ジョセフソン素子のディジタル応用

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ジョセフソン素子のディジタル応用

著者 岡部 洋一

雑誌名 電気学会雑誌

巻 104

号 2

ページ p111‑114

発行年 1984‑02

URL http://id.nii.ac.jp/1146/00007630/

(2)

i Bか

U D C〔 6 2 1 . 3 1 5 . 5 5 : 5 3 7 . 3 1 2 . 6 2 〕 : 6 8 1 . 3 2

ジ ョセフソン素子の

デ ィジタル応用

1. は じ め に

情報化社会の発

展につれ, より高速で大容量の電子 計算機の必要性が

年 々高 ま りつつあ る。例えば,気 象 における大気の運

動の ような,三次元空間の ものをシ ミュレーシ ョンし

ようとす ると,記憶容量 も多 くい る し,計算量 も莫大

とな り,正確な数値予報には高速で 大形の計算機が不

可欠 とな る。高速の計算機 には高速 で動作す る素子が

必要 にな るとい うことで着 目された のが,敬‑数十

p

s

の立 ち上 り時間を もつ ジ ョセ フソ ン素子であ る

。1 9

6 0

年 の 中 ごろに アメ リカ

I BM

社 が この素子を計算機に

利用す る構想を打 ち出して

(

1'以 莱,アメ リカおよび 日本を中心 として,,実用化に向 け 精力的な研究がなされている。

2.

ジ ョセ フ ソ ン接 合 の特 性 一 ジョセ フソン接

合は,図

1

に示す ように二つの超電 導体を弱 く結合 した も

のであ る

。 (a)

図は,現在, デ ィジタル回路 に広

く用い られてい るもので,鉛系の超 電 導体を トンネル

バ リアにより弱 く結合 した ものであ る。 また

(ち)

は二

つの超電導体の間を薄い超電導体あ るいは細い超電導

体で接続 した ものであ る。 この接続 部 には半導

体あ るいは常電導体 も用い られ る。

こうした接合部はバル クと同様 に超電導電流が流れ

ト ン ネ J L / BP

b‑Bll

PbJn‑Au

(a)鉛系 トンネル形 ジ ョセフソン

昭59‑2 (b) 接合

弱結合形 ジ ョセフソン接合

1

ジ ョセ フソン接合

岡 部

滴琴冨級

洋 一

東京大学工学部電気工学科 るが,超電導性が弱 く,

電 流を強 くし て い く と, 比 較的弱い電流 レベルで超電

(3)

つま り

2

×

1 01 5 Wb

とい う小 さな量であ る。

(1 ∫

)式 は電流が電圧積分の非線形関数で与え られ る,ちま り 非線形 リア クタンスであることを示 している。 ¢ は, 従 って磁気 インダ クタンスの磁束に対応す る量となる が,実際に磁束が蓄え られ るわ けではないので,特に フラクソイ ドと別の名称で呼ばれている。

図2に示 した直流特性は,実は こうした非線形 リア クタンスに,並列に静電容量と非線形抵抗を付 けた等 価回路で説明で きる。図

2

の超電導状態は (

1

)式で ¢ が一定の状態に対応す る。 当然 ¢ の時間微分 であ る 電圧は 0とな り, また超電導電流は

r I

t

<Z

cを満足す る。超電導性が破壊す ると電圧が発生 し, ¢は無限に 増大 し

, (1)

式 より電流は振動的になる。 このような 交流振動は極めて高周波数のため直流特性 には現われ ず,直流特性はほぼ非線形抵抗の樽性で与え られ るこ

とになる。

これか ら説明す る計算機用の回路 も, こうした図

2

や図 3の特性 を利用 して設計 され る。

3 .

ジ ョセフソン論理 回路

I BM

社が,最初の構想で提案した 論理回路 の原理 図を図

4

に示す。 この回路は図

2

に示す直流特性を利 用 したもので,定電流 源 と負荷抵抗によって図2の破 線に示す ような負荷直線を実現す る。接合の直流特性 と負荷直線の交点が二つで きるが, それ らをそれぞれ 論理の 0と

1

に対応 させ る。まず回路を うま く初期化 し,接合の状態を図

2

A

点 にしてお く。 ここへ回 路左か らくる入力線のいずれかに電流を流す ことによ り,負荷直線をず らし, 図

2

A

点を 不安定 にす る と, 回路の状態は β 点へと遷移す る。 この遷移によ り,接合 にはほとんど直流電流が流れな くな り,電流 は負荷抵抗の方へ流れ るようになる。 この負荷抵抗へ 流れ る電流により,更に、,次段を トリガす るようにす

