コミュニケイティブ・プランニ ングの特徴と評価に関する考察

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1 武蔵工業大学環境情報学部講師

室田昌子1

コミュニケイティブ・プランニ ングの特徴と評価に関する考察

研究論文 1-7

1.はじめに

アメリカ都市計画でコミュニケィテイブ・プラン ニング(communicative planning)、またはコラボ レィティブ・プランニング(collaborative planning)

と言う概念が登場したのは1990年代である。これら の計画概念は、ハーバーマスのコミュニケーション 的行為の理論と、アメリカのサンタフェ研究所での 複雑系理論に関する諸議論をもとにして1つの手法 として構築されたものである。

P.ダビドフのアドボカシー・プランニング(1965)

は、利害関係者であるコミュニティが、計画に対し て対話を通じて参加することによる計画の合理性向 上を期待したものである。コミュニケィテイブ・プ ランニングは、利害関係者との対話という点で、こ のアドボカシー・プランニングの流れを汲む計画理 論であることを小泉(2002)は指摘している。

また、R.T.ヘスターが提唱する「下からの参 加型都市計画」であるコミュニティ・デザイン(1990)

は、衰退したコミュニティの再生を行うために1960 年代以降に実施されたコミュニティ・ディベロップ メントの流れを汲む計画理論である。このコミュニ ティ・デザインは、住民らの協議を支援し意見を十 分に計画に反映させるためのステップや様々な手法 に重点が置かれている点や、アドボカシー・プラン ニングの影響を強く受けていると言う指摘があるも のの(土肥、1997)、利害関係者と言う視点を強調

していない点でコミュニケィテイブ・プランニング とは異なっている。しかし、住民間の協議の徹底化 を図るという点で、コミュニケィテイブ・プランニ ングと類似している。また、コミュニケィティブ・

プランニングは、このコミュニティ・デザインと同 様に、社会心理学における対話学習法、社会教育な どにおける参加型学習法などの影響を強く受けてい ると考えられる。

本稿では、このコミュニケィテイブ・プランニン グに焦点をあて、その理論的な背景と特徴、仕組み、

問題点、コミュニケィテイブ・プランニングの効果 とこれに対する評価に関する考え方を論じ、最後に 日本で導入する際の課題について言及したい。

2.アメリカ都市計画におけるコミュニケイティブ・

プランニングの発展と課題

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コミュニケイティブ・プランニングの発展とそ の背景

コミュニケイティブ・プランニングは、ハーバー マスの主張する「コミュニケーション的合理性」を 計画のベースに置いている。「コミュニケーション 的合理性」とは、①コミュニケーションに参加する こと、②コミュニケーションの参加者との議論を通 じて「了解」を得ることを目指すこととする。この

「了解」とは、利害関係者がそれぞれ「妥当要求」を 掲げて、自由に発言し強制されることなく達成され る合意である。すなわち、コミュニケイティブ・プ ランニングは、都市計画を進める上で関係主体と 様々な議論を行い、「了解」を達成することを基盤 に据えた計画理論である。

ハーバーマスは、合理性を「目的合理性」と「コ ミュニケーション的合理性」に区分した。それまで の都市計画は、都市の目標を作成し、その目標を効 果的に達成するための手段を選択し、さらに手段を 最も効果的に活用するための方法を見いだすための 理論や手法を構築してきた。これはハーバーマスの 区分に従えば、まさに「目的合理性」に基づく計画 理論であったと位置づけられる。従って、「コミュ

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ニケーション的合理性」に基づく都市計画は、「目 的合理性」に基づく都市計画とは、合理性に対する 価値が異なるものである。

コミュニケィテイブ・プランニングが発展してき た背景として、イネス(1996)は、情報化社会の発 展により、多くの人々がフレキシブルなネットワー クによって結びつき、個人やコミュニティが多くの 知識を獲得し価値観の違いが拡大化した結果、都市 計画において重大で革新的な要求を行うようになっ たことを指摘している。「目的合理性」に基づく都 市計画では、専門家等が専門的知識や方法を活用し て、最も「適切」と考えられる目標や手段を検討し てきたわけであるが、現代社会では、価値観が多様 化し、また利害が多様化し、多くの知識を獲得する ことができる。人々や地域により「適切」さが異な り、その結果、「了解」の達成なしには都市計画が 実施できなくなったことを意味していると言えよ う。

