは,戦 争下 の統 合化 政策 を最 大要 因 として独 占化 が進 んだ もので あ る。 典型 は,ほ ぼ 帝 国石 油の1社 独 占 とな った 原 油採 掘業 で あ るが,戦 後 には圧 倒 的に 輸 入依 存 産業 とな り,実 質 的意 味 は失 なわれ た 。通 運 も,激 しい 競 争状態 にあ った ものが,1937(昭 和12) 年 の 「日本 通運 株式 会 社法 」 以来,日 本 通運 とい う巨大 企業 が 出現 した 。 日本 発送 電 へ の一 元的統 合化 か ら9電 力 に よる地 域独 占に転 じた 電 力業 も この タ イ
プに加 え られ よ う。
第2の タ イプは,他 と無 差別 に扱 うに は問題 が あ るが,こ れ も行政 的 な統 合 化 の要 因 が大 きい金 融業 で あ る。 企業 数 の減少 と上 位 で の格 差縮 小 が進 んだ が・
生 命 保険 のみ は トップの 日本生 命 が2位 以下 との格 差を ひ ろげた 。
第3の タ イ プは,戦 時下 で の需 要 の(強 制的)縮 小 と企 業整 備 な ど に よって 大 規模 な退 出,集 中化 が生 じた 消 費財産 業で あ り,繊 維産 業 に代 表 され る。 図 1に 人 絹 と綿織物 の ケー スを示 してお いた 。人 絹 は企 業 数 の激 減 と上 位 集 中化 に よ りF(寡 占 ・下位層)型 か らE(寡 占)型 に転 じ た 。製 糸業 も類 型間 移動 は ない が 同L内 容 で あ る。 綿織 物 は 若干 パ ター ソが 異 な り,戦 時 には上 記 と同様 の動 きをみ せた が,戦 後,需 要 の急拡 大 と統 制 撤廃 に よ り再 び大規 模 な参 入が 生 じて,集 中 度 は戦前 よ りか え って低下 した 。 紡績 も同 じパ ター ソを示 す。 こ
の差 は主 に戦 後 の需要 動 向,い いか えれ ば プ ロ ダ ク ト ・サ イ クル の相 違 に よる もので あ る。
以上3タ イプ とも,戦 争 経済 に主 た る要 因が 見 出 され る。
次 に,な ん らか の意 味で 「競争 的」 とな った とみ られ る多 数派 グル ー プをみ よ う。
10商 経 論 叢 第24巻 第1号
\ーノ﹁‑傷oo1
50
図1
人 絹
ノ 1937
レ 〆
1949 0
1r
'37'49'55
市 場構造 の変化(s産 業 のケー ス)
t%,i綿 織 物
700
1234567891Q
(企 業 数)21→8→8(上 位 ・社) (1937)ぐ49)ぐ55)
(%)1937
100洋 紙
1949
ダ!ζ 嘉;
x
50
0
12345678910
(企 業 数)17→85→88、(一.f':・ 社) (1937)C49)C55)
°fo) goo
50
50
Q
12345678910
(企 業 数)糸勺45000→ 糸勺5000→16449r,」=イ'「1・掃:) {:1937)C49ンC55)
(%) ユ00
50
0
12345678910
(イ}≧業 委{ζ)24→49→47(:i':・3‑<
(1937:〕 ぐ49.}C55) C%a
xoo
50
00
玉2345678910ユ2345678910
(企 業 妾気)糸勺10→40→ 糸り200(」=f立 ・ネi=)(益 ≧:業婁隻)29→25→28(」 ヒf疏・ネと〉(1940)('49)('55)(
1937]('49)('55」
(注)折 線 グ ラ フ は 累 積 集 中 度 曲 線,樺 グ ラ フ は 第1〜10位 各 社 シsア 。 (資 料)表3と 同 資 料 に よ り作 成 。
目本 の産 業 組織 と企 業11
第1の タ イ プは,戦 後 の 経 済 力 集 中 排 除 政 策 に よ るか,ま た は 企 業 再 建 整 備 に と もな って 行 な わ れ た 企 業 分 割 が,単 独 リー ダー 消 失 あ る い は ラ イバ ル 発 生 の最 大 要 因 とな って い る もの で あ る。 洋 紙 ・パ ル プ(王 子 製紙 の分割),鉄 鋼(日 本製 鉄),造 船(三 菱重工 業),バ タ ー(北 海 道興農 公社),ビ ー ル(大 日本麦 酒)な
どで あ るが,こ の うち 紙 ・パ とバ タ ー で は 戦 後 の 混 乱 期 に 群 小 企 業 の参 入 が あ った(パ ターでは 強固 なブ ラン ドの 力の消滅 も重 要であ った といわれ る)の に 対 し て,
ビー ル は3な い し4社 独 占で 変 化 が な い とい う差 異 が み られ る 。 ま た 紙 ・パ に つ い て は 王 子 の 旧 樺 太 資 産 喪 失 とい う要 因 も無 視 で き な い 。 集 中 排 除 の 対 象 と
し て 当 初 指 定 され た325社 の うち,最 終 的 に 再 編 成 を 指 令 され た の が18社(分 割 等は15社)に す ぎ な い こ とを も っ て,こ の 政 策 は 「竜 頭 蛇 尾 」 に 終 わ った と
いわ れ る こ と も多 い が,市 場 構 造 に与 え た イ ン パ ク トは 大 で あ っ た 。
の
さ ら に,企 業 分 割 に 関 す る よ り詳 細 な 研 究 に よれ ば,集 中 排 除 法 に よ る もの の ほ か,企 業 再 建 整 備 法 に も とつ い て 自発 的 に 分 割 ・工 場 処 分 な どを 実 施 し た ケ ー スが 多 い 。 上 記 の325社 中,実 に 約150社 が こ の ケ ー ス に 該 当 し,う ち80 社 前 後 に つ い て 実 質 的 な 集 中 排 除 効 果 が 認 め られ る と さ れ る5)。 これ は,戦 時 政 府 補 償 の 打 ち 切 りや 在 外 資 産 の 喪 失 と い っ た 「特 別 損 失 」 要 因(戦 争の 負の 遺 産),あ る い は 戦 後 に お け る事 業 赤 字 要 因 を過 重 に 抱}た 企 業 が,不 採 算 部 門