る。

この回路の状態が,いずれの入力線にの った電流に 対 して も遷移す るようにしておけば

OR

回路 とな る

4

電圧形論理 回路 し, 2人力線共に電流が流れて

い るときのみ遷移す る ようにしておけば

AND

回路 と

なる。いずれにして も ジ ョセフソン論理回路は初 期

状態として

A

点にセ ッ トした状態が

β

点に遷移す る

か香かによって論理を 行 なうもので ラッ

チ論理 となっている。

A

点を不安定にす るには負

荷直線 を 移 動 して もよ いが,接合の

J

。を減 らす こと

もよ く用い られ る。接 合面積の大 きな接合,あ るいは複

数の接合を.並列にし てあ る程度の領域に広げたもの

に磁界をかけると,接 合全体の 7.が磁界で制御 され

る。 この性質を利用し た ラッチ論理回路は磁界結合形論理

回路 と呼ばれ(3), 最 も実用化段階に

あ る論理回路である。

入力線を直接接合 に接続 し,

電流の注入 により負荷 直線の位置をず らす形式の論理

回路は電流結合形論理 回路 と呼ばれ

( 4 )

,近年盛んに研

究 されている。磁界結 合形回路の ように大 きな面積を

とらず,設計マージン も大 き くとれ るが,信 号が入力

側に戻 りやす く,一方 向性を保つのが困難であ り,今後の研究成果

が期待 さ れてい る。現在, こうした直流特性上の

2

安定点を利用 した, いわゆる電圧形論理回路により,

ゲー ト遅延時間数ps の ものが発表されてい る。 この

遅延時間はかな り速い ものであ るが, ジョセ フソン素

子その ものの原理的な 遅延時間と比較すると, まだ‑

けた近 く遅い.その主 な理 由は トンネル形 ジ ョセフソン

接合の.もっている並 列静電容量であ る。 この容量の

影響を少な くす るには トンネルバ リアをわずかに薄 く

すれば よい。 このよう にす ると ん が急増す るのに対

し,静電容量はわずか しか増加しないか らであ る。 し

か し,静電容量を相対 的に減 らし,接合の時定数を速

くす ると,図

2

の直流 特性が変化し,二つの安定点が

得に くくなることが知 られている。従 って,直流特性を利用 しない論理回路

が必要 となって くる。更に電圧形論理回路 には,パ

ンチスルーとい うやっ かいな問題があ る(5)。 これは大

きな静電容量のために 接合のダンピングが悪 くなり, 7

)セ ッ トの際,一度起 きた交流振動が容易に減衰せず

, リセ ッ ト時間を短 く す ると,超電導状態に リセ ット

で きな くな るとい う現 象であ る。 このため, ゲー ト遅

延時間 は 数psにで き て も, クロック周期はns程度

にせざるを得 な くな っ てい る。 この意味で も,接合の

静電容量を抑え,かつ それに適 した回路の開発

が必要 となって くる。

そ こで開発されつつあ るのが

,直流特性の代 りに図

3

の電流 Jとフラクソイ ド ¢

の間の関係を利用 した 回路である(6)。考 え方は,電圧

形論理回路 と同様であ り

,∫‑

¢ 特性 に

2

箇所 (不安定点 も入れ

ると

3

箇所)

1 1 2

(2 8 )

(4)