これらの指摘は、アメリカ社会に限らず日本にお いても顕著であり、特にインターネットの普及に伴 い飛躍的にネットワーク化が進んでいる。地域の問 題について、多くの住民や市民団体が活発に情報交 換をし、その問題への対処の仕方などについて知識 やノウハウを獲得し、併せて、各自の利害関係につ いてもその状況を把握し何を要求するべきかを自覚 している。従って、各利害関係者間での「了解」を 達成することが、地域の問題を解決する上で必要条 件化しつつあると考える。

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コミュニケイティブ・プランニングの原則 コミュニケイティブ・プランニングを実施する上 で、「コミュニケーション的合理性」を達成するた めに、議論の場、議論の方法、発言者の規範などに ついて、どのようにあるべきかという原則が求めら れており、イネス(1999)はこれを次のようにまと めている。

まず議論の場に関しては、第一に重要な利害関係 を持つすべての主体が議論に参加していること、第

二に全ての利害関係者が、必要な情報を完全かつ平 等に与えられ、利害を表明できること、第三に全て の参加者が平等な発言権を有することを指摘してい る。すなわち、全ての利害関係を平等に議論し合う ことを目標とする上で必要な条件ということであ る。

また、議論の方法については、第一に正当な理由 に基づいて議論を進めること、第二に全ての要求や 仮定、制約を踏まえて議論を進めること、第三に了 解を目指すことを指摘している。すなわち、出され る利害や利害を考慮する議論の方法の正当性、利害 を考慮する上で利害を取り巻く諸条件の勘案、その 上での了解を図ることを目標としている。

さらに発言者の規範として、第一に誠実、かつ正 直に発言すること、第二に道理にかなった発言をす ること、第三に専門用語などを使わずにわかりやす く発言すること、第四に事実に基づき科学的に正確 に発言すること、などの条件を満たすことを求めて いる。これは、ハーバーマスが「妥当要求」かどう かを判断する基準としてあげた「意図通りのことを 誠実に述べていること」、「正当な規範に従っている こと」、「真理を表明していること」という3つの基 準に基づいている。

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コミュニケイティブ・プランニングの仕組み−

ワークショップの活用−

コミュニケイティブ・プランニングは、ハーバー マスのコミュニケーション的合理性に見られる高い 理想を、現実に持ち込んで、しかも、都市計画とい う利害の対立するような場に持ち込んでしまう方法 であり、これに対する懸念がまずは発生するだろう。

前項にあげたような原則は、現実には守られるこ とは不可能ではないか。議論の場を周到に準備し、

原則を徹底させるべく関係者が努力したとしても、

議論の方法や発言者の規範を、全員が守れるはずが なく、正当性のある了解を得ることは不可能ではな いか。さらに、仮に多くの人が守ったとしても、守 らない人が少数いれば、守らない人はかえって多く

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の利益を獲得し、不平等を拡大してしまう懸念があ るのではないか。このようなマイナスが発生する方 法を導入して良いのかと言う問題である。

また、コミュニケイティブ・プランニングの原則 についても、前項の掲載条件で果たして適切か、十 分かという点も問題としてあるだろう。さらに、そ もそも討論には、限界があり、複雑な社会での問題 解決には適さないといった、ルーマンのような考え 方もあるだろう。

コミュニケイティブ・プランニングの原則を達成 することは、確かに困難なことであるが、この難し さを克服するために、コミュニケイティブ・プラン ニングを進める上では、様々な仕組みや手法が導入 されている。例えば、ゲーム形式や様々な道具を活 用したワークショップ手法、メディエィーターや ファシリテーターなどの専門家がその例である。

