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VR環境下での風の強さ知覚における視触覚統合

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Academic year: 2021

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VR 環境下での風の強さ知覚における視触覚統合 西牧 侑哉 *1 郷田 直一 *2 蒲池 みゆき *3. Visuo-tactile Integration for the Perception of Wind Intensity in a VR Environments. Yuya Nishimaki*1 Naokazu Goda*2 and Miyuki G. Kamachi*1. Abstract --- Previous studies on virtual reality (VR) suggested that the inclusion of wind or air flow in combination with audiovisual information can enhance the sensation of presence. However, the perceptual nature of wind in such a situation remains unknown. Using a VR environment with a head-mounted display, this study examined how observers feel real wind while viewing a fluttering flag or fallen leaves as wind flows in the virtual space. The results demonstrated that the tactile (cutaneous) perception of the intensity of wind varied depending on the virtual wind speed. This visuo-tactile crossmodal effect tended to be stronger for weaker real wind irrespective of the direction incongruence between real and virtual winds. These findings provide new insights into the multisensory nature of wind perception with contributions to the design of an efficient wind display system in VR.. Keywords: wind perception, multi-sensory integration, immersive virtual reality. 1 はじめに. 今日バーチャルリアリティ(VR)技術が発達し,VR 空 間で臨場感を得ることが可能となった.VR 空間内で臨 場感を得るには,視覚情報に加え,聴覚情報や触覚情. 報といった多感覚情報を適切に統合する必要がある. [1,2,3,4].多感覚統合を実現するための技術の一つとし て,近年,VR 環境下で「風」刺激を呈示する技術の開 発が進められている.風刺激は,非接触で呈示すること. が可能である等の利点がある.風刺激を VR 空間内の 移動(歩行・走行等)に合わせて呈示することにより,速. 度感[5]や臨場感[6,7,8],没入感[9,10]が向上し,VR 酔 い[11]が改善することも示されている.応用に向けた開 発が進む一方,人は VR 環境下,特に顔の一部が遮蔽 されるヘッドマウントディスプレイ(HMD)装着下におい て,触覚や視覚を通して風をどのように知覚しているの. か,風による触覚の情報は他の感覚情報とどのように統. 合されるのかといった知覚特性についての基本的な問. 題は,未だ十分に明らかになっていない.特に,重要な. 知覚属性の一つである風の強さ(風速,風力)の知覚に. ついての研究は少なく,不明な点が多く残されている. 風の強さについての情報は,視覚的には例えば,煙. のたなびき,旗のはためき,木々の小枝の揺れ,水面の. さざ波などの手がかりから得ることができる.これらの視. 覚的手がかりは実際に目視で風力階級を定める時の基. 