を 処 分 した も の で あ る 。 非 軍 需 向 け へ の 転 換 が 困 難 な 軍 需 工 場,急 激 な 買 収 や 拡 張 の 結 果 地 理 的 に 分 散 した り生 産 上 の 連 関 が 薄 い 工 場,老 朽 ・酷 使 工 場(あ るいは労働攻 勢 の弱体 化に有効 と思われ た場 合)な ど が 処 分 の 対 象 とな った 。 以 上 に は,こ こで の 産 業 別 集 中 分 析 で は 明示 され な い 異 業 種 間 分 割 も多 か った こ と を 考 え あわ せ る と,1950年 前 後 を ピー ク とす る企 業 分 割 が 及 ぼ した 影 響 は,ぎ わ め て 広 汎 か つ 深 刻 な も ので あ った とい え よ う。
第2の タ イ プ は,図1に あ げ た 造 船,ミ シ ン,苛 性 ソー ダの ほ か,鉄 鋼,電 気 銅,電 動機,ベ ア リン グ,硫 安,石 灰 窒 素 な ど,金 属 ・機 械 を は じ め とす る 重 化 学 工 業 に 多 い 。 そ の 多 くは,戦 時 期 に 軍 需 中 心 の 著 し い 需 要 の 拡 大 が あ っ た こ とに 誘 発 され て,新 規 参 入 や 中 堅 ・下 位 企 業 層 の 能 力 増 が 生 じた も の で あ る 。 こ うした 変 動 の 結 果 は,非 軍 需 向 け に 転 換 し つ つ 戦 後 に も 受 け 継 が れ た 。
12商 経 論 叢i第24巻 第1号
た だ し,ミ シソ,電 動機,化 学 肥料 な どは戦時 よ りもむ し ろ戦 後 にお け る急 激 な需 要拡 大 の要 因 に よる ところが 大 きい。 また セ メ ン トは,戦 時 中の 統合 の結 果,2位 以下 の企業 が 規模 を 拡大 して トップ(浅 野セメソ ト)と の格差 を縮 めた, や や 異質 な ケー スにあた る。
ところで,こ の タ イプの時 系列 的 な推 移 は戦争 末 期 に一時 的 な波 乱 を含 ん で い る。連 続 的な デ ー タが得 られ る産 業 の例 でみ る と,硫 安 で は1942(昭 和17)年 前 後 に集 中度 が下 げ止 ま り,以 後 硝 酸製 造 等へ の 転換 を ともな いつ つ 上 位へ の 再 集 中化が 生 じた。 鉄 鋼で も戦争 末 期 か ら戦後初 期 にか けて,原 材料 等 の制 約 に よ り,(優 先割当てを受げる)日 本 製 鉄 八 幡 と(戦 災屑な どに依存して小回 りのき
く)小 零細 企 業群 の上 下両 極 に,異 常 に生産 が 集 中す る事 態 が発 生 した(ち なみ に石炭で も資材お よび労働力の割当て集中化に よ り1940年をボ トムとして集中度の反転 上昇がおきている)。 もち ろ ん,こ れ は短 期 的 な現 象で あ っ て,そ の後 急速 に解 消 した 。
また,よ り詳 し くみ る と.同/'内 で も,生 産 品 目の構 成 の相 違 に よ って シ ェア動 向 は肢 行 的で あ った 。た とrぽ 鉄 鋼業 で は,大 同製 鋼 ・日本 製 鋼所 ・ 三 菱 製鋼 ・日本特 殊 鋼 な ど 軍需 関連 品 目(特 殊鋼 および厚中板等)を 得 意 とした 企業 の シ ェアが上 昇 して い る。 この よ うな要 因 も,さ きに ま とめた 市場 構 造 の 変 化 に寄与 して いた 。
さて,以 上 の よ うに,産 業 ご とにみ れぽ 個性 的な事 情 に よって単 純 とは い え ない 変 動 を示 して い る。 しか し,細 部 を無 視 し て,市 場構造(変 化)の 決定 要 因 を抽 象的 な レベルで ま とめ る とすれ ぽ,① 企 業統 合 ・分割 の よ うな人為 的 要 素 のほ か,② 需 要 の成長 性(お よびその構成 の変動),③ 生産 要素 の賦 存 状態,④ 広 い意 味で の技術 的 条件,を あ げ るこ とが で き よ う。② の需要 成長 性 は参 入 な
い し退 出を 誘発 し,需 要構 成 の変 化 は(鉄 鋼の例のように)企 業別 産 出量 の 変動 を もた らす 。③ の短期 的 効果 は戦争 末 期 か ら戦後 初期 に鋭 く現 わ れ,ま た 長期 的 に は技 術変 化 を誘 発 し,④ の作 用 を ひ きお こす(た とえば戦後における屑鉄の稀 少化が3位 以下鉄鋼 メー カーの銑鋼一賛 化を促した ように)。 ④ は,(a)同 一 産業 内に 複 数 の技 術 体系 の併 存す る可能 性が(最 小)最 適企 業 規模 の階層性 を生 み 出 し,
日本 の産 業 組織 と企 業13
下 位 層 を 根 強 く生 存 させ る,fib)参 入 の 容 易 さ を 左 右 す る,(c)技 術 進 歩 が シ ェ ア 分 布 に シ ョ ッ クを 与 え る(こ の場合,新 技 術が いか なる企業 規模 の範 囲に導 入 され る かに よって効果 は異な る),な どで あ る 。
こ の よ うな 経 路 を 通 じ て,市 場 構 造 は お お よ そ 上 位 に お け る 「均 等 分 布 寡 占 」 化 と下 位 に お け る中 小 企 業 群 の 地 位 の上 昇,と い う内 容 の 変 化 を とげ た と い え る。 次 に は,そ の こ との もつ 意 味 を,大 企 業 セ ク タ ー ・中 小 企 業 セ ク タ ー 別 に ま とめ て み よ う。
1‑3「 寡 占間 の競争 」一一 大 企業
戦後 の状 況 につ い て しぼ しぼ 「競争 的寡 占」 あ るい は 「寡 占間競 争 」 とい う 言 葉が 用 い られた 。「競争 的 寡 占」 とい う概 念 は な お 議 論 を誘 発す るで あろ う か ら6),こ こで は 一 応 ご く0般 的 な 意 味 で 「寡 占(的 大企業)間 の競争 が 激 し い」 とい う特 徴 としてお さえてお こ う。 競争 の 現わ れ方 として,銀 行 の景 品競 争 や 「集 中豪 雨的 輸 出」「技術 輸 入競 争」 な ど さ ま ざ ま な も の が 意 識 され た が,こ こで は規模(し たが ってシェア,投 資)拡 大 の競争 行動 に限定 して考 え る。