少し具体的に例をあげると、よく利用されるワー クショップ手法としては、例えば、参加者が各自ラ ベルなどに自分の意見を1つずつ書き込み、全ての 人が書いたラベルを集め、KJ 法などを活用して問 題をグループ化したり関係性を明らかにするラベル トーキングと KJ 法の組み合わせ方式がある。これ は、意見を広く集めて整理する方法として極めて有 効である。また、例えば、他者の観点に立って利害 関係を把握するための方法として、ロールプレイ&

ディベート方式もよく利用される手法である。これ は、自分の意見とは異なる賛成や反対グループに 入ったり、実際の自分とは異なる立場、例えば商業 者、高齢者などの立場に立って、その立場になりきっ てディベートを行う方法であり、他者の立場を理解 する上で有効である。このような、様々な手法が数 多く開発され、導入されている。

コミュニケイティブ・プランニングの原則は、単 なる会話による議論では達成困難と思われるが、こ れらのワークショップ手法を活用することで、多く の効果を果たすことが期待される。

ワークショップ手法は、参加者の平等な発言を促 す役割、あらゆる利害が提示されることを促す役割、

全ての仮定や制約を考慮することを促す役割、客観 的事実やその相互関係を明らかにすることにより正 直な発言や道理にかなった発言を要求する役割、正 当な理由に基づいて発言することを常に要求する役 割、そしてそれらの議論を通じて了解を図る役割な どの、多くの役割が期待されている。そして、これ らの手法を適切に活用することにより、コミュニケ イティブ・プランニングの原則の達成を目指すので ある。

そしてこれらの手法を適切に選択し活用して、コ ミュニケイティブ・プランニングを進めるのは、メ ディエィーターやファシリテーター、そしてプラン ナー等の専門家である。専門家は、議論の場の設定 や議論の方法、参加者に対して原則を徹底すること を促す。適切なワークショップ手法を選択し、その ワークショップのやり方を参加者に的確に伝え、ま たワークショップを適切に進めるための様々なサ ポートを実施する。参加者の意図を的確にくみ取り、

了解への達成を志向して、様々な解決策や提案など を行うことが必要である。

コミュニケイティブ・プランニングの問題は、こ れらの手法を活用し、参加者が実際に原則を達成す ることを促進する役割を果たす担い手である。ワー クショップでは、発達心理学で指摘される「学習を 通じた自我の社会化」という側面が強調され、実際 に参加者自らの学習効果があることは、既に報告さ れている。従って、参加者も自らの学習を通じて、

原則を達成する役割を担っていると言うことは指摘 できる。

しかし何といっても、専門家の役割は極めて大き く、コミュニケィテイブ・プランニングにおいて、

「コミュニケーション的合理性」が実現されるか否 か、その結果、適切な「了解」が達成されるかと言 う点で、専門家は重大な役割を演じている。実際に それだけの重大な役割を果たせる専門家が、十分に 確保できるかという点は、コミュニケィテイブ・プ ランニングに存在する問題として指摘できる。

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3.コミュニケィテイブ・プランニングの効果

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アメリカにおけるコミュニケィテイブ・プラン ニングの効果

コミュニケィテイブ・プランニングには、大きな 課題があることを指摘したが、しかし、一方でアメ リカ都市計画では、コミュニケィテイブ・プランニ ングが多くの都市やコミュニティで実施され、その 結果として以下のような効果があったことを、イネ スは指摘している。

まずは、コミュニケイティブ・プランニングでは、

確固とした合意が形成されうる点である。ネット ワーク社会での情報交換機能を考えると、新たな情 報や考え方がもたらされた結果、折角形成された合 意が崩壊すると言うことも起こりうる。しかし、利 害関係者によって多様な利害が十分に考慮され、

様々な議論が行われた結果、持続的で実効性の高い 合意が形成されることをイネスは指摘している。

確かに、このような合意が形成される過程で、様々 な立場の人々が議論をし、コミュニティにおける多 様な利害を関係者が承知する。地域の問題が明らか になり、どのようにすることが地域全体の利益とな るかが明確になり、地域の目標が明らかになる。ま た個々の異なる利害関係と、地域全体の利益が把握 されているので、それらを考慮しつつ、問題を考え ることができる。このようにして得られた合意は、