準にも用いられ,それぞれおよそ風力 1, 3, 4, 5 に対応 する[12].日常的には,我々はこれら視覚的手がかりが 存在する環境の中で身体に当たる風を感じている.この. とき,視覚情報は身体に感じる風の強さの知覚に影響. を与えているのだろうか.与えているとすればその影響. はどのような条件において生じるのであろうか.また,そ. れら視覚的手がかりには,観察者の周囲を舞う落ち葉. の動きのように,観察者自身に当たる風についての直. 接的な情報を与えるものもあれば,遠くの木々の揺れの. ように観察者から離れた空間を吹く風に関係し,観察者. に当たる風を必ずしも反映しないものもある.このような. 観察者との距離関係等によっても,視覚情報の影響の. 性質は異なるのであろうか. これらの問題に着目し,本研究では,観察者自身に. 実際に当たる風の強さの知覚が,同時呈示された視覚. 情報とどのように統合されるのかについて実験的に検討. した.HMD および風覚ディスプレイを用いた VR 環境 下で仮想空間内に二つの視覚的状況−離れた空間に. ある旗がはためく状況(実験1,2),および,自身を取り. 巻くように落葉が舞う状況(実験3)−を再現し,空間内. の仮想的な風と実際に身体に当たる風の風速と風向を. 操作した.これら状況下で身体に実際に当たる風の強. さがどのように知覚されるのかを心理学的に測定するこ. とにより,風の強さ知覚における視覚情報の影響を評価. することを試みた.. *1 工学院大学大学院工学研究科情報学専攻 *2 生理学研究所 *3 工学院大学情報学部 *1 Graduate School of Engineering, Kogakuin University *2 National Institute for Physiological Sciences *3 Faculty of Informatics, Kogakuin University. TVRSJ Vol.26 No.1 pp.14-21, 2021. ―14―. 日本バーチャルリアリティ学会論文誌 Vol.26, No.1, 2021. 2 関連研究. 風の知覚は風覚とも呼ばれ,「触圧覚,温覚,冷覚等. が複合された広い意味での触覚の一種」[13]とされる. 本研究もこれにならい,風により感じる皮膚の感覚を風. 覚と呼ぶ.近年の風覚研究においては,主に風の方向. (風向)の知覚に焦点があてられてきた[14,15,16,17,18]. 中野らは,視覚情報と聴覚情報が制限された条件下で,. 身体に当たる風の風向弁別感度を調べ,前面からの風. についての風向弁別閾は約 4−8 度であることなどを明 らかにしている[17].また,Pluijms らは日常的に風に当 たっている船員は一般人よりも風向弁別感度が高いこと. を示している[18].このことは,風の知覚が経験・学習に よって変化することを示唆する.. VR 環境下において,風向の知覚は他の感覚情報に よって影響を受けることを示唆する研究もある.斉藤ら. はHMD装着下で風刺激を視聴覚刺激と同時に呈示す ると風向の弁別感度は著しく低下することを報告してい. る[19].さらに Ito らは HMD 装着下で実際に当たる風 の風向と視聴覚情報による風向の手がかりが矛盾して. いる場合,視聴覚情報に一致するように風向が変化し. て知覚される現象を報告している[20,21].一方,風の強 さの知覚については,基礎的知見はあるものの[22],他 感覚による影響に関しては不明な点が多い.Kurosawa らは VR 空間内で移動に合わせて風と映像や前庭刺激 を呈示すると風単独の呈示よりも風覚が弱まって知覚さ. れることを報告している[23].このことは風の強さの知覚 は視覚等からの影響を抑制的に受ける場合があること. を示唆する.また,Giraldo らは,抽象的図形による風の 視覚的手がかりが風の強さの知覚に影響を与えうること. を示している[8].しかしながら,旗のはためきや木々の 揺れ,落葉の舞いといった風の強さについてのより直接. 的で自然な手がかりが存在する環境下において視覚情. 報の影響はこれまで検討されていない.本研究はこの. 問題に取り組むものである.. 3 仮想旗観察時における視覚と風覚の統合. 実験1および2では,遠距離にある旗が強い風によっ. てはためく様子を観察している視覚状況を HMD を用い てVR空間内に再現し,この状況における視覚と風覚の 統合について調べた.実験1においては,観察者に実. 際に当たる風(実風)の条件を一定にした上で,VR 空 間内の仮想的な風(仮想風)の風速を操作し,自身に. 当たる実風の強さが仮想風の風速によって変化して知. 