ところで,前 項 まで にみた 「均 等分 布寡 占」化 規 模 の接 近 した上 位 有力 数 企業 の存在 一 は,そ れ だ けです ぐに激 しい競 争が 生ず る こ とを保 証 す るわ けで はな い。 それ で は戦 後型 の市 場 構 造 は どの よ うな意 味 で競争 的 企業 行動 と 関連 した のか を,簡 単 に考 え てみた い。
村上 泰 亮 は,日 本企 業 が利 潤 極 大化 で は な く組織 極大 化 を行 動基 準 とす るた め に競争 が激 化す る とい う 「文 化 的説 明」 を し りぞ け(副 次的要因 としては拒否 しないにせ よ),「経済 的 説 明」を 中心 にす えた 。 その さい,「 長 期 平 均費用 逓減 」
とい う条 件 を決定 的な要 素 として 説 明 した7)。 本稿 もこ の 考 え 方 に 賛 成 で あ り,基 本 的 にそれ に依 拠す る。た だ,村 上 の説 明で は,す べ て の企 業が プ ライ ス ・テ イか 一であ る と仮 定 され て い るので,こ の点 を不 完全 競 争市 場 の想 定 に 修 正 す る必 要が あ ろ う。 すなわ ち,産 業 組織論 で 行 なわ れ る不 完全 競 争 の各 タ イ プにおけ る価 格決 定 の議 論 を,供 給 量決 定 に重点 を置 いて読 みか え,上 記 の 説 明 に加え て利用 す る。 そ こで は,限 界 収入 と限界 費用 の 一 致 す る点 が 最 適
14商 経 論 叢 第24巻 第1号
(利潤極大)供 給 量 で あ る,と い う基 本 的 な 原 理 が 前 提 と され るだ け で あ る。
ま ず,ご く短 期 を 想 定 し て,1完 全(純 粋)独 占y(B)部 分 独 占,⑥ シ ェ ア不 均 等 な 複 占,(D)シ ェ ア 均 等(50%ず っ)の 複 占,の4つ の タ イ プ の 市 場),rYt̲̲.つい て, 総 需 要 曲 線D,個 別 需 要 曲 線d,限 界 収 入 曲 線MR,限 界 費 用 曲線!VIGの 形 状 お よび 位 置 関 係 を ま とめ て み よ う8)(図2)。
偶 の 場 合 に は,MR=MCと な る供 給 量Q*が 決 定 され,市 場 価 格 はP*と な ろ う。
個 で は,競 争 的 周 辺 部 を な す 小 企 業 群 のMC曲 線 を 集 計 し た もの がSfと し て 描 か れ,そ れ らの 企 業 は プ ラ イ ス ・テ イ カー で あ っ て,市 場 価 格 に 応 じ てA 点 か ら β 点 まで の 供 給 を 行 な うた め,そ れ を 総 需 要 か ら 差 し 引 い たdmが 独
占企 業 の個 別 需 要 曲 線 とな る。 独 占企 業 は1盟 ㍉ と ルκ】摺 の 交 点Cに 対 応 す るmを 供 給 し,価 格 はP*と な る 。 この 価 格 で は 小 企 業 群 の 供 給 は 研*で あ り,(2㌔+Q*∫=(2*だ け の 総 供 給 が 行 な わ れ る 。 も し小 企 業 群 が シ ェ ア拡 大
を狙 って 価 格 を 引 き下 げ て きた な らぽ,独 占企 業 は 生 産 費 の 面 で 優 位 に あ るだ ろ うか ら,さ ら に 価 格 を 引 き下 げ る と い う報 復 措 置 を と る こ とが で き る 。 小 企 業 群 は これ に 長 くは 耐 え ら れ な い の で,攻 勢 は 一 時 的 な も の に と ど ま り,市 場
の 主 導 権 は 独 占企 業 が 握 る こ とに な る。
⑥ で は,総 需 要Dをd!とdSに 分 割 す る2企 業 が あ り(ご く短 期 なので シ ェ アは不変 とす る),よ り大 規 模 な 企 業1は 生 産 費 で も 若 干 の 優 位 に あ る と考 え ら れ て い る。 企 業1は ・4点 に 対 応 す る(2*1(価 格P,*)の 供 給 を 希 望 しs企 業S はB点 に対 応 す るQ*S(価 格PS*)を 望 む 。 企iに は,君*(で の供 給量)に 固 執 す るか,PS*(で の供 給量)で 妥 協 す る か の 間 で の選 択 の 幅 が あ り う る。 そ の 結 論 は,企 業1の 費 用 曲 線 の 形 状,ル 配,と1VIC,の 開 き,新 規 参 入 の 危 険 な
どに 依 存 す る が,主 導 権 は 企 業1の 手 に あ る。
⑪ で は シ ェ ア,生 産 費 と も ま った く拮 抗 した2企 業 が 存 在 し て い る。2企 業 α,β は個 別 需 要 曲 線4馬 β,限 界 収 入 曲線1協R傷 β,限 界 費 用 曲 線 潮℃岬 を い ず れ も共 有 し,A点 に対 応 す る(蹴 β(価 格P*)の 供 給 を 行 な う こ とに 容 易 に 合 意 し うるで あ ろ う。
日本の産業組織と企業
図24つ の市 場 タ イプにお ける供給 量の決定 (A)完 全 独 占
P c P*
o勘p.cμ4
(C) P L Pず P*z
0恥p.cμ
,﹁㌔
Q*
部 分 独 占
MC
D謂 ♂
Q
シ ェ ア 不 均 等 な 複 占
Mc&
MG
lBI.4
!:11R.Sゴ。lMR,̀ll QずQ、*
シ ェ ア 均 等 な 複 占
MC砿 β
A
1MR。 、,♂ 。β Q罐 。Q*
Q
15
16商 経 論 叢 第24巻 第1号
図3需 要 の拡大 と費用の低下 (A)需 要 曲線 の右 シフ ト
0
てB) MC 憾C
Q
右 下 が りの 長 期 平 均 費 用 曲 線 SMCo
SAGOSMC , SムC1
8Mσ2 SACZ
一 一 一 一 一L .AC
s
さ て こ こで,高 度 成 長 期 に 日本 の 企 業 が 直 面 し た2つ の 事 情 を 導 入 し よ う (図3)。 そ の1つ は 継 続 的 な 需 要 拡 大(需 要曲線 の右 シ フ ト)で あ る。 い ま1つ は,革 新 的 技 術 の 導 入 を と も な っ た 投 資 に よ る 費 用 曲線 の 右 方(お そ ら くは右 下 方)シ フ トの 可 能 性 で あ る 。 後 者 が 「長 期 平 均 費 用 曲線 が 右 下 が り」 とい う