持続性が高く、さらに、別の問題や課題が起きた場 合にも、比較的速やかに合意が形成されうると考え られる。

また最大の効果として、イネスは住民による学習 の効果を指摘している。自己の利益と他者の利益を 減じることなく、地域利益の増進を図る打開策を見 つけ出すということは、地域を改善する上で最も重 要なことであるが、各自の利益を理解する過程を通 じて、そのような考え方や態度、方法を学習すると いう点が報告されている。

4.コミュニケィテイブ・プランニングの評価 コミュニケィテイブ・プランニングの効果につい

ては、評価の方法を検討し、その上で効果を判断す ることが必要である。

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コミュニケーション的合理性と評価

「目的合理性」に基づく都市計画では、その評価 は、目標と照らし合わせて、どの程度目標が達成さ れたのかを判断することにより、評価を行うことが できた。例えば、どの程度の整備効果があがってい るのか、環境の質は向上したかどうか、計画は目標 通り遵守されているかどうかなど、さらに、それら は効率的であったかどうかと言った点である。それ では、コミュニケィテイブ・プランニングでは、ど のように評価をするのであろうか。

「コミュニケーション的合理性」に基づく都市計 画であることを前提におくと、コミュニケーション 的行為が実行され、「了解」が達成されたかどうか と言う点が、その評価の基本になると考えられる。

とすれば、まずは2!で既述したコミュニケイ ティブ・プランニングにおける原則がどの程度達成 されたかと言う点が評価のポイントになってくる。

すなわち、原則に基づいて、これが達成されている かのチェック項目を作成し、達成されていれば、「コ ミュニケーション的合理性」が担保されていると仮 定し、その上でどの程度の合意が形成されたかとい う点から評価する方法が考えられる。

しかし、どの程度の「了解」が達成できたのかと いう点から評価することを、イネスは反対している。

それは重要な問題ではなく、その過程こそが重要で あると主張している。確かに、合意が形成される過 程で期待される様々な地域への効果を考えれば、そ の実施そのものが重要であり、しかもそれが適正に 実施されたかどうかこそが重要であるという見方は 正当と思われる。また、「了解」達成を評価の主眼 に置くと、「了解」事項をつくることに目標が置か れ、その過程が重視されない可能性が出ることを考 えれば、「了解」の達成を重視しすぎることは、か えってマイナスであろう。

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複雑系の理論と評価

コミュニケイティブ・プランニングは、複雑系の 理論をもとにして、地域を有機体として捉え、個々 の要素間の創発、個々と全体の相互作用の活発化に より、地域コミュニティの全体システムの自己組織 化が促進されると言う考え方をベースにしている。

複雑系は、物理学や化学、生物学、数学、機械や 電気などの工学、経済学や社会学など幅広い学問で アプローチされているというインターディシプリン な理論である。

その全体の特徴として、例えば、井庭と福原は、

複雑系の定義として、①システムを構成する要素は 各自のルールに従っており、②局所的な相互作用が 重要であり、これにより全体の状態や動きが決定さ れること、③逆に、全体の状態や動きにより、個々 の要素のルールや機能、関係性も変化するという3 条件を指摘している。また、ワールドロップは、さ らに、①相互作用により、システム全体の自発的な 自己組織化を可能にしていること、②これらの自己 組織化システムは、自己適応的であり、積極的に利 益に変え進化することを指摘する。

これらの複雑系の理論を、都市計画を進める上で の手法としてアプローチし構築した方法が、コミュ ニケイティブ・プランニングと位置づけられる。

コミュニケイティブ・プランニングでは、コミュ ニティの問題や都市の問題などについて、フィジカ ルな問題に限らず、包括的に様々な主体間や地域レ ベルでの議論がされ、様々なレベルでの合意形成が 試みられる。これらの多様なレベルでの合意形成が、