覚されるのかどうかを検討した.実験2では実風と仮想. 風の風向の関係(一致/不一致)を操作し,風向の整. 合性によって風の強さの知覚が変化するのかどうかを. 検証した.. 3.1 実験環境 風覚刺激を呈示する風覚ディスプレイとして3台の扇. 風機(日立社 HEF-120R, HEF-130R)を用いた.風覚 ディスプレイは着席した観察者の前方,左 45 度方向, 右 45 度方向に 2 m 離れた位置に設置し,中心の高さ は 0.75 m とし,風が観察者の鼻付近にあたるように向き を設定した.風速条件として4段階(微, 弱, 中, 強)の 風力設定の中の3段階(弱, 中, 強)および無風の条件 を使用した.それら3段階の風速は観察者の首元に相. 当する位置に設置した風速計(Ckeyi 社 GM8903)によ り実験前に計測した(風覚刺激呈示後 5 s – 15 s, サン プリング 1 Hz, 各条件 115 回計測).その結果,3段階 の平均風速値は,弱: 0.69 m/s,中: 1.00 m/s,強: 1.11 m/s であった.また,標準偏差はそれぞれ 0.11 m/s, 0.16 m/s, 0.18 m/s であった.実験は暗室で行い,室温 は 24 度に設定した.実験環境の全体図を図1に示す.. 視覚刺激は,HMD(Oculus 社 Oculus rift CV1)およ び制御用 PC(HP 社 OMEN Desktop 880)を用いて呈 示した.頭部のトラッキングセンサは風覚ディスプレイ横. に1台設置した.Unity(Unity Technologies 社)および布 の特性を再現可能にする「Cloth」コンポーネントを用い, VR 空間内に仮想風で揺らぐ旗を作成し,この映像を視 覚刺激とした.メインカメラ(VR 空間内の観察者の位置) を高さ 1.1 m の位置に設定し,仮想旗はメインカメラから 風覚ディスプレイの方向に 6.5 m 離れた位置に設置し た.旗のサイズは縦 1 m×横 2 m,ポールの高さは 3 m とした.仮想風の風速は 0.0 m/s(無風),7.5 m/s,10.0 m/s,12.5 m/s のいずれかに設定した.これらはそれぞ れおよそ風力 0, 4, 5, 6 に相当し[12],仮想旗が水平に 強くはためく条件を含む.これら条件の旗の揺らぎが容. 易に区別でき,風速に応じておよそ線形に風速を評価. 可能であることを視覚刺激のみを用いた予備実験にお. いてあらかじめ確認した.仮想風の風向は左 90 度(左 から右),左 45 度,右 45 度のいずれかとした.図2に左 90 度条件の視覚刺激を示す.. 図1 実験環境(実験1,2). Fig.1 Experiment setup (Experiments 1 and 2). ―15―. 西牧・郷田・蒲池: VR 環境下での風の強さ知覚における視触覚統合. 3.2 手続き 実験参加者は,実験条件がわからないよう風覚ディス. プレイが隠された状況で暗室に入室した.耳栓および HMD を装着し,風覚ディスプレイによって呈示される 風の触覚的な強さ(自身にどのくらいの強さの風が当た. っているか)を7段階で評定するよう求められた.参加者. は,実験開始時に,視覚刺激として映像は呈示しない. 暗条件下で,実験毎に設定された特定の基準条件(実. 験内で使用する実風風速条件のうち最大の風速条件). の実風が与えられ,このときの強さを“非常に強く感じる”. (7),無風の場合を“まったく感じない”(1)としたうえで,. 1から7までの整数を等間隔とみなし,口頭で回答する. よう教示された(図3).練習試行を数回行ったのち,本. 試行を行った.各試行においては,まず風覚刺激を呈. 示し,風が当たり始めてから6秒経過後に視覚刺激を呈. 示した.その後,風覚・視覚刺激を 10秒間呈示し,回答 画面(図3)を呈示した.試行間は暗条件とした.得られ. た評定値は無風(“まったく感じない”)を 0,基準条件 (“非常に強く感じる”)を 1 とする相対尺度に線形換算 し,これを知覚強度と定義した.. 3.3 実験 仮想風の風速の影響(実験1) 本実験では,風覚ディスプレイによる風覚刺激(実風). の条件を固定(風向:正面,風速 0.69 m/s(弱))した上 で,仮想風の風速(0.0 m/s(無風),7.5 m/s,10.0 m/s, 12.5 m/s の4条件,図2)を変化させ,それにより風覚が 変化するのかを検討した.仮想風の風向は左 90 度(左 から右)とした.基準条件の風速は 0.69 m/s,風向は正 面であった.実験参加者は,各条件それぞれ5試行ず. つ,計 20 試行をランダムな順序で行った.20 代前半の 11 名(男性7名,女性4名)が本実験に参加した.. 