こ とで あ るが,こ れ は 前 者 と異 な り,企 業 の 意 思 決 定 と無 関 係 に 実 現 され る の で は な い 。 そ れ は あ くま で も技 術 的 可 能 性 に す ぎず(し か も事 前的に は 期 待 に す ぎないが,事 後的 に も期待 どお り実現 され る と仮定す る),実 現 され る か ど うか は 個 々 の 企 業 の 選 択 に よ る(図3⑱)で た とえ ばC点 の左方で はSκ 。くSACF<SAC、 と な って いる こ とを想起 され たい)。
この よ うな と き,図2の(A)〜 ⑪ の タ イ プ は ど の よ うな 反 応 を 示 す で あ ろ う か 。
(A)でD(=d)曲 線 が 右 シ フ トす る と き,独 占 企 業 が 革 新 的 選 択 を 行 な うか,
日本 の産 業 組織 と企 業17
それ とも保守 的 に行 動 して高 価 格 を享受 す るか は,一 義的 には 定 ま ら な い(競 合財の存在 または発生は ここでは考x..ない)。 そ し て,い ず れ の場 合 に も新 規参 入は 容 易で ないで あ ろ う。
(B)の場 合 に も基 本的 に は同様 で あ る。た だ,独 占企 業が 保守 的行 動 を とって 価 格が 著 し く上 昇す る と,新 規参 入 が生 じて小 企業群 の シ ェアが 大 き く伸 び る 可能 性が あ る。 また,小 企業 が新 技 術 を導 入 して急 速 に規模 を 拡大す る可能 性 も考 え られ るが,こ れ は新 技 術 の内 容(必 要な投資の規模)お よび 小企 業 の技術 導 入能 力に依 存 し,一 般 的に はそ の可 能性 は大 き くないで あ ろ う。
(C)の場合 の シ ェア格 差 は,こ の よ うな長 期 を考 え る と安定 的 で はな い。 よ り 規模 の小 さい企 業Sが 積 極 的 ・革新 的 行動 を とって上 位 企dを 追 撃す る場 合 で あ る。 この とき,対 抗上 企1も 新技 術導 入にふ み き らざ るを えず,激 しい 競争 が展 開 され るで あろ う。 この可能 性 は,主 としてD曲 線 の シ フ トの大 き さ
のほ か,さ きに もあ げた 新技 術 の性 格 と下 位 企業 の 技術 導 入能 力(あ るいは2企 業の導入能力格差)に 依 存 す るが,こ の最後 の要 因は 当初 の シ ェア格差 と正 の相
関 関係 にあ る と考 え られ るか ら,0般 に は シ ェア格差 が大 きいほ ど競 争過 程 に 入 る可能 性 は 小 さい。
これ に対 して(D)の場 合 には,一 方 が 攻撃 的 行動 を とる可 能性 も大 き く,ま た そ うな る と他方 もた だ ち に追随 す る こ とにな ろ う。2企 業 は現在 の費 用関 数 に おい て も技術 導 入能 力 におい て も同等 で あ る と考 え られ てい るか ら,一 方が 新 投 資 を行 な うこ とは 困難 でな く,ま た それ は シ ェアの急激 な変 動を もた らす こ
とが で きる。 この よ うに鋤 タ イプは,静 止 的状 況 では 協調が 容 易で あ るが,同 時に,ひ とた び 革新 と成長 の条 件が与 え られ れ ば激 しい競争 が展 開 され やす い
と考 え られ る。
以上 の よ うに,こ の場 合 の市 場構 造 と企 業行 動 の関 係 は必ず し も決定 的 な も ので は な く,可 能性(確 率)の 大 き さの問題 で あ ろ う。 そ し て そ れ は,需 要 の 成長 性,新 技術 の 内容 と必要 投資 規模,企 業 の 技 術 導入能 力(格 差)等 に左 右 され よ う。 この最後 の 要素 自体 も,人 的能 力,組 織 的能 力,資 金調 達 力,労 働 力 等 の確保,販 売 力 な どさま ざまな能 力 の総 合か らな る。 したが って,一 般 的
18商 経 論 叢 第24巻 第1号
にい い うるのは,高 度 成長 の開始 時 点 まで に形 成 され た 「均等 分布寡 占」 的 な 市 場構 造 は,一 定 の条 件 が そ ろ った も とで上 位 企 業 間 の激 しい競 争が 展 開 され
るた め の フ レー ム ワー クを提供 した,と い うこ とで あ る9)。
1‑‑4「 広 い す そ 野 上一一 中 小 企 業
これ ま で は,}マ ー ケ ッ ト ・シ ェア に 関 す る デ ー タが ど うし て も上 位 企 業 の 動 向 を 中 心 に 描 き出 す こ とも あ っ て,中 小 企 業 層 の 動 向 は 後 景 に 退 きが ち で あ っ た 。 しか し,す で に 若 干 示 唆 さ れ て い る よ うに,こ れ ら も市 場 構 造 の 変 化 に 少
な か らぬ 役 割 を 果 た し て い る 。 こ こで は そ の 面 を 考 察 し よ う。
と こ ろ で 一 口に 中 小 企 業 とは い っ て も,零 細 か ら 中 堅 に 至 る規 模 の 差 異 を は じ め,業 種,技 術,経 営 形 態,地 域 的 密 集 の 有 無(い わ ゆる産地,地 場産業),依 存 す る市 場(海 外を含 む全 国的 市場,限 定 され た 地 域市場,そ れ ら の 中間形態,親 企 業 の発注市 場な ど)の 相 違 に も とつ い て きわ め て 多 様 で あ り,し た が っ て 戦 前 か ら 戦 後 に か け て の 変 化 も 錯 綜 し て い る。 そ の 中 か ら,① 参 入 と成 長,② 縮 小 と 退 出,③ 大 企 業 との 関 係 の 再 編 とい う3側 面 を と りだ す こ とが で き る が,こ の 項 で は ① と② を と り上 げ,③ は の ち に2‑3で み る こ とに す る。
まず 戦 前 か ら戦 時 期 にか け て の 動 きを み よ う。