地域内の相互作用を活発化させ、多様なレベルでの 創発を生じさせると捉えられる。その結果、地域全 体がそれらとの相互作用により、自ら内部ルールや 内部組織を変更するなどして、地域としての自己適 応性が向上される。その結果、自己組織化機能を高 めることにつながり、地域としての健全な恒常性が 維持できることを期待していると言える。

複雑系の考え方を具体化するために、コミュニケ イティブ・プランニングで議論される内容を、日本

で想定して例をあげたい。例えば、日本であれば、

学校や保育所の問題、公園や遊び場の問題、道路の 問題、高齢者や低所得者の福祉サービス、建物の建 て替えルール、街路樹や敷地内の緑の問題、日照や 通風問題、違法駐車や駐輪の問題、交通設備や信号 機の問題、近隣の渋滞や騒音の問題、防犯上の問題、

地震対策や避難場所の問題など、実に多様な問題が 議論の対象となる。

これらの問題は、個人間の問題である場合、特定 区域内の関係者の問題、地域全体の関係者の問題、

さらに特定区域と特定団体、地域全体と特定団体な ど、問題によって議論の関係者が異なるために、様々 なレベルでの議論が必要となる。

例えば、道路の幅員拡張であれば、その道路予定 地に土地や建物の所有、借地・借家などの権利を有 する権利関係者、新しい道路に面する沿道予定地に おける権利関係者、道路整備をする事業者や公共団 体、道路を使う利用者、全体の道路網やその計画を 把握する公共団体の担当部局、道路整備に関連して 計画変更や新たな整備を行う公共団体の部局、その 他騒音などの何らかの影響を受ける関係者などであ る。これらの関係者が、様々なレベルで、多くの異 なる問題を議論することが必要になるのである。

複雑系の考え方に従えば、これらの多様なレベル での議論は、相互作用を活発化させ、多くの創発を 生じさせ、地域全体の自己組織化機能が高まること につながると言える。すなわち、コミュニケイティ ブ・プランニングに対する評価は、複雑系の観点か らすると、地域コミュニティの自己組織化機能が向 上したかどうかと言う点になる。

このことの評価は、例えば①どのような内容がど のような関係者と議論されたのか、②合意されない としても、どのような問題がどのような関係者と共 有されたか、③新たなルールづくりや既存のルール 変更がなされたか、つまり、どのような合意があっ たのか、④人間関係や地域内の組織にどのような変 更があったか、新たな関係が生まれたか、などがあ げられる。

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すなわち、内部の相互作用の活発性や、それによっ てどのような変化が生じたか、その結果として、よ り良い地域へと自らを改善する力を有することがで きたかといった観点から評価することが必要になる だろう。

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利害調整機能と評価

コミュニケイティブ・プランニングにおける目標 は、地域コミュニティ内の利害調整である。地域コ ミュニティの問題を解決していく上で、新たな利害 が発生する可能性があるが、さらに、新たな施設の 整備をする場合には、関係者の利害が対立すること は極めて多い。

例えば、比較的対立が少ないと思える街区公園(児 童公園など)の整備ですら、周辺の住民からは様々 な反対が出される。例えば、「管理が悪いとゴミの 山ができやすい」、「病人がいるので子供の声が響く と困る」、「木を植えると葉が散るときに迷惑であ る」、「駐輪場代わりにされると、うるさい上に見た 目も悪い」、「非行少年の溜まり場になる」、「野良猫 が集まると排泄物の臭いで迷惑する」などなどであ る。

コミュニケイティブ・プランニングは、これらの 利害が実際に発生するのか、発生するとすればどの ようにすれば良いかと言うことを、議論を通じて、

利害を調整するものである。そこで、コミュニケイ ティブ・プランニングの評価として、実際に利害が 調整されたかと言う観点からの評価が考えられる。

これらの評価を行うためには、まずは個々の利害 を把握し、議論を通じて、発生するマイナスに対し ては、対策を講じたり計画を変更することによりマ イナスを是正する方法を検討する。その上でそれら の利害が、議論を行う前と比較してどのように調整 されたかについて把握する。なお、プラスの利益に ついては、開発利益の還元に関する議論につながる ものであるが、すでに多くの議論がありここでは論 じない。