1 1 5

5

フラクソイ ド形論理 回路 で交わ る図

3

の破線の よう

な負荷直線を引き, そのと きで きる安定 な二つの交点

A

および

B

を論理の

0

1

に対応 させ ようとい うもの

であ る。動作原理 も電 圧形の もの と極めて似ており,

負荷直線 または接合の

Z

cを入力によ り変化 させ, 図

3

A

点を不安定 にし て

B

点に遷移 させ,

論理を行 な うものであ る。 唯一 の違いは,負荷直線が

7‑

¢ 図の上で 直線であ ること か ら,抵抗で実現 され

るのではな く, インダクタンス により実現 され る点で

ある。従 って, この論理回路は 図

5

の形で実現 され る

こととな る。

フラクソイ ド形論理回路は論

理の 0と

1

に対応す る 点が動的な不安定性 を一切 もっ

ていず,高速でかつ消 費電力の少ない とい う長所を もって

いる。 しか し,負 荷を

¢o /

Zc程

度のインダ クタンスに設計す る必要 があ り, このため

信号の長距離伝送が難 しいなど, まだ解 決すべ き問題

が少な くない。

4

. ジ ョセ フソン

憶回路

ョセフソン計算機の中で用い られ る記憶回路は, 前述

の フラクソイ ド形論理回路 に似た 原 理 で 動 作 す る.そ

の一例を図

6

に示す(7). この回路は

1

ビッ ト分 の

メモ リーセルを示 してい る。 こうしたセルを縦横に 数

多 く並べ,更に Zwや Zbに信号を送 るためのデ コ ー

ダ回路

,J

∫か ら外へ出て くる信号を処 理 す るセン ス

回路を付 けて全体のメモ リーは構成 され る。

ある特

定のセルにビッ トを書 き込むには, そのセル に対応

す る 7.0と Zbに電流を流す. この書 き込み動図

6

記 憶 回 路

昭59‑2

ミ ニ 解 説 作は,図

3

の負荷直線 を I

wの電流 および Zbの磁 界 結合により上または下へ移

動 し,二つの安定点の うち 片方を不安定 にす ることに

より,セルの状態を 0また は

1

にセ ッ トす る. どちら

を不安定 にす るかは,Ibの 電流方向により選択す る

ことがで きる。

読み出しは Zw と Zbに特定 な方向

の電流を流 し′

そのとき遷移が起 るか香かを JJ上 に

置かれた接合に より検知す る。娩出の際,通常はセル

の情報は破壊 さ れ るが,回路のダン ピングを うま く調

整し, もとの状 態に戻

す非破壊形 メモ リーも作 られている。

現在メモ リーとして

は,デ コーダやセンス回路 まで も含めた

1kbi t

程度の集

積回路が作成 されている。

5 . なぜ ジ ョセ フソン

計算機 か

超高速計算機を作 る

には素子の速度が速い ことは当 然必要であ るが, それだ

けでは駄 目であ る。高集積が で きる必要がある。例え

ば クロック周期 として

1ns

を 考えてみよう。 この時間で信号の到達で きる距離は,

(5)

6 .

今後の発展

ジ ョセ フソン集積回路 は 目覚 ましい勢いで進んで お り,論理 回路はゲー ト数で

1 0 0

程度, ゲー ト遅延時間 数psの ものが, また記憶回路は

1 , 00 0

ビッ ト程度の ものが発表 されてい る。今後は こうした開発の延長上 に存在す る問題 と,新 し く発生す る問題があ ろう。

まず延長の問題 としては, ば らば らの回路を組み合 せ る技術の開発が急務のテーマであ る。 また回路が極 低温で しか動作 しないため,従来半導体回路で用い ら れて きた常温でのブ ローバによる回路診断が不可能 と なる。回路の巨大化につれ,あ らか じめ故障診断回路 を組み入れ るような診断技術が必要 とな って くる。

現在の延長線か らずれた新 しい問題 と しては, まず 材料の問題があ げられ る。現在主 として用 い られてい る接合材料であ る鉛系合金は安定 な トンネルバ リアを 作 るが,結 晶粒径が大 きく,素子の縮少化 に通 草ない こと, 拡散な どの問題があ ること,接合の上下 の材料 が異な ること,温度 サイ クルに弱い こと, などの幾つ かの問題点を抱えてい る。 このため,高融点金属であ るニオブ系の接合が開発 されつつあ る。 まだ トンネル バ リアに問題があ るが, 安定 な接合 として期待 されて い る。

次に弱結合形接合の研究があげ られ る。 この接合は トンネル形に比べ静電容量が小 さいとい う特長を もつ が,微細加工技術を必要 きし, このためまだ物理が明 白でな く研究の域を出ていない。

第三に高速論理 回路の開発,特 にフラク ソイ ド形論 理 回路の研究が必要であ ると思われ る。

第 四は新超電導素子の開発であ ろう。 ジョセフソン

素子は現在の ところラッチ理論が中心であ り, また本 質的に

2

端子素子であ る。 このため, 否定論理が組み 難い。 フ ァンイン, フ ァンアウ トが少ない,方 向性が 取 り難いなどの幾つかの問題点 を抱えてい る。 このた め超電導で動作す る何 らかの

3

端子素子の ような素子 の開発が次の大 きなテーマとな り得 る。

7 . む す び

現在のジ ョセ フソン素子のデ ィジタル応用について 超高速計算機を中心 に, 回路方式,必要性, 問題点, 将来 につ いて述べた。当面の開発 目標 となってい る大 形計算機については,現在のシ リコン技術 に近い窒素 冷却のシ リコン集積回路,

Ga As

集 積 回路,

HEMT

などの技術が使われ る可能性が高い と思われ る。 しか

し, その先の超高速計算機となると, いまの ところジ ョセ フソン素子以外では実現不可能 と思われ る。 この 意 味で,今後 さ らにジ ョセ フソン計算機の研究が進展 す ることを期待 してやまない。

(昭和

5 8

9 月 1 3

日受付)

文 献

(1) W .Anacker.・ZEEE Trams,Magnetics AtAGl5,968 (1969)

(2)B.D.Josephson.・Phys.Leliers 1,51(1962) (3)H・H・Zappe:ZEEE Trans・.Magnetics AqAG13,41

(1977)

(4) T.R.Gheewala.AAppl.Phys,Letters 33,781(1978) (5) T.A.Fulton& R C.Dynes:Solid‑State Commun.

‑ 9,1069 (1971)

(6) 冒.Tamura,Y.Okabe& T.Sugano:Appl.Phys.

、 Letters 39,761(1981)

(7) W.H.Henkels&H.H.Zappe:IEEE I.Solid‑State Circuiis SC‑10,591(1978)

(3 0 )

104巻 2

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