図2 視覚刺激(実験1) Fig.2 Visual stimuli (Experiment 1). 図3 回答画面 Fig.3 Answer screen. 図4に各仮想風条件における知覚強度の平均値を. 示す.エラーバーは標準誤差を表し,点線は線形回帰. 直線を表す.身体に当たる実風の風速は固定されてい. るにも関わらず,仮想風の風速が大きくなると,実風の. 知覚強度が強くなる結果が得られた.仮想風4水準に. 関して一要因の反復測定分散分析を行った結果,主効. 果が有意であった[𝐹𝐹(3,30) = 17.949 , 𝑝𝑝 < .001 ].さら に,Bonferroni 法による多重比較(5%水準)を行ったと ころ,風速0.0 m/sと他のすべての風速条件間,及び7.5 m/s と 12.5 m/s 条件間において有意な差が認められた (図4).本結果は,視覚によって与えられた仮想風の手. がかりが風覚(触覚)に影響を及ぼしていることを示して. いる.. 3.4 実験 実風と仮想風の風向関係の影響(実験2) 実験1では実風を正面から吹く風,仮想風を左から右. へ吹く風で呈示した.すなわち,両者の方向は異なって. いた.一般的には,両者の風向が一致した場合に,より. 自然な多感覚統合が生じやすいのではないかと予想さ. 図4 実験結果(実験1) Fig.4 Results of Experiment 1. ―16―. 日本バーチャルリアリティ学会論文誌 Vol.26, No.1, 2021. れる.そこで,実験2では,実風と仮想風の風向を操作. し,それらの関係によって仮想風風速の影響がどのよう. に変化するのかを検討した. また,本実験にあたり,実風条件について以下の変. 更を行った.第一に,過去の研究において 1 m/s 以上 の風速条件が多く用いられていることも考慮し,本実験. では,実風風速は 1.00 m/s(中)に設定した.また,実験 1では常に同じ風速の実風を呈示していたが,そのこと. を参加者が認識し,風の強さ判断において風速評価を. 一定にするバイアスが生じていた可能性が考えられた.. その場合,仮想風の効果が実際よりも小さく見積もられ. ることになる.このことを考慮し,本実験では,実風の風. 速が異なる条件(0.69 m/s, 1.11 m/s)をダミー試行条件と して用い,風速固定によるバイアスの低減を試みた. 実風の風向は正面,左 45 度,右 45 度の3条件とした. (図 1).仮想風の風速は 0.0 m/s(無風)および 10.0 m/s の条件を用い,10.0 m/s の条件についての風向は左 45 度,右 45 度の2条件とした(図5).実験1同様に仮想風 風速の影響が見られるならば,仮想風風速 10.0 m/s 条 件の知覚強度は無風条件より強くなると予想される.さ. らに,実風と仮想風の風向関係も影響するならば,実風. と風向が一致する仮想風風向条件においてより知覚強. 度が強くなると予想される. 参加者は各条件それぞれ5試行,およびダミー試行. 35 試行,計 80 試行をランダムな順序で行った.基準条 件の風速は 1.11 m/s,風向は正面であった.20 代前半 の 14 名(男性 13 名,女性1名)が本実験に参加した.. 図6に各風向条件における知覚強度の平均値及び. 標準誤差を示す.実風の風向条件3水準(左 45 度/正 面/右 45 度)と仮想風条件3水準(左 45 度/無風/ 右 45 度)について二要因の反復測定分散分析を行っ た結果,実風の風向条件の主効果が有意であった. [𝐹𝐹(2,26) = 17.363 , 𝑝𝑝 < .001 ].すなわち,本実験条件 においては,第一に実風の風向による知覚強度の違い. が認められる.. 図5 視覚刺激(実験2). Fig.5 Visual stimuli (Experiment 2). 続いて本実験の主目的である仮想風の効果をみるた. めに,仮想風条件の単純主効果を調べた.その結果,. 実風の風向が右 45 度の条件においては仮想風条件の 単純主効果が有意であった [𝐹𝐹(2,26) = 3.719 , 𝑝𝑝 = .038 ].本実風条件においては,実験1で見られた結果 と同様に,仮想風の条件によって実風の風覚が変化し. たといえる.また,仮想風の風向が斜め方向の条件間. (実風右 45 度における仮想風右 45 度と左 45 度)では 差が認められなかった.すなわち,実風と仮想風の風向. が一致している条件と 90 度異なる条件の間に差がない. このことは,風向の一致不一致は重要でないことを示唆. する. 