前述の街区公園であれば、例えば、「ゴミの山が

できる」という点では、「公園の管理方法をどうす るか」という問題で、ゴミの山ができない管理方法 を住民とともに検討する必要がある。「病人がいる」

という点では、例えば、病人のいる部屋に防音対策 を施したり、背の高い樹木を植えるなどの対策を検 討し、最も良い方法を住民とともに議論して、病人 のいる居住者へのマイナスを軽減することが必要と なる。

このような議論を通じて、主張された利害、主張 されない利害が、どの程度調整されたかという点を 評価する。これらの利害は、比較的大きな影響のあ る施設整備を行う場合であれば、貨幣換算をするこ とができる。

著者が以前行ったのは、住宅地域に囲まれた一角 で建築物の建て替えがあり、事業者と周辺住民が協 議を行い、地区計画を作成して地域全体の整備を行 うというものであり、建て替え事業の計画を大幅変 更した事例である。 高さを80m から69m に変更し、

配置も変更している。このケースでは、周辺の住環 境に及ぼす影響が大きいので、周辺地域の敷地の資 産価値の変動によって外部効果を計測するという方 法を採用した。詳細な項目をとる必要があるため、

ヘドニック・アプローチと不動産鑑定法を組み合わ せて計測したが、このような方法により把握するこ とが可能である。ただし、軽微な土地利用の変更や 施設の整備などであれば、資産価値への影響は少な いので、数量化せずに利害項目のチェックリストな どを作り検討する方法が考えられるだろう。

5.まとめと課題

本稿では、アメリカ都市計画を中心としたコミュ ニケイティブ・プランニングについて、その特徴を まとめ、報告されている効果や、評価を実施する上 での視点をとりまとめた。評価としては、①「コミュ ニケーション的合理性」の達成という観点から、2

(2)の原則がどの程度達成したかについてのチェッ クシートを作成し、その上で合意しようとした内容 と実際に合意した内容を比較する等の方法がある

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が、合意の達成に重点を置くことはかえってマイナ スが発生するので十分な注意が必要である。また② 自己組織化機能の達成という観点からの評価や、③ どの程度の利害調整を達成したかという点からの評 価がある。利害調整については、チェックシートを 作成することや、また大規模な整備や開発計画など を含む場合は、ヘドニック・アプローチなどの手法 を利用して開発による外部効果による土地の資産価 値の変動を把握する方法が考えられる。

日本では、ワークショップを活用したまちづくり が数多く実施されているが、利害関係者との調整と いう視点からの取り組みは、ほとんど行われていな い。この理由として、一つには利害関係を明確にす ることを嫌う国民性があるのかもしれない。しかし、

大きな理由としては、利害関係が明確になって、対 話で利害が調整しきれなかった場合に、どのような 対策を講じるか、あるいはどのような仕組みでそれ を解消するかという方法が十分に考えられていない のではないかという点が指摘できる。

ある関係者にプラスの利益が発生したとして、そ のプラスを還元することは、開発利益還元論での多 くの議論からしても、現行制度では限界がある。逆 にマイナスが発生したとして、対話による調整だけ ではマイナスを解消できない場合に、その関係者に 対して、マイナスを補填する仕組み、またそもそも マイナスの発生を予防する仕組みが必要である。

現在、例えば土地利用計画や規制によって発生を 予め抑制する方法、環境影響評価によって是正する 方法、周辺整備や一体整備の実施による周辺地域の 環境向上や対策実施による是正方法、事業損失補償 や訴訟制度、税制などの方法があるが、これらの制 度で不十分な点を総合的に検討する必要がある。そ の上で、都市計画法や建築基準法、事業損失補償制 度、税法などの様々な法制度の変更も必要となるだ ろう。すなわち、日本でコミュニケイティブ・プラ ンニングを進めるためには、対話によってのみでは 調整しきれなかった利害を調整するための仕組み を、別途再検討することが必要である。

参考・引用文献

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