第1の 側 面 と し て,中 小 企 業 の 参 入 と成 長 が あ る。 表7で 会 社 数 の 推 移 を み る と,総 数 で1930年 代 前 半 に 大 幅 に 増 加 し,そ の 後 は 横 ぽ い あ る い は 微 減 とな って い る 。 し か し 内 訳 で は,第3次 産 業 の 代 表 で あ る商 業 が1920年 代 か ら1930 年 代 前 半 に か け て 急 増 し た の ち 減 少 に 転 じた の に 対 し て,工 業 で は む し ろ1930
r,年 代 に か け て 大 幅 で 根 強 い 増 加 が 生 じ て い る。 そ の大 部 分 は 中 小 企 業 で あ る とみ られ る か ら,業 種 別 に 不 均 斉 で は あ るが,重 工 業 を 中 心 に 大 き な 参 入 の 波 が あ っ た とい え る 。
と こ ろ で 戦 後 の 事 業 所 統 計 に よ る と,法 人 企 業 の 数 倍(X951年 時 点 の 非 農 林 水 産 業で5.5倍)に 及 ぶ 個 人 事 業 所 が 存 在 し て い るか ら,視 野 を 会 社 ベ ー スか ら事 業 所 ベ ー ス に 拡 大 す る必 要 が あ ろ う。 第3次 産 業 で 中 小 企 業 の 退 出 が 発 生 し た
こ とは 確 実 な の で,こ こで は 対 象 を 工 業 に 限 定 す る。
日本 の産 業 組織 と企 業19
表7会 社 数
(社)
総 数 う ち 工1) う ち 商 業
1920 1930 1935 1940 1944 1945
×950 1955
42,48S(29,917) 63,545(51,910) 94,592(84,146) 91,028(85,836)
の
IO2,3Z6(92,951) 95,773(41,380) 235,515(一)
411,997(一 一}
14,058(11,829) 1G,],48(18,205) 23,992(29,312) 29,204{34,122)
2) 49,52T(44,912) 48,307(26,887) 116,663(一) 162,595(一}
18,578(14,530}
34,854(27,691) 54,740(45,852) 47,003(41,710}
z) 41,211(38,344)
36,801(11,Z85}
85,628(一 一) 170,424(一}
(注)
1)工 業に建設業を含む。
2)1942年 の数値。
3)大 蔵省 ・国税庁 「会社表」による。()内 は農商務省 ・商工省 「会社統計表」のデータ。
(資料)東 洋経済新報社編 『昭和国勢総覧(上 巻)』東洋経済新報社,1980年,533‑536ペ ージ。
表8に よる と,1930年 代 後 半 に は す べ て の 規 模 で 工 場 数 が 大 幅 に 増 加 した と み ら れ る(1938年 まで 従業員4人 以下工 場が除かれ て いる こ とに注 意が必要)が,19 40年 代 に 入 る と小 規 模 工 場 の 減 少 が 始 ま っ て い る。 とは いr表9か らわ か る と お り,1930年 代 の参 入 が きわ め て 大 規 模 で あ っ た た め に,こ の期 間 を 通 じ て 中 小 企 業 の層 は厚 くな った とい え る。
よ り重 要 な の は 業 種 別 の 差 異 が 大 き か っ た こ とで あ る(表9)。 繊 維 ・食 品 な ど の 消 費 財 産 業 で 戦 時 期 に 大 幅 な 退 出 が 生 じ た の に 対 し て,金 属 ・機 械 ・化 学 な ど軍 需 関 連 の 強 い 重 工 業 で は1940年 以 後 も微 減 か 横 ば い に と ど ま り,あ るい は 参 入 が 続 い て さiも い る。 実 はi1930年 代 後 半 を 中 心 に 新 規 参 入 した 企 業 の 中 に は,戦 後 に 至 って 中 堅 企 業 へ,さ ら に は 東 証 一 部 上 場 とい っ た 大 企 業 へ と 成 長 し,重 化 学 工 業 化 を 担 うこ とに な る も の が 数 多 く含 まれ て い る こ とに 注 意
され た い 。 鉄 鋼 業 と機 械 工 業 か ら若 干 の 例 を あ げ れ ば,鉄 鋼 業 で 日本 金 属 工 業 (1932年 設立),W陽 特 殊 製 鋼(1933),日 本 ス テ ン レ ス(1934),東 洋 鋼 銀(同), 淀 川 製 鋼 所(1935),矢 作 製 鉄(1936)1日 伸 製 鋼(1938),愛 知 製 鋼(1940),大 和 工 業(1944)な ど,機 械 工 業 で ダ イ キ ソ 工 業(1934),岩 崎 通 信 機(同),TDK (1935),三 菱 化 工 機(同),ヂ ー ゼ ル 機 器(1939),豊 田 工 機(1941)な ど とい っ
20商 経 論 叢 第24巻 第1号
表8従 業 員規模別工 場数 お よび生産額 構成
上段:工 場数,下 段()内:生 産額構成 比(%)
規 模
(従業員数)
〜9人
10〜49人
50〜99人
100〜499人
goo〜999人
1000〜 人
トき"
1935
46,4S3 (6.1) 31,130
(19.5) 3,743 (9。7) 2,689 (25.0}
355
(12.6) 225 (Z7.o) 84,625 100.o)
199
644,24Z (13.6) ,53,ISS
(18.9) 4,619
Cs.o) 3,679 (20.2) 473 Cg.o) 380 (30.3) 760,581 ta.00.o)
1942
584,911
×13.4) 48,326
(..) 4,736
(8.1) 3,372 cx7.9>
452 (9.1)
425 (32.8)
638,222 tloo.o)
1946
}
351.916(44.1)6,956
×23.4}
}
(17.8)1,206212 (14.7}
360,290 (100.0)
1949
181,443 (10.5) 49,215 (20.5) 5,284 (9.1)
3,59?