本実験では視覚の影響は部分的であり,実風が左. 45 度及び正面から吹く条件では,仮想風条件による単 純主効果は有意でなかった[実風左 45 度: 𝐹𝐹(2,26) = 2.283 , 𝑝𝑝 = .122 ; 実風正面 : 𝐹𝐹(2,26) = .085 , 𝑝𝑝 = .919 ].この結果,特に後者の結果は,正面から吹く実 風条件下で行った実験1の結果と異なっている.実験1. との刺激条件の違いの一つとして,風覚刺激の風速レ. ベルがあげられる.実験1では,風速 0.69 m/s(弱)の風 覚刺激を使用し,一方実験2では,風速 1.00 m/s(中)の 風覚刺激を使用した.この違いが結果の違いに関わっ. ている可能性が考えられる.この可能性については,実. 験3においてさらに検討する.. 4 仮想落葉観察時における視覚と風覚の統合. 本実験では,観察者自身を取り巻くように舞う落葉を. 観察している視覚的状況をとりあげ,近距離空間の風. についての視覚的手がかりが,自身に実際に当たる風. の風覚にどのような影響を与えるのかを検討した.本視. 覚手がかりは,自身に当たる風についてのより直接的な. 手がかりを与えるため,旗のはためきよりも,より強く,よ. り選択的な影響を及ぼす可能性も考えられる.落ち葉. のようなパーティクル刺激は,いくつかの研究[19,20,21] で風の視覚手がかりとして使われているものでもある.. 図6 実験結果(実験2) Fig.6 Results of Experiment 2. ―17―. 西牧・郷田・蒲池: VR 環境下での風の強さ知覚における視触覚統合. 本実験では,旗刺激の場合と同様の仮想風風速の影. 響を調べるとともに,実験1,2の結果から示唆された風. 覚刺激の風速依存性に着目し,複数の実風風速条件. 下で視覚情報の影響を評価した.. 4.1 実験環境 風覚ディスプレイとして,サーキュレータ(アイリスオー. ヤマ社 PCF-SDC15T)を用いた.風速条件は,10 段階 (1~10)の風力設定の中の3段階(1, 5, 9)のいずれ かとした.事前に計測した3段階の平均風速値はそれ. ぞれ 0.68 m/s,1.48 m/s,2.31 m/s であった.これら風速 条件は後述する視覚刺激に合わせて設定した.各条件. の風速の標準偏差(風覚刺激呈示後 0 s - 10 s, サンプ リング 1 Hz, 5回計測)はそれぞれ 0.06 m/s,0.09 m/s, 0.14 m/s であった.風覚ディスプレイは着席した観察者 の前方 1.5 m の位置に設置し,高さは観察者の顔と水 平になるよう設定した.本実験環境ではファンの音が観. 察者に聞こえる懸念があったため,イヤフォンを通して. 音を流すことによりファンの音を遮断した.遮音用の音. には,予備的検討において遮音効果が良好で,VR 環 境中で風の音と混同することなく自然に聞こえる「川の. せせらぎ音」を用いた.実験は暗室で行い,室温は 24 度に設定した.実験環境の全体図を図7に示す.. 視覚刺激は HMD(HTC 社 VIVE Pro Eye)と制御用 PC(HP 社 OMEN Desktop 880)を用いて呈示した.頭 部のトラッキングセンサは風覚ディスプレイの左右に2つ. 設置した.75 m(縦)×75 m(横)の VR 空間の中央,高 さ 1.1 m の位置にメインカメラ(観察者の位置)を設定し た.メインカメラからおよそ 35 m 離れた位置に落葉樹を 配置し,Unity 上で落葉や雪などの表現を可能にする 「Particle」システム,および風をコントロールする「Wind Zone」を使用して風で舞う落葉の映像を作成し,これを 視覚刺激とした.落葉の出現範囲はメインカメラを中心. に 55 m(縦)×55 m(横)×7 m(高さ)とし,地面から 8 m の高さから1秒間に500枚出現させるように設定した.仮 想風の風速は 0.00 m/s,0.68 m/s,1.48 m/s,2.31 m/s の いずれかとした.これら条件は,落ち葉の動きが自然で. あり容易に区別可能な条件に設定した.また,視覚刺. 激のみを用いた予備実験により,これら条件の風速の. 評定値が風速に応じてほぼ線形になることを確認した.. 図8に落葉の軌跡(0.3 s)を「Trails」を使用して可視化し た画像を示す.. 4.2 手続き 実験参加者は,風覚ディスプレイが隠された状況で. 暗室に入室し,Bluetooth 対応イヤフォンおよび HMD を装着した.参加者は,実験1,2同様,実験開始時に,. 暗条件下で基準条件として実験で用いる最大風速の風. 覚刺激(風速: 2.31 m/s,風向:正面)が与えられ,これ を“非常に強く感じる”条件とし,各試行において自身に. 当たる風の強さを7段階で回答するよう教示された.練. 習試行を数回行ったのち,本試行を行った.本実験に. おいては基準条件よりさらに強いとの回答も可とした.ま. た,12 試行毎に基準の風覚刺激が呈示され,基準条件 を確認するよう求められた.各試行においては,風覚刺. 激と視覚刺激を同時に 10 秒間呈示し,その後回答画 面を呈示した.試行間は暗条件とした.得られた評定値. は,実験1,2同様,無風(“まったく感じない”)を 0,基 準条件(“非常に強く感じる”)を1とする相対尺度に線. 形換算し,これを知覚強度と定義した.. 4.3 実験 実風及び仮想風の風速の影響(実験3) 本実験においては,実風および仮想風の風向は正. 面に固定し,実風の風速3条件(0.68 m/s, 1.48 m/s, 2.31 m/s),仮想風の風速4条件(0.00 m/s, 0.68 m/s, 1.48 m/s, 2.31 m/s)の各組み合わせ条件において実風の知覚強 度を測定した.各参加者は各条件それぞれ6試行,計. 72 試行をランダムな順序で行った.20 代前半の 11 名 (男性9名,女性2名)が本実験に参加した.. 図9に各条件における知覚強度の平均値及び標準. 誤差を示す.点線は実風の風速条件毎の線形回帰直. 線を表す.いずれの実風風速条件においても,仮想風. 風速が強くなるにつれ,知覚強度が強くなる傾向がみら. れた.実風風速条件毎に,仮想風風速4水準について. の一要因反復測定分散分析を行ったところ,実風風速. が 0.68 m/s および 1.48 m/s の条件において,仮想風風 速の主効果が有意であった [実風風速 0.68 m/s: 𝐹𝐹(3,30) = 6.687 , 𝑝𝑝 = .001 ; 1.48 m/s: 𝐹𝐹(3,30) = 7.348, 𝑝𝑝 = .001].一方,実風風速が 2.31 m/s の条件 では有意ではなかった[𝐹𝐹(3,30) = 1.425 , 𝑝𝑝 = .255 ]. さらにそれぞれ多重比較(Bonferroni 法,5%水準)を行 ったところ,実風風速 0.68 m/s 条件では,多くの条件間 (仮想風風速 0.0 m/s と他の全ての風速条件間)におい て有意差が認められ,実風風速 1.48 m/s 条件では,仮 想風風速 1.48 m/s と 2.31 m/s 条件間のみ差が有意で あった(図9).すなわち,実風風速が弱くなるほど視覚. の影響が大きくなる傾向がある.. 図7 実験環境(実験3) Fig.7 Experiment setup (Experiment 3). ―18―. 日本バーチャルリアリティ学会論文誌 Vol.26, No.1, 2021. 以上の結果から,第一に,仮想落葉を用いた本実験. 環境においても,仮想風(視覚)条件によって実風の強. さが変化して知覚される場合があることが明らかになっ. た.また,実風風速の弱い条件において視覚の影響が. 顕著な傾向があり,視覚と風覚の統合において,実風. の風速レベルは重要な要因の一つであることが示唆さ. れた.. 5 総合考察. 実験1および2では,離れた位置にある旗が仮想的な. 風ではためく様子を観察している視覚的状況をとりあげ,. 自身に実際に当たる風の強さの知覚に視覚情報が与. える影響を調べた.このような観察者と旗が離れた空間. にある状況下では,旗に吹く風の強さや方向は自身に. 当たる風の強さ・方向を必ずしも反映しない.それにも. 関わらず,自身に当たる実風の強さは仮想的な風の強. さに依存しながら変化して知覚され,また,その影響は. 仮想風と実風の風向が 90 度異なっていても生じること が明らかになった(実験1,及び実験2の実風右 45 度条 件).この結果から,遠距離空間の風の強さに関する情. 報は,風向の一致不一致には関わらず,身体に当たる. 風覚と統合されることが示唆される. 自然な環境においては,風は直線的に吹くものとは. 限らず,本実験の環境においても,空間内を風がどのよ. うに吹いているかについては多様な解釈がありうる.旗. に対して吹いている風と,自身に対して吹いている風の. 源が異なっている状況もありうる.そのような複数の風源. がある状況であっても,多くの自然な環境では,それら. 風源からの風の強さには相関があるのではないだろう . 図8 視覚刺激(実験3) Fig.8 Visual stimuli (Experiment 3). か.人はそのような風の性質をある程度経験的に知って. おり,風向の違いを認識した場合でも,風の強さに関し. ては視覚と風覚とを統合して知覚している可能性が考. えられる.