(24.4) 317 (7.9) 334 (27.6) 240,195 (100.0)
195
331,201
×7.9) 87,665
(21.8) 7,X65
×9.5}
4,333 (26.3) 538 (11.0)
376 (23.5)
432,694 (100.0)
1935年 の 統 計 は 従 業 員4人 以 下 の 工 場 を 調 査 対 象 に 含 ん で い な い(1938年 ま で)。
1946年 の 「50〜99人 」 は100〜199人 規 模 を 含 み,「100〜499人 」 は そ れ を 含 ま な い 。 調 査 対 象 は1947年 ま で 工 場 で あ っ た が,1948年 以 降 は 製 造 業 事 業 所 と な った た め,厳 密 に は 接 続 しな い 。
生 生 産 額 は 戦 後 に つ い て は 製 造 品 出 荷 額 等 。 (資 料)通 産 省 『工 業 統 計50年 史 』。
(注) 1.
2.
3,
衷9主 要 産業(中 分類)別 工場数
(従業 員5人 以上)
1935 1939 1942 1946 1950 1955
総 数
S4,625 137,079
125,680 84,393 15Fa,173 18?,141
うち酬 うち雛
13,684 22,793 21,194 9,927 26,243 33,911
29,378 38,272 28,251 11,860 31,923 39,Q16
1う ち金属
7,351 11,717 11,190 9,260 12,804 16,925
うち機 械
10,250 22,972 24,910 19,688
̀」191」
23,937
1う ち化学
4,629 8,766 8,493 6,807 13,3$0 13β66 (注)
1.調 査 対 象 は1947年 ま で 工 場 で あ った が 接 続 し な い 。
2.1943・44年 は 集 計 さ れ て い な い 。 (資 料)通 産 省 『工 業 統 計50年 史 』。
1948年 以 降 は 製造 業 事 業 所 とな ったた め,厳 密 に は
日本 の産 業 組織 と企 業21
た の ち の 有 力 メ ー カー,あ るい は そ の 前 身 が この 時 期 に 設 立 され て い る の で あ る。
従 来,こ の 時 代(1930‑40年 代)は 「恐 慌 か ら 戦 争 ・ 壊 滅 へ 」 とい うイ メ}ジ 1色 で 描 か れ が ち で あ っ た 。 し か し そ れ は 他 面 で,第1次 大 戦 ブ ー ム に つ ぐ
「企 業 勃 興 期 」一 日本 経 済 史 で よ く使 わ れ る 言 葉 を 借 りれ ば 一 で あ り,戦 後 に つ な が る とい う意 味 で 歴 史 的 に 重 要 な 変 化 を 生 み 出 し て い た の で あ る。 こ の 事 実 を 無 視 し て は な る ま い 。
もち ろ ん こ の よ うな 動 きが す べ て で は な い 。 いわ ゆ る民 需 産 業 を 中 心 に,需 要 の 縮 小 の も とで 退 出 を 余 儀 な く され,あ る い は 企 業 整 備j'YYLよっ て 統 合 や 転 廃 業 を 強 制 され た 数 多 くの 中 小 企 業 が あ った 。 これ が 第2の 側 面 で あ る 。
日中 戦 争 が 開 始 され て か ら の ち,「 不 要 不 急 」 と さ れ た 民 需 産 業 を 中 心 と し て 原 材 料 の 不 足,操 業 率 の 低 下 が 表 面 化 し た 。 当 初 は 原 材 料 「均 分 主 義 」 が と られ た もの の,や が て 転 廃 業 「対 策J,さ ら に 転 廃 業 「促 進 」・集 中 化(企 業 整 備)の 方 向 に 変 わ っ て い った 。1940年 代 に 入 る と・ これ ら の 産 業 で の企 業 整 備 は 大 企 業 に まで 及 ん で 具 体 化 し,軍 需 産 業 へ の 資 源 移 動 が 図 ら れ ・ さ らに1943 (昭和18)年 以 降 に は 金 属 回 収 の た め の 設 備 ス ク ラ ッ プ化 とい う,自 国 政 府 に よ
る産 業 破 壊 の 極 限 的 な 姿 に まで 進 ん で い った 。
一・方,軍 需 関 連 産 業 で も企 業 整 備 が 行 な わ れ た が,こ の 場 合 は 下 請(協 力) 関 係 の 統 制 ・専 属 化 に よ る生 産 効 率 化 とい う 目的 に重 点 が 置 か れ た ・ た とえ ぽ
自動 車 部 品 製 造 部 門 で は,す で に1938年 に 部 品 ・材料 に 関 す る 優 良(業 者)認 定 制 度 が 始 ま って い た が,1941年10月 の 企 業 整 備 要 綱 の も とで 下 請 工 場 指 定 制 度 が 実 施 さ れ て,企 業 は 選 別 され る こ とに な った 。 小 型 車 ・二 輪 部 品 で も・ か つ て の21社 が 東 洋 工 業 以 下 の6社 に 整 備(統 合)さ れ た10)。
こ うした 過 程 で,特 に 繊 維 や 商 業 を は じ め とす る軽 工 業 ・サ ー ビス 業 分 野 で は,さ きに あ げた 数 字 に 示 され る よ うな 大 幅 な 退 出 が 生 じた の で あ る。
次 に 戦 後 の 動 向 を み よ う。
ま ず,当 然 な が ら敗 戦 直 後 に 大 規 模 な 退 出 が 発 生 した(表8・9)。 た だ し 重 化 学 工 業 で は 退 出 は 比 較 的 軽 微 で あ り,1930年 代 以 降 の参 入 の 効 果 の 方 が 規 定 的
22商 経 論 叢 第24巻 第1号
で あ った し,民 需産 業 な い し軽 工 業で は企業 整備 に よってす で に 受け て いた 打 撃 が大 きか った(表9)。
また退 出が 生 じた とはい え,そ の 中で 中小 零 細企 業 は強 靱で 柔 軟 な生 命力 を 発揮 した。1945年12月10日i現 在 で の厚生 省 労政 局 調査 に よれ ぽ,従 業 員100人 以上 規 模 の工場 で は焼 失 ・休 廃 止が55%に 迫 り,事 業継 続 中は30%台 にす ぎな か った の に対 し,loo人 未 満 の 中小工 場 で は焼 失 ・休 廃 止が40%弱 で,55%弱 が 事業 を継 続 していた といわれ る11)。そ の上,民 需産 業で の企 業 の復 活や 全 般 的 な新 規参 入か らな る,中 小 企業 のいわ ぽ 群生 がみ られ た(表7・9)。
そ の結 果,表8に み る よ うに,戦 争 直後 の生 産 は圧 倒 的 に中 小企 業 に よって 支 え られ る こ とにな った 。 戦 災屑 鉄や 軍 需 ス トックを用 い て アル ミや 鉄製 の鍋
・釜 をつ くるな ど,噴 き出 した 日用 消費 物資 に対 す る潜 在需 要 に応H!Lる生 産 が その 中心 であ った 。 軍需 品(た とえば光学兵器 ・通信機 ・機関銃)工 場 が ミシソ ・ 時計 ・カメ ラ ・ラジオ ・双 眼鏡 な どの 日用 品製 造 に転 じてい った 。長 野 県諏 訪 地 方 では,戦 時 中に 生糸 工 場が 軍需 工 場 に変わ り,さ らに戦 後 オル ゴー ル ・カ
メラ ・時計 な ど精 密機 械 工 場 に転換 して一 大産 地 とな った 。 蓄積 された 技 術 ・ ノゥハ ウも利 用 され た。
また,在 来 産 業 とはお お よそ 伝統 的 な 消費財 ・サー ビス を伝統 的 な技 術 と経 営 形態 に よ って供 給す る中 小企業 分 野 をい うが,そ れ ら も戦 時下 で大 打撃 を受 けた のち,戦 後 に一 そ のすべ てで は ない が一 一復活 した 。 他方,さ きに化 学 繊 維 に代 替 され た生 糸 の例 で みた よ うに,戦 時期 の縮 小 と企 業減 少 の結果 が も
ち こされf回 復 をみ ない ケー ス もあ った 。
1947年 前 後 か ら経 済 復 興 が始 まる と,上 位企 業 の層 が立 ち 直 りを示 す一 方y 中小 企業 経営 に とって厳 し い条件 も生 まれ て くる。 当初 の 困難 は,軍 需 ス トヅ
クや 戦 災資 源 が枯 渇 しは じめた り,依 存度 の高 か った 闇ル ー トか らの調達 不足 や価 格 高騰 が 生ず る とい った 原材 料 ・資 材不 足 で あ った 。1948年 ごろに な る と, 金融 面で の逼 迫 が深 刻 とな り,超 過 所 得 税 に よる税 負担 の圧 迫 も加 わ った 。つ いで ドッジ ・デ フ レ下 の需 要 縮 小s申 小企 業 金融 の逼 迫,下 請代 金 支 払 い遅 延 の多 発 な どは事情 を さ らに悪 化 させ,「 企 業整 備 」が 広 が っ た 。 朝 鮮戦 争 ブ.一.,
日本 の産 業 組織 と企 業23
ム の 反 動 不 況 は,特 に 繊 維 関 係(商 社を含む)に 大 き な 影 響 を与 えた 。 こ の よ う な 過 程 で 中 小 企 業 は流 動 し,再 編 成 を 経 験 す る。 当 初 に は大 企 業 セ ク タ ー との 差(二 重構造)が 明 瞭 で な か った 賃 金 水 準 も,1947‑48年 に は 明 瞭 に 大 企 業 を 下 回 りは じめ,1950年 代 前 半 に 格 差 は 拡 大 す る。
以 上 を 要 約 し よ う。
まず,1930年 代 か ら 戦 時 に か け て の重 化 学 工 業 で の 中 小 企 業 の厚 い層 の 形 成 は,不 可 逆 的 な 変 化 で あ った 。 一 方,商 業 ・サ ー ビ ス業 な どは,戦 時 期 に 著 し
く縮 小 ・退 出 を み た の ち,大 部 分 は 戦 後 た だ ち に 復 活 した(い わゆ る在 来産業 も, そ のす べてで はないに しろ復活 したが,そ の後 の高度成長 の過 程 で 伝統的 消費 ス タイル が 消えてゆ くにつれ,急 速 に縮小す る運 命に あ った。ただ し これ にか わ って,新 しい消 費 内容 に見合 った企業の参 入がひ き続 いたか ら,消 費関連 分野で の中小零細企業 の 厚 い 層は,戦 後 もや は り重 要な存在で あ り続け る)。
この よ うに 激 し い 変 動 に 対 応 し な が ら,中 小 企 業 は 強 靱 な 生 命 力 に よ って 厚 い 層 を な し,重 要 な 地 位 を 占 め る。 そ れ は,① 同 一 財 の 市 場 を め ぐっ て 大 企 業 と,② 代 替(競 合)的 な 財 の 供 給 に よ っ て 大 企 業 と,③ そ れ ら の 市 場 を め ぐ っ て 中 小 企 業 内 部 で,ま た ④ 大 企 業 の発 注 と い う市 場 を め ぐっ て 中 小 企 業 内 部 で, そ れ ぞ れ 激 しい 競 争 を 展 開 し た 。 そ の こ とは,上 位 企 業 間 の 競 争 とな らん で 日 本 経 済 の 「競 争 的 性 格 」 を 構 成 す る こ とに な る12)。
2財 閥 ・企 業 系 列 の 動 向
前節 で は マー ケ ッ ト・シ ェア分 布 の側面 に焦点 を あ てたが,こ ん どは産 業 横 断的 な ものを含 む企 業 間結 合 に注 目す る必 要が あ る。す なわ ち財 閥 お よび企 業 系 列 の動 向 であ る。
2‑1戦 争 と 財 閥 一一一拡 大 ・拘 束 ・弛 緩
まず,戦 時 期 に お け る財 閥 の 動 向 を と りあ げ よ う。 そ こに は 拡 大 ・拘 束 ・弛 緩 とい う3つ の 側 面 が 見 出 され る よ うに 思 わ れ る 。
第1は"拡 大"の 側 面 で あ る。 表10に よれ ば,14財 閥 の全 国会 社Yr占 め る ウ
24商 経 論 叢 第24巻 第1号
エイ ト(払 込資本金ベース)は,1937年 の22.6%か ら持 株 会社 指定 時(1946年)の 30な い し40%(こ の幅については表10の注3参 照)に 上 昇 した とみ られ る。 各産 業
におけ る財 閥系企 業生 産 順位 も上 位 を 占めてお り,特 に軍需産 業で それ が 明 瞭 で あ った。 これ らの面か らみ た 財 閥 の支 配力 は 戦時期 に拡 大 した といえ よ う。