また,風向についても視覚と風覚とが整合的. に統合され,違和感のない知覚が成立していた可能性. もあげられる.HMD を装着した VR 環境下では,実際 に観察者に当たる風の風向は同時に呈示された視聴. 覚情報による風向手がかりに引っ張られ,それらが一致. する方向として知覚されることがあるとの報告がある. [20,21].このような風向の錯覚が誘発され,風向が一致 して知覚されていた可能性がある. 実験3では,観察者自身に当たる風についてより直. 接的な視覚的手がかりが存在する状況として,自身をと. りまくように落葉が舞う様子を観察している状況をとりあ. げ,視覚と風覚との統合について調べた.その結果,仮. 想旗の場合(実験1,2)と同様,風速条件によっては実. 風による風覚が仮想風の風速によって影響を受けること. が明らかになった.実験1,2と実験3では,視覚的手が. かりの種類(旗のはためき/落葉の舞い)や観察者からの 距離(遠距離/近距離)など様々な違いがあるが,それに も関わらず,共通した結果であった.このことから,視覚. 情報による風覚の変化は,様々な環境の中で生じうる. 一般的な現象であると考えられる. 実験3において,視覚情報の影響は,最も強い条件. (2.31 m/s)では見られず,実風が弱い条件で強くなる傾 向があった.仮想旗の場合においても,視覚情報の影. 響は実風が弱い条件(実験1)で強く,より強い条件(実. 験2)では,部分的であった.これらの結果を合わせると. 風速に関する視覚と風覚の統合は実風の強さに依存す. る性質があると考えられる.この風の強さ依存性は,多. 図9 実験結果(実験3) Fig.9 Results of Experiment 3. ―19―. 西牧・郷田・蒲池: VR 環境下での風の強さ知覚における視触覚統合. 感覚統合の研究で提案されている「逆効率の法則」[25] と呼ばれる性質と合致すると考えられる.逆効率の法則. とは,各感覚からの信号が弱い時に統合の効果が強く. なる性質のことを指す.この法則は視聴覚統合などの他. の多感覚統合の現象の説明に用いられてきたものであ. るが,同法則が視覚と風覚の統合においても成立する. ものと思われる.より強固に視触覚のような多感覚統合. を行わせるためには,刺激の強度を弱めに設定した上. での呈示が有効な可能性がある.VR 空間内のみで与 えられる刺激の多感覚統合誘発を強めることに加え,本. 研究のように仮想(視覚)と現実(触覚)空間という異なる. 空間間の多感覚統合場面でもこれが適用できることが. 示唆される. また,本研究の結果は,主眼である視触覚統合の性. 質以外にも,いくつかの興味深い性質を示唆している.. 第一に,実験2において,実風の風向によって知覚強. 度が有意に異なるとの結果が得られた.このことは風向. によって風の強さに対する感度が異なる可能性を示唆. する.耳周辺に当たる風は鼻や口よりも強く感じられる. 傾向があることが報告されており[24],本実験の結果と 関係すると思われる.ただし,本実験においては HMD 装着による顔の遮蔽の影響も考える必要がある. 第二に,視覚刺激とともに呈示された風の知覚強度. が,基準刺激として風のみで呈示された場合よりも全体. 的に弱くなっている傾向が見て取れる.例えば実験1に. おいて,各仮想風条件での知覚強度は1を下回ってい. る(図4).この傾向は自己運動時において視覚刺激が. 風覚に抑制的影響を与えるとの報告[23]と矛盾しないと 思われる.また,実験の進行に伴い,繰り返して風刺激. を受けることによる順応や,内的な基準の変動による効. 果などが生じていた可能性も考えられる.そこで,その. ような実験の進行に伴う知覚強度の変化を確認するた. め,実験1の全試行を前半と後半の試行ブロックに分け,. 仮想風風速の要因に試行ブロックの要因を加えた二要. 因反復測定分散分析を行った.その結果,両要因につ. いて有意な主効果が認められ,交互作用は認められな. かった[仮想風風速: 𝐹𝐹(3,30) = 15.800 , 𝑝𝑝 < .001; 試 行ブロック : 𝐹𝐹(1,10) = 5.531 , 𝑝𝑝 = .041; 交互作用 : 𝐹𝐹(3,30) = .792, 𝑝𝑝 = .508].したがって,本実験の主眼 である仮想風風速の効果に加え,その効果とは独立に,. 実験進行に伴った知覚強度の全体的低下が生じてい. ると考えられる.同様の解析を実験2および3について. 実風条件毎に行ったところ,試行ブロックの主効果は部. 分的であり,実験2の実風左 45 度条件[𝐹𝐹(1,12) = 7.828 , 𝑝𝑝 = .016 ],および実験3の実風 0.68 m/s 条件 [𝐹𝐹(1,10) = 11.808 , 𝑝𝑝 = .006 ]においてのみ認められ た.