なお,顕 著 な拡 大 を示 し た の は3大 総 合 財 閥 と 日産(鮎 川)財 閥 で あ り,そ の 他 とは相 当の成長 格差が あ る。 これ らの財 閥で は軍需 産 業 を中 心 に既 存 の傘下 企 業が 拡 大 した ほか,活 発 に企 業新 設 ・買収 を 図 った(表10以 外に在外会社分が
ある)。
しか し,以 上 には裏 面 が あ る。 す なわ ち第2に,経 済 統制 の強 化 と陸 海 軍 に よる管理 の拡大 に よ って,経 営 に 関す る 自由な選 択 ・意 思決 定 の余 地が きわ め て狭 ま り,"拘 束"の も とに置 か れた 。 も っ とも,1940‑41年 にかけ て 「経済 新体 制」 の 運動 が最 高 潮 に達 す る過 程 で,財 閥 をは じめ大 企業 の利 潤 を統 制 し よ うとす る動 きが強 ま った が,そ の後 は生産 の拡 大が 最優 先 とな り,利 潤統 制 は事 実上 放棄 された13)結果,相 当 の利 益額 と利益 率が確 保 され た。 しか しそ れ も拘 束下 で の こ とで あ った 。 直接 的 な規制 や 指 令 に よる拘束 のほ か に,環 境 条 件 の激 変 に よる事 実上 の選 択 の強制 も重 要 で あ る。 た とえ ば,軍 需 生産 の拡 大, わ け て もそれ へ の急 速 な事 業 シ フ トには,大 きな リス クが予 想 され る。 しか し,
マー ヶ ヅ ト,顧 客 関係,統 制機 構 内で の地 位 を失 な うこ とを回避す るた め,そ うした選 択 は事 実上 強制 され た 。
最 後 に第3の 側面 は封鎖 性 の"弛 緩"で あ る。 個 々に差 異 はあ るが,基 本 的 な財 閥 内 の資金 循 環 の 構造 は,傘 下 企 業 か ら 主 と し て 株 式 配当金 の形で 本社 一 同族 に資 金 が集 中 され ,そ れ が一 元 的 に(再)投 資 され る とい うもので あ っ た 。 こ こに変 化が 生ず る。傘 下 企 業 の資 金需 要 が急 速 に大 規模 化 したた め,外 部 借 入れや 株 式公 開が進 め られ,さ らに本社 で も保 有 株式 の一 部売 却 と借 入 金
の導 入が 行 なわれ た 。 同族 資金 の ウ ェイ トを維 持す る努力 は 行なわ れた が,資 金量 の相 対 的 不足 か ら後 退 を余 儀 な くされ た の であ る。新 興 財 閥(や 産業財閥) で は この事 情 は特 に深 刻 で あ り,傘 下 企業 のみ な らず 本社 自体 も借 入金 等 へ の 依 存 を強 め なが ら,各 々 自立化 す る傾 向が 生 まれ た14)。
日本 の産 業 組 織 と企 業25
表1014財 閥 の払込 資本金 べ一 ス集 中度
(在内会社 分のみ:単 位 百万 円)
閥閥閥閥財財財財合総業融興大3産金新
計
全 国会社 合計 〔A〕
1937年
本 社
570 115 50 365 1,loo
傘 下企 業
1,574 392 313 610
計 対 〔A〕比率%
2,144(12.1) 507(2.9) 363;2.0}
975(5.5)
2,888i3,98?(22.6}
持株会社指定時
本樹 纏
865 116 50 1,140
2,170
i
?,431 1,388 s75 2,165 1Y,659
計 対 〔A〕比率%
8,296(25.6) 1,504(4.6)
725(2.3) 3,344(10.1) 13,SZ9(42.6}*
32,380(100.0)
(注)
1.内 訳 は つ ぎ の 通 り。
3大 総 合 財 閥 一 三 井 ・三 菱 ・住 友 ・産 業 財 閥 一 古 河 ・浅 野 ・大 倉 ・金 融 財 閥 一 安 田 ・野 村 ・新 興 財 閥 一 日産 ・日窒 ・日曹 ・森 ・理 研 ・中 島
2.持 株 会 社 指 定 時 は ほ ぼ1946年 で あ る。
3.指 定 時 の 全 国 会 社 合 計 〔A〕 の 数 値 は 商 工 省 「会 社 統 計 表 』 の1946年 の も の 。 な お,こ の 数 字 は 大 蔵 省 調 査 に よ る と43,623百 万 円(1946年3月 末)で あ る との 指 摘 が あ り(大 蔵 省 財 政 史 室 編r昭 和 財 政 史 一 一 終 戦 か ら 講 和 ま で 』 第2巻 ・独 占 禁 止(三 和 良 一 執 筆)・ 東 洋 経 済 新 報 社,1982年,20‑21ペ ー ジ),こ れ に も と つ い て 計 算 す る と*の42.6%は31.6と な
る 。
(資 料)山 崎 広 明r戦 時 下 の 産 業 構 造 と 独 占 組 織 」(策 京 大 学 社 会 科 学 研 究 所 編rフ ァ シ ズ ム 期 の 国 家 と社 会2・ 戦 時 日本 経 済 』)236‑237ペ ー ジ よ り一 部 修 正 の うえ 抄 録 。 原 資 料 は 持 株 会 社 轄 理 委 員 会r日 本 財 閥 とそ の 解 体 』 『同 資 料 』 ほ か 。
これ まで 日本 の経 済発 展 に は,富 裕 な資 産 家(個 人 ・同族)の 出資が きわ め て 大 きな役 割 を果 た し て きた 。 よ り小 規模 な もの とし ては複 数 の資産 家 に よる共 同出資 型(い わゆる二流以下財閥系)の 企 業や 地方 財 閥系企 業 が あ り,い ず れ も
日本 の有 力企 業 を構成 した。 大規 模財 閥は それ らを代 表 す る もので あ った。 そ うした封 鎖 的 な 出資 ・支 配 の構 造 は,基 本 的に は財 閥解体 に至 る まで崩 れ なか った とは1」・},そ の枠 内で"弛 緩"が 生 じた のであ る。
2‑2財 閥解 体 の効 果
財 閥解体 措 置は,い ま述べ た封 鎖 的構 造を 破壊 し,し た が って 戦前 日本 の経 済 シ ステ ムの重要 な構 成 部 分を変 革 した 。
財 閥家族 や,財 閥本社 を は じめ とす る持 株会 社 の保有 分 を含 む株 式で 売却 を