また,交互作用はいずれの条件においても見られ. ないことが確認された.これらの結果を,順応や内的基. 準の変動,さらに視覚刺激による抑制効果それぞれ単. 独で説明するのは難しいと思われ,おそらくそれらが合. わさった結果として知覚強度の全体的低下が生じてい. るのではないかと考えられる. 最後に,本研究において見出された視覚・風覚の統. 合の性質が,顔の一部が遮蔽される HMD 装着下にお いてのみ見られるものか,HMD非装着の日常的状況で も見られる一般的性質であるのかは本研究からは明ら. かでないことに触れておく.これらの問題―実風の知覚. 強度の風向依存性,知覚強度の全体的低下,ならびに. HMD 装着による影響―は,将来さらに検討すべき興味 深い問題である.. 6 まとめ. 本研究では,離れた空間にある旗のはためき(実験1,. 2),あるいは,自身を取り巻くように舞う落葉(実験3)を. 観察している視覚的状況下で,風についての視覚手が. かりが,触覚刺激として自身に実際に当たる風の強さの. 知覚にどのように影響するのかを実験的に検討した.二. つの視覚的状況には様々な違いがあるが,それにも関. わらず,視覚情報が風覚を変化させるとの結果が共通. して得られた.視覚情報の影響は実風が比較的弱い条. 件(~ 0.7 m/s)で強く,実風が強い条件では低下するか 見られなくなった.また,視覚情報の影響は仮想風と実. 風の風向が一致していない場合でも生じうることも明ら. かになった.これらの結果は,風の強さについての視覚. −風覚(触覚)の統合は風覚の強度依存的に生じ,風向. の整合性にはロバストな性質を有することを示唆するも. のである.本研究で得られた視覚・風覚統合に関する. 知見は VR 環境下における効率的な風呈示システムの 設計・開発にも貢献するものと考えられる.. 謝辞. 本研究の実験開始時にご協力いただいた河野真吾. 氏に感謝する.本研究は JSPS 研究費(課題番号 17H01756)の助成を受けたものである.なお,本研究は 工学院大学「ヒトを対象とする研究計画倫理委員会」の. 承認(承認番号 2019-B-20)をうけて,実施されたもので ある.. 参考文献. [1] 金谷翔子,石渡貴大,横澤一彦: 自己による触刺激がラ バーハンド錯覚に与える影響; 基本心理学研究,30(1), 11−18 (2011). [2] Matsumoto, K., Ban, Y., Narumi, T., Yanase, Y., Tanikawa, T., Hirose, M.: Unlimited corridor: redirected walking techniques using visuo haptic interaction; ACM SIGGRAPH 2016 Emerging Technologies, Article 20, 1− 2 (2016). [3] Hashimoto, T., Mizutani, J. 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[著者紹介]. 西牧 侑哉 (非会員) 2019 年工学院大学情報学部卒業.同年工. 学院大学大学院工学研究科修士課程進学,. 現在に至る.VR 空間内の知覚特性に関する 研究に従事.. 郷田 直一 (非会員). 1998 年京都大学大学院人間・環境学研究 科博士課程修了.国際電気通信基礎技術研. 究所専任研究員を経て 2004 年生理学研究 所助教,現在に至る.視覚心理物理学およ. び神経生理学に関する研究に従事.博士(人 間・環境学).. 蒲池 みゆき (正会員) 2000 年九州大学大学院人間環境学研究. 科博士課程修了.日本学術振興会特別研究. 員および国際電気通信基礎技術研究所専. 任研究員.2006 年工学院大学情報学部准教 授,2014 年同学科教授,現在に至る.顔認 知をはじめ多感覚情報処理に関する研究. に従事.博士(人間環境学).. ―21―. 1 はじめに 2 関連研究 3 仮想旗観察時における視覚と風覚の統合 3.1 実験環境 3.2 手続き 3.3 実験 仮想風の風速の影響(実験1) 3.4 実験 実風と仮想風の風向関係の影響(実験2). 4 仮想落葉観察時における視覚と風覚の統合 4.1 実験環境 4.2 手続き 4.3 実験 実風及び仮想風の風速の影響(実験3). 5 総合考察 6 まとめ 謝辞 参考文献 [著者紹介]

参照

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